説明

多孔性填料およびその製造方法

【課題】抄紙工程におけるワーヤー上での填料の歩留まりが高く、狭い粒度分布を有することにより、紙の表面強度及び内部結合強度を高くできる多孔性填料とその製造方法を提供する。
【解決手段】抄紙用填料において、下記一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなるカチオン性高分子化合物の少なくとも1種が吸着し、レーザー回折法により測定された平均粒子径が4.0〜40μmである多孔性填料。


一般式(1)においてRは水素又はメチル基、R、R、Rは炭素数1〜3のアルキルあるいはアルコキシル基であり、Aは酸素原子またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基を表し、Xは陰イオンをそれぞれ表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性填料ならび多孔性填料の製造方法に関する。また、多孔性填料が配合された紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全、省資源、ゴミ減量などの見地から紙の軽量化、低坪量化が要望され、これに伴って紙の白色度、不透明性、印刷適性を向上するために、各種填料を高含有率で内添することが行われている。
【0003】
また近年、抄紙機の高速化に伴い、抄紙機のワイヤーパートにおける脱水能力が強化された。これに伴い、紙料中に内添された填料がワイヤーから抜け落ち、填料の歩留り悪化といった問題が生じた。填料の歩留りが低いと、白水の汚れや抄紙系内の汚れが発生し、生産効率の低下、これに伴う紙の品質低下等の問題が生じる。
【0004】
そこで、填料の歩留りを向上させる技術に関しては、各種の方法が提案されている。例えば歩留り向上剤として紙料に高分子物質を添加する方法があり、この高分子物質として、カチオン化した澱粉やグアーガムなどの天然高分子物質の誘導体や、アニオン性、カチオン性、両性のポリアクリルアミド、ポリエチレンイミンなどの合成高分子物質が挙げられる。また、これらの高分子物質の歩留り効果を高めるために凝結剤を併用する技術もあり、凝結剤としては、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、アルミン酸ナトリウムなどの無機凝結剤が挙げられる。これらの方法では、高分子物質を多量に添加すれば填料の歩留りを高めることは可能であるが、パルプ繊維と填料が大きな凝集体となり、抄造した紙の地合が悪化するという問題があった。言い換えれば、紙の地合を実用上問題のない水準に維持すると、填料の歩留りを大きく向上させることはできなかった。
【0005】
さらに、填料を凝集剤で予め凝集させ、これを紙料へ添加し、抄造する技術が提案されている。例えば、屈折率1.45〜1.65の顔料の基本粒子を凝集させ、内部空隙の孔径が0.1μm以上、かつ、できるだけ0.1μmに近い大きさの内部空隙を多数形成するようにした該顔料の凝集粒子を、パルプスラリーに添加して抄造する方法が開示されている。凝集させる方法としては、酸、塩基によるpH調整、硫酸アルミニウムなどの無機凝集剤の添加、有機高分子凝集剤の添加が示されている(特許文献1参照)。また、主としてパルプ及び炭酸カルシウムからなる紙製品において、直径0.1〜0.3μmの大きさの該炭酸カルシウム粒子を凝集させ、凝集粒子を乾燥パルプに対して5〜80質量部含有させる方法が開示されている。凝集させる方法としては、酸、塩基によるpH調整、硫酸バンドなどの無機凝集剤の添加、ポリアクリルアミドなどの有機高分子凝集剤の添加が示されている(特許文献2参照)。また、抄紙用填料として重質炭酸カルシウムを用いる抄紙方法において、該重質炭酸カルシウムを予めカチオン変性澱粉水溶液と混合した後、紙料中に添加する方法が開示されている(特許文献3参照)。また、主としてパルプおよび炭酸カルシウム填料からなる紙を製造する方法において、該填料をカチオン澱粉およびカチオン化グアーガムを使用して凝集させ、該凝集粒子を紙中に1〜50質量部添加して抄造する填料内添紙の製造方法が開示されている(特許文献4参照)。しかし、これらの填料を予め凝集させる方法は、填料を効率良く歩留らせる上で極めて有用な技術であるが、紙中への填料配合の目的の一つである紙の不透明度化の効果が阻害されてしまうという問題があった。
【0006】
前記の填料予備凝集における不透明度低下の抑制方法として、パルプ微細繊維と填料を凝集剤で凝集させる方法が開示されている(特許文献5、6参照)。しかし、これらの方法では、150メッシュを通過するパルプ微細繊維や保水度が300%以上のパルプ微細繊維を用いることが必要であり、実用的ではない。
【0007】
本発明で使用する一般式(1)で表されるカチオン性単量体を含有するコポリマーは、従来から抄紙系内で凝結剤として内添使用されている。例えば、特定の構造を有する二種のカチオン性単量体、アニオン性単量体及び非イオン性単量体からなる両性水溶性高分子を汚泥に添加、混合することにより汚泥の脱水を促進する技術が開示されており、両性水溶性高分子の材料として本発明で使用する前記一般式(1)で表されるカチオン性単量体が示されている(特許文献7参照)。また、抄紙前の製紙原料中に一段目として塩水溶液中で該塩水溶液に可溶な高分子分散剤を共存させる分散重合法により製造した粒径100μm以下の微粒子の分散液を構成し、1規定NaCl水溶液中、25℃で測定した固有粘度が15〜25dl/gであるカチオン性あるいは両性水溶性ポリマーを添加し、少なくとも一つ以上のせん断工程を経て、二段目としてアニオン性無機微粒子、アニオン性有機微粒子およびアニオン性ポリアクリルアミド系水溶性ポリマーから選択される一種以上を紙料中に添加することにより濾水性・搾水性を向上する技術が開示されており、カチオン性あるいは両性水溶性ポリマーの材料として本発明で使用する前記一般式(1)で表されるカチオン性単量体が示されている(特許文献8参照)。
【0008】
また、填料歩留り改善を目的とした、一般式(1)で表されるカチオン性単量体を含有するアクリル系カチオン性水溶性高分子化合物も開示されている。例えば、一般式(1)で表されるカチオン性単量体、アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド構造単位およびアクリルアミド構造単位をそれぞれ5モル%以上含有するアクリル系カチオン性水溶性高分子が填料含有紙における内添薬品として開示されている(特許文献9参照)。
【0009】
【特許文献1】特許第1167392号公報
【特許文献2】特開昭54−116405号公報
【特許文献3】特開昭60−119299号公報
【特許文献4】特開平10−60794号公報
【特許文献5】特開昭62−184197号公報
【特許文献6】特開昭63−203894号公報
【特許文献7】特開2003−164900号公報
【特許文献8】特開2008−31584号公報
【特許文献9】特開平9−78487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、抄紙工程におけるワイヤー上での填料の歩留りが高く、適切な平均粒子径および狭い粒度分布を有し、紙の表面強度および内部結合強度を高くできる多孔性填料とその製造方法、また、表面強度および内部結合強度が高い紙とその抄紙方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは多孔性填料の表面電荷について検討し、填料と下記一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなるカチオン性高分子化合物とを予め混合することによって、多孔性填料表面を前記一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなるカチオン性高分子化合物で被覆することにより本発明を完成させた。
本発明は、以下の構成を含む。
(1) 抄紙用填料において、下記一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなるカチオン性高分子化合物の少なくとも1種か吸着し、レーザー回折法により測定した平均粒子径が4〜40μである多孔性填料。
【0012】
【化1】

一般式(1)において
は水素又はメチル基、R、R、Rは炭素数1〜3のアルキルあるいはアルコキシル基であり、Aは酸素原子またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基を表し、Xは陰イオンをそれぞれ表す。
(2)多孔性填料スラリーに前記一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなるカチオン性高分子化合物を、多孔性填料100固形分質量部に対し、ポリマー固形分として0.005〜0.5質量部添加する多孔性填料の製造方法。
(3)(1)記載の多孔性填料を含有する紙。
【発明の効果】
【0013】
本発明の多孔性填料は、パルプとの親和性が高く、抄紙工程におけるワイヤー上での歩留りが高いため、排水負荷を軽減し、流出原料の削減による製造コストが低減でき、生産性を向上することができる。しかも、適切な平均粒子径および狭い粒度分布を有し、紙の表面強度および内部結合強度を高くできる。
本発明の多孔性填料の製造方法によれば、紙に配合した際の紙の表面強度および内部結合強度をいずれも高くでき、抄紙工程におけるワイヤー上での歩留りが高い多孔性填料を製造できる。
また、本発明の紙は、表面強度および内部結合強度が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(多孔性填料)
本発明で前記一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなるカチオン性高分子化合物が吸着するする多孔性填料には、特に限定はない。多孔性填料の材質としては、例えば、カオリン、焼成カオリン、クレー、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、非結晶シリカ、炭酸バリウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、タルク、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸カルシウム−シリカ複合物などが挙げられる。これらの中でも、コスト的に優位であることから、炭酸カルシウム、カオリン、非結晶シリカが好ましい。
【0015】
本発明の多孔性填料は、前記多孔性填料スラリーに、前記一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなるカチオン性高分子化合物を添加・混合して得られる。混合に用いる装置は、混合を充分に行える装置であれば良く、特に限定はないが、例えば、プロペラ羽根、タービン羽根、パドル翼などを有する一般的な攪拌機、ディスパーザーなどの高速回転遠心放射型攪拌機、ホモジナイザー、ホモミキサー、ウルトラミキサーなどの高速回転剪断型攪拌機、コロイドミル、プラネタリーミキサーなどの乳化機などが挙げられる。
【0016】
前記一般式(1)で表されるカチオン性単量体は、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートのモノハロゲン化物による四級アンモニウム塩である。その例としては、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、メタアクリロイルオキシ2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、メタアクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、アクリロイルオキシ2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウム塩化物などが挙げられる。なかでも、2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム塩化物が好ましい。
【0017】
前記一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなるカチオン性高分子化合物のカチオン質量平均分子量に特に限定はない。また、カチオン電荷密度は0.1〜50meq/gが好ましく、0.5〜20meq/gがさらに好ましい。50meq/gを超えるものは製造コストが高くなるため実用的ではなく、0.1meq/g未満では、本発明の填料歩留り向上効果が小さい。
【0018】
本発明の多孔性填料は、前記一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなるカチオン性高分子化合物の多孔性填料に対する添加率が、多孔性填料100固形分質量部に対して、ポリマー固形分として0.005〜0.5質量部であり、好ましくは、0.01〜0.3質量部である。前記一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなるカチオン性高分子化合物の多孔性填料に対する添加率が、0.005〜0.5質量部の範囲では、多孔性填料表面にカチオン性高分子が結合することにより、多孔性填料表面のアニオン性が低下し、パルプ繊維との親和性が高くなり、歩留りを向上させることができる。0.005質量部未満では填料歩留り向上効果が小さく、0.5質量部を超えて添加しても填料歩留り向上効果が頭打ちとなり、処理コストが高くなるという問題がある。
【0019】
本発明の多孔性填料は平均粒子径が4〜40μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。多孔性填料の平均粒子径が4μm以上であれば、紙に配合した際の微細粒子に起因する繊維間結合強度(内部結合強度)の低下を防止することができる。また、多孔性填料の平均粒子径が4μm未満では多孔性填料の歩留りが低くなるという問題がある。また、平均粒子径が40μm以下であれば、紙面に存在する粗大粒子が少なくなり、粗大粒子の脱落に起因する表面強度の低下を防止できる。
また、多孔性填料の粒度分布としては、標準偏差(σ)が0.350以下であることが好ましく、さらには0.300以下であることが好ましい。このような粒度分布であれば、粗大粒子および微細粒子が共により少なくなり、紙に配合した際に優れた表面強度および内部結合強度が得られる。
【0020】
本発明の多孔性填料は、比表面積が5〜200m/gであり、好ましくは20〜150m/gである。多孔性填料の比表面積が20m/g以上では、多孔性填料の粒度分布が狭くなり、微細粒子と粗大粒子が少なくなるため、内部結合強度および表面強度が向上するため好ましい。また、比表面積が200m/g以下では、多孔性填料の強度が向上し、パルプスラリー調製時の剪断力およびプレス圧、キャレンダー処理圧力で潰れにくくなる。また、多孔性填料の不透明度が向上し、紙に抄き込んだ際の不透明度が向上する。
本発明における比表面積は、水銀圧入法により測定した値であって、細孔形状が幾何学的な円筒であると仮定した全細孔の表面積で、測定範囲内における圧力と圧入された水銀量の関係から求めた値である。
【0021】
上記多孔性填料は、前記一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなるカチオン性高分子化合物により被覆されていることにより、多孔性填料表面のアニオン性が低下し、パルプ繊維との親和性が高くなり、抄紙工程におけるワイヤー上での歩留りを向上させることができる。また、上記多孔性填料は、適切な平均粒子径および狭い粒度分布を有し、紙の表面強度および内部結合強度を高くできる。
【0022】
また、上記多孔性填料は特定量の前記一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなるカチオン性高分子化合物が吸着していて、特定範囲の粒子径と比表面積を有している。粒子径と比表面積とが前記特定の範囲にあることにより、多孔性填料の不透明度を高くできる。このような多孔性填料は、充分な強度を有しているため、紙を製造する際のパルプスラリー調製時に剪断力がかかっても、あるいは抄紙時のプレス処理およびキャレンダー処理時に圧力がかかっても多孔性構造が破壊されにくい。
【0023】
(多孔性填料スラリー)
本発明の多孔性填料スラリーは、上記多孔性填料を得るためのものであって、前記一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなるカチオン性高分子化合物が吸着した多孔性填料を分散媒中に含むものである。分散媒としては、水、各種有機溶媒が挙げられる。
【0024】
本発明の多孔性填料スラリーでは、前記一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなるカチオン性高分子化合物が吸着した多孔性填料を含有している。このような多孔性填料スラリーからろ過等により回収された多孔性填料は、比表面積が5〜200m/gになる。上述したように、このような多孔性填料によれば、紙に配合した際の白紙不透明度が高く、しかも適切な平均粒子径および狭い粒度分布を有し、紙の表面強度および内部結合強度を高くできる。
また、この多孔性填料スラリーから得られた多孔性填料を紙に配合した際には、白紙の不透明度を高くできる。
【0025】
(紙)
本発明の紙は、上記多孔性填料が含まれるものである。上記填料は1.5質量%〜20質量%の範囲で含有することにより白紙不透明度、表面強度、内部結合強度をバランスよく向上させることができるため好ましい。また、上記多孔性填料の他にも、必要に応じて、一般に紙に用いられる各種の顔料、例えば、カオリン、焼成カオリン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、タルク、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、非結晶シリカ、ベントナイト、ゼオライト、セリサイト、スメクタイト等の鉱物質顔料や、スチレン系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂並びにそれらの微小中空粒子等の有機顔料が含まれていてもよい。
【0026】
紙を形成するセルロース繊維原料としては、例えば、クラフトパルプ(KP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ、あるいは、楮、三椏、麻、ケナフ等を原料とする非木材パルプ、古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。これら単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0027】
本発明の紙は、セルロース繊維原料および上記多孔性填料を含む紙料を調製し、その紙料を抄紙することにより得られる。その際に使用される抄紙機としては、例えば、長網式、円網式、短網式、ツインワイヤー式抄紙機などが挙げられる。
また、上記多孔性填料は、前記一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなるカチオン性高分子化合物と混合後、直ちに紙料へ添加してもよいし、混合後タンクなどの設備に一時蓄えた後紙料へ添加してもよい。
紙料中には、必要に応じて、各種のアニオン性、ノニオン性、カチオン性あるいは両性の歩留向上剤、濾水性向上剤、紙力向上剤や内添サイズ剤等の各種抄紙用内添助剤、染料、蛍光増白剤、pH調製剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等の抄紙用内添助剤を適宜添加できる。
【0028】
本発明の紙には、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアマイド等の各種表面バインダーや、ロジン系サイズ剤、合成サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、中性サイズ剤等の表面サイズ剤、塩化ナトリウムや硫酸ナトリウム等の導電剤が塗布または含浸されていてもよい。
【0029】
上述した本発明の紙は、上記多孔性填料を含まれるものであるから、不透明度、表面強度および内部結合強度が高い。このような紙は印刷用紙や上質系塗工紙に好適に用いられる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。なお、例中の「部」及び「%」は特に断らない限り、「質量部」及び「質量%」のことである。
【0031】
以下の例において、平均粒子径はレーザー回折式粒度分布計(MT3000((株)日機装製)を用いて測定された50%体積積算値の粒子径である。また、粒子径の標準偏差はレーザー回折式粒度分布計により求めた粒子径から算出した値である。
比表面積は、ポロシメーターであるAuto Pore IV((株)島津製作所製)を用いて、細孔形状が幾何学的な円筒であると仮定した場合の全細孔の表面積であり、測定範囲内における圧力と圧入された水銀量の関係から求めた値である。
【0032】
合成例1
水道水303gに5%硫酸ナトリウム水溶液770gを加えた後、市販の3号ケイ酸ナトリウム水溶液347g(固形分38%)をスリーワンモータで攪拌しながら温度50℃において添加した。その後、攪拌翼の周速を6m/秒に調整し、硫酸(濃度20%)78gを16分間で添加して1段目の中和を行った後、上記周速の状態で45分間かけて90℃まで昇温した。次いで、このままの温度で上記周速の状態で10分間攪拌した後、硫酸(濃度20%)177gを39分かけて添加し、2段目の中和を行い多孔性填料スラリーを得た。この多孔性填料スラリーを水道水で2%に希釈し、この2%スラリー液250gに、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマー(ハイモ株式会社製、商品名:NR−70、平均分子量50万、カチオン電荷密度:5.4meq/g、固形分濃度:20%、表中では「NR−70」と表記)の0.2質量%液0.125g(填料固形分質量に対し0.005%に相当)を添加し、スターラーで10分間攪拌し、多孔性填料スラリーを得た。その際のメタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの添加量、多孔性填料の平均粒子径および標準偏差を表1に示す。
多孔性填料スラリーはろ過・洗浄した後、水に再分散させ、手抄き評価に用いた。また、ろ過・洗浄後のケーキの一部を105℃にて乾燥し、比表面積を測定した。多孔性填料の比表面積を表1に示す。
【0033】
合成例2
メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの0.2質量%液0.25g(填料固形分質量に対し0.01%に相当)を添加した以外は合成例1と同様にして、多孔性填料を合成した。その際の、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの添加量、多孔性填料の平均粒子径および標準偏差、比表面積を表1に示す。
【0034】
合成例3
メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの0.2質量%液1.25g(填料固形分質量に対し0.05%に相当)を添加した以外は合成例1と同様にして、多孔性填料を合成した。その際の、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの添加量、多孔性填料の平均粒子径および標準偏差、比表面積を表1に示す。
【0035】
合成例4
メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの0.2質量%液7.5g(填料固形分質量に対し0.30%に相当)を添加した以外は合成例1と同様にして、多孔性填料を合成した。その際の、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの添加量、多孔性填料の平均粒子径および標準偏差、比表面積を表1に示す。
【0036】
合成例5
メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの0.2質量%液12.5g(填料固形分質量に対し0.50%に相当)を添加した以外は合成例1と同様にして、多孔性填料を合成した。その際の、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの添加量、多孔性填料の平均粒子径および標準偏差、比表面積を表1に示す。
【0037】
合成例6
水道水303gに5%硫酸ナトリウム水溶液770gを加えた後、市販の3号ケイ酸ナトリウム水溶液347g(固形分38%)をスリーワンモータで攪拌しながら温度60℃において添加した。その後、攪拌翼の周速を10m/秒に調整し、硫酸(濃度20%)81gを16分間で添加して1段目の中和を行った後、上記周速の状態で90分かけて90℃まで昇温した。次いで、このままの温度で上記周速の状態で10分間攪拌した後、硫酸(濃度20%)188gを39分かけて添加し、2段目の中和を行い多孔性填料スラリーを得た。この多孔性填料スラリーを水道水で2%に希釈し、この2%スラリー液250gに、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの0.2質量%液1.25g(填料固形分質量に対し0.05%に相当)を添加し、スターラーで10分間攪拌し、多孔性填料スラリーを得た。その際のメタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの添加量、多孔性填料の平均粒子径および標準偏差、比表面積を表1に示す。
【0038】
合成例7
水道水420gに5%硫酸ナトリウム水溶液352gを加えた後、市販の3号ケイ酸ナトリウム水溶液347g(固形分38%)をスリーワンモータで攪拌しながら温度40℃において添加した。その後、攪拌翼の周速を4m/秒に調整し、硫酸(濃度20%)104gを16分間で添加して1段目の中和を行った後、上記周速の状態で30分かけて90℃まで昇温した。次いで、このままの温度で上記周速の状態で10分間攪拌した後、硫酸(濃度20%)183gを39分かけて添加し、2段目の中和を行い多孔性填料スラリーを得た。この多孔性填料スラリーを水道水で2%に希釈し、この2%スラリー液250gに、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの0.2質量%液1.25g(填料固形分質量に対し0.05%に相当)を添加し、スターラーで10分間攪拌し、多孔性填料スラリーを得た。その際のメタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの添加量、多孔性填料の平均粒子径および標準偏差、比表面積を表1に示す。
【0039】
合成例8
水酸化カルシウムと炭酸ガスとの炭酸化反応を利用して、炭酸カルシウム初期粒子を合成し、固形分濃度25%、平均粒子径4.7μmの炭酸カルシウム初期粒子のスラリーを得た。この炭酸カルシウム初期粒子は、一次粒子が、長軸1.5μm、短軸0.2〜0.5μmのカルサイト系紡錘状軽質炭酸カルシウムであり、二次粒子を形成して平均粒子径が4.7μmとなっていた。この多孔性填料スラリーを水道水で2%に希釈し、この2%スラリー液250gに、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの0.2質量%液1.25g(填料固形分質量に対し0.05%に相当)を添加し、スターラーで10分間攪拌し、多孔性填料スラリーを得た。その際のメタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの添加量、多孔性填料の平均粒子径および標準偏差、比表面積を表1に示す。
【0040】
合成例9
メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーを添加しなかったこと以外は合成例1と同様にして、多孔性填料を合成した。その際の、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの添加量、多孔性填料の平均粒子径および標準偏差、比表面積を表1に示す。
【0041】
合成例10
水道水360gに5%硫酸ナトリウム水溶液400gを加えた後、市販の3号ケイ酸ナトリウム水溶液347g(固形分38%)をスリーワンモータで攪拌しながら温度40℃において添加した。その後、攪拌翼の周速を4m/秒に調整し、硫酸(濃度20%)110gを16分間で添加して1段目の中和を行った後、上記周速の状態で20分かけて90℃まで昇温した。次いで、このままの温度で上記周速の状態で10分間攪拌した後、硫酸(濃度20%)177gを39分かけて添加し、2段目の中和を行い多孔性填料スラリーを得た。この多孔性填料スラリーを水道水で2%に希釈し、この2%スラリー液250gに、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの0.2質量%液0.05g(填料固形分質量に対し0.002%に相当)を添加し、スターラーで10分間攪拌し、多孔性填料スラリーを得た。その際のメタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの添加量、多孔性填料の平均粒子径および標準偏差、比表面積を表1に示す。
【0042】
合成例11
水道水414gに5%硫酸ナトリウム水溶液460gを加えた後、市販の3号ケイ酸ナトリウム水溶液347g(固形分38%)をスリーワンモータで攪拌しながら温度65℃において添加した。その後、攪拌翼の周速を12m/秒に調整し、硫酸(濃度20%)63gを16分間で添加して1段目の中和を行った後、上記周速の状態で120分かけて90℃まで昇温した。次いで、このままの温度で上記周速の状態で10分間攪拌した後、硫酸(濃度20%)183gを39分かけて添加し、2段目の中和を行い多孔性填料スラリーを得た。この多孔性填料スラリーを水道水で2%に希釈し、この2%スラリー液250gに、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの0.2質量%液1.25g(填料固形分質量に対し0.05%に相当)を添加し、スターラーで10分間攪拌し、多孔性填料スラリーを得た。その際のメタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの添加量、多孔性填料の平均粒子径および標準偏差、比表面積を表1に示す。
【0043】
合成例12
水道水60gに5%硫酸ナトリウム水溶液434gを加えた後、市販の3号ケイ酸ナトリウム水溶液330g(固形分38%)をスリーワンモータで攪拌しながら温度65℃において添加した。さらに、コア粒子として、サンドグラインダにて平均粒子径が0.6μmになるように調整した炭酸カルシウムの分散液(TP−121「紡錘状」、奥多摩工業製、固形分濃度9.5%)300g(酸化ケイ素化合物100部に対し30部)をスリーワンモータで攪拌しながら温度65℃において添加した。その後、攪拌翼の周速を10m/秒に調整し、硫酸(濃度20%)82gを15分間で添加して1段目の中和を行った後、上記周速の状態で90℃まで昇温した。次いで、このままの温度で上記周速の状態で10分間攪拌した後、硫酸(濃度20%)247gを40分かけて添加し、2段目の中和を行い多孔性填料スラリーを得た。この多孔性填料スラリーを水道水で2%に希釈し、この2%スラリー液250gに、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの0.2質量%液1.25g(填料固形分質量に対し0.05%に相当)を添加し、スターラーで10分間攪拌し、多孔性填料スラリーを得た。その際のメタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの添加量、多孔性填料の平均粒子径および標準偏差、比表面積を表1に示す。
【0044】
合成例13
炭酸カルシウムと炭酸ガスとの炭酸化反応を利用して、炭酸カルシウム初期粒子を合成し、固形分濃度25%、平均粒子径が3.3μmの炭酸カルシウム初期粒子のスラリーを得た。この炭酸カルシウム初期粒子は、カルサイト系立方状軽質炭酸カルシウムであった。この多孔性填料スラリーを水道水で2%に希釈し、この2%スラリー液250gに、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの0.2質量%液1.25g(填料固形分質量に対し0.05%に相当)を添加し、スターラーで10分間攪拌し、多孔性填料スラリーを得た。その際のメタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのコポリマーの添加量、多孔性填料の平均粒子径および標準偏差、比表面積を表1に示す。
【0045】
上記合成例1〜13の条件、および評価結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
製造例1
カナダ標準濾水度(CSF)が400mLある晒化学パルプ(BKP)スラリーに、合成例1で得られた多孔性填料を紙質量当たり7部になるように添加し、さらに絶乾パルプ量100部当たり、澱粉1.0部、アルキルケテンダイマー0.05部、及び硫酸バンドを0.6部、歩留向上剤0.02部(DR−1500、ハイモ社製)となるように添加して紙料を調製した。その紙料を、角型手抄き装置を用いて目標坪量が風乾で70g/mとなるように抄造し、プレスにより脱水後、シリンダードライヤーを用いて乾燥シートを作製した。その後、線圧25kg/cmでキャレンダー処理を施して成紙を得た。
【0048】
製造例2〜13
製造例1における合成例1で得られた多孔性填料を、表1にしめすような合成例2〜13で得られたものに各々変更したこと以外は、製造例1と同条件で成紙を得た。
【0049】
各製造例の紙について、以下のように評価した。評価結果を表2に示す。
・ 米坪 : JIS P 8124に基づいて測定した。
・ 密度 : JIS P 8118に基づいて測定した。
・ 不透明度 : JIS P 8149に従って測定した。
・ 多孔性填料歩留り : カナダ標準濾水度(CSF)が400mLある晒化学パルプ(BKP)スラリーに、多孔性填料を絶乾パルプ量100部当たり、10部添加し歩留り性を評価した。
・ 内部結合強度 : J.TAPPI No. 18−2に従い測定した。
・ 表面強度 :RI印刷機(明製作所製)にてオフセットインキT13を用いて印刷し、その際の紙の表面強度を評価した。
◎ : 強度が高く、実用上問題なく、品質も優れている。
○ : 強度が高く、実用上問題ない。
× : 強度が著しく劣り、実用上問題がある。
【0050】
【表2】

【0051】
表2から明らかなように、前記一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなるカチオン性高分子化合物の少なくとも1種を吸着し、その多孔性填料に対する添加率が特定の範囲内であり、特定の製法で製造された、製造例1〜8の多孔性填料は、パルプとの親和性が高く、紙に配合した際の歩留りが高かった。また、適切な平均粒子径および狭い粒度分布を有するため、紙の表面強度および内部結合強度が高かった。
これに対し、前記一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなるカチオン性高分子化合物の多孔性填料に対する添加率が100/0.005未満の製造例9の多孔性填料は、多孔性填料歩留りが低かった。
平均粒子径が40μmを超える製造例10、12の多孔性填料は、紙の表面強度が不足していた。
平均粒子径が4μm未満の製造例11、13の多孔性填料は、多孔性填料歩留りが低く、紙の内部結合強度が不足していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙用填料において下記一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなるカチオン性高分子化合物の少なくとも1種が吸着し、レーザー回折法により測定された平均粒子径が4.0〜40μmであることを特徴とする多孔性填料。
【化1】

一般式(1)において
は水素又はメチル基、R2、、Rは炭素数1〜3のアルキルあるいはアルコキシル基であり、Aは酸素原子またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基を表し、Xは陰イオンをそれぞれ表す。
【請求項2】
多孔性填料スラリーに前記一般式(1)で表されるカチオン性単量体からなるカチオン性高分子化合物を、多孔性填料100固形分質量部に対し、ポリマー固形分として0.005〜0.5質量部添加することを特徴とする請多孔性填料の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の多孔性填料を含有することを特徴とする紙。

【公開番号】特開2010−121247(P2010−121247A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297419(P2008−297419)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】