説明

多孔性無機板用のシ−ラ−組成物

【発明の詳細な説明】
(A) 産業上の利用分野本発明は多孔性無機板の表面化粧仕上げを有効に行える様に予め塗布して用いるシーラー組成物に関する。
珪酸カルシウム板、石膏ボード、ALC板やロツクウールボード等いづれも多孔質であるため、表層強度が小さく、かつ水分を吸収しやすいため、このまま表面を化粧仕上げすると、表層の粉が仕上げ材と混つて美しく仕上らなかつたり、無機板からアクがにじみ出たり、うまく仕上つてもすぐ剥離したり、吸水や吸湿した場合に凍結融解の繰返しにより仕上げ材が剥離する等、美装性やその耐久性の点で問題がある。
これらのトラブルを防ぐ目的で仕上げ処理する前に塗布されるのがシーラーである。このシーラー処理は工場の無機板製造ラインで処理される場合と、建築現場の仕上げ処理時に行われる場合がある。
(B) 従来技術および問題点シーラー処理された無機板はその状態で商品として数ケ月放置されたり、施工に供されて化粧仕上げされるまでにやはり数ケ月、雨水、外気等に曝露されることがある。その様な訳で、要求性能として無機板表層補強効果、止水性能、および仕上げ処理材との密着性の3つが大きく要求される。
従来ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、塩化ビニル樹脂系などの溶剤系シーラーが主として用いられており、代表的なものとしては、一液性湿気硬化型ウレタン樹脂系シーラーが知られている。このものは表層補強効果と止水性能は良好であるが、シーラー処理したまま長期間放置すると塗膜の硬化が進みすぎて当初は良好であつた仕上げ剤との密着性が低下してくるという問題と、溶剤系であるため安全衛生上の問題があり、また希釈剤として使う溶剤が高価でかつ混合溶剤であるため回収しても高くつくという問題がある。
一方、水系シーラーとしては代表的なものとしては、アクリルエマルジヨンを主成分とするものが知られている。これは溶剤は全く使用しないという利点はあるものの、無機板の表層補強効果が極めて小さいため、仕上げ処理をした場合、当分の期間は問題ないが、数ケ月の経過で無機板表層で剥離を生ずることがあり、安心して使用出来ないという問題がある。止水性能に関しても、本来疎水性樹脂であるにもかかわらず、充分満足ゆくものが得られにくい。その原因は併用される増粘剤が塗膜の耐水性を低下させることや、塗工時の欠陥が溶剤系シーラーより発生しやすいためである。すなわち多孔性無機板の表層には比較的大きな孔が散在しており、シーラー液を塗布するとその部分に集中的に浸透するため均一な塗工液膜になり難く、そのため乾燥するまでの間に穴があくためと考えられる。
このような水系シーラーの欠点を改良する方法としてポリビニルアルコール(以下ポリビニルアルコールをPVAと略記する)と水性エマルジヨンとを併用する方法が提案されている(特開昭53−97018)。しかしながらこの方法においても上述の無機板の表層補強効果および止水性能が十分には改善されていないというのが実情である。
さらに分子内にシリル基を有する変性PVAよりなる水系シーラー(特開昭58−167485)、あるいは分子内にシリル基を有する変性PVAを乳化剤として含有する合成樹脂エマルジヨンよりなる水系シーラー(特開昭58−171457)も知られている。これらの方法は従来の水系シーラーに比べ、無機板の表層補強効果あるいは無機板との接着性の点では著しく改良されておりその点では優れた方法であるが、止水性能が場合により不十分であり、また表面化粧仕上げ材がアクリル系塗料である場合には仕上げ処理剤との密着性が低くなる場合があるという問題点を有している。
(C) 問題点を解決するための手段本発明者らは上記欠点を克服すべく鋭意検討した結果、(A)分子内にシリル基を0.01〜5モル%有する変性PVA、(B)ガラス転移温度が5〜50℃であるアクリルエマルジヨンおよび(C)(A)の耐水化剤を主成分とし、かつ固形分重量比率(A)/(B)が5/95〜50/50、(A)/(C)が99.5/0.5〜10/90の範囲からなるシーラー組成物を用いると、安全衛生上問題のない水系でありながら、一回塗りで塗工欠陥が発生しにくく、表層補強効果および止水性能が溶剤系シーラーに匹敵し、かつシーラー処理したまま長時間放置しても仕上げ材との密着性が低下しないことを見出し、本発明を完成するに到つた。
本発明で使用される分子内にシリル基を有する変性PVAは分子内にケイ素を含むものであればいずれでもよいが、分子内に含有されるシリル基がアルコキシル基あるいはアシロキシル基あるいはこれらの加水分解物であるシラノール基又はその塩等の反応性置換基を有しているものが特に好ましく用いられる。
かかる変性PVAの製造方法としては、■PVAあるいはカルボキシル基又は水酸基を含有する変性ポリ酢酸ビニルに、シリル化剤を用いて後変性によりシリル基を導入する方法、■ビニルエステルとシリル基含有オレフイン性不飽和単量体との共重合体をケン化する方法、■シリル基を有するメルカプタンの存在下でビニルエステルを重合することによつて得られる末端にシリル基を有するポリビニルエステルをケン化する方法が挙げられる。
PVAあるいは変性ポリ酢酸ビニルにシリル化剤を用いて後変性する方法においては例えば、シリル化剤と反応しない有機溶剤、たとえばベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、エーテル又はアセトンなどにシリル化剤を溶解させ、該溶液中に粉末状PVAあるいは上記変性ポリ酢酸ビニルを撹拌下に懸濁させ、常温〜シリル化剤の沸点の範囲の温度においてシリル化剤とPVAあるいは上記変性ポリ酢酸ビニルを反応させることによつて、あるいは更にアルカリ触媒等によつて酢酸ビニル単位をケン化することによつてシリル基含有変性PVAを得ることができる。
後変性において用いられるシリル化剤としては、トリメチルクロルシラン、ジメチルジクロルシラン、メチルトリクロルシラン、ビニルトリクロルシラン、ジフエニルジクロルシラン、トリエチルフルオルシラン等のオルガノハロゲンシラン、トリメチルアセトキシシラン、ジメチルジアセトキシシランなどのオルガノシリコンエステル、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシランなどのオルガノアルコキシシラン、トリメチルシラノール、ジエチルシランジオール等のオルガノシラノール、N−アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノアルキルシラン、トリメチルシリコンイソシアネート等のオルガノシリコンイソシアネート等が挙げられる。
シリル化剤の導入率すなわち変性度は用いられるシリル化剤の量、反応時間によつて任意に調節することができる。また得られるシリル基含有変性PVAの重合度、ケン化度は用いられるPVAの重合度、ケン化度あるいは上記変性ポリ酢酸ビニルの重合度およびケン化反応によつて任意に調節することができる。
またビニルエステルとシリル基含有オレフイン性不飽和単量体との共重合体をケン化する方法においては、例えば、アルコール中においてビニルエステルとシリル基含有オレフイン性不飽和単量体とをラジカル開始剤を用いて共重合せしめ、しかる後に該共重合体のアルコール溶液にアルカリあるいは酸触媒を加えて該共重合体をケン化せしめることによつてシリル基含有変性PVAを得ることができる。上記の方法において用いられるビニルエステルとしては酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ギ酸ビニル等が挙げられるが経済的にみて酢酸ビニルが好ましい。
また上記の方法において用いられるシリル基含有オレフイン性不飽和単量体としては次式(I)で示されるビニルシラン、(II)で示される(メタ)アクリルアミド−アルキルシランが挙げられる。




〔ここでnは0〜4、mは0〜2、R1は炭素数1〜5のアルキル基(メチル、エチルなど)、R2は炭素数1〜40のアルコキシル基またはアシロキシル基(ここでアルコキシル基、アシロキシル基は酸素を含有する置換基を有していてもよい)、R3は水素原子またはメチル基、R4は水素原子または炭素数1〜5のアルキル基、R5は炭素数1〜5のアルキレン基または連鎖炭素原子が酸素もしくは窒素によつて相互に結合された2価の有機残基をそれぞれ示す。なおR1が同一単量体中に2個以上有する場合はR1は同じものであつてもよいし、異なるものであつてもよい。またR2が同一単量体中に2個以上有する場合も、R2は同じものであつてもよいし、異なるものであつてもよい。〕
式(I)で示されるビニルシランの具体例としては、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス−(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリアセトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ビニルジメチルアセトキシシラン、ビニルイソブチルジメトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリヘキシロキシシラン、ビニルメトキシジヘキシロキシシラン、ビニルトリオクチロキシシラン、ビニルジメトキシオクチロキシシラン、ビニルメトキシジオクチロキシシラン、ビニルメトキシジラウリロキシシラン、ビニルジメトキシラウリロキシシラン、ビニルメトキシジオレイロキシシラン、ビニルジメトキシオレイロキシシラン、更には一般式

(ここでR1、mは前記と同じ、xは1〜20を示す)で表わされるポリエチレングリコール化ビニルシラン等が挙げられる。
また式(II)で表わされる(メタ)アクリルアミド−アルキルシランの具体例としては例えば、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロビルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルエチルトリメトキシシラン、N−(2−(メタ)アクリルアミド−エチル)−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリアセトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−エチルトリメトキシシラン、1−(メタ)アクリルアミド−メチルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルジメチルメトキシシラン、3−(N−メチル−(メタ)アクリルアミド)プロピルトリメトキシシラン、3−((メタ)アクリルアミド−メトキシ)−3−ハイドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−((メタ)アクリルアミド−メトキシ)−プロピルトリメトキシシラン、N,N−ジメチル−N−トリメトキシシリルプロピル−3−(メタ)アクリルアミド−プロピルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−トリメトキシシリルプロピル−2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
また本発明において使用される変性PVAを製造するにあたつてビニルエステルとシリル基含有オレフイン性不飽和単量体との共重合を行なうにあたつては上記2成分以外にかかる単量体と共重合可能な他の不飽和単量体、例えばスチレン、アルキルビニルエーテル、バーサチツク酸ビニル、(メタ)アクリルアミド、エチレン、プロピレン、α−ヘキセン、α−オクテン等のオレフイン、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和酸、及びそのアルキルエステル、アルカリ塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸含有単量体及びそのアルカリ塩、トリメチル−3−(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)アンモニウムクロリド、トリメチル−3−(1−(メタ)アクリルアミドプロピル)アンモニウムクロリド、1−ビニル−2−メチルイミダゾールおよびその4級化物等のカチオン性単量体等を少割合で存在させることも可能である。
またシリル基を有するメルカプタンの存在下でビニルエステルを重合することによつて得られる末端にシリル基を有するポリビニルエステルをケン化する方法においては、例えばビニルエステルをラジカル開始剤を用いて重合せしめる際、シリル基を有するメルカプタンを重合系に一括または分割あるいは連続して添加し、重合系中にシリル基を有するメルカプタンを存在せしめ、メルカプタンへの連鎖移動によつて末端にシリル基を有するポリビニルエステルを生成せしめた後、該ポリビニルエステルのアルコール溶液にアルカリあるいは酸触媒を加えて該ポリビニルエステルをケン化せしめることによつてシリル基を有する変性PVAを得ることができる。
本方法で用いられるシリル基を有するメルカプタンとしては3−(トリメトキシシリル)−プロピルメルカプタン、3−(トリエトキシシリル)−プロピルメルカプタン等が使用しうる。本方法でシリル基を有する変性PVAを製造するにあたつては■の方法で用いられるビニルエステルと共重合可能な不飽和単量体を少割合で存在させることも可能である。
以上分子中にシリル基を含有する変性PVAについて詳しく説明したが、これらのうち、工業的製造の容易性の点で後変性によるものより共重合によるものの方が好ましい。また、共重合による変性PVAのうちでは、(I)式で示されるシリル基含有オレフイン性不飽和単量体との共重合体ケン化物が、水溶液の粘度安定性、アルカリ性水溶液とした場合のアルカリに対する安定性、あるいは皮膜化した場合の耐水性の点で優れており好ましく用いられる。
上記の3方法により得られる変性PVAの変性度、すなわち変性PVA中のシリル基含有量は分子内にシリル基を含有する単量体単位として0.01〜5モル%、好ましくは0.1〜1.0モル%、更に好ましくは0.1〜0.6モル%である。
シリル基の含有量が0.01モル%未満の場合には無機板の表層補強効果がなく、5モル%より大の場合には併用するアクリルエマルジヨンの安定性が不良となるため、止水性あるいは仕上げ処理材との密着性が低下するため好ましくない。後述する如きアクリルエマルジヨンの擬似凝集を生起せしめるためには0.1〜1.0モル%、更に好ましくは0.1〜0.6モル%が好ましい。
また変性PVA(後変性PVAおよび共重合による変性PVAとも)の重合度は通常100〜3000、好適には300〜2000、またケン化度は70〜100モル%の範囲から選ばれる。
このようにして得られたシリル基含有変性PVAは水に分散後、場合によつては少量の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、アミン等のアルカリを加え、撹拌しながら加温することによつて均一な水溶液とすることができる。
また本発明におけるアクリルエマルジヨンとしては、アクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル単量体(アルキル基の炭素数1〜10)を主体とするオールアクリル樹脂エマルジヨンおよびスチレンや酢酸ビニルを含有したアクリル系共重合樹脂エマルジヨンで、皮膜のガラス転移温度(以下Tgと略記する)が5〜50℃、好ましくは10〜35℃の範囲にあるものであることが必要である。Tgが上記範囲にない場合には後述の如き良好な擬似凝集体が得られず、特にTgが5℃未満の場合には上塗り塗料との密着強度が低下し、50℃を超える場合には止水性が低下するため好ましくない。エマルジヨンのイオン性としてはノニオン系、アニオン系のものが好ましい。
本発明のシーラー組成物は、(A)分子内にシリル基を0.01〜5モル%有する変性PVAと(B)ガラス転移温度が5〜50℃であるアクリルエマルジヨン、および(C)(A)の耐水化剤を主成分とし、かつ、固形分重量比率(A)/(B)=5/95〜50/50、(A)/(C)が99.5/0.5〜10/90の範囲である事が必要であり、そうすることにより初めて本発明の目的が達成される。
ここで本発明における耐水化剤としてはコロイダルシリカ、水ガラス、ホウ砂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、メラミン樹脂、ポリアミドメチロール樹脂、ポリエチレンイミン等が用いられるが、中でもコロイダルシリカを(A)/(C)=70/30〜20/80配合した時が特に著しい効果を奏する。
また本発明のシーラー組成物は前述の如くシリル基が0.01〜5モル%含有する変性PVAと、Tgが5〜50℃の範囲にあるアクリルエマルジヨン、及び耐水化剤を主成分とするが、上記した三者の配合に於いてはアクリルエマルジヨンの中にシリル基含有PVAの水溶液を撹拌しながら混合し、最後に耐水化剤を混合するのが良く、特に耐水化剤はシーラーを塗工する直前に混合するのが好ましい。また、炭酸カルシウム、クレー、酸化チタン、酸化亜鉛、ベンガラ等の無機顔料や塗液の安定剤としての尿素や、消泡剤等を分散混合して用いても構わない。また、適当な粘度の塗工液が得られるよう最後に水で稀釈して用いることが出来る。塗液濃度は10〜60%(固形分濃度)、好ましくは20〜40%(固定分濃度)で塗布される。
本発明のシーラー組成物が塗布される多孔性無機板としては、セメント系、ケイ酸カルシウム性、石膏系、砂、粘土鉱物系などの無機質材料を主成分とするものであり、具体的には、軽量コンクリート、プレキヤストコンクリート、軽量気泡コンクリート(ALC)、モルタル、石綿セメント板、ケイ酸カルシウム板、パルプセメント板、木毛セメント板、石膏ボード、ハードボード、などが挙げられ、有機成分も含まれるのが、いづれも通常Si,Ca,Mg,Al等の化合物からなる無機成分が主体となるものである。
無機板への塗布方法はハケ塗り、吹付け塗り、ローラー塗り、フローコーター、デイツピングなど一般の塗布方法がいずれも可能である。塗布量は乾燥固定分として0.5〜100g/m2が好ましく、乾燥は室温風乾でも加熱乾燥でも可能である。
(D) 作用および発明の効果本発明は(A)分子内にシリル基を0.01〜5モル%有する変性PVA、(B)Tgが5〜50℃の範囲にあるアクリルエマルジヨンおよび(C)(A)の耐水化剤を主成分とし、かつ、固形分重量比率(A)/(B)が5/95〜50/50、(A)(C)が99.5/0.5〜10/90の範囲からなる多孔性無機板用のシーラー組成物で、水系でありながら塗工欠陥が発生しにくく、一回塗りで溶剤系シーラーに匹敵する表層補強効果、止水性能、耐温水性および耐熱水性を有し、かつシーラー処理后長時間放置しても仕上材との優れた密着性が得られるという工業用材料として極めて利用価値の高いものである。
本発明のシーラー組成物が前述の如く極めて優れた性能を発揮する理由については詳細は不明であるが、以下のように推定される。すなわち、本発明のシーラー組成物の顕微鏡観察により、主たる成分である、分子内にシリル基を有する変性PVAとアクリルエマルジヨンの混合状態に特異な現象が認められた。それは、シリル基含有変性PVAの水溶液の海の中に、アクリルエマルジヨンの粒子一つ一つが島として均一に分散しているのではなく、元の粒子径の数10倍から数100倍の大きさで、擬似凝集を起していることがわかつた。ここで擬似凝集と表現したのは、この凝集状態が、水で稀釈してゆくと、元の一次粒子のオーダーに分散してゆく過程の軽い構造を作つた粒子集団が形成されるからである。
この様な混合状態であるため、多孔質無機板に本発明のシーラー組成物を塗布した時、均一な混合状態の場合より、無機板内部には主として一つの成分であるシリル基含有変性PVAが浸透しやく、もう一つの成分であるアクリルエマルジヨンは無機板の表面の孔より極めて大きな粒子集団を形成しているため浸透が少く、表層にアクリルエマルジヨンに富んだ組成の皮膜を形成したものと考えられる。しかも塗布厚み方向のシリル基含有変性PVAとアクリルエマルジヨンの両者の組成は、連続的に変化しているため、表層の皮膜は容易に無機板より剥離しないで、かつ止水性能が発揮されたのであろう。すなわちシリル基含有変性PVAは無機板の成分である、Si,Ca,Mg,Al等の化合物に対して従来のPVAと比較にならない程の相互作用があるため(特開昭58−164604号)、無機板への浸透性を適度に調整出来、その結果得られる表層補強効果は極めて良好なものとなつた。一方アクリルエマルジヨンは元々疎水性樹脂であり、その皮膜の耐水性は良好であることより、無機板塗布膜の止水性が得られたものと考えられる。又、無機板表面の大きな穴へは本発明のシーラー組成物の主としてシリル基含有変性PVAが一部のエマルジヨンといつしよに浸透してゆくことになるが、この変性PVAが無機板の成分と相互作用が強いため、無機板の表層からの適度な深さで耐水性のすぐれたゲル膜を作るため、塗工液は過度に浸透せず、従つて塗工欠陥も出来にくくなり、より良好な止水性が得られたものと考えられる。
前述の無機板への適度な浸透性はとりもなおさず、シリル基含有変性PVAとアクリルエマルジヨンの配合比率により得られる擬似凝集の度合によるものと考えられる。
さらに、本発明では耐水化剤を併用しているために、シリル基含有変性PVAが耐水化され、その結果、シーラー塗膜の耐温水性および耐熱水性が更に著しく向上するものと考えられる。
以下実施例によつて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何等制限するものではない。また、特にことわりのない限り、部あるいは%はすべて重量基準である。なお、実施例における試験法は次の通りである。
(1) 透水性試験シーラーの止水性能をみるための試験で、各種の多孔性無機板に本発明組成物を固形分20g/m2塗布し、80℃、20分間乾燥後、20℃、65%RH条件下に7日放置した。
この試験体の表面に、三角ロートの開口端をエポキシ系接着剤で漏水しない様に固定し、その先にビユレツトを継ぎ、初期水頭25cmになるよう水を入れ、8時間後の水量減少量を読み取つた。値の小さい程、止水性能が良好なことを示す。
(2) 密着性試験シーラーによる多孔性無機板の表層補強効果および無機板表面層と上塗り仕上処理剤との密着性を見るための試験で、(1)で述べた試験体に上塗り仕上処理剤として、溶剤型アクリル樹脂塗料(東亜ペイント(株)製、トアタイル用アクリルDX、白)を塗布し、また乾燥しないうちに、その上に綿布をのせ、2日間室温で乾燥した。その後、1cm巾にナイフで切れ目を入れ、オートグラフ(島津製作所製、IM−100型)にて剥離角度90゜、引張り速度50mm/分、でハクリ抵抗を測定するとともに剥離状態を観察した。すなわち上塗り塗料と密着性の悪いものは、シーラー塗布面と上塗り塗装の界面で剥離している。また無機板表層の補強効果の大きいものはハクリ抵抗が大きく、かつハクリ面に無機板の破断物が多く付着している。
(3) ウエザリング試験建材等の無機板はシーラー処理した後化粧仕上げをするまで数ケ月以上放置される場合がある。この場合施工に供されたシーラー処理板は日光、雨、風にさらされることになる。この様な曝露により、シーラー処理面が荒れたり、変色したりすると化粧仕上げに支障を来す。また化粧仕上げ材との密着性も変化する。この様な屋外曝露による耐性をみるための試験で、(1)で述べたシーラー処理した試料を40℃下でキセノンランプ(島津製作所、XW-60V3、6KW)200時間照射および2時間毎に18分の散水を行い、そのシーラー処理面の変化を調べた。また照射後の試料に上塗り塗料を塗り、密着性を調べた。
(4) マーロン機械安定性試験シーラーの塗工時の液の安定性を見るための試験で、マーロン試験機(新星産業株式会社製:MARON 1000rpm)により50gの塗液に荷重25Kg、1000rpmで10分間剪断力を加え、ゲル化物の発生量(100メツシユ金網でゲル化物を分離乾燥し、50gの塗液の固形分に対する重量%で表わす。)をチエツクした。
(5) 耐温水性試験多孔性無機板に本発明組成物を固形分で20g/m2塗布し、80℃、20分間乾燥後、溶剤型アクリル樹脂塗料(東亜ペイント(株)製、トアタイル用アクリルDX、白)を塗布し、2日間室温で乾燥した。この塗工物を50℃の温水に連続2週間浸漬し、上塗塗料のふくれを観察した。
(6) 耐熱水性試験多孔性無機板に、本発明組成物を固形分で20g/m2塗布し、130℃、20分間乾燥後、溶剤型アクリル樹脂塗料(東亜ペイント(株)製、トアタイル用アクリルDX、白)を塗布し、2日間室温で乾燥した。この塗工物を80℃の熱水に2時間浸漬し、上塗り塗料のふくれを観察した。
実施例1ビニルトリメトキシシランと酢酸ビニルとの共重合体をケン化してシリル基をビニルシラン単位として0.5モル%含有し、酢酸ビニル単位のケン化度98.5モル%、重合度500の分子内にシリル基を含む変性PVAを得た。この変性PVAを水にとかし、15%水溶液を作成した。ガラス転移温度(Tg)が32℃のアクリルエマルジヨン(日本アクリル化学(株)製、プライマルC−72、ノニオン性、固形分45.0%)100部に、撹拌しながら先の変性PVA15%水溶液を80部混合し、補正水を加えて濃度25%のシーラー組成物を得た。この組成物100部に耐水化剤として、コロイダルシリカ(触媒化成工業(株)製、Cataloid SI−500、固形分20%)37部加えた。このシーラーをケイカル板(見掛密度0.8)に塗布して性能を評価した結果を表−1に示す。
実施例2〜5実施例1のシーラー組成物にかえて、耐水化剤を以下の如く用いた以外は実施例1と同様に行つた。結果を合わせて表−1に示す。
実施例2:耐水化剤として、ポリアミド樹脂(住友化学工業(株)製、スミレーズEX70M、固形分20%)35部を加えた。
実施例3:耐水化剤として、ポリアミドメチロール樹脂(住友化学工業(株)製、スミレーズ633、固形分20%)35部を加えた。
実施例4:耐水化剤として、ポリエキレンイミン(日本触媒化学(株)製、エポミンSP1000、固形分20%)35部を加えた。
実施例5:耐水化剤として、エポキシ樹脂(長瀬産業(株)製、ナガセデナコールEX313、固形分20%)35部を加えた。
比較例1〜7実施例1のシーラー組成物に代えて、以下の如きシーラーを用いる以外は実施例1と同様に行つた。結果を合せて表−1に示す。
比較例1:実施例1で用いた耐水化剤を全く用いない場合(変性PVAおよびアクリルエマルジヨンのみの場合)で、それ以外は実施例1と同様に行つた。
比較例2:実施例1で用いられた変性PVA水溶液のみ。
比較例3:実施例1で用いられたアクリルエマルジヨンを濃度25%に調製した液。
比較例4:実施例1で用いられた変性PVAに代えて、PVA−105((株)クラレ製PVA、重合度550、ケン化度98.5モル%)を用いた液。
比較例5:実施例1で用いられた変性PVAを乳化安定剤として用いて得られた酢酸ビニルエマルジヨン(25%液)。
比較例6:既存の溶剤型ウレタン系シーラー(東亜ペイント(株)製、「アスベストシーラー#20」)。
比較例7:シーラーを塗布しない場合。


表−1に示す如く、本発明のシーラー組成物は塗工欠陥もなく、止水性能、表層補強効果および上塗り塗料との密着性(直後およびウエザリング後の塗布)が優れている。
実施例6〜8、比較例8〜9実施例1で用いられたアクリルエマルジヨンに代えて、表−2に示す如きTgを有するアクリルエマルジヨンを用いる以外は実施例1と同様に行つた。結果を合せて表−2に示す。


実施例9〜12、比較例10〜11実施例1における変性PVAとアクリルエマルジヨンとの重量配合比率を以下の如く変える以外は実施例1と同様に行つた。結果を合せて表−3に示す。


実施例13ビニルトリアセトキシシランと酢酸ビニルとの共重合体をケン化して得られる、シリル基をビニルシラン単位として0.2モル%含有し、酢酸ビニル単位のケン化度98.5モル%、重合度1000の分子内にシリル基を含む変性PVAを得た。この変性PVAを水にとかして15%水溶液を得た。この変性PVA水溶液を用いて、実施例−1と同様にしてシーラー組成物を得た。この塗液をケイカル板(見掛密度0.8)に塗布して性能を評価した結果を表−4に示す。
実施例14〜17、比較例12〜13実施例13で用いられた変性PVAに代えて、表−4に示す如きビニルトリメトキシシランと酢酸ビニルとの共重合体をケン化して得られる変性PVAを用いる以外は実施例13と同様に行つた。結果を合せて表−4に示す。






実施例18〜20、比較例14〜15実施例1における変性PVAとコロイダルシリカの固形分配合比率を以下の如く変える以外は実施例1と同様に行つた。結果を合せて表−5に示す。


実施例21実施例−1のシーラー組成物100部に尿素0.27部、二酸化チタン粉末10部を加えた顔料入り白色シーラー組成物をケイカル板(見掛密度0.8)に塗布した性能を表−6に示す。
実施例22実施例−1のシーラー組成物100部に尿素0.27部、二酸化チタン粉末10部およびベンガラ0.2部を加えた顔料入り赤色シーラー組成物をケイカル板(見掛密度0.8)に塗布した。結果を表−6に示す。


顔料を入れることにより、より止水性の良好なシーラー組成物が得られた。またシーラー処理されたケイカル板は顔料を入れることにより塗工ムラが目立ちにくくなるとともに、白色または赤色に化粧されるため商品価値が向上した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】(A)分子内にシリル基を0.01〜5モル%有する変性ポリビニルアルコール、(B)ガラス転移温度が5〜50℃であるアクリルエマルジヨンおよび(C)(A)の耐水化剤を主成分とし、かつ固形分重量比率(A)/(B)が5/95〜50/50、(A)/(C)が99.5/0.5〜10/90の範囲であることを特徴とする多孔性無機板用のシーラー組成物。
【請求項2】(A)分子内にシリル基を0.01〜5モル%有する変性ポリビニルアルコールが、ビニルエステルと分子内にシリル基を有するオレフイン性不飽和単量体との共重合体のケン化物である特許請求の範囲第1項記載の多孔性無機板用のシーラー組成物。
【請求項3】(C)耐水化剤としてコロイダルシリカを用い、固形分比率(A)/(C)が70/30〜20/80の範囲である特許請求の範囲第1項記載の多孔性無機板用のシーラー組成物。

【公告番号】特公平7−17464
【公告日】平成7年(1995)3月1日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭61−287414
【出願日】昭和61年(1986)12月1日
【公開番号】特開昭63−139083
【公開日】昭和63年(1988)6月10日
【出願人】(999999999)株式会社クラレ
【参考文献】
【文献】特開昭58−171457(JP,A)
【文献】特開昭56−14491(JP,A)