多孔性硫化銅、その製造方法およびその用途
【課題】 多孔性硫化銅、その製造方法およびその用途を提供すること。
【解決手段】 本発明の多孔性硫化銅は、硫化銅からなり、SBA−15多孔性シリカをテンプレートとして用いて得られるレプリカであり、空間群P63/mmcを有する。
【解決手段】 本発明の多孔性硫化銅は、硫化銅からなり、SBA−15多孔性シリカをテンプレートとして用いて得られるレプリカであり、空間群P63/mmcを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性硫化銅、その製造方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化銅は、特異な光電変換特性を有するII−VI族カルコゲナイド半導体として知られている。硫化銅は、金属様の導電性、化学センシング能、ならびに、太陽エネルギー吸収のための理想的な特性により注目されている。
【0003】
近年、硫化銅薄膜のスーパーキャパシタへの応用が研究されている(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1によれば、硫化銅の中でもカルコサイト(Cu2S)が、リーク電流が大きいという問題があるものの、シュードキャパシタに適用できることが示された。
【0004】
一方、大きなシュードキャパシタを得るには、材料のメソ多孔性および結晶性が重要であることが分かっており、液晶テンプレート法により硫化物およびセレン化合物の合成が報告されている(例えば、非特許文献2を参照)。非特許文献2によれば、オリゴエチレン酸化オレイルエーテル(oligoethylene oxide oleyl ether)両親媒性分子と水とによって形成される液晶をテンプレートとして、六角形状に配列した円筒状の孔(直径2〜3nm)を有するCdS、CsSeおよびZnSの製造に成功した。しかしながら、同様の方法により、Ag2S、CuS、HgSおよびPgSは得られなかった。
【0005】
したがって、多孔性硫化銅の開発が求められており、特に、シュードキャパシタに適用できる多孔性硫化銅が得られれば、有利である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上より、本発明の課題は、多孔性硫化銅、その製造方法およびその用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による多孔性硫化銅は、硫化銅からなり、SBA−15多孔性シリカをテンプレートとして用いて得られるレプリカであり、空間群P63/mmcを有し、これにより上記課題を達成する。
前記硫化銅はロッド状であり、互いに結合していてもよい。
前記硫化銅は銅藍であってもよい。
前記多孔性硫化銅の比表面積(m2/g)、比孔容量(cc/g)および孔径(nm)は、それぞれ、35〜200、0.2〜0.4および4〜10の範囲であってもよい。
前記多孔性硫化銅の比表面積(m2/g)、比孔容量(cc/g)および孔径(nm)は、それぞれ、35〜75、0.2〜0.3および4〜8.5の範囲であってもよい。
前記多孔性硫化銅は、ファラデー過程による酸化還元反応を示してもよい。
本発明による多孔性硫化銅を製造する方法は、SBA−15と、銅前駆体および硫黄前駆体を含有する前駆体溶液とを混合するステップと、前記混合するステップで得られた混合物を加熱するステップと、前記加熱するステップで得られた複合体を酸またはアルカリ処理し、前記複合体から前記SBA−15を除去するステップとを包含し、前記銅前駆体は、酢酸銅、硝酸銅、硫化銅、塩化銅およびグルコン酸銅からなる群から選択され、前記硫黄前駆体は、チオ尿素、硫化ナトリウム(Na2S)、C2H5NSおよび硫化水素からなる群から選択され、これにより上記課題を達成する。
前記加熱するステップは、前記混合物を50℃〜100℃の第1の温度範囲で2時間〜6時間、次いで、前記第1の温度範囲より高い160℃〜200℃の温度範囲で2時間〜6時間加熱してもよい。
前記加熱するステップに続いて、前記加熱するステップで得られた前記生成物に前記前駆体溶液を添加し、加熱するステップをさらに包含してもよい。
前記酸またはアルカリ処理し、除去するステップは、HFまたはNaOHを用いてもよい。
本発明によるシュードキャパシタ用電極材料は、上述の多孔性硫化銅を含み、これにより上記課題を達成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明による多孔性硫化銅によれば、テンプレートとしてSBA−15を用いて得られるレプリカであるので、SBA−15の形状を反映し、高い比表面積および比孔容量(比孔容積)を有する。したがって、本発明による多孔性硫化銅は、酸化還元反応に基づく優れた比容量を示す。このような多孔性硫化銅は、シュードキャパシタ用の電極材料に適用できる。
【0009】
本発明による多孔性硫化銅の製造方法によれば、SBA−15と特定の銅前駆体と特定の硫黄前駆体とを含有する反応溶液を調製するステップと、反応溶液を加熱するステップと、得られた生成物を酸またはアルカリ処理し、SBA−15を除去するステップとを包含し、極めてシンプルなプロセスであり、特殊な装置を必要としない。したがって、本発明による多孔性硫化銅を歩留まりよく、安価に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による多孔性硫化銅の模式図
【図2】本発明による多孔性硫化銅を製造するステップを示すフローチャート
【図3】本発明による多孔性硫化銅を製造するステップを模式的に示す模式図
【図4】実施例1〜3のM−CuS−100、130および150のXRDパターンを示す図
【図5】実施例1のM−CuS−100(A)および実施例3のM−CuS−150(B)のTEM像を示す図
【図6】実施例1のM−CuS−100(A)および実施例3のM−CuS−150(B)のHRTEM像を示す図
【図7】実施例1〜3のM−CuS−100、130および150のSEM像を示す図
【図8】実施例3のM−CuS−150のEDXスペクトルを示す図
【図9】実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の窒素吸脱着等温線を示す図
【図10】実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の細孔径分布を示す図
【図11】実施例1〜3のM−CuS−100、130および150のUV−visスペクトルを示す図
【図12】実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の(αhν)2とhνとの関係を示す図
【図13】実施例1〜3のM−CuS−100(a)、130(b)および150(c)のCV曲線を示す図
【図14】実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の比容量、比表面積および孔径の関係を示す図
【図15】実施例2のM−CuS−130の電気化学安定性を示す図
【図16】実施例2のM−CuS−130のクロノポテンショグラムを示す図
【図17】実施例2のM−CuS−130電極のNyquistプロットを示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0012】
図1は、本発明による多孔性硫化銅の模式図である。
【0013】
図1によれば、多孔性硫化銅(M−CuSとも称する)100の外観は、後述する、SBA−15(多孔性シリカ)をテンプレートとして用いた製造方法により得られるレプリカである。多孔性硫化銅100は、空間群P63/mmcを有し、銅藍(covellite;コベライト)であるCuSで表される。
【0014】
多孔性硫化銅100は、ロッド110が互いに結合して構成される。このロッド110は、SBA−15の空孔に相当する。ロッド110は、二次元六方晶120の様態に互いに結合している。
【0015】
多孔性硫化銅100の比表面積(m2/g)、比孔容量(cc/g)および孔径(nm)は、それぞれ、35〜200、0.2〜0.4および4〜10の範囲であり、より好ましくは、35〜75、0.2〜0.3および4〜8.5の範囲である。このような特性を有する多孔性硫化銅100はメソ多孔性であり、シュードキャパシタの要件を満たす。
【0016】
多孔性硫化銅100は、ファラデー過程を利用した酸化還元反応を示すことにより大きな疑似容量を有する。例えば、多孔性硫化銅100の疑似容量による最大比容量(F/g)は、280〜400の範囲であり、シュードキャパシタ用の電極材料に利用するに有利である。
【0017】
図2は、本発明による多孔性硫化銅を製造するステップを示すフローチャートである。
図3は、本発明による多孔性硫化銅を製造するステップを模式的に示す模式図である。
【0018】
ステップごとに説明する。
【0019】
ステップS210:SBA−15 300(図3)と、銅前駆体および硫黄前駆体を含有する前駆体溶液310(図3)とを混合する。SBA−15は、例えば、Vinuら,J.Phys.Chem.B 2003,107,8297等に記載の製造方法を採用して製造してもよい。銅前駆体は、酢酸銅、硝酸銅、硫化銅、塩化銅およびグルコン酸銅からなる群から選択され、硫黄前駆体と反応し硫化銅となり得る銅前駆体が採用される。硫黄前駆体は、チオ尿素、硫化ナトリウム(Na2S)、C2H5NSおよび硫化水素からなる群から選択され、銅前駆体と反応し、硫化銅となり得る硫黄前駆体が採用される。銅前駆体と硫黄前駆体とは、銅前駆体中の銅と、硫黄前駆体中の硫黄とのモル比が1となるように混合される。混合は、SBA−15内の空孔に前駆体溶液が十分に分散・拡散するよう混合され得る(図3の310)。
【0020】
例えば、銅前駆体として酢酸銅および硫黄前駆体としてチオ尿素の組み合わせがある。酢酸銅に代表されるCu(II)塩を用いれば、チオ尿素の加水分解によって形成されるS2−イオンと反応し、容易にCuSが生成する。詳細には、チオ尿素分子中の窒素原子を用い、窒素原子にある孤立電子対を供与することによってCu−チオ尿素複合体が形成される。これは、Cuカチオンの空d軌道とチオ尿素分子とが配位化合物を形成するためである。さらに、次に詳述する加熱により、チオ尿素は分解され、S2−イオンを生成する。このS2−は銅イオン(Cu2−)と反応し、安定した結晶性の硫化銅(CuS)を生成する。同様に、上述した銅前駆体および硫黄前駆体は、酢酸銅およびチオ尿素と同様に機能し得る。Cu源である銅前駆体と、S源である硫黄前駆体との2つの前駆体を使用することにより、SBA−15のメソ孔内への十分な充填を容易にする。詳細には、銅前駆体および硫黄前駆体の分子サイズは、SBA−15の細孔に比べて十分小さく、かつ、銅前駆体および硫黄前駆体の粘性が十分に低いため、SBA−15の細孔への充填を促進する。
【0021】
ステップS220:ステップS210で得られた混合物を加熱する。加熱により銅前駆体と硫黄前駆体とが互いに反応し、SBA−15内に硫化銅320(図3)が生成する。加熱は、反応により硫化銅が生成する任意の条件が採用されるが、好ましくは、混合物を50℃〜100℃の第1の温度範囲で2時間〜6時間、次いで、第1の温度範囲より高い160℃〜200℃の温度範囲で2時間〜6時間加熱する。雰囲気の制御は不要であり、例えば、大気中である。この条件で加熱すれば、硫化銅が確実に生成する。このような二段階での加熱により、前駆体溶液の急激な反応ならびに前駆体溶液中の溶媒の急激な蒸発が抑制され、銅前駆体と硫黄前駆体との反応を促進させることができる。
【0022】
ステップS230:ステップS220で得られた複合体(硫化銅とSBA−15との複合体)を酸またはアルカリ処理し、複合体からSBA−15を除去する。これにより、SBA−15のレプリカである本発明による多孔性硫化銅100(図1)が得られる。酸またはアルカリ処理に使用する酸およびアルカリは、例えば、フッ酸(HF)および水酸化ナトリウム(NaOH)等の強酸および強アルカリである。酸またはアルカリ処理は、生成物をこれらの強酸または強アルカリに浸漬するだけでよい。ステップS230に続いて、エタノールで数回洗浄し、得られた多孔性硫化銅を80℃〜120℃のオーブン等で乾燥させてもよい。
【0023】
また、ステップS220に次いで、複合体にステップS210で用いた前駆体溶液を再度追加した後、ステップS220およびステップS230を行ってもよい。これにより、SBA−15内に完全に前駆体溶液を充填させることができるので、ロッド110(図1)に欠損のない、SBA−15の形状を反映した高品質な多孔性硫化銅を得ることができる。
【0024】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【参考例1】
【0025】
実施例に先立て、テンプレートとなるSBA−15を種々の条件で製造した。SBA−15の製造に必要な、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)、および、トリブロックコポリマーポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(プロピレングリコール)−ブロックポリ(エチレングリコール)(Pluronic P123、分子量=5800、EO20PO70EO20)をAlrdrichから購入した。これらTEOSおよびPluronic P123は、さらなる高純度化等の処理をすることなく製造に用いた。
【0026】
Vinuら,J.Phys.Chem.B 2003,107,8297を参照し、SBA−15を製造した。P123 4gを脱イオン化水(DI、抵抗率10−18mΩ)30gに分散させ、3〜4時間撹拌した。次いで、これに2Mの塩酸水溶液120gを添加し、40℃で2時間撹拌した。その後、これにTEOS9gをゆっくりと添加し、40℃で24時間撹拌した。これにより、脱イオン化水にP123およびTEOSが添加された、均一なゲル状の水溶液を得た。ゲル状の水溶液を100℃、130℃および150℃でそれぞれ48時間エージングした。濾過および洗浄後、得られた固体を540℃でO2雰囲気中焼成し、P123を分解した。このようにして、100℃、130℃および150℃でエージングして得られたSBA−15を、それぞれ、SBA−15−100、SBA−15−130およびSBA−15−150と称する。なお、エージング温度が増大するにつれて、SBA−15の比表面積、比孔容量および孔径は増大する傾向を示すことが分かっている。
【実施例1】
【0027】
実施例1では、テンプレートとしてSBA−15−100を、銅前駆体として酢酸銅を、ならびに、硫黄前駆体としてチオ尿素を用い、本発明の多孔性硫化銅を製造した。酢酸銅(Cu(ac)2・4H2O)、チオ尿素(Tu)およびSBA−15の除去用の水酸化ナトリウム(NaOH)は、nacalai tesqueから購入した。これらCu(ac)2・4H2O、TuおよびNaOHは、さらなる高純度化等の処理をすることなく製造に用いた。
【0028】
参考例1で得たSBA−15−100と、Cu(ac)2・4H2OおよびTuを含有する前駆体溶液を混合した(図2のステップS210)。具体的には、SBA−15−100 500mgを、脱イオン化水7mlに2MのCu(ac)2・4H2Oを溶解させた溶液に添加し、次いで、これに、2MのTuを添加し、連続的に混合し、前駆体溶液をSBA−15−100のメソ孔に十分に分散させた。これによりSBA−15−100内に前駆体溶液が分散した混合物を得た。
【0029】
次に混合物を加熱した(図2のステップS220)。具体的には、ペトリ皿に移した混合物を、電気オーブンにて、100℃で6時間加熱し、次いで、160℃で6時間加熱した。これにより、Cu(ac)2・4H2Oの銅と、Tu中のSとが反応し、CuSが生成され、メソ孔にCuSが充填されたSBA−15−100の複合体が得られた。
【0030】
ここで、SBA−15−100のメソ孔を完全にCuSで充填させるため、前駆体溶液を(脱イオン化水7mlに溶解した2MのCu(ac)2・4H2Oおよび2MのTu)、複合体に追加し、SBA−15−100のメソ孔を完全にCuSおよび前駆体溶液で充填させた。再度、これを電気オーブンにて100℃で6時間、次いで、160℃で6時間加熱し、メソ孔にCuSが完全に充填されたSBA−15−100の複合体を得た。
【0031】
次に、複合体をアルカリで処理し、SBA−15−100を除去した(図2のステップS230)。アルカリには希釈したNaOHを用いた。濾過した後、エタノールで数回洗浄し、100℃で乾燥させ、多孔性硫化銅を得た。実施例1で得られた多孔性硫化銅をM−CuS−100と称する。
【0032】
M−CuS−100の粉末X線回折(XRD)パターンを、Rigaku回折計(Cu Kα、λ=1.5406Åを使用)を用いて測定した。2θのステップサイズを0.01°、ならびに、ステップ時間を10sとし、0.6°〜10°の2θ範囲を測定した。結果を図4に示す。
【0033】
M−CuS−100のTEM像およびHRTEM像を、TEM JEOL JEM−2000EX2を用いて観察した。エタノールで分散させ、超音波処理したM−CuS−100を銅グリッド上に堆積させた試料をHRTEM解析に用いた。観察時の加速電圧は200kVであった。結果を図5および図6に示す。
【0034】
M−CuS−100のモルフォロジを、HITACHI高解像度FE−SEMを用いて、観察した。結果を図7に示す。
【0035】
M−CuS−100の窒素吸脱着等温線を、Quantachrome Autosorb 1吸着アナライザを用いて−196℃で測定した。また、比表面積を、Brunauer−Emmett−Teller(BET)法により算出した。M−CuS−100の細孔径分布(BJH法)を、窒素吸脱着等温線の吸着ブランチおよび脱着ブランチから求めた。結果を図9および図10に示す。また、窒素吸脱着等温線から孔容量を求めた。これらの結果を表1に示す。
【0036】
M−CuS−100のUV−visスペクトルを、Perkin Elmer LAMPDA750を用いて反射モードで測定した。測定は、室温にて200nm〜800nmの範囲について行った。また、得られたUV−visスペクトルから光学バンドギャップを算出した。これらの結果を図11および図12に示す。
【0037】
M−CuS−100の電流電位(C−V)曲線を、CHI 760 C電気化学ワークステーションを用いて、室温にて標準三電極式セルにより測定した。電極には、作用電極としてM−CuS−100、カウンタ電極としてプラチナ箔、参照電極としてAg/AgClをそれぞれ用いた。
【0038】
なお、M−CuS−100からなる作用電極は、次の手順で調整した。剥き出しのグラッシーカーボン電極(GCE)を0.05MのAl2O3スラリーで鏡面研磨し、再蒸留水で洗浄した。作用電極の材料となるM−CuS−100(10mg/mL)をメタノール水溶液に分散させ、スラリーを形成し、10分間超音波処理した。次いで、マイクロピペットを用いて、20μLのスラリーをGCE電極表面に塗布した。その後、溶媒を蒸発させ、電極表面をイオン電導性ポリマーであるナフィオン(登録商標)溶液5μLでコーティングし、70℃1時間乾燥させ、溶媒を蒸発させた。
【0039】
電流電位(C−V)曲線の測定は、サイクリックボルタンメトリ法により1MのNa2SO4電解液中で行われた。測定条件は、−0.2Vから0.25Vの電位領域を電位掃引速度20mV/sで掃引した。結果を図13および図14に示す。
【実施例2】
【0040】
実施例2は、テンプレートとしてSBA−15−130を用いた以外、実施例1と同様である。実施例2で得られた多孔性硫化銅をM−CuS−130と称する。
【0041】
M−CuS−130のXRDパターン、SEM像、窒素吸脱着等温線、BJH細孔径分布、孔容量、UV−visスペクトル、光学バンドギャップおよびC−V曲線を、実施例1と同様に観察・測定した。結果を図4、図7、図9〜図14および表1に示す。
【0042】
1MのNa2SO4電解液中のM−CuS−130の電気化学安定性を調べるため、−0.25V〜2.5Vの電位領域を電位掃引速度100mV/sにて10000回掃引した後のC−V曲線を測定した。結果を図15に示す。
【0043】
M−CuS−130の充放電特性および電気化学インピーダンスを、CHI 760 C電気化学ワークステーションを用いて、測定した。0.5mA/cm2〜3mA/cm2の異なる電流密度に対して、充放電特性を測定した。周波数1MHz〜1mHzの範囲について電気化学インピーダンスを測定し、実数のインピーダンスZ’rおよび虚数のインピーダンスZ”imをプロットした。結果を図16、図17および表2に示す。
【実施例3】
【0044】
実施例3は、テンプレートとしてSBA−15−150を用いた以外、実施例1と同様である。実施例3で得られた多孔性硫化銅をM−CuS−150と称する。
【0045】
M−CuS−150のXRDパターン、TEM像、HRTEM像、SEM像、窒素吸脱着等温線、BJH細孔径分布、孔容量、UV−visスペクトル、光学バンドギャップおよびC−V曲線を、実施例1と同様に観察・測定した。結果を図4〜図7、図9〜図14および表1に示す。
【0046】
また、M−CuS−150の元素マッピング(EDXスペクトル)を、EDXを備えたFE−SEMにより測定した。結果を図8に示す。
【0047】
次に、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の観察・測定結果について詳述する。
【0048】
図4は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150のXRDパターンを示す図である。
【0049】
いずれのXRDパターンも1つのシャープなピークと2つの強度の低いピークとを有した。これらのピークは、p6m対称性を有する六方晶配列した構造に特有の(100)、(110)および(200)面の回折ピークに相当する。このことから、実施例1〜3で得られたM−CuS−100、130および150は、テンプレートであるSBA−15の構造の完全なレプリカであり、SBA−15と同様に規則的に配列した多孔性材料であることが分かった。
【0050】
図4の挿入図は、実施例2のM−CuS−130の高角XRDパターンを示す。このXRDパターンは、六方晶銅藍相の硫化銅のXRDパターン(JCPDS No.06−0464)における回折ピークに良好に一致した。以上より、本発明の製造方法により、空間群P63/mmcを有する硫化銅(銅藍CuS)からなる多孔性材料が得られることが確認された。
【0051】
第一銅イオンの形成は、硫化物イオンによるCu(II)の還元に起因している。このCu(II)の還元により硫化物イオンは硫黄へと酸化される。したがって、本発明の製造方法により、構造的および組成的にもCuSと異なるCuxSの生成が想定され得るが、図4のXRDパターンによれば、Cu2SまたはCu2O等の不純物による回折ピークは一切見られなかった。以上より、本発明の製造方法により、空間群P63/mmcを有する硫化銅単体からなる多孔性材料が得られることが確認された。
【0052】
さらに、例えば、M−CuS−100のブロードな回折ピークは、生成されたM−CuS粒子がナノスケールであることを示唆している。Schererの式により(100)面の回折ピークから算出した粒径は、5.48nmであった。
【0053】
図5は、実施例1のM−CuS−100(A)および実施例3のM−CuS−150(B)のTEM像を示す図である。
【0054】
図5の挿入図はいずれも、配列したチャネルに相当する回折パターン(SAED)である。M−CuS−100および150のいずれも、メゾスコピックな領域において、多孔性シリカテンプレートであるSBA−15に一致する良好に配列した多孔性構造を示した。詳細には、M−CuS−100および150のいずれも、線状の多孔性チャネルが良好に配列している様子を示す。
【0055】
図6は、実施例1のM−CuS−100(A)および実施例3のM−CuS−150(B)のHRTEM像を示す図である。
【0056】
M−CuS−100および150のいずれも、粒子内において多数のメソチャネルが互いに結合し、良好に配列していることを示す。また、図6(B)から算出した格子フリンジはd=0.315nmであった。これらの結果は、図4のXRD回折の結果をサポートしており、本発明による製造方法により、良好に配列した多孔性材料が得られることが示された。なお、図示しないが、M−CuS−130についても同様のTEM像およびHRTEM像が得られた。
【0057】
図7は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150のSEM像を示す図である。
【0058】
図7(A)〜(B)はM−CuS−100のSEM像であり、図7(C)〜(D)はM−CuS−130のSEM像であり、図7(E)〜(F)はM−CuS−150のSEM像である。
【0059】
M−CuS−100、130および150のいずれも、多孔性シリカテンプレートであるSBA−15のレプリカであることを確認した。また、図7によれば、CuSナノ粒子がSBA−15のメゾスコピックなチャネル内を完全に充填した結果、ロッド状のCuSが良好に配列している様子を示す。以上より、本発明の製造方法により、SBA−15のレプリカであるロッド状の多孔性材料が得られることが示された。
【0060】
図8は、実施例3のM−CuS−150のEDXスペクトルを示す図である。
【0061】
EDXスペクトルは、CuおよびSに相当する明瞭なピークを示した。このことから、ステップS230のSBA−15を除去後、生成物には残留するシリカはなく、CuS単相が得られたことが確認された。この結果は、図4のXRDパターンの結果と同様であった。
【0062】
図8の挿入図はCuおよびSの元素マッピングを示す。コントラストの明るく示される部分が、各元素が存在していることを示す。元素マッピングによれば、CuおよびSは、生成物全体に均一に分散していることが分かった。
【0063】
図9は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の窒素吸脱着等温線を示す図である。
図10は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の細孔径分布を示す図である。
【0064】
いずれの窒素吸脱着等温線も、IUPAC分類のIV型であり、H1型ヒステリシスループを示した。このことから、本発明の製造方法により、メソ多孔性材料が得られることが確認された。
【0065】
図10によれば、M−CuS−100、130および150の細孔径が、4nm〜8.5nmの範囲に分布していることが分かる。
【0066】
図9の各窒素吸脱着等温線から比表面積(BET表面積)、比孔容量および孔径を算出した。それらの結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1によれば、BET表面積は、M−CuS−100、M−CuS−130およびM−CuS−150の順に増大した。すなわち、M−CuSのBET法面積は、テンプレートであるSBA−15の製造におけるエージング温度の増大につれて増大した。一方、比孔容量および孔径は、M−CuS−130においてもっとも大きかった。
【0069】
以上より、製造時に適宜SBA−15を選択することによって、得られるM−CuSの組織的特性(比表面積、比孔容量および孔径)を制御することができることが示された。
【0070】
図11は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150のUV−visスペクトルを示す図である。
【0071】
いずれのUV−visスペクトルも約600nm付近に顕著な吸収端を示した。これは、価電子帯から非占有状態へのバンド間遷移をする銅藍(CuS)の形成に起因する基礎吸収端である。硫化銅は、カルコサイト(Cu2S)から硫黄リッチな銅藍(CuS)まで多くの安定な相を有するが、各安定な相は、特有の光学特性を有することが分かっている。例えば、銅藍(CuS)は近赤外領域(約920nm)に特徴的な広い吸収帯を有するが、この吸収帯は、硫化銅中の硫黄含有量が増大するにつれて減少する。以上より、本発明の製造方法により得られた多孔性材料が、CuSで表される銅藍であることが確認された。
【0072】
図12は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の(αhν)2とhνとの関係を示す図である。
【0073】
図12は、M−CuSの光学バンドギャップを算出するために、図11より(αhν)2とhνとの関係をプロットした図である。光学バンドギャップは、直接遷移の場合には(αhν)2とhν(h:プランク定数、ν:周波数)との関係から、あるいは、許容間接遷移の場合には(αhν)1/2とhνとの関係との関係から算出される。図12によれば、(αhν)2とhνとの関係において、可視領域の高エネルギー側の主要な部分が、直線で良好にフィッティングされた。このことから、M−CuSの遷移の種類は直接遷移であることが分かった。M−CuS−100、130および150のそれぞれのプロットにフィッティングした直線から得られる光学バンドギャップ(eV)は、2.08、2.06および2.04であった。これは、バルク状のCuSの光学バンドギャップ(1.85eV)よりもわずかに大きな値であったが、実質的に同様の光学バンドギャップであった。なお、この光学バンドギャップにおける差は、サイズ効果によるものである。このことからも、本発明の製造方法により得られた多孔性材料が、CuSであることが確認された。
【0074】
以上、図4〜図12より、本発明の製造方法により、硫化銅からなり、SBA−15多孔性シリカをテンプレートとして用いて得られるレプリカであり、空間群P63/mmcを有する、多孔性硫化銅が得られることが示された。
【0075】
図13は、実施例1〜3のM−CuS−100(a)、130(b)および150(c)のCV曲線を示す図である。
【0076】
いずれのCV曲線も一対の酸化還元ピークを明瞭に示した。このことは、本発明によるM−CuSはファラデー過程による酸化還元を示し、測定された容量が、可逆な電気化学反応によって生じる疑似容量によることを示唆する。以上より、本発明の製造方法によるM−CuSは、シュードキャパシタに適用可能であることが分かった。中でも、M−CuS−130のCV曲線(b)下の領域が、M−CuS−100(a)および150(c)のそれよりも増大していることから、M−CuS−130の比容量がもっとも増大したことを示している。すなわち、M−CuS−130を電極としたスーパーキャパシタは、M−CuS−100および150のそれよりも著しく高い比容量を示し、シュードキャパシタにより好適であることが分かった。
【0077】
このようなM−CuS−130における高い比容量は、高い表面積および大きな孔径に起因しており、これにより、M−CuSのチャネル内にて高速でイオン輸送パスを提供することができる。
【0078】
図14は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の比容量、比表面積および孔径の関係を示す図である。
【0079】
図14によれば、比表面積および孔径が増大するにつれて、比容量も増大することが分かる。M−CuS−100、130および150の電位走査速度2mV/sにおける最大比容量(F/g)は、それぞれ、282.14、382.14および339.28であった。この結果は、図13のM−CuS−130のCV曲線(b)が、他のCV曲線(a)および(c)と比べて、CV曲線下に広い領域を示し、より顕著なキャパシタ挙動を示したことに一致する。
【0080】
図15は、実施例2のM−CuS−130の電気化学安定性を示す図である。
【0081】
図15によれば、10000回掃引後のM−CuS−130のCV曲線と、1回掃引後のそれとは大きな変化を示さなかった。具体的には、10000回後のM−CuS−130の比容量は、1回目のそれよりわずかに減少しているものの、1回目のそれの93%にとどまっていた。このことから、本発明の製造方法によるM−CuSは、シュードキャパシタ用の電極に適用した際に電気化学安定性を有しており、耐久性に優れていることが示された。
【0082】
図16は、実施例2のM−CuS−130のクロノポテンショグラムを示す図である。
【0083】
充放電時、曲線は2つの変動範囲を示す。具体的には、電極/電解液の界面における電荷分離に起因する、電位軸に平行な電位(−0.25V〜−0.15V)対時間の直線状の変動、および、電位(−0.15V〜0.25V)対時間のスロープ状の変動の2つの変動範囲である。このような変動範囲は、電極/電解液の界面において電気化学的な酸化還元反応による典型的な疑似容量の挙動である。例えば、3mA/cm2の高電流密度を用いた場合であっても、理想的なキャパシタ挙動である三角形状の対称的な充放電特性が得られた。このことから、M−CuS−130は、極めて小さいオーミックドロップを伴い電荷を高速で伝播させることが示された。
【0084】
さらに、放電曲線の形状は、電気二重層キャパシタではなく、シュードキャパシタの特性を示しており、図13のCV曲線の結果に一致した。放電曲線における電位減少から、M−CuS−130の種々の電流密度に対する比エネルギー(SE)、比出力(SP)およびクーロン効率(%η)を算出した。結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
表2より、電流密度の増加に伴い、比出力は増加し、比エネルギーは減少することが分かった。また、クーロン効率は、電流密度に依存しないことが確認された。
【0087】
図17は、実施例2のM−CuS−130電極のNyquistプロットを示す図である。
【0088】
図17によれば、高周波領域に対して半球と、低周波数領域に対して直線とからなるNyquistプロットが得られた。半球の始まり部分におけるZ’rの切片が0でない理由は、電解液の電気抵抗Re(平均1.02オームcm2)に起因することに留意されたい。半球の直径は、ファラデー抵抗と呼ばれる界面電荷輸送抵抗(Rct)に相当し、シュードキャパシタの出力密度に対する制限ファクタとなり得る。M−CuS−130のファラデー抵抗Rctは、14.02オームcm2であり、このような低いファラデー抵抗は、シュードキャパシタによって生成される出力密度を顕著に増大させることができる。このことからも、本発明による製造方法によるM−CuSは、シュードキャパシタ用の電極に好適である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明による多孔性硫化銅は、SBA−15のレプリカであるので、SBA−15の形状を反映した高い比表面積および比孔容量を有する。したがって、本発明による多孔性硫化銅は、酸化還元反応に基づく優れた比容量(疑似容量)を示す。このような多孔性硫化銅は、シュードキャパシタ用の電極材料に適用できる。
【符号の説明】
【0090】
100 多孔性硫化銅(M−CuS)
110 ロッド
120 二次元六方晶
300 SBA−15
310 前駆体溶液
320 硫化銅
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0091】
【非特許文献1】Zoran Stevicら,Journal of Power Sources,160(2006),1511−1517
【非特許文献2】Paul V.Braunら,J.Am.Chem.Soc.,1999,121,7302−7309
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性硫化銅、その製造方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化銅は、特異な光電変換特性を有するII−VI族カルコゲナイド半導体として知られている。硫化銅は、金属様の導電性、化学センシング能、ならびに、太陽エネルギー吸収のための理想的な特性により注目されている。
【0003】
近年、硫化銅薄膜のスーパーキャパシタへの応用が研究されている(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1によれば、硫化銅の中でもカルコサイト(Cu2S)が、リーク電流が大きいという問題があるものの、シュードキャパシタに適用できることが示された。
【0004】
一方、大きなシュードキャパシタを得るには、材料のメソ多孔性および結晶性が重要であることが分かっており、液晶テンプレート法により硫化物およびセレン化合物の合成が報告されている(例えば、非特許文献2を参照)。非特許文献2によれば、オリゴエチレン酸化オレイルエーテル(oligoethylene oxide oleyl ether)両親媒性分子と水とによって形成される液晶をテンプレートとして、六角形状に配列した円筒状の孔(直径2〜3nm)を有するCdS、CsSeおよびZnSの製造に成功した。しかしながら、同様の方法により、Ag2S、CuS、HgSおよびPgSは得られなかった。
【0005】
したがって、多孔性硫化銅の開発が求められており、特に、シュードキャパシタに適用できる多孔性硫化銅が得られれば、有利である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上より、本発明の課題は、多孔性硫化銅、その製造方法およびその用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による多孔性硫化銅は、硫化銅からなり、SBA−15多孔性シリカをテンプレートとして用いて得られるレプリカであり、空間群P63/mmcを有し、これにより上記課題を達成する。
前記硫化銅はロッド状であり、互いに結合していてもよい。
前記硫化銅は銅藍であってもよい。
前記多孔性硫化銅の比表面積(m2/g)、比孔容量(cc/g)および孔径(nm)は、それぞれ、35〜200、0.2〜0.4および4〜10の範囲であってもよい。
前記多孔性硫化銅の比表面積(m2/g)、比孔容量(cc/g)および孔径(nm)は、それぞれ、35〜75、0.2〜0.3および4〜8.5の範囲であってもよい。
前記多孔性硫化銅は、ファラデー過程による酸化還元反応を示してもよい。
本発明による多孔性硫化銅を製造する方法は、SBA−15と、銅前駆体および硫黄前駆体を含有する前駆体溶液とを混合するステップと、前記混合するステップで得られた混合物を加熱するステップと、前記加熱するステップで得られた複合体を酸またはアルカリ処理し、前記複合体から前記SBA−15を除去するステップとを包含し、前記銅前駆体は、酢酸銅、硝酸銅、硫化銅、塩化銅およびグルコン酸銅からなる群から選択され、前記硫黄前駆体は、チオ尿素、硫化ナトリウム(Na2S)、C2H5NSおよび硫化水素からなる群から選択され、これにより上記課題を達成する。
前記加熱するステップは、前記混合物を50℃〜100℃の第1の温度範囲で2時間〜6時間、次いで、前記第1の温度範囲より高い160℃〜200℃の温度範囲で2時間〜6時間加熱してもよい。
前記加熱するステップに続いて、前記加熱するステップで得られた前記生成物に前記前駆体溶液を添加し、加熱するステップをさらに包含してもよい。
前記酸またはアルカリ処理し、除去するステップは、HFまたはNaOHを用いてもよい。
本発明によるシュードキャパシタ用電極材料は、上述の多孔性硫化銅を含み、これにより上記課題を達成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明による多孔性硫化銅によれば、テンプレートとしてSBA−15を用いて得られるレプリカであるので、SBA−15の形状を反映し、高い比表面積および比孔容量(比孔容積)を有する。したがって、本発明による多孔性硫化銅は、酸化還元反応に基づく優れた比容量を示す。このような多孔性硫化銅は、シュードキャパシタ用の電極材料に適用できる。
【0009】
本発明による多孔性硫化銅の製造方法によれば、SBA−15と特定の銅前駆体と特定の硫黄前駆体とを含有する反応溶液を調製するステップと、反応溶液を加熱するステップと、得られた生成物を酸またはアルカリ処理し、SBA−15を除去するステップとを包含し、極めてシンプルなプロセスであり、特殊な装置を必要としない。したがって、本発明による多孔性硫化銅を歩留まりよく、安価に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による多孔性硫化銅の模式図
【図2】本発明による多孔性硫化銅を製造するステップを示すフローチャート
【図3】本発明による多孔性硫化銅を製造するステップを模式的に示す模式図
【図4】実施例1〜3のM−CuS−100、130および150のXRDパターンを示す図
【図5】実施例1のM−CuS−100(A)および実施例3のM−CuS−150(B)のTEM像を示す図
【図6】実施例1のM−CuS−100(A)および実施例3のM−CuS−150(B)のHRTEM像を示す図
【図7】実施例1〜3のM−CuS−100、130および150のSEM像を示す図
【図8】実施例3のM−CuS−150のEDXスペクトルを示す図
【図9】実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の窒素吸脱着等温線を示す図
【図10】実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の細孔径分布を示す図
【図11】実施例1〜3のM−CuS−100、130および150のUV−visスペクトルを示す図
【図12】実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の(αhν)2とhνとの関係を示す図
【図13】実施例1〜3のM−CuS−100(a)、130(b)および150(c)のCV曲線を示す図
【図14】実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の比容量、比表面積および孔径の関係を示す図
【図15】実施例2のM−CuS−130の電気化学安定性を示す図
【図16】実施例2のM−CuS−130のクロノポテンショグラムを示す図
【図17】実施例2のM−CuS−130電極のNyquistプロットを示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0012】
図1は、本発明による多孔性硫化銅の模式図である。
【0013】
図1によれば、多孔性硫化銅(M−CuSとも称する)100の外観は、後述する、SBA−15(多孔性シリカ)をテンプレートとして用いた製造方法により得られるレプリカである。多孔性硫化銅100は、空間群P63/mmcを有し、銅藍(covellite;コベライト)であるCuSで表される。
【0014】
多孔性硫化銅100は、ロッド110が互いに結合して構成される。このロッド110は、SBA−15の空孔に相当する。ロッド110は、二次元六方晶120の様態に互いに結合している。
【0015】
多孔性硫化銅100の比表面積(m2/g)、比孔容量(cc/g)および孔径(nm)は、それぞれ、35〜200、0.2〜0.4および4〜10の範囲であり、より好ましくは、35〜75、0.2〜0.3および4〜8.5の範囲である。このような特性を有する多孔性硫化銅100はメソ多孔性であり、シュードキャパシタの要件を満たす。
【0016】
多孔性硫化銅100は、ファラデー過程を利用した酸化還元反応を示すことにより大きな疑似容量を有する。例えば、多孔性硫化銅100の疑似容量による最大比容量(F/g)は、280〜400の範囲であり、シュードキャパシタ用の電極材料に利用するに有利である。
【0017】
図2は、本発明による多孔性硫化銅を製造するステップを示すフローチャートである。
図3は、本発明による多孔性硫化銅を製造するステップを模式的に示す模式図である。
【0018】
ステップごとに説明する。
【0019】
ステップS210:SBA−15 300(図3)と、銅前駆体および硫黄前駆体を含有する前駆体溶液310(図3)とを混合する。SBA−15は、例えば、Vinuら,J.Phys.Chem.B 2003,107,8297等に記載の製造方法を採用して製造してもよい。銅前駆体は、酢酸銅、硝酸銅、硫化銅、塩化銅およびグルコン酸銅からなる群から選択され、硫黄前駆体と反応し硫化銅となり得る銅前駆体が採用される。硫黄前駆体は、チオ尿素、硫化ナトリウム(Na2S)、C2H5NSおよび硫化水素からなる群から選択され、銅前駆体と反応し、硫化銅となり得る硫黄前駆体が採用される。銅前駆体と硫黄前駆体とは、銅前駆体中の銅と、硫黄前駆体中の硫黄とのモル比が1となるように混合される。混合は、SBA−15内の空孔に前駆体溶液が十分に分散・拡散するよう混合され得る(図3の310)。
【0020】
例えば、銅前駆体として酢酸銅および硫黄前駆体としてチオ尿素の組み合わせがある。酢酸銅に代表されるCu(II)塩を用いれば、チオ尿素の加水分解によって形成されるS2−イオンと反応し、容易にCuSが生成する。詳細には、チオ尿素分子中の窒素原子を用い、窒素原子にある孤立電子対を供与することによってCu−チオ尿素複合体が形成される。これは、Cuカチオンの空d軌道とチオ尿素分子とが配位化合物を形成するためである。さらに、次に詳述する加熱により、チオ尿素は分解され、S2−イオンを生成する。このS2−は銅イオン(Cu2−)と反応し、安定した結晶性の硫化銅(CuS)を生成する。同様に、上述した銅前駆体および硫黄前駆体は、酢酸銅およびチオ尿素と同様に機能し得る。Cu源である銅前駆体と、S源である硫黄前駆体との2つの前駆体を使用することにより、SBA−15のメソ孔内への十分な充填を容易にする。詳細には、銅前駆体および硫黄前駆体の分子サイズは、SBA−15の細孔に比べて十分小さく、かつ、銅前駆体および硫黄前駆体の粘性が十分に低いため、SBA−15の細孔への充填を促進する。
【0021】
ステップS220:ステップS210で得られた混合物を加熱する。加熱により銅前駆体と硫黄前駆体とが互いに反応し、SBA−15内に硫化銅320(図3)が生成する。加熱は、反応により硫化銅が生成する任意の条件が採用されるが、好ましくは、混合物を50℃〜100℃の第1の温度範囲で2時間〜6時間、次いで、第1の温度範囲より高い160℃〜200℃の温度範囲で2時間〜6時間加熱する。雰囲気の制御は不要であり、例えば、大気中である。この条件で加熱すれば、硫化銅が確実に生成する。このような二段階での加熱により、前駆体溶液の急激な反応ならびに前駆体溶液中の溶媒の急激な蒸発が抑制され、銅前駆体と硫黄前駆体との反応を促進させることができる。
【0022】
ステップS230:ステップS220で得られた複合体(硫化銅とSBA−15との複合体)を酸またはアルカリ処理し、複合体からSBA−15を除去する。これにより、SBA−15のレプリカである本発明による多孔性硫化銅100(図1)が得られる。酸またはアルカリ処理に使用する酸およびアルカリは、例えば、フッ酸(HF)および水酸化ナトリウム(NaOH)等の強酸および強アルカリである。酸またはアルカリ処理は、生成物をこれらの強酸または強アルカリに浸漬するだけでよい。ステップS230に続いて、エタノールで数回洗浄し、得られた多孔性硫化銅を80℃〜120℃のオーブン等で乾燥させてもよい。
【0023】
また、ステップS220に次いで、複合体にステップS210で用いた前駆体溶液を再度追加した後、ステップS220およびステップS230を行ってもよい。これにより、SBA−15内に完全に前駆体溶液を充填させることができるので、ロッド110(図1)に欠損のない、SBA−15の形状を反映した高品質な多孔性硫化銅を得ることができる。
【0024】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【参考例1】
【0025】
実施例に先立て、テンプレートとなるSBA−15を種々の条件で製造した。SBA−15の製造に必要な、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)、および、トリブロックコポリマーポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(プロピレングリコール)−ブロックポリ(エチレングリコール)(Pluronic P123、分子量=5800、EO20PO70EO20)をAlrdrichから購入した。これらTEOSおよびPluronic P123は、さらなる高純度化等の処理をすることなく製造に用いた。
【0026】
Vinuら,J.Phys.Chem.B 2003,107,8297を参照し、SBA−15を製造した。P123 4gを脱イオン化水(DI、抵抗率10−18mΩ)30gに分散させ、3〜4時間撹拌した。次いで、これに2Mの塩酸水溶液120gを添加し、40℃で2時間撹拌した。その後、これにTEOS9gをゆっくりと添加し、40℃で24時間撹拌した。これにより、脱イオン化水にP123およびTEOSが添加された、均一なゲル状の水溶液を得た。ゲル状の水溶液を100℃、130℃および150℃でそれぞれ48時間エージングした。濾過および洗浄後、得られた固体を540℃でO2雰囲気中焼成し、P123を分解した。このようにして、100℃、130℃および150℃でエージングして得られたSBA−15を、それぞれ、SBA−15−100、SBA−15−130およびSBA−15−150と称する。なお、エージング温度が増大するにつれて、SBA−15の比表面積、比孔容量および孔径は増大する傾向を示すことが分かっている。
【実施例1】
【0027】
実施例1では、テンプレートとしてSBA−15−100を、銅前駆体として酢酸銅を、ならびに、硫黄前駆体としてチオ尿素を用い、本発明の多孔性硫化銅を製造した。酢酸銅(Cu(ac)2・4H2O)、チオ尿素(Tu)およびSBA−15の除去用の水酸化ナトリウム(NaOH)は、nacalai tesqueから購入した。これらCu(ac)2・4H2O、TuおよびNaOHは、さらなる高純度化等の処理をすることなく製造に用いた。
【0028】
参考例1で得たSBA−15−100と、Cu(ac)2・4H2OおよびTuを含有する前駆体溶液を混合した(図2のステップS210)。具体的には、SBA−15−100 500mgを、脱イオン化水7mlに2MのCu(ac)2・4H2Oを溶解させた溶液に添加し、次いで、これに、2MのTuを添加し、連続的に混合し、前駆体溶液をSBA−15−100のメソ孔に十分に分散させた。これによりSBA−15−100内に前駆体溶液が分散した混合物を得た。
【0029】
次に混合物を加熱した(図2のステップS220)。具体的には、ペトリ皿に移した混合物を、電気オーブンにて、100℃で6時間加熱し、次いで、160℃で6時間加熱した。これにより、Cu(ac)2・4H2Oの銅と、Tu中のSとが反応し、CuSが生成され、メソ孔にCuSが充填されたSBA−15−100の複合体が得られた。
【0030】
ここで、SBA−15−100のメソ孔を完全にCuSで充填させるため、前駆体溶液を(脱イオン化水7mlに溶解した2MのCu(ac)2・4H2Oおよび2MのTu)、複合体に追加し、SBA−15−100のメソ孔を完全にCuSおよび前駆体溶液で充填させた。再度、これを電気オーブンにて100℃で6時間、次いで、160℃で6時間加熱し、メソ孔にCuSが完全に充填されたSBA−15−100の複合体を得た。
【0031】
次に、複合体をアルカリで処理し、SBA−15−100を除去した(図2のステップS230)。アルカリには希釈したNaOHを用いた。濾過した後、エタノールで数回洗浄し、100℃で乾燥させ、多孔性硫化銅を得た。実施例1で得られた多孔性硫化銅をM−CuS−100と称する。
【0032】
M−CuS−100の粉末X線回折(XRD)パターンを、Rigaku回折計(Cu Kα、λ=1.5406Åを使用)を用いて測定した。2θのステップサイズを0.01°、ならびに、ステップ時間を10sとし、0.6°〜10°の2θ範囲を測定した。結果を図4に示す。
【0033】
M−CuS−100のTEM像およびHRTEM像を、TEM JEOL JEM−2000EX2を用いて観察した。エタノールで分散させ、超音波処理したM−CuS−100を銅グリッド上に堆積させた試料をHRTEM解析に用いた。観察時の加速電圧は200kVであった。結果を図5および図6に示す。
【0034】
M−CuS−100のモルフォロジを、HITACHI高解像度FE−SEMを用いて、観察した。結果を図7に示す。
【0035】
M−CuS−100の窒素吸脱着等温線を、Quantachrome Autosorb 1吸着アナライザを用いて−196℃で測定した。また、比表面積を、Brunauer−Emmett−Teller(BET)法により算出した。M−CuS−100の細孔径分布(BJH法)を、窒素吸脱着等温線の吸着ブランチおよび脱着ブランチから求めた。結果を図9および図10に示す。また、窒素吸脱着等温線から孔容量を求めた。これらの結果を表1に示す。
【0036】
M−CuS−100のUV−visスペクトルを、Perkin Elmer LAMPDA750を用いて反射モードで測定した。測定は、室温にて200nm〜800nmの範囲について行った。また、得られたUV−visスペクトルから光学バンドギャップを算出した。これらの結果を図11および図12に示す。
【0037】
M−CuS−100の電流電位(C−V)曲線を、CHI 760 C電気化学ワークステーションを用いて、室温にて標準三電極式セルにより測定した。電極には、作用電極としてM−CuS−100、カウンタ電極としてプラチナ箔、参照電極としてAg/AgClをそれぞれ用いた。
【0038】
なお、M−CuS−100からなる作用電極は、次の手順で調整した。剥き出しのグラッシーカーボン電極(GCE)を0.05MのAl2O3スラリーで鏡面研磨し、再蒸留水で洗浄した。作用電極の材料となるM−CuS−100(10mg/mL)をメタノール水溶液に分散させ、スラリーを形成し、10分間超音波処理した。次いで、マイクロピペットを用いて、20μLのスラリーをGCE電極表面に塗布した。その後、溶媒を蒸発させ、電極表面をイオン電導性ポリマーであるナフィオン(登録商標)溶液5μLでコーティングし、70℃1時間乾燥させ、溶媒を蒸発させた。
【0039】
電流電位(C−V)曲線の測定は、サイクリックボルタンメトリ法により1MのNa2SO4電解液中で行われた。測定条件は、−0.2Vから0.25Vの電位領域を電位掃引速度20mV/sで掃引した。結果を図13および図14に示す。
【実施例2】
【0040】
実施例2は、テンプレートとしてSBA−15−130を用いた以外、実施例1と同様である。実施例2で得られた多孔性硫化銅をM−CuS−130と称する。
【0041】
M−CuS−130のXRDパターン、SEM像、窒素吸脱着等温線、BJH細孔径分布、孔容量、UV−visスペクトル、光学バンドギャップおよびC−V曲線を、実施例1と同様に観察・測定した。結果を図4、図7、図9〜図14および表1に示す。
【0042】
1MのNa2SO4電解液中のM−CuS−130の電気化学安定性を調べるため、−0.25V〜2.5Vの電位領域を電位掃引速度100mV/sにて10000回掃引した後のC−V曲線を測定した。結果を図15に示す。
【0043】
M−CuS−130の充放電特性および電気化学インピーダンスを、CHI 760 C電気化学ワークステーションを用いて、測定した。0.5mA/cm2〜3mA/cm2の異なる電流密度に対して、充放電特性を測定した。周波数1MHz〜1mHzの範囲について電気化学インピーダンスを測定し、実数のインピーダンスZ’rおよび虚数のインピーダンスZ”imをプロットした。結果を図16、図17および表2に示す。
【実施例3】
【0044】
実施例3は、テンプレートとしてSBA−15−150を用いた以外、実施例1と同様である。実施例3で得られた多孔性硫化銅をM−CuS−150と称する。
【0045】
M−CuS−150のXRDパターン、TEM像、HRTEM像、SEM像、窒素吸脱着等温線、BJH細孔径分布、孔容量、UV−visスペクトル、光学バンドギャップおよびC−V曲線を、実施例1と同様に観察・測定した。結果を図4〜図7、図9〜図14および表1に示す。
【0046】
また、M−CuS−150の元素マッピング(EDXスペクトル)を、EDXを備えたFE−SEMにより測定した。結果を図8に示す。
【0047】
次に、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の観察・測定結果について詳述する。
【0048】
図4は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150のXRDパターンを示す図である。
【0049】
いずれのXRDパターンも1つのシャープなピークと2つの強度の低いピークとを有した。これらのピークは、p6m対称性を有する六方晶配列した構造に特有の(100)、(110)および(200)面の回折ピークに相当する。このことから、実施例1〜3で得られたM−CuS−100、130および150は、テンプレートであるSBA−15の構造の完全なレプリカであり、SBA−15と同様に規則的に配列した多孔性材料であることが分かった。
【0050】
図4の挿入図は、実施例2のM−CuS−130の高角XRDパターンを示す。このXRDパターンは、六方晶銅藍相の硫化銅のXRDパターン(JCPDS No.06−0464)における回折ピークに良好に一致した。以上より、本発明の製造方法により、空間群P63/mmcを有する硫化銅(銅藍CuS)からなる多孔性材料が得られることが確認された。
【0051】
第一銅イオンの形成は、硫化物イオンによるCu(II)の還元に起因している。このCu(II)の還元により硫化物イオンは硫黄へと酸化される。したがって、本発明の製造方法により、構造的および組成的にもCuSと異なるCuxSの生成が想定され得るが、図4のXRDパターンによれば、Cu2SまたはCu2O等の不純物による回折ピークは一切見られなかった。以上より、本発明の製造方法により、空間群P63/mmcを有する硫化銅単体からなる多孔性材料が得られることが確認された。
【0052】
さらに、例えば、M−CuS−100のブロードな回折ピークは、生成されたM−CuS粒子がナノスケールであることを示唆している。Schererの式により(100)面の回折ピークから算出した粒径は、5.48nmであった。
【0053】
図5は、実施例1のM−CuS−100(A)および実施例3のM−CuS−150(B)のTEM像を示す図である。
【0054】
図5の挿入図はいずれも、配列したチャネルに相当する回折パターン(SAED)である。M−CuS−100および150のいずれも、メゾスコピックな領域において、多孔性シリカテンプレートであるSBA−15に一致する良好に配列した多孔性構造を示した。詳細には、M−CuS−100および150のいずれも、線状の多孔性チャネルが良好に配列している様子を示す。
【0055】
図6は、実施例1のM−CuS−100(A)および実施例3のM−CuS−150(B)のHRTEM像を示す図である。
【0056】
M−CuS−100および150のいずれも、粒子内において多数のメソチャネルが互いに結合し、良好に配列していることを示す。また、図6(B)から算出した格子フリンジはd=0.315nmであった。これらの結果は、図4のXRD回折の結果をサポートしており、本発明による製造方法により、良好に配列した多孔性材料が得られることが示された。なお、図示しないが、M−CuS−130についても同様のTEM像およびHRTEM像が得られた。
【0057】
図7は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150のSEM像を示す図である。
【0058】
図7(A)〜(B)はM−CuS−100のSEM像であり、図7(C)〜(D)はM−CuS−130のSEM像であり、図7(E)〜(F)はM−CuS−150のSEM像である。
【0059】
M−CuS−100、130および150のいずれも、多孔性シリカテンプレートであるSBA−15のレプリカであることを確認した。また、図7によれば、CuSナノ粒子がSBA−15のメゾスコピックなチャネル内を完全に充填した結果、ロッド状のCuSが良好に配列している様子を示す。以上より、本発明の製造方法により、SBA−15のレプリカであるロッド状の多孔性材料が得られることが示された。
【0060】
図8は、実施例3のM−CuS−150のEDXスペクトルを示す図である。
【0061】
EDXスペクトルは、CuおよびSに相当する明瞭なピークを示した。このことから、ステップS230のSBA−15を除去後、生成物には残留するシリカはなく、CuS単相が得られたことが確認された。この結果は、図4のXRDパターンの結果と同様であった。
【0062】
図8の挿入図はCuおよびSの元素マッピングを示す。コントラストの明るく示される部分が、各元素が存在していることを示す。元素マッピングによれば、CuおよびSは、生成物全体に均一に分散していることが分かった。
【0063】
図9は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の窒素吸脱着等温線を示す図である。
図10は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の細孔径分布を示す図である。
【0064】
いずれの窒素吸脱着等温線も、IUPAC分類のIV型であり、H1型ヒステリシスループを示した。このことから、本発明の製造方法により、メソ多孔性材料が得られることが確認された。
【0065】
図10によれば、M−CuS−100、130および150の細孔径が、4nm〜8.5nmの範囲に分布していることが分かる。
【0066】
図9の各窒素吸脱着等温線から比表面積(BET表面積)、比孔容量および孔径を算出した。それらの結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1によれば、BET表面積は、M−CuS−100、M−CuS−130およびM−CuS−150の順に増大した。すなわち、M−CuSのBET法面積は、テンプレートであるSBA−15の製造におけるエージング温度の増大につれて増大した。一方、比孔容量および孔径は、M−CuS−130においてもっとも大きかった。
【0069】
以上より、製造時に適宜SBA−15を選択することによって、得られるM−CuSの組織的特性(比表面積、比孔容量および孔径)を制御することができることが示された。
【0070】
図11は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150のUV−visスペクトルを示す図である。
【0071】
いずれのUV−visスペクトルも約600nm付近に顕著な吸収端を示した。これは、価電子帯から非占有状態へのバンド間遷移をする銅藍(CuS)の形成に起因する基礎吸収端である。硫化銅は、カルコサイト(Cu2S)から硫黄リッチな銅藍(CuS)まで多くの安定な相を有するが、各安定な相は、特有の光学特性を有することが分かっている。例えば、銅藍(CuS)は近赤外領域(約920nm)に特徴的な広い吸収帯を有するが、この吸収帯は、硫化銅中の硫黄含有量が増大するにつれて減少する。以上より、本発明の製造方法により得られた多孔性材料が、CuSで表される銅藍であることが確認された。
【0072】
図12は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の(αhν)2とhνとの関係を示す図である。
【0073】
図12は、M−CuSの光学バンドギャップを算出するために、図11より(αhν)2とhνとの関係をプロットした図である。光学バンドギャップは、直接遷移の場合には(αhν)2とhν(h:プランク定数、ν:周波数)との関係から、あるいは、許容間接遷移の場合には(αhν)1/2とhνとの関係との関係から算出される。図12によれば、(αhν)2とhνとの関係において、可視領域の高エネルギー側の主要な部分が、直線で良好にフィッティングされた。このことから、M−CuSの遷移の種類は直接遷移であることが分かった。M−CuS−100、130および150のそれぞれのプロットにフィッティングした直線から得られる光学バンドギャップ(eV)は、2.08、2.06および2.04であった。これは、バルク状のCuSの光学バンドギャップ(1.85eV)よりもわずかに大きな値であったが、実質的に同様の光学バンドギャップであった。なお、この光学バンドギャップにおける差は、サイズ効果によるものである。このことからも、本発明の製造方法により得られた多孔性材料が、CuSであることが確認された。
【0074】
以上、図4〜図12より、本発明の製造方法により、硫化銅からなり、SBA−15多孔性シリカをテンプレートとして用いて得られるレプリカであり、空間群P63/mmcを有する、多孔性硫化銅が得られることが示された。
【0075】
図13は、実施例1〜3のM−CuS−100(a)、130(b)および150(c)のCV曲線を示す図である。
【0076】
いずれのCV曲線も一対の酸化還元ピークを明瞭に示した。このことは、本発明によるM−CuSはファラデー過程による酸化還元を示し、測定された容量が、可逆な電気化学反応によって生じる疑似容量によることを示唆する。以上より、本発明の製造方法によるM−CuSは、シュードキャパシタに適用可能であることが分かった。中でも、M−CuS−130のCV曲線(b)下の領域が、M−CuS−100(a)および150(c)のそれよりも増大していることから、M−CuS−130の比容量がもっとも増大したことを示している。すなわち、M−CuS−130を電極としたスーパーキャパシタは、M−CuS−100および150のそれよりも著しく高い比容量を示し、シュードキャパシタにより好適であることが分かった。
【0077】
このようなM−CuS−130における高い比容量は、高い表面積および大きな孔径に起因しており、これにより、M−CuSのチャネル内にて高速でイオン輸送パスを提供することができる。
【0078】
図14は、実施例1〜3のM−CuS−100、130および150の比容量、比表面積および孔径の関係を示す図である。
【0079】
図14によれば、比表面積および孔径が増大するにつれて、比容量も増大することが分かる。M−CuS−100、130および150の電位走査速度2mV/sにおける最大比容量(F/g)は、それぞれ、282.14、382.14および339.28であった。この結果は、図13のM−CuS−130のCV曲線(b)が、他のCV曲線(a)および(c)と比べて、CV曲線下に広い領域を示し、より顕著なキャパシタ挙動を示したことに一致する。
【0080】
図15は、実施例2のM−CuS−130の電気化学安定性を示す図である。
【0081】
図15によれば、10000回掃引後のM−CuS−130のCV曲線と、1回掃引後のそれとは大きな変化を示さなかった。具体的には、10000回後のM−CuS−130の比容量は、1回目のそれよりわずかに減少しているものの、1回目のそれの93%にとどまっていた。このことから、本発明の製造方法によるM−CuSは、シュードキャパシタ用の電極に適用した際に電気化学安定性を有しており、耐久性に優れていることが示された。
【0082】
図16は、実施例2のM−CuS−130のクロノポテンショグラムを示す図である。
【0083】
充放電時、曲線は2つの変動範囲を示す。具体的には、電極/電解液の界面における電荷分離に起因する、電位軸に平行な電位(−0.25V〜−0.15V)対時間の直線状の変動、および、電位(−0.15V〜0.25V)対時間のスロープ状の変動の2つの変動範囲である。このような変動範囲は、電極/電解液の界面において電気化学的な酸化還元反応による典型的な疑似容量の挙動である。例えば、3mA/cm2の高電流密度を用いた場合であっても、理想的なキャパシタ挙動である三角形状の対称的な充放電特性が得られた。このことから、M−CuS−130は、極めて小さいオーミックドロップを伴い電荷を高速で伝播させることが示された。
【0084】
さらに、放電曲線の形状は、電気二重層キャパシタではなく、シュードキャパシタの特性を示しており、図13のCV曲線の結果に一致した。放電曲線における電位減少から、M−CuS−130の種々の電流密度に対する比エネルギー(SE)、比出力(SP)およびクーロン効率(%η)を算出した。結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
表2より、電流密度の増加に伴い、比出力は増加し、比エネルギーは減少することが分かった。また、クーロン効率は、電流密度に依存しないことが確認された。
【0087】
図17は、実施例2のM−CuS−130電極のNyquistプロットを示す図である。
【0088】
図17によれば、高周波領域に対して半球と、低周波数領域に対して直線とからなるNyquistプロットが得られた。半球の始まり部分におけるZ’rの切片が0でない理由は、電解液の電気抵抗Re(平均1.02オームcm2)に起因することに留意されたい。半球の直径は、ファラデー抵抗と呼ばれる界面電荷輸送抵抗(Rct)に相当し、シュードキャパシタの出力密度に対する制限ファクタとなり得る。M−CuS−130のファラデー抵抗Rctは、14.02オームcm2であり、このような低いファラデー抵抗は、シュードキャパシタによって生成される出力密度を顕著に増大させることができる。このことからも、本発明による製造方法によるM−CuSは、シュードキャパシタ用の電極に好適である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明による多孔性硫化銅は、SBA−15のレプリカであるので、SBA−15の形状を反映した高い比表面積および比孔容量を有する。したがって、本発明による多孔性硫化銅は、酸化還元反応に基づく優れた比容量(疑似容量)を示す。このような多孔性硫化銅は、シュードキャパシタ用の電極材料に適用できる。
【符号の説明】
【0090】
100 多孔性硫化銅(M−CuS)
110 ロッド
120 二次元六方晶
300 SBA−15
310 前駆体溶液
320 硫化銅
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0091】
【非特許文献1】Zoran Stevicら,Journal of Power Sources,160(2006),1511−1517
【非特許文献2】Paul V.Braunら,J.Am.Chem.Soc.,1999,121,7302−7309
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化銅からなり、
SBA−15多孔性シリカをテンプレートとして用いて得られるレプリカであり、
空間群P63/mmcを有する、多孔性硫化銅。
【請求項2】
前記硫化銅はロッド状であり、互いに結合している、請求項1に記載の多孔性硫化銅。
【請求項3】
前記硫化銅は銅藍である、請求項1に記載の多孔性硫化銅。
【請求項4】
前記多孔性硫化銅の比表面積(m2/g)、比孔容量(cc/g)および孔径(nm)は、それぞれ、35〜200、0.2〜0.4および4〜10の範囲である、請求項1に記載の多孔性硫化銅。
【請求項5】
前記多孔性硫化銅の比表面積(m2/g)、比孔容量(cc/g)および孔径(nm)は、それぞれ、35〜75、0.2〜0.3および4〜8.5の範囲である、請求項4に記載の多孔性硫化銅。
【請求項6】
前記多孔性硫化銅は、ファラデー過程による酸化還元反応を示す、請求項1に記載の多孔性硫化銅。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の多孔性硫化銅を製造する方法であって、
SBA−15と、銅前駆体および硫黄前駆体を含有する前駆体溶液とを混合するステップと、
前記混合するステップで得られた混合物を加熱するステップと、
前記加熱するステップで得られた複合体を酸またはアルカリ処理し、前記複合体から前記SBA−15を除去するステップと
を包含し、
前記銅前駆体は、酢酸銅、硝酸銅、硫化銅、塩化銅およびグルコン酸銅からなる群から選択され、
前記硫黄前駆体は、チオ尿素、硫化ナトリウム(Na2S)、C2H5NSおよび硫化水素からなる群から選択される、方法。
【請求項8】
前記加熱するステップは、前記混合物を50℃〜100℃の第1の温度範囲で2時間〜6時間、次いで、前記第1の温度範囲より高い160℃〜200℃の温度範囲で2時間〜6時間加熱する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記加熱するステップに続いて、前記加熱するステップで得られた前記生成物に前記前駆体溶液を添加し、加熱するステップをさらに包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記酸またはアルカリ処理し、除去するステップは、HFまたはNaOHを用いる、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載の多孔性硫化銅を含むシュードキャパシタ用電極材料。
【請求項1】
硫化銅からなり、
SBA−15多孔性シリカをテンプレートとして用いて得られるレプリカであり、
空間群P63/mmcを有する、多孔性硫化銅。
【請求項2】
前記硫化銅はロッド状であり、互いに結合している、請求項1に記載の多孔性硫化銅。
【請求項3】
前記硫化銅は銅藍である、請求項1に記載の多孔性硫化銅。
【請求項4】
前記多孔性硫化銅の比表面積(m2/g)、比孔容量(cc/g)および孔径(nm)は、それぞれ、35〜200、0.2〜0.4および4〜10の範囲である、請求項1に記載の多孔性硫化銅。
【請求項5】
前記多孔性硫化銅の比表面積(m2/g)、比孔容量(cc/g)および孔径(nm)は、それぞれ、35〜75、0.2〜0.3および4〜8.5の範囲である、請求項4に記載の多孔性硫化銅。
【請求項6】
前記多孔性硫化銅は、ファラデー過程による酸化還元反応を示す、請求項1に記載の多孔性硫化銅。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の多孔性硫化銅を製造する方法であって、
SBA−15と、銅前駆体および硫黄前駆体を含有する前駆体溶液とを混合するステップと、
前記混合するステップで得られた混合物を加熱するステップと、
前記加熱するステップで得られた複合体を酸またはアルカリ処理し、前記複合体から前記SBA−15を除去するステップと
を包含し、
前記銅前駆体は、酢酸銅、硝酸銅、硫化銅、塩化銅およびグルコン酸銅からなる群から選択され、
前記硫黄前駆体は、チオ尿素、硫化ナトリウム(Na2S)、C2H5NSおよび硫化水素からなる群から選択される、方法。
【請求項8】
前記加熱するステップは、前記混合物を50℃〜100℃の第1の温度範囲で2時間〜6時間、次いで、前記第1の温度範囲より高い160℃〜200℃の温度範囲で2時間〜6時間加熱する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記加熱するステップに続いて、前記加熱するステップで得られた前記生成物に前記前駆体溶液を添加し、加熱するステップをさらに包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記酸またはアルカリ処理し、除去するステップは、HFまたはNaOHを用いる、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載の多孔性硫化銅を含むシュードキャパシタ用電極材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−250890(P2012−250890A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126344(P2011−126344)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
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