説明

多孔性高分子フィルム

【課題】有機無機複合多孔性セパレータ(膜)及びその製造方法、上記有機無機複合多孔性セパレータ(膜)を備えた電気化学素子を提供する。
【解決手段】(a)ポリオレフィン系のフィルム基材、及び(b)前記基材の表面及び前記基材に存在する気孔部の一部よりなる群から選ばれた1種以上の領域に無機物粒子及び特定のバインダー高分子の混合物で塗布された活性層とを備えてなり、前記活性層が、バインダー高分子により無機物粒子同士が結び付き、無機物粒子同士間における空き空間(Interstitial Volume:インタースティシャル・ボリューム)により気孔構造が形成された、多孔性高分子フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来のポリオレフィン系のフィルムに比べて優れた熱的安全性、電気化学的安全性、優れたリチウムイオン伝導度、及び電解液の含浸率などを有する新規な多孔性高分子フィルム、及び該フィルムを用いることにより、安全性の確保と性能アップを同時に図る電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年に至り、エネルギー保存技術への関心がますます高まりつつある。携帯電話、カメラ付きビデオ、ノート型パソコン、及びPC、さらには、電気自動車のエネルギーへまでその適用分野が広がるに伴い、電池の研究・開発に注がれる努力が次第に具体化されてきている。なお、電気化学素子は、これの点で最も注目される分野であり、中でも、充放電可能な二次電池の開発に関心が寄せられている。
【0003】
現在適用されている二次電池のうち1990年代初めに開発されたリチウム二次電池は、水溶液電解液を用いるニッケル・マンガン、ニッケル・カドミウム、硫酸・鉛などの従来型電池に比べて動作電圧が高く、しかもエネルギー密度が高いというメリットのため脚光を浴びてきている。しかしながら、上記リチウム二次電池は、有機電解液を用いることによる発火及び爆発などの安全問題を抱えており、またその製造に手間がかかるという短所がある。最近のリチウムイオン高分子電池は、上記のようなリチウム二次イオン電池の短所を改善し、次世代電池の一つとして挙げられているが、未だ電池の容量がリチウム二次イオン電池のそれに比べて相対的に低く、特に低温での放電容量が不十分であるため、それに対する改善が急がれている。
【0004】
リチウムイオン電池は、隙間が存在する結晶構造の正極活物質(例えば、LiCoO)と負極活物質(例えば、グラファイト)をそれぞれ、集電体であるアルミニウム箔及び銅箔上に塗布して両電極を作製し、両電極の間にセパレータを介在した後、電解液を注入して製造する。電池の充電の際には、正極活物質の結晶中に挿入されているリチウムが脱離して負極の負極活物質の結晶構造中へ入り、電池の放電の際には、これと逆に、負極活物質中に挿入されているリチウムが脱離して正極の正極活物質の結晶構造中へ挿入される。このように、充放電に伴いリチウムイオンが正極と負極との間を移動しながらエネルギーを伝達することから、ロッキングチェア電池とも呼ばれている。
【0005】
この種の電池は多くの会社において生産中にあるが、これらの安全特性は相異なる様子を示している。電池の安全性の評価及び安全性の確保は最も重要に考慮すべき事項である。特に、電池の誤動作によりユーザが傷害を被ることは決してあってはならなく、ゆえに、リチウム二次電池の安全規格は、電池内の発火及び発煙などを厳しく規制している。
【0006】
このような電池の安全性問題を解決すべく多くの解決方法が提案されてきているが、特に外部からの衝撃による強制的な内部短絡に起因する電池の発火という問題については、未だにこれといった解決策が提案されていない実情である。
【0007】
近年、電池の内部における樹枝状結晶の成長に起因する内部短絡を防止する目的から、ポリオレフィン系のセパレータに炭酸カルシウム、シリカなどの無機物層を塗布した技術が提案されている(例えば、下記の特許文献1参照)。
しかしながら、上記の通常の無機物粒子の使用によっては、外部からの衝撃による内部短絡の際、これを防止するメカニズムがないため、実際には安全性の向上に大きな効果を奏し得ない。また、挙げられた無機物層についても、その膜厚、気孔径、気孔度などが特に設定されていないのみならず、無機物粒子がリチウムイオン伝達機能を持たないため、顕著な電池の性能低下は避けられない。
【特許文献1】アメリカ特許第6,432,586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、(1)ポリオレフィン系のセパレータ基材、(2)無機物粒子、及び(3)バインダー高分子を備えてなる有機無機複合多孔性セパレータを用いれば、従来のポリオレフィン系のセパレータに見られる脆弱な熱的安全性を向上することができ、且つ、ポリオレフィン系のセパレータ基材のみならず、上記セパレータ基材上に塗布された無機物粒子とバインダー高分子の活性層に存在する両気孔構造により液体電解液が入り込める空間が増大し、リチウムイオン伝導度及び電解液の含浸率が上がり、この結果、上記有機無機複合多孔性セパレータをセパレータとして用いる電気化学素子の性能及び安全性を同時に高めることができるということを知見した。
【0009】
また、上記活性層成分である無機物粒子として、高誘電率に起因する圧電性を示す無機物粒子及び/またはリチウムイオン伝導能を有する無機物粒子を主な構成成分として用いれば、外部からの衝撃によって電池内部のセパレータが破裂しても活性層中の無機物粒子により両電極の完全な短絡の発生が抑えられるのみならず、上記無機物粒子のリチウムイオン伝導能及び/または圧電性に起因する電流の流れで電池内の電圧を徐々に下げることによって、電池の爆発といった安全性の低下問題を根本的に解決することができるということを知見した。
そこで、本発明は、上記有機無機複合多孔性セパレータ(膜)及びその製造方法、上記有機無機複合多孔性セパレータ(膜)を備えた電気化学素子を提供するところにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、有機無機複合多孔性セパレータであって、(a)ポリオレフィン系のセパレータ基材と、及び(b)前記基材の表面及び前記基材に存在する気孔部の一部よりなる群から選ばれた一種以上の領域に無機物粒子及びバインダー高分子の混合物で塗布された活性層とを備えてなり、
前記活性層が、バインダー高分子により無機物粒子同士が結び付き固定され、無機物粒子同士間における空き空間(Interstitial Volume:インタースティシャル・ボリューム)により形成された気孔構造を備えてなることを特徴とする有機無機複合多孔性セパレータ及びこれを備える電気化学素子、好ましくは、リチウム二次電池を提供する。
【0011】
また、本発明は、(a)バインダー高分子を溶媒に溶解させて高分子溶液を得る段階と、(b)無機物粒子を前記段階(a)において得られた高分子溶液に加えて混合する段階と、(c)ポリオレフィン系のセパレータ基材の表面及び前記基材中の気孔部の一部よりなる群から選ばれた一種以上の領域に前記段階(b)において得られた混合物を塗布し乾燥する段階と、を含んでなる有機無機複合多孔性セパレータの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
以上で説明した本発明による有機無機複合多孔性セパレータは、気孔部を有するポリオレフィン系のセパレータ基材上にバインダー高分子により無機物粒子同士が結び付き固定され、無機物粒子同士間における空き空間(Interstitial Volume:インタースティシャル・ボリューム)により形成された耐熱性マイクロ単位の気孔構造が活性層に導入されることによって、電池の熱的、電気化学的安全性、及び性能の向上を同時に図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳述する。
【0014】
本発明は、従来の通常的な電池用セパレータとして用いられるポリオレフィン系のセパレータに比べて卓越した熱的安全性、電気化学的安全性、優れたリチウムイオン伝導度、及び電解液の含浸率などを有する新規な有機無機複合多孔性セパレータを提供することを最大の特徴とする。
【0015】
前記有機無機複合多孔性セパレータは、ポリオレフィン系のセパレータ基材上に無機物粒子とバインダー高分子からなる活性層を塗布してなり、このとき、セパレータ基材そのものに含まれた気孔構造と共に、活性層成分の無機物粒子同士間における空き空間(Interstitial Volume:インタースティシャル・ボリューム)により形成された均一な気孔構造によりセパレータとして用いることができる。また、バインダー高分子成分として液体電解液の含浸時にゲル化可能な高分子を用いる場合、電解質としても用いることができる。
【0016】
前記有機無機複合多孔性セパレータの特徴について詳述すれば、下記の通りである。
【0017】
1)従来のポリオレフィン系のセパレータ上に無機物粒子、または無機物粒子とバインダー高分子が適用された複合セパレータは、セパレータ中に気孔構造が存在しないか、または存在するとしても不均一であり、且つÅ単位の気孔径及び気孔構造となるため、リチウムイオンを通させるスペーサの役割を充実に果たすことができなかった(図3参照)。
また、気孔構造を作るために人為的な方法を用いたが、その大半は、可塑剤の抽出などを通じてゲル状高分子電解質中に微細気孔構造を形成することであり、これらの方法によれば、電池の性能劣化が必然として起こっていた。
【0018】
これに対し、本発明による有機無機複合多孔性セパレータは、図2及び図3に示すように、活性層及びポリオレフィン系のセパレータ基材の両方ともに均一な気孔構造が多数形成されており、これらの気孔を通してリチウムイオンの円滑な移動が行われ、多量の電解液が入り込んで高い含浸率を示し得ることから、電池の性能向上をも図ることができる。
【0019】
2)また、従来のポリオレフィン系のセパレータは、融点が120〜140℃であるために高温において熱収縮が起こるが(図5a参照)、上記無機物粒子及びバインダー高分子からなる有機無機複合多孔性セパレータは、無機物粒子の耐熱性により高温における熱収縮が起こることがない(図5b参照)。
従って、上記有機無機複合多孔性セパレータをセパレータとして用いる電気化学素子では、高温、過充電、外部からの衝撃などの内部または外部要因による過酷な条件下でも電池内部においてセパレータが破裂しても有機無機複合多孔性活性層により両電極が完全に短絡し難く、仮に短絡が生じてもその短絡領域が大きく拡大することが抑えられ、電池の安全性の向上が図られる。
【0020】
3)独立フィルム(free standing film)状に製造された後に電極と共に組み立てられる従来のセパレータまたは高分子電解質とは異なり、本発明の有機無機複合多孔性セパレータは、ポリオレフィン系のセパレータ上に直接に塗布して形成されたものであるため、ポリオレフィン系のセパレータ基材の表面の気孔と活性層が絡み合っている状態で存在する。その結果、活性層と多孔性基材が物理的に強固に結合される。このため、壊れやすさなどの機械的な物性の問題が改善できるだけではなく、ポリオレフィン系のセパレータ基材と活性層との間の界面接着力が良好になり、結果として、界面抵抗が減少するという特徴がある。実際に、本発明による有機無機複合多孔性セパレータは、形成された有機無機複合活性層と多孔性基材とが互いに有機的に結合されているだけではなく、上記活性層により多孔性基材中に存在する気孔構造が影響を受けることなくそのまま保持され、しかも、活性層中においても無機物粒子により均一な気孔構造が形成されていることが分かる(図2及び図3参照)。この気孔構造は、後から注入される液体電解質で埋められるが、これにより、無機物粒子同士または無機物粒子とバインダー高分子との間における界面抵抗が格段に減少するという効果が得られる。
【0021】
4)従来の技術として、ポリオレフィン系のセパレータ上に金属酸化物または金属酸化物と高分子とからなる混合層が適用された技術などが提案されたことがある。しかし、該技術の大半は、無機物粒子を支えながら結合するバインダー高分子を用いておらず、上記高分子を用いるとしても多量の高分子を用いることで気孔構造が存在しないか、または不均一な気孔部が主に高分子中に存在していたためリチウムイオンを通らせるセパレータとしての機能を充実に果たし得なかった(図4参照)。また、一緒に用いられる無機物粒子の物性、粒径、これらの均一性、及びこれらにより形成される気孔構造についての正確な認識が全くなかったため、電池の性能低下が招かれていた。即ち、無機物粒子の粒径がやや大きい場合には、同じ固形粉の含量にて製造される有機無機塗布層の厚さが厚めになってしまい機械的な物性が低下し、また、大き過ぎる気孔径により電池の充放電時に内部短絡が起こる確率が高くなる。さらに、上記無機物粒子を基材上に固着する役割を果たすバインダの不在により、最終的に製造されたセパレータの機械的な物性が低下し、また、電池の組立て工程上における実際の適用、例えば、積層工程などを適用することが困難であった。
これに対し、本発明においては、最終的に製造された有機無機複合多孔性セパレータの気孔度及び気孔径を調節することが、電池の性能調節に影響を及ぼす一つの要素であることを認識し、無機物粒子の粒径または無機物粒子とバインダー高分子との組成比などを多様化させ最適化する工程を行って本発明に完成するに至った。実際のところ、ポリオレフィン系のセパレータ上に無機物粒子同士間における空き空間により気孔構造が形成された本発明の有機無機複合多孔性セパレータは、従来のポリオレフィン系のセパレータ中に人為的な気孔構造が形成された従来のセパレータに比べてイオン伝導度が遥かに高いことを、後述する実験例から確認することができた(図4参照)。
さらに、活性層成分として用いられるバインダー高分子が、無機物粒子同士、無機物粒子と耐熱性多孔性基材の表面及び基材中の気孔部の一部を結合し安定的に固定するバインダの役割を充実に果たすことにより、最終的に製造された有機無機複合多孔性セパレータの機械的な物性の低下が防がれる。
【0022】
5)本発明による有機無機複合多孔性セパレータは、セパレータ中の活性層成分である無機物粒子とバインダー高分子の含量を調節することにより優れた接着力を示し得るため、電池の組立工程が容易になるという特徴がある。
【0023】
本発明による有機無機複合多孔性セパレータにおける、ポリオレフィン系のセパレータ基材の表面及び/または基材中の気孔部の一部に形成される活性層成分のうち一つは、当業界において通常用いられる無機物粒子である。この無機物粒子は、その粒子同士間における空き空間(interstitial volume:インタースティシャル・ボリューム)を形成することで微細気孔を形成する役割と、物理的形態が保持できる一種のスペーサの役割とを兼ね備えてなる。さらに、上記無機物粒子は、通常、200℃以上と高温になっても物理的特性が変わらないという特性を有するため、形成された有機無機複合多孔性セパレータが優れた耐熱性を有する。
【0024】
上記無機物粒子は、電気化学的に安定しているものであれば、その使用に特に制限がない。即ち、本発明において使用可能な無機物粒子は、適用される電池の動作電圧の範囲(例えば、Li/Liを基準として0〜5V)において酸化及び/または還元反応が起こらないものであれば、特に制限がない。特に、イオン伝導能を有する無機物粒子を用いる場合、電気化学素子内のイオン伝導度を高めて性能アップを図ることができるので、できる限りイオン伝導度の高いものが好ましい。さらに、上記無機物粒子が高い密度を有する場合、塗布時に分散させ難いのみならず、製造後の電池の重量増大につながるため、できる限り密度の低いものが好ましい。なおかつ、誘電率の高い無機物を用いる場合、液体電解質中の電解質塩、例えば、リチウム塩の解離度の増大に寄与して電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0025】
これらの理由から、上記無機物粒子は、その誘電率定数が5以上、好ましくは10以上の高誘電率の無機物粒子、リチウムイオン伝導能を有する無機物粒子、圧電性を有する無機物粒子、またはこれらの混合体が好ましい。
【0026】
圧電性を有する物質は、常圧では不導体であるが、所定圧力が加えられる場合、内部構造の変化により電気が流れる物性を示すものであって、誘電率定数が100以上の高い誘電率を示すのみならず、所定圧力が加えられて引張または圧縮する際に電荷が発生し、一方の面は正に、他方の面は負にそれぞれ帯電することによって、両面間に電位差が生じる機能を有する無機物粒子である。
【0027】
上記のような特徴を有する無機物粒子を多孔性活性層成分として用いれば、局部的な圧壊、くぎなどによる外部からの衝撃により両電極の内部短絡が起こる場合、セパレータに塗布されている無機物粒子により正極と負極とが直接に接触しないのみならず、図1に示すように、無機物粒子の圧電性により粒子内における電位差が生じ、この結果、両電極間における電子の移動、即ち、微電流が流れることによって、緩やかな電池の電圧減少、及びこれによる安全性アップを図ることができる(図7参照)。従って、通常の無機物粒子が適用されたセパレータは、外部からの衝撃による両電極の内部短絡が発生した時、塗布された無機物粒子により爆発などのような現象を一次的に防ぐことができたが、実際のところ、上記無機物粒子が電気伝導性を持っていない関係から、電池の内部が損傷を受けたまま両電極の電位差が保たれる潜在的な危険状況が続いており、このため、時間が経つにつれ、または引き続く第2次衝撃が加えられる場合、電池の発火または爆発といった危険状況が必然として起こったが、本発明では、かかる問題点を解決することができる。上記圧電性を有する無機物粒子の非制限的な例としては、BaTiO,Pb(Zr,Ti)O(PZT),Pb1−xLaZr1−yTi(PLZT),Pb(Mg1/3Nb2/3)O−PbTiO(PMN−PT),ハフニア(HfO),またはこれらの混合体などが挙げられる。
【0028】
リチウムイオン伝導能を有する無機物粒子とは、リチウム元素を含むが、リチウムを保存せずにリチウムイオンを移動させる機能を有する無機物粒子をいう。リチウムイオン伝導能を有する無機物粒子は、粒子構造の内部に存在する一種の欠陥によりリチウムイオンを伝導・移動することができるので、電池内のリチウムイオン伝導度が高まり、これにより、電池の性能アップを図ることができる。上記リチウムイオン伝導能を有する無機物粒子の非制限的な例としては、リチウムフォスフェイト(LiPO)、リチウムチタンフォスフェイト(LiTi(PO,0<x<2,0<y<3)、リチウムアルミニウムチタンフォスフェイト(LiAlTi(PO,0<x<2,0<y<1,0<z<3)、14LiO−9Al−38TiO−39Pなどの(LiAlTiP)系のガラス(0<x<4,0<y<13)、リチウムランタンチタネート(LiLaTiO,0<x<2,0<y<3)、Li3.25Ge0.250.75などのリチウムゲルマニウムチオフォスフェイト(LiGe,0<x<4,0<y<1,0<z<1,0<w<5)、LiNなどのリチウムニトリド(Li,0<x<4,0<y<2)、LiPO−LiS−SiSなどのSiS系のガラス(LiSi,0<x<3,0<y<2,0<z<4)、LiI−LiS−PなどのP系のガラス(Li,0<x<3,0<y<3,0<z<7)またはこれらの混合物などが挙げられる。
【0029】
誘電率定数が5以上の無機物粒子の非制限的な例としては、SrTiO,SnO,CeO,MgO,NiO,CaO,ZnO,ZrO,Y,Al,TiO、SiC、またはこれらの混合物などが挙げられる。上述した高誘電率を有する無機物粒子と、圧電性を有する無機物粒子と、リチウムイオン伝導能を有する無機物粒子を混合して用いる場合、これらのシナジー効果が倍加できる。
【0030】
本発明の有機無機複合多孔性セパレータは、そのセパレータ基材の活性層の構成成分である無機物粒子の粒径、無機物粒子の含量、及び無機物粒子とバインダー高分子の組成を調節することにより、セパレータ基材に含まれている気孔と共に活性層の気孔構造を形成することができ、且つ、気孔径及び気孔度をも調節することができる。
【0031】
上記無機物粒子の粒径は、特に制限がないが、均一な厚さのセパレータを形成すると共に、適切な空隙率を得るために、できる限り0.001ないし10μmの範囲であることが好ましい。上記無機物粒子の粒径が0.001μm未満であれば、分散性が低下して有機無機複合多孔性セパレータの物性を調節し難く、10μmを超えると、同じ固形粉の含量にて製造される有機無機複合多孔性セパレータが厚くなって機械的な物性が低下してしまう。また、気孔径が大き過ぎると、電池の充放電時に内部短絡が起こる確率が高くなる。
【0032】
上記無機物粒子の含量は、特に制限がないが、有機無機複合多孔性セパレータを構成する無機物粒子とバインダー高分子の混合物100重量%当たり50ないし99重量%の範囲であることが好ましく、特に、60ないし95重量%であることが一層好ましい。上記無機物粒子の含量が50重量%未満であれば、高分子の含量が多過ぎて無機物粒子間に形成される空き空間の減少により気孔径及び気孔度が下がり、最終的には電池の性能劣化が招かれるおそれがある。その一方、上記無機物粒子の含量が99重量%を超えると、高分子の含量が少な過ぎて無機物同士の接着力が弱くなり、最終的には有機無機複合多孔性セパレータの機械的な物性が低下する。
【0033】
本発明による有機無機複合多孔性セパレータにおいて、ポリオレフィン系のセパレータ基材の表面及び/または基材中の気孔部の一部に形成される活性層の成分のうち他の一つは、当業界において通常用いられる高分子である。特に、ガラス転移温度(Tg)ができる限り低いものを用いればよく、好ましくは、−200ないし200℃の範囲である。これは、最終セパレータの柔軟性及び弾性などの機械的な物性を高められるためである。上記高分子は、無機物粒子同士、無機物粒子とセパレータ基材の表面及びセパレータ中の気孔部の一部を結合し安定的に固定するバインダの役割を充実に果たすことにより、最終的に製造される有機無機複合多孔性セパレータの機械的な物性が低下することを防ぐのに寄与する。
【0034】
また、上記バインダー高分子は、必ずしもイオン伝導能を有する必要はないが、イオン伝導能を有する高分子を用いる場合、電気化学素子の性能を一層高めることができる。このため、バインダー高分子は、できる限り誘電率定数が高いものが好ましい。実際に、電解液において、塩の解離度は電解液溶媒の誘電率定数によるため、上記高分子の誘電率定数が高いほど、本発明の電解質における塩の解離度を高めることができる。上記高分子の誘電率定数は、1.0ないし100(測定周波数=1kHz)の範囲にあるものが使用可能であり、特に、10以上であるものが好ましい。
【0035】
上述した機能の他に、本発明のバインダー高分子は、液体電解液の含浸時にゲル化して高い電解液の含浸率を示し得るという特徴を有する。実際に、上記バインダー高分子が優れた電解液の含浸率を有する高分子である場合、電池の組み立て後に注入される電解液は上記高分子にしみ込み、そのしみ込まれた電解液を保有する高分子は、電解質イオン伝導能を有することになる。このため、従来の有機無機複合電解質に比べて電気化学素子の性能を高めることができる。さらに、従来の疎水性ポリオレフィン系のセパレータに比べて電池用電解液への濡れ性が改善されるだけではなく、従来には困難であった電池向け極性電解液の適用も可能になるという長所がある。加えて、上記高分子が電解液の含浸時にゲル化可能な高分子である場合、後から注入される電解液と高分子とが反応しゲル化することにより、ゲル状の有機無機複合電解質を形成することができる。このようにして得られた電解質は、従来のゲル状電解質に比べて製造工程が容易であり、しかも高いイオン伝導度及び電解液の含浸率を示すことから、電池の性能アップを図ることができる。従って、溶解度指数が15ないし45MPa1/2の高分子であることが好ましく、より好ましくは、15ないし25MPa1/2及び30ないし45MPa1/2の範囲である。なぜならば、溶解度指数が15MPa1/2未満であるか、または、45MPa1/2を超える場合、通常の電池向け液体電解液により含浸され難いためである。
【0036】
使用可能なバインダー高分子の非制限的な例としては、ポリビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン、ポリビニリデンフルオライド−トリクロロエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリエチレンオキシド、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロース、プルラン、カルボキシルメチルセルロース、アクリロニトリルスチレンブタジエン共重合体、ポリイミドまたはこれらの混合体などが挙げられる。これらの他にも、上述した特性を含む材料であれば、単独または混合して用いることができる。
【0037】
上記活性層成分である無機物粒子及びバインダー高分子の組成比は、特に制約がないが、10:90ないし99:1重量%の範囲内で調節可能であり、80:20ないし99:1重量%の範囲が好ましい。10:90重量%未満である場合、高分子の含量が多過ぎてしまって無機物粒子間に形成された空き空間が減少し、これは、気孔径及び気孔度を減少させて最終的に電池の性能劣化をもたらし、また、99:1重量%を超える場合、高分子の含量が小さ過ぎてしまって無機物粒子間の接着力を弱化させ、これは、最終的に有機無機複合多孔性セパレータの機械的な物性を低下させる。
【0038】
本発明による有機無機複合多孔性セパレータを構成する活性層は、上述した如き無機物粒子及び高分子の他、通常に知られている添加剤を活性層成分としてさらに含むことができる。
【0039】
本発明による有機無機複合多孔性セパレータにおいて、上記活性層成分である無機物粒子とバインダー高分子との混合物で塗布される基材は、当業界において通常に用いられているポリオレフィン系のセパレータである。上記ポリオレフィン系のセパレータ成分の非制限的な例としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、またはこれらの誘導体などが挙げられる。
【0040】
上記ポリオレフィン系のセパレータ基材の厚さは、特に制限がないが、1ないし100μmの範囲であることが好ましく、5ないし50μmの範囲であることがより好ましい。1μm未満である場合、機械的な物性を保ち難く、100μmを超える場合、抵抗層として作用することがある。
【0041】
ポリオレフィン系のセパレータ基材中の気孔径及び気孔度は、特に制限がないが、気孔度は、10ないし95%の範囲、気孔径は、0.1ないし50μmであることが好ましい。気孔径及び気孔度がそれぞれ0.1μm及び10%未満である場合、抵抗層として作用し、気孔径及び気孔度がそれぞれ50μm及び95%を超える場合、機械的な物性を保ち難くなる。なお、上記ポリオレフィン系のセパレータ基材は、繊維または膜形態であればよい。
【0042】
ポリオレフィン系のセパレータ基材上に無機物粒子とバインダー高分子の混合物を塗布してなる本発明の有機無機複合多孔性セパレータは、上述したように、セパレータ基材自体の中に気孔部が含まれているのみならず、基材上に塗布された無機物粒子同士間における空き空間により基材と活性層の両方ともに気孔構造が形成されることになる。上記有機無機複合多孔性セパレータの気孔径及び気孔度は、主として無機物粒子の粒径によるが、例えば、粒径が1μm以下の無機物粒子を用いる場合に形成される気孔も1μm以下となる。このような気孔構造は、後から注入される電解液により埋められ、該電解液は、イオンを伝導する役割を果たす。このため、上記気孔径及び気孔度は、有機無機複合多孔性セパレータのイオン伝導度を調節する上で重要な要素である。
【0043】
ポリオレフィン系のセパレータ基材上に上記混合物を塗布してなる気孔構造が形成された活性層の厚さは、特に制限がないが、0.01ないし100μmの範囲であることが好ましい。また、上記活性層の気孔径及び気孔度は、それぞれ0.001ないし10μm、及び5ないし95%の範囲であることが好ましいが、必ずしもこれに制限されることではない。
【0044】
本発明の最終の有機無機複合多孔性セパレータの気孔径及び気孔度は、それぞれ0.001ないし10μm、5ないし95%の範囲であることが好ましい。なお、本発明の最終の有機無機複合多孔性セパレータの厚さは、特に制限がないが、電池の性能を考慮して適宜調節すればよく、1ないし100μmの範囲が好ましく、特に、1ないし30μmの範囲がより好ましい。
【0045】
本発明による有機無機複合多孔性セパレータは、当業界における通常の方法により製造すればよく、その一実施の形態を挙げると、(a)バインダー高分子を溶媒に溶解させて高分子溶液を得る段階と、(b)無機物粒子を上記段階(a)において得られた高分子溶液に加えて混合する段階と、(c)ポリオレフィン系のセパレータ基材の表面及び基材中の気孔部の一部よりなる群から選ばれた1種以上の領域に前記段階(b)において得られた無機物粒子と高分子の混合物を塗布し乾燥する段階と、を含む方法がある。
【0046】
先ず、1)高分子を適宜の有機溶媒に溶解させて高分子溶液を得る。
【0047】
溶媒としては、使用したいバインダー高分子と溶解度指数がほぼ同じであり、しかも沸騰点が低いものであることが好ましい。これは、均一な混合と、以降の溶媒の除去を容易にするためである。使用可能な溶媒の非制限的な例としては、アセトン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、シクロヘキサン、水またはこれらの混合体などが挙げられる。
【0048】
2)得られた高分子溶液に無機物粒子を加えて分散させ、無機物粒子及び高分子の混合物を得る。
【0049】
高分子溶液に無機物粒子を加えた後、無機物粒子の破砕を行うことが好ましい。このとき、破砕時間は1ないし20時間であることが好適であり、破砕した無機物粒子の粒度は、上述したように、0.001ないし10μmであることが好ましい。破砕方法としては、通常の方法を採用すればよく、特に、ボールミル法であることが好ましい。
【0050】
無機物粒子及び高分子よりなる混合物の組成には特に制限がなく、これにより、最終的に製造される本発明の有機無機複合多孔性セパレター膜の厚さ、気孔径及び気孔度を調節することができる。
【0051】
即ち、高分子(P)に対する無機物粒子(I)の比(I/P)が高くなるほど、本発明の有機無機複合多孔性セパレータの気孔度が高くなり、これは、同じ固形粉含量(無機物粒子の重量+バインダー高分子の重量)において有機無機複合多孔性セパレータが厚くなる結果を招く。また、無機物粒子同士で気孔を形成する可能性が高くなって気孔径が大きくなるが、このとき、無機物粒子の粒径が大きくなるほど無機物間の間隔(interstitial distance)が大きくなるため、気孔径が大きくなる。
【0052】
3)得られた無機物粒子及び高分子の混合物を、用意したポリオレフィン系のセパレータ基材上に塗布し乾燥することにより、本発明の有機無機複合多孔性セパレータが得られる。
【0053】
このとき、無機物粒子及び高分子の混合物をポリオレフィン系のセパレータ基材上に塗布する方法としては、当業界における通常の塗布法を用いればよく、例えば、ディップコート、ダイコート、ロールコート、コンマコートまたはこれらを組み合わせた方式など各種の方式を用いればよい。また、無機物粒子及び高分子の混合物をポリオレフィン系のセパレータ基材上に塗布するとき、上記ポリオレフィン系のセパレータ基材の両面に塗布を行っても良く、片面にのみ選択的に行っても良い。
【0054】
このようにして得られた本発明の有機無機複合多孔性セパレータは、電気化学素子、好ましくは、リチウム二次電池のセパレータとして用いることができる。特に、活性層成分として液体電解液の含浸時にゲル化可能な高分子を用いる場合、上記セパレータを用いて電池を組み立てた後、注入された電解液と高分子が反応してゲル化することによりゲル状の有機無機複合電解質を形成することができる。
【0055】
本発明のゲル状の有機無機複合電解質は、従来の技術によるゲル状の高分子電解質に比べて製造工程が容易であるのみならず、マイクロ単位の気孔構造により注入される液体電解液が入れる空間が多数存在することで高いイオン伝導度及び電解液の含浸率を示すため、電池の性能アップを図ることができる。
【0056】
このとき、本発明の有機無機複合多孔性セパレータを電気化学素子、好ましくは、リチウム二次電池のセパレータとして用いる場合、セパレータ基材のみならず、多孔性形態の活性層を通してリチウムイオンが伝達でき、しかも外部からの衝撃により内部短絡が生じた場合には、上述した安全性の向上といった効果を奏し得る。
【0057】
さらに、本発明は、正極と、負極と、上記正極と負極との間に挟まれる本発明による有機無機複合多孔性セパレータと、電解液と、を備える電気化学素子を提供する。
【0058】
上記電気化学素子は、電気化学反応を行うあらゆる素子を含み、その具体例としては、あらゆる種類の一次電池、二次電池、燃料電池,太陽電池またはキャパシタなどがある。
特に、上記二次電池のうちリチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池またはリチウムイオンポリマー二次電池などを含むリチウム二次電池が好適に挙げられる。
【0059】
電気化学素子は、当業界における通常の方法に従い製造することができ、その一実施の形態を挙げると、正極と負極との間に有機無機複合多孔性セパレータを挟んで組み立てた後、電解液を注入することにより製造可能である。
【0060】
有機無機複合多孔性セパレータと共に適用される電極としては、特に制限がなく、正極活物質は、従来の電気化学素子の正極に用いられる通常の正極活物質が使用可能であり、その非制限的な例としては、リチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物またはこれらの組み合わせにより形成される複合酸化物などのリチウム吸着物質などが挙げられる。また、負極活物質は、従来の電気化学素子の負極に使用可能な通常の負極活物質が使用可能であり、その比制限的な例としては、リチウム金属またはリチウム合金、炭素、石油コークス、活性炭素、グラファイトまたはその他の炭素類などのリチウム吸着物質などが挙げられる。両電極は、上述した両電極活物質をそれぞれ正極集電体、即ち、アルミニウム、ニッケルまたはこれらの組合せにより製造される箔、及び負極集電体、即ち、銅、金、ニッケルまたは銅合金またはこれらの組合せにより製造される箔に付着させて得る。
【0061】
本発明において使用可能な電解液は、Aなどの構造の塩であって、AはLi,Na,Kなどのアルカリ金属正イオンまたはこれらの組合せよりなるイオンを含み、Bは、PF,BF,Cl,Br,I,ClO,AsF,CHCO,CFSO,N(CFSO,C(CFSOなどの負イオンまたはこれらの組合せよりなるイオン含有塩がプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ−ブチロラクトンまたはこれらの混合物よりなる有機溶媒に溶解及び解離されたものが好ましい。
【0062】
上記電解液の注入は、最終製品の製造工程及び求められる物性に応じて、電池製造工程のうち適宜な段階において行えばよい。即ち、電池の組み立て前または電池の組み立ての最終段階などにおいて注入すればよい。
【0063】
本発明の有機無機複合多孔性セパレータを電池に適用する工程としては、通常の工程である巻き取りの他にも、セパレータと電極の積層及び折り畳み工程が可能である。
【0064】
本発明の有機無機複合多孔性セパレータを積層工程により電池に適用する場合、活性層中の高分子の優れた接着力特性により組み立て易いという長所がある。このとき、主成分である無機物粒子及び高分子の含量または高分子の物性により接着力特性が調節でき、特に、高分子が極性を示すほど、且つ、ガラス転移温度(Tg)または溶融温度(Tm)が低いほど、本発明の有機無機複合多孔性セパレータと電極との間の接着が良好に行われる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明への理解の一助となるために本発明の好適な実施例を挙げるが、下記の実施例は単に本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲が下記の実施例に限定されることはない。
【0066】
参照例:有機無機複合システムのイオン伝導度評価
本発明の有機無機複合システムに用いられる無機物粒子とバインダー高分子の組成の変化によるイオン伝導度の変化を観察した。
【0067】
無機物粒子とバインダー高分子としては、それぞれBaTiOとPVdF−CTFEを用いた。これらの組成比(無機物粒子:バインダー高分子の重量%)を0:100〜70:30の範囲で様々に変化させて有機無機複合多孔性セパレータを作製し、該セパレータを1Mのリチウムヘキサフルオロフォスフェイト(LiPF)が溶解されているエチレンカーボネート/プロピレンカーボネート/ジエチルカーボネート(EC/PC/DEC=30:20:50重量%)系の電解液に含浸させた。その後、電解液により含浸されたセパレータをメトローム 712(Metrohm 712)機器を使ってイオン伝導度を測定した。このとき、測定温度は25℃であった。
【0068】
図4に示すように、無機物粒子の含量が多くなるほどイオン伝導度が向上することが分かり、特に、無機物粒子を50重量%以上にした場合、イオン伝導度が顕著に向上することが確認できた。
【0069】
従って、無機物粒子と高分子からなるが、高分子の含量が無機物粒子の含量より多く含まれてなる従来のセパレータに比べて、本発明による有機無機複合多孔性セパレータのイオン伝導度が遥かに高いとのことが類推できる。
【0070】
[実施例1〜7]
実施例1
1−1.有機無機複合多孔性セパレータ(PVdF−CTFE/BaTiO)の製造
ポリビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン共重合体(PVdF−CTFE)高分子をアセトンに約5重量%加えた後、50℃の温度において約12時間以上溶解させて高分子溶液を得た。この高分子溶液にBaTiO粉末をBaTiO/PVdF−CTFE=90/10(重量%)になるように加え、12時間以上ボールミル法を用いてBaTiO粉末を破砕及び分散させてスラリーを得た。このようにして得られたスラリーのBaTiO粒径は、ボールミル法に用いられるビーズのサイズ(粒度)、及びボールミルの適用時間に応じて制御できるが、本実施例1では、約400nmにて粉砕してスラリーを得た。このようにして得られたスラリーをディップ・コート法を用いて厚さ18μmほどのポリエチレンセパレータ(気孔度45%)に約3μmの厚さにて塗布した。その後、気孔率測定装置を用いて測定したところ、ポリエチレンセパレータ基材に塗布された活性層中の気孔径及び気孔度はそれぞれ0.5μm及び58%であったし、その構造図は、図1に示すとおりである。
【0071】
1−2.リチウム二次電池の製造
(正極の製造)
正極活物質としてLiCoO94重量%、導電材としてカーボンブラック3重量%、結合剤としてPVdF3重量%を溶剤であるN−メチル−2ピロリドン(NMP)に加え、正極混合物スラリーを得た。この正極混合物スラリーを厚さが約20μmの正極集電体としてのアルミニウム薄膜に塗布し乾燥して正極を得、この正極に対してロールプレスを行った。
【0072】
(負極の製造)
負極活物質として炭素粉末、結合剤としてポリビニリデンフルオライド(PVdF)、導電材としてカーボンブラックをそれぞれ96重量%、3重量%及び1重量%に調節して溶剤であるNMPに加え、負極混合物スラリーを得た。この負極混合物スラリーを厚さが10μmの負極集電体としての銅薄膜に塗布し乾燥して負極を得、この負極に対してロールプレスを行った。
【0073】
(電池の製造)
前記正極、負極及び実施例1−1に従い製造された各有機無機複合多孔性セパレータをスタック/折り畳み方式により組み立てた。次いで、このようにして組み立てられた電池に1Mのリチウムヘキサフルオロフォスフェイト(LiPF)が溶解されているエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(EC/EMC=1:2、体積比)系の電解液を注入してリチウム二次電池を得た。
【0074】
実施例2
PVdF−CTFEの代わりにPVdF−HFPを用いて有機無機複合多孔性セパレータを製造した以外は、上記実施例1の方法と同様にして有機無機複合多孔性セパレータ(PVdF−HFP/BaTiO)及びこれを備えるリチウム二次電池を製造した。気孔率測定装置を用いて測定したところ、最終の有機無機複合多孔性セパレータの厚さは3μmであり、気孔径及び気孔度はそれぞれ0.4μm及び56%であった。
【0075】
実施例3
BaTiO粉末の代わりにPMNPTを用いて有機無機複合多孔性セパレータを製造した以外は、上記実施例1の方法と同様にして有機無機複合多孔性セパレータ(PVdF−CTFE/PMNPT)及びこれを備えるリチウム二次電池を製造した。気孔率測定装置を用いて測定したところ、最終の有機無機複合多孔性セパレータの厚さは3μmであり、気孔径及び気孔度はそれぞれ0.5μm及び57%であった。
【0076】
実施例4
BaTiO粉末の代わりにBaTiO:Al=90:10(重量%)の混合粉末を用いて有機無機複合多孔性セパレータを製造した以外は、上記実施例1の方法と同様にして有機無機複合多孔性セパレータ(PVdF−CTFE/BaTiO−Al)及びこれを備えるリチウム二次電池を製造した。気孔率測定装置を用いて測定したところ、最終の有機無機複合多孔性セパレータの厚さは3μmであり、気孔径及び気孔度はそれぞれ0.4μm及び56%であった。
【0077】
実施例5
BaTiO粉末の代わりにLiTi(PO粉末を用い、このLiTi(POの粒径を約500nmに粉砕してスラリーを製造した以外は、上記実施例1の方法と同様にして有機無機複合多孔性セパレータ(PVdF−CTFE/LiTi(PO)及びこれを備えるリチウム二次電池を製造した。気孔率測定装置を用いて測定したところ、ポリエチレンセパレータに塗布された活性層中の気孔径及び気孔度はそれぞれ0.5μm及び58%であった。
【0078】
実施例6
BaTiO粉末とPVdF−CTFEの代わりにLiTi(PO粉末とPVdF−HFPを用い、このLiTi(POの粒径を約500nmに粉砕してスラリーを得た以外は、上記実施例1の方法と同様にして有機無機複合多孔性セパレータ(PVdF−HFP/LiTi(PO)及びこれを備えるリチウム二次電池を製造した。気孔率測定装置を用いて測定したところ、最終の有機無機複合多孔性セパレータの厚さは3μmであり、気孔径及び気孔度はそれぞれ0.4μm及び56%であった。
【0079】
実施例7
BaTiO粉末の代わりにLi(Ti(PO/BaTiO=50:50(重量%)の混合粉末を用いて有機無機複合多孔性セパレータを製造した以外は、上記実施例1の方法と同様にして有機無機複合多孔性セパレータ(PVdF−CTFE/LiTi(PO−BaTiO)及びこれを備えるリチウム二次電池を製造した。気孔率測定装置を用いて測定したところ、最終の有機無機複合多孔性セパレータの厚さは3μmであり、気孔径及び気孔度はそれぞれ0.4μm及び57%であった。
【0080】
[比較例1〜2]
比較例1
ポリエチレン(PE)セパレータを用いた以外は、上記実施例1の方法と同様にしてリチウム二次電池を製造した。
【0081】
比較例2
高分子(PVdF−CTFE)と無機物(BaTiO)の組成比を70:30重量%にして有機無機複合多孔性セパレータを製造した以外は、上記実施例1の方法と同様にして複合膜及びこれを備えるリチウム二次電池を製造した。
【0082】
実験例1.有機無機複合多孔性セパレータの表面分析
本発明に従い製造された有機無機複合多孔性セパレータの表面を分析するために、下記の如き実験を行った。
【0083】
試料としては、ポリエチレンセパレータ上に無機物粒子とバインダー高分子との混合物を塗布してなる実施例1に従い製造された有機無機複合多孔性セパレータ(PVdF−CTFE/BaTiO)を用いた。
【0084】
これを走査電子顕微鏡(SEM)を用いて表面を確認したところ、本発明による有機無機複合多孔性セパレータは、ポリエチレンセパレータ基材のみならず(図2b参照)、無機物粒子が含まれている活性層のすべてにわたって均一な気孔構造が形成されていることを確認することができた(図2a参照)。
【0085】
実験例2.有機無機複合多孔性セパレータの熱収縮分析
本発明に従い製造された有機無機複合多孔性セパレータを従来の通常のセパレータと比較するために、下記の如き実験を行った。
【0086】
試料としては、実施例1ないし実施例7に従い製造した有機無機複合多孔性セパレータを用い、対照群としては、PEセパレータをそれぞれ用いた。
【0087】
上記各試料を150℃の温度において1時間放置した後、これらを集めて確認したところ、それぞれ異なる様子を示していた。対照群としてのPEセパレータは、高温により収縮して形体のみが残る程度に形状変化したのに対し(図5a参照)、本発明による有機無機複合多孔性セパレータは、熱収縮が全くみられない良好な状態を示していた(図5b参照)。
【0088】
実験例3.有機無機複合多孔性セパレータの安全性評価
本発明に従い製造された有機無機複合多孔性セパレータを、従来の通常のセパレータと比較するために、下記の如き実験を行った。
【0089】
試料としては、実施例1ないし実施例7に従い製造した有機無機複合多孔性セパレータを用い、対照群としては、PEセパレータを用いた。
【0090】
一般に、外部または内部要因により電池の内部短絡が起こる場合、セパレータの破裂による両電極の直接的な接触及びこれによる急激な発熱、及び上記短絡部位の拡大などが伴うことで電池の安全性が低下する。本発明では、かかる内部短絡時における電池の安全性を評価すべく、擬似内部短絡(pesudo internal short)実験を行った。
【0091】
450℃程度に昇温された針状導体を使ってセパレータの所定の部位を破裂させて人為的な内部短絡を引き起こさせた結果、比較例1のPEセパレータは、針状導体によるセパレータの破裂領域が大きく拡大していくことが分かり(図6a)、かかるセパレータの破裂領域の拡大は、電池の内部短絡の可能性を格段に増大させるであろう。これに対し、本発明による有機無機複合多孔性セパレータは、針状導体によるセパレータの破裂領域が顕著に抑えられることが分かった(図6b参照)。これは、電池の内部においてセパレータが破裂しても有機無機複合多孔性活性層により両電極が完全に短絡し難く、仮に短絡が発生しても短絡した領域が大きく拡大していくことが抑えられ、電池の安全性の向上が図られることを立証している。
【0092】
実験例4.リチウム二次電池の内部短絡の安全性評価
本発明に従い製造された有機無機複合多孔性セパレータを備えたリチウム二次電池の内部短絡についての安全性を評価するために、下記の如き実験を行った。
【0093】
実験には実施例1に従い製造されたリチウム二次電池を用い、対照群として商用レベルのPEセパレータを備えた比較例1の電池を用いて、局部圧壊実験を行った。
【0094】
局部圧壊評価は、直径が1cmのコインを電池上に置き、一定の速度にて押圧して人為的に正極と負極とが当接する内部短絡を発生させ、電池の爆発の発生有無を観察する実験である。
【0095】
実験の結果、従来のポリオレフィン系のセパレータを備えた比較例1の電池の場合、セパレータが電池の内部短絡により直ぐ爆発し(図8a参照)、電池の電圧が0に急落することが分かった(図7参照)。
【0096】
これに対し、有機無機複合多孔性セパレータが適用された実施例1の電池は、爆発することなく(図8b参照)、電池の電圧がゆっくり落ちていた(図7参照)。これは、外部からの衝撃によりセパレータが破裂しても無機物粒子により完全な内部短絡の発生が抑えられ、しかも無機物粒子の圧電性により両電極間に微電流が流れることによって電池の電圧が緩やかに落ちていき、電池の安全性が向上することを意味する。
【0097】
これにより、本発明の有機無機複合多孔性セパレータを備えたリチウム二次電池は、優れた安全性を有することが確認できた。
【0098】
実験例5.リチウム二次電池の過充電の安全性評価
本発明に従い製造された有機無機複合多孔性セパレータを備えたリチウム二次電池の過充電についての安全性を評価するために、下記の如き実験を行った。
【0099】
実験には実施例1に従い製造されたリチウム二次電池を用い、対照群として商用レベルのPEセパレータを備えた比較例1の電池を用いて、過充電実験を行った。
【0100】
過充電実験は、一定の過電圧及び過電流下での電池の爆発有無を確認する実験である。
【0101】
実験の結果、比較例1の電池は過充電時の安全領域が非常に小さいのに対し(図9a参照)、実施例1の電池は、過充電時の安全領域が大きく拡大していることが確認できた(図9b参照)。これは、本発明の優れた熱的特性に起因すると判断される。
【0102】
実験例6.リチウム二次電池の性能評価
本発明に従い製造された有機無機複合多孔性セパレータを備えたリチウム二次電池のC−rate特性を評価するために、下記の如き実験を行った。
【0103】
実験には実施例1ないし7に従い製造されたリチウム二次電池を用い、対照群として商用レベルのPEセパレータを備えた比較例1の電池、30:70重量比(%)の組成を有するPVdF−CTFE/BaTiOフィルムを複合セパレータとして含む比較例2の電池を用いた。電池の容量が760mAhである各電池に対し、0.5C,1C,2Cの放電速度にてサイクリングを行った。これらの放電容量をC−rate特性別にまとめ、下記表1に示した。
【0104】
実験の結果、本発明による有機無機複合多孔性セパレータを備えた実施例1ないし7のリチウム二次電池は、2Cの放電速度まで従来のポリオレフィン系のセパレータと等しい高率放電(C−rate)特性を示していた。これに対し、高分子含量の多い複合セパレータを備えた比較例2の電池は、放電速度の増加に伴い容量が著しく低下していき、電池の性能低下が招かれていることが確認できた(表1参照)。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明に従い製造された有機無機複合多孔性セパレータの構造及び電池内での機能を示す模式図である。
【図2】実施例1に従い製造された有機無機複合多孔性セパレータ(PVdF−CTFE/BaTiO)のSEM写真図であって、図2a及び図2bは、それぞれ活性層及びセパレータ基材を示している。
【図3】無機物粒子と高分子を含み、無機物粒子より高分子の組成が多い比較例2の複合セパレータのSEM写真図である。
【図4】本発明の有機無機複合多孔性セパレータを構成する無機物粒子とバインダー高分子の組成変化によるイオン伝導度の変化を示すグラフである。
【図5】セパレータの熱収縮実験結果を示す写真図であって、図5aと図5bは、商用レベルのPEセパレータと実施例1に従い製造された有機無機複合多孔性セパレータ(PVdF−CTFE/BaTiO)をそれぞれ150℃で1時間放置した後の状態を示している。
【図6】セパレータの仮想内部短絡実験結果を示す写真図であって、図6aと図6bは、商用レベルのPEセパレータと実施例1に従い製造された有機無機複合多孔性セパレータ(PVdF−CTFE/BaTiO)を示している。
【図7】実施例1の有機無機多孔性セパレータ(PVdF−CTFE/BaTiO)及び比較例1のポリエチレンセパレータをそれぞれ用いて製造したリチウム二次電池に人為的な内部短絡を生じさせた後の電池の電圧変化を示すグラフである。
【図8】電池に人為的な内部短絡を生じさせた後の電池の安全性評価結果を示す写真図であって、図8a及び図8bは、それぞれ商用レベルのPEセパレータと実施例1に従い製造された有機無機多孔性セパレータ(PVdF−CTFE/BaTiO)を示している。
【図9】過充電後の電池の安全性評価結果を示すグラフであって、図9a及び図9bは、それぞれ商用レベルのPEセパレータと実施例1に従い製造された有機無機多孔性セパレータ(PVdF−CTFE/BaTiO)を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性高分子フィルムであって、
(a)ポリオレフィン系の高分子フィルム基材と、及び
(b)前記基材の表面及び前記基材に存在する気孔部の一部よりなる群から選ばれた1種以上の領域に無機物粒子及びバインダー高分子の混合物で塗布された活性層とを備えてなり、
前記バインダー高分子が、ポリビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン、ポリビニリデンフルオライド−トリクロロエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリイミド、ポリエチレンオキシド、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロース、プルラン、カルボキシルメチルセルロース、及びポリビニルアルコールよりなる群から選択されるいずれか一種以上のものであり、
前記活性層が、バインダー高分子により無機物粒子同士が結び付き、無機物粒子同士間における空き空間(Interstitial Volume:インタースティシャル・ボリューム)により気孔構造が形成されたことを特徴とする、多孔性高分子フィルム。

【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−153897(P2012−153897A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−72263(P2012−72263)
【出願日】平成24年3月27日(2012.3.27)
【分割の表示】特願2007−548077(P2007−548077)の分割
【原出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】