説明

多孔質ガラス体の製造方法

【目的】 大型の多孔質ガラス体を容易に製造できるようにする。
【構成】 バーナ21〜23から生じる酸水素火炎中にガラス原料ガスを送り込んでガラス微粒子を生成し、このガラス微粒子をターゲット棒12の下端に堆積させるとともに、該ターゲット棒12を回転引き上げ装置13によって回転させながら引き上げて、該ターゲット棒12の下端に円柱状の多孔質ガラス体11を形成していくとき、引き上げ量モニター信号を受けたコンピュータ41によってマスフローコントローラ31〜33を制御することにより、バーナ21〜23の各々へのガラス原料ガスの流量を、多孔質ガラス体11のかさ密度を上げるのに足りるだけ、ガラス微粒子の堆積の開始時点から所定の時間内では少なくする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、光ファイバのガラス母材を作製するのに好適な、気相反応プロセスを利用したVAD(気相軸付け)法による多孔質ガラス体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】VAD法では、バーナに燃料ガス(水素ガスと酸素ガス)を送り込んで酸水素火炎を発生させ、この火炎中に、四塩化珪素などのガラス原料ガスを送り込んで加水分解反応させることによりガラス微粒子を生成し、この生成されたガラス微粒子を回転するターゲット棒の下端に堆積させ、このガラス微粒子堆積体(多孔質ガラス体)の成長に合わせてターゲット棒を引き上げていくことにより、円柱状の多孔質ガラス体(スートプリフォーム)を形成する。
【0003】光ファイバ母材としてこのスートプリフォームを形成するときは、通常、コア部分を中心部に堆積させ、その外側周囲にクラッド部分を堆積させる。近年、光ファイバを安価・大量に生産するため、この光ファイバ用スートプリフォームは大型化される傾向にある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のVAD法では、大型のスートプリフォームを作製すると、そのスートプリフォームの重量のために、スートプリフォームの成長中、あるいは成長が完了した段階で、ターゲット棒からスートプリフォームが落下したり割れたりする事故が発生する確率が高くなるという問題がある。
【0005】この発明は、上記に鑑み、スートプリフォームを大型化しても、スートプリフォームがターゲット棒から落下したり割れたりすることがないように改善できる、多孔質ガラス体の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】さらに、この発明は、光ファイバ母材となる多孔質ガラス体の大型のものを生産効率良好に製造することができ、もって光ファイバの大量生産および低価格化に寄与することができる、多孔質ガラス体の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、この発明によれば、酸水素火炎中にガラス原料ガスを送り込んでガラス微粒子を生成し、このガラス微粒子をターゲット棒の下端に堆積させるとともに、該ターゲット棒を回転させながら引き上げて、該ターゲット棒の下端に円柱状の多孔質ガラス体を形成していく多孔質ガラス体の製造方法において、上記ガラス微粒子の堆積の開始時点から所定の時間内では火炎中に送り込むガラス原料ガスの流量を、堆積される多孔質ガラス体のかさ密度が高くなるのに足りるほど、少なくしたことが特徴となっている。
【0008】この火炎中に送り込むガラス原料ガスの流量は、堆積開始時点においてきわめて少ない状態から徐々に増加させるようにしてもよい。
【0009】光ファイバ母材となる多孔質ガラス体を作製するときは、コア部分を堆積させるコア用バーナと、クラッド部分を堆積させるクラッド用バーナとを用い、これら複数のガラス微粒子生成用バーナをターゲット棒に沿って鉛直方向に配列することになるため、ターゲット棒下端において堆積すべき所望の箇所が、ターゲット棒の引き上げにより、各バーナによる堆積可能位置に徐々に近づいてくるときに、その所望箇所と堆積可能位置との距離が所定のものとなる時点で、堆積開始時点においてきわめて少ない状態から徐々に増加させられたガラス原料ガスの流量が定常の100%となるよう、各バーナに送り込むガラス原料ガスの流量を制御する。
【0010】上記のようにコア用バーナとクラッド用バーナの複数のバーナを用いる場合に、ガラス微粒子の堆積およびターゲット棒の引き上げを開始する時点におけるターゲット棒下端の堆積すべき所望の位置から各バーナによる堆積可能位置までのそれぞれの距離の、約80%程度の距離だけターゲット棒が引き上げられた時点で、各バーナに送り込むガラス原料ガスの流量が100%となるよう、各バーナに送り込むガラス原料ガスのそれぞれの流量を制御するようにしてもよい。
【0011】
【作用】酸水素火炎中に送り込まれるガラス原料ガスの流量が少ないと、火炎の温度が高いものとなる。つまり、高い反応温度で生成された少ない量のガラス微粒子がターゲット棒に堆積することになる。一般に、堆積されるスートプリフォームのかさ密度は反応温度と密接な関係を有しており、反応温度が高くてかさ密度が高いほど、堆積されたスートプリフォームは固いものとなる。そして、この固いスートプリフォームにおいてはガラス微粒子の密着度が高く、そのためターゲット棒との接合性も強固なものとなる。そのように強度が高まるほどにかさ密度が上がるに足りるようにガラス原料ガスの流量を減少させる結果、スートプリフォームを大型化しても、スートプリフォームがその増加した重量のためにターゲット棒から脱落したり割れたりすることを防止することができる。反応温度を上げるためには燃焼ガスである水素ガスや酸素ガスの流量を増やして酸水素火炎自体の温度を上げることも考えられるが、そうすると火炎の広がりや長さ等の炎の状態そのものが変化してしまうため、スートプリフォームの安定した堆積を行なうことが難しくなる。上記のようにガラス原料ガスの流量を少なくして反応温度を高めてかさ密度を上げるようにすれば、このような不都合がなく、安定した堆積を行なうことができる。
【0012】さらに、光ファイバ母材となるスートプリフォームを、ターゲット棒に沿って鉛直方向に配列された、コア用バーナおよびクラッド用バーナの複数のガラス微粒子生成用バーナを用いて形成するとき、各バーナに供給するガラス原料ガスの流量を少ない量から徐々に増加させ、ターゲット棒下端において堆積すべき所望の箇所が、ターゲット棒の引き上げにより、各バーナによる堆積可能位置に徐々に近づいてくるときに定常の100%となるようにしているため、このスートプリフォームのターゲット棒との接合部およびその付近での強度を高めることができる。その結果、スートプリフォームを大型化しても、ターゲット棒から脱落したりする事故が発生することがなく、能率良く大型の光ファイバ母材を製造することができ、光ファイバの量産化、低価格化に貢献できる。
【0013】
【実施例】以下、この発明の好ましい一実施例について図面を参照しながら詳細に説明する。図1において、ターゲット棒12の下端付近にガラス微粒子を生成する3つのバーナ21、22、23が配置される。これらバーナ21、22、23には燃焼ガス供給装置42より水素ガスおよび酸素ガスの燃焼ガスが供給され、酸水素火炎が発生させられる。また、これらのバーナ21、22、23には図示しないガラス原料ガス供給装置よりマスフローコントローラ31、32、33をそれぞれ経由して四塩化珪素などのガラスの原料ガスが供給される。このガラス原料ガスは酸水素火炎中に送り込まれると、加水分解反応を起こしてガラス微粒子(二酸化珪素の微粒子)を生成する。このガラス微粒子がターゲット棒12の下端に付着させられる。ターゲット棒12は回転引き上げ装置13により回転させられながら引き上げられるようになっており、このように回転させられながら引き上げられることにより、付着・堆積したガラス微粒子の堆積体(スートプリフォーム)11がターゲット棒12の下端より下方向に円柱状に成長していくことになる。
【0014】バーナ21は中心に位置するコア部を形成するためのコア用のバーナであり、バーナ22はコア部の外周を占めるクラッド部を形成するためのクラッド用のバーナ、バーナ23はこのクラッド部のさらに外周のクラッド部を形成するためのクラッド用のバーナである。ここではクラッド部は2つの堆積層により形成されることになる。コア用のバーナ21には、ガラス原料ガスである四塩化珪素ガスに加えて、屈折率制御用のドーパントの原料ガスである四塩化ゲルマニウムガスなどが送り込まれる。
【0015】スートプリフォーム11、ターゲット棒12はチャンバ14内に配置され、バーナ21〜23はそのチャンバ14の側壁等に取り付けられて、このガラス微粒子のデポジション工程がチャンバ14内で行なわれるようにされる。ターゲット棒12を回転させながら引き上げる回転引き上げ装置13はコンピュータ41によって制御され、その引き上げ量モニター信号がコンピュータ41にフィードバックされる。コンピュータ41はその引き上げ量に応じて燃焼ガス供給装置42を制御するとともに、各バーナ21〜23へのガラス原料ガスの供給量を調節するマスフローコントローラ31〜33を制御する。
【0016】このような構成において、ターゲット棒12を最も下側に置いた状態から回転・引き上げを開始する。つまり、ターゲット棒12の最下端が位置Aにある状態から、このターゲット棒12が引き上げられる。そしてこの引き上げの開始とともに燃焼ガスが供給されてバーナ21〜23から火炎が生じ、さらにガラス原料ガスも供給される。このガラス原料ガスの流量は最初はきわめて少ないものとなっており、その流量が引き上げ量に応じて徐々に増加させられる。
【0017】すなわち、ターゲット棒12の下端は最初は最下端位置Aにあり、ここから引き上げられて上に移動していく。一方、バーナ21、22、23は固定されており、これらバーナ21、22、23のそれぞれによってガラス微粒子を堆積することが可能な位置はそれぞれ定まった位置となる。このバーナ21、22、23のそれぞれによる堆積可能位置は、ここでは図示のようにそれぞれB,C,Dとする。そこで、ターゲット棒12が引き上げられるにつれて、その下端が位置B,C,Dにそれぞれ近づいてくる。ターゲット棒12においてガラス微粒子を堆積させたい箇所がその下端付近であるとすると、その堆積希望箇所が堆積可能位置B,C,Dに順次近づいてくる。この引き上げ量に応じてバーナ21へのガラス原料ガスの流量は図2のイで示すような特性で徐々に増加させられる。バーナ22へのガラス原料ガスの流量特性は図2のロのようになり、バーナ23へのガラス原料ガスの流量特性は図2のハのようになる。この図2では、図1の位置Aから位置Bまでの距離をL1、位置Aから位置Cまでの距離をL2、位置Aから位置Dまでの距離をL3としている。引き上げ量が距離L1、L2、L3のそれぞれ80%程度となったときに各バーナ21、22、23へのガラス原料ガスの流量がそれぞれの定常量の100%となるようにされる。各バーナ21〜23へのガラス原料ガスの流量がそれぞれ定常量とされて堆積が引き続いて行なわれ、ターゲット棒12の下端付近の箇所が図1の位置Eにまで到達したとすると、その下端付近の箇所の下部に図1の点線で示すような円柱状のガラス微粒子堆積体11が成長することになる。
【0018】このように堆積の初期において、ターゲット棒12における堆積希望箇所が各バーナ21〜23による堆積可能位置に近づいてくるときに、それらの位置に完全に到達する前にガラス原料ガスの供給量を少なくした状態での堆積が行なわれることになる。通常、ガラス原料ガスは液体の四塩化珪素等をバブリング等によってガス化して供給されるため、その温度はせいぜい100°C程度である。そこでこのようなガラス原料ガスを高温の酸水素火炎中に投入すると、炎の温度(反応周囲温度)は低下するのであるが、上記のようにガラス原料ガスの供給量を少なくすることによって反応温度の低下を防ぐことができる。そして、反応温度を高く保つことができることから、ガラス微粒子をかさ密度を高く堆積させることができる。つまり、堆積希望箇所からの定常のガラス微粒子堆積が始まる前に、ターゲット棒12との接合部分としてきわめて強固な多孔質ガラス体を形成することが可能となる。強固な多孔質ガラス体を形成するのに必要なかさ密度は0.2〜1.0g/cm3程度であればよく、望ましくは0.3〜0.6g/cm3程度とする。これに対して、定常のガラス微粒子堆積におけるかさ密度は0.05〜0.2g/cm3程度、望ましくは0.08〜0.15g/cm3程度とする。還元すると、そのようなかさ密度が得られるようにガラス原料ガスの供給量を調整する。この場合、少なくするのはガラス原料ガスの供給量のみであり、燃焼ガスの供給量は変化させずに済むため、酸水素火炎自体の状態は安定しており、そのためガラス微粒子の堆積は(堆積量が変化するだけで)安定に行なうことができ、スートプリフォームの安定な製造が可能である。
【0019】なお、上記の図2で示した流量特性は一つの例であり、バーナとターゲット棒との具体的な位置関係等に応じて適宜なものとすることができる。また、上記ではターゲット棒12の引き上げ開始と同時にガラス原料ガスの供給も(少ない量から)開始しているが、ガラス原料ガスの供給開始時点は、ターゲット棒12における堆積希望箇所がバーナ21〜23の各堆積可能位置に近づき過ぎない時点であればどこでもよい。さらに、図1の構成もこれに限定されるわけではないことはもちろんである。
【0020】
【発明の効果】以上実施例について説明したように、この発明の多孔質ガラス体の製造方法によれば、VAD法により、酸水素火炎中にガラス原料ガスを送り込んでガラス微粒子を生成し、このガラス微粒子をターゲット棒の下端に堆積させるとともに、該ターゲット棒を回転させながら引き上げて、該ターゲット棒の下端に円柱状の多孔質ガラス体を形成していく工程において、ガラス微粒子の堆積の開始時点から所定の時間内では火炎中に送り込むガラス原料ガスの流量を少なくしているので、反応温度を高く保つことによりガラス微粒子をかさ密度を高く堆積させることができ、ターゲット棒との接合部分としてきわめて強固な多孔質ガラス体を形成することができる。そのため、大型で重量が重い多孔質ガラス体を製造しても、その重量で多孔質ガラス体がターゲット棒から脱落してしまうなどの事故を防ぐことができ、能率良く、大型の多孔質ガラス体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例を示す模式図。
【図2】ターゲット棒の引き上げ量に対する各バーナへのガラス原料ガスの流量の関係を示すグラフ。
【符号の説明】
11 ガラス微粒子堆積体(スートプリフォーム)
12 ターゲット棒
13 回転引き上げ装置
14 チャンバ
21、22、23 バーナ
31、32、33 マスフローコントローラ
41 コンピュータ
42 燃焼ガス供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】 酸水素火炎中にガラス原料ガスを送り込んでガラス微粒子を生成し、このガラス微粒子をターゲット棒の下端に堆積させるとともに、該ターゲット棒を回転させながら引き上げて、該ターゲット棒の下端に円柱状の多孔質ガラス体を形成していく多孔質ガラス体の製造方法において、上記ガラス微粒子の堆積の開始時点から所定の時間内では火炎中に送り込むガラス原料ガスの流量を、堆積される多孔質ガラス体のかさ密度が高くなるのに足りるほど、少なくしたことを特徴とする多孔質ガラス体の製造方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate