説明

多孔質シリカ−チタニア複合材料およびその製造方法

【課題】珪素原子とチタン原子とを含み、高機能を有する多孔質材料に、磁性粒子を内包させることにより、その回収を容易化する。
【解決手段】磁性粒子と、磁性粒子の表面の少なくとも一部を被覆する酸化物と、酸化物の表面の少なくとも一部を被覆する多孔質材料とを含み、多孔質材料が、珪素原子およびチタン原子を含む、多孔質シリカ−チタニア複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば触媒として用いられる多孔質シリカ−チタニア複合材料に関し、詳しくは、多孔質シリカ−チタニア複合材料の回収を容易化するための改善に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒は、微粒子化されることにより、特に高機能を発揮する。しかし、触媒は、反応系に分散させて用いられる。微粒子は、反応系からの分離および回収が困難である。例えば、微粒子を短時間で反応系から濾別することは困難である。よって、従来は、凝集法や遠心分離法が採用されているが、利用コストが高くなるという問題がある。
【0003】
一方、反応液中から容易に回収することができる複合光触媒として、磁性粒子とその表面に固着された光触媒粒子とを含む材料が提案されている(特許文献1)。光触媒粒子としては、TiO2、WO3、ZnO等が検討されている。
【0004】
しかし、触媒活性を高めるためには、様々な構造を有する多孔質材料を利用することが望まれる。特に、珪素原子とチタン原子とを含む多孔質シリカ−チタニア複合材料は、機能性材料として有用であり、様々な反応に触媒活性を有し、分子ふるい機能を有するものが多い。
【特許文献1】特開平11−156200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、珪素原子とチタン原子とを含み、高機能を有する多孔質材料に、磁性粒子を内包させることにより、反応系からの回収が容易な多孔質シリカ−チタニア複合材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、磁性粒子と、磁性粒子の表面の少なくとも一部を被覆する酸化物と、酸化物表面の少なくとも一部を被覆する多孔質材料とを含み、多孔質材料が、珪素原子およびチタン原子を含む、多孔質シリカ−チタニア複合材料に関する。
【0007】
本発明の多孔質シリカ−チタニア複合材料は、直径0.5〜50nmの細孔を有することが好ましく、かつ200m2/g以上の比表面積を有することが好ましい。
多孔質材料に含まれるチタン原子は、4個の隣接酸素原子を有する4配位構造を有することが好ましい。
【0008】
多孔質材料は、メソポーラスシリカ骨格またはゼオライト骨格を有し、その骨格中の珪素原子またはアルミニウム原子の一部が、チタン原子で置換されている材料であることが好ましい。
【0009】
磁性粒子の表面の少なくとも一部を被覆する酸化物は、酸化珪素を含むことが好ましい。
磁性粒子は、例えばフェライト材料を含む。
【0010】
本発明は、また、(i)磁性粒子の表面の少なくとも一部を酸化物で被覆して、第1複合粒子を形成し、(ii)第1複合粒子を、珪素原子含有アルコキシドと、チタン原子含有アルコキシドと、構造規制剤とを含む液に分散させ、第1複合粒子の表面の少なくとも一部を多孔質材料の前駆体で被覆して、第2複合粒子を形成し、(iii)第2複合粒子を焼成して、多孔質材料の前駆体を多孔質材料に変化させる、ことを含む多孔質シリカ−チタニア複合材料の製造方法に関する。
【0011】
工程(i)は、珪素原子含有アルコキシドを含む液中に磁性粒子を分散させ、磁性粒子の表面の少なくとも一部を酸化珪素の前駆体で被覆し、得られた粒子を焼成する工程を含むことが好ましい。
【0012】
工程(ii)は、第1複合粒子と、珪素原子含有アルコキシドと、チタン原子含有アルコキシドと、構造規制剤とを含む液を、加圧下で加熱する工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、様々な構造を有する多孔質シリカ−チタニア複合材料に、磁性粒子を内包させることができる。本発明の多孔質シリカ−チタニア複合材料は、磁性粒子を内包しているため、磁力により引き寄せられる。よって、多孔質シリカ−チタニア複合材料を触媒として用いる場合には、磁石などを利用して、触媒を反応系から容易に回収することができる。更に、磁性粒子は多孔質材料に内包されているため、触媒の活性サイトに影響を与えない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の多孔質シリカ−チタニア複合材料は、磁性粒子(すなわち磁性材料の粒子)を内包している。磁性材料の種類は特に限定されないが、安価である点で、酸化物磁性体が好ましい。酸化物磁性体の中でも磁力の強いフェライト材料が好ましく、軟磁性を示すソフトフェライト材料でも、硬磁性を示すハードフェライト材料でもよい。フェライト材料の結晶構造も、特に限定されないが、例えばスピネルフェライト材料、六方晶フェライト材料、ガーネットフェライトなどを用いることができる。最も一般的な磁性材料として、三酸化二鉄(Fe23)、四酸化三鉄(Fe34)などが挙げられる。磁性粒子の一次粒子径は、特に限定されないが、1.0〜50nm程度であることが好ましい。
【0015】
本発明の多孔質シリカ−チタニア複合材料は、珪素原子およびチタン原子を含む多孔質材料を含む。多孔質材料は、例えば骨格内にチタン原子を含有する珪酸塩を含む。なお、珪酸塩は、珪素原子およびチタン原子以外の金属原子を含んでもよい。そのような金属原子としては、例えばアルミニウム、マグネシウム、ナトリウムなどが挙げられる。
【0016】
優れた触媒活性を得る観点からは、多孔質材料に含まれるチタン原子は、珪酸塩の骨格内に取り込まれていることが好ましく、4個の隣接酸素原子を有する4配位構造を有することが好ましい。なかでも、多孔質材料は、メソポーラスシリカ骨格またはゼオライト骨格を有し、その骨格中の珪素原子またはアルミニウム原子の一部が、チタン原子で置換されている材料であることが特に好ましい。
【0017】
メソポーラスシリカ骨格を有する多孔質材料の中では、例えばMCM−41、MCM−48、MCM−50などの珪素原子の一部をチタン原子で置換した材料が好ましい。メソポーラス骨格を有する多孔質材料は、規則的に配列した複数の筒状のメソ細孔を有する。筒状のメソ細孔は、例えばハニカム状に配列しており、メソ細孔は、ほぼ均一な大きさを有する。メソ細孔の内径は、一般に2〜50nm程度であるが、これに限定されない。
【0018】
ゼオライト骨格を有する多孔質材料の中では、例えばアルミノシリケート、シリカライト、チタノシリカライトなどの珪素原子またはアルミニウム原子の一部をチタン原子で置換した材料が好ましい。
【0019】
ゼオライトの構造は、特に限定されないが、X型、Y型、ZSM−5、ZSM−48などが好ましい。なかでも、熱的安定性が高く、各種の選択反応を可能とする細孔を有する点で、国際ゼオライト学会(IZA)により制定された結晶構造であるMFI構造が特に好ましい。ゼオライトの細孔の内径は、一般に0.5〜2nm程度であるが、これに限定されない。
【0020】
多孔質材料に含まれるチタン原子と珪素原子とのモル比:Ti/Siは、0.0005≦Ti/Si≦0.1が好ましく、0.005≦Ti/Si≦0.05が更に好ましい。チタンの含有量が上記の下限よりも少ないと、多孔質材料の単位表面積当りのチタン原子数が少なくなり、触媒活性が低下する場合がある。一方、チタンの含有量が上記の上限より多いと、多孔質材料の細孔内に酸化チタンが存在するようになり、チタン原子の分散性が低下する。結果として、触媒活性が低下する場合がある。
【0021】
磁性粒子の表面の少なくとも一部は、酸化物で被覆されている。すなわち、磁性粒子と多孔質材料との間には、酸化物が介在している。酸化物は、多孔質材料と磁性粒子との結合力を高めるとともに、多孔質材料の結晶構造の発達を促進する役割を果たすと考えられる。なお、磁性粒子の表面に、4配位構造を有する高活性なチタン原子を含む珪酸塩を、直接担持させることは困難である。また、磁性粒子の表面に、メソポーラスシリカ骨格またはゼオライト骨格を有する珪酸塩を、直接担持させることは困難である。これは、磁性粒子が、メソポーラスシリカ骨格またはゼオライト骨格の形成を阻害するためと考えられる。
【0022】
磁性粒子の表面の少なくとも一部を被覆する酸化物は、特に限定されないが、磁性粒子との結合性、および、多孔質材料との結合性に優れている点で、酸化珪素を含むことが好ましい。また、磁性粒子との結合性を高める観点から、酸化珪素は、非晶質の領域を含むことが好ましい。
【0023】
本発明の多孔質シリカ−チタニア複合材料は、直径0.5〜50nmの細孔を有することが好ましい。細孔の直径が上記の下限未満では、大きな分子の酸化反応などに対する触媒性能の低下を招く場合がある。一方、細孔の直径が上記の上限を超えると、多孔質シリカ−チタニア複合材料の表面積の低下や、細孔空間を利用した選択反応の選択性の低下を招く場合がある。
【0024】
本発明の多孔質シリカ−チタニア複合材料の比表面積は、200m2/g以上であることが好ましく、250〜1000m2/gであることが更に好ましい。比表面積が上記の下限未満では、触媒活性サイト数の減少を招く場合がある。
【0025】
本発明の多孔質シリカ−チタニア複合材料に含まれる、多孔質材料の量は、磁性粒子100重量部あたり、100〜1000重量部が好適である。多孔質材料の量が多すぎると、多孔質シリカ−チタニア複合材料の回収が困難となる場合がある。一方、多孔質材料の量が少なすぎると、チタン原子数が少なくなり、触媒活性が低下する場合がある。
【0026】
磁性材料の表面の少なくとも一部を被覆する酸化物の量は、磁性粒子100重量部あたり、10〜500重量部が好適である。酸化物の量が多すぎると、多孔質シリカ−チタニア複合材料に占める多孔質材料の割合が相対的に小さくなり、触媒活性が低下する場合がある。一方、酸化物の量が少なすぎると、磁性粒子と多孔質材料との結合力が不十分になったり、多孔質材料の細孔構造が充分に発達しなかったりする場合がある。
【0027】
本発明の多孔質シリカ−チタニア複合材料の平均粒径(体積基準の粒度分布における50%値:D50)は、10〜500μmであることが好ましい。平均粒径が小さすぎると、多孔質シリカ−チタニア複合材料の回収を容易にする効果が低減する。一方、平均粒径が大きすぎると、多孔質シリカ−チタニア複合材料を触媒として用いる場合に、反応系に分散しにくくなる場合がある。
【0028】
次に、多孔質シリカ−チタニア複合材料の製造方法の一例について図1を参照しながら説明する。
(i)磁性粒子10の表面の少なくとも一部を酸化物12で被覆し、第1複合粒子14を形成する。磁性粒子10の表面に直接結合した多孔質材料を合成することは困難であるが、磁性粒子10の表面の少なくとも一部を酸化物12で被覆することにより、磁性粒子10と細孔構造の発達した多孔質材料16との複合化が可能となる。
【0029】
例えば、珪素原子含有アルコキシドを含む液中に磁性粒子を分散させる。磁性粒子は、例えば水とアルコールとの混合液中に分散させることが好ましい。アルコールには、エタノール、プロパノールなどを用いることができる。磁性粒子10を分散させた液中に、攪拌下、珪素原子含有アルコキシド(例えばテトラエトキシシラン:TEOS)を滴下すると、酸化珪素の前駆体と磁性粒子との複合物が得られる。得られた複合物を乾燥させた後、例えば400K〜600Kの温度で焼成すると、磁性粒子10と酸化物12とを含む第1複合粒子14が得られる。このときの焼成雰囲気は、酸素を含む雰囲気(例えば空気)であればよい。
【0030】
(ii)得られた第1複合粒子14を、珪素原子含有アルコキシド(例えばTEOS)と、チタン原子含有アルコキシド(例えばテトライソプロポキシチタン:TPOT)と、構造規制剤(例えばドデシルアミン:DDA)とを含む液に分散させる。
【0031】
構造規制剤は、特に限定されず、様々な界面活性剤を用いることができる。例えばメソポーラスシリカ骨格を有する多孔質材料を形成する場合、ドデシルアミン、ポリエチレングリコールドデシルエーテル、ラウリルポリオキシエチレンエーテルなどの非イオン界面活性剤などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。構造規制剤となる界面活性剤の分子量は、250〜3000もしくは300〜1000が好適である。
【0032】
珪素原子含有アルコキシドとしては、オルトケイ酸テトラエチル(テトラエトキシシラン)、テトラメトキシシランなどを用いることができる。また、珪素含有アルコキシドの代わりに、塩化ケイ素、液状の珪酸塩などを用いることもできる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
チタン原子含有アルコキシドとしては、特に限定されないが、例えばテトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタンなどを用いることができる。チタン原子含有アルコキシドは1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
液中は酸性もしくは塩基性条件下であることが好ましい。この状態で液を攪拌すると、構造規制剤の主鎖がミセル状に規則的に配列し、その周りを覆うように、チタン原子が組み込まれたシリカマトリックスが形成される。こうして得られた多孔質材料の前駆体が、第1複合粒子の表面の少なくとも一部を被覆することにより、第2複合粒子が形成される。
【0035】
なお、ゼオライト骨格を有する多孔質材料を形成する場合には、第1複合粒子と、珪素原子含有アルコキシドと、チタン原子含有アルコキシドと、構造規制剤とを、オートクレーブなどに導入し、加圧下で加熱する。ゼオライト骨格を有する多孔質材料を形成する場合、構造規制剤には、テトラプロピルアンモニウムハイドロキサイド(TPAOH)、テトラプロピルアンモニウムブロマイド(TPABr)などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
(iii)得られた第2複合粒子を焼成すると、有機物である構造規制剤は燃焼する。その結果、多孔質材料の前駆体は、規則的な細孔を有する多孔質材料16に変化し、多孔質シリカ−チタニア複合材料18が得られる。このときの焼成温度は、例えば700K〜900Kであればよく、焼成雰囲気は、酸素を含む雰囲気(例えば空気)であればよい。
【実施例1】
【0037】
磁性粒子であるFe23の粒子と、その表面の少なくとも一部を被覆する酸化珪素(シリカ)と、酸化珪素の少なくとも一部を被覆する多孔質材料とを含み、多孔質材料が、メソポーラスシリカ骨格を有し、骨格中の珪素原子の一部がチタン原子で置換されている、多孔質シリカ−チタニア複合材料(以下、Ti−HMS/Fe23)を、以下の要領で作製した。
【0038】
工程(i)
3つ口フラスコに、塩化鉄(II)四水和物(和光純薬工業株式会社製)を0.398gと、塩化鉄(III)六水和物(和光純薬工業株式会社製)を1.0812gとを入れた。フラスコ内を真空排気し、アルゴン置換を数回行った。その後、フラスコ内に脱イオン水200mlを加え、常温下、メカニカルスターラーで攪拌し、固形分を溶解させ、橙色の溶液を得た。10分後に25%アンモニア水(和光純薬工業株式会社製)4mlを滴下すると、黒色粒子のマグネタイト(Fe34:一次粒子径約9〜10nm)が生成した。そのまま常温で3時間攪拌を続けた。
【0039】
フラスコ内に、2−プロパノール(特級、和光純薬工業株式会社製)100mlを加え、313Kで30分間攪拌後、テトラエトキシシラン(TEOS)(特級、和光純薬工業株式会社製)を1.25g滴下し、313Kで20時間攪拌した。その後、吸引濾過を行い、得られた黒色粉末を、大気中、383Kで一晩乾燥した。乾燥後の粉末を、523Kで5時間焼成し、酸化珪素を担持した酸化鉄からなる第1複合粒子を得た。
【0040】
工程(ii)
イオン交換水30mlに構造規制剤としてドデシルアミン(DDA)(一級、和光純薬工業株式会社製)3gを溶かした溶液と、36%塩酸(特級、和光純薬工業株式会社製)43.8mgをイオン交換水10mlに溶かした溶液とを混合し、溶液Aを調製した。溶液Aは1時間攪拌した。
【0041】
TEOSを12.5gと、テトライソプロポキシチタン(TPOT)(一級、和光純薬工業株式会社製)0.171gとを、エタノール(特級、和光純薬工業株式会社製)20mlと2−プロパノール20mlとの混合液に溶かし、溶液Bを調製した。溶液Bも1時間攪拌した。
【0042】
次に、上記の第1複合粒子を、エタノール100mlとともに3つ口フラスコに導入し、更に、上記の攪拌後の溶液Aと溶液Bを導入し、常温下、20時間の攪拌を行った。その後、吸引濾過を行い、得られた茶色粉末(第2複合粒子)を得た。
【0043】
工程(iii)
得られた第2複合粒子を、大気中、383Kで一晩乾燥した。乾燥後の粉末を、823Kで5時間焼成し、多孔質材料であるチタン原子含有メソポーラスシリカを生成させた。最後に粉末をイオン交換水で数回洗浄し、Ti−HMS/Fe23を得た。
【0044】
なお、Ti−HMS/Fe23において、金属元素のモル比は、Fe:Si(酸化珪素部分):Si(チタン原子含有メソポーラスシリカ部分):Ti(チタン原子含有メソポーラスシリカ部分)=10:10:100:1のモル比とした。すなわち、多孔質材料に含まれるTi原子とSi原子とのモル比はTi/Si=0.01であり、Fe23100重量部あたりの多孔質材料の重量は約750重量部であり、Fe23100重量部あたりの酸化珪素の重量は約75重量部であった。
Ti−HMS/Fe23の平均粒径(体積基準の粒度分布における50%値:D50)は、50μmであった。
【0045】
《比較例1》
工程(ii)において、第1複合粒子を3つ口フラスコに導入しなかったこと以外、実施例1と同様の操作を行った。その結果、多孔質材料であるチタン原子含有メソポーラスシリカ(以下、Ti−HMS)だけが得られた。
【0046】
[評価]
Ti−HMS/Fe23およびTi−HMSのキャラクタリゼーションを行った。
(i)X線回折(XRD)
測定は以下の装置、条件で行った。試料はメノウ乳鉢で均一に粉砕して測定用ガラスホルダーに詰めて測定を行った。
測定装置:理学電機株式会社製のRINT2000縦型ゴニオメーター
X線:CuKα線(波長=1.54056Å)
管電圧:40kV
管電流:20mA
スリット幅:発散スリット0.5deg
散乱スリット:0.5deg
受光スリット:0.15mm
モノクロ受光スリット:0.8mm
サンプリング幅:0.02°
計数時間:1秒
スキャンモード:2θ/θ
スキャンタイプ:連続
【0047】
図2(A)にTi−HMS/Fe23、図2(B)にTi−HMSの低角度XRDパターンを示す。いずれのパターンにおいても、メソポーラスシリカの(100)面由来のピークが見られ、メソポーラスシリカ骨格が形成されていることがわかる。Ti−HMS/Fe23のピーク位置は、Ti−HMSと比較して、高角度側にシフトしている。(100)面間隔をBragg式より求めると31.5Åであった。
【0048】
(ii)BET比表面積
測定は以下の装置、条件で行った。試料を約0.1g秤量してセルに入れ、BET比表面積とBJH細孔径分布を求めた。
測定装置:マイクロメリティクス社製のASAP2010
吸着気体分子:窒素
BET比表面積は910m2/gであり、メソポアが存在していると考えられる。細孔分布から求めた平均細孔径(細孔の直径)は3.01nmであった。
【0049】
(iii)XAFSスペクトル
測定は以下の装置、条件で行った。スペクトル解析には、理学電機工業株式会社のEXAFSデータ解析プログラムREX2000を用いた。
装置:筑波高エネルギー物理学研究所のPhoton Factory BL−7Cライン
測定元素:TiKエッジ、室温、蛍光モード
検出ガス:He
いずれの試料においても、一本の鋭いプレエッジピークが見られた。このピークは4配位構造を有するチタン原子の存在を示している。このことは、チタン原子がメソポーラスシリカの骨格に組み込まれていることを示唆している。また、FT−EXAFSでは、いずれの試料においても、チタニア粉末に現れる2.9Å付近のTi−O−Ti結合由来のピークはみられなかった。これらの結果より、Ti−HMS/Fe23およびTi−HMSに含まれるチタン原子は、高分散状態で存在していることがわかる。
【0050】
(iv)電子顕微鏡測定
測定は以下の装置、条件で行った。
測定装置:株式会社日立ハイテクノロジーズ製のS−5200FE−SEMおよびH−800TEM
Ti−HMS/Fe23のSEM像を確認したところ、粒子は表面に細かな凹凸を有していた。また、酸化鉄粒子は凝集していないことがわかった。Ti−HMS/Fe23のTEM像と元素マッピングを行ったところ、珪素原子のマトリックス内に鉄原子やチタン原子が高分散な状態で存在していることがわかった。
【0051】
(v)光触媒反応
石英ガラスの反応管に触媒として、Ti−HMS/Fe23およびTi−HMSを、それぞれ10mg量りとり、溶媒のアセトニトリル(特級、和光純薬株式会社製)15ml中に分散させた。短い注射針で排気口を確保したゴム栓をして1時間の酸素バブリングした後、反応基質(シクロオクテン(東京化成工業株式会社製))を10mmol加え、高圧水銀ランプ(SHL−100UV)で24時間光照射した。光照射による温度の上昇を防ぐため、反応セルはファンによって空冷し、水銀灯は石英の冷却管に入れ、室温に保った。
【0052】
シクロオクテンの光酸化反応の結果(生成物(シクロオクテンオキサイド)の収率とターンオーバー数(TON))を表1に示す。表1の結果より、Ti−HMS/Fe23を光触媒として使用した場合、収率やTONがやや低下したが、Ti−HMSを用いた場合と同様に、反応が進行したことがわかる。
【0053】
【表1】

【0054】
(vi)過酸化水素水を用いた触媒反応
反応管に触媒として、Ti−HMS/Fe23およびTi−HMSを、それぞれ100mg量りとり、溶媒のアセトニトリル10mlに分散させた。反応管に反応基質(スチレン(東京化成工業株式会社製)またはシクロオクテン)1mmolを分散させ、更に、30%過酸化水素水(特級、和光純薬株式会社製)1mlを加え、70℃で24時間反応させた。
【0055】
スチレン酸化反応の結果(生成物(ベンズアルデヒドおよびスチレンオキサイド)の収率とTON)を表2に示す。また、シクロオクテン酸化反応の結果(生成物(シクロオクテンオキサイド)の収率とTON)を表3に示す。表2、3の結果より、Ti−HMS/Fe23を触媒として使用した場合、Ti−HMSを用いた場合と同様に、反応が進行したことがわかる。また、磁性粒子による収率やTONへの影響が小さいことがわかる。
【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
なお、スチレン酸化反応後の反応液をガラス瓶に回収し、ガラス瓶に磁石を近づけたところ、図3のように、触媒だけが磁石に引き寄せられ、液中からの触媒の分離が容易であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の多孔質シリカ−チタニア複合材料は、触媒、分子ふるい材料などとして有用であり、回収が容易であることから、様々な分野で工業的利用が可能である。本発明の多孔質シリカ−チタニア複合材料は、例えば、過酸化水素による内部オレフィンのエポキシ化反応、末端オレフィンの酸化的開反応などの触媒として利用できる。また、本発明の多孔質シリカ−チタニア複合材料は、光触媒としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の多孔質シリカ−チタニア複合材料の製造工程を示す概念図である。
【図2】実施例1のTi−HMS/Fe23および比較例1のTi−HMSの低角度XRDパターンである。
【図3】実施例1のTi−HMS/Fe23が磁石(マグネット)で回収される様子を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
10 磁性粒子
12 酸化物
14 第1複合粒子
16 多孔質材料
18 多孔質シリカ−チタニア複合材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子と、前記磁性粒子の表面の少なくとも一部を被覆する酸化物と、前記酸化物の表面の少なくとも一部を被覆する多孔質材料とを含み、
前記多孔質材料が、珪素原子およびチタン原子を含む、多孔質シリカ−チタニア複合材料。
【請求項2】
直径0.5〜50nmの細孔を有し、かつ200m2/g以上の比表面積を有する、請求項1記載の多孔質シリカ−チタニア複合材料。
【請求項3】
前記多孔質材料に含まれるチタン原子が、4個の隣接酸素原子を有する4配位構造を有する、請求項1記載の多孔質シリカ−チタニア複合材料。
【請求項4】
前記多孔質材料が、メソポーラスシリカ骨格またはゼオライト骨格を有し、前記骨格中の珪素原子またはアルミニウム原子の一部が、チタン原子で置換されている、請求項1記載の多孔質シリカ−チタニア複合材料。
【請求項5】
前記酸化物層が、酸化珪素を含む、請求項1記載の多孔質シリカ−チタニア複合材料。
【請求項6】
前記磁性粒子が、フェライト材料を含む、請求項1記載の多孔質シリカ−チタニア複合材料。
【請求項7】
(i)磁性粒子の表面の少なくとも一部を酸化物で被覆して、第1複合粒子を形成し、
(ii)前記第1複合粒子を、珪素原子含有アルコキシドと、チタン原子含有アルコキシドと、構造規制剤とを含む液に分散させ、前記第1複合粒子の表面の少なくとも一部を多孔質材料の前駆体で被覆して、第2複合粒子を形成し、
(iii)前記第2複合粒子を焼成して、前記前駆体を多孔質材料に変化させる、多孔質シリカ−チタニア複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記工程(i)が、珪素原子含有アルコキシドを含む液中に磁性粒子を分散させ、前記磁性粒子の表面の少なくとも一部を酸化珪素の前駆体で被覆し、得られた粒子を焼成する工程を含む、請求項7記載の多孔質シリカ−チタニア複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記工程(ii)が、前記第1複合粒子と、珪素原子含有アルコキシドと、チタン原子含有アルコキシドと、構造規制剤とを含む液を、加圧下で加熱する工程を含む、請求項7記載の多孔質シリカ−チタニア複合材料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−221076(P2008−221076A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60449(P2007−60449)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】