多孔質シリカカプセルの製造方法
【課題】凝集が抑制されて分散性に優れ、厚さの均一性が高い多孔質シリカカプセルの製造方法の提供。
【解決手段】鋳型を使用して多孔質シリカカプセルを製造する方法であって、鋳型となる粒子及び界面活性剤、並びに水及びアルコールの混合溶媒を含有する液体を撹拌する工程と、撹拌した前記液体中でアルコキシシランを重縮合反応させて、前記粒子表面上にシリカ層が形成されたシリカ被覆粒子を調製する工程と、前記シリカ被覆粒子から、焼成により前記粒子及び界面活性剤を除去して、多孔質シリカカプセルを形成する工程と、を有し、前記液体を撹拌する工程における、前記界面活性剤の濃度を0.003〜0.021mol/Lとし、且つ前記水及びアルコールの混合溶媒におけるアルコールの体積比を0.27〜0.35とすることを特徴とする多孔質シリカカプセルの製造方法。
【解決手段】鋳型を使用して多孔質シリカカプセルを製造する方法であって、鋳型となる粒子及び界面活性剤、並びに水及びアルコールの混合溶媒を含有する液体を撹拌する工程と、撹拌した前記液体中でアルコキシシランを重縮合反応させて、前記粒子表面上にシリカ層が形成されたシリカ被覆粒子を調製する工程と、前記シリカ被覆粒子から、焼成により前記粒子及び界面活性剤を除去して、多孔質シリカカプセルを形成する工程と、を有し、前記液体を撹拌する工程における、前記界面活性剤の濃度を0.003〜0.021mol/Lとし、且つ前記水及びアルコールの混合溶媒におけるアルコールの体積比を0.27〜0.35とすることを特徴とする多孔質シリカカプセルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集が抑制された多孔質シリカカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質シリカカプセルは、多孔質状のシリカの殻を有する中空状のカプセルである。このようなカプセルは、微小なマイクロカプセルとして、中空部に物質を充填して使用する用途が有望視されているが、シリカは生体適合性を有するので、そのカプセルは、ドラッグ・デリバリ・システム(DDS)におけるドラッグ・キャリアへの応用が特に期待されている。
【0003】
多孔質シリカカプセルの製造方法としては、粒子状の鋳型と、カプセルに細孔構造を形成する界面活性剤とを使用して、鋳型上にシリカ層を形成し、鋳型と界面活性剤を焼成等により除去する方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。鋳型としては、気泡、エマルション、ベシクル、樹脂製の粒子等が使用される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Mu,Y.;Ge,W.;Zhenzhong,Y. Mater.Chem.Phys.2008,111,5.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これまでに開示されている製造方法で得られた多孔質シリカカプセルは、凝集し易くて分散性が劣っていたり、カプセルの厚さが不均一で形状に凹凸があるなど、カプセルに求められる性状のすべてを高い次元で備えるものが無いのが実情であった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、凝集が抑制されて分散性に優れ、厚さの均一性が高い多孔質シリカカプセルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、
本発明は、鋳型を使用して多孔質シリカカプセルを製造する方法であって、鋳型となる粒子及び界面活性剤、並びに水及びアルコールの混合溶媒を含有する液体を撹拌する工程と、撹拌した前記液体中でアルコキシシランを重縮合反応させて、前記粒子表面上にシリカ層が形成されたシリカ被覆粒子を調製する工程と、前記シリカ被覆粒子から、焼成により前記粒子及び界面活性剤を除去して、多孔質シリカカプセルを形成する工程と、を有し、前記液体を撹拌する工程における、前記界面活性剤の濃度を0.003〜0.021mol/Lとし、且つ前記水及びアルコールの混合溶媒におけるアルコールの体積比を0.27〜0.35とすることを特徴とする多孔質シリカカプセルの製造方法を提供する。
本発明の多孔質シリカカプセルの製造方法においては、前記シリカ被覆粒子を調製する工程と、前記多孔質シリカカプセルを形成する工程との間に、さらに、前記シリカ被覆粒子を含有する液体から、該粒子よりも小さい不溶物を除去する工程を有することが好ましい。
本発明の多孔質シリカカプセルの製造方法においては、前記多孔質シリカカプセルを形成する工程の後に、さらに、該カプセルよりも大きい不溶物を除去する工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、凝集が抑制されて分散性に優れ、厚さの均一性が高い多孔質シリカカプセルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実験例1における鋳型粒子の凝集有無の判定結果を示すグラフである。
【図2】実験例2における多孔質シリカカプセルの撮像データであり、エタノールの体積比が(a)0.259、(b)0.311、(c)0.373である場合の撮像データである。
【図3】実験例2における鋳型粒子及び多孔質シリカカプセルの粒径分布の測定結果を示すグラフであり、エタノールの体積比が(a)0.311、(b)0.373である場合のグラフである。
【図4】実験例2における多孔質シリカカプセルの厚さとエタノールの体積比との関係を示すグラフである。
【図5】実験例3における多孔質シリカカプセルの撮像データであり、界面活性剤の濃度が(a)0.001mol/L、(b)0.007mol/L、(c)0.014mol/L、(d)0.027mol/L、(e)0.054mol/Lである場合の撮像データである。
【図6】実験例3における鋳型粒子及び多孔質シリカカプセルの粒径分布の測定結果を示すグラフであり、界面活性剤の濃度が(a)0.001mol/L、(b)0.007mol/L、(c)0.014mol/L、(d)0.027mol/L、(e)0.054mol/Lである場合のグラフである。
【図7】実験例3における多孔質シリカカプセルの厚さと界面活性剤の濃度との関係を示すグラフである。
【図8】実験例3(実験例3−4)におけるX線回折測定の結果示すグラフである。
【図9】実験例4における鋳型粒子及び多孔質シリカカプセルの粒径分布の測定結果を示すグラフである。
【図10】実験例4における多孔質シリカカプセルの撮像データである。
【図11】実験例4における多孔質シリカカプセルの厚さと界面活性剤の濃度との関係を、実験例3(実験例3−4)の場合と共に示すグラフである。
【図12】混合溶媒におけるエタノールの体積比が0.311である場合の、鋳型粒子含有液における界面活性剤の濃度と散乱光強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の多孔質シリカカプセルの製造方法は、鋳型を使用して多孔質シリカカプセルを製造する方法であって、鋳型となる粒子及び界面活性剤、並びに水及びアルコールの混合溶媒を含有する液体を撹拌する工程(以下、撹拌工程と略記する)と、撹拌した前記液体中でアルコキシシランを重縮合反応させて、前記粒子表面上にシリカ層が形成されたシリカ被覆粒子を調製する工程(以下、被覆工程と略記する)と、前記シリカ被覆粒子から、焼成により前記粒子及び界面活性剤を除去して、多孔質シリカカプセルを形成する工程(以下、カプセル化工程と略記する)と、を有し、前記撹拌工程における、前記界面活性剤の濃度を0.003〜0.021mol/Lとし、且つ前記水及びアルコールの混合溶媒におけるアルコールの体積比を0.27〜0.35とすることを特徴とする。
【0011】
本発明は、撹拌工程での界面活性剤の濃度、前記混合溶媒におけるアルコールの体積比を調節することにより、多孔質シリカカプセルの分散性と厚さの均一性を調節するものである。具体的には、界面活性剤の濃度、混合溶媒におけるアルコールの体積比を所定の範囲に設定することにより、撹拌工程において、鋳型となる粒子(以下、鋳型粒子と略記する)の凝集を効果的に抑制し、このような鋳型粒子を使用して多孔質シリカカプセルを形成することで、凝集が抑制されて分散性に優れ、厚さの均一性が高い多孔質シリカカプセルを得るものである。なお、本発明において、「カプセルの厚さ」とは、カプセルを構成する多孔質シリカ層の殻の厚さを指す。
本発明により得られる多孔質シリカカプセルは、例えば、DDS等への適用に好適なものである。
【0012】
(撹拌工程)
撹拌工程においては、鋳型粒子、界面活性剤並びに水及びアルコールの混合溶媒を含有する液体を撹拌する。
鋳型粒子の材質は、後述するカプセル化工程での焼成時の加熱で除去できるものであれば、特に限定されず、各種樹脂等、公知のものから任意に選択できる。好ましいものとして具体的には、ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸共重合体等が例示できる。
鋳型粒子は表面処理が施されていても良く、例えば、マイナス電荷を帯びている表面をカチオン性物質でコーティングしたものや、プラス電荷を帯びている表面をアニオン性物質でコーティングしたものも使用できる。前記カチオン性物質又はアニオン性物質の好ましいものとしては、高分子電解質が例示できる。
【0013】
鋳型粒子の粒径は、目的に応じて適宜選択すれば良い。例えば、DDS等のドラッグ・キャリアへの適用に好適なマイクロカプセルの製造には、通常、平均粒径が100〜1000nm程度であることが好ましく、200〜800nm程度であることがより好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0014】
界面活性剤は、被覆工程で鋳型粒子表面上のシリカ層中で複合体を形成し、鋳型として機能して、後述するカプセル化工程で細孔を形成するものである。そして、その分子長を調整することで、細孔の孔径を調整できる。また、細孔を適度の規則性を持って配列させ、周期構造を形成する。さらに、界面活性剤は、その濃度を調整することで、撹拌工程においては、鋳型粒子の凝集を抑制して分散性を向上させ、その結果、カプセル化工程後においては、多孔質シリカカプセルの凝集を抑制して分散性を向上させる。
【0015】
界面活性剤は、カプセル化工程で除去できるものから適宜選択すれば良いが、カチオン性界面活性剤が好ましく、第四級アンモニウム塩がより好ましく、具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等のテトラアルキルアンモニウム塩;アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等のトリアルキルアンモニウム塩が例示できる。塩を構成するアニオンは、塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲンイオンが好ましい。そして、特に好ましい界面活性剤として具体的には、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)が例示できる。
【0016】
撹拌工程における界面活性剤の濃度は、0.003〜0.021mol/Lである。このような範囲とすることで、多孔質シリカカプセルの凝集が抑制されて分散性に優れ、厚さの均一性が高くなる効果が得られる。さらに、撹拌工程における界面活性剤の濃度は、0.005〜0.017mol/Lであることがより好ましい。このような範囲とすることで、多孔質シリカカプセルの厚さが厚くなって表面の凹凸が少なくなり、形状がより真球に近くなる一層優れた効果が得られる。ここで、「界面活性剤の濃度」とは、撹拌工程における前記液体のうち溶媒成分の体積全量(L)に対する界面活性剤の量(mol数)を示す。
【0017】
水及びアルコールの混合溶媒に使用するアルコールは、その混合溶媒における体積比を調整することで、撹拌工程においては、鋳型粒子の凝集を抑制して分散性を向上させ、その結果、カプセル化工程後においては、多孔質シリカカプセルの凝集を抑制して分散性を向上させる。
【0018】
撹拌工程において、前記混合溶媒に使用するアルコールは、被覆工程で使用するアルコキシシランの種類に応じて選択することが好ましい。具体的には、アルコキシシランのアルコキシ基を構成する、酸素原子に結合しているアルキル基と同じアルキル基に水酸基が結合したものが好ましい。より具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等が例示できる。
【0019】
前記混合溶媒におけるアルコールの体積比は、0.27〜0.35である。このような範囲とすることで、多孔質シリカカプセルの凝集が抑制されて分散性に優れ、厚さの均一性が高くなる効果が得られる。さらに、前記混合溶媒におけるアルコールの体積比は、0.29〜0.33であることが好ましい。このような範囲とすることで、多孔質シリカカプセルの厚さが厚くなって表面の凹凸が少なくなり、形状がより真球に近くなる一層優れた効果が得られる。
【0020】
撹拌工程において、前記液体は、本発明の効果を妨げない範囲内において、鋳型粒子、界面活性剤、並びに水及びアルコールの混合溶媒以外のその他の成分を含有していても良い。例えば、被覆工程でのアルコキシシランの加水分解及び重縮合反応に必要な酸又は塩基を、予めその他の成分として、含有していても良い。
【0021】
撹拌工程において、前記液体中における溶媒成分の総量に占める水及びアルコールの混合溶媒の比率は、90体積%以上であることが好ましく、95体積%以上であることがより好ましく、98体積%以上であることが特に好ましく、100体積%であっても良い。前記混合溶媒の比率が高いほど、一層優れた効果が得られる。
【0022】
撹拌方法は、成分を混合して鋳型粒子を分散できるような方法であれば特に限定されず、撹拌翼や回転子を使用した撹拌、超音波による撹拌等、公知のいずれの方法も適用できる。例えば、撹拌する液体の量が30mL以下程度である場合には、撹拌翼や回転子を300〜400rpm程度の回転速度で回転させる方法が例示できる。回転速度は、液体の量に応じて、適宜調整すると良い。
撹拌条件は、撹拌方法に応じて調整すれば良いが、通常、温度は20〜40℃であることが好ましく、25〜35℃であることが好ましい。そして、撹拌時間は3〜30分であることが好ましく、5〜15分であることがより好ましい。
【0023】
撹拌工程で得られた鋳型粒子含有液中では、鋳型粒子が良好に分散し、凝集が抑制される。鋳型粒子の凝集を抑制するだけであれば、前記界面活性剤の濃度は0.003〜0.021mol/Lよりも広い範囲に設定でき、前記混合溶媒におけるアルコールの体積比も0.27〜0.35よりも広い範囲に設定できる。例えば、前記界面活性剤の濃度を0〜0.7mol/Lとし、前記混合溶媒におけるアルコールの体積比を0.1〜0.95として、それぞれ適切な数値範囲を選択して組み合わせることで、鋳型粒子を良好に分散させることができる。特に、前記界面活性剤の濃度を好ましくは0〜0.7mol/L、より好ましくは0.05〜0.6mol/Lとし、且つアルコールの体積比を好ましくは0.1〜0.25、より好ましくは0.1〜0.2とすることで、あるいは前記界面活性剤の濃度を好ましくは0〜0.15mol/L、より好ましくは0.01〜0.13mol/Lとし、且つアルコールの体積比を好ましくは0.1〜0.6、より好ましくは0.25〜0.58とすることで、鋳型粒子の凝集を抑制し、良好に分散させる一層優れた効果が得られる。
一方、本発明のように、多孔質シリカカプセルの凝集を抑制して、厚さの均一性を高めるためには、界面活性剤の濃度及びアルコールの体積比をさらに特定の範囲にまで狭めることが必要となる。
【0024】
(被覆工程)
被覆工程においては、撹拌工程で撹拌した前記液体中でアルコキシシランを重縮合反応させて、鋳型粒子表面上にシリカ層が形成されたシリカ被覆粒子を調製する。
アルコキシシランは、多孔質シリカカプセルを形成する材料であり、鋳型粒子表面上を被覆して、シリカ層を形成するものである。この時、前記界面活性剤が、シリカ層中で複合体を形成する。
【0025】
アルコキシシランは、二つ以上のアルコキシ基が酸素原子においてケイ素原子と結合したものであり、アルコキシ基の加水分解反応、及び重縮合反応により、オリゴマー又はポリマーを形成可能なものであれば特に限定されず、公知のものから適宜選択して使用できる。アルコキシシランのアルコキシ基を構成するアルキル基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等の、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。そして、トリアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランが好ましく、テトラアルコキシシランがより好ましく、テトラエトキシシラン(以下、TEOSと略記する)が特に好ましい。
【0026】
重縮合反応はゾル−ゲル法で行うことが好ましい。この場合、反応温度は20〜40℃であることが好ましく、25〜35℃であることがより好ましい。また、反応時間は0.5〜12時間であることが好ましく、1〜5時間であることがより好ましい。
さらに本発明においては、アルコキシシランの加水分解及び重縮合反応を促進するために、酸又は塩基を使用することが好ましい。酸又は塩基は、通常使用するもので良く、カプセル化工程において良好に焼失させることができる点から、酸であれば有機酸が、塩基であればアンモニアが好ましい。
そして、加水分解及び重縮合反応は、被覆工程の場合と同様の方法で反応液を撹拌しながら行うことが好ましい。
【0027】
(シリカ被覆粒子よりも小さい不溶物を除去する工程)
本発明においては、前記被覆工程と、後述するカプセル化工程との間に、さらに、前記シリカ被覆粒子を含有する液体から、該粒子よりも小さい不溶物を除去する工程(以下、第一の除去工程と略記する)を有することが好ましい。第一の除去工程を有することにより、カプセル化工程後の多孔質シリカカプセルの凝集を一層抑制する共に、純度を一層向上させることができる。ここで、「シリカ被覆粒子よりも小さい不溶物」としては、重縮合反応時の副生成物や未反応物、あるいはこれらの凝集物が例示できる。
【0028】
第一の除去工程は、本発明の効果を妨げない範囲内で、任意の方法が選択できる。例えば、遠心分離により、前記不溶物を含有する上澄みを除去し、沈殿しているシリカ被覆粒子を回収する方法が例示できる。この時の遠心分離は、「シリカ被覆粒子よりも小さい不溶物」が沈降しない程度の、低い遠心力で遠心分離する。
【0029】
(カプセル化工程)
カプセル化工程においては、前記シリカ被覆粒子から、焼成により鋳型粒子及び界面活性剤を除去して、多孔質シリカカプセルを形成する。
焼成の条件は、シリカ層をガラス化できると共に、鋳型粒子及び界面活性剤を除去できる限り、特に限定されない。通常は、400℃以上の温度で4時間以上行うことが好ましい。
【0030】
本発明においては、撹拌工程での界面活性剤の濃度及びアルコールの体積比を、それぞれ所定の範囲に設定することにより、カプセル化工程では、鋳型粒子と類似の粒径分布を有する多孔質シリカカプセルが好適に得られる。すなわち、鋳型粒子の粒径を適宜選択することで、所望の粒径の多孔質シリカカプセルを容易に形成できる。
【0031】
(多孔質シリカカプセルよりも大きい不溶物を除去する工程)
本発明においては、前記カプセル化工程の後に、さらに、多孔質シリカカプセルよりも大きい不溶物を除去する工程(以下、第二の除去工程と略記する)を有することが好ましい。第二の除去工程を有することにより、カプセル化工程後の多孔質シリカカプセルの凝集を一層抑制する共に、純度を一層向上させることができる。ここで、「多孔質シリカカプセルよりも大きい不溶物」としては、焼成時の副生成物やその凝集物が例示できる。
【0032】
第二の除去工程は、本発明の効果を妨げない範囲内で、任意の方法が選択できる。例えば、焼成後の不純物(多孔質シリカカプセルよりも大きい不溶物等)を含有する多孔質シリカカプセルを水中に分散させ、遠心分離により、多孔質シリカカプセルを含有する上澄みを回収して、沈殿している前記不溶物を除去する方法が例示できる。水中への分散時には、撹拌工程における液体の撹拌方法と同様の方法で撹拌を行えば良い。また、遠心分離は第一の除去工程の場合と同様に行えば良い。ただしこの時は、「多孔質シリカカプセルよりも大きい不溶物」よりも小さい多孔質シリカカプセルが沈降しない程度の、低い遠心力で遠心分離する。
【0033】
カプセル化工程後は、前記第二の除去工程や、その他の精製工程を経ることで、高純度の多孔質シリカカプセルが得られる。例えば、溶媒中に分散された状態の多孔質シリカカプセルをろ過することで、容易に多孔質シリカカプセルを取り出せる。
【0034】
上記のように本発明によれば、凝集が抑制されて分散性に優れ、厚さの均一性が高い多孔質シリカカプセルが得られる。
また、細孔を適度の規則性を持って配列させて、周期構造を形成し、多孔質構造の均質性に優れた多孔質シリカカプセルが得られる。
また、界面活性剤の濃度及びアルコールの体積比としてさらに特定の範囲を選択することにより、多孔質シリカカプセルを真球に一層近い形状としたり、カプセルの厚さを調節することができる。
【実施例】
【0035】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
<測定条件>
各種物性の測定は下記条件で行った。
(1)鋳型粒子の凝集有無の確認
HeNeレーザを使用して、鋳型粒子の凝集の有無を観察した。具体的には、アルコキシシランを添加する前の、鋳型粒子、界面活性剤並びに水及びアルコールの混合溶媒を含有する液体(鋳型粒子含有液)をサンプルとして、これを充填したサンプル瓶の側方から、これに直交するようにHeNeレーザを照射し、このレーザ直進方向でサンプル瓶から8.1cm離間した位置に、散乱光強度測定用のスクリーンを配置した。そして、光軸から13.87°の角度で、サンプル瓶の円筒軸方向に散乱された光の強度をスクリーン上で測定した。散乱光強度は、粒子が凝集していると大きく観測され(強度:ILarge)、粒子が凝集していないと小さく観測され(強度:ISmall)る。そこで、散乱光強度がILargeに分類される場合は「凝集あり(×)」と判定し、散乱光強度がISmallに分類される場合は「凝集なし(分散している)(○)」と判定し、中間((ILarge−ISmall)/2+ISmall)付近の散乱光強度を示した場合は「中間(△)」と判定した。
【0037】
鋳型粒子の凝集有無の判定例を、図12を引用しながら説明する。図12は、混合溶媒におけるエタノールの体積比が0.311である場合の、鋳型粒子含有液における界面活性剤の濃度と散乱光強度との関係を示すグラフである。図12に示すように、界面活性剤の濃度が0.11〜0.22mol/Lの場合に、散乱光強度の増加が見られる。そこで、界面活性剤の濃度が0.22mol/L以上の場合には、「散乱光強度がILarge、凝集あり(×)」と判定できる。また、界面活性剤の濃度が0.11mol/L以下の場合には、「散乱光強度がISmall、凝集なし(○)」と判定できる。そして、界面活性剤の濃度が0.16mol/L程度の場合には、「中間(△)」と判定できる。
【0038】
(2)粒径分布測定
鋳型粒子含有液中の鋳型粒子の粒径分布、多孔質シリカカプセル含有液(25.0℃の水)中の多孔質シリカカプセルの粒径分布を、動的光散乱法で測定した。測定には、ゼータ電位・粒径測定装置(ELSZ、大塚電子株式会社製)を使用した。
【0039】
(3)多孔質シリカカプセルの凝集有無の確認
多孔質シリカカプセル含有液を使用して、多孔質シリカカプセルの電子顕微鏡写真を撮像し、多孔質シリカカプセルの凝集の有無を観察した。電子顕微鏡としては、透過型電子顕微鏡(TEM、JEM−1200EXII、日本電子株式会社製)を使用した。パラフィルム上に、グリッド(コロジオン膜貼付メッシュ200、日新EM株式会社製)を載置し、多孔質シリカカプセル含有液1.0μLをグリッド上に滴下して、室温で乾燥させた。これをTEMに挿入して、撮像した。加速電圧は80kVとした。
【0040】
(4)X線回折測定
粉末X線回折装置(GeigerFlex4037,RIGAKU社製)を使用して、多孔質シリカカプセルの細孔構造を解析した。装置の仕様は以下の通りである。
ターゲット:Cu、フィルタ:Ni、X線波長:1.542Å、発散スリット:1/6deg.、散乱スリット:1/6deg.、受光スリット:0.15mm、スキャン速度:0.25°/min、サンプリング幅:0.01°、電圧:40kV、電流:30mA
【0041】
<鋳型粒子の凝集の有無の確認>
[実験例1]
界面活性剤としてカチオン性界面活性剤CTAB(98%CTAB(和光純薬工業株式会社製))、アルコールとしてエタノール(99.5%、和光純薬工業株式会社製)、鋳型粒子分散液としてポリスチレン粒子分散液(10質量/体積%、粒径330nm、標準偏差7nm、(Microparticles社製:PS−R−0.35))を使用して、以下の実験を行った。
【0042】
界面活性剤(目的に応じた所定量)、超純水及びエタノール(目的に応じた所定の混合比で総量15mL)を混合し、これにアンモニア水(25質量%、和光純薬工業株式会社製)(0.1mL)を添加して、混合液を得た。そして、鋳型粒子分散液25μLに超純水を添加して全量を1mLとした希釈分散液を調製し、これを前記混合液に添加して、30℃で10分間、回転子を350rpmで回転させることにより撹拌して、鋳型粒子含有液を得た。
以上の操作を、界面活性剤の濃度、超純水及びエタノールの混合溶媒におけるエタノールの体積比を種々変えて行うことで、鋳型粒子の分散を試み、得られた鋳型粒子含有液中の鋳型粒子の凝集の有無を観察した。
得られた結果を図1に示す。図1は、界面活性剤の濃度とエタノールの体積比ごとの、鋳型粒子の凝集有無の判定結果を示すグラフである。図1中の実線は、鋳型粒子の分散状態と凝集状態との境界線を示す。
【0043】
<エタノールの体積比を変化させた場合の多孔質シリカカプセルの製造>
[実験例2]
界面活性剤の濃度が0.027mol/Lとなるように、また、超純水及びエタノールの混合溶媒におけるエタノールの体積比が0.187(実験例2−1)、0.259(実験例2−2)、0.311(実験例2−3)及び0.373(実験例2−4)となるように、実験例1と同様の方法で4種類の鋳型粒子含有液を調製した。
鋳型粒子は、実験例2−1〜2−4のいずれの場合も凝集せずに、分散性が良好であった。
【0044】
次いで、鋳型粒子含有液に、アルコキシシランとしてTEOS(和光純薬工業株式会社製)(50μL)を添加し、30℃で2時間、回転子を350rpmで回転させることにより撹拌して、ゾル−ゲル反応を行い、TEOSを重縮合反応させて、シリカ被覆粒子を調製した。
次いで、超純水を10mL添加し、7000Gで3分間遠心分離して上澄みを除去する工程を二回繰り返し、さらに、エタノール(99.5%、和光純薬工業株式会社製)を10mL添加し、3000Gで3分間遠心分離して上澄みを除去する工程を二回繰り返して、シリカ被覆粒子よりも小さいサイズの不溶物を除去した。
次いで、上澄みを除去して乾燥させた後の試料をオーブンにセットし、9時間かけて550℃まで昇温させ、6時間この温度を維持することで焼成を行い、多孔質シリカカプセルを形成してから、室温まで自然冷却した。
次いで、得られた焼成物に超純水を添加し、これを超音波洗浄機に30秒間かけることで焼成物を水中に分散させ、2000Gで20秒間遠心分離して上澄みを採取し、凝集物を除去することで、多孔質シリカカプセルよりもサイズが大きい不溶物を除去した。
【0045】
得られた多孔質シリカカプセル含有液を使用して、多孔質シリカカプセルの電子顕微鏡写真を撮像し、多孔質シリカカプセルの凝集の有無を観察した。多孔質シリカカプセルの撮像データを図2に示す。図2は、エタノールの体積比が(a)0.259(実験例2−2)、(b)0.311(実験例2−3)、(c)0.373(実験例2−4)である場合の撮像データである。また、多孔質シリカカプセルの粒径分布を測定したので、図3に鋳型粒子の粒径分布の測定結果とあわせて示す。図3は、エタノールの体積比が(a)0.311(実験例2−3)、(b)0.373(実験例2−4)である場合の、鋳型粒子及び多孔質シリカカプセルの粒径分布の測定結果を示すグラフである。そして、図3中、白抜きで表示している棒グラフが、多孔質シリカカプセルの粒径を示し、パターンを入れて表示している(白抜きではない)棒グラフが、鋳型粒子の粒径を示す。
【0046】
エタノールの体積比が0.187の場合には、多孔質シリカカプセルが形成できていなかったが、図2に示すように、0.259〜0.373の場合には、多孔質シリカカプセルが形成できていた。特にエタノールの体積比が0.311の場合、カプセルの厚さが厚く、表面の凹凸が少なく、より真球に近い形状であり、単分散性が一層良好であった。一方、エタノールの体積比が0.259の場合には、カプセル表面の凹凸が非常に粗く、エタノールの体積比が0.373の場合には、多孔質シリカカプセルの凝集と、カプセルと同程度の大きさの不溶物の形成が見られた。多孔質シリカカプセルの厚さとエタノールの体積比との関係を図4に示す。
また、図3に示すように、鋳型粒子と多孔質シリカカプセルの粒径分布は類似していた。それぞれの平均粒径と標準偏差を表1に示す。
【0047】
<界面活性剤の濃度を変化させた場合の多孔質シリカカプセルの製造>
[実験例3]
超純水及びエタノールの混合溶媒におけるエタノールの体積比が0.311となるように、また、界面活性剤の濃度が0mol/L(実験例3−1)、0.001mol/L(実験例3−2)、0.007mol/L(実験例3−3)、0.014mol/L(実験例3−4)、0.027mol/L(実験例3−5)及び0.054mol/L(実験例3−6)となるように、実験例1と同様の方法で6種類の鋳型粒子含有液を調製した。
鋳型粒子は、実験例3−1〜3−6のいずれの場合も凝集せずに、分散性が良好であった。
【0048】
そして、以下、実験例2と同様の方法で多孔質シリカカプセル含有液を調製し、電子顕微鏡写真を撮像し、多孔質シリカカプセルの凝集の有無を観察した。多孔質シリカカプセルの撮像データを図5に示す。図5は、界面活性剤の濃度が(a)0.001mol/L(実験例3−2)、(b)0.007mol/L(実験例3−3)、(c)0.014mol/L(実験例3−4)、(d)0.027mol/L(実験例3−5)、(e)0.054mol/L(実験例3−6)である場合の撮像データである。また、多孔質シリカカプセルの粒径分布を測定したので、図6に鋳型粒子の粒径分布の測定結果とあわせて示す。図6は、界面活性剤の濃度が(a)0.001mol/L(実験例3−2)、(b)0.007mol/L(実験例3−3)、(c)0.014mol/L(実験例3−4)、(d)0.027mol/L(実験例3−5)、(e)0.054mol/L(実験例3−6)である場合の、鋳型粒子及び多孔質シリカカプセルの粒径分布の測定結果を示すグラフである。そして、図6中、白抜きで表示している棒グラフが、多孔質シリカカプセルの粒径を示し、パターンを入れて表示している(白抜きではない)棒グラフが、鋳型粒子の粒径を示す。
【0049】
界面活性剤の濃度が0mol/Lの場合には、多孔質シリカカプセルが形成できていなかった。界面活性剤の濃度が0.001〜0.054mol/Lの場合には、多孔質シリカカプセルが形成できていた。特に0.007mol/L、0.014mol/Lの場合には、カプセルの厚さが厚く、表面の凹凸が少なく、より真球に近い形状であり、単分散性が良好であった。一方、界面活性剤の濃度が0.001mol/L、0.027mol/L、0.054mol/Lの場合には、多孔質シリカカプセルの凝集が見られた。多孔質シリカカプセルの厚さと界面活性剤の濃度との関係を図7に示す。
【0050】
また、図6に示すように、特に界面活性剤の濃度が0.007mol/L、0.014mol/Lの場合には、鋳型粒子と多孔質シリカカプセルの粒径分布は類似していた。それぞれの平均粒径と標準偏差を表1に示す。
【0051】
界面活性剤の濃度が(c)0.014mol/Lの場合(実験例3−4)で調製した試料を焼成して、得られた多孔質シリカカプセルをオーブンから取り出し、粉末X線回折装置(GeigerFlex4037,RIGAKU社製)を使用して、その細孔構造を解析した。この時得られた測定結果を図8に示す。
また、鋳型粒子として、表面をカチオン性高分子電解質でコーティングすることで、表面電荷をプラスにしたものを使用し、界面活性剤の濃度を0mol/Lとし、エタノールの体積比を0.924とし、アンモニア水を0.333mL使用し、TEOSを167μL使用したこと以外は、実験例3−4と同様にカプセルを形成し、取り出した。この時、シリカカプセルは形成できたが、分散性が悪いことが、電子顕微鏡写真の撮像データから確認できた。そして、得られたカプセルを、上記と同様に粉末X線回折装置(GeigerFlex4037,RIGAKU社製)を使用して解析した。
【0052】
その結果、図8に示すように、界面活性剤の濃度が0mol/Lの場合には、回折ピークが全く観測されなかったが、界面活性剤の濃度が(c)0.014mol/Lの場合(実験例3−4)には、2θ=1.37°、2.56°に相当する部位にそれぞれ回折ピークが観測された。このように、界面活性剤を使用することで、多孔質シリカカプセルとして、適度の規則性を持って細孔が配列され(周期構造を有し)、多孔質構造の均質性に優れたものを形成できることが確認できた。
【0053】
<鋳型粒子の使用量を変化させた場合の多孔質シリカカプセルの製造>
[実験例4]
鋳型粒子分散液50μLに超純水を添加して全量を2mLとした希釈分散液を調製し、これを全量使用(鋳型粒子を二倍量使用)して、界面活性剤の濃度が0.014mol/Lとなるように鋳型粒子含有液を調製したこと以外は、実験例3(実験例3−4)と同様に多孔質シリカカプセル含有液を調製した。この時の鋳型粒子及び多孔質シリカカプセルの粒径分布の測定結果を図9に示す。また、多孔質シリカカプセルの撮像データを図10に示す。さらに、多孔質シリカカプセルの厚さと鋳型粒子の量との関係を、実験例3の界面活性剤の濃度が(c)0.014mol/Lの場合(実験例3−4)と共に図11に示す。図11中、横軸が「1倍」のものが実験例3−4に、「2倍」のものが実験例4にそれぞれ該当する。
【0054】
上記の実験例3−4の場合に対して、鋳型粒子を二倍量使用しても、鋳型粒子は凝集せず、分散性が良好であった。また、多孔質シリカカプセルは、凝集が見られず、カプセルの厚さが厚く、表面の凹凸が少なく、より真球に近い形状であり、単分散性が良好であった。また、鋳型粒子と多孔質シリカカプセルの粒径分布も類似していた。それぞれの平均粒径と標準偏差を表1に示す。
【0055】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、ドラッグ・デリバリ・システム(DDS)におけるドラッグ・キャリア等、マイクロカプセル全般に利用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集が抑制された多孔質シリカカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質シリカカプセルは、多孔質状のシリカの殻を有する中空状のカプセルである。このようなカプセルは、微小なマイクロカプセルとして、中空部に物質を充填して使用する用途が有望視されているが、シリカは生体適合性を有するので、そのカプセルは、ドラッグ・デリバリ・システム(DDS)におけるドラッグ・キャリアへの応用が特に期待されている。
【0003】
多孔質シリカカプセルの製造方法としては、粒子状の鋳型と、カプセルに細孔構造を形成する界面活性剤とを使用して、鋳型上にシリカ層を形成し、鋳型と界面活性剤を焼成等により除去する方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。鋳型としては、気泡、エマルション、ベシクル、樹脂製の粒子等が使用される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Mu,Y.;Ge,W.;Zhenzhong,Y. Mater.Chem.Phys.2008,111,5.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これまでに開示されている製造方法で得られた多孔質シリカカプセルは、凝集し易くて分散性が劣っていたり、カプセルの厚さが不均一で形状に凹凸があるなど、カプセルに求められる性状のすべてを高い次元で備えるものが無いのが実情であった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、凝集が抑制されて分散性に優れ、厚さの均一性が高い多孔質シリカカプセルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、
本発明は、鋳型を使用して多孔質シリカカプセルを製造する方法であって、鋳型となる粒子及び界面活性剤、並びに水及びアルコールの混合溶媒を含有する液体を撹拌する工程と、撹拌した前記液体中でアルコキシシランを重縮合反応させて、前記粒子表面上にシリカ層が形成されたシリカ被覆粒子を調製する工程と、前記シリカ被覆粒子から、焼成により前記粒子及び界面活性剤を除去して、多孔質シリカカプセルを形成する工程と、を有し、前記液体を撹拌する工程における、前記界面活性剤の濃度を0.003〜0.021mol/Lとし、且つ前記水及びアルコールの混合溶媒におけるアルコールの体積比を0.27〜0.35とすることを特徴とする多孔質シリカカプセルの製造方法を提供する。
本発明の多孔質シリカカプセルの製造方法においては、前記シリカ被覆粒子を調製する工程と、前記多孔質シリカカプセルを形成する工程との間に、さらに、前記シリカ被覆粒子を含有する液体から、該粒子よりも小さい不溶物を除去する工程を有することが好ましい。
本発明の多孔質シリカカプセルの製造方法においては、前記多孔質シリカカプセルを形成する工程の後に、さらに、該カプセルよりも大きい不溶物を除去する工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、凝集が抑制されて分散性に優れ、厚さの均一性が高い多孔質シリカカプセルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実験例1における鋳型粒子の凝集有無の判定結果を示すグラフである。
【図2】実験例2における多孔質シリカカプセルの撮像データであり、エタノールの体積比が(a)0.259、(b)0.311、(c)0.373である場合の撮像データである。
【図3】実験例2における鋳型粒子及び多孔質シリカカプセルの粒径分布の測定結果を示すグラフであり、エタノールの体積比が(a)0.311、(b)0.373である場合のグラフである。
【図4】実験例2における多孔質シリカカプセルの厚さとエタノールの体積比との関係を示すグラフである。
【図5】実験例3における多孔質シリカカプセルの撮像データであり、界面活性剤の濃度が(a)0.001mol/L、(b)0.007mol/L、(c)0.014mol/L、(d)0.027mol/L、(e)0.054mol/Lである場合の撮像データである。
【図6】実験例3における鋳型粒子及び多孔質シリカカプセルの粒径分布の測定結果を示すグラフであり、界面活性剤の濃度が(a)0.001mol/L、(b)0.007mol/L、(c)0.014mol/L、(d)0.027mol/L、(e)0.054mol/Lである場合のグラフである。
【図7】実験例3における多孔質シリカカプセルの厚さと界面活性剤の濃度との関係を示すグラフである。
【図8】実験例3(実験例3−4)におけるX線回折測定の結果示すグラフである。
【図9】実験例4における鋳型粒子及び多孔質シリカカプセルの粒径分布の測定結果を示すグラフである。
【図10】実験例4における多孔質シリカカプセルの撮像データである。
【図11】実験例4における多孔質シリカカプセルの厚さと界面活性剤の濃度との関係を、実験例3(実験例3−4)の場合と共に示すグラフである。
【図12】混合溶媒におけるエタノールの体積比が0.311である場合の、鋳型粒子含有液における界面活性剤の濃度と散乱光強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の多孔質シリカカプセルの製造方法は、鋳型を使用して多孔質シリカカプセルを製造する方法であって、鋳型となる粒子及び界面活性剤、並びに水及びアルコールの混合溶媒を含有する液体を撹拌する工程(以下、撹拌工程と略記する)と、撹拌した前記液体中でアルコキシシランを重縮合反応させて、前記粒子表面上にシリカ層が形成されたシリカ被覆粒子を調製する工程(以下、被覆工程と略記する)と、前記シリカ被覆粒子から、焼成により前記粒子及び界面活性剤を除去して、多孔質シリカカプセルを形成する工程(以下、カプセル化工程と略記する)と、を有し、前記撹拌工程における、前記界面活性剤の濃度を0.003〜0.021mol/Lとし、且つ前記水及びアルコールの混合溶媒におけるアルコールの体積比を0.27〜0.35とすることを特徴とする。
【0011】
本発明は、撹拌工程での界面活性剤の濃度、前記混合溶媒におけるアルコールの体積比を調節することにより、多孔質シリカカプセルの分散性と厚さの均一性を調節するものである。具体的には、界面活性剤の濃度、混合溶媒におけるアルコールの体積比を所定の範囲に設定することにより、撹拌工程において、鋳型となる粒子(以下、鋳型粒子と略記する)の凝集を効果的に抑制し、このような鋳型粒子を使用して多孔質シリカカプセルを形成することで、凝集が抑制されて分散性に優れ、厚さの均一性が高い多孔質シリカカプセルを得るものである。なお、本発明において、「カプセルの厚さ」とは、カプセルを構成する多孔質シリカ層の殻の厚さを指す。
本発明により得られる多孔質シリカカプセルは、例えば、DDS等への適用に好適なものである。
【0012】
(撹拌工程)
撹拌工程においては、鋳型粒子、界面活性剤並びに水及びアルコールの混合溶媒を含有する液体を撹拌する。
鋳型粒子の材質は、後述するカプセル化工程での焼成時の加熱で除去できるものであれば、特に限定されず、各種樹脂等、公知のものから任意に選択できる。好ましいものとして具体的には、ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸共重合体等が例示できる。
鋳型粒子は表面処理が施されていても良く、例えば、マイナス電荷を帯びている表面をカチオン性物質でコーティングしたものや、プラス電荷を帯びている表面をアニオン性物質でコーティングしたものも使用できる。前記カチオン性物質又はアニオン性物質の好ましいものとしては、高分子電解質が例示できる。
【0013】
鋳型粒子の粒径は、目的に応じて適宜選択すれば良い。例えば、DDS等のドラッグ・キャリアへの適用に好適なマイクロカプセルの製造には、通常、平均粒径が100〜1000nm程度であることが好ましく、200〜800nm程度であることがより好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0014】
界面活性剤は、被覆工程で鋳型粒子表面上のシリカ層中で複合体を形成し、鋳型として機能して、後述するカプセル化工程で細孔を形成するものである。そして、その分子長を調整することで、細孔の孔径を調整できる。また、細孔を適度の規則性を持って配列させ、周期構造を形成する。さらに、界面活性剤は、その濃度を調整することで、撹拌工程においては、鋳型粒子の凝集を抑制して分散性を向上させ、その結果、カプセル化工程後においては、多孔質シリカカプセルの凝集を抑制して分散性を向上させる。
【0015】
界面活性剤は、カプセル化工程で除去できるものから適宜選択すれば良いが、カチオン性界面活性剤が好ましく、第四級アンモニウム塩がより好ましく、具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等のテトラアルキルアンモニウム塩;アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等のトリアルキルアンモニウム塩が例示できる。塩を構成するアニオンは、塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲンイオンが好ましい。そして、特に好ましい界面活性剤として具体的には、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)が例示できる。
【0016】
撹拌工程における界面活性剤の濃度は、0.003〜0.021mol/Lである。このような範囲とすることで、多孔質シリカカプセルの凝集が抑制されて分散性に優れ、厚さの均一性が高くなる効果が得られる。さらに、撹拌工程における界面活性剤の濃度は、0.005〜0.017mol/Lであることがより好ましい。このような範囲とすることで、多孔質シリカカプセルの厚さが厚くなって表面の凹凸が少なくなり、形状がより真球に近くなる一層優れた効果が得られる。ここで、「界面活性剤の濃度」とは、撹拌工程における前記液体のうち溶媒成分の体積全量(L)に対する界面活性剤の量(mol数)を示す。
【0017】
水及びアルコールの混合溶媒に使用するアルコールは、その混合溶媒における体積比を調整することで、撹拌工程においては、鋳型粒子の凝集を抑制して分散性を向上させ、その結果、カプセル化工程後においては、多孔質シリカカプセルの凝集を抑制して分散性を向上させる。
【0018】
撹拌工程において、前記混合溶媒に使用するアルコールは、被覆工程で使用するアルコキシシランの種類に応じて選択することが好ましい。具体的には、アルコキシシランのアルコキシ基を構成する、酸素原子に結合しているアルキル基と同じアルキル基に水酸基が結合したものが好ましい。より具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等が例示できる。
【0019】
前記混合溶媒におけるアルコールの体積比は、0.27〜0.35である。このような範囲とすることで、多孔質シリカカプセルの凝集が抑制されて分散性に優れ、厚さの均一性が高くなる効果が得られる。さらに、前記混合溶媒におけるアルコールの体積比は、0.29〜0.33であることが好ましい。このような範囲とすることで、多孔質シリカカプセルの厚さが厚くなって表面の凹凸が少なくなり、形状がより真球に近くなる一層優れた効果が得られる。
【0020】
撹拌工程において、前記液体は、本発明の効果を妨げない範囲内において、鋳型粒子、界面活性剤、並びに水及びアルコールの混合溶媒以外のその他の成分を含有していても良い。例えば、被覆工程でのアルコキシシランの加水分解及び重縮合反応に必要な酸又は塩基を、予めその他の成分として、含有していても良い。
【0021】
撹拌工程において、前記液体中における溶媒成分の総量に占める水及びアルコールの混合溶媒の比率は、90体積%以上であることが好ましく、95体積%以上であることがより好ましく、98体積%以上であることが特に好ましく、100体積%であっても良い。前記混合溶媒の比率が高いほど、一層優れた効果が得られる。
【0022】
撹拌方法は、成分を混合して鋳型粒子を分散できるような方法であれば特に限定されず、撹拌翼や回転子を使用した撹拌、超音波による撹拌等、公知のいずれの方法も適用できる。例えば、撹拌する液体の量が30mL以下程度である場合には、撹拌翼や回転子を300〜400rpm程度の回転速度で回転させる方法が例示できる。回転速度は、液体の量に応じて、適宜調整すると良い。
撹拌条件は、撹拌方法に応じて調整すれば良いが、通常、温度は20〜40℃であることが好ましく、25〜35℃であることが好ましい。そして、撹拌時間は3〜30分であることが好ましく、5〜15分であることがより好ましい。
【0023】
撹拌工程で得られた鋳型粒子含有液中では、鋳型粒子が良好に分散し、凝集が抑制される。鋳型粒子の凝集を抑制するだけであれば、前記界面活性剤の濃度は0.003〜0.021mol/Lよりも広い範囲に設定でき、前記混合溶媒におけるアルコールの体積比も0.27〜0.35よりも広い範囲に設定できる。例えば、前記界面活性剤の濃度を0〜0.7mol/Lとし、前記混合溶媒におけるアルコールの体積比を0.1〜0.95として、それぞれ適切な数値範囲を選択して組み合わせることで、鋳型粒子を良好に分散させることができる。特に、前記界面活性剤の濃度を好ましくは0〜0.7mol/L、より好ましくは0.05〜0.6mol/Lとし、且つアルコールの体積比を好ましくは0.1〜0.25、より好ましくは0.1〜0.2とすることで、あるいは前記界面活性剤の濃度を好ましくは0〜0.15mol/L、より好ましくは0.01〜0.13mol/Lとし、且つアルコールの体積比を好ましくは0.1〜0.6、より好ましくは0.25〜0.58とすることで、鋳型粒子の凝集を抑制し、良好に分散させる一層優れた効果が得られる。
一方、本発明のように、多孔質シリカカプセルの凝集を抑制して、厚さの均一性を高めるためには、界面活性剤の濃度及びアルコールの体積比をさらに特定の範囲にまで狭めることが必要となる。
【0024】
(被覆工程)
被覆工程においては、撹拌工程で撹拌した前記液体中でアルコキシシランを重縮合反応させて、鋳型粒子表面上にシリカ層が形成されたシリカ被覆粒子を調製する。
アルコキシシランは、多孔質シリカカプセルを形成する材料であり、鋳型粒子表面上を被覆して、シリカ層を形成するものである。この時、前記界面活性剤が、シリカ層中で複合体を形成する。
【0025】
アルコキシシランは、二つ以上のアルコキシ基が酸素原子においてケイ素原子と結合したものであり、アルコキシ基の加水分解反応、及び重縮合反応により、オリゴマー又はポリマーを形成可能なものであれば特に限定されず、公知のものから適宜選択して使用できる。アルコキシシランのアルコキシ基を構成するアルキル基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等の、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。そして、トリアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランが好ましく、テトラアルコキシシランがより好ましく、テトラエトキシシラン(以下、TEOSと略記する)が特に好ましい。
【0026】
重縮合反応はゾル−ゲル法で行うことが好ましい。この場合、反応温度は20〜40℃であることが好ましく、25〜35℃であることがより好ましい。また、反応時間は0.5〜12時間であることが好ましく、1〜5時間であることがより好ましい。
さらに本発明においては、アルコキシシランの加水分解及び重縮合反応を促進するために、酸又は塩基を使用することが好ましい。酸又は塩基は、通常使用するもので良く、カプセル化工程において良好に焼失させることができる点から、酸であれば有機酸が、塩基であればアンモニアが好ましい。
そして、加水分解及び重縮合反応は、被覆工程の場合と同様の方法で反応液を撹拌しながら行うことが好ましい。
【0027】
(シリカ被覆粒子よりも小さい不溶物を除去する工程)
本発明においては、前記被覆工程と、後述するカプセル化工程との間に、さらに、前記シリカ被覆粒子を含有する液体から、該粒子よりも小さい不溶物を除去する工程(以下、第一の除去工程と略記する)を有することが好ましい。第一の除去工程を有することにより、カプセル化工程後の多孔質シリカカプセルの凝集を一層抑制する共に、純度を一層向上させることができる。ここで、「シリカ被覆粒子よりも小さい不溶物」としては、重縮合反応時の副生成物や未反応物、あるいはこれらの凝集物が例示できる。
【0028】
第一の除去工程は、本発明の効果を妨げない範囲内で、任意の方法が選択できる。例えば、遠心分離により、前記不溶物を含有する上澄みを除去し、沈殿しているシリカ被覆粒子を回収する方法が例示できる。この時の遠心分離は、「シリカ被覆粒子よりも小さい不溶物」が沈降しない程度の、低い遠心力で遠心分離する。
【0029】
(カプセル化工程)
カプセル化工程においては、前記シリカ被覆粒子から、焼成により鋳型粒子及び界面活性剤を除去して、多孔質シリカカプセルを形成する。
焼成の条件は、シリカ層をガラス化できると共に、鋳型粒子及び界面活性剤を除去できる限り、特に限定されない。通常は、400℃以上の温度で4時間以上行うことが好ましい。
【0030】
本発明においては、撹拌工程での界面活性剤の濃度及びアルコールの体積比を、それぞれ所定の範囲に設定することにより、カプセル化工程では、鋳型粒子と類似の粒径分布を有する多孔質シリカカプセルが好適に得られる。すなわち、鋳型粒子の粒径を適宜選択することで、所望の粒径の多孔質シリカカプセルを容易に形成できる。
【0031】
(多孔質シリカカプセルよりも大きい不溶物を除去する工程)
本発明においては、前記カプセル化工程の後に、さらに、多孔質シリカカプセルよりも大きい不溶物を除去する工程(以下、第二の除去工程と略記する)を有することが好ましい。第二の除去工程を有することにより、カプセル化工程後の多孔質シリカカプセルの凝集を一層抑制する共に、純度を一層向上させることができる。ここで、「多孔質シリカカプセルよりも大きい不溶物」としては、焼成時の副生成物やその凝集物が例示できる。
【0032】
第二の除去工程は、本発明の効果を妨げない範囲内で、任意の方法が選択できる。例えば、焼成後の不純物(多孔質シリカカプセルよりも大きい不溶物等)を含有する多孔質シリカカプセルを水中に分散させ、遠心分離により、多孔質シリカカプセルを含有する上澄みを回収して、沈殿している前記不溶物を除去する方法が例示できる。水中への分散時には、撹拌工程における液体の撹拌方法と同様の方法で撹拌を行えば良い。また、遠心分離は第一の除去工程の場合と同様に行えば良い。ただしこの時は、「多孔質シリカカプセルよりも大きい不溶物」よりも小さい多孔質シリカカプセルが沈降しない程度の、低い遠心力で遠心分離する。
【0033】
カプセル化工程後は、前記第二の除去工程や、その他の精製工程を経ることで、高純度の多孔質シリカカプセルが得られる。例えば、溶媒中に分散された状態の多孔質シリカカプセルをろ過することで、容易に多孔質シリカカプセルを取り出せる。
【0034】
上記のように本発明によれば、凝集が抑制されて分散性に優れ、厚さの均一性が高い多孔質シリカカプセルが得られる。
また、細孔を適度の規則性を持って配列させて、周期構造を形成し、多孔質構造の均質性に優れた多孔質シリカカプセルが得られる。
また、界面活性剤の濃度及びアルコールの体積比としてさらに特定の範囲を選択することにより、多孔質シリカカプセルを真球に一層近い形状としたり、カプセルの厚さを調節することができる。
【実施例】
【0035】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
<測定条件>
各種物性の測定は下記条件で行った。
(1)鋳型粒子の凝集有無の確認
HeNeレーザを使用して、鋳型粒子の凝集の有無を観察した。具体的には、アルコキシシランを添加する前の、鋳型粒子、界面活性剤並びに水及びアルコールの混合溶媒を含有する液体(鋳型粒子含有液)をサンプルとして、これを充填したサンプル瓶の側方から、これに直交するようにHeNeレーザを照射し、このレーザ直進方向でサンプル瓶から8.1cm離間した位置に、散乱光強度測定用のスクリーンを配置した。そして、光軸から13.87°の角度で、サンプル瓶の円筒軸方向に散乱された光の強度をスクリーン上で測定した。散乱光強度は、粒子が凝集していると大きく観測され(強度:ILarge)、粒子が凝集していないと小さく観測され(強度:ISmall)る。そこで、散乱光強度がILargeに分類される場合は「凝集あり(×)」と判定し、散乱光強度がISmallに分類される場合は「凝集なし(分散している)(○)」と判定し、中間((ILarge−ISmall)/2+ISmall)付近の散乱光強度を示した場合は「中間(△)」と判定した。
【0037】
鋳型粒子の凝集有無の判定例を、図12を引用しながら説明する。図12は、混合溶媒におけるエタノールの体積比が0.311である場合の、鋳型粒子含有液における界面活性剤の濃度と散乱光強度との関係を示すグラフである。図12に示すように、界面活性剤の濃度が0.11〜0.22mol/Lの場合に、散乱光強度の増加が見られる。そこで、界面活性剤の濃度が0.22mol/L以上の場合には、「散乱光強度がILarge、凝集あり(×)」と判定できる。また、界面活性剤の濃度が0.11mol/L以下の場合には、「散乱光強度がISmall、凝集なし(○)」と判定できる。そして、界面活性剤の濃度が0.16mol/L程度の場合には、「中間(△)」と判定できる。
【0038】
(2)粒径分布測定
鋳型粒子含有液中の鋳型粒子の粒径分布、多孔質シリカカプセル含有液(25.0℃の水)中の多孔質シリカカプセルの粒径分布を、動的光散乱法で測定した。測定には、ゼータ電位・粒径測定装置(ELSZ、大塚電子株式会社製)を使用した。
【0039】
(3)多孔質シリカカプセルの凝集有無の確認
多孔質シリカカプセル含有液を使用して、多孔質シリカカプセルの電子顕微鏡写真を撮像し、多孔質シリカカプセルの凝集の有無を観察した。電子顕微鏡としては、透過型電子顕微鏡(TEM、JEM−1200EXII、日本電子株式会社製)を使用した。パラフィルム上に、グリッド(コロジオン膜貼付メッシュ200、日新EM株式会社製)を載置し、多孔質シリカカプセル含有液1.0μLをグリッド上に滴下して、室温で乾燥させた。これをTEMに挿入して、撮像した。加速電圧は80kVとした。
【0040】
(4)X線回折測定
粉末X線回折装置(GeigerFlex4037,RIGAKU社製)を使用して、多孔質シリカカプセルの細孔構造を解析した。装置の仕様は以下の通りである。
ターゲット:Cu、フィルタ:Ni、X線波長:1.542Å、発散スリット:1/6deg.、散乱スリット:1/6deg.、受光スリット:0.15mm、スキャン速度:0.25°/min、サンプリング幅:0.01°、電圧:40kV、電流:30mA
【0041】
<鋳型粒子の凝集の有無の確認>
[実験例1]
界面活性剤としてカチオン性界面活性剤CTAB(98%CTAB(和光純薬工業株式会社製))、アルコールとしてエタノール(99.5%、和光純薬工業株式会社製)、鋳型粒子分散液としてポリスチレン粒子分散液(10質量/体積%、粒径330nm、標準偏差7nm、(Microparticles社製:PS−R−0.35))を使用して、以下の実験を行った。
【0042】
界面活性剤(目的に応じた所定量)、超純水及びエタノール(目的に応じた所定の混合比で総量15mL)を混合し、これにアンモニア水(25質量%、和光純薬工業株式会社製)(0.1mL)を添加して、混合液を得た。そして、鋳型粒子分散液25μLに超純水を添加して全量を1mLとした希釈分散液を調製し、これを前記混合液に添加して、30℃で10分間、回転子を350rpmで回転させることにより撹拌して、鋳型粒子含有液を得た。
以上の操作を、界面活性剤の濃度、超純水及びエタノールの混合溶媒におけるエタノールの体積比を種々変えて行うことで、鋳型粒子の分散を試み、得られた鋳型粒子含有液中の鋳型粒子の凝集の有無を観察した。
得られた結果を図1に示す。図1は、界面活性剤の濃度とエタノールの体積比ごとの、鋳型粒子の凝集有無の判定結果を示すグラフである。図1中の実線は、鋳型粒子の分散状態と凝集状態との境界線を示す。
【0043】
<エタノールの体積比を変化させた場合の多孔質シリカカプセルの製造>
[実験例2]
界面活性剤の濃度が0.027mol/Lとなるように、また、超純水及びエタノールの混合溶媒におけるエタノールの体積比が0.187(実験例2−1)、0.259(実験例2−2)、0.311(実験例2−3)及び0.373(実験例2−4)となるように、実験例1と同様の方法で4種類の鋳型粒子含有液を調製した。
鋳型粒子は、実験例2−1〜2−4のいずれの場合も凝集せずに、分散性が良好であった。
【0044】
次いで、鋳型粒子含有液に、アルコキシシランとしてTEOS(和光純薬工業株式会社製)(50μL)を添加し、30℃で2時間、回転子を350rpmで回転させることにより撹拌して、ゾル−ゲル反応を行い、TEOSを重縮合反応させて、シリカ被覆粒子を調製した。
次いで、超純水を10mL添加し、7000Gで3分間遠心分離して上澄みを除去する工程を二回繰り返し、さらに、エタノール(99.5%、和光純薬工業株式会社製)を10mL添加し、3000Gで3分間遠心分離して上澄みを除去する工程を二回繰り返して、シリカ被覆粒子よりも小さいサイズの不溶物を除去した。
次いで、上澄みを除去して乾燥させた後の試料をオーブンにセットし、9時間かけて550℃まで昇温させ、6時間この温度を維持することで焼成を行い、多孔質シリカカプセルを形成してから、室温まで自然冷却した。
次いで、得られた焼成物に超純水を添加し、これを超音波洗浄機に30秒間かけることで焼成物を水中に分散させ、2000Gで20秒間遠心分離して上澄みを採取し、凝集物を除去することで、多孔質シリカカプセルよりもサイズが大きい不溶物を除去した。
【0045】
得られた多孔質シリカカプセル含有液を使用して、多孔質シリカカプセルの電子顕微鏡写真を撮像し、多孔質シリカカプセルの凝集の有無を観察した。多孔質シリカカプセルの撮像データを図2に示す。図2は、エタノールの体積比が(a)0.259(実験例2−2)、(b)0.311(実験例2−3)、(c)0.373(実験例2−4)である場合の撮像データである。また、多孔質シリカカプセルの粒径分布を測定したので、図3に鋳型粒子の粒径分布の測定結果とあわせて示す。図3は、エタノールの体積比が(a)0.311(実験例2−3)、(b)0.373(実験例2−4)である場合の、鋳型粒子及び多孔質シリカカプセルの粒径分布の測定結果を示すグラフである。そして、図3中、白抜きで表示している棒グラフが、多孔質シリカカプセルの粒径を示し、パターンを入れて表示している(白抜きではない)棒グラフが、鋳型粒子の粒径を示す。
【0046】
エタノールの体積比が0.187の場合には、多孔質シリカカプセルが形成できていなかったが、図2に示すように、0.259〜0.373の場合には、多孔質シリカカプセルが形成できていた。特にエタノールの体積比が0.311の場合、カプセルの厚さが厚く、表面の凹凸が少なく、より真球に近い形状であり、単分散性が一層良好であった。一方、エタノールの体積比が0.259の場合には、カプセル表面の凹凸が非常に粗く、エタノールの体積比が0.373の場合には、多孔質シリカカプセルの凝集と、カプセルと同程度の大きさの不溶物の形成が見られた。多孔質シリカカプセルの厚さとエタノールの体積比との関係を図4に示す。
また、図3に示すように、鋳型粒子と多孔質シリカカプセルの粒径分布は類似していた。それぞれの平均粒径と標準偏差を表1に示す。
【0047】
<界面活性剤の濃度を変化させた場合の多孔質シリカカプセルの製造>
[実験例3]
超純水及びエタノールの混合溶媒におけるエタノールの体積比が0.311となるように、また、界面活性剤の濃度が0mol/L(実験例3−1)、0.001mol/L(実験例3−2)、0.007mol/L(実験例3−3)、0.014mol/L(実験例3−4)、0.027mol/L(実験例3−5)及び0.054mol/L(実験例3−6)となるように、実験例1と同様の方法で6種類の鋳型粒子含有液を調製した。
鋳型粒子は、実験例3−1〜3−6のいずれの場合も凝集せずに、分散性が良好であった。
【0048】
そして、以下、実験例2と同様の方法で多孔質シリカカプセル含有液を調製し、電子顕微鏡写真を撮像し、多孔質シリカカプセルの凝集の有無を観察した。多孔質シリカカプセルの撮像データを図5に示す。図5は、界面活性剤の濃度が(a)0.001mol/L(実験例3−2)、(b)0.007mol/L(実験例3−3)、(c)0.014mol/L(実験例3−4)、(d)0.027mol/L(実験例3−5)、(e)0.054mol/L(実験例3−6)である場合の撮像データである。また、多孔質シリカカプセルの粒径分布を測定したので、図6に鋳型粒子の粒径分布の測定結果とあわせて示す。図6は、界面活性剤の濃度が(a)0.001mol/L(実験例3−2)、(b)0.007mol/L(実験例3−3)、(c)0.014mol/L(実験例3−4)、(d)0.027mol/L(実験例3−5)、(e)0.054mol/L(実験例3−6)である場合の、鋳型粒子及び多孔質シリカカプセルの粒径分布の測定結果を示すグラフである。そして、図6中、白抜きで表示している棒グラフが、多孔質シリカカプセルの粒径を示し、パターンを入れて表示している(白抜きではない)棒グラフが、鋳型粒子の粒径を示す。
【0049】
界面活性剤の濃度が0mol/Lの場合には、多孔質シリカカプセルが形成できていなかった。界面活性剤の濃度が0.001〜0.054mol/Lの場合には、多孔質シリカカプセルが形成できていた。特に0.007mol/L、0.014mol/Lの場合には、カプセルの厚さが厚く、表面の凹凸が少なく、より真球に近い形状であり、単分散性が良好であった。一方、界面活性剤の濃度が0.001mol/L、0.027mol/L、0.054mol/Lの場合には、多孔質シリカカプセルの凝集が見られた。多孔質シリカカプセルの厚さと界面活性剤の濃度との関係を図7に示す。
【0050】
また、図6に示すように、特に界面活性剤の濃度が0.007mol/L、0.014mol/Lの場合には、鋳型粒子と多孔質シリカカプセルの粒径分布は類似していた。それぞれの平均粒径と標準偏差を表1に示す。
【0051】
界面活性剤の濃度が(c)0.014mol/Lの場合(実験例3−4)で調製した試料を焼成して、得られた多孔質シリカカプセルをオーブンから取り出し、粉末X線回折装置(GeigerFlex4037,RIGAKU社製)を使用して、その細孔構造を解析した。この時得られた測定結果を図8に示す。
また、鋳型粒子として、表面をカチオン性高分子電解質でコーティングすることで、表面電荷をプラスにしたものを使用し、界面活性剤の濃度を0mol/Lとし、エタノールの体積比を0.924とし、アンモニア水を0.333mL使用し、TEOSを167μL使用したこと以外は、実験例3−4と同様にカプセルを形成し、取り出した。この時、シリカカプセルは形成できたが、分散性が悪いことが、電子顕微鏡写真の撮像データから確認できた。そして、得られたカプセルを、上記と同様に粉末X線回折装置(GeigerFlex4037,RIGAKU社製)を使用して解析した。
【0052】
その結果、図8に示すように、界面活性剤の濃度が0mol/Lの場合には、回折ピークが全く観測されなかったが、界面活性剤の濃度が(c)0.014mol/Lの場合(実験例3−4)には、2θ=1.37°、2.56°に相当する部位にそれぞれ回折ピークが観測された。このように、界面活性剤を使用することで、多孔質シリカカプセルとして、適度の規則性を持って細孔が配列され(周期構造を有し)、多孔質構造の均質性に優れたものを形成できることが確認できた。
【0053】
<鋳型粒子の使用量を変化させた場合の多孔質シリカカプセルの製造>
[実験例4]
鋳型粒子分散液50μLに超純水を添加して全量を2mLとした希釈分散液を調製し、これを全量使用(鋳型粒子を二倍量使用)して、界面活性剤の濃度が0.014mol/Lとなるように鋳型粒子含有液を調製したこと以外は、実験例3(実験例3−4)と同様に多孔質シリカカプセル含有液を調製した。この時の鋳型粒子及び多孔質シリカカプセルの粒径分布の測定結果を図9に示す。また、多孔質シリカカプセルの撮像データを図10に示す。さらに、多孔質シリカカプセルの厚さと鋳型粒子の量との関係を、実験例3の界面活性剤の濃度が(c)0.014mol/Lの場合(実験例3−4)と共に図11に示す。図11中、横軸が「1倍」のものが実験例3−4に、「2倍」のものが実験例4にそれぞれ該当する。
【0054】
上記の実験例3−4の場合に対して、鋳型粒子を二倍量使用しても、鋳型粒子は凝集せず、分散性が良好であった。また、多孔質シリカカプセルは、凝集が見られず、カプセルの厚さが厚く、表面の凹凸が少なく、より真球に近い形状であり、単分散性が良好であった。また、鋳型粒子と多孔質シリカカプセルの粒径分布も類似していた。それぞれの平均粒径と標準偏差を表1に示す。
【0055】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、ドラッグ・デリバリ・システム(DDS)におけるドラッグ・キャリア等、マイクロカプセル全般に利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型を使用して多孔質シリカカプセルを製造する方法であって、
鋳型となる粒子及び界面活性剤、並びに水及びアルコールの混合溶媒を含有する液体を撹拌する工程と、
撹拌した前記液体中でアルコキシシランを重縮合反応させて、前記粒子表面上にシリカ層が形成されたシリカ被覆粒子を調製する工程と、
前記シリカ被覆粒子から、焼成により前記粒子及び界面活性剤を除去して、多孔質シリカカプセルを形成する工程と、を有し、
前記液体を撹拌する工程における、前記界面活性剤の濃度を0.003〜0.021mol/Lとし、且つ前記水及びアルコールの混合溶媒におけるアルコールの体積比を0.27〜0.35とすることを特徴とする多孔質シリカカプセルの製造方法。
【請求項2】
前記シリカ被覆粒子を調製する工程と、前記多孔質シリカカプセルを形成する工程との間に、さらに、前記シリカ被覆粒子を含有する液体から、該粒子よりも小さい不溶物を除去する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の多孔質シリカカプセルの製造方法。
【請求項3】
前記多孔質シリカカプセルを形成する工程の後に、さらに、該カプセルよりも大きい不溶物を除去する工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔質シリカカプセルの製造方法。
【請求項1】
鋳型を使用して多孔質シリカカプセルを製造する方法であって、
鋳型となる粒子及び界面活性剤、並びに水及びアルコールの混合溶媒を含有する液体を撹拌する工程と、
撹拌した前記液体中でアルコキシシランを重縮合反応させて、前記粒子表面上にシリカ層が形成されたシリカ被覆粒子を調製する工程と、
前記シリカ被覆粒子から、焼成により前記粒子及び界面活性剤を除去して、多孔質シリカカプセルを形成する工程と、を有し、
前記液体を撹拌する工程における、前記界面活性剤の濃度を0.003〜0.021mol/Lとし、且つ前記水及びアルコールの混合溶媒におけるアルコールの体積比を0.27〜0.35とすることを特徴とする多孔質シリカカプセルの製造方法。
【請求項2】
前記シリカ被覆粒子を調製する工程と、前記多孔質シリカカプセルを形成する工程との間に、さらに、前記シリカ被覆粒子を含有する液体から、該粒子よりも小さい不溶物を除去する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の多孔質シリカカプセルの製造方法。
【請求項3】
前記多孔質シリカカプセルを形成する工程の後に、さらに、該カプセルよりも大きい不溶物を除去する工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔質シリカカプセルの製造方法。
【図1】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図2】
【図5】
【図10】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図2】
【図5】
【図10】
【公開番号】特開2011−1205(P2011−1205A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143289(P2009−143289)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【Fターム(参考)】
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