説明

多孔質シリカ形成用塗布液

本発明に係る多孔質シリカ形成用塗布液は、好ましくはアルコキシシラン化合物の部分的な加水分解縮合物と、界面活性剤と、有機両性電解質とを含有してなり、かつ金属含有量が50ppb以下であることを特徴とする。従来の多孔質シリカ形成用塗布液は、保存期間が長くなると、得られる多孔質シリカフィルムの細孔の配列規則性等が低くなる事があった。これに対し、本発明に係る多孔質シリカ形成用塗布液によれば、保存安定性に優れる塗布液を提供することができる。すなわち、得られる多孔質シリカの品質が、上記塗布液の保存期間の影響を受け難い。このため、電場にさらされても、容量、電圧シフトを引き起こすことがなく、さらに規則的に配列した均一な細孔を有し、光機能材料や電子機能材料に好適に用いることができる多孔質シリカフィルムの安定生産に貢献できると期待される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、光機能材料、電子機能材料などに用いることができる多孔質シリカやそのフィルムを形成するための多孔質シリカ形成用塗布液に関する。
【背景技術】
近年、均一な細孔(細孔径2〜50nm)を有する多孔質の無機化合物が開発された。その多孔質の無機化合物は、従来から用いられているゼオライト等の酸化物に比べ、大きな細孔を有し、細孔容積および表面積が大きいため、触媒担体、分離吸着剤、燃料電池、センサー等への利用が検討されている。
このような均一な細孔を有する多孔質材料の製造方法に関しては、有機化合物を利用した無機化合物の構造制御を利用した方法が注目されている。特に有機化合物と無機化合物との相互作用による協同的な組織化(自己組織化)を利用することで形成される均一な細孔を有する酸化物は、従来のゼオライト等に比べ、大きな細孔容積、表面積を持つことが知られている。
有機化合物と無機化合物との相互作用による協同的な自己組織化を利用した均一な細孔を持つ多孔質材料の製造方法としては、例えばWO91/11390に開示されている。具体的には、シリカゲルと界面活性剤等とからなる前駆体溶液を、密閉した耐熱性容器内で水熱合成することにより、多孔質シリカを製造する方法が記載されている。
またBull.Chem.Soc.Jp.,63,988(1990)には、層状珪酸塩の一種であるカネマイトと界面活性剤とのイオン交換により製造する方法が記載されている。
このような均一な細孔を持つ多孔質材料を光機能材料、電子機能材料などに用いるために、近年、その形態をフィルム状にすることが報告されている。例えば、
Nature,379,703(1996)、
J.Am.Chem.Soc.,121,7618(1999)
などには、アルコキシシラン類の縮合物と界面活性剤とからなるゾル液中に基板を浸漬し、その基板表面に均一な細孔を持つ多孔質シリカを析出させてフィルムを形成する方法が記載されている。さらに
Chem.Commun.,1149(1996)、
Supramolecular Science,,247(1998)、
Adv.Mater.,10,1280(1998)、
Nature,389,364(1997)、
Nature,398,223(1999)
などには、アルコキシシラン類の縮合物と界面活性剤とを有機溶媒に混合した塗布液を塗布し、次いで有機溶媒を蒸発させて基板上にフィルムを形成する方法が記載されている。
これらの均一な細孔を有する多孔質フィルムを、集積回路の低誘電率絶縁膜として使用する際には、ナトリウムやカリウムのようなアルカリ金属等の金属イオンの厳密な除去が要求される。これらの正に帯電したイオンは、電場にさらされると移動しやすく、正にバイアスされた膜から負にバイアスされた膜の方へとドリフトしてしまい、容量電圧シフトを引き起こしてしまうからである。したがって、光機能材料、電子機能材料の絶縁膜に好ましく用いられる多孔質フィルムを得るには、多孔質フィルムを調製するために用いられる塗布液中に、不純物である金属が含有されていないことが要求されている。つまり、そのような塗布液を調製するには、原料として用いられる界面活性剤や有機溶媒等から、不純物である金属を取り除くことが必要となる。
しかしながら、アルカリ金属イオンなどの金属イオンを塗布液から除去すると、塗布液中のシリカオリゴマーのゼータ電位が変化し、シリカオリゴマーと界面活性剤のメソフェーズが不安定になる。その結果、塗布液を調製してから塗布するまでの時間によって、細孔の規則性が低下してしまうことが問題となっている。そのため、金属イオンが除去されていても、得られる多孔質シリカフィルムの細孔規則性や誘電率が、保存時間によらず一定となる塗布液が求められている。
この問題を解決するために、例えば、特開2002−26003号公報には、金属イオンを除去しても、テトラアルキルアンモニウム塩やテトラオルガノアンモニウム塩、酸性媒体中のオルガノアミンを含有させた塗布液を用いると、保存時間によらず均一な細孔を有する多孔質シリカフィルムが得られることが記載されている。
しかしながら、上記のテトラアルキルアンモニウム塩やテトラオルガノアンモニウム塩、オルガノアミンは高価であり、さらにオルガノアミンは毒性が強いという問題があった。
また、Microporous and Mespporous materials,35−36,545(2000)には、オルガノアミンは界面活性剤の内部に侵入し、細孔の均一性や大きさに影響することが記載されている。このため、前記特開平2002−26003号公報に記載されているアミン類を塗布液に用いると、得られる多孔質シリカの機械強度などの物性が低下する可能性がある。
これらの状況から、
・電場にさらされても、容量電圧シフトを引き起こさない多孔質シリカが得られる。
・その保存時間によらず、得られる多孔質シリカの細孔の規則性や誘電率・機械強度が変化しない。
・安価である。
・安全性が高い。
等の特性を有する多孔質シリカ形成用塗布液が求められている。
【発明の開示】
本発明は、上記のような背景技術に伴う問題点を解決しようとするものである。すなわち、光機能材料、電子機能材料などに用いることができる金属イオンを実質的に含まない多孔質フィルムを形成することが出来、保存期間によらず得られる多孔質シリカフィルムの品質が一定(以下、保存安定性と言うことがある)で、しかも均一な細孔を有する多孔質シリカフィルムが得られる多孔質シリカ形成用塗布液を提供することを目的としている。
本発明に係る多孔質シリカ形成用塗布液は、
(A)アルコキシシラン化合物と、
(B)界面活性剤と、
(C)有機両性電解質とを含有し、
かつ金属含有量が50ppb以下であることを特徴とする。
上記の多孔質シリカ形成用塗布液を形成する(C)有機両性電解質は、(C1)アミノ酸および/またはペプチドであることが好ましい。
本発明の多孔質シリカ形成用塗布液は(C)有機両性電解質を0.1〜6000ppmの量で含有していることが好ましい。
本発明の多孔質シリカ形成用塗布液を形成する(A)アルコキシシランは、(A1)アルコキシシラン化合物の部分的な加水分解縮合物であることが好ましい。
本発明の多孔質シリカ形成用塗布液は、下記式で規定されるWCR値が0.5〜3.0の範囲にあることが好ましい。
CR=W/(60.09×MSi) (式1)
(但し、Wは、(B)界面活性剤の質量(単位:グラム)、
Siは、(A)アルコキシシラン化合物の珪素換算でのモル量を示す。)
【図面の簡単な説明】
図1は、多孔質シリカ形成用塗布液の保存期間と、当該塗布液を用いて得られた多孔質シリカフィルムのX線回折測定結果との関係を示す図である。
図2は、多孔質シリカ形成用塗布液の保存期間と、当該塗布液を用いて得られた多孔質シリカフィルムの比誘電率測定結果との関係を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明に係る保存安定性に優れた多孔質シリカ形成用塗布液について具体的に説明する。尚、本発明においては、液という語は溶液、懸濁液、乳化液などを含む意味で用いられることがある。
[多孔質シリカ形成用塗布液]
本発明に係る多孔質シリカ形成用塗布液(以下、塗布液ともいう)は、(A)アルコキシシラン化合物と、(B)界面活性剤と、(C)有機両性電解質とを含有してなる。上記の(A)アルコキシシラン化合物、(B)界面活性剤は、従来の多孔質シリカ形成用塗布液に用いられるアルコキシシラン化合物、界面活性剤を制限無く用いることが出来るが、後述する(C)有機両性電解質や有機アミド化合物は含まれない。
このような塗布液を得る好ましい方法としては、(A)アルコキシシラン化合物、(B)界面活性剤、酸触媒、水、有機溶媒、および(C)有機両性電解質を混合して、(A)アルコキシシラン化合物を部分的に加水分解・脱水縮合させる方法が挙げられる。本発明の目的に反しない限り、上記以外の他の成分が上記の塗布液に含有されていても良い。例えば、アミド化合物等は、多孔質シリカフィルムを形成する際にフィルムの平滑性をも高めることが出来るので好ましく用いられる。
容量電圧シフトを引き起こさない多孔質シリカを得るためには、本発明の塗布液の金属含有量は50ppb以下である必要がある。
本発明における塗布液は、多孔質シリカフィルムの形成に用いる際には、ウエハーなどの基板上にスピンコート法やディップコート法等によって塗布したときに、フィルムが形成できる程度の流動性が維持されていることが好ましい。また、フィルム平滑性に影響する局部的に縮合したゲル状粒子が形成されていない状態の液である事も好ましい態様である。
本発明における塗布液の金属含有量とは、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオンなどの、一般的に「金属」と定義されるすべての金属イオンの含有量を意味する。
通常、塗布液は、その金属含有量が50ppb以下になると、長時間保存した場合に、その塗布液から形成されたフィルムの細孔規則性が著しく低下するなどの不具合を生じることが多い。
本発明者らは、不具合を克服するため鋭意検討を重ねた。その結果、塗布液中に(C)有機両性電解質が存在する場合には、金属含有量が50ppb以下であっても、上記の不具合が著しく改善されることを見出した。すなわち、塗布液を長期保存した場合でも、その塗布液から形成されたフィルムは高い細孔規則性を有することを見出したのである。
前述したように、テトラアルキルアンモニウム塩やテトラオルガノアンモニウム塩、オルガノアミンなどを含有する塗布液も長期保存が可能であることが報告されている。しかし、これらの化合物と比較して上記の(C)有機両性電解質は、一般的に安価に入手が可能であり安全性も高い。さらに、本発明の塗布液は、より高い長期保存特性を有している。
本発明の塗布液の液安定性が長期に保持される理由としては、以下のように推測される。上記のオルガノアミンなどの化合物は、塗布液中においてシリカ前駆体のゼータ電位の変化を抑制することが可能であるが、界面活性剤のミセル内部に侵入し、メソ孔の均一性や大きさに影響するとの報告がある。これに対し本発明の塗布液に用いられる(C)有機両性電解質は、その極性が高いため上記ミセルの中に入らない、あるいは入り難いことが予想される。この為、(C)有機両性電解質は(B)界面活性剤が有するメソ孔の均一性や大きさを制御する機能を阻害せず、ゼータ電位の変化を抑制する効果のみを発現するためと考えられる。
以下、本発明の多孔質シリカ形成用塗布液の調製に用いられる各成分について説明する。
((A)アルコキシシラン化合物)
本発明の塗布液を構成する(A)アルコキシシラン化合物は、従来から塗布液に用いられるアルコキシシランを特に制限無く用いることができる。好ましくはSi−O−Si結合を有するアルコキシシランを含むことが好ましい。更に、好ましくは、(A1)アルコキシシランの部分的な加水分解縮合物であることが好ましい。
本発明に用いられる(A)アルコキシシラン化合物として、特に好ましくは、下記一般式(I)

(式中、Y=1〜4、n=0〜3、a=0〜3、b=0〜10、c=1〜3、d=0〜3の整数、XはF、OCF、OCF(CF、OC(CF、C(5−e)(式中、e=0〜4である)のいずれかを示す)、および/または
下記一般式(II)

(式中、Zは1〜4の整数、Rはアルキル基、またはフェニル基を示す)
で表わされるアルコキシシラン化合物を挙げることができる。
このようなアルコキシシラン化合物としては、特開2003−89513号公報等に記載されているようなアルコキシシラン化合物を好ましい例として挙げることが出来る。
本発明において(A)アルコキシシラン化合物は、2種以上を組み合わせて使用する事もできる。特に好ましく用いられるのはテトラエトキシシランである。テトラエトキシシランを用いることにより、室温下での加水分解反応を容易に制御することができる。
本発明に係る(A)アルコキシシラン化合物は、金属を含有していないアルコキシシラン化合物を用いることが好ましい。上記の様な(A)アルコキシシラン化合物を得る方法としては、蒸留精製、もしくはイオン交換を行い、金属をアルコキシシラン化合物から除去する方法が好適な例として挙げられる。また、電子材料用グレードとして市販されている品をそのまま用いることも可能である。
((B)界面活性剤)
本発明の塗布液を調製するために用いられる(B)界面活性剤としては、特に限定されず、従来から塗布液に用いられるあらゆる界面活性剤を好ましく用いることが出来る。より好ましくは、ポリアルキレンオキサイド構造を有する界面活性剤を挙げることが出来る。具体的には、ポリエチレンオキシド構造、ポリプロピレンオキシド構造、ポリテトラメチレンオキシド構造、ポリブチレンオキシド構造などを有する界面活性剤、例えば、上記のポリアルキレンオキシドのブロックコポリマーや上記のポリアルキレンオキシドのアルキルエーテル等が挙げられる。
より具体的な(B)界面活性剤の例としては、特開2003−89513号公報等に記載の界面活性剤を挙げることが出来る。
本発明においては2種類以上の界面活性剤を組み合わせて用いることもできる。また、固体、不定形、液体、溶液などの何れの状態であっても構わない。
本発明に係る(B)界面活性剤としては、金属を含有していない界面活性剤を用いることが好ましい。上記の様な界面活性剤を得る方法としては、市販の陽イオン交換樹脂を用いてイオン交換を行い、金属を除去する方法が好適な例として挙げられる。また、電子材料用グレードとして市販されている品をそのまま用いることも可能である。
本発明の多孔質シリカ形成用塗布液は、(A)アルコキシシラン化合物と(B)界面活性剤の含有量が、下記の式1で示されるWCRの値が0.5〜3.0の範囲にあることが好ましく、0.5〜2.0の範囲にあることがより好ましい。
CR=W/(60.09×MSi) (式1)
(但し、Wは、(B)界面活性剤の質量(単位:グラム)、
Siは、(A)アルコキシシラン化合物の珪素換算でのモル量を示す。)
本発明の多孔質シリカ形成用塗布液を用いて後述する多孔質シリカを製造すると、(A)アルコキシシラン化合物中の珪素の殆どが、多孔質シリカ中の珪素になると考えられる。シリカの一般的な組成式はSiO(分子量:60.09)であり、上記のWCR値は、多孔質シリカを1重量部製造するのに必要な(B)界面活性剤の重量部を規定した指標であると考えて差し支えない。
本発明の多孔質シリカ形成用塗布液中の(B)界面活性剤の含有量は、珪素原子換算した(A)アルコキシシラン化合物とのモル比で規定する方が望ましい場合もある。この様な場合、(B)界面活性剤は(A)アルコキシシラン化合物に対するモル比で、好ましくは0.003〜0.20、より好ましくは0.003〜0.10、より好ましくは0.003〜0.05、さらに好ましくは0.005〜0.03、特に好ましくは0.007〜0.02のモル比となるように用いることが望ましい。上記のモル比の範囲は、特に前述のポリアルキレンオキサイドのブロックコポリマーなど、比較的分子量の大きな界面活性剤を用いる場合に好適なことが多い。
本発明に係る(B)界面活性剤が、上記範囲を満たしている当該多孔質シリカ塗布液は、アルコキシシラン化合物と、界面活性剤との相互作用による協同的な組織化に寄与できないシリカの割合が減少し、細孔構造の規則性や空隙率(多孔質性)をより高めることが出来ることが多い。さらに、均一な細孔を有する六方晶系の周期的な結晶構造を形成する上でも有利であり、後述する多孔質シリカを形成する際の焼成工程でもその構造が崩壊し難いことが多いと言う利点がある。
(酸触媒、水、および有機溶媒)
上記のアルコキシシランの部分的な加水分解縮合物を得るためには、酸触媒、水、有機溶媒が好ましく用いられる。上記の酸触媒、水、および有機溶媒としては、従来から塗布液の調製に用いられている公知のあらゆる化合物を制限無く用いることが出来る。
((C)有機両性電解質)
本発明の塗布液を構成する(C)有機両性電解質は、金属元素を除去したことで不安定となったアルコキシシラン化合物のゼータ電位を安定化させることができると推測され、塗布液の保存安定性を著しく高めることができる。尚、本発明で用いられる(C)有機両性電解質は、(B)界面活性剤とは異なるものである。
本発明に係る(C)有機両性電解質の好ましい例としては、アミノ酸、アミノ酸の重合体であるペプチドなどが挙げられる。これらのアミノ酸やペプチドは、イオン強度(mol/dm−3)が0〜0.2の溶媒中で少なくとも2つ以上の酸解離定数を有し、それらの酸解離定数は0〜4の範囲と、7〜13の範囲の両方に含まれる値であるという特徴を持つことが好ましい。本発明の係る(C)有機両性電解質は、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。例えば、アミノ酸とペプチドとを組み合わせて用いることもできる。この際、アミノ酸とペプチドとが反応しても構わない。
本発明に係る(C)有機両性電解質としては、特にアミノ酸が、安価で、安全性も高いため好ましい。
本発明に用いる事の出来るアミノ酸としては、例えば、アザセリン、アスパラギン、アスパラギン酸、アミノ酪酸、アラニン、アルギニン、アロイソロイシン、アロトレオニン、イソロイシン、エチオニン、エルゴチオネイン、オルニチン、カナバニン、キヌレニン、グリシン、グルタミン、グルタミン酸、クレアチン、サルコシン、シルタチオニン、シスチン、システイン、システイン酸、シトルリン、セリン、タウリン、チロキシン、チロシン、トリプトファン、トレオニン、ノルバリン、ノルロイシン、バリン、ヒスチジン、4−ヒドロキシ−L−プロリン、ヒドロキシ−L−リシン、フェニルアラニン、プロリン、ホモセリン、メチオニン、1−メチル−L−ヒスチジン、3−メチル−L−ヒスチジン、L−ランチオニン、L−リシン、L−ロイシン等が挙げられる。なかでもグリシンを用いることが特に好ましい。上記のアミノ酸は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
また、本発明に用いる事の出来るペプチドは、2〜10個のアミノ酸がペプチド結合したオリゴペプチド、およびそれより多いアミノ酸がペプチド結合により結合したポリペプチドである。
そのようなペプチドとしては、具体的には、カルノシン、グルタチオン、ジケトピペラジン等が挙げられる。
ペプチドは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
本発明に係る(C)有機両性電解質としては、金属を含有していない有機両性電解質を用いることが好ましい。上記の様な(C)有機両性電解質を得る方法としては、グリシンを例にとると、特開平10−130214号に記載されているように、グリコロニトリルを溶液中でアンモニアと二酸化炭素を加えて加熱してナトリウムを始めとする各種の金属を含まないグリシンを得る方法を例示することが出来る。また、蒸留精製、もしくはイオン交換を行い、金属を有機両性電解質から除去する方法も好適な例として挙げられる。
(アミド化合物)
本発明の塗布液は、前述の通りアミド化合物を含む構成も好適な例である。アミド化合物を含む塗布液からは、平滑性により優れる多孔質シリカフィルムが得られると言う利点がある。尚、本発明に係るアミド化合物には、(C)有機両性電解質は含まれない。この様なアミド化合物としては、特開2003−89513号公報に記載のアミド化合物を好ましい例として挙げることが出来る。
上記アミド化合物の中では、その沸点が200℃未満、好ましくは150℃以上200℃未満であるアミド化合物を用いることが望ましい。沸点が200℃未満であると、後述する多孔質シリカフィルムの製造の際に、アミド化合物を除去することが容易であり、均一な細孔が規則的に配列された多孔質シリカフィルムが得られ易い。このようなアミド化合物としては、特にN,N−ジメチルアセトアミドが好ましい。
本発明において、アミド化合物としては、金属を含有していないアミド化合物を用いることが好ましい。この様なアミド化合物を得る方法としては、蒸留精製、イオン交換などにより金属をアミド化合物から除去する方法が挙げられる。また、このようなアミド化合物としては、一般的に市販されている電子材料用のものを用いることができる。
[多孔質シリカ形成用塗布液の製造方法]
本発明に係る多孔質シリカ形成用塗布液は、公知のあらゆる塗布液の製造方法に準じて製造することが出来る。好ましい例として、アルコキシシラン化合物の部分的な加水分解縮合物と、(B)界面活性剤と、(C)有機両性電解質とを含有し、金属含有量が50ppb以下を満たす塗布液の製造方法の一例を記載する。
作業は溶液中に金属が入らないように管理されたクリーンルーム内で行う事が好ましい。容器・器具は、10重量%硫酸で洗浄し、金属が除去された水で洗い流して、脱金属処理を行ったものを用いる。さらに、原料としては不純物である金属を含有していないか、または不純物である金属の除去処理が行われた(A)アルコキシシラン化合物、(B)界面活性剤、(C)有機両性電解質の他、本例では酸触媒、水、有機溶媒、アミド化合物などの上述の原料を用いる。
まず、(B)界面活性剤の存在下で、(A)アルコキシシラン化合物の部分的な加水分解、脱水縮合反応を行って反応液を得る。尚、本発明において液という語は、溶液、懸濁液、乳化液などの意味を含むことがある。この加水分解・脱水縮合は酸触媒と水の存在下で行う。さらには有機溶媒の共存下で行うことが好ましい。
より具体的には、
(1)反応器に(A)アルコキシシラン化合物、(B)界面活性剤、酸触媒、および水、さらに必要に応じて有機溶媒を装入して数分〜5時間程度攪拌する方法
(2)反応器に(A)アルコキシシラン化合物、酸触媒、および水、さらに必要に応じて有機溶媒を装入し、10分〜5時間程度攪拌して、(A)アルコキシシラン化合物を一部加水分解、脱水縮合させ、これに(B)界面活性剤を添加し、数分〜5時間程度攪拌する方法
等を例示することが出来る。
上記の成分は、予め2種類以上を組み合わせたり、混合して用いても構わない。例えば、塩酸を用いることは、酸触媒と水とを混合して用いることと見なすことが出来る。上記の方法では、各成分を複数回に分けて使用することもできる。特に水は複数回に分けて使用することが保存安定性の向上効果が高く、好ましい。
水は、(A)アルコキシシラン化合物1モル(珪素原子換算)に対して、0.5〜20モル、好ましくは1〜20モル、さらに好ましくは1.2〜15モルとなる量で用いることが望ましい。
水を複数回に分けて使用する場合、その回数に特に制限はないが、最初に使用する水は、(A)アルコキシシラン化合物のアルコキシ基1モルに対して、0.10〜0.30モル、好ましくは0.12〜0.30モル、さらに好ましくは
0.15〜0.30モルとなる量で添加するのが望ましい。
上記の水の量が、(A)アルコキシシラン化合物のアルコキシ基1モルに対して0.30モルより多いと、アルコキシシラン化合物がゲル化してしまうことがある。また、水を最初に使用する時期は、(B)界面活性剤の使用前であることが好ましい。一方、(B)界面活性剤の使用時期は、2回目の水の使用前であることが好ましい。
水を追加添加する時期は、最初に使用した水が、(A)アルコキシシラン化合物のアルコキシ基1モルに対して、0.10モル以上、好ましくは0.12モル以上加水分解に消費された後であることが望ましい。この加水分解に消費される水の量は、一般に、カールフィッシャー分析により確認することができる。最初に使用した水が、(A)アルコキシシラン化合物のアルコキシ基1モルに対して0.10モル以上の量で、(A)アルコキシシラン化合物の加水分解に消費されていれば、その後の水の添加添加回数および添加時期に特に制限はない。
このように、(A)アルコキシシラン化合物の加水分解・脱水縮合反応が進行した後、これを(B)界面活性剤と接触させると、水を追加使用することの影響は小さいことが多い。これは、適度に加水分解・脱水縮合したアルコキシシラン化合物と(B)界面活性剤との相互作用によって、液が比較的安定化しているためと考えられる。すなわち、このように水を複数回に分けて使用する方法は、水を一括使用する方法と比較して、保存安定性に優れる塗布液を得る上で有利である。
上記の酸触媒は、アルコキシシラン化合物1モル(珪素原子換算)に対して0.001〜0.05等量モルとなる量で用いられ、有機溶媒は、特に限定されないが、(A)アルコキシシラン化合物に対して、3倍〜20倍の体積となる量で用いられる。
次に、このようにして得られた反応液と、(C)有機両性電解質とを接触させる。勿論、上記の反応の途中で(C)有機両性電解質を使用しても構わない。本発明において(C)有機両性電解質は、保存安定性の向上に重要な役割を果たす。これは、通常、陽イオンの状態で溶液中に存在する金属元素を除去したことにより不安定になった(A)アルコキシシラン化合物の部分縮合物のゼータ電位が、(C)有機両性電解質により安定化するためであると考えられる。一方で、(C)有機両性電解質は、(B)界面活性剤と、(A)アルコキシラン化合物の部分縮合物との相互作用による協同的な組織化が進行するのを阻害する可能性がある。そのため、塗布液の保存安定性は、上記反応液と(C)有機両性電解質とを接触させる時期、(C)有機両性電解質の使用に大きく影響される傾向がある。
上記の方法において、(C)有機両性電解質の使用時期は、(A)アルコキシシラン化合物の縮合度を確認した後に決定する方法もあるが、(A)アルコキシシラン化合物、酸触媒、水が接触してからの経過時間で代用することもできる。(A)アルコキシシラン化合物は、酸触媒、水と接触してから加水分解・脱水縮合反応が開始するので、その反応時間で縮合度を制御することができる。
(C)有機両性電解質を使用する時期は、使用するアルコキシシランの種類などによって異なるので一概には規定できないが、(A)アルコキシシラン化合物、酸触媒、水が接触してから、30分〜24時間、好ましくは45分〜12時間、さらに好ましくは1時間〜4時間攪拌した後に行うことが望ましい。
水を複数回に分けて使用する方法の場合は、(C)有機両性電解質は、最後の水の導入が終了してから、0分〜24時間、好ましくは0分〜12時間、さらに好ましくは0分〜4時間攪拌した後に行うことが望ましい。
このように、特に水、(B)界面活性剤、(C)有機両性電解質の量、使用時期等を上記の様に制御することにより、(A)アルコキシシラン化合物の縮合度を最適な状態で保つことができ、得られる塗布液の保存安定性をより向上させることが出来る。
また上記(C)有機両性電解質は、塗布液中に0.1〜6000ppm、好ましくは50〜5000ppm、さらに好ましくは100〜4000ppmの量で含有されることが望ましい。この(C)有機両性電解質と反応溶液とを接触させた後、1〜30分程度攪拌することが好ましい。この(C)有機両性電解質の含有量がこの範囲にあると、得られる塗布液の保存安定性が特に向上し、塗布液を長期保存しても、得られるシリカフィルムは高い細孔の配列規則性を示す。
本発明の塗布液は、前述のようにさらにアミド化合物を導入しても良い。
アミド化合物の使用時期は、(C)有機両性電解質と同様の時期であることが好ましい。また、アミド化合物は(C)有機両性電解質と同時に導入しても良いし、別々に導入しても構わない。また、アミド化合物を使用した後の攪拌時間は、実質的に均一に塗布液中に混合されるのであれば、特に限定されない。
上記のアミド化合物の使用量は、反応溶液100体積%に対して1〜60体積%、好ましくは5〜35体積%の量であることが望ましい。アミド化合物の添加量がこの範囲内にあると、塗布液の保存安定性が特に向上するとともに、表面平滑性に優れる多孔質シリカフィルムを得ることができる。
本発明においては、金属を含有する原料を用いて塗布液を調製した後に、この塗布液から金属イオンを除去して金属含有量を50ppb以下とする事もできる。
このようにして得られる多孔質シリカ形成用塗布液の金属含有量は、例えば誘電結合プラズマ発光分析を行うことにより、確認することができる。
本発明の多孔質シリカ形成用塗布液の組成や縮合度などは、公知の分析法で容易に分析することが出来る。例えば、元素分析法、赤外分光法、紫外分光法、核磁気共鳴スペクトル(NMR)、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー等で分析することが出来る。
[多孔質シリカ、多孔質フィルムの製造方法]
本発明の多孔質シリカ形成用塗布液を用いて多孔質シリカや多孔質シリカフィルムを形成する方法は、公知の塗布液を用いた製法を制限無く用いることが出来る。好ましくは、上記の塗布液を基材に塗布し、次いで乾燥し、さらに焼成あるいは抽出により(B)界面活性剤、(C)有機両性電解質、さらに必要に応じて用いられるアミド化合物を除去する方法が挙げられる。
本発明の塗布液を用いて得られる多孔質シリカや多孔質シリカフィルムは誘電率が低く、細孔の配列規則性が高いので強度にも優れている。上記の多孔質シリカフィルムの膜厚は、用途に応じて好ましい範囲が異なるため、特に限定されるものではない。例えば、多孔質シリカフィルムを層間絶縁膜に用いる場合には、その膜厚は0.1〜1μm好ましくは0.2〜1μmとなるように調製することが望ましい。この範囲に膜厚を調整することで、クラックおよびリーク電流が生じない適度な厚さの膜を形成することができる。
また上記の多孔質シリカフィルムは、上述の塗布液により調製されているため、電場にさらされても、容量電圧シフトを引き起こすことがない。
また上記の多孔質シリカフィルムをXRD(X線回折)で測定することによりその細孔の均一性を評価することが出来る。本発明によれば、XRD測定により2θ=0.7〜8°の範囲に鋭いピークが得られるほど細孔が規則的に配列し、その大きさが揃っている多孔質シリカフィルムを得ることもできる。
XRD測定はCuKα線で40kV、20mA、モノクロメーター(グラファイト(00002)面)を使用して集中法で行う。本発明の多孔質シリカフィルムの上記ピーク強度は、その膜厚等によって変化するため特に限定されないが、ピークとノイズの比率(S/N比)が3以上であることが望ましい。S/N比がこのような範囲にある本発明の多孔質シリカフィルムは、均一な細孔を有していることが確認でき、光機能材料、電子機能材料などに用いることができる。
本発明に係る多孔質シリカフィルムは、上記の様な性質を有するので層間絶縁膜、分子記録媒体、透明導電性フィルム、固体電解質、光導波路、LCD用カラー部材などの光機能材料、電子機能材料などに用いることができ、特に、層間絶縁膜として好ましく用いられる。また、半導体装置(回路)等にも好ましく適用できる。
【産業上の利用可能性】
本発明に係る多孔質シリカ形成用塗布液および該塗布液の製造方法によれば、保存安定性に優れる塗布液を提供することができる。さらに上記塗布液を用いて製造される本発明の多孔質シリカフィルムは、電場にさらされても、容量電圧シフトを引き起こすことがなく、さらに規則的に配列した均一な細孔を有する等、多孔質シリカフィルムの優れた性質に変わりは無いため、光機能材料や電子機能材料に好適に用いることができる。このため、多孔質シリカの原料としての本発明の多孔質シリカ形成用塗布液の工業的意義は大きい。
【実施例】
以下、実施例を用いてさらに本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお実施例、比較例で用いた原料は、以下のものを用いた。
<テトラエトキシシラン>
高純度化学研究所製ELグレード:Si(OC
<エタノール>
和光純薬工業株式会社製 電子工業用
<塩酸>
和光純薬工業株式会社製 超微量分析用
<ポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマー>
HO(CHCHO)20(CHCH(CH)O)70(CHCHO)20H(BASF社製PluronicP123)を70g量りとり、上記電子工業用エタノール700gに溶解させる。これを、日本錬水製イオン交換樹脂SK1BHを用いてイオン交換し、エタノールを蒸留により除去することで脱金属処理し、使用した。
<水>
Milipore社製 純水製造装置にて脱金属処理した水を使用した。
<N、N−ジメチルアセトアミド>
関東化学株式会社製 電子工業用
<グリシン>
三井化学株式会社製:HNCHCOOH
特開平10−130214号に記載された方法に従い、グリコロニトリルを溶液中でアンモニアと二酸化炭素を加えて加熱して合成した。
<セチルトリメチルアンモニウムクロライド>
東京化成工業株式会社製 TCI−EP:C1633(CHN・Cl
また、多孔質シリカフィルム形成用塗布液の金属含有量、保存安定性は以下のように測定した。
<多孔質シリカフィルム形成用塗布液の金属含有量の測定>
アルゴンと酸素の混合ガスを導入した誘導結合プラズマ質量分析計(アセチレント社製 7500S)でインジウムを内標準物質として添加した塗布液を分析し、検量線法で金属含有量を定量化した。
<多孔質シリカフィルム形成用塗布液の保存安定性の測定>
調製直後の塗布液を用いて多孔質シリカフィルムを製造する。このフィルムのXRD測定でのピーク強度を測定し、基準値S0とする。その後、塗布液を密閉容器に入れ、10℃で保管する。所定の期間保管後、容器から取り出した塗布液でフィルムを製造し、このフィルムのXRDのピーク強度を測定しS1とする。上記のS0、S1の値は、得られたフィルムの任意の3箇所の測定値の平均値である。
この基準値S0に対する測定値S1のピーク強度の割合を(S1/S0)をs(安定性指標)とする。sの値が大きいほど規則性が高く、シリカフィルム形成塗布液の安定性が高いことを示す。
また本発明の多孔質シリカフィルムの保存安定性は、上記塗布液を10℃で保管し、所定期間保管後、容器から取り出した塗布液でフィルムを製造し、比誘電率を測定することによっても確認される。比誘電率の測定は、基板上の多孔質フィルム表面と基板に用いたシリコンウエハーの裏面に蒸着法によリアルミニウム電極を作成し、25℃、相対湿度0%の雰囲気下、周波数100kHzにて常法により行われる。シリカフィルム形成塗布液の安定性は、以下の式で表される変化率で評価することが出来る。
Δd=|d−d|/d
(d:1日保管した塗布液から得られるシリカフィルムの誘電率
:n日保管した塗布液から得られるシリカフィルムの誘電率)
このΔdの値が小さい程、保存安定性が高いことを示す。
【実施例1】
溶液中に金属が入らないように管理されたクリーンルーム内で、塗布液の調製を行った。使用した容器・器具は10重量%硝酸で洗浄し、金属除去した水で洗い流して、脱金属処理を行ったものを用いた。まず、テトラエトキシシラン10.0gとエタノール10mLを室温下で混合攪拌した後、1N塩酸1.0mL(テトラエトキシシラン1モルに対して塩酸は0.02モル、水は1モルに相当する。また、水はエトキシ基1モルに対して0.25モルに相当する。)を添加し、さらに50℃で1時間30分攪拌した。次いで、ポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマー2.8g(WCR値が1.0となる量に相当)をエタノール40mLに溶解して得られた溶液を、上記の液に添加混合した。次に、水8.0mL(テトラエトキシシラン1モルに対して、9.2モル)を添加し、50分攪拌後、N、N−ジメチルアセトアミドを20mL添加混合し、さらに40分攪拌した。得られる塗布液にグリシンが800ppm含有されるようにグリシンを添加、攪拌し、透明、均一な塗布液を得た。この塗布液の金属含有量を測定したところ、11ppb以下であった。
この塗布液を、直径2インチのシリコンウエハー表面上に1.5mlのせ、2000rpmで60秒間回転させ、シリコンウエハー表面に塗膜(湿潤状態)を調製した。得られた上記塗膜を100℃で60分間乾燥し、さらに空気中で400℃、180分間焼成しフィルムを調製した。得られたフィルムをX線解析したところ、フィルムは、面間隔7.0nmの周期的なヘキサゴナル構造を有していた。
この塗布液を密閉容器に入れ、10℃で1日、7日、15日および31日間放置した後に塗布液を密閉容器から取り出し、上記と同様の条件でシリコンウエハー表面に塗布しフィルムを調製した。得られたフィルムのX線回折測定結果を図1に示す。
上記の塗布液から得られるフィルムは、塗布液の保存期間によらず、構造規則性が高く保たれていることが確認された。
また密閉容器に入れ、10℃で1日、15日および31日間放置した塗布液を用いて、上記と同様の条件で作成したフィルムの比誘電率を測定した。結果を図2に示す。
1日保管の塗布液を用いて得られたシリカフィルムの誘電率(d)は乾燥状態で2.0であった。また、上記の塗布液から得られるフィルムは、塗布液の保存期間によらず、Δdが10%以内に抑えられており、上記の塗布液が極めて高い安定性を有することが確認された。
比較例1
実施例1でグリシンを添加しないこと以外は、実施例1と同様な条件で塗布液の調製と評価を行った。この塗布液の金属含有量は、7.4ppbであった。
調製直後の上記塗布液から得られるフィルムは、面間隔7.0nmの周期的なヘキサゴナル構造を有していた。
X線回折の測定結果と塗布液の保存期間との関係を図1に示す。上記の塗布液は僅か1日保管するだけで、得られるフィルムの構造規則性が著しく低下することがわかった。
比誘電率と塗布液の保存期間との関係を図2に示す。誘電率dは2.9であった。また、保存期間に対する誘電率の変化が激しく、上記の塗布液は極めて不安定であることが確認された。
比較例2
実施例1でグリシンの代わりにセチルトリメチルアンモニウムクロライドを添加すること以外は、実施例1と同様にして塗布液の調製と評価を行った。この塗布液の各種金属の含有量は、20ppb以下であった。
調製直後の上記塗布液から得られるフィルムは、面間隔7.0nmの周期的なヘキサゴナル構造を有していた。
X線回折の測定結果と塗布液の保存期間との関係を図1に示す。上記の塗布液から得られるフィルムは、保存期間によらず構造規則性が比較的高く保たれているが、保存期間が15日を過ぎると規則性が低下し始めることが分かる。
比誘電率と塗布液の保存期間との関係を図2に示す。比誘電率も保存期間が15日を過ぎると変化し始め、31日目にはΔdが20%となり、保存安定性が低下することが分かる。
上記の結果から、本発明の多孔質シリカ形成用塗布液は、優れた安定性を有し、かつ、得られる多孔質シリカや多孔質シリカフィルムは、高い細孔規則性、低い誘電率を持つ層間絶縁膜などの用途に好適な性質を持つことが明らかとなった。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルコキシシラン化合物と、
(B)界面活性剤と、
(C)有機両性電解質とを含有し、
金属含有量が50ppb以下である多孔質シリカ形成用塗布液。
【請求項2】
(C)有機両性電解質が、(C1)アミノ酸および/またはペプチドであることを特徴とする請求項1記載の多孔質シリカ形成用塗布液。
【請求項3】
(C)有機両性電解質が前記多孔質シリカ形成用塗布液中に0.1〜6000ppm含有されていることを特徴とする請求項1記載の多孔質シリカ形成用塗布液。
【請求項4】
(A)アルコキシシラン化合物が、(A1)アルコキシシラン化合物の部分的な加水分解縮合物であることを特徴とする請求項1記載の多孔質シリカ形成用塗布液。
【請求項5】
下記式で規定されるWCR値が0.5〜3.0の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の多孔質シリカ形成用塗布液。
CR=W/(60.09×MSi) (式1)
(但し、Wは、(B)界面活性剤の質量(単位:グラム)、
Siは、(A)アルコキシシラン化合物の珪素換算でのモル量を示す。)

【国際公開番号】WO2004/094311
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505816(P2005−505816)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006041
【国際出願日】平成16年4月26日(2004.4.26)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】