説明

多孔質シリカ系薄膜の製造方法、多孔質シリカ系薄膜及び構造物

【課題】本発明は、得られるシリカ系薄膜の屈折率を制御することが可能なシリカ系薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】アルコキシシラン及び/又はアルキルアルコキシシランとともに有機物質を含有させたコーティング液からなる薄膜を、前記有機物質が揮発又は分解する条件下で熱処理を行うことにより多孔質シリカ系薄膜を形成させる工程を含み、形成される多孔質シリカ系薄膜の空隙率を制御することによって多孔質シリカ系薄膜の屈折率を制御することを特徴とする屈折率が制御された多孔質シリカ系薄膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質シリカ系薄膜の製造方法、該方法により得られる多孔質シリカ系薄膜及び該多孔質シリカ系薄膜を基材の表面に形成してなる構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコキシシランに触媒としてアンモニアを、溶媒としてアルコール及び水を加えた溶液を基材に塗布し、アルコキシシランを加水分解、脱水縮合させる、いわゆるゾルゲル法により、基材表面にシリカ薄膜を形成させる方法は知られており、形成されたシリカ薄膜は、電気絶縁膜、保護膜、光導波路形成膜、プラスチックのコーティング膜などに利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−295804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シリカ薄膜を光学用途、例えば単層の反射防止膜などに用いる場合、通常のシリカ薄膜の屈折率よりも低い屈折率を有するシリカ薄膜が必要となり、またシリカ薄膜の用途によっては種々の異なる屈折率を有するシリカ薄膜が必要となるが、上記特許文献1に記載のシリカ薄膜の形成方法は、形成されるシリカ薄膜の屈折率を制御することには何ら配慮されていない。
従って、本発明は、シリカ系薄膜の形成条件に応じて種々の制御された屈折率を有するシリカ系薄膜を製造することが可能な方法を提供することを第1の目的とする。
また本発明は、上記方法により得られたシリカ系薄膜を提供することを第2の目的とし、上記シリカ系薄膜を必須の構成要素とする構造物を提供することを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ゾルゲル法によりシリカ系薄膜を形成する際に特定の条件を選択することにより、空隙率が制御され、その結果、屈折率も制御された多孔質シリカ系薄膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1) アルコキシシラン及び/又はアルキルアルコキシシランとともに有機物質を含有させたコーティング液からなる薄膜を、前記有機物質が揮発又は分解する条件下で熱処理することにより多孔質シリカ系薄膜を形成させる工程を含み、
形成される多孔質シリカ系薄膜の空隙率を制御することによって多孔質シリカ系薄膜の屈折率を制御する
ことを特徴とする屈折率が制御された多孔質シリカ系薄膜の製造方法、
(2) 多孔質シリカ系薄膜の屈折率の制御が、前記コーティング液中に含有させた有機物質の量を変化させることによって行われる、上記(1)に記載の方法、
(3) 多孔質シリカ系薄膜の屈折率の制御が、前記コーティング液に、予めシロキサン結合が形成されているポリシロキサン及び/又はポリオルガノシロキサンを加え、その量を変化させることによって行われる、上記(1)又は(2)に記載の方法、
(4) 多孔質シリカ系薄膜の屈折率の制御が、前記熱処理の前に硬化処理を行い、その条件を変化させることによって行われる、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の方法、
(5) 多孔質シリカ系薄膜の屈折率の制御が、熱処理の条件を変化させることによって行われる、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法、
(6) 上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の方法で得られたことを特徴とする多孔質シリカ系薄膜、
(7) 上記(6)に記載の多孔質シリカ系薄膜を基材の表面に形成してなることを特徴とする構造物、
(8) 基材が耐熱性透明有機基材である、上記(7)に記載の構造物、及び
(9) 反射率が400nm〜800nmの領域で4.0%以下、全光線透過率が80%以上、ヘイズが5.0%以下である、上記(7)又は(8)に記載の構造物
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、得られるシリカ系薄膜の屈折率を制御することが可能なシリカ系薄膜の製造方法、該方法により得られる多孔質シリカ系薄膜及び該多孔質シリカ系薄膜を表面に形成してなる構造物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[多孔質シリカ系薄膜の製造方法]
本発明の多孔質シリカ系薄膜の製造方法は、
(I)アルコキシシラン及び/又はアルキルアルコキシシランとともに有機物質を含有させたコーティング液からなる薄膜を、前記有機物質が揮発又は分解する条件下で熱処理することにより多孔質シリカ系薄膜を形成させる工程を含み、
(II)形成される多孔質シリカ系薄膜の空隙率を制御することによって多孔質シリカ系薄膜の屈折率を制御する
ことを特徴とするものである。
【0009】
先ず、本発明の方法における構成要件(I)について説明する。
本発明の方法においては、コーティング液からなる薄膜を出発材料として用いるが、薄膜を得るためのコーティング液は、アルコキシシラン及び/又はアルキルアルコキシシランとともに有機物質を含有させたものである。
【0010】
コーティング液の原料として用いられるアルコキシシランは、一般式(I)
Si(OR14 ・・・(I)
(式中、R1は炭素数1〜6のアルキル基を示し、各OR1はたがいに同一であっても異なっていてもよい。)
で表されるものである。
【0011】
上記一般式(I)において、R1は炭素数1〜6のアルキル基であって、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、その例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。各OR1はたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0012】
上記一般式(I)で表されるアルコキシシランの例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ−sec―ブトキシシラン、テトラ−tert―ブトキシシラン、エトキシトリメトキシシラン、プロポキシトリメトキシシラン、イソプロポキシトリメトキシシラン、メトキシトリエトキシシラン、プロポキシトリエトキシシラン、イソプロポキシトリエトキシシラン、メトキシトリプロポキシシラン、エトキシトリプロポキシシラン、ジエトキシジメトキシシラン、ジメトキシジプロポキシシランなどが挙げられ、これらの中でテトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
また、コーティング液の原料として上記アルコキシシランとともに、又はその代わりに用いられるアルキルアルコキシシランは、一般式(II)
2nSi(OR34-n ・・・(II)
(式中、R2は水素原子、フッ素原子又は一価の非加水分解性有機基、R3は炭素数1〜6のアルキル基、nは1又は2を示し、R2が複数ある場合、各R2はたがいに同一であっても異なっていてもよく、OR3が複数ある場合、各OR3はたがいに同一であっても異なっていてもよい。)
で表されるものである。
【0014】
上記一般式(II)において、R2のうちの一価の非加水分解性有機基としては、例えば炭素数1〜20のアルキル基、(メタ)アクリロイルオキシ基若しくはエポキシ基を有する炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基又は炭素数7〜20のアラルキル基を示す。ここで、炭素数1〜20のアルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、またこのアルキル基は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。このアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。(メタ)アクリロイルオキシ基若しくはエポキシ基を有する炭素数1〜20のアルキル基としては、上記置換基を有する炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、またこのアルキル基は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。この置換基を有するアルキル基の例としては、γ−アクリロイルオキシプロピル基、γ−メタクリロイルオキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシル基などが挙げられる。炭素数2〜20のアルケニル基としては、炭素数2〜10のアルケニル基が好ましく、また、このアルケニル基は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。このアルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基などが挙げられる。炭素数6〜20のアリール基としては、炭素数6〜10のものが好ましく、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられる。炭素数7〜20のアラルキル基としては、炭素数7〜10のものが好ましく、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。
【0015】
一方、R3は炭素数1〜6のアルキル基であって、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、その例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0016】
nは1又は2の整数であり、R2が複数ある場合、各R2はたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよく、OR3が複数ある場合、各OR3はたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0017】
前記一般式(II)で表されるアルキルアルコキシシランの例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、メチルエチルジメチルシラン、メチルエチルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、エチルフェニルジメトキシシラン、エチルフェニルジエトキシシランなどが挙げられる。これらの中で好ましくはメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン及びジフェニルジエトキシシランなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
本発明の方法においては、コーティング液の原料として、上記一般式(I)で表されるアルコキシシランのみを用いてもよいし、上記一般式(II)で表されるアルキルアルコキシシランのみを用いてもよいが、上記一般式(I)で表されるアルコキシシランと上記一般式(II)で表されるアルキルアルコキシシランとを併用してもよい。
【0019】
本発明の方法においては、コーティング液中に、上記アルコキシシラン及び/又はアルキルアルコキシシランとともに、有機物質を含有させることを必須の要件とする。
上記有機物質としては、後述する熱処理の条件下で揮発又は分解するものであれば、いかなる有機物質も用いられる。このような有機物質としては、沸点又は分解温度が、好ましくは120〜450℃の範囲にあるポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、(メタ)アクリル系重合体などを用いることができる。沸点又は分解温度が120℃未満のものでは、ポリオルガノシロキサン薄膜を熱処理する前に揮発又は分解してしまうため、薄膜に空孔が有効に形成されない場合があり、一方450℃を超えるものでは熱処理後においても、有機物質が薄膜内に残留し、所望の空孔が形成されにくい。
【0020】
上記ポリエーテルとしては、分子内に炭素数2〜12のアルキレンオキシ基を有するポリアルキレングリコールを挙げることができる。具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリペンタメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロックコポリマー、ポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコールブロックコポリマー、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールブロックコポリマー、及びそのメチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテルなどが挙げられる。
【0021】
上記ポリエステルとしては、炭素数2〜12の脂肪族鎖及びエステル結合を繰り返し単位中に含む化合物を挙げることができ、例えば、ポリカプロラクトン、ポリピバロラクトン、ポリエチレンオキサレート、ポリエチレンマロネート、ポリエチレンスクシネート、ポリエチレングルタレート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンピメレート、ポリエチレンスベレート、ポリエチレンアゼラート、ポリエチレンセバケート、ポリプロピレンオキサレート、ポリプロピレンマロネート、ポリプロピレンスクシネート、ポリプロピレングリタレート、ポリプロピレンアジペート、ポリプロピレンピメレート、ポリプロピレンスベレート、ポリプロピレンアゼラート、ポリプロピレンセバケート、ポリブチレンオキサレート、ポリブチレンマロネート、ポリブチレンスクシネート、ポリブチレングリタレート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンピメレート、ポリブチレンスベレート、ポリブチレンアゼラート、ポリブチレンセバケート、ポリオキシジエチレンオキサレート、ポリオキシジエチレンマロネート、ポリオキシジエチレンスクシネート、ポリオキシジエチレングリタレート、ポリオキシジエチレンアジペート、ポリオキシジエチレンピメレート、ポリオキシジエチレンスベレート、ポリオキシジエチレンアゼラート、ポリオキシジエチレンセバケートなどの脂肪族ポリエステル類、及びそのメチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステルなどの脂肪族ポリエステルアルキルエーテル誘導体や脂肪族ポリエステルアルキルエステル誘導体が挙げられる。
【0022】
上記ポリカーボネートとしては、繰り返し単位中の炭素数が2〜12の脂肪族ポリカーボネートを挙げることができ、例えば、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリトリメチレンカーボネート、ポリテトラメチレンカーボネート、ポリペンタメチレンカーボネート、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリヘプタメチレンカーボネート、ポリオクタメチレンカーボネート、ポリノナメチレンカーボネート、ポリデカメチレンカーボネート、ポリオキシジエチレンカーボネート、ポリ−3,6−ジオキシオクタンカーボネート、ポリ−3,6,9−トリオキシウンデカンカーボネート、ポリオキシジプロピレンカーボネート、ポリシクロペンタンカーボネート、ポリシクロヘキサンカーボネートなどの脂肪族ポリカーボネート、及びそのメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステルなどの脂肪族ポリカーボネートアルキルエステル誘導体が挙げられる。
【0023】
上記(メタ)アクリル系重合体としては、ポリオキシエチル基、ポリオキシプロピル基、アミド基、ヒドロキシル基、カルボキシル基の中から選ばれた少なくとも1種を有する(メタ)アクリル系重合体が、好ましく挙げられる。上記(メタ)アクリル系重合体は、アクリル酸、メタクリル酸、上記官能基を有するアクリル酸誘導体、上記官能基を有するメタクリル酸誘導体、上記官能基を有さないアクリル酸エステル及び上記官能基を有さないメタクリル酸エステルより構成される。
【0024】
また、有機物質として、上記各化合物以外に、ポリウレタンを用いることもできる。ポリウレタンとしては、2個以上の活性水素を有する化合物、例えばポリオール化合物を2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物と反応させることにより得られた重合体が挙げられる。
【0025】
さらに、有機物質として、上記各化合物以外に、界面活性剤を用いることもできる。界面活性剤としては、例えば、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられ、特にシリコーン系界面活性剤、ポリアルキレンオキシド系界面活性剤、含フッ素界面活性剤などが好ましく用いられる。
【0026】
上記有機物質は、後述する薄膜の熱処理条件や硬化処理条件などに応じて、適宜1種又は2種以上選択して用いることが好ましく、この場合、薄膜を形成する基材の耐熱温度より低い温度で熱分解あるいは揮発する有機物質を選択することが好ましい。
【0027】
上記コーティング液は、上記必須成分とともに、通常、触媒、有機溶媒及び水を含有し、必要に応じてシリコン以外の金属のアルコキシドなどを含有することができる。
【0028】
上記触媒としては、アルカリ触媒及び酸触媒のいずれも用いることができる。
アルカリ触媒としては、無機塩基や有機塩基が挙げられ、無機塩基としては、例えばアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウムなどを例示することができる。また、有機塩基としては、例えばアルカノールアミン類、該アルカノールアミン類の各種N置換体、アルコキシアルキルアミン類、モノ、ジ、トリアルキルアミン類、アルキルアミノアルキルアミン類、エチレンジアミンのN,N,N’,N’−テトラアルキル置換体などを例示することができ、これらのアルカリ触媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
一方、酸触媒としては、無機酸や有機酸を用いることができる。無機酸としては、例えば塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸、ホウ酸などを挙げることができ、有機酸としては、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸などを挙げることができる。これらの酸触媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
アルカリ触媒又は酸触媒の使用量は、原料のアルココキシシラン及び/又はアルキルアルコキシシラン中の全アルコキシル基1モルに対し、通常0.00001〜0.5モル、好ましくは0.00005〜0.1モルの範囲で選定される。
本発明の方法において、コーティング液に含有される触媒としては、前記アルカリ触媒よりも酸触媒の方が、最終的に得られる多孔質シリカ系薄膜の性状の点から好ましい。
【0031】
コーティング液に含有される上記有機溶媒としては、例えばエタノール、n−プロパノール等のアルコール系、ケトン系、アミド系、エステル系溶媒などを挙げることができる。これらの溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
コーティング液に有機溶媒とともに含有される水の使用量は、原料のアルコキシシラン及び/又はアルキルアルコキシシラン中の全アルコキシル基1モル当たり、通常0.5〜5モル、好ましくは0.7〜3.0モルの範囲で選定される。
【0033】
コーティング液に含有されるシリコン以外の金属のアルコキシドとしては、例えば、アルミニウム、チタン、ジルコニウムなどの金属のアルコキシド等が挙げられる。具体的には、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリプロポキシアルミニウム、トリブトキシアルミニウム、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニムなどを挙げることができる。
【0034】
本発明の方法においては、上記アルコキシシラン及び/又はアルキルアルコキシシランとともに有機物質を必須成分として含有し、さらに触媒、溶媒などを通常含有するコーティング液を、基材に塗布することによって、コーティング液からなる薄膜を形成する。
【0035】
上記基材としては、特に限定はないが、例えば、耐熱性のある透明有機基材などの有機基材や、シリコンウエーハ、SiO2ウエーハ、SiNウエーハなどの半導体基板、石英ガラスなどのガラス、ガラスセラミックス、金属などの無機基材や、有機無機複合基材が挙げられる。この中では、耐熱性のある透明有機基材が好ましく、具体的には、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、環状ポリオレフィン、ポリノルボルネンなどが挙げられる。
【0036】
コーティング液の塗布は、例えば、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などの公知の手段を用いて行うことができる。
【0037】
本発明の方法においては、次に、上記コーティング液からなる薄膜を、上記有機物質が揮発又は分解する条件下で熱処理することにより、多孔質シリカ系薄膜を形成する。
上記熱処理は、加熱雰囲気として、大気下、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空下、酸素濃度をコントロールした減圧下などで行うことができる。
なお、この熱処理においては、コーティング液からなる薄膜中において、有機物質が薄膜中に残留することなく、揮発又は分解することが好ましいので、熱処理温度は、最終的に上記有機物質の沸点又は分解温度以上であることが肝要である。
【0038】
次に、本発明の方法における構成要件(II)について説明する。
本発明の構成要件(II)は、形成される多孔質シリカ系薄膜の空隙率を制御することによって多孔質シリカ系薄膜の屈折率を制御することを内容とするものであり、多孔質シリカ系薄膜の屈折率の制御は、これに限定されるわけではないが、(1)コーティング液中に含有させた有機物質の量を変化させる方法、(2)コーティング液に、予めシロキサン結合が形成されているポリシロキサン及び/又はポリオルガノシロキサンを加え、その量を変化させる方法、(3)薄膜の熱処理の前に硬化処理を行い、その条件を変化させる方法、又は(4)薄膜の熱処理の条件を変化させる方法から選ばれるいずれか1種以上の方法を用いることにより行われる。
これら4種の方法を以下、順次説明する。
【0039】
(1)コーティング液中に含有させた有機物質の量を変化させる方法
この方法(1)は、コーティング液中に含有させた有機物質の量を変化させることにより、薄膜の熱処理によって薄膜に形成される空隙の割合(空隙率)を変化させて、薄膜の屈折率を制御するものである。
すなわち、コーティング液中に含有させた有機物質の量が多ければ、コーティング液を基材に塗布して得た薄膜に含有される有機物質の量も多くなり、この薄膜を熱処理することによって、多量の有機物質が揮発又は分解して、高い空隙率を有し、その結果、屈折率の低い多孔質シリカ系薄膜が形成される。
一方、コーティング液中に含有させた有機物質の量が少なければ、多孔質シリカ系薄膜の空隙率は低く、その結果、屈折率の高い多孔質シリカ系薄膜が形成される。
方法(1)によれば、このようにして多孔質シリカ系薄膜の空隙率を制御することによって多孔質シリカ系薄膜の屈折率を制御することができる。
【0040】
コーティング液中に含有させる有機物質の量は、多孔質シリカ系薄膜において得ようとする屈折率に応じて適宜決定されるべきものであるが、通常、有機物質の量は、アルコキシシラン及び/又はアルキルアルコキシシラン(完全加水分解縮合物換算)100重量部に対して、10〜1100重量部であり、10〜600重量部とすることが適当である。
その理由は、10重量部未満であると、薄膜の空隙率を高めることができないため、薄膜の屈折率を低下させることができず、一方、1100重量部を超えると、薄膜の空隙率を高め、屈折率を低下させることができるが、薄膜の強度が低下することがあるからである。
【0041】
(2)コーティング液に、予めシロキサン結合が形成されているポリシロキサン及び/又はポリオルガノシロキサンを加え、その量を変化させる方法
この方法(2)は、コーティング液中に予めシロキサン結合が形成されているポリシロキサン及び/又はポリオルガノシロキサンを加え、その量を変化させる
ことにより、薄膜の熱処理によって薄膜に形成される空隙の割合(空隙率)を変化させて、薄膜の屈折率を制御するものである。
【0042】
すなわち、コーティング液中に加えられる、予めシロキサン結合が形成されているポリシロキサン及び/又はポリオルガノシロキサンの量が多ければ、コーティング液を基材に塗布して得た薄膜に含有される、予めシロキサン結合が形成されているポリシロキサン及び/又はポリオルガノシロキサンの量も多くなり、この薄膜を熱処理する際に空孔の潰れが少なくなるため、高い空隙率を有し、その結果、屈折率の低い多孔質シリカ系薄膜が形成される。
一方、コーティング液中に加えられる、予めシロキサン結合が形成されているポリシロキサン及び/又はポリオルガノシロキサンの量が少なければ、多孔質シリカ系薄膜の空隙率は低く、その結果、屈折率の高い多孔質シリカ系薄膜が形成される。
方法(2)によれば、このようにして多孔質シリカ系薄膜の空隙率を制御することによって多孔質シリカ系薄膜の屈折率を制御することができる。
【0043】
コーティング液中に加えられる、予めシロキサン結合が形成されているポリシロキサン及び/又はポリオルガノシロキサンの量は、多孔質シリカ系薄膜において得ようとする屈折率に応じて適宜決定されるべきものであるが、通常、アルコキシシラン及び/又はアルキルアルコキシシラン(完全加水分解縮合物換算)100重量部に対して、1〜1000重量部とするのが好ましく、20〜500重量部とするのがより好ましい。
その理由は、1重量部未満であると、薄膜の空隙率を高めることができないため、薄膜の屈折率を低下させることができず、一方、1000重量部を超えると、薄膜の空隙率を高め、屈折率を低下させることができるが、薄膜の強度が低下することがあるからである。
【0044】
予めシロキサン結合が形成されているポリシロキサン及び/又はポリオルガノシロキサンとしては、コロイダルシリカ、反応性シリコーンオイル、また上述の一般式(I)で表されるアルコキシシランや一般式(II)で表されるアルキルアルコキシシランを加水分解縮合するなどして得られるオリゴマー、プレポリマー、デンドリマー、スターバーストポリマー、ハイパーブランチポリマー等を挙げることができる。この中では、コロイダルシリカを用いるのが特に好ましい。
【0045】
(3)薄膜の熱処理の前に硬化処理を行い、その条件を変化させる方法
この方法(3)は、薄膜の熱処理の前に硬化処理を行い、その条件を変化させることにより、薄膜の熱処理によって薄膜に形成される空隙の割合(空隙率)を変化させて、薄膜の屈折率を制御するものである。
【0046】
すなわち、硬化処理温度が高い程、または硬化処理時間が長い程、薄膜の硬化が促進されて、後工程の熱処理時における空孔の変形を抑制できるため、高い空隙率を有し、その結果、屈折率の低い多孔質シリカ系薄膜が形成され、一方、硬化処理温度が低い程、または硬化処理時間が短い程、低い空隙率を有し、その結果、屈折率の高い多孔質シリカ系薄膜が形成される。
方法(3)によれば、このようにして多孔質シリカ質薄膜の空隙率を制御することによって多孔質シリカ系薄膜の屈折率を制御することができる。
【0047】
上記硬化処理は、通常、薄膜の熱処理前に、塩基性又は酸性物質雰囲気下で加熱することにより行われる。硬化処理においては、薄膜中の有機物質は、できるだけ揮発又は分解しないことが好ましい。
ここで、塩基性物質としては、アンモニア及び上記コーティング液に含有される触媒の中で有機塩基として例示した化合物の中から、適宜1種又は2種以上を選択して用いることができる。この塩基性物質としては、アルカノールアミンが好ましく、特にジエタノールアミンが好適である。
酸性物質雰囲気下で硬化処理を行う場合には、酸性物質として、例えば塩化水素、フッ化水素、二酸化イオウ、三酸化イオウ、一酸化窒素、二酸化窒素、二酸化炭素及び上記コーティング液に含有される触媒の中で有機酸として例示した化合物の中から適宜1種又は2種以上を選択して用いることができる。
【0048】
また、上記硬化処理温度は、シリカ系薄膜において得ようとする屈折率に応じて適宜選択されるが、通常80〜200℃であり、100〜170℃が適当である。
その理由は、80℃未満であると、薄膜の空隙率を高めることができないため
、薄膜の屈折率を低下させることができず、一方、200℃を超えると、薄膜の硬化前に有機物質の揮発又は分解が促進され、その際に空孔の潰れが生じるため、薄膜の屈折率を低下させることができないためである。
【0049】
硬化処理時間は、シリカ系薄膜において得ようとする屈折率に応じて適宜選択されるが、通常10分ないし3時間程度であり、20分〜2時間が適当である。
その理由は、10分未満であると、薄膜の空隙率を高めることができないため、薄膜の屈折率を低下させることができず、一方、3時間を超えると、薄膜の硬化前に有機物質の揮発又は分解が促進され、その際に空孔の潰れが生じるため、薄膜の屈折率を低下させることができないためである。
【0050】
(4)薄膜の熱処理の条件を変化させる方法
この方法(4)は、薄膜の熱処理の条件を変化させることにより、薄膜に形成される空隙の割合(空隙率)を変化させて、薄膜の屈折率を制御するものである。
【0051】
すなわち、薄膜の熱処理温度が高い程、又は薄膜の熱処理時間が長い程、有機物質の揮発又は分解が促進されて、高い空隙率を有し、その結果、屈折率の低い多孔質シリカ系薄膜が形成され、一方、薄膜の熱処理温度が低い程、又は薄膜の熱処理時間が短い程、低い空隙率を有し、その結果、屈折率の高い多孔質シリカ系薄膜が形成される。
方法(4)によれば、このようにして多孔質シリカ系薄膜の空隙率を制御することによって多孔質シリカ系薄膜の屈折率を制御することができる。
【0052】
薄膜の熱処理の条件は、多孔質シリカ系薄膜において得ようとする屈折率あるいは基材の耐熱温度に応じて適宜決定されるべきものであるが、通常、熱処理温度は100〜600℃であり、150〜450℃であることが適当である。
その理由は、100℃未満であると、薄膜の空隙率を高めることができないため、薄膜の屈折率を低下させることができず、一方、600℃を超えると、過剰な熱処理となるため生産性の面で好ましくないからである。
【0053】
また、熱処理時間は1分〜2時間に制御することが好ましく、10〜60分に制御することがより好ましい。
その理由は、1分未満であると、薄膜の空隙率を高めることができないため、薄膜の屈折率を低下させることができず、一方、2時間を超えると、過剰な熱処理となるため生産性の面で好ましくないからである。
【0054】
多孔質シリカ系薄膜の屈折率の制御は、上記(1)〜(4)の方法の内、いずれか1つの方法を選択して制御してもよいし、2つ以上の方法を選択して制御してもよい。
また、基材上に形成された薄膜は、所望により、熱処理工程前に乾燥処理に付すこともできる。乾燥処理は、80〜200℃で、10分〜3時間行うことが好ましい。
以上説明したように、本発明の方法によれば、屈折率が制御された多孔質シリカ系薄膜を製造することができる。
【0055】
〔多孔質シリカ系薄膜〕
次に、本発明の多孔質シリカ系薄膜について説明する。
本発明の多孔質シリカ系薄膜は、上述の多孔質シリカ系薄膜の製造方法により得られたことを特徴とする。
本発明の多孔質シリカ系薄膜において、屈折率は、薄膜の用途等によって適宜選択されるが、通常、膜厚100nmにおいて1.10〜1.45の範囲である。
また、膜厚は、薄膜の用途等によって適宜選択されるが、通常、80〜200nmの範囲である。
本発明の多孔質シリカ系薄膜は、レンズ等の光学素子や、バックライトユニット部品、タッチパネル用基板等のディスプレイ構成部品、太陽電池等の光電変換装置基板の表面に設けられる単層の反射防止膜として好適に使用することができる。
【0056】
〔構造物〕
次に、本発明の構造物について説明する。
本発明の構造物は、本発明の多孔質シリカ系薄膜を基材の表面に形成してなることを特徴とする。
上記多孔質シリカ系薄膜が形成されてなる構造物は、基材の表面に多孔質シリカ系薄膜を有することにより、構造物表面における反射率を制御することが可能となる。
本発明の構造物としては、例えば、レンズ等の光学素子や、バックライトユニット部品、タッチパネル用基板、輝度向上フィルム等のディスプレイ構成部品、太陽電池等の光電変換装置基板、家屋又は車両のガラス窓等を挙げることができる。
構造物を構成する基材としては、特に限定はないが、例えば、耐熱性のある透明有機基材などの有機基材や、シリコンウエーハ、SiO2ウエーハ、SiNウエーハなどの半導体基板、石英ガラスなどのガラス、ガラスセラミックス、金属などの無機基材や、有機無機複合基材などが挙げられる。この中では、耐熱性のある透明有機基材が好ましく、具体的には、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、環状ポリオレフィン、ポリノルボルネンなどが挙げられる。
本発明の構造物は、反射率が400nm〜800nmの領域で4.0%以下であることが好ましく、全光線透過率が80%以上であることが好ましく、ヘイズが5.0%以下であることが好ましい。
構造物表面における多孔質シリカ系薄膜の膜厚と屈折率を制御することによって、所定の屈折率を有する構造物上で広波長領域に亘って低い反射率を得ることができる。
【実施例】
【0057】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何等限定されるものではない。
なお、実施例で得られた多孔質シリカ系薄膜の膜厚、屈折率、密着性(碁盤目テープ剥離性)と、多孔式シリカ系薄膜を形成した構造物の全光線透過率、反射率、ヘイズは、以下に示す方法に従って測定した。
【0058】
(1)膜厚、屈折率
スペクトル反射測定器フィルメトリクスF20(Filmetrics社製)を用いて、基材上の多孔質シリカ系薄膜の膜厚および屈折率を測定した。
(2)全光線透過率
JIS K7361に準拠し、濁度計NDH2000(日本電色工業(株)製)を用いて、多孔質シリカ系薄膜を形成した構造物の全光線透過率を測定した。
(3)ヘイズ
JIS K7136に準拠し、濁度計NDH2000(日本電色工業(株)製)を用いて、多孔質シリカ系薄膜を形成した構造物のヘイズを測定した。
(4)反射率
一方の表面に多孔質シリカ系薄膜を形成した構造物の裏面(非サンプル面)をサンドペーパーで均一に研磨し、黒色塗料で塗りつぶして、構造物の測定サンプルを作製した。この測定サンプルの表面の反射スペクトルをスペクトル反射測定器フィルメトリクスF20(Filmetrics社製)を用いて測定し、構造物の反射率を求めた。
(5)密着性(碁盤目テープ剥離性試験)
JIS K5400に準拠し、基材上の多孔質シリカ系薄膜にロータリーカッターにて1mm角の碁盤目100マスを付け、セロテープ(ニチバン(株)製、登録商標)を圧着させたのち、一気に引き剥がし、その剥離面積より、JIS K5400に準拠して下記点数により薄膜の密着性を評価した。
10点:剥離面積0%、8点:剥離面積5%以内、6点:同5〜15%、4点:同15〜35%、2点:同35〜65%、0点:65%以上
【0059】
実施例1
本実施例は、多項質シリカ系薄膜形成用コーティング液を調整するためにアルキルアルコキシシランとして、メチルトリエトキシシランを、有機物質として、ポリプロピレングリコールを用い、ポリプロピレングリコールの量を変化させた実施例である。
メチルトリエトキシシラン1.78gにエタノール1.38g及び1−ブタノ−ル2.22gを加えたのち、攪拌しながら、水1.08gとリン酸0.05gの混合液を滴下し、室温で1時間攪拌を行い、これを原液とした。
その後、この原液に、成分調整液として、エタノール8.67g、1−ブタノ−ル13.95gおよびポリプロピレングリコール(和光純薬(株)製、トリオール型、平均分子量4000、以下PPGと略記することがある)を0.12g加え、さらに10分間攪拌を行い、コーティング液Aを調製した。
一方、同様にして得られた原液に、表1にそれぞれ示す成分調整液を加え、ポリプロピレングリコール(PPG)を、それぞれ0.46g、0.76g含有するコーティング液B、Cを調製した。
コーティング液A、B、Cにおけるメチルトリエトキシシランの完全加水分解縮合物100重量部に対するPPGの量はそれぞれ18重量部、69重量部、113重量部であった。
【0060】
次に上記コーティング液A、B及びCのそれぞれを、大気中でコロナ放電処理したPES(ポリエーテルサルフォン)基材(住友ベークライト(株)製 スミライトFS−1300、厚さ100μm)上に2500rpmでスピンコートしてコーティング液A、B及びCのそれぞれからなる薄膜を形成した。
次にコーティング液A、B及びCのそれぞれからなる薄膜を塩基性物質であるジエタノールアミンの雰囲気下で120℃で30分間硬化処理した後、180℃で60分間熱処理することによって3種類の多孔質シリカ系薄膜を得た。
多孔質シリカ系薄膜の形成のための条件を表2に、得られた3種類の多孔質シリカ系薄膜および各薄膜が形成された構造物の物性値を表3に示す。
【0061】
表3より、有機物質であるポリプロピレングリコール(PPG)の含有量が0.12g(コーティング液A)、0.46g(コーティング液B)、0.76g(コーティング液C)の順で増加するにつれて、空隙率が増加して多孔質シリカ系薄膜の屈折率が、ほぼ同一膜厚で1.35、1.24、1.17と減少すること、すなわち用いられる有機物質の量を制御することによって多孔質シリカ系薄膜の屈折率が制御されることが明らかとなった。
また表3に示された全光線透過率、ヘイズ値、反射率及び基盤目剥離性試験結果より、薄膜を形成した構造物が広帯域で低い反射率を示し、薄膜が透明かつ密着性に優れていることが明らかとなった。
【0062】
実施例2
本実施例は、多孔質シリカ系薄膜形成用コーティング液にコロイダルシリカを加え、その量を変化させた実施例である。
メチルトリエトキシシラン0.82gにエタノール0.64g及び1−ブタノール1.02gを加えた後、攪拌しながら、水0.50gとリン酸0.02gの混合液を滴下し、室温で1時間攪拌を行い、原液を得た。
その後、この原液に成分調整液として、エタノール16.28g、1−ブタノール26.19g、ポリプロピレングリコール(有機物質)0.87gおよびコロイダルシリカ分散液(シロキサン結合形成ポリ(オルガノ)シロキサン、日産化学工業製IPA―ST、固形分濃度30%)を、0.27g加え、さらに10分間攪拌を行い、コーティング液Eを調製した。
一方、表1に示す各原液に、表1に示す各成分調整液を加え、コロイダルシリカ分散液をそれぞれ0g(無添加)、0.83g及び1.80g含有するコーティング液D、F及びGを調製した。
【0063】
次に上記コーティング液D、E、F及びGのそれぞれを、大気中でコロナ放電処理したPES(ポリエーテルサルフォン)基材(住友ベークライト(株)製 スミライトFS−1300、厚さ100μm)上に2500rpmでスピンコートしてコーティング液D、E、F及びGのそれぞれからなる薄膜を形成した。
次にコーティング液D、E、F及びGのそれぞれからなる薄膜を120℃で30分間乾燥処理した後180℃で60分間熱処理することによって4種類の多孔質シリカ系薄膜を得た。
多孔質シリカ系薄膜の形成のための条件を表2に、得られた4種類の多孔質シリカ系薄膜および各薄膜が形成された構造物の物性値を表3に示す。
【0064】
表3より、コーティング液中のコロイダルシリカ分散液の含有量が0gから0.27g、0.83g、1.80gの順に増加するに従って多孔質シリカ系薄膜の屈折率は、同一膜厚で1.31から1.30、1.22、1.19と減少すること、すなわちコロイダルシリカの含有量を制御することにより多孔質シリカ系薄膜の屈折率が制御されることが明らかとなった。
また表3に示された全光線透過率、ヘイズ値、反射率及び基盤目剥離性試験結果より、薄膜を形成した構造物が広帯域で低い反射率を示し、薄膜が透明かつ密着性に優れていることが明らかとなった。
【0065】
実施例3
本実施例は、熱処理前に、塩基性物質の雰囲気下での硬化処理を行い、その条件を変化させた実施例である。
実施例1で用いられたコーティング液Bを使用し、塩基性物質であるジエタノールアミンの雰囲気下での硬化処理の条件を80℃で30分、100℃で30分、120℃で5分及び120℃で15分とそれぞれ変化させた以外は実施例1と同様にして4種類の多孔質シリカ系薄膜を得た。
多孔質シリカ系薄膜の形成のための条件を表2に、得られた4種類の多孔質シリカ系薄膜および各薄膜が形成された構造物の物性値を表3に示す。
【0066】
表3に示された硬化処理条件80℃で30分の結果と100℃で30分の結果との対比により、硬化処理温度の上昇により、多孔質シリカ系薄膜の屈折率が、同一膜厚で1.33から1.30に低下し、また表3に示された硬化処理条件120℃で5分の結果と120℃で15分の結果との対比により、硬化処理時間の増加により、多孔質シリカ系薄膜の屈折率が、同一膜厚で1.37から1.31に低下すること、すなわち硬化処理温度と時間を制御することによって多孔質シリカ系薄膜の屈折率が制御されることが明らかとなった。
また表3に示された全光線透過率、ヘイズ値、反射率及び基盤目剥離性試験結果より、薄膜を形成した構造物が広帯域で低い反射率を示し、薄膜が透明かつ密着性に優れていることが明らかとなった。
【0067】
実施例4
本実施例は、熱処理の条件を変化させた実施例である。
実施例2で用いられたコーティング液Fを使用し、このコーティング液Fを大気中でコロナ放電処理したPES(ポリエーテルサルフォン)基材(住友ベークライト(株)製スミライトFS−1300、厚さ100μm)上に実施例2と同様にスピンコートしてコーティング液Fからなる薄膜を形成させた。以下、同一の操作を2回繰り返して、合計で3種類の同一の薄膜を形成させた。
形成された薄膜のそれぞれを120℃で30分間乾燥処理した後、160℃で60分間、180℃で30分間及び180℃で60分間それぞれ熱処理することにより3種類の多孔質シリカ系薄膜を得た。
多孔質シリカ系薄膜の形成のための条件を表2に、作られた3種類の多孔質シリカ系薄膜および各薄膜が形成された構造物の物性を表3に示す。
【0068】
表2に示された熱処理条件160℃、60分間の結果と180℃、60分間の結果との対比により、熱処理温度の上昇により多孔質シリカ系薄膜の屈折率が、ほぼ同一膜厚で1.40から1.22に低下し、また熱処理条件180℃、30分間の結果と180℃、60分間の結果との対比により、熱処理時間の増加により多孔質シリカ系薄膜の屈折率が、ほぼ同一膜厚で1.31から1.22に低下すること、すなわち熱処理温度と時間を制御することにより多孔質シリカ系薄膜の屈折率が制御されることが明らかとなった。
また表3に示された全光線透過率、ヘイズ値、反射率及び基盤目剥離性試験結果より、薄膜を形成した構造物が広帯域で低い反射率を示し、薄膜が透明かつ密着性に優れていることが明らかとなった。
【0069】
実施例5〜9
表1、2に示すように条件を変化させた以外は実施例1〜4と同様に行い、表3に示すように屈折率が制御された多孔質シリカ系薄膜を得た。
【0070】
比較例1
有機物質(ポリプロピレングリコール)を用いなかったこと及び硬化処理を行わずに乾燥処理を行ったこと以外は実施例1と同様にしてシリカ系薄膜を得た。
シリカ系薄膜の形成のための条件を表2に、得られたシリカ系薄膜の物性値を表3に示す。
表3より明らかなように、得られたシリカ系薄膜の屈折率は1.38であり、この値は、上述の実施例1〜9で得られた多孔質シリカ系薄膜の屈折率よりも高く、シリカの屈折率1.46により近い値であった。これは、比較例1で得られたシリカ系薄膜においては、空隙の形成が不充分で、屈折率が低下しなかったためである。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

実施例10
表4に示す各原液に表4に示す各成分調整液を加え、有機物質であるポリプロピレングリコール(PPG)をそれぞれ0.29g、0.78g及び1.24g含有するコーティング液M、N、Oを調製した。コーティング液M、N、Oにおけるメチルトリエトキシシランの完全加水分解縮合物100重量部に対するPPGの量はそれぞれ43重量部、116重量部、185重量部であった。
次にこれらのコーティング液のそれぞれを基材の石英ガラス上に、実施例1と同様にしてスピンコートした後、硬化処理、熱処理して3種類の多孔質シリカ系薄膜を得た。
多孔質シリカ系薄膜の形成のための条件を表5に、得られた3種類の多孔質シリカ系薄膜および各薄膜が形成された構造物の物性値を表6に示す。
【0074】
表6より、本実施例においても、有機物質であるポリプロピレングリコール(PPG)の含有量が0.29g、0.78g、1.24gの順で増加するにつれて、空隙率が増加して多孔質シリカ系薄膜の屈折率が、ほぼ同一膜厚で1.27、1.19、1.15と減少すること、すなわち用いられる有機物質の量を制御することによって多孔質シリカ系薄膜の屈折率が制御されることが明らかとなった。
また表6に示された全光線透過率、ヘイズ値、反射率及び基盤目剥離性試験結果より、薄膜の屈折率と膜厚を制御することにより、薄膜を形成した構造物が広帯域で低い反射率を示し、透明かつ密着性に優れた薄膜が得られることが明らかとなった。
【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【0077】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、得られるシリカ系薄膜の屈折率を制御することが可能なシリカ系薄膜の製造方法、該方法により得られる多孔質シリカ系薄膜及び該多孔質シリカ系薄膜を表面に形成してなる構造物を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシラン及び/又はアルキルアルコキシシランとともに有機物質を含有させたコーティング液からなる薄膜を、前記有機物質が揮発又は分解する条件下で熱処理することにより多孔質シリカ系薄膜を形成させる工程を含み、
形成される多孔質シリカ系薄膜の空隙率を制御することによって多孔質シリカ系薄膜の屈折率を制御する
ことを特徴とする屈折率が制御された多孔質シリカ系薄膜の製造方法。
【請求項2】
多孔質シリカ系薄膜の屈折率の制御が、前記コーティング液中に含有させた有機物質の量を変化させることによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
多孔質シリカ系薄膜の屈折率の制御が、前記コーティング液に、予めシロキサン結合が形成されているポリシロキサン及び/又はポリオルガノシロキサンを加え、その量を変化させることによって行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
多孔質シリカ系薄膜の屈折率の制御が、前記熱処理の前に硬化処理を行い、その条件を変化させることによって行われる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
多孔質シリカ系薄膜の屈折率の制御が、熱処理の条件を変化させることによって行われる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法で得られたことを特徴とする多孔質シリカ系薄膜。
【請求項7】
請求項6に記載の多孔質シリカ系薄膜を基材の表面に形成してなることを特徴とする構造物。
【請求項8】
基材が耐熱性透明有機基材である、請求項7に記載の構造物。
【請求項9】
反射率が400nm〜800nmの領域で4.0%以下、全光線透過率が80%以上、ヘイズが5.0%以下である、請求項7又は8に記載の構造物。


【公開番号】特開2006−36598(P2006−36598A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220248(P2004−220248)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】