説明

多孔質セラミックスフィルターおよび排ガス浄化装置

【課題】緻密であり、優れた高温強度を有し、かつ耐酸性に優れた封孔部を有する、多孔質セラミックスフィルターおよび排ガス浄化装置を提供する。
【解決手段】複数の貫通孔11が壁部12を隔てて長手方向に並設され、貫通孔11のいずれか一方の端部を封鎖する封孔部13を有し、壁部12には、流体を通過させる細孔が設けられ、貫通孔11の一方から他方に向けて流体を流し、かつ細孔を通じて隣接する貫通孔11に流体を流すように構成されている多孔質セラミックスフィルター10であって、封孔部13を形成する材料が、酸化カルシウム含有セラミックス系骨材と無機バインダーとの反応物を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質セラミックスフィルターおよび排ガス浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路に備えられ、排ガス中に含まれる粒子状物質(PM(Particulate Matter)、以下、本明細書においてPMと称することがある。)を捕集するための排ガス浄化フィルターとして、多孔性のセラミックス材料(多孔質セラミックス)を用いたフィルターが広く用いられている。
【0003】
特に、ディーゼルエンジンの排ガス中に含まれる粒子状物質については、窒素酸化物(NOx)とともに、その排出規制が日米欧において段階的に強化されている。かかる規制に適合させるため、粒子状物質を捕集するためのディーゼルパーティキュレートフィルター(DPF(Diesel Particulate Filter)、以下、本明細書において、DPFと称することがある。)の開発が盛んに進められてきている。現在、DPFとしては、主に、ハニカム状をなし、ハニカムの開口する2面をつなぐ複数の貫通孔端部のいずれか一方を封鎖する封孔部を有し、流体中の粒子状物質が多孔質セラミックスで形成されたハニカム隔壁を通過することによって補足される構造が用いられている。
【0004】
封孔部を形成する材料には、多孔質セラミックスと同質の骨材と各種バインダーとが用いられ、焼結によって形成された封孔部は、比較的高い気孔率となっていることが多い(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
封孔部を形成する他の材料として、アルミナセメント等が挙げられる(例えば、特許文献2,3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−247111号公報(1987年10月28日公開)
【特許文献2】特開昭62−41054号公報(1987年9月1日公開)
【特許文献3】特開昭59−127618号公報(1984年7月23日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示されているフィルターでは、実施例1に記載されているように、封孔部と壁部との熱膨張率を近似させる等の理由から、同一材料を用いて封孔部が形成されており、気孔率が28%となっている。しかしながら、多孔性の封孔部は、強度が低いために流体圧力による封孔部の吹き飛びや、フィルター再生処理時に封孔部気孔内に入り込んだススの燃焼発熱に起因する破損等の問題を有しており、強度を得るために一定の封孔部厚さを必要としていた。
【0008】
一方、特許文献2,3に示されているフィルターでは、アルミナセメントによって封孔部が形成されるが、材質的に高温処理後に強度を保持することができないという問題を有すると共に、耐酸性に劣るという問題もある。
【0009】
また、フィルター製造時の乾燥、脱脂および焼結によって、従来の封孔部の材料を用いると引け巣が発生する場合がある。引け巣が発生すると、排ガスが漏れるおそれ、引け巣部分の強度低下による封孔部の吹き飛び等の問題が考えられる。
【0010】
本発明は、上記の従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、緻密であり、優れた高温強度を有し、かつ耐酸性に優れた封孔部を有する、多孔質セラミックスフィルターおよび排ガス浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み封孔部の気孔率および強度について鋭意検討した結果、酸化カルシウムを含む材料と無機バインダー等の結合材とを用いて封孔部を形成すると、緻密であり、高温処理後に強度を保持することができ、かつ耐酸性を向上させることができるということを見出した。一方、特許文献2,3に示されているフィルターでは、フィルターの封孔部に無機バインダー等の結合材を用いていないため、高温処理後に強度を保持することができず、かつ耐酸性に劣っている。
【0012】
すなわち、本発明に係る多孔質セラミックスフィルターは、上記課題を解決するために、複数の貫通孔が壁部を隔てて長手方向に並設され、前記貫通孔のいずれか一方の端部を封鎖する封孔部を有し、前記壁部には、流体を通過させる細孔が設けられ、前記貫通孔の一方から他方に向けて前記流体を流し、かつ前記細孔を通じて隣接する該貫通孔に該流体を流すように構成されている多孔質セラミックスフィルターであって、前記封孔部を形成する材料が、酸化カルシウム含有セラミックス系骨材と無機バインダーとの反応物を含んでいることを特徴としている。
【0013】
上記の構成によれば、前記封孔部において、酸化カルシウムが水和反応を起こして硬化しているため、引け巣(熱収縮によって生じる隙間)等の発生を防止することができ、緻密な封孔部を得ることによって気孔率を低くすることができる。
【0014】
また、上記の構成によれば、前記封孔部において、無機バインダーが水和反応によって得られた硬化物を強固に結合する作用を有し、高温時の結晶内の脱水を抑制するため、高温処理後に強度を保持することができる。また、上記の構成によれば、前記封孔部において、無機バインダーが耐酸性を付与しているため、耐酸性を向上させることができる。
【0015】
さらに、前記封孔部とハニカム隔壁との接合部分において、封孔部の材料が隔壁の細孔に入り込んで固化することによって、封孔部が隔壁と強固に結びつくことができる。
【0016】
また、本発明に係る多孔質セラミックスフィルターは、前記無機バインダーが、シリカを含んでいることが好ましい。
【0017】
上記の構成によれば、無機バインダー内のシリカが結合した骨材を得ることできるため、封孔部の強度を向上させることができる。
【0018】
また、本発明に係る多孔質セラミックスフィルターは、前記封孔部の気孔率が、15%以下であることが好ましい。
【0019】
上記の構成によれば、封孔部の気孔率が15%よりも大きい場合に生じやすい、PMを含むススが溜まったフィルターの再生処理時に、封孔部気孔内に入り込んだススが燃焼することで過剰な発熱によって封孔部またはその周辺部が割れを起こす、という不具合を解消することができる。
【0020】
また、本発明に係る多孔質セラミックスフィルターは、前記封孔部の前記長手方向の厚さが、15mm以下であることが好ましい。
【0021】
上記の構成によれば、封孔部が高温強度に優れるため封孔部の厚みを薄くすることができ、封孔部が隔壁と接合する部分が短くなりハニカム隔壁の有効面積が広く利用できることから、フィルター全体として低圧損を達成することができる。
【0022】
また、本発明に係る多孔質セラミックスフィルターは、前記酸化カルシウム含有セラミックス系骨材が、窒化ケイ素を含んでいることが好ましい。
【0023】
上記の構成によれば、窒化ケイ素は、炭化ケイ素等と比べて熱容量が小さいため、より少ない熱量での加熱によって再生を行うことができる。
【0024】
また、本発明に係る多孔質セラミックスフィルターは、前記反応物が、前記酸化カルシウム含有セラミックス系骨材と前記無機バインダーとを、500℃以上で熱処理することによって得られるものであることが好ましい。
【0025】
上記の構成によれば、効率的に前記反応物を得ることができるため、高温処理後に強度を保持することができ、耐酸性に優れ、かつ気孔率が低い封孔部を有する、多孔質セラミックスフィルターを効率良く提供することができる。
【0026】
また、本発明に係る多孔質セラミックスフィルターは、熱処理前の封孔部において、前記酸化カルシウムの比率が、2〜20質量%であることが好ましい。
【0027】
上記の構成によれば、酸化カルシウムが水和反応を起こしやすくなり、引け巣等の発生をより一層防止することができ、より緻密な封孔部を得ることによって気孔率をより一層低くすることができる。
【0028】
また、本発明に係る多孔質セラミックスフィルターは、熱処理前の封孔部において、前記無機バインダーの比率が、3〜40質量%であることが好ましい。
【0029】
上記の構成によれば、シリカが結合した骨材を効率良く得ることできるため、強度をより一層向上させることができる。
【0030】
また、本発明に係る多孔質セラミックスフィルターは、前記反応物が、前記酸化カルシウム含有セラミックス系骨材と前記無機バインダーと水とを、500℃以上、好ましくは650℃以上で熱処理することによって得られるものであり、前記水の比率が、0質量%よりも大きく、5質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0031】
上記の構成によれば、水によって酸化カルシウムの水和反応を効率良く生じさせることできるため、強度をより一層向上させることができる。
【0032】
また、本発明に係る多孔質セラミックスフィルターの製造方法は、前記多孔質セラミックスフィルターを製造する方法であって、前記酸化カルシウム含有セラミックス系骨材と前記無機バインダーとを、500℃以上で熱処理することによって前記反応物を得ることを特徴としている。
【0033】
上記の構成によれば、効率的に前記反応物を得ることができるため、高温処理後に強度を保持することができ、耐酸性に優れ、かつ気孔率が低い封孔部を有する、多孔質セラミックスフィルターを効率良く製造することができる。
【0034】
また、本発明に係る多孔質セラミックスフィルターの製造方法は、熱処理前の前記無機バインダーが、コロイダルシリカを含んでいることが好ましい。
【0035】
上記の構成によれば、コロイダルシリカに含まれる水によって酸化カルシウムの水和反応を効率良く生じさせることできるため、高強度の封孔部を有する多孔質セラミックスフィルターを効率良く製造することができる。
【0036】
また、本発明に係る多孔質セラミックスフィルターの製造方法は、熱処理前の前記無機バインダーの比率が、3〜40質量%であることが好ましい。
【0037】
上記の構成によれば、シリカが結合した骨材を効率良く得ることできるため、高強度の封孔部を有する多孔質セラミックスフィルターを効率良く製造することができる。
【0038】
また、本発明に係る多孔質セラミックスフィルターの製造方法は、前記酸化カルシウム含有セラミックス系骨材と前記無機バインダーと水とを、500℃以上で熱処理することによって前記反応物を得、前記水の比率が、0質量%よりも大きく、5質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0039】
上記の構成によれば、水によって酸化カルシウムの水和反応を効率良く生じさせることできるため、高強度の封孔部を有する多孔質セラミックスフィルターを効率良く製造することができる。
【0040】
また、本発明に係る多孔質セラミックスフィルターは、排ガス浄化フィルターに用いられることが好ましい。
【0041】
また、本発明に係る排ガス浄化装置は、前記多孔質セラミックスフィルターを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0042】
本発明に係る多孔質セラミックスフィルターは、以上のように、複数の貫通孔が壁部を隔てて長手方向に並設され、前記貫通孔のいずれか一方の端部を封鎖する封孔部を有し、前記壁部には、流体を通過させる細孔が設けられ、前記貫通孔の一方から他方に向けて前記流体を流し、かつ前記細孔を通じて隣接する該貫通孔に該流体を流すように構成されている多孔質セラミックスフィルターであって、前記封孔部を形成する材料が、酸化カルシウム含有セラミックス系骨材と無機バインダーとの反応物を含んでいるものである。
【0043】
それゆえ、本発明に係る多孔質セラミックスフィルターは、緻密であり、優れた高温強度を有し、かつ耐酸性に優れた封孔部を有することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態における多孔質セラミックスフィルターの一例を示す斜視図であり、(b)は、(a)に示す多孔質セラミックスフィルターの断面図である。
【図2】本発明の一実施形態における多孔質セラミックスフィルターの他の例を示す斜視図である。
【図3】(a)は、図2に示す多孔質セラミックスフィルターに用いる多孔質セラミックス部材を示す斜視図であり、(b)は、(a)に示す多孔質セラミックス部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の一実施形態について、以下に詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施し得るものである。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0046】
(I)本実施形態における多孔質セラミックスフィルターの構成
本実施形態の多孔質セラミックスフィルターは、複数の貫通孔が壁部を隔てて長手方向に並設され、上記貫通孔のいずれか一方の端部を封鎖する封孔部を有し、上記壁部には、流体を通過させる細孔が設けられ、上記貫通孔の一方から他方に向けて上記流体を流し、かつ上記細孔を通じて隣接する該貫通孔に該流体を流すように構成されている多孔質セラミックスフィルターであって、上記封孔部を形成する材料(以下、本明細書において、「封孔部の材料」と称することがある。)が、酸化カルシウム含有セラミックス系骨材と無機バインダーとの反応物を含んでいる。
【0047】
<多孔質セラミックスフィルターの形状>
本実施形態の多孔質セラミックスフィルターの形状について、図1〜3を参照しながら具体的に説明する。
【0048】
図1(a)は、本実施形態における多孔質セラミックスフィルターの一例(本実施形態における多孔質セラミックスフィルター10)を示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)に示す多孔質セラミックスフィルター10において、長手方向に沿う面で切断したときの断面図である。
【0049】
ここで、本明細書において、「長手方向」とは、「貫通孔および壁部に沿う方向」を意味する。
【0050】
図1(a)・(b)に示すように、本実施形態における多孔質セラミックスフィルター10は、例えば、複数の貫通孔11、貫通孔11の壁部12、貫通孔11の封鎖として用いる封孔部13を備えている。
【0051】
本実施形態における多孔質セラミックスフィルター10において、複数の貫通孔11が壁部12を隔てて長手方向に並設され、貫通孔11のいずれか一方の端部が封孔部13によって封鎖され、壁部12には、流体(例えば、排ガス等)を通過させる細孔(図示しない)が設けられ、貫通孔11の一方から他方に向けて(図1(b)における矢印の方向)流体を流し、かつ細孔を通じて隣接する貫通孔11に流体を流す(図1(b)における矢印を参照)ように構成されている。
【0052】
また、図2は、本実施形態における多孔質セラミックスフィルターの他の例(本実施形態における多孔質セラミックスフィルター20)を示す斜視図である。また、図3(a)は、図2に示す多孔質セラミックスフィルターに用いる多孔質セラミックス部材30を示す斜視図であり、図3(b)は、図3(a)に示す多孔質セラミックス部材30において、長手方向に沿う面で切断したときの断面図である。
【0053】
図2に示すように、本実施形態における多孔質セラミックスフィルター20は、例えば、複数の多孔質セラミックス部材(セグメント)30が、接合材層24を介して複数個結束されてセラミックブロック25を構成し、このセラミックブロック25の周囲に外塗り材層26が形成されている。なお、接合材層24、セラミックブロック25および外塗り材層26は、従来公知のものを用いることができる。
【0054】
図3(a)・(b)に示すように、本実施形態における多孔質セラミックス部材30は、例えば、複数の貫通孔31、貫通孔31の壁部32、貫通孔31の封鎖として封孔部33を備えている。
【0055】
本実施形態における多孔質セラミックス部材30において、複数の貫通孔31が壁部32を隔てて長手方向に並設され、貫通孔31のいずれか一方の端部が封孔部33によって封鎖され、壁部32には、流体(例えば、排ガス等)を通過させる細孔(図示しない)が設けられ、貫通孔31の一方から他方に向けて(図3(b)における矢印の方向)流体を流し、かつ細孔を通じて隣接する貫通孔31に流体を流す(図3(b)における矢印を参照)ように構成されている。
【0056】
各部材等の詳細については、以下に説明する。
【0057】
<多孔質セラミックスフィルター>
本実施形態における多孔質セラミックスフィルター10・20および多孔質セラミックス部材30は、例えば、排ガス中の粒子状物質を捕集するためのものである。ここで、粒子状物質とは、PM(Particulate Matter)とも称され、内燃機関の排ガスに含まれる粒子をいう。
【0058】
ここで、多孔質セラミックスフィルター10・20および多孔質セラミックス部材30は、多孔質セラミックスとして、窒化ケイ素を主成分とすることが好ましい。また、窒化ケイ素のケイ素と窒素の一部をそれぞれアルミニウムと酸素で置換したサイアロンも窒化ケイ素に含まれるものとする。
【0059】
なお、本明細書において、「主成分とする」とは、50質量%以上、より好ましくは80質量%以上含むことを意味する。
【0060】
ただし、本実施形態に用いられる多孔質セラミックスの成分は、窒化ケイ素に限定されず、例えば、コーディエライト、アルミナ、シリカ、ムライト等の酸化物セラミックス、炭化ケイ素、炭化ジルコニウム、炭化チタン、炭化タンタル、炭化タングステン等の炭化物セラミックス、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化チタン等の窒化物セラミックス、などを挙げることができる。
【0061】
本実施形態における多孔質セラミックスフィルター10・20および多孔質セラミックス部材30は、窒化ケイ素を主成分とするフィルターであることが好ましいが、気孔率が40〜70%であることが好ましく、55〜65%であることがより好ましい。気孔率が50%以上であることにより、圧力損失が大きくなりすぎないためフィルターとして好適である。また、気孔率が70%以下であることにより、十分な強度を維持できるため好ましい。なお、本明細書において、上記気孔率は、アルキメデス法によって測定された数値である。
【0062】
《ハニカム構造》
本実施形態における多孔質セラミックスフィルター10・20および多孔質セラミックス部材30は、ハニカム構造を有するウォールフロータイプのフィルターであることが好ましい。
【0063】
上述したように、図1及び図3にハニカム構造の例を示している。図1(a)・(b)及び図3(a)・(b)に示すように、本発明に係る多孔質セラミックスフィルターで用いられるハニカム構造は、2つの端面間を連通する複数の貫通孔11・31を形成するように配置された多孔性の壁部12・32を備え、各貫通孔11・31はいずれかの端面において封孔部13・33によって封鎖されており、排ガス等の流体を壁部12・32の細孔(図示しない)を通過させて隣接貫通孔に流し、排ガス等の流体に含まれる粒子状物質を壁部12・32で捕集するようになっている。
【0064】
より具体的には、貫通孔11・31は、断面の形状が略正方形であり、ハニカム構造の軸方向、すなわち、排ガス等の流体が流れる方向に沿って規則的に形成されている。そして、貫通孔11・31は、多孔性の材料からなる壁部12・32によって仕切られることによって形成されている。各貫通孔11・31は、上流側の端面または下流側の端面のいずれかの端面において封孔部13・33によって封鎖されている。また、隣り合う貫通孔同士は、異なる端面で封鎖されていることが好ましい。すなわち、各端面において、封鎖されている貫通孔11・31は、図1(a)及び図3(a)に示すように、市松模様を形成することが好ましい。
【0065】
上記ハニカム構造では、排ガス等の流体は上流側の端面において封鎖されていない貫通孔11・31から流入し、多孔性の壁部12・32の細孔を通過して、隣接貫通孔11・31から流出する。このとき、排ガス等の流体に含まれる粒子状物質が、壁部12・32で捕集される。
【0066】
本発明におけるハニカム構造のフィルター(多孔質セラミックスフィルター10・20および多孔質セラミックス部材30)において、フィルターの軸方向、すなわち、ハニカム構造の軸方向に垂直な断面の断面形状は特に限定されるものではなく、円形、楕円形、正方形、長方形、多角形等であってもかまわない。ハニカム構造の断面の大きさは、エンジンの排気量によってその最適値が決定される。
【0067】
また、本発明におけるハニカム構造のフィルターにおいて、貫通孔11・31の断面形状は、略正方形であることが好ましいが、必ずしもこれに限定されるものではなく、他の形状であってもよい。また、壁部12・32の厚さも特に限定されるものではなく、例えば、0.2〜0.4mmである。また、単位面積中の貫通孔数も特に限定されるものではなく、例えば、200〜300cpsiである。
【0068】
本実施形態における多孔質セラミックスフィルター10・20および多孔質セラミックス部材30は、上述したハニカム構造を有することが好ましいが、ハニカム構造の構成は必ずしもこれに限定されるものではなく、貫通孔の断面形状、フィルターの軸方向に垂直な断面の断面形状、壁部の厚さ、単位面積中の貫通孔数、フィルターの軸方向に垂直な断面の断面積、フィルターの軸方向の長さ等は、フィルターの用途、設置場所等に応じて適宜選択すればよい。
【0069】
<流体>
本実施形態において、流体とは、本実施形態における多孔質セラミックスフィルター10・20および多孔質セラミックス部材30を通過することによってろ過対象物を取り除かれる被処理媒体のことをいう。上記流体としては、例えば、排ガス等が挙げられる。
【0070】
本実施形態に用いられる封孔部13・33について、以下に詳しく説明する。
【0071】
<封孔部>
本実施形態における多孔質セラミックスフィルター10および多孔質セラミックス部材30において、封孔部13・33は、酸化カルシウム含有セラミックス系骨材と無機バインダーとの反応物を含んでいる。
【0072】
《酸化カルシウム含有セラミックス系骨材》
本実施形態に用いられる封孔部13・33において、酸化カルシウム含有セラミックス系骨材は、少なくとも酸化カルシウムを含有している。酸化カルシウムを添加することによって、水和反応を起こして硬化するため、引け巣(熱収縮によって生じる隙間)が発生しにくい。
【0073】
本実施形態に用いられる酸化カルシウム含有セラミックス系骨材における酸化カルシウム以外の成分は、特に限定されず、例えば、コーディエライト、アルミナ、シリカ、ムライト等の酸化物セラミックス、炭化ケイ素、炭化ジルコニウム、炭化チタン、炭化タンタル、炭化タングステン等の炭化物セラミックス、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化チタン等の窒化物セラミックス、などを挙げることができる。その中でも、熱膨張係数が比較的小さい、窒化ケイ素、炭化ケイ素、コーディエライト等が好ましい。その中でも、窒化ケイ素が特に好ましい。窒化ケイ素は、炭化ケイ素等と比べて熱容量が小さい。このため、より少ない熱量での加熱により、粒子状物質の堆積物を酸化させて、再生を行うことが可能であるという利点がある。
【0074】
本実施形態に用いられる封孔部13・33において、熱処理前(仕込の際)の酸化カルシウム含有セラミックス系骨材の比率は、全仕込量に対して、60〜97質量%であることが好ましい。
【0075】
また、本実施形態に用いられる封孔部13・33において、熱処理前(仕込の際)の酸化カルシウムの比率は、全仕込量に対して、2〜20質量%であることが好ましい。
【0076】
《無機バインダー》
本実施形態に用いられる無機バインダーは、特に限定されず、例えば、シリカ、アルミナ、シリカおよびアルミナ以外の酸化物、ガラス、ガラス繊維、並びにそれらに各種一種以上の金属を混ぜたもの等を含むものを挙げることができる。
【0077】
本実施形態に用いられる封孔部13・33において、熱処理前(仕込の際)に、上記骨材として以外に、無機バインダーとしてシリカを用いていることが好ましく、無機バインダーとしてコロイダルシリカを用いていることがより好ましい。
【0078】
ここで、コロイダルシリカ(例えば、日産化学社製、商品名:「スノーテックス30」)とは、SiOがコロイド状になったものであり、水70%およびシリカ30%の比率を有している。
【0079】
本実施形態に用いられる封孔部13・33において、無機バインダーとしてのシリカは、熱処理後にはガラス質になる。
【0080】
また、本実施形態に用いられる封孔部13・33において、熱処理前(仕込の際)に、上記骨材として以外に、無機バインダーとしてアルミナを用いていることが好ましく、無機バインダーとしてコロイダルアルミナを用いていることがより好ましい。
【0081】
本実施形態に用いられる封孔部13・33において、シリカ等の無機バインダーが粒子間の接着剤として働くため、高温処理後の強度を保持することができる。また、本実施形態に用いられる封孔部13・33において、シリカ等の無機バインダーが、耐酸性を付与することができる。
【0082】
本実施形態に用いられる封孔部13・33において、熱処理前(仕込の際)の無機バインダーの比率は、全仕込量に対して、3〜40質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましく、6〜25質量%であることが特に好ましい。
【0083】
《水》
本実施形態に用いられる封孔部13・33において、熱処理前(仕込の際)に、さらに水(例えば、イオン交換水等)を用いていることが好ましい。
【0084】
本実施形態に用いられる封孔部13・33において、熱処理前(仕込の際)の水の比率は、全仕込量に対して、0質量%よりも大きく、5質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0085】
《反応物》
本実施形態に用いられる封孔部13・33において、上記反応物は、上記酸化カルシウム含有セラミックス系骨材と上記無機バインダーとを熱処理することによって得られるものである。また、本実施形態に用いられる封孔部13・33において、上記反応物は、上記酸化カルシウム含有セラミックス系骨材と上記無機バインダーと水とを熱処理することによって得られるものであることが好ましい。上記熱処理の温度は、500〜1000℃であることが好ましく、650℃〜1000℃であることがより好ましい。
【0086】
上記熱処理によって、上記無機バインダーが結合した骨材(セメント材)となり、強度を向上させることができる。
【0087】
《封孔部の物性等》
本実施形態に用いられる封孔部13・33の気孔率は、15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、9%以下であることが特に好ましい。
【0088】
また、本実施形態に用いられる封孔部13・33の上記長手方向の厚さは、15mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがより好ましく、5mm以下であることが特に好ましい。
【0089】
(II)本実施形態における多孔質セラミックスフィルターの製造方法
本実施形態における多孔質セラミックスフィルターの製造方法は、上記酸化カルシウム含有セラミックス系骨材と上記無機バインダーとを、500℃以上、好ましくは650℃以上で熱処理することによって上記反応物を得る方法である。
【0090】
本実施形態における多孔質セラミックスフィルターの製造方法は、例えば、(1)ハニカム材料混合工程、(2)成形工程、(3)乾燥工程、(4)第1封孔(封孔1、焼結前封孔)工程、(5)脱脂工程、(6)焼結工程、(7)第2封孔(封孔2、焼結後封孔)工程、(8)接着工程、(9)加工・外塗り工程、(10)熱処理工程、を含んでいる。
【0091】
なお、後述する実施例における表1に示すように、(4)第1封孔工程、および(7)第2封孔工程のうち少なくとも1つの工程を含んでいればよく、(7)第2封孔工程を含んでいることが好ましい。
【0092】
また、図1に示す一体タイプのフィルターにおいては、(8)接着工程を含んでいなくてもよい。
【0093】
本実施形態における多孔質セラミックスフィルターの製造方法は、封孔部の材料に、酸化カルシウム含有セラミックス系骨材と無機バインダーとの反応物を含ませること以外、従来公知の方法を用いることができる。
【0094】
(III)本実施形態における多孔質セラミックスフィルターの製造装置
本実施形態における多孔質セラミックスフィルターの製造装置は、封孔部の材料に、酸化カルシウム含有セラミックス系骨材と無機バインダーとの反応物を含ませること以外、従来公知の製造装置を用いることができる。
【0095】
(IV)本実施形態における多孔質セラミックスフィルターの用途
本実施形態における多孔質セラミックスフィルターは、種々の用途に用いられる。例えば、排ガス浄化フィルターに用いられる。
【0096】
排ガス浄化フィルターは、内燃機関の排気通路に設けられ、排ガス中の粒子状物質を捕集するためのものである。
【0097】
(V)本実施形態における排ガス浄化装置
本実施形態における排ガス浄化装置は、排ガス浄化フィルター用の上記多孔質セラミックスフィルターを備えているものである。本実施形態における排ガス浄化装置において、上記多孔質セラミックスフィルター以外の構成は特に限定されず、従来公知の構成を用いることができる。
【0098】
本実施形態における排ガス浄化装置は、例えば、本実施形態における排ガス浄化フィルター用の上記多孔質セラミックスフィルターと、排気通路におけるその上流側に設けられた酸化触媒とを含んでいる。かかる酸化触媒は、PM中の可溶性有機成分、HC(炭化水素)およびCOを除去するために設けられる。かかる酸化触媒は、特に限定されるものではなく、DOC(Diesel Oxidation Catalyst)として用いられている酸化触媒であればどのようなものであってもよい。
【0099】
また、本実施形態における排ガス浄化装置は、必要に応じて、排気通路において、本実施形態における排ガス浄化フィルター用の上記多孔質セラミックスフィルターの下流側に設けられたNOx還元システムを含んでいてもよい。NOx還元システムは、排ガス中のNOxを還元するシステムであれば特に限定されるものではなく、例えば、ディーゼルエンジンのNOx還元システムとして用いられているNOx選択還元システム(SCR(Selective Catalytic Reduction for NOX))、NOx吸蔵システム(NSR(NOX Storage Reduction))等であればどのようなものであってもよい。
【0100】
(VI)その他の実施形態
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0101】
本発明の実施例について以下に詳しく説明する。なお、本実施例では、排ガス浄化フィルターを例に挙げて説明するが、本発明はこれに限定されない。また、本実施例にて説明しない部材等は、上記の本実施形態に記載したものを用いる。
【0102】
〔多孔質セラミックス〕
本実施例において、多孔質セラミックスは、材料として窒化ケイ素を用い、気孔率が62%であり、曲げ強度が5MPa以上である。
【0103】
〔封孔部〕
本実施例において、封孔部を設置する位置としては、多孔質セラミックスフィルターの上流側と下流側との両方に適用しているが、ススの再生燃焼時により高温となりやすい下流側のみ、また、エンジン排ガスによって高温となりやすい上流側のみ、とするなど、使用条件に合わせて適宜選択すればよい。
【0104】
実施例1〜17および比較例1〜5における封孔部の材料の各成分および物性等を表1に示す。なお、表1において、各成分の比率の単位は「質量%」である。
【0105】
【表1】

【0106】
表1において、SiOは、骨材として含まれるものである。一方、コロイダルシリカは、無機バインダーとして含まれるものである。
【0107】
また、表1において、封孔部の材料に含める各物質について、CaO含有セラミックス系骨材(CaO、Al、SiO、窒化ケイ素、炭化ケイ素、コーディエライト)の比率は60〜97質量%、無機バインダー(コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ)の比率は3〜40質量%、水の比率は0〜5質量%である。
【0108】
また、表1において、窒化ケイ素の粒径は10μm、炭化ケイ素の粒径は10μm、コーディエライトの粒径は10μmであり、コロイダルシリカはスノーテックス30のナノ粒子、コロイダルアルミナはアルミナゾルのナノ粒子であり、水はイオン交換水である。
【0109】
〔物性等の測定方法〕
《気孔率》
実施例1〜17および比較例1〜5における気孔率は、JIS R 2205に従って測定した。
【0110】
《曲げ強度》
実施例1〜17および比較例1〜5における曲げ強度は、JIS R 1601 ファインセラミックスの曲げ強さ試験方法(1981.1995)に従って測定した。なお、「硬化後」とは、硬化させたままの常温での強度を意味し、「熱処理後」とは、1000℃×2時間処理した後の常温で測定した強度を意味する。
【0111】
《耐酸性》
実施例1〜17および比較例1〜5における耐酸性は、5%硫酸溶液に30日浸漬させ、浸漬前後の重さを測定し、減少量が10%未満のものを合格(○)とし、10%以上のものを不合格(×)とした。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、排ガス浄化フィルターおよび排ガス浄化装置等に用いることができ、ディーゼルエンジン用DPF、ガソリンエンジン用DPF、一般排ガス処理装置用ハニカムなどに適用することができる。
【符号の説明】
【0113】
10 多孔質セラミックスフィルター
11 貫通孔
12 壁部
13 封孔部
20 多孔質セラミックスフィルター
24 接合材層
25 セラミックブロック
26 外塗り材層
30 多孔質セラミックス部材
31 貫通孔
32 壁部
33 封孔部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔が壁部を隔てて長手方向に並設され、
前記貫通孔のいずれか一方の端部を封鎖する封孔部を有し、
前記壁部には、流体を通過させる細孔が設けられ、
前記貫通孔の一方から他方に向けて前記流体を流し、かつ前記細孔を通じて隣接する該貫通孔に該流体を流すように構成されている多孔質セラミックスフィルターであって、
前記封孔部を形成する材料が、酸化カルシウム含有セラミックス系骨材と無機バインダーとの反応物を含んでいることを特徴とする多孔質セラミックスフィルター。
【請求項2】
前記無機バインダーが、シリカを含んでいることを特徴とする請求項1に記載の多孔質セラミックスフィルター。
【請求項3】
前記封孔部の気孔率が、15%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質セラミックスフィルター。
【請求項4】
前記封孔部の前記長手方向の厚さが、15mm以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の多孔質セラミックスフィルター。
【請求項5】
前記酸化カルシウム含有セラミックス系骨材が、窒化ケイ素を含んでいることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の多孔質セラミックスフィルター。
【請求項6】
前記反応物が、前記酸化カルシウム含有セラミックス系骨材と前記無機バインダーとを、500℃以上で熱処理することによって得られるものである
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の多孔質セラミックスフィルター。
【請求項7】
熱処理前の封孔部において、前記酸化カルシウムの比率が、2〜20質量%であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の多孔質セラミックスフィルター。
【請求項8】
熱処理前の封孔部において、前記無機バインダーの比率が、3〜40質量%であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の多孔質セラミックスフィルター。
【請求項9】
前記反応物が、前記酸化カルシウム含有セラミックス系骨材と前記無機バインダーと水とを、500℃以上で熱処理することによって得られるものであり、
前記水の比率が、0質量%よりも大きく、5質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項6〜8の何れか1項に記載の多孔質セラミックスフィルター。
【請求項10】
請求項1〜8の何れか1項に記載の多孔質セラミックスフィルターを製造する方法であって、
前記酸化カルシウム含有セラミックス系骨材と前記無機バインダーとを、500℃以上で熱処理することによって前記反応物を得ることを特徴とする多孔質セラミックスフィルターの製造方法。
【請求項11】
熱処理前の前記無機バインダーが、コロイダルシリカを含んでいることを特徴とする請求項10に記載の多孔質セラミックスフィルターの製造方法。
【請求項12】
熱処理前の前記無機バインダーの比率が、3〜40質量%であることを特徴とする請求項10または11に記載の多孔質セラミックスフィルターの製造方法。
【請求項13】
前記酸化カルシウム含有セラミックス系骨材と前記無機バインダーと水とを、500℃以上で熱処理することによって前記反応物を得、
前記水の比率が、0質量%よりも大きく、5質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項10〜12の何れか1項に記載の多孔質セラミックスフィルターの製造方法。
【請求項14】
排ガス浄化フィルターに用いられることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の多孔質セラミックスフィルター。
【請求項15】
請求項14に記載の多孔質セラミックスフィルターを備えていることを特徴とする排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−214327(P2012−214327A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80315(P2011−80315)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】