説明

多孔質セラミックス材料の製造方法

【課題】骨組織形成を速やかに誘導し、且つ実用的な強度を有する、多孔質セラミックス材料が得られる多孔質セラミックス材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】 セラミックス原料を媒体に分散させてスラリー21を調製する工程(工程A)、スラリー21を所定の容器31に充填し、該スラリー21を一方向的に凍結させる工程(工程B)、凍結させたスラリーを乾燥させて成形体を得る工程(工程C)、及び乾燥させた成形体を焼成する工程(工程D)を含み、前記工程Bにおいて、スラリーの両端をそれぞれ温度制御された冷却装置41、42で冷却することで、スラリーを一方向的に凍結させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質セラミックス材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス材料のうちリン酸カルシウム系セラミックス材料は、骨や歯の主成分であり、優れた生体親和性を有しており、且つ安全性にも優れていることから、人工骨、人工歯根などの医科用あるいは歯科用などの生体内に埋植するインプラント材料、再生医療などに用いられる細胞培養用の足場、ドラッグデリバリーシステム(DDS)用の薬剤担持材料などの生体材料として幅広く利用、研究されている。
【0003】
なかでも、骨折や骨腫瘍などの疾患やその治療により骨に欠損部や孔ができた場合に補填して修復・治癒させる人工骨に適したセラミックス材料について、近年、特に盛んに研究開発が行われている。すでに、セラミックス材料は広く臨床の場で用いられるが、現在のセラミックス材料は患部埋入後の新生骨形成が材料表層部に限定されることから、また強度が充分でなかったことから、傷病の治癒までの期間が長くなるなどの欠点を有している。
【0004】
したがって、生体組織が速やかに内部まで入り込み、組織(新生骨)を迅速に形成し、且つ実用的な強度を有するセラミックスインプラント材料や細胞培養用の足場などの開発が望まれている。
【0005】
このようなセラミックスインプラント材料としては、(1)多数の空孔が三次元的に密に分布し、隣接する空孔同士がそれらを区画する骨格壁部において相互に連通した連球状開空孔を有するリン酸カルシウム系焼結体(特許文献1参照)、(2)空孔を有するビーズ形状の多孔質セラミックス材料をナイロンワイヤーなどで連結して成形する方法(特許文献2参照)などが提案されている。
【0006】
また、直径が10〜500μmで、一方向に配向して貫通している空孔を有する焼結体が、インプラント用材料として適したセラミックス材料であることが開示されている(特許文献3、4参照)。
【特許文献1】特許第3470759号公報
【特許文献2】特開2003−335574号公報
【特許文献3】特開2004−275202号公報
【特許文献4】特開2005−1943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1による方法では、連球開空孔からなる連通部の孔径が小さく且つ配向性を持たないため、実際の臨床では組織、例えば、骨組織(新生骨)の誘導が材料表層部にしか認められない。また、特許文献2の方法では、焼成の際に収縮が起こるため、所望の大きさのインプラント材料を得るためには、焼成後再度成形する必要があり、工程が煩雑となるうえ、多数のビーズをナイロンワイヤーなどで連結するため、実用性が低い。
【0008】
また、特許文献3、及び4に記載の方法では、本発明者らが追試したところ、冷却面から離れるに従い、孔の径は拡大し、上下間で孔の大きさが不均一となる(比較例2参照)。またこれらの方法では、連通孔径を意図して制御することは非常に困難であり、調製可能な連通孔径は非常に限定されるという問題点を有していることが判明した。
【0009】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、骨組織形成を速やかに誘導し、且つ実用的な強度を有する、多孔質セラミックス材料が得られる多孔質セラミックス材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明者らは研究を行い、以下の特徴をもつ多孔質セラミックス材料の製造方法が、優れた生体親和性および生体内に埋め込むのに充分な強度を有しており、人工骨、人工歯根等の医科用あるいは歯科用等の生体内に埋植するインプラント材料として有用な多孔質セラミックス材料の製造方法として極めて適していることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)工程(A):セラミックス原料を媒体に分散させてスラリーを調製する工程、
工程(B):スラリーを所定の容器に充填し、該スラリーを一方向的に凍結させる工程、
工程(C):凍結させたスラリーを乾燥させて成形体を得る工程、及び
工程(D):乾燥させた成形体を焼成する工程を含み、
前記工程(B)において、スラリーの両端をそれぞれ温度制御された冷却装置で冷却することで、スラリーを一方向的に凍結させることを特徴する多孔質セラミックス材料の製造方法。
(2)工程(B)において、スラリーの両端の温度差が5〜35℃となるように冷却を行うことを特徴とする、上記(1)記載の多孔質セラミックス材料の製造方法。
(3)工程(B)において、スラリーの両端における温度制御された冷却装置による冷却がそれぞれ速度0.01〜5.0℃/minの冷却であることを特徴とする上記(1)記載の多孔質セラミックス材料の製造方法。
(4)工程(B)において、温度制御された冷却装置としてペルチェ素子を用いることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の多孔質セラミックス材料の製造方法。
(5)工程(A)において、セラミックス原料がリン酸カルシウムであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の多孔質セラミックス材料の製造方法。
(6)リン酸カルシウムが水酸アパタイトおよび/またはリン酸三カルシウムであることを特徴とする、上記(5)に記載の多孔質セラミックス材料の製造方法。
(7)前記工程(A)において、セラミックス原料を分散させる媒体にスラリーをゲル状(弾力性のある半固体状)にすることができる高分子を添加する、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の多孔質セラミックス材料の製造方法。
(8)スラリーをゲル状(弾力性のある半固体状)にすることができる高分子がゼラチンである、上記(7)に記載の多孔質セラミックス材料の製造方法。
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の多孔質セラミックス材料の製造方法から得られる多孔質セラミックスインプラント材料。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、材料内部までスムーズに血液や骨髄液が浸透でき、且つその方向の圧縮強度およびそれに垂直な方向に対する曲げ強度が高く、特に人工骨などに適した多孔質セラミックス材料、特に、多孔質リン酸カルシウム系セラミックス材料を簡便に、効率良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して説明する。
まず、本発明により製造される多孔質セラミックス材料について説明する。なお、以下の記載において、本発明により製造される多孔質セラミックス材料を単に「本発明の多孔質セラミックス材料」、「本発明により得られる材料」又は「本発明の材料」とも表記する。
【0014】
本発明の多孔質セラミックス材料は、好ましくは多孔質リン酸カルシウム系セラミックス材料である。また、本発明の多孔質セラミックス材料の空孔率は好ましくは40〜90%であり、より好ましくは50〜90%であり、さらに好ましくは60〜90%である。空孔率が40%以上であれば、多くの血液や骨髄液等が材料内に含浸するために、充分な骨組織の形成が見込まれる。一方、空孔率90%以下であれば、多孔質セラミックス材料は高強度である。
【0015】
空孔率は以下の方法で測定することができる。評価対象の多孔質セラミックス材料から直径6mm×高さ8mmの円柱状の試験片を切り出す。その試験片の重量、及び体積を測定して、以下の式より、空孔率を算出する。
嵩密度=(試験片の重さ)/(試験片サンプルの体積)
空孔率=(1−嵩密度/真密度)×100
【0016】
図1は、本発明の多孔質セラミックス材料の模式図である。本発明の材料では、図1に示すように空孔12が一方向に配向している。空孔12はセラミックス材料11の内部においてセラミックス物質が存在せずに空間になっている領域である。空孔が一方向に配向するとは、一軸方向に伸びた空孔が存在してそのような空孔の長軸方向が実質的に一方向に揃っていることをいう。より具体的には、セラミックス材料中にある一軸方向に伸びた空孔のうちの例えば半数以上、好ましくは80%以上の空孔の長軸方向が例えば角度30°以内の範囲で揃っている。
【0017】
各々の空孔の配向方向に垂直な断面積は、好ましくは0.3×10−3〜800×10−3mmであり、より好ましくは3.0×10−3〜100×10−3mmである。上記範囲内であれば、血液や骨髄液が通過するのに十分な大きさであり、かつ、毛細管現象により血液や骨髄液が通過し易くなる。ただし、本発明の課題解決のためには、材料内の全ての空孔が上記断面積をもつことは要さない。また、血液や骨髄液中に含まれる細胞などが多孔質セラミックス材料に侵入するためには、配向方向に垂直な断面における空孔の短径が少なくとも10μm、好ましくは20μm、より好ましくは30μm以上であることが好ましい。
【0018】
空孔の長軸方向の長さは、好ましくは5mm以上であり、より好ましくは7mm以上であり、さらに好ましくは10mm以上である。該長さの上限は特に制限されない。十分な長さの空孔を有していれば、切断などの加工により、インプラント用材料を取得し易くなる。ただし、本発明の課題解決のためには、材料内の全ての空孔が上記長さをもつことは要さない。
【0019】
好適態様では、配向方向に垂直な空孔1つあたりの断面積が少なくとも配向方向の5mmの長さにわたって0.3×10−3〜800×10−3mmであり、より好ましくは3.0×10−3〜100×10−3mmである。この場合、実用上、十分な長さにわたって良好な血液や骨髄液などの浸透が達せられる。本発明の材料中にある空孔が全て上記の断面積を有する必要はない。
【0020】
空孔の断面積を求めるには、後述する実施例のように、測定対象の多孔質セラミックス材料を樹脂中に包埋し、これを配向軸方向に垂直に薄片し、それを電子顕微鏡等で観察し、着目する空孔に由来する開口面積を順々に測定することができる。このとき、測定対象の材料を1mmごとに切り出してそれぞれの断面積において開口面積を測定することにより、空孔の配向の長さ方向にわたる該空孔の断面積の推移を本発明の目的に適った精度にて評価することができる。
【0021】
上述のように、空孔の配列方向の1mm毎に材料を切り出して得られた薄片において空孔の開口面積を測定したとき、空孔の開口面積の変化量が最も小さい10mmの長さ(つまり連続する10個の薄片)における開口面積の最小値に対する最大値の比率は好ましくは5倍以内であり、より好ましくは2倍以内である。このように、空孔に由来する開口面積、つまり空孔の断面積が配向方向にわたって変動が少ない方が、毛細管現象による血液や骨髄液等の当該材料内部への浸透がスムーズとなり、インプラント材料として好ましい。さらには、上述の範囲内であれば、空孔を形成するセラミックス層がほぼ平行に配列するため、優れた強度の多孔質セラミックス材料が提供される。
【0022】
多孔質セラミックス材料の空孔の配向方向に対して垂直方向の第1の切断面、および、第1の切断面と平行であり第1の切断面から空孔の配向方向に5mm離れた第2の切断面に着目する。好ましくは、第1の切断面および第2の切断面の両方において、空孔1個あたりの開口面積が0.3×10−3〜800×10−3mmである。第1の切断面および第2の切断面の両方において開口面積が好適範囲内であれば、材料内部に好適な空孔が存在していることが見込まれる。より好ましくは、第1の切断面および第2の切断面の両方において、開口面積3.0×10−3〜100×10−3mmである。
【0023】
次に多孔質セラミックス材料の組成及び製造方法について説明する。
図2は、本発明の多孔質セラミックス材料の製造方法の一例を示す。
図2に示されるように、本発明の材料の製造方法は、セラミックス原料を媒体に分散させるスラリー調製工程(工程A)、スラリーを所定の容器に充填し、スラリーを一方向的に凍結させる工程(工程B)、凍結させたスラリーを乾燥させて成形体を得る工程(工程C)、及び乾燥させた成形体を焼成する工程(工程D)を有する方法であり、工程Bで、スラリーの両端を温度制御された冷却装置でそれぞれ冷却することによって、スラリーを一方向的に凍結させることが特徴である。なお、ここでいう「スラリーを一方向的に凍結させる」とは、スラリーをその所定の一方向の一端側から他端側へ凍結させて、霜柱状の氷を成長させることである。
【0024】
工程Bの後、工程Cで、凍結したスラリーを乾燥させることで、媒体の結晶が昇華して、マクロ孔を有する成形体が得られ、その後、工程Dで、成形体を焼成することで、成形体を構成する骨格中にミクロ孔が形成されて、本発明の多孔質セラミックス材料が得られる。
【0025】
以下、各工程に従って、本実施の形態の製造方法を詳しく説明する。
図2(A)はスラリーの調製を模式的に表す。工程Aに用いるスラリー21は、セラミックス原料を媒体に分散させて調製することができる。ここで、「セラミックス原料」とはセラミックス材料を製造するための粒子のことであり、好ましくはリン酸カルシウム系セラミックス材料を製造するための粒子のことである。また、スラリー21には好ましくは後述する添加剤が溶解又は分散している。
【0026】
リン酸カルシウム系セラミックス原料としては、例えば、水酸アパタイト、フッ素アパタイト、塩素アパタイト、リン酸三カルシウム、メタリン酸カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム2水和物などが例示され、また、これらの任意の混合物であっても良い。本発明のセラミックス材料では、リン酸カルシウムにおけるCa成分の一部が、Sr、Ba、Mg、Fe、Al、Y、La、Na、K、Ag、Pd、Zn、Pb、Cd、H、及び、この他の希土類から選ばれる一種以上で置換されてもよい。また、(PO)成分の一部が、VO、BO、SO、CO、SiOなどから選ばれる一種以上で置換されてもよい。さらに、(OH)成分の一部が、F、Cl、O、CO、I、Brから選ばれる一種以上で置換されてもよい。
【0027】
骨形成の点から、リン酸カルシウムが水酸アパタイト、フッ素アパタイト、塩素アパタイト、または、リン酸三カルシウムであることがより好ましく、水酸アパタイト、及びリン酸三カルシウムであることが最も好ましい。リン酸カルシウムは、天然鉱物由来であってもよく、あるいは各種湿式法、乾式法などで合成されたものであってもよい。
【0028】
セラミックス原料は、公知の粉砕造粒手段で粉砕され適宜な粒度分布を持つよう造粒されたものを用いても良く、また湿式法により合成された一次粒子を造粒せずにそのまま用いても良い。造粒された粉末を用いる場合は、平均粒径は0.1〜40μmの範囲が好ましく、0.5〜30μmの範囲がより好ましい。平均粒径が0.1μm以上であれば取り扱いが容易であり、作業性が向上する。一方、平均粒径が40μm以下であれば、スラリー21中にセラミックス原料がよく分散して、安定なスラリーが得られ易い。
【0029】
セラミックス原料を分散させるのに用いる媒体としては、後述する凍結乾燥により除去可能な昇華性を有するものが好ましい。例えば、水、tert−ブチルアルコール、ベンゼンなどが挙げられ、好ましくは水である。また、水は精製度の高いものが好ましく、蒸留水、イオン交換水、超濾過水などが好適である。
【0030】
スラリー21中のセラミックス原料の含量としては、スラリーの総重量に対し、10〜60wt%の範囲が好ましく、10〜40wt%の範囲がより好ましく、20〜25wt%の範囲がなお好ましい。
【0031】
スラリー21には、スラリーの粘度を増加させてスラリーの分散性を向上させ、焼成前の多孔質セラミックス成形体の形状を保持し、さらに焼結時の結晶粒子成長を制御する目的で、添加剤をその調製時に溶解または分散させてもよい。添加剤は、前記目的を達成しうる化合物や組成物であれば、特に限定されない。好ましくは添加剤は焼結時に燃焼する有機物である。この場合、焼成後に得られる多孔質セラミックス材料には添加物に由来する成分が実質的に残存しないから、安全性に優れる。さらに好ましくは、添加剤はスラリーをゲル状(弾力性のある半固体状)にすることができる高分子である。スラリーをゲル状にすることでスラリー調製時にセラミックス粒子が沈降して不均一な密度分布が生じるのを抑制することができる。このような添加剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ゼラチン、アルギン酸、アガロース、ポリグリコール酸、ポリ乳酸などが挙げられる。また、これらの添加剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
なお、本発明の目的を阻害しない範囲内で、必要に応じてスラリー21に、上記した成分以外の成分を添加してもよい。
【0032】
スラリー21に添加剤を添加する場合、添加する添加剤の量は、スラリーの総重量に対し、0.1〜20wt%が好ましく、3〜10wt%がより好ましく、4〜8wt%の範囲がより好ましい。
スラリー21の調製は公知の方法によることができる。典型的には、媒体を攪拌しながらセラミックス原料と添加剤を加えることによってスラリー21が調製される。スラリー21の脱泡処理を行うことが好ましい。この場合、気泡がスラリー中に残らずに、結果として焼結体中に気泡に起因した不所望な孔(欠陥)が形成され難くなる。脱泡処理の方法としては、既知の方法を用いればよく、例えば、真空中で攪拌しながら脱泡する方法、遊星混錬などによる脱泡する方法等が挙げられる。
【0033】
図2(B)および図2(C)は、スラリーを容器に充填し、スラリーを容器内で凍結する工程(工程B)を模式的に表す。工程Bでは、工程Aで得られたスラリー21を容器31に充填し(図2(B))、容器31内のスラリー21をその一端側から一方向的に(図中の矢印方向へ)凍結させる(図2(C))。一方向的にスラリー21を凍結させる具体的手段としては、容器31に充填されたスラリー21の所定の一方向における両端部を温度制御可能な冷却装置に接触させて、該冷却装置の温度をコントロールしつつスラリー21を冷却する。
【0034】
なお、本発明において、「容器」とは、その内部にスラリーを一定形状に保持し、かつ、該一定形状に保持したスラリーの所定の一方向の両端部を冷却装置に接触させ得る構造を有する枠体を意味し、図2(B)および図2(C)に示す容器31は、軸線方向の両端が開放した筒体である。図2(B)中には、図示していないが、図2(B)のように、両端が開放した筒体の容器31を冷却装置から分離した状態で、該容器31にスラリーを充填する場合、通常、筒体の容器31とは別部材の底壁部材により容器31の軸線方向の一端側の開放部を閉塞した状態でスラリーを充填し、冷却装置でスラリーを冷却する際に、冷却装置上で底壁部材を外す。また、両端が開放した筒体の容器31の軸線方向一端側の端部を冷却装置に接触させて、容器の一方の開放部を冷却装置と容器端部との接触によって閉塞した状態でスラリー21を充填してもよい。すなわち、図2(C)を参照すれば、一方の冷却装置(冷却板41)上に容器31を設置後、容器31の上に他方の冷却装置(冷却板42)を載置する前に、容器31にスラリー21を充填する。
【0035】
図3はスラリーを一方向的に凍結するための温度制御可能な冷却装置を使用したスラリー凍結システムの一例の模式図である。
スラリー21を収容した容器31の下端が冷却板41上に配置されており、さらにスラリーの上端には冷却板42が配置されている。冷却板41、42はそれぞれ電源61に接続されて、電源61は温度コントローラ51に接続されている。さらに冷却板41、42上には温度測定素子71が設置されており、温度測定素子71は温度コントローラ51に接続されている。すなわち、温度測定素子71で検出された冷却板41、42の温度が温度コントローラ51にフィードバックされ、それに基づいて温度コントローラ51が電源61の出力を調整することにより、冷却板41、42の温度および冷却速度がコントロールされるようになっている。
【0036】
当該凍結システムでは、容器31内のスラリー21が一方の温度制御された冷却装置(冷却板41)に接している側から他方の温度制御された冷却装置(冷却板42)に接している側へと一方向に凍結される。すなわち、冷却板41は冷却板42よりも低温に冷却されており、低温側の冷却板41に接するスラリー21の一端から凍結が始まり、高温側の冷却板42に接するスラリーの他端側へと凍結が進行する。この際、冷却板41の温度はスラリーの凝固点以下にまで低下させる必要がある。ただし低温側の温度を冷却開始時からスラリーの凝固点以下に設定すると、低温側近辺にてスラリーの凝固が瞬時に生じることで霜柱状の氷が形成されず、結果として一方向に配向した空孔が形成されないことから好ましくない。すなわち、本発明において、スラリーを一方向的に凍結する際の低温側の冷却装置の開始温度(スラリーの一端の温度)は、スラリーの凝固点以上であり、好ましくは(凝固点+5℃)〜(凝固点+20℃)の範囲である。一方、冷却板41の温度がスラリーの凝固点以下の時に、冷却板42の温度がスラリーの凝固点以下の温度であると、スラリーの両端から氷が成長してしまい、結果として双方から成長した氷がぶつかり合うところで境目が生じる可能性があるので、好ましくなく、冷却の開始時は冷却板42の温度はスラリーの凝固点よりも高くするのが好ましい。なお、スラリーの凝固点は、示差走査熱量測定(DSC)や冷却板上にスラリー薄膜を置いて冷却板を降温した際の凍結開始温度を目視判別することにより容易に測定することができる。
本発明において、スラリーの凍結過程での、低温側の冷却装置と高温側の冷却装置の温度差(すなわち、スラリーの両端の温度差)は5〜35℃であるのが好ましく、10〜30℃であるのが好ましい。該温度差が5℃未満の場合、スラリーの凍結が一気に生じてしまい、きれいな霜柱状の氷が生じない傾向となり、該温度差が35℃を超える場合、ハニカム状の孔にならず、海島状(海:空孔、島:HAP)の構造を形成する傾向を示す。このような構造になると強度が低下するおそれがあることから好ましくない。より好ましいスラリーの凍結状態を得るには、低温側の冷却装置と高温側の冷却装置との間におけるスラリーの温度勾配(すなわち、スラリーの両端面間の温度勾配)について管理するのが望ましく、当該温度勾配は2.5〜17.5℃/cmの範囲が好ましく、5〜15℃/cmの範囲にあるのがより好ましい。
本発明の材料は、スラリーの冷却速度によって孔径が変化する。従って、前述した細胞や血管の侵入に適した孔径を有する多孔質セラミックス材料を得るという観点からは、スラリーの凍結過程において、低温側の冷却装置及び高温側の冷却装置の冷却速度は0.01〜5.0℃/分の範囲が好ましく、0.1〜1.0℃/分の範囲がより好ましく、0.2〜0.8℃/分の範囲がさらに好ましい。
【0037】
なお、本発明において、スラリーを一方向的に凍結する過程での、低温側の冷却装置及び高温側の冷却装置の冷却速度は一定であってもよいが、好ましくは段階的に増大させるのが良い。また、段階的増大の回数は一段階であっても2段階以上であってもよい。冷却速度が一定の場合、氷の成長に伴って、その径が拡大する傾向があるが、低温側の冷却装置及び高温側の冷却装置の冷却を段階的に速めることによりその傾向を抑制することができる。なお、工業的に製造する際の工程管理の容易性の点から、通常、低温側の冷却装置と高温側の冷却装置の温度差(スラリーの両端の温度差)を一定に保つことが多い(すなわち、低温側の冷却装置及び高温側の冷却装置の冷却速度が一定である場合は、両者の冷却速度を同じ冷却速度で一定に保ち、低温側の冷却装置及び高温側の冷却装置の冷却速度を段階的に増大させる場合は、両者の冷却速度を同じタイミングで段階的に同じ冷却速度へ増大させることが多い)が、低温側の冷却装置と高温側の冷却装置の温度差(スラリーの両端の温度差)は凍結の途中で変更しても良い。ただし、凍結の途中で変更する場合、高温側と低温側が反転してはならない。高温側と低温側が反転するとスラリーの両端から氷が成長してしまい、結果として双方から成長した氷がぶつかり合うところで境目が生じる可能性がある。この場合、後述する空孔の連通性が妨げられてしまうために好ましくない。
【0038】
上記図2及び図3に示す例では、低温側の冷却装置(冷却板41)と高温側の冷却装置(冷却板42)を容器31(スラリー21)の鉛直方向における上下に配置したが、本発明では、低温側の冷却装置と高温側の冷却装置は容器(スラリー)における水平方向(左右方向)に配置してもよい。
【0039】
本発明において、スラリーの凍結システムに使用する温度制御が可能な冷却装置は特に限定されないが、電気的な信号により冷却(温度)を制御できるものが好ましく、コンプレッサー、ペルチェ素子等を用いることができる。また、液体窒素、アルコールなどの冷媒により冷やされた冷却板をヒーターにより温めて所望の温度に制御することもできる。これらの中でも、温度精度、応答速度等の観点からペルチェ素子を用いるのが好ましい。
【0040】
また、電源は上述の冷却装置に合わせて、直流、交流を選択すればよく、ペルチェ素子を用いる場合には直流電源を用いる。
【0041】
温度測定素子は、室温から−100℃までの温度領域においての精度が高く、測定部が小さいものが好ましい。具体的には熱電対、測温抵抗体、サーミスタなどが挙げられる。その中でも、熱電対は、精度、サイズの小ささの点で優れている。
【0042】
温度コントローラは上述の冷却方法、電源、温度測定素子に対応しているものを選択する。また精密な温度制御を可能にするために、PID制御が可能なものが好ましい。
【0043】
また、本発明では、所望の氷柱を形成する観点からは、スラリーの所定の一方向における両端面(2つの冷却面)以外から凍結が生じることを極力防ぐことが重要であり、例えば、上記図2及び図3に示す容器31の場合、該容器31は塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、発泡スチロール等の断熱性材料で形成されていることが望ましく、容器壁の厚さは0.5mm以上であることが好ましく、3mm以上であるのがより好ましい。さらに冷却板でスラリーの上下を挟む場合にはスラリーの側面部からの熱の伝導をできるだけ防ぎ、冷却素子の冷却効率を上げるために、容器壁の外側面全周を上述の断熱性材料で覆うことが望ましい。
【0044】
このように、工程Bでは、スラリーの両端をそれぞれ温度制御可能な冷却装置で冷却温度及び冷却速度を制御しながらスラリーを一方向に凍結することで、スラリーに含まれる水が長く一方向に配向した柱状の氷(霜柱状の氷)となり、スラリーの凍結体中に断面積の変化が少ない霜柱状の氷が低温側から高温側に向かって成長し、一方向へ配向する。
【0045】
工程Cでは、工程Bで得られたスラリーの凍結体を乾燥させて成形体を得る。典型的には、スラリーの入った容器ごと減圧下にて凍結乾燥を行う。この操作により霜柱状の氷を昇華させ、氷が存在していた部分が昇華痕として空孔になる。結果として、成形体中に一方向に配向した空孔が形成される。図4は凍結したスラリー(図4(A))と乾燥後の成形体(図4(B))の模式断面図である。凍結したスラリーは、セラミックス原料の粒子81と、実質的に一方向に配列した氷91とが存在している。乾燥後は、氷91が存在していた領域に空孔92が形成される。
【0046】
工程Dでは、工程Cで得られた成形体を焼成する。典型的には、工程Cで得られた成形体を注意深く容器から抜き取り、必要に応じて成形加工を行い、それぞれのセラミックス原料に適した温度および焼結時間で焼成する。焼結(焼成)に際しては、得られる焼結体の機械的強度が、生体内への埋入に適した強度となるように、すなわち、手術現場で、加工が可能であり、かつ、生体挿入後に破損等が生じない程度となるように、焼結条件を決めることが望ましい。こういった焼結条件は、セラミックスの種類、多孔質体の空孔率、平均空孔径、及び空孔の配向性等を考慮して適宜決定することができる。また、焼成の際に用いられるエネルギー源としては、特に限定されないが、熱およびマイクロ波等が一般的に用いられる。なお、焼成温度はセラミック原料の種類によっても異なるが、一般的には、1000〜1800℃が好ましく、1200〜1600℃が好ましい。焼成温度が1000℃未満では、焼結による緻密化が十分進行せずに、強度が低くなる傾向となり、1800℃を超えると、融解や相転移により別の結晶状態へ変化する傾向となる。また、焼成時間は通常1〜4時間程度が一般的である。
【0047】
これにより霜柱状の氷の昇華痕を空孔とする多孔質セラミックス焼結体が作製される。この空孔は前述の昇華痕に準じ、焼結体を好ましくは一方向に貫通した連続孔となる。その結果、一方向に長く伸びて長手方向にわたる断面積の変化が少ない空孔を持つセラミックス焼結体を得ることができる。
【0048】
本発明の多孔質セラミックス焼結体を人工骨のような多孔質セラミックス材料として用いる場合には、所望の形状に成形し、滅菌するのが好ましい。
ブロック体の形状に成形する方法としては、特に制限されること無く、既知の方法を用いればよい。具体的には、機械加工による成形法、乾式成形法および湿式成形法等が挙げられる。一般にセラミックス材料は硬くて脆い素材であるため、セラミックス層の厚さが不均一である従前の多孔質セラミックス材料は、機械加工性が極めて低かった。本発明のセラミックス材料は、上記のように、空孔が一方向に配向しており、且つその空孔径もほぼ均一なため、貫通空孔と貫通空孔との間のセラミックス層の厚さもほぼ均一である。したがって、従前の多孔質セラミックス材料に比べ、優れた機械加工性を示す。
【0049】
また、顆粒状に成形する方法についても、特に制限されること無く、既知の方法を用いればよい。具体的には、モルダグラインダー、ボールミル、ジョークラッシャー、ハンマークラッシャー等の機械的粉砕、乳鉢等での粉砕などが挙げられる。また、粉砕された多孔質セラミックス材料をふるい等で、粒径を揃えてもよい。
【0050】
該材料を滅菌する方法についても、特に制限されること無く、既知の方法を用いればよい。具体的には、高圧蒸気滅菌法(オートクレーブ)、γ線滅菌、EOG滅菌および電子線滅菌等が挙げられる。その中でも、高圧蒸気滅菌法は最も一般的な滅菌法として、汎用されている。
【0051】
このようにして得られた多孔質セラミックス材料は、上述したように優れた生体親和性および生体内に埋め込むのに充分な強度を有しており、人工骨、人工歯根等の医科用あるいは歯科用等の生体内に埋植するインプラント材料として有用である。
【0052】
さらには、より高いレベルでの骨組織の誘導ことを目的として、形質転換成長因子(TGF−β1)、骨誘導因子(BMP−2)および骨形成因子(OP−1)等の骨組織に対して成長促す作用のある物質を、本発明のセラミックス材料に含浸、吸着、固定化してもよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に記載の実施例によって限定されるものではない。なお、実施例、比較例で製造したセラミックス材料の
物性は以下の方法で測定した。
【0054】
〔空孔率の測定方法〕
空孔率は以下のようにして測定した。評価対象の多孔質セラミックス材料から直径6mm×高さ8mmの円柱状の試験片を切り出す。その試験片の重量、及び体積を測定して、以下の式より、空孔率を算出した。
嵩密度=(試験片の重さ)/(試験片サンプルの体積)
空孔率=(1−嵩密度/真密度)×100
【0055】
〔開口面積の測定方法〕
測定対象のセラミックス材料を樹脂中に包埋し、これを配向軸方向に対して垂直に薄切し、これを走査型電子顕微鏡で50倍拡大像を観察し、各空孔に由来する開口面積を順々に測定し、その平均値を開口面積とした。
【0056】
〔圧縮強度の測定方法〕
JIS R 1608 に準拠した。ただし、試験片は直径6mm×高さ8mmの円柱状試験片を使用した。
【0057】
〔空孔の長さの測定方法〕
空孔の長さを求めるには、測定対象のセラミックス材料を樹脂中に包埋し、これを配向軸方向に並行に薄切し、これを走査型電子顕微鏡で20倍拡大像を観察し、空孔の長さを順々に測定した。
〔圧縮強度の測定方法〕
JIS R 1608の圧縮強度試験に準拠した。ただし、サンプルは直径6mm×高さ8mmの円柱状サンプルを使用した。
【0058】
[実施例1〜6]
蒸留水中にリン酸化カルシウム(HAp:ハイドロキシアパタイト)および添加剤であるゼラチンを表1に記載の組成で分散・溶解させたスラリーと、内径(直径)が16mm、高さが20mm、壁厚が3mmの塩化ビニル製円筒容器を4個用意した。
冷却板41、42にペルチェ素子板を使用し、温度測定素子71に熱電対を使用した図2、3に示すシステムの一方のペルチェ素子板上に、前記スラリーを満量充填した4つの容器を設置し、該4つの円筒状容器の上にもう一枚のペルチェ素子板を配置して、表1に記載の各条件(スラリー組成、スラリー両端面(上下面)の温度差、冷却速度)でスラリーの一方向的凍結を実施した。
なお、実施例1〜3は上下2枚のペルチェ素子板の冷却速度を当初から最後まで変更しなかったが、実施例4〜6では低温側のペルチェ素子板の温度が−12℃になった時点で上下2枚のペルチェ素子板の冷却速度を表1に記載の第1冷却速度から第2冷却速度に切替えて実施した。
このようにして得られた凍結体を真空中で昇華乾燥させた後、その乾燥体を1200℃にて1時間焼結することで、配向した空孔を持つセラミックス材料を得た。
【0059】
[比較例1]
実施例1〜6で使用したスラリーと同じスラリーを実施例1〜6で使用した容器と同じ容器に満量充填し、この容器を、−25℃の冷凍庫にて冷却して、スラリーを凍結した。このようにして得られたスラリーの凍結体を真空中で昇華乾燥させた後、その乾燥体を1200℃にて1時間焼結することで、セラミックス材料を得た。
【0060】
[比較例2]
実施例1〜6で使用したスラリーと同じスラリーを実施例1〜6で使用した容器と同じ容器に満量充填し、この容器を、液体窒素により冷却した真鍮円盤状冷却板上に設置し、容器の下面から冷却し、スラリーを凍結させることにより、霜柱状の氷をスラリー中に形成させた。このようにして得られた凍結体を真空中で昇華乾燥させた後、その乾燥体を1200℃にて1時間焼結することで、配向した空孔を持つセラミックス材料を得た。
【0061】
[比較例3〜4]
実施例1〜6で使用したスラリーと同じスラリーを実施例1〜6で使用した容器と同じ容器に満量充填したものを4つ用意し、該4つの容器を、一辺が12cmの正方形のペルチェ素子板上に設置し、その底面のみから冷却した。すなわち、ペルチェ素子板を表1に記載の速度(第1冷却速度)で冷却することで、霜柱状の氷をスラリー中に形成させた。このようにして得られた凍結体を真空中で昇華乾燥させた後、その乾燥体を1200℃にて1時間焼結することで、配向した空孔を持つセラミックス材料を得た。
【0062】
なお、本実施例1〜6及び比較例1〜4で使用したスラリーの凝固点は−8℃であり、また、低温側の冷却板(ペルチェ素子板)の冷却開始時の温度は5℃に設定した。
【0063】
実施例1〜6及び比較例1〜4で得たセラミックス材料の物性評価を行った。
【0064】
表1〜3に実施例1〜6及び比較例1〜4のセラミックス材料の製造条件及び評価結果を示す。
なお、表1の実施例1〜3、比較例3、4に第2冷却速度の記載がないのは、冷却開始から冷却終了まで第1冷却速度で冷却し、冷却速度を変えなかったことを意味する。
また、表2において、第1の切断面と第2の切断面はいずれも空孔の配向方向に垂直であり、両切断面間の距離は10mmである。第1の切断面は空孔の長さ方向の中心点から、片側に5mm離れた場所であり、第2の切断面は第1の切断面から反対側に5mm離れた場所とした。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
図5は実施例4によって調製した材料にエポキシ樹脂を含浸させた試験片の断面のSEM観察像(倍率:50倍)である。
図5(A)は空孔の配向方向に垂直な断面の観察像であり、図5(B)は図5(A)と平行であって約10mm離れた断面の観察像である。
図6は実施例4によって調製した材料の断面図である。図6は空孔の配向方向と平行な断面の複数の観察像を連結して示したものである。約10mm以上の長さにわたる空孔の存在が見受けられる。
【0069】
図7は比較例2で調製した材料の断面のSEM観察像である。図7(A)は、空孔の配向方向に垂直な同一の断面の観察象(倍率:50倍)であり、図7(B)は図7(A)と平行であって約4mm離れた断面の観察象(倍率:200倍)である。
図8は比較例2で調製した材料の断面のSEM観察象である。図8は空孔の配向方向と平行な断面の複数の観察象を連結して示したものである。図8によれば、空孔の長さは約4mm程度にすぎない。
【0070】
実施例1〜6と比較例1〜4の対比から、本発明方法によれば、空孔が一方向に長く伸びて長手方向にわたる断面積の変化が少ない空孔を持つ、高強度の多孔質セラミックス材料を容易に製造できることが分かる。特に、実施例4〜6のように、スラリーを一方向的に凍結する過程で、冷却装置による冷却速度を段階的に増大させることで、氷の成長に伴って氷柱の径が拡大するのを抑制することができるため、一方向により長く伸びて長手方向にわたる断面積の変化がより小さい空孔を確実に得ることができ、その結果、貫通空孔と貫通空孔との間のセラミックス層の厚さの均一性がより高い焼結体を形成でき、強度がより高く、より加工性に優れる多孔質セラミックス材料を実現できることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明で作製した多孔質セラミックス材料の模式図である。
【図2】本発明における製造方法の一例を示す。
【図3】凍結のために用いる凍結装置の一例の模式図である。
【図4】凍結したスラリー(図4A)と乾燥後の成形体(図4B)の模式断面図である。
【図5】実施例4で作製した材料の断面のSEM観察像である。
【図6】実施例4で作製した材料の断面のSEM観察像である。
【図7】比較例2で作製した材料の断面のSEM観察像である。
【図8】比較例2で作製した材料の断面のSEM観察像である。
【符号の説明】
【0072】
11 多孔質セラミックス材料
12 空孔
21 スラリー
31 容器
41 冷却板
42 冷却板
51 温度コントローラ
61 電源
71 温度測定素子
81 セラミックス原料の粒子
91 媒体の結晶
92 空孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程(A):セラミックス原料を媒体に分散させてスラリーを調製する工程、
工程(B):スラリーを所定の容器に充填し、該スラリーを一方向的に凍結させる工程、
工程(C):凍結させたスラリーを乾燥させて成形体を得る工程、及び
工程(D):乾燥させた成形体を焼成する工程を含み、
前記工程(B)において、スラリーの両端をそれぞれ温度制御された冷却装置で冷却することで、スラリーを一方向的に凍結させることを特徴する多孔質セラミックス材料の製造方法。
【請求項2】
工程(B)において、スラリーの両端の温度差が5〜35℃となるように冷却を行うことを特徴とする、請求項1記載の多孔質セラミックス材料の製造方法。
【請求項3】
工程(B)において、スラリーの両端における温度制御された冷却装置による冷却がそれぞれ速度0.01〜5.0℃/minの冷却であることを特徴とする請求項1記載の多孔質セラミックス材料の製造方法。
【請求項4】
工程(B)において、温度制御された冷却装置としてペルチェ素子を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質セラミックス材料の製造方法。
【請求項5】
工程(A)において、セラミックス原料がリン酸カルシウムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔質セラミックス材料の製造方法。
【請求項6】
リン酸カルシウムが水酸アパタイトおよび/またはリン酸三カルシウムであることを特徴とする、請求項5に記載の多孔質セラミックス材料の製造方法。
【請求項7】
前記工程(A)において、セラミックス原料を分散させる媒体にスラリーをゲル状(弾力性のある半固体状)にすることができる高分子を添加する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の多孔質セラミックス材料の製造方法。
【請求項8】
スラリーをゲル状(弾力性のある半固体状)にすることができる高分子がゼラチンである、請求項7に記載の多孔質セラミックス材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の多孔質セラミックス材料の製造方法から得られる多孔質セラミックスインプラント材料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−230910(P2008−230910A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73188(P2007−73188)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】