説明

多孔質セラミックス用気孔形成材

【課題】高性能フィルタや軽量陶器などに好適に用いることができる気孔率の大きいセラミックス成形体の品質安定化を目的に、大量に用いてもクラックなどを生じることなく、多孔質セラミックスを得ることができる多孔質セラミックス用気孔形成材を提供すること。
【解決手段】少なくとも中空粒子を含む、多孔質セラミックスの気孔を形成するために用いられる気孔形成材であり、そのかさ密度が0.1〜0.7の範囲で、かつ300℃、2時間の加熱下において、気孔形成材の体積収縮率が25%以上であり、さらに気孔形成材の組成の10重量%以上がメタアクリル酸エステル系モノマー由来の成分からなる、多孔質セラミックス用気孔形成材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば多孔質セラミックスの製造に用いられ、気孔を形成するために好適に用いることができる気孔形成材に関する。本発明で得られる多孔質セラミックスは、濾過材(フィルタ)、吸着材、触媒担体用基材、断熱材、吸音板などの構造材として利用することができる。
【背景技術】
【0002】
近年、多孔質セラミックスの利用分野としては、濾過材(フィルタ)、吸着材、触媒担体用基材、断熱材、吸音板などの構造材として多岐にわたっている。特に、フィルタ用途としては、ディーゼルエンジンなどから排出される排ガス中の微粒子を捕集するためのフィルタ(DPF:ディーゼルパティキュレートフィルタ)として多く使用されている。
【0003】
従来、セラミックス組成物に気孔を形成するためには、種々の方法があり、例えば、
(1)セラミックス原料の粉末に、焼成時の高温で消滅する気孔形成材を混錬含有させ、成形し焼結する方法、
(2)ポリウレタンフォームなどの可燃性発泡体に、セラミックス原料粉末の分散液を含浸させ、乾燥後焼結する方法、
(3)セラミックス原料中に発泡剤を混合し、成形時または焼結時に発泡させ、気孔を形成させる方法、
(4)種々のセラミックス原料の混錬時に機械的に空気を導入し、気孔を形成させる方法などが提案されている。
これらの方法の中で、気孔の大きさが均一で、その形成をコントロールしやすいといった観点から、気孔形成材を用いる方法が一般に採用されている。
【0004】
このような多孔質セラミックスにおいては、気孔率がその性能を決定する重要な因子であり、特にディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)のような多孔質セラミックスフィルタでは、排ガス中の微粒子の捕集効率、圧力損失、捕集時間の関係から、平均気孔径および気孔率の大きいフィルタが要望されている。
【0005】
気孔率を増大させるためには、気孔形成材として使用されるグラファイト、活性炭粉末、小麦粉、樹脂粒子などを多量に使用する手段が一般に採られているが、多孔質セラミックスの製造工程において、気孔形成材に起因する原因によって、多孔質セラミックスに大きな歪みが生じ、クラックが生じるという問題があった。
【0006】
すなわち、気孔形成材を用いる方法では、セラミックス原料粉末、結合材、気孔形成材などを混錬し、成形する混錬成形工程、これらを乾燥する乾燥工程(脱脂工程)、さらに高温で焼結する焼成工程の一連の生産工程において、それぞれの工程において変化するセラミックス基体(セラミックス原料粉体と結合材などの混合物)の体積と気孔形成材の大きさに差がでてくることから、セラミックス全体に歪みが生じたり、気孔形成材が燃焼する際に発生する熱によって部分的に歪みが生じるなどして、セラミックス基体にクラックが発生し、その後の工程や最終製品の使用時における破壊の起点になる可能性がある。
【0007】
製造時のクラック発生の抑制方法としては、気孔形成材の燃焼時に発生する燃焼熱を低減すべく、中空ポリマー粒子を含有するセラミックス組成物から所定の成形体を成形した後、該成形体を焼成する多孔質セラミックスフィルタの製造方法が開示されている(特許文献1)。これは、気孔形成材として中空ポリマー粒子を用いることにより、気孔形成材の燃焼熱を抑制するというものであり、このような方法によれば、得られる多孔質セラミックスにクラックが生じる問題は軽減するとしている。しかしながら、特許文献1では、成形時に中空ポリマー粒子が破壊されないことを目的に、粒子を高強度化しているため、特に製造工程において中空ポリマー粒子が除去される前の温度でのセラミックス基体の変形時の微細クラック発生は避けることができず、結果として多孔質セラミックスの破壊が生じてしまう。
【0008】
また、同様に燃焼熱によるクラック発生の抑制を目的に、所定温度以下で気孔形成材の少なくとも一部に化学反応および/または状態変化によって、空隙が生じる樹脂粒子からなる多孔質セラミックス用気孔形成材が提案されている(特許文献2)。しかし、一部が空隙となるこの方法では、乾燥工程時に粒子形状がいびつになることによるセラミックス基体の歪が発生し、クラック発生に繋がる可能性がある。また、特許文献2で開示されている第2の態様の樹脂粒子では、比較的低温での気体蒸発が提示されているため、セラミックスの乾燥工程中で、気体が膨張することによるクラック発生の可能性もあった。
【特許文献1】特開2004−123834号公報
【特許文献2】特開2005−170709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、高性能フィルタや軽量陶器などに好適に用いることができる気孔率の大きい多孔質セラミックスの品質安定化を目的に、大量に用いてもクラックなどを生じることなく、多孔質セラミックスを得ることができる多孔質セラミックス用気孔形成材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決することを目的として、本発明者らは、鋭意検討の結果、多孔質セラミックスの各工程の温度条件において、多孔質セラミックス内の気孔形状(開孔、閉孔)によって気孔形成材の状態を変化させ、セラミックス基体の体積収縮に起因するクラックなどの発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明によれば、以下の多孔質セラミックス用気孔形成材が提供される。
[1] 少なくとも中空粒子を含む、多孔質セラミックスの気孔を形成するために用いられる気孔形成材であり、そのかさ密度が0.1〜0.7の範囲で、かつ300℃、2時間の加熱下において、気孔形成材の体積収縮率が25%以上であり、さらに気孔形成材の組成の10重量%以上がメタアクリル酸エステル系モノマー由来の成分からなる、多孔質セラミックス用気孔形成材。
[2] 平均粒子径が5〜500μmである上記[1]に記載の多孔質セラミックス用気孔形成材。
[3] 気孔形成材が、粒子径が0.05〜5μmの、少なくとも中空粒子を含む粒子を複数個集合してなる上記[1]または[2]に記載の多孔質セラミックス用気孔形成材。
[4] 中空粒子が、乳化重合あるいは懸濁重合で作成される上記[1]〜[3]いずれかに記載の多孔質セラミックス用気孔形成材。
[5] 少なくとも中空粒子を含む気孔形成材を構成する粒子を粉末化する際に噴霧乾燥法を用いた、上記[1]〜[4]いずれかに記載の多孔質セラミックス用気孔形成材。
[6] 気孔形成材を構成する1粒子の圧縮強度が1MPa以上である上記[1]〜[5]いずれかに記載の多孔質セラミックス用気孔形成材。
[7] 上記[1]〜[6]いずれかに記載の多孔質セラミックス用気孔形成材を分散させたセラミックス組成物からなる成形体を焼成してなる多孔質セラミックス。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多孔質セラミックス用気孔形成材は、100℃以下の雰囲気下で行われるセラミックス粉体原料と結合材、気孔形成材などを混錬し成形する混錬成形工程においては、気孔の大きさを決定する気孔形成材の形状、大きさが著しく変化することなく保たれ、300℃以下で行われる乾燥工程(脱脂工程)ではセラミックス基体部分(セラミックス粉体原料と結合材などの混合物)の乾燥収縮に伴って気孔形成材の体積が減少することで、体積差によるクラック発生を防ぐことができ、さらに500℃以上の焼成工程では、開孔(貫通孔、入口孔)を形成している気孔形成材は、最終製品の品質に影響する可能性がないように燃えカスが残らず、閉孔(独立孔)内にある気孔形成材は体積膨張しすぎず、クラック発生の要因とならないことで、気孔率の高い多孔質セラミックスフィルタが安定に製造できる。
このように、本発明によれば、セラミックス組成物の混合時や成形時に粒子が破壊されにくく、大量に用いてもクラックなどを生じることなく、高性能フィルタや軽量陶器などに好適に用いることができる気孔率の大きいセラミックス成形体を容易に得ることができる多孔質セラミックス用気孔形成材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず、本発明の課題である、乾燥工程時の微細クラック発生の抑制に関しては、乾燥工程時のセラミックス基体の体積変化に、気孔形成材の体積変化が追従することで抑制することができる。気孔の形状が開孔(貫通孔)であれば、気孔形成材の軟化温度、分解温度を乾燥温度以下に設定することで、蒸発や流出による抑制が期待できるが、閉孔(独立孔)では、蒸発や流出する経路がなく、体積が保たれるため、微細クラックの起点となってしまう。これを防ぐためには、気孔形成材自体が体積変化する必要があり、軟化温度あるいはガラス転移温度が、セラミックス基体中の水分が蒸発し、実質的に変形が始まる100℃以下であり、且つ、かさ密度[かさ密度(bulk
density):内部に空げきをもつ固体の比重]が0.1以上0.7以下で、さらに多孔質セラミックスを製造する際の乾燥工程の300℃以下の温度、例えば300℃、2時間の加熱下において、気孔形成材の体積収縮率が25%以上である気孔形成材を用いることで、体積変化による微細クラックを防ぐことができる。
【0014】
なお、フィルタなどの用途では、気孔形成材の残留物が最終製品の品質に影響する可能性があるため、セラミックスの焼成温度以下で完全に消滅する必要があり、これは気孔形成材を形成する組成物の分解温度を500℃以下に設計することで可能である。
【0015】
ここで、気孔形成材のかさ密度が0.1より小さいと、気孔形成材の強度が十分ではなく、多孔質セラミックスの製造工程の混錬成形工程において、破壊してしまう可能性がある。一方、0.7より大きいと、乾燥工程時の体積変化が十分でなく、また気孔形成材の燃焼時に発生する燃焼熱量も大きくなりすぎ、クラックの発生に繋がる。
本発明の気孔形成材のかさ密度は、好ましくは0.2〜0.6である。
本発明の気孔形成材のかさ密度を上記範囲内にするには、粒子内部に中空部を有する中空粒子を用いる。また、かさ密度が小さすぎる場合には、粒子内部に中空部を保有していない密実粒子を混合することで、調整することができる。
【0016】
また、乾燥工程の目安となる300℃、2時間加熱下における気孔形成材の体積収縮率が25%より小さいと、セラミックス基体の変形が妨げられるため、クラックが発生する可能性がある。この体積収縮率は、好ましくは40%〜100%である。
本発明の気孔形成材において、上記体積収縮率を25%以上にするには、中空粒子を用いて、気孔形成材のかさ密度を0.1〜0.7の範囲とすることと、気孔形成材を構成するポリマーの軟化、分解温度を300℃以下に調整する必要がある。
【0017】
さらに、本発明の気孔形成材は、その組成の10重量%以上がメタアクリル酸エステル系モノマー由来の成分からなる。メタアクリル酸エステル系モノマー由来の組成物は、アクリル酸エステル系モノマー由来の組成物と比べて粒子強度が強い粒子を得やすく、かつ燃焼時の分解開始温度を低くできる利点がある。組成内のメタアクリル酸エステル由来の成分の比率が10重量%未満であると、上記の利点が失われるため、混錬成形時の気孔形成材の変形やクラックの発生に繋がる。メタアクリル酸エステルモノマー由来の成分は、好ましくは20重量%以上である。
【0018】
さらに、本発明の気孔形成材の平均粒子径は、好ましくは5〜500μm、さらに好ましくは5〜200μmの範囲である。5μmより小さいと、セラミックスを作製した際に閉孔(独立孔)が多くなり、クラック発生のリスクが大きくなると共に、フィルタ用途の場合、開孔(貫通孔)が少なくなり、狙ったフィルタ機能を発揮しない。一方、500μmより大きいと、フィルタ用途の場合、除去したい物質が通過する可能性があり、望ましくない。
本発明の気孔形成材の平均粒子径を上記範囲内にするには、中空粒子を含むエマルジョンを乾燥し粉末化する工程において、粉末化処理の諸条件(サンプルの濃度、液を噴霧する際の例えば回転ディスク型アトマイザーの回転数など)を調節することで実施できる。
【0019】
さらに、本発明の気孔形成材は、複数個の、中空粒子を含む粒子を集合してなり、これらの(中空)粒子の個々の平均粒子径は、好ましくは0.05〜5μm、さらに好ましくは0.1〜4μmである。平均粒子径が0.05μmより小さいと、(中空)粒子を集合した気孔形成材のかさ密度が大きくなり、加熱時の体積収縮が少なく、セラミックスのクラック発生に繋がる。一方、5μmより大きいと、(中空)粒子が集合した気孔形成材における(中空)粒子間の結合が弱くなり、混錬成形工程における気孔形成材の破壊が発生し、狙ったフィルタの細孔が確保できない。
(中空)粒子の個々の平均粒子径を上記範囲内にするには、中空粒子の重合工程において、モノマー組成、重合操作、中空化処理がアルカリ膨潤法である場合には、アルカリの濃度や膨潤時間などを調節することで実施可能である。
【0020】
ここで、本発明に用いられる上記中空粒子は既知の方法によって得ることができ、例えば水の存在下で反応が行われる乳化重合や懸濁重合などで得られた粒子について、アルカリ域で有機粒子を膨潤させ、中空粒子を得る方法(アルカリ膨潤法)や2段重合などで形成されたシェル部とコア部の重合収縮率の差で中空を得る方法(体積収縮法)、発泡剤を含有した有機粒子を作製し、熱などで発泡させ中空部を形成する方法(熱発泡法)などが挙げられる。特に粒子径を制御しやすいという点で、アルカリ膨潤法、体積収縮法が望ましい。
【0021】
本発明の気孔形成材の組成中には、メタアクリル酸エステルモノマー由来の成分が10重量%以上含まれる。この成分としては、メタアクリル酸エステルのホモポリマーおよびその他の共重合可能成分と共重合したコポリマーであっても構わない。メタアクリル酸エステルモノマーとしては、例えばメチルメタアクリレート、エチルメタアクリレート、プロピルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート、2−エチルヘキシルメタアクリレート、シクロヘキシルメタアクリレートなどが挙げられる。これらは単独で使用しても、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
また、メタアクリル酸エステルモノマーと共重合可能の成分としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどの不飽和カルボン酸エステル、スチレン、α−メチルスチレンなどのモノエチレン性芳香族化合物、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドなどの非架橋性ラジカル重合性モノマーを用いることができる。さらには、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジシクロペンタジエン、ブタジエン、イソプレン、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジメタクリレートなどの架橋性ラジカル重合性モノマーを用いることもできる。さらに、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などのモノまたはジカルボン酸、上記ジカルボン酸の酸無水物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有モノマーを挙げることができる。
これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
上記モノマーを水性媒体中で乳化重合させる方法については、特に制限はなく、例えば、モノマーを一括添加して重合してもよく、また、連続的に添加して重合してもよい。また1段の重合で行ってもよく、2段以上の多段階重合で行ってもよい。さらには、シード粒子の存在化にモノマーをシード乳化重合させてもよい。乳化剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、有機懸濁保護剤などを挙げることができ、中でも、粒子の安定性の点でアニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、有機懸濁保護剤が好ましい。これらの乳化剤は、1種単独でまたは2種以上を組合せて用いることができる。
【0023】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ロジン酸カリウム、ロジン酸ナトリウムなどのロジン酸塩、オレイン酸カリウム、ラウリン酸カリウム、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウムなどの脂肪酸のナトリウム塩またはカリウム塩、ラウリル硫酸ナトリウムなどの脂肪族アルコールの硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリルスルホン酸などを挙げることができる。
【0024】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールのアルキルエステル、アルキルエーテル、アルキルフェニルエーテルなどを挙げることができる。
【0025】
有機懸濁保護剤としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールなどの親水性合成高分子物質、ゼラチン、水溶性でんぷんなどの天然親水性高分子物質、カルボキシメチルセルロースなどの親水性半合成高分子物質などを挙げることができる。
【0026】
重合開始剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類とスルホキシレート処方、含糖ピロリン酸処方/スルホキシレート処方の混合系処方、ホルムアルデヒド樹脂処方などで代表される還元剤との組合せによるレドックス系の開始剤、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどを挙げることができ、中でも、粒子の安定性及び粒径の均一性の点で過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイドが好ましい。また、必要に応じて還元剤を組み合せて用いることもできる。
【0027】
中空粒子含むエマルジョンを乾燥させて粉末状の気孔形成材を得る方法としては特に制限はないが、例えば、噴霧乾燥法、熱風乾燥機を用いたトレイ乾燥法、流動床乾燥法、遠心分離機で粒子と水分を分離した後、粒子を乾燥する方法などを挙げることができる。中でも、粉末化工程における諸条件で2次凝集粒子(気孔形成材)の大きさをコントロールできる点で、噴霧乾燥法が望ましい。以下に噴霧乾燥法について例示するが、これに限定されるものではない。
【0028】
噴霧乾燥は、好ましくは50〜180℃、より好ましくは80〜150℃の温度下で、例えば回転円盤型アトマイザー、圧力ノズル型アトマイザー、二流体ノズル型アトマイザーなどの装置により行なわれる。噴霧乾燥する重合体エマルジョンは単独でもよいし、複数の重合体エマルジョンの混合物であってもよい。例えば、上述の中空粒子をメタアクリル酸エステル系モノマーを用いず作製し、その後、メタアクリル酸エステル系モノマーを用いた重合体エマルジョンを混合し、組成比率の調節を行うこともできる。ただし、複数の重合体エマルジョンを混合した場合には、各重合体を重量平均したときのガラス転移温度が20℃以上であることが好ましい。噴霧乾燥時のブロッキングを防止し、放置安定性などを一層向上させるために、公知のブロッキング防止剤である粘土、タルク、シリカ、珪藻土または炭酸カルシウムなどの無機質充填剤やポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、メチルセルロースなどを必要に応じて添加して噴霧乾燥することもできる。セラミックスに不純物を残さない点で、ポリビニルアルコールなどが好ましい。本発明の粉末粒子の平均粒径は、通常5〜500μmである。噴霧乾燥にあたっては、重合体エマルジョンの組成、粒子径、ガラス転移温度などの性質、水性分散体の混合の割合、全固形分、および添加したブロッキング防止剤の種類、割合、噴霧装置の種類、入口温度、出口温度、風量などの条件を適宜選択する。本発明で得られた粉末粒子は、多孔質セラミックスの気孔形成材として有用である。
【0029】
なお、本発明の気孔形成材は、使用に際して、本発明の中空(ポリマー)粒子以外のポリマー粒子、例えば密実(ポリマー)粒子を全体の80重量%以下、好ましくは60重量%以下程度併用することができる。密実粒子は、中空粒子に準じて、乳化重合あるいは懸濁重合により容易に製造することができる。上記密実粒子に使用できるモノマーなどの原料は、上記中空粒子と同様であり、その組成比は任意に調整することができる。
【0030】
また、中空粒子間や中空粒子と密実粒子間の結合力を向上させるために、エポキシ系やイソシアネート系、オキサゾリン系などの架橋剤を添加混合することができる。架橋剤の添加量は、中空粒子および密実粒子合計100重量部に対して、0.05〜50重量部、好ましくは0.1〜40重量部である。架橋剤量が0.05重量部未満では使用の効果が得られず、一方、50重量部より多いと気孔形成材の強度が強くなりすぎ、過熱工程での気孔形成材の変形を阻害する可能性がある。架橋剤は、1種類を使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
さらに、本発明の気孔形成材は、多孔質セラミックスの製造工程において、混錬成形工程では、気孔の大きさを決定する気孔形成材の形状、大きさが著しく変化することなく保たれる必要があり、このような粒子に対する特徴としては、気孔形成材が混錬成形時の外力に耐え得る程度の強度を有する必要がある。具体的には、気孔形成材の1粒子を圧縮した際の圧縮強度が1MPa以上あることが望ましい。さらに好ましくは、2MPa以上である。気孔形成材1個の圧縮強度を1MPa以上にするには、気孔形成材の軟化温度を30℃以上とすることで可能である。
【0032】
本発明の気孔形成材を用いた多孔質セラミックスは、混合された気孔形成材を焼失させるようにセラミックス組成物を焼成されることにより得られる。なお、セラミックス組成物はコージェライト組成物であっても炭化ケイ素組成物であってもよい。セラミックス原料は、特に限定されないが、例えば、タルクや焼タルクなどのタルク粉末成分、非晶質シリカにて代表されるシリカ粉末、カオリン、仮焼カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウムなどを配合して調製することができる。また、炭化ケイ素組成物も同様に、炭化ケイ素粉末に無機質結合材としてタルクや焼タルクなどのタルク粉末成分、非晶質シリカにて代表されるシリカ粉末、カオリン、仮焼カオリン、酸化硼素、アルミナ、水酸化アルミニウムなどを適宜配合して、炭化ケイ素粉末を主成分とするセラミックス組成物が調製される。
【0033】
本発明の多孔質セラミックスフィルタなどの多孔質セラミックスを製造するに際し、上記セラミックス組成物と(中空)ポリマー粒子からなる気孔形成材との混合物中、気孔形成材の該混合物中への添加量は、好ましくは10〜80容量%、さらに好ましくは20〜70容量%である。少なすぎると目標とする気孔率を得ることができず、多すぎると焼成後のセラミックス成形体の強度が低下する。
【0034】
多孔質セラミックスの製造方法において、混合物の成形方法としては、特に限定されないが、例えば、得ようとする成形体の断面形状をした柱状をした連続成形体を押出成形法で成形し、この連続成形体を成形物の所定の寸法に切断する方法、プレス成形法で成形する方法などが挙げられる。なお、セラミックス組成物には、従来と同様に可塑剤や粘結剤などが加えられて可塑化される。
【0035】
上記のようにして成形された成形体は、通常、乾燥されたのち、焼成される。ここで、乾燥工程においては、セラミックス基体部分の収縮変形を妨げないように、気孔形成材が乾燥温度以下で軟化し、体積変化する必要がある。この場合、気孔の形状が開孔(貫通孔)であれば、流出や移動、蒸発などに伴う体積変化が見込めるが、閉孔(独立孔)では流出、蒸発などは見込めないため、気孔形成材自体が体積変化する必要がある。乾燥工程は段階的に乾燥温度を上昇させることがあり、80〜600℃、好ましくは100〜500℃の範囲で、1〜12時間程度実施される。
【0036】
また、焼成工程においては、乾燥工程と同様にセラミックス基体の収縮変形を妨げないようにすると共に、多孔質セラミックスに貫通孔を必要とするフィルタ用途などでは、気孔形成材の残渣が残らないように、完全に蒸発する必要がある。焼成温度は、セラミックス組成物の組成によっても異なり、コージェライト組成物を用いる場合は、1,380〜1,440℃が好ましく、炭化ケイ素組成物を用いる場合は、1,600〜2,200℃が好ましい。なお、フィルタなどの用途では、気孔形成材の残留物が最終製品の品質に影響する可能性があるため、セラミックスの焼成温度以下で完全に消滅する必要があり、これは気孔形成材を形成する組成物の分解温度を500℃以下に設計することで可能となる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらによっていかなる制限を受けるものではない。なお、以下の記載において「部」および「%」は、特別に規定しない限り重量部および重量%を示す。なお、実施例中の中空粒子の平均粒子径、気孔形成材の平均粒子径、かさ密度、粒子強度、気孔率の測定は、以下に拠った。
【0038】
(中空)粒子の平均粒子径:
堀場製作所社製、レーザー回折粒度分布計LA−910にて体積平均粒子径を測定した。
気孔形成材の平均粒子径:
日機装社製、粒度分布測定装置(マイクロトラックMT3000)を用いて体積平均粒子径を測定した。粉末の任意の場所から3カ所サンプリングし、その平均値を用いた。
かさ密度:
容量100mlのガラス製容器に振動を与えながら気孔形成材を導入し、容器に入らなくなった時点での、ガラス容器内の気孔形成材重量を測定した。その測定値を100で割り、かさ密度の値とした。
体積収縮率:
容量100mlのガラス製容器に振動を与えながら、容器に入らなくなるまで気孔形成材を導入した。その後、ガラス製容器を300℃の乾燥機内で2時間加熱し、終了後、乾燥機から取り出し室温まで冷却した。ガラス製容器内の気孔形成材は、軟化あるいは分解によって体積が減少しガラス製容器内部に空間ができているため、その空間を満たしガラス製容器上面と一致するまで、ガラス製容器に水を入れ、その重量を測定した。その測定を体積収縮率とした。
気孔形成材の粒子強度:
島津製作所社製、微小圧縮試験機MCTM−500にて、気孔形成材の最大圧縮強度を測定した。
【0039】
セラミックス焼成体気孔率:
SiC粉末100部に、それと同容積となるように気孔形成材を混合し、その後、混合した混合物100部に対し、メチルセルロース15部および添加水を加え、十分に混練したのち脱気し、押出成形可能な混合物とした。次いで、この混合物を公知の押出成形法により、幅2cm、長さ5cm、厚さ0.5mmのセラミックスシートを成形した。そして、105℃で2時間乾燥した後、400℃にて3時間乾燥して乾燥工程を行い、さらに不活性ガス雰囲気下1,600℃、保持時間5時間にて焼成した。焼成後、自然冷却で室温となるまで冷却し、多孔質セラミックス焼成体を作製し重量(A)を測定した。一方、気孔形成材を使用しない以外は、同じ配合および手順でセラミックス焼成体を作製し重量(B)を測定した。
気孔率(%)=[多孔質セラミックス焼成体の重量(A)/セラミックス焼成体の重量(B)]×100
【0040】
セラミックス製造工程における破壊割合:
SiC粉末100部に、それと同容積となるように気孔形成材を混合し、その後、混合した混合物100部に対し、メチルセルロース15部および添加水を加え、十分に混練し、押出成形可能な混合物とした。次いで、この混合物を公知の押出成形法により、幅2cm、長さ5cm、厚さ0.5mmのセラミックスシートを10枚成形した。そして、105℃で2時間乾燥した後、500℃にて1時間脱脂工程を行い、さらに不活性ガス雰囲気下1,500℃、保持時間2時間にて焼成した。焼成後、自然冷却で室温となるまで冷却し、セラミックス焼成体の破壊の有無を目視で観察して破壊した数を計測し、3枚以上の破壊で改良効果なしとした。
破壊割合(%)=(破壊したセラミックス焼成体の数/作製したセラミックス焼成体の数)×100
【0041】
中空粒子エマルジョンの調製例(A)<(1)シード粒子の調製>
容量1リットルの反応容器に、予め、媒体として水96部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王(株)製、商品名:F65)の15%水溶液0.33部、重合開始剤として過硫酸ナトリウム3.5%水溶液を14.3部投入した。その一方で、メタクリル酸メチル10部、メタクリル酸エチル20部、メタクリル酸ブチル12部、アクリル酸エチル12部、アクリル酸ブチル12部、メタクリル酸30部、アクリル酸4部、分子量調整剤としてオクチルチオグリコレート0.5部、乳化剤(花王(株)製、商品名:F65)の15%水溶液0.7部および水40部を混合攪拌してモノマー混合物の水性分散体を調製した。このモノマー混合物の水性分散体の20%を上記反応容器に投入し、反応容器内の液を攪拌しながら温度75℃まで昇温して1時間重合反応を行い、その後温度を75℃に保ちながら残りのモノマー混合物の水性分散体を連続的に2時間かけて反応容器に添加し、さらに、2時間熟成を行い、固形分40%、平均粒子径450nmのシード粒子(A)の水性分散体を得た。
【0042】
中空粒子エマルジョンの調製例(A)<(2)中空粒子エマルジョンの調製>
容量1リットルの反応容器に、予め、媒体として水152部を投入し、これに上記のように調製したシード粒子(1)の水性分散体を固形分で25部(水性分散体で62.5部)、重合開始剤として過硫酸ナトリウム0.4部を投入した。その一方で、メタクリル酸メチル30部、メタクリル酸エチル20部、メタクリル酸ブチル20部、アクリル酸エチル3.5部、アクリル酸ブチル3.5部、スチレン13部、アクリル酸6部、ジビニルベンゼン4部、乳化剤(花王(株)製、商品名:F65)の15%水溶液0.7部および水29部を混合攪拌してモノマーの水性分散体を調製した。次に、反応容器内の液を攪拌しながら温度80℃まで昇温、保持して上記モノマーの水性分散体を反応容器に連続的に4時間かけて投入した。すべてのモノマーの投入後およそ15分後に攪拌しながら25%アンモニア5部を一括投入して、温度を90℃に上げ、2時間攪拌熟成した。その後40度以下まで攪拌しながら徐々に冷却し、固形分30%、粒子径1,050nm空孔を有する球状の中空粒子エマルジョン(A)を得た。得られた中空粒子に使用したモノマー量から計算した組成比率は、メタクリル酸メチル25部、メタクリル酸エチル20部、メタクリル酸ブチル18部、アクリル酸エチル5.625部、アクリル酸ブチル5.625部、スチレン9.75部、メタクリル酸7.5部、アクリル酸5.5部、ジビニルベンゼン3部であった。
【0043】
密実粒子エマルジョンの調製例(a)
容量1リットルの反応容器に、予め、媒体として水176部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王(株)製、商品名:F65)の15%水溶液0.7部、重合開始剤として過硫酸ナトリウム3.5%水溶液を14.3部投入した。その一方で、メタクリル酸メチル40部、メタクリル酸エチル23部、メタクリル酸ブチル30部、メタクリル酸5部、アクリル酸2部、乳化剤(花王(株)製、商品名:F65)の15%水溶液0.7部および水40部を混合攪拌してモノマー混合物の水性分散体を調製した。このモノマー混合物の水性分散体の20%を上記反応容器に投入し、反応容器内の液を攪拌しながら温度75℃まで昇温して1時間重合反応を行い、その後、温度を75℃に保ちながら残りのモノマー混合物の水性分散体を連続的に2時間かけて反応容器に添加し、さらに、温度を80℃まで昇温したのち2時間熟成を行い、固形分30%、平均粒子径250nmの密実粒子エマルジョン(a)を得た。
【0044】
実施例1
上記操作で得られた中空粒子エマルジョン(A)を、噴霧乾燥機(EYELA社製、SD−1卓上スプレードライ)を用い、入口温度120〜150℃、排風温度50〜80℃およびアトマイザーの回転数12,000rpmの条件で粉末化し、実施例1の気孔形成材を得た。
【0045】
実施例2
粉末化する際の中空粒子エマルジョン(A)の固形分を15%とし、アトマイザーの回転数を8,000rpmとした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の気孔形成材を作製した。
【0046】
実施例3〜5
粉末化するサンプルとして、中空粒子エマルジョン(A)と密実粒子エマルジョン(a)を表1の割合で混合したこと以外は、実施例1と同様にして実施例3、実施例4および実施例5の気孔形成材を作製した。
【0047】
実施例6
粉末化するサンプルとして、中空粒子エマルジョン(A)と密実粒子エマルジョン(a)を表1の割合で混合した上で固形分を15%とし、アトマイザーの回転数を14,000rpmとした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例6の気孔形成材を作製した。
【0048】
実施例7
粉末化するサンプルとして、中空粒子エマルジョン(A)と密実粒子エマルジョン(a)を表1の割合で混合した上で、アトマイザーの回転数を6,000rpmとした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例7の気孔形成材を作製した。

【0049】
中空粒子エマルジョンの調製例(B)<(1)シード粒子の調製>
容量1リットルの反応容器に、予め、媒体として水96部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王(株)製、商品名:F65)の15%水溶液0.33部、重合開始剤として過硫酸ナトリウム3.5%水溶液を14.3部投入した。その一方で、メタクリル酸メチル20部、アクリル酸ブチル30部、スチレン20部、メタクリル酸30部、分子量調整剤としてオクチルチオグリコレート0.5部、乳化剤(花王(株)製、商品名:F65)の15%水溶液0.7部および水40部を混合攪拌してモノマー混合物の水性分散体を調製した。このモノマー混合物の水性分散体の20%を上記反応容器に投入し、反応容器内の液を攪拌しながら温度75℃まで昇温して1時間重合反応を行い、その後温度を75℃に保ちながら残りのモノマー混合物の水性分散体を連続的に2時間かけて反応容器に添加し、さらに、2時間熟成を行い、固形分40%、粒子径400nmのシード粒子(B)の水性分散体を得た。
【0050】
中空粒子エマルジョンの調製例(B)
<(2)中空粒子エマルジョンの調製>
容量1リットルの反応容器に、予め、媒体として水152部を投入し、これに上記のように調製したシード粒子(1)の水性分散体を固形分で25部(水性分散体で62.5部)、重合開始剤として過硫酸ナトリウム0.4部を投入した。その一方で、メタクリル酸メチル5部、アクリル酸ブチル10部、スチレン80部、アクリル酸3部、ジビニルベンゼン2部、乳化剤(花王(株)製、商品名:F65)の15%水溶液0.7部および水29部を混合攪拌してモノマーの水性分散体を調製した。次に、反応容器内の液を攪拌しながら温度80℃まで昇温、保持して上記モノマーの水性分散体を反応容器に連続的に4時間かけて投入した。すべてのモノマーの投入後およそ15分後に攪拌しながら25%アンモニア5部を一括投入して、温度を90℃に上げ、2時間攪拌熟成した。その後、40℃以下まで攪拌しながら徐々に冷却し、固形分30%、粒子径750nmの空孔を有する球状の中空粒子エマルジョン(B)を得た。
得られた中空粒子に使用したモノマー量から計算した組成比率は、メタクリル酸メチル11.25部、アクリル酸ブチル15部、スチレン62.5部、メタクリル酸7.5部、アクリル酸2.25部、ジビニルベンゼン1.5部であった。
【0051】
密実粒子エマルジョンの調製例(b)
容量1リットルの反応容器に、予め、媒体として水176部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王(株)製、商品名:F65)の15%水溶液0.7部、重合開始剤として過硫酸ナトリウム3.5%水溶液を14.3部投入した。その一方で、メタクリル酸メチル40部、メタクリル酸ブチル20部、アクリル酸5部、乳化剤(花王(株)製、商品名:F65)の15%水溶液0.7部および水40部を混合攪拌してモノマー混合物の水性分散体を調製した。このモノマー混合物の水性分散体の20%を上記反応容器に投入し、反応容器内の液を攪拌しながら温度75℃まで昇温して1時間重合反応を行い、その後温度を75℃に保ちながら残りのモノマー混合物の水性分散体を連続的に2時間かけて反応容器に添加し、さらに、温度を80℃まで昇温したのち2時間熟成を行い、固形分30%、粒子径250nmの密実粒子エマルジョン(b)を得た。
【0052】
実施例8〜10
粉末化するサンプルとして、中空粒子エマルジョン(B)と密実粒子エマルジョン(a)あるいは密実粒子エマルジョン(b)を表1の割合で混合したこと以外は、実施例1と同様にして実施例8、実施例9および実施例10の気孔形成材を作製した。
【0053】
比較例1
粉末化するサンプルとして、中空粒子エマルジョン(B)を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例1の気孔形成材を作製した。
【0054】
比較例2
粉末化するサンプルとして、密実粒子エマルジョン(a)を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例2の気孔形成材を作製した。
【0055】
比較例3
粉末化するサンプルとして、中空粒子エマルジョン(A)と密実粒子エマルジョン(a)を表1の割合で混合したこと以外は、実施例1と同様にして比較例3の気孔形成材を作製した。
以上の結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、高性能フィルタや軽量陶器などに好適に用いることができる高い気孔率の多孔質セラミックスを、クラックなどを生じることなく容易に得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも中空粒子を含む、多孔質セラミックスの気孔を形成するために用いられる気孔形成材であり、そのかさ密度が0.1〜0.7の範囲で、かつ300℃、2時間の加熱下において、気孔形成材の体積収縮率が25%以上であり、さらに気孔形成材の組成の10重量%以上がメタアクリル酸エステル系モノマー由来の成分からなる、多孔質セラミックス用気孔形成材。
【請求項2】
平均粒子径が5〜500μmである請求項1記載の多孔質セラミックス用気孔形成材。
【請求項3】
気孔形成材が、平均粒子径が0.05〜5μmの少なくとも中空粒子を含む粒子を複数個集合してなる請求項1または2記載の多孔質セラミックス用気孔形成材。
【請求項4】
中空粒子が、乳化重合あるいは懸濁重合で作成される請求項1〜3いずれかに記載の多孔質セラミックス用気孔形成材。
【請求項5】
少なくとも中空粒子を含む気孔形成材を構成する粒子を粉末化する際に、噴霧乾燥法を用いた、請求項1〜4いずれかに記載の多孔質セラミックス用気孔形成材。
【請求項6】
気孔形成材を構成する1粒子の圧縮強度が1MPa以上である請求項1〜5いずれかに記載の多孔質セラミックス用気孔形成材。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載の多孔質セラミックス用気孔形成材を分散させたセラミックス組成物からなる成形体を焼成してなる多孔質セラミックス。



【公開番号】特開2008−247630(P2008−247630A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87762(P2007−87762)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000230397)株式会社イーテック (49)
【Fターム(参考)】