説明

多孔質セラミックス製造用のセラミックス複合物、射出成形用材料、多孔質セラミックス製造用の成形用材料の成形方法及び多孔質セラミックスの製造方法

【課題】射出成形時の流動性が良好であり、脱脂時及び焼成時にクラックが発生しにくい、多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料を提供する。
【解決手段】平均粒径50μmのシリカ粉末と、ポリエチレングリコール(平均分子量5000)と、パラフィンワックス(融点45℃)を、80:10:10の重量比になるように秤量した後に、これらを混合し、120℃で4時間混練して得られた射出成形用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質セラミックス(特に、気孔率20%以上の多孔質セラミックス)製造用のセラミックス複合物、射出成形用材料、多孔質セラミックス製造用の成形用材料の成形方法及び多孔質セラミックスの製造方法に関する。即ち、多孔質セラミックスは、一定粒径以上のセラミックス粉末と有機質バインダを少なくとも混合してなるセラミックス複合物を成形(例えば、射出成形、押出成形、シート成形)し、得られた成形体を焼成して製造することができるものであり、本発明のセラミックス複合物は、成形されて成形体になり、得られた成形体は焼成されて気孔率20%以上の多孔質セラミックスになる。
【0002】
また、本発明は、上述のように射出成形用材料に関するものである。射出成形は、加熱して流動状態となった射出成形用材料を金型内に圧入し、放熱固化ないし冷却固化させ成形する方法である。本発明の射出成形用材料を射出成形し、得られた射出成形体を焼成することにより、気孔率20%以上の多孔質セラミックス(以下、単に、「多孔質セラミックス」という。)を製造することができる。
【0003】
射出成形して得られた射出成形体は、一般的に、(a)切削加工処理なしに、最終製品の形状に成形することが可能であり、(b)寸法精度が高く、(c)生産性が高い、という利点がある。また、射出成形により、複雑形状の射出成形体を得ることができるので、最終的に複雑形状の多孔質セラミックス製品を得ることができる。本発明の射出成形用材料から射出成形体を経て最終的に得られる多孔質セラミックスは、例えば、セラミックス構造体、セラミックス碍子、セラミックスコア等として使用することができる。
【背景技術】
【0004】
形状が複雑なセラミックスは、射出成形用坏土を射出成形して得られた射出成形体を焼成して製造されている。射出成形用坏土としては、焼結可能なセラミックス粉末と、有機質バインダが基本的構成物であり、必要に応じて、離型性とセラミックス粒子間すべりを良好にする射出成形用ワックス、可塑性を付与するための可塑剤等の各種の添加剤が添加されて使用される。製造しようとするセラミックスの形状、焼成収縮後の寸法精度を考慮して、有機質バインダや各種の添加剤が適宜選定されている。このような射出成形用坏土としては、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6及び特許文献7等に記載のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2777673号公報
【特許文献2】特許第3055938号公報
【特許文献3】特許第3224929号公報
【特許文献4】特許第3419517号公報
【特許文献5】特許第3743144号公報
【特許文献6】特許第3911596号公報
【特許文献7】特許第4131363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、多孔質のセラミックス製品(特に、形状が複雑で多孔質のセラミックス製品)が必要な場合がある。このようなセラミックス製品を製造する場合、成形用坏土(特に、射出成形用坏土)におけるセラミックス粉末を、比較的大粒径(例えば、平均粒径15μm以上)のものに変更することが考えられる。しかし、このように変更すると、成形時の加熱された成形用坏土において必要とされる流動性を得ることが困難であると共に、成形後の成形体に必要とされる強度を得ることが困難である。
【0007】
緻密質のセラミックスを製造するための比較的小粒径(例えば、平均粒径10μm以下)のセラミックス粉末を添加した成形用坏土を用いて成形された成形体の場合、成形時に成形用坏土に必要とされる一定レベルの流動性を得るためには、有機質バインダや成形用ワックスを過剰に添加する手段があった。そこで、多孔質のセラミックスを製造するための比較的大粒径(例えば、平均粒径15μm以上)のセラミックス粉末を添加した成形用坏土において、有機質バインダや成形用ワックスを過剰に添加したところ、より高い流動性を得ることができた。
【0008】
しかし、有機質バインダや成形用ワックスを過剰に添加した場合は、脱脂量が多くなるため脱脂に時間がかかり生産性が低下するという問題点がある。また、多孔質のセラミックスを製造するための比較的大粒径(例えば、平均粒径15μm以上)のセラミックス粉末を添加すると共に有機質バインダや成形用ワックスを過剰に添加した成形用坏土を用いて成形された成形体は、脱脂時あるいは焼成時にクラックが発生しやすくなるため、クラックの発生率が増加して歩留まりが低下するという新たな問題点が生じた。
【0009】
このような問題点は、比較的大粒径(例えば、平均粒径15μm以上)のセラミックス粉末を添加した成形用坏土(特に、射出成形用坏土)に特有の問題点であり、緻密質のセラミックスを製造するための比較的小粒径(例えば、平均粒径10μm以下)のセラミックス粉末を添加した成形用坏土においては生じなかった。即ち、緻密質のセラミックスを製造するための比較的小粒径(例えば、平均粒径10μm以下)のセラミックス粉末を添加した成形用坏土においては、過剰な有機質バインダや成形用ワックスが添加された場合でも、これが原因で成形用坏土から成形された成形体の脱脂あるいは焼成時にクラックが発生しやすくなるということは極めて少ないので、クラックの発生率が増加して歩留まりが低下するということはほとんどなかったのである。
【0010】
本発明は、成形時の流動性が良好であり、脱脂時及び焼成時にクラックが発生しにくい、多孔質セラミックス製造用のセラミックス複合物を提供することを目的とする。また、本発明は、射出成形時の流動性が良好であり、脱脂時及び焼成時にクラックが発生しにくい、多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料を提供することを目的とする。また、本発明は、多孔質セラミックス製造用の成形用材料を良好に成形することができ、脱脂時及び焼成時にクラックが発生しにくく歩留まりが高い成形体を成形することができる、多孔質セラミックス製造用の成形用材料の成形方法を提供することを目的とする。また、本発明は、脱脂時及び焼成時にクラックが発生しにくく歩留まりが高い、多孔質セラミックスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者の知得によれば、平均粒径15μm以上の比較的大粒径のセラミックス粉末を添加した射出成形用坏土を用いて多孔質セラミックスを製造する場合において、焼成後に得られる多孔質セラミックスにおけるクラックの要因は、射出成形工程における射出成形用坏土の流動性不良に基づく、射出成形用坏土の充填ムラ、セラミックス粒子の部分的な凝集にあると考えられた。そこで、本発明者は、射出成形用坏土の流動性を良好にするべく鋭意研究を重ねたところ、射出成形用坏土を動的レオロジーで定量的に評価して、射出成形用坏土についての特定条件下で求めた降伏応力(セラミックス粒子と樹脂等の有機質バインダのネットワークが崩壊する応力)x(Pa)と前記降伏応力を求める過程において前記降伏応力と同じ値のせん断応力が前記射出成形用坏土に加わった時点のノーマルフォース(法線応力)y(N)で示される関係式x/yの値を制御することによって、射出成形工程における流動性不良を改善することができ、その結果、最終的に焼成後に得られる多孔質セラミックスにおけるクラック発生率が著しく低下して歩留まりが上昇することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明によれば、第1の視点において、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と有機質バインダを少なくとも混合してなり、加熱により成形可能な常温で固体のセラミックス複合物であって、レオメータで評価した前記セラミックス複合物の60〜90℃の温度範囲内のいずれかの温度における降伏応力をx(Pa)、前記降伏応力を求める過程において前記降伏応力と同じ値のせん断応力が前記セラミックス複合物に加わった時点のノーマルフォースをy(N)としたときに、x/y≦40(m−2)の関係である、多孔質セラミックス製造用のセラミックス複合物により、上記目的の一つを達成することができる。
【0013】
本発明によれば、第2の視点において、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と、重合体バインダと、前記重合体バインダ以外の射出成形用ワックスを少なくとも混合してなり、加熱により射出成形可能で添加水を含有しない常温で固体の非水系セラミックス複合物であって、レオメータで評価した前記セラミックス複合物の60〜90℃の温度範囲内のいずれかの温度における降伏応力をx(Pa)、前記降伏応力を求める過程において前記降伏応力と同じ値のせん断応力が前記セラミックス複合物に加わった時点のノーマルフォースをy(N)としたときに、x/y≦40(m−2)の関係である、多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料により、上記目的の一つを達成することができる。本発明の射出成形用材料では、次のようにすることができる。
【0014】
前記非水系セラミックス複合物は、前記セラミックス粉末と、前記重合体バインダと、前記射出成形用ワックスと、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の中から選択される1種又は2種以上の有機官能基を持つカップリング剤を少なくとも混合してなるものにできる。前記非水系セラミックス複合物は、x/y≦40(m−2)の関係になるまでの充分な時間で、前記セラミックス粉末と、前記重合体バインダと、前記射出成形用ワックスを少なくとも含む原料を混練して得たものにできる。前記カップリング剤の添加量は、前記セラミックス粉末の総重量に対して、0.1〜3重量%にできる。前記重合体バインダは、ポリエチレングリコール系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、エチレンビニルアセテート系、ポリスチレン系の中から選択される1種又は2種以上にできる。前記セラミックス粉末と前記重合体バインダと前記射出成形用ワックスとの重量比は、60〜80:10〜20:10〜20にできる。
【0015】
〈降伏応力x(Pa)を上記特定のノーマルフォースy(N)で割っている理由〉
上記本発明において、降伏応力x(Pa)を上記特定のノーマルフォースy(N)で割っている理由を説明すると以下のとおりである。上記セラミックス複合物を動的レオロジーで定量的に評価する場合、降伏応力のみで評価することも考えられる。降伏応力は、測定対象に対して、連続的に大きくなるせん断応力をレオメータで加えてゆき、加えたせん断応力に対応するひずみをレオメータで検出して、加えたせん断応力とこのせん断応力に対応するひずみ(検出したひずみ)の関係(せん断応力−ひずみ曲線)を得ることによって、求めることができる。即ち、通常の場合は、得られたせん断応力−ひずみ曲線における屈曲点(ひずみの変曲点)から降伏応力を求めることができる。
【0016】
降伏応力を求める過程においては、上述のように測定対象に対してせん断応力を与えるが、測定対象にせん断応力を与えるとせん断方向に対して垂直な方向に応力が発生することがあり、発生したこの応力(せん断方向に対して垂直な方向に発生する応力)がノーマルフォース(法線応力)である。降伏応力を求める過程におけるノーマルフォースは、降伏応力の値に影響を与えるため、可能な限り小さいことが理想的であると考えられており、また、ノーマルフォースが発生する場合には、降伏応力を求める過程において測定対象が異なっても(求めようとする測定対象の降伏応力が異なっても)測定対象ごとに変動しないことが理想的であると考えられる。そのため、ノーマルフォースが発生する場合には、ノーマルフォースの値がなるべく小さい特定の値(例えば、5N)になった時に降伏応力を求める工程を開始することにより、降伏応力を求める過程におけるノーマルフォースの値をなるべく小さい一定の値にしようとしていた。
【0017】
しかし、上記セラミックス複合物のように滑り性の高い材料が降伏応力の測定対象である場合には、ノーマルフォースの値がなるべく小さい特定の値(例えば、5N)になった時に降伏応力を求める工程を開始しても、開始後においてノーマルフォースの値が変動してしまうことが判明した。
【0018】
また、ノーマルフォースの値がなるべく小さい特定の値(例えば、5N)になった時に降伏応力を求める工程を開始して、種々の互いに異なるセラミックス複合物の降伏応力を求めたところ、それぞれ異なる降伏応力が求まったが、求めた降伏応力に対応するノーマルフォース(即ち、降伏応力を求める過程において、降伏応力と同じ値のせん断応力がセラミックス複合物に加わった時点のノーマルフォース)の値もそれぞれ異なる、ということが判明した。より詳細には、比較的大きい値の降伏応力が求まった測定対象(セラミックス複合物)は、ノーマルフォース(前記降伏応力と同じ値のせん断応力が測定対象に加わった時点のノーマルフォース)の値も大きく、比較的小さい値の降伏応力が求まった測定対象は、ノーマルフォース(前記降伏応力と同じ値のせん断応力が測定対象に加わった時点のノーマルフォース)の値も小さいという傾向がある、ということが判明した。
【0019】
したがって、「せん断応力−ひずみ曲線における屈曲点(ひずみの変曲点)から求めた降伏応力」だけで単純に評価するのではなく、前記降伏応力を、前記求めた降伏応力に対応するノーマルフォース、即ち、「前記降伏応力を求める過程において降伏応力と同じ値のせん断応力が前記セラミックス複合物に加わった時点のノーマルフォース」で割ることにより、ノーマルフォースの値の相違に基づく降伏応力の値への影響をなるべく緩和することとしているのである。
【0020】
本発明によれば、第3の視点において、多孔質セラミックス製造用の成形用材料を成形する成形方法であって、前記成形用材料として、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と有機質バインダを少なくとも含む原料を混合してなる成形用材料を用いる成形方法において、レオメータを用いて60〜90℃の温度範囲内のいずれかの温度における成形用材料の降伏応力及び前記降伏応力を求める過程において前記降伏応力と同じ値のせん断応力が前記成形用材料に加わった時点のノーマルフォースを求める成形用材料の評価工程を設けた、多孔質セラミックス製造用の成形用材料の成形方法により、上記目的の一つを達成することができる。本発明の成形方法では、次のようにすることができる。
【0021】
前記成形用材料の評価工程で求めた降伏応力をx(Pa)、前記ノーマルフォースをy(N)としたときに、x/y>40(m−2)である場合には、x/y>40(m−2)である成形用材料を充分な時間で混練して、又は、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の中から選択される1種又は2種以上の有機官能基を持つカップリング剤を、x/y>40(m−2)である成形用材料に添加して(必要であれば、前記カップリング剤を添加した成形用材料を充分な時間で混練して)、x/yの値を40(m−2)以下に制御することができる。
【0022】
本発明によれば、第4の視点において、本発明のセラミックス複合物又は本発明の射出成形用材料を成形して得られた成形体を焼成して多孔質セラミックスを得る焼成工程を有する多孔質セラミックスの製造方法により、上記目的の一つを達成することができる。
【0023】
本発明によれば、第5の視点において、本発明の成形方法によって得られた成形体を焼成して多孔質セラミックスを得る焼成工程を有する多孔質セラミックスの製造方法により、上記目的の一つを達成することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第1の視点における、多孔質セラミックス製造用のセラミックス複合物は、上記構成を有するものであり、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末(粒子)を含有するにもかかわらず、成形体を得るための成形工程において必要とされる流動性を得ることができると共に、成形後の成形体に必要とされる強度を得ることができる。本発明のセラミックス複合物を用いて成形された成形体は、脱脂時及び焼成時にクラックが発生しないか極めて発生しにくい。したがって、本発明のセラミックス複合物によれば、クラックのない多孔質セラミックスを高歩留まりで製造することができる。
【0025】
本発明の第2の視点における、多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料は、上記構成を有するものであり、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末(粒子)を含有するにもかかわらず、射出成形体を得るための射出成形工程において必要とされる流動性を得ることができると共に、成形後の射出成形体に必要とされる強度を得ることができる。本発明の射出成形用材料を用いて射出成形された射出成形体は、脱脂時及び焼成時にクラックが発生しないか極めて発生しにくい。したがって、本発明の射出成形用材料によれば、クラックのない多孔質セラミックスを高歩留まりで製造することができる。
【0026】
本発明の第3の視点における、多孔質セラミックス製造用の成形用材料の成形方法は、上記構成を有するものであり、成形用材料について、レオメータを用いて求めた60〜90℃の温度範囲内のいずれかの温度における降伏応力及び前記降伏応力を求める過程において前記降伏応力と同じ値のせん断応力が前記成形用材料に加わった時点のノーマルフォースを知ることができるので、前記降伏応力をx(Pa)、前記ノーマルフォースをy(N)としたときに、x/y(m−2)の値を知ることができる。そのため、前記x/y(m−2)の値を求めた成形用材料は、成形工程において必要とされる流動性を有するか否かについて、また、成形後の成形体に必要とされる強度を有するか否かについて、さらには、脱脂時及び焼成時にクラックが発生しやすいか否かについて判断することができる。
【0027】
即ち、前記x/yの値が40(m−2)以下の成形用材料は、成形工程において必要とされる流動性を有すると共に成形後の成形体に必要とされる強度を有すると判断することができ、前記x/yの値が40(m−2)以下の成形用材料を用いて成形された成形体は、脱脂時及び焼成時にクラックが発生しないか極めて発生しにくいと判断することができる。
【0028】
一方、前記x/yの値が40(m−2)を超える成形用材料は、成形工程において必要とされる流動性を有さないと共に成形後の成形体に必要とされる強度を有さないと判断することができ、前記x/yの値が40(m−2)を超える成形用材料を用いて成形された成形体は、脱脂時及び焼成時にクラックが極めて発生しやすいと判断することができる。したがって、前記x/yの値が40(m−2)を超える成形用材料の使用を中止することによって、クラックが多発し歩留まりが低い多孔質セラミックスの製造を回避することができる。
【0029】
また、前記x/yの値が40(m−2)を超える場合には、(a)成形用材料の原料の種類あるいは配合比を変更して、新たな成形用材料を製造して、本発明の成形用材料の成形方法における成形用材料の評価工程で再評価する(前記降伏応力及び前記ノーマルフォースを求める)か、(b)前記x/yの値が40(m−2)を超える成形用材料を充分な時間で混練するか、(c)メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の中から選択される1種又は2種以上の有機官能基を持つカップリング剤を前記成形用材料に添加して(必要であれば、前記カップリング剤を添加した成形用材料を充分な時間で混練して)、前記x/yの値を40(m−2)以下に制御することができる。したがって、このようにして前記x/yの値を40(m−2)以下に制御した成形用材料に変更することによって、前記成形用材料を良好に成形して、脱脂時及び焼成時にクラックが発生しにくく歩留まりが高い成形体を成形すること(特に、射出成形すること)が可能になるので、最終的にクラックのない多孔質セラミックスを高歩留まりで製造することができる。
【0030】
本発明の第4〜5の視点における、多孔質セラミックスの製造方法は、それぞれ上記構成を有するものであり、クラックのない多孔質セラミックスを高歩留まりで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明の実施例で得られた射出成形体を厚さ方向に見た場合の形状及び寸法を示す図である。
【図2】図2は、本発明の実施例1〜3及び比較例1〜4で得られた各射出成形用材料についての降伏応力と、前記降伏応力を求める過程において前記降伏応力と同じ値のせん断応力が前記射出成形用材料に加わった時点のノーマルフォースとの関係を示すグラフであり、このグラフのX軸はノーマルフォース(N)でありY軸は降伏応力(Pa)である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[多孔質セラミックス製造用のセラミックス複合物及び射出成形用材料]
本発明の多孔質セラミックス製造用のセラミックス複合物は、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と有機質バインダを少なくとも混合してなり、加熱により成形可能な常温で固体のセラミックス複合物であることを前提としている。ここで、セラミックス複合物が固体であるか否かを判断する温度は、具体的には、50℃とする。この温度において液状体ないし半固体であるため成形体として一定の形状を保つことができない場合には、本発明のセラミックス複合物に該当しない。
【0033】
本発明の多孔質セラミックス製造用のセラミックス複合物を得るための出発原料としての平均粒径15μm以上のセラミックス粉末としては、後述のセラミックス粉末を用いることができ、後述のセラミックス粉末の中では、好ましくは、アルミナ、ジルコニア、マグネシア及びムライトのうちの少なくとも1種を用いる。また、本発明の多孔質セラミックス製造用のセラミックス複合物を得るための出発原料としての有機質バインダとしては、後述の重合体バインダと、前記重合体バインダ以外の後述の射出成形用ワックスを用いることができ、これら以外の有機質バインダとしては、好ましくは、ポリビニルアルコール、グリセリン及びメチルセルロースのうちの少なくとも1種を用いる。さらに、本発明の多孔質セラミックス製造用のセラミックス複合物を得るための出発原料として、後述のカップリング剤を用いることができる。
【0034】
本発明の多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料は、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と、重合体バインダと、前記重合体バインダ以外の射出成形用ワックスを少なくとも混合してなり、加熱により射出成形可能で常温で固体の非水系セラミックス複合物であることを前提としている。ここで、射出成形用材料が固体であるか否かを判断する温度は、具体的には、50℃とする。この温度において液状体ないし半固体であるため射出成形体として一定の形状を保つことができない場合には、本発明の射出成形用材料に該当しない。
【0035】
本発明のセラミックス複合物及び射出成形用材料は、レオメータで評価した前記セラミックス複合物又は射出成形用材料の60〜90℃の温度範囲内のいずれかの温度(例えば、70℃)における降伏応力をx(Pa)、前記降伏応力を求める過程において前記降伏応力と同じ値のせん断応力が前記セラミックス複合物に加わった時点のノーマルフォースをy(N)としたときに、x/y≦40(m−2)の関係(好ましくはx/y≦39.8(m−2)の関係、より好ましくはx/y≦39.0(m−2)の関係)を満たすものである。x/y>40(m−2)の場合は、成形工程において必要とされる流動性を得ることができず、また、成形して得られた成形体は、脱脂時及び焼成時にクラックが発生しやすく、焼成後に得られる多孔質セラミックスにおけるクラック発生率が高くなり歩留まりが低下する。
【0036】
前記x/yの値は、好ましくは、10(m−2)よりも大きくする。前記x/yの値が10(m−2)よりも小さい場合には、成形後あるいは脱脂時に必要とされる成形体の強度が得られにくくなる傾向がある。前記降伏応力xは、好ましくは40〜100(Pa)、より好ましくは40〜90(Pa)、さらに好ましくは50〜90(Pa)である。また、前記ノーマルフォースyは、好ましくは1.0〜2.5(N)、より好ましくは1.2〜2.4(N)、さらに好ましくは1.4〜2.3(N)である。
【0037】
本発明のセラミックス複合物は、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と有機質バインダを少なくとも含む出発原料を混練して製造することが可能であり、前記出発原料の混練時間をより長くすることによって、前記x/yの値をより小さく制御することができる。また、本発明の射出成形用材料は、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と、重合体バインダと、前記重合体バインダ以外の射出成形用ワックスを少なくとも含む出発原料を混練して製造することが可能であり、前記出発原料の混練時間をより長くすることによって、前記x/yの値をより小さく制御することができる。前記x/yの値が40(m−2)以下になる程度の長さの混練時間で前記出発原料を混練することによって、本発明のセラミックス複合物又は本発明の射出成形用材料を得ることができる。
【0038】
また、本発明の射出成形用材料を製造するための前記出発原料に、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の中から選択される1種又は2種以上の有機官能基を持つカップリング剤を添加することによって、前記x/yの値をより小さく制御することができる。前記x/yの値を40(m−2)以下にするために充分な量の前記カップリング剤を前記出発原料に添加して混練することによって、本発明の射出成形用材料を得ることができる。
【0039】
前記降伏応力x及び前記ノーマルフォース(法線応力)yは、レオメータを用いて求めた60〜90℃の温度範囲内のいずれかの温度(例えば、70℃)における降伏応力x及び前記降伏応力xに対応するノーマルフォースy(即ち、前記降伏応力xを求める過程において前記降伏応力xと同じ値xのせん断応力が前記セラミックス複合物に加わった時点のノーマルフォースy)である。前記降伏応力xは、60〜90℃の温度範囲内のいずれかの温度にした測定対象(セラミックス複合物)に対して、連続的に大きくなるせん断応力をレオメータで加えてゆき、加えたせん断応力に対応するひずみをレオメータで検出して、加えたせん断応力とこのせん断応力に対応するひずみ(検出したひずみ)の関係(せん断応力−ひずみ曲線)を得ることによって、求めることができる。即ち、通常の場合は、得られたせん断応力−ひずみ曲線における屈曲点(ひずみの変曲点)から降伏応力xを求めることができる。
【0040】
また、前記降伏応力xを求める過程において前記降伏応力xと同じ値xのせん断応力が前記セラミックス複合物(測定対象)に加わった時点のノーマルフォースyは、前記降伏応力xを求める過程におけるせん断応力とひずみの関係、及び、前記降伏応力xを求める過程におけるノーマルフォースとひずみの関係から導き出すことができる。即ち、前記降伏応力xを求める過程におけるせん断応力とひずみの関係から「前記降伏応力xに対応するひずみの値」を求めることができ、前記降伏応力xを求める過程におけるノーマルフォースとひずみの関係から「前記降伏応力xに対応するひずみの値」に対応する「ノーマルフォースの値y」を求めることができる。この「ノーマルフォースの値y」は、「前記降伏応力xを求める過程において前記降伏応力xと同じ値xのせん断応力がセラミックス複合物(測定対象)に加わった時点のノーマルフォースy」である。
【0041】
また、本発明の射出成形用材料は、加熱により射出成形可能な常温で固体の射出成形用材料であり、通常は、添加水を含有していない。即ち、本発明の射出成形用材料は、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と、重合体バインダと、前記重合体バインダ以外の射出成形用ワックスと、場合によってはさらに、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の中から選択される1種又は2種以上の有機官能基を持つカップリング剤を混合し加熱し溶融し混練することにより、製造することが可能であり、水分を添加しないで製造することができる。但し、前記製造原料のいずれかが水分を含有する場合や、製造後の射出成形用材料(製造後の射出成形用材料におけるいずれかの成分)が水分を吸着ないし吸収する場合が考えられる。このような場合における本発明の多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料は、本発明の効果を損なわない範囲の量(射出成形用材料の全重量に対して10重量%以下、好ましくは5重量%以下)であれば水分の含有を許容することができる。
【0042】
本発明の射出成形用材料は、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と、重合体バインダと、前記重合体バインダ以外の射出成形用ワックスの混合物、あるいは、前記セラミックス粉末と、重合体バインダと、前記射出成形用ワックスと、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の中から選択される1種又は2種以上の有機官能基を持つカップリング剤の混合物を含有することができる。
【0043】
前記「混合物」としては、前記セラミックス粉末と、前記重合体バインダと、前記射出成形用ワックスと、前記カップリング剤の中のいずれの構成成分も他の構成成分と反応していない状態で含まれているものが該当するだけでなく、前記いずれかの構成成分の中の少なくとも1種と別の構成成分の中の少なくとも1種とが反応した状態で含まれているものも「混合物」に該当するものとする。さらには、前記いずれかの構成成分の中の少なくとも1種と別の構成成分の中の少なくとも1種とが反応した状態で含まれ、且つ、未反応の構成成分として存在するはずの前記構成成分の中の少なくとも1種が存在しないものも「混合物」に該当するものとする。例えば、前記重合体バインダと前記カップリング剤とが反応した状態で含まれており前記いずれか又は双方の構成成分が未反応の状態では含まれていないものも、「混合物」に該当するものとする。
【0044】
〈セラミックス粉末〉
セラミックス粉末としては、焼成により多孔質セラミックスを製造できる各種のセラミックス粉末(好ましくは、良好な焼結性を有し焼結可能なセラミックス粉末)を用いることができ、より好ましくは、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ムライト及びマグネシアの中から選択される1種又は2種以上にする。セラミックス粉末の平均粒径は、JIS規格(Z8825−1)の測定方法に基づいて、モルバーン(Malvern)社の粒度分布測定装置「Master Sizer 2000」を用いて測定される値である。
【0045】
本発明の射出成形用材料は、主として、気孔率20%以上の多孔質セラミックスの製造用の射出成形用材料なので、セラミックス粉末の平均粒径は15μm以上であり、好ましくは20μm以上(より好ましくは30〜50μm)にする。また、本発明の射出成形用材料によれば気孔率の最大値が50%程度までの多孔質セラミックスを製造することができ、この場合のセラミックス粉末の平均粒径は50μm程度である。本発明の射出成形用材料におけるセラミックス粉末の平均粒径は、上記範囲内において、製造しようとする多孔質セラミックスの気孔率に応じて適宜設定することができる。
【0046】
〈重合体バインダ〉
重合体バインダとしては、セラミックス製造用の射出成形用材料に用いられている重合体及び共重合体のうちの1種又は2種以上の混合物を用いることができるが、好ましくは、ポリエチレングリコール系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、エチレンビニルアセテート系及びポリスチレン系の中から選択される1種又は2種以上の混合物にする。重合体バインダの融点は、好ましくは50〜120℃(より好ましくは60〜90℃)である。
【0047】
ポリエチレングリコール系重合体としては、エチレンオキシドが単独で重合した構造を有する単独重合体(ポリエチレングリコール)と、エチレンオキシドとこれと共重合可能なモノマー(単量体)が重合した構造を有する共重合体がある。ポリエチレングリコール系重合体に属する好ましい重合体としては、ポリエチレングリコールがある。ポリエチレングリコールは、好ましくは分子量4000〜10000(より好ましくは4000〜9000、さらに好ましくは4000〜6000)の常温で固体(融点50〜70℃)のものを用いる。
【0048】
ポリエチレン系重合体としては、エチレンが単独で重合した構造を有する単独重合体(ポリエチレン)と、エチレンとこれと共重合可能なモノマーが重合した構造を有する共重合体がある。エチレンと共重合可能なモノマーとして好ましいものには、酢酸ビニル、α−オレフィンがある。ポリエチレン系重合体に属する重合体としては、密度0.910g/cm未満の超低密度ポリエチレン(VLDPE)、密度0.910g/cm以上0.930g/cm未満の低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)、密度0.930g/cm以上0.942g/cm未満の中密度ポリエチレン、密度0.942g/cm以上の高密度ポリエチレン(HDPE)等の各種ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(エチレンビニルアセテート)等がある。
【0049】
上記の各種ポリエチレンとしては、分子量10000以上(さらには分子量30000以上)の常温で固体のものがある。また、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体であるエチレンビニルアセテートとしては、分子量10000以上(さらには分子量30000以上)の常温で固体のものがある。
【0050】
ポリプロピレン系重合体としては、プロピレンが単独で重合した構造を有する単独重合体(ポリプロピレン)と、プロピレンとこれと共重合可能なモノマーが重合した構造を有する共重合体がある。ポリプロピレン系重合体に属する重合体としては、ポリプロピレンがある。ポリプロピレンとしては、分子量10000以上(さらには分子量30000以上)の常温で固体のものがある。
【0051】
エチレンビニルアセテート系重合体としては、エチレンビニルアセテートと、エチレンビニルアセテートの一部を他の原子や原子団に置換した構造を有する化合物がある。エチレンビニルアセテート系重合体に属する重合体としては、エチレンビニルアセテートがある。
【0052】
ポリスチレン系重合体としては、スチレン系モノマー(例えば、スチレン)が単独で重合した構造を有する単独重合体(例えば、ポリスチレン)と、スチレン系モノマーとこれと共重合可能なモノマーが重合した構造を有する共重合体がある。ポリスチレン系重合体に属する重合体としては、ポリスチレンがある。ポリスチレンとしては、分子量10000以上(さらには分子量30000以上)の常温で固体のものがある。
【0053】
〈射出成形用ワックス〉
本発明における射出成形用ワックスとしては、離型性とセラミックス粉末の粒子間滑りを良好にすることができるワックスを用いることができる。ワックスとしては、常温で固体であり加熱により低粘度の液状体となる有機物ないしその混合物がある。このようなワックスの種類には、天然ワックス、合成ワックス及び加工・変性ワックスがある。
【0054】
天然ワックスには、動物由来のワックス、植物由来のワックス、石油由来のワックス及び鉱物由来のワックスがある。動物由来のワックスとしては、蜜蝋、鯨蝋、セラック蝋、ウールワックス等がある。植物由来のワックスとしては、カルナバ蝋、木蝋、米糠蝋(ライスワックス)、キャンデリラワックス等がある。石油由来のワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロワックス(マイクロクリスタリンワックス)等がある。鉱物由来のワックスとしては、モンタンワックス、オゾケライト等がある。
【0055】
合成ワックスには、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス(分子量1000〜7000程度、融点100〜118℃程度)、油脂系合成ワックス(エステル、ケトン類、アミド)、水素化ワックス等がある。加工・変性ワックスには、酸化ワックス、配合ワックス、変性モンタンワックス等がある。
【0056】
ワックスとしては、前記ポリエチレンワックスのように重合体のものがあるが、バインダ重合体としてポリエチレン以外のもの(例えば、ポリエチレングリコール)を用いた場合には、前記ポリエチレンワックスは、「射出成形用ワックス」として用いることができる。また、バインダ重合体としてポリエチレンを用いた場合でも、相違するものである場合(例えば、分子量が相違する場合)には、前記ポリエチレンワックスは、「射出成形用ワックス」として用いることができるものとする。
【0057】
本発明における射出成形用ワックスとしては、好ましくは、パラフィンワックス、マイクロワックス(マイクロクリスタリンワックス)を用いる。パラフィンワックスは、融点が大多数のものが40〜70℃程度であり、好ましくは融点60〜70℃のものを用いる。マイクロワックス(マイクロクリスタリンワックス)は、融点が60〜90℃程度であり、好ましくは融点70℃程度(65〜75℃)のものを用いる。
【0058】
〈カップリング剤〉
本発明におけるカップリング剤は、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の中から選択される1種又は2種以上の有機官能基を持つ。これらの有機官能基は、「炭素原子間の二重結合」又は「2つの炭素原子に直接結合する1つの酸素原子」を有しており、重合体バインダとの接合性が良好であるから、射出成形工程において加熱され射出流動の応力が加わった場合に、セラミックス粒子と分離しやすくなり(セラミックス粒子と重合体バインダの乖離性が強くなると推測され)、その結果として、見かけ上の流動性が向上するものと考えられる。即ち、前記特定のカップリング剤の添加により、レオロジーの降伏応力が小さくなり、流動性が向上すると考えられる。また、前記特定のカップリング剤は、整列効果も有するので、セラミックス粒子と有機物(重合体バインダ及び射出成形用ワックス)間のネットワークを整列して、降伏応力が小さくなっているとも考えられる。
【0059】
本発明におけるカップリング剤は、好ましくは、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤等の各種のカップリング剤を用いることができる。また、用いるセラミックス粉末の種類に応じて、適宜選択することができる。例えば、シリカ粉末から成るシリカ純度の高い多孔質セラミックスを製造する場合には、好ましくは、シラン系カップリング剤を用いる。
【0060】
官能基としてメタクリル基を持つシラン系カップリング剤としては、例えば、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6030)、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6033)及び3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6036)がある。
【0061】
官能基としてエポキシ基を持つシラン系カップリング剤としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6040)、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6044)、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6041)、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6042)、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6043)及びジエトキシ(3−グリシジルオキシプロピル)メチルシラン(東京化成工業株式会社のD2632)がある。
【0062】
官能基としてビニル基を持つシラン系カップリング剤としては、例えば、ビニルトリアセトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6075)、ビニルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6300)、ビニルトリエトキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6519)及びビニルトリイソプロポキシシラン(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6550)がある。
【0063】
〈他の構成成分〉
本発明の多孔質セラミックス製造用のセラミックス複合物は、成形用材料に添加される各種の有機質添加剤(有機化合物)を、本発明の効果が損なわれない範囲の添加量で含有することができる。また、本発明の多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料は、上記構成成分の他に、射出成形用材料に添加される各種の有機質添加剤(有機化合物)を、本発明の効果が損なわれない範囲の添加量で含有することができる。このような添加剤としては、例えば、滑り剤(例えば、ステアリン酸、シリコーンオイル)、可塑剤(フタル酸エステル、フタル酸ジオクチル)等がある。
【0064】
〈原料の混合比〉
本発明の多孔質セラミックス製造用のセラミックス複合物又は射出成形用材料において、前記カップリング剤を添加する場合の添加量は、好ましくは、前記セラミックス粉末の総重量に対して、0.1〜3重量%(より好ましくは0.1〜1.5重量%、さらに好ましくは0.1〜1.0重量%)である。即ち、前記セラミックス粉末100重量部に対して、前記カップリング剤を好ましくは0.1〜3重量部(より好ましくは0.1〜1.5重量部、さらに好ましくは0.1〜1.0重量部)の割合(重量比)で添加する。
【0065】
また、本発明の多孔質セラミックス製造用のセラミックス複合物又は射出成形用材料を製造する場合において、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と、重合体バインダと、前記重合体バインダ以外の射出成形用ワックスを出発原料として混合する場合の好ましい重量比は、前記セラミックス粉末60〜85重量部(より好ましくは70〜85重量部)、重合体バインダ10〜20重量部(より好ましくは10〜15重量部)、前記重合体バインダ以外の射出成形用ワックス10〜20重量部(より好ましくは10〜15重量部)であるようにする。前記セラミックス粉末60〜85重量部(より好ましくは70〜85重量部)、重合体バインダ10〜20重量部(より好ましくは10〜15重量部)、前記重合体バインダ以外の射出成形用ワックス10〜20重量部(より好ましくは10〜15重量部)であり、且つ、これらの原料の合計の総重量が100重量部であるようにすることは、さらに好ましい。
【0066】
〈使用方法〉
本発明の多孔質セラミックス製造用のセラミックス複合物は、成形可能な程度の流動性を示す温度に加熱して成形用材料として使用することができる。また、本発明の多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料は、射出成形可能な程度の流動性を示す温度に加熱して射出成形用材料として使用することができる。本発明の射出成形用材料の射出成形時の温度は、構成成分に応じて射出成形可能な温度に適宜設定することができる。本発明の射出成形用材料は、60〜100℃(より好ましくは65〜95℃、さらに好ましくは65〜85℃)の範囲で射出成形可能になることが好ましく、このようになるように構成成分を適宜選択することができる。
【0067】
〈製造方法〉
本発明の多孔質セラミックス製造用のセラミックス複合物は、出発原料(平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と、有機質バインダと、場合によってはさらに、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の中から選択される1種又は2種以上の有機官能基を持つカップリング剤)を混合して(好ましくは、加熱し混練して)、製造することができる。また、本発明の射出成形用材料は、出発原料(平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と、重合体バインダと、前記重合体バインダ以外の射出成形用ワックスと、場合によってはさらに、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の中から選択される1種又は2種以上の有機官能基を持つカップリング剤)を混合して(好ましくは、加熱し混練して)、製造することができる。前記出発原料は、全ての原料を同時に混合し混練することができるが、必要であれば、一部の原料だけを先に混合し混練し、得られた混練物と残りの原料を混合し混練することもできる。原料を加熱し混練して製造する場合の温度は、用いる原料に応じて混練可能な温度に適宜設定することができる。混練する時間は、用いる原料が充分に均一に混合する程度の時間にすることができる。
【0068】
〈常温における形態〉
本発明の多孔質セラミックス製造用のセラミックス複合物の常温における形態は、成形用材料として使用しやすい形態にする。また、本発明の射出成形用材料の常温における形態は、射出成形用材料として使用しやすい形態にする。例えば、寸法10mm以下の粒状体(ペレット)の集合体にすることができる。粒状体の形状は、円柱状、球状、立方体、直方体、断面が五角形以上の多角柱状体、略ラグビーボール状等の任意の形状にすることができる。典型的なものの一例としては、直径5mm、長さ5〜10mmの円柱形状がある。
【0069】
[多孔質セラミックス製造用の成形用材料の成形方法]
本発明の多孔質セラミックス製造用の成形用材料の成形方法は、多孔質セラミックス製造用の成形用材料を成形する成形方法であって(好ましくは、多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料を射出成形する射出成形方法であって)、前記成形用材料(好ましくは、前記射出成形用材料)として、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と有機質バインダ(好ましくは、重合体バインダと、前記重合体バインダ以外の射出成形用ワックス)を少なくとも含む原料を混合してなる成形用材料(好ましくは、射出成形用材料)を用いる成形方法(好ましくは、射出成形方法)において、レオメータを用いて60〜90℃の温度範囲内のいずれかの温度における成形用材料(好ましくは、射出成形用材料)の降伏応力及び前記降伏応力を求める過程において前記降伏応力と同じ値のせん断応力が前記成形用材料(又は前記射出成形用材料)に加わった時点のノーマルフォースを求める成形用材料の評価工程を設けている。
【0070】
成形用材料の評価工程で用いるレオメータとしては、降伏応力及び前記降伏応力を求める過程において前記降伏応力と同じ値のせん断応力が成形用材料に加わった時点のノーマルフォース(法線応力)を求めることができるもので良いが、好ましくは、ストレススウィープ(stress sweep)評価が可能なストレススウィープの測定モードを有するレオメータを用いる。ストレススウィープの測定モードを有するレオメータの場合、60〜90℃の温度範囲内のいずれかの温度にした測定対象(成形用材料)に対して、連続的に大きくなるせん断応力をレオメータで加えてゆき、加えたせん断応力に対応するひずみをレオメータで検出して、加えたせん断応力とこのせん断応力に対応するひずみ(検出したひずみ)の関係(せん断応力−ひずみ曲線)から降伏応力を求めることができる。即ち、通常の場合は、得られたせん断応力−ひずみ曲線における屈曲点(ひずみの変曲点)から降伏応力を求めることができる。レオメータとしては、HAAKE製 MARSIIのように、降伏応力及び前記降伏応力を求める過程において前記降伏応力と同じ値のせん断応力が成形用材料に加わった時点のノーマルフォースを自動的に求めることができるものが市販されており、このようなレオメータを用いることができる。前記成形用材料の評価工程は、好ましくは、前記成形用材料を成形する成形工程よりも前に設ける。
【0071】
前記成形用材料の評価工程で求めた降伏応力をx(Pa)、前記ノーマルフォースをy(N)としたときに、x/y>40(m−2)である場合には、x/y>40(m−2)である成形用材料を混練してx/yの値を40(m−2)以下に制御する、x/yの値の制御工程を設けることができる。x/yの値の制御工程は、前記成形用材料を成形する成形工程よりも前に設けることができる。x/yの値の制御工程としては、x/yの値が40(m−2)を超える成形用材料を加熱、混練してx/yの値を40(m−2)以下に制御する、x/yの値の制御工程、あるいは、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の中から選択される1種又は2種以上の有機官能基を持つカップリング剤を、x/yの値が40(m−2)を超える成形用材料に添加して、加熱、混練して、x/yの値を40(m−2)以下に制御する、x/yの値の制御工程がある。
【0072】
[多孔質セラミックスの製造方法]
本発明の多孔質セラミックスの製造方法は、本発明の多孔質セラミックス製造用のセラミックス複合物を成形して得られた成形体、又は、本発明の多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料を射出成形して得られた射出成形体を焼成して多孔質セラミックスを得る焼成工程を有するものである。前記焼成工程の前には、本発明のセラミックス複合物を成形して成形体を得る成形工程、又は、本発明の射出成形用材料を射出成形して射出成形体を得る射出成形工程を有することができる。また、本発明の別の多孔質セラミックスの製造方法は、本発明の成形方法によって得られた成形体を焼成して多孔質セラミックスを得る焼成工程を有するものである。
【0073】
本発明の多孔質セラミックス製造用のセラミックス複合物を成形して得られた成形体、本発明の射出成形用材料を射出成形して射出成形体を得る射出成形工程で得られた射出成形体、及び、本発明の多孔質セラミックス製造用の成形用材料の成形方法によって得られた成形体は、それぞれ、焼成温度に昇温する前までに、通常は、前記成形体又は前記射出成形体に含まれている有機質の構成成分を除去する脱脂を行う。このような脱脂は、本発明の多孔質セラミックスの製造方法における焼成工程の一部として含まれるものとする。脱脂における脱脂条件は、例えば、150℃で50時間保持するという条件にすることができる。
【0074】
焼成工程における焼成温度及び雰囲気は、前記成形体又は前記射出成形体に含まれているセラミックス粉末(粒子)の種類及び粒径に応じて適宜設定することができる。焼成温度に到達するまでの昇温速度は、50℃/時間(1時間あたり50℃)にすることができ、焼成温度から常温に放熱するまでの降温速度は200℃/時間(1時間あたり200℃)にすることができる。
【実施例】
【0075】
[実施例1〜3]
平均粒径50μmのシリカ粉末と、重合体バインダであるポリエチレングリコール(平均分子量5000)と、パラフィンワックス(融点45℃)を、80:10:10の重量比になるように秤量した後に、これらを混合し、120℃で4時間、5時間及び6時間混練して実施例1〜3の射出成形用材料を得た。得られた射出成形用材料の降伏応力x(Pa)及びこれに対応するノーマルフォースy(N)、即ち、前記降伏応力を求める過程において前記降伏応力xと同じ値xのせん断応力が射出成形用材料(降伏応力の測定対象)に加わった時点のノーマルフォースy(N)は、レオメータであるHAAKE製 MARSII(レオロジー評価装置)でストレススウィープ評価を行って求めた。実施例1〜3の射出成形用材料の降伏応力x(Pa)の値と、前記降伏応力x(Pa)に対応するノーマルフォースy(N)の値を表1に示し、x/yの値を表2に示す。
【0076】
なお、使用したレオメータ(HAAKE製 MARSII)には、レオメータで設定ないし測定したデータを解析するためのデータ解析装置(データ解析用のソフトウエアをインストールしたコンピュータ)が電気的に接続しており、レオメータにおける設定及び測定したデータはデータ解析装置に送られ、降伏応力及びこれに対応するノーマルフォースを自動的に求めることができる。このデータ解析装置を備えたレオメータは、市販されている。使用したレオメータの概略を説明すれば次のとおりである。
【0077】
使用したレオメータでは、二枚の平坦な円板状のセンサープレートを備えたパラレルプレートセンサーを用いた。前記パラレルプレートセンサーは、前記二枚の円板状のセンサープレートが対向すると共に前記二枚の円板状のセンサープレートの一対の対向面が重力方向に対して垂直になるように配置されて使用される。即ち、前記二枚の円板状のセンサープレート(上側円板状センサープレートと下側円板状センサープレート)の間に、降伏応力の測定対象である射出成形用材料(70℃に加熱された流動体)を満たし、前記二枚の円板状のセンサープレートの一対の対向面が重力方向に対して垂直になるように設定して、降伏応力が測定された。なお、前記二枚の円板状のセンサープレートにおける一対の対向面(流動体である射出成形用材料との接触面)は、二面とも平坦面である。
【0078】
射出成形用材料の降伏応力は、前記上側円板状センサープレートと前記下側円板状センサープレートの間に満たした流動体化した射出成形用材料(降伏応力の測定対象)に対して、上側円板状センサープレートの中心を通り重力方向に平行な上側円板状センサープレートの中心軸の軸周りに、前記上側円板状センサープレートを回転させて、連続的に大きくなるせん断応力を加えてゆき、加えたせん断応力に対応するひずみを検出して、加えたせん断応力とこのせん断応力に対応するひずみ(検出したひずみ)の関係(せん断応力−ひずみ曲線)から求めることができる。使用したレオメータは、前記データ解析装置を備えているので、射出成形用材料の降伏応力を自動的に求めることができた。なお、使用したレオメータでは、パラレルプレートセンサーの径は35mmであり、パラレルプレートセンサーの二枚の円板状のセンサープレートのギャップを2mmに設定して、ストレススウィープ評価を行い、降伏応力及びこれに対応するノーマルフォースを求めた。レオメータ(HAAKE製 MARSII)による降伏応力及びこれに対応するノーマルフォースのより詳細な測定方法は、次のとおりである。
【0079】
〈降伏応力及びこれに対応するノーマルフォースの詳細な測定方法〉
(1)レオメータのエアーコンプレッサーの電源を入れる。
(2)レオメータの循環恒温槽の電源を入れる。
(3)レオメータ本体の電源を入れる。
(4)パーソナルコンピュータにインストールしてあるソフトウェア「Rheowin Job Manager」を立ち上げる。このコンピュータは、レオメータを制御することができるように、レオメータに電気的に接続している。
【0080】
(5)立ち上げた前記ソフトウェア「Rheowin Job Manager」のジョブ編集画面を開く。
(6)前記ジョブ編集画面において、センサーとして「パラレルプレート」を選択する。また、温度コントローラとして「MTMC」を選択する。これにより、循環恒温槽による温度制御が設定される。
(7)前記(6)で選択したパラレルプレートとして「直径35mmのパラレルプレート」を、レオメータ本体の測定プレートに取り付ける。このパラレルプレートは、直径35mmの上側円板状センサープレートと下側円板状センサープレートからなる。
(8)前記ジョブ編集画面において、「マニュアルコントロール」をクリックして、モニター画面を開く。
(9)前記モニター画面において、測定温度として「70℃」を入力して、「開始」をクリックする。これによって、測定部温度を70℃にするための温度制御が開始する。
(10)測定部温度が設定温度である70℃に達してから、前記測定部温度の安定化のために5分間待つ。
(11)前記モニター画面において、ゼロポイントの「自動」をクリックする。これにより、前記パラレルプレートの前記上側円板状センサープレートが下降して、前記パラレルプレートのギャップ(上側円板状センサープレートと下側円板状センサープレートの間の隙間)が0になる位置である「ゼロポイント」が自動で設定される。
(12)ギャップが0になったら,レオメータ本体の「リフト」のボタンを押して、レオメータ本体のリフトを上昇させる。これによって、前記パラレルプレートの上側円板状センサープレートも上昇する。
(13)前記モニター画面において、「閉じる」をクリックして、前記ジョブ編集画面に戻る。
【0081】
(14)前記ジョブ編集画面における「測定エレメント」から、測定しようとするエレメントである「ストレススウィープ」をドラッグ&ドロップで「編集画面」の領域に貼り付ける。これによって、ストレススウィープによる評価を行う旨の設定がなされる。
(15)「測定エレメント」のアイコンをダブルクリックして、測定条件である「ギャップ」として「2mm」、「測定開始するノーマルフォース」として「5N」、「スウィープする応力範囲」として「0〜10000Pa」を入力する。
(16)オーブンで70℃に加熱しておいた射出成形用材料(測定対象)を、プレート(前記パラレルプレートの下側円板状センサープレート)上に置き、ヘラで軽く混合して、ペースト状に安定するのを5分間待つ。
(17)レオメータ本体の「開始」のボタンを押す。これにより降伏応力の測定が自動的に開始される。詳細には、次のとおりである。
【0082】
(18)前記パラレルプレートの上側円板状センサープレートが回転せずに降下し、ペースト状の射出成形用材料(測定対象)を押しつぶしながらさらに降下し続け、ギャップが2mmになったら停止する。ペースト状の射出成形用材料(測定対象)は、塑性変形し流動するため、前記上側円板状センサープレートが停止してもノーマルフォース(垂直応力)は時間の経過とともに連続的に低下する。パラレルプレートがギャップ2mmの位置でかつ、ノーマルフォースが5N以下になったら、実質的な測定を開始し、パラレルプレートが往復回転(即ち、右回り→左回り→右回り→左回り→……)し始める。このときの周波数は、1Hzである。パラレルプレートの変位(ひずみ)に対するせん断応力(G'、G")とノーマルフォースを連続的に測定し、それぞれグラフにして記録する。ここで、2枚のグラフが作成される。即ち、パラレルプレートの変位(ひずみ)に対するせん断応力の記録(1枚目のグラフA)と、パラレルプレートの変位(ひずみ)に対するノーマルフォースの記録(2枚目のグラフB)である。
(19)測定終了後、前記パーソナルコンピュータにインストールしてあるソフトウェア「Rheowin Data Manager」を用いて、解析モード自動測定で、降伏応力を算出する。即ち、パラレルプレートの変位(ひずみ)に対するせん断応力の記録(1枚目のグラフA)より、降伏応力を求め、そのときのパラレルプレートの変位(ひずみ)を求める。降伏応力時のパラレルプレートの変位(ひずみ)におけるノーマルフォースの値を2枚目のグラフBより求める。
【0083】
その後、得られた各射出成形用材料を加熱して70℃の流動体にして射出成形して、各射出成形体を得た。得られた射出成形体は、厚さ3mmのスパイラル板状の射出成形体であり、この射出成形体を厚さ方向に見た場合の形状及び寸法を図1に示す。図1において、射出成形体であるスパイラル部の幅L1の長さは3mmであり、射出成形体であるスパイラル部の隙間(スパイラル形状の隙間)の幅L2の長さは1mmである。これらの射出成形体は、150℃で50時間の脱脂を行い、1200℃で24時間保持する焼成を行い、実施例1〜3の各多孔質セラミックスを得た。なお、焼成温度(1200℃)に到達するまでの昇温速度は50℃/時間、焼成温度(1200℃)から常温に放熱するまでの降温速度は200℃/時間にした。
【0084】
[比較例1〜4]
比較例1〜4として、混練時間を0.5時間、1時間、2時間及び3時間にする以外は、実施例1〜3と同様にして、比較例1〜4の多孔質セラミックスを製造した。比較例1〜4の多孔質セラミックスを製造するための比較例1〜4の射出成形用材料の降伏応力x(Pa)及びこれに対応するノーマルフォースy(N)は、実施例1〜3の射出成形用材料と同様にして求めた。比較例1〜4の射出成形用材料の降伏応力x(Pa)の値とこれに対応するノーマルフォースy(N)の値を表1に示し、x/yの値を表2に示す。
【0085】
〈評価方法〉
焼成後の評価は、実施例1〜3及び比較例1〜4のそれぞれにおいて焼成して得られた多孔質セラミックスのクラック発生率を求めて行った。その結果を表2に示す。表2の評価における「○」は「焼成して得られた多孔質セラミックスのクラック発生率が0〜10%」であることを示し、「×」は「焼成して得られた多孔質セラミックスのクラック発生率が30%以上」であることを示している。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
本発明の実施例1〜3及び比較例1〜4で得られた各射出成形用材料についての降伏応力と、これに対応するノーマルフォースとの関係を示すグラフを図2に示す。図2のグラフのX軸はノーマルフォース(N)でありY軸は降伏応力(Pa)である。
【0089】
[実施例4〜6]
カップリング剤をシリカ粉末(平均粒径50μm)に対して、2重量%外添加して、120℃で2時間混練する以外は、実施例1〜3と同様にして、実施例4〜6の各多孔質セラミックスを得た。射出成形用材料及びそれから得られた多孔質セラミックスは、実施例1〜3の場合と同様に評価した。評価結果を表3に示す。なお、実施例4〜6で用いたカップリング剤は、それぞれ、官能基がメタクリル基であるシランカップリング剤「3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン」(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6030)、官能基がエポキシ基であるシランカップリング剤「3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6040)、官能基がビニル基であるシランカップリング剤「ビニルトリメトキシシラン」(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6300)である。
【0090】
[比較例5]
カップリング剤として、官能基がアミノ基であるカップリング剤「3−アミノプロピルトリエトキシシラン」(東レ・ダウコーニング株式会社のZ−6011)を用いる以外は、実施例4〜6と同様にして、比較例5の多孔質セラミックスを製造した。射出成形用材料及びそれから得られた多孔質セラミックスは、実施例1〜3の場合と同様に評価した。評価結果を表3に示す。なお、表3には、カップリング剤を添加せず混練時間が実施例4〜6と同じ2時間である比較例3の評価結果も示す。
【0091】
【表3】

【0092】
前記カップリング剤を添加した実施例4〜6の場合、前記カップリング剤の有機官能基と重合体バインダの接合性が良くなり、セラミックス粒子と重合体バインダの乖離性が強くなると推測される。即ち、前記特定のカップリング剤の添加により、レオロジーの降伏応力が小さくなり、流動性が向上すると考えられる。また、前記特定のカップリング剤は、整列効果も有するので、セラミックス粒子と有機物(重合体バインダ及び射出成形用ワックス)間のネットワークを整列して、降伏応力が小さくなっているとも考えられる。レオロジー評価で求めた降伏応力は、射出成形時の流動性に関連しており、その値の制御により、目的とする射出成形体(さらにはそれを焼成して得られる多孔質セラミックス)に適した射出成形材料を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と有機質バインダを少なくとも混合してなり、加熱により成形可能な常温で固体のセラミックス複合物であって、
レオメータで評価した前記セラミックス複合物の60〜90℃の温度範囲内のいずれかの温度における降伏応力をx(Pa)、前記降伏応力を求める過程において前記降伏応力と同じ値のせん断応力が前記セラミックス複合物に加わった時点のノーマルフォースをy(N)としたときに、x/y≦40(m−2)の関係であることを特徴とする多孔質セラミックス製造用のセラミックス複合物。
【請求項2】
平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と、重合体バインダと、前記重合体バインダ以外の射出成形用ワックスを少なくとも混合してなり、加熱により射出成形可能で添加水を含有しない常温で固体の非水系セラミックス複合物であって、
レオメータで評価した前記セラミックス複合物の60〜90℃の温度範囲内のいずれかの温度における降伏応力をx(Pa)、前記降伏応力を求める過程において前記降伏応力と同じ値のせん断応力が前記セラミックス複合物に加わった時点のノーマルフォースをy(N)としたときに、x/y≦40(m−2)の関係であることを特徴とする多孔質セラミックス製造用の射出成形用材料。
【請求項3】
前記非水系セラミックス複合物は、前記セラミックス粉末と、前記重合体バインダと、前記射出成形用ワックスと、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の中から選択される1種又は2種以上の有機官能基を持つカップリング剤を少なくとも混合してなることを特徴とする請求項2に記載の射出成形用材料。
【請求項4】
前記非水系セラミックス複合物は、x/y≦40(m−2)の関係になるまでの充分な時間で、前記セラミックス粉末と、前記重合体バインダと、前記射出成形用ワックスを少なくとも含む原料を混練して得たものであることを特徴とする請求項2又は3に記載の射出成形用材料。
【請求項5】
前記カップリング剤の添加量は、前記セラミックス粉末の総重量に対して、0.1〜3重量%であることを特徴とする請求項3又は4に記載の射出成形用材料。
【請求項6】
前記重合体バインダは、ポリエチレングリコール系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、エチレンビニルアセテート系、ポリスチレン系の中から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか一に記載の射出成形用材料。
【請求項7】
前記セラミックス粉末と前記重合体バインダと前記射出成形用ワックスとの重量比は、60〜80:10〜20:10〜20であることを特徴とする請求項2〜6のいずれか一に記載の射出成形用材料。
【請求項8】
多孔質セラミックス製造用の成形用材料を成形する成形方法であって、前記成形用材料として、平均粒径15μm以上のセラミックス粉末と有機質バインダを少なくとも含む原料を混合してなる成形用材料を用いる成形方法において、
レオメータを用いて60〜90℃の温度範囲内のいずれかの温度における成形用材料の降伏応力及び前記降伏応力を求める過程において前記降伏応力と同じ値のせん断応力が前記成形用材料に加わった時点のノーマルフォースを求める成形用材料の評価工程を設けたことを特徴とする、多孔質セラミックス製造用の成形用材料の成形方法。
【請求項9】
前記成形用材料の評価工程で求めた降伏応力をx(Pa)、前記ノーマルフォースをy(N)としたときに、x/y>40(m−2)である場合には、x/y>40(m−2)である成形用材料を充分な時間で混練して、x/yの値を40(m−2)以下に制御することを特徴とする請求項8に記載の成形方法。
【請求項10】
前記成形用材料の評価工程で求めた降伏応力をx(Pa)、前記ノーマルフォースをy(N)としたときに、x/y>40(m−2)である場合には、メタクリル基、エポキシ基、ビニル基の中から選択される1種又は2種以上の有機官能基を持つカップリング剤を、x/y>40(m−2)である成形用材料に添加して、x/yの値を40(m−2)以下に制御することを特徴とする請求項8〜9のいずれか一に記載の成形方法。
【請求項11】
請求項1に記載のセラミックス複合物又は請求項2〜7のいずれか一に記載の射出成形用材料を成形して得られた成形体を焼成して多孔質セラミックスを得る焼成工程を有することを特徴とする多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項12】
請求項8〜10のいずれか一に記載の成形方法によって得られた成形体を焼成して多孔質セラミックスを得る焼成工程を有することを特徴とする多孔質セラミックスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−256077(P2011−256077A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132346(P2010−132346)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】