説明

多孔質セラミック体およびその製造方法

この発明は多孔質セラミック体の製造方法、および特に濾過器あるいはクロスフロー濾過の濾過膜に応用されたセラミック体に関係する。この発明に従えば、双峰のセラミック粉末混合物はグリーン体となるように成型される。次に、高温での焼成によって再結晶化され、そして細かい粒子は溶解し、大きな粒子の上に堆積することによって大きな粒子と結合する。その結果、決められた領域(2、3)に、ほとんど同じ粒子サイズおよび孔サイズを有する均質な構造の多孔質セラミック体が形成される。この孔は相互に連通し、開気孔を有する3次元の網目構造を形成する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は多孔質セラミック体の製造方法に関する。特に、濾過膜(filter membrane)および多孔質セラミック体、ならびに濾過器(filter)、特にいわゆるクロスフロー濾過器におけるそれの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
広範囲にわたる産業の領域、たとえば化学工学、食品技術などでは、液体物質の流れ(流体)は濾過されなければならない。或る程度まで濾過される物質のサイズに依存して、精密濾過(MF)、限外濾過(UF)およびナノ濾過(NF)の間で区別がなされる。濾過される粒子が小さければ小さいほど、濾過技術とそれに使用される濾過膜に課される要求は高くなる。
【0003】
MF、UFおよびNF濾過器の応用として、いわゆるクロスフロー濾過が、濾過される物質の流れが濾過器表面に平行に流れるという従来技術から知られている。クロスフロー濾過の圧力式分離プロセスにおいて、濾過される物質の流れは、濾過膜によって2つの出口流に分離される。つまり、精製された流れである、いわゆる濾過または浸透したものと、第2の流れである、いわゆる残渣の流れまたは濃縮水とに分離される。
【0004】
原料物質の流れまたは濾過膜への濾過液または浸透液の垂直な分水作用によって、クロスフロー濾過においては2つの速度が区別される。より正確には、濾過器表面に垂直な濾過速度と濾過器表面に平行なクロスフロー速度とに区別される。クロスフロー濾過においては、クロスフロー速度に対する濾過速度の最適な比率が特に重要である。クロスフロー速度は、それは濾過器の入口と出口での物質の流れの平均値であるが、よく知られた工業上の応用では1〜10m/秒の範囲で変動する。水でのテストでは、2.5バールのTMP(下記参照)で、0.1〜1.5μmの範囲の孔サイズを有するMFおよびUF膜に対して、約500〜2500リットル/mバール/時間(liters per m2 bar per hour)の流れを生じる。ある程度まで濾過器としての応用に依存し、50〜500リットル/mバール/時間(l per m2 bar per hour)の流れが通常確立される。
【0005】
クロスフロー速度の増加は、高いせん断速度を考慮すると、一般的には流れを増加させる。この結果、膜の表面上に流動層が形成されるため、物質の流れからの粒子のより効率的な除去が促進される。しかし、この点に関する不利な点は、増加する送液要求によってクロスフロー速度が増加することである。
【0006】
濾過速度は、濾過膜に与えられた圧力、いわゆる所与の濾過器表面その他同じ条件の前提の下でのTMP(trans-membrane pressure:越膜圧力)に直接依存する。TMPは、典型的には5バールだが、10バール以上で連続的に動作する膜の使用のまれな例が既にある。
【0007】
クロスフロー濾過を目的とする理想的な濾過膜は、所与の流体その他同じ条件の下で、リニアな流量/寿命曲線を示す。
【0008】
特別な応用として、説明したクロスフロー濾過器はまた、濾過器の出口を閉鎖することによって、いわゆる全量濾過器として使用される。
【0009】
クロスフロー濾過器におけるMFやUF膜として使用するセラミック膜が既に知られている。これらは、典型的にはその構成要素であるアルミニウム、シリコン、チタン、ジルコニウムの酸化物、あるいはそれらの混合物によって構成される。この点で、膜は、同じ酸化物、またはたとえば菫青石、炭化シリコンのような他のセラミックから製造される、いわゆる濾過器担体(filter carrier)上に配置される。
【0010】
酸化物セラミック膜あるいはいわゆる白色膜(white membrane)は、だんだん細かくなる粒径すなわち粒子サイズ(grain size)の多層膜で濾過器担体上に焼結される(sintered)。このようにして準備された酸化物セラミックの白色セラミック膜は、各層の中で、マイクロ、サブマイクロまたはナノレンジの非常に小さな粒子の連続的で幅の広い粒子サイズ分布を有する。これはまた、非常に広い粒子サイズ分布をもたらす。特に、焼結中に融体相の分級物(fraction of melt phase)によって部分的に封止される非常に狭い孔チャネル(pore channel)の非常に小さな多数の孔を形成する。その封止により、いわゆる行き止まりとなり、膜の部分での良好な濾過器特性を減殺する。特に、そのような膜を通過する流れが制限され、そのために2〜8m/秒の前述のクロスフロー速度がMFやUF濾過において2〜5バールTMPで得られるようにするため、送液に多くのエネルギが消費されるという状況を生じる。
【0011】
これらの問題を緩和しまたはなくすため、酸化物セラミックのいわゆる白色膜を非酸化物セラミックのいわゆる黒色膜(black membrane)、たとえばSiCに置き換える試みが既になされている。大きな孔を有するが、狭い孔サイズ分布(図2の左と下部分を参照)を有する濾過膜のためのSiC担体の製造方法が知られているからである。
【0012】
SiC濾過膜を備えたそれ相応の濾過器装置の製造方法が、WO03/024892に記載されている。この方法では、1〜475μmの粒子サイズを有する1次(primary)α‐SiC粒子、SiCの化合物ではないシリコンドナー(silicon donor)物質、1×10−5〜20μmの粒子サイズを有する有機粒子、および少なくとも1つの有機バインダがモールドされてグリーン体(green body:生素地)が形成され、その後乾燥され、そして有機バインダを炭素バインダに変換するために保護雰囲気のオーブンの中で熱分解される。その結果、炭素バインダは、溶融したシリコンドナーと反応して、細かいナノスケールのβ‐SiCを生成する。β‐SiCは、次に非常な高温で非常に細かいナノスケールのα‐SiC粒子に変換される。α‐SiC粒子は最終的に1次α‐SiC粒子の粒界で結合(link)を生み出す。この方法は、多くの出発物質と高い焼成温度のため非常に高い初期投資を必要とするが、また、適したシリコンドナー物質がほとんど入手できないという欠点がある。なぜなら、シリコンは、その粒子サイズが6μm以下で可燃性となるので、細かくするとき空気中に100g/mよりも多く含まれることを避けなければならないからである。さらに、この方法による濾過器担体の製造中に、濾過器担体の再結晶化のための通常の温度範囲では、熱分解中に形成された炭素化合物またはナノSiC粒子は十分に再結晶化しないということが既に知られている。その結果、孔空間に残留した細かな粒子の作用によって、形成されるセラミック体の強度とそれを流過する浸透力が損なわれ、実用的な濾過器担体を製造することはできない。
【0013】
SiCの1次粒子について示した1〜475μmの範囲は、さらに、MFやUF濾過のための膜の製造のためにはあまりにも粗すぎる。さらに、金属シリコンおよび炭素キャリアの説明した方法は、濾過膜の製造に適していない。なぜなら、この方法による原材料の十分な再結晶化には、膜のための均一に細かいα‐SiC粒子の選択配置に必要とされるよりも高温が要求され、それゆえ、膜層内で巨大な粒子成長が不可避であるからである。巨大な粒子成長の例を図7に示す。
【0014】
SiC膜の他の製造方法は、WO92/11925に記載されている。しかし、この方法では、いわゆるバインダ粒子が、結合されるSC粒子の焼結温度よりもかなり低い温度での焼結に使用される。これは、純粋なSiCには融点がないという単純な理由のためにできない。しかし、セラミック粒子の部分的な溶融は、まさに焼結に特有の特徴である。(SiCを焼結するために、少ない量の融体相を生成する、たとえばアルミニウム、ホウ素、炭素などのいわゆる焼結材の追加が必要とされる。ここでの目標は、20%オーダの収縮によってのみ実現でき、総合的にみて濾過器の目的にふさわしくない、密度の高い物質である。)
しかし、SiCは表面拡散またはガス輸送を介して高温で再結晶化する。すなわち、エネルギ的に好ましくない小さな粒子が溶解し、エネルギ的により好ましいポイント(そこでは特に2つの大きな粒子が接触する)で、体積を変えることなく物質が再び付着される。
【0015】
一般的に再結晶化した多孔質の100パーセントα‐Siの物質をRSiCと表し、SSiC(焼結材とともに焼結された、主に高密度のSiC物質)とは区別される。そして、それは酸化物あるいは窒化物に影響されたSiCまたは異なった性質の他のバインダ相を有するそのような種類のものである。
【0016】
しかし、WO92/11925によれば、化学的に異なったバインダ粒子の使用は、環境的な影響や腐食への抵抗力が弱められるという欠点がある。そのことは濾過器材料として使用するために不利な事実である。加えて、濾過器粒子とバインダ材料の化学的に異なるものは接着の品質と濾過器本体の強度についての問題を引き起こす。さらに、異なった材料の使用によって製造中の困難さが生じる。それは、不純物が濾過器本体の形成のために不所望の共晶溶融を引き起こすからである。さらに、この方法では、バインダ材料の焼結作用および濾過器本体におけるこの材料の溶融作用によって、孔チャネルを封止して濾過器本体に無効領域(dead area)を形成するビトリアス相(vitreous phase)が存在する。それは、濾過器の性能にネガティブな影響を与える。
【0017】
従来技術に関する両方の論文には、SiCの濾過膜は、一般的な記載項目の文脈の範囲内で他の可能性としてのみ明白に言及されている。たとえば1次粒子の粒子サイズ分布、再結晶化中の温度制御のようなキーとなるパラメータが特に重要である。これに対して、得られた濾過器の性能は明らかにされていない。
【発明の開示】
【0018】
それゆえに、この発明の目的は、多孔質セラミック体、特にクロスフロー濾過に使用するSiCの濾過膜を製作することである。このセラミック体は良好な強度、濾過器特性および環境への影響に対する良好な抵抗力を有する。加えて、このような多孔質セラミック体の製造は簡単で効率的であり、そのセラミック体は最大の可能な濾過器性能を有する長期間の運用寿命を有する。
【0019】
この目的は、請求項1の特徴を有する方法、請求項16の特徴を有する多孔質セラミック体、同様に請求項23の特徴を有する濾過器によって達成される。有利な実施例は従属請求項の主題である。
【0020】
この発明に従って、好ましくはSiCの多孔質セラミック体は、強くて均一で均質に分布した空隙率(porosity)と、連続的で3次元の孔の網目構造の中でほぼ等しいサイズの孔を有している。そのような多孔質セラミック体は、双峰の(bimodal)粒子サイズ分布を有するSiC粒子の粉末混合物を生成し、その粉末混合物を所望の形状にモールドすることによって、製造される。
【0021】
より詳細に説明すると、2つの粒子サイズクラスが本質的である。第1の粒子サイズクラスは、好ましくは決められた上下限の粒子サイズを有し、また第2の粒子サイズクラスは、好ましくは少なくとも決められた上限の粒子サイズを有する。明らかに、本質的な局面は、2つの粒子サイズクラスの間に或る混合ギャップが存在することである。後続の温度調節の間に、第2粒子サイズクラスの粒子に再結晶化が起こる。この粒子は、好ましくはそれ相応に小さなものが選択されるので、大きな粒子を利用する結晶化の間に消えてしまって、体積変化のないプロセスにおいて大きな粒子間に均一な孔が形成される。このようにして、非常に均質な多孔質セラミック体が形成され、そのセラミック体は、無効領域もなく、開気孔(open porosity)を有し、濾過器の目的のために理想的に適している。2つの粒子サイズクラスはそれぞれ、国際規格、粒子がF1200(3μm)までのDINISO8486−2と、粒子がJIS8000(1μm)までのJISR6001に従う非常に狭い粒子サイズ帯域(grain size band)で独立して使用される。このことと、小さい粒子サイズに対する大きい粒子サイズの比率が、狭い粒子サイズ帯域の場合には、非常に狭い孔および粒子サイズ分布が得られるように、最終的なセラミック体における粒子の平均粒子サイズおよび平均孔サイズを決める。しかし、大きい粒子サイズクラスおよび小さい粒子(これは再結晶化中に完全に消費されてしまう)の両方は、いくつかの粒子の分級物(grain fractions)からなり、ここでの重要な要素は、特に、大きな粒子サイズクラスの最も細かい粒子と小さい粒子サイズクラスの最も大きな粒子とのサイズ比率である。細かい粒子は、特に、広い粒子分布で、しかし明らかに決められた上限を有するいわゆるありふれた等級である。再結晶化の後、粒子の粒子サイズと孔サイズの両方が非常に狭くかつ決められた範囲で動く。さらに、再結晶化の効果は、最終的な多孔質セラミック体の粒子を丸い形状にすることであり、そのことが、濾過器の特性とそれ相応の濾過膜の運用寿命にポジティブな影響を与える。
【0022】
好ましくは、上で詳細に説明された双峰のセラミック体混合物の製造は、大きな初期平均粒子サイズを有するセラミック粉末(粗い粒子)と小さな第2平均粒子サイズのクラスのセラミック粉末(細かい粒子)の2つのバッチ(batches)を使用する。それらは、さらに決められた最大および/または最小の粒子サイズを有する。F1200(3μm)までの粒子に対するDINISO8486−2およびJIS8000(1μm)までの粒子に対するJISR6001を参照されたい。類似の狭い粒子帯域のより細かな粉末でさえ、異なった製造業者から入手される。たとえば、JIS9000(d50=0.75μm)、JIS10000(d50=0.60μm)、またはJIS20000(d50=0.40μm)である。規格に従って、上限(d)および下限(d94)は、平均粒子サイズd50に加えた粒子サイズとして規定される。粒子(粒子サイズクラス)のこれらの上限と下限の作用によって、特に最終的な多孔質セラミック体における粒子サイズおよび孔サイズが狭い範囲内に決められる。このようにして、均質で、均一に規定できる調整可能な孔サイズおよび粒子サイズを有する濾過膜を生成することができる。
【0023】
好ましくは、第1および第2セラミック粉末の間の、すなわち粗い粒子と細かい粒子の間のサイズ比率は6:1〜2:1の範囲であり、好ましくは4:1〜3:1である。この比率は、適した第2粒子の入手可能性のために、非常に細かい第1粒子については2:1に制限される。第1および第2粒子との間の混合比率は6:1〜1:1であり、好ましくは4:1〜2:1である。上述のように、粒子サイズ比率および/または混合比率によって、最終製品における粒子サイズの変化は、出発粒子サイズあるいは孔サイズに関係する粒子サイズに調整され得る。有利な組み合わせは、所望の孔サイズに依存し、焼成前の膜において最も高い、可能性のある充填率が得られるように選択されるべきである。小さすぎるあるいは大きすぎる細かい粒子の分級物が再結晶化後の強さを弱める。その理由は、小さすぎる細かい粒子が再結晶化のために利用されるためか、または多すぎる細かい粒子分級物が第1の大きなSiC粒子間での直接接触を妨げて大きな孔を有する高い空隙率になるためかのいずれかである。
【0024】
この方法の興味深い実施例では、多孔質セラミック体の数層は、この発明の方法に従って連続的に形成される。その結果、平均粒子サイズあるいは孔サイズの勾配(gradient)は層の中で調整される。このようにして、たとえば、粗い多孔質の基板、たとえば濾過器担体上に、孔の直径と粒子サイズを変化させた膜を生成することができる。
【0025】
この発明の方法では、濾過膜の製造のために、非酸化物セラミック、特にSiC(α‐SiC)を使用することにより、均一な、相互に連通した(interconnected)、3次元の孔構造を生成することができる。
【0026】
好ましくは、この発明の方法によるセラミック粉末混合物から、スラリ(slurry)または液状粘土(slip)を形成し、そしてたとえば鋳造法(casting)のような湿式形成法によってグリーン体ができる。乾燥工程の後、選択された粒子サイズの大きさに応じて決まる温度と熱処理時間によって、グリーン体は再結晶化される。たとえば3層の濾過膜の製造のためには、セラミック粉末は、第1層では6.5〜23μmの範囲の、第2層では1〜9μmの範囲の、第3層では0.5〜2μmの範囲の第1粒子の平均粒子サイズを有してもよい。一方、細かい粒子は、粗い粒子の分級物によって決まり、0.3〜2.0μmの範囲である。それ相応の層の粒子サイズが小さければ小さいほど、再結晶化のために、より低い温度が、またより短い熱処理時間が選択される。その指針は、第1層として働く層のための1950℃、90分間を、第2層のための1800℃、30分間を、第3層のための1750℃、30分間を見積もる。
【0027】
使用されるセラミック粒子の粒子サイズに或る程度まで依存し、好ましくはα‐SiC粒子について、正確な温度と時間期間は場合に応じて決められなければならない。最終の多孔質セラミック体における細かな第2粒子が完全に消失し、巨大な粒子成長(過焼成)が生じない、そのような正しい温度と時間期間が選択される。これら2つの制限の間で、図2および図3に示すように、膜層の粒子が可能な限り丸くなるように、温度と時間期間は選択されなければならない。
【0028】
この発明の方法では、正しい温度制御が与えられたとすると、多孔質セラミック体または濾過器、ここでは特に、ほぼ均一なサイズの孔と粒子からなる均質な構造を有するクロスフロー膜濾過器または膜を製作することができる。孔は互いに連通して3次元の網目構造となっており、セラミック粒子は再結晶化によって本質的に丸い形状をしている。
【0029】
この発明のセラミック体の利点は、再結晶中に融体相を生じず、そのために、セラミック体は本質的にビトリアス構造または融体相(それは、従来技術では、部分的な溶融のために焼結中に形成された)とはならないということである。この発明のセラミック体は、非酸化物セラミックのセラミック粒子、特にSiC(α‐SiC)がアモルファス状態ではなく、再結晶化により本質的に100%結晶化しているという事実により、さらに特徴づけられる。
【0030】
このようにして、決められた孔サイズおよび粒子サイズを有する多孔質セラミック体を生成することができる。この多孔質セラミック体は、均一で35%〜65%の空隙率の開気孔の網目構造、好ましくは50%の空隙率(光学顕微鏡写真からの見積もり)を有し、もっぱらα‐SiCが該当し、それは濾過膜として粗いSiCの多孔質担体にも応用される。
【0031】
この発明の更なる利点、特性および特徴は、次の実施例の詳細な説明から明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
この発明の方法によれば、直径25mm、長さ302mmのDINISOS466−2に従ったSiCの分級物F240の粗い粒子に基づくRSiC担体が、押し出し成形およびそれに続く高温の熱処理によって製造される。このRSiC担体には、30%のSiC粒子(75%F600と25%JIS9000)、グリーン体ための一時的なバインダとなる5%のポリビニルアルコール10%溶液および水65%から構成されるスラリの第1膜層が形成される。
【0033】
この層は、約1950℃で2時間乾燥させた後、焼成される。この第1膜層の上に、SiC担体の孔サイズを減少させる第2膜層が堆積される。より正確には、第2膜層は、粗い粒子としてF800からF1200、細かい粒子としてJIS9000、そして粗い粒子としてJIS6000からJIS9000、細かい粒子としてJIS20000の異なった粒子サイズ分布からなる。乾燥させた後、それ相応のモジュール(modules)が、アルゴン中で、60分間と30分間、1850℃、1800℃、1750℃で焼成され、SiC担体の上に約0.2mmの厚さの多孔質の再結晶化された膜を形成する。
【0034】
このようにして製造された濾過器エレメントでの、クロスフロー濾過器の試験結果を図1に示す。1バールより小さいという驚くべき低いTMPのもとで、水を使用した新しいモジュールのテストにおいて、この発明の濾過膜は、直径0.1〜0.8μmの異なった孔サイズを有する、決められた白色膜の標本と比較すると、何倍もの流量を有する。より高いTPMは、新しい濾過器モジュールの異常に高い透過性のために、従来のテスト装置では実施できない。水中に2%のパン酵母のスラリを含む第2の実験では、F1000粒子の膜ですら99.5%以上の溶剤(solution)を分離することができるということを示している。この発明によって製造される濾過器モジュールは、従来の濾過器エレメントの場合に可能であったよりも非常に優れた孔の構造を有する。
【0035】
図2a〜図2cに、この発明の膜の良好な化学抵抗力を示す。図は、比較テストにおいてより少ない重量ロスとより少ない腐食力(corrosive attack)を示す。
【0036】
膜の孔のサイズ分布および/または液状粘土の鋳物形状(casting behavior)を選択的に変化させるため、たとえば、第1粒子サイズクラスの最も小さい粒子と第2粒子サイズクラスの最も大きい粒子が再結晶化に必要とされる最小サイズ比率2:1(実施例では3:1)として、第1粒子サイズクラスを40%のF600(9μm)と30%のF1200(3μm)で、第2粒子サイズクラスを20%のJIS9000(1μm)と10%のJIS20000(0.4μm)で構成することができる。
【0037】
粗い多孔質のSiC担体上に、この発明に従って生成されたSiC濾過膜の他の実施例が図3から図6に示される。図3は、倍率240倍でSiC担体上の2重層のSiC膜の磨かれた断面を示す。SiC担体1上には、粒子サイズおよび孔サイズの狭い分布と同様に、非常に均質で均一であるSiC膜の2つの層2(F600)および3(F1200)が見られる。同じことが、図4のSiC担体10上の2重層膜(層20および30)に適用される。この場合も倍率240倍である。膜20は、粒子サイズ分布F600のSiC分級物の粗い粒子を用いて約1950℃で90分間焼成することによって生成される。膜30は、JIS6000から生成され、約1800℃で60分間焼成される。
【0038】
特に膜中におけるSiC粒子の丸い形状は、図5の走査型電子顕微鏡写真から明らかである。図5にはSiC担体100上のSiC膜200が示されている。
【0039】
図6は、焼成中の効果を表すために2重層の例を使用する。実証目的のため、SiC担体(1000)上の焼成前の第1層(2000)とより細かい第2層(3000)に、第2層にとって全く十分ではない熱処理が施される。その結果、第1層の第1SiC粒子にはまだ鋭いエッジがあり、空隙には第2粒子の分級物が含まれる。予期したように、この第1層は、より細かい粒子を含み、より高温を必要とする。
【0040】
図7はその右部に巨大な粒子成長を有する過焼成された第2層を示す。巨大粒子成長の特徴は、第1のSiC粒子を互いに結びつけることである。同時に、分離された不所望なほど大きな孔は、体積が変化することなく物質の再配列によって形成される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1はこの発明に従って製造された膜について、従来の膜と比較し、圧力(TMP)に対して流量をプロットしたグラフである。
【図2】図2aから図2cの3つのグラフは、それぞれ、97℃で、2%のHCl、5%のHNO、10%のNaOHにおいて調整した約45mmの長さの濾過器部分の顕著な化学抵抗力を示す。
【図3】図3は倍率240倍で、第1層では約9μm(F600)の平均粒子サイズを、第2層では約3μm(F1200)の平均粒子サイズを有する従来のSiC担体の正方形のチャネル(水路)のコーナにおける2層SiC膜の磨かれた(polished)断面を示す。
【図4】図4は図2と同じ第1層、および倍率240倍で約2μm(JIS6000)の第2層を有するSiC担体の正方形のチャネル(水路)の中央から2層SiC膜の磨かれた断面を示す。
【図5】図5はこの発明に従ったSiC担体上のSiC膜の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図6】図6はその構造において第2粒子の不所望な残留分を有する焼成中の2層SiC膜の磨かれた断面を示す。
【図7】図7は不所望な大きな孔と数個のSiC粒子の凝固物からなる巨大な粒子成長によって特徴づけられた、第2層が過焼成された2層SiC膜の磨かれた断面を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾過膜の多孔質セラミック体の製造方法であって、
(A)第1粒子サイズクラスの第1セラミック粉末を選択するステップ、
(B)第1粒子サイズクラスよりもかなり小さい第2粒子サイズクラスの第2セラミック粉末を選択するステップ、
(C)双峰の粒子サイズ分布を有する粉末を製造するために2つのセラミック粉末を混合し、粉末混合物からグリーン体を形成するステップ、および
(D)グリーン体の再結晶化により、第2粒子サイズの粒子は溶解し、第2セラミック粒子の材料が第1セラミック粒子に付着することにより、第1セラミック粒子が互いにしっかりと結びつくように、或る温度と時間期間、グリーン体を焼成して養生するステップを含む、濾過膜の製造方法。
【請求項2】
第1および/または第2セラミック粉末の粒子は決められた最大および/または最小の粒子サイズを有することを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
ステップ(C)において、セラミック粉末はスラリ内に存在し、成形は鋳造法によって行われることを特徴とする、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
ステップ(D)の前に、乾燥ステップがあることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
第1および第2セラミック粉末の混合比率は6:1〜1:1の範囲であり、好ましくは4:1〜2:1であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
第1セラミック粉末の最も小さい粒子の平均粒子サイズと第2セラミック粉末の最も大きい粒子の平均粒子サイズとのサイズ比率が6:1〜2:1の範囲であり、好ましくは3:1であることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
狭い粒子サイズ分布のバッチが第1および第2セラミック粒子のために使用されることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
決められた上限および下限の粒子サイズを有する粒子帯域あるいは粒子混合物は、第1セラミック粒子のためだけではなく、第2セラミック粒子のためにも使用され、第1セラミック粒子の最も細かい粒子の分級物と第2セラミック粒子の最も大きな分級物との間のサイズ比率が少なくとも2:1となるように使用されることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
セラミック体の層を横切って平均粒子サイズの勾配が作られるように、ステップ(A)から(D)は、特に平均粒子サイズを減少させる方向で異なる粒子サイズのセラミック粉末の層に関して繰り返されることを特徴とする、請求項1ないし8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
ステップ(C)において成型体の成形は、基板上、特に同じ材料の多孔質セラミック体の孔チャネルにおいて行われることを特徴とする、請求項1ないし9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
セラミック粒子は同じ型の非酸化物セラミックからなることを特徴とする、請求項1ないし10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
α‐SiC粒子は、避けがたい汚染は別にして、本質的にそれのみで第1および第2セラミック粉末の両方のセラミック粒子として使用されることを特徴とする、請求項1ないし11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
第1層では第1セラミック粉末の粒子サイズは6.5μm(FEPA800)〜23μm(FEPA360)の範囲であり、第2層では1.5μm(JIS7000)〜6.5μm(FEPAF800)の範囲であり、第3層では0.5μm(JIS10000)から2μm(JIS6000)である、ここで、好ましくは第1層の第2セラミック粉末としてJIS6000を、第2層としてJIS9000を、第3層としてJIS20000を使用し、またはそれぞれの場合に同等の粒子帯域を使用することを特徴とする、請求項1ないし12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
ステップ(D)における温度と焼成時間は、第2セラミック粉末のいかなる粒子も最終的なセラミック体の微細構造にもはやほとんど存在しなくなり、同時に粒子サイズは第1セラミック粉末の初期粒子サイズの領域に可能な限り近くに残るように選択され、その結果、巨大な粒子成長は避けられることを特徴とする、請求項1ないし13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
0.9μm〜17μmの範囲の粒子サイズが第1セラミック粉末として使用され、0.2μm〜3μmの範囲の粒子サイズが第2セラミック粉末として使用されることを特徴とする、請求項1ないし14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれかに記載の製造方法により製造された多孔質セラミック体は、互いに連通した、開口した孔およびセラミック粒子の本質的に均質な構造と、本質的に丸い形状のセラミック粒子および粒子サイズまたは孔サイズの狭い範囲内で少なくとも決められた範囲にあるセラミック体と孔の両方を有する。
【請求項17】
粒子サイズまたは孔サイズ分布の決められた狭い範囲は、粗い多孔質の支持基板上の層として存在し、または特に粗い多孔質孔の支持基板のチャネルに存在することを特徴とする、請求項16記載のセラミック体。
【請求項18】
セラミック体は本質的に完全に結晶の形態で存在することを特徴とする、請求項16または17記載のセラミック体。
【請求項19】
セラミック体には本質的に融体相がないことを特徴とする、請求項16ないし18のいずれかに記載のセラミック体。
【請求項20】
セラミック体は本質的に同じ型の非酸化物からなることを特徴とする、請求項16ないし19のいずれかに記載のセラミック体。
【請求項21】
避けがたい汚染は別にして、本体はα‐SiCのみを含むことを特徴とする、請求項16ないし20のいずれかに記載のセラミック体。
【請求項22】
特にクロスフロー濾過器における濾過膜として使用するために十分な強度を有することを特徴とする、請求項16ないし21のいずれかに記載のセラミック体。
【請求項23】
特にクロスフロー濾過器は、請求項16ないし22のいずれかに記載のセラミック体、特にSiC膜からなり、粗い多孔質の担体、特にSiCの担体上に形成され、好ましくは請求項1ないし15のいずれかに記載の製造方法によって製造されたものである。
【請求項24】
水を使用したテストにおいて、1バールTPMでの2重膜では流量は5m/m/バール/時間よりも大きく、好ましくは6m/m/バール/時間よりも大きく、特に8m/m/バール/時間であり、3層膜では流量は3m/m/バール/時間よりも大きく、好ましくは4m/m/バール/時間よりも大きく、特に6m/m/バール/時間(m3 per m2 per bar per hour)であることを特徴とする、請求項23記載の濾過器。
【請求項25】
濾過器は更に多孔質の酸化物セラミックを含み、特にナノ濾過のために使用されるとことを特徴とする、請求項23または24記載の濾過器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−526819(P2007−526819A)
【公表日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518149(P2006−518149)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007521
【国際公開番号】WO2005/005016
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(506010127)サント−ゴバイン・インドステイ・ケラミク・ロテンタルゲーエムベーハー (1)
【出願人】(506010138)
【Fターム(参考)】