説明

多孔質樹脂ビーズ

【課題】化学合成反応を効率よく行うことができる、即ち、生成する合成物質の収量及び純度の両方を高くすることができる合成用担体としての多孔質樹脂ビーズを提供すること。
【解決手段】スチレン−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体からなる多孔質樹脂ビーズであって、
当該多孔質樹脂ビーズの水酸基量(mmole/g)と架橋度(重量%)とが以下の関係式(1):
(水酸基量)×架橋度 < 2 (1)
を満足し、かつ、該水酸基量が0.01mmole/g以上でありかつ該架橋度が2重量%以上であり、
ここで、該架橋度が、当該多孔質樹脂ビーズを合成する際に添加した単量体の総重量に対するジビニルベンゼン系単量体の重量%を示す、
多孔質樹脂ビーズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体からなる多孔質樹脂ビーズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリスチレン系の多孔質樹脂ビーズとして、ヒドロキシスチレン−ポリエン共重合体(特許文献1および2参照)や、アルコキシスチレン類と芳香族ポリビニル類と芳香族ビニル化合物とを共重合してなる共重合体樹脂(特許文献3参照)からなる多孔質樹脂ビーズが知られている。これらの多孔質樹脂ビーズは、主にイオン交換樹脂、吸着剤などへ適用されていた。このような用途では、物質をできるだけ多く吸着させることが是とされており、そのため、従来の多孔質樹脂ビーズの開発指針は、できるだけ多くの官能基を付与すること、できるだけ比表面積を大きくすることであり、それによって多孔質樹脂ビーズの単位体積あたりの物質の吸着能を高めることに指向されていた。また、これらの多孔質樹脂ビーズは、化学合成反応を行う反応場(担体)としても用いられており、生成する合成物質の収量を多くするために、前記の吸着の場合と同様に、合成の起点となる官能基の量を多くしたり、比表面積を大きくすることが行われている。しかし、このようにして生成する合成物質の収量を増加させた場合、その純度が低下する傾向があった。
【0003】
【特許文献1】特開昭52−23193号公報
【特許文献2】特開昭58−210914号公報
【特許文献3】特開平5−86132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、化学合成反応を効率よく行うことができる、即ち、生成する合成物質の収量及び純度の両方を高くすることができる合成用担体としての多孔質樹脂ビーズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、スチレン−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体からなる多孔質樹脂ビーズが、その水酸基量および架橋度の両方を制御することによって、化学合成反応を効率よく進行させる反応場(担体)として優れた作用を奏することを見出し、本発明を完成するに到った。
【0006】
即ち、本発明は、以下のとおりである。
[1]スチレン−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体からなる多孔質樹脂ビーズであって、
当該多孔質樹脂ビーズの水酸基量(mmole/g)と架橋度(重量%)とが以下の関係式(1):
(水酸基量)×架橋度 < 2 (1)
を満足し、かつ、該水酸基量が0.01mmole/g以上でありかつ該架橋度が2重量%以上であり、
ここで、該架橋度が、当該多孔質樹脂ビーズを合成する際に添加した単量体の総重量に対するジビニルベンゼン系単量体の重量%を示す、
多孔質樹脂ビーズ。
[2]BET法により測定される比表面積が10〜300m/gである、上記[1]記載の多孔質樹脂ビーズ。
[3]水銀圧入法により測定される平均孔径が1〜200nmである、上記[1]または[2]記載の多孔質樹脂ビーズ。
[4]スチレン−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体が、スチレン系単量体とアシルオキシスチレン系単量体とジビニルベンゼン系単量体とを有機溶媒および水を用いて懸濁共重合させてスチレン−アシルオキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体を合成し、次いで、該スチレン−アシルオキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体を加水分解することによって得られるものである、上記[1]〜[3]のいずれか記載の多孔質樹脂ビーズ。
[5]スチレン−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体からなる多孔質樹脂ビーズの製造方法であって、
該多孔質樹脂ビーズの水酸基量(mmole/g)と架橋度(重量%)とが以下の関係式(1):
(水酸基量)×架橋度 < 2 (1)
を満足し、かつ、該水酸基量が0.01mmole/g以上でありかつ該架橋度が2重量%以上であり、
ここで、該架橋度が、当該多孔質樹脂ビーズを合成する際に添加した単量体の総重量に対するジビニルベンゼン系単量体の重量%を示し、
当該方法が、
スチレン系単量体とアシルオキシスチレン系単量体とジビニルベンゼン系単量体とを有機溶媒および水を用いて懸濁共重合させ、スチレン−アシルオキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体を合成する工程と、
該スチレン−アシルオキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体を加水分解する工程と、
を有する、多孔質樹脂ビーズの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多孔質樹脂ビーズは、その水酸基量および架橋度の両方を上記関係式(1)に基づいて同時に制御すること、すなわち、隣接する水酸基間の距離を調整することによって、化学合成用の担体として用いた場合に、生成する合成物質の収量及び純度の両方を高くすることができる化学合成反応を行うことを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の多孔質樹脂ビーズは、スチレン−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体からなる多孔質樹脂ビーズである。スチレン−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体の典型例としては、以下の(A)〜(C)の構造単位を含有する共重合体が挙げられる。
【0009】
【化1】



【0010】
上記(A)〜(C)の構造単位は、本発明の好ましい態様においてスチレン−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体が含有する構造単位である。これらの構造単位は、以下に示すように置換されていてもよい。
【0011】
上記(A)の構造単位における、1つ以上の水素原子(ベンゼン環の水素原子を含む)は、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基、シアノ基、メトキシ基、ニトロ基等で置換されていてもよい。
【0012】
上記(B)の構造単位における、1つ以上の水素原子(ベンゼン環の水素原子を含むが、水酸基の水素原子を除く)は、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基、シアノ基、メトキシ基、ニトロ基等で置換されていてもよい。また、得られる多孔質樹脂ビーズを合成用担体として用いる際に、隣接する水酸基間での合成反応の阻害の起こり易さを考慮すると、ベンゼン環への水酸基の結合は、上記(B)のごとく主鎖に対してパラ位が特に好ましいが、オルト位、メタ位であってもよい。
【0013】
上記(C)の構造単位における、1つ以上の水素原子(ベンゼン環の水素原子を含む)は、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基、シアノ基、メトキシ基、ニトロ基等で置換されていてもよい。
【0014】
本発明の多孔質樹脂ビーズを構成するスチレン−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体は、上記構造単位(A)〜(C)およびそれらの置換体以外の構造単位を含んでいてもよい。
【0015】
本発明の多孔質樹脂ビーズの水酸基量(mmole/g)と架橋度(重量%)とは、以下の関係式(1):
(水酸基量)×架橋度 < 2 (1)
を満足し、かつ、該水酸基量は0.01mmole/g以上でありかつ該架橋度は2重量%以上である。
好ましくは、本発明の多孔質樹脂ビーズの水酸基量(mmole/g)と架橋度(重量%)とは、以下の関係式(2):
(水酸基量)×架橋度 < 1.5 (2)
を満足し、かつ、該水酸基量は0.01mmole/g以上でありかつ該架橋度は2重量%以上である。
なお、本発明において、「架橋度」とは、当該多孔質樹脂ビーズを合成する際に添加した単量体の総重量に対するジビニルベンゼン系単量体の重量%、すなわち、
(多孔質樹脂ビーズを合成する際に添加したジビニルベンゼン系単量体の重量)/(多孔質樹脂ビーズを合成する際に添加した単量体の総重量)×100(重量%)
で定義される。
【0016】
多孔質樹脂ビーズの水酸基量と架橋度とが上記の関係式を満たさない場合、例えば、水酸基量が高過ぎる場合は、(化学合成用の担体として用いた場合に)得られる合成物質の収量は多くなるものの、水酸基の密度が高過ぎるために、その純度は低くなる。水酸基量の上限は、好ましくは1mmole/g以下であり、より好ましくは0.8mmole/g以下であり、さらに好ましくは0.4mmole/g以下である。一方、架橋度が高過ぎる場合は、合成物質が高収量で得られず、場合によってはその純度も低くなる。架橋度の上限は、好ましくは10重量%以下であり、さらに好ましくは8重量%以下である。また、水酸基量が低過ぎる場合は、得られる合成物質の収量が少なくなるので、水酸基量の下限は、0.01mmole/g以上、好ましくは0.05mmole/g以上、より好ましくは0.1mmole/g以上である。一方、架橋度が低過ぎる場合は、多孔質構造が得られ難くなり、また、耐溶剤性が低下するなどして、化学合成用担体として使用するのに不利になるので、架橋度の下限は、2重量%以上、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5重量%以上である。
【0017】
上記水酸基量は、共重合体に占めるヒドロキシスチレン系構造単位(例えば、上述の構造単位(B)またはその置換体)の量に主に依存する。
本発明の多孔質樹脂ビーズの水酸基量は、JIS K0070に準じて、以下に示す滴定により測定することができる。即ち、測定対象の多孔質樹脂ビーズの水酸基を既知量のアセチル化試薬(無水酢酸)によってアセチル化し、アセチル化に消費されなかったアセチル化試薬(無水酢酸)の量を水酸化カリウムによる滴定で求めることによって、測定対象物の水酸基量を算出するのである。この測定の具体的な手順は以下の通りである。
【0018】
無水酢酸25gに全量が100mlになるまでピリミジンを加えてアセチル化試薬を得る。測定試料(乾燥した多孔質樹脂ビーズ)0.5〜2gをフラスコに量り取り、上記アセチル化試薬0.5mlとピリジン4.5mlとを正確に加える。フラスコ中の混合物を95〜100℃で2時間維持した後、室温まで冷却してから蒸留水1mlを加える。アセチル化に消費されなかった無水酢酸を10分間加熱することによって分解する。フラスコの中身を全てビーカーに移し、蒸留水で全量150mlになるまで希釈して冷却した後、0.5mol/lの水酸化カリウム水溶液で滴定する。これとは別に、測定試料を入れずに上記と同様の操作により、ブランク測定を行う。測定試料の水酸基量は以下の式(3)により算出される。但し、A(μmol/g)は測定試料の水酸基量であり、B(ml)はブランク測定における水酸化カリウム水溶液の滴定量であり、C(ml)は測定試料の測定における水酸化カリウム水溶液の滴定量であり、fは水酸化カリウム水溶液のファクターであり、M(g)は量り取った測定試料の重量である。
A=(B−C)×0.5(mol/l)×f×1000÷M (3)
【0019】
本発明の多孔質樹脂ビーズは、スチレン−ヒドロキシスチレン高分子鎖が、ジビニルベンゼン系単量体に基づく構造単位(好ましい態様では、上記構造単位(C)またはその置換体)によって架橋された網目構造からなる。従って、多孔質樹脂ビーズの架橋の程度は、多孔質樹脂ビーズを合成する際に添加するジビニルベンゼン系単量体に依存し、ジビニルベンゼン系単量体の添加量が多いほど架橋の程度は高く、網目構造は密になり、逆にジビニルベンゼン系単量体の添加量が少ないほど架橋の程度は低く、網目構造は粗になる。
【0020】
本発明の多孔質樹脂ビーズの表面・内部形状は特に限定されず、BET法により測定したその比表面積は、好ましくは10〜300m/gであり、より好ましくは30〜200m/gである。比表面積が小さ過ぎる多孔質樹脂ビーズを合成用担体として用いた場合、化学合成反応の反応場が小さくなって得られる合成物質の収量が少なくなるということが懸念される。逆に、多孔質樹脂ビーズの比表面積が大きいということは、微細な孔が多数生成している場合と、空隙率が大きくなっている場合とがあり得る。細孔が多過ぎる場合には、当該ビーズを合成用担体として用いた際に合成反応が進行し難くなることが懸念される。空隙率が大き過ぎる場合には、多孔質樹脂ビーズの物理的強度が低くなり、合成操作中にビーズが破損することが懸念される。
【0021】
本発明の多孔質樹脂ビーズの比表面積は、BET法により測定される。
BET法における吸着ガスとして窒素ガスを用い、測定装置として比表面積測定装置NOVA1200(QuantaChrome Co.製)を用いる。測定試料(多孔質樹脂ビーズ)をこの装置内に投入して、室温、真空下で120分間脱気した後に、BET多点法によって測定試料の比表面積を求める。
【0022】
本発明の多孔質樹脂ビーズの孔の大きさ、個数などは特に限定されない。孔の大きさは、平均孔径によって定量化することができる。本発明の多孔質樹脂ビーズの水銀圧入法により測定した平均孔径は、好ましくは1〜200nmであり、より好ましくは5〜100nmである。多孔質樹脂ビーズの平均孔径が小さ過ぎる場合、化学合成用担体として用いた際に化学合成反応によって得られる合成物質の収量や純度が低下するということが懸念される。逆に、多孔質樹脂ビーズの平均孔径が大き過ぎる場合、反応場であるビーズ表面の水酸基と反応に関わる物質との接触機会が少なくなり、化学合成用担体として不利となることが懸念される。
【0023】
本発明の多孔質樹脂ビーズの平均孔径は、水銀圧入法により測定される。具体的には、約0.2gの測定試料(多孔質樹脂ビーズ)を水銀ポロシメータPoreMaster60−GT(QuantaChrome Co.製)に投入し、水銀接触角140°、水銀表面張力480dyn/cmの条件における水銀注入圧から測定試料の平均孔径を求める。
【0024】
本発明の多孔質樹脂ビーズにおける「ビーズ」とは、厳密な球状を呈することを意味するのではなく、一定形状(例えば、楕円球状などの略球状、多面体形状、円柱形状、金平糖形状などの異型形状など)を有していればよいことを意味するものである。当該多孔質樹脂ビーズは、合成用担体に用いる場合に合成反応容器への充填効率を高くすることができ、また、該反応容器が破損し難いという点から、好ましくは略球状である。また、ビーズ1粒の大きさ(体積)も特に限定されないが、好ましくは平均粒径が1〜1000μm、より好ましくは5〜500μm、さらに好ましくは10〜200μmとなるような大きさ(体積)である。なお、本発明において、多孔質樹脂ビーズの平均粒径は、レーザー回折/光散乱法による測定装置、例えば、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA−920)によって測定することができる。
【0025】
本発明の多孔質樹脂ビーズの製造方法は、特に限定されない。以下、一例として、単量体を懸濁共重合して得られる共重合体を加水分解に供することによる製造方法について説明する。当該製造方法では、まず、スチレン系単量体と、アシルオキシスチレン系単量体と、ジビニルベンゼン系単量体とを、有機溶媒および水を用いて懸濁共重合させてスチレン−アシルオキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体を得る。
【0026】
スチレン系単量体とは、スチレンまたはその置換体であり、好ましくはスチレンである。スチレンの置換体としては、スチレンの1つ以上の水素原子が、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基、シアノ基、メトキシ基、ニトロ基等で置換された化合物が挙げられる。
【0027】
アシルオキシスチレン系単量体とは、アシルオキシスチレンまたはその置換体であり、好ましくは無置換のp−アセトキシスチレンである。アシルオキシスチレンの置換体としては、アシルオキシ基の水素以外の1つ以上の水素原子が、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基、シアノ基、メトキシ基、ニトロ基等で置換された化合物が挙げられる。アシルオキシ基としては、炭素数1〜5のものが好ましく、より好ましくはアセトキシ基である。アシルオキシ基は、ビニル基に対してパラ位が特に好ましいが、オルト位、メタ位であってもよい。
【0028】
ジビニルベンゼン系単量体とは、ジビニルベンゼンまたはその置換体であり、好ましくはジビニルベンゼンである。ジビニルベンゼンの置換体としては、ジビニルベンゼンの1つ以上の水素原子が、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基、シアノ基、メトキシ基、ニトロ基等で置換された化合物が挙げられる。
【0029】
懸濁共重合の際の、スチレン系単量体とアシルオキシスチレン系単量体とジビニルベンゼン系単量体との合計量に占めるアシルオキシスチレン系単量体の量は、好ましくは0.2〜20重量%であり、より好ましくは1〜15重量%であり、さらに好ましくは2〜8重量%である。
【0030】
当該製造方法では、アシルオキシスチレン系構造単位が最終的に加水分解によってヒドロキシスチレン系構造単位(例えば、上述の構造単位(B)またはその置換体)に変換される(後述)ので、アシルオキシスチレン系単量体の配合割合が最終的に得られる多孔質樹脂ビーズの水酸基量を左右する。但し、後述するように加水分解処理における加水分解度は必ずしも100%ではないので、最終的に得られる多孔質樹脂ビーズの水酸基量がアシルオキシスチレン系単量体の量によって一意に決定するわけではない。
【0031】
懸濁共重合の際の、スチレン系単量体とアシルオキシスチレン系単量体とジビニルベンゼン系単量体との合計量に占めるジビニルベンゼン系単量体の量は、上記のように、得られる多孔質樹脂ビーズの「架橋度」を規定するものであり、該架橋度が上記関係式(1)を満足する(かつ2重量%以上である)ように適宜調整すればよく、好ましくは2〜10重量%であり、より好ましくは3〜8重量%であり、さらに好ましくは5〜8重量%である。
【0032】
本発明の多孔質樹脂ビーズでは、その水酸基量と架橋度とが上記関係式(1)を満足する(かつ、該水酸基量が0.01mmole/g以上でありかつ該架橋度が2重量%以上である)ように設定する必要がある。従って、当該製造方法においては、懸濁共重合の際のアシルオキシスチレン系単量体およびジビニルベンゼン系単量体の量、ならびに加水分解処理の際の加水分解度を総合的に調整する。
【0033】
懸濁共重合は、上述の各単量体と有機溶媒とを水中で攪拌することによって行われる。本明細書において「有機溶媒」とは、懸濁共重合系における水以外の溶媒を意味する。当該製造方法では、有機溶媒として液状炭化水素およびアルコールが好ましく用いられる。液状炭化水素としては、脂肪族の飽和または不飽和炭化水素、あるいは芳香族炭化水素が挙げられる。好ましくは、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、炭素数5〜12の脂肪族炭化水素であり、より好ましくは、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、ウンデカン、ドデカン等である。また、アルコールとしては、例えば、脂肪族アルコールが挙げられ、そのアルキル基の炭素数は、好ましくは5〜12である。より好ましいアルコールとしては、2−エチルへキシルアルコール、t−アミルアルコール、ノニルアルコール、2−オクタノール、デカノール、ラウリルアルコール、シクロへキサノール等が挙げられる。
【0034】
上記有機溶媒は、単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよいが、好ましくは、液状炭化水素とアルコールとを混合して用いる。
【0035】
懸濁共重合の際の、単量体の総量に対する有機溶媒の量は、上述した範囲内の比表面積を有する多孔質樹脂ビーズを得やすくするという観点から、重量比(有機溶媒/単量体)で、好ましくは0.5〜2.0であり、より好ましくは0.8〜1.8である。また、有機溶媒として液状炭化水素とアルコールとを混合して用いる場合の重量比は、液状炭化水素およびアルコールの具体的な組み合わせに応じて適宜決定すればよい。例えば、イソオクタンと2−エチルへキシルアルコールとを用いる場合には、得られる多孔質樹脂ビーズが上述した範囲内の比表面積を有するようにするという観点から、その重量比(イソオクタン/2−エチルへキシルアルコール)は、好ましくは1/9〜6/4である。
【0036】
懸濁共重合の方法自体は、従来既知の方法を援用してもよい。例えば、懸濁共重合の際に用いる分散安定剤としては、1つ以上の親水性コロイド成分、例えば、多価アルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ゲラチン、あるいは、難溶性粉末、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ベントナイト等が挙げられる。好ましい分散安定剤の具体例は、ポリビニルアルコールである。分散安定剤の使用量は、分散安定剤の種類等に応じて適宜選択すればよく、例えば、使用する水の重量の0.01〜20重量%である。また、懸濁共重合の際に用いる重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤としての過酸化物およびアゾ化合物が挙げられる。重合開始剤の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルが挙げられる。懸濁共重合の際の反応条件は、適宜設定することができ、例えば、60〜90℃にて30分間〜24時間の攪拌が挙げられる。
【0037】
上記懸濁共重合によって、スチレン−アシルオキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体を得ることができる。次いで、得られた共重合体を、適宜洗浄、分級等した後に、以下に記載する加水分解処理に供する。
【0038】
上記懸濁共重合によって得られたスチレン−アシルオキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体を加水分解処理に供することによって、アシルオキシ基を水酸基に変換し、スチレン−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体を得ることができる。このような加水分解処理は、公知の手段・条件によって行うことができ、例えば、酸触媒(ジオキサン中の塩酸、アセトン中の塩酸、臭化水素酸など)を用いてもよく、またアルカリ触媒(ヒドラジン一水和物、有機溶媒を含む水酸化ナトリウム水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、アンモニア水など)を用いてもよい。溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、エタノール、ジオキサンなどが挙げられる。加水分解処理の際の反応条件は、適宜設定することができ、例えば、エタノールを含む水酸化ナトリウム水溶液を用いて加水分解する場合、水酸化ナトリウムの使用量は、アシルオキシスチレンの1〜10倍当量であり、エタノールの使用量は、使用する水に対して1〜10倍重量であり、50〜80℃で1〜48時間反応させる。なお、この加水分解処理において、全てのアシルオキシ基を水酸基に変換する(すなわち、加水分解度を100%とする)必要は必ずしもなく、得られる多孔質樹脂ビーズの水酸基量が上記関係式(1)を満足する(かつ0.01mmole/g以上である)ように加水分解度を適宜調整すればよい。加水分解度は、加水分解反応の温度や時間、触媒量などによって所望の%に調整することができる。
【0039】
上記加水分解処理の後、適宜洗浄、分級等の処理を施してもよい。以上のような処理を経て、本発明の多孔質樹脂ビーズを得ることができる。
【0040】
本発明の多孔質樹脂ビーズは、化学合成用の担体として用いることができる。特に、オリゴヌクレオチド等のヌクレオチドまたはその誘導体の合成において好ましく用いることができる。この場合、従来ガラスビーズ等を担体として用いて行われていた固相法ホスホアミダイト法等による合成において、本発明の多孔質樹脂ビーズを固相担体として用いることができる。このような合成を自動的に行うための装置も市販されており、予め水酸基にリンカーを結合した多孔質樹脂ビーズをこのような自動合成装置に適用することができる。
【0041】
上記のように本発明の多孔質樹脂ビーズを固相担体として、ヌクレオチドまたはその誘導体を有機溶媒中で合成すると、隣接する水酸基間の距離が、有機溶媒による適度な膨潤作用によって、隣り合う合成反応が互いに阻害され難くなるのに十分な程度に保持されると推察され、その結果、高純度かつ高収量で目的生成物を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0043】
(実施例1)
(懸濁共重合)
冷却機、攪拌機および窒素導入管を備え付けた2Lのセパラブルフラスコを恒温水槽に設置し、ポリビニルアルコール(和光純薬製、平均重合度:約500)48gおよび蒸留水1600gを添加して400rpmにて攪拌した。冷却水および窒素ガスを流しながら、恒温水槽の温度を55℃にして攪拌を続け、ポリビニルアルコールを溶解した。これとは別に、スチレン(和光純薬製)80g、p−アセトキシスチレン(アルドリッチ製)5g、純度55%のジビニルベンゼン(和光純薬製)15g、2−エチルへキサノール(和光純薬製)50g、イソオクタン(和光純薬製)50gおよび過酸化ベンゾイル(日本油脂製、25%含水)1.8gを混合して溶解し、得られた溶液を上記セパラブルフラスコに添加した。混合物を、窒素気流下、室温にて、周速度2.0m/sで攪拌した後、80℃に昇温して、24時間懸濁共重合を行った。
【0044】
(洗浄)
上記で得られた共重合生成物を、蒸留水およびアセトン(和光純薬製)を用いて濾過洗浄した後、全量約2Lになるようにアセトン中に分散させた。分散した共重合生成物を、超音波ホモジナイザーによってさらに均一に分散させた。次いで、分散した共重合生成物を、再度蒸留水およびアセトンを用いて濾過洗浄した後、全量約1Lになるように再度アセトン中に分散させた。
【0045】
(分級)
上記で得られた分散液を静置して、ビーズ状の共重合体を沈澱させ、この分散液を傾けても沈澱物が乱れない程度まで放置した後、上清のアセトンを廃棄した。残った沈澱物に再度アセトンを加えて全量約1Lとし、上記のように放置した後、上清のアセトンを廃棄した。この操作手順を12回繰り返すことによって分級を行った。最終的に残った沈澱物を濾取し、減圧乾燥して、粉末状のスチレン−アセトキシスチレン−ジビニルベンゼン共重合体88gを得た。
【0046】
(加水分解)
冷却機、攪拌機および窒素導入管を備え付けた1Lのセパラブルフラスコを恒温水槽に設置し、上記で得られたスチレン−アセトキシスチレン−ジビニルベンゼン共重合体70gとテトラヒドロフラン(和光純薬製)467gとを添加して200rpmにて攪拌した。冷却水および窒素ガスを流しながら、恒温水槽の温度を50℃にして攪拌を続け、共重合体を分散させた。この分散液にヒドラジン一水和物(和光純薬製)105gを添加し、15時間加水分解反応を行った。反応混合物を塩酸で中和した後、蒸留水およびアセトンを用いて濾過洗浄を行った。残った沈澱物を濾取し、減圧乾燥して、粉末状のスチレン−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなる多孔質樹脂ビーズ83gを得た。
【0047】
(測定)
上記で得られた多孔質樹脂ビーズの水酸基量を前述の方法によって測定したところ、0.35mmole/gであった。また、該多孔質樹脂ビーズの架橋度は、(15×0.55)÷(80+5+15)×100=8.25であった。
従って、(水酸基量)×架橋度は0.35×8.25=1.01となり、本発明の関係式(1)を満足する。
【0048】
さらに、該多孔質樹脂ビーズの比表面積および平均孔径を前述の方法によって測定したところ、それぞれ55m/gおよび22nmであった。
【0049】
(比較例1)
冷却機、攪拌機および窒素導入管を備え付けた2Lのセパラブルフラスコを恒温水槽に設置し、ポリビニルアルコール(和光純薬製、平均重合度:約500)48gおよび蒸留水1600gを添加して400rpmにて攪拌した。冷却水および窒素ガスを流しながら、恒温水槽の温度を55℃にして攪拌を続け、ポリビニルアルコールを溶解した。これとは別に、スチレン(和光純薬製)60g、p−アセトキシスチレン(アルドリッチ製)10g、純度55%のジビニルベンゼン(和光純薬製)30g、2−エチルへキサノール(和光純薬製)50g、イソオクタン(和光純薬製)50gおよび過酸化ベンゾイル(日本油脂製、25%含水)1.8gを混合して溶解し、得られた溶液を上記セパラブルフラスコに添加した。混合物を、窒素気流下、室温にて、周速度2.0m/sで攪拌した後、80℃に昇温して、24時間懸濁共重合を行った。
【0050】
上記で得られた共重合生成物を、実施例1と同様にして、洗浄、分級および加水分解し、粉末状のスチレン−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなる多孔質樹脂ビーズ87gを得た。
【0051】
上記で得られた多孔質樹脂ビーズの水酸基量を前述の方法によって測定したところ、0.54mmole/gであった。また、該多孔質樹脂ビーズの架橋度は、(30×0.55)÷(60+10+30)×100=16.5であった。
従って、(水酸基量)×架橋度は0.54×16.5=4.81となり、本発明の関係式(1)を満足しない。
【0052】
さらに、該多孔質樹脂ビーズの比表面積および平均孔径を前述の方法によって測定したところ、それぞれ80m/gおよび27nmであった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の多孔質樹脂ビーズは、化学合成用の担体として有用であり、生成する合成物質の収量及び純度の両方を高くすることができる化学合成反応を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体からなる多孔質樹脂ビーズであって、
当該多孔質樹脂ビーズの水酸基量(mmole/g)と架橋度(重量%)とが以下の関係式(1):
(水酸基量)×架橋度 < 2 (1)
を満足し、かつ、該水酸基量が0.01mmole/g以上でありかつ該架橋度が2重量%以上であり、
ここで、該架橋度が、当該多孔質樹脂ビーズを合成する際に添加した単量体の総重量に対するジビニルベンゼン系単量体の重量%を示す、
多孔質樹脂ビーズ。
【請求項2】
BET法により測定される比表面積が10〜300m/gである、請求項1記載の多孔質樹脂ビーズ。
【請求項3】
水銀圧入法により測定される平均孔径が1〜200nmである、請求項1または2記載の多孔質樹脂ビーズ。
【請求項4】
スチレン−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体が、スチレン系単量体とアシルオキシスチレン系単量体とジビニルベンゼン系単量体とを有機溶媒および水を用いて懸濁共重合させてスチレン−アシルオキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体を合成し、次いで、該スチレン−アシルオキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体を加水分解することによって得られるものである、請求項1〜3のいずれか記載の多孔質樹脂ビーズ。
【請求項5】
スチレン−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体からなる多孔質樹脂ビーズの製造方法であって、
該多孔質樹脂ビーズの水酸基量(mmole/g)と架橋度(重量%)とが以下の関係式(1):
(水酸基量)×架橋度 < 2 (1)
を満足し、かつ、該水酸基量が0.01mmole/g以上でありかつ該架橋度が2重量%以上であり、
ここで、該架橋度が、当該多孔質樹脂ビーズを合成する際に添加した単量体の総重量に対するジビニルベンゼン系単量体の重量%を示し、
当該方法が、
スチレン系単量体とアシルオキシスチレン系単量体とジビニルベンゼン系単量体とを有機溶媒および水を用いて懸濁共重合させ、スチレン−アシルオキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体を合成する工程と、
該スチレン−アシルオキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体を加水分解する工程と、
を有する、多孔質樹脂ビーズの製造方法。


【公開番号】特開2006−342245(P2006−342245A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168661(P2005−168661)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】