説明

多孔質炭素繊維シート前駆体の連続熱処理装置及び熱処理方法

【課題】高品質の多孔質炭素繊維シートを高い生産性と歩留りをもって生産し得る多孔質炭素繊維シート前駆体の連続炭素化熱処理装置とその処理方法を提供する。
【解決手段】連続炭素化熱処理装置は、樹脂が含浸、硬化され連続的に供給される多孔質炭素繊維シート前駆体(4) を予備炭素化処理する予備炭素化熱処理装置と、予備炭素化処理された多孔質炭素繊維シート前駆体を不活性雰囲気下で炭素化処理するための高温炭素化熱処理装置とを備えている。各熱処理装置(1) のそれぞれが、各熱処理装置内に排ガスの排気口(10)を有するとともに、多孔質炭素繊維シート前駆体(4) の搬送手段(9) を有している。前記排ガスの排気口(10)は多孔質炭素繊維シート前駆体の下面下方に配されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工程中のトラブルを未然に防止し、多孔質炭素繊維シートを効率よく生産することのできる多孔質炭素繊維シート前駆体の連続熱処理装置及び熱処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池用の電極には薄型で、且つガス拡散・透過性、ハンドリングに耐えるための強度や柔軟性、電極の製造時や電極を組んだ時などの圧縮に耐える強度等が要求され、さらには生産性向上による低コスト化が切望されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池用電極の製造方法は、炭素繊維の短繊維を抄紙して一旦乾燥したのち、熱硬化性樹脂を含浸させ、これを硬化後、焼成するという製造方法が主流となっているが、燃料電池の生産性向上のためには、この電極がロール状に巻けるほどの柔軟性を有していることが肝要であり、電極の柔軟性に関して、従来の電極は肉厚であり、曲げるとすぐに壊れてしまうものが多い。
【0004】
多孔質炭素繊維シートを連続的に製造するには、多孔質炭素繊維シートが金属、プラスチック等と比較して伸度が小さく脆い性質を有するため、張力を極力低くしてかつ張力斑をなくした上で、熱処理装置内壁との接触及びシート同士の干渉を極力少なくすることが必要である。
【0005】
すなわち、多孔質炭素繊維シートを連続的に製造する場合には、熱処理装置内における物理的接触に伴うシート及び装置の損傷に起因する歩留まりの低下や工程生産性の低下の発生は勿論、多孔質炭素繊維シートの性能上、高温処理することが必要なため、含浸された樹脂から発生する水分等を含む排ガスによって装置並びにシート自体がダメージを受け工程安定性を損なうといった様々な課題を極力解決することが要求される。
【0006】
この要求に応えるべく、本件発明者らは特開2003−147640号公報(特許文献1)により、生産性向上を図るとともに、工程中のトラブルの発生を未然に防止して良好な工程通過性を確保し、性能、外観、ハンドリング性に優れた多孔質炭素繊維シート前駆体の連続熱処理方法及び熱処理装置を先に提案した。
【0007】
この特許文献1によると、図7に示すように、樹脂が含浸、硬化され連続して供給される多孔質炭素繊維シート前駆体4を予備炭素化熱処理装置101内で予備炭素化熱処理を行った後、不活性雰囲気にある高温炭素化熱処理装置102内で、800℃以上、3000℃以下の温度をもって連続して炭素化処理を行っている。そして、前記予備炭素化熱処理は、不活性雰囲気下で、200℃以上、1000℃以下の温度をもって連続的に処理することが望ましいとしている。
【0008】
多孔質炭素繊維シート前駆体4の破損防止のため、各熱処理装置101,102内に搬送ベルトコンベア、搬送ロール等の搬送手段109を用いて多孔質炭素繊維シート前駆体4に無用な張力をかけないようにし、更に排ガス処理にかかる熱負荷、それに伴うランニングコストの上昇、更には排ガスダクトへの固形物や有機物、毛羽などの付着・滞留によるダクト閉塞を回避するため、排ガス処理装置112を熱処理装置の上部に設けられた排ガスの排気口110の内部もしくは排ガスの排気口110に配置することが開示されている。また、多孔質炭素繊維シート前駆体4の生産性を上げるために熱処理装置内を複数段で処理する方法も記載されている。
【0009】
生産性の向上を図るため、熱処理装置内で多孔質炭素繊維シート前駆体4を多段で処理する方法を採用しようとすれば、多孔質炭素繊維シートは比較的脆いため、熱処理装置内で一方の多孔質炭素繊維シート前駆体4が破損した場合、他方の多孔質炭素繊維シート前駆体までもが破損するというリスクを伴う。また、多孔質炭素繊維シート前駆体4の導入口113及び導出口114にラビリンスシール装置115を用いた場合であっても、多孔質炭素繊維シート前駆体4と多孔質炭素繊維シート前駆体4との間のシールが十分に行われず、外気が入り込む可能性があるため、多孔質炭素繊維シート前駆体4の幅を広くとることができず、反対に熱処理装置の処理幅に対して多孔質炭素繊維シート前駆体4の幅を極端に狭くする必要があると考えられる。
【0010】
多孔質炭素繊維シートを連続的に製造するには、熱処理装置内に不活性ガスを導入すると同時に、含浸された樹脂から発生する水分等を含む排ガスを排気する必要がある。その際、排ガスの排気口を多孔質炭素繊維シート前駆体の上方に設けると、排気口周辺に析出物が発生し、シート上に落下する。特許文献1に記載された各熱処理装置101,102によって、多孔質炭素繊維シート前駆体4を連続熱処理する際には、図7及び図8に示すように、排ガスの排気口110の周辺で氷柱状の析出物等が発生し、多孔質炭素繊維シート前駆体4上に落下しやすく、それが原因となって、染み、貫通孔等の外観不良が発生し歩留りの低下が起っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−147640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
すなわち、多孔質炭素繊維シートを連続的に製造する場合は、その歩留りを高めるとともに生産性の向上を図るため、これらの外観不良を極力減らすと同時に、熱処理装置内に導入する多孔質炭素繊維シート前駆体の面占有率を出来るだけ大きくすることが要求されている。
しかしながら、特許文献1には、排ガスダクトへの固形分及び有機物の付着、毛羽の付着・滞留によるダクト閉塞を回避するため、排ガス処理装置を排ガスの排気口の近傍に配置することが望ましいと記載されているに止まり、排気口周辺に析出する析出物がシート上に落下して、多孔質炭素繊維シート前駆体に染み、貫通孔等の外観不良を発生させることに関する記載はなく、また熱処理装置の底面に対する熱処理装置内に導入する多孔質炭素繊維シート前駆体の面占有率についても何ら記載されていない。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、高品質の多孔質炭素繊維シートを高い生産性をもって生産し得る多孔質炭素繊維シート前駆体の連続炭素化熱処理装置とその処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題は、以下の本発明に係る多孔質炭素繊維シート前駆体の連続熱処理装置及びその処理方法によって効果的に解決される。
すなわち、本件第1の発明である樹脂が含浸、硬化され連続的に供給される多孔質炭素繊維シート前駆体を予備炭素化処理する予備炭素化熱処理装置と、予備炭素化処理された多孔質炭素繊維シート前駆体を不活性雰囲気下で炭素化処理するための炭素化熱処理装置とを備え、予備炭素化熱処理装置及び炭素化熱処理装置のそれぞれが、各熱処理装置内に排ガスの排気口を有するとともに、多孔質炭素繊維シート前駆体の搬送手段を有し、前記排ガスの排気口が多孔質炭素繊維シート前駆体の下面下方に配されてなる、ことを特徴とする多孔質炭素繊維シート前駆体の連続熱処理装置にある。
【0015】
好適には、熱処理装置内に導入する多孔質炭素繊維シート前駆体の各熱処理装置の底面に対する面占有率が50〜90%であり、また前記搬送手段が搬送バー又は搬送ロールであって、隣接する搬送バー又は搬送ロール間の間隔が15cm以上、100cm以下であり、排気口付近の搬送バー又はロールのピッチ間隔が、他の搬送バー又はロールのピッチ間隔の同等以下であることが望ましい。更に好ましい態様によれば、前記搬送バー又は搬送ロールの登頂部を各熱処理装置の底部から2cm以上、30cm以下に配して、搬送バー又は搬送ロールの上面に載置移送される多孔質炭素繊維シート前駆体を熱処理装置の底部から離間させる。
【0016】
また、本件の第2発明である多孔質炭素繊維シート前駆体の連続熱処理方法は、前述の連続熱処理装置を使うことにより効率的に実施できる。すなわち、第2発明の基本構成は、樹脂が含浸、硬化され連続して供給される多孔質炭素繊維シート前駆体を予備炭素化熱処理装置内で予備炭素化処理を行った後、不活性雰囲気にある炭素化熱処理装置内で、連続的に炭素化処理する多孔質炭素繊維シート前駆体の連続熱処理方法であって、各熱処理装置内にて発生する排ガスを、搬送手段により連続して供給される多孔質炭素繊維シート前駆体の下面下方に配された排気口にて排気することを特徴としている。好ましい態様によれば、熱処理装置の底面に対する熱処理装置内に導入する多孔質炭素繊維シート前駆体の面占有率を50〜90%とする。
【0017】
上記構成を備えた各発明の多孔質炭素繊維シート前駆体の連続熱処理装置及び連続熱処理方法における、熱処理装置の底面に対する熱処理装置内に連続して導入される多孔質炭素繊維シート前駆体の面占有率は、使用する熱処理装置の有効炉長と有効炉幅との積(=熱処理装置の底面の有効面積)に対する熱処理装置内に存在する多孔質炭素繊維シート前駆体の平面積(熱処理装置の有効炉長と多孔質炭素繊維シート前駆体の幅との積)の比率である。
【発明の効果】
【0018】
上記熱処理装置内の排ガスの排気口を多孔質炭素繊維シート前駆体の下面下方に配することにより、排気口周辺上部における析出物の発生を抑制し、多孔質炭素繊維シート前駆体の上面に前記析出物の落下がなくなり、該析出物の落下(落下物)が原因となる多孔質炭素繊維シート前駆体の染み、貫通孔等の外観不良を低減する。更に、搬送バー又は搬送ロールによって多孔質炭素繊維シート前駆体を各熱処理装置の底部から一定の高さに支持することにより、多孔質炭素繊維シート前駆体と炭素化熱処理装置の底部に溜まったゴミとの接触を避けることができるとともに、排ガスの排気口に多孔質炭素繊維シート前駆体が吸込まれて破損することが防止され、長期の連続運転が可能となる。
【0019】
また、該熱処理装置内の搬送バー又は搬送ロールの間隔については、一律に一定間隔で設置しても良いが、排ガスの排気口での吸込みによる多孔質炭素繊維シート前駆体の破損を防止するため、排気を阻害しない程度に排気口付近の搬送バー又は搬送ロールの間隔を狭くすることが望ましい。
【0020】
該熱処理装置の底面に対する熱処理装置内に導入する多孔質炭素繊維シート前駆体の面占有率については、生産性の向上及び排ガスをスムーズに排出させるための観点から、50%以上、90%以下にすることが好ましく、更には65%以上、85%以下がより好ましい。
【0021】
該熱処理装置内に設置されている搬送バー又は搬送ロールの登頂部位置は各熱処理装置底部から2cm以上、30cm以下にすることが好ましく、更には4cm以上、10cm以下がより好ましい。
【0022】
樹脂が含浸、硬化され連続的に供給される多孔質炭素繊維シート前駆体を予備炭素化する本発明の予備炭素化熱処理装置において、処理雰囲気は特に制限されるものではなく、処理温度及び多孔質炭素繊維シート前駆体の素性により決定されるが、500℃以上の温度を与える場合は不活性雰囲気であることが好ましい。
【0023】
予備炭素化熱処理の温度条件として、好ましくは200℃以上、1000℃以下、続く高温炭素化熱処理装置へのダメージを回避するには、更に好ましくは300℃以上、850℃以下であって、昇温勾配に特に制限はない。
【0024】
予備炭素化熱処理された多孔質炭素繊維シート前駆体を、続く不活性雰囲気下850℃以上、3000℃以下の温度で炭素化処理するための高温炭素化熱処理装置は、多孔質炭素繊維シート前駆体の通路であるインナーマッフルと、インナーマッフルを囲むように配置されたアウターマッフルからなるマッフル構造を備えていることが好ましく、熱処理装置内部の雰囲気を維持するためのシール装置がラビリンスシール装置を有することが望ましい。
【0025】
高温炭素化熱処理においては、ランニングコストの問題、安定運転を確保する面から可及的に低い温度で処理することが好ましいが、多孔質炭素繊維シートの性能確保の観点からは最高処理温度が1300℃以上、更には1600℃以上であることがより好ましい。
【0026】
予備炭素化熱処理、高温炭素化熱処理の各熱処理装置内部の雰囲気を維持するためのシ ール装置はシールガス量低減の観点から、上述のようにラビリンスシール装置が好ましく用いられ、排ガス処理手段としては排ガス処理にかかる熱負荷、それに伴うランニングコスト等を抑えるために、排ガス処理装置が熱処理装置近傍に配置されていることが望ましい。各熱処理装置の熱源には特に制限はないが、温度制御の容易さから電気が好ましく用いられる。
【0027】
以上のように、本発明によれば品質の高い多孔質炭素繊維シートを高生産し得ることにつながる多孔質炭素繊維シート前駆体の連続炭素化処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の好適な第1実施形態を示す熱処理装置の概略縦断面図である。
【図2】同熱処理装置の全体構成を概略で示す横断面図である。
【図3】前記第1実施形態の変形例を示す熱処理装置の概略縦断面図である。
【図4】本発明の好適な第2実施形態を示す熱処理装置の概略縦断面図である。
【図5】同熱処理装置の全体構成を概略で示す横断面図である。
【図6】前記第2実施形態による熱処理装置内の排気ガスの流れを模式的に示す説明図である。
【図7】従来の熱処理装置における排気口周辺の排気ガスからの析出物とその落下状況を模式的に示す概略縦断面図である。
【図8】同熱処理装置における排気口周辺の排気ガスからの析出物とその落下状況を模式的に示す概略横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して具体的に説明する。
なお、以下に説明する実施形態及びその変形例では、樹脂が含浸、硬化され連続的に供給される多孔質炭素繊維シート前駆体の予備炭素化熱処理装置及び、予備炭素化された多孔質炭素繊維シート前駆体の高温炭素化熱処理装置が、実質的に同一内部構造を備えている場合を挙げているが、予備炭素化熱処理装置及び、高温炭素化熱処理装置の内部構造は、処理する多孔質炭素繊維シート前駆体の性状により適宜変更できる。以下の説明では、冗長を避けるため、予備炭素化熱処理装置及び、高温炭素化熱処理装置を単に熱処理装置1として説明する。
【0030】
本発明の第1実施形態を示す図1及び図2において、熱処理装置1は、熱処理装置本体2と、多孔質炭素繊維シート前駆体及び予備炭素化を終了した多孔質炭素繊維シート前駆体4の導入部及び導出部に設けられたシール装置3とを備えており、各シール装置3の外気側にはシャッター11が設けられている。更に、熱処理装置1内に発生する排ガスを排出するための排気口10が多孔質炭素繊維シート前駆体4の搬送路中央下方に設けられ、この排気口10の排気路途中に排ガス処理装置12を備えている。ここで、本発明における前記熱処理装置1は、次の構造a)〜d)を備えていることが肝要である。
a)排ガスの排気口10が処理装置内の多孔質炭素繊維シート前駆体4の下面よりも下方に配置されている。
b)各熱処理装置1の底面に対する、連続的に導入される多孔質炭素繊維シート前駆体4のシート面の面占有率が50〜90%である。
c)多孔質炭素繊維シート前駆体4を下方から支持搬送するための搬送手段としての搬送バー又は搬送ロール9が熱処理装置内部に配される。
d)排ガス処理装置12を排気口10以降の排気通路下流側に配置する。
【0031】
ここで、熱処理装置1の底面に対する熱処理室内に連続して導入される多孔質炭素繊維シート前駆体4の面占有率とは、図1及び図2に示すように、使用する熱処理装置1の有効炉長Lと有効炉幅W1との積(=熱処理装置の底面の有効面積)に対する熱処理装置内に存在する多孔質炭素繊維シート前駆体4の平面積(熱処理装置の有効炉長Lと多孔質炭素繊維シート前駆体の幅W2との積)の比率である。
【0032】
また、上記熱処理装置1は、次の構造e)及びf)の少なくとも一つを備えている。
e)熱処理装置1が多孔質炭素繊維シート前駆体4の搬送路を形成するインナーマッフル6と、インナーマッフル6とヒーター7を囲むように配置されたアウターマッフル5とからなるマッフル構造を備えており、インナーマッフル6内に多孔質炭素繊維シート前駆体の上記搬送手段が配される。
f)シール装置3として、熱処理装置1内部の雰囲気を維持するために好適なラビリンスシール装置を設ける。
【0033】
これらの構造を、図1及び図2に基づいて具体的に説明すると、熱処理装置本体2は断熱部8、ヒーター7、インナーマッフル6及びアウターマッフル5を備えている。断熱部8には、多孔質炭素繊維シート前駆体4の導入口13と導出口14とを開口させ、内部に多孔質炭素繊維シート前駆体4の熱処理室を形成している。前記多孔質炭素繊維シート前駆体4の導入口13と導出口14との外気側にはシール装置3が連設されている。この実施形態では、前記シール装置3はラビリンスシール機構を備えている。ラビリンスシール機構は、熱処理装置本体2内の雰囲気を維持すると共に、雰囲気ガス量を低減させるために、多孔質炭素繊維シート前駆体4へのダメージが小さく有効であり好ましいが、ラビリンス機構に代えてエアーカーテン式シール装置を採用することもできる。
【0034】
熱処理装置本体2の断熱部8の前記導入口13および導出口14とを結ぶ直線的な空間部をインナーマッフル6として、その内部に多孔質炭素繊維シート前駆体4の搬送路が形成されており、このインナーマッフル6と前記断熱部8の内壁との間の空間部は、ヒーター7を囲むように配置されたアウターマッフル5とされている。
【0035】
本実施形態における熱処理装置1の一つの特徴は、搬送路中にある多孔質炭素繊維シート前駆体4の下方にあたるインナーマッフル6の底部に、排ガスの排気口10を有することであり、排気口周辺上部の析出物の発生を抑制し、多孔質炭素繊維シート前駆体4上に落下することによって形成される貫通孔及び染み等の外観不良の発生を大幅に低減することにある。
【0036】
また、他の特徴の一つは、多孔質炭素繊維シート前駆体4により排ガスの排気口10を塞ぐことによって発生する多孔質炭素繊維シート前駆体4の破損を防止するとともに、インナーマッフル6の底部との接触による汚れを防止するため、及び熱処理室内の排ガスをスムーズに排出するために、インナーマッフル6内に搬送手段として搬送バー又は搬送ロール9を配していることにある。
該搬送バー又は搬送ロール9の形状、材質、表面性状、直径等は特に制限はなく、処理温度、被処理多孔質シート前駆体4の性状により適宜決定すればよい。
【0037】
また、搬送バー又は搬送ロール9のピッチ間隔を15cm以上、100cm以下とすることが好ましく、排気口10付近の搬送バー又は搬送ロール9のピッチ間隔L2を、他の搬送バー又は搬送ロール9のピッチ間隔L1としたとき、その距離関係をL2≦L1にすることによって設備費用を最低限に抑えることができるし、最も排気ガスが集約されて吸引力が集中する排気口10付近を通過する多孔質炭素繊維シート前駆体4の部分を下方からシッカリと支持搬送できて、多孔質炭素繊維シート前駆体4の破損が効果的に防止できる。
【0038】
更に本実施形態によれば、前記搬送バー又は搬送ロール9の登頂部の各熱処理装置の底部からの高さH1が2cm以上、30cm以下に設定されている。搬送バー又は搬送ロール9の上面を載置移送される多孔質炭素繊維シート前駆体が熱処理装置底部から離間しているため、前記搬送バー又は搬送ロール9に支持移送される多孔質炭素繊維シート前駆体4がインナーマッフル6の底部に接触することがなく、排ガスの排気口10に吸い込まれることもない。2cmより短いと、搬送バー又は搬送ロール9をインナーマッフル6内に配することが難しくなるばかりでなく、多孔質炭素繊維シート前駆体4が排ガスの排気口10に吸い込まれ損傷しやすくなり、30cmを越えると、多孔質炭素繊維シート前駆体4の下面周辺に存在する排ガスの吸引効率が低下する。
【0039】
排ガス処理装置12は、燃焼処理、スクラバー処理及びその組合せが好ましく用いられ、排ガス性状に応じて処理方式を適宜決定すればよいが、処理チャンバーを設けて同チャンバー内で直炎燃焼処理を行うことが好適である。
【0040】
図3は上記第1実施形態の変形例を示している。この変形例では、熱処理装置本体2における断熱部8の肉厚と多孔質炭素繊維シート前駆体4の導入口13及び導出口14の開口形状及び寸法とを変更することなく、熱処理装置本体2の上下高さを第1実施形態の熱処理装置本体2の高さより高くしている。その結果、インナーマッフル6の上下高さも高くなり、熱処理装置1における熱処理室の容積も大きくなり、熱容量が増加して高い効率で熱処理を行うことが可能となる。なお、この変形例にあっても、搬送ロール9の登頂点と排ガスの排気口10の開口との間の上下高さH1の最大高さは30cmより低くする必要がある。
【0041】
図4及び図5は、本発明の第2実施形態を示している。
上記第1実施形態によれば、単一の排ガスの排気口10をインナーマッフル6の底面中央部に開口させているが、生産性を上げて大量に多孔質炭素繊維シートを製造するには熱処理装置1を大型化せざるを得なくなる。この場合、多孔質炭素繊維シート前駆体4の処理面の増加に伴い、熱処理室内にて発生する排ガス量も必然的に増えることになり、排ガスの排気口10の開口面積を大きくするとともに、排ガス処理装置12を大型化する必要が生じるが、多孔質炭素繊維シート前駆体4の下方に位置するインナーマッフル6の底面中央部に開口する単一の排ガスの排気口10だけでは、多孔質炭素繊維シート前駆体4の上方に存在する排気ガスを速やかに排気することが難しくなる。
【0042】
図4及び図5に示す第2実施形態は、前述のような不具合に対処すべく開発されたものである。しかしながら、この第2実施形態による熱処理装置は大型に限らず、通常の大きさの熱処理装置に適用することも可能であり、その場合にも排気ガスの排気が効率的に行われ、トータルとして、省エネルギーが達成され、炭酸ガスの排出量をも低減させることが可能となる。なお、本実施形態にあって、排ガスの排気口以外の構成は上記第1実施形態と同様であるため、両者の間で実質的に同一の構成部材等に対する符号は変更せずに使用する。
【0043】
この第2実施形態に係る熱処理装置1と上記第1実施形態に係る熱処理装置1’との相違点は、上記第1実施形態では排ガスの排気口10の直上を空けるようにして、その前後に搬送ロール9を配しているのに対して、図4に示すように、本実施形態では排ガスの排気口10の直上に搬送ロール9を配している点及び、第1実施形態では、上述のごとくインナーマッフル6の底面中央部に単一の排ガスの排気口10を開口させているのに対して、本実施形態では、図6に示すとおり、多孔質炭素繊維シート前駆体4の幅方向左右端部近傍の直下にあたるインナーマッフル6の底面に2つの排ガスの排気口10a,10bを開口させており、2つの排ガスの排気口10a,10bを開口を合流するダクトを介して単一の排ガス処理装置12に連通させている点である。その他の構成は、第1実施例と実質的に変わるところがない。
【0044】
第2実施形態が以上の構成を備えることにより、上記第1実施形態における機能を有することに加えて、熱処理装置1’の処理室内に発生する排ガスのうち多孔質炭素繊維シート前駆体4の上方に存在する排ガスは、図6に矢印で示すように、多孔質炭素繊維シート前駆体4の幅方向左右両縁を回り込んで円滑に2つの排ガスの排気口10a,10bに吸い込まれるようになり、多孔質炭素繊維シート前駆体4の上方に滞留することがない。また、既述したとおり、本実施形態にあっては、上記第1実施形態と異なり、排ガスの排気口10a,10bの直上に搬送ロール9を配しているが、前述のように多孔質炭素繊維シート前駆体4の幅方向左右端部近傍の直下にあたるインナーマッフル6の底面に2つの排ガスの排気口10a,10bを開口させているため、この2つの排ガスの排気口10a,10bの開口により、多孔質炭素繊維シート前駆体4の上方に存在する排ガスは、多孔質炭素繊維シート前駆体4の上面に沿って、その左右両端縁を巡って下方へと流れるように吸い込まれるため、各開口の直上に配された搬送バー又は搬送ロール9により干渉されることがなく影響はない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
生産性の向上を図ると共に、工程中のトラブルの発生を未然に防止して良好な工程通過性を確保し、性能、外観、ハンドリング性に優れた多孔質炭素繊維シート前駆体の熱処理装置及び、連続熱処理方法を提供可能である。
【符号の説明】
【0046】
1,1’ 熱処理装置
2 熱処理装置本体
3 導入部及び導出部に設けられたシール装置
4 多孔質炭素繊維シート前駆体
5 アウターマッフル
6 インナーマッフル
7 ヒーター
8 断熱部
9 搬送バー又は搬送ロール(搬送手段)
10,10a,10b 排気口
11 シャッター
12 排ガス処理装置
13 多孔質炭素繊維シート前駆体の導入口
14 多孔質炭素繊維シート前駆体の導出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂が含浸、硬化され連続的に供給される多孔質炭素繊維シート前駆体を予備炭素化処理する予備炭素化熱処理装置と、予備炭素化処理された多孔質炭素繊維シート前駆体を不活性雰囲気下で炭素化処理するための高温炭素化熱処理装置とを備え、
予備炭素化熱処理装置及び高温炭素化熱処理装置のそれぞれが、各熱処理装置内に排ガスの排気口を有するとともに、多孔質炭素繊維シート前駆体の搬送手段を有し、
前記排ガスの排気口が多孔質炭素繊維シート前駆体の下面下方に配されてなる、
ことを特徴とする多孔質炭素繊維シート前駆体の連続熱処理装置。
【請求項2】
各熱処理装置の底面に対する熱処理装置内に導入する多孔質炭素繊維シート前駆体の面占有率が50〜90%である、ことを特徴とする請求項1記載の連続熱処理装置。
【請求項3】
前記搬送手段が搬送バー又は搬送ロールであって、隣接する搬送バー又は搬送ロール間の間隔が15cm以上、100cm以下であり、
排気口付近の搬送バー又はロールのピッチ間隔が、他の搬送バー又はロールのピッチ間隔の同等以下である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の連続熱処理装置。
【請求項4】
前記搬送バー又は搬送ロールの登頂部が各熱処理装置の底部から2cm以上、30cm以下に配され、搬送バー又は搬送ロールの上面に載置移送される多孔質炭素繊維シート前駆体が熱処理装置底部から離間させることを特徴とする請求項3記載の連続熱処理装置。
【請求項5】
樹脂が含浸、硬化され連続的に供給される多孔質炭素繊維シート前駆体を予備炭素化熱処理装置内で予備炭素化処理を行った後、不活性雰囲気にある炭素化熱処理装置内で、連続的に炭素化処理する多孔質炭素繊維シート前駆体の連続熱処理方法において、
各熱処理装置内にて発生する排ガスを、搬送手段により連続的に供給される多孔質炭素繊維シート前駆体の下面下方に配された排気口にて排気する、ことを特徴とする多孔質炭素繊維シート前駆体の連続熱処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−196200(P2010−196200A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42742(P2009−42742)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】