説明

多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線の製造方法、多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線、及び同軸ケーブル

【課題】細径化・薄肉化を可能とした多孔質薄膜を形成材料として用いた多孔質紫外線硬
化型樹脂被覆電線の製造方法、多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線、及び同軸ケーブルを提供する。
【解決手段】紫外線硬化型樹脂組成物に、吸水性ポリマに水を予め吸水させ吸水膨潤させた含水吸水性ポリマを分散して含水率40%以上を有する含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物と、含水吸水性ポリマを含まない紫外線硬化型樹脂組成物とを形成し、金属線上に、含水吸水性ポリマを含まない紫外線硬化型樹脂組成物と、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物とを被覆して二層構造に形成した後、脱水処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物を用いた多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線の製造方法、多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線、及び同軸ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野を始めとする精密電子機器類や通信機器類の小型化や高密度実装化が進む中で、これらに使用される電線・ケーブルも益々細径化が図られている。更に、信号線等では、伝送信号のいっそうの高速化を求める傾向が顕著であり、信号線等に使用される電線の絶縁体層を薄肉化するとともに、可能な限り低誘電率化することで伝送信号の高速化を図ることが望まれている。
【0003】
この電線の絶縁層には、ポリエチレンやフッ素樹脂などの誘電率の低い絶縁材料を発泡させたものが使われている。この発泡絶縁層の形成には、予め発泡させたフィルムを導体上に巻付ける方法、導体上に発泡絶縁材料の溶融物を押出被覆する押出方式が知られており、特に押出方式が広く用いられている。
【0004】
発泡形成方法としては、物理的な発泡方法と化学的な発泡方法との2種類に大きく分けられる。物理的な発泡方法としては、液体フロンのような揮発性発泡用液体を溶融樹脂中に注入し、その気化圧により溶融樹脂を発泡させる方法、あるいは窒素ガス、炭酸ガスなどの気泡形成用ガスを押出機中の溶融樹脂に直接圧入させることで一様に分布した細胞状の微細な独立気泡体を溶融樹脂中に発生させる方法などがある。
【0005】
一方、化学的な発泡方法としては、溶融樹脂中に発泡剤を分散混合した状態で成形し、その後、熱を加えることにより発泡剤の分解反応を発生させ、分解により発生するガスを利用して発泡させる方法がある。
【0006】
上記押出方式に代わる薄肉被覆方式としては、エナメル線に代表される熱硬化樹脂のコーティングや光ファイバの紫外線硬化樹脂のコーティングなどのコーティング方式がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭58−62024号公報
【特許文献2】特開昭57−170725号公報
【特許文献3】特開平3−185063号公報
【特許文献4】特開平11−5863号公報
【特許文献5】特開平11−100457号公報
【特許文献6】特許第3717942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
溶融樹脂中に揮発性発泡用液体を注入する物理的な発泡方法では、気化圧が強く、気泡の微細形成や均質形成が困難となり、薄肉成形に限界があった。また、揮発性発泡用液体の注入速度が遅いために、高速の製造化が困難であり、生産性に劣るという問題もあった。
【0009】
押出機中で直接気泡形成用ガスを圧入する物理的な発泡方法においては、細径化や薄肉化には押出形成に限界があり、安全面で特別な設備や技術を必要とするため、生産性に劣ることや製造コストの高騰を招くという問題があった。
【0010】
フロン、ブタンや炭酸ガス等を用いる物理的な発泡方式においては、環境負荷が大きいという問題があり、化学発泡に用いる発泡剤は、価格が高いという問題があった。
【0011】
一方、化学的な発泡方法では、溶融樹脂中に発泡剤を予め混練し、分散混合し、成形加工後に、熱により発泡剤を反応分解させて発生したガスにより発泡させる。そのため、溶融樹脂の成形加工温度は、発泡剤の分解温度より低く保持しなければならないという問題があった。更には、素線の径が細くなると、押出被覆では樹脂圧により断線が起こりやすく、高速化が困難となるという問題をも有している。
【0012】
一方、薄肉被覆に有効な熱硬化樹脂や紫外線硬化樹脂などの液状材料によるコーティング方式において、熱硬化樹脂の場合は、材料のかなりの部分を溶剤が占め、溶剤を揮散させるとともに、焼付により被覆形成させるため、1回のコーティングで得られる膜厚は数μm以下で多層塗りを必要とし、発泡層(多孔質層)を形成するのは困難となる。また、撚り導体では、導体の隙間に溶剤が入り込み、溶剤の揮散がしにくくなり、被覆の膨れなどが発生しやすい問題がある。更に、溶剤を使用するため環境負荷が大きいという問題があった。
【0013】
紫外線硬化樹脂の場合は、無溶剤化が容易であり、薄膜高速コーティングに有用であるが、電線・ケーブルの被覆に対して、その多くは必須となる可とう性、熱衝撃に劣り、自己径巻き付けなどの曲げに対して割れ(クラック)などを生じやすいという問題があった。
【0014】
これに代わる方法として、吸水性ポリマに予め水を吸収させ膨潤させた含水吸水性ポリマを液状架橋硬化樹脂に分散させ、硬化後に含水吸水性ポリマ中の水を脱水することで、多孔質層を形成する方法がある。この方法は、コーティングの高速化が容易であり、環境負荷も小さく、優れた方法であるが、含水吸水性ポリマの分散量を多くすると、濡れ性の低下などにより外径変動が生じやすく、コーティング性が著しく低下するという問題があった。
【0015】
本発明の目的は、細径化・薄肉化を可能とした多孔質薄膜を形成材料として用いた多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線の製造方法、多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線、及び同軸ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
[1]第1の発明は、紫外線硬化型樹脂組成物に、吸水性ポリマに水を予め吸水させ吸水膨潤させた含水吸水性ポリマを分散して含水率40%以上を有する含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物と、前記含水吸水性ポリマを含まない紫外線硬化型樹脂組成物とを形成し、金属線上に、前記含水吸水性ポリマを含まない紫外線硬化型樹脂組成物と、前記含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物とを被覆して二層構造に形成した後、脱水処理を行うことを特徴とする多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線の製造方法にある。
【0017】
[2]第2の発明は、上記[1]記載の発明にあって、前記金属線上に前記含水吸水性ポリマを含まない紫外線硬化型樹脂組成物を塗布硬化させた後、当該紫外線硬化型樹脂組成物上に前記含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物を被覆して二層構造に形成することを特徴としている。
【0018】
[3]第3の発明は、上記[1]記載の発明にあって、前記金属線上に前記含水吸水性ポリマを含まない紫外線硬化型樹脂組成物と前記含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物とを同時に被覆して二層構造に形成することを特徴としている。
【0019】
[4]第4の発明は、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の発明にあって、前記含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物の粘度Aと前記含水吸水性ポリマを含まない紫外線硬化型樹脂組成物の粘度Bとが、A<Bの関係を有することを特徴としている。
【0020】
[5]第5の発明は、金属線と、前記金属線を被覆するスキン層と、前記スキン層を被覆する多孔質層とにより構成され、前記スキン層は、含水吸水性ポリマを含まない紫外線硬化型樹脂組成物からなり、前記多孔質層は、紫外線硬化型樹脂組成物に、吸水性ポリマに水を予め吸水させ吸水膨潤させた含水吸水性ポリマを分散して含水率40%以上を有する含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物からなることを特徴する多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線にある。
【0021】
[6]第6の発明は、上記[5]記載の発明にあって、前記多孔質層は、前記含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物を硬化させた後、加熱脱水処理して得られる多孔質紫外線硬化型樹脂からなることを特徴としている。
【0022】
[7]第7の発明は、上記[5]又は[6]記載の発明にあって、前記スキン層の厚さが、1μm以上10μm以下であることを特徴としている。
【0023】
[8]第8の発明は、上記[5]〜[7]のいずれかに記載の多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線の外周に、少なくとも金属からなるシールド体を設けたことを特徴とする同軸ケーブルを提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、細径化・薄肉化を達成し、外径変動が小さい多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線の製造方法、多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線、及び同軸ケーブルが効果的に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の典型的な実施の形態に係る多孔質膜被覆電線を模式的に示す横断面図である。
【図2】本発明に係る多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線を用いた同軸ケーブルを模式的に示す横断面図である。
【図3】本発明に係る多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線を用いた同軸ケーブルの他の一例を模式的に示す横断面図である。
【図4】本発明に係る典型的な実施例である多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線の外観写真である。
【図5】比較列1の多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線の外観写真である。
【図6】本発明に係る典型的な実施例である多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線の横断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて具体的に説明する。
【0027】
(被覆電線の構成)
図1において、全体を示す符号1は、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物を用いた被覆電線の一例を模式的に示している。この被覆電線1は、銅製などの金属撚り線で構成される導体2と、この導体2の外周に被覆形成されたスキン層3と、このスキン層3の外周に被覆形成された多孔質層4とにより主に構成されており、多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線とされている。
【0028】
スキン層3は含水吸水性ポリマを含まない紫外線硬化型樹脂組成物からなる。一方の多孔質層4は、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物からなり、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物を導体2の外周に被覆して硬化させた後、その硬化させた樹脂組成物を加熱して含水吸水性ポリマの水分を除去することで樹脂組成物の中に複数の空孔5が形成された多孔質層から構成される。
【0029】
この実施の形態に係る被覆電線1は、導体2の外周に含水吸水性ポリマを含まない紫外線硬化型樹脂組成物からなるスキン層3と、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物からなる多孔質層4とを被覆形成した二層構造とすることに特徴部を有している。この二層構造の被覆層は、導体2の外周にスキン層3を塗布硬化させた後、そのスキン層3の外周に多孔質層4を被覆して二層構造に形成してもよく、導体2の外周にスキン層3と多孔質層4とを同時に被覆して二層構造に形成してもよい。
【0030】
スキン層3の厚さは、1μm以上10μm以下の範囲に設定される。多孔質層4に用いられる含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物の粘度Aと、スキン層3に用いられる含水吸水性ポリマを含まない紫外線硬化型樹脂組成物の粘度Bとは、粘度A<粘度Bの関係を有する。多孔質層4の空孔率は、特に限定するものではないが、50%以上70%以下に設定している。
【0031】
金属線からなる導体2上にスキン層3を設けるのは、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物をコーティングする際の濡れ性を良くし、界面張力を低減させ、塗りムラのない安定した被覆層を形成するためである。
【0032】
スキン層3の厚さを1μm以上10μm以下の範囲に規定するのは、1μmより薄くすると、導体2の露出部が生じやすく、濡れ性にムラが生じやすいためである。一方、スキン層3の厚さを10μmより厚くすると、薄肉多孔質層の低誘電率効果が損なわれるためである。
【0033】
スキン層3に用いる含水吸水性ポリマを含まない紫外線硬化型樹脂組成物の粘度Bを、多孔質層4に用いる含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物の粘度Aより高くするのは、特に同時に被覆する場合に、材料の混ざり合いを抑え、安定した二層構造を形成させるためである。
【0034】
多孔質層4の空孔率を50%以上70%以下とするのは、空孔率が50%より低いと、低誘電率多孔質層としての効果が小さくなり、70%より高くしようとすると、含水吸水性ポリマの分散時において含水吸水性ポリマの分散が不安定になりやすくなり、コーティング性も低下するなどの問題を生じやすくなるためである。
【0035】
(同軸ケーブルの構成)
図2及び図3を参照すると、これらの図には同軸ケーブル8の一例が模式的に例示されている。なお、これらの図において上記被覆電線1と実質的に同じ部材には同一の部材名と符号を付している。この同軸ケーブル8としては、図2に示すように、被覆電線1の外周に金属からなるシールド体であるシールド線6aを被覆形成し、そのシールド線6aの外周に被覆層7を被覆形成することで、同軸ケーブル8が得られる。同軸ケーブル8の他の一例としては、図3に示すように、シールド線6aに代えて、金属含有合成樹脂からなるシールド体であるシールド層6bを多孔質層4上に被覆形成し、そのシールド層6bの外周に被覆層7を被覆形成した同軸ケーブル8であってもよい。
【0036】
(含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物)
ここで、上記のように構成された被覆電線及びケーブルに適用される含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物について説明する。この含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物としては、紫外線硬化型樹脂組成物の中に、吸水性ポリマに予め水を吸水させ吸水膨潤させた含水吸水性ポリマを分散させ、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物中の含水率が40%以上となるように、添加する含水吸水性ポリマの吸水量や添加量で含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物中の含水率が調整されたものを用いる。
【0037】
吸水性ポリマとは、非常に良く水を吸い込み、保水力が強いため、多少の圧力を加えても、吸水した水を放出しない高分子物質であり、含水吸水性ポリマとは、吸水性ポリマに水を吸水させたものである。吸水性ポリマとしては、ナトリウムを含まず、吸水量が20g/g以上のものが好ましい。代表的なものとしては、ポリアルキレンオキサイド系樹脂が挙げられる。
【0038】
ナトリウムを含まないというのは、電気絶縁性を低下させる要因になり易いためである。吸水量とは、吸水性ポリマ1gあたりに吸水される水の量(g)である。吸水量を20g/g以上とするのは、吸水量が20g/gより小さくなると、空孔形成効率が低くなり、吸水性ポリマを多く使用する必要があるためである。
【0039】
(誘電率)
紫外線硬化型樹脂組成物は、紫外線により硬化するものであれば、ウレタン系、シリコーン系、フッ素系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリカーボネート系などの各種の樹脂組成物を選択できるが、その樹脂組成物の誘電率としては、4以下、好ましくは3以下のものが好適である。
【0040】
なお、特に限定するものではないが、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物に、分散剤、レベリング剤、カップリング剤、着色剤、難燃剤、酸化防止剤、電気絶縁性向上剤、充填剤などを加えて使用してもよい。
【0041】
(含水率)
含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物の含水率を40%以上に調整するのは、それより低い場合には、含水吸水性ポリマによる金属線との濡れ性低下への影響が少なく、スキン層3を設けなくても安定した多孔質被覆層を形成できるためである。ここで、含水率とは、含水吸水性ポリマを分散した含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物中に占める水の割合をいう。
【0042】
(被覆電線の製造方法)
上記のように構成された被覆電線1は、以下の工程を経て製造される。
(1)紫外線硬化型樹脂組成物を準備するとともに、紫外線硬化型樹脂組成物に、吸水性ポリマに水を予め吸水させ吸水膨潤させた含水吸水性ポリマを分散して含水率40%以上とする含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物を準備する工程。
(2)導体2の外周に、含水吸水性ポリマを含まない紫外線硬化型樹脂組成物と、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物とを、定法に従い被覆して二層構造に形成した後、加熱して脱水処理を行う工程。
【0043】
吸水させた吸水性ポリマの水を加熱脱水するのには、マイクロ波加熱を利用することが好適である。このマイクロ波加熱を利用するのは、水はマイクロ波により急速に加熱されるため、吸水性ポリマや周囲の樹脂などに影響を与えることなく、短時間で加熱脱水ができるとともに、効率よく空孔5の形成ができるためである。導波管型マイクロ波加熱炉を用いることで、連続的に加熱脱水ができる。この加熱には、導波管型マイクロ波加熱炉と一般的な加熱炉とを組合せて用いてもよい。
【0044】
含水吸水性ポリマの水を加熱脱水するのは、スキン層及び多孔質層を架橋硬化させた後に行うと良い。これは、多孔質層が硬化する前に、含水吸水性ポリマ中の水を脱水してしまうと、樹脂組成物が十分に硬化していないため、脱水による吸水性ポリマの体積収縮によって、空孔5となる部分も同時に収縮してしまうからである。そのため、スキン層及び多孔質層を架橋硬化後に加熱し、多孔質層中に分散されている含水吸水性ポリマ中の水を脱水させることで、多孔質層の空隙率の低下を防止できるほか、膜厚や外径の変化を防止し、安定した電線やケーブルを得ることができるためである。更に、予め空孔5となる部分を予備した状態で多孔質層4を形成できるため、発泡させる必要がなく、従来のガス注入や発泡剤によるガス発泡により生じやすいスキン層3と多孔質層4との間の膨れや剥離による密着力の低下が全くない安定した被覆電線や同軸ケーブルが得られる。なお、同軸ケーブルは、上述したように、被覆電線の外周にシールド体を被覆して製造されるものであり、被覆電線と同様の効果が得られることは勿論である。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明の更に具体的な実施の形態として、実施例及び比較例を挙げて、多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線について説明する。
【0046】
(紫外線硬化型樹脂組成物A)
下記の 表1に、実施例1〜3、及び比較例1の紫外線硬化型樹脂組成物として例示した紫外線硬化型樹脂組成物Aの一例を示す。
【0047】
15MILブレードを用い、ガラス板上に紫外線硬化型樹脂組成物Aを窒素雰囲気下で紫外線照射量500mJ/cm2により硬化させ、膜厚が約200μmであるフィルムを作製した。空洞共振法により、紫外線硬化型樹脂組成物Aからなるフィルムの誘電率を求めたところ、周波数10GHzにおける誘電率は、2.70であった。このフィルムの粘度を測定したところ、25℃で4500mPa・sであり、40℃で2100mPa・sであり、60℃で1000mPa・sであり、80℃で450mPa・sであった。
【0048】
【表1】

【0049】
(含吸吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物B)
含水吸水性ポリマは、平均粒径50μmの吸水性ポリマ「アクアコークTWP−PF」
(住友精化製)を蒸留水と1:31の比率で混ぜ合わせ、24時間静置した後、高圧ホモ
ジナイザー(PANDA 2K型 Niro Soavi社製)を用いた。この含水吸水
性ポリマを、圧力130MPaで、1回の分散処理を実施した。
【0050】
この含水吸水性ポリマを紫外線硬化型樹脂組成物Aに含水率が50%になるように添加して、50℃に加温しながら、30分間、回転数600rpmで撹拌分散させ、含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物Bとして用意した。
【0051】
[実施例1]
40℃に加温して粘度2000mPa・sとした紫外線硬化型樹脂組成物Aを被覆厚10μmの内層(スキン層)とし、50℃に加温して粘度1000Pa・sとした含吸吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物Bを被覆厚100μmの外層(多孔質層)とした。加圧塗布槽で、撚り導体40AWG(7/0.03GAH−NN)上に内層と外層とを速度50m/minで同時に被覆し、これを紫外線照射炉(アイグラフィックス製6kW)2灯に通して硬化させた後、60℃乾燥炉で24時間の加熱脱水処理を行い、多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線を得た。
【0052】
[実施例2]
40℃に加温して粘度2000mPa・sとした紫外線硬化型樹脂組成物Aを被覆厚2μmの内層とし、50℃に加温して粘度1000mPa・sとした含吸吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物Bを被覆厚110μmの外層とした。加圧塗布槽で、撚り導体40AWG(7/0.03GAH−NN)上に内層と外層とを速度50m/minで同時に被覆し、これを紫外線照射炉(アイグラフィックス製6kW)2灯に通して硬化させた後、60℃乾燥炉で24時間の加熱脱水処理を行い、多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線を得た。
【0053】
[実施例3]
40℃に加温して粘度2000mPa・sとした紫外線硬化型樹脂組成物Aを被覆厚1μmより小さい内層とし、50℃に加温して粘度1000mPa・sとした含吸吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物Bを被覆厚110μmの外層とした。加圧塗布槽で、撚り導体40AWG(7/0.03GAH−NN)上に内層と外層とを速度50m/minで同時に被覆し、これを紫外線照射炉(アイグラフィックス製6kW)2灯に通して硬化させた後、60℃乾燥炉で24時間の加熱脱水処理を行い、多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線を得た。
【0054】
[比較例1]
紫外線硬化型樹脂組成物Aを被覆することなく、50℃に加温して粘度1000mpa・sとした含吸吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物Bを被覆厚110μmの外層とした。加圧塗布槽で、撚り導体40AWG(7/0.03GAH−NN)上に外層を速度50m/minで被覆し、これを紫外線照射炉(アイグラフィックス製6kW)2灯に通して硬化させた後、60℃乾燥炉で24時間の加熱脱水処理を行い、多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線を得た。
【0055】
(評価結果)
上記実施例1〜3、及び比較例1の多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線の外径変動について調べた結果を下記の表2にまとめて示す。上記実施例1〜3に係る被覆電線の外観形態を図4及び図6に示し、比較例1に係る被覆電線の外観形態を図5に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2及び図4から明らかなように、実施例1〜3の多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線では、スキン層(内層)を設けることにより、外径変動が小さく安定した被覆電線を得ることができるということが分かる。また、表2に示す実施例2及び3を比較すると、スキン層の厚さが1μmより厚いと、長手方向における外径変動が小さくなるということが分かる。図6から明らかなように、材料の混ざり合いを抑えることができるとともに、安定した二層構造を形成することができるということが分かる。
【0058】
表2及び図5から理解できるように、比較例1の多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線は、長手方向における外径変動が大きくなり、コーティング性が著しく低下する不均一な被覆電線であった。
【0059】
以上の説明から明らかなように、上記実施の形態及び実施例にあっては、多孔質紫外線
硬化型樹脂被覆電線の典型的な一例を挙げており、本発明は、これらの実施の形態及び実施例に特に限定されるものではない。本発明にあっては、多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線の外周にシールド体及び被覆層を被覆して製造される同軸ケーブルにも効果的に適用できることは勿論であり、各請求項に記載した範囲内で様々に設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 被覆電線
2 導体
3 スキン層
4 多孔質層
5 空孔
6a シールド線
6b シールド層
7 被覆層
8 同軸ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線硬化型樹脂組成物に、吸水性ポリマに水を予め吸水させ吸水膨潤させた含水吸水性ポリマを分散して含水率40%以上を有する含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物と、前記含水吸水性ポリマを含まない紫外線硬化型樹脂組成物とを形成し、金属線上に、前記含水吸水性ポリマを含まない紫外線硬化型樹脂組成物と、前記含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物とを被覆して二層構造に形成した後、脱水処理を行うことを特徴とする多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線の製造方法。
【請求項2】
前記金属線上に前記含水吸水性ポリマを含まない紫外線硬化型樹脂組成物を塗布硬化させた後、当該紫外線硬化型樹脂組成物上に前記含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物を被覆して二層構造に形成することを特徴とする請求項1記載の多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線の製造方法。
【請求項3】
前記金属線上に前記含水吸水性ポリマを含まない紫外線硬化型樹脂組成物と前記含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物とを同時に被覆して二層構造に形成することを特徴とする請求項1記載の多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線の製造方法。
【請求項4】
前記含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物の粘度Aと前記含水吸水性ポリマを含まない紫外線硬化型樹脂組成物の粘度Bとが、A<Bの関係を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線の製造方法。
【請求項5】
金属線と、前記金属線を被覆するスキン層と、前記スキン層を被覆する多孔質層とによ
り構成され、前記スキン層は、含水吸水性ポリマを含まない紫外線硬化型樹脂組成物からなり、前記多孔質層は、紫外線硬化型樹脂組成物に、吸水性ポリマに水を予め吸水させ吸水膨潤させた含水吸水性ポリマを分散して含水率40%以上を有する含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化樹脂組成物からなることを特徴する多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線。
【請求項6】
前記多孔質層は、前記含水吸水性ポリマ分散紫外線硬化型樹脂組成物を硬化させた後、加熱脱水処理して得られる多孔質紫外線硬化樹脂からなることを特徴とする請求項5記載の多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線。
【請求項7】
前記スキン層の厚さが、1μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項5又は6記載の多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の多孔質紫外線硬化型樹脂被覆電線の外周に、少なくとも金属からなるシールド体を設けたことを特徴とする同軸ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−104470(P2012−104470A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101524(P2011−101524)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】