説明

多孔質膜の形成方法及びその方法によって形成された多孔質膜

【課題】
多孔質膜の空孔を形成するための孔源材料として、抽出溶媒である超臨界流体との相溶性の優劣にかかわらず、種々のものを使用することができ、引いては空孔サイズや骨格構造の選択自由度の大きい多孔質膜の形成方法を提供する。
【解決手段】 本発明による多孔質膜の形成方法は、骨格材料と孔源材料とが混合状態で含まれる一次膜を形成する一次膜形成工程と、前記一次膜を構成する孔源材料を酸化性雰囲気中で酸化分解する分解工程と、前記分解工程によって分解された孔源材料を超臨界流体を用いて抽出する抽出工程とを有する。孔源材料としては界面活性剤が好ましく、界面活性剤は100℃〜150℃の酸化性雰囲気中で酸化分解することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼成プロセスを有しない多孔質膜の形成方法に関する。特に高周波回路の誘電体層や半導体集積回路(LSI)の層間絶縁膜に好適に用いられる多孔質低誘電率膜およびその形成方法として好適である。
【背景技術】
【0002】
半導体素子などにおける層間絶縁膜としてスピンオングラス(Spin-on-Glass:SOG)膜と呼ばれるSiO2 を主成分とする塗布型の絶縁膜が広く利用されている。また半導体素子の高集積化に伴い、有機成分を含有した低誘電率の層間絶縁膜が開発されている。しかしながら、半導体素子などのさらなる高集積化や多層化に伴い比誘電率が2以下の低誘電率の層間絶縁膜材料が求められるようになっている。
【0003】
2以下の比誘電率を実現するためには膜自体の密度を下げることが不可欠であり、そのためには多孔質材料を用いることが必要となる。しかし低誘電率化するために多孔質材料の密度を下げていくと、一般的にその機械的強度が著しく低下してしまう。これは低密度化のために導入された空孔が不均一に分散することに起因している。密度を下げた場合でも極力強度を維持するためには、例えばハニカム構造のような規則性の高い構造を実現することが有効である。
【0004】
規則的な構造を有する多孔質材料の製造方法として、特開平10−194720号公報(特許文献1)には、アルコキシシラン、水および界面活性剤を混合、反応させてシリカ/界面活性剤複合体を形成した後に、熟成、乾燥、焼成する方法が開示されている。
【0005】
また、周期構造を有する多孔質材料において薄膜を得る方法として、特開平9−194298号公報(特許文献2)には、テトラアルコキシシランを酸性下で加水分解し、これに界面活性剤を混合した溶液を塗布、乾燥して得られたシリカ−界面活性剤ナノ複合体を焼成する方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、これらの技術においては多孔質構造を実現するためには、多孔質構造の空孔の基になる孔源材料である界面活性剤を高温にて焼成分解するプロセスが必要であり、かつその温度を500℃以上にする必要がある。このため、半導体素子の層間絶縁膜工程には用いることができない。
【0007】
一方、低温において多孔質化が可能な方法として、特開2001−55508号公報(特許文献3)には、シリケート領域および非シリケート領域よりなる材料から、溶媒交換、流体交換にて非シリケート材料を抽出することにより、多孔質シリケート材とする方法が開示されている。また、抽出手段として超臨界抽出も挙げられている(請求項13)。広く一般的に知られているように、超臨界流体を利用するプロセスでは毛管収縮力が働かないため、溶媒抽出時における対象構造物の変形を非常に少なくすることができる。この文献の実施例においては、イソプロパノール単体の超臨界流体抽出を用いることが述べられている。
【0008】
また、具体的な実施例は開示されていないが、超臨界媒質に抽出すべき対象の成分と相溶性に優れる他の溶剤を添加することが、特開2002−367984号公報(特許文献4)や特開2002−363286号公報(特許文献5)に開示されている。
【0009】
また、特開2003−347291号公報(特許文献6)には、多孔質化剤としてナノスケールの微粒子であるテンプレートを含む無機材料組成物の塗膜に対し、超臨界流体を用いて前記テンプレートを溶かし出すことにより絶縁膜の多孔質化を行うことが記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開平10−194720号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平9−194298号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2001−55508号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2002−367984号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2002−363286号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開2003−347291号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記特許文献3の技術においては、非シリケート領域の全ての材料を取り除くことは困難である。多孔質化する前の状態では非シリケート領域には界面活性剤の他、光開始剤や光硬化した有機物など多くの物質が含まれており、超臨界流体は一般的に良好な溶媒として働くが、これらの全ての材料に対して混和性、相溶性があるわけではないからである。また、前記特許文献4および5の技術においても、抽出すべき対象の成分に対する抽出性能、すなわち相溶性は一般的に分子量に依存するため、分子量がある一定以上に大きくなった場合、他の溶剤を加えても相溶させることができなくなる。前記特許文献6の技術もテンプレートの分子量がある程度大きくなると、超臨界流体への溶解が困難になる。
すなわち、多孔質構造の形成において、孔源材料の除去手段として超臨界流体を用いる従来の方法では、使用する孔源材料がもともと超臨界流体と良好な相溶性を有するものでない限り、比誘電率の低い高品質の多孔質膜を形成することは困難である。このため、超臨界流体によって抽出される孔源材料の成分が限定され、最終的に形成される多孔質膜の空孔サイズや骨格構造などが制限されてしまうという問題がある。
【0012】
本発明はかかる問題に鑑みなされたもので、多孔質膜の空孔を形成するための孔源材料として、抽出溶媒である超臨界流体との相溶性の優劣にかかわらず、種々のものを使用することができ、引いては空孔サイズや骨格構造の選択自由度の大きい多孔質膜の形成方法、およびその方法によって形成された多孔質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による多孔質膜の形成方法は、多孔質膜の骨格を形成する骨格材料と多孔質膜の空孔の基となる孔源材料とが混合状態で含まれる一次膜を形成する一次膜形成工程と、前記一次膜を構成する孔源材料を酸化性雰囲気中で酸化分解する分解工程と、前記分解工程によって分解された孔源材料を超臨界流体を用いて抽出する抽出工程とを有する。
【0014】
この多孔質膜の形成方法によると、骨格材料と孔源材料とが混合状態で含まれる一次膜を形成した後に、一次膜の孔源材料を酸化分解する分解工程を設けるので、超臨界流体による抽出工程においては、分解工程によって低分子に分解され、超臨界流体との相溶性が向上した孔源材料に対して超臨界流体による抽出を行うことができる。このため、一次膜形成工程の段階では、孔源材料の分子量の大きさ、構造に制限はなく、幅広い種類の孔源材料を用いることができ、これに応じて種々の空孔サイズ、骨格構造の多孔質膜を形成することができる。しかも、超臨界流体による抽出工程の段階では、低分子に分解された孔源材料を抽出することができるので、超臨界抽出を効率的に行うことができ、生産性に優れる。もちろん、抽出工程において超臨界流体を用いるので、低温での処理が可能であり、例えば半導体素子の層間絶縁膜の形成に本発明は好適に適用される。また、孔源材料をいきなり超臨界流体により抽出する場合に対して、微細構造の変化を抑制することができる利点がある。
【0015】
また、前記孔源材料としては、有機物を用いることができ、特に界面活性剤が好ましい。界面活性剤は適度の濃度で使用することによってミセルを形成するため、規則的に孔源材料を配置することができ、引いては規則的な骨格を容易に形成することができる。さらに、界面活性剤の内でも非イオン性の界面活性剤が好適である。非イオン性界面活性剤は、酸化エチレンや酸化プロピレンの構造、すなわち構造中にC−Oの結合を有し、このような結合は酸化反応によって容易にC=Oの結合を形成することができるため、イオン性界面活性剤によりも酸化分解され易く、分解効率が高いからである。なお、非イオン性界面活性剤は、一次膜形成後の経時安定性がやや劣り、膜中から析出する傾向があるが、酸化分解によって安定化されるため、膜中の微細構造も安定化し、引いては高品質の微細構造の多孔質膜を得ることができる。
【0016】
前記孔源材料として界面活性剤を用いる場合、前記分解工程において、酸化性ガスを含有し、100℃〜150℃の酸化性雰囲気中で前記界面活性剤を酸化分解することが好ましい。かかる酸化分解条件によって、界面活性剤を簡単に酸化分解することができ、しかも界面活性剤が過度に酸化分解されず、一次膜からの離脱を有効に防止することができ、高品質の微細構造を有する多孔質膜を得ることができる。
【0017】
また、前記骨格材料としては、無機物、特にシリカを主成分とする無機物は多孔質膜の骨格として絶縁性、安定性に優れ、より誘電率の低い多孔質膜が得られるので好ましい。また、抽出工程において用いる超臨界流体としては、その主成分が二酸化炭素、アルキルアルコールまたはこれら混合物とするものが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の多孔質膜の形成方法によれば、孔源材料を酸化性雰囲気中で酸化分解する分解工程を有するので、孔源材料を低分子化して、その抽出を効率よく行うことができ、生産性に優れる。また、孔源材料の適用種類を拡大することができ、種々の空孔サイズ、骨格構造の多孔質膜を容易に形成することができる。勿論、本発明によれば、孔源材料を低温で抽出除去することができるので、半導体素子などの作製工程における層間絶縁膜の形成方法として好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の多孔質膜の形成方法は、(1) 多孔質膜の骨格を形成する基になる骨格材料と多孔質膜の空孔の基となる孔源材料とが混合状態で含まれる一次膜を形成する一次膜形成工程、(2) 前記一次膜を構成する孔源材料を酸化分解する分解工程、(3) 前記分解工程によって分解された孔源材料を超臨界流体を用いて抽出する抽出工程の3工程を備える。
【0020】
前記一次膜形成工程では、まず、後述する骨格材料と孔源材料とを水、あるいはさらにアルコールと共に混合、撹拌して、加水分解した骨格材料と孔源材料を溶かした一次膜形成溶液を作製する。この溶液をスピンコート法やロールコータなどによって基材の表面に塗布し、乾燥する。これにより、基材上に骨格材料と孔源材料とが均一に混合された一次膜を得る。前記一次膜に対して施される分解工程、抽出工程は、通常、前記一次膜を基材に保持した状態で実施される。
【0021】
前記分解工程では、孔源材料を酸化性雰囲気中で酸化分解するので、孔源材料を酸化させて低分子化することが可能になる。例えば、孔源材料として分子量の大きい界面活性剤を用いる場合、界面活性剤の分子量の大きさに応じて大きな空孔を形成することができるが、骨格材料と孔源材料である界面活性剤とが混合状態で含まれる一次膜を形成後、その界面活性剤を超臨界流体で直接抽出することは困難である。かかる分子量の大きな界面活性剤は、非常に長い鎖状に結合した分子構造を有しているが、これらの界面活性剤も酸化反応により容易に分断、分解される。このように長鎖構造の高分子が分解され、低分子化された界面活性剤は超臨界流体によって容易に抽出される。孔源材料の酸化分解後の分子量については、後述する超臨界流体の抽出能力を考慮して適宜設定すればよい。
ところで、分子量の測定については、一般的にGPC(ゲル浸透クロマト)分析が利用される。この方法は、測定対象の分子を溶媒に溶解させ、ゲルカラム中を浸透させ、このとき分子量によって浸透速度が異なることを利用してカラム中を透過してくる速度から分子量が見積もられる。しかし、前記分解工程で孔源材料を酸化分解する場合、酸化分解分子の化学的性質が変化してしまうので、前記分析法によって分子量を求めることには問題がある。すなわち、ゲルカラム中を浸透する速度は分子量だけでなく、ゲルとの相互作用にも依存するが、前記孔源材料のような界面活性剤分子においては、酸化分分解により材料自体の親水性、疎水性が変化する。すなわち界面活性剤分子とゲルとの相互作用が変化し、例えば相互作用が強くなった場合、浸透速度が低下する。このため、ゲルカラム中の浸透速度からそのまま分子量を算出することはできない。従って、酸化分解後の分子量については、後述の実施例で詳述するように、酸化分解前後における孔源材料の赤外吸光度から見積もることが推奨される。
【0022】
前記酸化性雰囲気としては、O2、O3、N2O、H22、HCl、HBr、Cl2、BCl3、HNO3 などの酸化性ガスからなる雰囲気、あるいは前記ガスを少なくとも0.1 vol%、好ましくは1 vol%以上含むガス雰囲気を用いることができる。酸化性ガスを希釈するガスとしては、窒素ガス、Ar,Heなどの希ガス等の不活性ガスが用いられる。前記酸化性ガス、不活性ガスは、1種あるいは2種以上を同時に使用することができる。前記酸化性ガスの内、H22、HCl、HBr、Cl2、BCl3、HNO3 は高濃度で使用すると有害なので、前記不活性ガスで希釈し、20 vol%以下で使用することが好ましい。また、孔源材料として界面活性剤を用いる場合、酸化分解反応を促進するには、雰囲気温度を好ましくは100℃〜150℃、より好ましくは110℃〜140℃とすることが望ましい。100℃未満では酸化反応の促進が不十分であり、一方150℃超では界面活性剤の分子が過度に分解され、抽出工程に至る前に膜から離脱し、また骨格材料自体が損傷し、微細構造に欠陥が生じるおそれがある。
【0023】
前記酸化分解反応は、孔源材料の酸化に起因するため、その反応は酸化性雰囲気の温度による制御の他、雰囲気の圧力、処理時間によっても制御することが可能である。工業的生産性を考慮すると以下のような条件で行うことが好ましい。
酸化性雰囲気の圧力としては、低圧側0.1Paから高圧側2MPa程度までが好ましい。低圧側で処理する場合、酸化性成分自体の濃度も低いため、反応促進の観点から、より活性な酸化性雰囲気を利用することが好ましい。具体的にはプラズマ状態の酸化性雰囲気や、酸素ラジカル、オゾンなど高活性な酸化種を含む雰囲気が挙げられる。一方、高圧側で利用する場合、界面活性剤の析出の観点から2MPa以下で処理することが好ましい。これまでの実験による知見によれば、2MPaを超えたあたりから析出が著しくなる。その他、酸化性雰囲気にて紫外線、電子線などの電磁波を併用することも反応促進に効果的である。
処理時間については、対象とする多孔質膜の膜厚によって必要な処理時間は異なってくるので、膜厚に応じて適宜処理条件を選定すればよい。もっとも、処理のスループット、生産性を考慮すると、分解工程の処理時間は数十分〜100分程度が好ましい。
【0024】
前記多孔質構造の骨格の基になる骨格材料としては、無機物のものが熱安定性、加工性、機械的強度の面で優れる。例えば、チタン、珪素、アルミニウム、硼素、ゲルマニウム、ランタン、マグネシウム、ニオブ、リン、タンタル、スズ、バナジウム、ジルコニウムなどの酸化物を挙げることができる。特に、これらの金属アルコキシドを原材料として用いることが好ましい。一次膜形成工程において、後述する孔源材料との混合性に優れるからである。
【0025】
具体的な金属アルコキシドとしては、
テトラエトキシチタニウム、テトライソプロポキシチタニウム、テトラメトキシチタニウム、テトラノルマルブトキシチタニウム、
テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラノルマルブトキシシラン、トリエトキシフロロシラン、トリエトキシシラン、トリイソプロポキシフロロシラン、トリメトキシフロロシラン、トリメトキシシラン、トリノルマルブトキシフロロシラン、トリノルマルプロポキシフロロシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルジエトキシクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリスメトキシエトキシビニルシラン、
トリエトキシアルミニウム、トリイソブトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリメトキシアルミニウム、トリノルマルブトキシアルミニウム、トリノルマルプロポキシアルミニウム、トリセカンダリーブトキシアルミニウム、トリターシャリーブトキシアルミニウム、
トリエトキシボロン、トリイソブトキシボロン、トリイソプロポキシボロン、トリメトキシボロン、トリノルマルブトキシボロン、トリセカンダリーブトキシボロン、
テトラエトキシゲルマニウム、テトライソプロポキシゲルマニウム、テトラメトキシゲルマニウム、テトラノルマルブトキシゲルマニウム、
トリスメトキシエトキシランタン、
ビスメトキシエトキシマグネシウム、
ペンタエトキシニオビウム、ペンタイソプロポキシニオビウム、ペンタメトキシニオビウム、ペンタノルマルブトキシニオビウム、ペンタノルマルプロポキシニオビウム、
トリエチルフォスフェイト、トリエチルフォスファイト、トリイソプロポキシフォスフェイト、トリイソプロポキシフォスファイト、トリメチルフォスフェイト、トリメチルフォスファイト、トリノルマルブチルフォスフェイト、トリノルマルブチルフォスファイト、トリノルマルプロピルフォスフェイト、トリノルマルプロピルフォスファイト、
ペンタエトキシタンタル、ペンタイソプロポキシタンタル、ペンタメトキシタンタル、
テトラターシャリーブトキシスズ、酢酸スズ、トリイソプロポキシノルマルブチルスズ、
トリエトキシバナジル、トリノルマルプロポキシオキシバナジル、トリスアセチルアセトナトバナジウム、
テトライソプロポキシジルコニウム、テトラノルマルブトキシジルコニウム、テトラターシャリーブトキシジルコニウムなどが挙げられる。
【0026】
上記例示した金属アルコキシドの中でも、テトライソプロポキシチタニウム、テトラノルマルブトキシチタニウム、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラノルマルブトキシシラン、トリイソブトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウムが好ましい。
【0027】
また、上記金属アルコキシドの内でも、シリカを主成分とする無機物、例えばテトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシランなどのシリコンアルコキシドは、より誘電率の低い多孔質膜が得られるため好ましい。
【0028】
前記孔源材料としては、骨格材料中に孔源として容易に分散させることができる有機物を用いることが好ましい。このような有機物としては界面活性剤が好適である。界面活性剤は、適度な濃度で用いることにより、界面活性剤分子がより集まった集合体であるミセルを形成する。さらにこのミセルはその濃度に応じて、円筒状、層状など規則的な構造に配列する。その結果、各ミセルの周りに形成される骨格材料も規則構造を有するようになる。すなわち、骨格中にミセルが形成されるので規則的に孔源を配置させることが可能になる。規則的な空孔構造を導入することで、多孔質構造の機械的強度を向上させることができる。
【0029】
前記界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤やイオン性界面活性剤などを用いることができる。前記非イオン性界面活性剤としては、酸化エチレン誘導体、酸化プロピレン誘導体及びそれらの共重合体などを利用することができる。
【0030】
前記酸化エチレン誘導体、酸化プロピレン誘導体としては、具体的には、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレインエーテル、ポリオキシエチレンヤシアルコールエーテル、ポリオキシエチレン精製ヤシアルコールエーテル、ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレン合成アルコールエーテル、ポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレン長鎖アルキルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンベンジルエーテル、ポリオキシエチレンβ−ナフチルエーテル、ポリオキシエチレンビスフェノール−A−エーテル、ポリオキシエチレンビスフェノール−F−エーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレン牛脂アミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレン牛脂プロピレンジアミン、ポリオキシエチレンステアリルプロピレンジアミン、ポリオキシエチレンN−シクロヘキシルアミン、ポリオキシエチレンメタキシレンジアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミド、ポリオキシエチレンステアリルアミド、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノ牛脂オレエート、ポリオキシエチレンモノトール油脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンジステアレート、ポリオキシエチレンロジンエステル、ポリオキシエチレンウールグリスエーテル、ポリオキシエチレンラノリンエーテル、ポリオキシエチレンラノリンアルコールエーテル、ポリオキシエチレンポリエチレングリコール、ポリオキシエチレングリセロールエーテル、ポリオキシエチレントリメチロールプロパンエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールエーテル、ポリオキシエチレンペンタエリスリトールジオレエートエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモステアレートエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン2−エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン合成アルコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン牛脂アミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレン2−エチルヘキシルエーテル、ポリオキシプロピレン合成アルコールエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシプロピレンビスフェノール−A−エーテル、ポリオキシプロピレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシプロピレンメタキシレンジアミンなどを用いることができる。
【0031】
また、前記酸化エチレン誘導体、酸化プロピレン誘導体の共重合体としては、上記誘導体の共重合体を用いることができ、市販されているものとしては、BASF社のPluronicシリーズが挙げられる。具体的にはPluronic L31、L35、L42、L43、L44、L61、L62、L63、L64、L72、L81、L92、L101、L121、L122、P65、P75、P84、P85、P103、P104、P105、P123、F38、F68、F77、F87、F88、F98、F108、F127、10R5、10R8、12R3、17R1、17R2、17R4、17R8、22R4、25R1、25R2、25R4、25R5、25R8、31R1、31R2、31R4が利用可能である。上記の界面活性剤は、1種あるいは2種以上を同時に使用することができる。
【0032】
前記イオン性界面活性剤としては、CnH2n+1(CH3)2N+M-、CnH2n+1(C2H5)2N+M- (Mは陰イオンとなる元素を示す)、CnH2n+1NH2、H2N(CH2)nNH2 で表される炭素数8〜24のアルキル基を有する第4級アルキルアンモニウム塩、具体的には、
ドデカニルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデカニルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクタデカニルトリメチルアンモニウムクロリド、
ドデカニルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデカニルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデカニルトリメチルアンモニウムブロミド、
ドデカニルトリエチルアンモニウムクロリド、テトラデカニルトリエチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリエチルアンモニウムクロリド、オクタデカニルトリエチルアンモニウムクロリド、
ドデカニルトリエチルアンモニウムブロミド、テトラデカニルトリエチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリエチルアンモニウムブロミド、オクタデカニルトリエチルアンモニウムブロミドなどが挙げられる。
【0033】
その他、イオン性界面活性剤として、1分子中に複数の親水性基と複数の疎水性基を有する、いわゆるジェミニ界面活性剤、例えば、CnH2n+1X2N+M-(CH2)SN+M-X2CmH2m+1のような構造ものものが挙げられる(n、m=5〜20、S=1〜10)。ここで、Mは水素原子または塩形成性の陰イオン(具体的にはCl-、Br-など)を示し、Xは水素原子または低級アルキル基(具体的にはCH3、C2H5など)を示す。具体的には、C12H25(CH3)2N+Cl-(CH2)4N+Cl-(CH3)2C12H25、C12H25(CH3)2N+Br-(CH2)4N+Br-(CH3)2C12H25、C16H33(CH3)2N+Cl-(CH2)4N+Cl-(CH3)2C16H33、C16H33(CH3)2N+Br-(CH2)4N+Br-(CH3)2C16H33などが挙げられる。
【0034】
酸化分解後の孔源材料を抽出する超臨界流体は、その主たる成分として、二酸化炭素またはアルキルアルコール(アルキルアルコールは、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの一種または二種以上の混合物でもよい。これらを総称してアルキルアルコールと呼ぶ。)を用いることができる。工業的には、二酸化炭素およびアルキルアルコールの混合物を用いることが好ましい。これらの超臨界流体はいずれも種々の物質と幅広く相溶させることができる。前記アルキルアルコールは、超臨界流体を形成するほか、孔源材料の抽出促進作用を有する。
前記超臨界流体の孔源材料の抽出能力は、超臨界流体の密度に大きく依存する。超臨界流体の密度は温度、圧力によって変化させることができるが、実用的には0.2g/cm3 〜0.9g/cm3 程度である。超臨界流体の密度を上記範囲とする場合、抽出可能な分子量は高々1500程度である。このため、超臨界流体を実用的な密度に設定する場合、孔源材料の酸化分解後の分子量としては1500以下が好ましい。
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定的に解釈されるものではない。
【実施例】
【0036】
骨格材料としてテトラエトキシシランSi(C2H5O)4を1.9gと、孔源材料としてPluronic F127(BASF社製)2.578gと、エタノール8.846g、水3.43gを混合し、60℃にて約1時間撹拌し、透明、均一で粘性を有した溶液を調整した。得られた溶液をスピンコート法により基材上に回転塗布し、続いて大気中100℃にて乾燥させて、膜厚約0.01mmの一次膜を形成した。 一方、炉内に大気圧下で酸素ガスを流量1L/min で流通させた電気炉を準備し、炉内温度を130℃に設定し、炉内に前記一次膜を基材ごと収容して、同温度で30分間保持した後、前記一次膜を基材ごと取り出した。このようにして、孔源材料の酸化分解処理を行った結果、酸化分解前に分子量が約15000であった孔源材料は、分解後、分子量が約110になっていた。
前記孔源材料の酸化分解後の分子量は、酸化分解熱処理前後の赤外吸光度から以下の要領で見積もった。図2は、後述するように、FTIR分析によって得られた波数と吸光度との関係を示すグラフであるが、酸化処理前後の赤外吸光度の約2880cm-1の吸収バンド強度に着目した。これはC−H結合に起因するバンドであるが、酸化処理によって約40%の減少がみられた。孔源材料として用いたF127はポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドのブロック重合体であるが、これは酸化分解されることにより−C−O−C−の部分の結合が切断され、C=Oが生成されるとともにC−H結合が消失する。この材料自体には、大まかに見積もると約340個の−C−O−C−が存在しており、この内40%のC−H結合が消失したと考えられるので、136個の−C−O−C−が切断されたことになる。すなわち元の分子が136分割されたことに相当する。これより、元の分子量が15000程度であることから、分解後の分子量は約110程度と見積もられた。この値は、超臨界抽出可能な分子量の上限の1500と比べ十分に小さく、超臨界流体によって抽出容易なサイズである。
【0037】
上記のようにして、孔源材料の酸化分解処理を行った後、超臨界抽出を以下の要領で行った。
前記基材を高圧容器内に配した後、高圧容器に80℃の二酸化炭素を導入し、調圧弁を調整することによって高圧容器内の圧力を15MPaまで上昇させて超臨界状態とした。この二酸化炭素の超臨界流体の密度(理論値)は0.43g/cm3 程度である。この超臨界状態で、二酸化炭素を10mL/min (液化炭酸状態の流量)の速度で流通させつつ、抽出促進剤としてメタノールを1mL/min の速度で添加供給し、60分間、超臨界抽出処理を行った。メタノールの供給を停止した後、二酸化炭素のみを10mL/min の速度で流通させ、10分間保持することで、容器内のメタノールを排出した。その後、高圧容器を減圧し、基材を取り出した。
【0038】
得られた基材上には透明な膜が形成されていた。基材上に形成された膜に対して電子顕微鏡観察を行った。その結果、10nmの規則構造が形成されていることが確認された。
また、FTIR(フーリエ変換赤外分光法)分析を行った結果、図1に示すように、超臨界抽出処理により超臨界抽出前に現れていた2880cm-1付近のCH結合に起因するピークが消失しており、Pluronic F127が完全に除去されていることが確認された。また、超臨界抽出前に現れていた1725cm-1付近のC=O結合に起因するピークが消失しており、Pluronic F127が酸化された部分も完全に除去されていることが確認された
酸素雰囲気での熱処理による膜の変化についてもFTIR分析を行った。その結果を図2に示す。図2より、熱処理前には1725cm-1付近にC=0に起因する吸収ピークは観察されていないが、酸素雰囲気での熱処理により1725cm-1付近に吸収ピークが観察されており、Pluronic F127が酸素雰囲気での熱処理により、酸化分解されたことが確認された。
そして、得られた膜上にAl電極を形成した後、静電容量測定を行い、その比誘電率を求めたところ、比誘電率1.5が得られた。これより、極めて高品質な多孔質膜が形成されたことが確認された。
【0039】
一方、比較例として、一次膜に対して、大気圧、窒素雰囲気にて、130℃、60分の熱処理を施し、また超臨界抽出の際に抽出促進剤としてのメタノールの添加供給時間を30分とし、その他は上記実施例と同様の条件で多孔質膜を形成した。
得られた基材上には透明な膜が形成されていたが、液滴様の物質が基材上に点在していた。また、形成された膜について電子顕微鏡観察を行った結果、規則構造は全く観察することができなかった。
また、FTIR分析を行った結果、超臨界抽出処理後も2880cm-1付近のCH結合に起因するピークは残存しており、Pluronic F127の除去は認められなかった。また、窒素雰囲気処理では、処理後に1725cm-1付近の吸収ピークは観察されず、窒素雰囲気での処理では、Pluronic F127は分解しなかった。
そして、上記実施例と同様にして、得られた膜の静電容量測定を行い、その比誘電率を求めたところ、比誘電率は3であり、窒素雰囲気での熱処理では孔源材料の除去が不十分であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例における超臨界抽出処理の前後における波数と吸光度との関係を示すグラフである。
【図2】実施例における酸化性雰囲気中での熱処理の前後における波数と吸光度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜の骨格を形成する骨格材料と多孔質膜の空孔の基となる孔源材料とが混合状態で含まれる一次膜を形成する一次膜形成工程と、前記一次膜を構成する孔源材料を酸化性雰囲気中で酸化分解する分解工程と、前記分解工程によって分解された孔源材料を超臨界流体を用いて抽出する抽出工程とを有することを特徴とする多孔質膜の形成方法。
【請求項2】
前記孔源材料は有機物である請求項1に記載した多孔質膜の形成方法。
【請求項3】
前記有機物は界面活性剤である請求項2に記載した多孔質膜の形成方法。
【請求項4】
前記界面活性剤は非イオン性界面活性剤である請求項3に記載した多孔質膜の形成方法。
【請求項5】
前記分解工程は、酸化性ガスを含有し、100℃〜150℃の酸化性雰囲気中で前記界面活性剤を酸化分解する、請求項3又は4に記載した多孔質膜の形成方法。
【請求項6】
前記骨格材料は無機物である請求項1から5のいずれか1項に記載した多孔質膜の形成方法。
【請求項7】
前記無機物はシリカを主成分とする無機物である請求項6に記載した多孔質膜の形成方法。
【請求項8】
前記超臨界流体は、その主成分が二酸化炭素、アルキルアルコールまたはこれら混合物である請求項1から7のいずれか1項に記載した多孔質膜の形成方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載された方法によって形成された多孔質膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−104441(P2006−104441A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199598(P2005−199598)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究成果に係る特許出願(平成16年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「高速モバイル通信のための超低損失誘電体基板に関する基盤研究」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】