説明

多孔質電極基材の製造方法、それを用いた膜−電極接合体、および燃料電池

【課題】充分なガス透気度を備え、厚み方向にも貫通方向にも導電性に優れ、加湿条件の変動による電池性能の変動が少ない多孔質電極基材の製造方法、膜−電極接合体、および燃料電池を提供する。
【解決手段】以下の工程を順に行う多孔質電極基材の製造方法。
(A)炭素短繊維とバインダー短繊維とを二次元平面内において分散し、炭素短繊維紙を作製する工程
(B)フェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンとを溶解したメタノール溶液を前記炭素短繊維紙に含浸して前駆体シートを作製する工程
(C)前記前駆体シート中のフェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンとを相分離させる工程
(D)相分離した前駆体シート中のフェノール樹脂組成物を凝固させる工程;
(E)次いで、メタノールを除去したフェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンとを含む前駆体シートを得る工程
(F)(E)工程で得られた前駆体シートを炭素化処理して多孔質電極基材を得る工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質電極基材の製造方法、ならびにその多孔質電極基材を用いた膜−電極接合体および燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の多孔質電極基材の製造方法では、充分なガス透気度、厚みおよび貫通方向抵抗を備え、燃料電池とした時に、加湿条件の変動によっても電池性能の変動が少ない高い水分管理機能を発揮する多孔質電極基材、膜−電極接合体、および燃料電池は得られなかった。
特許文献1には、厚みが0.05〜0.5mmで嵩密度が0.3〜0.8g/cmであり、かつ、歪み速度10mm/min、支点間距離2cmおよび試験片幅1cmの条件での3点曲げ試験において曲げ強度が10MPa以上でかつ曲げの際のたわみが1.5mm以上であることを特徴とする燃料電池用多孔質炭素電極基材が記載されている。
しかし、この多孔質電極基材は、機械的強度、表面平滑性が高く、十分な導電性は有しているもの、均一性の高い構造であるために、保水性と、生成水の排水性のバランスを保つことが困難であるという問題があった。
特許文献2には、一方の面に触媒層が形成されたカーボンシートからなり、前期一方の面から他方の面に亘って複数の貫通孔が形成されていることを特徴とするガス拡散電極が記載されている。この多孔質電極基材は、高いガス拡散性を有しているものの、機械的強度を維持することと、保水性を保つことが困難であるといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2001/056103号パンフレット
【特許文献2】特開2002/110182号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、充分に高いガス透気度を備え、厚み方向にも貫通方向にも導電性に優れ、燃料電池とした時に、加湿条件の変動によっても電池性能の変動が少ない高い水分管理機能を発揮する多孔質電極基材の製造方法、膜−電極接合体、および燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の通りである。
(1)以下(A)〜(F)の工程を順に行う多孔質電極基材の製造方法。
(A)炭素短繊維と、バインダー短繊維とを二次元平面内において分散し、炭素短繊維紙を作製する工程;
(B)フェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンとを溶解したメタノール溶液を前記炭素短繊維紙に含浸して前駆体シートを作製する工程;
(C)前記前駆体シート中のフェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンとを相分離させる工程;
(D)相分離した前駆体シート中のフェノール樹脂組成物を凝固させる工程;
(E)次いで、メタノールを除去したフェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンとを含む前駆体シートを得る工程;および
(F)(E)工程で得られた前駆体シートを炭素化処理して多孔質電極基材を得る工程
(2)(F)工程において、乾燥した前駆体シートを炭素化処理する前に加熱加圧する(1)の多孔質電極基材の製造方法。
(3)(1)または(2)の多孔質電極基材を用いた膜−電極接合体。
(4)(3)の膜−電極接合体を用いた燃料電池。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、充分に高いガス透気度を備え、厚み方向にも貫通方向にも導電性に優れ、燃料電池とした時に、加湿条件の変動によっても電池性能の変動が少ない高い水分管理機能を発揮する多孔質電極基材の製造方法、膜−電極接合体、および燃料電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1の多孔質電極基材の表面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<炭素短繊維>
本発明で用いる炭素短繊維の原料である炭素繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などいずれであっても良いが、PAN系炭素繊維が好ましい。特に、多孔質炭素電極基材の機械的強度が比較的高くできることから、PAN系炭素繊維のみからなることが好ましい。
炭素短繊維の直径は、炭素短繊維の生産コスト、分散性の面から、3〜9μmであることが好ましい。最終的に得られる多孔質電極基材の平滑性の面から、4μm以上、8μm以下であることがさらに好ましい。
炭素短繊維の繊維長は、分散性の点から、2〜12mmが好ましい。
【0009】
<分散>
本発明において、「二次元平面内において分散」とは、炭素短繊維がおおむね一つの面を形成するように横たわっているという意味である。これにより炭素短繊維による短絡や炭素短繊維の折損を防止することができる。二次元平面内での炭素短繊維の配向方向は実質的にランダムであっても、特定方向への配向性が高くなっていても良い。
【0010】
<製造方法>
本発明の多孔質電極基材の製造方法は、以下に示す方法である。
以下(A)〜(F)の工程を順に行う多孔質電極基材の製造方法である。
(A)炭素短繊維と、バインダー短繊維とを二次元平面内において分散し、炭素短繊維紙を作製する工程;
(B)フェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンとを溶解したメタノール溶液を前記炭素短繊維紙に含浸して前駆体シートを作製する工程;
(C)前記前駆体シート中のフェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンとを相分離させる工程;
(D)相分離した前駆体シート中のフェノール樹脂組成物を凝固させる工程;
(E)次いで、メタノールを除去したフェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンとを含む前駆体シートを得る工程;および
(F)(E)工程で得られた前駆体シートを炭素化処理して多孔質電極基材を得る工程;
(F)工程において、乾燥した前駆体シートを炭素化処理する前に加熱加圧しても良い。
【0011】
<バインダー短繊維>
バインダー短繊維は、炭素短繊維を含む前駆体シート中で各成分をつなぎとめるバインダー(糊剤)として使用される。バインダー短繊維としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニルなどを用いることができる。特にポリビニルアルコールは前駆体シート作製工程での結着力に優れるため、炭素短繊維の脱落が少なくバインダーとして好ましい。
【0012】
<前駆体シートを作製する工程>
炭素短繊維とバインダー短繊維とを二次元平面内において分散させて、前駆体シートを作製する方法としては、液体の媒体中に炭素短繊維とバインダー短繊維を分散させて抄造する湿式法や、空気中に炭素短繊維とバインダー短繊維を分散させて降り積もらせる乾式法が適用できるが、中でも湿式法が好ましい。炭素短繊維が単繊維に分散するのを助け、分散した単繊維が再び収束を防止するのを防ぐことができる。
【0013】
炭素短繊維とバインダー短繊維を混合する方法としては、炭素短繊維とともに水中で攪拌分散させる方法と、直接混ぜ込む方法があるが、均一に分散させるためには水中で拡散分散させる方法が好ましい。このようにバインダー短繊維を混ぜることにより、炭素繊維紙の強度を保持し、その製造途中で炭素繊維紙から炭素短繊維が剥離したり、炭素短繊維の配向が変化したりするのを防止することができる。
【0014】
また、前駆体シートの作製は連続で行う方法やバッチ式で行なう方法があるが、本発明において行なう前駆体シートの作製は、特に目付のコントロールが容易であるという点と生産性及び機械的強度の観点から連続が好ましい。前駆体シートの目付けは、10〜200g/mとすることが好ましい。
【0015】
<フェノール樹脂組成物>
本発明で用いるフェノール樹脂組成物は、炭素化可能なものである。炭素化後も導電性物質として残存する物質であり、常温において粘着性、あるいは流動性を示す。用いる樹脂の種類、後述する樹脂の含浸の際の含浸量、硬化、炭素化温度によって残存する炭素化量が異なる。フェノール樹脂組成物として、フェノール類とアルデヒド類の反応によって得られるレゾールタイプフェノール樹脂単体を用いることもできるが、固体の熱融着性を示すノボラックタイプのフェノール樹脂を混合させることも好ましい。
【0016】
<ポリビニルピロリドン>
本発明で用いるポリビニルピロリドンは、フェノール樹脂組成物と相分離可能な樹脂である。炭素化時に導電性物質としてほとんど残存しない物質としては、ポリビニルピロリドンを用いることができ、フェノール樹脂組成物を用いる場合は、ポリビニルピロリドンが相分離構造を形成した後、洗浄によって容易に除去できる。
【0017】
<フェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンの含浸方法>
前駆体シートにフェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンを含浸する方法としては、前駆体シートに樹脂組成物を含浸させることができればよく、特に限定されないが、コーターを用いて前駆体シート表面に樹脂を均一にコートする方法、絞り装置を用いるdip−nip方法、若しくは前駆体シートと樹脂フィルムを重ねて樹脂を前駆体シートに転写する方法が、連続的に行うことができ、生産性及び長尺ものも製造できるという点で好ましい。
【0018】
<フェノール樹脂組成物の含浸量>
多孔質電極基材に排水性と保湿性、ガス拡散性のバランスを保つことができる水分管理機能を発現させるためにはフェノール樹脂組成物が炭化した多孔質炭素が、炭素短繊維100質量部に対し20〜50質量部であることが好ましいため、前駆体シートに含浸させる炭素化可能な樹脂量は、炭素短繊維100質量部に対し、70〜120質量部含浸させることが好ましい。
【0019】
<ポリビニルピロリドンの含浸量>
フェノール樹脂組成物が炭化した多孔質炭素の強度を維持し、かつ多孔質電極基材に排水性と保湿性、ガス拡散性のバランスを保つことができる水分管理機能を発現させるためには抄紙体に含浸させるポリビニルピロリドン量は、炭素化可能な樹脂100質量部に対し、30〜300質量部含浸させることが好ましい。
【0020】
<フェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンの相分離>
フェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンの相分離は、炭素短繊維とバインダー短繊維とを二次元平面内において分散させて成る前駆体シートにフェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンの混合溶液を含浸させた後、静置または吸湿させ相分離構造を形成させる。
例えば、フェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンとし、雰囲気を相対湿度90%温度60度とした場合は、好ましい相分離時間は5秒〜2分である。
その後、含浸させたフェノール樹脂組成物に対し、貧溶媒となる凝固浴中に浸漬させ、フェノール樹脂組成物を凝固させ、相分離構造を固定化することによって行う。凝固浴に用いる溶媒としては、一般的には水系溶媒を用いることができるが、フェノール樹脂組成物に対して貧溶媒となるものであれば特に限定されない。
また、単一溶媒であっても、複数の溶媒を混ぜた混合溶媒を用いても良い。フェノール樹脂組成物を用いた場合は、水や水/アルコールの混合溶媒などを用いることができる。
フェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンとの相分離構造のサイズは、静置時間、吸湿時間、吸湿量、凝固浴中での凝固速度に依存するため、前駆体シートに含浸させた際のフェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンの混合溶液濃度、混合比、相分離時間、相分離時の雰囲気湿度、凝固浴組成、凝固浴温度によって精密に制御することができる。樹脂溶液濃度としては、含浸時の作業性の点で5〜40質量%とすることが好ましい。
【0021】
<炭素化処理>
フェノール樹脂組成物を凝固された前駆体シートは、そのまま炭素化処理することができる。その他、得られた前駆体シートを加熱加圧成型後に炭素化処理することが可能である。フェノール樹脂組成物を凝固された前駆体シートの炭素化処理は、炭素短繊維をフェノール樹脂組成物で融着させ、かつフェノール樹脂組成物を炭素化することより、多孔質電極基材の機械的強度と導電性を発現させることを目的に行う。
炭素化処理は、多孔質電極基材の導電性を高めるために、不活性ガス中で行うことが好ましい。炭素化処理は、1000℃以上の温度で行う。1000〜3000℃の温度範囲で炭素化処理することが好ましく1000〜2200℃の温度範囲がより好ましい。1000℃未満の温度で炭素化処理して得られた多孔質電極基材は、導電性が十分ではない。炭素化処理の前に300〜800℃の程度の不活性雰囲気での焼成による前処理を行っても良い。
炭素化処理の時間は、例えば10分〜1時間とすることができる。
連続製造によるフェノール樹脂組成物を凝固された前駆体シートを炭素化処理する場合は、前駆体シートの全長にわたって連続で炭素化処理を行うことが、低コスト化という観点で好ましい。多孔質電極基材が長尺であれば、多孔質電極基材の生産性が高くなるだけでなく、その後のMEA製造も連続で行うことができ、燃料電池のコスト低減に大きく寄与することができる。また、本発明の製造方法で得られる多孔質電極基材は、連続的に巻き取ることも可能で、多孔質電極基材や燃料電池の生産性、コストの観点から好ましい。
【0022】
<加熱加圧成型>
フェノール樹脂組成物を凝固された前駆体シートは、炭素化処理の前に、200℃以下の温度で加熱加圧成型することが、炭素短繊維をポフェノール樹脂組成物で融着させ、かつ、多孔質電極基材の厚みムラを低減できるという点で好ましい。加熱加圧成型は、抄紙体を均等に加熱加圧成型できる技術であれば、いかなる技術も適用できる。その例としては、上下両面から平滑な剛板にて熱プレスする方法や連続ベルトプレス装置を用いて行う方法がある。
連続製造によるフェノール樹脂組成物を凝固された前駆体シートを加熱加圧成型する場合は、連続ベルトプレス装置を用いて行う方法が、長尺の多孔質電極基材ができるという点で好ましい。多孔質電極基材が長尺であれば、多孔質電極基材の生産性が高くなるだけでなく、その後のMEA製造も連続で行うことができ、燃料電池のコスト低減化に大きく寄与することができる。また、本発明の製造方法で得られる多孔質電極基材は、連続的に巻き取ることも可能で、多孔質電極基材や燃料電池の生産性、コストの観点から好ましい。連続ベルト装置におけるプレス方法としては、ロールプレスによりベルトに線圧で圧力を加える方法と液圧ヘッドプレスにより面圧でプレスする方法があるが、後者の方がより平滑な多孔質電極基材が得られるという点で好ましい。
加熱温度は、効果的に表面を平滑にするために、200℃以下が好ましく、120〜190℃がより好ましい。
成型圧力は特に限定されないが、フェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンの比率が多い場合は、成型圧が低くても前駆体シートの表面を平滑にすることが容易である。このとき必要以上にプレス圧を高くすることは、成型時に炭素短繊維を破壊する、多孔質電極基材としたときその組織が緻密になりすぎるなどの問題が生じる場合がある。例えば、20kPa〜10MPaの圧力で加圧することができる。
加熱加圧成型の時間は、例えば30秒〜10分とすることができる。
剛板に挟んで、又連続ベルト装置で抄紙体の加熱加圧成型を行う時は、剛板やベルトにフェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンなどが付着しないようにあらかじめ剥離剤を塗っておくか、前駆体シートと剛板やベルトとの間に離型紙を挟んで行うことが好ましい。
【0023】
<多孔質電極基材>
本発明の製造方法で得られる多孔質電極基材の厚みは、50〜300μmであることが好ましい。
【0024】
<膜−電極接合体(MEA)、燃料電池>
以上のような本発明の製造方法で得られる多孔質電極基材は、膜−電極接合体に好適に用いることができる。そして、本発明の多孔質電極基材を用いた膜−電極接合体は、燃料電池に好適に用いることができる。
【実施例1】
【0025】
炭素短繊維として、平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維を用意した。また、バインダー短繊維として、平均繊維長が3mmのポリビニルアルコール(PVA)短繊維(クラレ(株)製、商品名:VBP105−1)を用意した。
炭素短繊維100質量部を水中に均一に分散して単繊維に解繊し、十分に分散したところに、PVA短繊維25質量部を均一に分散し、標準角型シートマシン(熊谷理機工業(株)製、商品名:No.2555 標準角型シートマシン)を用いてJIS P−8209法に準拠して手動により前駆体シート作製を行い、乾燥させて、目付けが25g/mの前駆体シートを得た。炭素短繊維の分散状態は良好であった。
前駆体シートに、13質量%フェノール樹脂組成物と10質量%ポリビニルピロリドンを含むメタノール溶液を含浸させた後、相対湿度90%の温度60℃の蒸気中で30秒間静置し、相分離構造を形成させた後、57℃の水からなる凝固浴中に浸漬させることにより、ポリアクリロニトリルを凝固させ相分離構造を固定化させた。その後、80℃の乾燥機中で乾燥させることによって、目付けが63g/mのポリアクリロニトリルとポリビニルピロリドン含浸前駆体シートを得た。これは、炭素短繊維100質量部に対し、ポリアクリロニトリルを94質量部付着させたことになる。
【0026】
次に、2枚重ね合わせたこの前駆体シートを2枚のシリコーン系離型剤をコートした紙に挟んだ後、バッチプレス装置にて180℃、30kPaの条件下で3分間加圧加熱成型した。
【0027】
加圧加熱成型した前駆体シートをバッチ炭素化炉にて、窒素ガス雰囲気中、2000℃の条件下で1時間炭素化することで多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材は、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗がそれぞれ良好な結果であった。結果を表1に示した。
【0028】
【表1】

なお、得られた多孔質電極基材の表面SEM写真を図1に示す。2次元平面内に分散した炭素短繊維同士が、多孔質化した炭素によって接合されていることが確認できた。また、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗もそれぞれ良好な結果であった。
【0029】
尚、本発明の実施例中の各物性値等は以下の方法で測定した。
【0030】
(1)ガス透気度
JIS規格P−8117に準拠し、ガーレーデンソメーターを使用して200mLの空気が透過するのにかかった時間を測定し、ガス透気度を算出した。
【0031】
(2)厚み
多孔質電極基材の厚みは、厚み測定装置ダイヤルシックネスゲージ((株)ミツトヨ製、商品名:7321)を使用して測定した。測定子の大きさは直径10mmで、測定圧力は1.5kPaとした。
【0032】
(3)貫通方向抵抗
多孔質電極基材の厚さ方向の電気抵抗(貫通方向抵抗)は、試料を金メッキした銅板に挟み、金メッキした銅板の上下から1MPaで加圧し、10mA/cmの電流密度で電流を流したときの抵抗値を測定し、次式より求めた。
貫通抵抗(mΩ・cm)=測定抵抗値(mΩ)×試料面積(cm

<比較例1>
【0033】
実施例1の樹脂含浸後の抄紙体を120℃で1時間乾燥させたこと以外は実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。表面SEM観察により2次元平面内に分散した炭素短繊維同士が、多孔質化していない炭素によって接合されていることが確認できた。また、ガス透気度、厚み、貫通方向抵抗はそれぞれ良好な結果であった。
【実施例2】
【0034】
(1)膜−電極接合体(MEA)の作製
実施例1で得られた多孔質電極基材をカソード用、アノード用に2組用意した。両面に触媒担持カーボン(触媒:Pt、触媒担持量:50質量%)からなる触媒層(触媒層面積:25cm、Pt付着量:0.3mg/cm)を形成したパーフルオロスルホン酸系の高分子電解質膜(膜厚:30μm)を、カソード用、アノード用の多孔質電極基材で挟持し、これらを接合してMEAを得た。
【0035】
(2)MEAの燃料電池特性評価
前記(1)で作製したMEAを、蛇腹状のガス流路を有する2枚のカーボンセパレーターによって挟み、固体高分子型燃料電池(単セル)を形成した。
【0036】
この単セルの電流密度−電圧特性を測定することによって、燃料電池特性評価を行った。燃料ガスとしては水素ガスを用い、酸化ガスとしては空気を用いた。セル温度を80℃、燃料ガス利用率を60%、酸化ガス利用率を40%とした。また、ガス加湿はバブラーにそれぞれ燃料ガスと酸化ガスを通すことによって行った。
加湿器温度80℃、電流密度が0.8A/cmのときの燃料電池セルのセル電圧が0.643Vであった。
また、加湿器温度60℃、電流密度が0.8A/cmのときの燃料電池セルのセル電圧が0.592Vと良好な特性を示し、加湿条件の変動によっても電池性能の変動が少ない高い水分管理機能を有していることが確認できた。
<比較例2>
【0037】
比較例1の多孔質電極基材を用いたこと以外は、実施例2と同様にして燃料電池評価を行った。
加湿器温度80℃、電流密度が0.8A/cmのときの燃料電池セルのセル電圧が0.645Vであった。
また、加湿器温度60℃、電流密度が0.8A/cmのときの燃料電池セルのセル電圧が0.521Vと燃料電池セル内での保水性の低下による性能低下が顕著に見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下(A)〜(F)の工程を順に行う多孔質電極基材の製造方法。
(A)炭素短繊維とバインダー短繊維とを二次元平面内において分散し、炭素短繊維紙を作製する工程;
(B)フェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンとを溶解したメタノール溶液を前記炭素短繊維紙に含浸して前駆体シートを作製する工程;
(C)前記前駆体シート中のフェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンとを相分離させる工程;
(D)相分離した前駆体シート中のフェノール樹脂組成物を凝固させる工程;
(E)次いで、メタノールを除去したフェノール樹脂組成物とポリビニルピロリドンとを含む前駆体シートを得る工程;および
(F)(E)工程で得られた前駆体シートを炭素化処理して多孔質電極基材を得る工程
【請求項2】
(F)工程において、乾燥した前駆体シートを炭素化処理する前に加熱加圧する請求項1に記載の多孔質電極基材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多孔質電極基材を用いた膜−電極接合体。
【請求項4】
請求項3に記載の膜−電極接合体を用いた燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2010−244957(P2010−244957A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94623(P2009−94623)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】