説明

多官能(メタ)アクリレートの製造方法

【課題】目的とする多官能(メタ)アクリレートを多く含む(メタ)アクリロイル基の密度が高いものとすることができ、種々の不具合の原因となる不純物を低減することができる多官能(メタ)アクリレートの製造方法の提供。
【解決手段】多官能(メタ)アクリレートを含む組成物を有機溶剤に接触させて抽出を行い、抽出前より(メタ)アクリロイル基密度の高い多官能(メタ)アクリレートを含む組成物とする多官能(メタ)アクリレートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート〔以下、多官能(メタ)アクリレートという〕の製造方法に関し、(メタ)アクリレートの製造方法の技術分野に属する。
尚、本明細書においては、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を(メタ)アクリロイル基と、アクリレート及び/又はメタクリレートを(メタ)アクリレートと、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を(メタ)アクリル酸と表す。
【背景技術】
【0002】
多官能(メタ)アクリレートは、活性エネルギー線の照射により、又は加熱によって硬化し、さらに他の(メタ)アクリレートとの配合により幅広い硬化物の物性が得られるため、塗料、インキ、接着剤、充填剤及び成形材料等の配合物の架橋成分として、又は反応性希釈剤成分として大量に使用されている。
【0003】
特に(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレートは、その硬化物が高い硬度と優れた耐磨耗性を発現するため、ハードコート塗料の配合成分として大量に使用されている。
当該多官能(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が知られている。
【0004】
これらの多官能(メタ)アクリレートは、対応する多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応や、エステル交換反応により製造されているが、通常、生成物は目的の多官能(メタ)アクリレートだけで構成されているわけでなく、多価アルコール由来の水酸基の一部が未反応のまま残る(メタ)アクリレートや、(メタ)アクリロイル基の一部がマイケル付加反応した(メタ)アクリレートを含んでいる。
又、多官能(メタ)アクリレートの製造は、1個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートの製造と比較して、高温・長時間を要するため、最終生成物中に触媒や重合禁止剤、中和剤に由来する不純物も相当量含んでいる。しかしながら、製造コストを高騰させずにこれらの不純物を除去する技術手段がないため、商品として市場に流通する多官能(メタ)アクリレートの大半は、実際には様々な不純物を含む(メタ)アクリレート組成物である。
以下に不純物の具体例と、それらの不純物が含まれることによって発生する不具合について記す。
【0005】
○副生成物
(メタ)アクリロイル基は反応性に富むため、副反応で生成する化合物や(メタ)アクリロイル基が重合したポリマー等が副生する。特に、(メタ)アクリル酸のカルボキシル基、又はアルコール性水酸基とマイケル付加反応した化合物を多く副生する。
これらのマイケル付加物の存在は、製品の粘度を上昇させ、使用に際して扱いにくい性状となるため、溶剤や希釈剤を配合しなければならないことがある。又、マイケル付加反応により(メタ)アクリロイル基が消費されて(メタ)アクリロイル基の密度が減少するため、多官能(メタ)アクリレートの利点である硬化物の硬さが低下したり、硬化時の硬化速度が低下したりする(例えば特許文献1)。
【0006】
○触媒に由来する不純物
特許文献2で開示されているように、エステル化反応触媒として用いたスルホン酸触媒に由来する硫黄成分が製品に残留することがあり、又、エステル交換反応においては、触媒として用いた錫触媒に由来する錫成分が製品中に残留することがある。
これらの触媒に由来する不純物の存在は、製品の色調や貯蔵安定性、熱安定性を悪化させ、保管中にポリマーが生じたり、(メタ)アクリレートが分解して(メタ)アクリル酸等の酸分を発生させることがある(例えば、特許文献2及び3)。
【0007】
○重合禁止剤に由来する不純物
特許文献4で開示されているように、重合禁止剤として使用した金属化合物に由来する不純物が製品中に残留することがある。
これらの重合禁止剤に由来する不純物の存在は、製品を着色させることがある。製品が着色すると、光学電子材料用途等、樹脂の透明性が重要視される分野での商品価値を著しく損なう。
【0008】
○アルカリ金属及びアルカリ土類金属
特許文献5で開示されているように、触媒や中和剤として使用したアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物に由来する不純物が製品中に残留することがある。
これらのアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物に由来する不純物の存在は、製品の透明度を低下させることがある。製品の透明度が低下すると、光学電子材料用途等、樹脂の透明性が重要視される分野での商品価値を著しく損なう。
又、これらの不純物が残留した(メタ)アクリレート組成物を、例えばレジスト等のエレクトロニクス分野で使用した場合、種々の不具合を引起すことがある。
【0009】
特許文献1では、多官能アクリレート組成物の純度を向上させることで、光重合性塗布物に求められる諸性能を引出している。しかしながら、特許文献1では、多官能アクリレート組成物の純度を向上させるための手段として、シリカゲルカラムクロマトグラフィーや再結晶を行っており、工業的実施に好適とは言い難い。
【0010】
又、多官能アクリレート組成物としては、前記した通り、組成物の硬化速度及び硬化物の硬度等に優れる点で、組成物中の(メタ)アクリロイル基の密度が高いものが要求されているが、組成物中の(メタ)アクリロイル基の密度が高いものとするために、反応を高温・長時間で実施すると、前記した不純物が発生してしまうという問題を有していた。
【0011】
【特許文献1】特開平10−279613号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】国際公開第WO2007/129605号パンフレット(特許請求の範囲)
【特許文献3】特許第2546124号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2007−112758号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2007−197344号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、目的とする多官能(メタ)アクリレートを多く含む(メタ)アクリロイル基の密度が高いものとすることができ、上述した様々な不具合の原因となる不純物を低減することができる製造方法を見出すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。
その結果、多官能(メタ)アクリレートを含む組成物を有機溶剤と接触させて抽出を行い、抽出前より(メタ)アクリロイル基密度の高い多官能(メタ)アクリレートを含む組成物とする製造方法、及び好ましくは、抽出後の有機溶剤を移液・冷却して該多官能(メタ)アクリレートを分離した後、有機溶剤を抽出に再使用してこれを繰り返す製造方法が有効であることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0014】
本発明者らの製造方法によれば、多官能(メタ)アクリレート組成物に含まれる無機物やマイケル付加物等の有機物等の不純物を効率的に除去することができ、これら不純物が少ないため、得られる組成物を色調、貯蔵安定性及び熱安定性に優れたものとすることができる。又、(メタ)アクリロイル基の密度が高い組成物とすることができるため、多官能(メタ)アクリレート本来の諸性能を引出すことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、多官能(メタ)アクリレートを含む組成物を有機溶剤に接触させて抽出を行い、抽出前より(メタ)アクリロイル基密度の高い多官能(メタ)アクリレートを含む組成物とする多官能(メタ)アクリレートの製造方法に関する。
又、本発明では、下記工程1〜工程4を含む製造方法が好ましい。
工程1:多官能(メタ)アクリレートを含む組成物を有機溶剤に接触させて抽出を行う工程。
工程2:工程1で得られた多官能(メタ)アクリレートを含む有機溶剤を移液し、工程1の温度より低い温度に冷却して、該多官能(メタ)アクリレートを析出させるか又は有機溶剤と層分離させる工程。
工程3:工程2において冷却して分離させた有機溶剤を、再び工程1で使用する工程。
工程4:工程1〜工程3を繰り返した後、工程2で析出又は有機溶剤と層分離した多官能(メタ)アクリレートを回収する工程。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
1.多官能(メタ)アクリレート
本発明は、多官能(メタ)アクリレートを含む組成物の製造に適用できる。
【0017】
組成物を構成する多官能(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリロイル基を2個以上有する(メタ)アクリレートであれば種々の化合物に適用され、例えば、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート及びトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のトリメチロールプロパンポリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート;ジトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート及びジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等のジトリメチロールプロパンポリ(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート等のトリメチロールプロパンのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールエチレンオキサイド変性テトラ(メタ)アクリレート等のペンタエリスリトールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート;ジトリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性テトラ(メタ)アクリレート等のジトリメチロールプロパンのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールエチレンオキサイド変性ヘキサ(メタ)アクリレート等のジペンタエリスリトールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート;ビスフェノールAエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート等のポリフェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート;グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、ジグリセリンエチレンオキサイド変性テトラ(メタ)アクリレート等のグリセリン及びその誘導体の(メタ)アクリレート;トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジ(2−(メタ)アクロイルオキシエチル)イソシアヌレ−ト、トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレ−ト、ジ(2−(メタ)アクロイルオキシプロピル)イソシアヌレ−ト及びトリス(2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)イソシアヌレ−ト等のジ又はトリ(2−(メタ)アクリロイルオキアルキル)イソシアヌレ−ト;ジ(2−(メタ)アクロイルオキシエチル)シアヌレ−ト、トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)シアヌレ−ト、ジ(2−(メタ)アクロイルオキシプロピル)シアヌレ−ト及びトリス(2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)シアヌレ−ト等のジ又はトリ(2−(メタ)アクリロイルオキアルキル)シアヌレ−ト等に適用できる。
又、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート及びエポキシ(メタ)アクリレートなどのオリゴマーにも適用することができる。
【0018】
多官能(メタ)アクリレートとしては、これらの中でも4価以上のアルコールから製造された(メタ)アクリレートに好ましく適用でき、ペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリ(メタ)アクリレート及びジトリメチロールプロパンポリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0019】
これら多官能(メタ)アクリレートは、従来のエステル化反応及びエステル交換反応により製造されたものが使用できる。
以下、エステル化反応及びエステル交換反応について説明する。
【0020】
1−1.エステル化反応
エステル化反応としては、常法に従えば良く、酸触媒の存在下に(メタ)アクリル酸及びアルコールを加熱・攪拌してエステル化反応を行い、(メタ)アクリレートを製造する方法が挙げられる。
【0021】
この場合のアルコールとしては、前記した(メタ)アクリレートに対応するアルコールが挙げられる。
【0022】
(メタ)アクリル酸の使用量は、目的とする(メタ)アクリレートとなるように、アルコールの全水酸基1モルに対して調整される。
【0023】
酸触媒としては、硫酸等の鉱酸、並びにp−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸及びトリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸等が挙げられる。
酸触媒の使用割合としては、アルコール性水酸基のモル数に対して0.05mol%〜10mol%が好ましい。
【0024】
エステル化反応は、常法に従い実施すれば良い。
反応温度は、使用する原料及び目的に応じて適宜設定すればよいが、反応時間の短縮と重合防止の観点から65〜140℃が好ましく、75〜120℃がより好ましい。反応温度を65℃以上とすることでエステル化反応を迅速に行い、収率の低下を防止することができ、一方反応温度を140℃以下とすることで、(メタ)アクリル酸又は生成した(メタ)アクリレートの熱重合を防止することができる。
【0025】
エステル化反応に際しては、エステル化反応で生成する水を有機溶媒と共沸させながら脱水を促進することが好ましい。
好ましい有機溶媒としては、例えばトルエン、ベンゼン及びキシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン及びヘプタン等の脂肪族炭化水素、並びにメチルエチルケトン等のケトン等が挙げられる。
有機溶媒の使用量は、前記アルコールと(メタ)アクリル酸の合計量に対して10〜75重量%となる割合、より好ましくは15〜55重量%となる割合が好ましい。
【0026】
エステル化反応は、(メタ)アクリル酸又は生成した(メタ)アクリレートの熱重合を防止することを目的とし、減圧状態で低い温度にて行うことが好ましい。又、エステル化反応を酸素の存在下で行うこと、より具体的には含酸素ガスを導入することが好ましい。
同様の目的で、反応液に重合禁止剤を添加することが好ましい。重合禁止剤としては、例えば、ベンゾキノン、ハイドロキノン、カテコール、ジフェニルベンゾキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ナフトキノン、t−ブチルカテコール、t−ブチルハイドロキノン、t−ブチルフェノール、ジメチル−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、t−ブチルクレゾール及びフェノチアジン等の有機系重合禁止剤、塩化銅及び硫酸銅等の無機系重合禁止剤、並びにジブチルジチオカルバミン酸銅等の有機塩系重合禁止剤等が使用できる。重合禁止剤は、1種を単独で使用しても又は2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
重合禁止剤の添加量は、原料である(メタ)アクリル酸の使用量に対して重量で5〜10000ppmが好ましく、50〜1000ppmがより好ましい。50ppm以上とすることで重合防止効果を十分にすることができ、1000ppm以下とすることで、着色を防止したり、生成物の硬化性低下を防止することができる。
エステル化反応の進行度は、エステル化反応により生成する水の量、すなわち脱水量を監視したり、反応液中の酸分濃度を分析したり、生成物(メタ)アクリレートの組成を分析し、目的とする組成であるのかを確認して判断する。
含酸素ガスとしては、例えば空気、酸素と窒素の混合ガス、酸素とヘリウムの混合ガス等が挙げられる。
【0027】
1−2.エステル交換反応
エステル交換反応は、常法に従えばよく、アルコール及びアルキル(メタ)アクリレートを、触媒の存在下に加熱・攪拌する方法等が挙げられる。
【0028】
アルコールとしては、前記したアルコールと同様のものが挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、アルキル基の炭素数が8以下のものが好ましく、4以下のものが更に好ましく使用される。
具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート及び2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0029】
触媒としては、エステル交換反応で通常用されるものであれば良く、例えばチタン系触媒、スズ系触媒及び硫酸等が挙げられる。
チタン系触媒としては、テトラブチルチタネート等が挙げられる。
スズ系触媒としては、単核の有機スズ化合物、多核のスズ化合物及び環状スズ化合物等が挙げられる。
単核の有機スズ化合物としては、ジアルキルスズジハライド、ジアルキルスズジカルボキシレート及びジアルキルスズジアルコラート等が挙げられる。
ジアルキルスズジハライドの具体例としては、ジブチルスズジクロライド及びジオクチルスズジクロライド等が挙げられる。ジアルキルスズジカルボキシレートの具体例としては、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジアセテート及びジオクチルスズジラウレート等が挙げられる。
多核のスズ化合物としては、ジスタノキサンやトリスタノキサン等のスタノキサン系化合物等が挙げられる。
触媒の使用割合としては、アルコール性水酸基のモル数に対して0.05mol% 〜20mol%が好ましい。
【0030】
エステル交換反応では、ラジカル重合性の高いアルキル(メタ)アクリレートを原料に使用することからも、エステル交換反応時の重合を抑制するために重合禁止剤を使用することが好ましい。
重合禁止剤としては、前記と同様のものが使用でき、前記と同様の割合で使用することが好ましい。
【0031】
又、重合を抑制する他の効果的な方法として、酸素含有気体の雰囲気下で反応したり、酸素含有気体を反応液中に導入しながら反応する方法がある。典型的な酸素含有気体は空気であるが、工業的には引火爆発危険を考えて酸素濃度3〜15%に下げた気体が好適に使用される。酸素含有気体は酸素又は空気と不活性ガスを混合することによって調製できる。不活性ガスとしては窒素やアルゴンが常用される。
【0032】
エステル交換反応では、原料であるアルキル(メタ)アクリレートを過剰に使用することによって、反応溶媒を使用しないで行うことができる。
しかし、生成アルコールを効率的に系外に除去するため、又は原料や生成物を均一溶解する等の目的で溶媒を使用してもよい。この場合、生成アルコールと共沸可能で、生成物である多官能(メタ)アクリレートを溶解する反応溶媒を使用するのが好ましい。反応溶媒の例としては、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン等の脂環族の炭化水素、n−ヘキサン及びn−ヘプタン等の脂肪族炭化水素、並びにメチルエチルエトン及びメチルイソブチルケトン等のケトンが挙げられる。
【0033】
エステル交換反応は、還流状態で生成アルコールを系外に留去しながら行う方法が好ましい。
反応温度は生成アルコールや原料(メタ)アクリル酸アルキル、反応溶媒等に依存するが、生成アルコールの沸点以上に調節するのが好ましい。反応温度は原料である(メタ)アクリル酸アルキルや反応溶媒の選定、圧力の制御(加圧又は減圧)によってある程度は調節できる。好ましい反応温度は60〜160℃であり、80〜150℃が更に好ましい。反応温度が60℃未満では反応速度が遅く、160℃を越えると着色やゲル化が起こりやすい。
【0034】
2.有機溶剤
前記したエステル化反応やエステル交換反応で得られる多官能(メタ)アクリレート組成物中は、不純物を多く含み、又(メタ)アクリロイル基密度が不十分なものである。
本発明の製造方法では、多官能(メタ)アクリレート組成物の不純分を低下させ、(メタ)アクリロイル基密度を増加させる目的で、粗(メタ)アクリレート組成物と有機溶剤を接触させ、有機溶剤による抽出を行う。
有機溶剤としては、高温で多官能(メタ)アクリレートの溶解度が高く多官能(メタ)アクリレートを溶解させることができ、低温で多官能(メタ)アクリレートの溶解度が低く多官能(メタ)アクリレートを有機溶剤から分離する性能を有する有機溶剤、即ち多官能(メタ)アクリレートの溶解度の温度依存性を有する有機溶剤が好ましい。
有機溶剤としては、その分子構造中に炭素原子を4個以上含む化合物が好ましい。この場合、分子構造中に炭素原子を4個以上含んでいれば、酸素、ハロゲン、窒素及びリン等の原子を複数個含んでいてもよい。但し、水酸基及びカルボキシル基等の極性の高い官能基を有する有機溶剤は、低温においても多官能(メタ)アクリレートの溶解性が高く、多官能(メタ)アクリレートを分離し難いことがあるため、極性の高い官能基を有しない有機溶媒が好ましい。
有機溶剤の具体例としては、例えば、n‐ヘキサン、iso‐ヘキサン、n‐ヘプタン、n‐オクタン、iso‐オクタン、n‐ノナン、n‐デカン及びiso‐デカン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素;イソプレン及びシクロヘキセン等の不飽和炭化水素;n‐ブチルブロマイド及びn‐ブチルクロライド等のハロゲン化炭化水素;メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート及びブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、イソボルニルアクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カルビトール(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、マレイミド(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート及びパーフルオロオクチルエチル(メタ)クリレート等の(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0035】
これらの中でも、高温及び低温における多官能(メタ)アクリレートの溶解度の差が大きく、蒸留による除去が容易であるという理由で、炭化水素系溶剤が好ましい。
炭化水素系溶剤としては、前記した脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素及び不飽和炭化水素が挙げられ、さらに炭素数6以上の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素が好ましく、炭素数6〜9の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素がより好ましい。当該化合物の具体的としは、n‐ヘキサン、シクロヘキサン、iso‐ヘキサン、n‐ヘプタン、n‐オクタン及びiso‐オクタンが好ましい。
【0036】
有機溶剤は、1種を単独で使用しても又は2種以上を任意に組み合わせて使用しても良い。
前記したエステル化反応又はエステル交換反応で使用する反応溶媒が、目的とする多官能(メタ)アクリレートの高温及び低温における溶解度の差が大きい場合は、反応溶媒と同じ化合物を抽出のための有機溶剤として使用することもできる。この場合、反応終了後にアルカリ洗浄及び水洗等の精製後に反応液をそのまま有機溶剤として抽出に使用することもでき、反応終了後にアルカリ洗浄等の精製後さらに脱溶剤した後、反応溶媒と同じ種類の有機溶剤を使用することもできる。
【0037】
有機溶剤の使用割合としては、多官能(メタ)アクリレートを含む組成物の合計重量に対して10〜3,000重量%が好ましく、より好ましくは100〜2,000重量%である。10重量%以上とすることで、工程1にて多官能(メタ)アクリレート混合物と有機溶剤が完全混和することを防止し、抽出操作の実施を容易にすることができる。3,000重量%以下にすることで、設備を小さくすることができるうえ、工程1における加熱操作と工程2における冷却操作に要するエネルギーコストを小さいものにすることができる。
【0038】
3.多官能(メタ)アクリレートの製造方法
本発明は、前記したエステル化反応やエステル交換反応で得られる多官能(メタ)アクリレートを含む組成物を有機溶剤に接触させて抽出を行い、抽出前より(メタ)アクリロイル基密度の高い多官能(メタ)アクリレートを含む組成物とする多官能(メタ)アクリレートの製造方法(以下、第1発明という)に関する。
【0039】
さらに第1発明としては、下記工程1〜工程4を含む製造方法(以下、第2発明という)が好ましい。
工程1:多官能(メタ)アクリレートを含む組成物を有機溶剤に接触させて抽出を行う工程。
工程2:工程1で得られた多官能(メタ)アクリレートを含む有機溶剤を移液し、工程1の温度より低い温度に冷却して、該多官能(メタ)アクリレートを析出させるか又は有機溶剤と層分離させる工程。
工程3:工程2において冷却して分離させた有機溶剤を、再び工程1で使用する工程。
工程4:工程1〜工程3を繰り返した後、工程2で析出又は有機溶剤と層分離した多官能(メタ)アクリレートを回収する工程。
以下、第1発明及び第2発明について説明する。
【0040】
3−1.第1発明
第1発明では、多官能(メタ)アクリレートを含む組成物を有機溶剤に接触させて抽出を行い、抽出前より(メタ)アクリロイル基密度の高い多官能(メタ)アクリレートを含む組成物とする。具体的には、抽出前の(メタ)アクリロイル基密度より、0.05mmol/g以上高くすることが好ましく、より好ましくは0.1mmol/g以上である。
尚、本発明において(メタ)アクリロイル基密度とは、組成物1g中に含まれる(メタ)アクリロイル基の割合(モル数)を表す。具体的な測定方法としては、組成物を1H核磁気共鳴スペクトル(NMR)測定して、(メタ)アクリロイル基に由来するピーク面積から算出される値をいう。
【0041】
第1発明で使用する多官能アクリレートを含む組成物としては、前記したエステル化反応又はエステル交換反応で得られた反応溶液を精製したものを使用することが、より不純物の少ない多官能アクリレートを得ることができるため好ましい。
精製の方法としては、アルカリ水溶液による洗浄、水による洗浄、濾過及び脱溶剤等が挙げられ、目的に応じてこれらの精製法を組合せて得られた多官能(メタ)アクリレートを使用する。
【0042】
第1発明では、多官能アクリレートを含む組成物を有機溶剤に接触させて抽出を行う。
抽出方法は特に制限はないが、例えば単抽出、多回抽出、連続式の多段抽出及び向流多段抽出等により実施することができる。抽出装置は特に制限ないが、例えば攪拌槽、ミキサーセトラー、RDC(rotated disk contactor)塔、往復振動式の抽出塔及び多孔板の棚段塔等が挙げられる。
抽出温度としては、使用する有機溶剤の沸点及び得られる多官能(メタ)アクリレートの溶解度等に応じて適宜設定すれば良いが、沸騰により液体内部からの気化が起こると、抽出の液液分離性が悪化したり、気化した有機溶剤の凝縮設備を設ける必要があるという理由で、使用する有機溶剤の沸点以下とすることが好ましい。具体的には、−40〜140℃が好ましく、−20〜120℃がより好ましく、0〜100℃がさらに好ましい。工程1を−40℃以上で実施することで、有機溶剤に抽出される多官能(メタ)アクリレートの溶解度を向上させ、本発明を効率的に実施することができ、さらに、多官能(メタ)アクリレートや有機溶剤の流動性が低下したり、固化したりすることなく操作性に優れたものとなる。他方、140℃以下で実施することで、多官能(メタ)アクリレートを含む組成物が重合や着色を防止することができる。
又、抽出を水の存在下で実施することにより、抽出効率が向上し、本発明の実施に要する時間を短縮することができる。
【0043】
前記で有機溶剤に抽出された多官能(メタ)アクリレートを含む液は、抽出前より(メタ)アクリロイル基密度の高い多官能(メタ)アクリレートを含む組成物となっている。
抽出後の液は、有機溶剤を多量に含んでおり、有機溶剤を分離することが好ましい。
有機溶剤の分離は、蒸留により行うことが好ましい。蒸留においては、得られる多官能(メタ)アクリレートの重合や着色等を防止するため、減圧蒸留することが好ましい。蒸留温度としては、使用する有機溶剤及び減圧度に応じて設定すれば良いが、40〜120℃が好ましく、減圧度は0.001〜90kPaが好ましい。
多官能(メタ)アクリレートを使用する製品が溶剤を含む場合等においては、有機溶剤を完全に分離する必要はなく、一部有機溶剤を残すこともできる。
【0044】
目的とする多官能(メタ)アクリレートが結晶で得られる場合は、晶析を行い、多官能(メタ)アクリレートを分離することもできる。
【0045】
3−2.第2発明
第2発明は、下記工程1〜工程4を含む製造方法である。
工程1:多官能(メタ)アクリレートを含む組成物を有機溶剤に接触させて抽出を行う工程。
工程2:工程1で得られた多官能(メタ)アクリレートを含む有機溶剤を移液し、工程1の温度より低い温度に冷却して、該多官能(メタ)アクリレートを析出させるか又は有機溶剤と層分離させる工程。
工程3:工程2において冷却して分離させた有機溶剤を、再び工程1で使用する工程。
工程4:工程1〜工程3を繰り返した後、工程2で析出又は有機溶剤と層分離した多官能(メタ)アクリレートを回収する工程。
第2発明によれば、多官能(メタ)アクリレート組成物の(メタ)アクリロイル基密度をより高いものとすることができ、さらに有機溶剤を繰り返し使用するため有機溶剤の使用量を低減させることができるため、蒸留で使用する熱量も低減させることができ、さらに設備をコンパクトなものとすることができる。
【0046】
工程1の抽出は、前記と同様の方法で実施すれば良い。
【0047】
工程2では、工程1で得られた多官能(メタ)アクリレートを含む有機溶剤を移液し、工程1の温度より低い温度に冷却して、該多官能(メタ)アクリレートを析出又は有機溶剤と層分離させる。
工程2では、工程1の抽出装置から冷却を目的として別の装置に移液する。
移液方法は特に制限はないが、工程1で使用する装置と工程2で使用する装置を、配管を通じて連結させ、ポンプを使用して工程1から工程2へ移液する方法が挙げられる。
ポンプとしては、渦巻ポンプ、往復式ポンプ、回転式ポンプ、キャンドポンプ、マグネットポンプ、スラリーポンプ及びダイヤフラムポンプ等を挙げることができる。
この場合、移液で使用する配管は、有機溶剤が多官能(メタ)アクリレートより比重が軽く、上層に分離する場合は、前記配管の液出口を工程1で使用する装置の上部に設置し、移液後の配管の液入口を工程2で使用する装置の下部に設置することが好ましい。一方、有機溶剤が多官能(メタ)アクリレートより比重が重く、下層に分離する場合は、前記配管の液出口を工程1で使用する装置の下部に設置し、移液後の配管の液入口を工程2で使用する装置の上部に設置することが好ましい。
工程2では、工程1の温度より低温に冷却する。冷却のための装置としては、工程1で得られた液を冷却できれば任意であり、具体的には熱交換器を備えた攪拌槽で良い。
冷却方法は特に制限はないが、例えば熱交換器等にて実施することができる。冷却装置は特に制限はないが、例えばジャケット式熱交換器、多管式熱交換器、プレート式熱交換器及びスパイラル式熱交換器等が挙げられる。
工程2における温度としては、具体的には、工程1との温度差を5℃以上が好ましく、より好ましく10℃以上であり、さらに好ましくは15℃以上である。工程1との温度差が5℃以上とすることで、多官能(メタ)アクリレートの析出、有機溶剤との層分離を良好なものとすることができる。
工程2で冷却することにより、工程1の抽出液が、有機溶剤の層と多官能アクリレート層、有機溶剤と多官能(メタ)アクリレートの結晶、又は有機溶剤層、多官能アクリレート層及び多官能(メタ)アクリレートの結晶に分離する。
【0048】
工程3では、工程2において冷却して分離させた有機溶剤を、再び工程1で使用する。
工程2で分離した有機溶剤を工程1への移液する装置としては、工程2で使用する装置と工程1で使用する装置を、配管を通じて連結させ、ポンプを使用して工程2から工程1へ移液する方法が挙げられる。又、工程2で使用する装置を工程1で使用する装置より上部に設置し、オーバーフローさせ工程1で使用する装置に移液する方法もある。
この場合、移液で使用する配管は、有機溶剤が多官能(メタ)アクリレートより比重が軽く、上層に分離する場合は、前記配管の液出口を工程2で使用する装置の上部に設置し、移液後の配管の液入口を工程1で使用する装置の下部に設置することが好ましい。一方、有機溶剤が多官能(メタ)アクリレートより比重が重く、下層に分離する場合は、前記配管の液出口を工程2で使用する装置の下部に設置し、移液後の配管の液入口を工程1で使用する装置の上部に設置することが好ましい。
本発明では、工程1〜工程3を連続的に実施することにより、本発明を効率的に、単時間で実施することができる。
【0049】
工程4では、工程1〜工程3を繰り返した後、工程2で析出又は有機溶剤と層分離した多官能(メタ)アクリレートを回収する。具体的には、前記工程1〜工程3を繰り返した後、組成物が目的とする(メタ)アクリロイル基密度となった時点でこれら工程を中止し、多官能(メタ)アクリレートを回収する。
工程2の分離装置から多官能(メタ)アクリレートを回収する方法としては、種々の方法があり、多官能(メタ)アクリレートが有機溶剤より比重が重い場合には、下層を抜き出す方法が挙げられる。この場合、下層には結晶成分を含んでいても良い。逆に、多官能(メタ)アクリレートが有機溶剤より比重が軽い場合には、上層を抜き出す。
本発明では、工程2の分離装置を加温して結晶成分を溶解させ、多官能(メタ)アクリレートが有機溶剤より比重が重い場合には下層を抜き出し、多官能(メタ)アクリレートが有機溶剤より比重が軽い場合には、上層を抜き出す方法が、回収率が高く、回収時の操作性が向上するという理由で好ましい。この場合、加熱により、有機溶剤を主成分とし多官能アクリレート組成物の一部成分が溶解した層と、(メタ)アクリロイル基密度が高い(メタ)アクリレートを主成分とし、有機溶剤が少量溶解した層の二層状態となる。この場合の加温温度としては、使用する有機溶媒及び得られる多官能(メタ)アクリレートに応じて適宜設定すれば良いが、0〜100℃が好ましい。
いずれの場合も、多官能(メタ)アクリレートを多く含む層を抜き出した後、蒸留により有機溶剤を分離する。蒸留においては、得られる多官能(メタ)アクリレートの重合や着色等を防止するため、減圧蒸留することが好ましい。蒸留温度としては、使用する有機溶剤及び減圧度に応じて設定すれば良く、前記と同様の条件が好ましい。
【0050】
目的とする多官能(メタ)アクリレートが結晶で得られる場合は、工程2及び工程3を晶析装置で実施することができる。
【0051】
3−3.その他の成分
本発明の実施中に(メタ)アクリロイル基がラジカル重合することを抑制するため、重合禁止剤を添加したり、含酸素ガスを導入してもよい。
重合禁止剤としては、前記と同様のものが挙げられる。重合禁止剤は、1種を単独で使用しても又は2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
重合禁止剤の添加量としては、多官能(メタ)アクリレートを含む組成物の合計重量に対して50〜20,000ppmが好ましい。重合禁止剤の割合を50ppm以上とすることにより、重合防止の効果を十分にすることができ、他方20,000ppm以下とすることにより、本発明により得られる多官能(メタ)アクリレート組成物を硬化して硬化物を得る際に、硬化速度が低下するのを防ぐことができる。
含酸素ガスとしては、前記と同様のものが挙げられる。
【0052】
本発明の実施においては、多官能(メタ)アクリレートを含む組成物が加熱されることがある。多官能(メタ)アクリレートの熱安定性を維持する目的で、特許文献2に開示されている4級アンモニウム塩、4級スルホニウム塩、アミン、アミジン、ピリジン及びセミカルバジドを添加してもよい。
【0053】
3−4.製造設備
本発明を実施するための設備は、使用する有機溶剤、目的とする多官能(メタ)アクリレート及び実施条件に応じて適宜設定すれば良い。
【0054】
まず、第1発明を実施するための好ましい製造設備を説明する。
第1発明を実施するための好ましい製造設備としては、攪拌槽が挙げられる。
攪拌槽にエステル化反応やエステル交換反応で得られた粗多官能(メタ)アクリレート組成物及び有機溶剤を仕込み、攪拌した後、有機溶剤により抽出された多官能(メタ)アクリレートを抜き出す方法が挙げられる。
第1発明を連続的に実施する場合には、図1に模式図で例示する様に、抽出槽(1)とセトラー(2)を接続し、抽出槽(1)で攪拌後した後、液をセトラーに供給してセトラーで静置・分離する態様もある。
【0055】
次に、抽出塔を使用する例について説明する。図2は、抽出装置としてRDC塔(3)を使用した例である。RDC塔(3)は、塔壁に静止環状円盤(3−5)を有し、回転軸には固定された攪拌水平円盤(3−6)を備えている。
図2の装置を使用して第1発明を実施する方法を説明する。粗多官能アクリレート組成物を3−1から供給し、同時に有機溶剤を3−2から供給する。RDC塔(3)内で、粗多官能アクリレート組成物と有機溶剤とを接触させた後、(メタ)アクリロイル基密度が高くなった液が塔頂3−3から回収される。一方、多官能(メタ)アクリレートを少なく含む液が塔底3−4から回収される。
【0056】
図2では、RDC塔(3)を使用した例について説明したが、RDC塔に代え、多孔板塔を使用して上記と同様に実施することもできる。
【0057】
次に、第2発明を実施するための好ましい製造設備を説明する。
図3は、抽出装置として攪拌槽を使用する例である。
図3において、1は工程1を実施するための攪拌槽(以下、抽出槽という)である。尚、図1において、抽出槽(1)は、温度計及び冷却器等を付帯しているが省略している。
4は工程2を実施するための攪拌槽(以下、分離槽という)である。尚、図3において、分離槽(4)は、温度計及び冷却器等を付帯しているが省略している。又、図3では、分離槽(4)における冷却後の液を抽出槽(1)に供給する操作(工程3)を、オーバーフローで実施している態様を表しているため、分離槽(4)が抽出槽(1)より上部に設置してある。工程3をポンプ等により実施する場合には、分離槽(4)は抽出槽(1)より上部に設置する必要はない。
又、図3は、有機溶剤として、炭化水素系溶剤等の多官能(メタ)アクリレートより比重が軽い有機溶剤を使用する態様で使用する装置を表しており、配管(6)の出口を抽出槽(1)の上部に設置し、入口を分離槽(4)の下部に設置している。又、配管(7)の出口を分離槽(4)の上部に設置し、入口を抽出槽(1)の下部に設置している。
図3の装置を使用して第2発明を実施する方法を説明する。
まず、粗多官能アクリレート組成物及び有機溶剤を抽出槽(1)に投入し攪拌する(工程1)。この場合、必要に応じて加熱を行う。
一方、分離槽(4)に、有機溶剤を投入し、分離槽(4)内の液温を抽出槽(1)内の液温より低温にしておく。
抽出槽(1)上層液を、ポンプ(5)を使って汲み上げ、配管(6)を通じて分離槽(4)下部に供給し、分離槽(4)で冷却する(工程2)。
工程2と同時に、分離槽(4)の内液を、分離槽(4)の上部から配管(7)を通じてオバーフローさせ、抽出槽(1)下部に供給する(工程3)。
工程1〜工程3の操作を継続した後、分離槽(4)における多官能(メタ)アクリレート組成物が目的の(メタ)アクリロイル基密度になった時点で、ポンプ(5)を停止する。そして、分離槽(4)を加温し、分離槽下層から多官能(メタ)アクリレート組成物を抜き出し回収する(工程4)。
【0058】
上記実施態様は、抽出槽(1)における攪拌速度を遅い状態で実施する態様である。抽出槽(1)における攪拌速度を速い状態で実施する場合には、図1に例示する様に、抽出槽(1)とセトラー(2)を接続し、抽出槽(1)で攪拌後した後、液をセトラーに供給してセトラーで静置・分離させ、上部の液を分離槽(4)に供給する態様もある。
【0059】
図4は、抽出装置としてRDC塔(3)を使用して工程1を実施し、熱交換器を付帯した攪拌槽(4、分離槽)を使用して工程2を実施する例である。
図4も、有機溶剤として、炭化水素系溶剤等の多官能(メタ)アクリレートより比重が軽い有機溶剤を使用する態様で使用する装置を表している。
まず、上記と同様に、粗多官能アクリレート組成物を3−1から供給し、同時に有機溶剤を3−2から供給する。RDC塔(3)内で、粗多官能アクリレート組成物と有機溶剤とを接触させた後、(メタ)アクリロイル基密度が高くなった液が塔頂3−3から分離槽(4)に供給され、冷却される(工程2)。
分離槽(4)で冷却された後、分離槽(4)上層液を、ポンプ(図示せず)を使って汲み上げ、配管(7)を通じてRDC塔(3)の3−2に供給する(工程3)。
一方、3−4から回収された多官能(メタ)アクリレートを少なく含む液は、再びRDC塔(3)の3−1に供給される(工程3)。
工程1〜工程3の操作を継続した後、分離槽(4)における多官能(メタ)アクリレート組成物が目的の(メタ)アクリロイル基密度になった時点で、ポンプ(図示せず)を停止する。そして、分離槽(2)を加温し、分離槽下層から多官能(メタ)アクリレート組成物を抜き出し回収する(工程4)。
【0060】
この場合、目的とする多官能(メタ)アクリレートが結晶性の化合物である場合は、攪拌槽(2)に代え、晶析装置とすることもできる。
【0061】
又、図4では、RDC塔(3)を使用した例について説明したが、RDC塔に代え、多孔板塔を使用して上記と同様に実施することもできる。
【0062】
4.使用方法
本発明の製造方法により得られた(メタ)アクリレート組成物は、活性エネルギー線硬化型組成物や熱硬化型組成物等の硬化型組成物の原料として、塗料、インキ、接着剤、充填剤及び成形材料等の各種工業用途に好適に使用できる。特に、塗料ではハードコート用途及びインキ用途に好ましく使用できるものである。さらには光学や電子材料用途にも使用可能である。
【0063】
活性エネルギー線の照射方法及び加熱方法等の硬化手段については、ラジカル重合性化合物の硬化方法として知られている一般的な方法を採用すれば良い。
【0064】
硬化型組成物には、以下に詳述する各種成分を配合することができる。
【0065】
4−1.その他(メタ)アクリレート
(メタ)アクリレート組成物を硬化型組成物として使用する場合には、前記(メタ)アクリレート以外の(メタ)アクリレート〔その他(メタ)アクリレート〕を配合することができる。
【0066】
その他(メタ)アクリレートとしては、1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物〔以下モノ(メタ)アクリレートという〕及び2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物〔以下ポリ(メタ)アクリレートという〕等が挙げられる。
【0067】
モノ(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート及びブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及び1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニルアクリレート等の脂環式モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これら以外にも、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カルビトール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、マレイミド(メタ)アクリレート及びグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0068】
ポリ(メタ)アクリレートとしては、例えば、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート等の2個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート、並びにペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これら以外にも、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジ(トリメチロールプロパン)テトラ(メタ)アクリレート等の4個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートも使用可能である。
【0069】
又、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート及びエポキシ(メタ)アクリレート等のオリゴマーも使用することができる。
【0070】
これらの中でも、組成物の硬化物にさらに硬度を付与する目的で、前記したポリ(メタ)アクリレートを配合することがより好ましい。
【0071】
4−2.重合開始剤
(メタ)アクリレート組成物を活性エネルギー線硬化型組成物として使用する場合、特に、可視光線又は紫外線硬化型組成物とする場合、組成物に光重合開始剤を配合する。尚、電子線硬化型組成物とする場合は、光重合開始剤を必ずしも配合する必要はない。
【0072】
光重合開始剤の具体例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル及びベンゾインプロピルエーテル等のベンゾイン;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン及びN,N−ジメチルアミノアセトフェノン等のアセトフェノン;2−メチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン及び2−アミルアントラキノン等のアントラキノン;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン及び2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン;アセトフェノンジメチルケタール及びベンジルジメチルケタール等のケタール;ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーズケトン及び4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン;並びに2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
光重合開始剤には、必要に応じて光増感剤を併用することができる。光増感剤としては、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、トリエチルアミン及びトリエタノールアミン等が挙げられる。
【0073】
(メタ)アクリレート組成物を熱硬化型組成物として使用する場合、組成物に熱重合開始剤を配合する。
熱重合開始剤としては、公知のものを使用することができる。
【0074】
4−3.その他成分
前記成分以外にも、必要に応じて、消泡剤、レベリング剤、無機フィラー、有機フィラー、光安定剤、酸化防止剤及び紫外線吸収剤等を配合することもできる。又、必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤及び重合禁止剤等を少量添加してもよい。
【実施例】
【0075】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。尚、以下において、「部」は重量部を意味し、「%」は断りがない場合は重量%を意味する。
【0076】
◎製造例1
攪拌機、温度計、水分離器を備えた反応器に、ペンタエリスリトール2,720g(20モル)、アクリル酸7,777g(108モル)、反応溶媒としてトルエン8,888g、酸触媒としてパラトルエンスルホン酸(以下、PTSという)333g及び重合禁止剤として塩化第二銅15.3gを仕込んだ後、80kPaにて6時間加熱還流させ、水1,432g(79モル)を留出させて脱水エステル化反応を実施した。
反応終了後、反応液に水2,111gを加え、20℃で攪拌した後静置し、下層(水層)を分離した。その後、上層(有機層)に10%水酸化ナトリウム水溶液3,935gを加え、20℃で攪拌した後静置し、下層(水層)を分離した。その後、上層(有機層)に水2,111gを加え20℃で攪拌した後静置し、下層(水層)を除去した。上層(有機層)にハイドロキノンモノメチルエーテル(以下、MQという)を3.6g添加し、1〜400mmHgの減圧下、80℃で6時間攪拌しトルエンを留去した。
その後、濾過助剤(ラジオライト)を100g添加し、濾紙を設置した濾過機に投入した。
濾紙表面に濾過助剤をプリコートした後、窒素又は含酸素ガス(酸素5容量%、窒素95容量%)又は空気を用いて濾過機内に圧力をかけながら濾過を行い、6,934gのペンタエリスリトールトリアクリレート(以下、PETriという)とペンタエリスリトールテトラアクリレート(以下、PETeという)を含む多官能アクリレート組成物を得た。
【0077】
◎比較例1
製造例1で得た多官能アクリレート組成物について、以下に記す分析と評価を行った。それらの結果を表1及び表2に示す。
【0078】
○分析
1)マイケル付加物含有量
得られた多官能アクリレート組成物を使用して、下記条件でゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)分析を行い、マイケル付加物の含有量を算出した。
・装置:日本ウォーターズ(株)製 2695 セパレーションモジュール
・検出器:日本ウォーターズ(株)製 2414 示差屈折計検出器
・カラム:日本ウォーターズ(株)製 HSPgel HR MB-L(Part No.186001746)×2本
・カラム温度:40℃
・溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
・流速:0.4mL/min
・試料調製:0.1gの多官能アクリレート組成物を、5mlのTHFに溶解した。
・注入量:20μL
・マイケル付加物の含有量の算出方法:(多官能アクリレート組成物に由来する検出ピークの総面積 − 理想構造アクリレートを含む検出ピークの面積)/(多官能アクリレート組成物に由来する検出ピークの総面積)×100=マイケル付加物の含有量(%)
尚、理想構造アクリレートとは、エステル化で使用した原料アルコール1分子あたりに含まれる水酸基の数と、同数のアクリロイル基を1分子あたりに含み、かつマイケル付加型の構造を有しない多官能アクリレートを意味する。
【0079】
2)アクリロイル基密度
得られた多官能アクリレート組成物を使用して、下記装置及び条件で核磁気共鳴スペクトル(NMR)分析を行い、アクリロイル基の密度を算出した。
・装置:日本電子(株)製 JNM‐ECA400
・測定各種:プロトン(1H)
・基準周波数:400MHz
・基準物質:テトラメチルシランに由来するシグナルピークを0ppmとした。
・試料調製:3.0gの多官能アクリレート組成物を、1.0gのアセトニトリルと混合し、均一な溶液を得た。これを重クロロホルムに溶解した。
・アクリロイル基の密度の算出方法:アクリロイル基に由来するピーク(5.8〜6.5ppm)の総面積と、アセトニトリルに由来するピーク(2.0ppm)の面積、及び試料調製に用いた多官能アクリレート組成物とアセトニトリルの重量から、多官能アクリレートに含まれるアクリロイル基の密度を算出した(mmol/g)。
【0080】
3)触媒に由来する不純物(硫黄)
微量硫黄分析を行い、エステル化で使用したスルホン酸触媒に由来する不純物の含有量を見積った。
・装置:三菱化成(株)製 微量塩素・硫黄分析計TOX−100型
・方式:酸化分解電量滴定方式
【0081】
4)重合禁止剤に由来する不純物(塩素)
微量塩素分析を行い、重合禁止剤として使用したハロゲン化物に由来する不純物の含有量を見積った。
・装置:三菱化成(株)製 微量塩素・硫黄分析計TOX−100型
・方式:酸化分解電量滴定方式
【0082】
5)重合禁止剤に由来する不純物(銅)
微量金属不純物分析(ICP質量分析)を行い、重合禁止剤として使用した銅化合物に由来する不純物の含有量を見積った。
・装置:アジレント7500cs型
・測定モード:H2モード、Heモード
・標準液濃度:0、1、2、5ppb
【0083】
6)重合禁止剤に由来する不純物(ナトリウム)
微量金属不純物分析(ICP質量分析)を行い、中和処理で使用した水酸化ナトリウムに由来する不純物の含有量を見積った。
・装置:アジレント7500cs型
・測定モード:H2モード、Heモード
・標準液濃度:0、1、2、5ppb
【0084】
○評価
1)APHA
JIS K−0071−1−1998に準じて、多官能アクリレート組成物のAPHAを判定した。
【0085】
2)酸価
JIS K−0070−1992を参考に、得られた多官能アクリレート組成物をエタノールに溶解し、フェノールフタレインを指示薬として水酸化カリウムエタノール溶液で滴定した。試料の酸価を下式から算出した。
酸価[mg−KOH/g] = N×T×f×56.11/W
N:アルコール性水酸化カリウム溶液の濃度[mol/L]
T:アルコール性水酸化カリウム溶液の滴定量[ml]
f:アルコール性水酸化カリウム溶液の力価
W:試料重量[g]
【0086】
3)強制劣化試験
30mlガラス容器に得られた多官能アクリレート組成物を5g入れ、大気冷暗所で数日静置することで、アクリレートに含まれる水分濃度を1,000〜3,000wtppmに調整した。その後、該容器を密封し、80℃に保ったヒーティングブロック中で144時間加熱した。放冷後に開封し、前記の方法で酸価を測定した。
【0087】
◎製造例2
製造例1と同様の反応器に、ジペンタエリスリトール3,811g(15モル)、アクリル酸8,425g(117モル)、トルエン11,111g、PTS500g及び塩化第二銅18.5gを仕込んだ後、80kPaにて7時間加熱還流させ、水1,506g(84モル)を留出させて脱水エステル化反応を実施した。
反応終了後、反応液に水2,950gを加え、20℃で攪拌した後静置し、下層(水層)を分離した。その後、上層(有機層)に20%水酸化ナトリウム水溶液2,756gを加え、20℃で攪拌した後静置し、下層(水層)を分離した。その後、上層(有機層)に水2,950gを加え20℃で攪拌した後静置し、下層(水層)を除去した。上層(有機層)にMQ3.6gを添加し、1〜400mmHgの減圧下、80℃で6時間攪拌しトルエンを留去した。
その後、濾過助剤(ラジオライト)を100g添加し、濾紙を設置した濾過機に投入した。
濾紙表面に濾過助剤をプリコートした後、窒素又は含酸素ガス(酸素5容量%、窒素95容量%)又は空気を用いて濾過機内に圧力をかけながら濾過を行い、6937gのジペンタエリスリトールペンタアクリレート(以下、DPEPという)とジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(以下、DPEHという)を含む多官能アクリレート組成物を得た。
【0088】
◎比較例2
製造例2で得た多官能アクリレート組成物について、製造例1と同様の分析と評価を行った。結果を表1及び表2に記す。
【0089】
◎実施例1
[工程1]
図3に示す装置を使用して操作を行った。尚、以下において括弧書の数字は図3における符号を意味する。
攪拌機、温度計及び冷却器を備えた筒型セパラブルフラスコ(1※温度計及び冷却器は図示せず。以下、抽出槽という。)に、製造例1で得た多官能アクリレート組成物2,250g、n‐ヘプタン(以下、単にヘプタンという)3,420g及び2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(以下、BHTという)0.34gを投入し、液温が60℃になるよう油浴を使用して抽出槽を加温し攪拌を行った。尚、攪拌は多官能アクリレート組成物を主成分とする層〔抽出槽下層(1−b)〕と、ヘプタンを主成分とし、多官能アクリレート組成物の一部成分が溶解した〔抽出槽上層(1−a)〕が二層分離状態を維持するよう、ゆっくり行った。
[工程2]
他方、攪拌機、温度計及び冷却器を備えた筒型セパラブルフラスコ(4※温度計及び冷却器は図示せず。以下、分離槽という。)を抽出槽(1)より上部に設置した。
分離槽(4)に、ヘプタン8,200gを投入し、液温が−10℃になるよう冷却した塩化ナトリウム水溶液を循環させ分離槽を冷却した。
抽出槽上層液を、(株)イワキ製ハイセラポンプ(5)を使って汲み上げ、配管(6)を通じて分離槽(4)下部に供給した(供給速度;68g/min)。抽出槽(1)上層から汲み上げられた液は、ヘプタンを97%、多官能アクリレート組成物に由来する成分を3%含んでいた。
[工程3]
工程2と同時に、分離槽(4)上部から内液を配管(7)を通じてオバーフローさせ、抽出槽(1)下層に供給した。分離槽(4)上部からオバーフローした液は、ヘプタンを99.7%、多官能アクリレート組成物に由来する成分を0.15%含んでいた。
工程1〜3の操作を26時間継続した。分離槽下部には、PETriに由来する無色透明の油状成分と、PETeに由来する白色結晶成分が確認された。
[工程4]
分離槽(4)を加温し、液温を50℃にしてPETeに由来する白色結晶成分を溶解させた。これにより、ヘプタンを主成分とし、多官能アクリレート組成物の一部成分が溶解した層(分離槽上層)と、PETriとPETeを主成分とし、ヘプタンが少量溶解した層(分離槽下層)の二層状態になった。
分離槽下層をポンプで汲み上げて回収し、1〜500mmHgの減圧下、70℃にて空気を吹き込みながら5時間攪拌してヘプタンを留去し、PETriとPETeを主成分とする、1,730gの多官能アクリレート組成物を得た。
得られた多官能アクリレート組成物について、製造例1と同様の分析と評価を行った。それらの結果を表1及び表2に記す。
【0090】
◎実施例2
[工程1]
実施例1と同様の装置を使用して製造を行った。
抽出槽(1)に、製造例2で得た多官能アクリレート組成物2,230g、ヘプタン3,420g及びBHT0.34gを投入し、液温が70℃になるよう加温を行いながら攪拌を行った。尚、攪拌は多官能アクリレート組成物を主成分とする層(抽出槽下層)と、ヘプタンを主成分とし、多官能アクリレート組成物の一部成分が溶解した層(抽出槽上層)が二層分離状態を維持するよう、ゆっくり行った。
[工程2]
他方、分離槽(4)に、ヘプタン8,200gを投入し、液温が−10℃になるよう実施例1と同様の方法で冷却を行った。
抽出槽(1)上層液を、ハイセラポンプを使って汲み上げ、分離槽(4)下部に供給した(供給速度;68g/min)。抽出槽(1)上層から汲み上げられた液は、ヘプタンを99.65%、多官能アクリレート組成物に由来する成分を0.35%含んでいた。
[工程3]
工程2と同時に、分離槽(4)上部から内液を配管(7)を通じてオバーフローさせ抽出槽(1)下層に供給した。分離槽(4)上部からオバーフローした液は、ヘプタンを99.97%、多官能アクリレート組成物に由来する成分を0.03%含んでいた。
工程1〜3の操作を102時間継続した。分離槽下部には、DPEPに由来する無色透明の油状成分と、DPEHに由来する白色結晶成分が確認された。
[工程4]
分離槽(4)を加温し、液温を50℃にしてDPEHに由来する白色結晶成分を溶解した。これにより、ヘプタンを主成分とし、多官能アクリレート組成物の一部成分が溶解した層(分離槽上層)と、DPEPとDPEHを主成分とし、ヘプタンが少量溶解した層(分離槽下層)の二層状態になった。
分離槽(4)下層をポンプで汲み上げて回収し、1〜500mmHgの減圧下、70℃にて空気を吹き込みながら5時間攪拌してヘプタンを留去し、DPEPとDPEHを主成分とする、1,134gの多官能アクリレート組成物を得た。
得られた多官能アクリレート組成物について、製造例1と同様の分析と評価を行った。それらの結果を表1及び表2に記す。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
実施例1及び同2で得られた多官能(メタ)アクリレート組成物は、比較例1及び同2で単にエステル化で得られた多官能(メタ)アクリレート組成物と比較して、マイケル付加物等の有機物並びに硫黄、塩素、銅及びナトリウムの無機物といった不純物が少ないものであり、このため酸価及び強制劣化試験後の酸価も低く、着色も少ないものであった。
さらに、実施例1及び同2で得られた多官能(メタ)アクリレート組成物は、比較例1及び同2で単にエステル化で得られた多官能(メタ)アクリレート組成物と比較して、アクリロイル基密度が高いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明により得られる多官能(メタ)アクリレートは、多官能(メタ)アクリレートが使用される種々の用途に使用することができ、特に(メタ)アクリロイル基密度が高いためハードコート剤の配合成分として好適である。
又、本発明により得られる多官能(メタ)アクリレートは、不純物が少ないため、不純物量が特に少ないものが要求される、例えば光学電子材料用樹脂成分、半導体製造、液晶、サーマルヘッド等の回路基板の製造に用いられるレジスト等の配合成分として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】図1は、発明1で使用する装置の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、発明1で使用する装置の一例を示す模式図である。
【図3】図3は、発明2で使用する装置の一例を示す模式図である。
【図4】図4は、発明2で使用する装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0096】
1 攪拌槽(抽出槽)
2 セトラー
3 RDC塔
4 攪拌槽(分離槽)
5 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物〔以下、多官能(メタ)アクリレートという〕を含む組成物を有機溶剤に接触させて抽出を行い、抽出前より(メタ)アクリロイル基密度の高い多官能(メタ)アクリレートを含む組成物とする多官能(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項2】
下記工程1〜工程4を含む請求項1記載の多官能(メタ)アクリレートの製造方法。
工程1:多官能(メタ)アクリレートを含む組成物を有機溶剤に接触させて抽出を行う工程。
工程2:工程1で得られた多官能(メタ)アクリレートを含む有機溶剤を移液し、工程1の温度より低い温度に冷却して、該多官能(メタ)アクリレートを析出させるか又は有機溶剤と層分離させる工程。
工程3:工程2において冷却して分離させた有機溶剤を、再び工程1で使用する工程。
工程4:工程1〜工程3を繰り返した後、工程2で析出又は有機溶剤と層分離した多官能(メタ)アクリレートを回収する工程。
【請求項3】
有機溶剤が炭化水素系溶剤である請求項1又は請求項2に記載の多官能(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項4】
炭化水素系溶剤が、炭素数6〜9の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素である請求項3に記載の多官能(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項5】
前記工程1〜工程3を連続的に実施する請求項2〜請求項4のいずれかに記載の多官能(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項6】
多官能(メタ)アクリレートが、ペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリ(メタ)アクリレート又はジトリメチロールプロパンポリ(メタ)アクリレートである請求項1〜請求項5のいずれかに記載の多官能(メタ)アクリレートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−64988(P2010−64988A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233698(P2008−233698)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】