説明

多層コーティング

【課題】医療移植片調製用で金属基材用の摩耗、引っ掻き及び腐食耐性多層コーティング材料の提供。
【解決手段】金属基材1上に、約3μm未満の厚さを有し、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む第1層を沈着させる工程と、第1層上に沈着した窒化チタン11a、チタン炭窒化物11b、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含み、第1層とは異なる第2層とであって、第1層及び前記第2層の1回又はそれ以上の繰り返しを含む後層であって、それぞれが約1μm未満の厚さを有する後層とを含む本体。表面上の引っ掻きから生じる恐れのある微小亀裂の成長を低減し、それにより向上した摩耗特徴、引っ掻き耐性、基材材料への腐食性流体の浸透の防止をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔技術分野〕
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国仮出願第61/117,468号(2008年11月24日出願)に対して優先権を主張し、その全文を参照することにより本明細書に組み込む。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、とりわけ、医療移植片の調製に用いるもののような、金属基材用の摩耗、引っ掻き及び腐食耐性コーティングに関する。
【0003】
〔背景技術〕
いったん設置されると、金属の整形外科用移植片は、インサイチュで生じる恐れのある、引っ掻き、摩耗若しくは他の方法による損傷、又は腐食プロセスにより引き起こされる劣化に対して脆弱である。損傷した移植片は、性能の低下を示す場合があり、場合によっては修復又は置換しなければならず、それを行うために必要な、複雑で、身体的に外傷の残ることが多い外科的処置は、患者のリバビリテーションへ向けての進歩を遅らせる場合がある。更に、移植片の被提供者の平均寿命の上昇のような人口統計学的傾向、及びより若い被験者の間での整形外科的介入に対する必要性(例えば、スポーツ傷害、関節ストレスを導く過剰な体重又は乏しい健康管理に起因する)に起因して、長持ちする整形外科用移植片への関心が高まっている。
【0004】
鋼、コバルト、チタン、及びこれらの合金のような材料を含む、金属基材を含む移植片はまた、構造的完全性の喪失、生理学的構造及び移植片表面上の分離した断片又は粒子による磨損、並びに移植片性能の低下を導く恐れのある損傷又は機械的に促進された腐食に対しても脆弱である。
【0005】
金属の整形外科用移植片の引っ掻き及び摩耗耐性の向上に対する従来よりのアプローチは、イオン注入、ガス窒化、高温酸化及びコーティング技術(例えば、米国特許公開第2007/0078521号、2007年4月5日公開を参照のこと)のような表面処理を含んでいた。しかしながら、最適水準のピーク硬度を提供できない、コーティングの下層の基材への付着が弱い、及び経済的な実現可能性のような特定の制限により、これらの従来の方法の一部の実用性が制限されることがある。
【0006】
〔課題を解決するための手段〕
1つの態様では、本発明は、金属基材を提供する工程と、金属基材上に、約3μm未満の厚さを有し、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む第1層を沈着させる工程と、を含む方法を提供する。このような方法は、更に、第1層上に、約1μm未満の厚さを有し、窒化チタン、チタン炭窒化物又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む第2層を沈着させる工程と、第2層上に、約1μm未満の厚さを有し、窒化チタン、チタン炭窒化物又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、少なくとも1層の後層を沈着させる工程と、を更に含む。この種の好ましい方法はまた、少なくとも1層の後層上に、酸化アルミニウムを含む少なくとも1層を沈着させる工程も含む。
【0007】
また、金属基材と、約3μm未満の厚さを有し、金属基材上に沈着している、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む第1層と、約1μm未満の厚さを有し、第1層上に沈着している、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む第2層であって、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方のうち、第1層とは異なる1種である第2層と、第1層及び第2層の1回又はそれ以上の繰り返しを含む後層であって、後層のそれぞれが約1μm未満である厚さを有する後層と、を含む本体及び移植片を開示する。本移植片は、後層上に沈着した、少なくとも1層の酸化アルミニウムの層を更に含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】既知の技術によるCoCrMo基材へのコーティング。
【図2】本発明によるCoCrMo基材への引っ掻き、摩耗及び腐食耐性コーティング。
【図3】従来のコーティングに対して得られる結果と比較したときの、本発明により製造された引っ掻きにより損傷を受けたコーティング構造の動電位分極試験の結果。
【図4A】従来の「二重層」TiN/TiCNコーティングの透過型電子顕微鏡(TEM)像。
【図4B】従来の「二重層」TiN/TiCNコーティングの透過型電子顕微鏡(TEM)像。
【図5A】本発明により調製された多層コーティングの透過型電子顕微鏡(TEM)像。
【図5B】本発明により調製された多層コーティングの透過型電子顕微鏡(TEM)像。
【図6A】それぞれ本発明及び従来のコーティングでコーティングされ、それぞれのコーティングの機械的性能を比較するために引っ掻き試験に供された、表面の拡大像。
【図6B】それぞれ本発明及び従来のコーティングでコーティングされ、それぞれのコーティングの機械的性能を比較するために引っ掻き試験に供された、表面の拡大像。
【図6C】それぞれ本発明及び従来のコーティングでコーティングされ、それぞれのコーティングの機械的性能を比較するために引っ掻き試験に供された、表面の拡大像。
【図6D】それぞれ本発明及び従来のコーティングでコーティングされ、それぞれのコーティングの機械的性能を比較するために引っ掻き試験に供された、表面の拡大像。
【図6E】それぞれ本発明及び従来のコーティングでコーティングされ、それぞれのコーティングの機械的性能を比較するために引っ掻き試験に供された、表面の拡大像。
【図7A】40Nの定荷重による引っ掻きを通して、(A)従来のコーティングの研磨した断面のSEM解析により得られた拡大像。
【図7B】40Nの定荷重による引っ掻きを通して、(B)本発明のコーティングの研磨した断面のSEM解析により得られた拡大像。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、本開示の一部を形成する、添付図面及び実施例に関連して解釈される以下の詳細な説明を参照することにより、より容易に理解することができる。本発明は、本明細書に記載する及び/又は示す特定の製品、方法、条件又はパラメータに限定されるものではなく、本明細書で使用される専門用語は実施例を用いて具体的な実施形態を記載する目的のためだけのものであり、請求した発明を制限することを意図するものではないことが理解されるべきである。
【0010】
本開示では、単数形「a」、「an」及び「the」は、特に明示しない限り、複数の参照及び少なくともその特定の値を含む特定の数値の参照を含む。従って、例えば、「物質(a material)」に対する参照は、1種又はそれ以上のこのような物質及び当業者に既知であるその等価物等に対する参照である。値が先行詞「約」を用いることにより近似値として表現されるとき、特定の値が別の実施形態を形成することが理解されよう。本明細書で使用するとき、「約X(Xは数値である)」は、好ましくは包括的に列挙した値の±10%を指す。例えば、語句「約8」は、好ましくは包括的に7.2〜8.8の値を指し、別の例としては、語句「約8%」は、好ましくは包括的に7.2%〜8.8%の値を指す。存在する場合、全ての範囲は包括的かつ組み合わせ可能である。例えば、「1〜5」の範囲を列挙するとき、列挙した範囲は「1〜4」、「1〜3」、「1〜2」、「1〜2及び4〜5」、「1〜3及び5」等の範囲を含むと解釈すべきである。更に、選択肢の一覧を肯定的に提供するとき、このような一覧は、選択肢のいずれかが、例えば、特許請求の範囲中の否定的限定により除外される場合があることを意味すると解釈できる。例えば、「1〜5」の範囲を列挙するとき、列挙された範囲は、1、2、3、4又は5のいずれかが否定的に除外される状況を含むと解釈してもよく、したがって「1〜5」の列挙は「1及び3〜5であるが2ではない」又は簡単に「2は含まれない」と解釈することもできる。
【0011】
本明細書に引用又は記載する各特許、特許出願及び刊行物の開示は、その全文を参照することにより本明細書に組み込む。
【0012】
本発明は、1つには、整形外科用移植片に使用するための金属基材材料に、窒化チタン、チタン炭窒化物又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の多「薄」層を沈着させると、インサイチュでの引っ掻き、摩耗及び腐食耐性が向上するという発見に関する。窒化チタンは、基材界面に垂直に配向された柱状粒子構造を有する特定の基材(CoCrMo等)上で核形成及び成長できること、類似の様式でチタン炭窒化物の後層が成長すること、外側のアルミナ層がこの構造上に沈着するとき、外側のアルミナ層の引っ掻きは、後層を通して金属基材への亀裂の伝播を導く場合があることが観察されている。ある例では、移植片環境に由来する腐食性流体は金属基材に接近し、コーティングが沈着している移植片本体を局部的に腐食させる可能性を生む。
【0013】
本発明は、摩耗及び磨耗耐性であり、他にコーティングされた移植片の表面の磨耗から生じる場合のある微小亀裂の成長を阻害し、それにより移植片基材材料への腐食性流体の浸透を防ぐ、多「薄」層コーティングを目的とする。動作の具体的な理論のいずれかに縛られるものではないが、本多層コーティングは、粒径を低下させ、コーティングフィルム内の形態を変化させることにより、破壊靱性を高めると考えられる(例えば、実施例2並びに図4及び5)。
【0014】
本発明によると、約3μm未満の厚さを有し、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む第1層が、金属基材上に沈着する。金属基材は、生体被提供者内への移植に好適な、任意の金属、金属含有又は部分的に金属である材料であってもよい。好適性は、生体適合性、機械的強度、摩耗耐性、機械加工性、固有の天然腐食耐性等の1つ又はそれ以上の観点で定義してもよい。金属は移植片として広く用いられており、ステンレス鋼、貴金属、コバルト−クロム合金(CoCrMoのような)、チタン、アルミニウム、並びに、例えばチタン及び/又はアルミニウム等の種々の他の合金を挙げることができる。金属基材は、好ましくは、最終加工された形であり、成形、機械加工、成型、表面処理、又は他の方法で移植片としての準備を整えているが、本発明の摩耗及び磨耗耐性並びに抗腐食性の向上したコーティングの準備は整えていない。金属基材は、移植片本体全体を表してもよく、移植片の1つ又はそれ以上の表面又は構成要素のような、移植片の一部であってもよい。例えば、その上に第1層、第2層及び後層の少なくとも一部が沈着している金属基材は、インサイチュで移植されたとき接触応力にさらされる移植片の一部であってもよい。
【0015】
第1層の金属基材への沈着は、好ましくは、介在する物品(例えば、介在層)又は物品の一部を用いることなく、第1層の材料に金属基材を直接接触させることを含む。このような実施形態では、第1層は好ましくは基材全体上で金属基材と、基材の表面と、又は基材の表面の一部と直接接触する。あるいは、1つ又はそれ以上の介在層、層の一部、粒子、パッチ又は第1層の材料以外の材料若しくは複数の材料の他の配置が、基材の一部と第1層の一部との間に介在してもよい。従って、本明細書で使用するとき、用語「上」は、基材と第1層との間、又は本明細書で開示する任意の2層の間の空間的関係に言及するとき、様々な物品「上」にあると言われる物品は、物品と様々な物品又はその一部との間に材料又は層が介在して、又は介在することなく、様々な物品と、例えば周囲環境との間に、少なくとも部分的に位置することを意味する。例えば、チタン炭窒化物の層は、チタン炭窒化物層が、窒化チタン層と周囲環境との間に少なくとも部分的に配置される限り、介在層、層の一部、又はチタン炭窒化物層と窒化チタン層及び/若しくは複数の層、層の一部との間に配置された材料、又はチタン炭窒化物層と周囲環境との間の材料が存在するか否かにかかわらず、窒化チタンの層上にあると言うことができる。第1層は、好ましくは、その全体が直接金属基材と接触する、連続シート又は材料の積層体を含む。
【0016】
第1層は、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含んでもよく、窒化チタンが好ましい。本明細書で使用するとき、「窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方」は、少なくともいくつかの窒化チタン及び少なくともいくつかのチタン炭窒化物が両方存在するような、任意の混合物、組み合わせ、又は単層内若しくは単層の一部としての他の構成を意味する。第1層の厚さは約3マイクロメートル(マイクロメートル)未満、約2.5マイクロメートル未満、約2マイクロメートル未満、約1.5マイクロメートル未満、又は約1マイクロメートル未満であってもよい。第1層は、任意の後層より厚くてもよく、第1層と最も厚い後層との間の厚さの差は約0.5マイクロメートル超、約0.75マイクロメートル超、約1マイクロメートル超、約1.25マイクロメートル超、約1.5マイクロメートル超、又は約1.75マイクロメートル超であってもよい。本明細書で使用するとき、所与の層の「厚さ」は、その全域にわたる層の平均厚さを指し、従って層の「厚さ」が約1マイクロメートルである場合、1マイクロメートルより薄い層の部分及び/又は1マイクロメートルより厚い層の部分が存在してもよいが、層の全域にわたる層の平均厚さは約1マイクロメートルであると算出することができる。
【0017】
本発明の任意の層の沈着は、本明細書で提供するような、特徴、例えば厚さプロファイルを有する層を提供する任意の許容可能な技術に従って実施してもよい。種々の好適な技術には、当業者に容易に理解され、物理的蒸着、化学的蒸着、及び溶射沈着(例えば、プラズマ溶射)を挙げることができる。化学蒸着(CVD)は、第1、第2及び/又は後層の沈着に好ましい方法を表し、極めて薄い(例えば、マイクロメートル又はサブミクロン)構造の沈着を可能にする。それぞれの層は単一技術を用いてそれぞれ沈着させてもよく、又は異なる層を異なる技術を用いて沈着させてもよい。例えば、より厚い層は、「厚い」層の沈着に好適な技術により沈着させてもよく、一方より薄い層は、より薄い層の沈着を達成できる技術により沈着させてもよい。
【0018】
第2層は好ましくは約1マイクロメートル未満の厚さを有し、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含んでもよい。第1層が窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方のうちの1種を含む場合、第2層は好ましくは、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方のうちの異なる1種を含む。例えば、第1層が窒化チタンを含む場合、第2層は好ましくは、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む。本開示の目的のために、「窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方」を含む層は、窒化チタンを含むが、チタン炭窒化物を含まない層とは「異なる」と考えられ、チタン炭窒化物を含むが、窒化チタンを含まない層とは「異なる」と考えられる。更に、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は両方のいずれかの異なる量を有する「窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方」を含む層は、「窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方」を含む第2層と比較したとき、第2層とは「異なる」と考えられる。
【0019】
第2層の厚さは約1マイクロメートル未満、約0.75マイクロメートル未満、約0.5マイクロメートル未満、約0.3マイクロメートル未満、約0.2マイクロメートル未満、又は約0.1マイクロメートル未満であってもよい。第2層は好ましくは、第1層の厚さより薄い厚さを有する。
【0020】
第1層上への第2層の沈着に続いて、少なくとも1層の後層が第2層上に沈着する。本発明によると、少なくとも1つ〜約100の後層が、第2層の沈着に続いて沈着してもよい。いくつかの実施形態では、約30〜約50以下、又は約40〜約50以下の後層が沈着する。第1層、第2層及び少なくとも1層の後層を合わせた合計厚さは、約3マイクロメートル〜約20マイクロメートルであってもよい、又は約5マイクロメートル〜約10マイクロメートルであってもよい。
【0021】
後層のそれぞれの厚さは、約1マイクロメートル未満であってもよく、それぞれの後層は同じ厚さであってもよく、又は異なる厚さであってもよい。所与の後層は、約0.75マイクロメートル未満、約0.5マイクロメートル未満、約0.3マイクロメートル未満、約0.2マイクロメートル未満(例えば、約0.1マイクロメートル)、又は約0.1マイクロメートル未満であってもよい。各後層は、第1層より薄い厚さ、第2層と同じ厚さ、第2層より厚い厚さ、又は第2層より薄い厚さを有してもよい。
【0022】
後層は、第1及び第2層の1回又はそれ以上の繰り返しを含んでもよい。本明細書で使用するとき、異なる層の「繰り返し」である層は、一般に、異なる層と同じ化学組成、異なる層と同じ厚さ、又はその両方である。例えば、第1層が窒化チタンのみを含み、第2層がチタン炭窒化物のみを含む場合、第1層及び第2層の繰り返しである2層の後層は、それぞれ窒化チタン及びチタン炭窒化物のみを含む。後層の補足物の全体は、第1及び第2層の1回又はそれ以上の繰り返しを含んでもよく、又は後層の一部のみが第1及び第2層の1回又はそれ以上の繰り返しを含んでもよい。1つの実施形態では、第2層は第1層とは異なり、後層の全てが第1及び第2層の繰り返しを含み、得られる構造は、それ故第1層の材料と第2層の材料が交互に重なる層を含む。この実施形態の好ましいバージョンでは、第1層は窒化チタンであり、第2層はチタン炭窒化物であり、後層は窒化チタン及びチタン炭窒化物が交互に重なる層を含む。第1層、第2層、及び少なくとも1層の後層の中で、少なくとも1層が窒化チタンを含み、少なくとも1層の隣接する層がチタン炭窒化物を含むことが好ましい。最上層又は最終層、すなわち少なくとも1層の後層の最後の層は、チタン炭窒化物を含んでもよい。
【0023】
後層の沈着に続いて、酸化アルミニウムを含む少なくとも1層を、最後/最上/最外後層上、すなわち窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む最後の層上に沈着させてもよい。本開示の目的のために、特に規定しない限り、「酸化アルミニウム」及び「アルミナ」は両方、Al23の任意の結晶形を指す。酸化アルミニウムの1種又はそれ以上の具体的な結晶形を、酸化アルミニウムを含む少なくとも1層で用いてもよい。例えば、酸化アルミニウム層は、アルファ酸化アルミニウム、カッパ酸化アルミニウム、又は当業者によく知られている酸化アルミニウムの他の結晶形の1種又はそれ以上を含んでもよい。
【0024】
酸化アルミニウムの層は、約2マイクロメートル〜約15マイクロメートル、例えば、約3マイクロメートル〜約15マイクロメートル、約4マイクロメートル〜約15マイクロメートル、又は約5マイクロメートル〜約15マイクロメートルの厚さを有してもよい。酸化アルミニウム層は、任意の第1層、第2層又は後層より厚くてもよい。酸化アルミニウム層の厚さは、製造コスト、移植片の種類、使用環境、層付着、固有の層耐久性等のような、当業者が容易に理解する多数の問題のいずれかにより決定してもよい。酸化アルミニウム層は、好ましくは、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の層が、酸化アルミニウムと、例えば周囲環境との間に配置されないように、本方法に従って沈着する最外層である。他の実施形態では、最外層は、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方の層であってもよく、このような実施形態では、最外層は約1μmを超える、約2μmを超える、又は約3μmを超える厚さを有してもよい。酸化アルミニウム層は、周囲環境と少なくとも部分的に直接接触してもよく、又は酸化アルミニウム層は、酸化アルミニウムと周囲環境との間に配置される材料で少なくとも部分的にコーティングされてもよい。例えば、保護コーティング層、摩擦増加又は低減層、殺菌層、組織集積促進層、又は別の材料を、酸化アルミニウム層の外表面の少なくとも一部に適用してもよい。
【0025】
酸化アルミニウム層は、第1層、第2層及び少なくとも1層の後層の沈着に関して、上述した任意の技術のような、任意の好適な沈着技術により沈着してもよい。例えば、化学的蒸着を用いて、本発明による酸化アルミニウム層を沈着させてもよい。
【0026】
本方法は、酸化アルミニウムを含む少なくとも1層の沈着前に、少なくとも1層の後層上に接着層を沈着させることを含んでもよい。換言すれば、接着層は、酸化アルミニウム層の空間的に直前に、少なくとも1層の後層の最後/最外層上に沈着させてもよい。このような接着層はまた、アルミナ接着層、酸化物接着層、又はカッパ若しくはアルファ核形成層としても知られており、酸化アルミニウム層と隣接する材料との間の接着強度を増大させる、及び/又は、所望の酸化アルミニウム結晶相の形成を促進するための使用が既に記載されている。酸化アルミニウムと本発明に従って用いてもよい隣接する材料との間の接着層は、例えば、米国特許第4,463,062号、同第6,156,383号、同第7,094,447号、米国特許公開第2005/0191408号及び、ジージリュー(Zhi-Jie Liu)ら、「市販のCVDコーティングされた超硬合金挿入物の接着層の研究(Investigations of the bonding layer in commercial CVD coated cemented carbide inserts)」、Surface & Coatings Technology 198(2005)161〜164に記載されており、これらはそれぞれ全文が本明細書に組み込まれる。接着層は、元素の周期律表のIVa族、Va族又はVIa族の金属の酸化物、オキシカーバイド、オキシニトライド及びオキシカルボニトライドの1種又はそれ以上を含んでもよい。例えば、接着層は、酸化チタン、チタンオキシカーバイド、チタンオキシニトライド及びチタンオキシカルボニトライドの1種又はそれ以上を含んでもよい。いくつかの実施形態では、接着層は、酸化物の混合物、例えば、酸化チタンの混合物のような、材料の混合物であってもよい。
【0027】
第1層、第2層及び少なくとも1層の後層の沈着に関して上述した任意の技術のような、接着層を沈着させるための利用可能な技術は、当業者に理解されよう。例えば、化学的蒸着を用いて、本発明による接着層を沈着させてもよい。接着層は、2マイクロメートル未満、1マイクロメートル未満、500ナノメートル未満、250ナノメートル未満、100ナノメートル未満、50ナノメートル未満、30ナノメートル未満、20ナノメートル未満、又は10ナノメートル未満の厚さを有してもよい。種々の企業(例えば、イオンボンド(Ionbond)、マディソンハイツ(Madison Heights)、ミシガン州)が、接着層を適用するサービスを提供しており、この目的のために連絡をとることができる。
【0028】
別の態様では、金属基材と、約3μm未満の厚さを有し、金属基材上に沈着した窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む第1層と、約1μm未満の厚さを有し、第1層上に沈着した窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む第2層であって、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方のうち前記第1層と異なる1種である第2層と、第1層及び第2層の1回又はそれ以上の繰り返しを含む後層であって、各後層が約1μm未満の厚さを有する後層と、を含む本体を提供する。現在、開示されている本体は、整形外科用移植片の調製に用いてもよい。
【0029】
また、金属基材と、約3μm未満の厚さを有し、金属基材上に沈着した窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む第1層と、約1μm未満の厚さを有し、第1層上に沈着した窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む第2層であって、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方のうち前記第1層と異なる1種である第2層と、第1層及び第2層の1回又はそれ以上の繰り返しを含む後層であって、各後層が約1μm未満の厚さを有する後層と、後層上に沈着した少なくとも1層の酸化アルミニウムと、を含む移植片を開示する。本明細書で使用するとき、「移植片」は、被験者内に設置してもよい構造物又は被験者内に設置してもよい構造物の構成要素若しくは一部を指す。
【0030】
現在開示されている本体及び移植片の金属基材は、生体被提供者内への移植に好適な、任意の金属、金属含有又は部分的に金属である材料であってもよい。好適性は、1つ又はそれ以上の生体適合性、機械的強度、摩耗耐性、機械加工性、固有の腐食耐性等の観点で定義してもよい。金属は移植片として広く用いられており、ステンレス鋼、貴金属、コバルト−クロム合金(CoCrMoのような)、チタン、アルミニウム、並びに、例えば、チタン及び/又はアルミニウム等の種々の他の合金を挙げることができる。金属基材は、好ましくは、最終加工された形であり、成形、機械加工、成型、表面処理、又は他の方法で移植片としての準備は整えているが、本発明の磨耗及び腐食耐性コーティングの準備は整えていない。金属基材は、本体又は移植片全体を表してもよく、本体又は移植片の1つ又はそれ以上の表面又は構成要素のような、その一部であってもよい。例えば、その上に第1層、第2層及び後層の少なくとも一部が沈着している金属基材は、インサイチュで移植されたとき接触応力にさらされる移植片の一部であってもよい。
【0031】
第1層と金属基材との間の空間的関係は、好ましくは、介在する物品(例えば、介在層)又は物品の一部を用いることなく、第1層の材料に金属基材を直接接触させることを含む。このような実施形態では、第1層は好ましくは基材全体上で金属基材と、基材の表面と、又は基材の表面の一部と直接隣接して接触する。あるいは、1つ又はそれ以上の介在層、層の一部、粒子、パッチ又は第1層の材料以外の材料若しくは複数の材料の他の配置が、基材の一部と第1層の一部との間に介在してもよい。したがって、上述のように、用語「上」は、基材と第1層との間、又は本明細書で開示する任意の2層の間の空間的関係に言及するとき、様々な物品「上」にあると言われる物品は、物品と様々な物品又はその一部との間に材料又は層が介在して又は介在することなく、様々な物品と、周囲環境との間に、少なくとも部分的に位置することを意味する。例えば、チタン炭窒化物の層は、チタン炭窒化物層が、窒化チタン層と周囲環境との間に少なくとも部分的に配置される限り、介在層、層の一部、又はチタン炭窒化物層と窒化チタン層及び/若しくは複数の層、層の一部との間に配置された材料、又はチタン炭窒化物層と周囲環境との間の材料が存在するか否かにかかわらず、窒化チタンの層上にあると言うことができる。第1層は、好ましくは、その全体が直接金属基材と接触する連続シート又は材料の積層体を含む。
【0032】
現在開示されている本体及び移植片によると、第1層は、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含んでもよく、窒化チタンが好ましい。第1層の厚さは約3マイクロメートル(マイクロメートル)未満、約2.5マイクロメートル未満、約2マイクロメートル未満、約1.5マイクロメートル未満(例えば、約1マイクロメートル)、又は約1マイクロメートル未満であってもよい。第1層は、任意の後層より厚くてもよく、第1層と最も厚い後層との間の厚さの差は約0.5マイクロメートル超、約0.75マイクロメートル超、約1マイクロメートル超、約1.25マイクロメートル超、約1.5マイクロメートル超、又は約1.75マイクロメートル超であってもよい。
【0033】
本発明の任意の層の沈着は、本明細書に提供するような、特徴、例えば厚さプロファイルを有する層を提供する任意の許容可能な技術に従って実施してもよい。種々の好適な技術は、当業者に容易に理解され、物理的蒸着、化学的蒸着、及び溶射沈着(例えば、プラズマ溶射)を挙げることができる。化学的蒸着(CVD)は、第1、第2及び/又は後層の沈着に好ましい方法を表し、極めて薄い(例えば、マイクロメートル又はサブマイクロメートル)構造の沈着を可能にする。それぞれの層は、単一技術を用いてそれぞれ沈着させてもよく、又は異なる層を異なる技術を用いて沈着させてもよく、例えば、より厚い層は、「厚い」層の沈着に好適な技術により沈着させてもよく、一方より薄い層は、より薄い層の沈着を達成できる技術により沈着させてもよい。
【0034】
第2層は約1マイクロメートル未満の厚さを有し、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含んでもよい。第1層が窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方のうち1種を含む場合、第2層は、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方のうち異なる1種を含んでもよい。例えば、第1層が窒化チタンを含む場合、第2層は好ましくは、チタン炭窒化物を含んでもよい、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含んでもよい。
【0035】
第2層の厚さは約1マイクロメートル未満、約0.75マイクロメートル未満、約0.5マイクロメートル未満、約0.3マイクロメートル未満、約0.2マイクロメートル未満(例えば、約1マイクロメートル)、又は約0.1マイクロメートル未満であってもよい。第2層は好ましくは、第1層の厚さより薄い厚さを有する。
【0036】
本本体及び移植片は、第2層上に沈着する少なくとも1層の後層を更に含む。本発明によると、少なくとも1〜約50層の後層が含まれてもよく、第2層の沈着に続いて沈着する。1つの実施形態では、約30〜約40以下の後層が含まれる。第1層、第2層及び少なくとも1層の後層を合わせた厚さは、約3マイクロメートル〜約20マイクロメートルであってもよい、又は約5マイクロメートル〜約10マイクロメートルであってもよい。
【0037】
後層のそれぞれの厚さは、約1マイクロメートル未満であってもよく、それぞれの後層は同じ厚さであってもよく、又は異なる厚さであってもよい。所与の後層は、約0.75マイクロメートル未満、約0.5マイクロメートル未満、約0.3マイクロメートル未満、約0.2マイクロメートル未満(例えば、約0.1マイクロメートル)、又は約0.1マイクロメートル未満であってもよい。各後層は、第1層より薄い厚さ、第2層と同じ厚さ、第2層より厚い厚さ、又は第2層より薄い厚さを有してもよい。
【0038】
後層は、第1及び第2層の1回又はそれ以上の繰り返しを含んでもよい。既に規定したように、異なる層の「繰り返し」である層は、一般に、異なる層と同じ化学組成、異なる層と同じ厚さ、又はその両方である。例えば、第1層が窒化チタンであり、第2層がチタン炭窒化物である場合、第1層及び第2層の繰り返しである2層の後層は、それぞれ窒化チタン及び窒化チタンを含む。後層の補足物の全体は、第1及び第2層の1回又はそれ以上の繰り返しを含んでもよく、又は後層の一部のみが第1及び第2層の1回又はそれ以上の繰り返しを含んでもよい。1つの実施形態では、第2層は第1層とは異なり、後層の全てが第1及び第2層の繰り返しを含み、得られる構造は、それ故第1層の材料と第2層の材料が交互に重なる層を含む。この実施形態の好ましい形態では、第1層は窒化チタンであり、第2層はチタン炭窒化物であり、後層は窒化チタン及びチタン炭窒化物が交互に重なる層を含む。第1層、第2層、及び少なくとも1層の後層の中で、少なくとも1層が窒化チタンを含み、少なくとも1層の隣接する層がチタン炭窒化物を含むことが好ましい。最上層又は最終層、すなわち少なくとも1層の後層の最後の層は、チタン炭窒化物を含んでもよい。
【0039】
本移植片は、最後/最上/最外後層上、すなわち窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む最後の層上に沈着している少なくとも1層の酸化アルミニウム層のように、酸化アルミニウムを含む少なくとも1層を更に含む。酸化アルミニウムの1種又はそれ以上の具体的な結晶形を、酸化アルミニウムを含む少なくとも1層で用いてもよい。例えば、酸化アルミニウム層は、アルファ酸化アルミニウム、カッパ酸化アルミニウム、又は当業者によく知られている酸化アルミニウムの他の結晶形の1種又それ以上を含んでもよい。
【0040】
酸化アルミニウムの層は、約2マイクロメートル〜約15マイクロメートル、例えば、約3マイクロメートル〜約15マイクロメートル、約4マイクロメートル〜約15マイクロメートル、又は約5マイクロメートル〜約15マイクロメートルの厚さを有してもよい。酸化アルミニウム層は、第1層、第2層又は後層のいずれかより厚くてもよい。酸化アルミニウム層の厚さは、製造コスト、移植片の種類、使用環境、層接着、固有の層耐久性等のような、当業者が容易に理解する多数の問題のいずれかにより決定してもよい。酸化アルミニウム層は、好ましくは、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の層が、酸化アルミニウムと周囲環境との間に配置されないように、本方法に従って沈着する最外層である。酸化アルミニウム層は、周囲環境と少なくとも部分的に直接接触してもよく、又は酸化アルミニウム層は、酸化アルミニウムと周囲環境との間に配置される材料で少なくとも部分的にコーティングされてもよい。例えば、保護コーティング層、摩擦増加層、殺菌層、又は別の材料を、酸化アルミニウム層の外表面の少なくとも一部に適用してもよい。
【0041】
酸化アルミニウム層は、第1層、第2層及び少なくとも1層の後層の沈着に関して上述した任意の技術のような、任意の好適な沈着技術により沈着してもよい。例えば、化学蒸着を用いて、本発明による酸化アルミニウム層を沈着させてもよい。
【0042】
本移植片は、少なくとも1層の後層上に接着層を含んでもよい。接着層は、酸化アルミニウムを含む少なくとも1層の沈着前に沈着する。換言すれば、接着層は、酸化アルミニウム層の空間的に直前に、少なくとも1層の後層の最後/最外層上に沈着させてもよい。接着層に関する適切な背景情報は、本方法に関して上記に提供されている。本移植片の接着層は、元素の周期律表のIVa族、Va族又はVIa族の金属の酸化物、オキシカーバイド、オキシニトライド及びオキシカルボニトライドの1種又はそれ以上を含んでもよい。例えば、接着層は、酸化チタン、チタンオキシカーバイド、チタンオキシニトライド及びチタンオキシカルボニトライドの1種又はそれ以上を含んでもよい。いくつかの実施形態では、接着層は、酸化物の混合物、例えば、酸化チタンの混合物のような、材料の混合物であってもよい。
【0043】
第1層、第2層及び少なくとも1層の後層の沈着に関して、上述した任意の技術のような、接着層を沈着させるための利用可能な技術は、当業者に理解されよう。例えば、化学的蒸着を用いて、本発明による接着層を沈着させてもよい。接着層は、2マイクロメートル未満、1マイクロメートル未満、500ナノメートル未満、250ナノメートル未満、100ナノメートル未満、50ナノメートル未満、30ナノメートル未満、20ナノメートル未満、又は10ナノメートル未満の厚さを有してもよい。
【0044】
図1は、既知の技術によるCoCrMo基材1へのコーティングを示す。従来よりのコーティングは、例えば、基材1上に沈着した窒化チタンの比較的厚い(〜2マイクロメートル)層3と、窒化チタン層3上のチタン炭窒化物の同じ厚さの層5と、酸化アルミニウムの最上層7と、チタン炭窒化物層5と酸化アルミニウム層7との間に配置された接着層5とを含んでいた。
【0045】
図2は、本発明によるCoCrMo基材へのコーティング構成の概略を提供する。窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む、多くの(すなわち、少なくとも合計3層)の層11が基材上に沈着している。各層11は、好ましくは、2マイクロメートル未満の厚さを有する。基材1上に沈着しているこのような層11の第1層11aは、好ましくは窒化チタンであり、このような層11の第2層11bは、好ましくはチタン炭窒化物である。酸化アルミニウムの最上層15は、介在する接着層13により層11の最上/最後/最外層に接着してもよい。
【実施例】
【0046】
実施例1−腐食試験
動電位分極試験は、それぞれ、従来の「二重層」TiN/TiCNコーティング(アルミナ保護膜を備える)、物理蒸着(PVD)により適用されたTiNのみのコーティング、及び酸化されたZr−Nbと比較したとき、本発明による激しく引っ掻き損傷を受けたコーティングが、著しく向上した挙動を示すことを示した。本明細書に記載した本発明のコーティングは、1.5Vを通るアノード電流を実質的に低下させ、試験後の区分されたサンプル上に基材の溶解又は点腐食の形跡は存在しなかった。図3は、従来のコーティングに対して得られた結果と比較した、本発明により製造された激しく引っ掻き損傷を受けたコーティング構造の動電位分極試験の結果を示す。
【0047】
実施例2−従来の及び本発明のコーティングのTEM画像
図4A及び4Bは、金属基材上の従来の「二重層」コーティング(Al23の保護膜を備えるTiNの単層及びTiCNの単層)の透過型電子顕微鏡(TEM)撮像により得られた写真を提供する。従来の構造では、TiN層及びTiCN層は両方約2.5μmの厚さを有し、Al23保護膜は約5μmの厚さを有する。二重層構造が、比較的大きな、縦横比の高い粒子のTiN及びTiCN(成長方向に2〜3マイクロメートル以下)からなることが観察された。
【0048】
図5A及び5Bは、金属基材上の本発明の多層TiN/TiCNコーティングのTEM画像を提供する。図5A及び5Bに記載されたコーティングは、1μmの厚さを有するTiNの第1層と、第1TiN層の上部のTiCN(約〜0.1μmの厚さを有する)の第2層と、第2層の上部に交互に重なるTiN及びTiCNの後層であって、それぞれ約〜0.1μmの厚さを有する後層とを含む。多層構造の合計厚さは約5μmである。構造はまた、約5μmの厚さを有するAl23保護膜を含む(図5Aで見ることができる)。明らかに従来の構造と対照的に、本発明の多層コーティングの画像では、TiN及びTiCNの粒子が、TiN/TiCN多層構造内で別個の要素として区別できないほど小さいことが明らかになった。したがって、本多層コーティング構造の非常に細かい、ランダムに配向された粒子により置換された、従来の二重層構造で、基材に対して垂直に成長する大きな針状粒子を有する状態の、微小構造及び粒子形態の改善が観察された。このような特性は、本発明の多層コーティングが、少なくともコーティングフィルム内の粒径を低下させ、形態を変化させることにより、破壊靱性及び微小亀裂の成長に対する耐性を高めるという物的証拠を提供する。動作の任意の特定の理論に縛られるものではないが、本コーティングのより小さい、ランダムに配向された粒子構造が、コーティング中のTiN及びTiCNの異方性性質を取り除くことにより、機械的性能を向上させたかのようである。
【0049】
実施例3−従来の及び本発明のコーティングの引っ掻き試験
表面の損傷を引き起こす条件下で従来のコーティング及び本多層コーティングの機械的性能を比較するために、40Nの定荷重下で直径200マイクロメートルの圧子の先端を用いて、コーティングされたサンプルの表面に沿って長さ10mmの引っ掻き傷を形成した。50倍の倍率で顕微鏡写真を撮り、結果を評価した。
【0050】
本発明による多層コーティングは、厚さ1μmのTiNの第1層と、第1TiN層の上部の厚さ約〜0.1μmのTiCNの第2層と、第2層上部の、TiN及びTiCNが交互に重なる後層であって、それぞれ厚さ約〜0.1μmの後層と、を含んでいた。多層構造の合計厚さは約5μmであり、構造はまた厚さ約5μmのAl23保護膜を含んでいた。
【0051】
図6A〜Eに示すように、試験結果から、各従来のコーティングと比較したとき、本発明の多層TiN/TiCN/アルミナCVDコーティング(図6A)が、優れた機械的性能を有することが明らかになった。
【0052】
「二重層」構造(TiNの厚さ3μmの単層、TiCNの厚さ3μmの単層、及び厚さ5μmのアルミナ保護膜:図6B)に関しては、引っ掻き長さに沿って規則的な間隔で生じた亀裂及びアルミナの破砕片(ASTM C1624−051規格ではLc2−型亀裂)が観察され、一方、本発明の構造(図6A)では肉眼で見える亀裂は観察されなかった。
【0053】
このような比較的高荷重で酸化されたZr−Nb合金(5μmの酸化物層)を引っ掻くと(Zrは比較的柔軟性である)、試験による損傷の全長に沿って引っ掻き溝内に基材材料が露出した(図6C:引っ掻きの中心に白線として見える基材材料)。
【0054】
Ti−6Al−4V基材上の単層TiNコーティング(厚さ10μm、アーク蒸発PVDにより沈着)の画像は、コーティング材料の大きな片が引っ掻き線に沿って取り除かれ、基材材料が露出していることを示す(図6D)。
【0055】
ダイヤモンド様の炭素(DLC)コーティング(厚さ6μm、PVDによりF75 CoCrMo基材上に沈着)は、40Nの適用された荷重下で著しく削り取られた(図6E)。
【0056】
図7は、40Nの定荷重の引っ掻きを通して、従来の及び本発明のコーティングの研磨された断面の、走査型電子顕微鏡(SEM)分析により得られた拡大像を提供する。本発明のコーティング(図7B)は、「従来のCVD」構造よりも、アルミナ保護膜層下のTiN/TiCN層内の微小亀裂の影響を非常に受けにくいことが明白であり、亀裂及びひびはTiN及びTiCN単層(図7A)内で観察された。
【0057】
これらの結果は、本発明の多層コーティングが、引っ掻きにより誘発される損傷を最低限に抑え、従来のコーティングと比較して、微小亀裂の発生を防ぐのにより有効であることを示す。
【0058】
実施例4−代表的な多層コーティングの厚さ試験
本発明による多層コーティングは、化学的蒸着を用いて形成した。高温の化学的蒸着(HT−CVD)多層コーティングの目標条件は、以下のように設定された。
【0059】
【表1】

【0060】
TiN/TiCN多層構造物内では、各沈着した層は0.109μmを目標とした。したがって、所望の3.75μmのTiN/TiCN多層を形成するために、38層の個別の層(19層のTiN及び19層のTiCN)を形成した。
【0061】
化学的蒸着(CVD)プロセスの試験は、名目上の、大及び小移植片上で行い、分散成分(COV)研究と呼ばれる、CVD反応器のロット内での移植片の大きさの分散及び相対コーティング面積を調査した。
【0062】
実験は、CVDプロセスの限界を実行するために行った。上限CVDの実行は、大きな(最大表面積)大腿部移植片で行い、小さな(最小表面積)移植片では低CVD設定を用いた。
【0063】
大きな大腿部の膝移植片における上限プロセス分散は、医療移植片の洗浄ライン及びCVD反応器設備の両方で、上限設定(例えば、温度、気体流、圧力、時間等)を用いて完了した。
【0064】
大きな大腿部の膝移植片における下限プロセス分散は、医療移植片の洗浄ライン及びCVD反応器設備の両方で、下限設定(例えば、温度、気体流、圧力、時間等)を用いて完了した。
【0065】
破壊解析(横断研磨(cross sectioning)、引っ掻き試験等)のために、各CVD分散周期に添加した試片は、移植片上で得られた厚さの測定値間で非常に良好な相関を示し、試片は横断研磨により作製された。
【0066】
結果.実験結果は以下の通りであった。
COV実験.全ての移植片及び検証用試片は、TiN、多層TiN/TiCN及びアルミナの厚さ(XRF及び横断研磨により測定した)に関して、規格の範囲内であった。全ての移植片及び試片は、引っ掻き付着及び微小硬度について、規格の範囲内であった。
【0067】
上限プロセス分散の実行.全ての移植片及び検証用試片は、TiN及び多層TiN/TiCN(XRF及び横断研磨により測定した)に関して、規格の範囲内であると測定された。移植片は、アルミナの厚さ(XRF及び横断研磨により測定した)について目標バンド内で平均した。全ての移植片及び試片は、引っ掻き付着及び微小硬度について、規格の範囲内であった。更に、横断研磨により作製された移植片及び試片上で得られた厚さの測定値間には非常に良好な相関が存在した。
【0068】
下限プロセス分散の実行。移植片は、TiN/多層の厚さ(XRF及び横断研磨により測定した)について、目標バンド内で平均した。全ての移植片はアルミナの厚さ(XRF及び横断研磨により測定した)について、規格の範囲内であった。全ての移植片及び試片は、引っ掻き付着及び微小硬度について、規格の範囲内であった。横断研磨により作製された移植片及び試片上で得られた厚さの測定値間には非常に良好な相関が存在した。
【0069】
〔実施態様〕
(1) 金属基材を提供する工程と、
前記金属基材上に、約3μm未満の厚さを有し、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む第1層を沈着させる工程と、
前記第1層上に、約1μm未満の厚さを有し、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む第2層を沈着させる工程と、
前記第2層上に、約1μm未満の厚さを有し、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む少なくとも1層の後層を沈着させる工程と、を含む、方法。
(2) 約100層以下の後層を沈着させる工程を含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 約50層以下の後層を沈着させる工程を含む、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記第1層が約2μm未満の厚さを有する、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記第1層が約1μmの厚さを有する、実施態様1に記載の方法。
(6) 前記第1層が窒化チタンを含む、実施態様1に記載の方法。
(7) 沈着した前記少なくとも1層の後層の最後の層がチタン炭窒化物を含む、実施態様1に記載の方法。
(8) 前記第2層及び前記少なくとも1層の後層がそれぞれ約0.5μm未満の厚さを有する、実施態様1に記載の方法。
(9) 前記第2層及び前記少なくとも1層の後層がそれぞれ約0.2μm未満の厚さを有する、実施態様1に記載の方法。
(10) 前記基材が金属又は金属合金を含む、実施態様1に記載の方法。
(11) 前記基材がCoCrMoを含む、実施態様9に記載の方法。
(12) 前記第1層、前記第2層、及び前記少なくとも1層の後層が、約3μm〜約20μmの合計厚さを有する、実施態様1に記載の方法。
(13) 前記第1層、前記第2層、及び前記少なくとも1層の後層が、約5μm〜約10μmの合計厚さを有する、実施態様1に記載の方法。
(14) 前記層のうち少なくとも1層が窒化チタンを含み、少なくとも1層の隣接する層がチタン炭窒化物を含む、実施態様1に記載の方法。
(15) 前記少なくとも1層の後層が、前記第1層及び前記第2層の1回又はそれ以上の繰り返しを含む、実施態様1に記載の方法。
(16) 前記第1層が、窒化チタン、チタン炭窒化物、並びに窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方のうち1種を含み、前記第2層が窒化チタン、チタン炭窒化物、並びに窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方のうち異なる1種を含む、実施態様15に記載の方法。
(17) 前記第1層、前記第2層、及び前記少なくとも1層の後層が、約3μm〜約20μmの合計厚さを有する、実施態様15に記載の方法。
(18) 前記第1層、前記第2層、及び前記少なくとも1層の後層が、約5μm〜約10μmの合計厚さを有する、実施態様15に記載の方法。
(19) 前記層のうち少なくとも1層が化学蒸着により沈着される、実施態様1に記載の方法。
(20) 前記層の全てが化学蒸着により塗布される、実施態様1に記載の方法。
(21) 金属基材と、
約3μm未満の厚さを有しており、前記金属基材上に沈着した、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む第1層と、
約1μm未満の厚さを有しており、前記第1層上に沈着した、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む第2層であって、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方のうち前記第1層とは異なる1種である第2層と、
前記第1層及び前記第2層の1回又はそれ以上の繰り返しを含む後層であって、それぞれが約1μm未満の厚さを有する後層と、を含む、本体。
(22) 前記基材が金属又は金属合金を含む、実施態様21に記載の本体。
(23) 前記基材がCoCrMoを含む、実施態様21に記載の本体。
(24) 前記第1層が窒化チタンを含む、実施態様21に記載の本体。
(25) 前記少なくとも1層の酸化アルミニウムの沈着前に沈着する、前記少なくとも1層の後層の最後の層がチタン炭窒化物を含む、実施態様21に記載の本体。
(26) 前記第1層、前記第2層、及び前記後層が、約3μm〜約20μmの合計厚さを有する、実施態様21に記載の本体。
(27) 前記第1層、前記第2層、及び前記少なくとも1層の後層が、約5μm〜約10μmの合計厚さを有する、実施態様21に記載の本体。
(28) 前記第1層が約2μm未満の厚さを有する、実施態様21に記載の本体。
(29) 前記第1層が約1μm未満の厚さを有する、実施態様21に記載の本体。
(30) 前記第2層及び後層がそれぞれ約0.5μm未満の厚さを有する、実施態様21に記載の本体。
(31) 前記第2層及び後層がそれぞれ約0.2μm未満の厚さを有する、実施態様21に記載の本体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、
約3μm未満の厚さを有しており、前記金属基材上に沈着した、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む第1層と、
約1μm未満の厚さを有しており、前記第1層上に沈着した、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方を含む第2層であって、窒化チタン、チタン炭窒化物、又は窒化チタン及びチタン炭窒化物の両方のうち前記第1層とは異なる1種である第2層と、
前記第1層及び前記第2層の1回又はそれ以上の繰り返しを含む後層であって、それぞれが約1μm未満の厚さを有する後層と、を含む、本体。
【請求項2】
前記基材が金属又は金属合金を含む、請求項1に記載の本体。
【請求項3】
前記基材がCoCrMoを含む、請求項1に記載の本体。
【請求項4】
前記第1層が窒化チタンを含む、請求項1に記載の本体。
【請求項5】
前記少なくとも1層の酸化アルミニウムの沈着前に沈着する、前記少なくとも1層の後層の最後の層がチタン炭窒化物を含む、請求項1に記載の本体。
【請求項6】
前記第1層、前記第2層、及び前記後層が、約3μm〜約20μmの合計厚さを有する、請求項1に記載の本体。
【請求項7】
前記第1層、前記第2層、及び前記少なくとも1層の後層が、約5μm〜約10μmの合計厚さを有する、請求項1に記載の本体。
【請求項8】
前記第1層が約2μm未満の厚さを有する、請求項1に記載の本体。
【請求項9】
前記第1層が約1μm未満の厚さを有する、請求項1に記載の本体。
【請求項10】
前記第2層及び後層がそれぞれ約0.5μm未満の厚さを有する、請求項1に記載の本体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図6C】
image rotate

【図6D】
image rotate

【図6E】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate