説明

多層シリコン膜の製造方法

【目的】広い光学的バンドギャップを有し且つ欠陥が極めて少ない優れた多層シリコン膜を極めて効率よく製造することが可能な多層シリコン膜の製造方法を提供する。
【構成】電子サイクロトロン共鳴によって励起され、プラズマ化された水素含有ガスと式SiHXCl4-X(但し、Xは0〜3の整数)で表される塩素化シラン化合物とを、加熱された基材表面で連続的に接触させながら、該基材表面温度、電子サイクロトロン共鳴を起こす電磁波の強度、プラズマ化領域と基材表面との距離の少なくとも一つの条件を変化させてシリコンを析出させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、太陽光発電システム等に代表される、光起電力素子として有用な多層シリコン膜の新規な製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】非晶質シリコンは、他の光電材料と比較して高い光導電率、低い暗導電率等の優れた電気的特性を有すること、また、耐久性が高く、無公害であることから、太陽光発電システムに代表される光起電力素子を構成する材料として利用されている。
【0003】かかる非晶質シリコンの一般的な製造方法としては、ケミカル・ベーパー・デポディション(以下、CVDと言う)、具体的には、高周波プラズマCVD法、光CVD法、電子サイクロトロン共鳴(ECR)CVD法、熱CVD法、等が知られている。
【0004】これらの方法のうち、一般的には、高周波プラズマCVD法が使用されている。この方法は、モノシラン(SiH4)、ジシラン(Si26)を原料ガスとし、場合によっては、該原料ガスを水素、He、Ar等で希釈して、内部に一対の電極を設置した真空容器の該電極間に導入すると共に、高周波電力を印加することにより高周波プラズマを形成し、該原料ガスを分解して、電極上に設置された基材上に非晶質シリコン膜を形成するものである。この製造方法により、非晶質シリコン膜は60〜1000nm/分の速度で基材上に析出する。また、かかる方法により得られた非晶質シリコン膜の暗導電率と光導電率の比(以下、光感度という)で表される光電特性は非常に優れたものとなる。
【0005】更に、この様にして得られた非晶質シリコンのバンドギャップ(光学的禁制帯幅)は、基板温度が250℃付近で、膜中欠陥密度が最も小さくなるような膜形成条件で膜の析出を行った場合、1.7〜1.75eVの範囲となる。
【0006】上記の非晶質シリコン膜を太陽光発電システムに代表される光起電力素子として使用される場合においては、太陽エネルギーを効率良く吸収するために、バンドギャップの異なるシリコン膜を積層する手段が一般に用いられている。
【0007】例えば、バンドギャップの制御を行い、太陽エネルギーを効率良く吸収することが可能な非晶質シリコン多層膜を製造する技術に関しては、以下に示す4種類の方法が好適に行われている。尚、下記には2層膜の形成方法についてのみをその代表的製造方法の例として示した。
【0008】(1)ゲートバルブにより分離され、且つ連通した異なる二つの真空排気された容器の、第一の容器内に主原料ガスであるSiH4と希釈ガスである水素及び微量添加元素であるGeH4またはSnとを含んだガス状の化合物を導入し、該容器で、高周波プラズマCVD法により、基材表面に第一層のシリコン膜を形成する。その後、一端プラズマを停止し、第一の真空容器内を高真空排気し、連通部のゲートバルブを開け、予め、高真空排気された第2の容器内へ基材を移動せしめ、ゲートバルブを閉じた後、該真空容器内へ主原料ガスであるSiH4のみを導入し、第一層の形成と同様に、高周波プラズマCVD法により第一層上に第二層のシリコン膜を析出する方法。
【0009】上記技術により、シリコンを母体とするダイアモンド構造中に、Ge或いはSn等の異種元素が添加された、光学的バンドギャップが1.0〜1.7eV程度第一の層と、シリコンのみにより構成された、光学的バンドギャップが1.7〜1.75eVの第二の層よりなる長波長感度に優れた多層積層膜が製造される。
【0010】上記のようなGe及びSnの添加による光学的バンドギャップの制御は、例えば、オプトエレクトロニクス (Optoelectronics)143頁〜153頁(1989)に記載されている。
【0011】(2)(1)と同様な装置を使用し、第一の容器内に主原料ガスであるSiH4を導入し、高周波プラズマCVD法により基材上に第一層のシリコン膜の析出を行う。その後、(1)と同様にして、基材を第2の容器内に移動せしめ、該容器内へ主原料ガスであるSiH4と希釈ガスである水素及び微量添加元素であるO2、N2、NH3、CH4、C24等のいずれか一種類のガスを導入し、高周波プラズマCVD法によりシリコンと微量添加元素、すなわち、O、N、Cの内のいずれか一種類を含んだシリコン膜である第二層の析出を行う方法。
【0012】上記方法により、シリコンのみにより構成された、光学的バンドギャップが1.7〜1.75eVの第一層と、シリコンを母体とするダイアモンド構造中に、O、N、或いはCの内、いずれか一種類の異種元素が添加された、光学的バンドギャップが1.80〜3.5eV程度の第二の層よりなる短波長感度に優れた多層積層膜が製造される。
【0013】このようなO、N、Cの添加による光学的バンドギャップの制御は、オプトエレクトロニクス(Optoelectronics)143頁〜153頁(1989年)に記載されている。
【0014】(3)(1)と同様な装置を使用し、第一の容器内に主原料ガスであるSiH4を導入し、高周波プラズマCVD法により基材上に第一層のシリコン膜の析出を行う。その後、(1)と同様にして、基材を第二の容器内に移動せしめ、該容器内に水素ガスのみを供給して、第1の容器で形成されたシリコン膜表面を水素ガスプラズマで処理する。その後再び第一の容器に基材を移動せしめ、シリコン薄膜(20オングストローム程度)の形成と第二の容器へ移動しての水素ガスプラズマ処理を繰り返して行い所望の厚みの第二層シリコン膜を形成する方法。
【0015】上記方法により、シリコンのみを母体とするダイアモンド構造において、光学的バンドギャップが1.7〜1.75eVの第一層及び光学的バンドギャップが1.80〜2.0eV程度の第二層からなる短波長感度に優れた多層膜が製造される。
【0016】(4)内部に一対の電極を有した真空容器中に、主原料ガスであるSiH4を導入し、該電極に高周波電圧を印加することにより、高周波ガスプラズマを形成し、原料ガスの分解を行うことによって、電極上に設置された加熱基材上に、第一層のシリコン膜の析出を行う。その後、一端プラズマを停止し、容器内を高真空排気した後、同一容器内で主原料ガスであるSiH4及び希釈ガスである水素を導入し、高周波ガスプラズマを再度形成し、高水素希釈条件下において、加熱された第一層上に第二層の析出を行う方法。
【0017】上記方法により、シリコンのみを母体とするダイアモンド構造において、光学的バンドギャップが1.7〜1.75eVの第一層及び光学的バンドギャップが1.80〜2.0eV程度の第二層からなる短波長感度に優れた多層膜が製造される。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記した従来の技術による非晶質シリコン多層膜の形成に関しては、以下に示すような製造上の課題があり、未だ改良の余地があった。
【0019】即ち、上記(1)及び(2)の方法においては、基材上にシリコン膜を析出させるために使用する真空容器の数が、形成する膜の種類だけ必要となり、多大な設備コストが必要となる。また、各膜の形成においては、プラズマを一旦停止し、異なる真空容器間をゲートバルブを介して移動させることが必要であり、製造上の操作が煩雑となる。また、上記切り替えの影響として、形成されるシリコン多層膜の界面で欠陥が生じる恐れがある。更に、水素により原料ガスが高濃度希釈されるために、析出速度が著しく小さくなり、且つ、膜析出前の高真空排気を行うために要する時間、および、基板移動時間を含めると多大な時間を要するという問題がある。
【0020】また、(3)の方法を使用し、多層シリコン膜を形成する場合には、シリコンを析出させる真空容器と、プラズマ処理を行う真空容器が、それぞれ必要であり、上記(1)及び(2)の方法と同様、設備コストが大きくなるるとともに、製造上の問題を有する。また、本方法は第二層を析出する際、膜析出とプラズマ処理とを交互に行なうことを必須とする。しかも、膜析出時間と比較し水素プラズマ処理時間が2倍以上必要となり、実効的な膜形成時間が長くなるという問題を有している。
【0021】更に、(4)の方法により多層シリコン膜を析出させる場合には、異種元素の添加はなく、連続的な膜形成であるので、上述した方法における問題点は回避可能である。しかしながら、第1層形成後に第2層を形成する際、プラズマを停止し、主原料と希釈ガス流量の変更が必要となる。また、原料ガスの水素による高濃度希釈を行うため、非晶質シリコンの析出速度が著しく低下するという問題を有している。
【0022】従って、広い波長範囲に渡った光感度を有するシリコン多層膜を形成するためのシリコン多層積層膜の製造においては、多層シリコン膜を製造する工程及び装置を簡略化と共に、形成される多層シリコン膜内の欠陥の形成を抑制し且つ成膜速度の向上による実質的な製造時間の短縮が望まれていた。
【0023】
【課題を解決しようとする手段】本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意研究を重ねた。
【0024】その結果、原料ガスとして特定のシラン化合物を使用し、且つ該原料ガスと電子サイクロトロン共鳴により励起された水素含有ガスとを特定の条件下で接触させることにより、非晶質シリコン膜を速い成長速度で製造できること、及び、かかるシリコン膜の形成途上で、独立した3つの条件の一つ或いは2つ以上を同時に変えることによって、多層膜界面での欠陥を生成することなく、光学的バンドギャップを広範囲で容易に変化させることができ、その結果、広い波長範囲に亙って光感度を有する非晶シリコン多層膜の形成が可能となることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0025】即ち、本発明は、電子サイクロトロン共鳴によって励起され、プラズマ化された水素含有ガスと式SiHXCl4-X(但し、Xは0〜3の整数)で表される塩素化シラン化合物とを、加熱された基材表面で連続的に接触させながら、該基材表面温度、電子サイクロトロン共鳴を起こす電磁波の強度、プラズマ化領域と基材表面との距離の少なくとも一つの条件を変化させてシリコンを析出させることを特徴とする多層シリコン膜の製造方法である。
【0026】かかる本発明の方法による多層シリコン膜の形成は、第1層の析出終了後、シリコン膜を第2層以上の層を析出させる場合、該シリコン膜の析出を同一真空容器内でプラズマを停止することなく行うことができるため、設備コストを大幅に低減することが可能である。また、これによる膜析出工程の簡素化も達成され、極めて効率的に非晶質の多層シリコン膜の製造を行うことが可能である。
【0027】更に、層間で異なる光学的バンドギャップを有する非晶質の多層シリコン膜を、積層界面での欠陥形成を低く抑え、且つ速い速度で析出させることが可能であると同時に、ガス流量、圧力など、気相条件の変更も特に必要としないため、極めて効率よく膜厚の多層シリコン膜の析出を行うことができるというメリットを有する。
【0028】以下、本発明の方法を詳細に説明する。
【0029】本発明において、電子サイクロトロン共鳴により、プラズマ化されるガス(以下、プラズマ生成ガスという)は、少なくとも水素を含有するガスであれば特に制限されることはないが、特に、水素を10容量%以上、好ましくは60〜90容量%含有するものが好適である。
【0030】また、プラズマ生成ガスには、水素以外にシリコン膜の生成において不活性なガスを存在させることも可能である。該不活性なガスとしては、例えば、アルゴン、ヘリウム、キセノン、ネオン等が挙げられる。
【0031】更に、上記ガス中には、本発明を著しく阻害しない範囲、一般に、50容量%以下の範囲で、プラズマ生成ガスに後述する原料ガスを混合して供給することも可能である。
【0032】本発明において、プラズマ生成ガスを電子サイクロトロン共鳴により励起する方法は限定されるものではなく、公知の方法が特に制限なく採用される。
【0033】即ち、磁場と電磁波との相互作用によって、電磁波の共鳴吸収を起こし、サイクロトロン運動を起こす現象を利用する方法が全て実施できる。例えば、プラズマ生成ガスに電磁波及び磁場を同時に作用させる方法が一般的である。
【0034】上記電磁波としては、マイクロ波、超短波(VHF)等の電磁波が一般に使用される。特に、マイクロ波を使用した場合、安定的にプラズマを形成することが可能である。上記電磁波の供給パワーは、一般に20W〜2kWであり、好ましくは100〜600Wである。
【0035】また、磁場は、投入電力により磁場の強度が調整できる電磁石を使用することが好ましい。また、磁場の種類は、発散磁場、ミラー磁場等特に制限されないが、875ガウス以上の強度でシリコン膜の析出空間に形成するように制御することが好ましい。
【0036】本発明において、原料ガスとしては、式SiHXCl4-X(但し、Xは0〜3の整数である)で表される塩素化シラン化合物を使用することが、速い膜析出速度を維持した状態で、得られるシリコン多層膜の光学的バンドギャップの制御を行うために、極めて重要である。
【0037】即ち、前記したように、電子サイクロトロン共鳴CVD法において、原料ガスとしてモノシラン等の塩素化されていない化合物を使用する方法は公知であるが、かかるモノシラン等の塩素化されていない珪素原料を使用した場合、前記した特定の条件を変えても、得られるシリコン膜は本発明の目的とする光学的バンドギャップを効率よく制御することが困難となる。
【0038】上記の塩素化シランを具体的に例示すれば、テトラクロルシラン、トリクロルシラン、ジクロルシラン等が挙げられる。これらの化合物はシリコン膜生成条件下においてガス状で存在する。
【0039】上記塩素化シラン化合物は、単独で存在することが一般的であるが、本発明の効果を著しく阻害しない範囲で、水素や不活性ガスで希釈して供給することも可能である。
【0040】本発明において、プラズマ化された水素含有ガスと塩素化シラン化合物よりなる原料ガスとの混合比は、該水素含有ガス中の水素と塩素化シラン化合物中の塩素との原子比(H/Cl)が0.1〜50、好ましくは5〜10となるように設定することが好ましい。
【0041】即ち、かかる原子比が0.1より小さい場合、基材上に析出するシリコン膜はパウダー状となり易く、光電変換特性が低下する傾向がみられる。また、上記原子比が50より大きい場合も同様に、得られるシリコン膜の光電変換特性の低下がみられ、光電変換特性が低下する傾向がある。
【0042】また、プラズマ化された水素含有ガスと塩素化シラン化合物よりなる原料ガスとの混合比は上記範囲を満足することが好ましいが、特に、水素含有ガスと原料ガスとの流量比が、5〜10の比率の範囲となるように水素ガス或いは塩素化シラン化合物の希釈率を設定することが望ましい。
【0043】本発明において、シリコン膜の析出は、上記混合ガスを基材表面に接触させることにより行われる。かかる基材は、特に設定されるものではなく、素子形成時のプロセス及び用途に応じて、公知の材質より適宜選択される。例えば、形成されるシリコン薄膜を光電変換素子における光電変換層として使用する場合、基材としては、石英ガラス、青板ガラス、単結晶シリコン、多結晶シリコン、金属、セラミックス、耐熱性ポリマー、透明導電体等が使用できる。
【0044】本発明において、重要な要件は、プラズマ化された水素含有ガスと塩素化シラン化合物とを、加熱された基材表面で連続的に接触させながら、該基材表面温度、電子サイクロトロン共鳴を起こす電磁波の強度、プラズマ化領域と基材表面との距離の少なくとも一つの条件を変化させてシリコンを析出させることにより、光学的バンドギャップが異なるシリコン膜を連続して析出させ多層シリコン膜を形成することにある。
【0045】本発明において、シリコン析出の一つの条件である基材表面温度は、100℃〜500℃の範囲で変化させることが好ましい。基材温度が上記温度より低い場合、ポリマー状の膜が形成され、光電特性が低下する問題が生じ、逆に基材温度が上記範囲より高い場合は、多量の欠陥が膜中に形成され低温時と同様に、膜の光電特性が低下する。
【0046】かかる範囲で基材温度を変化させると、温度の上昇と共に得られた膜の光学的バンドギャップが減少し、温度の降下と共に光学的バンドギャップが増加する。
【0047】上記基材表面の温度の調節は、公知の手段が特に制限なく採用される。一般には、基板支持台に装着したヒーターによって行う方法、赤外ランプによって行う方法、高周波誘導加熱によって行う方法が好適に採用される。そのうち、特に、赤外ランプによって温度調節を実施する方法は、温度の切り替えを迅速に行うことができ好ましい。
【0048】また、本発明において、シリコン析出の一つの条件である、電子サイクロトロン共鳴を起こさせる電磁波の強度は、50〜500Wの範囲で調整することが好ましい。
【0049】かかる電磁波の強度範囲で、電磁波強度を高くすれば、光学的バンドギャップが増加し、逆に電磁波強度を低くすれば、光学的バンドギャップが減少する。
【0050】更に、本発明において、シリコン析出の一つの条件であるプラズマ化領域と基材表面との距離は、使用する装置の大きさなどによって多少の差はあるが、一般に15〜35cmの範囲で調整することが好ましい。即ち、該距離が15cmより小さい場合、プラズマによって、膜表面が衝撃を受ける傾向があり、35cmより大きい場合、膜析出速度のが低下し、本発明による効果が十分に発揮されない。
【0051】本発明によって形成されるシリコン膜の各層の厚みは特に制限されないが、0.03〜1μmが適当である。また、各層の光学的バンドギャップの短波長側から形成するか長波長側から形成するか等の形成順序は、プロセス上或いは目的物の特性上良ましい順序を適宜選択して決定すれば良い。
【0052】また、形成されるシリコン膜の層数は、一般に2〜4層が適当である。
【0053】本発明において、シリコン膜の形成は、上記した条件を満足するものであれば、その他の条件は公知の方法が特に制限なく採用される。
【0054】例えば、シリコン膜形成時の圧力は、一般に0.1〜10mTorrの範囲に設定され、特に、0.5〜5mTorrが好ましい。
【0055】以上のように、本発明の前記目的を達成するように光学的バンドギャップを変化させるには、基板温度、電子サイクロトロン共鳴を起こす電磁波の強度、及びプラズマ化領域と基板表面との距離のうちの少なくとも一つの条件を変えることが重要であり、その他の条件の変更は実質的に行わないことが望ましい。
【0056】上記した3つの条件のうち、本発明による効果が最も顕著に現れるのは、電子サイクロトロン運動を起こす電磁波の強度及び、プラズマ化領域と基材表面との距離の2要素である。
【0057】本発明を実施するための装置は特に制限されるものではない。代表的な装置を例示すれば、図1に概略図で示したような装置が挙げられる。
【0058】即ち、プラズマ生成室2と成膜室1からなり、プラズマ生成室2には、マイクロ波発生装置4と電磁石5とがそれぞれ作用するように配置されると共に、両者の作用を受ける位置にプラズマ生成ガス供給口6が接続される。また、成膜室には、ヒーター10を内蔵した支持台9が設けられ、その上に基材3がセットされる。
【0059】上記プラズマ生成室2と成膜室1とは連通していて、該成膜室1のかかる連通部と支持台9との間に原料ガスを供給し得るような位置に原料ガス供給口7が接続される。
【0060】また、装置内は、真空ポンプ11により、一定の圧力に調節される。尚、12は圧力調節のためのバルブであり、8は、ガス流量をそれぞれ調節する流量調節器である。
【0061】また、上記装置には、基材表面温度を調節するための赤外加熱ランプ(図示せず)、電子サイクロトロン共鳴を起こす電磁波の強度を調節するためのコントローラーとしてのマイクロ波発生装置4、プラズマ化領域と基材表面との距離を調節するための支持台昇降装置13が設けられる。
【0062】上記装置において、プラズマ生成ガスはプラズマ生成ガス供給口6より、流量調節器8により、流量を制御された後、プラズマ生成室2に供給され、そこでマイクロ波発生装置4からのマイクロ波と電磁石5の磁場により、電子サイクロトロン共鳴によって励起され、プラズマ化される。上記プラズマ化されたガスは、連通部より成膜室1に供給され、原料ガス供給口7より、流量調節器8により流量を制御された原料ガスと混合された後、ヒーター10によって一定温度に加熱された基材3に接触させることにより、該基材表面にシリコン膜が形成される。
【0063】
【効果】以上の説明より理解されるように、本発明の方法は、電子サイクロトロン共鳴CVD法と珪素原料としての塩素化シラン化合物の使用との組み合わせおいて、特定の条件を変更するだけで、形成されるシリコン膜の光学的バンドギャップの制御が可能で、且つ極めて高い析出速度で各シリコン膜が形成できるという知見に基づいてなされたものである。
【0064】そして、かかる構成により、多層シリコン膜の形成を同一真空容器内で行うことができるため、スループトが大幅に向上するばかりでなく、製造設備の簡素化、製造工程の簡素化が達成される。
【0065】また、プラズマの停止を必要としないため、層間での欠陥の生成が著しく抑えられた多層シリコン膜を形成することができる。更に、多層シリコン膜の光学的バンドギャップの調節に、原料ガスの水素による高度な希釈を必要としないため、前記高い析出速度を十分に維持することが可能である。
【0066】従って、本発明の方法によれば、広い光学的バンドギャップを有し且つ欠陥が極めて少ない優れた多層シリコン膜を極めて効率よく製造することが可能であり、その工業的価値は極めて高いものである。
【0067】
【実施例】本発明をさらに具体的に説明するため、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】尚、実施例及び比較例において、得られたシリコン多層膜の光導電率、光導電率の波長依存性、及び、膜中欠陥密度は以下の方法によって測定した。
【0069】(1)光導電率石英基板上に形成されたシリコン多層膜上に、電極間隔0.2mm、電極長38mmのアルミニウム電極を真空蒸着により形成し、電極間に、100Vの直流電圧を印加することにより、導電率測定を行った。
【0070】100mW/cm2の光を照射して得られる導電率を光導電率とした。
【0071】(2)光導電率波長依存性モノクロメーターによって、制御された光を400nmから700nmまで試料に照射し、光導電率の波長依存性を調べた。この時、得られた光導電率の最大値を1として規格化した。
【0072】(3)膜中欠陥密度アモルファスシリコン・アンド・リレイティッド・マテリアルズ(AMORPHOUSSILICON AND RERATED METERIALS)297〜327頁(1988年)に記載されている一定光電流測定法によって測定し、膜中欠陥密度として示した。
【0073】実施例1図1に示す装置を使用して以下の条件でシリコン多層膜を形成した。
【0074】まず、プラズマ生成ガスとして高純度水素を20SCCM、プラズマ生成室2に供給し、ECRプラズマを形成した。この時、マイクロ波投入電力は100W、磁場は875ガウスに設定した。この状態で、原料ガスであるジクロロシランを2.5SCCMの量で成膜室1へ供給し、ガスプラズマとヒーター10によって230℃に加熱された石英ガラスよりなる基材3とを接触させることにより、シリコン薄膜を析出した。
【0075】尚、上記反応圧力は真空ポンプ11により3mTorr、基板表面とプラズマ化領域(成膜室とプラズマ生成室との接点)との距離は17cmに設定し、5分間膜形成を行った後、プラズマを停止せず、マイクロ波パワーのみを300Wに上昇し、更に3分間膜形成を行い、約0.6μmのシリコン多層膜を得た。
【0076】触針法によって、石英基材上の多層シリコン膜の膜厚を測定し、次いで、該基材上にアルミニウム電極を形成して、電気的な測定を行った。
【0077】尚、本実験とは独立に、上記の各シリコン膜の成膜条件において、それぞれ膜形成を行なった結果、マイクロ波パワー100Wで得られた膜の光学的バンドギャップは1.7eV、欠陥密度は7×1015cm-3であり、マイクロ波パワー300Wで形成した膜の光学的バンドギャップは1.85eV、欠陥密度は2×1015cm-3であった。
【0078】得られた多層シリコン膜の100mW/cm2の強度の白色光を照射したときにおける光導電率及び光導電率の波長依存性の測定結果を表1に示す。また、比較のために、それぞれの単層膜の、光導電率の波長依存性を表2に示す。
【0079】実施例2実施例1において、マイクロ波パワーを300Wに固定し、基材位置のみを17cmから32cmに変更した以外は、同様な条件下で、5分間の膜形成を行った後、プラズマを停止せず、基材位置を17cmに戻して、更に3分間の膜形成を行い、約0.6μmのシリコン多層膜を得た。
【0080】尚、実施例1と同様、それぞれの成膜条件において、シリコン膜の形成を行った結果、基材位置32cmでシリコン膜の形成を行った場合、得られた膜の光学的バンドギャップは1.70eV、欠陥密度は8×1015cm-3で、また、基板位置17cmで膜形成を行った場合の光学的バンドギャップは1.85eV、欠陥密度は3×1015cm-3であった。
【0081】また、得られたシリコン多層膜の100mW/cm2の強度の白色光を照射したときにおける光導電率及び光導電率の波長依存性を実施例1同様、表1に示す。
【0082】実施例3実施例1において、基板温度のみを150℃に設定した以外は同様な条件で、3分間基材表面にシリコン膜を形成した後、プラズマを停止することなく、赤外加熱ランプの強度を増加せしめて基材温度を300℃に上昇させて、5分間シリコン膜の形成を行い、厚み0.6μmの多層シリコン膜を得た。上記基材表面の温度は、該基材上に点接触させた熱電対により測定した。
【0083】得られた多層シリコン膜の評価を実施例1と同様な方法により行った。
【0084】尚、実施例1と同様、それぞれの成膜条件において、シリコン膜の形成を行った結果、基材温度150℃でシリコン膜の形成を行った場合、得られた膜の光学的バンドギャップは1.85eV、欠陥密度は2×1015cm-3であり、また、基板温度300℃で膜形成を行った場合の光学的バンドギャップは1.7eV、欠陥密度は8×1015cm-3であった。
【0085】また、得られたシリコン多層膜の100mW/cm2の強度の白色光を照射したときにおける光導電率及び光導電率の波長依存性を実施例1同様、表1に示す。
【0086】
【表1】


【0087】
【表2】


【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法に使用する製造装置の代表的な態様を示す概略図。
【符号の説明】
1 成膜室
2 プラズマ生成室
3 基材
4 マイクロ波発生装置
5 電磁石
6 プラズマ生成ガス供給口
7 原料ガス供給口
8 流量調節器
9 支持台
10 ヒーター
11 真空ポンプ
12 バルブ
13 支持台昇降装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】電子サイクロトロン共鳴によって励起され、プラズマ化された水素含有ガスと式SiHXCl4-X(但し、Xは0〜3の整数)で表される塩素化シラン化合物とを、加熱された基材表面で連続的に接触させながら、該基材表面温度、電子サイクロトロン共鳴を起こす電磁波の強度、プラズマ化領域と基材表面との距離の少なくとも一つの条件を変化させてシリコンを析出させることを特徴とする多層シリコン膜の製造方法。

【図1】
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