説明

多層シート材料

【課題】十分な特性を持ちながら、粉落ちやデラミネーションの無いシートを提供することにある。また厚み方向に傾斜化した特性を有するシート材料を提供することである。
【解決手段】無機あるいは有機の粒子と熱可塑性樹脂とからなる多孔質シート材料であって、該粒子と該熱可塑性樹脂の合計量に基づいた重量百分率が異なる層を厚み方向に有する多層シート材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層シート材料に関し、更に詳しくは有機あるいは無機の粒子と熱可塑性樹脂からなり、該粒子の含有量が異なる層を有する多層シート材料に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の微細多孔を有する高分子多孔質シートは、空気の浄化、水処理などに使用する濾過膜あるいは分離膜、血漿分離膜、人工腎臓等の医療材料、あるいは電池、電気分解等に用いる電池セパレータなど各種の用途に利用されている。また近年ではセラミックスや誘電体、圧電体等の焼結製膜を行う場合のバインダーとして注目されている。
【0003】
このような不活性粒子成形体およびその製造方法に関しては特許文献1に記載されている。この方法で作成された多孔質シートは、極めて高濃度に不活性粒子を含有することが可能である。しかし高濃度に粒子を含有した場合、デラミネーション等の問題を生じることがあった。また粒子の含有量を厚み方向に変化させることにより、シートの特性を変えることは困難であった。
【特許文献1】特許第2999254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は上記従来技術が有していた問題点を解消し、十分な特性を持ちながら、粉落ちやデラミネーションの無いシートを提供することにある。また厚み方向に傾斜化した特性を有するシート材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の目的は、無機あるいは有機微粒子と熱可塑性樹脂からなる多孔シートであって、その粒子と熱可塑性樹脂の重量比が異なる層が厚み方向に複数存在する多層シート材料を提供することにある。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、厚み方向に粒子含有量の異なる層を有する多層シートを提供することが出来る。それにより表面と内層の特性を変えたり、また厚み方向に特性の異なるシート材料を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、無機あるいは有機の粒子と熱可塑性樹脂とからなる多孔質シート材料であって、該粒子と該熱可塑性樹脂の合計量に基づいた重量百分率が異なる層を厚み方向に有する多層シート材料である。
【0008】
本発明に用いる無機あるいは有機の微粒子は、製造工程において反応や融解・溶解しないものであればよく、例えばチタン酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物粒子、あるいは鉄、ニッケル、フェライト、パーマロイ等の金属粒子、ゴム、架橋アクリル等の有機微粒子等を例示することが出来る。
【0009】
本発明に用いる熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびそれらの共重合体等が例示できる。好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンである。より好ましくはポリエチレンである。
【0010】
さらにポリオレフィンは実質的に少なくとも5dl/gの固有粘度を有するポリエチレン樹脂である事が好ましい。固有粘度が5dl/g未満の場合、シートとしての強度が失われる可能性がある。この様な条件を満たすポリエチレン樹脂としては超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)や高密度ポリエチレン(HDPE)が例示できる。またこれらのブレンド体、あるいはこれらの高分子ポリマーと低分子ポリマーのブレンド体であっても、ブレンド体の固有粘度が少なくとも5dl/gであれば差し支えない。ここで、「実質的に」とは、該成分が全成分を基準として75%以上、好ましくは85%以上、特に好ましくは95%以上を占めることをいう。
【0011】
本発明の多層シート材料は粒子と熱可塑性樹脂の重量比が異なる層が複数存在する。接着等の手法で同様の多層シート材料を作成することは可能であるが、本発明の多層シート材料は接着層等が存在せず、連続なシート中に粒子の量が異なる層が存在することを特徴とする。また熱圧着等により熱的に接着させる方法も存在するが、本発明の多層シート材料は多孔質シートであり、熱接着により形成することは困難である。
【0012】
本発明の多層シート材料は少なくとも1軸方向に延伸されてなることが好ましい。延伸を加える事で高分子が配向し、強度を向上させることが出来る。
【0013】
本発明の多層シート材料の延伸方法としては縦横逐次2軸延伸、縦横同時2軸延伸、縦1軸延伸、横1軸延伸が挙げられるが、反射光の方向性や強度分布を制御し良好な反射特性を得る為には縦横同時2軸延伸、または縦横逐次2軸延伸が好ましく、更に生産性やコスト面を考慮すると縦横逐次2軸延伸が最も好ましい。また面倍率は10倍以上延伸することが好ましい。
【0014】
本発明の多層シート材料は多孔質であることを特徴としている。本発明の多層シート材料を構成する自立性多孔質シートの多孔性としては、空孔率として20〜95%が好適である。ここで空孔率は下記式で定義される。
[数1]
空孔率=(ρ0−ρ)/ρ0 × 100(%)
ここでρ0は空孔が無い場合の理論密度、ρは空孔を含有した多孔質シートの実測の密度である。
【0015】
本発明における空孔率とは、多層シート材料としての空孔率である。本発明のシートは複数の粒子含有量の異なる層を有しているが、一般に粒子含有量により空孔率は異なってくる。従って本発明のシート材料は、厚み方向に空孔率の分布も有していることがある。
【0016】
本発明における多層シートの好ましい厚みは5〜200μmであり更に好ましくは10〜70μmである。厚みが5μm未満の時には取り扱い性が低下したりするなどの不具合が生じるので好ましくない。
【0017】
本発明の多孔シート材料の製造方法としては、以下のような方法が例示できる。例えば、無機の誘電体粉末をミリング装置等を用いて適当なゲル化溶媒中に分散させた後、結着剤としての熱可塑性樹脂と適当な上記ゲル化溶媒の残りを加えて、該熱可塑性樹脂と該溶媒を加熱溶解させることによりゾル化させる。このとき粒子の濃度の異なるゾル化組成物を複数作成し、多層押し出しダイを用いてゲル化温度以上の温度にてシート状に付形し、該シート状物をゲル化点以下に急冷することにより多層ゲル化シートを作成する。このゲル化シートを、樹脂のガラス転移点以上の温度で1軸あるいは2軸に延伸し、その後熱固定することにより製造することができる。かかる溶媒としては、例えばポリエチレンを熱可塑性樹脂として用いる場合、通常デカリン、ヘキサン、パラフィン、キシレン等が挙げられる。これらは2種類以上組み合わせて用いてもよい。また乾燥を制御し、ある程度溶剤を残存した状態で延伸を行うことも出来る。
【0018】
また次のような方法で本発明の多層シート材料を作成することも出来る。無機の誘電体粉末をミリング装置等を用いて適当なゲル化溶媒中に分散させた後、結着剤としての熱可塑性樹脂と適当な上記ゲル化溶媒の残りを加えて、該熱可塑性樹脂と該溶媒を加熱溶解させることによりゾル化させる。かかるゾル化組成物を複数作成し、押し出しダイを用いてゲル化温度以上の温度にてシート状に付形し、該シート状物をゲル化点以下に急冷することによりゲル化シートを作成する。同様の方法で粒子濃度の異なるゲル化シートを複数作成する。この粒子濃度の異なるゲル化シートを複数枚重ねた後、樹脂のガラス転移点以上の温度で1軸あるいは2軸に延伸し、その後熱固定することにより、完全に一体化した多層シートを製造することができる。
【0019】
本発明の多層シート材料は、本発明の目的を奏する範囲内であれば、必要に応じて滑剤、顔料、染料、酸化防止剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、艶消剤等の機能性を付与する添加剤を配合することができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の具体例を挙げて説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものではない。なお、実施例中の値は以下の方法で測定した。
(1)空孔率:
測定したシート材料の密度ρと空孔のないシート材料の理論密度ρ0から以下の式により求めた。
[数2]
空孔率 = (ρ0−ρ) / ρ0 × 100 (%)
(2)シート材料の厚さ:
FIB法で断面を出した後、走査型電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡により非接触で測定した。
(3)シート材料の密度:
既知容量のシート材料片の重量を測定することにより決定した。
【0021】
[製造例1]
デカリン22重量部に、パラフィン油(Shell社製 Ondina Oil 68)14重量部および15dl/gの極限粘度(デカリン中135℃で測定)を有する超高分子量ポリエチレン(三井化学株式会社製「ハイゼックスミリオン」240M)6重量部を加え、チタン酸バリウム(共立マテリアル株式会社製「BT−HP9DX」)89重量部を分散させた。該分散体を2軸混練押し出し機を用いて180℃で溶解させてゾル化し、該ゾル化物をフラットフィルム押し出しダイを介して150℃で押し出した。ついで、該押し出し品を水浴を通過させて冷却し、ゲル化させた。この様にして成型されたシートを80℃で1時間乾燥させることにより、デカリンを除去し、未延伸シートを作成した。
【0022】
[製造例2]
デカリン22重量部に、パラフィン油(Shell社製 Ondina Oil 68)14重量部および15dl/gの極限粘度(デカリン中135℃で測定)を有する超高分子量ポリエチレン(三井化学株式会社製「ハイゼックスミリオン」240M)6重量部を加え、チタン酸バリウム(共立マテリアル株式会社製「BT−HP9DX」)42重量部を分散させた。該分散体を2軸混練押し出し機を用いて180℃で溶解させてゾル化し、該ゾル化物をフラットフィルム押し出しダイを介して150℃で押し出した。ついで、該押し出し品を水浴を通過させて冷却し、ゲル化させた。この様にして成型されたシートを80℃で1時間乾燥させることにより、デカリンを除去し、未延伸シートを作成した。
【0023】
[製造例3]
デカリン22重量部に、パラフィン油(Shell社製 Ondina Oil 68)14重量部および15dl/gの極限粘度(デカリン中135℃で測定)を有する超高分子量ポリエチレン(三井化学株式会社製「ハイゼックスミリオン」240M)6重量部を加え、チタン酸バリウム(共立マテリアル株式会社製「BT−HP9DX」)14重量部を分散させた。該分散体を2軸混練押し出し機を用いて180℃で溶解させてゾル化し、該ゾル化物をフラットフィルム押し出しダイを介して150℃で押し出した。ついで、該押し出し品を水浴を通過させて冷却し、ゲル化させた。この様にして成型されたシートを80℃で1時間乾燥させることにより、デカリンを除去し、未延伸シートを作成した。
【0024】
[実施例1]
デカリン22重量部に、パラフィン油(Shell社製 Ondina Oil 68)14重量部および15dl/gの極限粘度(デカリン中135℃で測定)を有する超高分子量ポリエチレン(三井化学株式会社製「ハイゼックスミリオン」240M)6重量部を加え、チタン酸バリウム(共立マテリアル株式会社製「BT−HP9DX」)89重量部を混合して、分散体Aを得た。
【0025】
またデカリン22重量部に、パラフィン油(Shell社製 Ondina Oil 68)14重量部および15dl/gの極限粘度(デカリン中135℃で測定)を有する超高分子量ポリエチレン(三井化学株式会社製「ハイゼックスミリオン」240M)6重量部を混合して、分散体Bを得た。
【0026】
上記分散体A、Bを各々別々に2軸混練押し出し機を用いて180℃で溶解させてゾル化し、該ゾル化物を2層フラットフィルム押し出しダイを介して150℃で同時に押し出した。ついで、該押し出し品を水浴を通過させて冷却し、ゲル化させた。この様にして成型されたシートを80℃で1時間乾燥させることにより、デカリンを除去した。このシート厚みは300μmであった。
【0027】
このパラフィン油がシート中に残留したパラフィン油含有シートを、延伸中の温度を115℃でMD方向に4.5倍、ついでTD方向に10倍に逐次2軸延伸し、135℃で2分間熱固定処理を行った。その後パラフィン油をヘキサンを用いてシートから抽出し、60℃で10分間乾燥し、120℃で3分間熱固定した。
厚み、空孔率を表1にまとめる。
またシートの表面SEM写真を図1、2に示す。
【0028】
[実施例2]
製造例1と製造例2のシートを重ねあわせ、延伸中の温度を115℃でMD方向に4.5倍、ついでTD方向に10倍に逐次2軸延伸し、135℃で2分間熱固定処理を行った。その後パラフィン油をヘキサンを用いてシートから抽出し、60℃で10分間乾燥し、120℃で3分間熱固定した。得られたシートは完全に一体化していた。
厚み、空孔率を表1にまとめる。
またシートの表面SEM写真を図3、4に示す。
【0029】
[実施例3]
製造例1と製造例3のシートを重ねあわせ、延伸中の温度を115℃でMD方向に4.5倍、ついでTD方向に10倍に逐次2軸延伸し、135℃で2分間熱固定処理を行った。その後パラフィン油をヘキサンを用いてシートから抽出し、60℃で10分間乾燥し、120℃で3分間熱固定した。得られたシートは完全に一体化していた。
厚み、空孔率を表1にまとめる。
またシートの製造例3側の表面SEM写真を図5に示す。
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の多層シート材料によれば、例えば、十分な反射特性を持ちながら、薄型化、軽量化を図ることのできる反射シートを提供することができ、その意義は大である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1において得られたシート表面のうち、分散体Aから形成されたシート表面を走査型電子顕微鏡に撮影した写真図(撮影倍率5000倍)である。
【図2】実施例1において得られたシート表面のうち、分散体Bから形成されたシート表面を走査型電子顕微鏡に撮影した写真図(撮影倍率5000倍)である。
【図3】実施例2において得られたシート表面のうち、製造例1で得たシートからなる表面を走査型電子顕微鏡により撮影した写真図(撮影倍率5000倍)である。
【図4】実施例2において得られたシート表面のうち、製造例2で得たシートからなる表面を走査型電子顕微鏡により撮影した写真図(撮影倍率5000倍)である。
【図5】実施例3において得られたシート表面のうち、製造例3で得たシートからなる表面を走査型電子顕微鏡により撮影した写真図(撮影倍率5000倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機あるいは有機の粒子と熱可塑性樹脂とからなる多孔質シート材料であって、該粒子と該熱可塑性樹脂の合計量に基づいた重量百分率が異なる層を厚み方向に有する多層シート材料。
【請求項2】
熱可塑性樹脂が実質的にポリオレフィンである、請求項1記載の多層シート材料。
【請求項3】
熱可塑性樹脂が実質的に少なくとも5dl/gの固有粘度を有するポリエチレンからなる請求項2記載の多層シート材料。
【請求項4】
少なくとも1軸方向に延伸されてなる、請求項1〜3のいずれか記載の多層シート材料。
【請求項5】
空孔率が20〜95%である請求項1記載の多層シート材料。
【請求項6】
厚みが5〜200μmである、請求項1記載の多層シート材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−83570(P2007−83570A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275497(P2005−275497)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】