説明

多層体

【課題】 透明性、耐熱性、耐衝撃性、耐UV変色性、表面硬度に優れた多層体の提供。
【解決手段】 アクリル系樹脂(A)からなる層と、構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)からなる層とを、各々少なくとも1層有する多層体の作製。


(但し、上記一般式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐熱性、耐衝撃性、耐UV変色性、表面硬度に優れた多層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明性、機械特性等の諸物性のバランスが良好な樹脂として知られているポリ塩化ビニル(以下、「PVC」という) 樹脂は、用途に応じて可塑剤や各種の配合剤によ
りガラス転移温度を幅広く制御できるため、様々な用途に用いられてきた。近年、環境問題等の観点より、PVC樹脂から他の樹脂、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂(以下、「PMMA」という)、ポリカーボネート樹脂(以下、「PC」という)、ポリエチレンテレフタレート樹脂等への転換が活発に検討されている。この中でも、特に透明性、耐熱性が必要とされる用途にはPCやPMMAが一般的に用いられている。しかしながら、PCは透明性、耐熱性、耐衝撃性に優れるものの、表面硬度に劣るため、輸送時、あるいは、使用時における擦過等により外観を損なう場合があることに加え、UVによる黄変を生じるため、使用時、あるいは、長期保管時等において変色という問題が生じることがあった。一方、PMMAは透明性、耐熱性、表面硬度、耐UV変色性に優れるものの、耐衝撃性に劣るため、使用時、あるいは、輸送時等における成形品の破損等を生じるという欠点があった。
【0003】
これらの課題を解決すべく、例えば、特許文献1には、PCの表面にPMMAからなる層を被覆した多層体が開示されている。また、特許文献2には、PCの片面、または、両面に、紫外線吸収剤を配合したPMMA層を設けた多層体が開示されている。また、特許文献3には、PC層の上に、PMMAとガラス転移温度が10℃以下のポリマーとの混合物を被覆した多層体が開示されている。さらに、特許文献4には、PC層の上に、PMMAとポリビニルアセタールの混合物を被覆した多層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55―59929号公報
【特許文献2】特開平4―270652号公報
【特許文献3】特開平2―175245号公報
【特許文献4】特開2009―172953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の多層体は、UVによりPCの黄変が生じるため、製品外観を損なうという問題があった。また、特許文献2の多層体は、PMMA層に添加した紫外線吸収剤によりある程度の期間はPCの黄変を抑制することが可能であるが、紫外線吸収剤が消費された後はPCの黄変を生じるという問題があった。また、特許文献3、及び、特許文献4の多層体は、耐衝撃性には優れるものの、UVによる黄変を生じるため、特許文献1と同様に製品外観を損なうという問題があった。
【0006】
以上のように、前述した技術においては、透明性、耐熱性、耐衝撃性、耐UV変色性、表面硬度のバランスに優れた成形品を提供することは非常に困難であった。
【0007】
そこで本発明の目的は、このような従来技術の課題に鑑み、透明性、耐熱性、耐衝撃性、耐UV変色性、表面硬度に優れた多層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アクリル系樹脂(A)からなる層と、構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)からなる層とを少なくとも各々1層有する多層体を提供するものである。
【0009】
【化1】

【0010】
(但し、上記一般式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、透明性、耐熱性、耐衝撃性、耐UV変色性、表面硬度の全てに優れた多層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態の1つの例としての多層体について説明する。但し、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0013】
<アクリル系樹脂(A)>
本発明に用いるアクリル系樹脂としては、熱可塑性樹脂としてのアクリル系樹脂が使用される。アクリル系樹脂に使用される単量体として以下の化合物が挙げられる。例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸、アクリル酸、ベンジル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アクリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、コハク酸2−(メタ)アクロイルオキシエチル、マレイン酸2−(メタ)アクロイルオキシエチル、フタル酸2−(メタ)アクロイルオキシエチル、ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリオイルオキシエチル、ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が例示される。これらは、単独で重合して使用してもよく、2種類以上を重合して使用してもよい。また、これらのアクリル系単量体と重合され得る他の単量体、例えばポリオレフィン系単量体、ビニル系単量体等を併用してもよい。
【0014】
前記アクリル系樹脂の分子量は特に限定されるものではないが、重量平均分子量で3万以上、30万以下の範囲であれば、多層体として成形する際に流れムラ等の外観不良を生じることがなく、機械特性、耐熱性に優れた多層体を提供することができる。
【0015】
<脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)>
本発明に用いる脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)としては、構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂が用いられる。
【0016】
【化2】

【0017】
(但し、上記一般式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)すなわち、上記ジヒドロキシ化合物は、二つのヒドロキシル基と、更に上記一般式(1)の部位を少なくとも含むものを言う。
【0018】
構造の一部に上記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物としては、分子構造の一部が上記一般式(1)で表されるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコール、下記一般式(3)で表されるスピログリコール等の環状エーテル構造を有する化合物が挙げられ、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。また、下記一般式(3)で表されるジヒドロキシ化合物としては、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン(慣用名:スピログリコール)、3,9−ビス(1,1−ジエチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、3,9−ビス(1,1−ジプロピル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカンなどが挙げられる。
これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0019】
【化3】

【0020】
【化4】

【0021】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素数1から炭素数3のアルキル基である。)
【0022】
上記の中でも工業的に入手が容易であり、植物原料由来であるイソソルビドを用いることが最も好ましく、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)の耐衝撃性を向上するために、上記構造単位(a)以外の構造単位として、シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位(b)を含むことが好ましい。この時、前記脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)中に占める構造単位(a)の割合が20モル%以上、80モル%以下であることが好ましく、構造単位(b)の割合が20モル%以上、80モル%以下であることが好ましい。構造単位(a)の割合の下限としては、より好ましくは30モル%であり、さらに好ましくは40モル%である。また、構造単位(b)の割合の下限としては、より好ましくは30モル%であり、さらに好ましくは40モル%である。一方、構造単位(a)の割合の上限としては、より好ましくは70モル%であり、さらに好ましくは60モル%である。また、構造単位(b)の割合の上限としては、より好ましくは70モル%であり、さらに好ましくは60モル%である。構造単位(a)と構造単位(b)の割合をかかる範囲内とすることで、多層体の耐熱性を損なうことなく、実用上十分な耐衝撃性を付与することができる。
尚、シクロヘキサンジメタノールの中でも、工業的に入手が容易である、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0024】
さらに、本発明に用いる脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)は、上記構造単位(a)、及び、上記構造単位(b)以外の構造単位を含むこともでき、例えば、国際公開第2004/111106号パンフレットに記載の脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位や、国際公開第2007/148604号パンフレットに記載の脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を挙げることができる。
【0025】
上記脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の中でも、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタジオール、及び1,6−ヘキサンジオールから選ばれる少なくとも1種以上の化合物に由来する構造単位を含むことが好ましい。
【0026】
上記脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の中でも、5員環構造又は6員環構造を含むものであることが好ましい。6員環構造は共有結合によって椅子形又は舟形に固定されていてもよい。5員環構造又は6員環構造である脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことにより、得られるポリカーボネートの耐熱性を高くすることができる。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素原子数は通常70以下であり、好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。
【0027】
前記5員環構造又は6員環構造を含む脂環式ジヒドロキシ化合物としては、上述の国際公開第2007/148604号パンフレットに記載のものを挙げることができ、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール及びペンタシクロペンタデカンジメタノ
ールを好適に例示することができ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
上記脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)の分子量の指標である還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.60g/dlに精密に調整し、温度20.0℃±0.1℃で測定され、通常、0.20dl/g以上1.0dl/g以下で、好ましくは0.30dl/g以上0.80dl/g以下の範囲内である。
【0029】
脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)の還元粘度が過度に低いと、多層体に成形した際の機械的強度が低下する傾向がある。また、脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)の還元粘度が過度に高いと、成形する際の流動性が低下し、生産性が低下するだけでなく、流れムラ等の外観不良を生じやすい易い傾向がある。
【0030】
上記脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)は、一般に用いられる重合方法で製造することができ、ホスゲン法、炭酸ジエステルと反応させるエステル交換法のいずれでもよい。なかでも、重合触媒の存在下に、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と、シクロヘキサンジメタノールと、必要に応じて用いられるその他のジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを反応させるエステル交換法が好ましい。エステル交換法は、前記構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と、シクロヘキサンジメタノールと、必要に応じて用いられるその他のジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを塩基性触媒、さらにはこの塩基性触媒を中和する酸性物質を添加し、エステル交換反応を行う製造方法である。
【0031】
炭酸ジエステルの代表例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーネート、ビス(ビフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどが挙げられる。これらのうち、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。
【0032】
<ポリカーボネート樹脂以外の樹脂>
成形加工性や諸物性のさらなる向上・調整を目的として、本発明の多層体を構成するアクリル系樹脂(A)、又は、脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)に対して、その他の樹脂や、樹脂以外の添加剤を配合し、樹脂組成物とすることも出来る。例えば、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート等の樹脂やコア−シェル型、グラフト型又は線状のランダム及びブロック共重合体のようなゴム状改質剤などが挙げられる。前記ポリカーボネート樹脂以外の樹脂、あるいは、添加剤の配合量としては、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の多層体の各層を構成する樹脂組成物に対して、1質量%以上、30質量%以下の割合で配合することが好ましく、3質量%以上、20質量%以下の割合で配合することがより好ましく、5質量%以上、10質量%以下の割合で配合することがさらに好ましい。
【0033】
<熱安定剤>
本発明の多層体の各層を構成する樹脂組成物には、成形時における分子量の低下や色相の悪化を防止するために熱安定剤を配合することができる。かかる熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル等が挙げられ、具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチ
ルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル) ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−ter
t−ブチルフェニル) オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル) ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。なかでも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびベンゼンホスホン酸ジメチルが好ましく使用される。 これらの熱安定剤は、1種を単独で用いても良く、2種以
上を併用しても良い。前記熱安定剤の配合量は、本発明の多層体の各層を構成する樹脂組成物に対して、0.0001質量%以上、1質量%以下の割合で配合することが好ましく、0.0005質量%以上、0.5質量%以下の割合で配合することがより好ましく、0.001質量%以上、0.2質量%以下の割合で配合することがさらに好ましい。かかる範囲で熱安定剤を配合することにより、添加剤のブリード等を生じることなく多層体を構成する樹脂組成物の分子量低下や変色を防止することができる。
【0034】
<酸化防止剤>
また、本発明の多層体の各層を構成する樹脂組成物には、酸化防止の目的で通常知られた酸化防止剤を配合することができる。かかる酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート) 、ペンタエリスリトールテトラ
キス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の1種又は2種以上が挙げられる。前記酸化防止剤の配合量は、本発明の多層体の各層を構成する樹脂組成物に対して、0.0001質量%以上、1質量%以下の割合で配合することが好ましく、0.0005質量%以上、0.5質量%以下の割合で配合することがより好ましく、0.001質量%以上、0.2質量%以下の割合で配合することがさらに好ましい。かかる範囲で酸化防止剤を配合することにより、酸化防止剤のブリード、多層体の機械特性低下を生じることなく、樹脂の酸化劣化を防止することができる。
【0035】
<滑剤>
また、本発明の多層体の各層を構成する樹脂組成物に対して表面滑性の付与を目的とし
て、滑剤を配合することができる。前記滑剤としては、一価または多価アルコールの高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸、パラフィンワックス、蜜蝋、オレフィン系ワックス、カルボキシ基および/ またはカルボン酸無水物基を含有するオレフィン系ワックス、シリコ
ーンオイル、オルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0036】
前記高級脂肪酸エステルとしては、炭素原子数1〜20の一価または多価アルコールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルが好ましい。かかる一価または多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルとしては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸モノグリセリド、ベヘニン酸ベヘニル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート、ビフェニルビフェネ− ト、ソ
ルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレート等が挙げられる。中でも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ベヘニン酸ベヘニルが好ましく用いられる。高級脂肪酸としては、炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸が好ましい。かかる脂肪酸としては、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸などが挙げられる。これらの滑剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。前記滑剤の配合量は、本発明の多層体の各層を構成する樹脂組成物に対して、0.0001質量%以上、1質量%以下の割合で配合することが好ましく、0.0005質量%以上、0.5質量%以下の割合で配合することがより好ましく、0.001質量%以上、0.2質量%以下の割合で配合することがさらに好ましい。かかる範囲で滑剤を配合することにより、滑剤のブリード、樹脂組成物からなる各種成形品の機械特性低下を生じることなく、多層体に表面滑性を付与することができる。
【0037】
<紫外線吸収剤、光安定剤>
また、本発明の多層体の各層を構成する樹脂組成物の耐候性をさらに向上する目的で、紫外線吸収剤、光安定剤を配合することができる。かかる紫外線吸収剤、光安定剤としては、例えば2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル) ベンゾトリ
アゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−クミル−6−ベンゾトリアゾールフェニル)、2,2’−p−フェニレンビス(1,3−ベンゾオキサジン−4−オン)等が挙げられる。紫外線吸収剤の融点としては、特に120〜250℃の範囲にあるものが好ましい。融点が120℃ 以上の紫外線吸収剤を使用すると、成形品表面のガス
による曇りが減少し改善される。具体的には、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2 '−ヒドロキシ−3'−tert−ブチル−5'−メチルフェニル) −5−クロロベンゾトリアゾール、2−[2'−ヒドロキシ−3'−(3",4",5",6"−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5'−メチルフェニル]ベンゾトリアゾー
ル、2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−
ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミル
フェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が使用され、こ
れらのうちでも、特に、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)ベンゾトリ
アゾール、2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル) −6−
(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノールが好ましい。これらの紫外線吸収剤
、光安定剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。 前記紫外線吸
収剤、光安定剤の配合量は、本発明の多層体の各層を構成する樹脂組成物に対して、0.
0001質量%以上、1質量%以下の割合で配合することが好ましく、0.0005質量%以上、0.5質量%以下の割合で配合することがより好ましく、0.001質量%以上、0.2質量%以下の割合で配合することがさらに好ましい。かかる範囲で紫外線吸収剤、光安定剤を配合することにより、多層体表面への紫外線吸収剤、光安定剤のブリードや、多層体の機械特性低下を生じることなく、耐候性を向上することができる。
【0038】
<エポキシ系化合物>
さらに、本発明の多層体の各層を構成する樹脂組成物の耐加水分解性をさらに向上するため、エポキシ系化合物を配合することができる。エポキシ系化合物の具体例としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−
メチルシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシ−6'−メチルシクロヘキシルカルボキシレート、2,3−エポキシシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキシル
カルボキシレート、4−(3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシル) ブチル−3',4'−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチ
レンオキシド、シクロヘキシルメチルー3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−6'−メチルシロヘキシルカ
ルボキシレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAグリシジルエーテル、フタル酸のジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸のジグリシジルエステル、ビス−エポキシジシクロペンタジエニルエーテル、ビス−エポキシエチレングリコール、ビス−エポキシシクロヘキシルアジペート、ブタジエンジエポキシド、テトラフェニルエチレンエポキシド、オクチルエポキシタレート、エポキシ化ポリブタジエン、3,4−ジメチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、3,5−ジメチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、3−メチル−5−t−ブチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、オクタデシル−2,2−ジメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N−ブチル−2,2−ジメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、シクロヘキシル−2−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N−ブチル−2−イソプロピル−3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシルカルボキシレート、オクタデシル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、2−エチルヘキシル−3',4'−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4,6−ジメチル
−2,3−エポキシシクロヘキシル−3',4'−エポキシシクロヘキシルカルボキシレー
ト、4,5−エポキシ無水テトラヒドロフタル酸、3−t−ブチル−4,5−エポキシ無水テトラヒドロフタル酸、ジエチル−4,5−エポキシ−シス−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレート、ジ−N−ブチル−3−t−ブチル−4,5−エポキシ-シス−1,
2−シクロヘキシルジカルボキシレートなどが挙げられる。ビスフェノールAジグリシジルエーテルが相溶性などの点から好ましい。前記エポキシ系化合物の配合量としては、本発明の多層体の各層を構成する樹脂組成物に対して、0.0001質量%以上、5質量%以下の割合で配合することが好ましく、0.001質量%以上、1質量%以下の割合で配合することがより好ましく、0.005質量%以上、0.5質量%以下の割合で配合することがさらに好ましい。かかる範囲でエポキシ系化合物を配合することにより、エポキシ系化合物のブリード、多層体の機械特性低下を生じることなく、耐加水分解性を向上することができる。
【0039】
本発明の多層体の各層を構成する樹脂組成物には、上記以外にも、可塑剤、顔料、染料、充填剤等の添加剤をさらに配合することもできる。
【0040】
<本多層体の用途>
本多層体は、フィルム、シート、プレート等の形状で使用することができる。本多層体の成形方法としては公知の方法、例えば、共押出、押出ラミネート、熱ラミネート、ドラ
イラミネート等の方法を用いることができる。この中でも特に3層以上の多層体を成形する場合は共押出法を用いることが好ましい。
【0041】
共押出の場合、本多層体の各層を構成する樹脂、及び、添加剤を複数台の押出機を用いてフィードブロック、あるいは、マルチマニホールドダイを通じ樹脂を合流させ、多層体を成形する。本多層体の強度や耐衝撃性をさらに向上するには、前記工程で得られた多層体をロール法、テンター法、チューブラー法等で一軸、あるいは、二軸に延伸することもできる。
【0042】
本発明の多層体において、アクリル系樹脂(A)からなる層と、脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)からなる層とを、各々少なくとも1層有することが重要である。アクリル系樹脂(A)からなる層を少なくとも1層有することで、優れた表面硬度、耐熱性を付与することができ、かつ、脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)からなる層を少なくとも1層有することで、実用上十分な耐衝撃性を付与することができる。
【0043】
上記方法にて成形した多層体において、アクリル系樹脂(A)からなる層の、多層体の全層の厚みに占める割合は5%以上、60%以下であることが好ましく、10%以上、55%以下であることがより好ましく、20%以上、50%以下であることがさらに好ましい。アクリル系樹脂(A)からなる層の厚みがかかる範囲内であれば、優れた表面硬度、耐熱性を有しながら、さらに、優れた耐衝撃性をも有する多層体を提供することができる。
【0044】
さらに、本発明の多層体は透明性、耐UV変色性にも優れており、キセノン72時間照射前後の色差ΔEが20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましい。ΔEが20以下であれば、屋外での使用や、UVが照射される環境においても変色せず、優れた透明性を保持し続けることができるため、特に用途を限定されず、広い分野で本発明の多層体を使用することができる。
【0045】
なお、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいい(JIS K6900)、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0046】
フィルム、シート、または、プレートとして成形された本発明の多層体は、透明性、耐衝撃性、耐熱性、耐UV変色性に優れ、特に優れた表面硬度を有する。そのため、本発明の多層体の用途は特に制限されるものではないが、例えば、建材、内装部品、ディスプレイカバー等の透明シート、樹脂被覆金属板用シート、成形(真空・圧空成形、熱プレス成形など)用シート、着色プレート、透明プレート、シュリンクフィルム、シュリンクラベル、シュリンクチューブや、自動車内装材、家電製品部材、OA機器部材等に使用できる。
【0047】
本発明の多層体は、成形用シートとして用いて種々の二次加工を施すことができ、加熱成形することによって熱成形体とすることもできる。熱成形の方法としては特に限定されず、ブリスター成形、真空成形、圧空成形など公知の成形方法を利用することができる。
【0048】
一般に熱成形用材料として使用されている汎用の芳香族ポリカーボネート樹脂の場合には、表面硬度が低く傷が入りやすいという点や、ガラス転移温度が高いために成形が容易
でないという点、また印刷を設ける熱成形用途の場合には、耐溶剤性の悪さに起因する印刷インキによるクラックの発生が生じる等の問題点がある。
一方、本発明にかかる脂肪族ポリカーボネート樹脂を用いた多層体は、芳香族ポリカーボネート樹脂よりもガラス転移温度を低くすることができるため熱成形が容易であり、耐熱性と二次加工性を兼ね備えたシートを得ることができる。また脂肪族系であるため耐候性に優れており、表面硬度や耐溶剤性の向上も期待できるため、特に、屋外で使用されたり、印刷が施されて使用されたりする熱成形用途に好適に使用することができる。
【0049】
また、本発明にかかる多層体は熱成形が容易であるため深絞りが可能であり、例えば深絞り高さが必要とされる形状や特殊な形状の熱成形用途にも好適に使用することができる。
【0050】
前記の熱成形体の用途も特に限定されないが、例えば印刷適性、耐候性および耐熱性を必要とする用途としては、自動販売機内で使用される模擬缶(いわゆるダミー缶)やバックライト付き公告表示板等に好適に使用することができる。また、深絞り適性を必要とする用途としては、卵パック等の食品用包装材や、医薬品用のプレススルーパック(PTP)等に好適に使用することができる。
【0051】
また、前記の熱成形体にさらに溶融樹脂を射出成形して裏打ち層を形成することにより、意匠性に優れたインモールド成形体を製造することもできる。この場合、熱成形体の一方の面に印刷層を設け、当該印刷面側に射出成形することによって印刷層を保護することができる。
なお、一旦熱成形によって二次加工した後に溶融樹脂を射出成形する場合だけでなく、熱成形と射出成形を金型内で同時に行ってもよく、シート状の多層体を用いて一段階でインモールド成形体を得ることもできる。当該インモールド成形体の用途としては、自動車内装材や家電製品部材、OA機器部材等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、実施例中に示す結果は以下の方法で評価を行った。
【0053】
なお、本明細書中に表示される原料及び試験片についての種々の測定値及び評価は次の様にして行った。ここで、フィルムの押出機からの流れ方向を縦方向、その直交方向を横方向と呼ぶ。
【0054】
(1)粘度平均分子量(Mv)
ウベローデ粘度計を使用し、ポリカーボネート樹脂試料の塩化メチレン溶液(0.6g/dl)を調製し、20℃におけるηspを測定し、以下の式(I)及び(II)より粘度平均分子量(Mv)を求めた。
ηsp/C=[η]×(1+0.28ηsp) (I)
[η]=1.23×10-×(Mv)0.83 (II)
(式(I)中、ηspはポリカーボネート樹脂試料の塩化メチレン中20℃で測定した比粘度であり、Cはこの塩化メチレン溶液の濃度である。塩化メチレン溶液としては、ポリカーボネート樹脂試料の濃度が0.6g/dlの溶液を使用する。)
【0055】
(2)還元粘度
中央理化社製DT−504型自動粘度計にてウベローデ型粘度計を用い、溶媒として、塩化メチレンを用い、温度20.0℃±0.1℃でポリカーボネート樹脂試料の還元粘度を測定した。濃度は0.60g/dlになるように、精密に調整した後に測定した。
溶媒の通過時間t0、溶液の通過時間tから、下記式:
ηrel=t/t0
より相対粘度ηrelを求め、 相対粘度ηrelから、下記式:
ηsp=(η−η0)/η0=ηrel−1
より比粘度ηspを求めた。
比粘度ηspを濃度c(g/dl)で割って、下記式:
ηred=ηsp/c
より還元粘度(換算粘度)ηredを求めた。
この数値が高いほど分子量が大きい。
【0056】
(3)ガラス転移温度
粘弾性スペクトロメーターDVA−200(アイティー計測制御株式会社製)を用い、歪み0.1%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分にて動的粘弾性の温度分散測定(JIS K7198A法の動的粘弾性測定)を行った。そして損失正接(tanδ)の主分散のピークを示す温度をガラス転移温度とした。
【0057】
(4)透明性(全光線透過率、ヘーズ)
JIS K7105に基づいて、全光線透過率および拡散透過率を測定し、ヘーズを以下の式で算出した。厚み0.2mmでの全光線透過率が80%以上、ヘーズが3%以下であるものを合格とした。
[ヘーズ]=[拡散透過率]/[全光線透過率]×100
【0058】
(5)耐熱性(TMA軟化温度)
長さ5mm×幅5mm(厚みはそれぞれの試験片により異なる)の評価用サンプルを用いて、JIS K7196に基づき、TMAによる軟化温度の測定を行った。温度23℃、相対湿度50%、圧子への圧力0.5N、昇温速度5℃/分にてTMA曲線を測定し、圧子が侵入を始めるよりも低温側に認められる直線部分を高温側に延長し、侵入速度が最大となる部分の接線の低温側への延長との交点を針侵入温度とし、この値から軟化温度を算出した。TMA軟化温度は70℃以上を合格とした。
【0059】
(6)耐衝撃性(破壊エネルギー)
ハイドロショット高速衝撃試験器(島津製作所社製「HTM−1型」)を用いて、縦方向100mm×横方向100mmの大きさに切り出したシートを試料とし、クランプで固定し、温度23℃でシート中央に直径が1/2インチの撃芯を落下速度3m/秒で落として衝撃を与え、試料が破壊するときの破壊エネルギー(kgf・mm)を測定した。破壊エネルギーが200kgf・mm以上のものを合格とした。
【0060】
(7)耐UV変色性(ΔE)
スガ試験機社製キセノンウェザーメーターWBL75XSを用い、面照射度60W/cm、波長300〜400nm、ブラックパネル温度63℃、相対湿度50%の条件下において、サンプルに対して72時間の照射を行った。照射前後のサンプルについて色差ΔEを測定した。ΔEが20以下であるものを合格とした。
【0061】
(8)表面硬度(鉛筆硬度)
JIS K5400に基づき、雰囲気温度23℃の恒温室内で80mm×60mmに切り出した多層体サンプルの第1層の表面に対して、鉛筆を45度の角度を保ちつつ1kgの荷重をかけた状態で線を引き、表面状態を目視にて評価した。鉛筆硬度が2H以上であるものを合格とした。
【0062】
[アクリル系樹脂(A)]
PMMA1:
三菱レイヨン社製アクリペットVH5、ポリメチルメタクリレート、
ガラス転移温度=120℃、数平均分子量 89,000
【0063】
[脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)]
PC1:
イソソルビドに由来する構造単位/1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位=30/70モル%、
ガラス転移温度=80℃、還元粘度 0.69dl/g
PC2:
イソソルビドに由来する構造単位/1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位=50/50モル%、
ガラス転移温度=101℃、還元粘度 0.57dl/g
PC3:
イソソルビドに由来する構造単位/1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位=70/30モル%、
ガラス転移温度=120℃、還元粘度 0.56dl/g
【0064】
(実施例1)
PC1をφ40mm単軸押出機を用いて、2種3層のマルチマニホールド式の口金より第2層として220℃で押出した。また、同時にPMMA1をφ30mm単軸押出機を用いて、同様の口金より第1層、及び、第3層として220℃で押出した。また、この時それぞれの層の厚みは、第1層/第2層/第3層が0.04/0.12/0.04(mm)となるよう溶融樹脂の吐出量を調整した。次いで、この共押出シートを約110℃ のキ
ャスティングロールにて急冷し、多層シートを得た。得られた多層シートに関して、透明性(全光線透過率、ヘーズ)、耐熱性(TMA軟化温度)、耐衝撃性(破壊エネルギー)、耐UV変色性(ΔE)、表面硬度(鉛筆硬度)の評価を行った結果を表1に示す。
【0065】
(実施例2)
実施例1において、第2層をPC2とした以外は実施例1と同様の方法で多層シートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例3)
実施例1において、第2層をPC3とした以外は実施例1と同様の方法で多層シートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0067】
(実施例4)
PMMA1をφ40mm単軸押出機を用いて、2種2層のマルチマニホールド式の口金より第1層として220℃で押出した。また、同時にPC3をφ30mm単軸押出機を用いて、同様の口金より第2層として220℃で押出した。また、この時それぞれの層の厚みは、第1層/第2層が0.05/0.15(mm)となるよう溶融樹脂の吐出量を調整した。次いで、この共押出シートを約110℃ のキャスティングロール(キャスティン
グロール面側がPMMA1)にて急冷し、多層シートを得た。得られた多層シートに関して、実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0068】
(比較例1)
PMMA1をφ40mm単軸押出機を用いて、単層の口金より220℃で厚みが200μmとなるように押出した後、約110℃ のキャスティングロールにて急冷し、単層シ
ートを得た。得られた単層シートに関して、実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0069】
(比較例2)
PC1をφ40mm単軸押出機を用いて、単層の口金より220℃で厚みが200μmとなるように押出した後、約80℃ のキャスティングロールにて急冷し、単層シートを
得た。得られた単層シートに関して、実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0070】
(比較例3)
脂肪族ポリカーボネート樹脂の代わりにPC4として、三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンS3000(芳香族ポリカーボネート樹脂、ガラス転移温度=150℃、還元粘度 0.49dl/g、粘度平均分子量=20,000)を用い、実施例1において、第2層をPC4とした以外は実施例1と同様の方法で多層シートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1より、本発明の多層体は、本発明の規定の範囲内であれば、透明性、耐衝撃性、耐熱性、耐UV変色性、表面硬度についていずれも優れていた。一方、比較例1は耐衝撃性について、比較例2は耐熱性と表面硬度について、比較例3は耐衝撃性について実施例より劣っていた。これより、本発明の多層体は、透明性、耐衝撃性、耐熱性、耐UV変色性、表面硬度に優れた多層体であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂(A)からなる層と、構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)からなる層とを、各々少なくとも1層有する多層体。
【化1】

(但し、上記一般式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)
【請求項2】
前記脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)が、シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位(b)を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の多層体。
【請求項3】
前記脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)が、前記構造単位(a)を20モル%以上、80モル%以下の割合で含み、前記構造単位(b)を20モル%以上、80モル%以下で含むことを特徴とする請求項1または2に記載の多層体。
【請求項4】
前記ジヒドロキシ化合物が、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の多層体。
【化2】

【請求項5】
前記アクリル系樹脂(A)からなる層を前記多層体の両最外層とし、かつ、前記脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)からなる層を前記多層体の内層として少なくとも1層有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項6】
前記アクリル系樹脂(A)からなる層の厚みの、多層体の全層の厚みに対する割合が、5%以上、60%以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の多層体を打ち抜き加工してなるディスプレイカバー。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載の多層体を加工してなる建築材料部材。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか1項に記載の多層体を熱成形してなる熱成形体。
【請求項10】
請求項9に記載の熱成形体を用いてなる自動販売機用模擬缶。
【請求項11】
請求項9に記載の熱成形体を用いてなるプレススルーパック。
【請求項12】
請求項9に記載の熱成形体の表面に溶融樹脂を射出成形して裏打ち層を形成してなるインモールド成形体。

【公開番号】特開2011−161871(P2011−161871A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29433(P2010−29433)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】