説明

多層吸着シート

【課題】屈曲部を有する環境で長期にわたって使用しても皺や捲れが生じない吸着シートを提供する。
【解決手段】本発明に係る吸着シート10は、アクリル系発泡樹脂からなる厚みが50μm〜500μmの発泡樹脂層12と、発泡樹脂層12の裏面に積層された少なくとも1層のPETフィルム基材層11とを備え、PETフィルム基材層11の厚みが5μm〜250μmであり、かつ全体の厚みが800μm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム、シートおよび極薄パネル等の軽量物を吸着して保持する多層吸着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、偏光フィルムを液晶パネルに貼り付ける貼付装置においては、搬送対象物としての偏光フィルムを貼付位置まで搬送するために吸着シートが使用されている。図1に示すように、貼付装置1は、駆動ローラ2および複数の従動ローラ3に架けられた環状の無限搬送ベルト8と、無限搬送ベルト8の外表面に設けられた吸着シート10’と、供給された保護シートS、S付き偏光フィルムFを吸着シート10’の表面に押し付ける押圧ローラ5と、偏光フィルムFから保護シートSを剥がす剥離ローラ6およびグリップローラ7と、回転軸位置が上下に往復移動可能な圧着ローラ4とを備えている。
【0003】
この貼付装置1では、無限搬送ベルト8を変形させながら圧着ローラ4が下方に移動することにより、保護シートSが剥がされることにより露出した偏光フィルムFの貼付面Fが液晶パネルPのパネル表面Pに貼り付けられる(図1(B)(C)参照)。
【0004】
また、図2に示すように、別の貼付装置20は、円筒状のドラム21と、ドラム21の外表面に設けられた吸着シート10’と、保護シートS付き偏光フィルムFを吸着シート10’の表面に押し付けて供給するフィルム供給手段22と、ドラム21が時計回りに約90°回転した位置において偏光フィルムFから保護シートSを剥がす剥離手段23と、ドラム21がさらに約90°回転し位置において液晶パネルPを供給するパネル供給手段24とを備えている。
【0005】
この貼付装置20では、液晶パネルPを吸着保持したステージ25が下方に移動することにより、保護シートSが剥がされることにより露出した偏光フィルムFの貼付面Fが液晶パネルPに貼り付けられる。
【0006】
貼付装置1、20で使用可能な従来の吸着シート10’としては、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。この従来の吸着シート10’は、中間層となる基材層、基材層の裏面に設けられた粘着層、および基材層の表面に設けられた発泡樹脂層の3層構造を有し、粘着層が無限搬送ベルト8またはドラム21の外表面に貼り付けられる。したがって、貼付装置1、20においては、吸着シート10’の発泡樹脂層が偏光フィルムF(保護シートS)を吸着して保持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−70740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、図1に示す貼付装置1は、吸着シート10’の搬送経路に複数の屈曲部が存在しているので、吸着シート10’には屈曲部を通過する際に引っ張り力がかかる。また、図2に示す貼付装置20は、吸着シート10’の搬送経路全体が屈曲しているので、吸着シート10’には常に引っ張り力がかかる。
【0009】
この引っ張り力は、屈曲中心(ドラム21の回転中心)に近い粘着層(基材層)においては比較的小さく、屈曲中心から遠い発泡樹脂層においては比較的大きいので、吸着シート10’内において引っ張り力に偏りが生じことになる。また、従来の吸着シート10’は、発泡樹脂層の好ましい厚みが2〜8mmとされ、しかも基材層として分厚い布やクロス、不織布を使用しており、適度な腰の強さをもつため屈曲部に対する追従性に優れるとされているが、その一方で、吸着シート10’全体の厚みが数mm〜10数mm以上と非常に分厚いので、上記引っ張り力の偏りはかなり大きい。
【0010】
したがって、貼付装置1、20において従来の吸着シート10’を使用し続けると、最も引っ張り力がかかる発泡樹脂層に延び癖がついて表面に皺が生じたり、無限搬送ベルト8またはドラム21から吸着シート10’が捲れ上がったりして、偏光フィルムFの吸着・搬送に支障をきたすおそれがある。このため、これらの問題が生じた場合は、貼付装置1、20を一時停止して、吸着シート10’を新しいものにする面倒な交換作業を行う必要があった。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、屈曲部を有する環境で長期にわたって使用しても皺や捲れが生じない多層吸着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る多層吸着シートは、アクリル系発泡樹脂からなる厚みが50μm〜500μmの発泡樹脂層と、発泡樹脂層の裏面に積層された少なくとも1層のPETフィルム基材層とを備え、PETフィルム基材層の厚みが5μm〜250μmであり、かつ全体の厚みが800μm以下であることを特徴としている。
この構成によれば、全体の厚みを800μm以下と薄型化したことにより、屈曲部においてPETフィルム基材層にかかる引っ張り力および発泡樹脂層にかかる引っ張り力の偏りを最小限に抑えることができる。すなわち、皺や捲れが生じにくい多層吸着シートを実現することができる。
【0013】
上記多層吸着シートは、PETフィルム基材層の発泡樹脂層とは反対側の面に積層されたアクリル系粘着剤からなる粘着層をさらに備えていてもよい。
この構成によれば、粘着層の粘着力を利用して無限搬送ベルトまたはドラム等に簡単かつしっかりと保持させることができる。
【0014】
上記多層吸着シートは、粘着層のPETフィルム基材層とは反対側の面に積層されたPETフィルムからなるラミネート層をさらに備えていてもよい。
一般的に、(保護フィルム付)偏光フィルムのような搬送対象物は、種類、グレードおよび付加する性能に応じてフィルム構成、材質またはシート厚が異なる複数の製品が存在するので、貼付装置側においても、多層吸着シート全体の厚みや腰の強さ等を調整して各製品に対する吸着力、吸着圧および搬送性等を最適化する必要がある。しかしながら、多層吸着シート全体の厚みをPETフィルム基材層のみを用いて調節すると、PETフィルムの特性である剛性が影響して多層吸着シート自体の腰が強くなり過ぎ、屈曲部に対する追従性が損なわれる結果となる。
この点、上記の構成によれば、PETフィルムからなるラミネート層をさらに積層し、かつPETフィルム基材層とラミネート層の間に比較的柔軟で粘弾性のある粘着層を挟持したので、全体の厚みと腰の強さとを同時に調節することが可能になる。すなわち、上記の構成によれば、皺や捲れの発生が抑えられるとともに、屈曲部に対する追従性に優れた多層吸着シートが得られる。
【0015】
上記多層吸着シートは、ラミネート層の粘着層とは反対側の面に、交互に積層されたアクリル系粘着剤からなるn層(ただし、nは1以上の整数)の粘着層とPETフィルムからなるn層のラミネート層とをさらに備えていてもよく、また、ラミネート層の粘着層とは反対側の面に、交互に積層されたアクリル系粘着剤からなるm層(ただし、mは1以上の整数)の粘着層とPETフィルムからなるm−1層のラミネート層とをさらに備えていてもよい。
この構成によれば、積層数n、mを調節することにより全体の厚みと腰の強さとを調整できるため、屈曲部に対する追従性にさらに優れた多層吸着シートが得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、屈曲部を有する環境で長期にわたって使用しても皺や捲れが生じにくい多層吸着シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】貼付装置の一例であって、(A)は全体側断面図、(B)および(C)は順次進行する貼付工程の様子を示す部分側断面図である。
【図2】貼付装置の他の例を示す側断面図である。
【図3】本発明に係る多層吸着シートの側断面図である。
【図4】本発明の変形例に係る多層吸着シートを表面側から見た平面図である。
【図5】本発明の他の変形例に係る多層吸着シートの側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る多層吸着シートの好ましい実施形態について説明する。なお、以下では、図1に示す貼付装置1で使用される多層吸着シートについて説明するが、本発明に係る多層吸着シートは、貼付装置1以外の種々の環境、例えば貼付装置20においても使用することができる。
【0019】
図3に示すように、本発明に係る多層吸着シート10は、PETフィルム基材層11と、PETフィルム基材層11の表面(偏光フィルムF側)に設けられた発泡樹脂層12と、PETフィルム基材層11の裏面(無限搬送ベルト8側)に設けられた粘着層13とを備えている。
【0020】
PETフィルム基材層11は、白色ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルム)、透明PETフィルムまたは発泡PETフィルムから構成されている。本実施形態におけるPETフィルム基材層11の厚みは約50μmであるが、これは適宜変更することができる。ただし、PETフィルム基材層11を薄くしすぎると、多層吸着シート10に腰がなくなって取り扱いが難しくなる。また、PETフィルム基材層11を厚くしすぎると、多層吸着シート10全体の厚みが増して、多層吸着シート10内における引っ張り力の偏りが大きくなる。これらの点を考慮して、本発明では、PETフィルム基材層11の厚みを5μm〜250μmとするのが好ましい。
【0021】
発泡樹脂層12は、アクリル系発泡樹脂から構成されている。本実施形態における発泡樹脂層12の厚みは約100μmであるが、これも適宜変更することができる。ただし、発泡樹脂層12を薄くしすぎると、衝撃吸収性が弱くなり、偏光フィルムFを吸着・保持する際に、保護シートSを傷付けるおそれがある。また、発泡樹脂層12を厚くしすぎると、多層吸着シート10全体の厚みが増して、多層吸着シート10内における引っ張り力の偏りが大きくなる。これらの点を考慮して、本発明では、発泡樹脂層12の厚みを50μm〜500μmとするのが好ましい。
【0022】
発泡樹脂層12は、例えば、機械発泡等により発泡させたアクリル系樹脂をPETフィルム基材層11上に均一にコーティングし、これを乾燥させることにより形成することができる。発泡樹脂層12の発泡倍率は、前記の衝撃吸収力および偏光フィルムFに対する吸着力を勘案して決定すればよい。
【0023】
粘着層13は、アクリル系粘着剤から構成されている。本実施形態における粘着層13の厚みは約25μmであるが、粘着力や多層吸着シート10全体の厚みを勘案して、10μm〜50μmの範囲で適宜変更することができる。また、粘着層13は、多層吸着シート10の交換を容易にするために、再剥離性を有していることが好ましい。
【0024】
上記PETフィルム基材層11、発泡樹脂層12および粘着層13を積層してなる本実施形態に係る多層吸着シート10は、全体の厚みが65μm〜800μmであり、従来の吸着シート(厚み:数mm)よりもかなり薄く構成されている。したがって、本実施形態に係る多層吸着シート10によれば、シート内における引っ張り力の偏りを少なくすることができ、屈曲部に起因する皺や捲れを生じにくくすることができる。
【0025】
以上、本発明に係る多層吸着シートの好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの構成に限定されるものではない。
【0026】
例えば、既成の発泡樹脂層12を使用する場合等、発泡倍率や厚みを変更することにより発泡樹脂層12の吸着力を調整することができない場合は、図4に示すように、発泡樹脂層12の表面(偏光フィルムF側)に、例えばストライプ状の印刷層14を印刷等により設けてもよい。印刷層14によれば、吸着に寄与する発泡樹脂層12の表面積を制限することにより、吸着力を容易に調整することができる。なお、印刷層14のメッシュ上等の任意のパターンに変更することができる。
【0027】
また、無限搬送ベルト8またはドラム21側に何らかの吸着手段(粘着層、サクション機構等)が備えられている場合は、粘着層13を省略することができる。この場合は、多層吸着シート10全体の厚みの最大値が750μmとなるので、より皺や捲れに強い多層吸着シートが得られる。
【0028】
また、本発明に係る多層吸着シートは、PETフィルム基材層11、発泡樹脂層12、粘着層13および印刷層14以外の層を追加的に備えていてもよい。例えば、図5に示す多層吸着シート10は、粘着層13の裏面(無限搬送ベルト8側)側に、白色PETフィルム、透明PETフィルムまたは発泡PETフィルムからなるラミネート層15(厚み:5μm〜250μm)と粘着層13を交互に積層したものをさらに備えている。最も無限搬送ベルト8またはドラム21に近い層は、図5(A)に示すように、粘着層13としてもよいし、図5(B)に示すように、ラミネート層15としてもよい。ただし、後者の場合は、無限搬送ベルト8またはドラム21側に何らかの吸着手段(サクション機構等)を備えておく必要がある。また、いずれの場合においても、全体の厚みが800μm以下となるように各層の厚みを調整しなければならない。
【0029】
図5に示す変形例に係る多層吸着シートによれば、PETフィルムからなるラミネート層15をさらに積層したことにより、PETフィルム基材層11の厚みを変更しなくても、ラミネート層15の積層数で全体の厚みと腰の強さを同時に調整することができる。また、図5に示す多層吸着シートによれば、PETフィルム基材層11とラミネート層15の間、およびラミネート層15とラミネート層15の間に比較的柔軟で粘弾性のある粘着層13が挟まれているので、全体の厚みが増加したにもかかわらず屈曲部に対する追従性が損なわれることはない。なお、PETフィルム基材層11および各ラミネート層15は、同種のPETフィルムであってもよいし、異種のPETフィルムであってもよい。
【0030】
また、本発明に係る多層吸着シートは、PETフィルム基材層11が同種または異種のPETフィルムからなる複数の層を積層したものであってもよい。ただし、この場合は、PETフィルム基材層11全体の厚みが250μmを超えないようにする必要がある。
【符号の説明】
【0031】
1 貼付装置
2 駆動ローラ
3 従動ローラ
4 圧着ローラ
5 押圧ローラ
6 剥離ローラ
7 グリップローラ
8 無限搬送ベルト
F 偏光フィルム
P 液晶パネル
10 多層吸着シート
11 PETフィルム基材層
12 発泡樹脂層
13 粘着層
14 印刷層
15 ラミネート層
20 貼付装置
21 ドラム
22 フィルム供給手段
23 剥離手段
24 パネル供給手段
25 ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系発泡樹脂からなる厚みが50μm〜500μmの発泡樹脂層と、
前記発泡樹脂層の裏面に積層された少なくとも1層のPETフィルム基材層と、
を備え、前記PETフィルム基材層の厚みが5μm〜250μmであり、かつ全体の厚みが800μm以下であることを特徴とする多層吸着シート。
【請求項2】
前記PETフィルム基材層の前記発泡樹脂層とは反対側の面に積層されたアクリル系粘着剤からなる粘着層をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の多層吸着シート。
【請求項3】
前記粘着層の前記PETフィルム基材層とは反対側の面に積層されたPETフィルムからなるラミネート層をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の多層吸着シート。
【請求項4】
前記ラミネート層の前記粘着層とは反対側の面に、交互に積層されたアクリル系粘着剤からなるn層(ただし、nは1以上の整数)の粘着層とPETフィルムからなるn層のラミネート層とをさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の多層吸着シート。
【請求項5】
前記ラミネート層の前記粘着層とは反対側の面に、交互に積層されたアクリル系粘着剤からなるm層(ただし、mは1以上の整数)の粘着層とPETフィルムからなるm−1層のラミネート層とをさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の多層吸着シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−254543(P2012−254543A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127987(P2011−127987)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(507414306)株式会社石山製作所 (6)
【出願人】(000226091)日栄化工株式会社 (17)
【Fターム(参考)】