説明

多層帯水層の間隙水圧測定方法

【目的】1箇所のボーリング孔でシール層や遮水層を設置することなく、多層帯水層における各帯水層の間隙水圧(被圧水頭)を同時かつ正確に測定する多層帯水層の間隙水圧測定方法を提供することを目的とする。
【構成】多層帯水層地盤に多層帯水層を貫通してボーリング孔を削孔し、削孔後に多層帯水層地盤における各帯水層の深さ位置をボーリング削孔時に計測し、ボーリング孔内に間隙水圧計を配置すると共に、前記計測した各帯水層深さ位置の対応箇所に地下水流向計を各々配置し、ボーリング孔内での水位低下操作を行った後、ボーリング孔内での水位が回復する経過中に、各帯水層に対応して設置した地下水流向計により各帯水層の地下水流向変化時点を測定すると共に、変化時点でのボーリング孔内水位面位置を間隙水圧計により測定し、該測定値により各帯水層の間隙水圧を測定する、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層帯水層の間隙水圧測定方法に関するものである。
例えば各種の理由によって地盤の状況を判断する必要が生じたときなどに、地下水圧の分布などを把握しておく必要がある。よってそのためには、前記地盤の各々の深さにおける各水圧、すなわち間隙水圧を測定しなければならない。

【背景技術】
【0002】
多層帯水層の間隙水圧(被圧水頭)を測定するには、各帯水層を対象としたボーリング孔を1つ1つ別個に削孔する方法、もしくは1本のボーリングで遮水層やパッカーにより帯水層ごとに隔離された測定区間を設ける方法が一般に知られており、対象の帯水層ごとに水位計や間隙水圧計で間隙水圧(被圧水頭)を測定するものとしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−190871
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、掘削工事を伴う建設工事では、必ず地盤掘削に伴う地下水問題が生ずる。特に、日本各地における地盤は互層地盤が多く、従って掘削工事の対象とされる地盤はその多くがいわゆる多層帯水層地盤として認識されている。
よって、地盤掘削工事に際しては、まず多層帯水層の初期水頭と透水性を把握しておくことが最重要課題となる。
【0005】
その為には、各帯水層の間隙水圧(被圧水頭)を把握することが必要であるが、前述のごとく、各帯水層の間をシールし、遮断しながら、各層ごとに調査しなければならず、時間と手間とコストを要するものとされていた。
すなわち、多層帯水層地盤を貫通してボーリング孔を削孔する場合、削孔とともにボーリング孔内に水位面(間隙水圧面:被圧水頭面)が現れる。そして、この水位面は、最も間隙水圧(被圧水頭)の高い帯水層の水位面となる。したがって、多層帯水層では帯水層ごとに各層を区分する遮水層を設置しないと各帯水層の間隙水圧(被圧水頭)を測定することはほとんど困難なのである。
【0006】
かくして、本発明は、1箇所のボーリング孔でシール層や遮水層を設置することなく、多層帯水層における各帯水層の間隙水圧(被圧水頭)を同時かつ正確に測定する多層帯水層の間隙水圧測定方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による多層帯水層の間隙水圧測定方法は、
多層帯水層地盤に多層帯水層を貫通してボーリング孔を削孔し、削孔後に前記多層帯水層地盤における各帯水層の深さ位置を計測し、
次いで、ボーリング孔内に間隙水圧計を配置すると共に、前記計測した各帯水層深さ位置の対応箇所に地下水流向計を各々配置し、
前記ボーリング孔内での水位低下操作を行った後、該ボーリング孔内での水位が回復する経過中に、各帯水層に対応して設置した地下水流向計により各帯水層の地下水流向変化時点を測定すると共に、前記変化時点でのボーリング孔内水位面位置を前記間隙水圧計により測定し、該測定値により各帯水層の間隙水圧を測定する、
ことを特徴とし、
または、
多層帯水層地盤に多層帯水層を貫通してボーリング孔を削孔し、削孔後に前記多層帯水層地盤における各帯水層の深さ位置を計測し、
次いで、ボーリング孔内に間隙水圧計を配置すると共に、前記計測した各帯水層深さ位置の対応箇所に地下水流向計を各々配置し、
前記ボーリング孔内での水位低下操作を行った後、該ボーリング孔内での水位が回復する経過中に、各帯水層に対応して設置した地下水流向計により各帯水層の地下水の流れが停止した時点を測定すると共に、前記停止時点でのボーリング孔内水位面位置を前記間隙水圧計により測定し、該測定値により各帯水層の間隙水圧を測定する、
ことを特徴とし、
または、
前記ボーリング孔内での水位低下操作を行った後、該ボーリング孔内での水位が回復する経過中に、行われる測定は、複数回行われ、測定値精度の向上が図られた、
ことを特徴とし、
または、
前記地下水流向計は、一台の使用とし、該一台の地下水流向計を、前記各帯水層に対応して順次移動させて配置した、
ことを特徴とするものである。
【0008】
すなわち、多層帯水層にあるボーリング孔内の個別被圧水頭を測定できないという課題のため、ボーリング孔内の各帯水層の地下水流の変化を捉えることで、各帯水層の被圧水頭を測定するものである。
【0009】
各間隙水圧(被圧水頭)を測定するためには、一般的には圧力測定が使用されるが、本発明ではボーリング孔内の水位面と同時に各帯水層の地下水流変化を把握してこれを測定する点に大きな特長を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明による多層帯水層の間隙水圧測定方法であれば、
1箇所のボーリング孔でシール層や遮水層を設置することなく、多層帯水層における各帯水層の間隙水圧(被圧水頭)を同時かつ正確に測定出来るとの優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による多層帯水層の間隙水圧測定方法の一実施例を示す概略構成説明図(その1)である。
【図2】本発明による多層帯水層の間隙水圧測定方法の一実施例を示す概略構成説明図(その2)である。
【図3】本発明による多層帯水層の間隙水圧測定方法の一実施例を示す概略構成説明図(その3)である。
【図4】本発明による多層帯水層の間隙水圧測定方法の一実施例を示す概略構成説明図(その4)である。
【図5】本発明による多層帯水層の間隙水圧測定方法の一実施例を示す概略構成説明図(その5)である。
【図6】本発明による多層帯水層の間隙水圧測定方法の一実施例を示す概略構成説明図(その6)である。
【図7】地下水流向計の一実施例を示す概略構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を図に示す実施例に従って説明する。
【実施例】
【0013】
図1乃至図6は、一実施例の多層帯水層1を断面で表した概略構成を示す図であり、該多層帯水層1には、難透水層2を介して第1被圧帯水層4及び難透水層3を介して第2被圧帯水層5が形成されている。
このような多層帯水層1の地盤に第1被圧帯水層4及び第2被圧帯水層5を貫通して1つのボーリング孔6を削孔する。本発明ではボーリング孔6の掘削は一カ所で構わない。本件発明の特徴となっている。
【0014】
そして、この一カ所のボーリング孔6の削孔後には、前記多層帯水層1の地盤における第1被圧帯水層4及び第2被圧帯水層5の深さ位置をボーリング削孔時にあらかじめ計測しておく。
【0015】
次いで、掘削する多層帯水層1の地盤の性状によっては、必要に応じてケーシングパイプを入れてボーリング孔6の孔壁を保護したり、あるいは掘削後にボーリング孔6内の洗浄を行い、孔壁に付着している泥膜等を除去することが必要とされる。
その後、ボーリング孔6内に間隙水圧計7を配置すると共に、前記計測した第1被圧帯水層4及び第2被圧帯水層5の深さ位置対応箇所に各々地下水流向計8,8を配置する。
【0016】
ここで、間隙水圧計7の構成及びその種類については何ら限定されるものではないが、例えば、水深変化による水圧変化を、圧力センサなどで測定し、例としてDC 4mA 〜 20mAの電気信号に変換して2線式で伝送するもので、ボーリング孔6中に埋設して、当該ボーリング孔6の間隙水圧を測定する構成のものが考えられる。
【0017】
また、いわゆる電気式間隙水圧計は、水圧のみが計測できる構造の圧力計で、圧力変換器によって水圧を電気量に変える構成のものである。予想される間隙水圧の大きさに応じて、必要な容量と精度が必要で、受圧部はフィルターなどを備えた構造になっている。コードは、電気量を指示計に伝達できるものを用いられ、指示計は、電気式間隙水圧計に対応した機種のものが用いられる。
【0018】
当該間隙水圧計7の設置方法の一例であるが、間隙水圧計本体にロッドを次々と緊結しながらゆっくりと静かにボーリング孔6内に挿入し、例えば、孔中あるいは孔底に達したなら、静かに所定の深さまで押し込んで設置する方法が採用される。
図2乃至図6から理解されるように、間隙水圧計7は掘削された一カ所のボーリング孔6の深さ方向略中間位置に設定されるが、この位置に決して限定されるものではない。
【0019】
次に、地下水流向計8をボーリング孔6に設置する。本実施例では、該地下水流向計8,8は2台ボーリング孔6内に設置される。すなわち、第1被圧帯水層4に対応する箇所に1台、そして第2被圧帯水層5に対応する箇所に1台設置される。各々の被圧帯水層4,5での地下水の流れ方向を計測する必要の為である。
ところで、前記の地下水流向計8は、一台のみの使用で賄うことも出来る。
すなわち、一台の地下水流向計8を、前記計測した第1被圧帯水層4及び第2被圧帯水層5の深さ位置対応箇所に、順次移動させていくのである。このように順次移動させていけば、一台の地下水流向計8のみの使用でたり、複数の地下水流向計8・・・を準備する必要がないメリットがある。
ここで、当該地下水流向計8の構成及び種類についても何ら限定されないが、その一実施例としては図7に示すものが挙げられる。
【0020】
すなわち、地下水流向計8は、内部に空間部9を有して構成された略円筒状をなす本体10を備えており、該本体10内には、本体10内上部側に収納された撮像手段11と、該撮像手段11の下側に設けられ、通過する地下水の少なくとも流向を測定する測定部12とを有して構成される。
【0021】
そして、前記測定部12底面からは例えば水平方向に揺動可能な測定体13が鉛直方向に延出して立設され、該測定体13の頂部には撮像手段11による撮像の目印となる標点が設けられた浮き14が設けられる。
しかして、地下水がいずれかの方向(矢印で示す方法)に流れると、測定部12内で前記測定体13がその方向に揺動する。従って、撮像手段11でその状態を撮像することにより地下水の流向を連続的にかつ長期間にわたって測定することが出来るのである。
【0022】
なお、前述したように、本発明では、地下水流向計8の種類や構成は全く限定されず、少なくとも地下水の流れの方向が計測できる地下水流向計8であることを要する。
【0023】
次に、本発明による測定方法につき説明する。
なお、図1から理解されるように、本実施例において、ボーリング孔6内の初期水位はGL−1mとされている。
【0024】
また、図1においてその右側には本実施例における多層帯水層1の各層の間隙水圧(被圧水頭)を予め示して説明することにする。よって、第1帯水層4の間隙水圧はGL−2m、第2帯水層5の間隙水圧はGL−4mとしてある。
【0025】
上記のように各種の間隙水圧計7や地下水流向計8などの機材類を設置した後、まず、ボーリング孔6内での水位を低下させる操作を行う(図2参照)。
この操作方法について、何ら限定されるものではないが、例えば、揚水ポンプを使用し、ボーリング孔6内の水を迅速に汲み上げて水位を低下させることが考えられる。
【0026】
例えば、揚水ポンプなどを使用して水位を低下させた後、ボーリング孔6内の水位面が安定するのを待ち、その後該ボーリング孔6内での水位を回復させていく。該回復に際しては何らの作業を行う必要はなく、自然に回復するのを待つことになる。
そして、この回復する経過中において、後述する測定作業が行われる。
【0027】
すなわち、各帯水層に対応して設置した地下水流向計8、8により各第1及び第2帯水層4,5の地下水流向変化時点を測定すると共に、前記変化時点でのボーリング孔6内水位面位置を前記間隙水圧計7により測定するのである。
ここで、各第1帯水層4あるいは第2帯水層5の地下水流向変化時点とは、換言すれば、各第1帯水層4あるいは第2帯水層5での地下水の流れが止まった時点を意味するものであり、この時点でのボーリング孔6内水位面位置を前記間隙水圧計7により測定するのである。
【0028】
図2乃至図6により具体的に説明すると、図2から理解されるように、ボーリング孔6内でGLから7mの水位低下を行った。
ここで、図2に示すように、初期水位はGLより−1mであり、第1帯水層4の水位はGL−2mであり、第2帯水層5の水位はGL−4mとされている。よって、7m水位を低下すると、第1帯水層4あるいは第2帯水層5においても地下水流の向きは矢印で示すように左向きとなる。
【0029】
次に、ボーリング孔6内の水位がGL−4mまで回復すると図3から理解されるように、第2帯水層5では双方の地下水位、すなわちボーリング孔6内の水位と第2帯水層5の水位とが平衡状態となり、これにより地下水流の方向がなくなり止まってしまう。
この状態を第2帯水層5の間隙水圧(被圧水頭)と測定するのである。すなわち、地下水流が止まったときのボーリング孔6内での水位を間隙水圧計7でGL−4mと測定しておくのである。
さらに、図4に示すようにボーリング孔6内の水位が回復しGL−3mとなると、第2帯水層5の地下水の流向が変化し、矢印のごとく右側に流れることになる。
【0030】
次に、図5に示すように、ボーリング孔6内の水位がGL−2mまで回復すると、第1帯水層4においては双方の地下水位が平衡状態となり、これにより地下水流の方向がなくなり、すなわちボーリング孔6内の水位と第1帯水層4の水位とが平衡状態となり、地下水流が止まってしまう。
このように、地下水流が止まったときのボーリング孔6内での水位を間隙水圧計7でGL−2mと測定しておき、その値を第1帯水層4の間隙水圧(被圧水頭)と判断するのである。
【0031】
さらに、図7に示すようにボーリング孔6内の水位が回復しGL−1.5mとなると、第1帯水層5の地下水の流向が矢印のごとく右側に流れることになる。
しかして、本発明ではボーリング孔6内の水位低下を行ってから各測定の作業を少なくとも複数回、出来れば3回以上繰り返し行うことが好ましい。
これにより測定値のばらつきや誤差を解消でき、精度の高い測定値が得られるものとなる。
【符号の説明】
【0032】
1 多層帯水層
2 難透水層
3 難透水層
4 第1帯水層
5 第2帯水層
6 ボーリング孔
7 間隙水圧計
8 地下水流向計
9 空間部
10 本体
11 撮像手段
12 測定部
13 測定体
14 浮き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層帯水層地盤に多層帯水層を貫通してボーリング孔を削孔し、削孔後に前記多層帯水層地盤における各帯水層の深さ位置を計測し、
次いで、ボーリング孔内に間隙水圧計を配置すると共に、前記計測した各帯水層深さ位置の対応箇所に地下水流向計を各々配置し、
前記ボーリング孔内での水位低下操作を行った後、該ボーリング孔内での水位が回復する経過中に、各帯水層に対応して設置した地下水流向計により各帯水層の地下水流向変化時点を測定すると共に、前記変化時点でのボーリング孔内水位面位置を前記間隙水圧計により測定し、該測定値により各帯水層の間隙水圧を測定する、
ことを特徴とする多層帯水層の間隙水圧測定方法。
【請求項2】
多層帯水層地盤に多層帯水層を貫通してボーリング孔を削孔し、削孔後に前記多層帯水層地盤における各帯水層の深さ位置を計測し、
次いで、ボーリング孔内に間隙水圧計を配置すると共に、前記計測した各帯水層深さ位置の対応箇所に地下水流向計を各々配置し、
前記ボーリング孔内での水位低下操作を行った後、該ボーリング孔内での水位が回復する経過中に、各帯水層に対応して設置した地下水流向計により各帯水層の地下水の流れが停止した時点を測定すると共に、前記停止時点でのボーリング孔内水位面位置を前記間隙水圧計により測定し、該測定値により各帯水層の間隙水圧を測定する、
ことを特徴とする多層帯水層の間隙水圧測定方法
【請求項3】
前記ボーリング孔内での水位低下操作を行った後、該ボーリング孔内での水位が回復する経過中に、行われる測定は、複数回行われ、測定値精度の向上が図られた、
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の多層帯水層の間隙水圧測定方法。
【請求項4】
前記地下水流向計は、一台の使用とし、該一台の地下水流向計を、前記各帯水層に対応して順次移動させて配置した、
ことを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の多層帯水層の間隙水圧測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−243337(P2010−243337A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92557(P2009−92557)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)
【Fターム(参考)】