説明

多層成形体およびその製造方法

【課題】低硬度で、ハンドリング性が良好で、さらに容易に作製することができる、表面に非粘着層を有する多層成形体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】スチレン系熱可塑性エラストマー2上に、少なくともコーティング層5として、ポリオレフィン系樹脂3およびアクリル系樹脂4を、順次積層してなる多層成形体1である。フィルム6上に、グラビアコートまたはシルクコートにて、アクリル系樹脂4およびポリオレフィン系樹層3を順次形成して積層フィルム7を作製し、固定側金型11と可動側金型12との間に積層フィルム7を供給して設置した後に、積層フィルム7をはさんで型締めし、次いで、スチレン系熱可塑性エラストマー2をポリオレフィン系樹脂3上に射出して一体成形して成形品8を作製し、金型から成形品8を取り出した後、成形品8からフィルム6を剥離する多層成形体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層成形体およびその製造方法に関し、詳しくは、低硬度で、ハンドリング性が良好で、さらに容易に作製することができる、表面に非粘着層を有する多層成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴムもしくはエラストマーからなる製品、成形体又はペレット等の被防着体表面に防着剤を塗布することにより、これらの被防着体が互いに粘着するのを防止している。このような外部添加防着剤としては、従来、炭酸カルシウム,タルク,炭酸マグネシウム,マイカ等の天然物を含む無機物、及びシリコーンオイル,シリコーンポリマー等のシリコーン類が使用されている。しかしながら、天然物を含む無機物は、吸湿性及び吸油性が大きいため、防着性を付与しようとするゴム又は熱可塑性エラストマーからなる製品等に配合されているオイル等の低分子量成分を吸収してしまい、このため、製品等を長期間使用することができないことが多かった。また、シリコーン類は高価であり、かつ電気的に接点不良を起こす可能性や、揮発する可能性が高いため、シリコーン類を外部添加したゴムやエラストマーで光学部品や精密部品を作製するには問題があることが懸念されていた。
【0003】
そこで、吸湿性、吸油性及び揮発性が小さく、ゴム又は熱可塑性エラストマーからなる製品等の被防着体に安定した防着性能を付与することができる外部添加防着剤を提供することを目的として、特許文献1には、平均粒径が500μm以下の有機系粒状物質からなる、ゴム用又はエラストマー用外部添加防着剤が開示されている。
【0004】
一方、予備成形を行ってもインサートフィルムに破れが生じることがなく、インサートフィルムをキャビティ型へ装着するのが容易なインサート成形品の製造方法を提供することを目的として、キャビティ形状に対して少なくとも一部において非接触な形状に予備成形型で予備成形されたインサートフィルムを射出成形用金型のキャビティ型に配置し、キャビティ型上で真空または圧空成形してインサートフィルムをキャビティ型に密着させた後、成形樹脂を射出し、成形品を成形するのと同時にインサートフィルムを成形品に接着するインサート成形品の製造方法が、特許文献2に開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献2記載のようなフィルムを一体成形する方法は、はみ出し等による余分なフィルムをカットすることが必要であり、より簡易な成形品の製造方法が求められていた。そこで、特許文献3および4には、フィルムとシートを積層し、これに樹脂を射出成形して一体化した後、フィルムを剥がす成形品の製造方法が、開示されている。
【0006】
また、特許文献5には、基体フィルムに射出樹脂との密着性がよく、かつインモールド加飾成形後であっても成形品の表面を感熱転写記録により容易に加飾できるインモールド成形用複合フィルムおよびこれを用いたインモールド加飾成形品を提供することを目的に、ゴム変性熱可塑性樹脂および隠蔽剤の少なくとも2成分からなる基体フィルム(イ)上にウレタン樹脂と重合性不飽和単量体の重合体とを含有するアクリル樹脂組成物からなる感熱転写記録用染料受容層(ロ)を有する複合フィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−64445号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2000−6186号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開平08−294938号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開2006−142698号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献5】特開2002−18891号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の方法は、防着剤を塗布するために工程が一つ増え、機械のコストおよびランニングコストがかかるという問題がある。また、防着剤としては、固形状、ワックス状、エマルション状等のものがあり、さらに、材料の組成としてはシリコン系、フッ素系、オレフィン系等があるものの、例えば、防着剤の含有により材料物性が変化する場合、あるいはクリーンルーム内で固形の防着剤が飛散するため防着剤を使用できない場合、さらには、成形品に防着剤組成物そのものを含有できない場合等、防着剤を使用できない場合、固形状、エマルション状等の防着剤の含有により成形品から固形分が脱落して製品機能を阻害する場合もある。一方、防着剤を塗布しない場合、成形後の取り扱い性、特にハンドリング性が悪く、成形品同士のブロッキングを生じる問題がある。
【0009】
また、特許文献3および4記載の方法による成形品は、シリコーンゴム等を使用したものであるため、高粘着性スチレン系熱可塑性エラストマーを用いた場合に、エラストマーとの接着性、フィルムとの剥離性、並びに転写後のエラストマー表面の低粘着性を維持できず、低硬度で、ハンドリング性が良好な、表面に非粘着層を有する多層成形体が求められている。また、特許文献5記載の成形品は、基体フィルムに射出樹脂との密着性がよくなることを目的としたものであるため、フィルムと成形品との剥離が求められる方法では使用することができるものでなかった。
【0010】
そこで本発明の目的は、低硬度で、ハンドリング性が良好で、さらに容易に作製することができる、表面に非粘着層を有する多層成形体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、スチレン系熱可塑性エラストマー上に、特定のコーティング層を有する多層成形体とすることで、低硬度で、ハンドリング性が良好で、さらに容易に作製することができる、表面に非粘着層を有する多層成形体およびその製造方法を提供できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明の多層成形体は、スチレン系熱可塑性エラストマー上に、少なくともコーティング層として、ポリオレフィン系樹脂およびアクリル系樹脂を、順次積層してなることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の多層成形体は、前記コーティング層の厚みが、1μm〜10μmであることが好ましく、前記スチレン系熱可塑性エラストマーの厚みが、前記コーティング層の厚みに対し、10〜5000倍であることが好ましい。
【0014】
本発明の多層成形体の製造方法は、少なくとも固定側金型と可動側金型とを有する金型を使用する多層成形体の製造方法において、
前記フィルム上に、グラビアコートまたはシルクコートにて、アクリル系樹脂およびポリオレフィン系樹脂を順次形成して積層フィルムを作製し、
前記固定側金型と前記可動側金型との間に前記積層フィルムを供給して設置した後に、前記積層フィルムをはさんで型締めし、
次いで、スチレン系熱可塑性エラストマーを前記ポリオレフィン系樹脂上に射出して一体成形して成形品を作製し、
前記金型から前記成形品を取り出した後、前記成形品から前記フィルムを剥離することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上記構成としたことにより、低硬度で、ハンドリング性が良好で、さらに容易に作製することができる、表面に非粘着層を有する多層成形体およびその製造方法を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の多層成形体の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の多層成形体の製造方法を示す断面図である。
【図3】本発明の多層成形体の他の一例を示す断面図である。
【図4】本発明の多層成形体の他の一例を示す断面図である。
【図5】粘着性評価におけるサンプルを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の多層成形体の一例を示す断面図である。本発明の多層成形体1は、スチレン系熱可塑性エラストマー2上に、少なくともコーティング層5として、ポリオレフィン系樹脂3およびアクリル系樹脂4を、順次積層してなることが肝要である。図1では、2層の場合を示したが、ポリオレフィン系樹脂3とアクリル系樹脂4との間に他の成分からなる層を有する3層以上の構造であってもよい。スチレン系熱可塑性エラストマー2上に、上記コーティング層5を有することで、ハンドリング性が良好となり、多層成形体1のブロッキング性が改善される。また、多層成形体1として低硬度を維持できる。さらに、スチレン系熱可塑性エラストマー2とポリオレフィン系樹脂3とは接着性が良好で、多層成形体1の層の剥がれおよび脱落をより防止できる。特に、スチレン系熱可塑性エラストマー2が、極性基を有さないポリオレフィン骨格を有することで、ポリオレフィン系樹脂3との接着性をより良好とすることができ、多層成形体1の層の剥がれおよび脱落をより防止できる。
【0018】
図2は、本発明の多層成形体の製造方法を示す断面図である。本発明の多層成形体1は、少なくとも固定側金型11と可動側金型12とを有する金型を使用して射出成型により作製されたものである。具体的には、フィルム6上に、グラビアコートまたはシルクコートにて、アクリル系樹脂4およびポリオレフィン系樹脂3を順次形成して積層フィルム7を作製する(図2(A)参照)。次いで、固定側金型11と可動側金型12との間に積層フィルム7を供給して(図2(B)参照)、設置する(図2(C)参照)。その後、積層フィルム7をはさんで型締めし、次いで、スチレン系熱可塑性エラストマー2をポリオレフィン系樹脂3上に射出して一体成形して成形品8を作製する(図2(D)参照)。その後、金型から成形品8を取り出し(図2(E)参照)、成形品8からフィルム6を剥離することで多層成形体1を作製する(図2(F)参照)。これにより、低硬度で、ハンドリング性が良好な、表面に非粘着層を有する多層成形体を容易に作製できた。特に、フィルム6上にアクリル系樹脂4を有しているため、フィルム6を容易に剥離することができる。
【0019】
本発明に使用できるスチレン系熱可塑性エラストマー2は、特に制限されず、様々な状況に応じて、適宜選定使用すればよいが、好ましくは、JIS−A 25度以下の高粘着性熱可塑性エラストマーである。
【0020】
また、かかるスチレン系熱可塑性エラストマー2としては、特にビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなる共重合体の熱可塑性エラストマーを含有するものが好ましく用いられる。より具体的には、例えば、(1)ポリブタジエンとブタジエン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体を水添して得られる結晶性ポリエチレンとエチレン/ブチレン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体、(2)ポリブタジエンとポリスチレンとのブロック共重合体、及びポリイソプレンとポリスチレンとのブロック共重合体、あるいは、ポリブタジエン又はエチレン−ブタジエンランダム共重合体とポリスチレンとのブロック共重合体を水添して得られる、例えば、結晶性ポリエチレンとポリスチレンとのジブロック共重合体、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンのトリブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンのトリブロック共重合(SEPS)など、中でも、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体又はスチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体、などを挙げることができるが、好ましくは、スチレン系ブロック型エラストマーである。
【0021】
本発明に使用できるポリオレフィン系樹脂3としては、特に制限されず、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1,3−メチルブテン−1,4−メチルペンテン−1、オクテン−1などのα−オレフィンの単独重合体やこれらの共重合体、不飽和有機カルボン酸又はその誘導体で変性されたポリオレフィン、又はこれらと他の共重合可能な不飽和単量体との共重合体などを使用することができる。具体例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度又は高密度ポリエチレン(HDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体などのポリエチレン系樹脂;ポリプロピレン単独重合体、マレイン酸などの不飽和有機カルボン酸又はその誘導体で変性されたポリプロピレン、プロピレン−エチレンブロック共重合体やランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体などのポリプロピレン系樹脂;ポリブテン−1、ポリペンテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1などが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
また、本発明に使用できるアクリル系樹脂4としては、特に制限されず、アクリル系樹脂の主鎖を構成するモノマーとして特に制約はなく、各種のものを用いることができる。例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−n−ペンチル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トレイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチル、等のアクリル酸系モノマー;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩等のスチレン系モノマー;パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニルモノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニル系モノマー;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル及びジアルキルエステル;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、複数を共重合させても構わない。なお、上記表現形式で、例えば、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/またはメタクリル酸を表す。
【0023】
また、本発明において、上記ポリオレフィン系樹脂3の相溶性パラメータ(SP)が7〜9であることが好ましく、上記アクリル系樹脂4の相溶性パラメータ(SP)が9〜10.5であることが好ましい。相溶性パラメータ(SP)をかかる範囲とすることにより、相溶性パラメータが同じかまたは近くなるため、ポリオレフィン系樹脂3とアクリル系樹脂4の界面での相溶性がきわめて高くなるため、接着力が非常に大きくなる。
【0024】
ここで、相溶性パラメータ(SP)とは、次式、
SP=Σ(G)/分子量
で算出されるものであり、Gはモル牽引定数を示し、特開2000−327813号公報等に記載された値を使用できる。
【0025】
さらに、本発明に使用できるフィルム6としては、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレンを縦横の二方向に延伸した二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等を挙げることができ、好ましくはPETである。
【0026】
本発明において、コーティング層5の厚みが、全体で1μm〜10μmであることが好ましい。コーティング層5の厚みが、1μmより小さいと粘着性の低減が十分でなく、ハンドリング性はあまり改善されていないおそれがある。一方、コーティング層5の厚みが、10μmより大きいと厚すぎて低硬度を保てないおそれがあり、好ましくない。また、コーティング層5がポリオレフィン系樹脂3およびアクリル系樹脂4の2層からなる場合は、各層の厚みは、それぞれ0.5μm〜5.0μmであることが好ましい。
【0027】
さらに、本発明において、スチレン系熱可塑性エラストマー2の厚みが、コーティング層5の厚みに対し、10〜5000倍であるが好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマー2の厚みをコーティング層5の厚みに対し、非常に薄くすることにより、より低硬度を維持することができる。なお、ここでスチレン系熱可塑性エラストマー2の厚みとは最も薄い厚みを示す。
【0028】
さらにまた、本発明において、フィルムの厚みは好ましくは50μm以下、さらに好ましくは5μm以上50μm以下、さらにより好ましくは15μm以上25μm以下である。フィルムの厚みが50μmより大きいと反りが発生しやすく曲げ応力が大きくなるため多層成形体1が反るおそれがあり、好ましくない。また、フィルムの厚みが5μmよりも小さいと、テンションコントロールが難しく、フィルム切れの発生のおそれがあり、好ましくない。
【0029】
図3は、本発明の他の多層成形体の一例を示す断面図である。図3に示すように、本発明において、熱可塑性エラストマー2は凹凸状の形状になっていてもよい。なお、かかる形状において、熱可塑性エラストマー2の厚みとは、凹部の最小の厚みを示す。
【0030】
図4は、本発明の他の多層成形体の一例を示す断面図である。図4に示すように、本発明において、凹部側にコーティング層5を設けることもできる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
(実施例1〜3、比較例1〜3)
図2に示す手順に従って、多層成形体を作製した。下記表1に示すフィルム上に、グラビアコートにて、下記表1に示すコーティング層を形成して積層フィルムを作製した(図2(A)参照)。次いで、固定側金型11と可動側金型12との間に積層フィルムを供給して(図2(B)参照)、設置した(図2(C)参照)。その後、積層フィルムをはさんで型締めし、次いで、下記配合のスチレン系熱可塑性エラストマーをコーティング層上に射出して一体成形して成形品を作製した(図2(D)参照)。成形時における金型温度は45℃、成形温度は190℃で行った。その後、金型から成形品を取り出し(図2(E)参照)、成形品からフィルムを剥離することで多層成形体を作製した(図2(F)参照)。スチレン系熱可塑性エラストマーの厚みは、400μmであった。
【0032】
(スチレン系熱可塑性エラストマー配合)
スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(数平均分子量20万,SP値(溶解度係数)8.5)100質量部と、パラフィン系オイル(出光興産(株)製,商品名:PW380,分子量750,SP値7.8)260質量部と、ポリプロピレン樹脂5質量部とを混練して、スチレン系熱可塑性エラストマーを調製した。このスチレン系熱可塑性エラストマーのJIS A硬度は4度であった。
【0033】
得られた多層成形体について、下記評価を行い、結果を表1に併記した。
【0034】
(転写性)
多層成形体のフィルムへの転写性を評価し、転写性が良好な場合を○、やや悪い場合を△、悪い場合を×として3段階で評価した。
【0035】
(スチレン系熱可塑性エラストマーとの接着性)
コーティング層とスチレン系熱可塑性エラストマーの接着性を、手で軽く引張っても簡単には剥離されない状態を○、全く接着されず簡単に剥げる状態を×として2段階で評価した。
【0036】
(粘着性低減)
図5は、粘着性評価におけるサンプルを示す断面図である。図5に示すように、上記で作製された1mm厚の多層成形体1を、スチレン系熱可塑性エラストマー面を内側にして2枚重ね、その外側に布テープ9を貼り付けた。布テープ9側から30g/cmにて圧着して、24時間放置した。多層成形体1を布テープ9と共に固定し、100mm/minの引張り速度で引張り、多層成形体1のスチレン系熱可塑性エラストマー面における粘着力を測定した。粘着性については、スチレン系熱可塑性エラストマーを2枚重ねて測定した場合の粘着力と比較して、同等の場合を○(良い)、低減した場合を×(悪い)、として2段階で評価した。
【0037】
【表1】

※1:ポリエチレンテレフタレート(テトロン、帝人デュポンフィルム(株)製)
※2:未延伸ポリプロピレン(W−X、東セロ(株)製)
※3:アクリル系樹脂(メチルアクリレート系樹脂)
※4:PE系樹脂(EVA系樹脂(エチレン−酢酸ビニル共重合体))
【0038】
実施例1〜3の多層成形体は、転写性および粘着性低減のいずれにおいても良好な結果が得られた。また、スチレン系熱可塑性エラストマーを射出する側のコーティング層にPE系樹脂またはPP系樹脂を使用しているため、スチレン系熱可塑性エラストマーとの接着性が良好であった。これに対し、比較例1および2は、コーティング層がシリコン系樹脂またはアクリル系樹脂であるため、スチレン系熱可塑性エラストマーと接着しなかった。また、比較例3は、コーティング層にアクリル系樹脂を使用していないため、転写性が悪かった。
【符号の説明】
【0039】
1 多層成形体
2 スチレン系熱可塑性エラストマー
3 ポリオレフィン系樹脂
4 アクリル系樹脂
5 コーティング層
6 フィルム
7 積層フィルム
8 成形品
9 布テープ
11 固定側金型
12 可動側金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系熱可塑性エラストマー上に、少なくともコーティング層として、ポリオレフィン系樹脂およびアクリル系樹脂を、順次積層してなることを特徴とする多層成形体。
【請求項2】
前記コーティング層の厚みが、全体で1μm〜10μmである請求項1記載の多層成形体。
【請求項3】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーの厚みが、前記コーティング層の厚みに対し、10〜5000倍である請求項2記載の多層成形体。
【請求項4】
少なくとも固定側金型と可動側金型とを有する金型を使用する多層成形体の製造方法において、
前記フィルム上に、グラビアコートまたはシルクコートにて、アクリル系樹脂およびポリオレフィン系樹層を順次形成して積層フィルムを作製し、
前記固定側金型と前記可動側金型との間に前記積層フィルムを供給して設置した後に、前記積層フィルムをはさんで型締めし、
次いで、スチレン系熱可塑性エラストマーを前記ポリオレフィン系樹脂上に射出して一体成形して成形品を作製し、
前記金型から前記成形品を取り出した後、前記成形品から前記フィルムを剥離することを特徴とする多層成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−46181(P2011−46181A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199002(P2009−199002)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】