説明

多層構造を有する樹脂微粒子、その分散液及びその製造方法

【課題】耐熱性及び耐溶剤性を維持しつつ、有機溶媒等の広範な分散媒への分散性を向上するようにした樹脂微粒子を提供する。
【解決手段】樹脂微粒子の最外層が熱可塑性樹脂であり、最内層が熱硬化性樹脂硬化物であり、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂硬化物の重量比が0.1/99.9〜50/50であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造を有する樹脂微粒子、その分散液及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、耐熱性、耐溶剤性および有機溶媒等の分散媒への分散性が良好な多層構造を有する樹脂微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂微粒子とは、球形あるいは球形に近い形状を有する高分子材料または高分子複合材料からなる微粒子であり、その直径はナノレベルからミクロンレベルである。樹脂微粒子は、その特殊な寸法と形状により、比表面積を変えたり、粒度分布を調整したり、表面を改質したりすることにより、近年、医療用途、電子情報材料などの先端技術分野に応用されている。
【0003】
このような樹脂微粒子に求められる要求として、耐熱性、耐溶剤性が挙げられ、また樹脂微粒子が利用しやすい形態として、これらの機能をあわせ持った微粒子の分散液が求められている。特に、樹脂微粒子の分散液は、粒径が小さくなるに従い、表面エネルギーが増大し、凝集し易くなるため、分散媒に均一に分散させることが困難であるのが通例である。
【0004】
一般に、樹脂微粒子は、モノマーを原料として樹脂微粒子を製造する方法や、ポリマーを溶解した後に、球状析出させる方法などが知られている。前者の方法としては、乳化重合、ソープフリー乳化重合、分散重合、沈殿重合、懸濁重合、シード重合などが挙げられるが、これらの手法は、いずれもラジカル重合を活用したものであり、ビニル系ポリマーからなる樹脂微粒子であることから、総じて耐熱温度が高々140℃以下と低いことが通常である(例えば特許文献1を参照)。
【0005】
また、後者の場合は、高耐熱のポリマーを利用することができるものの、溶媒に溶解することが前提であり、これらポリマーは、耐溶剤性が不足するのが通例である(例えば特許文献2を参照)。
【0006】
そこで、耐熱性および耐溶剤性を持った微粒子として、熱硬化性樹脂硬化物微粒子が挙げられる(例えば特許文献3を参照)。これら熱硬化性樹脂硬化物微粒子は、これまでの検討により、その分散液として水分散液などが開発されているものの、有機溶媒を含めた幅広い分散媒に対しての高分散性を得ることができなかった。しかしながら、これら有機溶媒等の分散媒への分散不良は、特に高機能フィルム等の各種材料へ塗布することなどへの応用を妨げるものであり、改善すべき課題となっていた。
【特許文献1】特開2001−122932号公報
【特許文献2】特開2007−204767号公報
【特許文献3】特開平6−279570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐熱性および耐溶剤性を維持しつつ、有機溶媒等の分散媒への分散性を向上するようにした樹脂微粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の多層構造を有する樹脂微粒子は、
(1)樹脂微粒子の最外層が熱可塑性樹脂であり、最内層が熱硬化性樹脂硬化物であり、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂硬化物の重量比が0.1/99.9〜50/50であることを特徴とする多層構造を有する樹脂微粒子、
(2)熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂硬化物の重量比が0.1/99.9〜20/80であることを特徴とする(1)記載の多層構造を有する樹脂微粒子、
(3)熱可塑性樹脂が、アルケン酸、アルケン酸エステル、スチレン、アクリロニトリルから選ばれる少なくとも1種を含むモノマーを重合してなる樹脂であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の多層構造を有する樹脂微粒子、
(4)熱可塑性樹脂が、アクリル酸エステル系樹脂、アクリル酸系樹脂、メタクリル酸エステル系樹脂、メタクリル酸系樹脂、スチレン系樹脂またはシアン化ビニル系樹脂であることを特徴とする(1)(2)又は(3)に記載の多層構造を有する樹脂微粒子、
(5)熱硬化性樹脂硬化物がビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂又は臭素化エポキシ樹脂の硬化物であることを特徴とする(1)から(4)いずれか1項記載の多層構造を有する樹脂微粒子、
(6)平均粒子径が0.01〜50μmであることを特徴とする(1)から(5)いずれか1項に記載の多層構造を有する樹脂微粒子、
(7)樹脂微粒子が硬化剤を含むことを特徴とする(1)から(6)いずれか1項に記載の多層構造を有する樹脂微粒子、である。
【0009】
また、本発明の多層構造を有する樹脂微粒子の分散液は、
(8)上記樹脂微粒子を分散させた分散液であり、この分散液の溶剤が芳香族系溶剤、脂肪族アルキル系溶剤、ハロゲン化炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、極性溶媒および界面活性剤を含む水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)から(7)のいずれか1項記載の多層構造を有する樹脂微粒子の分散液、である。
【0010】
本発明の多層構造を有する樹脂微粒子の製造方法は、
(9)熱硬化性樹脂硬化物微粒子の懸濁液を脱イオン水に入れてから、アルケン酸、アルケン酸エステル、スチレン、アクリロニトリルから選ばれる少なくとも1種を含むモノマーと反応開始剤を入れ、窒素の雰囲気で均一に混合し、40〜100℃まで昇温して重合反応を行い、反応が停止した後、濾過、乾燥して多層構造を有する樹脂微粒子を得ることを特徴とする(1)から(7)いずれか1項記載の多層構造を有する樹脂微粒子の製造方法、である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多層構造を有する樹脂微粒子は、最内層を熱硬化性樹脂硬化物で構成しているので、耐熱性および耐溶剤性を合わせもち、かつ最外層を熱可塑性樹脂で構成しているため有機溶剤や水系溶剤などの広範な分散媒に高度に分散させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の多層構造を有する樹脂微粒子は、最外層が熱可塑性樹脂であり、最内層が熱硬化性樹脂硬化物である。
【0013】
最外層を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン等のオレフィン系樹脂、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のアクリル系樹脂、ポリスチレン、ポリジビニルスチレン等のスチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル等のシアン化ビニル系樹脂、ポリ(アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン)等の共重合樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル樹脂、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(3−ヒドロキシヘキサン酸)、ポリカプロラクトンまたはポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド゛樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド等のスーパーエンプラ類、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートまたはポリブチレンサクシネートなどの脂肪族多価カルボン酸および脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とするポリエステル、ポリブチレンアジペートテレフタレートなどの脂肪族多価カルボン酸、芳香族多価カルボン酸および脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とする重合体などが挙げられる。
【0014】
中でも、好ましい熱可塑性樹脂としては、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のアクリル系樹脂、ポリスチレン、ポリジビニルスチレン等のスチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル等のシアン化ビニル系樹脂、ポリ(アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン)等の共重合樹脂であり、さらに好ましくはポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステルなどのアクリル酸エステル系樹脂である。
【0015】
最外層を構成する熱可塑性樹脂は、アルケン酸、アルケン酸エステル、スチレン、アクリロニトリルから選ばれる少なくとも1種を含むモノマーを重合してなる樹脂であるとよい。アルケン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸等が例示される。アルケン酸エステルは、アルケン酸とアルキルアルコール、アリルアルコール、ビニルアルコール、フェノール等とのエステルであり、アルキル基、アリル基、ビニル基、アリール基等を有する。中でも、アルケン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸アルキルエステル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸アリールエステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸アリールエステルが好ましい。
【0016】
また、最内層を構成する熱硬化性樹脂硬化物としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体などのグリシジル基含有ビニル系樹脂、ビニルエステル樹脂などの硬化物が挙げられ、好ましくはエポキシ樹脂、フェノール樹脂などの硬化物である。中でも好適なものとして、エポキシ樹脂の硬化物が挙げられる。エポキシ樹脂の好ましい例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0017】
エポキシ樹脂では、それらと組み合わせて硬化剤を用いることができる。硬化剤としては、例えば、芳香族アミン、脂肪族アミン、ポリアミドアミン、カルボン酸無水物およびルイス酸錯体、酸系硬化触媒、塩基系硬化触媒などが挙げられる。芳香族アミンの具体的な例としては、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルメタンなどが用いられる。また、脂肪族アミンの具体的な例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジシアンジアミド、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレンジアミン、ピペリジン、N,N−ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、ポリアミドアミン、N,N−ジメチルラウリルアミン、N,N−ジメチルミリスチルアミン、ヒドラジン、アジピン酸ヒドラジド、4,4′−ジアミノシクロヘキシルメタンなどが挙げられる。
【0018】
本発明の多層構造を有する樹脂微粒子において、最外層の熱可塑性樹脂と最内層の熱硬化性樹脂硬化物の重量比(熱可塑性樹脂/熱硬化性樹脂硬化物)は0.1/99.9〜50/50であり、好ましくは1/99〜40/60であり、より好ましくは5/95〜30/70であり、特に好ましくは5/95〜20/80である。また、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂硬化物の重量比を0.1/99.9〜20/80にすることもできる。熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂硬化物の重量比をこのような範囲にすることにより、耐熱性および耐溶剤性を維持すると共に、有機溶剤等への分散性を向上させることができる。
【0019】
本発明における樹脂微粒子の粒子径は、平均粒径が好ましくは0.01〜50μmである。より好ましくは0.05〜30μmであり、さらに好ましくは0.1〜10μmである。樹脂微粒子の平均粒径は、レーザー回折式・光散乱法粒度分布計により測定した体積平均粒子径とした。また、本発明の樹脂微粒子は、比表面積が好ましくは0.1〜5000m/gであり、より好ましくは0.1〜500m/gであり、さらに好ましくは5〜500m/g、特に好ましくは5〜50m/gであるとよい。
【0020】
本発明における多層構造を有する樹脂微粒子は、熱硬化性樹脂硬化物で最内層を形成しているため耐熱性および耐溶剤性に優れると共に、最外層を熱可塑性樹脂で形成しているため、有機溶剤などの分散媒に高度に分散させることができる。また、分散媒としては、有機溶剤の他に、界面活性剤を含む水系分散液を使用してもよい。
【0021】
本発明において、多層構造を有する樹脂微粒子の分散液とは、上述した樹脂微粒子が分散媒に分散した分散液を指す。分散液中の樹脂微粒子の含有量は、好ましくは0.5〜5重量%、より好ましくは1〜30重量%である。
【0022】
本発明の多層構造を有する樹脂微粒子の分散液において、分散媒としての溶剤は、芳香族系溶剤、脂肪族アルキル系溶剤、ハロゲン化炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、極性溶剤および界面活性剤を含む水溶液からなる群から選ばれる一種または数種であるとよい。好ましい溶剤としては、芳香族系溶剤、脂肪族アルキル系溶剤、ハロゲン化炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、極性溶媒が挙げられる。ここで、ハロゲン化炭化水素系溶剤は、ハロゲン化アルキル系溶媒およびハロゲン化芳香族系溶媒を含むものとする。
【0023】
脂肪族アルキル系溶剤としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−トリデカン、シクロヘキサン、シクロペンタン等が例示される。芳香族系溶剤としては、例えばベンゼンや、トルエン、キシレン等の芳香族アルキル系溶剤が例示される。エステル系溶媒としては、例えば酢酸エチル、酢酸メチル等が例示される。ハロゲン化炭化水素系溶媒としては、ハロゲン化アルキル系溶媒およびハロゲン化芳香族系溶媒が好ましく挙げられ、ハロゲン化アルキル系溶媒としては、例えばクロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン等が例示され、ハロゲン化芳香族系溶媒としては、例えばクロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン等が例示される。ケトン系溶媒としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン等が例示される。アルコール系溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等が例示される。エーテル系溶媒としては、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、ジグライム、ジメトキシエタン等が例示される。また、本発明において極性溶媒とは、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、トリメチルリン酸、N−メチルピロリドンから選ばれる少なくとも1種の溶媒であるものとする。
【0024】
本発明における多層構造を有する樹脂微粒子の分散液では、界面活性剤を用いても良い。用いられる界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性イオン界面活性剤、非イオン系界面活性剤が挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、例えば脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、モノアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルナトリウム、脂肪酸エステルスルホン酸ナトリウム、脂肪酸エステル硫酸エステルナトリウム、脂肪酸アルキロースアミド硫酸エステルナトリウム、脂肪酸アミドスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0025】
カチオン系界面活性剤としては、例えば塩化アルキルメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、塩化アルキルピリジニウムなどが挙げられる。
【0026】
両性イオン界面活性剤としては、例えばアルキルアミノカルボン酸塩、カルボキシベタイン、アルキルベタイン、スルホベタイン、ホスホベタインなどが挙げられる。
【0027】
非イオン系界面活性剤としては、例えばショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラノリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリコールモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えばノニルフェノールエチレンオキシド付加物)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、脂肪酸モノエタノールアミド、脂肪酸ジエタノールアミド、脂肪酸トリエタノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、イソプロパノールアミド、アルキルアミンオキシド、ポリオキシエチレンアミンなどが挙げられる。
【0028】
なお、ここでいうアルキルとは、例示するならば炭素数1から30までの直鎖型飽和炭化水素基または分岐型飽和炭化水素基が挙げられる。上記アルキルの代わりに、水素原子、炭素数1から30までの直鎖型不飽和炭化水素基または分岐型不飽和炭化水素基であってもよい。
【0029】
本発明の多層構造を有する樹脂微粒子およびその分散液は、1)熱硬化性樹脂硬化物微粒子の調製、2)熱可塑性樹脂を被覆した多層構造樹脂微粒子の調製、3)多層構造樹脂微粒子を含む分散液の調製、という手順で作ることができる。各手順につき下記に詳述する。
【0030】
1)熱硬化性樹脂硬化物微粒子の調製
熱硬化性樹脂硬化物微粒子は、通常の方法で入手することができ、例示するならば(i)熱硬化性樹脂および硬化剤のエマルジョンを作り熱硬化させる方法、(ii)熱硬化性樹脂硬化物の粉砕による方法が挙げられる。最終的な微粒子の形態から上記(i)で作る方法が好ましい。
【0031】
上記(i)の方法において、熱硬化性樹脂の懸濁液を作る方法としては乳化懸濁硬化法、転相乳化硬化法などが挙げられる。好ましくは転相乳化硬化法がよく、熱硬化性樹脂の粒子が真球状になり、凝集物を発生させにくい。
【0032】
熱硬化性樹脂の懸濁液を転相乳化により調製し、熱硬化性樹脂硬化物微粒子を得る方法としては、反応器に、熱硬化性樹脂および界面活性剤を加え、引き続き、これら混合物を溶解しない分散媒を加え、熱硬化性樹脂が存在する相を転相させた後に、硬化剤を加え硬化反応する方法を例示することができる。
【0033】
この際加える分散媒としては、熱硬化性樹脂に対し飽和溶解度を持つものであればいずれでも良く、例示するならば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−トリデカン、シクロヘキサン、シクロペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン等のハロゲン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール系溶媒、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、トリメチルリン酸、N−メチルピロリドン等の極性溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、ジグライム、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、水の中から選ばれる少なくとも1種類の溶媒などが挙げられる。好ましくはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、n-デカン、n−ドデカン、n−トリデカン、シクロヘキサン、シクロペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、水であり、特に好ましくは水(例えば脱イオン水)である。
【0034】
熱硬化性樹脂の懸濁液に用いられる分散媒の量は、熱硬化性樹脂100重量部に対し、好ましくは10〜1000重量部、より好ましくは50〜500重量部、さらに好ましくは50〜300重量部にするとよい。
【0035】
また、エマルジョンの安定化のために、界面活性剤を使用することが好ましい。この際、使用する界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性イオン界面活性剤、非イオン系界面活性剤が挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、モノアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルナトリウム、脂肪酸エステルスルホン酸ナトリウム、脂肪酸エステル硫酸エステルナトリウム、脂肪酸アルキロースアミド硫酸エステルナトリウム、脂肪酸アミドスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0036】
カチオン系界面活性剤としては、塩化アルキルメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、塩化アルキルピリジニウムなどが挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、アルキルアミノカルボン酸塩、カルボキシベタイン、アルキルベタイン、スルホベタイン、ホスホベタインなどが挙げられる。
【0037】
非イオン系界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラノリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリコールモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えばノニルフェノールエチレンオキシド付加物)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、脂肪酸モノエタノールアミド、脂肪酸ジエタノールアミド、脂肪酸トリエタノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、イソプロパノールアミド、アルキルアミンオキシド、ポリオキシエチレンアミンなどが挙げられる。
【0038】
なお、ここでいうアルキルとは、例示するならば炭素数1から30までの直鎖型飽和炭化水素基または分岐型飽和炭化水素基が挙げられる。上記アルキルの代わりに、水素原子、炭素数1から30までの直鎖型不飽和炭化水素基または分岐型不飽和炭化水素基であってもよい。
【0039】
熱硬化性樹脂の懸濁液に用いられる界面活性剤の量としては、熱硬化性樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1〜100重量部、より好ましくは0.1〜50重量部、さらに好ましくは1〜30重量部である。界面活性剤の配合量を、このような範囲にすることにより、エマルジョンが安定に生成し、また熱硬化性樹脂の凝集・融着を抑えられる。
【0040】
また、エマルジョンを作成するための原料の投入順序としては、特に限定はされるものではないが、好ましい懸濁液の作り方である転相乳化によりエマルジョンを得るためには、熱硬化性樹脂と界面活性剤の混合物に対し、後から分散媒を加える方法が良い。
【0041】
この際、分散媒を投入する方法としては、連続滴下法、分割添加法、一括添加法のいずれでも良いが、好ましくは連続滴下法、分割滴下法であり、工業的に効率的に実施するためには、最も好ましいのは、連続滴下法である。
【0042】
なお、分散媒として、脱イオン水を用いる場合には、熱硬化性樹脂および界面活性剤に、脱イオン水を複数回に分けて添加・混合攪拌してから、硬化剤及び脱イオン水を添加・混合攪拌するとよい。脱イオン水を添加する回数は、好ましくは2〜10回、より好ましくは2〜5回にするとよい。このように脱イオン水を複数回に分けて添加・混合攪拌することにより、エマルジョンを安定的に生成すると共に、熱硬化性樹脂の凝集・融着を抑えることができる。また、分散媒として脱イオン水を用いることにより、硬化により得られた熱硬化性樹脂硬化物微粒子の懸濁液を、そのまま熱可塑性樹脂を被覆する工程へ供給することができる。
【0043】
この際、分散媒を滴下する時間は、特に限定されるものではないが、1分〜100時間、好ましくは30分〜10時間、より好ましくは1時間〜5時の範囲である。また、分散媒の投入時に加える温度としては、−20℃〜200℃、より好ましくは10℃〜100℃、特に好ましくは20℃〜60℃である。
【0044】
エマルジョンを作成する雰囲気は、空気下、或いは窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガス雰囲気下のいずれでもよいが、好ましくは窒素雰囲気下である。
【0045】
転相乳化を、上述した条件の範囲で実施することにより、熱硬化性樹脂が凝集、融着することなく、熱硬化性樹脂エマルジョンを得ることができる。
【0046】
ここで得られた熱硬化性樹脂エマルジョンは引き続き、熱硬化性樹脂硬化物微粒子を得る工程に供される。
【0047】
本工程では、熱硬化性樹脂を硬化させるために、上述した硬化剤を加え硬化させる。この際、硬化剤の量としては、熱硬化性樹脂の反応基の当量[α]と、硬化剤の活性水素含有基の当量[β]の当量比[α]/[β]として、通常1/2〜2/1、好ましくは1.5/1〜1/1.5、より好ましくは1.2/1〜1/1.2である。
【0048】
硬化剤は、硬化剤単独で投入してもよいし、溶媒に溶解した後に投入してもよい。この際の溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−トリデカン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の炭化水素系溶媒、ベンゼン等の芳香族系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族アルキル系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化アルキル系溶媒、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン等のハロゲン化芳香族系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール系溶媒、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、トリメチルリン酸、N−メチルピロリドン等の極性溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、ジグライム、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、水の中から選ばれる少なくとも1種類の溶媒などが挙げられる。好ましくは、エマルジョンの分散媒と同じものであるが、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−トリデカン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の炭化水素系溶媒、水であり、更に好ましくは水である。
【0049】
この際、硬化剤の濃度としては、好ましくは1重量%〜100重量%、より好ましくは5重量%〜80重量%、さらに好ましくは10重量%〜40重量%である。
【0050】
また、硬化剤を投入する方法は、一括添加、分割添加、連続添加のいずれでもよい。
【0051】
硬化剤を投入したエマルジョンを加熱することにより、熱硬化性樹脂硬化物微粒子を含む懸濁液とすることができる。熱硬化性樹脂エマルジョンを熱硬化させる加熱温度は、好ましくは20℃〜200℃、より好ましくは20℃〜100℃、さらに好ましくは40℃〜80℃である。
【0052】
また、熱硬化させる加熱時間は、好ましくは10分〜100時間、より好ましくは30分〜10時間、さらに好ましくは1時間〜5時間の範囲である。また、反応雰囲気は、空気下、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガス雰囲気下のいずれでも良いが、好ましくは窒素雰囲気下である。
【0053】
これらの温度、時間で操作することにより、熱硬化性樹脂硬化物を凝集・融着をさせることなく、目的の熱硬化性樹脂硬化物微粒子を含む懸濁液を得ることができる。ここで得られた熱硬化性樹脂硬化物微粒子は、引き続き、多層構造樹脂微粒子を製造する原料として使われる。
【0054】
2)熱可塑性樹脂を被覆した多層構造樹脂微粒子の調製
得られた熱硬化性樹脂硬化物微粒子の外表面に、熱可塑性樹脂を被覆させ多層構造を有する樹脂微粒子は、上記1)で得られた熱硬化性樹脂硬化物微粒子を含む懸濁液および脱イオン水に、熱可塑性樹脂を重合するための二重結合を含むモノマーと反応開始剤を入れ、窒素の雰囲気で均一に混合し、40〜100℃まで昇温して重合反応を行い、反応が停止した後、濾過、乾燥することにより製造する。
【0055】
まず、熱硬化性樹脂硬化物微粒子の懸濁液に対し、二重結合を含むモノマーおよび必要に応じ脱イオン水を加える。ここで、脱イオン水は加えても、加えなくてもよいが、加えるのであれば、脱イオン水の添加量は、熱硬化性樹脂硬化物微粒子の懸濁液100重量部に対し、好ましくは10〜200重量部、より好ましくは50〜150重量部、さらに好ましくは60〜120重量部である。
【0056】
また、二重結合を含むモノマーの添加量は、熱硬化性樹脂硬化物微粒子の懸濁液100重量部に対し、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.5〜2重量部である。
【0057】
この際用いられる二重結合を持つモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸2−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸n−へキシル、(メタ)アクリル酸n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、3−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン、ハロゲン化スチレン等の芳香族ビニル系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(p−ブロモフェニル)マレイミド、N−(クロロフェニル)マレイミド等のマレイミド系単量体;ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、2−メチル−3−エチルブタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、2−エチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2−メチル−1,3−ヘキサジエン、3,4−ジメチル−1,3−ヘキサジエン、1,3−ヘプタジエン、3−メチル−1,3−ヘプタジエン、1,3−オクタジエン、シクロペンタジエン、クロロプレン、ミルセン等の共役ジエン系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、桂皮酸等の不飽和カルボン酸などが挙げられる。好ましくはアルケン酸、アルケン酸エステル、スチレン、アクリロニトリルから選ばれる少なくとも1種を含むモノマーであるとよい。
【0058】
また場合によっては、アクリル酸、メタクリル酸、桂皮酸等の不飽和カルボン酸とアリルアルコール、メタリルアルコール等の不飽和アルコールまたはエチレングリコール、ブタンジオール等のグリコールとのエステル;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、マレイン酸等のジカルボン酸と前記の不飽和アルコールとのエステル等が包含され、具体的には、アクリル酸アリル、アクリル酸メタリル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸メタリル、桂皮酸アリル、桂皮酸メタリル、マレイン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、ジビニルベンゼン、エチレンジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等の多官能ビニル系モノマーを用いてもよい。
【0059】
また、この際あわせて反応開始剤として、ラジカル開始剤を加える。ラジカル開始剤としては、通常のものが用いられ、具体的には、過硫酸塩、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリル等のアゾ系開始剤、過酸化ジベンゾイル(ベンゾイルパーオキサイド)等の過酸化物、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド等の有機ハイドロパーオキサイド類と、遷移金属塩等の還元剤との組み合わせによるレドックス系開始剤を使用することができる。
【0060】
この際使用するラジカル開始剤の量としては、二重結合を含むモノマー100重量部に対し、好ましくは0.5重量部〜200重量部であり、より好ましくは1重量部〜100重量部であり、さらに好ましくは5重量部〜50重量部である。
【0061】
熱硬化性樹脂硬化物微粒子の懸濁液に、これらの原料および反応開始剤を加えた後に、熱可塑性樹脂からなる被膜の形成反応を行う。この際、本反応を実施する雰囲気としては、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0062】
本反応を実施する温度としては、好ましくは20℃〜200℃であり、より好ましくは30℃〜100℃、さらに好ましくは40〜90℃である。また、本反応の反応時間としては、好ましくは10分〜50時間、より好ましくは1時間〜10時間、さらに好ましくは3〜6時間である。このような条件で反応を行った段階で、多層構造樹脂微粒子の水分散液を得ることができる。
【0063】
3)多層構造樹脂微粒子の分散
上記2)で得られた多層構造樹脂微粒子の水分散液に対して、この樹脂微粒子の分散体として、分散媒を変更する必要がある場合は、分散液の溶媒交換を行うことができる。分散媒の交換を行うには、通常の方法を用いることができる。例えば凍結乾燥、遠心分離、濾過、乾燥などを行うことにより、多層構造を有する樹脂微粒子の粉体を得た後に、所望の分散媒を添加することで多層構造粒子の分散液を得ることができる。また、必要に応じて前述の界面活性剤を使用することもできる。
【0064】
このようにして得られる多層構造樹脂微粒子は、表面改質が分散媒に対し、任意に調整することができることから、微粒子表面の物理・化学的性質を変えられ、微粒子表面を望みの分散媒に対して相溶性を改善するだけでなく、微粒子の表面を機能化させることで、材料の総合的性能を向上させるのに役立てることができる。
【0065】
例えば、有機顔料の表面処理の過程で、その粒子の表面極性と使われた分散媒質(接着剤、展色料、有機溶剤等)が良好な相溶性または配合性を持つように、表面処理剤またはコーティング剤を添加する時、特定な置換基(スルホ基、アミノ基)の表面改質剤を先に添加して粒子の表面に吸着させ、それから、表面処理剤と化学結合、イオン対或いは水素結合などの方式で結合される表面処理剤を添加し、表面処理剤を粒子の表面により固く吸着させ、顔料粒子の改質の目的を達する。
【0066】
多層構造を有する樹脂微粒子が従来の熱硬化性樹脂硬化物微粒子の性能を持ちつつ、最外層が熱可塑性樹脂であることで、他の熱可塑性樹脂の充填剤、複合材料の相溶性を向上させる。それで、最外層が熱可塑性樹脂であることで、有機溶剤および界面活性剤を含む水溶液に分散できるようになる。
【0067】
本発明の多層構造を有する樹脂微粒子及びその分散液は、例えば液晶スペーサー、医療用薬物担体、各種接着剤改質剤、塗料改質剤などの分野に応用される。
【実施例】
【0068】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0069】
<分析方法>
1.粒度分布分析
レーザー回折・光散乱方式の粒度分布計(日機装社製Microtrac S3500)を用い、粒度分布を測定した。
2.表面官能基
熱可塑性微粒子の有無を判定するために、赤外分光法を用い測定を行った。
赤外分光光度計(Perkin Elmer社製System2000)で測定し、熱硬化性樹脂硬化物微粒子と比較することにより、目的の熱可塑性樹脂が被覆しているかどうかについて判定した。
3.多層構造微粒子の分散液の分散状態
多層構造樹脂微粒子の分散液の分散状態は、粒径ごとに次の方法で判定を行った。
【0070】
<1μm未満の粒子> スラリー液の一部をスライドガラスの上に載せ、光学顕微鏡により観察を行い、2つ以上の粒子凝集物の有無で判定した。
【0071】
<1μm以上の粒子> スラリー液を分散させた分散液を目視により観察し、凝集物または沈殿物の有無で判定した。
【0072】
実施例1 表面をポリメタクリル酸ブチルで修飾したエポキシ樹脂硬化物微粒子分散液の製造およびトルエン中での分散性評価
【0073】
(1)エポキシ樹脂硬化物微粒子の製造方法
攪拌機を備えた反応容器内に、100重量部のビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製jER(登録商標)828、以下、「EP828」と称す。)と16重量部のノニルフェノールエチレンオキシド付加物(第一工業製薬株式会社製エマルジット9、以下「乳化剤」と称す。)を反応容器に入れ、60℃で、320rpmで攪拌した。20分間攪拌し、均一化した後に、攪拌速度を450rpmに調節し、20重量部の脱イオン水を入れた。さらに、10分間攪拌した後に、20重量部の脱イオン水を加え、10分間攪拌した後に、さらに20重量部の脱イオン水を加え、10分間攪拌を行った。引き続き、10重量部のピペラジンと111.6重量部の脱イオン水からなる硬化剤水溶液を加えた後、25℃、320rpmで24時間の攪拌し、エポキシ樹脂硬化物微粒子懸濁液を得た。
【0074】
(2)ポリメタクリル酸ブチルによる表面改質方法
反応容器を窒素雰囲気に置換し、(1)で得られた100重量部のエポキシ樹脂硬化物微粒子懸濁液、100重量部の脱イオン水、1重量部のメタクリル酸ブチルと0.03重量部の過酸化ベンゾイル(BPO)を反応容器内に加え、室温下、300rpmの回転速度で30分間攪拌して均一に混合させた。引き続き、80℃まで昇温し、重合反応を5時間行った。得られた懸濁液を濾過、真空乾燥することにより、多層構造を有する樹脂微粒子を得た。熱可塑性樹脂による被覆形成は、上記「2.表面官能基」の分析方法により確認した。樹脂微粒子の粒径分布は0.05〜0.35μm、平均粒径は0.21μmであった。また、仕込み量から熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂硬化物の重量比を計算した結果、2.7/97.3であった。
【0075】
(3)多層構造を有する樹脂微粒子の分散液の製造方法
上記(2)で得られた多層構造を有する樹脂微粒子を乾燥し、1重量部の微粒子を量って100重量部のトルエンの中に入れ、周波数55kHzの超音波で5分振動することで、均一透明な混合液が得られた。本分散液の分散状態は、2つ以上の粒子凝集物が認められず良好であった。また、分散液は12時間経過しても、沈殿が生じなかった。
【0076】
実施例2 表面をポリアクリル酸ブチルで修飾したエポキシ樹脂硬化物微粒子分散液の製造およびN−メチルピロリドン中での分散性評価
【0077】
(1)エポキシ樹脂硬化物微粒子の製造方法
100重量部のビスフェノールA型エポキシ樹脂(EP828)と16重量部の乳化剤を反応容器に入れ、40℃で、攪拌速度を320rpmで20分間攪拌した後に、攪拌速度を500rpmに調節した。引き続き、20重量部の脱イオン水を加え、10分間攪拌した後に、さらに20重量部の脱イオン水加え、10分間を攪拌し、さらに20重量部の脱イオン水を加え、10分間攪拌を行った。その後、14重量部のピペラジンと111.6重量部の脱イオン水からなる硬化剤水溶液を加え、25℃、320rpmの速度で24時間の攪拌硬化を行い、エポキシ樹脂硬化物微粒子懸濁液を得た。
【0078】
得られたエポキシ樹脂硬化物微粒子の熱重量分析曲線図(TGA)を図4に示した。エポキシ樹脂硬化物微粒子の分解温度(T)は300℃であった。
【0079】
得られたエポキシ樹脂硬化物微粒子の示差走査熱量計曲線図(DSC)を図5に示した。エポキシ樹脂硬化物微粒子のガラス転移温度(T)は156℃であった。
【0080】
また、エポキシ樹脂硬化物微粒子懸濁液の一部を取出し、引き続き96時間まで硬化反応を行うと共に、通算の反応時間が0時間、24時間、48時間、72時間、96時間のときの赤外スペクトルを上記の方法により測定し、得られた赤外スペクトルを図6に示した。図6の赤外線スペクトルから、エポキシ基を示す912cm−1のピークが24時間で消失しており、その後96時間まで変化は見られなかった。すなわち、硬化反応の時間は24時間で十分であることが分かった。
【0081】
(2)ポリアクリル酸ブチルによる表面改質方法
反応容器を窒素雰囲気に置換し、(1)で得られた100重量部のエポキシ樹脂硬化物微粒子懸濁液、100重量部の脱イオン水、1重量部のアクリル酸ブチルと0.03重量部の過酸化ベンゾイル(BPO)を加え、室温下、300rpmの回転速度で30分間攪拌して均一に混合させた。引き続き、混合液を80℃まで昇温し、重合反応を5時間行った。得られた懸濁液を、濾過、真空乾燥することにより、多層構造を有する樹脂微粒子を得た。
【0082】
得られた多層構造を有する樹脂微粒子を走査型電子顕微鏡で観察した写真を図1に示した。また、透過型電子顕微鏡で観察した写真を図2に示した。
【0083】
また、得られた多層構造を有する樹脂微粒子の粒径分布を測定したグラフを図3に示した。多層構造を有する樹脂微粒子は、平均粒径が0.15μm、粒径分布が0.07〜0.7μmであった。仕込み量から熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂硬化物の重量比を計算した結果、2.6/97.4であった。
【0084】
(3)多層構造を有する樹脂微粒子の分散液の製造方法
上記(2)で得られた多層構造を有する樹脂微粒子を乾燥し、1重量部の微粒子を量って100重量部のN−メチルピロリジノンの中に入れ、周波数55kHzの超音波で5分の振動することで、均一透明な混合液が得られた。本分散液の分散状態は、2つ以上の粒子凝集物が認められず良好であった。また、分散液は12時間経過しても、沈殿が生じなかった。
【0085】
実施例3 表面をポリスチレンで修飾したエポキシ樹脂硬化物微粒子分散液の製造およびシクロヘキサン中での分散性評価
【0086】
(1)エポキシ樹脂硬化物微粒子の製造方法
100重量部のビスフェノールF型エポキシ樹脂と16重量部の乳化剤を反応容器に入れ、40℃、攪拌速度300rpmで、20分間攪拌し、均一にした。攪拌速度を600rpmに調節した後に、20重量部の脱イオン水を加え、10分間攪拌した。さらに20重量部の脱イオン水をもう一度入れ、10分間を攪拌して20重量部の脱イオン水を更に加え、10分間攪拌した後に、14重量部のピペラジンと111.6重量部の脱イオン水からなる硬化剤水溶液を加え、20℃、320rpmの攪拌速度で24時間の攪拌硬化を行い、エポキシ樹脂硬化物微粒子の懸濁液を得た。
【0087】
(2)ポリスチレンによる表面改質方法:
反応容器を窒素雰囲気下に置換し、(1)で得られた100重量部のエポキシ樹脂硬化物微粒子懸濁液、100重量部の脱イオン水、1重量部のスチレンと0.04重量部のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を加え、室温下、300rpmの攪拌速度で30分間攪拌して均一に混合させた。引き続き、60℃まで昇温し、重合反応を5時間行った。得られた懸濁液を濾過、真空乾燥することにより、多層構造を有する樹脂微粒子を得た。得られた多層構造を有する樹脂微粒子は、平均粒径が0.20μm、粒径分布が0.01〜0.25μmであった。仕込み量から熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂硬化物の重量比を計算した結果、2.7/97.3であった。
【0088】
(3)多層構造を有する樹脂微粒子の分散液の製造方法
実施例3の(2)の工程で得られた多層構造を有する樹脂微粒子を乾燥し、1重量部の微粒子を量って100重量部のシクロヘキサンの中に入れ、周波数55kHzの超音波で5分間振動することで、均一透明な混合液が得られた。本分散液の分散状態は、2つ以上の粒子凝集物が認められず良好であった。また、分散液は、12時間後沈殿を生じなかった。
【0089】
実施例4 表面をポリアクリル酸ブチルで修飾したエポキシ樹脂硬化物微粒子分散液の製造およびトルエン中での分散性評価
【0090】
(1)エポキシ樹脂硬化物微粒子の製造方法
100重量部のビスフェノールA型エポキシ樹脂(EP828)と1.1重量部の乳化剤を反応容器に入れ、40℃、攪拌速度は320rpmで、20分間攪拌をし、均一にした。攪拌速度を500rpmに調節した後、20重量部の脱イオン水を加え、10分間攪拌した。引き続き、20重量部の脱イオン水を加え、10分間攪拌した後に、さらに20重量部の脱イオン水を加え、10分間攪拌を行った。続いて、14重量部のピペラジンと111.6重量部の脱イオン水からなる硬化剤水溶液を加え、20℃、320rpmの攪拌速度で24時間の攪拌硬化を行い、エポキシ樹脂硬化物微粒子の懸濁液を得た。
【0091】
(2)ポリアクリル酸ブチルによる表面改質方法
反応容器を窒素雰囲気下に置換し、(1)で得られた100重量部のエポキシ樹脂硬化物微粒子懸濁液、100重量部の脱イオン水、1重量部のアクリル酸ブチルと0.03重量部の過酸化ベンゾイル(BPO)を加え、室温下、300rpmの攪拌速度で30分間攪拌して均一に混合させた。引き続き、80℃まで昇温し、重合反応を5時間行った。得られた懸濁液を濾過、真空乾燥することにより、多層構造を有する樹脂微粒子を得た。得られた多層構造を有する樹脂微粒子は、平均粒径が8.5μm、粒径分布が5〜10μmであった。この微粒子の熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂硬化物の重量比は、仕込み量から計算すると2.5/97.5であった。得られた多層構造を有する樹脂微粒子を走査型電子顕微鏡で観察した写真を図7に示した。また、透過型電子顕微鏡で観察した写真を図8に示した。
【0092】
(3)多層構造を有する樹脂微粒子の分散液の製造方法:
実施例4の(2)の工程で得られた多層構造を有する樹脂微粒子を乾燥し、1重量部の微粒子を量って100重量部のトルエンの中に入れ、周波数55kHzの超音波で5分間振動させ、この分散液を光学顕微鏡で観察したところ、多層構造を有する樹脂微粒子は、トルエンの中に凝集物が認められず、均一に分散し良好であった。また、分散液は、12時間後沈殿を生じなかった。
【0093】
実施例5 表面をポリメタクリル酸メチルで修飾したエポキシ樹脂硬化物微粒子分散液の製造およびクロロホルム中での分散性評価
【0094】
(1)エポキシ樹脂硬化物微粒子の製造方法
100重量部の水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂と16重量部の乳化剤を反応容器に入れ、40℃、攪拌速度320rpmで20分間攪拌し、均一にした。攪拌速度を500rpmに調節し、20重量部の脱イオン水を加え、10分間攪拌を行った。引き続き、20重量部の脱イオン水を加え、10分間攪拌し、さらに20重量部の脱イオン水を加え、10分間攪拌を行った。続いて、7重量部のピペラジンと111.6重量部の脱イオン水からなる硬化剤水溶液を加え、20℃、320rpmの速度で24時間の攪拌硬化を行い、エポキシ樹脂硬化物微粒子懸濁液を得た。
【0095】
(2)ポリメタクリル酸エステルでの表面改質方法:
反応容器を窒素雰囲気下に置換し、上記(1)で得られた100重量部のエポキシ樹脂硬化物微粒子懸濁液、100重量部の脱イオン水、1重量部のメタクリル酸メチルと0.03重量部の過酸化ベンゾイル(BPO)を加え、室温下、300rpmの攪拌速度で30分間攪拌し、均一に混合させた。引き続き、80℃まで昇温し、重合反応を5時間行った。得られた懸濁液を濾過、真空乾燥することにより、多層構造を有する樹脂微粒子を得た。得られた多層構造を有する樹脂微粒子は、平均粒径が0.15μm、粒径分布が0.05〜0.2μmであり、仕込み量から熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂硬化物の重量比を計算した結果、2.8/97.2であった。
【0096】
(3)多層構造を有する樹脂微粒子の分散液の製造方法
上記(2)で得られた多層構造を有する樹脂微粒子1重量部を量り、100重量部のクロロホルムの中に入れ、周波数55kHzの超音波で5分間振動することで、均一な混合液を得た。この分散液の分散状態は、2つ以上の粒子凝集物が認められず良好であった。また、分散液は、12時間後沈殿を生じなかった。
【0097】
実施例6 表面をポリアクリル酸ブチルで修飾したエポキシ樹脂硬化物微粒子分散液の製造およびn−オクタン中での分散性評価
【0098】
(1)エポキシ樹脂硬化物微粒子の製造方法
100重量部のビスフェノールA型エポキシ樹脂(EP828)と16重量部の乳化剤を反応容器に入れ、40℃、攪拌速度320rpmで20分間攪拌を行った。攪拌速度を500rpmに調節し、20重量部の脱イオン水を加え、10分間攪拌した後に、さらに20重量部の脱イオン水を加え、10分間攪拌を行った。引き続き、20重量部の脱イオン水を加え、10分間攪拌した後に、続いて14重量部のピペラジンと111.6重量部の脱イオン水からなる硬化剤水溶液を加え、20℃、320rpmの攪拌速度で24時間の攪拌硬化を行い、エポキシ樹脂硬化物微粒子懸濁液を得た。
【0099】
(2)ポリアクリル酸ブチルによる表面改質方法
反応容器を窒素雰囲気下に置換し、(1)で得られた100重量部のエポキシ樹脂硬化物微粒子懸濁液、100重量部の脱イオン水、1重量部のアクリル酸ブチルと0.04重量部のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を加え、室温下、300rpmの攪拌速度で30分間の攪拌し、均一にした。引き続き、60℃まで昇温し、重合反応を5時間行った。得られた懸濁液を、濾過、真空乾燥することにより、多層構造を有する樹脂微粒子を得た。得られた多層構造を有する樹脂微粒子は、平均粒径が0.14μm、粒径分布が0.05〜0.2μmであった。この微粒子の熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂硬化物の重量比は、仕込み量から計算すると2.7/97.3であった。
【0100】
(3)多層構造を有する樹脂微粒子の分散液の製造方法
上記(2)で得られた多層構造を有する樹脂微粒子を乾燥し、1重量部の微粒子を量り、100重量部のn-オクタンの中に入れ、周波数55kHzの超音波で5分間の振動することにより、均一な混合液を得た。この混合液の分散状態は、2つ以上の粒子凝集物が認められず良好であった。また、分散液は、12時間経過しても、沈殿物を生じなかった。
【0101】
実施例7 表面をポリアクリル酸ブチルで修飾したエポキシ樹脂硬化物微粒子分散液の製造およびトルエン中での分散性評価
【0102】
(1)エポキシ樹脂硬化物微粒子の製造方法
100重量部のビスフェノールA型エポキシ樹脂(EP828)と16重量部の乳化剤を反応容器に入れ、40℃攪拌速度320rpmで20分間攪拌し、均一にした。攪拌速度を500rpmに調節し、20重量部の脱イオン水を加え、10分間攪拌を行った。引き続き、20重量部の脱イオン水を加え、10分間攪拌し、さらに、20重量部の脱イオン水加え、10分間攪拌した。引き続き、14重量部のピペラジンと111.6重量部の脱イオン水からなる硬化剤水溶液を加え、20℃、320rpmの速度で24時間の攪拌硬化を行い、エポキシ樹脂硬化物微粒子懸濁液を得た。
【0103】
(2)ポリアクリル酸ブチルによる表面改質方法
反応容器を窒素雰囲気下に置換し、上記(1)で得られた100重量部のエポキシ樹脂硬化物微粒子懸濁液、100重量部の脱イオン水、1重量部のアクリル酸ブチルと0.03重量部の過酸化ベンゾイル(BPO)を加え、室温下、300rpmの攪拌速度で、30分間の攪拌し、均一に混合させた。引き続き、80℃まで昇温し、重合反応を5時間行った。得られた懸濁液を、濾過、真空乾燥することにより、多層構造を有する樹脂微粒子を得た。得られた多層構造を有する樹脂微粒子は、平均粒径が6.3μm、粒径分布が5〜10μmであり、仕込み量から熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂硬化物の重量比を計算した結果、2.7/97.3であった。
【0104】
(3)多層構造を有する樹脂微粒子の分散液の製造方法
上記(2)で得られた多層構造を有する樹脂微粒子1重量部を量り、100重量部のトルエンの中に入れ、周波数55kHzの超音波で5分間振動させ、分散液を光学顕微鏡で観察したところ、微粒子がトルエンの中に均一に分散していることがわかった。また、分散液は、12時間経過しても沈殿物を生じなかった。得られた多層構造を有する樹脂微粒子の分散液を光学顕微鏡で観察した写真を図9に示す
【0105】
比較例1 表面を修飾しないエポキシ樹脂硬化物微粒子分散液の製造およびトルエン中での分散性評価
【0106】
(1)エポキシ樹脂硬化物微粒子の製造方法
100重量部のビスフェノールA型エポキシ樹脂(EP828)と1.1重量部の乳化剤を反応容器に入れ、40℃、攪拌速度320rpmで20分間攪拌を行った。攪拌速度を500rpmに調節し、20重量部の脱イオン水を加え、10分間攪拌した後に、さらに20重量部の脱イオン水を加え、10分間攪拌を行った。引き続き、20重量部の脱イオン水を加え、10分間攪拌した後に、続いて14重量部のピペラジンと111.6重量部の脱イオン水からなる硬化剤水溶液を加え、20℃、320rpmの攪拌速度で24時間の攪拌硬化を行い、エポキシ樹脂硬化物微粒子分散液を得た。
【0107】
(2)エポキシ樹脂硬化物微粒子の分散性評価
(1)で得られたエポキシ硬化物樹脂微粒子を濾過、乾燥し、1重量部の微粒子を量って100重量部のトルエンの中に入れ、周波数55kHzの超音波で5分間の振動することにより混合液を得た。5分後にこの混合液のサンプリングを行い、光学顕微鏡で観察し、エポキシ樹脂硬化物粒子がトルエンの中に凝集の現象を発生し、分散不良であることがわかった。得られたエポキシ樹脂微粒子の分散液を光学顕微鏡で観察した写真を図10に示す。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の樹脂微粒子は、これまでにない多層構造の高性能熱硬化性樹脂硬化物微粒子であり、電子部品製造用スペーサー、電子測定機器の標準物質、電子写真、静電記録、静電印刷などにもちいられるトナー母体粒子、スラッシュ成形用樹脂、その他成形材料などに極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】実施例2で得られた多層構造を有する樹脂微粒子を走査型電子顕微鏡で観察した写真を写した図である。
【図2】実施例2で得られた多層構造を有する樹脂微粒子を透過型電子顕微鏡で観察した写真を写した図である。
【図3】実施例2で得られた多層構造を有する樹脂微粒子の粒径分布を表すグラフである。
【図4】実施例2で得られた熱硬化性樹脂硬化物微粒子の熱重量分析曲線を表すグラフである。
【図5】実施例2で得られた熱硬化性樹脂硬化物微粒子の示差走査熱量分析曲線を表すグラフである。
【図6】実施例2で得られた熱硬化性樹脂硬化物微粒子の赤外スペクトルを表すグラフである。
【図7】実施例4で得られた多層構造を有する樹脂微粒子を走査型電子顕微鏡で観察した写真を写した図である。
【図8】実施例4で得られた多層構造を有する樹脂微粒子を透過型電子顕微鏡で観察した写真を写した図である。
【図9】実施例7で得られた多層構造を有する樹脂微粒子の分散液を光学顕微鏡で観察した写真を写した図である。
【図10】比較例1で得られた熱硬化性樹脂硬化物微粒子の分散液を光学顕微鏡で観察した写真を写した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂微粒子の最外層が熱可塑性樹脂であり、最内層が熱硬化性樹脂硬化物であり、前記熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂硬化物の重量比が0.1/99.9〜50/50であることを特徴とする多層構造を有する樹脂微粒子。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂硬化物の重量比が0.1/99.9〜20/80であることを特徴とする請求項1記載の多層構造を有する樹脂微粒子。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、アルケン酸、アルケン酸エステル、スチレン、アクリロニトリルから選ばれる少なくとも1種を含むモノマーを重合してなる樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多層構造を有する樹脂微粒子。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、アクリル酸エステル系樹脂、アクリル酸系樹脂、メタクリル酸エステル系樹脂、メタクリル酸系樹脂、スチレン系樹脂またはシアン化ビニル系樹脂であることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の多層構造を有する樹脂微粒子。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂硬化物がビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂又は臭素化エポキシ樹脂の硬化物であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の多層構造を有する樹脂微粒子。
【請求項6】
平均粒子径が0.01〜50μmであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の多層構造を有する樹脂微粒子。
【請求項7】
樹脂微粒子が硬化剤を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の多層構造を有する樹脂微粒子。
【請求項8】
前記樹脂微粒子を分散させた分散液であり、この分散液の溶剤が芳香族系溶剤、脂肪族アルキル系溶剤、ハロゲン化炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、極性溶媒及び界面活性剤を含む水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の多層構造を有する樹脂微粒子の分散液。
【請求項9】
熱硬化性樹脂硬化物微粒子の懸濁液を脱イオン水に入れてから、アルケン酸、アルケン酸エステル、スチレン、アクリロニトリルから選ばれる少なくとも1種を含むモノマーと反応開始剤を入れ、窒素の雰囲気で均一に混合し、40〜100℃まで昇温して重合反応を行い、反応が停止した後、濾過、乾燥して多層構造を有する樹脂微粒子を得ることを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載の多層構造を有する樹脂微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−280791(P2009−280791A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305531(P2008−305531)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】