説明

多層誘電体構造

【課題】多層誘電体板の形状の種類を少なくし、製造工数・製造費用を抑えつつ、実運用時における多層誘電体板間の接合部からの散乱波の影響を低減させる。
【解決手段】複数の誘電体板(図示省略)を備え、当該複数の誘電体板は積層されて多層誘電体板12を構成し、各多層誘電体板12の形状は、図1(b),(c)に示すような、略々ペンローズタイルで定義される形状(共に菱形形状で、図1(b)がファット型菱形、図1(c)がシン型菱形と呼ばれる。)を成し、それらの各多層誘電体板12は、図1(a)に示すような、ペンローズタイルの配列方法で配列されて互いに接続されている。この配列方法では、周期的なパターンは現れず、非周期パターンとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層誘電体構造に関し、特に、小さい形状の複数の多層誘電体板を接続して、全体として大きな形状を成す多層誘電体構造を構成する場合に、それらの個々の多層誘電体板間の接続部からの散乱波を低減するための多層誘電体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンテナを保護、格納するために、アンテナの周囲にレドームを設ける技術は広く知られており、このレドームは多層誘電体から構成されることが多い。しかしながら、大型のレドームを製造する場合には、1枚の多層誘電体からレドーム全体の形状を形成することが難しいため、製造可能な大きさの多層誘電体板を用意し、それらを接合して全体の形状を形成する。
【0003】
しかしながら、実際の運用時には、それらの多層誘電体板の接合部からの散乱波が、アンテナの放射パターンに影響を及ぼす可能性がある。
【0004】
特許文献1は、このような大型のレドームを製造する際に、多層誘電体板間の接合部の影響を低減する為に、最適化手法を用いて接合部(端点)の配列を決定することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3696814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のような設計手段を取ると、接合される各多層誘電体板の形状の種類が非常に多様となり、製造工数・製造費用の面で不利であるだけでなく、最適化手法の適用における評価関数の決め方で得られる多層誘電体板の形状が変わってしまい、一意にレドーム構成が決定できないという問題点があった。
【0007】
本発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、多層誘電体板の形状の種類を低減させて、製造工数・製造費用を抑えつつ、実運用時における多層誘電体板間の接合部からの散乱波の影響を低減することが可能な、多層誘電体構造を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数の誘電体板を備え、前記複数の誘電体板は積層されて多層誘電体板を構成し、各前記多層誘電体板の形状は略々ペンローズタイルで定義される形状を成し、各前記多層誘電体板はペンローズタイルの配列方法で配列されて互いに接続されていることを特徴とする多層誘電体構造である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、複数の誘電体板を備え、前記複数の誘電体板は積層されて多層誘電体板を構成し、各前記多層誘電体板の形状は略々ペンローズタイルで定義される形状を成し、各前記多層誘電体板はペンローズタイルの配列方法で配列されて互いに接続されていることを特徴とする多層誘電体構造であるので、多層誘電体板の形状の種類を低減させて、製造工数・製造費用を抑えつつ、実運用時における多層誘電体板間の接合部からの散乱波の影響を低減することが可能な、多層誘電体構造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1に係る多層誘電体構造の構成を示す図である。
【図2】従来の正多角形を配列させて構成した多層誘電体構造の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る多層誘電体構造と図2の従来構造との散乱波を比較した比較結果をグラフで示した説明図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係る多層誘電体構造の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1に係る多層誘電体構造について、図1を参照しながら説明する。図1(a)は、本発明の実施の形態1に係る多層誘電体構造の構成を示す図である。この実施の形態1に係る多層誘電体構造11は、複数の多層誘電体板12からなり、それぞれの多層誘電体板12は接合部13で互いに接合されている。また、個々の多層誘電体板12は、面に対して垂直方向に、複数の誘電体板(図示省略)が積層されて構成されている。すなわち、各誘電体板の平面形状は、多層誘電体板12の平面形状と同じになっている。なお、多層誘電体板12を形成するために、何枚の誘電体板を積層するかについては、適宜決定する。
【0012】
多層誘電体板12の平面形状(主面の形状)は、図1(b)に示すようなファット(fat)型菱形14、あるいは、図1(c)に示すようなシン(thin)型菱形15の略々いずれかの形状を成している。図1(b)のファット型菱形14は、鋭角2φ(72°)、鈍角3φ(108°)の菱形形状である。図1(c)のシン型菱形15は、鋭角φ(36°)、鈍角4φ(144°)の菱形形状である。
【0013】
多層誘電体構造11は、図1(b),(c)に示す、これらの2種類の多層誘電体板12を、図1(a)に示すような、ペンローズタイルで定義される配列方法により配列させて構成されている。ここで、ペンローズタイルとは、イギリスの物理学者ロジャー・ペンローズが考案した平面充填方式であり、図1(b),(c)に示すような2種類の菱形を組み合わせて所定の平面を充填させる方式である。1種類の正多角形のみを利用した平面充填の場合(後述の図2参照)、それらの正多角形は周期的に配列されるが、ペンローズタイルでは、周期的なパターンが現れず、非周期的な配置が可能となる。
【0014】
このように、本実施の形態1に係る多層誘電体構造は、複数の誘電体板を備え、当該複数の誘電体板は面に対して垂直方向に積層されて多層誘電体板12を構成し、多層誘電体板12の面の形状は略々ペンローズタイルで定義される形状を成し、その形状の種類はわずか2種類で、当該多層誘電体板12をペンローズタイルの配列方法で配列した構造である。
【0015】
尚、図1(a)においては、多層誘電体構造11として、平面上に多層誘電体板12を配列して、平面型の多層誘電体構造を構成した例を示しているが、この場合のみならず、例えば、球面状や他曲面状に多層誘電体12を配列して接続し、球面型あるいは他曲面型の多層誘電体構造11を構成しても良い。この場合には、多層誘電体12を平面構造にせずに、形成する多層誘電体構造11の球面または他曲面の曲率に合わせて、多層誘電体12を曲面構造に形成しておく。また、多層誘電体構造11の形状をすべて曲面から構成するようにしてもよいが、曲面と平面とを組み合わせた形状としてもよい。
【0016】
また、各々の多層誘電体板12は、同一の層構成(誘電体層構成)である場合のみならず、2以上の異なる複数の層構成であっても良い。すなわち、多層誘電体板12間で、積層されている誘電体板の枚数が互いに異なっていてもよい。また、積層される各誘電体板の板厚も全て同じである必要はなく、複数種類の板厚から構成されていてもよい。
【0017】
更に、接合部13は、接続用冶具を使わずに、誘電性のある接着剤等により多層誘電体板12同士を直接接合してもよいが、金属または誘電体から成る接続用冶具(図示省略)により多層誘電体板12間を接合するようにしてもよい。その場合には、当該接続用冶具を多層誘電体板の接合部13に予め装荷しておくようにする。
【0018】
また、多層誘電体板12の面の形状として、図1(b),(c)の2種類のみを用いる例について説明したが、その場合に限らず、ペンローズタイル配列に従って平面を充填させることができるものであれば、3種類以上の形状の多層誘電体板12を用いるようにしてもよい。
【0019】
本実施の形態においては、このように、ペンローズタイルで定義される2種類の菱形形状を有する多層誘電体板12を用意して、それらをペンローズタイルの配列方法で配列して、多層誘電体構造11を構成して、それをアンテナを保護、格納する為に用いるレドームとして用いるようにしたので、接合部13からの散乱波がアンテナの放射パターンへ与える影響を低減することが可能である。また、多層誘電体板12の形状の種類をわずか2種類に低減させたので、製造工数・製造費用を抑えることができる。
【0020】
本実施の形態1の効果を確認する為に、本実施の形態1に係る多層誘電体板構造11における接合部13が金属の場合の接合部13からの散乱波と、図2に示す多層誘電体構造21における接合部23が金属の場合の接合部23からの散乱波の比較図を図3に示す。尚、図2に示す多層誘電体構造21は、正三角形の多層誘電体板22を周期的に配列した構造を成す。図3の結果より、正三角形の多層誘電体板22から成る多層誘電体構造21では、周期的に配列される接合部23の影響により、顕著なグレーティングローブが観測されるが、本実施の形態1に係るペンローズタイル配列の多層誘電体構造11においては、グレーティングローブの影響は低減されていることが確認できる。
【0021】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2に係る多層誘電体構造について図4を参照しながら説明する。図4は、本発明の実施の形態2に係る多層誘電体構造の構成を示す図である。この実施の形態2に係る多層誘電体構造41は、複数の多層誘電体板42からなり、それぞれの多層誘電体板42は接合部43で互いに接合されている。また、個々の多層誘電体板42は、その面に対して垂直方向に複数の誘電体板(図示省略)が積層されて構成されている。すなわち、各誘電体板の平面形状は、多層誘電体板12の平面形状と同じになっている。なお、多層誘電体板42を形成するために、何枚の誘電体板を積層するかについては、適宜決定する。
【0022】
多層誘電体板42の主面の形状は、図4(b)に示すようなカイト(kite)形状44、あるいは、図4(c)に示すようなダーツ(dart)形状45の略々いずれかの形状を成している。図4(b)のカイト形状44は、3つの鋭角φ(36°)、2φ(72°)、φ(36°)と、1つの鈍角6φ(216°)を有する四角形状である。図4(c)のダーツ形状45は、同角の3つの鋭角2φ(36°)と、1つの鈍角4φ(144°)を有する四角形状である。
【0023】
多層誘電体構造41は、図4(b),(c)に示す、これらの2種類の多層誘電体板42を、図4(a)に示すような、ペンローズタイルで定義される配列方法により配列させて構成される。図4(b),(c)に示す四角形状も、ペンローズタイルで定義された形状であり、図4(a)のように、図4(b),(c)に示す2種類の四角形を組み合わせて配列させれば、所定の平面を隙間なく充填させることができる。図2に示すように、正多角形を利用した平面充填の場合、それらの正多角形は周期的に配列されるが、ペンローズタイルでは、図4(a)に示すように、周期的パターンは現れず、非周期的な配置が可能となる。
【0024】
このように、本実施の形態2に係る多層誘電体構造は、複数の誘電体板を備え、当該複数の誘電体板は面に対して垂直方向に積層されて多層誘電体板42を構成し、多層誘電体板42の面の形状はわずか2種類であり、それらの多層誘電体板42をペンローズタイルの配列方法で配列した構造である。
【0025】
尚、図4(a)においては、多層誘電体構造41として、平面上に多層誘電体板42を配列して、平面型の多層誘電体構造を構成した例を示しているが、この場合のみならず、例えば、球面上や他曲面上に多層誘電体板42を配列して、球面型あるいは他曲面型の多層誘電体構造41を構成しても良い。この場合には、多層誘電体板42を平面構造にせずに、形成する多層誘電体構造41の球面または他曲面の曲率に合わせて、多層誘電体板42を曲面構造に形成しておく。また、この場合に、多層誘電体構造41の形状をすべて曲面から構成するようにしてもよいが、曲面と平面とを組み合わせた形状としてもよい。
【0026】
また、各々の多層誘電体板42は、同一の層構成(誘電体層構成)である場合のみならず、2以上の異なる複数の層構成であっても良い。すなわち、多層誘電体板12間で、積層されている誘電体板の枚数が互いに異なっていてもよい。また、積層される各誘電体板の板厚も全て同じである必要はなく、複数種類の板厚から構成されていてもよい。
【0027】
更に、接合部43は、接続用冶具を使わずに、誘電性のある接着剤等により多層誘電体板42同士を直接接合してもよいが、金属または誘電体から成る接続用冶具(図示省略)により多層誘電体板42間を接合するようにしてもよい。その場合には、当該接続用冶具を多層誘電体板の接合部43に予め装荷しておくようにする。
【0028】
また、多層誘電体板42の面の形状として、図4(b),(c)の2種類のみを用いる例について説明したが、その場合に限らず、ペンローズタイル配列に従って平面を充填させることができるものであれば、3種類以上の形状の多層誘電体板42を用いるようにしてもよい。
【0029】
本実施の形態においては、このように、ペンローズタイルで定義される2種類の四角形状を有する多層誘電体板42を用意して、それらをペンローズタイルの配列方法で配列して、多層誘電体構造41を構成して、それをアンテナを保護、格納する為に用いるレドームとして用いるようにしたので、接合部43からの散乱波がアンテナの放射パターンへ与える影響を低減することが可能である。また、多層誘電体板42の形状の種類をわずか2種類に低減させたので、製造工数・製造費用を抑えることができる。
【符号の説明】
【0030】
11,21,41 多層誘電体構造、12,22,42 多層誘電体板、13,23,43 接合部、14 ファット型菱形、15 シン型菱形、44 カイト形状、45 ダーツ形状。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体板を備え、
前記複数の誘電体板は積層されて多層誘電体板を構成し、
各前記多層誘電体板の形状は略々ペンローズタイルで定義される形状を成し、
各前記多層誘電体板はペンローズタイルの配列方法で配列されて互いに接続されている
ことを特徴とする多層誘電体構造。
【請求項2】
前記多層誘電体板は、全て、同一の誘電体層構成から成る
ことを特徴とする請求項1に記載の多層誘電体構造。
【請求項3】
前記多層誘電体板は、複数種類の誘電体層構成から成る
ことを特徴とする請求項1に記載の多層誘電体構造。
【請求項4】
前記多層誘電体板間を接続する金属もしくは誘電体から成る接続用冶具を備え、
前記多層誘電体板の接続部分には前記接続用冶具が装荷されている
ことを特徴とする請求項1に記載の多層誘電体構造。
【請求項5】
前記多層誘電体板は、平面の構造を成すように配列される
ことを特徴とする請求項1に記載の多層誘電体構造。
【請求項6】
前記多層誘電体板は、曲面の構造を成すように配列される
ことを特徴とする請求項1に記載の多層誘電体構造。
【請求項7】
前記多層誘電体板は、平面と曲面の組合せの構造を成すように配列される
ことを特徴とする請求項1に記載の多層誘電体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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