説明

多座配位子金属錯体

【課題】耐久性に優れた金属錯体を提供すること、およびこのような金属錯体を用いて耐久性に優れた素子等を開発すること。
【解決手段】(a)窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選ばれる2個以上の原子を含む複素芳香環を含む5座以上の多座配位子、ならびに(b)セリウム、プラセオジム、イッテルビウムおよびルテチウムからなる群より選ばれる金属のイオンを含む金属錯体;金属錯体および電荷輸送材料を含む組成物;金属錯体または組成物を用いてなる有機薄膜;金属錯体、組成物または有機薄膜を用いてなる素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多座配位子を含む希土類金属錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の希土類金属は、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子という場合がある。)の発光層に用いられる発光材料である、金属錯体の中心金属として用いられ得る。例えば、ベンズイミダゾリル基を含む4座の配位子を用いたセリウム錯体が、4f−5d遷移に基づいて強い発光を示し得ること、およびこのようなセリウム錯体が有機EL素子の材料として有用であり得ることが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Xiang−Li Zheng,Cheng−Yong Su et al.,Angew.Chem.Int.Ed.,46,7399−7403(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載されるセリウム錯体のように、4f−5d遷移に基づいて発光を示し得る金属錯体は、耐久性が低いという問題がある。
【0005】
したがって、本発明は、耐久性に優れた金属錯体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のとおりである。
〔1〕(a)窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選ばれる2個以上の原子を含む複素芳香環を含む5座以上の多座配位子、ならびに(b)セリウム、プラセオジム、イッテルビウムおよびルテチウムからなる群より選ばれる金属のイオンを含む金属錯体。
〔2〕前記金属錯体中に含まれる前記多座配位子が1個である、〔1〕の金属錯体。
〔3〕前記複素芳香環がイミダゾール環または縮合イミダゾール環である、〔1〕または〔2〕の金属錯体。
〔4〕前記多座配位子が下記式(1)で表される、〔1〕〜〔3〕のいずれかの金属錯体。
【化1】

(式中、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、2価の基または直接結合を表し、ZおよびZは、それぞれ独立に、窒素原子、リン原子または3価の基を表し、L、L、LおよびLは、それぞれ独立に、配位基または水素原子を表す。ただし、L、L、LおよびLのうち少なくとも1個は、下記式(2)または(3)で表される配位基である。)
【化2】

(式中、Rは、水素原子または置換基を表し、Rは置換基を表す。jは0〜2の整数を表す。RおよびRが互いに隣接する原子に結合した置換基を表す場合、RおよびRは、結合して環を形成していてもよい。j=2であり、2つのRが互いに隣接する炭素原子に結合した置換基を表す場合、2つのRは、互いに結合して環を形成していてもよい。)
【化3】

(式中、Rは置換基を表し、kは0〜3の整数を表す。k=2であり、Rが互いに隣接する炭素原子に結合した置換基を表す場合、Rは、結合して環を形成していてもよい。k=3である場合、4位の炭素原子に結合したRと5位の炭素原子に結合したRとは、互いに結合して環を形成していてもよい。)
〔5〕前記金属錯体が下記組成式(4)で表される、〔1〕〜〔4〕のいずれかの金属錯体。
【化4】

(式中、Mは、セリウム、プラセオジム、イッテルビウムおよびルテチウムからなる群より選ばれる金属のイオンを表し、Xは、対イオンを表し、Lは、4座以下の配位子を表す。mは、0〜4の整数であり、nは、0以上の整数である。)
〔6〕前記多座配位子におけるR、R、R、RおよびRが、それぞれ独立に、下記式(5)で表される2価の基である、〔4〕または〔5〕の金属錯体。
【化5】

(ここで、QおよびQは、それぞれ独立に、置換されていてもよい2価のヒドロカルビル基または置換されていてもよい2価のヘテロシクリル基である。A、AおよびAは、それぞれ独立に、下記式:
【化6】

で表される基を表す。ここで、R100、R104およびR105は、置換されていてもよいヒドロカルビル基を表し、R101およびR102は、それぞれ独立に、置換されていてもよいヒドロカルビル基または置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基を表し、R103は、置換されていてもよいヒドロカルビル基または置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基を表す。aおよびcは、それぞれ独立に、0または1であり、bは0〜10の整数である。)
〔7〕前記多座配位子におけるR、R、RおよびRが、それぞれ独立に、置換されていてもよい2価のヒドロカルビル基である、〔4〕〜〔6〕のいずれかの金属錯体。
〔8〕前記多座配位子におけるZおよびZが窒素原子である、〔4〕〜〔7〕のいずれかの金属錯体。
〔9〕前記多座配位子が下記式(6)で表される、〔4〕〜〔8〕のいずれかの金属錯体。
【化7】

(式中、Rは、2価の基を表し、L、L、LおよびLは、それぞれ独立に、配位基または水素原子を表す。ただし、L、L、LおよびLのうち少なくとも1個は、前記式(2)または(3)で表される配位基である。)
〔10〕前記多座配位子におけるL、L、LおよびLが、それぞれ独立に、前記式(2)または(3)で表される、〔4〕〜〔9〕のいずれかの金属錯体。
〔11〕前記多座配位子が下記式(7)で表される、〔4〕〜〔10〕のいずれかの金属錯体。
【化8】

(式中、R10は、2価の基を表し、R11、R12、R13およびR14は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。)
〔12〕前記金属錯体が下記組成式(8)で表される、〔1〕〜〔11〕のいずれかの金属錯体。
【化9】

(式中、R15は、2価の基を表し、R16、R17、R18およびR19は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表し、Mは、セリウム、プラセオジム、イッテルビウムおよびルテチウムからなる群より選ばれる金属のイオンを表し、Xは、対イオンを表し、Lは、4座以下の配位子を表す。mは、0〜4の整数であり、nは、0以上の整数である。)
〔13〕前記金属がセリウムである、〔1〕〜〔12〕のいずれかの金属錯体。
〔14〕〔1〕〜〔13〕のいずれかの金属錯体、および電荷輸送材料を含む組成物。
〔15〕〔1〕〜〔13〕のいずれかの金属錯体、または〔14〕の組成物を用いてなる有機薄膜。
〔16〕〔1〕〜〔13〕のいずれかの金属錯体、〔14〕の組成物、または〔15〕の有機薄膜を用いてなる素子。
【発明の効果】
【0007】
本発明の金属錯体は、温度上昇に対する耐久性が高いため、耐久性に優れた発光材料として有用である。本発明の金属錯体はまた、4f−5d遷移に基づき発光し得る金属を含むため、発光量子収率が高いという利点を有し得る。本発明の金属錯体はさらに、有機溶剤に対する溶解性に優れ得るため、塗布法による素子の製造に好適に適用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、金属錯体(C−1)および(C−2)の発光スペクトルを示す図である。
【図2】図2は、金属錯体(C−2)の発光スペクトルのフィッティング結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<金属錯体>
本発明の金属錯体は、(a)窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選ばれる2個以上の原子を含む複素芳香環を含む5座以上の多座配位子、ならびに(b)セリウム、プラセオジム、イッテルビウムおよびルテチウムからなる群より選ばれる金属のイオンを含む。これら金属イオンの価数は、好ましくは3価である。
【0010】
本発明の金属錯体に含まれる中心金属としては、例えば、4f−5d遷移に基づいて発光を示し得るセリウム、プラセオジム、イッテルビウムおよびルテチウムが挙げられ、好ましくは、セリウムまたはプラセオジムであり、更に好ましくは、セリウムである。
【0011】
本発明の金属錯体中に含まれる多座配位子は、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選ばれる2個以上の原子を含む複素芳香環を含む。この複素芳香環は、金属に配位し得る孤立電子対を有する1個以上の窒素原子または酸素原子を、必須の環構成原子として含むことが好ましい。複素芳香環中の窒素原子および酸素原子の個数は、好ましくは、それぞれ独立に、1個、2個、3個または4個である。
【0012】
一実施形態では、前記複素芳香環は、イミダゾール環または縮合イミダゾール環である。縮合イミダゾール環としては、例えば、ベンズイミダゾールが挙げられる。
【0013】
別の実施形態では、前記複素芳香環としては、例えば、式(A−1)〜(A−14)で表される複素芳香環、およびこのような複素芳香環のうち2以上の複素芳香環が連結または縮合した環が挙げられる。複素芳香環は、好ましくは、式(A−1)〜(A−10)で表される環であり、より好ましくは、式(A−1)、(A−3)、(A−4)、(A−7)、(A−9)または(A−10)で表される環であり、更に好ましくは、式(A−1)または(A−7)で表される環である。
【化10】

【0014】
前記イミダゾール環または縮合イミダゾール環、あるいは前記式(A−1)〜(A−14)で表される複素芳香環において、環上の水素原子は、置換されていてもよいヒドロカルビル基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基、置換されていてもよいヒドロカルビルチオ基、置換されていてもよいヘテロシクリル基、ハロゲン原子、シアノ基、置換されていてもよいアミド基、置換されていてもよいイミド基、置換されていてもよいシリル基、置換されていてもよいアシル基、置換されていてもよいアルコキシカルボニル基、置換されていてもよいアルコキシスルホニル基、置換されていてもよいアルコキシホスホリル基、置換されていてもよいホスフィノ基、置換されていてもよいホスフィンオキシド基、置換されていてもよいアミノ基、ヒドロキシル基、メルカプト基、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、亜リン酸基、またはニトロ基により、あるいは、置換されていてもよいアミノ基、ヒドロキシル基、メルカプト基、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、または亜リン酸基から水素原子を除いたアニオン性基により、置換されていてもよい。複素芳香環上の水素原子の置換基は、互いに隣接する炭素原子に結合している場合、結合して環を形成していてもよい。
【0015】
前記イミダゾール環または縮合イミダゾール環、あるいは前記式(A−1)〜(A−14)における置換基は、好ましくは、置換されていてもよいヒドロカルビル基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基、置換されていてもよいヘテロシクリル基、置換されていてもよいホスフィンオキシド基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、またはリン酸基、あるいは、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、またはリン酸基から水素原子を除いたアニオン性基であり、より好ましくは、置換されていてもよいヒドロカルビル基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、またはリン酸基であり、更により好ましくは、置換されていてもよいヒドロカルビル基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基である。
【0016】
ヒドロカルビル基は、直鎖、分岐鎖または環状のいずれでもよく、炭素数が通常1〜30であり、好ましくは1〜12である。このようなヒドロカルビル基としては、メチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基、3,7−ジメチルオクチル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、ノルボルニル基、アンモニウムエチル基、ベンジル基、α,α―ジメチルベンジル基、1−フェネチル基、2−フェネチル基、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、オレイル基、エイコサペンタエニル基、ドコサヘキサエニル基、2,2−ジフェニルビニル基、1,2,2−トリフェニルビニル基、2−フェニル−2−プロペニル基、フェニル基、2−トリル基、4−トリル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−シアノフェニル基、2−ビフェニリル基、3−ビフェニリル基、4−ビフェニリル基、ターフェニリル基、3,5−ジフェニルフェニル基、3,4−ジフェニルフェニル基、ペンタフェニルフェニル基、4−(2,2−ジフェニルビニル)フェニル基、4−(1,2,2−トリフェニルビニル)フェニル基、フルオレニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−アントリル基、2−アントリル基、9−フェナントリル基、1−ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基、コロニル基等が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基、3,7−ジメチルオクチル基、ベンジル基、α,α―ジメチルベンジル基、1−フェネチル基、2−フェネチル基、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、フェニル基、2−トリル基、4−トリル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−ビフェニリル基、3−ビフェニリル基、4−ビフェニリル基、ターフェニリル基、フルオレニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、tert−ブチル基、1−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基、ベンジル基、α,α―ジメチルベンジル基、ビニル基、ブテニル基、フェニル基、2−トリル基、4−トリル基であり、さらに好ましくは、メチル基、エチル基、1−プロピル基、ヘキシル基、ビニル基であり、特に好ましくは、メチル基、エチル基、1−プロピル基である。
【0017】
ヒドロカルビルオキシ基は、直鎖、分岐鎖または環状のいずれでもよく、炭素数が通常1〜30であり、好ましくは1〜12である。このようなヒドロカルビルオキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、1−プロピルオキシ基、2−プロピルオキシ基、1−ブチルオキシ基、2−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、3,7−ジメチルオクチルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、1−アダマンチルオキシ基、2−アダマンチルオキシ基、ノルボルニルオキシ基、アンモニウムエチトキシ基、トリフルオロメトキシ基、ベンジロキシ基、α,α−ジメチルベンジロキシ基、2−フェネチルオキシ基、1−フェネチルオキシ基、フェノキシ基、メトキシフェノキシ基、オクチルフェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、ペンタフルオロフェニルオキシ基等が挙げられ、好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、1−プロピルオキシ基、2−プロピルオキシ基、1−ブチルオキシ基、2−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、3,7−ジメチルオクチルオキシ基であり、より好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、1−プロピルオキシ基である。
【0018】
ヒドロカルビルチオ基は、直鎖、分岐鎖または環状のいずれでもよく、炭素数が通常1〜30であり、好ましくは1〜12である。このようなヒドロカルビルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、1−プロピルチオ基、2−プロピルチオ基、1−ブチルチオ基、2−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、デシルチオ基、ドデシルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基、3,7−ジメチルオクチルチオ基、シクロプロピルチオ基、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基、1−アダマンチルチオ基、2−アダマンチルチオ基、ノルボルニルチオ基、アンモニウムエチルチオ基、トリフルオロメチルチオ基、ベンジルチオ基、α,α−ジメチルベンジルチオ基、2−フェネチルチオ基、1−フェネチルチオ基、フェニルチオ基、メトキシフェニルチオ基、オクチルフェニルチオ基、1−ナフチルチオ基、2―ナフチルチオ基、ペンタフルオロフェニルチオ基等が挙げられ、好ましくは、メチルチオ基、エチルチオ基、1−プロピルチオ基、2−プロピルチオ基、1−ブチルチオ基、2−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、デシルチオ基、ドデシルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基、3,7−ジメチルオクチルチオ基であり、より好ましくは、メチルチオ基、エチルチオ基、1−プロピルチオ基である。
【0019】
ヘテロシクリル基としては、ピペリジニル基、ピペラジニル基、フリル基、チエニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ピリジル基等が挙げられ、好ましくは、フリル基、チエニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ピリジル基であり、より好ましくは、チエニル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ピリジル基であり、さらに好ましくは、ピリジル基である。
【0020】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、好ましくは、フッ素原子、塩素原子である。
【0021】
アミド基は、炭素数が通常1〜20であり、好ましくは1〜12である。このようなアミド基としては、ホルムアミド基、アセトアミド基、プロピオアミド基、ブチロアミド基、ベンズアミド基、トリフルオロアセトアミド基、ペンタフルオロベンズアミド基、ジホルムアミド基、ジアセトアミド基、ジプロピオアミド基、ジブチロアミド基、ジベンズアミド基、ジトリフルオロアセトアミド基、ジペンタフルオロベンズアミド基等が挙げられ、好ましくは、ホルムアミド基、アセトアミド基、プロピオアミド基、ブチロアミド基、ベンズアミド基である。
【0022】
イミド基は、イミドからその窒素原子に結合した水素原子を除いて得られる基である。
このようなイミド基としては、炭素数が通常4〜20であり、好ましくは4〜12である。このようなイミド基としては、N−スクシンイミド基、N−フタルイミド基、ベンゾフェノンイミド基等が挙げられ、好ましくは、N−フタルイミド基である。
【0023】
シリル基は、アルキル基、アリール基およびアリールアルキル基からなる群から選ばれる1〜3個の基で置換されていてもよいシリル基であり、このようなシリル基は、炭素数が通常1〜60であり、好ましくは1〜36である。このようなシリル基は、好ましくは、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、トリ−i−プロピルシリル基、ジメチル−i−プロピリシリル基、ジエチル−i−プロピルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、ペンチルジメチルシリル基、ヘキシルジメチルシリル基、ヘプチルジメチルシリル基、オクチルジメチルシリル基、2−エチルヘキシル−ジメチルシリル基、ノニルジメチルシリル基、デシルジメチルシリル基、3,7−ジメチルオクチル−ジメチルシリル基、ラウリルジメチルシリル基、トリフェニルシリル基、トリ−p−キシリルシリル基、トリベンジルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基、ジメチルフェニルシリル基であり、より好ましくは、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基であり、更に好ましくは、トリメチルシリル基である。
【0024】
アシル基は、炭素数が通常1〜20であり、好ましくは1〜12である。このようなアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、トリフルオロアセチル基、ペンタフルオロベンゾイル基等が挙げられ、好ましくは、アセチル基、ベンゾイル基である。
【0025】
アルコキシカルボニル基は、炭素数が通常1〜20であり、好ましくは1〜12である。このようなアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロピルオキシカルボニル基、イソプロピルオキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、s−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基、ノニルオキシカルボニル基、デシルオキシカルボニル基、3,7−ジメチルオクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基等が挙げられ、好ましくは、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロピルオキシカルボニル基、イソプロピルオキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基であり、より好ましくは、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基である。
【0026】
アルコキシスルホニル基は、炭素数が通常1〜20であり、好ましくは1〜12である。このようなアルコキシスルホニル基としては、メトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基、プロピルオキシスルホニル基、イソプロピルオキシスルホニル基、ブトキシスルホニル基、イソブトキシスルホニル基、s−ブトキシスルホニルル基、t−ブトキシスルホニルル基、ペンチルオキシスルホニル基、ヘキシルオキシスルホニル基、ヘプチルオキシスルホニル基、オクチルオキシスルホニル基、2−エチルヘキシルオキシスルホニル基、ノニルオキシスルホニル基、デシルオキシスルホニル基、3,7−ジメチルオクチルオキシスルホニル基、ドデシルオキシスルホニル基等が挙げられ、好ましくは、メトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基、プロピルオキシスルホニル基、イソプロピルオキシスルホニル基、ブトキシスルホニル基、イソブトキシスルホニル基であり、より好ましくは、メトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基である。
【0027】
アルコキシホスホリル基は、炭素数が通常1〜20であり、好ましくは1〜12である。このようなアルコキシホスホリル基としては、ジメトキシホスホリル基、ジエトキシホスホリル基、ジプロポキシホスホリル基、ジイソプロポキシホスホリル基、ジブトキシホスホリル基、エチレンジオキシホスホリル基等が挙げられ、好ましくは、ジメトキシホスホリル基である。
【0028】
ホスフィノ基は、アルキル基、アリール基およびアリールアルキル基からなる群から選ばれる1または2個の基で置換されていてもよいホスフィノ基であり、このようなホスフィノ基は、炭素数が通常1〜20であり、好ましくは1〜12である。このようなホスフィノ基としては、フェニルホスフィノ基、ジフェニルホスフィノ基、メチルホスフィノ基、ジメチルホスフィノ基、エチルホスフィノ基、ジエチルホスフィノ基、プロピルホスフィノ基、ジプロピルホスフィノ基、ブチルホスフィノ基、ジブチルホスフィノ基等が挙げられ、好ましくは、ジフェニルホスフィノ基、ジメチルホスフィノ基、ジエチルホスフィノ基、ジプロピルホスフィノ基、ジブチルホスフィノ基であり、より好ましくは、ジフェニルホスフィノ基、ジメチルホスフィノ基であり、特に好ましくはジフェニルホスフィノ基である。
【0029】
ホスフィンオキシド基は、アルキル基、アリール基およびアリールアルキル基からなる群から選ばれる1または2個の基で置換されていてもよいホスフィンオキシド基であり、このようなホスフィンオキシド基は、炭素数が通常1〜20であり、好ましくは1〜12である。このようなホスフィンオキシド基としては、フェニルホスフィンオキシド基、ジフェニルホスフィンオキシド基、メチルホスフィンオキシド基、ジメチルホスフィンオキシド基、エチルホスフィンオキシド基、ジエチルホスフィンオキシド基、プロピルホスフィンオキシド基、ジプロピルホスフィンオキシド基、ブチルホスフィンオキシド基、ジブチルホスフィンオキシド基等が挙げられ、好ましくは、ジフェニルホスフィンオキシド基、ジメチルホスフィンオキシド基、ジエチルホスフィンオキシド基、ジプロピルホスフィンオキシド基、ジブチルホスフィンオキシド基であり、より好ましくは、ジフェニルホスフィンオキシド基、ジメチルホスフィンオキシド基であり、特に好ましくはジフェニルホスフィンオキシド基である。
【0030】
アミノ基は、アルキル基、アリール基およびアリールアルキル基からなる群から選ばれる1〜3個の基で置換されたアミノ基、あるいは−NHであり、このようなアミノ基は、炭素数が通常1〜60であり、例えば1〜36である。このようなアミノ基としては、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ジブチルアミノ基等が挙げられ、好ましくは、ジフェニルアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基であり、より好ましくは、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジフェニルアミノ基である。
【0031】
置換されていてもよいアミノ基、ヒドロキシル基、メルカプト基、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、または亜リン酸基から水素原子を除いたアニオン性基は、対イオンを有していてもよい。対イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、アンモニウムイオン等が挙げられ、好ましくは、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンである。
【0032】
前記ヒドロカルビル基、ヒドロカルビルオキシ基、ヒドロカルビルチオ基、ヘテロシクリル基、アミド基、イミド基、シリル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルコキシホスホリル基、ホスフィノ基、ホスフィンオキシド基、アミノ基、およびアミノ基から水素原子を除いたアニオン性基が有し得る置換基(以下、本明細書中の「置換基」は同じ意味を有する。)としては、ヒドロカルビル基、ヒドロカルビルオキシ基、ヒドロカルビルチオ基、ヘテロシクリル基、ハロゲン原子、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルコキシホスホリル基、ホスフィノ基、ホスフィンオキシド基、アミノ基、ヒドロキシル基、メルカプト基、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、亜リン酸基、またはニトロ基、あるいは、アミノ基、ヒドロキシル基、メルカプト基、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、または亜リン酸基から水素原子を除いたアニオン性基が挙げられ、好ましくは、ヒドロカルビル基、ヒドロカルビルオキシ基、ヒドロカルビルチオ基、ヘテロシクリル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基であり、より好ましくは、ヒドロカルビル基である。これらの基の具体的な例および好ましい例は、前記式(A−1)〜(A−14)における置換基の説明において対応する基のものと同様である。置換基が複数個存在する場合、それらは、同一であっても異なっていてもよい。
【0033】
多座配位子における複素芳香環の個数は、1個以上であり、好ましくは2個以上であり、より好ましくは3個以上であり、更により好ましくは4個以上である。多座配位子における複素芳香環の個数はまた、12個以下であり、好ましくは10個以下であり、より好ましくは8個以下であり、更に好ましくは6個以下である。
【0034】
本発明の金属錯体中に含まれる多座配位子の個数は、通常、1〜3個であり、好ましくは1個または2個であり、より好ましくは1個である。
【0035】
前記多座配位子の配位座数は、5座以上であるが、好ましくは5〜12座であり、より好ましくは6〜10座であり、更に好ましくは6〜8座である。
【0036】
多座配位子は、金属に配位し得る窒素原子または酸素原子を含む前記複素芳香環に加えて、金属に配位し得る孤立電子対を有する原子であって、複素芳香環上に存在しないものを含んでいてもよい。このような原子としては、窒素原子および酸素原子が挙げられる。このような原子の個数は、1個以上であり、好ましくは2個以上であり、より好ましくは3個以上である。このような原子の個数はまた、11個以下であり、好ましくは9個以下であり、より好ましくは7個以下であり、更により好ましくは5個以下である。
【0037】
一実施形態では、多座配位子は、下記式(1)で表される。
【化11】

【0038】
、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、2価の基または直接結合を表す。このような2価の基としては、例えば、下記式:
【化12】

で表される基が挙げられる。ここで、QおよびQは、それぞれ独立に、置換されていてもよい2価のヒドロカルビル基または置換されていてもよい2価のヘテロシクリル基である。A、AおよびAは、それぞれ独立に、下記式(Z−1)〜(Z−10):
【化13】

で表される基を表す。ここで、R100、R104およびR105は、置換されていてもよいヒドロカルビル基を表し、R101およびR102は、それぞれ独立に、置換されていてもよいヒドロカルビル基または置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基を表し、R103は、置換されていてもよいヒドロカルビル基または置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基を表す。これら、ヒドロカルビル基およびヒドロカルビルオキシ基の具体的な例および好ましい例は、前記式(A−1)〜(A−14)における置換基の説明において対応する基と同じである。
【0039】
、AおよびAは、好ましくは前記式(Z−1)〜(Z−6)で表される基であり、より好ましくは前記式(Z−1)〜(Z−4)で表される基であり、さらに好ましくは前記式(Z−1)、(Z−2)又は(Z−4)で表される基であり、特に好ましくは前記式(Z−1)で表される基である。
【0040】
aおよびcは、それぞれ独立に、0または1の整数であり、好ましくは0である。bは0〜10の整数であり、好ましくは0〜5の整数であり、より好ましくは0〜3の整数であり、さらに好ましくは0〜2の整数である。
【0041】
およびQにおける、2価のヒドロカルビル基および2価のヘテロシクリル基は、それぞれ、上述したヒドロカルビル基、ヘテロシクリル基から、1個の水素原子を除去することにより生成する2価の基である。これらの2価の基の具体的な例および好ましい例は、前記式(A−1)〜(A−14)における置換基の説明において対応する基と、1個の水素原子を除去している点を除いて、同様である。
【0042】
、R、R、RおよびRの2価の基としては、例えば、置換されていてもよい2価のヒドロカルビル基、置換されていてもよい2価のヒドロカルビルオキシ基、置換されていてもよい2価のヒドロカルビルチオ基、置換されていてもよい2価のヘテロシクリル基、置換されていてもよい2価のアミド基、置換されていてもよい2価のイミド基、置換されていてもよい2価のシリル基、置換されていてもよい2価のアシル基、置換されていてもよい2価のアルコキシカルボニル基、置換されていてもよい2価のアルコキシスルホニル基、置換されていてもよい2価のアルコキシホスホリル基、置換されていてもよい2価のアミノ基等が挙げられる。2価の基は、好ましくは、置換されていてもよい2価のヒドロカルビル基、置換されていてもよい2価のヒドロカルビルオキシ基、置換されていてもよい2価のヒドロカルビルチオ基、置換されていてもよい2価のヘテロシクリル基、置換されていてもよい2価のシリル基、置換されていてもよい2価のアルコキシカルボニル基、あるいは置換されていてもよい2価のアミノ基であり、より好ましくは、置換されていてもよい2価のヒドロカルビル基である。
【0043】
2価のヒドロカルビル基、2価のヒドロカルビルオキシ基、2価のヒドロカルビルチオ基、2価のヘテロシクリル基、2価のアミド基、2価のイミド基、2価のシリル基、2価のアシル基、2価のアルコキシカルボニル基、2価のアルコキシスルホニル基、2価のアルコキシホスホリル基、2価のアミノ基は、それぞれ、上述したヒドロカルビル基、ヒドロカルビルオキシ基、ヒドロカルビルチオ基、ヘテロシクリル基、アミド基、イミド基、シリル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルコキシホスホリル基、アミノ基から、1個の水素原子を除去することにより生成する2価の基である。これらの2価の基の具体的な例および好ましい例は、前記式(A−1)〜(A−14)における置換基の説明において対応する基と、1個の水素原子を除去している点を除いて、同様である。
【0044】
およびZは、それぞれ独立に、窒素原子、リン原子または3価の基を表す。このような3価の基としては、例えば、置換されていてもよい3価のヒドロカルビル基等が挙げられる。ZおよびZは、好ましくは、窒素原子またはリン原子であり、より好ましくは、窒素原子である。3価のヒドロカルビル基等は、上述したヒドロカルビル基等から、2個の水素原子を除去することにより生成する3価の基である。3価のヒドロカルビル基の具体的な例および好ましい例は、前記式(A−1)〜(A−14)における置換基の説明においてヒドロカルビル基で上述したものと、2個の水素原子を除去している点を除いて、同様である。
【0045】
、L、LおよびLは、それぞれ独立に、配位基または水素原子を表す。配位基は、金属に配位し得る孤立電子対を有する1個以上の窒素原子または酸素原子を含む基であり、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基、置換されていてもよいヘテロシクリル基、置換されていてもよいアミド基、置換されていてもよいアシル基、置換されていてもよいアルコキシカルボニル基、置換されていてもよいホスフィンオキシド基、置換されていてもよいアミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、またはニトロ基、あるいはヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、またはリン酸基から水素原子を除いたアニオン性基等が挙げられ、好ましくは、置換されていてもよいヘテロシクリル基、置換されていてもよいホスフィンオキシド基、置換されていてもよいアミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、またはリン酸基、あるいはヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、またはリン酸基から水素原子を除いたアニオン性基であり、より好ましくは、置換されていてもよいヘテロシクリル基、あるいはカルボキシル基、スルホ基、またはリン酸基から水素原子を除いたアニオン性基であり、更に好ましくは、置換されていてもよいヘテロシクリル基である。
【0046】
、L、LおよびLの配位基の例である、ヒドロカルビルオキシ基、アミド基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルコキシホスホリル基、およびホスフィンオキシド基の具体的な例および好ましい例は、前記式(A−1)〜(A−14)における置換基の説明において対応する基で前記したものと同様である。
【0047】
、L、LおよびLの配位基の例であるヘテロシクリル基としては、ピリジル基、キノリル基、ピリミジル基、ピラジニル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズオキサゾリル基、トリアジニル基、ピリミヂニル基、ピラジニル基、ビピリジニル基、ビキノリル基、ターピリジル基、フェナントロリニル基等が挙げられる。ヘテロシクリル基は、好ましくは、ピリジル基、キノリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズオキサゾリル基、またはトリアジニル基であり、より好ましくは、ピリジル基、キノリル基、イミダゾリル基、またはベンズイミダゾリル基であり、更により好ましくは、イミダゾリル基、またはベンズイミダゾリル基であり、特に好ましくは、ベンズイミダゾリル基である。
【0048】
、L、LおよびLの配位基の例であるアミノ基としては、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ジブチルアミノ基が挙げられる。アミノ基は、好ましくは、フェニルアミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、またはブチルアミノ基であり、より好ましくは、フェニルアミノ基である。
【0049】
、L、LおよびLの配位基の例である、置換されていてもよいアミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、または亜リン酸基から水素原子を除いたアニオン性基は、対イオンを有していてもよい。対イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。対イオンは、好ましくは、ナトリウムイオン、カリウムイオン、またはアンモニウムイオンである。
【0050】
、L、LおよびLのうち少なくとも1個(即ち、1個、2個、3個、または全て)は、下記式(2)もしくは(3)で表される配位基である。
【化14】

【化15】

【0051】
は、水素原子または置換基を表す。Rが置換基を表す場合、Rとしては、置換されていてもよいヒドロカルビル基、置換されていてもよいヘテロシクリル基、置換されていてもよいシリル基、置換されていてもよいアシル基等が挙げられる。Rは、好ましくは、置換されていてもよいヒドロカルビル基である。
【0052】
は置換基を表し、jは0〜2の整数を表す。Rとしては、置換されていてもよいヒドロカルビル基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基、置換されていてもよいヘテロシクリル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、およびリン酸基、ならびに、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、またはリン酸基から水素原子を除いたアニオン性基が挙げられる。Rは、好ましくは、置換されていてもよいヒドロカルビル基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、またはリン酸基であり、より好ましくは、置換されていてもよいヒドロカルビル基である。これらの基の具体的な例および好ましい例は、前記式(A−1)〜(A−14)における置換基の説明において対応する基で上述したものと同様である。jが2のとき、2個の置換基は、同一であっても異なっていてもよい。また、j=2であり、2つのRが互いに隣接する炭素原子に結合した置換基を表す場合、2つのRは、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0053】
は置換基を表し、kは0〜3の整数を表す。Rとしては、置換されていてもよいヒドロカルビル基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基、置換されていてもよいヘテロシクリル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、およびリン酸基、ならびに、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、またはリン酸基から水素原子を除いたアニオン性基が挙げられる。Rは、好ましくは、置換されていてもよいヒドロカルビル基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、またはリン酸基であり、より好ましくは、置換されていてもよいヒドロカルビル基である。これらの基の具体的な例および好ましい例は、前記置換基における対応する基で上述したものと同様である。kが2又は3のとき、2個もしくは3個の置換基は、同一であっても異なっていてもよい。また、k=2であり、Rが互いに隣接する炭素原子に結合した置換基を表す場合、Rは、結合して環を形成していてもよい。k=3である場合、4位の炭素原子に結合したRと5位の炭素原子に結合したRとは、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0054】
前記多座配位子としては、例えば、下記式(B−1)〜(B−15)で表される配位子が挙げられる。下記式中のOHは、脱水素化されてOであってもよい。
【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【0055】
本発明の金属錯体は、5座以上の多座配位子の他に、4座以下(例えば、1座または2座)の配位子(L)または対イオン(X)を1個もしくは複数有していてもよい。このような配位子としては、酸素原子、窒素原子およびリン原子からなる群より選ばれる原子を含む原子団が好ましく、例えば、水、メタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、トリアリールホスフィンオキシド、トリアルキルホスフィンオキシド、ピリジン、キノリン、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、トリアジン、ピリミジン、ピラジン、ビピリジン、ビキノリン、ターピリジン、フェナントロリン、トリアリールホスフィン、トリアルキルホスフィン、トリアルキルアミンが挙げられる。対イオンとしては、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、酢酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ヘキサフルオロアンチモンイオン、ヘキサフルオロヒ素イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、パラトルエンスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、テトラフェニルボレートイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオンが挙げられる。Lがマイナスに帯電しているイオン性配位子の場合には、対イオンはカチオンであってもよく、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、アンモニウムイオンが挙げられる。対イオンとしては、好ましくは、フッ化物イオン、塩化物イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ヘキサフルオロアンチモンイオン、ヘキサフルオロヒ素イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、パラトルエンスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、テトラフェニルボレートイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオンであり、より好ましくは、塩化物イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、パラトルエンスルホン酸イオン、テトラフェニルボレートイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオンであり、さらに好ましくは、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、テトラフェニルボレートイオンであり、特に好ましくは、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフェニルボレートイオンである。ただし、Xはこれらのうち1種であるか、又は2種以上を1分子中に混在させてもよい。
【0056】
具体的には、本発明の金属錯体は、下記組成式(4)で表される組成により構成されていてもよい。
【化20】

【0057】
Mは、セリウム、プラセオジム、イッテルビウムおよびルテチウムからなる群より選ばれる金属のイオンを表す。
【0058】
Xは、対イオンを表す。対イオンは、上述したものと同様である。mは、0〜4の整数である。mは、好ましくは、0〜3の整数であり、より好ましくは、0又は1である。
【0059】
Lは、4座以下の配位子を表す。4座以下の配位子は、上述したものと同様である。nは、0以上の整数である。nは、好ましくは、0〜6の整数であり、より好ましくは、0〜3の整数である。
【0060】
別の実施形態では、多座配位子は、下記式(6)で表される。
【化21】

【0061】
は、2価の基を表す。Rの2価の基は、Rで上述した2価の基と同様である。Rの具体的な例および好ましい例は、Rで上述したものと同様である。
【0062】
、L、LおよびLは、それぞれ独立に、配位基または水素原子を表す。L、L、LおよびLの配位基は、L、L、LおよびLの配位基と同様である。L、L、LおよびLの具体的な例および好ましい例は、L、L、LおよびLのものと同様である。L、L、LおよびLのうち少なくとも1個(即ち、1個、2個、3個、または全て)は、前記式(2)または(3)で表される配位基である。前記式(6)で表される多座配位子としては、前記式(B−1)〜(B−6)、(B−9)〜(B−13)で表される配位子が挙げられる。
【0063】
さらに別の実施形態では、多座配位子は、下記式(7)で表される。
【化22】

【0064】
10は、2価の基を表す。R10の2価の基は、Rで上述した2価の基と同様である。R10の具体的な例および好ましい例は、Rで上述したものと同様である。
【0065】
11、R12、R13およびR14は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。R11、R12、R13およびR14の置換基は、Rで上述した置換基と同様である。R11、R12、R13およびR14の具体的な例および好ましい例は、Rで上述したものと同様である。前記式(7)で表される多座配位子としては、例えば、前記式(B−1)〜(B−3)、(B−9)〜(B−13)で表される配位子が挙げられる。
【0066】
本発明の金属錯体は、下記組成式(8)で表される組成により構成されていてもよい。
【化23】

【0067】
式(8)中、R15は、2価の基を表す。R15の2価の基は、Rで上述した2価の基と同様である。R15の具体的な例および好ましい例は、Rで上述したものと同様である。
【0068】
16、R17、R18およびR19は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。R16、R17、R18およびR19の置換基は、Rで上述した置換基と同様である。R16、R17、R18およびR19の具体的な例および好ましい例は、Rで上述したものと同様である。
【0069】
Mは、セリウム、プラセオジム、イッテルビウムおよびルテチウムからなる群より選ばれる金属のイオンを表す。
【0070】
Xは、対イオンを表す。対イオンは、上述したものと同様である。mは、0〜4の整数である。mは、好ましくは、0〜3の整数であり、より好ましくは、0又は1である。
【0071】
Lは、4座以下の配位子を表す。4座以下の配位子は、上述したものと同様である。nは、0以上の整数である。nは、好ましくは、0〜6の整数であり、より好ましくは、0〜3の整数である。
【0072】
より具体的には、本発明の金属錯体は、下記式(C−1)〜(C−13)で表される組成により構成されていてもよい。
【化24】

【化25】

【化26】

【化27】

【化28】

【0073】
<金属錯体の製造方法>
本発明の金属錯体は、多座配位子および金属塩(例えば、塩化セリウム(III)、トリフルオロメタンスルホン酸セリウム(III))を、溶媒(例えば、ジクロロメタン、アセトニトリル)中で室温下混合させることにより、得られた沈殿を回収するか、または得られた溶液の溶媒を留去することで容易に得ることができる。
【0074】
上述の混合を行う際には、多座配位子および金属塩を溶媒中に均一に溶解させるため、または溶液の粘度が高い場合には撹拌を容易にするために、緩衝液等の水系溶媒、または有機溶媒が用いられてもよいが、有機溶媒が好ましい。
【0075】
有機溶媒としては、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−へプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン等の脂肪族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジメトキシエタン、プロピレングリコール、ジエトキシメタン、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、グリセリン、1,2−ヘキサンジオール等の多価アルコールおよびその誘導体、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール等のアルコール系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0076】
<組成物>
本発明の組成物は、本発明の金属錯体、および電荷輸送材料を含む。本発明の組成物は、液状または固形状である。
【0077】
前記電荷輸送材料とは、有機EL素子等の素子において電荷の運搬を担い得る材料をいい、正孔輸送材料および電子輸送材料が挙げられる。電荷輸送材料はまた、低分子有機化合物、あるいは高分子化合物またはオリゴマーのいずれであってもよい。高分子化合物またはオリゴマーは、共役系のものであることが好ましい。
【0078】
前記正孔輸送材料としては、フルオレンおよびその誘導体、芳香族アミンおよびその誘導体、カルバゾール誘導体、およびポリパラフェニレン誘導体など、有機EL素子の正孔輸送材料として使用される公知のものを使用することができる。また、電子輸送材料としては、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンおよびその誘導体、ベンゾキノンおよびその誘導体、ナフトキノンおよびその誘導体、アントラキノンおよびその誘導体、テトラシアノアントラキノジメタンおよびその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレンおよびその誘導体、ジフェノキノン誘導体、ならびに8−ヒドロキシキノリンおよびその誘導体の金属錯体など、有機EL素子の電子輸送材料として使用される公知のもの使用することができる。
【0079】
組成物に含まれる本発明の金属錯体は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。組成物中の金属錯体の含有量は、電荷輸送材料100質量部に対して0.01〜80質量部であることが好ましく、0.1〜60質量部であることがより好ましい。金属錯体の含有量が前記下限未満になると、金属錯体から十分な強さの発光が得られにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると、金属錯体からの発光強度が弱くなる傾向や、薄膜形成時に均質な膜を形成しにくい傾向にある。
【0080】
<有機薄膜>
本発明の有機薄膜は、本発明の金属錯体、または本発明の組成物を用いてなる。本発明の有機薄膜は、例えば、本発明の液状組成物を用いて所定の成膜方法により形成することができる。本発明の有機薄膜としては、発光性薄膜、導電性薄膜、および有機半導体薄膜が挙げられる。薄膜の膜厚は、1〜500nmであることが好ましく、5〜200nmであることがより好ましい。
【0081】
<素子>
本発明の素子は、本発明の金属錯体、本発明の組成物または本発明の有機薄膜を用いてなる。本発明の素子としては、本発明の組成物または本発明の有機薄膜を含む機能層を備える発光素子、スイッチング素子、光電変換素子が挙げられ、例えば、陽極と、この陽極上に配置された本発明の金属錯体または本発明の組成物を含む機能層と、この機能層上に配置された陰極とを備える素子が挙げられる。より具体的には、本発明の素子としては、陽極と、この陽極上に配置された機能層である本発明の有機薄膜と、この有機薄膜上に配置された陰極とを備えるものが挙げられる。機能層とは、光電機能を有する層、すなわち発光性、導電性、および光電変換機能を有する薄膜である。従って、本発明の素子が発光素子である場合、本発明の金属錯体または本発明の組成物を用いてなる有機薄膜が、発光層に相当する。
【0082】
また、本発明の素子は、陽極と陰極との間に電荷輸送層または電荷阻止層をさらに備えていてもよい。電荷輸送層は、正孔輸送層または電子輸送層であり、正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する層をいい、電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する層をいう。また、電荷阻止層とは、正孔阻止層または電子阻止層であり、正孔阻止層とは、電子を輸送し且つ陽極から輸送された正孔を閉じ込める機能と有する層をいい、電子阻止層とは、正孔を輸送し且つ陰極から輸送された電子を閉じ込める機能を有する層をいう。
【0083】
本発明の素子としては、陰極と発光層との間に電子輸送層または正孔阻止層を備える素子、陽極と発光層との間に正孔輸送層または電子阻止層を備える素子、陰極と発光層との間に電子輸送層または正孔阻止層を備え、かつ陽極と発光層との間に正孔輸送層または電子阻止層を備える素子などが挙げられる。
【0084】
本発明の素子の具体的な構造を、以下に示す。なお、「/」は各層が隣接して積層されていることを示す。以下、同様である。
a)陽極/(電荷注入層)/発光層/(電荷注入層)/陰極
b)陽極/(電荷注入層)/正孔輸送層/発光層/(電荷注入層)/陰極
c)陽極/(電荷注入層)/発光層/電子輸送層/(電荷注入層)/陰極
d)陽極/(電荷注入層)/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/(電荷注入層)/陰極
【0085】
また、本発明の素子においては、発光層、正孔輸送層、および電子輸送層をそれぞれ独立に2層以上設けてもよい。
【0086】
電極に隣接して設けた電荷輸送層(正孔輸送層および電子輸送層)のうち、電極からの電荷注入効率を改善する機能を有し、素子の駆動電圧を下げる効果を有するものは、一般に電荷注入層(正孔注入層および電子注入層)と呼ばれることがある。電荷注入層を備える素子としては、陰極に隣接して電荷注入層を備える素子、陽極に隣接して電荷注入層を備える素子が挙げられる。
【0087】
本発明の素子では、電極との密着性向上や電極からの電荷注入の改善のために電極に隣接して膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよい。前記絶縁層に用いる材料としては、金属フッ化物、金属酸化物、有機絶縁材料などが挙げられる。膜厚2nm以下の絶縁層を備える素子としては、陰極に隣接して前記絶縁層を備える素子、陽極に隣接して前記絶縁層を備える素子が挙げられる。
【0088】
本発明の素子では、さらに、界面の密着性向上や混層の防止などのために、電極と発光層との間にこの電極に隣接して、また、電荷輸送層と発光層と界面に、平均膜厚2nm以下のバッファー層を設けてもよい。
【0089】
以下、本発明の素子の各層について説明する。
【0090】
(発光層)
前記発光層は、本発明の金属錯体または本発明の組成物を用いてなる層、すなわち、本発明の有機薄膜であり得る。発光層は、一層であっても、または複数の層から構成されていてもよい。発光層はまた、本発明の金属錯体または組成物のみから構成されていてもよく、あるいは本発明の金属錯体または組成物に加えて他の発光材料をさらに含む混合物により構成されていてもよい。発光層はさらに、本発明の金属錯体または組成物を含む層を、少なくとも一層含んでいればよい。発光層に含まれていてもよい他の発光材料としては、例えば、ナフタレン誘導体、アントラセンおよびその誘導体、ペリレンおよびその誘導体、ポリメチン系、キサンテン系、クマリン系、およびシアニン系などの色素類、8−ヒドロキシキノリンおよびその誘導体の金属錯体、芳香族アミン、テトラフェニルシクロペンタジエンおよびその誘導体、ならびにテトラフェニルブタジエンおよびその誘導体が挙げられる。
【0091】
(正孔輸送層)
前記正孔輸送層に用いる材料としては、例えば、特開昭63−70257号公報、特開昭63−175860号公報、特開平2−135359号公報、特開平2−135361号公報、特開平2−209988号公報、特開平3−37992号公報、特開平3−152184号公報に記載されている化合物が挙げられる。具体的には、ポリビニルカルバゾールおよびその誘導体、ポリシランおよびその誘導体、側鎖または主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリンおよびその誘導体、ポリアミノフェンおよびその誘導体、ポリピロールおよびその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)およびその誘導体、ならびにポリ(2,5−チエニレンビニレン)およびその誘導体などが挙げられる。
【0092】
正孔輸送層の膜厚は、発光効率または光電効率と駆動電圧とが適度な値となるように適宜設定され、用いる材料によって最適値が異なるが、ピンホールが発生しない厚さが必要である。膜厚が厚すぎる正孔輸送層は素子の駆動電圧が高くなる傾向がある。従って、正孔輸送層の膜厚は1nm〜1μmであることが好ましく、2〜500nmであることがより好ましく、5〜200nmであることが特に好ましい。
【0093】
(電子輸送層)
電子輸送層に用いる材料としては、例えば、特開昭63−70257号公報、特開昭63−175860号公報、特開平2−135359号公報、特開平2−135361号公報、特開平2−209988号公報、特開平3−37992号公報、特開平3−152184号公報に記載されている化合物が挙げられる。具体的には、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンおよびその誘導体、ベンゾキノンおよびその誘導体、ナフトキノンおよびその誘導体、アントラキノンおよびその誘導体、テトラシアノアントラキノジメタンおよびその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレンおよびその誘導体、ジフェノキノン誘導体、8−ヒドロキシキノリンおよびその誘導体の金属錯体、ポリキノリンおよびその誘導体、ポリキノキサリンおよびその誘導体、ならびにポリフルオレンおよびその誘導体などが挙げられる。
【0094】
電子輸送層の膜厚は、発光効率または光電効率と駆動電圧とが適度な値となるように適宜設定され、用いる材料によって最適値が異なるが、ピンホールが発生しない厚さが必要である。膜厚が厚すぎる電子輸送層は素子の駆動電圧が高くなる傾向がある。従って、電子輸送層の膜厚は1nm〜1μmであることが好ましく、2〜500nmであることがより好ましく、5〜200nmであることが特に好ましい。
【0095】
(基板)
本発明の素子は、通常、基板を用いて形成される。基板の一方の面には電極が形成され、他方の面に素子の各層を形成する。本発明に用いる基板は電極および素子の各層を形成する際に化学的に変化しないものであればよく、例えば、ガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコンなどの基板が挙げられる。この基板が不透明のものである場合には反対の電極として透明または半透明のものを形成することが好ましい。
【0096】
(電極)
通常、陽極および陰極のうちの少なくとも一方は透明または半透明のものであり、陽極が透明または半透明のものであることが好ましい。また、本発明の素子が光電変換素子の場合には、陽極および陰極のうちの少なくとも一方の電極を櫛型に形成してもよい。この場合、電極は不透明のものであってもよいが、透明または半透明のものであることが好ましい。
【0097】
陽極に用いる材料としては、導電性の金属酸化物膜、半透明の金属薄膜などが挙げられる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、およびそれらの複合体(インジウム・スズ・オキサイド(ITO)およびインジウム・亜鉛・オキサイドなど)、アンチモン・スズ・オキサイド、NESA、金、白金、銀、銅などが挙げられる。これらのうち、ITO、インジウム・亜鉛・オキサイド、酸化スズが好ましい。また、陽極として、ポリアニリンおよびその誘導体、ならびにポリアミノフェンおよびその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。
【0098】
陽極の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法などが挙げられる。
【0099】
陽極の膜厚は、光の透過性と電気伝導度とを考慮して適宜設定することができる。例えば、10nm〜10μmであることが好ましく、20nm〜1μmであることがより好ましく、50〜500nmであることが特に好ましい。
【0100】
陰極に用いる材料としては、仕事関数の小さい材料が好ましく、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、およびイッテルビウムなどの金属;それらのうちの2つ以上の金属の合金;それらのうちの1つ以上の金属と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうちの1つ以上の金属との合金;グラファイト;ならびにグラファイト層間化合物などが挙げられる。前記合金として、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などが挙げられる。
【0101】
陽極および陰極の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、および金属薄膜を熱圧着するラミネート法などが挙げられる。また、2層以上の積層構造の陰極を形成してもよい。
【0102】
陰極の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して適宜設定することができるが、10nm〜10μmであることが好ましく、20nm〜1μmであることがより好ましく、50〜500nmであることが特に好ましい。
【0103】
また、陰極と有機物層との間に、導電性高分子からなる層、または金属酸化物、金属フッ化物、もしくは有機絶縁材料などからなる平均膜厚2nm以下の層を設けてもよい。
【0104】
(保護層)
本発明の素子では、素子を外部から保護して長期安定的に使用するために、陰極形成後、素子を保護する保護層および/または保護カバーを形成していてもよい。
【0105】
このような保護層に用いる材料としては、高分子化合物、金属酸化物、金属フッ化物、金属ホウ化物などが挙げられる。また、保護カバーとしては、ガラス板、表面に低透水率処理を施したプラスチック板などが挙げられる。これらのうち、保護カバーを熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂を用いて素子と貼り合わせて素子を密閉することが好ましい。
【0106】
(電荷注入層)
電荷注入層としては、導電性高分子を含む層、陽極材料と正孔輸送層に含まれる正孔輸送材料との中間の値のイオン化ポテンシャルを有する材料を含む層(陽極と正孔輸送層との間に設けられる場合)、陰極材料と電子輸送層に含まれる電子輸送材料との中間の値の電子親和力を有する材料を含む層(陰極と電子輸送層との間に設けられる場合)などが挙げられる。
【0107】
電荷注入層に用いる材料は、電極や隣接する層の材料との関係に応じて選択すればよい。具体的には、ポリアニリンおよびその誘導体、ポリアミノフェンおよびその誘導体、ポリピロールおよびその誘導体、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリチエニレンビニレンおよびその誘導体、ポリキノリンおよびその誘導体、ポリキノキサリンおよびその誘導体、芳香族アミン構造を主鎖または側鎖に含む重合体などの導電性高分子、金属フタロシアニン(銅フタロシアニンなど)、カーボンなどが挙げられる。
【0108】
電荷注入層の膜厚は1nm〜100nmであることが好ましく、2nm〜50nmであることがより好ましい。
【0109】
本発明の素子が発光素子の場合、この発光素子は面状光源、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置、液晶表示装置のバックライト、または照明に使用することができる。
【0110】
前記発光素子を用いて面状の発光を得るためには、面状の陽極と陰極が重なり合うように配置すればよい。また、パターン状の発光を得るためには、面状の発光素子の表面にパターン状の窓を設けたマスクを設置する方法、有機層の一部を極端に厚く形成して実質的に非発光部を形成する方法、陽極または陰極の一方または両方の電極をパターン状に形成する方法がある。これらのいずれかの方法でパターンを形成し、いくつかの電極を独立にON/OFFできるように配置することにより、数字や文字、簡単な記号などを表示できるセグメント表示素子が得られる。さらに、陽極と陰極をともにストライプ状に形成して直交するように配置することによりドットマトリックス表示素子が得られる。
【0111】
このドットマトリックス表示素子において、複数の種類の発光色の異なる発光材料を塗り分けたり、カラーフィルターまたは発光変換フィルターを用いることより、部分カラー表示またはマルチカラー表示が可能となる。また、ドットマトリックス表示素子は、パッシブ駆動も可能でり、TFTなどと組み合わせることによりアクティブ駆動も可能となる。これらの表示素子は、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、ビデオカメラのビューファインダーなどの表示装置に用いることができる。
【0112】
面状の発光素子は、自発光薄型であり、液晶表示装置のバックライト用の面状光源、あるいは面状の照明用光源として好適に用いることができる。また、フレキシブルな基板を用いることにより曲面状の光源や表示装置としても使用できる。
【0113】
本発明の素子がスイッチング素子の場合、このスイッチング素子はアクティブマトリックス駆動回路を有する液晶表示装置に使用することができる。
【0114】
本発明の素子が光電変換素子の場合、この光電変換素子は太陽電池に使用することができる。
【0115】
本発明の金属錯体は、磁気材料として有用であるので、生体プローブ、造影剤としても有用である。また、本発明の金属錯体は、添加剤、改質剤、触媒等の材料としても有用である。
【実施例】
【0116】
以下、本発明について、実施例を用いて詳細に説明する。
【0117】
紫外可視吸収スペクトルは吸収分光光度計(Varian社製、Cary5E)で測定して求めた。発光スペクトルは、励起波長を389nmとして、蛍光分光光度計(日本分光株式会社製、商品名:FP−6500)により測定し、発光の量子収率は標準試料硫酸キニーネ1N硫酸水溶液中における発光量子収率(55%)と比較し算出した。励起寿命は、蛍光分光光度計(JOBINYVON−SPEX社製、商品名:Fluorolog−Tau3)により、発光スペクトルの発光ピーク波長における励起寿命を求めた。
【0118】
<合成例1>
前記式(B−1)で表される配位子をJournal of American Chemical Society 106, 4765−4772 (1984)の記載に準じて合成した。1,2−ジアミノベンゼンと2−ヒドロキシ−1,3−ジアミノプロパン四酢酸の混合物を170〜180℃で1時間加熱し反応させた後、得られた生成物と臭化エチルとを水酸化ナトリウム存在下のテトラヒドロフラン溶液中で2日間放置することで、前記式(B−1)で表される配位子を得た。
【0119】
<合成例2>
前記式(B−2)で表される配位子をJournal of American Chemical Society,109,5227−5233(1987)記載に準じて合成した。1,2−ジアミノベンゼンと2−ヒドロキシ−1,3−ジアミノプロパン四酢酸の混合物を170〜180℃で1時間加熱し反応させることで、前記式(B−2)で表される配位子を得た。
【0120】
<合成例3>
前記式(B−9)で表される配位子をJournal of American Chemical Society,104,3607−3617(1982)およびTetrahedron Letter,29,3033−3036記載に準じて合成した。1,2−ジアミノベンゼンとエチレンジアミン四酢酸、エチレングリコールの混合物を200℃で22時間加熱し反応させた後、得られた生成物と1−ブロモプロパンとを水酸化カリウム存在下のジメチルスルホキシド溶液中で室温下、3時間反応させることで、前記式(B−9)で表される配位子を得た。
【0121】
<合成例4>
前記式(B−10)で表される配位子をJournal of American Chemical Society,104,3607−3617(1982)およびTetrahedron Letter,29,3033−3036記載に準じて合成した。1,2−ジアミノベンゼンと1,3−プロパンジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸、エチレングリコールの混合物を200℃で22時間加熱し反応させた後、得られた生成物と1−ブロモプロパンとを水酸化カリウム存在下のジメチルスルホキシド溶液中で室温下、3時間反応させることで、前記式(B−10)で表される配位子を得た。
【0122】
<合成例5>
前記式(B−11)で表される配位子をJournal of the Chemical Society,Dalton Transaction, 2579−2593(1987)およびTetrahedron Letter,29,3033−3036記載に準じて合成した。1,2−ジアミノベンゼンとエチレングリコールビス(2−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸の混合物を180℃で4時間加熱し反応させた後、得られた生成物と1−ブロモプロパンとを水酸化カリウム存在下のジメチルスルホキシド溶液中で室温下、1.5時間反応させることで、前記式(B−11)で表される配位子を得た。
【0123】
<合成例6>
前記式(B−12)で表される配位子をJournal of the Chemical Society,Dalton Transaction, 2579−2593(1987)記載に準じて合成した。1,2−ジアミノベンゼンとトランス−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸の混合物を180℃で3時間加熱し反応させることで、前記式(B−12)で表される配位子を得た。
【0124】
<合成例7>
前記式(B−13)で表される配位子をJournal of the Chemical Society,Dalton Transaction, 2579−2593(1987)およびTetrahedron Letter,29,3033−3036記載に準じて合成した。1,2−ジアミノベンゼンとトランス−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸の混合物を180℃で3時間加熱し反応させた後、得られた生成物と1−ブロモプロパンとを水酸化カリウム存在下のジメチルスルホキシド溶液中で室温下、3時間反応させることで、前記式(B−13)で表される配位子を得た。
【0125】
<実施例1>
フラスコに前記式(B−1)で表される配位子(500mg、0.692mmol)とセリウムトリフルオロメタンスルホネート(406mg、0.692mmol)を入れ、ここに1mLのアセトニトリルを加え溶解させた。混合溶液を室温下にて30分撹拌後、溶媒を真空下にてエバポレートし、残渣を10mLのジクロロメタンにて溶解させた。ここに、激しく撹拌しながら15mLのジエチルエーテルを加え沈殿を得た。得られた沈殿を回収し、真空乾燥させることにより、前記組成式(C−1)で表される金属錯体(以下、「金属錯体(C−1)」という。)を得た。収量501mg(収率55%)。
元素分析 Found(%)C:40.75、H:4.04、N:10.34、S:7.63、F:12.92、Ce:9.62、Calcd for C4656CeF1013(%)C:40.50、H:4.14、N:10.27、S:7.05、F:12.53、Ce:10.27
金属錯体(C−1)は、紫外線励起(365nm)により固体粉末状態、溶液状態(アセトニトリル、エタノール、メタノール)で水色に発光した。
アセトニトリル中での発光スペクトルは434nmにピークを持ち、その発光量子収率は17%であり、励起寿命は33.0nsであった。
【0126】
<実施例2>
フラスコに前記式(B−2)で表される配位子(500mg、0.819mmol)とセリウムトリフルオロメタンスルホネート(481mg、0.819mmol)を入れ、ここにアセトニトリル(1mL)を加え溶解させた。室温下にて30分撹拌後、激しく撹拌しながら15mLのジクロロメタンを加えて生成した沈殿を回収した。沈殿を真空乾燥させることにより、前記組成式(C−2)で表される金属錯体(以下、「金属錯体(C−2)」という。)を得た。収量750mg(収率76%)。
元素分析 Found(%)C:37.70、H:3.19、N:11.62、S:7.59、F:13.00、Ce:10.8、Calcd for C3836CeF1011(%)C:37.53、H:2.98、N:11.52、S:7.91、F:14.06、Ce:11.52
金属錯体(C−2)は、紫外線励起(365nm)により固体粉末状態、溶液状態(アセトニトリル、エタノール、メタノール)で水色に発光した。
アセトニトリル中での発光スペクトルは433nmにピークを持ち、その発光量子収率は25%であり、励起寿命は31.0nsであった。
【0127】
<実施例3>
フラスコに前記式(B−9)で表される配位子(50mg、0.069mmol)とセリウムトリフルオロメタンスルホネート(46mg、0.078mmol)を入れ、ここにエタノール(4mL)を加え溶解させた。室温下にて2.5時間撹拌後、撹拌を止めて、約4mLのジエチルエーテルを加えて一晩放置した。放置後に生成した固体を回収し、前記組成式(C−9)で表される金属錯体(以下、「金属錯体(C−9)」という。)を得た。収量63mg(収率71%)。
元素分析 Found(%)C:43.59、H:4.36、N:10.47、S:7.49、Calcd for C4958CeF1010(%)C:43.45、H:4.32、N:10.34、S:7.10
金属錯体(C−9)は、紫外線励起(365nm)により固体粉末状態、溶液状態(アセトニトリル)で青色に発光した。
アセトニトリル中での発光スペクトルは421.5nmにピークを持ち、その発光量子収率は9.8%であり、励起寿命は68.2nsであった。
【0128】
<実施例4>
フラスコに前記式(B−10)で表される配位子(50mg、0.066mmol)とセリウムトリフルオロメタンスルホネート(35mg、0.060mmol)を入れ、ここにエタノール(4mL)を加え溶解させた。室温下にて2.5時間撹拌後、撹拌を止めて、約4mLのジエチルエーテルを加えて一晩放置した。放置後に生成した固体を回収し、前記組成式(C−10)で表される金属錯体(以下、「金属錯体(C−10)」という。)を得た。収量51mg(収率63%)。
元素分析 Found(%)C:44.27、H:4.39、N:10.30、S:7.33、Calcd for C5058CeF10(%)C:44.47、H:4.33、N:10.37、S:7.12
金属錯体(C−10)は、紫外線励起(365nm)により固体粉末状態、溶液状態(アセトニトリル)で青色に発光した。
アセトニトリル中での発光スペクトルは421nmにピークを持ち、その発光量子収率は21%であり、励起寿命は73.8nsであった。
【0129】
<実施例5>
フラスコに前記式(B−11)で表される配位子(28mg、0.033mmol)とセリウムトリフルオロメタンスルホネート(18mg、0.030mmol)を入れ、ここにエタノール(2mL)を加え溶解させた。室温下にて2.5時間撹拌後、撹拌を止めて、約4mLのジエチルエーテルを加えて一晩放置した。放置後に生成した固体を回収し、前記組成式(C−11)で表される金属錯体(以下、「金属錯体(C−11)」という。)を得た。収量27mg(収率63%)。
元素分析 Found(%)C:43.12、H:4.84、N:9.15、S:6.30、Calcd for C5364CeF1011(%)C:43.33、H:5.02、N:9.19、S:6.31
金属錯体(C−11)は、紫外線励起(365nm)により固体粉末状態、溶液状態(アセトニトリル)で青色に発光した。
アセトニトリル中での発光スペクトルは406.5nmにピークを持ち、その発光量子収率は1.8%であり、励起寿命は62.7nsであった。
【0130】
<実施例6>
フラスコに前記式(B−12)で表される配位子(50mg、0.079mmol)とセリウムトリフルオロメタンスルホネート(45mg、0.077mmol)を入れ、ここにアセトニトリル(5mL)を加え溶解させた。室温下にて2時間撹拌後、撹拌を止めて、約150mLのジエチルエーテルを加えて一晩放置した。さらにヘキサン約10mLを加えて、放置後に生成した固体を回収し、前記組成式(C−12)で表される金属錯体(以下、「金属錯体(C−12)」という。)を得た。収量14mg(収率15%)。
元素分析 Found(%)C:39.96、H:3.23、N:11.35、S:8.35、Calcd for C4138CeF10(%)C:40.29、H:3.13、N:11.46、S:7.87
金属錯体(C−12)は、紫外線励起(365nm)により固体粉末状態、溶液状態(アセトニトリル)で青色に発光した。
アセトニトリル中での発光スペクトルは428nmにピークを持ち、その発光量子収率は24%であり、励起寿命は42nsであった。
【0131】
<実施例7>
フラスコに前記式(B−13)で表される配位子(50mg、0.062mmol)とセリウムトリフルオロメタンスルホネート(35mg、0.060mmol)を入れ、ここにエタノール(5mL)を加え溶解させた。室温下にて2時間撹拌後、撹拌を止めて、約20mLのジエチルエーテルを加えて一晩放置した。放置後に生成した固体を回収し、前記組成式(C−13)で表される金属錯体(以下、「金属錯体(C−13)」という。)を得た。収量41mg(収率43%)。
元素分析 Found(%)C:45.67、H:4.71、N:9.93、S:6.54、Calcd for C5362CeF10(%)C:45.78、H:4.49、N:10.07、S:6.92
金属錯体(C−13)は、紫外線励起(365nm)により固体粉末状態、溶液状態(アセトニトリル)で青色に発光した。
アセトニトリル中での発光スペクトルは428.5nmにピークを持ち、その発光量子収率は25%であり、励起寿命は56nsであった。
【0132】
<発光スペクトル>
図1に、金属錯体(C−1)および金属錯体(C−2)のアセトニトリル中での発光スペクトルを示す。
図2に、金属錯体(C−2)のスペクトルを2つのガウス型関数にてフィッティングしたものを示す。これらのガウス型関数のピーク間隔は1840cm−1であり、セリウムイオンの7/25/2のエネルギー状態の差を示している。すなわち、この発光は形成された錯体由来であることを示している。
【0133】
<温度耐久性>
下記に示される金属錯体(D−1)をAngew.Chem.Int.Ed.46,7399−7403(2007)記載に準じて合成した。金属錯体(D−1)と金属錯体(C−1)、(C−9)、(C−10)、(C−11)、(C−13)のアセトニトリル溶液(濃度は共に6μM)の発光スペクトルにおいて、35℃から50℃に温度を上げた結果、金属錯体(D−1)では発光強度が6%ほど減少したが、金属錯体(C−1)、(C−9)、(C−10)、(C−11)、(C−13)では発光強度は1%以下しか減少しなかった。
【0134】
【化29】

【0135】
<溶解性>
金属錯体(C−1)、(C−9)、(C−10)、(C−11)、(C−12)、(C−13)および金属錯体(D−1)について、有機溶媒に対する溶解性を試験した。具体的には、金属錯体(C−1)、(C−9)、(C−10)、(C−11)、(C−12)、(C−13)および金属錯体(D−1)が、25℃にて、クロロホルムに溶解するか否かを調べた。その結果、金属錯体(C−1)、(C−9)、(C−10)、(C−11)、(C−12)および(C−13)は、クロロホルムに易溶であったが、金属錯体(D−1)は、クロロホルムに難溶であった。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の金属錯体は、発光素子、スイッチング素子、光電変換素子、生体プローブ、造影剤、添加剤、改質剤、触媒等の材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選ばれる2個以上の原子を含む複素芳香環を含む5座以上の多座配位子、ならびに(b)セリウム、プラセオジム、イッテルビウムおよびルテチウムからなる群より選ばれる金属のイオンを含む金属錯体。
【請求項2】
前記金属錯体中に含まれる前記多座配位子が1個である、請求項1記載の金属錯体。
【請求項3】
前記複素芳香環がイミダゾール環または縮合イミダゾール環である、請求項1または2に記載の金属錯体。
【請求項4】
前記多座配位子が下記式(1)で表される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属錯体。
【化1】

(式中、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、2価の基または直接結合を表し、ZおよびZは、それぞれ独立に、窒素原子、リン原子または3価の基を表し、L、L、LおよびLは、それぞれ独立に、配位基または水素原子を表す。ただし、L、L、LおよびLのうち少なくとも1個は、下記式(2)または(3)で表される配位基である。)
【化2】

(式中、Rは、水素原子または置換基を表し、Rは置換基を表す。jは0〜2の整数を表す。RおよびRが互いに隣接する原子に結合した置換基を表す場合、RおよびRは、結合して環を形成していてもよい。j=2であり、2つのRが互いに隣接する炭素原子に結合した置換基を表す場合、2つのRは、互いに結合して環を形成していてもよい。)
【化3】

(式中、Rは置換基を表し、kは0〜3の整数を表す。k=2であり、Rが互いに隣接する炭素原子に結合した置換基を表す場合、Rは、結合して環を形成していてもよい。k=3である場合、4位の炭素原子に結合したRと5位の炭素原子に結合したRとは、互いに結合して環を形成していてもよい。)
【請求項5】
前記金属錯体が下記組成式(4)で表される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属錯体。
【化4】

(式中、Mは、セリウム、プラセオジム、イッテルビウムおよびルテチウムからなる群より選ばれる金属のイオンを表し、Xは、対イオンを表し、Lは、4座以下の配位子を表す。mは、0〜4の整数であり、nは、0以上の整数である。)
【請求項6】
前記多座配位子におけるR、R、R、RおよびRが、それぞれ独立に、下記式(5)で表される2価の基である、請求項4または5に記載の金属錯体。
【化5】

(ここで、QおよびQは、それぞれ独立に、置換されていてもよい2価のヒドロカルビル基または置換されていてもよい2価のヘテロシクリル基である。A、AおよびAは、それぞれ独立に、下記式:
【化6】

で表される基を表す。ここで、R100、R104およびR105は、置換されていてもよいヒドロカルビル基を表し、R101およびR102は、それぞれ独立に、置換されていてもよいヒドロカルビル基または置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基を表し、R103は、置換されていてもよいヒドロカルビル基または置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基を表す。aおよびcは、それぞれ独立に、0または1であり、bは0〜10の整数である。)
【請求項7】
前記多座配位子におけるR、R、RおよびRが、それぞれ独立に、置換されていてもよい2価のヒドロカルビル基である、請求項4〜6のいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項8】
前記多座配位子におけるZおよびZが窒素原子である、請求項4〜7のいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項9】
前記多座配位子が下記式(6)で表される、請求項4〜8のいずれか一項に記載の金属錯体。
【化7】

(式中、Rは、2価の基を表し、L、L、LおよびLは、それぞれ独立に、配位基または水素原子を表す。ただし、L、L、LおよびLのうち少なくとも1個は、前記式(2)または(3)で表される配位基である。)
【請求項10】
前記多座配位子におけるL、L、LおよびLが、それぞれ独立に、前記式(2)または(3)で表される、請求項4〜9のいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項11】
前記多座配位子が下記式(7)で表される、請求項4〜10のいずれか一項に記載の金属錯体。
【化8】

(式中、R10は、2価の基を表し、R11、R12、R13およびR14は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。)
【請求項12】
前記金属錯体が下記組成式(8)で表される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の金属錯体。
【化9】

(式中、R15は、2価の基を表し、R16、R17、R18およびR19は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表し、Mは、セリウム、プラセオジム、イッテルビウムおよびルテチウムからなる群より選ばれる金属のイオンを表し、Xは、対イオンを表し、Lは、4座以下の配位子を表す。mは、0〜4の整数であり、nは、0以上の整数である。)
【請求項13】
前記金属がセリウムである、請求項1〜12のいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の金属錯体、および電荷輸送材料を含む組成物。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の金属錯体、または請求項14に記載の組成物を用いてなる有機薄膜。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の金属錯体、請求項14に記載の組成物、または請求項15に記載の有機薄膜を用いてなる素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−116748(P2011−116748A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238408(P2010−238408)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】