説明

多方向入力装置およびこれを用いた電子機器

【課題】部品点数,組立工数が少なく、操作部材に組み付けた可動マグネットが脱落しにくく、高い部品精度,組立精度を必要としない多方向入力装置を提供する。
【解決手段】ベース10の上面に固着した環状固定マグネット35内に、環状可動マグネット49の少なくとも2面に直接接触するように組み付けた操作部材40を配置するとともに、前記環状固定マグネット35を被覆するカバー50の操作孔51から前記操作部材40を操作可能とした多方向入力装置である。そして、前記操作部材40をカバー50の下面に沿って摺動させることにより、前記ベース10に設けた検出素子25で前記環状可動マグネット49の磁力の変化を検出する一方、前記環状固定マグネット35および前記環状可動マグネット49の相互の反発力で前記操作部材40を中心位置に自動復帰可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多方向入力装置、特に、側方に摺動操作可能であり、携帯電話機、PC、PDA、テレビ、ビデオ等の電子機器に使用される多方向入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多方向入力装置としては、例えば、特許文献1の図1に開示されているように、円板状マグネット7,11の相互の反発力と、円環状マグネット9,10の相互の反発力とで操作部材2を浮上させ、かつ、中央に自動復帰する構成としたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−277982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述の多方向入力装置では、計4個のマグネットを必要とし、部品点数,組立工数が多く、生産性が低い。
また、前記操作部材2に組み付ける環状マグネット9は、その内周面だけが操作部材2に取り付けられているにすぎないので、保持強度が低い。このため、環状マグネット9は、外部からの衝撃力で落下するおそれがあり、それを防止するためには高い部品精度,組立精度を必要とするという問題点があった。
【0005】
本発明に係る多方向入力装置は、部品点数,組立工数が少ないとともに、操作部材に組み付けた可動マグネットが脱落しにくく、高い部品精度,組立精度を必要としない多方向入力装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る多方向入力装置は、前記課題を達成すべく、ベースの上面に固着した環状固定マグネット内に、板状可動マグネットの少なくとも2面に直接接触するように組み付けた操作部材を配置するとともに、前記環状固定マグネットを被覆するカバーの操作孔から前記操作部材を操作可能とした多方向入力装置であって、前記操作部材をカバーの下面に沿って摺動させることにより、前記ベースに設けた検出素子で前記板状可動マグネットの磁力の変化を検出する一方、前記環状固定マグネットおよび前記板状可動マグネットの相互の反発力で中心位置に前記操作部材を自動復帰可能とした構成としてある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、2個のマグネットだけで操作部材を浮上させ、かつ、中心位置に自動復帰可能としてあるので、部品点数,組立工数が少なく、生産性が向上する。
また、板状可動マグネットの少なくとも2面を操作部材に直接接触するように固定してあるので、板状可動マグネットの保持強度が高く、脱落しにくい。このため、高い部品精度,組立精度を必要とせず、生産性がより一層向上する。
特に、板状可動マグネットの少なくとも上面を操作部材で被覆すれば、外部から操作孔を介して板状可動マグネットまでの沿面距離が長くなり、ゴミ等が付着しにくくなる。
【0008】
本発明の実施形態としては、操作部材の外周面から側方に突設した環状鍔部の上下面のうち、いずれか一面に板状可動マグネットを組み付けた構成としてもよい。
本実施形態によれば、環状鍔部に板状可動マグネットが面接触することになるので、保持強度がより一層向上し、脱落しにくくなる。
【0009】
本発明の他の実施形態としては、操作部材の外周面から側方に突設した上下一対の環状鍔部の間に、板状可動マグネットを配置した構成としてもよい。
本実施形態によれば、板状可動マグネットの上下面が一対の環状鍔部に面接触することになるので、保持強度がより一層向上し、脱落しにくくなる。
【0010】
本発明の別の実施形態としては、環状鍔部の外周縁部に沿って板状可動マグネットの外側面に接する環状リブを突設した構成としてもよい。
本実施形態によれば、板状可動マグネットの少なくとも2面が操作部材に直接接触することになるので、保持強度の高い多方向入力装置が得られる。
また、環状リブが、環状固定マグネットと板状可動マグネットとの間に存在することになり、緩衝材としての役割を果たす。このため、マグネット同士が直接衝突することがなく、マグネットの損傷を防止できる。
【0011】
本発明の異なる実施形態としては、操作孔の直下に位置するベースの上面に、押しボタンスイッチを操作部材で操作可能に配置した構成としてもよい。
本実施形態によれば、操作部材の変位を検出できるだけでなく、選択指示も可能となり、多機能な多方向入力装置が得られる。
【0012】
本発明に係る電子機器は、前述の多方向入力装置の操作部材を、ハウジングの外部から操作可能に取り付けた構成としてある。
本発明によれば、部品点数,組立工数が少なくなり、生産性が高い電子機器が得られる。また、板状可動マグネットの保持強度が高く、脱落しにくいので、高い部品精度,組立精度を必要とせず、生産性がより一層高い電子機器を得られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1Aおよび図1Bは本発明に係る多方向入力装置の第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】図2A,図2Bおよび図2Cは図1で示した多方向入力装置の平面図、正面図および底面図である。
【図3】図2で示した多方向入力装置の分解斜視図である。
【図4】図2で示した多方向入力装置の下方から視た分解斜視図である。
【図5】図5Aは図1で示した多方向入力装置の平面図、図5Bおよび図5Cは図5AのB−B線断面図,C−C線断面図である。
【図6】図6Aは多方向入力装置の第2実施形態にかかる平面図、図6Bおよび図6Cは図6AのB−B線断面図,C−C線断面図である。
【図7】図7Aないし図7Dは第1実施形態に係る操作部材の平面図、正面図、断面図、底面図であり、図7Eないし図7Hは第3実施形態に係る操作部材の平面図、正面図、断面図、底面図である。
【図8】図8Aないし図8Dは第4実施形態に係る操作部材の平面図、正面図、断面図、底面図であり、図8Eないし図8Hは第5実施形態に係る操作部材の平面図、正面図、断面図、底面図である。
【図9】図9Aないし図9Dは第6実施形態に係る操作部材の平面図、正面図、断面図、底面図であり、図9Eないし図9Hは第7実施形態に係る操作部材の平面図、正面図、断面図、底面図である。
【図10】図10Aないし図10Dは第8実施形態に係る操作部材の平面図、正面図、断面図、底面図であり、図10Eないし図10Hは第9実施形態に係る操作部材の平面図、正面図、断面図、底面図である。
【図11】図11Aないし図11Dは第10実施形態に係る操作部材の平面図、正面図、断面図、底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る多方向入力装置の第1実施形態は、図1ないし図5に示すように、硬質プリント基板からなるベース10と、枠状ハウジング30と、環状固定マグネット35と、環状可動マグネット49を一体に組み付けた操作部材40と、カバー50と、から構成されている。
【0015】
前記ベース基板10は、図3および図4に示すように、平面略正方形であり、その一片から外部接続部11を延在してある。そして、前記ベース基板10は、その上面中央部に同心円上に配置された中央接点部13および環状接点部14を、ドーム状押しボタンスイッチ20で被覆する一方、その隅部にカシメ孔12をそれぞれ設けてある。前記ドーム状押しボタンスイッチ20はドーム状押しボタン部21の下面にドーム状可動接点22(図4参照)を貼着一体化してある。一方、前記ベース基板10は、その裏面中央部に検出素子25を接続するための接続部15を設けてある。さらに、前記ベース基板10の裏面には、前記検出素子25を保護するための嵌合孔27を設けたスペーサ26を貼着一体化してある。前記スペーサ26は、前記ベース基板10の下面から僅かに突出する後述するカシメ用突部33を逃がす役割を有している。このため、本実施形態に係る多方向入力装置を電子機器の取付面に取り付ける際に、平行かつ安定して固定できる。
【0016】
前記枠状ハウジング30は、前記ベース10に載置可能な平面形状を有するとともに、後述する環状固定マグネット35を嵌合可能な開口部31を有している。また、前記枠状ハウジング30は、その上面隅部に位置決め用突起32を突設してあるとともに、その下面隅部にカシメ用突部33を突設してある。
【0017】
前記環状固定マグネット35は、前記枠状ハウジング30の開口部31に嵌合可能な外径を有する一方、前記ドーム状押しボタンスイッチ20の外周縁部に載置可能な内径を有している。また、前記環状固定マグネット35は、後述する環状可動マグネット49と同様、半径方向に着磁することにより、前記環状固定マグネット35の内周面と環状可動マグネット49との外周面とが同極で対向し、相互に反発しあう。
【0018】
操作部材40は、その下端面に操作用突起41を設けてある一方、その外周面から環状鍔部42を側方に突設してある。さらに、前記環状鍔部42は、その下面外周縁部に沿って環状リブ43を突設し、環状可動マグネット49を嵌合,固定可能としてある。なお、操作部材40には、摺動性を改善するために摺動剤を添加し、摩擦係数を低減するようにしてもよい。
【0019】
カバー50は、前記枠状ハウジング30を被覆可能な平面略正方形であり、その中央部に操作孔51を設けてある一方、その隅部に位置決め孔52を設けてある。
特に、前記カバー50を磁性材で形成すれば、環状可動マグネット49の磁力でカバー50の下面に操作部材40が吸着し、面接触状態となる。このため、操作部材40が傾きにくくなり、安定な操作が可能になるという利点がある。
【0020】
次に、前述の構成部品の組立方法について説明する。
まず、ベース10の上面中央にドーム状押しボタンスイッチ20を装着する。一方、前記ベース10の裏面中央部の接続部15に検出素子25を装着するとともに、前記検出素子25にスペーサ26の嵌合孔27を嵌合し、前記ベース10にスペーサ26を貼着一体化する。
【0021】
そして、前記ベース10のカシメ孔12に枠状ハウジング30のカシメ用突部33を嵌合して位置決めし、カシメ固定する。ついで、前記枠状ハウジング30の開口部31に環状固定マグネット35を嵌合し、ドーム状押しボタンスイッチ20の外周縁部を抜け止めする。さらに、環状可動マグネット49を組み付けた操作部材40を前記枠状ハウジング30内に配置した後、前記枠状ハウジング30の位置決め用突起32にカバー50の位置決め孔52を嵌合,固定することにより、組立作業が完了する。
【0022】
ついで、前記多方向入力装置の操作方法について説明する。
例えば、前記多方向入力装置を図示しない携帯電話機に組み付けた場合、操作前では、前記操作部材40の環状可動マグネット49と環状固定マグネット35との相互の反発力で、前記操作部材40は上方に押し上げられて浮き上がり、操作孔51の中央から突出している。
そして、前記操作部材40を横方向に摺動させることにより、前記環状可動マグネット49の変位方向および変位量を検出素子25が検出し、検出データに応じた出力データを外部接続部11から外部回路に出力する。このため、前記操作部材40の操作によって前記携帯電話機のモニター内のアイコンが所定の位置まで移動する。そして、操作部材40を押し下げることにより、押しボタンスイッチ20のドーム状可動接点22が押し下げられて反転し、中央接点部13および環状接点部14を導通させ、選択指示信号を出力する。
【0023】
本実施形態では、図5Bに示すように、環状固定マグネット35と環状可動マグネット49との相互の磁力の反発力により、操作部材40が浮上するとともに、常に操作孔51の中央位置に自動復帰する。
また、操作部材40とカバー50の操作孔51の内側面との距離Xは、操作部材40の環状リブ43と環状固定マグネット35の内側面との距離Yよりも長い。このため、環状固定マグネット35に操作部材40の環状リブ43が当接するので、操作部材40がカバー50に当接することがなく、損傷することもない。
さらに、前記操作部材40の環状鍔部42の上面とカバー50の下面とが面接触しているので、前記操作部材40が傾きにくく、正確な操作が可能となる。
【0024】
なお、前記スペーサ26は、図6に示す第2実施形態のように、検出素子25と同等以上の厚さ寸法とすることにより、電子機器の取付面に多方向入力装置の本体を平行、かつ、安定して固定でき、前記検出素子25を、より一層確実に保護できるという利点がある。
【0025】
また、操作部材40は、図7Aないし図7Dに示す第1実施形態のように、環状可動マグネット49の3面に直接接触するので、組立作業が容易であり、生産性が高い。さらに、外部から環状可動マグネット49までの沿面距離が長くなるので、ゴミ等が付着しにくいという利点がある。また、例えば、図7Eないし図7Hに示す第3実施形態のように、前記環状可動マグネット49の3面を被覆し、かつ、その2面が直接接する場合であってもよい。
【0026】
さらに、操作部材40は、図8Aないし図8Dに示す第4実施形態のように、操作部材40の環状リブは必ずしも必要でなく、環状可動マグネット49が環状固定マグネット35に当接しない外径の環状鍔部42を有し、環状可動マグネット49の2面を直接接触させてもよい。また、環状可動マグネット49は環状鍔部42の下面にかぎらず、図8Eないし図8Hに示す第5実施形態のように、環状鍔部42の上面に載置してもよい。
【0027】
そして、操作部材は、図9Aないし図9Dに示す第6実施形態のように、環状鍔部42の上面に環状可動マグネット49を載置する場合であっても、前記環状鍔部42の外周縁部に環状リブ43を突設し、環状可動マグネット49の3面を直接接触させてもよい。また、図9Eないし図9Hに示す第7実施形態のように、環状可動マグネット49の上下面を環状鍔部42,44で被覆することにより、環状可動マグネット49の3面を直接接触させてもよい。
【0028】
さらに、操作部材40は、図10Aないし図10Dに示す第8実施形態のように、環状可動マグネット49の4面を鍔部42,44および環状リブ43で被覆してもよい。特に、可動マグネット49は円環形状に限らず、図10Eないし図10Hに示す第9実施形態のように、円板形状であってもよい。本実施形態によれば、より大きな磁力が得られるだけでなく、強度が向上するという利点がある。
【0029】
また、操作部材40は、図11Aないし図11Dに示す第10実施形態のように、円板状可動マグネット47の下面を露出させるだけでなく、その下面中央に操作用突部48を設けておいてもよい。
【0030】
なお、押しボタンスイッチは必ずしも必要ではなく、必要に応じて設ければよい。
また、検出素子25は操作部材40の横方向の変位だけでなく、上下方向の変位も検出できるようにしてもよい。
さらに、前述の実施形態のいずれもが、環状固定マグネット35と環状,円板状可動マグネット49,47とが直接当接することがないので、両者は損傷しにくい。
そして、環状固定マグネットおよび板状可動マグネットは平面円形に限らず、平面方形であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る多方向入力装置は、前述の実施形態に限らず、環状可動マグネット49の少なくとも2面を直接被覆する取付構造であればよい。
【符号の説明】
【0032】
10:ベース
13:中央固定接点
14:外周固定接点
20:ドーム状押しボタンスイッチ
21:ドーム状押しボタン部
22:ドーム状可動接点
25:検出素子
26:スペーサ
27:嵌合孔
30:枠状ハウジング
31:開口部
35:環状固定マグネット
40:操作部材
41:操作用突起
42,44:環状鍔部
43:環状リブ
47:円板状可動マグネット
49:環状可動マグネット
50:カバー
51:操作孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースの上面に固着した環状固定マグネット内に、板状可動マグネットの少なくとも2面に直接接触するように組み付けた操作部材を配置するとともに、前記環状固定マグネットを被覆するカバーの操作孔から前記操作部材を操作可能とした多方向入力装置であって、
前記操作部材をカバーの下面に沿って摺動させることにより、前記ベースに設けた検出素子で前記板状可動マグネットの磁力の変化を検出する一方、前記環状固定マグネットおよび前記板状可動マグネットの相互の反発力で中心位置に前記操作部材を自動復帰可能としたことを特徴とする多方向入力装置。
【請求項2】
操作部材の外周面から側方に突設した環状鍔部の上下面のうち、いずれか一面に板状可動マグネットを組み付けたことを特徴とする請求項1に記載の多方向入力装置。
【請求項3】
操作部材の外周面から側方に突設した上下一対の環状鍔部の間に、板状可動マグネットを配置したことを特徴とする請求項1または2に記載の多方向入力装置。
【請求項4】
環状鍔部の外周縁部に沿って板状可動マグネットの外側面に接する環状リブを突設したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の多方向入力装置。
【請求項5】
操作孔の直下に位置するベースの上面に、押しボタンスイッチを操作部材で操作可能に配置したことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の多方向入力装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の多方向入力装置を、その操作部材をハウジングの外部から操作可能に取り付けたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−192298(P2010−192298A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36554(P2009−36554)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】