説明

多条刈りコンバイン

【課題】3基以上の引起し装置を備えた多条刈りコンバインにおいて、各引起し装置にわたる上部の動力分配軸を省き、下部からの動力伝達を行うようにするにあたり、左右両端の引起し装置に対する外力に対する抗力を持ち、且つ、操縦部側への泥水の飛散を防止する。
【解決手段】3基以上の引起し装置7のうち、中間の引起し装置7を除く左右両端部の引起し装置7の上部どうしを、各引起し装置7への動力分配手段の内装空間を有していない上部連結部材40で連結し、この上部連結部材40を、相隣る引起し装置7どうしの間に形成される引起し経路の上側に位置する部分では、引起し経路を迂回し、かつ、引起し爪7eの引起し行程終端箇所の爪回動面の延長面7Lと交差するように、前後方向幅が爪回動面に沿う方向の幅よりも広い部材によって構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3基以上の引起し装置と、それらの引起し装置で引き起こされた植立穀稈を刈り取る刈取装置とを備えた前処理装置を、走行機体側から前方下方に向けて延設された刈取フレームの前端部側に支持させ、前処理装置で引起され刈取られた穀稈を走行機体上の脱穀装置に向けて後方搬送するように構成されている多条刈りコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の多条刈りコンバインにおいては、3基以上備えられる各引起し装置に対する動力の伝達は、例えば、特許文献1などで開示されているような構造が採用されていた。
この従来構造では、走行機体側に搭載されているエンジンからの動力が伝達される左右向きのカウンタ軸、カウンタ軸から前下方に向けて延設された刈取フレームに内装の主伝動軸、主伝動軸の前部に連結された左右向きの第1伝動軸、第1伝動軸の左右方向の一側端からその一側端側の引起し装置の上部に向けて立設された第2伝動軸、第2伝動軸の上部から左右他側端側の各引起し装置に対して動力を伝達するように架設された左右向きの動力分配軸、その動力分配軸から各引起し装置の上部に亘って垂下された複数の垂下軸、及び、それらを伝動連結するベベルギヤなどによって行うように構成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−177814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、各引起し装置の上部に亘って動力分配軸が掛け渡される構造であると、動力分配軸を引起し装置の背部に隠れる程度に低く配設した場合には、引起し装置により引き起こされた植立穀稈の穂先側が動力分配軸を外囲する伝動ケースに引っ掛かって、穂先側の搬送遅れや絡み付きなどに起因した搬送不良や搬送詰まりなどの搬送トラブルを招き易くなる。
このため、上記の従来技術では、上記の搬送トラブルを回避するために動力分配軸を引起し装置の上端よりも十分に高い位置に配設していたものであるが、このように動力分配軸を高く配設すると、次のような問題がある。
つまり、動力分配軸や垂下軸などを外囲する伝動ケースが大きく露出して見栄えが悪くなることから、それらを隠すための化粧カバーを設ける必要が生じるようになる。又、それらの伝動ケースや化粧カバーによって引起し装置直前箇所に対する操縦部からの見通しが悪くなり、それによって、刈り取り対象の植立穀稈に対してコンバインを正しく位置させる条合わせ作業などが行い難くなる不都合や、動力分配軸、垂下軸、及び、それらを外囲する伝動ケースなどが上部に配設されることによって重心位置が高くなり機体の重量バランスが悪くなる不都合があった。
【0005】
このような不都合を回避するために、各引起し装置の上部にわたる前記動力分配軸を排除し、各引起し装置に対する動力を、夫々の引起し装置に対して下方側から立設した個々の伝動軸を介して各別に伝達するように構成することも考えられなくもないが、このように構成すると、次のような新たな問題が生じる。
すなわち、各引起し装置の上端側では、隣り合う引起し装置どうしの間における穀稈通過経路が開放された状態となるため、引起し穀稈が動力分配軸などに邪魔されずにスムースに通過することができる点では有用なものであるが、その反面、各引起し装置の上端側では、これを支持する何らの支えもないので、特に左右両端側に位置する引起し装置では、未刈り穀稈を分草する際の分草抵抗を受けて変形したりする虞があった。
また、運転部近くの引起し装置では、その搬送経路の終端近くで回動して引起しケース内に引き込まれる爪からの振り回しに伴う泥水などが爪身方向に移動し、爪先端から飛散して操縦部側へ飛来する虞があった。
【0006】
本発明は、3基以上の引起し装置を備えた多条刈りコンバインにおいて、各引起し装置にわたる上部の動力分配軸を省き、下部からの動力伝達を行うようにするにあたり、左右両端の引起し装置に対する外力に対する抗力を持ち、且つ、操縦部側への泥水の飛散を防止することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために講じた本発明における多条刈りコンバインの技術手段は下記の点である。
〔請求項1にかかる発明〕
3基以上の引起し装置と、それらの引起し装置で引き起こされた植立穀稈を刈り取る刈取装置とを備えた前処理装置を、走行機体側から前方下方に向けて延設された刈取フレームの前端部側に支持させ、
刈取フレームの前端部に対して左右方向に沿わせて配置された横向き伝動ケース内に、走行機体側から動力を伝達される第1伝動軸を配置し、この第1伝動軸を介して前記各引起し装置に対する動力を各別に伝達するように構成した多条刈りコンバインにおいて、
前記3基以上の引起し装置のうち、中間に配置された引起し装置を除く左右両端部に配設された各引起し装置の上部どうしを、各引起し装置への動力分配手段の内装空間を有していない上部連結部材で連結すると共に、
この上部連結部材を、相隣る引起し装置どうしの間に形成される引起し経路の上側に位置する部分では、前記各引起し装置の上端より高く位置して引起し経路を迂回するように設け、かつ、左右両端部の各引起し装置に備えられた起伏自在な引起し爪の引起し行程終端箇所の爪回動面の延長面と交差するように、前記爪回動面に交差する前後方向幅が爪回動面に沿う方向の幅よりも広い部材によって構成してある。
【0008】
上記請求項1記載の発明によると、各引起し装置の上部に掛け渡された状態となる動力分配軸やその関連構造、ならびに、それらを外囲する伝動ケースや化粧カバーを高い位置に設ける必要がなく、機体重心が高くなることを避けられるという、各引起し装置間における穀稈通路上部を開放した形態の多条刈りコンバイン特有の作用のほかに、下記a.〜c.に記載の点に関する作用を奏する。
a.3基以上の引起し装置のうち、中間に配置された引起し装置を除く左右両端部に配設された各引起し装置の上部どうしを、各引起し装置への動力分配手段の内装空間を有していない上部連結部材で連結したものであるから、この上部連結部材自体には、動力分配手段を内装するための空間を要さず、単なる強度補償を行うだけの小型のもので構成することができる。
b.上部連結部材を、左右両端部の各引起し装置に備えられた起伏自在な引起し爪の引起し行程終端箇所の爪回動面の延長面と交差するように、前記爪回動面に交差する前後方向幅が爪回動面に沿う方向の幅よりも広い部材によって構成してあるので、この上部連結部材で爪身を伝って放出された水滴に対する障壁を構成し、終端での爪の振り回しにともなって爪に付着していた泥水が操縦部側へ飛散することを回避できる。
しかも、この上部連結部材は、爪回動面に交差する前後方向幅が爪回動面に沿う方向の幅よりも広い部材によって構成してあるので、操縦部に塔座する操縦者の視線に対しては、爪回動面に交差する前後方向幅よりも爪回動面に沿う方向の幅が広い部材によって構成した場合に比べて、より視界を広く保つことができる。
【0009】
請求項1記載の発明によると、下記の効果を奏する。
[イ]
3基以上の引起し装置のうち、中間に配置された引起し装置を除く左右両端部に配設された各引起し装置の上部どうしを、各引起し装置への動力分配手段の内装空間を有していない上部連結部材で連結したものであるから、この上部連結部材自体には、動力分配手段を内装するための空間を要さず、単なる強度補償を行うだけの小型のもので構成することができる。したがって、各引起し装置の上部に掛け渡された状態となる動力分配軸やその関連構造、ならびに、それらを外囲する伝動ケースや化粧カバーを高い位置に設ける必要がなく、機体重心が高くなったり、引起し装置直前箇所に対する操縦部からの見通しが悪くなることを避けながら、左右両端の引起し装置の強度を確保し、未刈り茎稈との分草を行う分草体の圧力などによる影響力に抗して、左右の引起し装置の所要強度を無理なく確保することができる。
[ロ]
上部連結部材を、左右両端部の各引起し装置に備えられた起伏自在な引起し爪の引起し行程終端箇所の爪回動面の延長面と交差するように、前記爪回動面に交差する前後方向幅が爪回動面に沿う方向の幅よりも広い部材によって構成してあるので、前述した前方視界を良好に保ちながら、引起し終端での爪の振り回しにともなって爪に付着していた泥水が操縦部側へ飛散することを回避できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】自脱型コンバインの前半部側面図
【図2】刈取搬送部の構成を示す平面図
【図3】刈取搬送部の構成を示す正面図
【図4】刈取搬送部の伝動構成を示す伝動系統図
【図5】横向き伝動ケースと左右の第2搬送装置の配置関係を示す平面図
【図6】横向き伝動ケースと左右の第2搬送装置との配置関係を示す展開図
【図7】横向き伝動ケースと左側の第2搬送装置との配置関係、及び左側の第2搬送装置の伝動構造を示す側面図
【図8】引起し装置と上部連結材との連結構造を示す背面図
【図9】左側引起し装置と上部連結材との連結構造を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔全体の構造〕
図1には自脱型コンバインの前半部側面が示されている。このコンバインは、左右一対のクローラ式走行装置1Aを備えた走行機体1の前部に、3条分の植立穀稈を刈り取って左上後方に向けて搬送する刈取搬送部2を、左右向きの軸芯P周りに上下揺動駆動可能に装備させた刈取フレーム12を介して連結してある。
そして、走行機体1の左側には、刈取搬送部2から刈取穀稈を受け取って脱穀・選別処理を施す脱穀装置3を、又、走行機体1の右側には、脱穀装置3からの選別処理後の穀粒を貯留する穀粒タンク4、及び、作業者が搭乗する操縦部5、などを搭載装備することによって、多条刈りコンバインの一例である3条刈り用コンバインが構成されている。
【0012】
図1〜4に示すように、刈取搬送部2は、植立穀稈の株元側に作用して分草する4基の分草具6と、分草具6を経て導入された植立穀稈を引き起こす3基の引起し装置7と、引起し装置7により引き起こし作用を受ける植立穀稈の株元側を切断するバリカン型の刈取装置8とを備えた前処理装置Aと、その前処理装置Aから後方の前記脱穀装置3とにわたって穀稈を掻き込み搬送する穀稈搬送装置Bとで構成されている。
【0013】
〔前処理装置の構造〕
前処理装置Aは、図1〜3及び図4に示すように、走行機体1の前部に上下揺動駆動可能に設けた刈取フレーム12に対して、各分装具6及び各引起し装置7と、刈取装置8とを支持させて構成されている。
【0014】
前記各引起し装置7は、斜め後傾姿勢に立設された引起ケース7a、引起しケース7aにおける植立穀稈引起こし経路側(引起し爪突出側)の上部に配備された駆動スプロケット7b、引起しケース7aの下部に配備された従動スプロケット7c、それらのスプロケット7b,7cに亘って巻き掛けられた回動チェーン7d、回動チェーン7dに引き起こし姿勢と格納姿勢とに姿勢変更可能な状態で一定間隔ごとに取り付けられた複数の引起爪7e、及び、引起しケース7aにおける戻り経路側の上部に配備されたテンションスプロケット7f、などで構成されており、引起こし経路側に引起爪7eを突出させた姿勢で上昇する引起爪7eの係止引き上げ作用によって植立穀稈の引き起しを行うようになっている。
さらに、上記引起し装置7は、図1及び図3に示すように、中間に配置された引起し装置7を除く左右両端側の引起し装置7の引起しケース7aどうしが、上部連結部材40を介して互いに一体的に固定連結されている。
【0015】
上部連結部材40は、少なくともその上部水平部分が、各引起し装置7への動力分配手段の内装空間を有していないところの、断面形状が浅い樋状、もしくはほぼ平板状に形成されており、構成素材としては、金属板、もしくは、硬質合成樹脂材料で構成されている。そして、図1,図3、及び図8,図9に示すように、左右両端側における引起しケース7aの背面側で動力伝達用の入力ケース側面にボルトナットなどの連結具を介して連結固定され、正面視ではほぼ門型に形成され、連結状態で左右の引起しケース7aの上端部の相互補強を行うように構成されている。
前記上部連結部材40は、相隣る引起し装置7どうしの間に形成される引起し経路の上側に位置する上面部分40Aでは、引起し穀稈の通過を阻害しないように、前記各引起し装置7の上端よりも高く位置して引起し経路を迂回するように設けられている。
また、この上部連結部材40の上面部分40Aは、左右両端部の各引起し装置7に備えられた起伏自在な引起し爪7eの引起し行程終端箇所の爪回動面の延長面7Lと交差するように、その延長面7Lに交差する前後方向幅が爪回動面に沿う方向の幅よりも広い部材によって構成してある。したがって、引起し爪7eが引起し経路終端で引起しケース7a内に引き込まれる際、爪先端側が振り回されて、その爪の爪身に付着していた泥水が遠心力で爪先端側に移動し、爪先端側から離れるような事態が生じても、爪先端側から離れた泥水の操縦部5側への飛散が、前記上部連結部材40の上面部分40Aとの衝突によって規制される。
さらに、前記上部連結部材40の断面形状が、爪回動面の延長面7Lに交差する前後方向幅が爪回動面に沿う方向の幅よりも広く形成されていることは、図1に示すように、操縦部5で運転座席に塔座する操縦者が、引起し装置7の前端箇所を目視する際の視界を極力狭めない状態で、前述の泥水の飛散防止、ならびに所要の連結強度を得る上で有効である。
【0016】
前記刈取装置8は、植立穀稈の株元近くを切断するように刈取フレーム12の下端近くに配設され、引起し装置7で穂先側が引き起こし作用を受け、株元側が後述する第1搬送装置による掻き込み作用を受けている状態の植立穀稈を切断するように構成されている。
【0017】
〔穀稈搬送装置の構造〕
前記穀稈搬送装置Bは、図1,図2,図4及び図5に示すように、前記刈取装置8による切断対象の植立穀稈(刈取穀稈)を、刈取装置8の前方側から後方に向けて掻き込み搬送する3基の第1搬送装置9、掻き込み搬送された刈取穀稈を左右中央側に寄せ集めながらさらに後方に向けて搬送する左右一対の第2搬送装置10、左右中央に寄せ集められた刈取穀稈を起立姿勢から横倒し姿勢に徐々に姿勢変更しながら後方の脱穀装置3に向けて供給搬送する第3搬送装置11で構成されている。
【0018】
各第1搬送装置9は、後方側に配備された駆動プーリ9a、前方側に配備された従動プーリ9b、及び、それらのプーリ9a,9bに亘って巻き掛けられた突起付き回動ベルト9c、などで構成された回動ベルト機構9Aと、各駆動プーリ9aの下方に配設された掻き込み輪体9Bとを備えており、回動ベルト機構9Aと掻き込み輪体9Bとの係止搬送作用によって刈取穀稈の掻き込み搬送を行うようになっている。
【0019】
左右一対の第2搬送装置10は、図2,図4,及び図7に示すように、夫々突起付き回動チェーン10d(搬送帯の一例)、などで構成された挾持搬送機構10Aと、上下2段の係止搬送機構10Bとを備えて構成されている。
左側の第2搬送装置10の挾持搬送機構10Aは、左側端部に配備された駆動スプロケット10a、左右中央部に配備された第1従動スプロケット10b、左側の第1搬送装置9における駆動プーリ9aと掻き込み輪体9Bとの間に配備された第2従動スプロケット10c、及び、それらのスプロケット10a〜10cに亘って巻き掛けられた突起付き回動チェーン10d、などで構成されている。
また、左側の第2搬送装置10の係止搬送機構10Bは、左側の第1搬送装置9における駆動プーリ9aの上方に配備された第1駆動スプロケット10e、その後方に配備された第1従動スプロケット10f、それらのスプロケット10e,10fに亘って巻き掛けられた第1回動チェーン10g、第1回動チェーン10gに一定間隔ごとに取り付けられた複数の第1係止搬送爪10h、第1従動スプロケット10fの上方に配備された第2駆動スプロケット10j、その後方に配備された第2従動スプロケット10k、それらのスプロケット10j,10kに亘って巻き掛けられた第2回動チェーン10m、及び、第2回動チェーン10mに一定間隔ごとに取り付けられた複数の第2係止搬送爪10n、などで上下2段構成されており、これらの各係止搬送機構10Bの係止搬送作用と、前記挾持搬送機構10Aの挾持搬送作用とによって刈取穀稈の寄せ集め搬送を行うように構成されている。
右側の第2搬送装置10は、図2,図4に示すように、右側端部に配備された駆動スプロケット10a、左右中央部に配備された第1従動スプロケット10b、右側の第1搬送装置9における駆動プーリ9aと掻き込み輪体9Bとの間に配備された第2従動スプロケット10c、及び、それらのスプロケット10a〜10cに亘って巻き掛けられた突起付き回動チェーン(搬送帯の一例)10d、などで構成された挾持搬送機構10Aのみを備えており、挾持搬送機構10Aの挾持搬送作用によって刈取穀稈の寄せ集め搬送を行うようになっている。
【0020】
図1,図2及び図4に示すように、第3搬送装置11は、左側後部に配備された駆動スプロケット11a、その左側に配備された第1従動スプロケット11b、右側の第2搬送装置10における第1従動スプロケット10bの上方に配備された第2従動スプロケット11c、及び、それらのスプロケット11a〜11cに亘って巻き掛けられた突起付き回動チェーン11d、などで構成された挾持搬送機構11Aと、駆動スプロケット11aの上方に配備された駆動スプロケット11e、右側の第1搬送装置9の後部上方に配備された従動スプロケット11f、それらのスプロケット11e,11fに亘って巻き掛けられた回動チェーン11g、及び、回動チェーン11gに一定間隔ごとに取り付けられた複数の係止搬送爪11h、などで構成された係止搬送機構11Bとを備えており、挾持搬送機構11Aの挾持搬送作用と係止搬送機構11Bの係止搬送作用により刈取穀稈の供給搬送を行って、刈取穀稈の株元側を脱穀装置3のフィードチェーン3aに渡すとともに、刈取穀稈の穂先側を脱穀装置3内に導くようになっている。又、第3搬送装置11の係止搬送機構11Bは、右側の第1搬送装置9の後部上方から脱穀装置3のフィードチェーン3aに亘るように構成されていることから、その前部側部分が、右側の第2搬送装置10の係止搬送機構10Bを補助して刈取穀稈の寄せ集め搬送を行うようになっている。
【0021】
〔伝動構造〕
図1及び図4に示すように、刈取搬送部2の上下揺動支点である軸芯P上には、右端部に図外のエンジンからの動力が伝達される入力プーリ13を備えた左右向きのカウンタ軸14が配設されており、このカウンタ軸14を介して、引起し装置7、刈取装置8、第1搬送装置9、第2搬送装置10、及び、第3搬送装置11に対する伝動を行うようにしている。
その伝動構造について詳述すると、図1,図2及び図4〜7に示すように、カウンタ軸14の左右中央部にはカウンタ軸14から前下方に向けて延出する主伝動軸15が、主伝動軸15の前端部には左右向きの第1伝動軸16の左右中央部が、第1伝動軸16の左右両端部には第1伝動軸16から対応する引起し装置7に亘る縦向きの第2伝動軸17の下端部が、第1伝動軸16の左右中央部には、前方に向く第3伝動軸33と、その第3伝動軸33の前端部から上方に向かう第4伝動軸34の下端部が、各第2伝動軸17と前記第4伝動軸34の上端部には対応する引起し装置7の駆動軸7gが、それぞれベベルギヤ18を介して伝動連結されている。
つまり、各引起し装置7には、カウンタ軸14に入力された動力を、筒状の刈取フレーム12の内部に配設された主伝動軸15、その刈取フレーム12の前端部に一体的に連結された筒状の横向き伝動ケース30の内部に配設された第1伝動軸16、及び、前記横向き伝動ケース30の左右各端部から上方に立設した縦向き伝動ケース31に内装された第2伝動軸17、横向き伝動ケース30の左右方向での中央部に一体に連結された前向き伝動ケース32に内装された第3伝動軸33、前記前向き伝動ケース32の前端部から上方に向けて立設した縦向き伝動ケース31に内装された第4伝動軸34を介して動力を伝達するように構成してある。
【0022】
その結果、各引起し装置7の上部に配備された駆動軸7gに亘って横架される動力分配軸などを設けなくても各引起し装置7に対する伝動を行えるようになり、それによって、それらを外囲する伝動ケースや見栄えを良くするための化粧カバーなどを各引起し装置7の上部に設ける必要がないので、その分、構成の簡素化並びに製造コストの低減化を図れるとともに、重心位置を低く抑えることができて機体の重量バランスの安定化を図れるようになる。又、各引起し装置7により引き起こされた植立穀稈の穂先側が動力分配軸などを覆う伝動ケースや化粧カバーに引っ掛かることがないので、その引っ掛かりに起因した、穂先側の搬送遅れや絡み付きなどによる搬送不良や搬送詰まりなどの搬送トラブルの発生を未然に回避できるようになる。その上、図3に示すように、各引起し装置7の上部同士の間が開放されて引起し装置7の直前箇所にある分草具6などに対する操縦部5からの見通しが良くなることから、刈り取り対象の植立穀稈に対してコンバインを正しく位置させる条合わせ作業などが行い易くなっている。
【0023】
図1,図2及び図4〜7に示すように、縦向き伝動ケース31のうち横向き伝動ケース30の左右両端側に位置するものは、下部縦向き伝動ケース31Aと上部縦向き伝動ケース31Bとに分割形成され、この左右両端側の縦向き伝動ケース31に内装される左右の第2伝動軸17は、ベベルギヤ17aを介して伝動連結される下部軸部分17bと上部軸部分17cからなる2分割構造に構成されている。
また、縦向き伝動ケース31のうち横向き伝動ケース30の左右中間部に位置する縦向き伝動ケース31は、横向き伝動ケース30の左右方向での中央部に一体に連結された前向き伝動ケース32の前端部に一体に連結固定された一本の筒状ケース31Cで構成され、その左右中間部の縦向き伝動ケース31に内装される第4伝動軸34も、上下の分割軸ではなく一本の連続した伝動軸で構成されている。
前記左右の下部縦向き伝動ケース31Aに内装される左右の下部軸部分17bは、対応する左右の引起し装置7の上部に向かう状態で、又、中央の第4伝動軸34へ動力を伝達する第3伝動軸33は、対応する中央の引起し装置7の下部に向かう前向き状態で、それぞれが第1伝動軸16に対して直角に設定されている。
左右の上部軸部分17cは、対応する左右の引起し装置7の駆動軸7gに向けて中央側に傾倒する状態で、又、中央の第4伝動軸34は、対応する中央の引起し装置7の駆動軸7gに向けて前傾する状態で、引起し装置7の駆動軸7gに亘るように姿勢設定されている。
左右の下部軸部分17bには、対応する第2搬送装置10の挾持搬送機構10Aの駆動スプロケット10aが一体回転するように外嵌装着されている。つまり、左右の第2伝動軸17の下部軸部分17bを第2搬送装置10の駆動軸に兼用した状態で、対応する左右の第2伝動軸17と第2搬送装置10とを連動連結している。
【0024】
左側の第2搬送装置10においては、挾持搬送機構10Aの第2従動スプロケット10cと下段の係止搬送機構10Bの第1駆動スプロケット10eとが、左側の掻き込み輪体9Bと第1回転軸10pとを介して一体回転するように連結されている。又、下段の係止搬送機構10Bの第1従動スプロケット10fと上段の係止搬送機構10Bの第2駆動スプロケット10jとが第2回転軸10qを介して一体回転するように連結されている。つまり、左側の第2搬送装置10においては、第2伝動軸17からの動力を挾持搬送機構10Aを介して上下の係止搬送機構10Bに伝達するようにしている。
【0025】
左右の各第1搬送装置9における駆動プーリ9aと掻き込み輪体9Bは、対応する左右の第2搬送装置10における挾持搬送機構10Aの第2従動スプロケット10cと一体回転するように連結されている。一方、中央の第1搬送装置9は、その駆動プーリ9aと掻き込み輪体9Bとが一体回転するように連結されるとともに、その掻き込み輪体9Bが右側の第1搬送装置9の掻き込み輪体9Bに噛合されている。つまり、対応する左右の第2搬送装置10と第1搬送装置9とを連動連結するとともに、右側の第1搬送装置9に中央の第1搬送装置9を連動連結して、第2伝動軸17からの動力を第2搬送装置10を介して各第1搬送装置9に伝達するようにしている。
【0026】
要するに、左右の引起し装置7に伝動する左右の第2伝動軸17に左右の第2搬送装置10を連動連結するとともに、それら左右の第2搬送装置10を介して、左右の第2伝動軸17からの動力を各第1搬送装置9に伝達することにより、下方の第1伝動軸16から各第1搬送装置9及び第2搬送装置10に伝動する縦軸や、第1伝動軸16と縦軸とを伝動連結するベベルギヤ又はウォームギヤなどを設けて、第1搬送装置9及び第2搬送装置10に対する専用の伝動部を構成しなくても、第1搬送装置9及び第2搬送装置10に伝動することができるので、第1搬送装置9及び第2搬送装置10に対する伝動構造の簡素化、及び、製造コストの低減化を図れるとともに、その伝動構造の簡素化によって、刈取穀稈とともに搬送される泥や雑草などの刈り取り搬送経路から下方への通過性を良くすることができて、刈り取り搬送経路に泥や雑草などが堆積することに起因した刈取穀稈の搬送不良や搬送詰まりなどの搬送トラブルを招き難くすることができるようになっている。
【0027】
又、左側の第2伝動軸17に連動連結される左側の第2搬送装置10には、係止搬送機構10Bを備えるとともに左側の第1搬送装置9を連動連結し、右側の第2伝動軸17に連動連結される右側の第2搬送装置10には、係止搬送機構10Bを備える代わりに右側の第1搬送装置9と中央の第1搬送装置9とを連動連結するようにしていることから、左右の第2伝動軸17にかかる伝動負荷の均衡化を図れるようになっている。
【0028】
そして、上記の左右一対の第2搬送装置10は、その挾持搬送機構10Aの搬送終端側における搬送作用部分を互いに相対向させた合流搬送経路Rを、相対向する側の第2搬送装置10との間に導入された刈取穀稈の株元を両側から挾持して同方向に搬送するようにほぼ平行に形成された平行搬送部10rによって構成してある。
この平行搬送部10rは、前記第1伝動軸16を内装する横向き伝動ケース30の上方位置で、かつ横向き伝動ケース30の前方側から後方側にわたって横向き伝動ケース30を跨ぐ状態に配設されている。
また、この第2搬送装置10の平行搬送部10rは、前記左右中間位置の引起し装置2への伝動用の第4伝動軸34に対しては、これから外れた前方位置に配設してあって、寄せ集められる穀稈が第4伝動軸34の存在によって移動を妨げられることなく合流搬送経路Rに寄せ集められるように構成されている。
そして、この第2搬送装置10の平行搬送部10rで構成される合流搬送経路Rの向きは、その合流搬送経路Rでの穀稈移動方向が、後述する第3搬送装置11の搬送始端部における穀稈移動方向とほぼ一致するように方向付けられている。
【0029】
図4及び図6に示すように、刈取装置8は、その可動刃(図示せず)が、第1伝動軸16にベベルギヤ19を介して伝動連結されたクランク軸20に連係されている。つまり、刈取装置8には第1伝動軸16からの動力を伝達するようにしている。
【0030】
図1,図2及び図4に示すように、第3搬送装置11は、カウンタ軸14の左端部にベベルギヤ21を介して伝動連結された縦搬送伝動軸22に、挾持搬送機構11Aの駆動スプロケット11aと係止搬送機構11Bの駆動スプロケット11eが一体回転するように外嵌装着されている。つまり、第3搬送装置11には、カウンタ軸14からの動力を縦搬送伝動軸22を介して伝達するようにしている。
【0031】
第3搬送装置11は、電動モータを駆動源とする図外の電動操作機構の作動で、後部支点となるカウンタ軸14の軸芯P周りで揺動して姿勢変更するように構成されている。この構成から、第3搬送装置11を軸芯P周りに揺動操作することによって、第1搬送装置9及び第2搬送装置10により搬送される刈取穀稈に対する第3搬送装置11の前端側の位置を刈取穀稈の稈長方向で調節することができ、これによって、刈取穀稈長さなどに応じた脱穀装置3に対する刈取穀稈穂先側の導入長さを調節できるようになっている。つまり、第3搬送装置11は、その後端部に設定された軸芯P周りでの揺動で脱穀装置3による刈取穀稈の扱深さを調節する扱深さ調節機構として機能するように構成されている。
このときの第3搬送装置11の前記軸芯P周りでの揺動によっては、第3搬送装置11の始端部の搬送方向は変化せず、したがって、前記第2搬送装置10の合流搬送経路Rでの搬送方向に沿う状態が保たれたままでの扱き深さ変更が行われる。
【0032】
又、第3搬送装置11は、通常、刈取穀稈が短い場合には下降揺動操作され、逆に、刈取穀稈が長い場合には上昇揺動操作されることによって、刈取穀稈が短いことに起因した浅扱きの発生や、刈取穀稈が長いことに起因した深扱きの発生を防止するようになることから、第3搬送装置11の係止搬送機構11Bにおける前部側部分を係止搬送機構10Bの補助搬送手段に兼用する右側の第2搬送装置10においては、刈取穀稈の寄せ集め搬送を刈取穀稈の長さに関係なく好適に行えるようになり、又、これに対し、左側の第2搬送装置10においては、先述のように上下2段の係止搬送機構10Bを備えることから、刈取穀稈の寄せ集め搬送を刈取穀稈の長さに関係なく好適に行えるようになっている。
【0033】
図1及び図5〜7に示すように、カウンタ軸14や主伝動軸15などの引起し装置7、刈取装置8、第1搬送装置9、第2搬送装置10、及び、第3搬送装置11に対する各伝動系は刈取フレーム12に内装されている。
つまり、刈取フレーム12は、それらの伝動系を外囲する伝動ケースに兼用可能に構成されている。そのため、刈取フレーム12において、左右の第2伝動軸17の下部軸部分17bを外囲する伝動ケースとなるフレーム部分12Aには、第2搬送装置10の突起付き回動チェーン10dの挿通を許容する開口12aを形成し、この開口12aから、下部軸部分17bに装着された駆動スプロケット10aに突起付き回動チェーン10dを巻き掛けるようにしている。
【0034】
〔別実施形態〕
以下、本発明の別実施形態を列記する。
[1] コンバインとしては、4条以上の刈り取り作業を行うように構成されたものであってもよい。
[2] 上部連結部材40の断面形状としては、所要の強度を有したものであればどのような断面形状のものであってもよく、また、透明または半透明の合成樹脂材で構成しても良い。
【符号の説明】
【0035】
1 走行機体
3 脱穀装置
7 引起し装置
7e 引起し爪
8 刈取装置
9 第1搬送装置
10 第2搬送装置
11 第3搬送装置
12 刈取フレーム
15 主伝動軸
16 第1伝動軸
17 第2伝動軸
30 横向き伝動ケース
33 第3伝動軸
34 第4伝動軸
40 上部連結材
A 前処理装置
B 穀稈搬送装置
P 後部支点
R 合流搬送経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3基以上の引起し装置と、それらの引起し装置で引き起こされた植立穀稈を刈り取る刈取装置とを備えた前処理装置を、走行機体側から前方下方に向けて延設された刈取フレームの前端部側に支持させ、刈取フレームの前端部に対して左右方向に沿わせて配置された横向き伝動ケース内に、走行機体側から動力を伝達される第1伝動軸を配置し、この第1伝動軸を介して前記各引起し装置に対する動力を各別に伝達するように構成した多条刈りコンバインであって、
前記3基以上の引起し装置のうち、中間に配置された引起し装置を除く左右両端部に配設された各引起し装置の上部どうしを、各引起し装置への動力分配手段の内装空間を有していない上部連結部材で連結すると共に、
この上部連結部材を、相隣る引起し装置どうしの間に形成される引起し経路の上側に位置する部分では、前記各引起し装置の上端より高く位置して引起し経路を迂回するように設け、かつ、左右両端部の各引起し装置に備えられた起伏自在な引起し爪の引起し行程終端箇所の爪回動面の延長面と交差するように、前記爪回動面に交差する前後方向幅が爪回動面に沿う方向の幅よりも広い部材によって構成してある多条刈りコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−193899(P2010−193899A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104476(P2010−104476)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【分割の表示】特願2000−377173(P2000−377173)の分割
【原出願日】平成12年12月12日(2000.12.12)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】