説明

多様な植物細胞の凍結保存方法

【課題】植物細胞の凍結保存方法および長期間もしくは短期間に亙る凍結保存から生存植物細胞を回復する方法を提供する。
【解決手段】1)凍結保存剤および安定剤により予備処理した植物細胞を、低温に順化し、ローディング剤をローディングし、ガラス化溶液によりガラス化し、凍結保存温度で凍結する、植物細胞の凍結保存方法、2)凍結保存された生存植物細胞、3)前記細胞を解凍し、凍結保護剤および安定剤を含む培地内でインキュベートした後、凍結保護剤を除去して生存植物細胞を回復する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への言及
本出願は、1995年6月7日に出願された合衆国特許出願第08/486,204号の一部継続出願である。
【0002】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、植物細胞の凍結保存方法、および、凍結保存された植物細胞の回復方法に関する。本発明はまた、凍結保存から好首尾に回復された植物、生存植物細胞および植物細胞培養組織に関する。
【0003】
2.背景の説明
凍結保存(cryopreservation)は、超低温で保存することにより生体物質の代謝機能を減退してから停止することに基づいている。また、遺伝子変化を起こさずに植物および植物細胞を長期間に亙り凍結保存したり、それに引続き、特性および生合成能力を変化させずに通常の植物細胞を回復することは、植物繁殖、生体医学調査および遺伝子工学と重要な関係を有している。更に、液体窒素の温度(-196℃)では、細胞は殆ど全ての代謝作用を停止すると共に、この停止し乍らも生存可能な状態で長期に亙って保持され得る。
【0004】
植物セルを凍結保存するのは、汚染による損傷を防止すると共に、連続的な細胞系統における遺伝子変化を最小限にし且つ有限細胞系統における老化および形質転換を回避する為である。この点、所望の植物特性を保存する上で従来は田畑に植物の群生を作り出していた、と言うのも、多くの植物は種子からは実際には繁殖しないからである。しかし乍ら、この様に植物を田畑で貯蔵するには多大な労力および土地が必要であると共に、気候、病気もしくは他の危険により損傷を受ける危険性が高い。田畑の群生に代わるものとしては、通常のもしくは制限された増殖条件下で植物組織を試験管内で培養する手法がある。但し、長期間の貯蔵に対しては、定常的な継代培養を行わない方が望ましい、と言うのも、組織培養に伴う変異、汚染、労務費用、および、人為的誤操作の危険性の問題があるからである。
【0005】
植物を含む殆どの生体物質は、凍結保護用の薬剤および処理がなければ、凍結温度への凍結およびそこからの解凍に耐えることな出来ない。多くの凍結保存剤は、極低温凍結(cryogenic freezing)による悪影響から細胞を保護し得る特性を有している。凍結保存の本質とは、損傷を最小限に制御した手法で細胞の脱水および細胞質ゾルの濃縮を行い、例えば液体窒素内での急冷中における細胞質ゾル内での氷結晶を排除もしくは最小限にすることである。
【0006】
従来の凍結保存処理においては、細胞の脱水は懸濁培地を凍結により濃縮することで行われていた。また、脱水による有害な効果は、凍結保護剤(cryoprotective agent)の存在により緩和されていた。即ち、細胞および器官などの試料は、まずジメチルスルホキシド(DMSO)もしくはエチレングリコールなどの凍結保存剤(cryopreservation agent)を含む溶液中で平衡化される。この懸濁液は、その凝固点よりも僅かに低い温度にて氷結晶を散布することにより冷却される。更に、この懸濁液は約-30℃と約-40℃との間などの中間的な零度以下の温度に最適な速度で再度冷却され、最終的に液体窒素内で急冷される。
【0007】
微生物、接合体、および、接合体から得られた動物に対しては、常用の極低温保存が可能であるが、植物細胞の凍結保存は通常的なものから程遠く、植物の個々の種に対して別個のプロトコルが必要なことも多い。
【0008】
ところで、イチイ(taxus)の木はタキソール(taxol)を生成するが、これはPacific yewの樹皮から最初に分離されたジテルペンアルカロイドである。イチイbrevifolia(M.C.Wani et al., J.米国化学協会 93:2325-27.1971)を参照。実験によれば、この化合物は不当な毒性を発揮することなく哺乳類の微小管の重合を効果的に抑制することから、効果的な腫瘍阻害剤である。また、臨床的追跡によれば、不応性卵巣、乳ガンおよび他のガンに対してタキソールが極めて効果的であることが立証された。従って、タキソールは化学療法における画期的な発見である、と言うのも、その基本的な作用機構は従来の化学療法剤とは異なり、独特かつ根本的なものだからである(L.A.Rowinsky et al.,国立ガン研究所、82:1247-59.1990)。
【0009】
タキソールの収支における最も気力を挫かせる変数は、その供給である。ひとりの患者を処置するのに樹齢百年のPacific yewを3本ないし6本も必要とする、と言うのも、タキソールの平均的な収量が低いからである(Witherup et al.,1990)。従って、処置および試験用に大量のタキソールを製造するとすれば、数万本のイチイ(yew)を切り倒す必要がある。この点イチイの数は伐採により殆ど絶滅していると共にPacific yewの数は減少していることから、医学的な研究を行う上では別の形態によるタキソールの供給源を探さねばならない。タキソールの有用性、および、植物細胞中から増殖もしくは収穫され得る他の多くの化合物は、“イチイ”および他の植物細胞の培養に対する興味を促進した。
【0010】
然るに、植物細胞の生合成能力に対してそれらを培養することは、現在のテクノロジに特別の問題を賦課する。即ち、長期間に亙り植物細胞を培養すると、当初の分離物に存在した生合成能力が損なわれる結果になることが多い(Dhoot et al.,Ann.Bot.41:943-49,1977;Barz et al.,Ber.Dtsch.Bot.Ges.94:1-26,1981)。また、表現型の変化も起き、細胞培養を更に複雑なものとする。植物細胞、特に“イチイ(taxus)”を凍結する為のプロトコルは、タキソールなどの有用な植物アルカロイドの製造を行う生合成方法を開発する上で重要なステップである。
【発明の開示】
【0011】
発明の要約
本発明は、現在の方法および対策に伴う問題および不利益を克服すると共に、植物細胞を凍結保存し且つ凍結保存された生存植物細胞を回復する方法を提供する。
【0012】
本発明の一実施例は、植物細胞の凍結保存方法に関する。裸子植物もしくは被子植物ともされ得る植物細胞は、凍結保護剤および安定剤により予備処理されると共に、低温に順化される。例えば2価の陽イオンなどの安定剤は、細胞膜を破裂から保護する。予備処理は、エチレン作用阻害剤もしくはエチレン生合成阻害剤などのエチレン阻害剤を含み得る。また、予備処理された植物細胞はガラス化(vitrification)されると共に凍結保存温度で凍結される。2価の陽イオンは、ガラス化段階もしくはローディング段階で含ませても良い。順化された細胞には、ガラス化剤と同一ともされ得るローディング剤がローディングされ、ローディングされた細胞はガラス化溶液によりガラス化される。ガラス化された植物細胞は、例えば約−70℃と約−200℃との間もしくはそれ以下の凍結保存温度にて凍結される。
【0013】
本発明の別実施例は、植物細胞の凍結保存方法に関する。凍結保存されるべき植物細胞は、凍結保護剤、エチレン阻害剤、2価陽イオンもしくは熱ショック蛋白質により予備処理されると共に、低温に順化される。エチレン阻害剤は、エチレン作用阻害剤もしくはエチレン生合成阻害剤としても良い。順化された植物細胞はガラス化されると共に凍結保存温度で凍結される。
【0014】
本発明の別実施例は、植物細胞の凍結保存方法に関する。凍結保存されるべき植物細胞は、ガラス化剤および安定剤を含む培地中で低温にて第1期間に亙り培養される。培養された植物細胞は更に、濃度の高いガラス化剤を含む培地内で第2期間に亙り培養される。高濃度のガラス化試薬中でガラス化された植物細胞は、凍結保存温度で凍結される。
【0015】
本発明の別実施例は、植物細胞の凍結保存方法に関する。凍結保存されるべき植物細胞は真空蒸発により凍結乾燥されると共に、ガラス化溶液中でガラス化される。凍結乾燥(lyophilization)によれば細胞から約60%の水分が除去されるが、ガラス化と組合せれば約95%までも除去することが可能である。ガラス化されると共に凍結乾燥された植物細胞は、例えば細胞を液体窒素中で急冷することにより、凍結保存温度で凍結されかつ保存される。
【0016】
本発明の別実施例は、植物細胞の凍結保存方法に関する。凍結保存されるべき植物細胞は熱ショックにより予備処理される。熱ショックによれば、プロテインの搾りが誘発され、細胞膜の破裂が部分的に安定する。予備処理は、エチレン作用阻害剤もしくはエチレン生合成阻害剤などのエチレン阻害剤を含み得る。予備処理された植物細胞は、ガラス化されると共に凍結保存温度で凍結される。2価陽イオンは、予備処理もしくはガラス化段階、または、ローディング段階で含ませても良い。
【0017】
本発明の別実施例は、凍結保存から植物細胞を回復する方法に関する。植物細胞は、本発明に係る方法で凍結保存される。解凍された植物細胞は、凍結温度以上の温度に暖められ、凍結保護剤および安定剤を含む培地中でインキュベート(incubate)される。浸透剤は除去され、生存植物細胞が回復される。
【0018】
本発明の別実施例は、凍結保存から植物細胞を回復する方法に関する。植物細胞は、本発明に係る方法で凍結保存される。解凍された植物細胞は、凍結温度以上の温度に暖められ、エチレン阻害剤、酸素ラジカル捕捉剤、2価陽イオン、凍結保護剤もしくはこれらの組合せを含む培地内でインキュベートされる。生存する植物細胞は回復されて活力のある回復再増殖が見られると共に、細胞懸濁液中に迅速に設置される。
【0019】
本発明の別実施例は、凍結保存された植物細胞を凍結保存から回復する方法に関する。凍結保存された植物細胞は凍結温度以上の温度に解凍され、凍結保護剤および安定剤を含む培地内でインキュベートされる。凍結保護剤は、細胞の混合物やペレットを希釈するなどして除去され、生存する植物細胞が回復される。
【0020】
本発明の別実施例は、本発明の方法により凍結保存された生存植物細胞に関する。凍結保存された植物細胞は、凍結保存により遺伝子的にもしくは表現型的にそれほど変化しない。
【0021】
本発明の別実施例は、凍結保存された植物細胞を懸濁液中で回復する方法に関する。凍結保存された植物細胞は、凍結温度以上の温度に解凍される。解凍された植物細胞は懸濁液体中でインキュベートされ、生存細胞は固体もしくは半固体培養を必要とせずに液状培地中で回復される。
【0022】
本発明の別実施例は、本発明の方法により凍結保存された植物および植物細胞と、本発明の方法により回復された生存植物および植物細胞に関する。細胞は凍結保存プロセスにより遺伝子的にもしくは表現型的にそれほど変化せず、高い生存率を示した。
【0023】
本発明の他の実施例および利点は、以下の説明に部分的に示されると共にこの説明から明らかになり、又は、本発明の実施から知れるであろう。
発明の説明
本明細書中で実施される共に広範に記載された様に、本発明は、植物細胞の凍結保存方法、凍結保存された植物細胞の回復方法、および、凍結保存から好首尾に回復された生存植物細胞に関する。
【0024】
植物細胞は、植物、または、植物細胞の酵素経路に特有な、組換えプロテインもしくは独特の製品および化学試薬の製造に対して用途が拡大している。カルスなどの植物細胞の培養は、継代培養を反復することで連続状態で維持され得る。しかし乍ら、継代培養はしばしば、染色体数の増大、汚染の危険性の増大、自然変異の蓄積、形態学的能力の減衰および喪失、生成物の生合成能力の減少、野性型への選択された細胞系統の先祖返り、老化および悪性転換、無限細胞系統および望ましくない表現型の意図しない選択、に帰着することも多い。これらの要因の各々は、市販の高価な化合物を製造する細胞培養システムの開発を相当に妨げるものである。
【0025】
動物組織を培養する際、細胞は数年に亙り凍結保存されるのが通常的であるが、同様の凍結保存技術を植物細胞に対して適用することは相当に困難であることが立証されている。植物細胞、特に培養中の植物細胞は、増殖速度、倍加時間、分裂指数、細胞の同調(cell synchrony)、核/細胞質比、および、液胞化(vacuolation)の度合に関して種々の不均一性を示す。また、所定の培養中に存在する細胞は、生理的および形態的に種々の変化を示す。更に、植物細胞の懸濁液および接着性の細胞培養は、凍結保存に対して異なるプロトコルを必要とする。更に、不適切に実行された場合、凍結保存はそのプロセスが正に回避せんとした変異を誘起することもあり得る。
【0026】
驚くべきことに、一連の段階および特定の試薬を使用することにより、任意の属および種の植物細胞の殆どが凍結保存されると共に好首尾に回復され得ることが発見された。これらの方法は、好首尾な植物細胞の凍結保存は細胞から相当の量の水分を除去すると共に、適切な条件下にて細胞の生存度に重大な影響を与えること無く重要な量の水を除去し得る、という観察結果に基づいている。案出された凍結保存プロトコルは、通常的な再生手法により生存細胞を貯蔵、維持かつ回復する上で非常に好結果であった。これらのプロトコルは、通常の単位操作にて確立され、生殖質の保存および細胞の保存の管理システムを創造することが可能となる。これに加え、植物培養に関してはこれまで不可能と考えられていたプロセスである懸濁液中において細胞を全体的に回復することも可能となる。また、凍結保存された細胞から収穫された製品は、元のすなわち親細胞からそれほど変化していない、と言うのも、特に増殖および生存度、生成物形成および細胞バイオマス増殖に関して表現型もしくは遺伝子型の変動が殆ど無いからである。そのような変動は、観察可能なもしくは定量可能な表現型もしくは形態の変化から決定される。これらの変化は、それらが表現型のパラメータを少なくない程度で減少させたときに重要となる。
【0027】
本発明のひとつの実施例は、植物細胞の凍結保存方法に関する。驚くべきことに、これらの方法は多くの種類の植物細胞に対して再現かつ適用することができる。従って、それらは、再現性に関して政府もしくは省庁の基準を必要とする物質製造に対して極めて有用である。
【0028】
基本的なプロセスは、予備処理(例えば、2価陽イオン、ラジカル捕捉剤、もしくは熱ショック等の凍結保存剤もしくは安定剤による予備培養)、低温順化、段階的なもしくは単一回で回分量をローディングしもしくはガラス化し、凍結乾燥し、凍結し、解凍する段階を組合せることにより、細胞からの相当の量の水分を除去する段階を含んでいる。これらの段階を非常に広範囲に組合せることが可能であるが、各ステップは、生存植物細胞の特質と増殖特性とを望ましいものに保つべく植物細胞を好首尾に凍結保存かつ回復する上で必ずしも必要とされるものではない。これらのステップの可能な組合せの種々の実施例の幾つかは図1(A)、(B)および(C)に概略的に示されているが、これらの各変更例が単なる例示的なものであることは理解される。植物の各型(たとえば、綱、目、科、属、種、亜種および変種)は、凍結保存からの回復を最大限にするそれ自身の一連の好適条件を確実に有している。本明細書中に開示された選択的な変更例からは、凍結保存に対する最適なパラメータが容易に決定され得る。
【0029】
裸子植物および被子植物を含め、これらのプロセスを用いることにより殆どの植物の細胞は好首尾に凍結保存かつ回復され得る。凍結保存され得る裸子植物の詳細な種類は、モミ属(Abies;firs)、イトスギ属(Cypressus;cypresses)、イチョウ属(Ginkgo;maidenhair tree)、ビャクシン属(Juniperus;juniper)、トウヒ属(Picea;spruce)、マツ属(Pinus;pine)、トガサワラ(ベイマツ)属(pseudotsuga;Douglas fir)・セコイア属(Sequoia)、イチイ属(Taxus;yew)、ツガ属(Tsuga;hemlock)、もしくはザミア属(Zamia;cycad)の種を含むものである。イチイ属の内で更に有用な種の幾つかは、T.baccata(イチイ科ヨーロッパイチイ),T.brevifolia,T.canadensis,T.chinensis,T.cuspidata,T.floridana,T.globosa,T.media,T.nuciferaおよびT.wallichianaを含む。保存され得る被子植物は、単子葉植物の細胞および双子葉植物の細胞を含む。単子葉植物細胞としては、からす麦属(Avena;oat)、ココヤシ属(Cocos;coconut)、ヤマノイモ属(Dioscorea;yam)、オオムギ属(Hordeum;barley)、バショウ属(Musa;banana)、イネ属(Oryza;rice)、メダケ属(Saccharum;sugar cane)、モロコシ属(Sorghum;sorghum)、コムギ属(Triticum;wheat)およびトウモロコシ属(Zea;corn)の様々な種を含む。双子葉植物は、Achyrocline属、Atropa属、アブラナ属(Brassica;mustard)、メギ属(Berberis)、Sophora属、マメ属、ルピナス属(Lupinus)、トウガラシ属(Capsicum)、Catharanthus属、conospermum属、チョウセンアサガオ属(Datura)、ニンジン属(Daucus;carrot)、ジギタリス属(Digitalis)、Echinacea属、Eschscholtzia属、ダイズ属(G1ycine;soybean)、ワタ属(Gossypium;cotton)、ヒヨス属(Hyoscyamus)、トマト属(Lycopersicum;tomato)、リンゴ属(Malus;apple)、ムラサキウマゴヤシ属(Medicago;alfalfa)、タバコ属(Nicotiana)、panax属、エンドウ属(Pisum;pea)、Rauvolfia属、Ruta属、ナス属(Solanunt;potato)およびTrichosanthes属の様々な種を含む。
【0030】
植物細胞は、新生の針葉、葉、根、樹皮、幹、地下茎、カルス細胞、原形質体、細胞懸濁、器官もしくは器官系、頂芽分裂組織などの分裂組織、種子もしくは胚として田畑から新たに収穫された試料であり得る。一般的に、培養中もしくは凍結保存からの回復時において、継代の浅い細胞および初代培養が最大の生存度を示す。代わりに、確立された試験管内培養からサンプル細胞を採取しても良い。培養は長い間にわたり行われて来たが、例えば、特定の温度、特定の光強度または特殊な増殖もしくは保持培地などの試験管内条件で行われたのは最近のことである。斯かる細胞は懸濁細胞(suspension cell)としてもしくは半固体栄養培地により維持しても良い。
【0031】
懸濁培養は、イチイ種のカルス培養、もしくは、凍結保存されたイチイ種の細胞を解凍したものから導き得るものである。継代の浅い初代細胞系は極めて高価値である、と言うのも、これらの培養は長期間の培養では失われる独特の特性を示すからである。これらの細胞系の多くは、ジテルペンアルカロイド・タキサン(taxane)、エステル側鎖改変タキサン、タキソール(分子量853)、および、タキサンの種々の他の変形物(バッカチン(baccatin)もしくは10−デアセチルバッカチン(10-deacetylbaccatin))を発現する。
【0032】
培養用のイチイ細胞は、任意の植物物質から得ることが可能である。採集は、北米ならびに他の国々に亙って行うことが出来る。細胞培養の為には、樹皮、形成層、針葉、幹、種子、円錐果および根の任意の部分からの組織を選択かつ採用し得る。但し、細胞培養を開始する為には、植物の針葉(needle)および分裂組織領域、特に1ヶ月齢ないし3ヶ月齢の新生針葉が好適である。また、選択された植物組織は、例えば、Tween 20を10滴だけ落とした4リットルの10%漂白剤溶液中に20分間だけ浸して殺菌する。切断された組織は、極めて小さな寸法にして外植培養される。
【0033】
イチイの培養では、増殖形態、増殖性、生産プロファイル(productprofile)および他の特性が変動するのが通常である。個々の細胞系は増殖培地成分に対する選択性により変化することから、細胞培養を誘起および増殖する為には、多くの異なる増殖培地を使用しても良い。殺菌、カルス増殖開始および懸濁増殖を行う方法、並びに、適切な栄養培地は、当業者公知である。
【0034】
イチイの懸濁培養は、急速な増殖速度および高い細胞密度で行うことが可能である。様々なイチイ種の最初の培養は継代培養されるが、これは、例えばマクロおよびミクロの栄養、有機塩および増殖ホルモンを含む適切な培地内に移送することで行われる。培養液体は空気に晒されると共に、培養液を空気飽和処理すべく撹拌し、または、空気を培養液内に吹込むのが好適である。培養組織は約20℃で約3乃至7、好適には約4乃至約6のpHにて保たれる。斯かる培養組織は、例えば濾過もしくは遠心分離により増殖培地から除去することにより収穫される。最も高い生存度を示した細胞は、早期の誘導期もしくは早期の細胞分裂増殖期におけるもの、または、細胞分裂もしくは有糸分裂を介して最新に継代されたものである。概略的には、増殖培養液中で4〜10日経過した、好適には増殖培養液中で5〜8日経過した、更に好適には増殖培養液中で6〜7日経過したイチイ種の細胞懸濁が使用に適している。
【0035】
凍結保存の基本的ステップの各々を、以下に示す:
予備処理
凍結保存されるべき植物細胞は、細胞の増殖間にもしくは細胞死滅によりもたらされた有害物質を培養培地から除去することにより細胞の生存度を高める試薬により予備処理される。これらの試薬は本明細書中では安定剤と称するが、それらは、自然に産するもしくは人工的に製造されると共に培養培地中に直接的に導入され得る材料を含む。安定剤としては、活性酸素種および他のフリーラジカルの存在に付随する有害効果を中和する抗酸化剤もしくはラジカル捕捉剤である化学試料が含まれる。上述の物質は、細胞膜、すなわち内部および外部の膜の両者を損傷し、凍結保存および回復の程度を相当に低下させるものである。もし、これらの物質が除去されずもしくは無効とされなければ、生存度に対するそれらの効果は経時的に蓄積され、実用上の貯蔵寿命を厳しく制限するであろう。更に、細胞は死滅しもしくは疲労することから、付加的な有害物質が放出されて隣接細胞が損傷かつ死滅する。
【0036】
有用な安定剤には、酸素ラジカルなどの高反応/損傷性の分子を隔離する化学物質および化学的化合物が含まれる。これらのラジカル捕捉剤および抗酸化剤の具体的な例としては、還元形グルタチオン、1,1,3,3-テトラメチル尿素、1,1,3,3-テトラメチル-2-チオ尿素、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸銀、ベタイン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-(2-メルカプトプロピオニル)グリシン、β-メルカプトエチルアミン、セレノメチオニン、チオ尿素、没食子酸プロピル、ジメルカプトプロパノール、アスコルビン酸、システイン、ナトリウムジエチルジチオカルバミド、スペルミン、スペルミジン、鉄酸、セサモル、レソルシノール、没食子酸プロピル、MDL-71,897、カダベリン、プトレッシン、1,3-および1,2-ジアミノプロパン、デオキシグルコース、尿酸、サリチル酸、3-および4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、安息香酸、ヒドロキシルアミン、および、これらの試薬の組合せおよび誘導体が含まれる。
【0037】
安定剤の別の群は、エチレン生合成および/またはエチレン作用を阻止するもしくは実質的に防止する試薬を含む。これらの化合物は、捕捉剤の特性も有している。エチレン阻害剤の効果は、エチレンの出現もしくは作用に十分に影響を与えることにより、凍結保存プロセスの細胞回復を増大させたときに相当である。尚、ストレスを受けたときに多くの植物細胞がエチレンを放出することは公知である。而して、エチレンは細胞を損傷して死滅に至らしめる。従って、エチレンの発生もしくはエチレンの作用を防止すれば、凍結保存プロセスからの細胞の生存度および回復度を更に増大する。
【0038】
図2に示される様に、エチレンの生合成には多数の経路があり、それと等しい数の阻害剤がある。例えば、生合成経路は、s-アデノシルメチオニン(SAM)(ACC合成酵素+SAM−>ACC)、アミノシクロプロパンカルボキシル酸(ACC)(ACC+ACC酸化酵素−>エチレン)、および、エチレン(エチレン+エチレン酸化酵素−>CO2)の転換点において生合成経路を阻害することが可能である。本発明の方法で使用され得る多くの生合成阻害剤は、表1に示されている。
【0039】
【表1】

【0040】
また、多数のエチレン作用の阻害剤もある。これらの化合物の幾つかは表2に示されている。
【0041】
【表2】

【0042】
一方、銀イオンが種々の植物において強力な抗エチレン剤として作用し、植物組織および細胞培養物の寿命を改善することは1976年から知られている。例えば、切断されたカーネーションを銀塩で予備処理すると寿命が延びる。銀イオンは比較的に不動であることから、茎を基礎処理することは花に直接的に噴霧処理することよりも効果が低いと考えられる。また、銀イオンの低い移動性は、金属をチオ硫酸銀などの陰イオン錯体へと変化させることにより増大することが分かった。チオ硫酸自身はエチレン生合成に影響を与えず、また、エチレン作用を阻害することも無い。
【0043】
銀イオンにより仲介されたエチレン阻害は、同一の受容体箇所上で銅に置き代わるという原理に基づいて説明される。同様に、銅は生合成に関する酵素反応もしくはエチレン作用に関与する金属である、と提案されている。この理論は、銀と銅の大きさが類似しており、同一の酸化状態、および、両金属ともにエチレンと錯体を形成する能力を有していることから、信憑性がある。
【0044】
チオ硫酸銀を含む銀塩は、合成を顕著に誘導する効果を有するものの、植物および植物細胞の培養におけるエチレン作用を阻害する。ACCおよびエチレン生合成の両者に関する銀イオン(チオ硫酸銀の活性成分)の誘導効果は、ACC酸化酵素の活量が増大したことによりACCからエチレンへの変換が増加したことを示唆している。エチレン作用を阻害する銀塩の幾つかは、表3に示されている。
【0045】
【表3】

【0046】
安定剤は凍結に先立って植物細胞と共にインキュベートされるのが好ましく、これは、たとえ凍結プロセス、回復、解凍および再増殖の間におけるそれらの存在が望ましいとしてもである。例えば、エチレン生合成阻害剤およびエチレン作用阻害剤は、解凍および再増殖の間に培養培地中に存在するのが一層望ましい。この点、インキュベートは数時間ないし数日に亙り行うことができる、と言うのも、試薬自体は細胞にとり有害でなく、むしろ生存度を高めるからである。より感受性の高い植物細胞系の幾つかは一層長い処理を要するが、その他のものは一層短い。インキュベートの正確な期間は、実験により容易に決定され得る。好適には、植物細胞は、安定剤もしくは安定剤の組合せと共に増殖培地内で約1日乃至約10日、より好適には約1日乃至約7日、更に好適には約3日に亙り、培養される。典型的には、この時間の長さは、培養培地内で除去されるべきもしくは少なくとも細胞に有害でないレベルまで減少されるべき物質を損傷するに十分なものである。
【0047】
インキュベートは、液体状もしくは半固体状の培養培地中で行うことができ、それは例えば、増殖培地、代謝と細胞増殖とを促進する培養培地、保持培地、必ずしも細胞増殖を促進はせずに塩と栄養とのバランスを保つ培地、などである。細胞は凍結保存に対して調製されていることから、それを保持培地(次善もしくは低増殖培養培地:例えば、通常の増殖培地の4分の1の塩濃度)内でインキュベートし、細胞の代謝プロセスを減少させることが望ましいときもある。
【0048】
予備処理は、室温もしくは植物細胞が通常的に培養される温度にて、細胞を予備培養することにより達成し得る。好適には、予備培養は略々室温(20℃)にて行って取扱を容易にするが、これは、殆どの植物細胞が室温にて十分に安定しているからでもある。予備処理の間、安定剤は直接的に培地に付加され得ると共に、必要であれば補充することも出来る。安定剤の濃度安定剤の種類に依存するが、一般的には、約1μM〜約1mM、好適には約10μM〜約100μMであり、また、1種類以上の安定剤を用いることは通常的でない。
【0049】
予備処理は、ひとつ以上の浸透性試薬の存在下で細胞をインキュベートする段階を含む。有用性のある浸透性試薬の例は、サッカライドおよびサッカライド誘導体等の糖、プロリンおよびプロリン誘導体などのアミノもしくはイミノ酸、もしくは、これらの試薬の組合せである。更に有用な糖および糖の誘導体の幾つかは、フルクトース、グルコース、マルトース、マンニトール、ソルビトール、スクロース、およびトレハロースである。浸透性試薬は、次のローディング、凍結乾燥および/またはガラス化の為に細胞を調製する濃度にて使用される。濃度は試薬毎に大きく変化するが、一般的には約50mM乃至約2Mである。これらの濃度は、少量の試薬を連続的にもしくは時間かけて段増的に(滴下的に)、所望レベルが達成されるまで付加することにより達成される。好適には、培地内の浸透剤の濃度約0.1M乃至約0.8Mであり、より好適には約0.2M乃至約0.6Mである。代わりに、約1重量%乃至約10重量%の濃度の水性溶液として浸透剤を使用することもある。
【0050】
予備処理はまた、細胞培地、ローディング溶液および/またはガラス化溶液中に、膜安定化剤、例えば脂質二重層内に挿入される化合物(例えば、ステロール、リン脂質、糖脂質、糖タンパク質)またはは2価陽イオンを単に付加する段階を含み得る。2価陽イオンは熱ショックおよび膜プロテインを安定すると共に、細胞膜と他の膜との間の静電的反発を減少する。マグネシウム、マンガンおよびカルシウムを選択すれば好適である、と言うのも、例えばCaCl2、MnCl2およびMgCl2の形態の安価で容易に入手し得る2価陽イオンだからである。ナトリウムはトレース濃度以上では毒性が高いので好適性が低い。好適な濃度は、約1mM乃至約30mM、より好適には約5mM乃至約20mM、更に好適には約10mM乃至15mMである。これに加え、培地中に2価陽イオンが存在すると、凍結温度が下がると共に、細胞が凍結点を一層迅速に通過することが可能となる。また、細胞間および細胞間氷結晶形成の両者の温度が凍結時および解凍時に低下する。解凍および解凍後培養においてこれらの試薬が存在することは重要である。
【0051】
低温順化
予備処理の間もしくは予備処理のいずれかの時点において、凍結保存されるべき細胞は、培養温度から低下される温度であり凍結温度よりは高い温度に順化させ得る。これにより、細胞代謝を相当に遅らせると共に更に限界的な温度変化の幾つかを通しての急速な温度遷移のショックを和らげることにより、細胞を凍結保存プロセスに対して調製する。限界的な温度範囲は、例えば水結晶形成の臨界温度近傍で細胞に損傷を与える危険性が高い温度範囲である。当業者に公知の如く、これらの温度は溶液組成に幾分なりとも依存して変化する。殆どの細胞培養培地の基本的成分である水の場合、氷結晶の形成および再形成は約0℃乃至約50℃にて生ずる。
【0052】
順化は、所定の浸透可能性における細胞脱水の度合いを減少する内因性の溶質の蓄積に帰着すると共に、極度の脱水の間のプロテインおよび膜の安定に寄与する。これに加え、低温順化はガラス化試薬と相乗的に作用すると共に細胞膜の液体構造を変化させ、浸透排除および脱水の両者に対する許容差を増大する。
【0053】
順化は、段階的にもしくは漸進的に行うことができる。これらの段階は、細胞が損傷を起こさずに低温に順化するに十分な時間に亙り、約0.5℃乃至約10℃の幅で段階的に下げることが出来る。漸進的もしくは段階的のいずれにせよ、温度勾配は、細胞が凍結点を可及的に迅速に通過する様に設計される。細胞は低下した温度に対し、漸進的に、段階的もしくは連続的に、または、急激に順化することが出来る。順化技術は当業者に公知であり、市販の順化剤を含むものである。漸進的な順化は、目的温度が達成されるまで1時間当り約1℃でインキュベート温度を下げて行く段階を備えて成る。漸進的順化は、最も感受性が高く凍結保存するのが困難と考えられる細胞に対して最も有用である。段階的順化は、低下された温度に所定時間だけ細胞を置くと共に、更に低下された温度に別の所定時間だけ細胞を置く段階を備えて成る。これらの段階は必要に応じて反復される。
【0054】
懸濁細胞は、凍結および解凍において最大の生存率を達成する後誘導期もしくは早期細胞分裂期であり得る。これらの時期を越えた細胞は高い度合の液胞化および分化を示すと共にサイズが大きくなり、従って、凍結による損傷の危険性が増大すると共に凍結および解凍時の生存度が減少する。
【0055】
ローディング
ローディングは、ひとつ以上の凍結保存剤の溶液中での細胞の平衡化を含む。ローディング中に使用される試薬は、ローディング剤と称され得る。有用なローディング剤は、ひとつ以上の脱水剤、透過性もしくは非透過性の試薬、および、浸透剤を含み得る。ローディングの適切な試薬は、細胞懸濁液中に導入されると同時に細胞脱水を誘起する試薬を含む。DMSOおよびエチレングリコール等の透過剤、並びに、フルクトース、スクロースもしくはグルコース、および、ソルビトール、マンニトールもしくはグリセロールなどの透過性および非透過性の浸透剤の組合せ、の両者を使用することが可能である。この段階は、約0.5M乃至約2Mもしくは約5重量%乃至約20重量%の中濃度の凍結保存剤を細胞質ゾル内に導入することにより細胞質ゾルの溶質濃度を増大するものである。平衡化に要する時間を最小限にする為に、ローディングは略々室温で行うのが普通であるが、これは、ローディングに最適な温度および他の条件が、生存細胞培養を維持する培地、光強度および酸素レベルなどの条件を整合させるとしてもである。
【0056】
ローディング段階においては、単一の凍結保存剤もしくは異なる凍結保存剤の組合せを、インキュベート培地内に連続的にもしくは段階的に直接付加することも可能である。段階的なローディングは、細胞に対するローディング剤の供給を容易にする為に望まれることもある、と言うのも、それは単一の回分ローディングよりも幾分なりとも緩やかだからである。段階的なローディングに対する付加間の時間増分もしくは間隔は数分から数時間以上にも亙り得るが、1分乃至10分、更に好適には約1分乃至約5分、更に好適には約1分乃至2分の間隔が好適である。段階的なローディング段階における付加回数は、実践的なものとするのが通常であり、数回からかなりの多数回に亙り得る。好適には、約20回以下、より好適には約10回以下、更に好適には約5回以下である。当業者であれば、間隔時間および間隔数は、細胞およびローディング剤の種類により容易に決定し得よう。細胞は、ひとつのもしくは複数のローディング試薬(連続的にもしくは段階的にローディング剤の量を増大させたもの)を含む溶液内でインキュベートされ、試薬の細胞内および/または細胞外の試薬濃度を平衡化される。実用上、インキュベート時間は数分乃至数時間に亙る。ローディングの保護効果は、細胞から少量の但し重要な量の水分を除去することも含んでいる。これにより、細胞内の急激な水分喪失のショックが最小限とされ、細胞は引続くガラス化および/もしくは凍結乾燥に対して調製される。
【0057】
ローディングの後、凍結保存剤を含む増殖培地は除去され、または、使用されるべき次の試薬(ガラス化剤)が同一もしくは類似の試薬であれば、ローディング剤はそのままとして、ガラス化の為に濃度を単純に高め得る。
【0058】
ガラス化(vitrification)
凍結保存されるべき細胞は、予備処理、ローディングおよび/または凍結乾燥に引続いてガラス化される。ガラス化処理には幾つかの利点がある。システム内での氷結晶形成を防止することにより、氷形成に通ずる複雑な変数を最適化する必要性が無くなる。更に、試料は液体窒素中に直接的に投入され得ることから、この処理では冷却を制御するに必要とされる多数の装置を必要としない。ガラス化処理はまた、幾つかの異なる種類の細胞を含む複雑な組織に対する凍結保存処理を展開する上で大きな可能性を与える。
【0059】
ガラス化処理は、液体窒素中での急冷に先立ち、細胞すなわち試料の漸進的なもしくは段階的な浸透脱水を含む。ガラス化処理においては、液体窒素中での急冷に先立ち、濃縮溶液中に直接的に露出することで細胞脱水が行われる。露出は、細胞にガラス化剤を継続的に付加して量を増大して漸進的に行い、または、段階的に行うが、増加量は所定の間隔に亙り付加される。段階的なガラス化に対する付加間の時間増分すなわち間隔は数分乃至数時間以上に亙るが、好適には約1分乃至約10分、更に好適には約1分乃至約5分、更に好適には約1分乃至約2分に亙るものである。段階的なガラス化処理における付加の数は、実践的なものとするのが通常であり、数回から相当の多数回に亙り得る。好適には、約20回以下の付加とし、更に好適には約10回以下とし、更に好適には約5回である。間隔および間隔の数は、当業者であれば細胞およびガラス化剤の種類に応じて容易に決定することができる。細胞は、単数のもしくは複数のガラス化剤(連続的にもしくは段階的に増加された量)を含む溶液内にてインキュベートされ、細胞内および/または細胞外における試薬の濃度を所望程度に平衡化する。インキュベート時間は実践的に数分乃至数時間に亙り変化する。理想的な条件下では、細胞もしくは器官は、細胞内もしくは細胞外での氷形成無しに、極めて急激な速度で冷却され得る。結果として、氷形成に影響する要因の全てが除去され、従来の凍結保存処理と比較した場合にガラス化処理の幾つかの実用的利点がある。ガラス化によれば、複雑な組織および器官に対する凍結保存処理を発展させる可能性が大きくなる。但し、システム内での相当の氷形成を除外することから、ガラス化処理は従来の凍結保存処理よりも操作が複雑にはなる。更に、ガラス化により、幾つかの試料での急冷感度の問題に対処すべく超急冷速度を使用することが可能となる。しかも、冷却速度を制御する為の特殊なもしくは高価な装置設備も不要となる。
【0060】
ガラス化は極低温方法であり、高度に濃縮された細胞質ゾルが超冷却され、実質的な結晶化の無い固体状の準安定なガラスが形成される。任意の細胞を凍結保存する上での主な困難性は、凍結および解凍の両者における細胞内の氷結晶の形成である。過剰な氷結晶形成は、細胞膜およびオルガネラの崩壊による細胞死滅に繋がる。氷結晶の形成を回避するひとつの方法は、形成される氷結晶が相当の損傷を引起こすほど大きくならない様に細胞を急速に凍結することである。低水分含量の細胞が急速に凍結されると、ガラス化する。但し、高水分含量の植物細胞などの細胞を急速に凍結してもガラス化は不可能である。高水分含量の細胞をガラス化する為には、ガラス化の為に急速に凍結することに加え、凍結点降下剤および氷結晶阻害剤が必要とされる。適切にガラス化された細胞は、小さ過ぎて光を回折しない氷結晶から成る半透明の凍結非結晶固体を形成する。もし、ガラス化された細胞が約−40℃まで温められ得れば、それは失透(devitrification)を起こす。失透において氷結晶は、細胞生存において一般的に有害なプロセスにより、大きくなって固まる。ガラス化溶液は、凍結時にガラス化を増大し、または、解凍時に失透を妨げる。
【0061】
凍結保存溶液の殆どは対象物質をガラスもしくはガラス状の物質に変換し得るが、但し、冷却速度が氷結晶の核形成および成長を防止すべく十分に急速であることを条件とし、また、臨界的な冷却速度は溶液濃度に依存する。同様に、細胞質ゾルが十分に濃縮されたならば細胞のガラス化が実施され得る。凍結保存処理において、これは、液体窒素内で急冷するに先立って極度に濃縮された溶液内で細胞を脱水することにより達成される。また、凍結保存処理においては、ガラス化剤などの凍結保存剤の濃縮溶液中に試料を置くことによりガラス化に必要なレベルまで細胞質ゾルは濃縮される。濃度は、約4M乃至約10M、もしくは、約25重量%乃至約60重量%が好適である。これにより、試料細胞の脱水が極度に行われる。7Mを越える溶液は細胞から浸透的活性水の90%以上を除去するのが通常である;但し、各試薬に対する正確な濃度は実験により決定することが可能である。使用され得るガラス化剤は、DMSO、プロピレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、ブタンジオール、ホルムアミド、プロパンジオールおよびこれらの物質の混合物とされ得る。
【0062】
適切なガラス化溶液は、DMSO(1〜50%)、プロピレングリコール(約5〜25%)、グリセロール(約0〜50%)、PEG-8000(約5〜20%)、エチレングリコール(約10〜75%)、エチレングリコール/ソルビトール(約60/20重量パーセント〜約10/60重量%)、および、エチレングリコール/ソルビトール(約40/30重量%)を含む培養培地を含む。エチレングリコール/ソルビトールが好適であり、例えば、50/30%、45/35%、40/40%、40/30%、30/50%、好適には30/40%の濃度で使用され得る。斯かるガラス化溶液は約1℃乃至約8℃、好適には2℃乃至6℃、より好適には約4℃の温度で使用され得る。
【0063】
ガラス化溶液への露出の結果としての損傷を最小限にする為に、脱水は約0℃乃至約4℃にて可及的に短い露出時間で行われ得る。これらの条件下で試料中に凍結保存剤は付加流入しない、と言うのも、水と溶質との透過係数に差があるからである。結果として、試料は収縮したままであり、且つ、ガラス化に必要とされる細胞質濃度の増加が脱水により達成される。但し、凍結保護剤による細胞の平衡化(ローディング)が、植物細胞もしくは器官の好首尾なガラス化に常に必要とされるわけでは無い。例えば、幾つかの場合、ローディング試薬による予備培養によりローディング段階として同一の目的が達成される。
【0064】
ローディングが必要とされる場合、それは、基本的に細胞膜ならびにプロテインの脱水による不安定化を防止する役割を果たす。但し、ローディング段階が無い場合、脱水および冷却/温暖段階に続く細胞の生存は少なくなる。従って、ローディング段階に置ける細胞内エチレングリコールもしくは他の凍結保護剤は、冷却時において細胞のガラス化を助けるだけでなく、脱水段階中の損傷から細胞を保護するものでもある。
【0065】
凍結乾燥
凍結乾燥は、凍結保存の前に真空蒸発により細胞の水分を減少することである。真空蒸発は、減圧雰囲気中に細胞を載置する段階を含む。所望の水分除去速度に依存して、約−30℃乃至−50℃の温度における減圧雰囲気は、100torr、ltorr、0.01torr、もしくはそれ以下、とされ得る。減圧条件下での水分蒸発速度は、細胞の65%の水分が一晩で除去され得る如く増大される。選択的な条件により、水分除去は数時間以下で行われ得る。蒸発における熱喪失により、細胞は冷却状態に保持される。真空レベルを注意深く調節することにより、真空蒸発処理の間、細胞は冷却順化温度に保持され得る。真空を強力にすれば水分蒸発は迅速になるが、細胞が凍結する危険性に晒される。凍結は、細胞に直接的に加熱するかもしくは真空レベルを調節することにより制御され得る。細胞を最初に蒸発チャンバ内に載置するときに高真空が加えられるが、これは、細胞内に残存する熱が凍結を妨げるからである。脱水が進むと共に細胞の温度が低下するにつれ、真空度を低下させもしくは加熱を行って凍結を防止し得る。半乾燥細胞は、蒸発チャンバ内に拡散する傾向がある。この傾向は、処理の終了時に空気流をチャンバ内に戻すときに特に顕著である。もし空気流が半乾燥の細胞の付近を流れると、それは細胞を吹き飛ばし、試料を相互汚染させる可能性もある。斯かる崩壊を回避すべく、蒸発冷却は、細胞を乾燥させ乍らも遠心力により管内に幽閉する真空遠心機中で行うことが出来る。このプロセスにおいて除去される水分の量は、細胞の乾燥重量を測定することにより定期的に関しされ得る。所望の水分量が除去されたとき、液体窒素中で直接凍結するに先立ち、ガラス化溶液は所定時間だけ半乾燥細胞に直接的に付加され得る。
【0066】
凍結
予備処理され、ローディングされ、ガラス化され且つ/または凍結乾燥された植物細胞は、凍結保存温度に凍結することにより保存される。凍結段階は十分に迅速にし、細胞の生存に有害な大寸の氷結晶形成を防止せねばならない。細胞は、既に凍結保存温度に在る試薬に直接的に接触させ、直接的に凍結することもできる。直接方法は、液体窒素もしくは液体ヘリウムなどの極低温流体内に細胞を直接的に浸漬、噴霧、射出もしくは注入する段階を含む。細胞はまた、液体窒素により凍結された鋼鉄ブロックなどの冷却固体に直接的に接触され得る。また、細胞の容器上に極低温流体を直接的に注入しても良い。直接法はまた、極低温にて空気などの気体に細胞を接触することも包含する。窒素もしくはヘリウムの極低温気体流は、細胞懸濁液中に直接的に噴射しもしくは吹込んでも良い。間接的方法は、細胞を容器中に載置し、この容器を極低温の固体、液体、気体に接触させる段階を含む。適切な容器としては、例えば、極低温に耐える様に設計されたプラスチック小瓶、ガラス小瓶もしくはアンプルがある。間接凍結の為の容器は、空気もしくは液体に関して不透過性を有する必要は無い。例えば、プラスチックバッグ、もしくはアルミニウム箔が適切である。更に、容器が極低温に耐え得る必要は無い。極低温下でプラスチック小瓶がヒビ割れし乍らも実質的に元のままであれば、使用することが出来る。また、金属箔の一側を極低温の気体、固体もしくは液体に接触させ乍ら、他側に細胞の試料を載置して細胞を凍結しても良い。凍結は、氷結晶形成を阻害すべく十分に迅速でなければならない。凍結時間は約5分もしくは、4分、3分、2分、1分もしくはそれ以下とすべきである。臨界的な凍結時間は、単一の細胞の基準枠から測定すべきである。例えば、液体窒素中に大量の細胞試料を注入するには10分間かかるかも知れないが、この方法によれば個々の細胞は急速に凍結される。
【0067】
解凍
本発明の別の実施例は、凍結保存された細胞の解凍方法に関する。細胞の生存および細胞の回復に対しては、それらが当初に凍結されたのと実質的に同一の条件で適切に解凍および回復を行うことが必須である。凍結保存された細胞の温度が解凍の間に上昇するとき、失透(devitrification)と称されるプロセスにおいて小寸の氷結晶が集結して大きくなる。細胞内に大きな氷結晶があると、一般的には細胞の生存に有害である。失透を防止すべく、凍結保存された細胞は可及的に急速に解凍されねばならない。加熱速度は、少なくとも約30℃毎分乃至60℃毎分とし得る。また、90℃毎分、140℃毎分乃至200℃毎分、もしくはそれ以上の急速加熱速度も使用することが可能である。この点、急速加熱が望ましいが、植物細胞は、室温よりも相当に高いインキュベート温度で生存する能力が低い。従って、過熱を防止すべく、細胞の温度を注意深く監視せねばならない。加熱方法としては、伝導、対流、放射、電磁放射、もしくはそれらの組合せを含む任意のものが使用され得る。伝導方法は、水浴内への浸漬、加熱ブロック内への載置、もしくは、開放炎内への直接載置を含む。対流方法は、ヒートガンもしくは炉の使用を含む。放射方法は、例えば、加熱ランプもしくは対流もしくは放射炉等の炉の使用を含む。電磁放射は、極超短波炉および類似装置の使用を含む。幾つかの装置は、これらの方法の幾つかを組合せて加熱を行う。例えば、炉は、対流および放射により加熱を行う。加熱は、細胞および周囲溶液が液状になると同時に終了せねばならないが、それは0℃以上である。凍結保存された細胞は、凍結点を降下させるひとつ以上の試薬の存在により凍結されていることも多い。これらの試薬が存在するとき、凍結された細胞は0℃以下の温度、たとえば約−10℃、−20℃、−30℃、もしくは−40℃の温度で液化し得る。凍結保存された細胞の解凍は、これらの温度のいずれか、もしくは、0℃以上の温度で終了することが出来る。
【0068】
解凍後処理(Post-Thawing)
ガラス化溶液の希釈および細胞からの凍結保存剤の除去はアンローディングと称されるが、これは、凍結保存された細胞試料の解凍に引続いて可及的に迅速かつ可及的に早期に行わねばならない。凍結保存剤の細胞内濃度は高いことから、浸透拡張を最小化し乍ら懸濁培地を希釈することが好適である。従って、懸濁培地の希釈および試料標本内からの凍結保存剤流出は、高浸透圧培地内での希釈もしくは段階的希釈により行われるのが通常である。
【0069】
解凍された細胞は、生存を最大化すべく増殖条件に漸進的に順化され得る。また、ガラス化試薬は細胞障害性、細胞停止性もしくは変異原性であり得、解凍された細胞から、細胞に影響を与えない速度にて除去せねばならない。除去方法としては、再懸濁および遠心分離、透析、順次洗浄、化学物質による生治療(bioremedation)および中和、もしくは、電磁放射などの多くのものが使用され得る。幾つかのガラス化溶液および浸透試薬を急速に除去すると、細胞のストレスおよび死滅を増大することから、除去段階は漸進的に行わねばならない。除去速度は、低濃度の浸透試薬もしくはガラス化試薬を含む溶液により順次洗浄することにより制御することができる。除去速度が低い他の方法は、透過度の低い膜による透析、低濃度のガラス化試薬を含む半固体もしくは液状の培地上での順次増殖を含む。他の方法としては、凍結保存試薬に対する漸進的希釈、透析、生治療、中和および触媒的分解を含む。
【0070】
解凍処理および解凍後処理は安定剤の存在下で行い、生存を確かなものとすると共に、遺伝子および細胞の損傷を最小限とすることができる。例えば2価陽イオンもしくはエチレン阻害剤などの安定剤は、凍結保存の結果として存在する破壊的試薬を減少し、除去しもしくは中和する。斯かる破壊的試薬は、フリーラジカル、酸化剤およびエチレンを含む。これらの試薬の幾つかは複数の特性を有しており、この点に関しては極めて有用である。驚くべきことに、解凍段階および解凍後段階で安定剤を付加したところ、生存度および再増殖速度が増大したことである。
【0071】
浸透剤もしくはガラス化剤を容認できるレベルに減少した後、細胞は適切な培地内で再成長もしくは再増殖され得る。再増殖のためのひとつの方法は、解凍された細胞を、寒天プレート等の半固体の増殖培地内にカルスが形成されるまで載置することを含む。細胞はカルスから回復されると共に培養液体内で増殖され得る。この代わりに、適切なホルモンを含む半固体培地内に載置することにより、カルス細胞の芽および根の成長を誘起しても良い。芽および根を有するカルス細胞は、漸進的に順化し、植物が成長するまで温室内の滅菌土で増殖させても良い。温室植物は、自然環境内で温室外で成長順化させても良い。代わりに、半固体培地を使用せずに細胞を解凍して再増殖させても良い。即ち、浸透剤およびガラス化剤を除去した後、細胞を再増殖用の液体培地中に直接的に載置しても良い。
【0072】
本明細書中に開示された変更例のひとつ以上を含むことにより、種々の細胞種類に対して凍結保存後の細胞回復を実質的に増大することが可能となる。これらの方法により、凍結保存剤、エチレン生成、細胞膜に伴う受容体を含む特定のターゲットに対するエチレンの作用による毒性と、膜の不安定性と、膜の漏出とに伴う問題が防止される。本明細書中に開示された方法からは、特定の細胞種類に対しては特定の段階を組合せることが最適であるとして示された。例えば、トマト、ポテトおよびタバコの細胞は、2価陽イオンによる段階的なローディングおよび/またはガラス化を用いることにより凍結保存に良好に対処できる(プロトコル10、12、13、14)。
【0073】
植物細胞、例えば、タキソールを産出するイチイ(Taxus)の細胞、の凍結保存を行うひとつの方法は、図3に概略的に示されている。簡単に述べると、初代分離もしくは細胞培養からのカルス細胞増殖は、液体増殖培地内での培養に適している。細胞が液体培養に対して調節された後、それらは、浸透剤および安定剤を含む予備処理増殖培地に24時間乃至72時間だけ移動される。予備培養された細胞は次に、4℃で1〜4時間に亙り予備処理培養のインキュベートにより低温順化される。低温順化の後で細胞は遠心器に移動され、細胞を損傷すること無くペレット化する中程度の遠心力を受ける。浸透剤および安定剤を備える予備処理培地を含み得る上清は、細胞ペレットから吸引されると共に廃棄される。安定剤及びガラス化試薬を含むと共に予備冷却された溶液が細胞ペレットに加えられる、且つ、細胞は穏やかに再懸濁される。ガラス化溶液により3分間処理した後、細胞を含む小瓶を液体窒素内に浸けることにより細胞を低温保存貯蔵に置く。凍結保存された細胞は、液体窒素内に約30分から数年に亙り貯蔵される。この細胞を復活させる為には、凍結保存された細胞を含む小瓶を液体窒素から40℃の水浴に迅速に移動する。内容物が液化したとき、小瓶は40℃浴から取り出される。即時生存度に関し、解凍された細胞の一定量を染料放出分析により検査する。残りの細胞は、安定剤と漸進的に低くなる濃度の浸透剤を含む低温増殖培地により洗浄される。一連の洗浄により細胞から十分な浸透剤よびガラス化剤が除去された後、細胞は液体培地内に直接的に移動される。代わりに、細胞は塗付紙に載せられ、安定剤と、減少量の浸透剤およびガラス化剤とを備える一連の半固体培地に移動される。この一連の塗付は、浸透剤およびガラス化剤が存在しない半固体培地上で増殖すべく調節されるまで、継続される。
【0074】
図1A、図1Bおよび図1Cには、別の細胞凍結保存方法が開示されている。この概略的図示内容から理解される様に、多くの好適変更例が可能である。例えば、段階1においては、浸透剤(0.06M〜0.80Mの濃度のスクロース、ソルビトール、もしくはマンニトール)を含む液状培地内で細胞のバイオマスが1〜6日間に亙り予備培養される。段階2においては、ローディングが段階的に行われる。予備培養された細胞バイオマスには凍結保護剤(栄養培地中にエチレングリコール/ソルビトール40/30重量%を含むガラス化溶液(V2N)を20%;または、栄養培地もしくは0.4Mスクロース溶液(pH5.6〜5.8)中に30%(w/v)グリコール、15%(w/v)のエチレングリコールおよび15%(w/v)のジメチルスルホキシドを含むガラス化溶液(VS3)を20%)がローディングされる。液体内の細胞バイオマスは緩やかに混合されると共に、氷、もしくは、0℃〜4℃の冷却剤内で5分間だけインキュベートされる。この段階の直後、液体内の凍結保護剤の濃度は段階的に増加されるが、これは、ガラス化溶液の最終濃度が65%に達するまで1分間隔で5回に亙り冷却された100%ガラス化(V2NもしくはV3S)溶液を段階的に付加することにより行われる。このローディング段階および0℃〜4℃のインキュベートに費やされる合計時間は10分間である。混合物(細胞バイオマス+ガラス化物)は100xGの遠心分離に5分間まで(1分〜5分)掛けられ、上清が廃棄される。
【0075】
代わりに、段階2において、ローディングを単一段階で行うことが可能である。予備培養された細胞バイオマスには凍結保護剤(栄養培地中にエチレングリコール/ソルビトール40/30重量%を含むガラス化溶液V2Nを65%;または、栄養培地もしくは0.4Mスクロース溶液(pH5.6〜5.8)中に30%(w/v)グリコール、15%(w/v)のエチレングリコールおよび15%(w/v)のジメチルスルホキシドを含むガラス化溶液(VS3)を65%)がローディングされる。凍結保護剤を含む液体内の細胞バイオマスは穏やかに混合され、且つ、氷もしくは0℃〜4℃の冷却剤の上で10分間に亙りインキュベートされる。
【0076】
代わりに、ひとつ以上の膜安定剤を含む凍結保護剤により段階的にもしくは一段階でローディングを行うことも可能である。全ての生体膜は共通の全体構造を有している。それらは、非共有の相互作用により共に保持された脂質およびプロテイン分子の集合である。脂質は二重層として配置され、膜の基本構造を提供すると共に、殆どの水溶性分子の流れに対する比較的不透過性の障壁の役割を果たす。又、プロテイン分子は脂質二重層の内部に在り、膜の種々の機能を調節する。幾つかのものは、例えばチャンネルプロテイン、担体タンパタ質、および能動輸送に関わるタンパク質などの特定の分子を細胞内にもしくは細胞外へ輸送する役割を果たす。他のものは膜関連反応を触媒する酵素であり、更に別のものは細胞骨格と細胞外基質との間の構造的結合として、且つ/または、細胞の環境からの変換化学信号を受信する受容体として機能する。
【0077】
幾つかの植物標本および細胞系は先に確立された凍結保存プロトコルに馴染まないが、これは、凍結保護剤の種類および濃度に対するそれらの感受性に部分的に依存している。膜の不安定化に関しては少なくとも2つの潜在理由があり、それは、ローディングおよび脱水段階で使用された凍結保護剤の化学的毒性、及び、(例えばガラス化)濃縮溶液への露出の結果として生ずる極度の脱水である。また、冷却されもしくは暖められる間の氷形成、および、ガラスの破損による細胞の機械的崩壊などの他の要因もまた、膜の不安定化に寄与する。
【0078】
一方、凍結保護剤の濃縮溶液への露出の結果として生ずる厳しい脱水は、脂質、タンパク質および核酸を含む生体分子の種々の配列内の構造遷移を引起こし得る。これらの状態下では、プラズマ膜および他の細胞膜の超微細構造において幾つかの変化が生ずる。これらの変化は、プラズマ膜内の特定の領域の形成を含むが、それは、タンパク質の親水性領域に会合した水、および、膜の脂質成分の除去に繋がる。代わりに、植物細胞膜を透過性の凍結保護化合物(例えば、植物細胞膜内のチャンネルプロテインを流体化する化合物)に植物細胞膜を接触させることにより不安定化も生じ得る。段階的なローディングおよび/またはガラス化は、厳しい脱水から生ずる膜の不安定化を最小限なものとし得る。細胞体積、プラズマ膜の透過性等の実質的な変化に関する他の特徴もまた、段階的ローディングにより最小限のものとされ得る。
【0079】
熱ショック処理もまた、膜およびタンパク質を安定化させる。細胞バイオマスを浸透剤で予備培養した後における熱ショック処理は、細胞に凍結保護剤をローディングする前に行う必要は無い。但し、細胞バイオマスが浸透剤で予備培養されないときには、熱ショック処理が必要である。更に、細胞に対し、2価陽イオン(CaCl2.MnCl2またはMgCl2を5mM〜20mM)を含むガラス化溶液(凍結保護剤)をロードすることは重要である(例えば、プロトコル11および12)。熱ショック処理は通常、細胞バイオマスの予備培養の後に続いて行われる。それにより、凍結保存後の細胞の生存度は約20%乃至約40%まで改善されることになる。この処理は、約37℃の水浴シェーカ内で(予備培養されたもしくは予備培養されない)細胞もしくは細胞バイオマスを約4時間までインキュベートする段階を含む。この処理の後、(浸透剤を含む/含まない)液体培地内の細胞は、凍結保存に使用(ローディング段階)される前に、4時間まで室温(23℃〜25℃)に置かれる。
【0080】
熱ショック処理は、ストレスに適合する上で含まれる特定のタンパク質(熱ショックタンパク質)の新たな合成を誘起するものとして知られている。浸透剤で予備培養されなかった細胞を熱ショック処理すると、凍結に耐えられない。熱ショックは、凍結の結果として生ずる細胞内の浸透剤の濃度の急激な増大に対し、タンパク質および膜を安定化する熱ショックタンパク質を形成することにより、耐性を誘起する。熱ショック処理は、約31℃〜約45℃、好適には約33℃〜約40℃、更に好適には約37℃の水浴内で細胞を培養することにより行われる。培養は、数分から数時間、好適には約1時間〜約6時間、更に好適には約2時間〜約4時間に亙り行われる。
【0081】
CaCl2、MnCl2もしくはMgCl2等の2価陽イオンもまた、LN2温度に細胞を露出する前にガラス化溶液内に含まれ得る。ガラス化溶液内に含まれた2価陽イオンは、植物細胞膜および熱ショックタンパク質を安定化するものと思われる。2価陽イオンは、細胞膜のイオン中心間の静電反発を減少することにより、細胞膜を安定化する。これに加え、2価陽イオンもまた、凍結および解凍中の氷核形成を防止し得る。膜の脂質二重層内に入り込むステロール、リン脂質、糖脂質もしくは糖タンパク質などの他の化合物もまた、植物細胞膜を効果的に安定化する。これらの化合物を2価陽イオンに代用し、植物細胞膜および/または熱ショックタンパク質の安定化を行っても良い。
【0082】
予備培養されたもしくは予備培養されない細胞バイオマス(4時間までの熱ショック処理を受けた/受けないもの)に対して凍結保護剤を段階的にローディングする処理は前述と同様であるが、但し、ガラス化溶液(V2NもしくはV3S)が5mM〜20mMの濃度で膜安定化剤2価陽イオン(例えばCaCl2、MnCl2、MgCl2)を含むことを除く。
【0083】
段階3において、ガラス化段階は段階的に行われる。従って、ローディングおよび遠心分離の後で得られた細胞もしくは細胞バイオマスは、ガラス化溶液(V2NもしくはVS3)で段階的に更なる処理が行われる。この段階は通常、遠心分離の後の細胞バイオマスを急冷された凍結用小瓶へ移動する段階と、0℃における3分間のインキュベート期間の間に1分間隔で濃縮(100%)ガラス化溶液を付加する段階とを含む。インキュベート期間の終了時に、凍結用小瓶内の内容(細胞+ガラス化溶液)は、LN2内への投入の前に、穏やかに混合される。代わりに、単一段階でガラス化を行うことも可能である。従って、ローディングおよび遠心の後に得られた細胞もしくは細胞バイオマスは、ガラス化溶液(100%)により更に処理される。この段階は通常、遠心後の細胞バイオマスを冷却された凍結用小瓶へ移動する段階と、濃縮(100%)ガラス化溶液の付加段階とを含む。凍結用小瓶の内容は穏やかに混合されると共に、LN2内への投入に先立ち0℃で3分間だけインキュベートされる。代わりに、CaCl2もしくはMgCl2などの2価陽イオンを含む凍結保存剤によりガラス化を段階的にもしくは一段階により行うことも可能である。
【0084】
凍結保護剤によりローディングされた細胞バイオマスのガラス化処理は上述と同様であるが、但し、濃縮ガラス化溶液(V2NもしくはV3S)が約5mM〜約20mMの濃度で膜安定化剤2価陽イオン(CaCl2もしくはMgCl2)を含むことを除く。
【0085】
細胞の凍結は通常、LN2内で凍結用小瓶で急速に行われるか、または、ガラス化溶液内の細胞を含む凍結用小瓶を、液体窒素(LN2)を含む貯蔵容器に迅速に移動することで行われる。
【0086】
また、解凍は、凍結された細胞バイオマスもしくは細胞を含む凍結用小瓶を、40℃もしくは60℃に設定された水浴内で急速に加温する(例えば、約20秒〜約45秒)段階を含む。解凍後段階は、凍結用小瓶内の液化された細胞バイオマスを、浸透剤(スクロース、ソルビトール、もしくはマンニトール;濃度1M〜20M)とエチレン阻害剤もしくはエチレン作用阻害剤(チオ硫酸銀;濃度は約5μM〜約20μM)とを含む液体栄養培地を含む滅菌遠心チューブへ即時に移動する段階を含む。内容物は穏やかに混合されると共に、室温でシェーカ(120rpm)により30分間インキュベートされる。この後、遠心分離を行うと共に、ペレット内の細胞をブロッティングペーパ上に載置された2層の滅菌フィルタ紙に移動(して細胞もしくは細胞バイオマスからの過剰水分の除去を促進)する。細胞もしくは細胞バイオマスは、2分間に亙りインキュベートされた。このインキュベート期間の後、細胞を備えた上側のフィルタ紙は、0.8M-0.1Mの低濃度スクロースで浸透剤を含む固体栄養培地へ順次移動(して、細胞の浸透調節を実施)する。各段階において、フィルタ紙上の細胞は1/2時間乃至1時間だけインキュベートされると共に、付加的な浸透剤の存在無しに通常の栄養培地に最終的に移動される。(通常の栄養培地内に浸透剤の付加の無い)この段階は、25℃の暗所で24時間だけインキュベートが反復される。
【0087】
代わりに、解凍直後のペレット内の細胞の解凍後処理は、浸透剤(スクロース、ソルビトールもしくはマンニトール;濃度範囲:1M乃至2M)を含む液状培地により迅速に洗浄される。これは、浸透剤を含む液状栄養培地内で2分乃至5分だけ細胞バイオマスをインキュベートすると共に、1分間乃至3分間の100xgの遠心により行うのが通常である。この段階は、浸透剤およびエチレン阻害剤もしくはエチレン作用阻害剤(5μM乃至20μMのチオ硫酸銀)を含む液体栄養培地内で細胞バイオマスを30分間だけインキュベートするに先立ち、もう一度繰り返される。
【0088】
新たなカルスの再増殖は、1週間後に見られる。新たな細胞バイオマスの増殖が増大したとき、カルス細胞はフィルタ紙から除去されて通常の固体栄養培地に直接的に移動される。十分な増殖が生じた後(通常は2週間乃至3週間)後、液状培地内にカルスを設置して細胞懸濁が開始される。
【0089】
本発明の更なる実施例は、上述の方法により凍結保存された植物細胞に関している。細胞は、開示された一切の属もしくは種の細胞、または、上記凍結保存方法が適用され得る細胞である。凍結保存された細胞は凍結貯蔵に適した温度に保持され得る。好適には、細胞は液体窒素(約−196℃)、液体アルゴン、液体ヘリウムもしくは液体水素中に保持される。これらの温度は長期間の貯蔵に対して最も適切であり、更に、温度の変動も最小限とされる。長期間の貯蔵は数ヶ月に亙り、好適には数年に亙るが、回復時においても細胞の生存度はそれほど低下しない。本発明はまた、凍結保存された細胞の効果的な回復方法に関していることから、細胞試料全体が死滅しなければ、その比較的大部分が死滅しても良い。細胞もしくは植物は、存続する細胞から繁殖させ得る。短期間の貯蔵、即ち数ヶ月以下の貯蔵が所望されることもあるが、−150℃、−100℃、もしくは、−50℃の貯蔵温度さえも使用し得る。斯かる温度で保持する為には、ドライアイス(二酸化炭素)および市販の冷凍庫も使用し得る。
【0090】
本発明の別の実施例は、上述の凍結保存回復法により復活された植物および植物細胞に関する。これらの細胞は、本明細書中に開示された属もしくは種、または、凍結-回復方法が適用された属もしくは種の細胞とされ得る。細胞は、凍結保存された初代細胞、もしくは、斯かる細胞から増殖された細胞とされ得る。一様な培養細胞から区別された植物は、相互関連機能を有する結合細胞の別個の塊である。
【0091】
本発明の別の実施例は、凍結保存された細胞を移動かつ解凍する方法および装置に関する。この方法により凍結保存された細胞は、引続く回復の為に中央貯蔵所に貯蔵され得る。偶発的な死滅に対する安全性を高めるべく、凍結された細胞系の各々は多数の場所に貯蔵され得る。回復の間、凍結保存された細胞を含む凍結用小瓶は適切な容器に入れてレシピエントに対して輸送される。適切な容器としては、輸送の間に凍結保存温度を維持し得る容器である。全ての細胞は、液体窒素等の携帯用凍結保存剤により長期間貯蔵用の十分な低温にして輸送され得る。即時解凍が指定された細胞は、コストを節約すべくドライアイスで輸送する。貯蔵所からの細胞の回復キットは、凍結保存された細胞用の小瓶、適切な濃度の浸透剤を備えた十分な培地、ガラス化溶液、および、順次の洗浄用の安定剤を含み得る。代わりに、洗浄溶液に代わりもしくは洗浄溶液に加え、細胞は、安定剤を備えた複数個の半固体培地と、減少量の浸透およびガラス化溶液と共に発送され得る。解凍の後、細胞は洗浄されて即時使用されるか、もしくは、半固体培地上に載置されてガラス化および浸透剤を漸進的に除去しても良い。搬送キットは更に、解凍後生存度分析用の試薬と、解凍された細胞からのDNAと比較して遺伝子安定度を比較する為の基準DNAサンプルとを含んでも良い。
【0092】
以下の実験は、本発明の実施例を説明する為に示されており、本発明の範囲を制限するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0093】
実施例1:カルス開始および増殖
イチイ(Taxus)の針葉を野性植物および養殖植物から採取した。植物材料は、希釈石鹸溶液で洗浄し、蒸留水で丹念に濯ぎ、且つ、亜塩素溶液(1%の次亜塩素酸、pH7)で10分間だけ殺菌する。殺菌状態下で、この材料は滅菌蒸留水で3回に亙り濯がれた。針葉は、100mgのL-アスコルビン酸(ビタミンC)を含む1%のポリビニルピロリジン(PVP)溶液中で切断された。これらの針葉は、切断端を以て半固体の培地E内に載置され、暗所にて24℃±1℃でインキュベートされる。培養物は毎日観察し、微生物汚染の徴侯があるものは廃棄した。相当のカルス形成が観察されると共に、カルスは外植体から20日間だけ分離され、かつ、表4に列挙された種々のカルス増殖培地上に載置された。Taxus chinesisのカルスは、培地D(表4)に移動された。この処理の結果、外植体の90%以上のカルス誘導が生じた。同一の処理が、T.brevifolia、T.canaensis、T.cuspidata、T.baccata、 T.globosa、T.floridana、T.wallichiana、 T.mediaおよびT.chinensisの培養を開始する上で好首尾に使用された。外植体から除去されたカルスは、暗所にて24℃で培養された。カルスの健康な部分は、10日毎に新たな培地に移動された。本発明に好適な成長および維持用培地を列挙する:
【0094】
【表4】

【0095】
実施例2:懸濁細胞の懸濁開始および増殖
1グラムのカルス材料を、25mlの液体培地(表4)を含む125ml容量の三角フラスコに無菌的に植え付ける。フラスコをシリコーンフォームキャップでカバーすると共に、暗所にて24℃で120rpmの旋回シェーカ上に載置する。懸濁培養物は約3〜10日で形成された。培地の交換は、miraclothフィルタを含むブヒナー漏斗を通してフラスコの内容物を吸引濾過すると共に新鮮な培地内で全てのバイマスを再懸濁することにより開始された。また、毎週、25mlの新鮮な培地を含む125mlフラスコに1〜2グラムの細胞を移動した。代表的な種の懸濁培養において達成された典型的な増殖速度および細胞密度は、表5に示されている。
【0096】
【表5】

【0097】
図4には、T-chinensis K-1系に対するバイオマス(含水および乾燥重量)の増加分がプロットされている。最大の増殖速度は、最も急激にバイオマスが増加した点の傾斜を測定することにより決定された。最大の倍加期間2.5日を有するTlchinensisの細胞培養も、これまでに報告されたTaxus種の懸濁培養よりも相当に高い増殖速度を有している。典型的なTaxus培養における倍加期間は約7〜12日である。
【0098】
高密度の培養細胞は、細胞培養工程の生産性を最大限にする。これまでのT.brevifoliaの培養ではリットル当り1グラム乾燥重量以下の細胞密度であった(Christian et al.,1991)が、T.chinensisの懸濁培養は18日の増殖の後でリットル当り8〜20グラム乾燥重量までの密度に達し得る。細胞の生存度は、アセトン内の0.05%フロオレセインジアセテート(FDA)により着色する(J.M.Widholm, Stain Technol 47;189-94,1972)し、次に、蛍光顕微鏡内で青色光励起で緑色蛍光細胞の数をカウントすることにより測定された。細胞の生存度は、増殖相に亙り90%より高かった。
【0099】
実施例3:マンニトールによる予備培養後のイチイ細胞の生存度
6〜7日経過したイチイ細胞の懸濁培養を収穫し、0.16Mのマンニトール、0.22Mのマンニトール、0.33Mのマンニトール、もしくは、0.44Mのマンニトール、を含む新鮮な増殖培地内で再懸濁された。
【0100】
マンニトールを含む増殖培地内で3日間インキュベートした後、細胞は4℃で3時間だけ低温順化された。順化された細胞は収穫されると共に、培地内にエチレングリコール/ソルビトールが40/30wt.%の低温ガラス化溶液を含む4mlの小瓶に移された。小瓶は4℃で3分間だけインキュベートされると共に、液体窒素内に浸漬して凍結された。小瓶は液体窒素内に少なくとも10分間だけ保持され、これを解凍実験に使用する前に行った。
【0101】
凍結された細胞の小瓶は液体窒素貯蔵から取り出されると共に、内容物が液状化するまで(1〜2分間)撹拌された。液状化された細胞は次に、1Mのソルビトールを含む滅菌培地により5〜6回だけ、0.5Mのソルビトールを含む培地により3回だけ、0.1Mのソルビトールを含む培地により3回だけ、且つ、ソルビトールを含まない培地により3回だけ、洗浄された。洗浄は、洗浄培地内で細胞を再懸濁させると共に、50x9で2分間だけ遠心し、且つ、細胞ペレットから洗浄培地を吸引することにより実施された。細胞の生存度は、解凍後に直ちに測定された。数度に亙る実験の概要を以下に列挙する。
【0102】
【表6】

【0103】
実施例4:ソルビトールにより予備培養されたイチイ細胞の生存度
凍結されたイチイ細胞は、解凍されると共に、ソルビトールを0.15M、0.22M、0.33M、0.44Mおよび0.80Mだけ含む新鮮な増殖培地内で懸濁された。解凍後、直ちに生存度が測定された。多数の試みの結果の要約を以下に列挙する:
【0104】
【表7】

【0105】
実施例5:スクロースによる予備培養後のイチイ細胞の生存度
6〜7日経過したイチイ細胞の懸濁培養を収穫し、0.06M、0.12M、0.15M、0.29M、および、0.58Mのスクロース、を含む新鮮な増殖培地内で細胞バイオマスが再懸濁された。又、細胞は凍結保護され、凍結され、解凍され、且つ、透過的に調節された。細胞の生存度は解凍後に直ちに測定された。多数の実験結果の概要が表8に列挙されている:
【0106】
【表8】

【0107】
実施例6:イチイ細胞の生存に関する浸透剤の効果
増殖培地内の種々の浸透剤の効果を、該浸透剤により予備培養された、予備培養期間後の、および、凍結保護かつ凍結された細胞懸濁を解凍した後の、Taxus種細胞に関して測定した。3日間の細胞培養懸濁を行った細胞が、凍結保護に先立ち、種々の浸透剤を含む増殖培地内で予備培養された。凍結保護された細胞は、液体窒素内で凍結されると共に、最小限1時間だけ保存された。予備培養期間の終端(対照物)時と、凍結保護され且つ凍結された細胞の解凍の直後において、生存度試験が行われた。
【0108】
他の浸透剤を使用して観察された生存度と比較した場合、凍結保護かつ凍結された後で解凍した直後に最も高いパーセンテージで生存度を示したものは、増殖培地内にマンニトールを使用して予備処理された細胞培養であった。
【0109】
【表9】

【0110】
実施例7:Taxusの生存度に関する浸透剤および凍結保護剤の効果
Taxus(イチイ)の懸濁培養(KS1A)の細胞が収穫されると共に、培地内に種々の浸透剤を入れて予備培養された。試験された浸透剤は、トレハロース、プロリン、ソルビトール(0.15M-0.8M)、スクロース(2-20%)およびマンニトール(0.16M)を含むものである。生存度は、細胞懸濁の各々に対し、予備培養期間の終了時、および、解凍の直後において評価された。再培養は、解凍後の浸透調節後に評価された。使用されたガラス化溶液は、培養培地内のエチレングリコール/ソルビトール/ペクチン、および、40/30wt.%のエチレングリコール/ソルビトールであった。結果は表10に要約されている。最高の割合の生存度と最も活発な再増殖が観察されたのは、予備培養にマンニトールを使用すると共にガラス化溶液中の凍結保護剤としてエチレングリコール/ソルビトールを使用した場合であった。
【0111】
【表10】

【0112】
実施例8:生存に関する予備培養の効果
細胞培養からイチイ(Taxus)細胞を収穫すると共に、バイオマスが3%の濃度のマンニトールを含む増殖培地中で室温で1日〜3日だけ懸濁された。ロードされた細胞は4℃で3時間だけインキュベートされ、かつ、培養溶媒中に40/30重量%のエチレングリコール/ソルビトールから成る冷却ガラス化溶液を含む4ml凍結用小瓶に移動された。この小瓶は4℃で3分間に亙りインキュベートされると共に、液体窒素に浸漬して凍結された。小瓶中に含まれた細胞は液体窒素中に少なくとも10分間だけ保持された。
【0113】
凍結保存された細胞は解凍され、且つ、それらの生存度はFDAおよびトリパンブルー着色法により測定された。マンニトールにより3日間だけ予備培養された細胞は、マンニトールを含む培地内で予備培養されなかった細胞よりも、遥かに高い解凍後生存度を示した。
【0114】
【表11】

【0115】
実施例9:解凍されたイチイ細胞の生存度に関するエチレングリコール/ソルビトールの効果
Taxus種のKS1A系細胞の6〜7日間の細胞懸濁が、3%マンニトールで室温にて3日間だけ予備培養された。ロードされた細胞は4℃で3時間だけフラスコでインキュベートすることにより低温順化された。低温順化された細胞は4mlの凍結用小瓶に移動され、低温ガラス化溶液が各々に対して付加されて混合された。4℃にて3分間だけガラス化した後、細胞は液体窒素浸漬により凍結された。小瓶は液体窒素内に少なくとも10分間だけ保持された。
【0116】
凍結保存された細胞は、小瓶を液体窒素から取り出すことにより解凍されると共に、40℃の水浴内で1〜2分間だけ撹拌された。解凍後生存度は、FDA着色分析により測定された。
【0117】
Taxus種のKS1A系細胞の細胞懸濁を評価する10個の試みが、異なるエチレングリコール/ソルビトール濃度で行われた。結果は表12に要約されている。40/30wt.%の濃度のエチレングリコール/ソルビトールを含むガラス化溶液内で凍結された細胞懸濁が、他のエチレングリコール/ソルビトール濃度を使用してガラス化された細胞と比較して、最も高い解凍後生存度割合、並びに、最も活発な再増殖を示した。
【0118】
【表12】

【0119】
実施例10:196℃貯蔵後のイチイ細胞の生存に関する凍結保護剤の効果
培養されたイチイ細胞が収穫されると共に、3%のマンニトールを含む新鮮な増殖培地内で3日間に亙り再懸濁された。細胞は3時間だけ低温順化されると共に、ガラス賀陽駅を含む小瓶に移された。細胞懸濁は液体窒素浸漬により凍結された。液体窒素により凍結された細胞は、40℃の水浴内で小瓶を1〜2分間だけ撹拌することにより解凍された。凍結保護剤としてのエチレングリコールと共に凍結された細胞が最も高い生存度を示した。
【0120】
【表13】

【0121】
実施例11:ガラス化溶液へのバイオマスの機能としてのイチイ細胞の生存度
6〜7日間過ぎたTaxus種のKSlA系細胞の再冒険だくが収穫されると共に、3%のマンニトールを含む新鮮な培地中で再懸濁されると共に室温で3日間だけインキュベートされた。4℃で3時間だけ低温順化したあと、細胞は、培養培地内に40/30wt.%のエチレングリコール/ソルビトールを含む4ml小瓶に移された。小瓶は4℃で3分間だけインキュベートされると共に、液体窒素浸漬で凍結された。小瓶は、解凍する前に液体窒素中に少なくとも10分間だけ保持された。
【0122】
最高の生存度パーセントが観察されたのは、細胞バイオマス/ガラス化溶液量が167mg/mlのときであった。受容され得る生存度は、細胞バイオマス/ガラス化溶液比率が143,200および250mg/mlのときであった。
【0123】
【表14】

【0124】
実施例12:イチイ細胞生存度に関する種々の方法段階の効果
最高の解凍後生存度に帰着するであろう段階を決定すべく、種々の方法段階が評価された。細胞は、凍結保護剤を使用し/使用せずに、浸透予備処理を行い/行わず、低温処理を行い/行わず、且つ、ガラス化を行い/行わずに、凍結保存された。
【0125】
第1の試験においては、凍結保護剤を使用し/使用せずに、6〜7日経過したイチイ細胞培養を凍結した。第2の試験においては、細胞を40/30wt%のエチレングリコール/ソルビトールガラス化溶液処理を行い/行わずに、凍結した。第3の試験においては、細胞は、3%のマンニトール増殖培地内で3日間のインキュベートを行う予備処理を行い/行わずに、ガラス化かつ凍結された。第4の試験においては、低温順化を行い/行わずに、細胞が予備処理されると共にガラス化かつ凍結された。
【0126】
各試験に対し、解凍後に直ちに生存度試験が行われた。3%のマンニトールを含む増殖培地により室温で3日間だけ予備増殖されるとともに、凍結保護に先立って2〜4時間だけ低温処理が行われた細胞が最も高い生存度割合を示した。適切な生存度はまた、3%のマンニトールを含む培地中で3日間予備増殖し、そして前もっての低温処理を行わずに凍結保護された細胞、および、増殖培地中で3日間予備増殖し、そしてマンニトールを含む培地中で24時間予備増殖し、そして凍結保護に先立って2〜4時間低温処理が行われた細胞でも、観察された。
【0127】
【表15】

【0128】
細胞は、本明細書中に記述された方法によって行われた表示段階を使用して再び生存度試験が行われた。
【0129】
【表16】

【0130】
実施例13:凍結保存前および凍結保存後の細胞の生存度及び増殖
以下のTaxus(イチイ)種細胞系が、凍結保存後の細胞生存度及び再増殖を決定すべく評価された:KS1A;KEIR;647;1224;12-6;12-14;および12-20。
【0131】
各細胞系の6〜7日経過した細胞懸濁が収穫されると共に、バイオマスが3%のマンニトールを含む新鮮な増殖培地内で再懸濁された。細胞は室温で3日間だけインキュベートされ、その後、ロードされた細胞懸濁は4℃で3時間からインキュベートされた。低温順化された細胞は、40/30wt.%のエチレングリコール/ソルビトールの低温ガラス化溶液を含む4ml小瓶に移された。ガラス化溶液と細胞は穏やかに混合されると共に小瓶は40℃で3分間だけインキュベートされた。その後、細胞懸濁は少なくとも10分間だけ液体窒素に浸漬して凍結された。
【0132】
凍結後、凍結された小瓶を液体窒素から40℃の水浴に1〜2分間だけ移動することにより、細胞は解凍された。解凍後の細胞生存度はFDA着色分析により測定された。また、細胞は、低温の滅菌1Mソルビトール培地により5〜6回だけ洗浄され、新鮮な1M培地中で再懸濁された。
【0133】
毒性凍結保護剤を含まない細胞懸濁は、次に、ブフナー漏斗およびWhatmann54l濾紙を用いて滅菌条件下で個々に濾過された。細胞懸濁の各々に対し、細胞を伴うフィルタは、0.5Mのソルビトールを含む半固体/増殖培地上に載置され、室温で30分間だけ平衡化された。細胞を含む濾紙は、0.1Mのソルビトールを含む固体増殖培地に移動され、24時間だけインキュベートされた。細胞を伴う濾紙は、ソルビトールを含まない半固体培地に移動されると共に、室温で24時間だけインキュベートされた。細胞を含む濾紙は次に、ソルビトールを含まない新鮮な半固体増殖培地に再び移動されると共に、室温で付加的に24時間だけインキュベートされた。半固体栄養培地上のカルス細胞成長は、約2〜3週間で明らかになった。その後、液体増殖培地内の細胞懸濁は、そのカルスから開始された。
【0134】
以下に示す表17から理解される如く、評価された細胞系の全てが、容認し得る解凍後生存度および回復増殖を示した。
【0135】
【表17】

【0136】
実施例14:凍結保存時のイチイ細胞の増殖および生産物形成
6〜7日経過したイチイ細胞系KS1Aの細胞懸濁が凍結保存され且つ解凍された。細胞は、増殖培地内の3%のマンニトールにより3日間だけ予備増殖されると共に、凍結保護剤としては40/30wt.%のエチレングリコール/ソルビトールが使用された。凍結および解凍を行う前後に、増殖倍加時間および生産物形成が評価された。生産物収量は、懸濁液内の増殖の5日後に観察された。細胞内の核DNA内容物を流動細胞計測法により観察し、凍結保存前では約22.7pg/核、かつ、凍結保存後では22.9pg/核であることが見出された。凍結保存は、生産物形成に影響しなかった。
【0137】
【表18】

【0138】
実施例15:凍結保存後のイチイ細胞における増殖および生産物形成
イチイ種細胞系が凍結保存され、次に解凍されると共に解凍後の浸透調節が行われた。液体培養内で細胞の懸濁が確立された後に、増殖および生産物形成が測定された。増殖は、細胞懸濁が増殖培地内で確立された後の平均倍加時間を日数で反映するものである。生産物形成は、懸濁液内で増殖が14日間行われた後に測定された。結果は、表19に列挙されている。
【0139】
【表19】

【0140】
図5は、イチイ種細胞系1224から20日目の細胞外部分のクロマトグラムを示しており、(A)は、凍結保存されなかった細胞懸濁の対照物を示しており、(B)は、凍結保存、凍結、及び、6ヶ月の貯蔵の後に再生されるとともに解凍および解凍後の浸透調節が行われた細胞懸濁を示している。ピーク1は10−デアセチルバッカチン;ピーク2は9-ジヒドロバッカチンIII;ピーク3はバッカチンIII;ピーク4は9-ジヒドロ-13-アセチルバッカチンIII;ピーク5はタキソール;ピーク6は2-ベンゾイル-2-デアセチルバッカチンであり、ピーク7は2-ベンゾイル2-デアセチル-1-ヒドロジバッカチンIである。
【0141】
図6は、イチイ種細胞系203から20日目の細胞外部分のクロマトグラムを示しており、(A)は、凍結保存されなかった細胞懸濁の対照物を示しており、(B)は、凍結保存、凍結、及び、3ヶ月の貯蔵の後に再生されるとともに解凍および解凍後の浸透調節が行われた細胞懸濁を示している。ピーク1は10−デアセチルバッカチン;ピーク2は9-ジヒドロバッカチンIII;ピーク3はバッカチンIII;ピータ4は9-ジヒドロ-13-アセチルバッカチンIII;ピーク5はタキソール;ピーク6は2-ベンゾイル-2-デアセチルバッカチンである。図5および図6から理解される様に、生産物形成の形状は、対照細胞懸濁と、再生された細胞の懸濁とで実質的に同一である。
【0142】
実施例16:凍結保存された細胞および凍結保存されない細胞の遺伝子安定性
細胞系は、単一のTaxus chinensis var.mairerツリーから形成された。これらの形成された細胞系の内のひとつが培養され、1年間だけ凍結保存され、かつ、解凍された。遺伝子分析は、初代の樹木からの細胞および凍結保存された細胞に関して行われ、凍結保存が細胞の遺伝子安定性に影響を与えたか否かに関して測定された。各細胞系から僅か10μgの総計DNAが、制限エンドヌクレアの消化により4倍に処理されると共に、アガロースゲル電気泳動により寸法分画された。寸法分画されたDNAはニトロセルロースの固体支持体上に移動されると共に、放射ラベル核酸プローブ即ちJeffreyの33.6ミニサテライトプローブにハイブリッド形成された。この高可変領域プローブは、図7のレーン1〜4において、4本の異なる樹木のDNAからの異なる帯域パターンを示している。これと対照的に、初代分離物(レーンA)、1年間だけ培養された細胞(レーンB)、及び、1年間だけ凍結保存された細胞(レーンC)は、同じ樹木から1年後に分離された細胞(レーンDおよびE)と同一であった。この分析によっては、凍結保存により一切の変異は検出できなかった。
【0143】
実施例17:凍結保存されたイチイ細胞の安定性
凍結保存期間の長さが遺伝子の安定性に何らかの影響を有するか否かを決定する為に、イチイ細胞系1224を1時間乃至6ヶ月だけ凍結し、それらの遺伝子的安定性を分析した。これらの凍結保存された細胞から解凍されると共に再回復された生存培養増殖からDNAが抽出された。ゲノムを含む核酸リボソームコーディングおよび非コーディングDNAの3.1Kb多形領域が、重合酵素連鎖反応により増幅されると共にエンドヌクレアDpnIIにより消化された。消化されたDNAはゲル電気泳動を用いてサイズ分画されると共に、臭化エチジウムにより着色された後で視認化された。この分析の結果は図8に示されている。初代細胞系および凍結保存されなかった細胞系がレーンCおよびDに分析されている。関連の無い樹木から形成された関連の無い2つの細胞系統は、異なる消化パターンを示した。これと対照的に、1年間(レーンE)、1日(レーンF)、1週間(レーンG)、1ヶ月(レーンH)もしくは6ヶ月(レーンIおよびJ)だけ凍結保存された細胞にも、何らの遺伝子変異が検出されなかった。これらの凍結保存されたおよび凍結保存されなかった細胞の帯域パターンは、全て同一であった(レーンC乃至J)。
【0144】
実施例18:トマト細胞系の凍結保存
トマト細胞系の好首尾な凍結保存の為に、ローディングおよびガラス化溶液が段階的に漸進的に付加され、浸透の衝撃を減じた。ローディングおよびガラス化溶液は、30%(w/v)グリセロール、15%(w/v)エチレングリコール、および、15%(w/v)ジメチルスルホキシドを含んでいた。漸進的な付加を行わない場合、解凍後回復期間の後に細胞は急激に増幅しなかった。解凍後の生存度および回復再増殖の影響が検査され、その結果が表20に示されている。
【0145】
【表20】

【0146】
生存度(細胞の生存)が最も高かったのは、0.5Mのスクロースもしくは0.3Mソルビトールを夫々65%および70%だけ含む液状栄養培地内で3日間だけ細胞が予備増殖された場合であった。これらの予備増殖条件は、細胞懸濁の解凍後における細胞の活発な増殖も支援した。好首尾な凍結保存はまた、予備増殖期間および浸透剤の濃度にも依存した。予備増殖期間を10日間まで延ばすと共に、浸透剤の濃度を0.8M以上まで増大しても、細胞の生存度は増大しなかった。予備培養が無ければ、一段階もしくは段階的なローディングおよびガラス化溶液付加方法のいずれによっても、LN2温度において生存し得なかった。
【0147】
生存度および再増殖再生は、予備増殖された細胞を熱ショック処理に対して4時間まで露出すると共に、2価陽イオン(CaCl2.MgCl2)を添加することにより更に増大した。この試みは、ルピナス、Sophora、conospermum、タバコおよびSolanumの種から得られた細胞系、および、Taxus chinensisなどの種々のイチイ種から得られた強力な細胞系の凍結保存にも好首尾であった。多くの場合、これらの植物種の細胞系の再増殖が顕微鏡で確認されたのはプレーティングから3〜4日後であり、これと比較して、一段階のローディングおよびガラス化方法では6〜10日である。細胞バイオマスを解凍後洗浄する上でエチレン作用阻害剤もしくはエチレン生合成阻害剤をを含む液状培地を用いると、回復された細胞系の品質が更に改善された。90%の生存率が一貫して達成されると共に、これらの系から細胞懸濁が形成された後、迅速な増殖速度が観察された。
【0148】
実施例19 エチレン阻害剤による解凍後処理の影響
凍結用小瓶内の細胞バイオマスが、40℃〜60℃に設定された水浴内で20秒〜45秒だけ急速加温された。この段階の直後、凍結用小瓶内で液状化された細胞バイオマスが、1〜2mMの濃度の浸透剤(スクロース、ソルビトール、もしくはマンニトール)、および、2μM〜20μMの濃度のエチレン阻害剤を含む液状栄養培地を含む滅菌遠心器に移された。内容物は穏やかに混合されると共に、シェーカ(120rpmの速度設定)上で室温にて30分だけインキュベートされた。これに続き、遠心が行われ、ペレットの細胞を吸収転移紙上に載置された二層の滅菌濾紙に移(して細胞もしくは細胞バイオマスからの過剰水分の除去を促進)した。細胞もしくは細胞バイオマスは約2分間だけインキュベートされた。インキュベートの後、細胞が残った上側の濾紙を、0.8M〜0.1Mの低濃度のスクロースを浸透剤として含む固体栄養培地に順次移動(し、細胞の浸透調節を実施)した。各段階において、濾紙上の細胞は1/2〜1時間だけインキュベートされ、最終的に、付加的な浸透剤の存在しない通常の固体栄養培地に移動された。この段階は、24時間の間に2回反復された。次に、細胞バイオマスは暗所にて25℃で、週ごとに移動を行って2〜3週間に亙りインキュベートされた。新たな細胞バイオマスの増殖が増大したとき、カルス細胞は濾紙から除去され、通常の固体栄養培地上に直接的に移動された。十分な増殖が生じた後、形成されたカルスから液体培地内での細胞懸濁が開始された。細胞の生存度の観察は解凍後の様々な時点で行われ、最も重要な観察は概略的に記録された。濾紙上の細胞は、浸透剤が存在しない通常の固体培地に移動された。細胞増殖回復速度は、暗所における25℃での濾紙上の全てのインキュベートに関し最初の3週間の間に観察された。
【0149】
細胞もしくは細胞バイオマスの解凍後に関する代替処理もまた、有用である。この処理は最初に、エチレン阻害剤を含まない1〜2Mの濃度の浸透剤(スクロース、ソルビトールもしくはマンニトール)を含む液状培地で細胞を迅速に洗浄する段階を含む。これは、浸透剤を含む液状栄養培地内で細胞バイオマスを2〜5分間だけインキュベートすると共に100gで1〜3分間だけ遠心することにより行われた。この段階は、ガラス化溶液から有害な凍結保存剤を除去すべく2回反復され、次に、細胞バイオマスが、浸透剤およびエチレン阻害剤(濃度範囲:2〜30μM)を含む液状栄養培地内で30分間だけインキュベートされた。
【0150】
エチレン阻害剤は、エチレン生成、代謝もしくはエチレン作用を妨害する物質である。それらは更に、エチレン生合成拮抗剤およびエチレンアクション拮抗剤としても分類され得る。エチレン生合成拮抗剤は、エチレンへの生合成経路を妨害する化合物である。この、阻害された生合成経路に沿った酵素の例には、ACCシンターゼ、ACCオキダーゼおよびエチレンオキシダーゼが含まれる。また、エチレン生合成拮抗剤の例には、α−アミノイソブチル酸、アセチルサリチル酸、メトキシビニルグリシン、アミノキシ酢酸などが含まれる。更に、エチレン作用拮抗剤の例には、銀含有化合物、銀錯体もしくは銀イオン、二酸化炭素、1-メチルシクロプロペン、2.5-ノルボルナジエン、trans-シクロオクテン、cis-ブテン、ジアゾ-シクロペンタジエン等が含まれる。適切な銀塩には、硝酸銀、チオ硫酸銀、リン酸銀、安息香酸銀、硫酸銀、トルエンスルホン酸の銀塩、塩化銀、酸化銀、酢酸銀、ペンタフルオロプロピオン酸銀、シアン酸銀、乳酸の銀塩、ヘキサフルオロリン酸銀、亜硝酸銀、および、クエン酸の三銀塩が含まれる。種々の銀塩によるイチイ生合成の促進の代表例は、表1および表2に示されている。
【0151】
実験条件は、1.25Mの浸透剤および適切な濃度のSLTS(チオ硫酸銀)を含む栄養液状培地を含んでいた。浸透剤は、スクロース、ソルビトールもしくはマンニトールであった。対照条件は、1.25Mの浸透剤を含み乍らもSLTSを含まない栄養液状培地を含んでいた。結果は表21に示され、カルス細胞の増殖の度合いおよび回復速度の割合を示している。
【0152】
【表21】

【0153】
エチレン阻害剤を含む液体培地により細胞を解凍後処理した処、回復された細胞系の生存度および増殖速度は一貫して改善された。回復された細胞系の増殖速度を増大する上では、チオ硫酸銀の濃度を2μMおよび20μMとするよりも、4μM〜10μMとした方が一層効果的であった。使用した細胞系に依存し乍らも、90%までの生存度割合が達成された。8μMおよび10μMのSLTSを含む解凍後液状培地は細胞増殖をさらに活発に促進し、且つ、浸透剤およびエチレン阻害剤を含まない栄養培地上に細胞を塗付してから3〜4日後に、顕微鏡により細胞増殖が確認された。
【0154】
当業者であれば、本明細書および本明細書中に開示された本発明の実施例を考慮することにより、本発明の他の実施例および使用法は明らかであろう。本明細書中で引用した米国特許の全ては、言及したことにより全体的に明確に援用する。また、本明細書および実施例は、添付の請求の範囲により示される本発明の真の範囲および精神に関する単なる例示的なものと見做さねばならない。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1A】図1(A、BおよびC)は、種々の凍結保存および回復プロトコルの概要である。
【図1B】図1(A、BおよびC)は、種々の凍結保存および回復プロトコルの概要である。
【図1C】図1(A、BおよびC)は、種々の凍結保存および回復プロトコルの概要である。
【図2】図2は、エチレン生成および阻害点の生合成経路を表す図である。
【図3】図3は、イチイ(Taxus)細胞の凍結保存処理を表す図である。
【図4】図4は、イチイchinensis懸濁培養系統K-1におけるバイオマス増加を示す図である。
【図5】図5は、6ヶ月間凍結保存された細胞(A)を、凍結保存されていない細胞(B)と比較したクロマトグラムである。
【図6】図6は、6ヶ月間凍結保存された細胞(A)を、凍結保存されていない細胞(B)と比較したクロマトグラムである。
【図7】図7は、凍結保存された細胞の遺伝子的安定性のサザンブロット分析図である。
【図8】図8は、凍結保存された細胞の遺伝子的安定性のPCR分析図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)凍結保存剤および安定剤により植物細胞を予備処理する段階と;
b)予備処理された植物細胞を低温に順化する段階と;
c)植物細胞にローディング剤をローディングする段階と;
d)ガラス化溶液により植物細胞をガラス化する段階と;
e)ガラス化された植物細胞を凍結保存温度で凍結する段階と;
を備えて成る、植物細胞の凍結保存方法。
【請求項2】
a)凍結保存剤および安定剤により植物細胞を予備処理する段階と;
b)植物細胞をガラス化する段階と;
c)ガラス化された植物細胞を凍結保存温度で凍結する段階と;
を備えて成る、植物細胞の凍結保存方法。
【請求項3】
a)植物細胞を凍結乾燥する段階と;
b)凍結乾燥された植物細胞をガラス化溶液中でガラス化する段階と;
c)ガラス化された植物細胞を凍結保存温度で凍結する段階と;
を備えて成る、植物細胞の凍結保存方法。
【請求項4】
a)浸透剤およびエチレン阻害剤で植物細胞を予備処理する段階と;
b)植物細胞に凍結保護剤をローディングする段階と;
c)植物細胞を凍結保存溶液でガラス化する段階と;
d)植物細胞を凍結保存温度で凍結する段階と;
を備えて成る、植物細胞の凍結保存方法。
【請求項5】
a)浸透剤および約5mM以上の2価陽イオンにより植物細胞を予備処理する段階と;
b)植物細胞に凍結保護剤をローディングする段階と;
c)植物細胞を凍結保護溶液でガラス化する段階と;
d)ガラス化された植物細胞を凍結保存温度で凍結する段階と;
を備えて成る、植物細胞の凍結保存方法。
【請求項6】
a)植物細胞を熱ショックで予備処理する段階と;
b)順化された植物細胞をガラス化溶液でガラス化する段階と;
c)インキュベートされた植物細胞を凍結保存温度で凍結する段階と;
を備えて成る、植物細胞の凍結保存方法。
【請求項7】
植物細胞は、裸子植物もしくは被子植物である、請求項1乃至6に記載の方法。
【請求項8】
裸子植物は、モミ属(Abies)、イトスギ属(Cypressus)、イチョウ属(Ginkgo)、ビャクシン属(Juniperus)、トウヒ属(Picea)、マツ属(Pinus)、トガサワラ(ベイマツ)属(Pseudotsuga)、セコイア属(Sequoia)、イチイ属(Taxus)、ツガ属(Tsuga)もしくはザミア属(Zamia)の種である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
イチイ(Taxus)種は、T.baccata(イチイ科ヨーロッパイチイ),T.brevifolia,T.canadensis,T.chinensis,T.cuspidata,T.floridana,T.globosa,T.media,T.nuciferaもしくはT.wallichianaである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
被子植物は単子葉植物細胞もしくは双子葉植物細胞である、請求項7記載の方法。
【請求項11】
単子葉植物細胞は、からす麦属(Avena)、ココヤシ属(Cocos)、ヤマノイモ属(Dioscorea)、オオムギ属(Hordeum)、バショウ属(Musa)、イネ属(Oryza)、メダケ属(Saccharum)、モロコシ属(Sorghum)、コムギ属(Triticum)およびトウモロコシ属(Zea)である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
双子葉植物細胞は、Achyrocline属、Atropa属、アブラナ属(Brassica)、メギ属(Berberis)、トウガラシ属(Capsicum)、Catharanthus属、conospermum属、チョウセンアサガオ属(Datura)、ニンジン属(Daucus)、ジギタリス属(Digitalis)、Echinacea属・Eschscholtzia属、ダイズ属(Glycine)、ワタ属(Gossypium)、ヒヨス属(Hyoscyamus)、トマト属(Lycopersicum)、リンゴ属(Malus)、ムラサキウマゴヤシ属(Medicago)、タバコ属(Nicotiana)、panax属、エンドウ属(Pisum)、Rauvolfia属、Ruta属、ナス属(Solanunt)およびTrichosanthes属の種から成る群から選択される、請求項10記載の方法。
【請求項13】
植物細胞は、新生の針葉、樹皮、葉、幹、根、地下茎、カルス細胞、原形質体、細胞懸濁、分裂組織、種子もしくは胚から得られる、請求項1乃至6記載の方法。
【請求項14】
予備処理段階は、前記ローディング剤および前記安定剤を含む培地内で前記植物細胞を略々室温で約1時間乃至7日間に亙り培養する段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
ローディング剤は、糖類、アミノ酸もしくはそれらの組合せである、請求項1記載の方法。
【請求項16】
糖類は、フルクトース、グルコース、マルトース、マンニトール、ソルビトール、スクロース、トレハロース、および、それらの誘導体から成る群から選択されたひとつ以上の糖類である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
ローディング剤は、約0.05M乃至約0.8M、もしくは、約1wt.%乃至約10wt.%の濃度の水溶液として使用される、請求項1記載の方法。
【請求項18】
安定剤は、抗酸化剤、酸素ラジカル捕捉剤、2価陽イオン、エチレン阻害剤、もしくは、それらの組合せである、請求項2記載の方法。
【請求項19】
安定剤は、還元形グルタチオン、テトラメチル尿素、テトラメチルチオ尿素、ジメチルホルムアミド、メルカプトプロピオニルグリシン、メルカプトエチルアミン、セレノメチオニン、チオ尿素、ジメルカプトプロパノール、アスコルビン酸、システイン、ナトリウムジエチルジチオカルバミド、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸銀、没食子酸プロピル、スペルミン、スペルミジン、および、それらの組合せおよび誘導体から成る群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項20】
安定剤は、約1μM乃至約1mMの濃度の水溶液として使用される、請求項1記載の方法。
【請求項21】
低温は約1℃乃至約15℃の間である、請求項1記載の方法。
【請求項22】
ローディング段階は、重量で約0.5%乃至約10%のガラス化剤を含むガラス化溶液内で前記植物細胞をインキュベートする段階を含んで成る、請求項1、4および5に記載の方法。
【請求項23】
凍結保護剤は、DMSO、プロピレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、ブタンジオール、ホルムアミド、プロパンジオール、ソルビトール、マンニトール、およびそれらの混合物、から成る群から選択される、請求項1、2、4および5に記載の方法。
【請求項24】
凍結保護もしくはガラス化溶液は、DMSO、プロピレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、ブタンジオール、ホルムアミド、プロパンジオール、ソルビトール、マンニトール、およびそれらの混合物、から成る群から選択された物質を含む、請求項1乃至6に記載の方法。
【請求項25】
凍結保護もしくはガラス化溶液は、重量で約20%乃至約60%の凍結保存剤を含む、請求項1乃至6記載の方法。
【請求項26】
凍結保護もしくはガラス化溶液は植物細胞に加えられ、溶液に対する割合が約250mg/ml以下のバイオマスを形成する、請求項1および3乃至6に記載の方法。
【請求項27】
ローディング剤およびガラス化剤は同一である、請求項1記載の方法。
【請求項28】
浸透剤および凍結保護剤は同一である、請求項5記載の方法。
【請求項29】
ローディングおよびガラス化は実質的に同時に行われる、請求項1、4および5に記載の方法。
【請求項30】
ローディングもしくはガラス化は、単一段階もしくは複数段階の処理として行われる、請求項1乃至6記載の方法。
【請求項31】
凍結乾燥段階は、植物細胞から重量で約40%乃至約60%の水分を除去する、請求項3記載の方法。
【請求項32】
凍結乾燥およびガラス化は、植物細胞から重量で約75%乃至約95%の水分を除去する、請求項3記載の方法。
【請求項33】
植物細胞には、ガラス化に先立ちローディング剤がロードされる、請求項2、3、4および6に記載の方法。
【請求項34】
植物細胞は、該植物細胞を、DMSO、プロピレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、およびそれらの混合物、から成る群から選択されるガラス化剤を含む約0℃乃至約4℃のガラス化溶液によりインキュベートすることによりガラス化される、請求項1乃至6記載の方法。
【請求項35】
凍結段階は液体窒素中で急冷する段階から成る、請求項1乃至6記載の方法。
【請求項36】
凍結段階に先立ち、凍結保護剤を含む培地内で前記植物細胞を培養する段階を更に備えて成る、請求項3乃至6記載の方法。
【請求項37】
凍結保護剤は、フルクトース、グルコース、マルトース、マンニトール、ソルビトール、スクロース、トレハロース、および、それらの混合物並びに誘導体から成る群から選択される、請求項36記載の方法。
【請求項38】
培地は安定剤を更に含んでなる、請求項36記載の方法。
【請求項39】
安定剤は、酸化防止剤、酸素ラジカル捕捉剤、エチレン阻害剤、2価陽イオン、もしくは、それらの組合せである、請求項38記載の方法。
【請求項40】
凍結保存温度は約-70℃以下である、請求項1乃至6記載の方法。
【請求項41】
前記凍結保存温度で凍結保存された細胞を、1ヶ月以上の期間に亙り貯蔵する段階を更に備えて成る、請求項1乃至6記載の方法。
【請求項42】
期間は1年以上である、請求項40記載の方法。
【請求項43】
請求項1乃至6の方法により凍結保存された生存植物細胞。
【請求項44】
凍結保存によっても前記細胞は遺伝子的もしくは表現型的にそれほど変化せしめられない、請求項42記載の生存植物細胞。
【請求項45】
イチイ(Taxus)種である、請求項42記載の生存植物細胞。
【請求項46】
前記イチイ細胞はジテルペンを発出する、請求項45記載の生存植物細胞。
【請求項47】
ジテルペンはタキソールである、請求項46記載の生存植物細胞。
【請求項48】
前記ジテルペンの発出は、凍結保存によりそれほど変化せしめられない、請求項46記載の生存植物細胞。
【請求項49】
請求項1乃至6記載の方法により凍結保存された生存植物細胞の生殖細胞保存物。
【請求項50】
a)ガラス化剤および安定剤を含む培地内で植物細胞を低温で第1期間に亙りインキュベートする段階と;
b)上記ガラス化剤の濃度が高められた培地内で植物細胞を第2期間に亙りインキュベートする段階と;
c)凍結保存温度で植物細胞を凍結する段階と;
を備えて成る、植物細胞の凍結保存方法。
【請求項51】
第1期間は約1時間乃至約7日間である、請求項50記載の方法。
【請求項52】
第2期間は約30分乃至約2時間である、請求項50記載の方法。
【請求項53】
前記ガラス化剤の高められた濃度は、重量で約20%乃至約60%である、請求項50記載の方法。
【請求項54】
請求項50の方法により凍結保存された生存植物細胞。
【請求項55】
a)請求項1乃至6および50の方法に従って、植物細胞を凍結保存する段階と;
b)凍結保存された植物細胞を凍結以上の温度に解凍する段階と;
c)解凍された植物細胞を、凍結保護剤および安定剤を含む増殖培地内でインキュベートする段階と;
d)凍結保護剤を除去する段階と;
e)生存植物細胞を回復する段階と;
を備えて成る、凍結保存された植物細胞の回復方法。
【請求項56】
a)凍結保存された植物細胞を凍結以上の温度に解凍する段階と;
b)解凍された植物細胞を、エチレン阻害剤を含む増殖培地内でインキュベートする段階と;
c)生存植物細胞を回復する段階と;
を備えて成る、凍結保存された植物細胞を回復する方法。
【請求項57】
a)凍結保存された植物細胞を凍結以上の温度に解凍する段階と;
b)解凍された植物細胞を、凍結保護剤および安定剤を含む増殖培地内でインキュベートする段階と;
c)凍結保護剤を除去する段階と;
d)生存植物細胞を回復する段階と;
を備えて成る、凍結保存された植物細胞の回復方法。
【請求項58】
a)凍結保存された植物細胞を凍結以上の温度に解凍する段階と;
b)解凍された植物細胞を、2価陽イオンを含む増殖培地内でインキュベートする段階と;
c)生存植物細胞を回復する段階と;
を備えて成る、凍結保存された植物細胞を回復する方法。
【請求項59】
a)凍結保存された植物細胞を凍結以上の温度に解凍する段階と;
b)解凍された植物細胞を懸濁液内でインキュベートする段階と;
c)懸濁液内で生存植物細胞を回復する段階と;
を備えて成る、凍結保存された植物細胞を懸濁液内で回復する方法。
【請求項60】
凍結保存された植物細胞は略々室温で解凍される、請求項55乃至59に記載の方法。
【請求項61】
凍結保護剤は、糖類、アミノ酸もしくはそれらの混合物である、請求項55および57に記載の方法。
【請求項62】
凍結保護剤は、ソルビトール、マンニトール、スクロース、トレハロース、プロリン、および、それらの混合物から成る群から選択される、請求項55および57に記載の方法。
【請求項63】
安定剤は、抗酸化剤、酸素ラジカル捕捉剤、エチレン阻害剤、2価陽イオン、もしくは、それらの組合せである、請求項57記載の方法。
【請求項64】
安定剤は、還元形グルタチオン、テトラメチル尿素、テトラメチルチオ尿素、ジメチルホルムアミド、メルカプトプロピオニルグリシン、メルカプトエチルアミン、セレノメチオニン、チオ尿素、ジメルカプトプロパノール、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸銀、アスコルビン酸、システイン、ナトリウムジエチルジチオカルバミド、スペルミン、スペルミジン、没食子酸プロピル、および、それらの組合せおよび誘導体から成る群から選択される、請求項57記載の方法。
【請求項65】
インキュベート段階および回復段階は液状培地内で行われる、請求項55乃至59記載の方法。
【請求項66】
凍結保護剤は、前記液状培地により段階的にもしくは連続的希釈により除去される、請求項55乃至59記載の方法。
【請求項67】
インキュベートは半固体培地上で行われる、請求項55乃至59記載の方法。
【請求項68】
除去段階は、浸透的に調節された細胞を、低下していく濃度で前記凍結保護剤を含む増殖培地により複数回だけ洗浄する段階を備えて成る、請求項55乃至59記載の方法。
【請求項69】
回復された生存植物細胞はジテルペンを発出すると共に、ジテルペン発出は凍結保存によりそれほど変化せしめられない、請求項55乃至59記載の方法。
【請求項70】
回復された植物細胞の約50%以上が生存する、請求項55乃至59記載の方法。
【請求項71】
回復された植物細胞の約70%以上が生存する、請求項55乃至59記載の方法。
【請求項72】
回復された植物細胞の約80%以上が生存する、請求項55乃至59記載の方法。
【請求項73】
解凍された植物細胞は、約0℃乃至約10℃にて増殖培地内でインキュベートされる、請求項55乃至59記載の方法。
【請求項74】
増殖培地は凍結保護剤から成る、請求項73記載の方法。
【請求項75】
凍結保護剤は所定期間後に除去されると共に、植物細胞のインキュベートは増殖培地内および懸架液内で行われる、請求項55乃至59記載の方法。
【請求項76】
増殖培地は安定剤を含む、請求項55乃至59記載の方法。
【請求項77】
安定剤は、抗酸化剤、酸素ラジカル捕捉剤、エチレン阻害剤、2価陽イオン、もしくは、それらの組合せである、請求項76記載の方法。
【請求項78】
エチレン阻害剤は、エチレン生合成阻害剤もしくはエチレン作用阻害剤である、請求項77記載の方法。
【請求項79】
エチレン作用阻害剤は銀塩である、請求項78記載の方法。
【請求項80】
銀塩は、チオ硫酸銀、硝酸銀、塩化銀、酢酸銀、リン酸銀、硫酸銀、亜硝酸銀から成る群から選択される、請求項79記載の方法。
【請求項81】
エチレン生合成阻害剤は、スペルミジン、スペルミン、カテコール、n-プロピル没食予酸、ヒドロキノン、鉄酸、アラール(alar)、フェニルエチルアミン、サリチルアルコール、インドメタシンから成る群から選択される、請求項78記載の方法。
【請求項82】
2価陽イオンは、カルシウム、マグネシウムもしくはマンガンである、請求項79記載の方法。
【請求項83】
植物細胞は半固体培地に移動される、請求項55乃至59記載の方法。
【請求項84】
インキュベートおよび回復は液状培地内で行われる、請求項55乃至59記載の方法。
【請求項85】
インキュベートは半固体培地上で行われる、請求項55乃至59記載の方法。
【請求項86】
回復された生存植物細胞は活発に再増殖する、請求項55乃至59記載の方法。
【請求項87】
ローディングもしくはガラス化は、単一段階もしくは複数段階にて行われる、請求項55乃至59記載の方法。
【請求項88】
複数段階は、1分間隔で5回に亙り凍結保護剤を植物細胞に添加する段階から成る、請求項87記載の方法。
【請求項89】
請求項55乃至59の方法により回復された生存植物細胞。
【請求項90】
請求項89の生存植物細胞から繁殖された植物。
【請求項91】
イチイ(Taxus)種である、請求項90記載の植物。
【請求項92】
請求項55乃至59の方法により回復された生存植物細胞の懸濁物。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−5846(P2008−5846A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200855(P2007−200855)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【分割の表示】特願平9−502141の分割
【原出願日】平成8年6月7日(1996.6.7)
【出願人】(507041179)ファイトン・インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】