説明

多機能型振動アクチュエータに於ける振動特性の調整方法

【課題】
搭載する取付筐体内に於いて配置場所の制限を受けず、全体的な薄型化と振動特性の維持とが容易な多機能型振動アクチュエータを提供する。
【解決手段】
別体とした分銅の一部を切り欠いた構造とすることで、空気粘性の減少と磁気回路部の横ブレを防ぎ、耐久性の向上及び、全体としての信頼性向上が可能となった。また、全体として薄型構造に構成することが容易な為、取付筐体内での省スペース化という効果をも得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネットを有する磁気回路部と、ボイスコイルを有する振動板とを備え、サスペンションを用いて前記磁気回路部をハウジング内に支持し、該ハウジング端部に前記振動板を設け、前記ボイスコイルへの入力によって、前記磁気回路部の振動による体感振動の発生及び、前記振動板の振動による音響再生機能を有するダイナミック構造の多機能型振動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、携帯電話に代表される移動体通信機器には、音響再生及び体感振動によって使用者に着信を知らせる着信報知機能が設けられている。この様な移動体通信機器について、近年では特開2001−095076(以下特許文献1として記載)に代表される多機能型振動アクチュエータによって前記音響再生と振動発生とを行うものが用いられている。
【0003】
ここで、前記特許文献1記載の多機能型振動アクチュエータは、体感振動発生時に於いて、マグネットを設けた磁気回路部の横ブレ防止を目的としてスタビライザを設けた事を特徴としている。また、同じ振動特性の向上を目的とした構造としては、特開2001−293436(以下特許文献2として記載)に記載された多機能型振動アクチュエータが公開されており、振動部に働く空気粘性の面から振動特性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−095076号公報
【特許文献2】特開2001−293436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように前記各特許文献記載の構造は体感振動発生時に於ける磁気回路部の挙動を安定させた事を特徴としている。より具体的には、特許文献1記載の構造は別途設けたスタビライザーによって、特許文献2に記載の構造は空気粘性による減衰によって、それぞれ当該効果を得ている。しかしながら、 近年進んでいる携帯電話の薄型化に伴い、多機能型振動アクチュエータにもまた、従来の性能を維持した状態での薄型化が要求されている。
【0006】
前記薄型化の要求に対して、特許文献1記載の構造はその構成上、スタビライザーを設ける空間がハウジング側に必要となる為、素子全体の薄型化が難しいという課題を有していた。また、特許文献2に記載の構造は貫通孔から空気を逃がすことによって前記磁気回路部に働く空気粘性を減少させている。この為、携帯電話への搭載時に貫通孔を開放して配置する必要がある。
【0007】
以上述べた課題に対して本願記載の発明では、搭載する取付筐体内に於いて配置場所の制限を受けず、全体的な薄型化と振動特性の維持とが容易な多機能型振動アクチュエータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的のために本発明に於ける多機能型振動アクチュエータは、基本構造としてボイスコイルを設けたダイアフラムによって音響再生を行い、前記音響再生部を設けたハウジング内に、マグネット及び分銅を有する磁気回路部を配置し、前記磁気回路部をサスペンションによって支持するダイナミック構造を用いている。また、前記基本構造の中で、磁気回路部に設けた分銅の平面形状について、対象位置に切り欠き部を設けた構造としつつ、該平面形状に於ける径寸法の一部を、前記磁気回路部を収納する収納部内壁の径寸法に対して97%以上に設定している。
【0009】
また、本発明に於ける第2の態様では、前記分銅について厚み方向の段部を設けた構造としている。
【0010】
また、本発明に於ける第3の態様では、板材に曲げ加工等を加えることで前記分銅を構成している。
【0011】
また、本発明に於ける第4の態様では、前記ヨーク及び前記分銅に換えて、分銅と一体化したヨークを用いた構造としている。
【発明の効果】
【0012】
この様な構造を用いた事で本発明記載の多機能型振動アクチュエータは、振動特性の鋭さを、分銅の外周部に設けた切り欠き部の切り欠き量によって調整することが可能となる。より具体的には、磁気回路部を収納する収納部の内壁の径寸法に対して97%以上の径寸法に設定した分銅に切り欠き部を設けることによって、衝撃等によって加わるサスペンションの塑性変形を防ぐと同時に、振動特性のQ値を調整できるという効果を得ている。
【0013】
ここで、前記サスペンションの塑性変形防止という効果は、磁気回路部に設けた分銅に径寸法の制限を加えた構造が、サスペンションの径方向に対する塑性変形を防止することによって可能となる効果である。即ち、従来技術がサスペンションの塑性変形をスタビライザー等によって軽減し、または塑性変形による振動特性の変化を許容する構造となっているのに対して、本願記載の構造は分銅の平面形状に関して径方向の寸法限定を加えることでサスペンションの塑性変形を防止する構造となっている。
【0014】
また、切り欠き部によって振動特性のQ値を調整するという効果について、本願記載の構造は切り欠き量だけではなく、切り欠き部の形状によっても体感振動発生中の空気粘性及び流量を変化させることができる為、切り欠き量及び切り欠き形状の両面からQ値を調整することが可能となる。より具体的には、本願記載の構造は、共振周波数に対する半値幅の比で算出される振動特性のQ値について、要求する仕様に合わせた切り欠き部を設定することによってダンパ成分となる空気粘性を調整し、目標とするQ値を得ることができる構造となっている。従って本願記載の構造は冒頭で述べた特許文献2に記載の構造とは異なり、密閉された状態でも安定して振動特性を維持することが可能となる。更に、切り欠き部による空気粘性の減少という手段を用いたことにより、分銅の重量低下を抑えて振動量を維持しつつ、上記調整をすることができる。
【0015】
また、本発明に於ける第2の態様を用いることにより、上記述べた各効果に加えて、体感振動発生時に変形するサスペンションと分銅との衝突を緩和し、該衝突によるサスペンションの塑性変形を防ぐことが可能となる。この様な構造を用いたことで、本願記載の構造は薄型化した構造に於いて径方向だけではなく、厚み方向の変位についてもサスペンションの塑性変形を防止することができる。加えて、本態様の構造は磁気回路部振動時に於けるサスペンションの塑性変形を、径方向と厚み方向の両方で防止する為、サスペンションの消耗を抑制したことによる長寿命化という効果を有している。
【0016】
また、本発明に於ける第3の態様を用いることにより、分銅の段部を曲げ加工によって形成する構成となる。この為、分銅表面に於ける平面度及び外形寸法についてバラツキを抑制し、磁気回路部に対する分銅の位置決め及び寸法精度を向上させることが可能となる。加えて、本願の基本構造が目的としているQ値の調整に於いても、前記寸法精度の向上によって容易に行うことができる。
【0017】
また、本発明に於ける第4の態様を用いることにより、部品点数の減少とそれに伴う組立の容易化といった効果に加えて、ヨークと分銅を一体化したことによる磁気回路部の重量増加という効果をも得ることが出来る。これは、ヨークと分銅とを別体に構成する際に必要となるクリアランス及び公差設定が必要なくなる為で、薄型化された構造に於いて、磁気回路部重量による振動量の確保が可能となる。
【0018】
以上述べたように、本願記載の構造を用いることで、搭載する取付筐体内に於いて配置場所の制限を受けず、全体的な薄型化と振動特性の維持とが容易な多機能型振動アクチュエータを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の最良の実施形態にて用いる多機能型振動アクチュエータの斜視図
【図2】本発明の最良の実施形態にて用いる多機能型振動アクチュエータの分解斜視図
【図3】図1にて示した多機能型振動アクチュエータのA−A’に於ける側断面図
【図4】図1にて示した多機能型振動アクチュエータのB−B’に於ける側断面図
【図5】本発明の最良の実施形態にて用いる分銅の斜視図
【図6】図1のカバー内に於ける分銅の配置を示す平面図
【図7】図1の構成変更例に於いて用いるヨーク一体型分銅の斜視図
【図8】図7にて示したヨーク一体型分銅の側断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図1、図2、図3、図4、図5及び図6を用いて、本発明に於ける最良の実施形態を示す。図1に本実施形態に於いて用いる多機能型振動アクチュエータの全体斜視図を、図2に分解斜視図を、図3に図1のA−A’断面に於ける側断面図を、図4に図1のB−B’断面に於ける側断面図を、図5に分銅単体の斜視図を、そして図6に図1のカバー内に於ける分銅の配置をそれぞれ示す。尚、図3のA−A’断面は分銅の切り欠き部を通らない側断面図であり、図4のB−B’断面は分銅切り欠き部を通る側断面図となっている。
【0021】
図1、図2、図3及び図4から解るように、本実施形態に於いて用いる多機能型振動アクチュエータは、ボイスコイル3を取り付けたダイアフラム2によって構成した音響再生部と、ポールピース6、マグネット7、ヨーク8及び分銅9からなる磁気回路部をサスペンション5を介してハウジング4に支持した振動発生部とを有し、ボイスコイル3とマグネット7との間に働く相互の磁気力によって音響再生部による音響再生及び振動発生部による振動発生を行うダイナミック構造となっている。また、サスペンション5、ポールピース6、ヨーク8は磁性体によって構成されており、マグネット7は厚み方向に着磁されている。尚、サスペンション5はハウジング4にインサート成形された構成となっている。
【0022】
この様な構造を用いたことで、本願記載の多機能型振動アクチュエータは音響再生と体感振動発生機能とを単一のデバイスで提供することができた。より具体的には、ボイスコイル3に入力する信号を、音響再生部の共振周波数帯域と振動発生部の共振周波数帯域とで切り換えることで、前記単一のデバイスによる音響再生及び振動発生機能の提供を可能にしている。尚、本実施形態ではダイアフラム2の外周に設けたグリル1によって、取付筐体組み込み時に於けるダイアフラム2と取付筐体内壁との接触を防ぐ構造となっている。
【0023】
また、図3及び図4から解るように、本実施形態記載の磁気回路部はサスペンション5、ヨーク8、マグネット7及びポールピース6によって磁気空隙gを構成している。この為、サスペンション5を磁気空隙gを構成する磁路の一部として使用する構造となり、磁気回路部を薄型に構成しつつ、ボイスコイル3を磁気空隙gに配置した際の磁気効率を維持することができた。加えて、前記磁気回路部の薄型化に伴い、振動量の低下を抑えつつ、全体的な厚み寸法を減少させることが可能となった。
【0024】
また、図3、図4、図5及び図6から解るように、本実施形態記載の構造では、磁気回路部に設けた分銅9を板材によって構成しており、分銅9の外周に切り欠きkを設けた平面形状となっている。加えて、分銅の外周寸法d1はカバー内壁の内周寸法d2に対して97%以上に設定しており、分銅の表面には同心円状の段部eを形成している。
【0025】
この様な構造を用いたことで、本実施形態記載の多機能型振動アクチュエータは、落下等の衝撃時に於いてサスペンション5に生じる水平方向の変位を弾性変形域内に限定し、分銅表面に設けた段部eによって分銅−サスペンション間の接触によるサスペンション5の塑性変形を防ぐことを可能にしている。加えて、本実施形態ではハウジング底部と分銅外周との距離c1を、ボイスコイルとヨークの距離c2よりも短くした部品配置としており、振動方向の衝撃を受けた際に、ハウジング底部が磁気回路部に対するストッパとして機能し、ボイスコイル−磁気回路部間の衝突を防ぐ構成となっている。これら複数の効果を備えたことで、本願記載の構造は水平方向と振動方向の両方について内部構造を保護することが可能となっている。
【0026】
また、本実施形態では打ち抜きによって分銅9を加工し、曲げ加工によって前記段部eを成形している。加えて、分銅9をヨーク8の外周に設けることで磁気回路部に働く空気粘性を分銅形状によって調整する構造となっている。この為、製造時に於ける分銅9の寸歩精度の向上及び、分銅9による空気粘性の調整が容易になり、目標とするQ値を安定して得る事が可能になった。加えて、前記ハウジング内壁に対する分銅外周の寸法設定、組立時のカバー内壁−分銅外周間及び、分銅内周−ヨーク間に於ける相互の位置決めもまた、高い精度で行うことができた。
【0027】
また、図4から解るように、本実施形態ではカバー側壁の放音孔hを分銅の切り欠きkと同位置に設けている。この為、分銅の切り欠き部kを放音用の経路として使用しつつ、前記振動発生時に於ける空気粘性の減少という効果を得ることができた。尚、本願記載の構造では切り欠き部kによって空気粘性の調整を行う為、取付筐体への組み込み時に放音孔hが塞がっても安定した振動特性を維持することができる。
【0028】
ここで、図7に示すヨーク一体型分銅の斜視図及び図8に示すヨーク一体型分銅の側断面図を用いて本実施形態記載のヨーク8と分銅9とを一体化した構成変更例を説明する。本変更例では、ヨーク8と分銅9とを単一の部品として構成している。この為、部品点数の減少等の効果に加えて、上記カバー側壁に対する磁気回路の位置決め容易化といった効果をも得ることが出来た。
【0029】
以上述べたように、本実施形態記載の構造を用いることで、搭載する取付筐体内に於いて配置場所の制限を受けず、全体的な薄型化と振動特性の維持とが容易な多機能型振動アクチュエータを得ることができた。
【符号の説明】
【0030】
1 グリル
2 ダイアフラム
3 ボイスコイル
4 ハウジング
5 サスペンション
6 ポールピース
7 マグネット
8 ヨーク
9 分銅
10 カバー
11 ヨーク一体型分銅
c1 ハウジング底部と分銅外周との距離
c2 ボイスコイルとヨークの距離
d1 分銅の外周寸法
d2 カバー内壁の内周寸法
e 段部
g 磁気空隙
h 放音孔
k 切り欠き部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体からなるヨークに、マグネット及び分銅を設けて構成した磁気回路部を、サスペンションを介してハウジングに支持するダイナミック構造の多機能型振動アクチュエータに於いて、前記分銅が対称位置に切り欠き部を設けた平面形状を有しており、前記分銅の平面形状に於ける径寸法の一部を、前記磁気回路部を収納する収納部内壁の径寸法に対して97%以上に設定されている多機能型振動アクチュエータ。
【請求項2】
前記分銅に、径方向の段部を構成した請求項1記載の多機能型振動アクチュエータ。
【請求項3】
前記分銅を、板材によって構成した請求項2記載の多機能型振動アクチュエータ。
【請求項4】
前記ヨーク及び前記分銅に換えて、分銅と一体に構成したヨークを用いる請求項1記載の多機能型振動アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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