説明

多段階ロック機構

【課題】操作棒20をその軸心線方向に所望距離だけ移動させる過程で、操作棒20の位置を多段階でロックできるようにし、それにより、操作棒20の移動に連動して変位する被操作部材3に、多段階の変位量を与えかつその位置で適宜固定できるようにした、新規な多段階ロック機構A1,A2を提供する。
【解決手段】軸受けによって回動自在に機枠に支持された円筒体10の内周面に案内路30を形成する。案内路30は円筒体10の中心軸線Lと傾斜した方向で延在する複数本の長溝31とクランク部32とで構成される。円筒体10の中心軸線Lに平行な姿勢で円筒体内に配置されかつ軸線方向に移動できる操作棒20を備え、操作棒20に形成した操作棒係合部21が案内路30に係合している。操作棒20を中心軸線Lに移動させると、操作棒係合部21は各クランク部32に形成した溜まり部36を順次移動していく。各溜まり部36において、操作棒係合部21は位置決めされロックされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作棒がその軸心線方向に移動する過程で、当該操作棒の位置を多段階でロックすることのできる多段階ロック機構に関する。
【背景技術】
【0002】
弁の開度を多段階に制御する、あるいはレバーを任意の位置に固定する等の手段として、例えば弁等である被操作部材と該被操作部材に所望の変位を与えるための操作棒とを適宜の手段を介して連動させ、該操作棒を操作者が操作することで、被操作部材に所望の変位を生じさせる機構は知られている。
【0003】
そのような機構の1つとして、操作棒をその軸心線方向に所定距離だけ移動させることで、被操作部材に一定の変位を与えるようにした機構が知られており、その一例として、特許文献1には、操作棒を所定距離、すなわち1ストローク分だけ移動させることで、それに連動する被操作部材が周方向に所定距離だけ回動し、かつその位置に固定する機構が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−179017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の機構は、操作棒の1ストローク分の移動で被操作部材が所定距離だけ変位し、変位後にそこに固定される機構であり、1ストロークの途中で被操作部材に所望の変位を与え、かつその位置で固定することはできない。また、被操作部材は周方向への回転移動であり、用途が制限されるのを避けられない。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、操作棒をその軸心線方向に所望距離だけ移動させる過程で、当該操作棒の位置を多段階でロックできるようにし、それにより、当該操作棒の移動に連動して変位する被操作部材に、多段階の変位量を与えかつその位置で適宜固定できるようにした、新規な多段階ロック機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による多段階ロック機構の第1の形態は、軸受けによって回動自在に機枠に支持された円筒体と、前記円筒体の内壁に形成された案内路と、前記円筒体の中心軸線に平行な姿勢で円筒体内に配置されかつ軸線方向に移動できる操作棒と、前記操作棒の一部であって前記案内路内に摺動自在に係合している操作棒係合部と、前記操作棒をその軸線方向の一方向(−x方向)に常時付勢する付勢手段と、を備えており、そこにおいて、前記案内路は、前記円筒体の中心軸線に対して傾斜した姿勢で周方向に所定の間隔をおいて平行に形成された所要本数の長溝と、隣接する長溝間に形成された適数のクランク部とを備え、前記操作棒係合部が前記長溝内を前記−x方向とは反対方向であるx方向に摺動移動するときに前記円筒体が回転する方向をa方向としたときに、前記クランク部は、前記a方向の回転下流側の長溝から回転上流側の長溝方向に向かう第1の傾斜溝と、前記第1の傾斜溝の終端から前記円筒体の軸線方向にx方向に延びる横溝と、前記横溝の終端から回転上流側の長溝にまで達する第2の傾斜溝とで構成されており、前記第1の傾斜溝と前記横溝とが接続する角部には前記操作棒係合部を一時的に保持することのできる溜まり部が形成されていることを特徴とする。
【0008】
上記第1の形態の多段階ロック機構において、多段階ロック機構は、前記a方向と反対の方向に前記円筒体に回転付勢力を与えるための第2の付勢手段をさらに備えることもできる。
【0009】
本発明による多段階ロック機構の第2の形態は、軸受けによって回動自在に機枠に支持された円筒体と、前記円筒体の内壁に形成された案内路と、前記円筒体の中心軸線に平行な姿勢で円筒体内に配置されかつ軸線方向に移動できる操作棒と、前記操作棒の一部であって前記案内路内に摺動自在に係合している操作棒係合部と、前記操作棒をその軸線方向の一方向(x方向)に常時付勢する付勢手段と、前記円筒体にc方向の回転付勢力を与えるための第2の付勢手段と、を備えており、そこにおいて、前記案内路は、前記円筒体の周方向に所定の間隔をおいて平行に形成された所要本数の長溝と、隣接する長溝間に形成された適数のクランク部とを備え、前記クランク部は、前記c方向の回転上流側の長溝から回転下流側の長溝方向に向かう第1の縦溝と、前記第1の縦溝の終端から前記長溝と平行にX方向に延びる横溝と、前記横溝の終端から回転上流側の長溝にまで達する第2の縦溝とで構成されており、前記第1の縦溝と前記横溝とが接続する角部には前記操作棒係合部を一時的に保持することのできる溜まり部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
上記第2の形態の多段階ロック機構において、前記長溝は、前記円筒体の中心軸線に平行に形成されていてもよく、前記円筒体の中心軸線に対して傾斜した姿勢で形成されていてもよい。
【0011】
上記第1および第2の多段階ロック機構では、操作者が、操作棒を付勢力に抗して、付勢方向である−x方向と反対のx方向に押し込んでいく過程で、円筒体の軸方向に形成されている各クランク部ごとに、その溜まり部に操作棒の操作棒係合部を係止させることで、操作棒の位置をロックすることができる。すなわち、操作棒の1ストロークの範囲で、円筒体の軸方向に形成されているクランク部の数に応じた数だけ、操作棒の位置をロックすることができる。また、ロック位置から次のロック位置までの操作は、操作者が、操作棒を付勢力に抗して押し込むだけでよく、操作も容易である。
【0012】
第1の態様による多段階ロック機構では、円筒体に回転付勢力を与えるための第2の付勢手段をさらに設けることで、操作棒係合部とクランク部の溜まり部との係合を一層円滑にすることができる。
【0013】
第2の態様の多段階ロック機構では、円筒体に回転付勢力を与えるための第2の付勢手段が必須の構成となっており、この態様では、前記のように、前記長溝が円筒体の中心軸線に平行に形成されていても、所期の目的を達成することができる。もちろん、前記長溝は円筒体の中心軸線に対して傾斜した姿勢で形成されていていよい。
【0014】
いずれの態様の多段階ロック機構においても、操作棒を初期の位置に戻すには、任意のロック位置から操作棒をわずかに押し込み、操作棒係合部が長溝の位置に達した時点で、操作棒に対する押し込み力を開放すればよい。押し込み力の開放により、操作棒は付勢手段の付勢力によって、元位置に復帰することができる。操作棒係合部が長溝の位置に達したかどうかは、圧力センサや位置センサを設けることで、容易に検知することができる。
【0015】
操作棒が元位置に復帰する過程で、操作棒係合部が戻り側に位置するクランク部に入り込まないように、クランク部の第2の傾斜溝あるいは第2の縦溝と長溝との接続部に可撓性材料からなる一方向弁を設けることは、操作の確実性の観点から、本発明のより好ましい態様である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、操作棒の1ストロークの間で、操作棒の位置を複数箇所でロックすることのできるロック機構が得られる。操作棒と例えば弁等である被操作部材とを連動させることにより、被操作部材の変位量を多段に連続して変化させることが可能となる。本発明は、一例として、ガス機器でのガス供給量を多段階に調整する機構として、効果的に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による多段階ロック機構の第1の態様を説明するための概略斜視図。
【図2】図1に示す多段階ロック機構で用いられる円筒体の内面側を示す展開図。
【図3】図1のIII−III線に沿う断面図。
【図4】本発明による多段階ロック機構の第2の態様を説明するための概略斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明による多段階ロック機構を実施の形態に基づき説明する。図1から図3は本発明による多段階ロック機構の第1の形態を示している。
【0019】
図1の概略斜視図に示すように、第1の形態の多段階ロック機構A1は、円筒体10と操作棒20を備える。図3の断面図に示すように、円筒体10は、図ではやはり円筒体として示される機枠1の中にボールベアリングのような適宜の軸受け2によって回転自在に支持されている。機枠1は、内周面が円筒面であり、そこに適数の軸受け2が取り付けられていることを条件に、外側形状は任意である。第1の多段階ロック機構A1を取り付ける機器の種類等に応じて、適宜設定される。
【0020】
円筒体10の内周面には、図2に展開図で示す案内路30が形成されている。また、前記操作棒20は、円筒体10内を軸方向に貫通するようにして配置されている。棒部材20は、機枠1に回転自在に取り付けられている円筒体10の中心軸線Lと平行な姿勢を維持した状態で中心軸線Lに沿って両方向に移動できるように、図示しない適宜の手段によって機枠1に取り付けられている。そして、操作棒20の一部は側方に延出する突起部21となっており、該突起部21は、常時、前記案内路30と係合している。この突起部21が本発明でいう操作棒係合部を構成する。
【0021】
操作棒20の一方端には、操作棒20を図で左から右方向(x方向)に移動させることのできる適宜の押し込み手段22を備えている。図示の例では、押し込み手段22はハンドルであり、操作者が手でハンドルをx方向に移動することで、操作棒20はx方向に移動する。もちろん、手作業でなく、適宜の制御装置によって操作棒20を所定量だけx方向に移動できるようにしてもよい。
【0022】
操作棒20には、さらに、操作棒20を前記x方向とは反対の方向(−x方向)に常時付勢する適宜の付勢手段が取り付けられている。図示の例で、付勢手段は、操作棒20の他方端に取り付けた圧縮バネ23であり、該圧縮バネ23の伸長方向が−x方向となっている。また、操作棒20の前記押し込み手段22が備えられる側とは反対側の端部には、例えば弁等である被操作部材3に所望の変位を与えるための連結部4が配置されている。
【0023】
次に、前記した円筒体10の内周面に形成した案内路30を説明する。案内路30は、基本的に、長溝31の群と隣接する長溝31,31間に形成される適数のクランク部32とで構成される。図2の展開図に示すように、各長溝31は、円筒体10の中心軸線Lに対して所定角度θ(例えば15〜30度程度)で傾斜したx方向に右上がりの直線状の溝であり、円筒体10の一方端近傍から他方端近傍にまで延在している。そして、所要本数の長溝31(図示の例では6本)が円筒体10の周方向に所定の間隔をおいて平行に形成されることで、前記した長溝31の群が形成されている。
【0024】
次に、隣接する長溝31,31間に形成されるクランク部32を説明する。前記した操作棒20の側方に延出する突起部(操作棒係合部)21が長溝31に係合した状態で、操作棒20を前記x方向に移動させるときに、円筒体10が機枠1内で回転する方向をa方向としたときに、各クランク部32は、図2に示すように、前記a方向の回転下流側に位置する長溝31(31a)から回転上流側の長溝31の方向に向かう第1の傾斜溝33と、第1の傾斜溝33の終端から円筒体10の軸線Lと平行方向に延びる横溝34と、横溝34の終端から隣接する回転上流側の長溝31(31b)にまで達する第2の傾斜溝35とで構成される。そして、第1の傾斜溝33の終端部と横溝34の始端部とが接続する角部には、前記突起部(操作棒係合部)21が一時的に滞留できる形状に凹設された溜まり部36が形成されている。
【0025】
上記構成のクランク部32が、各長溝31,31間に、円筒体10の軸線方向に一定のピッチで所要数だけ形成されている。なお、図示のものでは5個のクランク部32a〜32eが軸線方向に形成されている。図2で最も左側に位置する第1のクランク部32aの第1の傾斜溝33の始発点は、長溝31の左端から少し右側に入り込んだ位置にあり、最も右側に位置する第5のクランク部32eの第2の傾斜溝35の終端部は、長溝31の右端から少し左側に入り込んだ位置にある。そして、左方側に位置するクランク部32の第2の傾斜溝35の終端部と隣接して右方側に位置するクランク部32の第1の傾斜溝33の始端部とは連続することなく、その間に、図示のように、長溝31の領域が残されている。
【0026】
次に、上記多段階ロック機構A1の動きを説明する。図1、図2に示すように、操作棒20に押し込み方向であるx方向の力が作用していない状態では、棒部材20には付勢手段である圧縮バネ23の−x方向の力のみが作用しており、操作棒20は図で最も左側の位置に移動している。そして、その状態では、操作棒20の突起部(操作棒係合部)21は、長溝31aの最も左方端の位置p1に位置した状態で、安定している。
【0027】
操作棒20を圧縮バネ23の力に抗してx方向に押し込むと、突起部(操作棒係合部)21は右方向に移動し、前記長溝は角度θの傾斜角を有しているので、その移動とともに円筒体10は、突起部(操作棒係合部)21により押されて、図でa方向に回転移動する。そして、突起部(操作棒係合部)21が、長溝31aから図で下方に向けて分岐している第1の傾斜溝33の始端部の位置p2まで移動すると、突起部(操作棒係合部)21は第1のクランク部32aの第1の傾斜溝33内に入り込み、入り込んだ後は、第1の傾斜溝33の上面に突起部(操作棒係合部)21からの力が作用することで、円筒体10をa方向とは反対の方向に回転させる。それにより、突起部(操作棒係合部)21は、第1の傾斜溝33内に次第に入り込んでいくようになり、ついには、前記した溜まり部36の位置p3にまで達する。
【0028】
溜まり部36に達した時点で、x方向の押し込み力を開放すると、操作棒20には圧縮バネ23からの−x方向の力のみが作用することとなり、操作棒20はその位置p3で停止しロックされる。突起部(操作棒係合部)21が溜まり部36に達したかどうかは、操作棒20のx方向の位置を検出する位置センサ(不図示)からの信号や、溜まり部36に取り付けた圧力センサ(不図示)からの信号などによって、作業者は容易に確認することができる。また、突起部(操作棒係合部)21が溜まり部36に入り込んだときの衝撃等を手で感じることであるいは信号として捉えることで、確認することができる。
【0029】
操作棒20が前記p1位置からp3位置まで移動した距離に相当する距離だけ、前記連結部4が移動し、その距離に応じた変位量が弁等である被操作部材3へ与えられる。例えば、弁は全閉位置から開度1の状態となり、その状態が維持される。なお、連結部4が移動する距離は、p1位置からp3位置まで実際の移動距離であってもよく、実際の移動距離を比例的に縮小あるいは拡大した距離であってもよい。
【0030】
使用者が弁の開度を開度1から開度2に変更したいときには、操作棒20をさらにx方向に押し込む。それにより、突起部(操作棒係合部)21は横溝34内を移動し、その終端部から第2の傾斜溝35内に入り込む。さらに操作棒20をx方向に押し込むと、第2の傾斜溝35の上面に突起部(操作棒係合部)21からの力が作用して、円筒体10はa方向とは反対の方向に回転する。そして、突起部(操作棒係合部)21は、次の長溝31、すなわち円筒体10の回転方向上流側の長溝31b内の位置p4に達する。
【0031】
操作棒20の押し込みを継続すると、突起部(操作棒係合部)21は長溝31b内を、円筒体10をa方向に回転させながらx方向に移動する。そして、x方向に次に位置している第2のクランク部32bの第1の傾斜溝33の始端部の位置p5まで移動すると、突起部(操作棒係合部)21は、前記したと同様にして、第1の傾斜溝33内に入り込む。入り込んだ後は、第1の傾斜溝33の上面に突起部(操作棒係合部)21からの力が作用することで、円筒体10をa方向とは反対の方向に回転させながら、第2のクランク部32bの溜まり部36の位置p6にまで達する。
【0032】
第2のクランク部32bの溜まり部36に達した時点で、x方向の押し込み力を開放すると、第1のクランク部32aでの場合と同様に、操作棒20はその位置p6で停止し、そこでロックされる。第2のクランク部32bの溜まり部36に達したかどうかも、第1のクランク部32aでの場合と同様に、図示しない操作棒20のx方向の位置を検出する位置センサからの信号や、溜まり部36に取り付けた圧力センサからの信号などによって、作業者は容易に確認することができる。
【0033】
ここでも、操作棒20が前記p3位置からp6位置まで移動した距離に相当する距離だけ前記連結部4が移動し、その距離に応じた変位量が弁等である被操作部材3へ与えられる。例えば、弁は開度1から開度2の状態となり、その状態が維持される。以下、同様の操作を、第3のクランク部32c、第4のクランク部32d、第5のクランク部32eに対して連続的に行うことで、弁は開度3,開度4、開度5の状態を順次取ることかでき、かつそれぞれの位置で、その状態を維持することができる。
【0034】
次に、第5のクランク部32eの溜まり部36に突起部(操作棒係合部)21がロックされている状態で、ロックを解除する場合を説明する。その際には、使用者は操作棒20をさらにx方向に押し込む。それにより、突起部(操作棒係合部)21は第5のクランク部32eの横溝34から第2の傾斜溝35をとおり、それが接続する長溝31fにまで移動する。その時点で、作業者は操作棒20に与えているx方向の押し込み力を開放する。押し込み力が開放されると、操作棒20は圧縮バネ23からの−x方向の力によって、元の位置に復帰する方向(−x方向)に移動し、当初位置、すなわち前記したp1位置(但し、長溝31fの左方端におけるp1位置)に復帰する。その過程で、円筒体10は、長溝31の上方側の側壁に突起部(操作棒係合部)21からの力を受けることにより、前記a方向とは反対の方向に回転する。
【0035】
操作棒20が当初位置に復帰する途中の位置で、操作棒20にx方向の力を与えることもでき、その力を付与する位置に応じて、突起部(操作棒係合部)21を第1から第5の任意のクランク部32a〜32eに入り込ませることができる。また、必要な場合には、任意の途中のクランク部32a〜32eのいずれかから突起部(操作棒係合部)21が脱出したときに、操作棒20に与えているx方向の押し込み力を開放することで、その位置から当初位置または任意のクランク部の位置に操作棒20を戻すこともできる。
【0036】
操作棒20が−x方向に移動する過程で、突起部(操作棒係合部)21が長溝31から戻り側に位置するクランク部の第2の傾斜溝35内に入り込むことは、圧縮バネ23の力を調整する等の手段で回避することができる。他の手段として、第2の傾斜溝35と長溝31との接続部に可撓性材料からなる一方向弁(不図示)を設けるようにしてもよい。
【0037】
第1の形態の多段階ロック機構A1において、前記a方向と反対の方向に円筒体10に回転付勢力を与えるための適宜の第2の付勢手段をさらに備えるようにしてもよい。第2の付勢手段を備えることにより、突起部(操作棒係合部)21が長溝31から第1の傾斜溝33へ入り込むのを一層確実にすることができ、多段階ロック機構A1の操作がさらに安定する。
【0038】
次に、図4を参照して、本発明による多段階ロック機構の第2の形態を説明する。第2の形態の多段階ロック機構A2も、第1の形態の多段階ロック機構A1と同じように、円筒体10Aと操作棒20を備える。円筒体10Aは、第1の形態の多段階ロック機構A1と同様、図3に示すように、機枠1の中にボールベアリングのような適宜の軸受け2によって回転自在に支持されている。そして、第2の形態の多段階ロック機構A2では、円筒体10Aには、図示しないバネ手段等の適宜の付勢手段(第2の付勢手段)により、図4で矢印c方向への回転付勢力が付与されている。
【0039】
円筒体10Aの内周面には、展開図は省略するが、第1の形態の多段階ロック機構A1と同じように、案内路30Aが形成されている。しかし、案内路30Aは、第1の形態の多段階ロック機構A1の円筒体10に形成した案内路30とは、後記するようにクランク部32Aの構成において相違する。
【0040】
操作棒20は、第1の形態の多段階ロック機構A1と同じように、円筒体10A内を軸方向に貫通するようにして配置されている。第2の形態の多段階ロック機構A2でも、棒部材20は、機枠1に回転自在に取り付けられている円筒体10Aの中心軸線Lと平行な姿勢を維持した状態で中心軸線Lに沿って両方向に移動できるように、図示しない適宜の手段によって機枠1に取り付けられている。そして、操作棒20の一部は側方に延出する突起部21となっており、該突起部21は、常時、前記案内路30Aと係合している。この突起部21が本発明でいう操作棒係合部を構成する。
【0041】
操作棒20のx方向への押し込み手段、操作棒20を−x方向付勢する付勢手段、被操作部材3に所望の変位を与えるための連結部4などの構成は、第1の形態の多段階ロック機構A1の場合と同じであってよく、同じ符号を付すことで、説明は省略する。
【0042】
前記した円筒体10Aの内周面に形成した案内路30Aを説明する。案内路30Aは、基本的に、長溝31Aの群と隣接する長溝31A,31A間に形成される適数のクランク部32Aとで構成される。各長溝31Aは、前記案内路30での長溝31と同じであってよく、所要本数の長溝31Aが円筒体10Aの周方向に所定の間隔をおいて平行に形成されることで、長溝31Aの群が形成されている。
【0043】
クランク部32Aは、円筒体10Aの回転方向(c方向)の上流側の長溝31A(図4で下位に位置する長溝)から立ち上がる第1の縦溝33Aと、第1の縦溝33Aの端部から長溝31Aと並行に延びる横溝34Aと、横溝34Aの端部から円筒の回転方向の下流側の長溝31A(図4で上位に位置する長溝)に達する第2の縦溝35Aを有し、第1の縦溝33Aと横溝34Aとが接続する角部には、第1の形態の多段階ロック機構A1でのクランク部32で形成したと同じ形態の溜まり部36が形成されている。
【0044】
上記第2の形態の多段階ロック機構A2の動きを説明する。多段階ロック機構A2においても、操作棒20に押し込み方向であるx方向の力が作用していない状態では、棒部材20には付勢手段である圧縮バネ23の−x方向の力によって、操作棒20は図で最も左側の位置に移動しており、突起部(操作棒係合部)21は、長溝31Aの最も左方端の位置p1に位置している。
【0045】
操作棒20を圧縮バネ23の力に抗してx方向に押し込むと、突起部(操作棒係合部)21は長溝31A内を右方向に移動し、最も左側のクランク部32Aの第1の縦溝33Aとの接続部に至る。その位置p2に達すると、円筒体10Aは常時矢印c方向に付勢されていることから、円筒体10Aは、突起部(操作棒係合部)21をクランク部32Aの第1の縦溝33A内に通過させながら、矢印c方向に回転する。そして、突起部(操作棒係合部)21が、図でp3に示す位置、すなわち、前記溜まり部36内に入り込むことで、円筒体10Aの回転は一旦停止する。使用者は、その位置で押し込み力を開放すると、操作棒20には圧縮バネ23からの−x方向の力のみが作用することとなり、操作棒20はその位置p3で停止しロックされる。
【0046】
その状態から、使用者が操作棒20をさらにx方向に押し込むと、突起部(操作棒係合部)21はクランク部32Aの横溝34A内を付勢力に抗して移動し、第2の縦溝35Aの位置に達する。その状態で、円筒体10Aは付勢力によって再び矢印c方向に回転し、それにより、突起部(操作棒係合部)21は図でp4に示す位置に移動する。そして、操作棒20をさらにx方向に押し込むことにより、突起部(操作棒係合部)21は図でp5の位置に移動し、前記した突起部(操作棒係合部)21の位置p2から位置p3への移動と同様にして、図でp6で示される次のクランク部32Aでの溜まり部36内に入り込むようになる。
【0047】
その状態で、操作棒20に対する押し込み力を開放すると、再び、操作棒20には圧縮バネ23からの−x方向の力のみが作用することとなり、操作棒20はその位置p6で停止しロックされる。以下、同じような操作を繰り返すことで、操作棒20は、第1の多段階ロック機構A1の場合と同様に、各クランプ部32Aごとの位置で、ロックされることとなる。
【0048】
操作棒20を元の位置に復帰させる操作は、第1の多段階ロック機構A1の場合と同様であってよく、任意のロック位置にあるときに、操作棒20に押し込み力を与えて、その突起部(操作棒係合部)21を、当該クランク部32Aの溜まり部36から横溝34Aと第2の縦溝35Aを通して、長溝31Aにまで移動させる。長溝31Aに達したときに、押し込み力を開放することで、操作棒20は圧縮バネ23からの−x方向の力によって、元の位置に復帰する方向(−x方向)に移動し、当初位置p1に復帰する。この復帰の態様は、第1の多段階ロック機構A1の場合とほぼ同様である。
【0049】
長溝31Aと第1の縦溝33Aの合流部分の下流側部の角部37のエッジを削っておくことにより、または、押し込み力を完全に解放するのではなく、押し込み力を調整して所定のスピード以上で操作棒20を戻すことにより、突起部(操作棒係合部)21は長溝31Aに沿って当初位置p1まで容易に戻ることができる。一方、所定のスピード以下でゆっくりと操作棒20を戻すと、円筒体10Aにはc方向の付勢力が常時作用していることから、突起部(操作棒係合部)21を所望のクランク部32Aでの第1の縦溝33Aの方向に移動させて、そこの溜まり部36に至るように操作することもできる。すなわち、多段階の切替位置での任意の中間位置に突起部(操作棒係合部)21を戻し、かつその位置にロックすることができる。
【0050】
なお、上記した多段階ロック機構は、多くの技術分野で使用することができる。一例として、ガスや水道の弁開度の多段階調節機構、シートベルトの調節機構、巻尺の巻き戻し機構、掃除機の電気コードの巻き戻し機構のような使用形態が挙げられる。
【符号の説明】
【0051】
A1…多段階ロック機構、
1…機枠、
2…軸受け、
3…被操作部材、
4…連結部、
10…円筒体、
20…操作棒、
30…案内路、
31…長溝、
32…クランク部、
33…第1の傾斜溝、
34…横溝、
35…第2の傾斜溝、
36…溜まり部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受けによって回動自在に機枠に支持された円筒体と、
前記円筒体の内壁に形成された案内路と、
前記円筒体の中心軸線に平行な姿勢で円筒体内に配置されかつ軸線方向に移動できる操作棒と、
前記操作棒の一部であって前記案内路内に摺動自在に係合している操作棒係合部と、
前記操作棒をその軸線方向の一方向(−x方向)に常時付勢する付勢手段と、
を備えており、そこにおいて、前記案内路は、
前記円筒体の中心軸線に対して傾斜した姿勢で周方向に所定の間隔をおいて平行に形成された所要本数の長溝と、
隣接する長溝間に形成された適数のクランク部とを備え、
前記操作棒係合部が前記長溝内を前記−x方向とは反対方向であるx方向に摺動移動するときに前記円筒体が回転する方向をa方向としたときに、
前記クランク部は、前記a方向の回転下流側の長溝から回転上流側の長溝方向に向かう第1の傾斜溝と、前記第1の傾斜溝の終端から前記円筒体の軸線方向にx方向に延びる横溝と、前記横溝の終端から回転上流側の長溝にまで達する第2の傾斜溝とで構成されており、
前記第1の傾斜溝と前記横溝とが接続する角部には前記操作棒係合部を一時的に保持することのできる溜まり部が形成されていることを特徴とする多段階ロック機構。
【請求項2】
請求項1に記載の多段階ロック機構であって、前記a方向と反対の方向に前記円筒体に回転付勢力を与えるための第2の付勢手段をさらに備えることを特徴とする多段階ロック機構。
【請求項3】
軸受けによって回動自在に機枠に支持された円筒体と、
前記円筒体の内壁に形成された案内路と、
前記円筒体の中心軸線に平行な姿勢で円筒体内に配置されかつ軸線方向に移動できる操作棒と、
前記操作棒の一部であって前記案内路内に摺動自在に係合している操作棒係合部と、
前記操作棒をその軸線方向の一方向(−x方向)に常時付勢する付勢手段と、
前記円筒体に一方向(c方向)の回転付勢力を与えるための第2の付勢手段と、
を備えており、そこにおいて、前記案内路は、
前記円筒体の周方向に所定の間隔をおいて平行に形成された所要本数の長溝と、
隣接する長溝間に形成された適数のクランク部とを備え、
前記クランク部は、前記c方向の回転上流側の長溝から回転下流側の長溝方向に向かう第1の縦溝と、前記第1の縦溝の終端から前記長溝と平行にx方向に延びる横溝と、前記横溝の終端から回転下流側の長溝にまで達する第2の縦溝とで構成されており、
前記第1の縦溝と前記横溝とが接続する角部には前記操作棒係合部を一時的に保持することのできる溜まり部が形成されていることを特徴とする多段階ロック機構。
【請求項4】
請求項3に記載の多段階ロック機構であって、前記長溝は前記円筒体の中心軸線に平行に形成されていることを特徴とする多段階ロック機構。
【請求項5】
請求項3に記載の多段階ロック機構であって、前記長溝は前記円筒体の中心軸線に対して傾斜した姿勢で形成されていることを特徴とする多段階ロック機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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