説明

多液混合装置

【課題】撹拌部材を安定して支持する。
【解決手段】軸受手段Bは、撹拌部材30の回転軸方向における一方の端部に設けた上流側軸端部39と、上流側軸端部39からの回転軸方向の押圧力を支承する上流側軸受部材17(軸受部)とを備え、上流側軸受部17に、上流側軸端部39から上流側軸受部材17に対して回転軸方向の押圧力が作用したときに、回転軸と直角な方向において上流側軸端部39を撹拌空間11の軸心線Lに向かって誘導するテーパ状の上流側調芯面18を形成している。撹拌部材30には、撹拌部材30の回転軸方向及び回転方向の両方向に対して斜めをなし、撹拌部材30の回転動作に伴う液体の抵抗により上流側軸端部39を上流側軸受部材17側へ押圧する受圧面38が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多液混合装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数種類の液体を混合して塗料を得るための多液混合装置が開示されている。この混合装置は、複数種類の液体を一方向に流通させるための撹拌空間内に、外周に撹拌翼を突出させた形態の撹拌部材を回転可能に収容し、撹拌翼が撹拌空間内で液体の流通方向と交差する方向に回転するようになっている。この混合装置によれば、撹拌空間内を通過する複数種類の液体が、撹拌翼により撹拌されて混合塗料となる。
【0003】
また、撹拌部材を回転させる駆動手段としては、撹拌空間を構成する筒部の外周に沿って回転駆動する回転駆動部材を設け、回転駆動部材に一体回転するように駆動側磁石を設け、撹拌部材に一体回転するように従動側磁石を設け、駆動側磁石と従動側磁石との間の磁気吸引力により、撹拌部材を回転駆動部材と一体に回転させる構造が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−50821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の多液混合装置は、撹拌部材の回転軸が上下方向を向く姿勢に固定して使用されることを前提として開発されたものである。そのため、撹拌部材を回転可能に支持する軸受手段として、撹拌部材の軸部における下側の軸端部を、撹拌空間の下端面に形成した軸受部に当接させる構造が採用されている。
【0006】
そのため、多液混合装置を、三次元方向に向きを変えるロボットアームに搭載した場合には、多液混合装置が斜めに傾いたり上下反転したりするため、軸端部が支承面上で摺接したり、軸端部が支承面から離間したりして、軸受機能が十分に発揮されなくなる。また、多液混合装置の上下の向きが固定されている場合であっても、撹拌部材が回転するのに伴って撹拌翼が液体からのラジアル方向の抵抗を受けるので、この抵抗のために軸端部が支承面上を滑るようにして軸ぶれを起こし、撹拌部材が撹拌空間の内周面と干渉する虞がある。
【0007】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、撹拌部材を安定して支持することができる多液混合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、複数種類の液体を流動させるための撹拌空間と、前記撹拌空間内において軸受手段により回転可能に支持された撹拌部材と、前記撹拌空間を構成する筒部の外周に沿って回転駆動する回転駆動部材と、前記回転駆動部材に一体回転するように設けられた駆動側磁石と、前記撹拌部材に一体回転するように設けられた従動側磁石とを備え、前記駆動側磁石と前記従動側磁石との間の磁気吸引力によって前記撹拌部材が前記回転駆動部材と一体となって回転することにより、前記撹拌空間内を流動する複数種類の液体が撹拌されるようになっている多液混合装置において、前記軸受手段が、前記撹拌部材の回転軸方向における一方の端部に設けた軸端部と、前記撹拌空間内に設けられ、前記軸端部からの回転軸方向の押圧力を支承する軸受部とを備え、前記軸受部と前記軸端部のうち少なくとも一方に、前記軸端部から前記軸受部に対して回転軸方向の押圧力が作用したときに、回転軸と直角な方向において前記軸端部を前記撹拌空間の軸心線に向かって誘導する概ねテーパ状の調芯面を形成した構成とされており、前記撹拌部材には、前記撹拌部材の回転軸方向及び回転方向の両方向に対して斜めをなし、前記撹拌部材の回転動作に伴う液体の抵抗により前記軸端部を前記軸受部側へ押圧する受圧面が形成されているところに特徴を有する。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記撹拌部材は、軸部と、前記軸部の外周から板状に突出する複数の撹拌翼とを備えて構成され、前記撹拌翼の板面が前記受圧面となっているところに特徴を有する。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のものにおいて、前記受圧面は、液体の抵抗を受けたときに前記撹拌部材が前記撹拌空間内における液体の流動方向とは逆の方向へ押圧される向きに傾いているところに特徴を有する。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のものにおいて、前記軸受部は、前記撹拌空間内に対して前記撹拌部材の回転軸方向への変位が可能な位置調節部材に形成されているところに特徴を有する。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のものにおいて、前記撹拌部材の回転軸方向における両端部のうち前記軸端部が形成されている側の端部には、検知子が設けられ、前記撹拌空間を構成するハウジングには、前記検知子が接近したことを検知するセンサが設けられているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0013】
<請求項1の発明>
撹拌部材を回転させて液体を撹拌させると、受圧面に作用する液体の抵抗によって軸端部が軸受部に押し付けられる。押し付けられた軸端部は、調芯面の誘導によって撹拌空間の軸心線と同心の状態に保たれるので、軸端部の軸ぶれが防止され、撹拌部材が安定して支持される。
【0014】
<請求項2の発明>
撹拌機能を発揮させるための撹拌翼に受圧面を形成したので、撹拌翼とは別に専用の受圧面を形成する場合に比べると、撹拌部材の形状を簡素化することができる。
【0015】
<請求項3の発明>
受圧面が液体の抵抗を受けて、撹拌部材が液体の流動方向とは逆方向に押圧されると、その反力により、液体には、その流動方向と同じ方向の押圧力が作用するので、液体の流れが促進されることになる。これにより、撹拌空間内における液体の圧力損失が抑えられる。
【0016】
<請求項4の発明>
軸端部や軸受部が摩耗した場合には、位置調節部材を撹拌部材の回転軸方向に変位させれば、軸端部と軸受部との間のクリアランスを適性に調節することができる。
【0017】
<請求項5の発明>
検知子の接近をセンサが検知することにより、撹拌部材の回転数を検出することができる。検知子は、撹拌部材の回転軸方向における両端部のうち軸端部が形成されている側の端部に配置されているので、撹拌部材が軸端部を支点として傾いたとしても、検知子の径方向における位置ずれが小さく、センサによる検知性能に支障を来す虞はない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1の多液混合装置の断面図
【図2】上流側の軸受構造をあらわす部分拡大断面図
【図3】下流側の軸受構造をあらわす部分拡大断面図
【図4】撹拌部材の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0019】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1を図1〜図4を参照して説明する。多液混合装置は、内部に撹拌空間11が形成されたハウジング10と、撹拌空間11内に交互投入された図示しない複数種類の液体(本実施形態では、主剤と硬化剤の2種類)を撹拌して混合するための撹拌手段Mと、撹拌手段Mを構成する撹拌部材30を回転駆動するための駆動手段Dと、撹拌部材30を回転可能に支持するための軸受手段Bとを備えて構成されている。
【0020】
撹拌手段Mは、撹拌空間11と撹拌部材30と転向部44と剪断部45とを備えて構成されている。駆動手段Dは、回転駆動部材25と駆動側磁石28と従動側磁石41とを備えて構成されている。軸受手段Bは、上流側軸受部材17(本発明の構成要件である軸受部)と下流側軸受部材19と上流側軸端部39(本発明の構成要件である軸端部)と下流側軸端部40とを備えて構成されている。
【0021】
ハウジング10は、非磁性材料(ステンレス等の金属材料や合成樹脂材料)からなる複数の部品を同軸状に組み付けて構成されている。ハウジング10内には、主剤と硬化剤を一方向(図1における上向きであって、撹拌空間11の軸心線Lと概ね平行な方向)へ流動させるための空間として撹拌空間11が形成されている。ハウジング10を撹拌空間11の軸心線L(撹拌空間11の中心を通る軸線)と直角な水平に切断したときのハウジング10の内周の断面形状は、円形である。
【0022】
ハウジング10の下端部には、撹拌空間11の軸心線Lと直交する向きであって、撹拌空間11の上流端に連通する流入孔12が設けられている。また、ハウジング10の上端部には、撹拌空間11の下流端に連通する流出孔13が、撹拌空間11の軸心線Lと同軸状に設けられている。流入孔12には、主剤と硬化剤が所定量ずつ交互に供給され、供給された主剤と硬化剤は、撹拌空間11内を通過する間に撹拌されて混合塗料(本実施形態では、水性二液ウレタン塗料)となり、流出孔13から塗装ガン(図示省略)に供給されるようになっている。
【0023】
ハウジング10の下端部には、軸心線Lと同軸状の雌ネジ孔14が、ハウジング10の底面と撹拌空間11内とを連通させるように形成され、この雌ネジ孔14には、調節ボルト15(本発明の構成要件である位置調節部材)が液密状に且つ軸線方向への螺進を可能に取り付けられている。この調節ボルト15は、常には、ナット16により螺進を規制された状態に固定されている。この調節ボルト15の上端部には、耐摩耗性に優れた材料(例えば、ステンレス)からなる上流側軸受部材17が取り付けられている。上流側軸受部材17の上面(撹拌空間11の上流端において撹拌空間11に臨む面)には、撹拌空間11の軸心線Lと同軸である中心位置を球面状(概ねテーパ状)に凹ませた形態の上流側調芯面18(本発明の構成要件である調芯面)が形成されている。調節ボルト15を回転させることにより、上流側軸受部材17の上下方向の位置を調節することができるようになっている。
【0024】
流出孔13の下端部(撹拌空間11の上端に臨む端部)には、耐摩耗性に優れた材料(例えば、ステンレス)からなる下流側軸受部材19が設けられている。下流側軸受部材19には、撹拌空間11と流出孔13とを連通させる複数の連通孔20が上下に貫通して形成されている。下流側軸受部材19の下面(撹拌空間11の下流端において撹拌空間11に臨む面)には、撹拌空間11の軸心線L及び上流側軸受部材17と同軸である中心位置を球面状(概ねテーパ状)に凹ませた形態の下流側調芯面21が形成されている。
【0025】
ハウジング10内には、その軸心線L方向において撹拌空間11の上端部(下流側端部)と対応する円環形の駆動室22が形成されている。駆動室22は、駆動手段Dを構成するものであって、撹拌空間11を構成する肉薄の筒部23を介して撹拌空間11の上端部を包囲する形態である。筒部23は、ハウジング10に形成されており、撹拌空間11と同心の円筒形をなす。ハウジング10の上端部には、コンプレッサ(図示省略)に接続されて駆動室22に連通する吸気ポート24が設けられ、コンプレッサから圧送された加圧エアが、吸気ポート24を通して駆動室22に供給されるようになっている。
【0026】
駆動室22内には、撹拌空間11及び後述する撹拌部材30と同軸の円環形をなす回転駆動部材25が収容されている。回転駆動部材25は、回転体26と、回転体26の外周に一体回転し得るように設けた複数のタービン翼27と、回転体26に一体回転し得るように設けた複数の駆動側磁石28とを備えて構成され、ベアリング29により撹拌空間11の軸心線Lと同軸状に支持されている。駆動室22内に加圧エアが圧送されると、タービン機構により、回転駆動部材25が、撹拌空間11の軸心線Lと同軸状態を保ったままで所定の方向へ回転駆動されるようになっている。
【0027】
回転駆動部材25の内部には、永久磁石からなる複数の駆動側磁石28が、周方向に等角度ピッチで配置された状態で収容されている。回転駆動部材25の内径は、筒部23の外径よりも少し大きい寸法であり、各駆動側磁石28は、S極又はN極を内周側に向けた姿勢で、径方向において回転駆動部材25の内周に近い位置に配置されている。
【0028】
ハウジング10内には、主剤と硬化剤を撹拌するための撹拌部材30が設けられている。撹拌部材30は、非磁性材料からなる本体31と、永久磁石からなる従動側磁石41と、永久磁石からなる検知子42とを備えている。本体31は、撹拌部材30の回転軸(撹拌部材30の回転中心となる軸線であり、撹拌部材30が正規の姿勢で回転するときに撹拌空間11の軸心線Lと合致する軸線)と同軸の軸部32と、軸部32の下端部(上流側端部)に同軸状に連なる上流側保持部33と、軸部32の上端部(下流側端部)に同軸状に連なる下流側保持部34と、軸部32の外周から径方向外向きに張り出した5つ(本実施形態では5つとしたが、拡径部35の数は4つ以下でも、6つ以上でもよい)の拡径部35とから構成されている。
【0029】
5つの拡径部35は、回転軸方向に等間隔を空けて配置されている。各拡径部35の外周には、夫々、周方向において等角度ピッチで且つ同じ形状・寸法の略四半円弧形に凹ませた形態の4つ(本実施形態では4つとしたが、拡径部35の数は3つ以下でも、5つ以上でもよい)の凹部36が形成され、周方向において隣り合う凹部36の間の板状に突出した部分は螺旋状の撹拌翼37となっている。このように、撹拌部材30には、複数の板状をなす撹拌翼37が、周方向に並ぶ4枚を1組として合計5組形成されている。
【0030】
撹拌翼37は、撹拌部材30の回転軸方向及び回転方向の両方向に対して斜めをなしており、撹拌翼37の外周縁は螺旋方向を向いている。また、回転軸方向(軸心線L)に対する傾斜角度は、全ての撹拌翼37において同じ角度である。そして、この斜めをなす撹拌翼37の2つの板面のうち、撹拌空間11の下流側(上側)に臨む面は、撹拌部材30の回転動作に伴う主剤と硬化剤の抵抗により上流側軸端部39を上流側軸受部材17側へ押圧する受圧面38となっている。受圧面38は、主剤と硬化剤の抵抗を受けたときに撹拌部材30が撹拌空間11内における主剤及び硬化剤の流動方向(上方向)とは逆の上流側へ向かう方向(下方向)へ押圧される向きに傾いている。また、複数の受圧面38は、撹拌部材30の回転軸を中心とする螺旋方向に間欠的に並ぶような配置となっている。
【0031】
上流側保持部33の下端面には、球面状に突出した形態(略半球状)の上流側軸端部39が設けられている。下流側保持部34の上端面には、上流側軸端部39と同じく球面状に突出した形態(略半球状)の下流側軸端部40が設けられている。上流側軸端部39は、上流側軸受部材17に対しその上流側調芯面18に上から当接するように嵌合され、下流側軸端部40は、下流側軸受部材19に対しその下流側調芯面21に下から当接するように嵌合されている。これにより、撹拌部材30は、撹拌部材30の回転軸方向における両側から一対の軸受部材17,19によって撹拌部材30の円滑な回転を可能とするためのクリアランス(図示省略)を空けて挟まれた状態となる。
【0032】
上流側軸端部39を構成する球面の曲率半径は、上流側調芯面18を構成する球面の曲率半径よりも小さい寸法とされ、下流側軸端部40を構成する球面の曲率半径は、下流側調芯面21を構成する球面の曲率半径よりも小さい寸法とされている。したがって、上流側軸端部39と上流側調芯面18(上流側軸受部材17)との接触形態、及び下流側軸端部40と下流側調芯面21(下流側軸受部材19)との接触形態は、いずれも、撹拌部材30の回転軸と同軸上の中心点における点接触となる。
【0033】
このように、一対の軸端部39,40は、一対の軸受部材17,19に対し、撹拌部材30の回転軸を中心とする相対回転を可能とされ、且つ撹拌部材30の回転軸方向へのガタ付き及びその回転軸と直角な径方向へのガタ付きを規制された状態で嵌合されている。そして、この軸受部材17,19によって軸端部39,40を支承する軸受手段Bにより、撹拌部材30は、その回転軸を撹拌空間11の軸心線Lと同軸状に向けた姿勢で、回転軸方向及び径方向へのガタ付きを規制された状態で回転し得るように支持されている。
【0034】
撹拌部材30のうち撹拌空間11の上端部(下流側端部)に収容された下流側保持部34内には、永久磁石からなる複数(駆動側磁石28と同じ数)の従動側磁石41が、収容されている。従動側磁石41は、撹拌部材30の回転軸方向における一方の端部(下流側の端部)、即ち、主剤及び硬化剤の流動方向における下流端側の端部(上端部)のみに配置されている。換言すると、撹拌部材30に対する主剤及び硬化剤の流動抵抗の向きとの関係については、液体の抵抗を受けた撹拌部材30が、回転軸方向において従動側磁石41とは反対側(上流側)の方向へ押圧されるようになっている。
【0035】
下流側保持部34の外径は、筒部23の内径(即ち、収容空間の内径)よりも少し小さい寸法であり、従動側磁石41は、径方向において下流側保持部34の外周に近い位置に配置されている。また、各従動側磁石41は、S極又はN極を外周側に向けた姿勢で、周方向において駆動側磁石28と同じ角度ピッチで配置されている。このように、径方向において筒部23を挟むように配された複数の従動側磁石41と複数の駆動側磁石28は、撹拌部材30の回転軸方向において互いに対応するように配置されている。これにより、双方の磁気吸引力により互いに反対側の磁極を対向させる位置関係に保持されるとともに、この磁気吸引力によって、撹拌部材30が回転駆動部材25と一体となって回転するようになっている。
【0036】
撹拌部材30のうち撹拌空間11の下端部(上流側端部)に収容された上流側保持部33内には、永久磁石からなる検知子42が、上流側保持部33材の外周に近い位置(つまり、撹拌部材30の回転軸に対し径方向に偏心した位置)に埋設されている。撹拌部材30の回転軸方向において、検知子42は、撹拌部材30の一方の端部、即ち、両端部のうち主剤及び硬化剤の抵抗を受けたときに撹拌部材30が押圧される側と同じ側(上流側)の端部のみに配置されている。
【0037】
一方、ハウジング10の下端部には、検知子42と協動して撹拌部材30の回転数を検出するための検出手段として機能するセンサ43が設けられている。センサ43は、撹拌部材30の回転軸方向において検知子42と対応するように位置している。また、センサ43は、撹拌空間11の内周に露出して検知子42と径方向に対向するようになっている。センサ43は、常には回路(図示省略)を開成状態に保つが、検知子42が接近するとその検知子42の磁気によって回路を閉成状態に切り変えるリードスイッチから構成されている。
【0038】
撹拌空間11の内周のうち軸心線L方向において軸部32と対応する領域内には、3つの転向部44と2組の剪断部45が、撹拌空間11の軸心線L方向に交互に並ぶように設けられている。転向部44は、撹拌部材30と同軸の円環形をなし、撹拌空間11の内周に固定されている。転向部44の内周側端縁部には、軸心線Lに対して傾斜したテーパ面が形成されている。剪断部45は、軸心線L方向に細長い板状をなし、板面が径方向及び軸心線Lと平行となる向き(つまり、板面が周方向に対してほぼ直交する向き)となるように撹拌空間11の内周に固定されている。剪断部45は、周方向に等角度ピッチで配置された複数枚(例えば、4枚)で1つの組を構成する。これらの剪断部45の上下両端部にも、転向部44と同様に傾斜したテーパ状の縁部が形成されている。これらの転向部44と剪断部45は、撹拌空間11及び撹拌部材30とともに撹拌手段Mを構成する。
【0039】
次に、本実施形態の作用を説明する。塗装を行う際には、予め、調節ボルト15を螺進させることにより上流側軸受部材17の位置を調節し、各軸受部材17,19と撹拌部材30との間に適正なクリアランス(例えば、0.1mm程度)が確保しておく。そして、駆動手段Dを起動して撹拌部材30を回転させるとともに、主剤と硬化剤の供給を開始する。撹拌部材30が回転している状態で、主剤と硬化剤が撹拌空間11の上流端部に供給されると、供給された主剤と硬化剤は、撹拌空間11内を下流側(上方)へ流動しながら、撹拌翼37により周方向へ押されるので、全体として螺旋状の経路に沿うように撹拌空間11内を流動し、この間、何度も撹拌翼37による剪断作用を受けることにより撹拌、混合される。
【0040】
また、主剤と硬化剤は、螺旋状に流動しながら、撹拌翼37の押圧作用による遠心力により径方向外側へ移動し、撹拌空間11の内周に沿って流れる際に、剪断部45に衝突して剪断されることによっても撹拌される。さらに、剪断部45により剪断された主剤と硬化剤は、転向部44のテーパ面により径方向中心側へ誘導され、再び、撹拌翼37で剪断されるとともに、周方向に押圧され、再び、径方向外側へ移動する。以上の工程が交互または順次に繰り返されることにより、主剤と硬化剤が、撹拌・混合されて混合塗料となる。
【0041】
また、撹拌部材30が主剤と硬化剤を撹拌している間、撹拌部材30の回転数(回転速度)は検知子42とセンサ43により検出される。即ち、撹拌部材30が回転している間、撹拌部材30が1回転する毎に、検知子42がセンサ43に接近し、センサ43から検知子42を検出した旨の検知信号が出力されるので、このセンサ43から出力される単位時間当たりの検知信号の数に基づいて、撹拌部材30の回転数を検出することができる。この検出結果に基づいて駆動手段Dに圧送する加圧エアの圧力を制御すれば、撹拌部材30の回転数を適正な範囲内で安定させ、良質な混合塗料を得ることができる。
【0042】
本実施形態の多液混合装置がロボットアーム(図示省略)に取り付けられている場合には、塗装を行う間、被塗物(図示省略)の形状に合わせて多液混合装置が三次元方向に移動するとともに姿勢を変化させる。そのため、撹拌空間11内における撹拌部材30の支持状態が不安定となり、撹拌部材30の回転動作に支障を来すことが懸念される。
【0043】
その対策として本実施形態では、軸受手段Bを、撹拌部材30の回転軸方向における上流側の端部に設けた上流側軸端部39と、上流側軸端部39からの回転軸方向の押圧力を支承する上流側軸受部材17とを備え、上流側軸受部材17に、球面状(概ねテーパ状)の上流側調芯面18を形成した構成とし、上流側軸端部39から上流側軸受部材17に対して回転軸方向の押圧力が作用したときには、上流側調芯面18の調芯作用によって、撹拌部材30の回転軸と直角な径方向において上流側軸端部39を撹拌空間11の軸心に向かって誘導する構成としている。さらに、撹拌部材30には、撹拌部材30の回転軸方向及び回転方向(周方向)の両方向に対して斜めをなし、撹拌部材30の回転動作に伴う主剤及び硬化剤の抵抗により上流側軸端部39を上流側軸受部材17側へ押圧する受圧面38を形成している。
【0044】
この構成によれば、撹拌部材30を回転させて液体を撹拌させると、受圧面38に作用する主剤及び硬化剤の抵抗によって上流側軸端部39が上流側軸受部材17に押し付けられる。そして、押し付けられた上流側軸端部39は、上流側調芯面18の誘導作用によって撹拌空間11の軸心と同心の状態に保たれるので、上流側軸端部39の軸ぶれが防止され、撹拌部材30が安定して支持されるのである。尚、主剤と硬化剤の撹拌効率と、受圧面38に対する主剤及び硬化剤の押圧効率とを勘案した場合、受圧面38(撹拌翼37)の傾斜角度としては、5〜60°に設定することが好ましく、本実施形態では28.8°としている。受圧面38の傾斜角度を変化させると、撹拌部材30に対する液体からの押圧力と撹拌部材30から液体への反力が変化のであるが、上記の角度に設定することで、液体の流動抵抗を効果的に低減することができる。
【0045】
また、撹拌部材30を、軸部32と、軸部32の外周から板状に突出する複数の撹拌翼37とを備えた構成とした上で、撹拌翼37の板面を受圧面38として機能させるようにした。このように、撹拌機能を発揮させるための撹拌翼37に受圧面38を形成したことにより、撹拌翼とは別に専用の受圧面を形成する場合に比べると、撹拌部材30の形状を簡素化することが実現されている。
【0046】
また、受圧面38は、液体(主剤及び硬化剤)の抵抗を受けたときに撹拌部材30が撹拌空間11内における液体の流動方向とは逆の方向(上流側)へ押圧される向きに傾いている。この構成によれば、受圧面38が液体の抵抗を受けて、撹拌部材30が液体の流動方向とは逆の方向(上流側)へ押圧されると、その反力により、液体には、その流動方向と同じ方向(下流側)の押圧力が作用するので、液体の流れが促進されることになる。これにより、撹拌空間11内における液体の圧力損失が抑えられる。
【0047】
また、上流側軸受部材17は、撹拌空間11内に対して撹拌部材30の回転軸方向への変位が可能な調節ボルト15に形成されているので、軸端部39,40や軸受部材17,19が摩耗した場合には、調節ボルト15を撹拌部材30の回転軸方向に変位させれば、軸端部39,40と軸受部材17,19との間のクリアランスを適性に調節することができる。
【0048】
また、検知子42は、撹拌部材30の回転軸方向における両端部のうち上流側軸端部39が形成されている側の端部に配置されている。この構成によれば、撹拌部材30が上流側軸端部39を支点として傾いたとしても、検知子42の径方向における位置ずれが小さく抑えられるので、センサ43による検知性能に支障を来す虞はない。
【0049】
また、軸受部材17,19の調芯面18,21は略球面状に凹んだ形態とされており、この略球面状に凹んでいる調芯面18,21の内面には、曲率半径や屈曲角度が極端に小さい領域がない。したがって、調芯面18,21の内面には、固化した混合塗料等がこびり付き難くなっており、たとえ、こびり付きが生じたとしても除去し易い。
【0050】
また、軸端部39,40と軸受部材17,19は点接触しているので、撹拌部材30が回転する際の接触抵抗が小さく、撹拌部材30の回転動作が円滑に行われる。また、軸端部39,40と調芯面18,21がいずれも球面となっているので、尖った形態とした場合に比べると摩耗し難く、撹拌部材30を長期間に亘って安定して支持することができる。
【0051】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、受圧面を撹拌翼に形成したが、受圧面は、撹拌翼とは異なる専用の受圧部材に形成してもよい。この場合、撹拌翼は、回転軸と平行であって回転方向と交差する向きとすることができる。
(2)上記実施形態では、回転軸に対する受圧面の傾斜角度を、全ての受圧面において互いに同じ傾斜角度としたが、複数の受圧面の傾斜角度は、個々に異なる角度であってもよい。
(3)上記実施形態では、複数の受圧面が、回転軸を中心とする螺旋方向に間欠的に並ぶような配置としたが、受圧面が、撹拌部材の全長に亘って螺旋状に連続する形態であってもよい。この場合の受圧面の回転軸に対する傾斜角度は、全長に亘って一定の傾斜角度であってもよく、徐々に傾斜角度が変化するようになっていてもよい。
(4)上記実施形態では、撹拌部材の回転軸方向における両端部のうち一方の端部のみに従動側磁石を設け、液体の抵抗を受けた撹拌部材が、回転軸方向において従動側磁石とは反対側の方向へ押圧されるようにしたが、これとは逆に、液体の抵抗を受けた撹拌部材が、回転軸方向において従動側磁石の形成されている側と同じ側へ押圧されるようにしてもよい。
(5)上記実施形態では、液体の抵抗を受けた撹拌部材が、撹拌空間内における液体の流動方向とは逆方向(上流端側)へ押圧されるようにしたが、液体の抵抗を受けた撹拌部材が、撹拌空間内における液体の流動方向と同じ方向(下流端側)へ押圧されるようにしてもよい。この場合は、上記実施形態とは逆に液体の流れが妨げられ、液体が撹拌空間内に停滞する時間が長くなるので、混合し難い液体の組合せに対しては、高い撹拌効果が得られるというメリットがある。但し、液体を常時流動させる必要のある塗装システムにおいては、上記実施形態のように液体の流れを促進させて圧力損失の抑制を図る形態の方が好ましい。
(6)上記実施形態では、撹拌部材の回転軸方向における両端部の軸受構造のうち、液体の抵抗を受けた撹拌部材が押圧される側(上流側)とは反対側である調芯機能を要しない下流側の軸受構造を、調芯機能を有する上流側の軸受構造と同一構造としたが、これに替えて、調芯機能を要しない軸受構造は、調芯機能を有する側の軸受構造と異なる構造としてもよい。
(7)上記実施形態では、軸部の外周に撹拌翼を径方向外向きに突出させたが、円筒対の内周に撹拌翼を径方向内向きに突出させてもよい。
(8)上記実施形態では、軸受部を凹み形状とし、軸端部を凸形状としたが、これとは逆に、軸受部を凸形状とし、軸端部を凹み形状としてもよい。
(9)上記実施形態では、軸受部を半球状に凹ませた形態としたが、軸受部は、擂り鉢状(円錐状)に凹ませた形態であってもよい。
(10)上記実施形態では、軸端部を半球状に突出する形態としたが、軸端部は、先端が尖った形態(例えば、円錐形)であってもよい。
(11)上記実施形態では、従動側磁石を、撹拌部材の回転軸方向における両端部のうち液体の流動方向の下流端側の端部に配置したが、従動側磁石は、撹拌部材の回転軸方向における両端部のうち液体の流動方向の上流端側の端部に配置してもよい。
(12)上記実施形態では、従動側磁石を、撹拌部材の回転軸方向における一方の端部のみに配置したが、従動側磁石は、撹拌部材の回転軸方向における両方向の端部に配置してもよく、回転軸方向における両端部よりも中央寄りの位置に配置してもよい。
(13)上記実施形態では、検知子を、撹拌部材の回転軸方向における両端部のうち液体の抵抗を受けたときに撹拌部材が押圧される側と同じ側(軸端部側)の端部に配置したが、検知子を、撹拌部材の回転軸方向における両端部のうち液体の抵抗を受けたときに撹拌部材が押圧される側(軸端部側)とは反対側の端部に配置してもよい。
(14)上記実施形態では、検知子を、撹拌部材の回転軸方向における両端部のうち液体の流動方向の上流端側の端部に配置したが、検知子は、撹拌部材の回転軸方向における両端部のうち液体の流動方向の下流端側の端部に配置してもよい。
(15)上記実施形態では、検知子を、撹拌部材の回転軸方向における一方の端部に配置したが、検知子は、撹拌部材の回転軸方向における両端部よりも中央寄りの位置に配置してもよい。
(16)上記実施形態では、検知子を撹拌部材の外周に近い位置に配置し、検知子の位置を検出するセンサを撹拌空間の内周に近い位置に配置したが、検知子を撹拌部材の端面に近い位置に配置し、センサを撹拌空間の端面に近い位置に配置してもよい。
(17)上記実施形態では、回転駆動部材を回転駆動する手段として、エア圧を利用したエアタービン構造を用いて回転駆動部材に回転力を伝達するようにしたが、これに替えて、回転駆動部材に設けた従動ギヤと、電動モータの駆動ギヤとを係合させ、電気的な駆動力を機械的なギヤの噛み合い介して回転駆動部材に伝達するようにしてもよい。
(18)上記実施形態では、2種類の液体(主剤と硬化剤)を所定量ずつ交互に流入させるようにしたが、本発明によれば、2種類以上の液体を所定の割合で混在させたものを流量させてもよい。
(19)上記実施形態では2種類の液体を混合する場合について説明したが、本発明によれば、混合する液体の種類は3種類以上であってもよい。
(20)上記実施形態では、液体の撹拌・混合によって得られる液剤が水性二液ウレタン塗料である場合について説明したが、本発明は、液体の撹拌・混合によって得られる液剤が、水性二液ウレタン塗料以外の塗料(例えば、溶剤系の塗料)や、塗料以外の液剤である場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0052】
10…ハウジング
11…撹拌空間
15…調節ボルト(位置調節部材)
17…上流側軸受部材(軸受部)
18…上流側調芯面(調芯面)
23…筒部
25…回転駆動部材
28…駆動側磁石
30…撹拌部材
32…軸部
37…撹拌翼
38…受圧面
39…上流側軸端部(軸端部)
41…従動側磁石
42…検知子
43…センサ
B…軸受手段
L…撹拌空間の軸心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の液体を流動させるための撹拌空間と、
前記撹拌空間内において軸受手段により回転可能に支持された撹拌部材と、
前記撹拌空間を構成する筒部の外周に沿って回転駆動する回転駆動部材と、
前記回転駆動部材に一体回転するように設けられた駆動側磁石と、
前記撹拌部材に一体回転するように設けられた従動側磁石とを備え、
前記駆動側磁石と前記従動側磁石との間の磁気吸引力によって前記撹拌部材が前記回転駆動部材と一体となって回転することにより、前記撹拌空間内を流動する複数種類の液体が撹拌されるようになっている多液混合装置において、
前記軸受手段が、
前記撹拌部材の回転軸方向における一方の端部に設けた軸端部と、
前記撹拌空間内に設けられ、前記軸端部からの回転軸方向の押圧力を支承する軸受部とを備え、
前記軸受部と前記軸端部のうち少なくとも一方に、前記軸端部から前記軸受部に対して回転軸方向の押圧力が作用したときに、回転軸と直角な方向において前記軸端部を前記撹拌空間の軸心線に向かって誘導する概ねテーパ状の調芯面を形成した構成とされており、
前記撹拌部材には、前記撹拌部材の回転軸方向及び回転方向の両方向に対して斜めをなし、前記撹拌部材の回転動作に伴う液体の抵抗により前記軸端部を前記軸受部側へ押圧する受圧面が形成されていることを特徴とする多液混合装置。
【請求項2】
前記撹拌部材は、軸部と、前記軸部の外周から板状に突出する複数の撹拌翼とを備えて構成され、
前記撹拌翼の板面が前記受圧面となっていることを特徴とする請求項1記載の多液混合装置。
【請求項3】
前記受圧面は、液体の抵抗を受けたときに前記撹拌部材が前記撹拌空間内における液体の流動方向とは逆の方向へ押圧される向きに傾いていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の多液混合装置。
【請求項4】
前記軸受部は、前記撹拌空間内に対して前記撹拌部材の回転軸方向への変位が可能な位置調節部材に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の多液混合装置。
【請求項5】
前記撹拌部材の回転軸方向における両端部のうち前記軸端部が形成されている側の端部には、検知子が設けられ、
前記撹拌空間を構成するハウジングには、前記検知子が接近したことを検知するセンサが設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の多液混合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−86158(P2012−86158A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235244(P2010−235244)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【Fターム(参考)】