多焦点レンズの製造方法および多焦点レンズ
【課題】光学性能に優れた多焦点レンズを簡易に得ることのできる製造方法および多焦点レンズを提供すること。
【解決手段】ガラス屈伏点温度がAt1、At2およびAt3である3種のレンズ素材を用い、加熱プレス法により前記レンズ素材の賦形を行う、1群3層構成の多焦点レンズの製造方法であって、前記ガラス屈伏点温度は、At1>At2>At3の関係を有し、ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ素材を賦形して第1レンズ11を成形後、第1レンズ11を成形型の一部として、ガラス屈伏点温度がAt2である第2レンズ素材を賦形して第2レンズ12を成形すると同時に、第2レンズ12を第1レンズ11に接合し、次に、第1レンズ11および第2レンズ12を成形型の一部として、ガラス屈伏点温度がAt3である第3レンズ素材を賦形して第3レンズ13を成形すると同時に、第3レンズ13を第1レンズ11および第2レンズ12に接合する。
【解決手段】ガラス屈伏点温度がAt1、At2およびAt3である3種のレンズ素材を用い、加熱プレス法により前記レンズ素材の賦形を行う、1群3層構成の多焦点レンズの製造方法であって、前記ガラス屈伏点温度は、At1>At2>At3の関係を有し、ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ素材を賦形して第1レンズ11を成形後、第1レンズ11を成形型の一部として、ガラス屈伏点温度がAt2である第2レンズ素材を賦形して第2レンズ12を成形すると同時に、第2レンズ12を第1レンズ11に接合し、次に、第1レンズ11および第2レンズ12を成形型の一部として、ガラス屈伏点温度がAt3である第3レンズ素材を賦形して第3レンズ13を成形すると同時に、第3レンズ13を第1レンズ11および第2レンズ12に接合する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多焦点レンズの製造方法および多焦点レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学部品としてのレンズは、眼鏡やカメラ等に広く用いられている。レンズとしては、焦点が一つだけの単焦点レンズと、複数の焦点を持つ多焦点レンズとに分けられる。
多焦点レンズとしては、図35(A)に示すように、光学面の一部に曲率の異なる領域を形成したレンズA、図35(B)示すように、レンズの光学面の一部に他のレンズを接着剤で接合したレンズB、あるいは、図35(C)に示すように、レンズの周辺部と中心部とで異なる素材を接合したレンズCのような構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、積層された単焦点レンズの製造方法としては、あらかじめ熱プレスされた第1レンズの凸面を金型の一部として用い、第2のレンズを熱プレスする製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−023809号公報(図1、図5、図6)
【特許文献2】特開2002−131511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、図35(A)、(B)に示すレンズA、Bは、光学面A1、B1に異なる曲率からなる面A2、B2が混在しているため、研磨加工が非常に困難である。さらに、図35(B)に示すレンズBでは、2種のレンズを接着剤で接合するために光軸を合わせることが非常に困難となる。図35(C)に示すレンズCでは、周辺部C1と中心部C2とからなる構造を形成するために複雑な工程を要しており、製造コストも非常に高いものとなる。
【0005】
また、これらの多焦点レンズは、多焦点設計の実現に主眼がおかれているため、レンズの光学特性(球面収差、透過波面収差、色収差等の各種収差)が劣ってしまう。単焦点レンズの場合は、レンズの光学性能を改善するための方策として、例えば、レンズ面を球面から非球面にしたり、レンズを1枚ではなく複数枚貼り合わせてマルチレンズ構成による光学系を成形した例もある。特に色収差を改善するためは、色消しレンズ(アクロマテックレンズ)と呼ばれる光学特性の異なる2枚のレンズを接着剤で貼り合わせたレンズが用いられることもある。多焦点レンズの場合も、単焦点レンズと同様、非球面の採用やレンズを複数枚貼り付けることができれば光学性能を向上させることができる。しかし多焦点レンズはレンズ面の設計形状が複雑であるため、複層化するためのレンズ同士の接合作業は非常に困難である。
一方、積層の単焦点レンズを熱プレスする特許文献2の製造方法では、最初に熱プレスされる第1のレンズの接合面は凸面に形成され、前記凸面の形状に合わせて一次加工(プリフォーム)された第2レンズ用素材を準備することが必要とされていた。一次加工の準備無しで積層構造のレンズを得ることができる製造方法が、製造コスト、複雑なレンズ面への適用、安定した品質のために必要であった。多焦点レンズの場合はレンズ面の設計形状がより複雑であるので、更に困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、光学特性に優れた多焦点レンズを簡易に得ることのできる製造方法および多焦点レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多焦点レンズは、ガラス屈伏点温度がAt1、At2、・・・、AtMであるM種(Mは2以上の整数)のレンズ素材を用い、加熱プレス法により前記レンズの賦形が行われた、1群M層のレンズであり、第N−1レンズ(ただし、Nは2以上M以下の任意の整数)の第Nレンズに接する接合面は凹面であり、第Nレンズの第N−1レンズに接する接合面は凸面で構成され、かつ、前記ガラス屈伏点温度は、AtN-1>AtNの関係を有していることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、第N−1レンズのガラス屈伏点温度AtN-1が第Nレンズのガラス屈伏点温度AtNよりも高いので、第Nレンズを熱プレスする時に第N−1レンズの接合面を成形型の一部として用いることができる。第N−1レンズの接合面を凹面にした場合、第N−1レンズの接合面付近で熱変形される流動状態の第Nレンズ素材の表面には圧縮応力が加わる。逆に、第N−1レンズの接合面を凸面にした場合、第N−1レンズの接合面付近で熱変形される流動状態の第Nレンズ素材の表面には引っ張り応力が加わる。本発明の多焦点レンズは、第Nレンズ素材の凸面の中心方向に圧縮応力が加わることから、引っ張り応力が加わる場合に比べて、第Nレンズと第N−1レンズとの界面の接合に影響が少なくなり、光学特性に優れ、さらに、界面にクラックまたは剥離などの破損が発生することを低減することができる。
よって、上述のような多焦点レンズの形状にすれば、第Nレンズ素材は熱プレス前の表面形状が概ね凸面である米粒状のゴブ材を、ゴブ材に接する第N−1レンズの接合面の凹面に、プリフォーム加工無しで第Nレンズを接合することができる。このため、従来技術では、ゴブ材から一次加工としてプリフォーム加工(例えば、熱プレス加工、研削加工など)をしなくてはいけなかったが、本発明の多焦点レンズは、安定した光学特性と、クラックや剥離の少ない接合とを得られ、熱プレス加工された多焦点レンズの製造コストも安価にできる。
【0009】
本発明の多焦点レンズの製造方法は、ガラス屈伏点温度がAt1、At2である2種のレンズ素材を用い、加熱プレス法により前記レンズの賦形を行う、1群2層構成の多焦点レンズの製造方法であって、ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ素材を賦形して第1レンズを成形後、前記第1レンズを成形型の一部として、ガラス屈伏点温度がAt2(At1>At2)である第2レンズ素材を賦形して第2レンズを成形すると同時に、前記第1レンズの第2レンズに接する接合面を凹面とし、第2レンズの第1レンズに接する接合面を凸面とし、前記第2レンズを前記第1レンズに接合することを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、第1レンズを成形型から外すことなく成形型の一部として用いることにより、第1レンズの凹部に第2レンズ素材を配置し賦形を行うことから、第1レンズと第2レンズとの位置合せを正確に行うことができる。そのため、位置合わせが正確に行えることから、多焦点レンズを簡易に製造することができる。
また前記の製造方法による位置合わせは、多焦点レンズに適用を限定するものではなく、単焦点レンズに対しても適用することができる。
【0011】
本発明の多焦点レンズの製造方法は、ガラス屈伏点温度がAt1、At2およびAt3である3種のレンズ素材を用い、加熱プレス法により前記レンズ素材の賦形を行う、1群3層構成の多焦点レンズの製造方法であって、前記ガラス屈伏点温度は、At1>At2>At3の関係を有し、ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ素材を賦形して第1レンズを成形後、前記第1レンズを成形型の一部として、ガラス屈伏点温度がAt2である第2レンズ素材を賦形して第2レンズを成形すると同時に、前記第2レンズを前記第1レンズに接合し、次に、前記第1レンズおよび前記第2レンズを成形型の一部として、ガラス屈伏点温度がAt3である第3レンズ素材を賦形して第3レンズを成形すると同時に
、前記第3レンズを前記第1レンズおよび前記第2レンズに接合することを特徴とする。
【0012】
ここで、ガラス屈伏点温度(At)とは、ガラスを加熱していったときに、熱膨張が止まって収縮を開始するときの温度を意味し、ガラス転移温度(Tg)よりも高温である。レンズ等のガラス製品をレンズ素材(硝材)から成形する場合には、このガラス屈伏点温度付近で加熱プレス法によりレンズ素材の賦形を行うことが一般的である。
本発明によれば、ガラス屈伏点温度がAt1>At2>At3の関係を有する3種のレンズ素材(硝材)を用い、しかも、ガラス屈伏点の高いレンズ素材を先に賦形し、成形されたレンズ自体を成形型の一部として用いることを繰り返すため、レンズ素材間の接合を行う際に接着剤を用いる必要がなく、各レンズ素材が確実に接合された多焦点レンズを簡便に製造できる。また、接着剤を用いないことから、良好な光学特性を発現することができる。
【0013】
本発明では、前記第1レンズの上面に、一つ以上の凹部を形成し、次に、前記凹部に前記第2レンズ素材を載置することが好ましい。
この発明によれば、成形後の第1レンズの上部には凹部が形成されているので、第2レンズの形状によらず安定して載置できる。また、中間レンズとなる第2レンズの大きさや配置を自由に設定することができ、従来は製造が困難であった多焦点レンズの設計かつ製造を容易かつ高品質に実現することができる。
【0014】
本発明では、前記第1レンズの前記凹部を除く上面を凹面として形成するとともに、前記第2レンズの上面を、前記第1レンズの凹部と連続的な曲面になるように形成し、前記第1レンズの凹部と前記第2レンズの凹部とから形成された連続的な曲面の上面に前記第3レンズ素材を載置することが好ましい。
【0015】
この発明によれば、第1レンズと第2レンズによって連続的な曲面の状態で形成された上面が上方を向いているので、この曲面に第3レンズ素材を安定して載置することができる。そのため、第3レンズ素材の形状によらず、加熱プレス法による賦形により第3レンズを簡便かつ確実に所定の形状として得ることができる。
【0016】
前記したようなプレス成形においては、例えば、第1レンズおよび第3レンズの径を略等しく、第2レンズの径はこれらの径よりも小さくなるように、前記3種のレンズ素材を賦形するとともに、第1レンズおよび第3レンズの光軸を一致させることで、3つの異なる特性を持ったレンズを組み合わせた光学性能に優れた多焦点レンズを容易に得ることができる。また、本発明では、第1レンズ、第2レンズおよび第3レンズの光軸を一致させてもよい。
【0017】
本発明では、前記多焦点レンズの外周部が、段差形状のレンズ被取付部に位置決めできるように、少なくとも2つの異なる径を有する基準面を形成し、前記第2レンズの径は前記第1レンズの径と前記第3レンズの径とのいずれよりも小さくなるように、前記3種のレンズ素材を賦形するとともに、前記第1レンズおよび前記第3レンズの光軸を一致させることが好ましい。
【0018】
この発明によれば、多焦点レンズの外周部に基準面を形成することから、段差形状のレンズ被取付部に位置決めされることにより、多焦点レンズをレンズ被取付部に正確に配置し多焦点レンズの倒れ量または偏芯量を低減することができる。
【0019】
さらに、本発明では、第1レンズおよび第3レンズの径は略等しく、第2レンズの形状をドーナツ状とするとともにその外径を第1レンズおよび第3レンズの径よりも小さくなるように、前記3種のレンズ素材を賦形するとともに、第1レンズ、第2レンズおよび第3レンズの光軸を一致させてもよい。
【0020】
本発明では、第1レンズ素材のガラス転移温度はTg1であり、第2レンズ素材のガラス転移温度はTg2であり、第3レンズ素材のガラス転移温度はTg3であって、前記各ガラス転移温度は、Tg1>Tg2>Tg3の関係を有するとともに、さらに、Tg1>At2、および、Tg2>At3の関係を有することが好ましい。
この発明によれば、3種のレンズ素材は、ガラス転移温度がTg1>Tg2>Tg3の関係を有するとともに、さらに、Tg1>At2、および、Tg2>At3の関係を有しているので、第1レンズに対して第2レンズ素材を加熱プレス法により賦形して接合する際、さらに、第1レンズと第2レンズに対して第3レンズ素材を加熱プレス法により賦形
して接合する際に、成形型となる第1レンズや第2レンズが変形することなく、接着剤なしで容易にレンズ同士を接合することが可能となる。
【0021】
本発明の多焦点レンズの製造方法は、ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ素材を賦形して第2レンズに接する第1レンズの接合面の凹面とともに、前記凹部の同心円上に位置決め用の起伏部を形成して第1レンズを成形し、前記位置決め用の起伏部により囲まれた前記凹部にガラス屈伏点温度がAt2である前記第2レンズ素材を配置して賦形して第2レンズを成形すると同時に、前記第2レンズを前記第1レンズに接合することが好ましい。
【0022】
この発明によれば、第1レンズの接合面の凹面の同心円上に位置決め用の起伏部を形成することから、第2レンズ素材を第1レンズに対して位置決めされることより、第1レンズに対して第2レンズを精度良く位置決めすることができる。
【0023】
本発明の多焦点レンズの製造方法は、前記多焦点レンズの外周部が、レンズ被取付部に位置決めできるように、切り欠き状の基準面を形成することが好ましい。
【0024】
この発明によれば、多焦点レンズの外周部に基準面を形成することから、段差形状のレンズ被取付部に位置決めされることにより、多焦点レンズをレンズ被取付部に正確に配置し多焦点レンズの倒れ量または偏芯量を低減することができる。
【0025】
本発明の多焦点レンズは、前記した製造方法により製造されたことを特徴とする。
それ故、本発明の多焦点レンズは、各レンズ素材が所定の形状となって、かつ確実に所定の配置で接合されており、良好な光学特性(球面収差、透過波面収差、色収差等の各種収差等)を発現することができる。
【0026】
本発明の多焦点レンズは、前記M種のレンズ素材のうち、少なくとも1種は合成樹脂であり、他の少なくとも1種はガラスであることが好ましい。
【0027】
この発明によれば、ガラスからなるレンズに、ガラスと比べて成形性の良好な合成樹脂を成形し接合されることにより、ガラスおよび合成樹脂からなる多焦点レンズを得ることから、屈折率の選択幅および熱膨張率が小さくおよび耐候性に優れたガラスの特性を維持し、かつ合成樹脂同等の成形性によりガラスだけでは成形困難な形状の多焦点レンズを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。ここで、各実施形態の説明において、同一符号を付した部材の説明を省略もしくは簡略にする。
(第1実施形態)
【0029】
図1から図7には本発明の第1実施形態が示されている。第1実施形態は、1群3層構成の多焦点レンズ1である。
図1には、第1実施形態の多焦点レンズ1が示されている。この多焦点レンズ1は、図1(A)の断面図に示すように、凸面側より、ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ11(以下、単に「レンズ11」ともいう)、ガラス屈伏点温度がAt2である第2レンズ12(以下、単に「レンズ12」ともいう)、および、ガラス屈伏点温度がAt3である第3レンズ13(以下、単に「レンズ13」ともいう)を積層した構造となっている。ここで、前記したガラス屈伏点温度は、At1>At2>At3の関係を有している。さらにこれら各レンズのガラス転移温度は、Tg1>Tg2>Tg3の関係を有するとともに、Tg1>At2、および、Tg2>At3の関係を有している。
また、図1(B)の上面図からもわかるように、レンズ11とレンズ13の外径は等しく、これらの外径よりもレンズ12の外径は小さくなっている。さらにこれら3つのレンズ11、12、13の光軸Lは一致している。
ここで、本実施形態で用いた各レンズ11、12、13を成形するレンズ素材(硝材)についての基本仕様を表1に示す。いずれも、株式会社オハラ製の光学レンズ用グレードである。
【0030】
【表1】
【0031】
このような多焦点レンズ1の製造方法を以下に説明する。
(レンズ11の成形工程)
図2は、ガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が最も高いレンズ素材11’を下金型101の成形面101Aに載置した状態を示す概略断面図である。
レンズ素材11’は、レンズ11の設計上の体積と同一にしたプリフォーム硝材として予め製作しておく。レンズ素材11’の形状は、球状、回転楕円形状、あるいは成形後のレンズ形状に近いメニスカス形状等とすることができる。
【0032】
ここで上金型102の成形面102Aは下に凸状となっているが、その略中央部にはさらに下側に凸状となった凸部102A’を成形している。この凸部102A’は、後述するレンズ12が接合される凹部をレンズ11の上面に形成するためのものである。
図3に示すように、レンズ素材11’を下金型101の成形面101Aに載置した後、下金型101、上金型102およびレンズ素材11’を成形温度Tp1まで加熱し、下金型101と上金型102を閉じてレンズ11を成形する。成形温度Tp1はTg1より高い温度であり、屈伏点温度At1前後の温度を適宜選択する。なお、図3では、レンズ11の側面を成形する金型は省略している。また、この省略している金型は、上金型102と一体化していてもよい。
【0033】
(レンズ12の成形工程)
レンズ11の成形が終了し、下金型101、上金型102およびレンズ11を常温付近まで冷却した後、上金型102を取り外し、新たにレンズ12成形用の上金型103を配置する(図4)。
図4に示すように、レンズ11は、上面に凹面11Aが成形されているとともに、その略中央部には、前記した上金型102の凸部102A’により成形された小さな凹部11A’が一つ成形されている。この凹部11A’は、凹面11Aよりも曲率半径が小さい。
【0034】
次に、この凹部11A’の上面にレンズ素材12’を載置する。レンズ素材12’は、レンズ12設計上の体積と同一になるようなプリフォーム形状に予め製作しておく。このプリフォーム形状は、球状、回転楕円形状、或いは成形後のレンズ形状に近いメニスカス形状等とするが、本実施形態では、レンズ11の上部略中央に成形された凹面11Aの曲率半径よりも曲率半径の小さい回転楕円形状としている。このような形状であると、レンズ素材12’の位置決めがより容易となる。
【0035】
そして、図5に示すように、上金型103により、成形温度Tp2で成形し、レンズ12を成形する。成形温度Tp2は、Tg2より高い温度で、屈伏点温度At2前後の温度を適宜選択する。なお、図5では、レンズ11の側面を成形する金型は省略している。また、この省略している金型は、上金型103と一体化していてもよい。
ここで、レンズ12とレンズ11はガラス同士の化学反応で融着される。またレンズ11(レンズ素材11’)は、レンズ12(レンズ素材12’)に比べて、ガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が高く、しかもTg1>At2の関係を有するめに、レンズ11自身は変形しない。
【0036】
(レンズ13の成形工程)
レンズ12の成形が終了し、下金型101、上金型103およびレンズ12を常温付近まで冷却した後、上金型103を取り外す。
次に、図6に示すように、レンズ11、12の上面(凹面)に、レンズ素材13’を載置する。レンズ素材13’は、レンズ13設計上の体積と同一になるようなプリフォーム形状に予め製作しておく。このプリフォーム形状は、球状、回転楕円形状、或いは成形後のレンズ形状に近いメニスカス形状等とすることが好ましいが、本実施形態では、レンズ11、12の上面(凹面)の曲率半径よりも曲率半径の小さい回転楕円形状としている。このような形状であると、レンズ素材13’の位置決めがより容易となる。
【0037】
次に、図7に示すように上金型104により、成形温度Tp3で成形し、レンズ13を成形する。成形温度Tp3は、Tg3より高い温度で、屈伏点温度At3前後の温度を適宜選択する。なお、図6では、レンズ11およびレンズ13の側面を成形する金型は省略している。また、この省略している金型は、上金型104と一体化していてもよい。
ここで、レンズ11、レンズ12およびレンズ13はガラス同士の化学反応で融着される。またレンズ11、レンズ12はレンズ13(レンズ素材13’)よりもガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が高く、しかもTg2>At3の関係を有するために、レンズ11自体およびレンズ12自体は変形しない。
【0038】
前記した各工程を経て、1群3層構成の多焦点レンズ1が製造される(図1)。このような第1実施形態によれば以下のような効果を奏することができる。
(1)第1実施形態の多焦点レンズ1は、ガラス屈伏点温度がAt1、At2、At3である3種のレンズ素材を用い、加熱プレス法によりレンズの賦形が行われた1群3層のレンズであり、第1レンズ11の第2レンズ12に接する接合面は凹面であり、第2レンズ12の第1レンズ11に接する接合面は凸面で構成され、かつ、ガラス屈伏点温度は、At1>At2の関係を有している。そして同様に、第2レンズ12の第3レンズ13に接する接合面は凹面であり、第3レンズ13の第2レンズ12に接する接合面は凸面で構成され、かつ、ガラス屈伏点温度は、At2>At3の関係を有している。そのため、第1レンズ11のガラス屈伏点温度At1が第2レンズ12のガラス屈伏点温度At2よりも高いので、第2レンズ12を熱プレスする時に第1レンズ11の接合面を成形型の一部として用いることができる。そして同様に、第2レンズ12のガラス屈伏点温度At2が第3レンズ13のガラス屈伏点温度At3よりも高いので、第3レンズ13を熱プレスする時に第2レンズ12の接合面を成形型の一部として用いることができる。第1レンズ11の接合面を凹面にした場合、第1レンズ11の接合面付近で熱変形される流動状態の第2レンズ素材12’の表面には圧縮応力が加わる。逆に、第1レンズの接合面を凸面にした場合、第1レンズの接合面付近で熱変形される流動状態の第2レンズ素材の表面には引っ張り応力が加わる。多焦点レンズ1は、第2レンズ素材12’および 第3レンズ素材13’の凸面の中心方向に圧縮応力が加わることから、引っ張り応力が加わる場合に比べて、第2レンズと第1レンズとの界面、および第3レンズと第2レンズとの界面の接合に影響が少なくなり、光学特性に優れ、さらに、界面にクラックまたは剥離などの破損が発生することを低減することができる。
多焦点レンズ1を上述の形状にすれば、第2レンズ素材12’は熱プレス前の表面形状が概ね凸面である米粒状のゴブ材を、ゴブ材に接する第1レンズ11の接合面の凹面に、プリフォーム加工無しで第2レンズ12を接合することができる。そして同様に、第3レンズ素材13’は熱プレス前の表面形状が概ね凸面である米粒状のゴブ材を、ゴブ材に接する第1レンズ12の接合面の凹面に、プリフォーム加工無しで第3レンズ13を接合することができる。このため、従来技術では、ゴブ材から一次加工としてプリフォーム加工、例えば、熱プレス加工、研削加工などをしなくてはいけなかったが、安定した光学特性と、クラックや剥離の少ない接合とを得られ、熱プレス加工された多焦点レンズの製造コストも安価にできる。
【0039】
(2)3種のレンズ11、12、13を加熱プレス法で物理的・化学的に接合するので、接着剤を用いることなく1群3層構成の多焦点レンズ1を簡便に製造することができる。また、接着剤を用いないので、多焦点レンズ1の光学特性に悪影響を与えることもない。
【0040】
(3)3種のレンズ素材は、ガラス屈伏点温度は、At1>At2>At3の関係を有し、さらにこれら各レンズのガラス転移温度は、Tg1>Tg2>Tg3の関係を有するとともに、Tg1>At2、および、Tg2>At3の関係を有しているので、レンズ11に対してレンズ素材12’を加熱プレス法により賦形して接合する際、さらに、レンズ11とレンズ12に対してレンズ素材13’を加熱プレス法により賦形して接合する際に、レンズ11やレンズ12が変形することなく、接着剤がなくとも容易にレンズ同士を接合することが可能となる。すなわち、レンズ11自体やレンズ12自体を安定な成形型として利用できる。
【0041】
(4)レンズ11の上面略中央には、凹部11A’が成形され、この凹部11A’にレンズ素材12’を載置するので、レンズ素材12’の形状によらず安定して載置できる。それ故、中間レンズとなるレンズ2の大きさや配置を自由に設定することができ、種々の中間レンズ形状を持った多焦点レンズを容易かつ簡易に製造することができる。また、レンズ11とレンズ12の光軸合わせも容易である。
【0042】
(5)レンズ11の凹部11A’を除く上面を凹面として成形するとともに、レンズ12の上面を、レンズ11の凹面と連続的な曲面になるように成形し、レンズ11の凹面とレンズ12の上面とから成形された連続的な曲面の上面にレンズ素材13’を載置するのでレンズ素材13’の形状によらず安定して載置できる。レンズ11、レンズ12およびレンズ13の光軸合わせも容易である。それ故、成形された多焦点レンズ1に偏芯を生ずることがなく、良好な光学特性(例えば、透過波面収差特性)を発現できる。
【0043】
(6)1群3層の多焦点レンズ1は、中間レンズであるレンズ12が完全に内部に位置しており、多焦点レンズ1の外表面の曲率を変化させることはない。それ故、必要に応じて研磨加工を容易に行うことができる。
【0044】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を図8,9に基づいて説明する。第2実施形態は第1実施形態とは中間に位置するレンズの数および配置が異なるもので、他の構成は第1実施形態と同じである。
図8(A)(B)に示される通り、第2実施形態の1群3層構成の多焦点レンズ2は、レンズ21、レンズ22、レンズ23の3層から構成されるが、中間に位置するレンズ22は、レンズ21、23の光軸からずれた位置に配置されている。図8(B)に示すように、この実施形態では、光軸を中心とした同心円上に4個のレンズ22が並んで配置されているが、レンズ22は必ずしも同心円上にある必要はなく、多焦点レンズ2の光学特性に応じて任意な位置に、任意の個数だけ配置することが可能である。
【0045】
このような多焦点レンズ2も、第1実施形態と同様にして製造することができる。
具体的には、図9に示すように、第1実施形態と同様に、ガラス屈伏点温度およびガラス転移温度の最も高いレンズ21から成形する。この時レンズ21には、レンズ22が位置する箇所に凹部21Aを形成し、さらに凹部21Aが上向きになるように金型の姿勢を制御する。この凹部21Aの上面にレンズ素材22’を載置した後、上金型202によりレンズ22を成形する。さらに同様にレンズ23を成形する。他の製造条件は前記第1実施形態と同様である。
【0046】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態を図10,11に基づいて説明する。第3実施形態は第1実施形態とは中間に位置するレンズの形状が異なるもので、他の構成は第1実施形態と同じである。
図10に示す第3実施形態の多焦点レンズ3では、中間に位置するレンズ32が中心部のないドーナツ状をしている。このような多焦点レンズ3も前記した製法と同様にして製造することができる。
具体的には、図11に示すように、ガラス屈伏点温度が最も高い第1レンズ31から成形する。第1レンズ31は、第2レンズ32の配置場所に相当する箇所に凹部31Aが成形されており、さらにこの凹部31Aが上向きになるように下金型301の姿勢を制御する。
第2レンズ素材32’は、図11(B)に示すように中心部のないドーナツ状の円板である。それ故、上金型302による加熱プレス後の第2レンズ32もドーナツ状となる。
他の製造条件は前記第1実施形態と同様である。最終的に、図10に示す1群3層構成の多焦点レンズ3となる。
【0047】
なお、第1実施形態から第3実施形態の各レンズはいずれも円形であったが、円形である必要はなく、例えば矩形でもよい。また、多焦点レンズの片側あるいは両側には、必要に応じて他のレンズを貼り合わせてもよい。また、多焦点レンズの表面には、適当なハードコート膜や反射防止膜を形成してもよい。特に、本発明の多焦点レンズは、外表面の曲率を一様に設定できるので、前記したような貼り合わせ工程や膜形成工程において有利である。
また、第1レンズ、第2レンズ、第3レンズの形状は、球面形状のみならず、非球面形状となった場合にも、同様の製造方式で、簡易に、製造することができる。
【0048】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態を図12に基づいて説明する。第4実施形態は1群2層のレンズ構成である。
図12は、第4実施形態の1群2層構造の多焦点レンズ4の構成を示す概略断面図である。
【0049】
図12に示すように、1群2層構造の多焦点レンズ4は、凸面側より、ガラス屈伏点温度At1である第1レンズ41(以下、単に「レンズ41」ともいう)、およびガラス屈伏点温度がAt2である第2レンズ42(以下、単に「レンズ42」ともいう)を積層した構造となっている。ここで、前記したガラス屈伏点温度は、At1>At2の関係を有している。さらにこれら各レンズのガラス転移温度は、Tg1>Tg2の関係を有するとともに、Tg1>At2の関係を有している。
また、図12からわかるように、レンズ41とレンズ42の外形は等しくなっている。さらにこれら2つのレンズ41,42の光軸Lは一致している。
ここで、本実施形態で用いた各レンズ41,42を形成するレンズ素材(硝材)は種々考えられるが、例えば、第1実施形態の表1で示されるレンズ11が第1レンズ41と同じであり、表1で示されるレンズ13が第2レンズ42と同じである構成としてもよい。
【0050】
このような多焦点レンズ4の製造方法を図13〜図17に基づいて以下に説明する。
(レンズ41の成形工程)
図13は、ガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が高い方のレンズ素材41’を下金型401の成形面401Aに載置した状態を示す概略断面図である。
レンズ素材41’は、レンズ41の設計上の体積と同一にしたプリフォーム硝材として予め製作しておく。レンズ素材41’の形状は、球状、回転楕円形状、あるいは成形後のレンズ形状に近いメニスカス形状等とすることができる。
ここで上金型402の成形面402Aは下に凸状となっている。
【0051】
図14に示すように、レンズ素材41’を下金型401の成形面401Aに載置した後、下金型401、上金型402およびレンズ素材41’を成形温度Tp1まで加熱し、下金型401と上金型402を閉じてレンズ41を形成する。成形温度はTp1より高い温度であり、屈伏点At1前後の温度を適宜選択する。なお、図14では、レンズ41の側面を成形する金型は省略している。また、この省略している金型は、上金型402と一体化していてもよい。
【0052】
(レンズ42の成形工程)
レンズ41の成形が終了し、下金型401、上金型402およびレンズ41を常温付近まで冷却した後、上金型402を取り外し、新たにレンズ42成型用の上金型403を配置する(図15)。
図15に示すように、レンズ41は、上面に凹面41Aが成形されている。レンズ41の凹面41Aにレンズ素材42’を載置する。レンズ素材42’は、レンズ42の設計上の体積と同一になるようなプリフォーム形状に予め製作しておく。このプリフォーム形状は、球状、回転楕円形状、あるいは成形後のレンズ形状に近いメニスカス形状等とすることが好ましいが、本実施形態では、レンズ41の凹面41Aの曲率半径よりも曲率半径の小さい回転楕円形状としている。このような形状であると、レンズ素材42’の位置決めがより容易となる。
【0053】
次に、図16に示すように上金型403により、成形温度Tp2で成形し、レンズ42を形成する。成形温度Tp2は、Tg2より高い温度で、屈伏点温度At2前後の温度を適宜選択する。なお、図16では、レンズ41およびレンズ42の側面を成形する金型は省略している。また、この省略している金型は、上金型403と一体化していてもよい。
ここで、レンズ41およびレンズ42はガラス同士の化学反応で融着される。またレンズ41はレンズ42よりもガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が高く、しかもTg1>At2の関係を有するために、レンズ41自体は変形しない。
【0054】
レンズ42の成形が終了し、下金型401、上金型403およびレンズ42を常温付近まで冷却した後、上金型403を取り外す。そして、下金型401から、レンズ41およびレンズ42を積層した1群2層構成の多焦点レンズ4を取り出す(図17)。
【0055】
前記した各工程を経て、図12に示す1群2層構成の多焦点レンズ4が製造される。このような本実施形態によれば以下のような効果を奏することができる。
第4実施形態の多焦点レンズ4は、ガラス屈伏点温度がAt1、At2である2種のレンズ素材を用い、加熱プレス法によりレンズの賦形が行われた1群2層のレンズであり、第1レンズ41の第2レンズ42に接する接合面は凹面であり、第2レンズ42の第1レンズ41に接する接合面は凸面で構成され、かつ、ガラス屈伏点温度は、At1>At2の関係を有している。そのため、第1レンズ41のガラス屈伏点温度At1が第2レンズ42のガラス屈伏点温度At2よりも高いので、第2レンズ42を熱プレスする時に第1レンズ41の接合面を成形型の一部として用いることができる。第1レンズ41の接合面を凹面にした場合、第1レンズの接合面付近で熱変形される流動状態の第2レンズ素材42’の表面には圧縮応力が加わる。逆に第1レンズの接合面を凸面にした場合、第1レンズの接合面付近で熱変形される流動状態の第2レンズ素材の表面には引っ張り応力が加わる。多焦点レンズ4は、第2レンズ素材42’の凸面の中心方向に圧縮応力が加わることから、引っ張り応力が加わる場合に比べて、第2レンズと第1レンズとの界面の接合に影響が少なくなり、光学特性に優れ、さらに、界面にクラックまたは剥離などの破損が発生することを低減することができる。
多焦点レンズ4を前述の形状にすれば、第2レンズ素材42’は熱プレス前の表面形状が概ね凸面である米粒状のゴブ材を、ゴブ材に接する第1レンズの接合面の凹面に、プリフォーム加工無しで第2レンズを接合することができる。このため、従来技術では、ゴブ材から一次加工としてプリフォーム加工(例えば、熱プレス加工、研削加工など)をしなくてはいけなかったが、安定した光学特性と、クラックや剥離の少ない接合とを得られ、熱プレス加工された多焦点レンズの製造コストも安価にできる。
【0056】
しかも、ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ素材を賦形して第1レンズ41を成形後、この第1レンズ41自体を成形型の一部として、ガラス屈伏点温度がAt2(At1>At2)である第2レンズ素材を賦形して第2レンズ42を成形すると同時に、第1レンズ41の第2レンズ42に接する接合面を凹面とし、第2レンズの第1レンズに接する接合面を凸面とし、第2レンズ42を第1レンズ41に接合して多焦点レンズ4を製造した。そのため、第1レンズ41を成形型から外すことなく成形型の一部として用いることにより、第1レンズ41の凹部に第2レンズ素材を配置し賦形を行うことから、第1レンズ41と第2レンズ42との位置合せを正確に行うことができ、多焦点レンズ4を簡易に製造することができる。
また本実施形態の多焦点レンズ4の製造方法による位置合わせは、多焦点レンズに適用を限定するものではなく、単焦点レンズに対しても適用することができる。
【0057】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態を図18〜22に基づいて説明する。第5実施形態は第4実施形態に比べて第1レンズの形状が異なるものであり、他の構成は第4実施形態と同じである。
図18は、第5実施形態の1群2層構成の多焦点レンズ5の構成を示す概略断面図である。
【0058】
図18に示すように、1群2層構成の多焦点レンズ5は、凸面側より、ガラス屈伏点温度At1である第1レンズ51(以下、単に「レンズ51」ともいう)、およびガラス屈伏点温度がAt2である第2レンズ52(以下、単に「レンズ52」ともいう)を積層した構造となっている。ここで、前記したガラス屈伏点温度は、At1>At2の関係を有している。さらにこれら各レンズのガラス転移温度は、Tg1>Tg2の関係を有するとともに、Tg1>At2の関係を有している。
また、図18からわかるように、レンズ51の外形はレンズ52の外形より小さく形成されている。さらにこれら2つのレンズ51,52の光軸Lは一致している。
ここで、本実施形態で用いた第1レンズ51を形成するレンズ素材(硝材)は第4実施形態の第1レンズ41と同じであり、第2レンズ52を形成するレンズ素材(硝材)は第4実施形態の第2レンズ42と同じである。
【0059】
このような多焦点レンズ5の製造方法を図19〜図22に基づいて以下に説明する。
(レンズ51の成形工程)
図19は、ガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が高い方のレンズ素材51’を下金型501の成形面501Aに載置した状態を示す概略断面図である。
レンズ素材51’は、レンズ51の設計上の体積と同一にしたプリフォーム硝材として予め製作しておく。レンズ素材51’の形状は、球状、回転楕円形状、あるいは成形後のレンズ形状に近いメニスカス形状等とすることができる。
ここで上金型502の成形面502Aは下に凸状となっている。そして、下金型501の成形面501Aの略中央部には、さらに下側に凹部501A’を形成している。
【0060】
図20に示すように、レンズ素材51’を下金型501の成形面501Aに載置した後、下金型501、上金型502およびレンズ素材51’を成形温度Tp1まで加熱し、下金型501と上金型502を閉じてレンズ51を形成する。成形温度はTp1より高い温度であり、屈伏点At1前後の温度を適宜選択する。
【0061】
(レンズ52の成形工程)
レンズ51の成形が終了し、下金型501、上金型502およびレンズ51を常温付近まで冷却した後、上金型502を取り外し、新たにレンズ52成型用の上金型503を配置する(図21)。
図21に示すように、レンズ51は、上面に凹面51Aが成形されている。レンズ51の凹面51Aに、またはレンズ51の凹面51Aおよび下金型501の成形面501Aに、レンズ素材52’を載置する。レンズ素材52’は、レンズ52の設計上の体積と同一になるようなプリフォーム形状に予め製作しておく。このプリフォーム形状は、球状、回転楕円形状、あるいは成形後のレンズ形状に近いメニスカス形状等とすることが好ましいが、本実施例では、レンズ51と下金型501の成形面501Aの凹面51Aとのいずれの曲率半径よりも曲率半径の小さい回転楕円形状としている。このような形状であると、レンズ素材52’の位置決めがより容易となる。
【0062】
次に、図22に示すように上金型503により、成形温度Tp2で成形し、レンズ42を形成する。成形温度Tp2は、Tg2より高い温度で、屈伏点温度At2前後の温度を適宜選択する。なお、図22では、レンズ51およびレンズ52の側面を成形する金型は省略している。また、この省略している金型は、上型503と一体化していてもよい。
ここで、レンズ51およびレンズ52はガラス同士の化学反応で融着される。またレンズ51はレンズ52よりもガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が高く、しかもTg1>At2の関係を有するために、レンズ51自体は変形しない。
【0063】
レンズ52の成形が終了し、下金型501、上金型503およびレンズ52を常温付近まで冷却した後、上金型503を取り外す。そして、下金型501から、レンズ51およびレンズ52を積層した1群2層構成の多焦点レンズ5を取り出す。
【0064】
前記した各工程を経て、図18に示す1群2層構成の多焦点レンズ5が製造される。このような第5実施形態によれば第4実施形態と同じ作用効果を奏する他、レンズ51をレンズ52上の任意の場所へ、任意の個数を自在に配置することができるため、レンズ設計の自由度を大幅に拡げることができる。
【0065】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態を図23に基づいて説明する。第5実施形態は第1実施形態に比べて各レンズの形状が異なるものであり、他の構成は第1実施形態と同じである。
図23は、第6実施形態の1群3層構成の多焦点レンズ6の構成を示す概略断面図である。
図23に示すように、多焦点レンズ6は、図中上方の平面側より、ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ61(以下、単に「レンズ61」ともいう)、ガラス屈伏点温度がAt2である第2レンズ62(以下、単に「レンズ62」ともいう)、および、ガラス屈伏点温度がAt3である第3レンズ63(以下、単に「レンズ63」ともいう)を積層した構造となっている。ここで、前記したガラス屈伏点温度は、At1>At2>At3の関係を有している。さらにこれら各レンズのガラス転移温度は、Tg1>Tg2>Tg3の関係を有するとともに、Tg1>At2、および、Tg2>At3の関係を有している。
また、図23からもわかるように、レンズ61とレンズ62とレンズ63との外径は等しくなっている。さらにこれら3つのレンズ61,62,63の光軸Lは一致している。
第1レンズ61は凸レンズであり、第2レンズ62および第3レンズ63はそれぞれ第1レンズ61の外径寸法とほぼ等しい。
ここで、本実施形態で用いる各レンズ61,62,63を成形するレンズ素材(硝材)についての基本仕様は、第1実施形態において表1に示した、各レンズ11,12,13とそれぞれ同様の仕様であり、いずれも、株式会社オハラ製の光学レンズ用グレードである。
【0066】
このような多焦点レンズ6の製造方法は、第1実施形態の多焦点レンズ1の製造方法に示したレンズ11の成形工程、レンズ12の成形工程、およびレンズ13の成形工程において、それぞれレンズ11、レンズ12、およびレンズ13を形成するとしたことを、レンズ61、レンズ62、およびレンズ63を形成するとしたことを要旨とし、多焦点レンズ1の製造方法と同様のため説明を省略する。
【0067】
前述の第1実施形態の各工程を経て、図6に示す1群3層構成の多焦点レンズ6が製造される。
このような第6実施形態によれば第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0068】
(第7実施形態)
次に、本発明の第7実施形態を図24および図25に基づいて説明する。
第5実施形態は第1実施形態に比べて中間のレンズの構成が異なるものであり、他の構成は第1実施形態と同じである。
図24は、第7実施形態の1群3層構成の多焦点レンズ7の構成を示す概略断面図である。
図24に示すように、多焦点レンズ7は、凸面側より、第1レンズ34(以下、単に「レンズ34」ともいう)、第2レンズ35(以下、単に「レンズ35」ともいう)、および第3レンズ36(以下、単に「レンズ36」ともいう)を積層した構造となっている。
また、図24からもわかるように、レンズ34とレンズ35とレンズ36との外径は等しくなっている。そして、レンズ35はレンズ35A,35Bからなる。そして、レンズ35A,35Bは中心部のないドーナツ状をしている。35A,35Bは、同心円状に形成され、互いに交わらず、間隔を有して形成されている。さらにこれら3つのレンズ34、35、36の光軸Lは一致している。
ここで、本実施形態で用いる各レンズ34、35、36を成形するレンズ素材(硝材)についての基本仕様は、第1実施形態において表1に示した、各レンズ11,12,13とそれぞれ同様の仕様であり、いずれも、株式会社オハラ製の光学レンズ用グレードである。
【0069】
このような多焦点レンズ7の製造方法を図25に基づいて以下に説明する。
(レンズ34の成形工程)
まず、レンズ34を成形する。レンズ34は、凹面34Cに凹部34Aおよび凹部34Bが成形されている。なお、レンズ34の形成工程は、第1実施形態で示したレンズ11の成形工程においてレンズ11を形成するとしたことを、レンズ34を形成するとしたことを要旨とし、レンズ34の成形工程はレンズ11の成形工程と同様のため説明を省略する。
【0070】
(レンズ35の成形工程)
レンズ34の成形が終了し、常温付近まで冷却した後、レンズ35成形用の上金型702を配置する(図25)。
図25に示すように、レンズ34は、上面に凹面34Cが成形されているとともに、その外周部にはドーナツ状の凹部34A、その略中央部には凹部34Bがそれぞれ一つ成形されている。凹部34Aおよび凹部34Bは、凹面34Cよりも曲率半径が小さい。
【0071】
次に、レンズ34の上面の凹部34Aに中心部のないドーナツ状のレンズ素材35A’を載置し、凹部34Bの上面に中心部のないドーナツ状のレンズ素材35B’を載置する。レンズ素材35A’およびはレンズ素材35B’、レンズ35設計上の体積と同一になるような形状に予め製作しておく。
【0072】
そして、上金型702により、成形温度Tp2で成形し、レンズ35を成形する。成形温度Tp2は、Tg2より高い温度で、屈伏点温度At2前後の温度を適宜選択する。
ここで、レンズ35とレンズ34はガラス同士の化学反応で融着される。またレンズ34は、レンズ35に比べて、ガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が高く、しかもTg1>At2の関係を有するめに、レンズ34自身は変形しない。
【0073】
(レンズ36の成形工程)
レンズ35を成形した後、成形温度Tp3で成形し、レンズ36を成形する。なお、レンズ36の形成工程は、第1実施形態で示したレンズ13の成形工程においてレンズ13を形成するとしたことを、レンズ36を形成するとしたことを要旨とし、レンズ36の成形工程はレンズ13の成形工程と同様のため説明を省略する。
【0074】
前記した各工程を経て、図24に示す1群3層構成の多焦点レンズ7が製造される。このような本実施形態によれば第1実施形態と同様な作用効果を奏することができる。
【0075】
(第8実施形態)
次に、本発明の第8実施形態を図26から図29に基づいて説明する。
第8実施形態は第4実施形態に比べて各レンズの形状が異なるものであり、他の構成は第4実施形態と同じである。
図26は、第8実施形態の1群2層構成の多焦点レンズ8の構成を示す概略断面図である。
【0076】
図26に示すように、1群2層構成の多焦点レンズ8は、凸面側より、ガラス屈伏点温度At1である第1レンズ81(以下、単に「レンズ81」ともいう)、ガラス屈伏点温度がAt2である第2レンズ82(以下、単に「レンズ82」ともいう)を積層した構造となっている。ここで、前記したガラス屈伏点温度は、At1>At2の関係を有している。さらにこれら各レンズのガラス転移温度は、Tg1>Tg2の関係を有するとともに、Tg1>At2の関係を有している。
また、レンズ81の外形はレンズ82の外形より大きく形成されている(図29参照)。これら2つのレンズ81,82の光軸Lは一致している。
第1レンズ81は、中央部上面に凹部81Aとこの凹部81Aを環状に取り囲む位置決め用の起伏部81Bとがそれぞれ成形されている。これらの凹部81Aおよび起伏部81Bとに嵌合するように第2レンズ82には突出部が形成されている。
ここで、本実施形態で用いた各レンズ81,82を形成するレンズ素材(硝材)について、基本仕様は第4実施形態において示した仕様と同様のため説明を省略する。
【0077】
このような多焦点レンズ8の製造方法を図27〜図29に基づいて以下に説明する。
(レンズ81の成形工程)
図27(A)は、ガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が高い方のレンズ素材81’を下金型801の成形面801Aに載置した状態を示す概略状態断面図であり、図27(B)は、図27(A)に示す上金型802の成形面802Aを部分拡大した部分拡大断面図である。
レンズ素材81’は、レンズ81の設計上の体積と同一にしたプリフォーム硝材として予め製作しておく。レンズ素材81’の形状は、球状、回転楕円形状、あるいは成形後のレンズ形状に近いメニスカス形状等とすることができる。
【0078】
ここで、上金型802の成形面802Aは下に凸状となっている。そして、成形面802Aの成形面802Aの略中央部には、さらに下側に凸部802A’を形成している。上金型802の成形面802Aと起伏部802A’と繋ぐ部分に、成形面802Aおよび凸部802A’の同心円上に起伏部802Bを形成している。なお、成形面802Aからさらに下側に起伏部802Bを形成するとしたことを、成形面802Aから上側に起伏部802Bを形成するとしてもよい。
レンズ素材81’を下金型801の成形面801Aに載置した後、下金型801、上金型502およびレンズ素材81’を成形温度Tp1まで加熱し、下金型801と上金型802を閉じてレンズ81を形成する。成形温度はTp1より高い温度であり、屈伏点At1前後の温度を適宜選択する。プレス後、上金型802を上昇させると、図28(A)(B)に示すとように、下金型801にはレンズ81が残る。このレンズ81には凹部81Aおよび起伏部81Bがそれぞれ形成されている。
【0079】
(レンズ82の成形工程)
図29(A)は、レンズ81が形成された後に、上金型802を外した状態を示す概略状態断面図であり、図29(B)は、図29(A)の概略平面図であり、図29(C)は、図29(A)に示すレンズ81を部分拡大した部分拡大断面図である。
図29に示すように、レンズ81の凹面81Aに、レンズ素材82’を載置するが、この際、レンズ81およびレンズ素材82’の上方に配置された画像処理用カメラ300および調整用ハンド350を使用する。つまり、画像処理用カメラ300を用いて、図29(A)の図中上方から、つまり図29(B)に示すように位置決め用の起伏部81Bとレンズ素材82’との位置関係情報を取得する。この位置関係情報により調整用ハンド350を駆動させることにより、レンズ81の略中心にレンズ素材82’の位置を合わせる。
レンズ素材82’は、レンズ82の設計上の体積と同一になるようなプリフォーム形状に予め製作しておく。このプリフォーム形状は、球状、回転楕円形状、あるいは成形後のレンズ形状に近いメニスカス形状等とすることが好ましいが、本実施形態では、レンズ81の凹面81Aの曲率半径よりも曲率半径の小さい回転楕円形状としている。このような形状であると、レンズ素材82’の位置決めがより容易となる。
【0080】
レンズ素材82’の位置を合わせた後に、成形温度Tp3で成形し、レンズ82を形成する。成形温度Tp2は、Tg2より高い温度で、屈伏点温度At2前後の温度を適宜選択する。
ここで、レンズ81およびレンズ82はガラス同士の化学反応で融着される。またレンズ81はレンズ82よりもガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が高く、しかもTg2>At2の関係を有するために、レンズ81自体は変形しない。
【0081】
前記した各工程を経て、図26に示す1群2層構成の多焦点レンズ8が製造される。このような本実施形態によれば第4実施形態の作用効果の他に次のような効果を奏することができる。
第1レンズ81の接合面の凹部81Aとともに、この凹部81Aの同心円上に位置決め用の起伏部81Bを形成し、この位置決め用の起伏部81Bにより囲まれた凹部81Aに第2レンズ素材を配置賦形して第2レンズ82を成形すると同時に、第2レンズ82を第1レンズ81に接合する構成とした。そのため、第2レンズ素材を第1レンズ81に設置する際に、起伏部81Bが位置決め対象となるので、第1レンズ81に対して第2レンズ82を精度良く位置決めすることができる。
【0082】
(第9実施形態)
次に、本発明の第9実施形態を図30から図33に基づいて説明する。
第9実施形態はレンズの外周縁部に被取付部材に取り付けるための基準面が形成されている点で第1実施形態と異なり、他の構成は第1実施形態と同じである。
図30は、第9実施形態における1群3層構成の多焦点レンズを示す概略断面図である。
図30に示すように、多焦点レンズ9は、凸面側より、第1レンズ11A、第2レンズ12A、および第3レンズ13Aを積層した構造となっている。
また、図30からもわかるように、レンズ11Aとレンズ13Aとの外径は、異なっている。これにより、多焦点レンズ1Aの外周部が、段差形状のレンズ被取付部200に位置決めできるように、少なくとも2つの異なる径を有する基準面14Aを形成している。このレンズ被取付部200は鏡体に形成されている。
これら3つのレンズ11A、12A、13Aの光軸Lは一致している。
ここで、本実施形態で用いる各レンズ34、35、36を成形するレンズ素材(硝材)についての基本仕様は、第1実施形態において表1に示した、各レンズ11,12,13とそれぞれ同様の仕様であり、いずれも、株式会社オハラ製の光学レンズ用グレードである。
【0083】
このような多焦点レンズ1Aの製造方法を図31に基づいて以下に説明する。
図31は、多焦点レンズ1Aのレンズ13Aの形成工程を示す概略断面図である。第9実施形態のレンズ13Aの成形工程は、第1実施形態に係るレンズ13の成形工程について図6に基づき説明した際に、省略した金型ついて説明する。
第9実施形態のレンズ13Aの成形工程において、上金型104と下金型101とより13Aを成形する際に、段差形状に形成された金型105を上金型104と下金型101との間に配置する。これにより、図30に示す多焦点レンズ9が製造される。
なお、多焦点レンズ9の製造方法において、レンズ11Aの成形工程およびレンズ12Aの成形工程は、第1実施形態で示したレンズ11の成形工程およびレンズ12の成形工程と同様のため、説明を省略する。
【0084】
このような第9実施形態によれば第1実施形態と同様の作用効果の他に以下のような効果を奏することができる。
多焦点レンズ9の外周部に、段差形状のレンズ被取付部200に位置決めできるように、2つの異なる径を有する基準面14Aを形成し、第2レンズ12Aの径は第1レンズ11Aの径と第3レンズ13Aの径とのいずれよりも小さくなるように、3種のレンズ素材を賦形するとともに、第1レンズ11Aおよび第3レンズ13Aの光軸を一致させる構成とした。そのため、多焦点レンズ9の外周部に基準面14Aを形成することから、段差形状のレンズ被取付部200に位置決めされることにより、多焦点レンズ9をレンズ被取付部200に正確に配置し多焦点レンズ9の倒れ量または偏芯量を低減することができる。
【0085】
なお、第9実施形態では前述の構成に限定されるものではなく、図32(A)(B)および図33に示される変形例も含まれる。
図32(A)は、1群3層構成の多焦点レンズ9Bの構成を示す概略断面図である。
図32(A)からもわかるように、レンズ11Bとレンズ13Bとの外径は等しく、かつレンズ11Bは外形より小さい他の外形が形成されている。これにより、多焦点レンズ9Bの外周部が、段差形状のレンズ被取付部200に位置決めできるように、少なくとも2つの異なる径を有する基準面14Bを形成している。なお、これら3つのレンズ11B、12B、13Bの光軸Lは一致している。
【0086】
図32(B)は多焦点レンズ9Cの構成を示す概略断面図である。
図32(B)からもわかるように、レンズ11Bとレンズ13Bとの外径は等しく、かつレンズ11Bは外形より小さい、他の外形が形成されている。これにより、多焦点レンズ9Cの外周部が、段差形状のレンズ被取付部200に位置決めできるように、少なくとも2つの異なる径を有する基準面14Cを形成している。
【0087】
図33は、1群3層構成の多焦点レンズ9Dの構成を示す概略断面図である。
図33に示す多焦点レンズ9Dは、第1実施形態の図1に示す多焦点レンズ1の外周部を円形状に形成するとしたことを、円形状の外周部がレンズ被取付部に位置決めできるように、直線状の切り欠き状の基準面15を形成するとしたことを要旨とする。
図33に示すように、多焦点レンズ9Dは、凸面側より、ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ11D(以下、単に「レンズ11D」ともいう)、ガラス屈伏点温度がAt2である第2レンズ12(以下、単に「レンズ12」ともいう)、および、ガラス屈伏点温度がAt3である第3レンズ13D(以下、単に「レンズ13D」ともいう)を積層した構造となっている。ここで、前記したガラス屈伏点温度は、At1>At2>At3の関係を有している。さらにこれら各レンズのガラス転移温度は、Tg1>Tg2>Tg3の関係を有するとともに、Tg1>At2、および、Tg2>At3の関係を有している。
図33からもわかるように、レンズ11Aとレンズ13Aとの外径は、等しくなっている。そして、多焦点レンズ9の円形状の外周部がレンズ被取付部に位置決めできるように、切り欠き状の基準面15を形成している。図33において、切り欠き状の基準面15は2つ形成されている。また、2つの切り欠き状の基準面15は互いに略平行に形成されている。なお、切り欠き状の基準面15は、2つ形成されるとしたが、1つ以上形成されていてもよい。そして、切り欠き状の基準面15は互いに略平行に形成するとしたが、所望の角度を有して形成されていてもよく、切り欠き状の基準面15は互いに接していてもよい。
これにより、多焦点レンズ1Aの外周部が、段差形状のレンズ被取付部200に位置決めできるように、少なくとも2つの異なる径を有する基準面14Aを形成している。さらにこれら3つのレンズ11A、12A、13Aの光軸Lは一致している。
ここで、本実施形態で用いる各レンズ34、35、36を成形するレンズ素材(硝材)についての基本仕様は、第1実施形態において表1に示した、各レンズ11,12,13とそれぞれ同様の仕様であり、いずれも、株式会社オハラ製の光学レンズ用グレードである。
このような多焦点レンズ9Dの製造方法については、第1実施形態の図2〜図7に示す多焦点レンズ1の製造方法と同様のため説明を省略する。
【0088】
次に、本発明の第10実施形態を図34に基づいて説明する。
図34は、第10実施形態に係る1群2層構成の変形例の多焦点レンズ10の構成を示す概略断面図である。
図34に示す多焦点レンズ10は、第4実施形態の図12に示す多焦点レンズ1のレンズ素材を合成樹脂とするとしたことを、1種は合成樹脂であり、他の1種はガラスであるとしたことを要旨とする。
【0089】
このような多焦点レンズ10の製造方法は、第4実施形態の図13〜図17に示す多焦点レンズ4の製造方法と同様のため説明を省略する。
【0090】
このような第10実施形態によれば、第4実施形態の作用効果を奏する他、以下のような効果を奏することができる。
2種類のレンズ素材のうち、少なくとも1種は合成樹脂であり、他の種はガラスである構成としたから、ガラスからなるレンズに、ガラスと比べて成形性の良好な合成樹脂を成形し接合されることにより、ガラスおよび合成樹脂からなる多焦点レンズを得ることから、屈折率の選択幅および熱膨張率が小さくおよび耐候性に優れたガラスの特性を維持し、かつ合成樹脂同等の成形性によりガラスだけでは成形困難な形状の多焦点レンズを得ることができる。
【0091】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
たとえば、前述の実施形態では1群2層構造の多焦点レンズおよび1群3層構造の多焦点レンズとしたが、1群4層以上の1群多層構造の多焦点レンズとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、例えば、CCDやCMOSなどの固体撮像素子を用いたカメラレンズモジュールに用いられる多焦点レンズの製造方法として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の第1実施形態に係る多焦点レンズの構成を示す図。
【図2】前記実施形態における第1レンズの成形工程(第1レンズ素材の載置)を示す図。
【図3】前記実施形態における第1レンズの成形工程(加熱プレス)を示す図。
【図4】前記実施形態における第2レンズの成形工程(第2レンズ素材の載置)を示す図。
【図5】前記実施形態における第2レンズの成形工程(加熱プレス)を示す図。
【図6】前記実施形態における第3レンズの成形工程(第3レンズ素材の載置)を示す図。
【図7】前記実施形態における第3レンズの成形工程(加熱プレス)を示す図。
【図8】本発明の第2実施形態における多焦点レンズの構成を示す図。
【図9】第2実施形態における第2レンズの成形工程(第2レンズ素材の載置)を示す図
【図10】本発明の第3実施形態における多焦点レンズの構成を示す図。
【図11】第3実施形態における第2レンズの成形工程(第2レンズ素材の載置)を示す図
【図12】本発明の第4実施形態にかかる多焦点レンズの構成を示す概略断面図。
【図13】レンズ素材を下金型の成形面に載置した状態を示す概略断面図である。
【図14】レンズ素材を下金型と上金型とでプレスした状態を示す概略断面図である。
【図15】第1レンズに第2レンズの素材を載置した状態を示す概略断面図である。
【図16】第2レンズの素材を下金型と上金型とでプレスした状態を示す概略断面図である。
【図17】多焦点レンズを金型から取り出す状態を示す概略断面図。
【図18】本発明の第5実施形態にかかる多焦点レンズ示し、(A)は概略断面図、(B)は平面図である。
【図19】レンズ素材を下金型の成形面に載置した状態を示す概略断面図である。
【図20】レンズ素材を下金型と上金型とでプレスした状態を示す概略断面図である。
【図21】第1レンズに第2レンズの素材を載置した状態を示す概略断面図である。
【図22】第2レンズの素材を下金型と上金型とでプレスした状態を示す概略断面図である。
【図23】本発明の第6実施形態にかかる多焦点レンズを示す概略断面図である。
【図24】本発明の第7実施形態にかかる多焦点レンズを示し、(A)は概略断面図、(B)は平面図である。
【図25】第1レンズに第2レンズの素材を載置した状態を示す概略断面図である。
【図26】本発明の第8実施形態にかかる多焦点レンズを示す概略断面図である。
【図27】(A)はレンズ素材を下金型の成形面に載置した状態を示す概略断面図であり、(B)は(A)の上金型の拡大断面図である。
【図28】(A)は下金型のと上金型とでプレスされた第1レンズの概略断面図であり、(B)は(A)の第1レンズの拡大断面図である。
【図29】(A)は第1レンズが形成された後に、上金型を外した状態を示す概略状態断面図であり、(B)は、(A)の概略平面図であり、C)は、A)に示す第1レンズを部分拡大した部分拡大断面図である
【図30】本発明の第9実施形態にかかる多焦点レンズを示す概略断面図である。
【図31】第1レンズの形成工程を示す概略断面図である。
【図32】第9実施形態の変形例を示す概略断面図である。
【図33】(A)は第9実施形態の変形例を示す概略断面図であり、(B)はその平面図である。
【図34】本発明の第9実施形態にかかる多焦点レンズを示す概略断面図である。
【図35】従来の多焦点レンズの構成を示す図
【符号の説明】
【0094】
1,2,3,4,5,6,7,8,9,10…多焦点レンズ、11,21,31,41,51,61,81,91…第1レンズ、11A,31A…凹部、21A…凹面、11’…第1レンズ素材、12,22,32,42,52,62,82,92…第2レンズ、13,23,33…第3レンズ、12’,22’,32’…第2レンズ素材、13’…第3レンズ素材、101,201,301…下金型、101A,102A…成形面、102,103,104,202,302…上金型、102A’…凸部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、多焦点レンズの製造方法および多焦点レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学部品としてのレンズは、眼鏡やカメラ等に広く用いられている。レンズとしては、焦点が一つだけの単焦点レンズと、複数の焦点を持つ多焦点レンズとに分けられる。
多焦点レンズとしては、図35(A)に示すように、光学面の一部に曲率の異なる領域を形成したレンズA、図35(B)示すように、レンズの光学面の一部に他のレンズを接着剤で接合したレンズB、あるいは、図35(C)に示すように、レンズの周辺部と中心部とで異なる素材を接合したレンズCのような構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、積層された単焦点レンズの製造方法としては、あらかじめ熱プレスされた第1レンズの凸面を金型の一部として用い、第2のレンズを熱プレスする製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−023809号公報(図1、図5、図6)
【特許文献2】特開2002−131511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、図35(A)、(B)に示すレンズA、Bは、光学面A1、B1に異なる曲率からなる面A2、B2が混在しているため、研磨加工が非常に困難である。さらに、図35(B)に示すレンズBでは、2種のレンズを接着剤で接合するために光軸を合わせることが非常に困難となる。図35(C)に示すレンズCでは、周辺部C1と中心部C2とからなる構造を形成するために複雑な工程を要しており、製造コストも非常に高いものとなる。
【0005】
また、これらの多焦点レンズは、多焦点設計の実現に主眼がおかれているため、レンズの光学特性(球面収差、透過波面収差、色収差等の各種収差)が劣ってしまう。単焦点レンズの場合は、レンズの光学性能を改善するための方策として、例えば、レンズ面を球面から非球面にしたり、レンズを1枚ではなく複数枚貼り合わせてマルチレンズ構成による光学系を成形した例もある。特に色収差を改善するためは、色消しレンズ(アクロマテックレンズ)と呼ばれる光学特性の異なる2枚のレンズを接着剤で貼り合わせたレンズが用いられることもある。多焦点レンズの場合も、単焦点レンズと同様、非球面の採用やレンズを複数枚貼り付けることができれば光学性能を向上させることができる。しかし多焦点レンズはレンズ面の設計形状が複雑であるため、複層化するためのレンズ同士の接合作業は非常に困難である。
一方、積層の単焦点レンズを熱プレスする特許文献2の製造方法では、最初に熱プレスされる第1のレンズの接合面は凸面に形成され、前記凸面の形状に合わせて一次加工(プリフォーム)された第2レンズ用素材を準備することが必要とされていた。一次加工の準備無しで積層構造のレンズを得ることができる製造方法が、製造コスト、複雑なレンズ面への適用、安定した品質のために必要であった。多焦点レンズの場合はレンズ面の設計形状がより複雑であるので、更に困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、光学特性に優れた多焦点レンズを簡易に得ることのできる製造方法および多焦点レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多焦点レンズは、ガラス屈伏点温度がAt1、At2、・・・、AtMであるM種(Mは2以上の整数)のレンズ素材を用い、加熱プレス法により前記レンズの賦形が行われた、1群M層のレンズであり、第N−1レンズ(ただし、Nは2以上M以下の任意の整数)の第Nレンズに接する接合面は凹面であり、第Nレンズの第N−1レンズに接する接合面は凸面で構成され、かつ、前記ガラス屈伏点温度は、AtN-1>AtNの関係を有していることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、第N−1レンズのガラス屈伏点温度AtN-1が第Nレンズのガラス屈伏点温度AtNよりも高いので、第Nレンズを熱プレスする時に第N−1レンズの接合面を成形型の一部として用いることができる。第N−1レンズの接合面を凹面にした場合、第N−1レンズの接合面付近で熱変形される流動状態の第Nレンズ素材の表面には圧縮応力が加わる。逆に、第N−1レンズの接合面を凸面にした場合、第N−1レンズの接合面付近で熱変形される流動状態の第Nレンズ素材の表面には引っ張り応力が加わる。本発明の多焦点レンズは、第Nレンズ素材の凸面の中心方向に圧縮応力が加わることから、引っ張り応力が加わる場合に比べて、第Nレンズと第N−1レンズとの界面の接合に影響が少なくなり、光学特性に優れ、さらに、界面にクラックまたは剥離などの破損が発生することを低減することができる。
よって、上述のような多焦点レンズの形状にすれば、第Nレンズ素材は熱プレス前の表面形状が概ね凸面である米粒状のゴブ材を、ゴブ材に接する第N−1レンズの接合面の凹面に、プリフォーム加工無しで第Nレンズを接合することができる。このため、従来技術では、ゴブ材から一次加工としてプリフォーム加工(例えば、熱プレス加工、研削加工など)をしなくてはいけなかったが、本発明の多焦点レンズは、安定した光学特性と、クラックや剥離の少ない接合とを得られ、熱プレス加工された多焦点レンズの製造コストも安価にできる。
【0009】
本発明の多焦点レンズの製造方法は、ガラス屈伏点温度がAt1、At2である2種のレンズ素材を用い、加熱プレス法により前記レンズの賦形を行う、1群2層構成の多焦点レンズの製造方法であって、ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ素材を賦形して第1レンズを成形後、前記第1レンズを成形型の一部として、ガラス屈伏点温度がAt2(At1>At2)である第2レンズ素材を賦形して第2レンズを成形すると同時に、前記第1レンズの第2レンズに接する接合面を凹面とし、第2レンズの第1レンズに接する接合面を凸面とし、前記第2レンズを前記第1レンズに接合することを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、第1レンズを成形型から外すことなく成形型の一部として用いることにより、第1レンズの凹部に第2レンズ素材を配置し賦形を行うことから、第1レンズと第2レンズとの位置合せを正確に行うことができる。そのため、位置合わせが正確に行えることから、多焦点レンズを簡易に製造することができる。
また前記の製造方法による位置合わせは、多焦点レンズに適用を限定するものではなく、単焦点レンズに対しても適用することができる。
【0011】
本発明の多焦点レンズの製造方法は、ガラス屈伏点温度がAt1、At2およびAt3である3種のレンズ素材を用い、加熱プレス法により前記レンズ素材の賦形を行う、1群3層構成の多焦点レンズの製造方法であって、前記ガラス屈伏点温度は、At1>At2>At3の関係を有し、ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ素材を賦形して第1レンズを成形後、前記第1レンズを成形型の一部として、ガラス屈伏点温度がAt2である第2レンズ素材を賦形して第2レンズを成形すると同時に、前記第2レンズを前記第1レンズに接合し、次に、前記第1レンズおよび前記第2レンズを成形型の一部として、ガラス屈伏点温度がAt3である第3レンズ素材を賦形して第3レンズを成形すると同時に
、前記第3レンズを前記第1レンズおよび前記第2レンズに接合することを特徴とする。
【0012】
ここで、ガラス屈伏点温度(At)とは、ガラスを加熱していったときに、熱膨張が止まって収縮を開始するときの温度を意味し、ガラス転移温度(Tg)よりも高温である。レンズ等のガラス製品をレンズ素材(硝材)から成形する場合には、このガラス屈伏点温度付近で加熱プレス法によりレンズ素材の賦形を行うことが一般的である。
本発明によれば、ガラス屈伏点温度がAt1>At2>At3の関係を有する3種のレンズ素材(硝材)を用い、しかも、ガラス屈伏点の高いレンズ素材を先に賦形し、成形されたレンズ自体を成形型の一部として用いることを繰り返すため、レンズ素材間の接合を行う際に接着剤を用いる必要がなく、各レンズ素材が確実に接合された多焦点レンズを簡便に製造できる。また、接着剤を用いないことから、良好な光学特性を発現することができる。
【0013】
本発明では、前記第1レンズの上面に、一つ以上の凹部を形成し、次に、前記凹部に前記第2レンズ素材を載置することが好ましい。
この発明によれば、成形後の第1レンズの上部には凹部が形成されているので、第2レンズの形状によらず安定して載置できる。また、中間レンズとなる第2レンズの大きさや配置を自由に設定することができ、従来は製造が困難であった多焦点レンズの設計かつ製造を容易かつ高品質に実現することができる。
【0014】
本発明では、前記第1レンズの前記凹部を除く上面を凹面として形成するとともに、前記第2レンズの上面を、前記第1レンズの凹部と連続的な曲面になるように形成し、前記第1レンズの凹部と前記第2レンズの凹部とから形成された連続的な曲面の上面に前記第3レンズ素材を載置することが好ましい。
【0015】
この発明によれば、第1レンズと第2レンズによって連続的な曲面の状態で形成された上面が上方を向いているので、この曲面に第3レンズ素材を安定して載置することができる。そのため、第3レンズ素材の形状によらず、加熱プレス法による賦形により第3レンズを簡便かつ確実に所定の形状として得ることができる。
【0016】
前記したようなプレス成形においては、例えば、第1レンズおよび第3レンズの径を略等しく、第2レンズの径はこれらの径よりも小さくなるように、前記3種のレンズ素材を賦形するとともに、第1レンズおよび第3レンズの光軸を一致させることで、3つの異なる特性を持ったレンズを組み合わせた光学性能に優れた多焦点レンズを容易に得ることができる。また、本発明では、第1レンズ、第2レンズおよび第3レンズの光軸を一致させてもよい。
【0017】
本発明では、前記多焦点レンズの外周部が、段差形状のレンズ被取付部に位置決めできるように、少なくとも2つの異なる径を有する基準面を形成し、前記第2レンズの径は前記第1レンズの径と前記第3レンズの径とのいずれよりも小さくなるように、前記3種のレンズ素材を賦形するとともに、前記第1レンズおよび前記第3レンズの光軸を一致させることが好ましい。
【0018】
この発明によれば、多焦点レンズの外周部に基準面を形成することから、段差形状のレンズ被取付部に位置決めされることにより、多焦点レンズをレンズ被取付部に正確に配置し多焦点レンズの倒れ量または偏芯量を低減することができる。
【0019】
さらに、本発明では、第1レンズおよび第3レンズの径は略等しく、第2レンズの形状をドーナツ状とするとともにその外径を第1レンズおよび第3レンズの径よりも小さくなるように、前記3種のレンズ素材を賦形するとともに、第1レンズ、第2レンズおよび第3レンズの光軸を一致させてもよい。
【0020】
本発明では、第1レンズ素材のガラス転移温度はTg1であり、第2レンズ素材のガラス転移温度はTg2であり、第3レンズ素材のガラス転移温度はTg3であって、前記各ガラス転移温度は、Tg1>Tg2>Tg3の関係を有するとともに、さらに、Tg1>At2、および、Tg2>At3の関係を有することが好ましい。
この発明によれば、3種のレンズ素材は、ガラス転移温度がTg1>Tg2>Tg3の関係を有するとともに、さらに、Tg1>At2、および、Tg2>At3の関係を有しているので、第1レンズに対して第2レンズ素材を加熱プレス法により賦形して接合する際、さらに、第1レンズと第2レンズに対して第3レンズ素材を加熱プレス法により賦形
して接合する際に、成形型となる第1レンズや第2レンズが変形することなく、接着剤なしで容易にレンズ同士を接合することが可能となる。
【0021】
本発明の多焦点レンズの製造方法は、ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ素材を賦形して第2レンズに接する第1レンズの接合面の凹面とともに、前記凹部の同心円上に位置決め用の起伏部を形成して第1レンズを成形し、前記位置決め用の起伏部により囲まれた前記凹部にガラス屈伏点温度がAt2である前記第2レンズ素材を配置して賦形して第2レンズを成形すると同時に、前記第2レンズを前記第1レンズに接合することが好ましい。
【0022】
この発明によれば、第1レンズの接合面の凹面の同心円上に位置決め用の起伏部を形成することから、第2レンズ素材を第1レンズに対して位置決めされることより、第1レンズに対して第2レンズを精度良く位置決めすることができる。
【0023】
本発明の多焦点レンズの製造方法は、前記多焦点レンズの外周部が、レンズ被取付部に位置決めできるように、切り欠き状の基準面を形成することが好ましい。
【0024】
この発明によれば、多焦点レンズの外周部に基準面を形成することから、段差形状のレンズ被取付部に位置決めされることにより、多焦点レンズをレンズ被取付部に正確に配置し多焦点レンズの倒れ量または偏芯量を低減することができる。
【0025】
本発明の多焦点レンズは、前記した製造方法により製造されたことを特徴とする。
それ故、本発明の多焦点レンズは、各レンズ素材が所定の形状となって、かつ確実に所定の配置で接合されており、良好な光学特性(球面収差、透過波面収差、色収差等の各種収差等)を発現することができる。
【0026】
本発明の多焦点レンズは、前記M種のレンズ素材のうち、少なくとも1種は合成樹脂であり、他の少なくとも1種はガラスであることが好ましい。
【0027】
この発明によれば、ガラスからなるレンズに、ガラスと比べて成形性の良好な合成樹脂を成形し接合されることにより、ガラスおよび合成樹脂からなる多焦点レンズを得ることから、屈折率の選択幅および熱膨張率が小さくおよび耐候性に優れたガラスの特性を維持し、かつ合成樹脂同等の成形性によりガラスだけでは成形困難な形状の多焦点レンズを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。ここで、各実施形態の説明において、同一符号を付した部材の説明を省略もしくは簡略にする。
(第1実施形態)
【0029】
図1から図7には本発明の第1実施形態が示されている。第1実施形態は、1群3層構成の多焦点レンズ1である。
図1には、第1実施形態の多焦点レンズ1が示されている。この多焦点レンズ1は、図1(A)の断面図に示すように、凸面側より、ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ11(以下、単に「レンズ11」ともいう)、ガラス屈伏点温度がAt2である第2レンズ12(以下、単に「レンズ12」ともいう)、および、ガラス屈伏点温度がAt3である第3レンズ13(以下、単に「レンズ13」ともいう)を積層した構造となっている。ここで、前記したガラス屈伏点温度は、At1>At2>At3の関係を有している。さらにこれら各レンズのガラス転移温度は、Tg1>Tg2>Tg3の関係を有するとともに、Tg1>At2、および、Tg2>At3の関係を有している。
また、図1(B)の上面図からもわかるように、レンズ11とレンズ13の外径は等しく、これらの外径よりもレンズ12の外径は小さくなっている。さらにこれら3つのレンズ11、12、13の光軸Lは一致している。
ここで、本実施形態で用いた各レンズ11、12、13を成形するレンズ素材(硝材)についての基本仕様を表1に示す。いずれも、株式会社オハラ製の光学レンズ用グレードである。
【0030】
【表1】
【0031】
このような多焦点レンズ1の製造方法を以下に説明する。
(レンズ11の成形工程)
図2は、ガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が最も高いレンズ素材11’を下金型101の成形面101Aに載置した状態を示す概略断面図である。
レンズ素材11’は、レンズ11の設計上の体積と同一にしたプリフォーム硝材として予め製作しておく。レンズ素材11’の形状は、球状、回転楕円形状、あるいは成形後のレンズ形状に近いメニスカス形状等とすることができる。
【0032】
ここで上金型102の成形面102Aは下に凸状となっているが、その略中央部にはさらに下側に凸状となった凸部102A’を成形している。この凸部102A’は、後述するレンズ12が接合される凹部をレンズ11の上面に形成するためのものである。
図3に示すように、レンズ素材11’を下金型101の成形面101Aに載置した後、下金型101、上金型102およびレンズ素材11’を成形温度Tp1まで加熱し、下金型101と上金型102を閉じてレンズ11を成形する。成形温度Tp1はTg1より高い温度であり、屈伏点温度At1前後の温度を適宜選択する。なお、図3では、レンズ11の側面を成形する金型は省略している。また、この省略している金型は、上金型102と一体化していてもよい。
【0033】
(レンズ12の成形工程)
レンズ11の成形が終了し、下金型101、上金型102およびレンズ11を常温付近まで冷却した後、上金型102を取り外し、新たにレンズ12成形用の上金型103を配置する(図4)。
図4に示すように、レンズ11は、上面に凹面11Aが成形されているとともに、その略中央部には、前記した上金型102の凸部102A’により成形された小さな凹部11A’が一つ成形されている。この凹部11A’は、凹面11Aよりも曲率半径が小さい。
【0034】
次に、この凹部11A’の上面にレンズ素材12’を載置する。レンズ素材12’は、レンズ12設計上の体積と同一になるようなプリフォーム形状に予め製作しておく。このプリフォーム形状は、球状、回転楕円形状、或いは成形後のレンズ形状に近いメニスカス形状等とするが、本実施形態では、レンズ11の上部略中央に成形された凹面11Aの曲率半径よりも曲率半径の小さい回転楕円形状としている。このような形状であると、レンズ素材12’の位置決めがより容易となる。
【0035】
そして、図5に示すように、上金型103により、成形温度Tp2で成形し、レンズ12を成形する。成形温度Tp2は、Tg2より高い温度で、屈伏点温度At2前後の温度を適宜選択する。なお、図5では、レンズ11の側面を成形する金型は省略している。また、この省略している金型は、上金型103と一体化していてもよい。
ここで、レンズ12とレンズ11はガラス同士の化学反応で融着される。またレンズ11(レンズ素材11’)は、レンズ12(レンズ素材12’)に比べて、ガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が高く、しかもTg1>At2の関係を有するめに、レンズ11自身は変形しない。
【0036】
(レンズ13の成形工程)
レンズ12の成形が終了し、下金型101、上金型103およびレンズ12を常温付近まで冷却した後、上金型103を取り外す。
次に、図6に示すように、レンズ11、12の上面(凹面)に、レンズ素材13’を載置する。レンズ素材13’は、レンズ13設計上の体積と同一になるようなプリフォーム形状に予め製作しておく。このプリフォーム形状は、球状、回転楕円形状、或いは成形後のレンズ形状に近いメニスカス形状等とすることが好ましいが、本実施形態では、レンズ11、12の上面(凹面)の曲率半径よりも曲率半径の小さい回転楕円形状としている。このような形状であると、レンズ素材13’の位置決めがより容易となる。
【0037】
次に、図7に示すように上金型104により、成形温度Tp3で成形し、レンズ13を成形する。成形温度Tp3は、Tg3より高い温度で、屈伏点温度At3前後の温度を適宜選択する。なお、図6では、レンズ11およびレンズ13の側面を成形する金型は省略している。また、この省略している金型は、上金型104と一体化していてもよい。
ここで、レンズ11、レンズ12およびレンズ13はガラス同士の化学反応で融着される。またレンズ11、レンズ12はレンズ13(レンズ素材13’)よりもガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が高く、しかもTg2>At3の関係を有するために、レンズ11自体およびレンズ12自体は変形しない。
【0038】
前記した各工程を経て、1群3層構成の多焦点レンズ1が製造される(図1)。このような第1実施形態によれば以下のような効果を奏することができる。
(1)第1実施形態の多焦点レンズ1は、ガラス屈伏点温度がAt1、At2、At3である3種のレンズ素材を用い、加熱プレス法によりレンズの賦形が行われた1群3層のレンズであり、第1レンズ11の第2レンズ12に接する接合面は凹面であり、第2レンズ12の第1レンズ11に接する接合面は凸面で構成され、かつ、ガラス屈伏点温度は、At1>At2の関係を有している。そして同様に、第2レンズ12の第3レンズ13に接する接合面は凹面であり、第3レンズ13の第2レンズ12に接する接合面は凸面で構成され、かつ、ガラス屈伏点温度は、At2>At3の関係を有している。そのため、第1レンズ11のガラス屈伏点温度At1が第2レンズ12のガラス屈伏点温度At2よりも高いので、第2レンズ12を熱プレスする時に第1レンズ11の接合面を成形型の一部として用いることができる。そして同様に、第2レンズ12のガラス屈伏点温度At2が第3レンズ13のガラス屈伏点温度At3よりも高いので、第3レンズ13を熱プレスする時に第2レンズ12の接合面を成形型の一部として用いることができる。第1レンズ11の接合面を凹面にした場合、第1レンズ11の接合面付近で熱変形される流動状態の第2レンズ素材12’の表面には圧縮応力が加わる。逆に、第1レンズの接合面を凸面にした場合、第1レンズの接合面付近で熱変形される流動状態の第2レンズ素材の表面には引っ張り応力が加わる。多焦点レンズ1は、第2レンズ素材12’および 第3レンズ素材13’の凸面の中心方向に圧縮応力が加わることから、引っ張り応力が加わる場合に比べて、第2レンズと第1レンズとの界面、および第3レンズと第2レンズとの界面の接合に影響が少なくなり、光学特性に優れ、さらに、界面にクラックまたは剥離などの破損が発生することを低減することができる。
多焦点レンズ1を上述の形状にすれば、第2レンズ素材12’は熱プレス前の表面形状が概ね凸面である米粒状のゴブ材を、ゴブ材に接する第1レンズ11の接合面の凹面に、プリフォーム加工無しで第2レンズ12を接合することができる。そして同様に、第3レンズ素材13’は熱プレス前の表面形状が概ね凸面である米粒状のゴブ材を、ゴブ材に接する第1レンズ12の接合面の凹面に、プリフォーム加工無しで第3レンズ13を接合することができる。このため、従来技術では、ゴブ材から一次加工としてプリフォーム加工、例えば、熱プレス加工、研削加工などをしなくてはいけなかったが、安定した光学特性と、クラックや剥離の少ない接合とを得られ、熱プレス加工された多焦点レンズの製造コストも安価にできる。
【0039】
(2)3種のレンズ11、12、13を加熱プレス法で物理的・化学的に接合するので、接着剤を用いることなく1群3層構成の多焦点レンズ1を簡便に製造することができる。また、接着剤を用いないので、多焦点レンズ1の光学特性に悪影響を与えることもない。
【0040】
(3)3種のレンズ素材は、ガラス屈伏点温度は、At1>At2>At3の関係を有し、さらにこれら各レンズのガラス転移温度は、Tg1>Tg2>Tg3の関係を有するとともに、Tg1>At2、および、Tg2>At3の関係を有しているので、レンズ11に対してレンズ素材12’を加熱プレス法により賦形して接合する際、さらに、レンズ11とレンズ12に対してレンズ素材13’を加熱プレス法により賦形して接合する際に、レンズ11やレンズ12が変形することなく、接着剤がなくとも容易にレンズ同士を接合することが可能となる。すなわち、レンズ11自体やレンズ12自体を安定な成形型として利用できる。
【0041】
(4)レンズ11の上面略中央には、凹部11A’が成形され、この凹部11A’にレンズ素材12’を載置するので、レンズ素材12’の形状によらず安定して載置できる。それ故、中間レンズとなるレンズ2の大きさや配置を自由に設定することができ、種々の中間レンズ形状を持った多焦点レンズを容易かつ簡易に製造することができる。また、レンズ11とレンズ12の光軸合わせも容易である。
【0042】
(5)レンズ11の凹部11A’を除く上面を凹面として成形するとともに、レンズ12の上面を、レンズ11の凹面と連続的な曲面になるように成形し、レンズ11の凹面とレンズ12の上面とから成形された連続的な曲面の上面にレンズ素材13’を載置するのでレンズ素材13’の形状によらず安定して載置できる。レンズ11、レンズ12およびレンズ13の光軸合わせも容易である。それ故、成形された多焦点レンズ1に偏芯を生ずることがなく、良好な光学特性(例えば、透過波面収差特性)を発現できる。
【0043】
(6)1群3層の多焦点レンズ1は、中間レンズであるレンズ12が完全に内部に位置しており、多焦点レンズ1の外表面の曲率を変化させることはない。それ故、必要に応じて研磨加工を容易に行うことができる。
【0044】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を図8,9に基づいて説明する。第2実施形態は第1実施形態とは中間に位置するレンズの数および配置が異なるもので、他の構成は第1実施形態と同じである。
図8(A)(B)に示される通り、第2実施形態の1群3層構成の多焦点レンズ2は、レンズ21、レンズ22、レンズ23の3層から構成されるが、中間に位置するレンズ22は、レンズ21、23の光軸からずれた位置に配置されている。図8(B)に示すように、この実施形態では、光軸を中心とした同心円上に4個のレンズ22が並んで配置されているが、レンズ22は必ずしも同心円上にある必要はなく、多焦点レンズ2の光学特性に応じて任意な位置に、任意の個数だけ配置することが可能である。
【0045】
このような多焦点レンズ2も、第1実施形態と同様にして製造することができる。
具体的には、図9に示すように、第1実施形態と同様に、ガラス屈伏点温度およびガラス転移温度の最も高いレンズ21から成形する。この時レンズ21には、レンズ22が位置する箇所に凹部21Aを形成し、さらに凹部21Aが上向きになるように金型の姿勢を制御する。この凹部21Aの上面にレンズ素材22’を載置した後、上金型202によりレンズ22を成形する。さらに同様にレンズ23を成形する。他の製造条件は前記第1実施形態と同様である。
【0046】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態を図10,11に基づいて説明する。第3実施形態は第1実施形態とは中間に位置するレンズの形状が異なるもので、他の構成は第1実施形態と同じである。
図10に示す第3実施形態の多焦点レンズ3では、中間に位置するレンズ32が中心部のないドーナツ状をしている。このような多焦点レンズ3も前記した製法と同様にして製造することができる。
具体的には、図11に示すように、ガラス屈伏点温度が最も高い第1レンズ31から成形する。第1レンズ31は、第2レンズ32の配置場所に相当する箇所に凹部31Aが成形されており、さらにこの凹部31Aが上向きになるように下金型301の姿勢を制御する。
第2レンズ素材32’は、図11(B)に示すように中心部のないドーナツ状の円板である。それ故、上金型302による加熱プレス後の第2レンズ32もドーナツ状となる。
他の製造条件は前記第1実施形態と同様である。最終的に、図10に示す1群3層構成の多焦点レンズ3となる。
【0047】
なお、第1実施形態から第3実施形態の各レンズはいずれも円形であったが、円形である必要はなく、例えば矩形でもよい。また、多焦点レンズの片側あるいは両側には、必要に応じて他のレンズを貼り合わせてもよい。また、多焦点レンズの表面には、適当なハードコート膜や反射防止膜を形成してもよい。特に、本発明の多焦点レンズは、外表面の曲率を一様に設定できるので、前記したような貼り合わせ工程や膜形成工程において有利である。
また、第1レンズ、第2レンズ、第3レンズの形状は、球面形状のみならず、非球面形状となった場合にも、同様の製造方式で、簡易に、製造することができる。
【0048】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態を図12に基づいて説明する。第4実施形態は1群2層のレンズ構成である。
図12は、第4実施形態の1群2層構造の多焦点レンズ4の構成を示す概略断面図である。
【0049】
図12に示すように、1群2層構造の多焦点レンズ4は、凸面側より、ガラス屈伏点温度At1である第1レンズ41(以下、単に「レンズ41」ともいう)、およびガラス屈伏点温度がAt2である第2レンズ42(以下、単に「レンズ42」ともいう)を積層した構造となっている。ここで、前記したガラス屈伏点温度は、At1>At2の関係を有している。さらにこれら各レンズのガラス転移温度は、Tg1>Tg2の関係を有するとともに、Tg1>At2の関係を有している。
また、図12からわかるように、レンズ41とレンズ42の外形は等しくなっている。さらにこれら2つのレンズ41,42の光軸Lは一致している。
ここで、本実施形態で用いた各レンズ41,42を形成するレンズ素材(硝材)は種々考えられるが、例えば、第1実施形態の表1で示されるレンズ11が第1レンズ41と同じであり、表1で示されるレンズ13が第2レンズ42と同じである構成としてもよい。
【0050】
このような多焦点レンズ4の製造方法を図13〜図17に基づいて以下に説明する。
(レンズ41の成形工程)
図13は、ガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が高い方のレンズ素材41’を下金型401の成形面401Aに載置した状態を示す概略断面図である。
レンズ素材41’は、レンズ41の設計上の体積と同一にしたプリフォーム硝材として予め製作しておく。レンズ素材41’の形状は、球状、回転楕円形状、あるいは成形後のレンズ形状に近いメニスカス形状等とすることができる。
ここで上金型402の成形面402Aは下に凸状となっている。
【0051】
図14に示すように、レンズ素材41’を下金型401の成形面401Aに載置した後、下金型401、上金型402およびレンズ素材41’を成形温度Tp1まで加熱し、下金型401と上金型402を閉じてレンズ41を形成する。成形温度はTp1より高い温度であり、屈伏点At1前後の温度を適宜選択する。なお、図14では、レンズ41の側面を成形する金型は省略している。また、この省略している金型は、上金型402と一体化していてもよい。
【0052】
(レンズ42の成形工程)
レンズ41の成形が終了し、下金型401、上金型402およびレンズ41を常温付近まで冷却した後、上金型402を取り外し、新たにレンズ42成型用の上金型403を配置する(図15)。
図15に示すように、レンズ41は、上面に凹面41Aが成形されている。レンズ41の凹面41Aにレンズ素材42’を載置する。レンズ素材42’は、レンズ42の設計上の体積と同一になるようなプリフォーム形状に予め製作しておく。このプリフォーム形状は、球状、回転楕円形状、あるいは成形後のレンズ形状に近いメニスカス形状等とすることが好ましいが、本実施形態では、レンズ41の凹面41Aの曲率半径よりも曲率半径の小さい回転楕円形状としている。このような形状であると、レンズ素材42’の位置決めがより容易となる。
【0053】
次に、図16に示すように上金型403により、成形温度Tp2で成形し、レンズ42を形成する。成形温度Tp2は、Tg2より高い温度で、屈伏点温度At2前後の温度を適宜選択する。なお、図16では、レンズ41およびレンズ42の側面を成形する金型は省略している。また、この省略している金型は、上金型403と一体化していてもよい。
ここで、レンズ41およびレンズ42はガラス同士の化学反応で融着される。またレンズ41はレンズ42よりもガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が高く、しかもTg1>At2の関係を有するために、レンズ41自体は変形しない。
【0054】
レンズ42の成形が終了し、下金型401、上金型403およびレンズ42を常温付近まで冷却した後、上金型403を取り外す。そして、下金型401から、レンズ41およびレンズ42を積層した1群2層構成の多焦点レンズ4を取り出す(図17)。
【0055】
前記した各工程を経て、図12に示す1群2層構成の多焦点レンズ4が製造される。このような本実施形態によれば以下のような効果を奏することができる。
第4実施形態の多焦点レンズ4は、ガラス屈伏点温度がAt1、At2である2種のレンズ素材を用い、加熱プレス法によりレンズの賦形が行われた1群2層のレンズであり、第1レンズ41の第2レンズ42に接する接合面は凹面であり、第2レンズ42の第1レンズ41に接する接合面は凸面で構成され、かつ、ガラス屈伏点温度は、At1>At2の関係を有している。そのため、第1レンズ41のガラス屈伏点温度At1が第2レンズ42のガラス屈伏点温度At2よりも高いので、第2レンズ42を熱プレスする時に第1レンズ41の接合面を成形型の一部として用いることができる。第1レンズ41の接合面を凹面にした場合、第1レンズの接合面付近で熱変形される流動状態の第2レンズ素材42’の表面には圧縮応力が加わる。逆に第1レンズの接合面を凸面にした場合、第1レンズの接合面付近で熱変形される流動状態の第2レンズ素材の表面には引っ張り応力が加わる。多焦点レンズ4は、第2レンズ素材42’の凸面の中心方向に圧縮応力が加わることから、引っ張り応力が加わる場合に比べて、第2レンズと第1レンズとの界面の接合に影響が少なくなり、光学特性に優れ、さらに、界面にクラックまたは剥離などの破損が発生することを低減することができる。
多焦点レンズ4を前述の形状にすれば、第2レンズ素材42’は熱プレス前の表面形状が概ね凸面である米粒状のゴブ材を、ゴブ材に接する第1レンズの接合面の凹面に、プリフォーム加工無しで第2レンズを接合することができる。このため、従来技術では、ゴブ材から一次加工としてプリフォーム加工(例えば、熱プレス加工、研削加工など)をしなくてはいけなかったが、安定した光学特性と、クラックや剥離の少ない接合とを得られ、熱プレス加工された多焦点レンズの製造コストも安価にできる。
【0056】
しかも、ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ素材を賦形して第1レンズ41を成形後、この第1レンズ41自体を成形型の一部として、ガラス屈伏点温度がAt2(At1>At2)である第2レンズ素材を賦形して第2レンズ42を成形すると同時に、第1レンズ41の第2レンズ42に接する接合面を凹面とし、第2レンズの第1レンズに接する接合面を凸面とし、第2レンズ42を第1レンズ41に接合して多焦点レンズ4を製造した。そのため、第1レンズ41を成形型から外すことなく成形型の一部として用いることにより、第1レンズ41の凹部に第2レンズ素材を配置し賦形を行うことから、第1レンズ41と第2レンズ42との位置合せを正確に行うことができ、多焦点レンズ4を簡易に製造することができる。
また本実施形態の多焦点レンズ4の製造方法による位置合わせは、多焦点レンズに適用を限定するものではなく、単焦点レンズに対しても適用することができる。
【0057】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態を図18〜22に基づいて説明する。第5実施形態は第4実施形態に比べて第1レンズの形状が異なるものであり、他の構成は第4実施形態と同じである。
図18は、第5実施形態の1群2層構成の多焦点レンズ5の構成を示す概略断面図である。
【0058】
図18に示すように、1群2層構成の多焦点レンズ5は、凸面側より、ガラス屈伏点温度At1である第1レンズ51(以下、単に「レンズ51」ともいう)、およびガラス屈伏点温度がAt2である第2レンズ52(以下、単に「レンズ52」ともいう)を積層した構造となっている。ここで、前記したガラス屈伏点温度は、At1>At2の関係を有している。さらにこれら各レンズのガラス転移温度は、Tg1>Tg2の関係を有するとともに、Tg1>At2の関係を有している。
また、図18からわかるように、レンズ51の外形はレンズ52の外形より小さく形成されている。さらにこれら2つのレンズ51,52の光軸Lは一致している。
ここで、本実施形態で用いた第1レンズ51を形成するレンズ素材(硝材)は第4実施形態の第1レンズ41と同じであり、第2レンズ52を形成するレンズ素材(硝材)は第4実施形態の第2レンズ42と同じである。
【0059】
このような多焦点レンズ5の製造方法を図19〜図22に基づいて以下に説明する。
(レンズ51の成形工程)
図19は、ガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が高い方のレンズ素材51’を下金型501の成形面501Aに載置した状態を示す概略断面図である。
レンズ素材51’は、レンズ51の設計上の体積と同一にしたプリフォーム硝材として予め製作しておく。レンズ素材51’の形状は、球状、回転楕円形状、あるいは成形後のレンズ形状に近いメニスカス形状等とすることができる。
ここで上金型502の成形面502Aは下に凸状となっている。そして、下金型501の成形面501Aの略中央部には、さらに下側に凹部501A’を形成している。
【0060】
図20に示すように、レンズ素材51’を下金型501の成形面501Aに載置した後、下金型501、上金型502およびレンズ素材51’を成形温度Tp1まで加熱し、下金型501と上金型502を閉じてレンズ51を形成する。成形温度はTp1より高い温度であり、屈伏点At1前後の温度を適宜選択する。
【0061】
(レンズ52の成形工程)
レンズ51の成形が終了し、下金型501、上金型502およびレンズ51を常温付近まで冷却した後、上金型502を取り外し、新たにレンズ52成型用の上金型503を配置する(図21)。
図21に示すように、レンズ51は、上面に凹面51Aが成形されている。レンズ51の凹面51Aに、またはレンズ51の凹面51Aおよび下金型501の成形面501Aに、レンズ素材52’を載置する。レンズ素材52’は、レンズ52の設計上の体積と同一になるようなプリフォーム形状に予め製作しておく。このプリフォーム形状は、球状、回転楕円形状、あるいは成形後のレンズ形状に近いメニスカス形状等とすることが好ましいが、本実施例では、レンズ51と下金型501の成形面501Aの凹面51Aとのいずれの曲率半径よりも曲率半径の小さい回転楕円形状としている。このような形状であると、レンズ素材52’の位置決めがより容易となる。
【0062】
次に、図22に示すように上金型503により、成形温度Tp2で成形し、レンズ42を形成する。成形温度Tp2は、Tg2より高い温度で、屈伏点温度At2前後の温度を適宜選択する。なお、図22では、レンズ51およびレンズ52の側面を成形する金型は省略している。また、この省略している金型は、上型503と一体化していてもよい。
ここで、レンズ51およびレンズ52はガラス同士の化学反応で融着される。またレンズ51はレンズ52よりもガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が高く、しかもTg1>At2の関係を有するために、レンズ51自体は変形しない。
【0063】
レンズ52の成形が終了し、下金型501、上金型503およびレンズ52を常温付近まで冷却した後、上金型503を取り外す。そして、下金型501から、レンズ51およびレンズ52を積層した1群2層構成の多焦点レンズ5を取り出す。
【0064】
前記した各工程を経て、図18に示す1群2層構成の多焦点レンズ5が製造される。このような第5実施形態によれば第4実施形態と同じ作用効果を奏する他、レンズ51をレンズ52上の任意の場所へ、任意の個数を自在に配置することができるため、レンズ設計の自由度を大幅に拡げることができる。
【0065】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態を図23に基づいて説明する。第5実施形態は第1実施形態に比べて各レンズの形状が異なるものであり、他の構成は第1実施形態と同じである。
図23は、第6実施形態の1群3層構成の多焦点レンズ6の構成を示す概略断面図である。
図23に示すように、多焦点レンズ6は、図中上方の平面側より、ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ61(以下、単に「レンズ61」ともいう)、ガラス屈伏点温度がAt2である第2レンズ62(以下、単に「レンズ62」ともいう)、および、ガラス屈伏点温度がAt3である第3レンズ63(以下、単に「レンズ63」ともいう)を積層した構造となっている。ここで、前記したガラス屈伏点温度は、At1>At2>At3の関係を有している。さらにこれら各レンズのガラス転移温度は、Tg1>Tg2>Tg3の関係を有するとともに、Tg1>At2、および、Tg2>At3の関係を有している。
また、図23からもわかるように、レンズ61とレンズ62とレンズ63との外径は等しくなっている。さらにこれら3つのレンズ61,62,63の光軸Lは一致している。
第1レンズ61は凸レンズであり、第2レンズ62および第3レンズ63はそれぞれ第1レンズ61の外径寸法とほぼ等しい。
ここで、本実施形態で用いる各レンズ61,62,63を成形するレンズ素材(硝材)についての基本仕様は、第1実施形態において表1に示した、各レンズ11,12,13とそれぞれ同様の仕様であり、いずれも、株式会社オハラ製の光学レンズ用グレードである。
【0066】
このような多焦点レンズ6の製造方法は、第1実施形態の多焦点レンズ1の製造方法に示したレンズ11の成形工程、レンズ12の成形工程、およびレンズ13の成形工程において、それぞれレンズ11、レンズ12、およびレンズ13を形成するとしたことを、レンズ61、レンズ62、およびレンズ63を形成するとしたことを要旨とし、多焦点レンズ1の製造方法と同様のため説明を省略する。
【0067】
前述の第1実施形態の各工程を経て、図6に示す1群3層構成の多焦点レンズ6が製造される。
このような第6実施形態によれば第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0068】
(第7実施形態)
次に、本発明の第7実施形態を図24および図25に基づいて説明する。
第5実施形態は第1実施形態に比べて中間のレンズの構成が異なるものであり、他の構成は第1実施形態と同じである。
図24は、第7実施形態の1群3層構成の多焦点レンズ7の構成を示す概略断面図である。
図24に示すように、多焦点レンズ7は、凸面側より、第1レンズ34(以下、単に「レンズ34」ともいう)、第2レンズ35(以下、単に「レンズ35」ともいう)、および第3レンズ36(以下、単に「レンズ36」ともいう)を積層した構造となっている。
また、図24からもわかるように、レンズ34とレンズ35とレンズ36との外径は等しくなっている。そして、レンズ35はレンズ35A,35Bからなる。そして、レンズ35A,35Bは中心部のないドーナツ状をしている。35A,35Bは、同心円状に形成され、互いに交わらず、間隔を有して形成されている。さらにこれら3つのレンズ34、35、36の光軸Lは一致している。
ここで、本実施形態で用いる各レンズ34、35、36を成形するレンズ素材(硝材)についての基本仕様は、第1実施形態において表1に示した、各レンズ11,12,13とそれぞれ同様の仕様であり、いずれも、株式会社オハラ製の光学レンズ用グレードである。
【0069】
このような多焦点レンズ7の製造方法を図25に基づいて以下に説明する。
(レンズ34の成形工程)
まず、レンズ34を成形する。レンズ34は、凹面34Cに凹部34Aおよび凹部34Bが成形されている。なお、レンズ34の形成工程は、第1実施形態で示したレンズ11の成形工程においてレンズ11を形成するとしたことを、レンズ34を形成するとしたことを要旨とし、レンズ34の成形工程はレンズ11の成形工程と同様のため説明を省略する。
【0070】
(レンズ35の成形工程)
レンズ34の成形が終了し、常温付近まで冷却した後、レンズ35成形用の上金型702を配置する(図25)。
図25に示すように、レンズ34は、上面に凹面34Cが成形されているとともに、その外周部にはドーナツ状の凹部34A、その略中央部には凹部34Bがそれぞれ一つ成形されている。凹部34Aおよび凹部34Bは、凹面34Cよりも曲率半径が小さい。
【0071】
次に、レンズ34の上面の凹部34Aに中心部のないドーナツ状のレンズ素材35A’を載置し、凹部34Bの上面に中心部のないドーナツ状のレンズ素材35B’を載置する。レンズ素材35A’およびはレンズ素材35B’、レンズ35設計上の体積と同一になるような形状に予め製作しておく。
【0072】
そして、上金型702により、成形温度Tp2で成形し、レンズ35を成形する。成形温度Tp2は、Tg2より高い温度で、屈伏点温度At2前後の温度を適宜選択する。
ここで、レンズ35とレンズ34はガラス同士の化学反応で融着される。またレンズ34は、レンズ35に比べて、ガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が高く、しかもTg1>At2の関係を有するめに、レンズ34自身は変形しない。
【0073】
(レンズ36の成形工程)
レンズ35を成形した後、成形温度Tp3で成形し、レンズ36を成形する。なお、レンズ36の形成工程は、第1実施形態で示したレンズ13の成形工程においてレンズ13を形成するとしたことを、レンズ36を形成するとしたことを要旨とし、レンズ36の成形工程はレンズ13の成形工程と同様のため説明を省略する。
【0074】
前記した各工程を経て、図24に示す1群3層構成の多焦点レンズ7が製造される。このような本実施形態によれば第1実施形態と同様な作用効果を奏することができる。
【0075】
(第8実施形態)
次に、本発明の第8実施形態を図26から図29に基づいて説明する。
第8実施形態は第4実施形態に比べて各レンズの形状が異なるものであり、他の構成は第4実施形態と同じである。
図26は、第8実施形態の1群2層構成の多焦点レンズ8の構成を示す概略断面図である。
【0076】
図26に示すように、1群2層構成の多焦点レンズ8は、凸面側より、ガラス屈伏点温度At1である第1レンズ81(以下、単に「レンズ81」ともいう)、ガラス屈伏点温度がAt2である第2レンズ82(以下、単に「レンズ82」ともいう)を積層した構造となっている。ここで、前記したガラス屈伏点温度は、At1>At2の関係を有している。さらにこれら各レンズのガラス転移温度は、Tg1>Tg2の関係を有するとともに、Tg1>At2の関係を有している。
また、レンズ81の外形はレンズ82の外形より大きく形成されている(図29参照)。これら2つのレンズ81,82の光軸Lは一致している。
第1レンズ81は、中央部上面に凹部81Aとこの凹部81Aを環状に取り囲む位置決め用の起伏部81Bとがそれぞれ成形されている。これらの凹部81Aおよび起伏部81Bとに嵌合するように第2レンズ82には突出部が形成されている。
ここで、本実施形態で用いた各レンズ81,82を形成するレンズ素材(硝材)について、基本仕様は第4実施形態において示した仕様と同様のため説明を省略する。
【0077】
このような多焦点レンズ8の製造方法を図27〜図29に基づいて以下に説明する。
(レンズ81の成形工程)
図27(A)は、ガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が高い方のレンズ素材81’を下金型801の成形面801Aに載置した状態を示す概略状態断面図であり、図27(B)は、図27(A)に示す上金型802の成形面802Aを部分拡大した部分拡大断面図である。
レンズ素材81’は、レンズ81の設計上の体積と同一にしたプリフォーム硝材として予め製作しておく。レンズ素材81’の形状は、球状、回転楕円形状、あるいは成形後のレンズ形状に近いメニスカス形状等とすることができる。
【0078】
ここで、上金型802の成形面802Aは下に凸状となっている。そして、成形面802Aの成形面802Aの略中央部には、さらに下側に凸部802A’を形成している。上金型802の成形面802Aと起伏部802A’と繋ぐ部分に、成形面802Aおよび凸部802A’の同心円上に起伏部802Bを形成している。なお、成形面802Aからさらに下側に起伏部802Bを形成するとしたことを、成形面802Aから上側に起伏部802Bを形成するとしてもよい。
レンズ素材81’を下金型801の成形面801Aに載置した後、下金型801、上金型502およびレンズ素材81’を成形温度Tp1まで加熱し、下金型801と上金型802を閉じてレンズ81を形成する。成形温度はTp1より高い温度であり、屈伏点At1前後の温度を適宜選択する。プレス後、上金型802を上昇させると、図28(A)(B)に示すとように、下金型801にはレンズ81が残る。このレンズ81には凹部81Aおよび起伏部81Bがそれぞれ形成されている。
【0079】
(レンズ82の成形工程)
図29(A)は、レンズ81が形成された後に、上金型802を外した状態を示す概略状態断面図であり、図29(B)は、図29(A)の概略平面図であり、図29(C)は、図29(A)に示すレンズ81を部分拡大した部分拡大断面図である。
図29に示すように、レンズ81の凹面81Aに、レンズ素材82’を載置するが、この際、レンズ81およびレンズ素材82’の上方に配置された画像処理用カメラ300および調整用ハンド350を使用する。つまり、画像処理用カメラ300を用いて、図29(A)の図中上方から、つまり図29(B)に示すように位置決め用の起伏部81Bとレンズ素材82’との位置関係情報を取得する。この位置関係情報により調整用ハンド350を駆動させることにより、レンズ81の略中心にレンズ素材82’の位置を合わせる。
レンズ素材82’は、レンズ82の設計上の体積と同一になるようなプリフォーム形状に予め製作しておく。このプリフォーム形状は、球状、回転楕円形状、あるいは成形後のレンズ形状に近いメニスカス形状等とすることが好ましいが、本実施形態では、レンズ81の凹面81Aの曲率半径よりも曲率半径の小さい回転楕円形状としている。このような形状であると、レンズ素材82’の位置決めがより容易となる。
【0080】
レンズ素材82’の位置を合わせた後に、成形温度Tp3で成形し、レンズ82を形成する。成形温度Tp2は、Tg2より高い温度で、屈伏点温度At2前後の温度を適宜選択する。
ここで、レンズ81およびレンズ82はガラス同士の化学反応で融着される。またレンズ81はレンズ82よりもガラス屈伏点温度およびガラス転移温度が高く、しかもTg2>At2の関係を有するために、レンズ81自体は変形しない。
【0081】
前記した各工程を経て、図26に示す1群2層構成の多焦点レンズ8が製造される。このような本実施形態によれば第4実施形態の作用効果の他に次のような効果を奏することができる。
第1レンズ81の接合面の凹部81Aとともに、この凹部81Aの同心円上に位置決め用の起伏部81Bを形成し、この位置決め用の起伏部81Bにより囲まれた凹部81Aに第2レンズ素材を配置賦形して第2レンズ82を成形すると同時に、第2レンズ82を第1レンズ81に接合する構成とした。そのため、第2レンズ素材を第1レンズ81に設置する際に、起伏部81Bが位置決め対象となるので、第1レンズ81に対して第2レンズ82を精度良く位置決めすることができる。
【0082】
(第9実施形態)
次に、本発明の第9実施形態を図30から図33に基づいて説明する。
第9実施形態はレンズの外周縁部に被取付部材に取り付けるための基準面が形成されている点で第1実施形態と異なり、他の構成は第1実施形態と同じである。
図30は、第9実施形態における1群3層構成の多焦点レンズを示す概略断面図である。
図30に示すように、多焦点レンズ9は、凸面側より、第1レンズ11A、第2レンズ12A、および第3レンズ13Aを積層した構造となっている。
また、図30からもわかるように、レンズ11Aとレンズ13Aとの外径は、異なっている。これにより、多焦点レンズ1Aの外周部が、段差形状のレンズ被取付部200に位置決めできるように、少なくとも2つの異なる径を有する基準面14Aを形成している。このレンズ被取付部200は鏡体に形成されている。
これら3つのレンズ11A、12A、13Aの光軸Lは一致している。
ここで、本実施形態で用いる各レンズ34、35、36を成形するレンズ素材(硝材)についての基本仕様は、第1実施形態において表1に示した、各レンズ11,12,13とそれぞれ同様の仕様であり、いずれも、株式会社オハラ製の光学レンズ用グレードである。
【0083】
このような多焦点レンズ1Aの製造方法を図31に基づいて以下に説明する。
図31は、多焦点レンズ1Aのレンズ13Aの形成工程を示す概略断面図である。第9実施形態のレンズ13Aの成形工程は、第1実施形態に係るレンズ13の成形工程について図6に基づき説明した際に、省略した金型ついて説明する。
第9実施形態のレンズ13Aの成形工程において、上金型104と下金型101とより13Aを成形する際に、段差形状に形成された金型105を上金型104と下金型101との間に配置する。これにより、図30に示す多焦点レンズ9が製造される。
なお、多焦点レンズ9の製造方法において、レンズ11Aの成形工程およびレンズ12Aの成形工程は、第1実施形態で示したレンズ11の成形工程およびレンズ12の成形工程と同様のため、説明を省略する。
【0084】
このような第9実施形態によれば第1実施形態と同様の作用効果の他に以下のような効果を奏することができる。
多焦点レンズ9の外周部に、段差形状のレンズ被取付部200に位置決めできるように、2つの異なる径を有する基準面14Aを形成し、第2レンズ12Aの径は第1レンズ11Aの径と第3レンズ13Aの径とのいずれよりも小さくなるように、3種のレンズ素材を賦形するとともに、第1レンズ11Aおよび第3レンズ13Aの光軸を一致させる構成とした。そのため、多焦点レンズ9の外周部に基準面14Aを形成することから、段差形状のレンズ被取付部200に位置決めされることにより、多焦点レンズ9をレンズ被取付部200に正確に配置し多焦点レンズ9の倒れ量または偏芯量を低減することができる。
【0085】
なお、第9実施形態では前述の構成に限定されるものではなく、図32(A)(B)および図33に示される変形例も含まれる。
図32(A)は、1群3層構成の多焦点レンズ9Bの構成を示す概略断面図である。
図32(A)からもわかるように、レンズ11Bとレンズ13Bとの外径は等しく、かつレンズ11Bは外形より小さい他の外形が形成されている。これにより、多焦点レンズ9Bの外周部が、段差形状のレンズ被取付部200に位置決めできるように、少なくとも2つの異なる径を有する基準面14Bを形成している。なお、これら3つのレンズ11B、12B、13Bの光軸Lは一致している。
【0086】
図32(B)は多焦点レンズ9Cの構成を示す概略断面図である。
図32(B)からもわかるように、レンズ11Bとレンズ13Bとの外径は等しく、かつレンズ11Bは外形より小さい、他の外形が形成されている。これにより、多焦点レンズ9Cの外周部が、段差形状のレンズ被取付部200に位置決めできるように、少なくとも2つの異なる径を有する基準面14Cを形成している。
【0087】
図33は、1群3層構成の多焦点レンズ9Dの構成を示す概略断面図である。
図33に示す多焦点レンズ9Dは、第1実施形態の図1に示す多焦点レンズ1の外周部を円形状に形成するとしたことを、円形状の外周部がレンズ被取付部に位置決めできるように、直線状の切り欠き状の基準面15を形成するとしたことを要旨とする。
図33に示すように、多焦点レンズ9Dは、凸面側より、ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ11D(以下、単に「レンズ11D」ともいう)、ガラス屈伏点温度がAt2である第2レンズ12(以下、単に「レンズ12」ともいう)、および、ガラス屈伏点温度がAt3である第3レンズ13D(以下、単に「レンズ13D」ともいう)を積層した構造となっている。ここで、前記したガラス屈伏点温度は、At1>At2>At3の関係を有している。さらにこれら各レンズのガラス転移温度は、Tg1>Tg2>Tg3の関係を有するとともに、Tg1>At2、および、Tg2>At3の関係を有している。
図33からもわかるように、レンズ11Aとレンズ13Aとの外径は、等しくなっている。そして、多焦点レンズ9の円形状の外周部がレンズ被取付部に位置決めできるように、切り欠き状の基準面15を形成している。図33において、切り欠き状の基準面15は2つ形成されている。また、2つの切り欠き状の基準面15は互いに略平行に形成されている。なお、切り欠き状の基準面15は、2つ形成されるとしたが、1つ以上形成されていてもよい。そして、切り欠き状の基準面15は互いに略平行に形成するとしたが、所望の角度を有して形成されていてもよく、切り欠き状の基準面15は互いに接していてもよい。
これにより、多焦点レンズ1Aの外周部が、段差形状のレンズ被取付部200に位置決めできるように、少なくとも2つの異なる径を有する基準面14Aを形成している。さらにこれら3つのレンズ11A、12A、13Aの光軸Lは一致している。
ここで、本実施形態で用いる各レンズ34、35、36を成形するレンズ素材(硝材)についての基本仕様は、第1実施形態において表1に示した、各レンズ11,12,13とそれぞれ同様の仕様であり、いずれも、株式会社オハラ製の光学レンズ用グレードである。
このような多焦点レンズ9Dの製造方法については、第1実施形態の図2〜図7に示す多焦点レンズ1の製造方法と同様のため説明を省略する。
【0088】
次に、本発明の第10実施形態を図34に基づいて説明する。
図34は、第10実施形態に係る1群2層構成の変形例の多焦点レンズ10の構成を示す概略断面図である。
図34に示す多焦点レンズ10は、第4実施形態の図12に示す多焦点レンズ1のレンズ素材を合成樹脂とするとしたことを、1種は合成樹脂であり、他の1種はガラスであるとしたことを要旨とする。
【0089】
このような多焦点レンズ10の製造方法は、第4実施形態の図13〜図17に示す多焦点レンズ4の製造方法と同様のため説明を省略する。
【0090】
このような第10実施形態によれば、第4実施形態の作用効果を奏する他、以下のような効果を奏することができる。
2種類のレンズ素材のうち、少なくとも1種は合成樹脂であり、他の種はガラスである構成としたから、ガラスからなるレンズに、ガラスと比べて成形性の良好な合成樹脂を成形し接合されることにより、ガラスおよび合成樹脂からなる多焦点レンズを得ることから、屈折率の選択幅および熱膨張率が小さくおよび耐候性に優れたガラスの特性を維持し、かつ合成樹脂同等の成形性によりガラスだけでは成形困難な形状の多焦点レンズを得ることができる。
【0091】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
たとえば、前述の実施形態では1群2層構造の多焦点レンズおよび1群3層構造の多焦点レンズとしたが、1群4層以上の1群多層構造の多焦点レンズとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、例えば、CCDやCMOSなどの固体撮像素子を用いたカメラレンズモジュールに用いられる多焦点レンズの製造方法として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の第1実施形態に係る多焦点レンズの構成を示す図。
【図2】前記実施形態における第1レンズの成形工程(第1レンズ素材の載置)を示す図。
【図3】前記実施形態における第1レンズの成形工程(加熱プレス)を示す図。
【図4】前記実施形態における第2レンズの成形工程(第2レンズ素材の載置)を示す図。
【図5】前記実施形態における第2レンズの成形工程(加熱プレス)を示す図。
【図6】前記実施形態における第3レンズの成形工程(第3レンズ素材の載置)を示す図。
【図7】前記実施形態における第3レンズの成形工程(加熱プレス)を示す図。
【図8】本発明の第2実施形態における多焦点レンズの構成を示す図。
【図9】第2実施形態における第2レンズの成形工程(第2レンズ素材の載置)を示す図
【図10】本発明の第3実施形態における多焦点レンズの構成を示す図。
【図11】第3実施形態における第2レンズの成形工程(第2レンズ素材の載置)を示す図
【図12】本発明の第4実施形態にかかる多焦点レンズの構成を示す概略断面図。
【図13】レンズ素材を下金型の成形面に載置した状態を示す概略断面図である。
【図14】レンズ素材を下金型と上金型とでプレスした状態を示す概略断面図である。
【図15】第1レンズに第2レンズの素材を載置した状態を示す概略断面図である。
【図16】第2レンズの素材を下金型と上金型とでプレスした状態を示す概略断面図である。
【図17】多焦点レンズを金型から取り出す状態を示す概略断面図。
【図18】本発明の第5実施形態にかかる多焦点レンズ示し、(A)は概略断面図、(B)は平面図である。
【図19】レンズ素材を下金型の成形面に載置した状態を示す概略断面図である。
【図20】レンズ素材を下金型と上金型とでプレスした状態を示す概略断面図である。
【図21】第1レンズに第2レンズの素材を載置した状態を示す概略断面図である。
【図22】第2レンズの素材を下金型と上金型とでプレスした状態を示す概略断面図である。
【図23】本発明の第6実施形態にかかる多焦点レンズを示す概略断面図である。
【図24】本発明の第7実施形態にかかる多焦点レンズを示し、(A)は概略断面図、(B)は平面図である。
【図25】第1レンズに第2レンズの素材を載置した状態を示す概略断面図である。
【図26】本発明の第8実施形態にかかる多焦点レンズを示す概略断面図である。
【図27】(A)はレンズ素材を下金型の成形面に載置した状態を示す概略断面図であり、(B)は(A)の上金型の拡大断面図である。
【図28】(A)は下金型のと上金型とでプレスされた第1レンズの概略断面図であり、(B)は(A)の第1レンズの拡大断面図である。
【図29】(A)は第1レンズが形成された後に、上金型を外した状態を示す概略状態断面図であり、(B)は、(A)の概略平面図であり、C)は、A)に示す第1レンズを部分拡大した部分拡大断面図である
【図30】本発明の第9実施形態にかかる多焦点レンズを示す概略断面図である。
【図31】第1レンズの形成工程を示す概略断面図である。
【図32】第9実施形態の変形例を示す概略断面図である。
【図33】(A)は第9実施形態の変形例を示す概略断面図であり、(B)はその平面図である。
【図34】本発明の第9実施形態にかかる多焦点レンズを示す概略断面図である。
【図35】従来の多焦点レンズの構成を示す図
【符号の説明】
【0094】
1,2,3,4,5,6,7,8,9,10…多焦点レンズ、11,21,31,41,51,61,81,91…第1レンズ、11A,31A…凹部、21A…凹面、11’…第1レンズ素材、12,22,32,42,52,62,82,92…第2レンズ、13,23,33…第3レンズ、12’,22’,32’…第2レンズ素材、13’…第3レンズ素材、101,201,301…下金型、101A,102A…成形面、102,103,104,202,302…上金型、102A’…凸部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス屈伏点温度がAt1、At2、・・・、AtMであるM種(Mは2以上の整数)のレンズ素材を用い、加熱プレス法により前記レンズの賦形が行われた、1群M層のレンズであり、第N−1レンズ(ただし、Nは2以上M以下の任意の整数)の第Nレンズに接する接合面は凹面であり、第Nレンズの第N−1レンズに接する接合面は凸面で構成され、かつ、前記ガラス屈伏点温度は、AtN-1>AtNの関係を有していることを特徴とする多焦点レンズ。
【請求項2】
ガラス屈伏点温度がAt1、At2である2種のレンズ素材を用い、加熱プレス法により前記レンズの賦形を行う、1群2層構成の多焦点レンズの製造方法であって、
ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ素材を賦形して第1レンズを成形後、前記第1レンズを成形型の一部として、ガラス屈伏点温度がAt2(At1>At2)である第2レンズ素材を賦形して第2レンズを成形すると同時に、前記第1レンズの第2レンズに接する接合面を凹面とし、第2レンズの第1レンズに接する接合面を凸面とし、前記第2レンズを前記第1レンズに接合することを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項3】
ガラス屈伏点温度がAt1、At2およびAt3である3種のレンズ素材を用い、加熱プレス法により前記レンズ素材の賦形を行う、1群3層構成の多焦点レンズの製造方法であって、
前記ガラス屈伏点温度は、At1>At2>At3の関係を有し、
ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ素材を賦形して第1レンズを成形後、前記第1レンズを成形型の一部として、ガラス屈伏点温度がAt2である第2レンズ素材を賦形して第2レンズを成形すると同時に、前記第2レンズを前記第1レンズに接合し、
次に、前記第1レンズおよび前記第2レンズを成形型の一部として、ガラス屈伏点温度がAt3である第3レンズ素材を賦形して第3レンズを成形すると同時に、前記第3レンズを前記第1レンズおよび前記第2レンズに接合することを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の多焦点レンズの製造方法において、
前記第1レンズの上面に、一つ以上の凹部を形成し、
次に、前記凹部に前記第2レンズ素材を載置することを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の多焦点レンズの製造方法において、
前記第1レンズの前記凹部を除く上面を凹面として形成するとともに、
前記第2レンズの上面を、前記第1レンズの凹面と連続的な曲面になるように形成し、
前記第1レンズの凹面と前記第2レンズの上部とから形成された連続的な曲面の上面に前記第3レンズ素材を配置することを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項6】
請求項3〜請求項5のいずれかに記載の多焦点レンズの製造方法において、
前記多焦点レンズの外周部が、段差形状のレンズ被取付部に位置決めできるように、少なくとも2つの異なる径を有する基準面を形成し、前記第2レンズの径は前記第1レンズの径と前記第3レンズの径とのいずれよりも小さくなるように、前記3種のレンズ素材を賦形するとともに、
前記第1レンズおよび前記第3レンズの光軸を一致させることを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項7】
請求項3〜請求項5のいずれかに記載の多焦点レンズの製造方法において、
前記第1レンズおよび前記第3レンズの径を略等しく、前記第2レンズの径はこれらの径よりも小さくなるように、前記3種のレンズ素材を賦形するとともに、
前記第1レンズおよび前記第3レンズの光軸を一致させることを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項8】
請求項3〜請求項7のいずれかに記載の多焦点レンズの製造方法において、
前記第1レンズ、前記第2レンズおよび前記第3レンズの光軸を一致させることを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項9】
請求項3〜請求項8のいずれかに記載の多焦点レンズの製造方法において、
前記第1レンズおよび前記第3レンズの径を略等しく、前記第2レンズの形状をドーナツ状とするとともにその外径を前記第1レンズおよび前記第3レンズの径よりも小さくなるように、前記3種のレンズ素材を賦形するとともに、
前記第1レンズ、前記第2レンズおよび前記第3レンズの光軸を一致させることを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項10】
請求項3〜請求項9のいずれかに記載の多焦点レンズの製造方法において、
前記第1レンズ素材のガラス転移温度はTg1であり、前記第2レンズ素材のガラス転移温度はTg2であり、前記第3レンズ素材のガラス転移温度はTg3であって、
前記各ガラス転移温度は、Tg1>Tg2>Tg3の関係を有するとともに、
さらに、Tg1>At2、および、Tg2>At3の関係を有することを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項11】
請求項2に記載の多焦点レンズの製造方法において、
ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ素材を賦形して第2レンズに接する第1レンズの接合面の凹面とともに、前記凹部の同心円上に位置決め用の起伏部を形成して第1レンズを成形し、前記位置決め用の起伏部により囲まれた前記凹部にガラス屈伏点温度がAt2である前記第2レンズ素材を配置して賦形して第2レンズを成形すると同時に、前記第2レンズを前記第1レンズに接合することを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項12】
請求項2〜請求項12のいずれかに記載の多焦点レンズの製造方法において、
前記多焦点レンズの外周部が、レンズ被取付部に位置決めできるように、切り欠き状の基準面を形成することを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項13】
請求項2〜請求項13のいずれかに記載の製造方法により製造された多焦点レンズ。
【請求項14】
請求項1および請求項13に記載の多焦点レンズにおいて、
前記M種のレンズ素材のうち、少なくとも1種は合成樹脂であり、他の少なくとも1種はガラスであることを特徴とする多焦点レンズ。
【請求項1】
ガラス屈伏点温度がAt1、At2、・・・、AtMであるM種(Mは2以上の整数)のレンズ素材を用い、加熱プレス法により前記レンズの賦形が行われた、1群M層のレンズであり、第N−1レンズ(ただし、Nは2以上M以下の任意の整数)の第Nレンズに接する接合面は凹面であり、第Nレンズの第N−1レンズに接する接合面は凸面で構成され、かつ、前記ガラス屈伏点温度は、AtN-1>AtNの関係を有していることを特徴とする多焦点レンズ。
【請求項2】
ガラス屈伏点温度がAt1、At2である2種のレンズ素材を用い、加熱プレス法により前記レンズの賦形を行う、1群2層構成の多焦点レンズの製造方法であって、
ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ素材を賦形して第1レンズを成形後、前記第1レンズを成形型の一部として、ガラス屈伏点温度がAt2(At1>At2)である第2レンズ素材を賦形して第2レンズを成形すると同時に、前記第1レンズの第2レンズに接する接合面を凹面とし、第2レンズの第1レンズに接する接合面を凸面とし、前記第2レンズを前記第1レンズに接合することを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項3】
ガラス屈伏点温度がAt1、At2およびAt3である3種のレンズ素材を用い、加熱プレス法により前記レンズ素材の賦形を行う、1群3層構成の多焦点レンズの製造方法であって、
前記ガラス屈伏点温度は、At1>At2>At3の関係を有し、
ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ素材を賦形して第1レンズを成形後、前記第1レンズを成形型の一部として、ガラス屈伏点温度がAt2である第2レンズ素材を賦形して第2レンズを成形すると同時に、前記第2レンズを前記第1レンズに接合し、
次に、前記第1レンズおよび前記第2レンズを成形型の一部として、ガラス屈伏点温度がAt3である第3レンズ素材を賦形して第3レンズを成形すると同時に、前記第3レンズを前記第1レンズおよび前記第2レンズに接合することを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の多焦点レンズの製造方法において、
前記第1レンズの上面に、一つ以上の凹部を形成し、
次に、前記凹部に前記第2レンズ素材を載置することを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の多焦点レンズの製造方法において、
前記第1レンズの前記凹部を除く上面を凹面として形成するとともに、
前記第2レンズの上面を、前記第1レンズの凹面と連続的な曲面になるように形成し、
前記第1レンズの凹面と前記第2レンズの上部とから形成された連続的な曲面の上面に前記第3レンズ素材を配置することを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項6】
請求項3〜請求項5のいずれかに記載の多焦点レンズの製造方法において、
前記多焦点レンズの外周部が、段差形状のレンズ被取付部に位置決めできるように、少なくとも2つの異なる径を有する基準面を形成し、前記第2レンズの径は前記第1レンズの径と前記第3レンズの径とのいずれよりも小さくなるように、前記3種のレンズ素材を賦形するとともに、
前記第1レンズおよび前記第3レンズの光軸を一致させることを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項7】
請求項3〜請求項5のいずれかに記載の多焦点レンズの製造方法において、
前記第1レンズおよび前記第3レンズの径を略等しく、前記第2レンズの径はこれらの径よりも小さくなるように、前記3種のレンズ素材を賦形するとともに、
前記第1レンズおよび前記第3レンズの光軸を一致させることを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項8】
請求項3〜請求項7のいずれかに記載の多焦点レンズの製造方法において、
前記第1レンズ、前記第2レンズおよび前記第3レンズの光軸を一致させることを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項9】
請求項3〜請求項8のいずれかに記載の多焦点レンズの製造方法において、
前記第1レンズおよび前記第3レンズの径を略等しく、前記第2レンズの形状をドーナツ状とするとともにその外径を前記第1レンズおよび前記第3レンズの径よりも小さくなるように、前記3種のレンズ素材を賦形するとともに、
前記第1レンズ、前記第2レンズおよび前記第3レンズの光軸を一致させることを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項10】
請求項3〜請求項9のいずれかに記載の多焦点レンズの製造方法において、
前記第1レンズ素材のガラス転移温度はTg1であり、前記第2レンズ素材のガラス転移温度はTg2であり、前記第3レンズ素材のガラス転移温度はTg3であって、
前記各ガラス転移温度は、Tg1>Tg2>Tg3の関係を有するとともに、
さらに、Tg1>At2、および、Tg2>At3の関係を有することを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項11】
請求項2に記載の多焦点レンズの製造方法において、
ガラス屈伏点温度がAt1である第1レンズ素材を賦形して第2レンズに接する第1レンズの接合面の凹面とともに、前記凹部の同心円上に位置決め用の起伏部を形成して第1レンズを成形し、前記位置決め用の起伏部により囲まれた前記凹部にガラス屈伏点温度がAt2である前記第2レンズ素材を配置して賦形して第2レンズを成形すると同時に、前記第2レンズを前記第1レンズに接合することを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項12】
請求項2〜請求項12のいずれかに記載の多焦点レンズの製造方法において、
前記多焦点レンズの外周部が、レンズ被取付部に位置決めできるように、切り欠き状の基準面を形成することを特徴とする多焦点レンズの製造方法。
【請求項13】
請求項2〜請求項13のいずれかに記載の製造方法により製造された多焦点レンズ。
【請求項14】
請求項1および請求項13に記載の多焦点レンズにおいて、
前記M種のレンズ素材のうち、少なくとも1種は合成樹脂であり、他の少なくとも1種はガラスであることを特徴とする多焦点レンズ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図2】
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【図4】
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【図6】
【図7】
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【図10】
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【図13】
【図14】
【図15】
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【図18】
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【図20】
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【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
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【図28】
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【図30】
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【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【公開番号】特開2007−256923(P2007−256923A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5024(P2007−5024)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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