多焦点眼用レンズ
【課題】瞳孔径が小さくなるような明るい場所でも明瞭な遠方視及び近方視を担保するとともに、遠方と近方との中間位置の視野も良好で、かつフレアの発生に伴う結像性能の劣化を抑えるのに好適な多焦点眼用レンズを提供すること。
【解決手段】少なくとも一面が同心円状の複数の屈折面に分割された輪帯構造を有し、互いに隣り合う屈折面の間に光軸に略水平な方向の段差が形成された多焦点眼用レンズであり、段差高さが所定の条件を満たすとともに、隣り合う二つの屈折面のうち、光軸から遠い側の屈折面を外側屈折面と定義し、光軸に近い側の屈折面を内側屈折面と定義した場合に、外側屈折面の曲率半径がベースカーブ形状に近付くように、内側屈折面の曲率半径とベースカーブ形状の曲率半径との間の値になっている構造を少なくとも1つ有するように構成した。
【解決手段】少なくとも一面が同心円状の複数の屈折面に分割された輪帯構造を有し、互いに隣り合う屈折面の間に光軸に略水平な方向の段差が形成された多焦点眼用レンズであり、段差高さが所定の条件を満たすとともに、隣り合う二つの屈折面のうち、光軸から遠い側の屈折面を外側屈折面と定義し、光軸に近い側の屈折面を内側屈折面と定義した場合に、外側屈折面の曲率半径がベースカーブ形状に近付くように、内側屈折面の曲率半径とベースカーブ形状の曲率半径との間の値になっている構造を少なくとも1つ有するように構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼に処方する多焦点眼用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
白内障の治療を目的として、混濁した水晶体を摘出して眼内レンズ(Intraocular Lens, IOL)を挿入する手術が普及している。この種の手術において、水晶体の摘出によって失われる調整力を補う場合は、多焦点眼内レンズを挿入する。多焦点眼内レンズには、遠方度数又は近方度数をエリア毎に付与した屈折型や、遠方度数と近方度数に配分する回折構造型があり、集光点が光軸方向に複数(遠方視、近方視)に分割されている。すなわち、多焦点眼内レンズは、レンズ装用者が日常生活を眼鏡無しで送れるように、遠方視と近方視の何れの集光点においても視力が確保できるように設計されている。この種の多焦点眼内レンズの具体的構成例は、特許文献1や特許文献2に記載されている。
【0003】
特許文献1には、遠用・近用など、度数毎の専用ゾーンに分割された屈折型多焦点眼内レンズが記載されている。この種の屈折型多焦点眼内レンズは、多焦点の効果がレンズ装用者の瞳孔径に依存して大きく変わるという問題を抱えている。例えば、特許文献1に記載の屈折型多焦点眼内レンズの装用者が晴天時に屋外にいる場合を考える。この場合、レンズ装用者の瞳孔径が絞られることにより、眼内レンズに入射する光束径が遠用ゾーンに制限される。そのため、レンズ装用者は、実質的に遠方視しかできない。
【0004】
一方、回折構造型では、瞳孔径に依存する多焦点の効果の変化が抑えられる。特許文献2には、レンズの片面中央部にアポダイズ回折構造が形成された回折構造型多焦点眼内レンズが記載されている。特許文献2に記載の回折構造型多焦点眼内レンズでは、瞳孔径が小さく絞られた際に近方視することが難しいという状況が生じない。しかし、段差数が多いため、多くの不要光が発生し、視野の広範囲に広がるノイズ(フレア)となり、結像性能が劣化する。また、遠方と近方との中間位置に配分される光量が実質的に無いため、中間位置を明瞭視することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2935750号公報
【特許文献2】特許第3339689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、瞳孔径が小さくなるような明るい場所でも明瞭な遠方視及び近方視を担保するとともに、遠方と近方との中間位置の視野も良好で、かつフレアの発生に伴う結像性能の劣化を抑えるのに好適な多焦点眼用レンズを提供することである。なお、本発明は眼内レンズに限らず、コンタクトレンズ等の別の態様の眼用のレンズにも適用することができる。そのため、上記においては、多焦点「眼用」レンズと記している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決する本発明の一形態に係る多焦点眼用レンズは、少なくとも一面が同心円状の複数の屈折面に分割された輪帯構造を有し、互いに隣り合う屈折面の間に光軸に略水平な方向の段差が形成されている。輪帯構造は、ベースカーブ形状に対して付加されたものである。かかる多焦点眼用レンズは、段差の高さをD(単位:μm)と定義し、e線における多焦点眼用レンズの屈折率をn1と定義し、e線における水の屈折率をn0と定義した場合に、次の条件(1)
0.190<|D×(n1−n0)|<0.370・・・(1)
を満たすとともに、隣り合う二つの屈折面のうち、光軸から遠い側の屈折面を外側屈折面と定義し、光軸に近い側の屈折面を内側屈折面と定義した場合に、外側屈折面の曲率半径がベースカーブ形状に近付くように、内側屈折面の曲率半径とベースカーブ形状の曲率半径との間の値になっている構造を少なくとも1つ有することを特徴とする。
【0008】
また、上記の課題を解決する本発明の別の形態に係る多焦点眼用レンズは、少なくとも一面が同心円状の複数の屈折面に分割された輪帯構造を有し、互いに隣り合う屈折面の間に光軸に略水平な方向の段差が形成されている。輪帯構造は、ベースカーブ形状に対して付加されたものである。かかる多焦点眼用レンズは、段差の高さをD(単位:μm)と定義し、e線における多焦点眼用レンズの屈折率をn1と定義し、e線における水の屈折率をn0と定義するとともに、ベースカーブ形状に対して付加されたフレネルレンズ状の段差による機能を、光軸からの高さh(単位:mm)における光路長付加量の形で表現した関数φ(h)に置き換え、二次、四次の光路差関数係数をそれぞれP2、P4と定義し、段差でe線における屈折率を想定した際に1波長分の光路長差を与えるブレーズ化波長をλB(単位:μm)と定義し、輪帯の光軸上での位相を設定する定数項をP0(−0.5≦P0<0.5の範囲で任意の数をとる。)と定義し、ROUND(X、Y)を、Xを小数点第Y位で四捨五入した値を与える関数としたとき、
φ(h)=(P0+P2・h2+P4・h4−ROUND(P0+P2・h2+P4・h4、1))×λB
λB=|D×(n1−n0)|
を満たすとともに、
次の条件(2)
−0.40<P4/P2<−0.01・・・(2)
を満たすことを特徴とする。
【0009】
また、上記の課題を解決する本発明の別の形態に係る多焦点眼用レンズは、少なくとも一面が同心円状の複数の屈折面に分割された輪帯構造を有し、互いに隣り合う屈折面の間に光軸に略水平な方向の段差が形成されている。輪帯構造は、ベースカーブ形状に対して付加されたものである。かかる多焦点眼用レンズは、輪帯構造のうち、光軸に最も近い第一輪帯段差と、第一輪帯段差の1つ外側の第二輪帯段差との、光軸と直交する方向における配置間隔を(a2−a1)と定義し、輪帯構造の最も外側の最終段差と、最終段差の1つ内側の第一内側段差との、光軸と直交する方向における配置間隔を(alast−alast-1)と定義し、第一内側段差と、第一内側段差の1つ内側の第二内側段差との、光軸と直交する方向における配置間隔を(alast-1−alast-2)と定義した場合に、次の条件(3)及び(4)
0.25<(alast−alast-1)/(a2−a1)<2.00・・・(3)
1.00<(alast−alast-1)/(alast-1−alast-2)<3.00・・・(4)
を同時に満たすことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る多焦点眼用レンズにおいて、ベースカーブ形状の曲率半径をRbase(単位:mm)と定義し、輪帯構造のうちの光軸を含む屈折面の曲率半径をR1(単位:mm)と定義したときに、次の条件(5)
|R1−Rbase|>|Ra−Rbase|・・・(5)
を満たす曲率半径Ra(単位:mm)を有する第一外側屈折面が光軸を含む屈折面の外側にあり、次の条件(6)
|Ra−Rbase|>|Rb−Rbase|・・・(6)
を満たす曲率半径Rb(単位:mm)を有する第二外側屈折面が第一外側屈折面の外側にあってもよい。
【0011】
ここで、第二外側屈折面は、例えば輪帯構造のうち最も外側の屈折面であり、第一外側屈折面は、第二外側屈折面の内側に隣接したものである。
【0012】
上記の別の形態に係る多焦点眼用レンズにおいて、段差の高さをD(単位:μm)と定義し、e線における多焦点眼用レンズの屈折率をn1と定義し、e線における水の屈折率をn0と定義した場合に、次の条件(1)
0.190<|D×(n1−n0)|<0.370・・・(1)
が満たされてもよい。
【0013】
本発明に係る多焦点眼用レンズは、輪帯構造の最も外側の最終輪帯が、最終輪帯の外側に位置するベースカーブ形状に滑らかに接続された構成であってもよい。
【0014】
また、上記の課題を解決する本発明の別の形態に係る多焦点眼用レンズは、少なくとも一面に同心円状の周期構造が形成されたものである。周期構造は、ベースカーブ形状に対して付加された、周期が異なる複数の凹凸形状が多焦点眼用レンズの半径方向に繰り返し配置された輪帯構造である。かかる多焦点眼用レンズは、周期構造の光軸方向の最小厚みと最大厚みとの差をDm(単位:μm)と定義し、e線における多焦点眼用レンズの屈折率をn1と定義し、e線における水の屈折率をn0と定義した場合に、次の条件(7)
0.190<|Dm×(n1−n0)|<0.370・・・(7)
を満たすとともに、互いに隣り合う二つの周期のうち、光軸から遠い側の周期を外側周期と定義し、光軸に近い側の周期を内側周期と定義した場合に、外側周期が内側周期よりも幅広となる構造を少なくとも1つ有することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る多焦点眼用レンズは、例えば樹脂成形品である。この場合、多焦点眼用レンズの屈折率n1は、例えば次の条件(8)
1.38<n1<1.75・・・(8)
を満たす。
【0016】
本発明に係る多焦点眼用レンズは、e線の光束を入射光束径2.0mmで入射させた際に輪帯構造で回折効率が最大となる光の収束位置と、回折効率が2番目に高い光の収束位置から求められる加入度数の絶対値をL(単位:Dptr)と定義した場合に、次の条件(9)
1.0<L<5.0・・・(9)
を満たす構成としてもよい。
【0017】
本発明に係る多焦点眼用レンズは、輪帯構造の最も外側の最終輪帯とベースカーブ形状との接続位置の瞳高さ(輪帯構造の終了位置)をhmaxと定義した場合に、次の条件(10)
1.2<hmax<4.0・・・(10)
を満たす構成としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、瞳孔径が小さくなるような明るい場所でも明瞭な遠方視及び近方視を担保するとともに、遠方と近方との中間位置の視野も良好で、かつフレアの発生に伴う結像性能の劣化を抑えるのに好適な多焦点眼用レンズが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態の多焦点眼用レンズの側断面図である。
【図2】本発明の実施形態のコンタクトレンズの断面構造図である。
【図3】各輪帯の各配置間隔を説明するための図を示す。
【図4】本発明の実施例1の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図5】本発明の実施例2の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図6】本発明の実施例3の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図7】本発明の実施例4の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図8】本発明の実施例5の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図9】本発明の実施例6の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図10】本発明の実施例7の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図11】本発明の実施例8の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図12】本発明の実施例9の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図13】比較例1の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図14】比較例2の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図15】本発明の実施形態の多焦点眼用レンズの側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る多焦点眼用レンズについて説明する。
【0021】
本発明は、コンタクトレンズにもIOLにも適用することができる。図1(a)、図15(a)は、本発明を適用して設計されたコンタクトレンズ1xの一実施形態を示す側断面図であり、図1(b)、図15(b)は、本発明を適用して設計されたIOL1yの一実施形態を示す側断面図である。本明細書中、コンタクトレンズ1x、IOL1yをはじめとする、本発明を適用して設計される多焦点眼用レンズを「多焦点眼用レンズ1」と総称する。多焦点眼用レンズ1は、例えば、屈折率n1が次の条件(8)を満たす材料によって成形された樹脂成形品である。
1.38<n1<1.75・・・(8)
多焦点眼用レンズ1で使用される材料には、例えばシリコーン、アクリル樹脂、Hydroxyethyl Methacrylate(HEMA)等が想定される。
【0022】
図1(a)及び図1(b)に示されるように、本実施形態の多焦点眼用レンズ1は、光軸を中心とした回転対称形状を有しており、同心円状の複数の屈折面に分割された輪帯構造が一面に形成されている。輪帯構造は、ベースカーブ形状に対して付加されたものであり、互いに隣り合う屈折面の間に、光軸に略水平な方向の段差が形成されている。但し、輪帯構造は、一面全体に形成されているわけではない。多焦点眼用レンズ1の周辺部は、輪帯構造でなくベースカーブ形状となっている。輪帯構造の最も外側の最終輪帯は、最終輪帯の外側に位置するベースカーブ形状に滑らかに接続されている。すなわち、最終輪帯の屈折面とベースカーブ形状(屈折面)とが段差無く連続的に接続されている。「段差無く連続的に接続」とは、最終輪帯の屈折面の接線と、ベースカーブ面の接線とがなす角度が鈍角である状態をいう。最終輪帯とベースカーブ形状との間の段差を削減することにより、段差構造に起因するフレアの発生が有効に抑えられる。なお、輪帯構造は、一面に限らず、各面に分担させるようにして設けてもよい。
【0023】
図1(a)に示されるように、コンタクトレンズ1xは、第一面Rx1、第二面Rx2を有している。コンタクトレンズ1xの装用時、第一面Rx1は物体側に位置し、第二面Rx2は像側に位置する。コンタクトレンズ1xにおいては、第二面Rx2側に輪帯構造が設けられている。また、図1(b)に示されるように、IOL1yは、第一面Ry1、第二面Ry2を有している。IOL1yの装用時、第一面Ry1は物体側に位置し、第二面Ry2は像側に位置する。IOL1yにおいては、第一面Ry1側に輪帯構造が設けられている。
【0024】
図2は、各種定義を説明するための図であり、コンタクトレンズ1xの断面構造図を示す。図2中、縦軸は、サグ量(単位:mm)を示し、横軸は、瞳高さh(単位:mm)を示す。また、図2中、実線は、実形状(第二面Rx2の形状)を示し、点線は、ベースカーブ形状を示す。また、実線の下側が涙液側であり、実線の上側がレンズ体側である。また、図2中、光軸に対する段差の位置(光軸との距離)を段差位置a(単位:mm)と定義し、段差の光軸方向の高さを段差高さD(単位:μm)と定義する。ここで、段差高さDは、レンズ体が肉厚になる方向に正の符号をとる。また、ベースカーブに対して図2中下側の形状偏差(形状誤差)に正の符号を付し、ベースカーブに対して図2中上側の形状偏差(形状誤差)に負の符号を付す。
【0025】
輪帯構造は、回折作用を付与する回折構造とも称される。輪帯構造は、例えば鋸歯形状を有するブレーズ型回折構造であり、次の光路差関数(h)で表現することができる。光路差関数(h)は、輪帯構造の回折レンズとしての機能を光軸からの高さh(単位:mm)における光路長付加量の形で表現した関数であり、輪帯構造における各段差の設置位置を規定する。光路差関数(h)は、二次、四次、六次、・・・の光路差関数係数をそれぞれP2、P4、P6、・・・と定義し、波長λの光の回折効率が最大となる回折次数をmと定義した場合に、次の式により表される。
光路差関数(h)=(P2h2+P4h4+P6h6+P8h8+P10h10+P12h12)mλ
【0026】
ここで、従来の多焦点眼用レンズは、入射光束を分割して遠方視側集光点と近方視側集光点にそれぞれ集光させる。しかし、これでは、患者が遠方視側集光点と近方視側集光点との間の中間位置を明瞭視できないという問題を存する。そこで、本実施形態の多焦点眼用レンズ1は、入射光束を分割し、遠方視側集光点、近方視側集光点に加えて、中間位置にも集光させることにより、被写界深度を深くして、中間位置も明瞭視できるように構成されている。
【0027】
具体的には、本実施形態の多焦点眼用レンズ1は、設計波長(e線(546nm))における多焦点眼用レンズ1の屈折率をn1と定義し、e線における水の屈折率をn0と定義した場合に、次の条件(1)
0.190<|D×(n1−n0)|<0.370・・・(1)
を満たすように構成されている。
【0028】
本実施形態の多焦点眼用レンズ1において、遠方視及び近方視するためには、1次回折次数を用いて近用と遠用の加入度数の差をつけるための加入度数を付加しつつ、1次回折光と0次回折光の回折効率をe線において一定範囲内にバランスさせるように設計する必要がある。しかし、条件(1)の下限を下回ると、0次回折光の回折効率が低くなりすぎる(例えば20%を切る)ため、光量不足により、遠方視(もしくは近方視)が難しくなる。条件(1)の上限を上回ると、1次回折光の回折効率が低くなりすぎる(例えば20%を切る)ため、光量不足により、近方視(もしくは遠方視)が難しくなる。条件(1)を満足する場合は、遠方、近方とも明瞭視することができる。
【0029】
本実施形態の多焦点眼用レンズ1は、更に、輪帯構造において隣り合う二つの屈折面のうち、光軸から遠い側の屈折面を外側屈折面と定義し、光軸に近い側の屈折面を内側屈折面と定義した場合に、外側屈折面の曲率半径がベースカーブ形状に近付くように、内側屈折面の曲率半径とベースカーブ形状の曲率半径との間の値になっている構造を少なくとも1つ有するように構成されている。
【0030】
このように、外側の輪帯の方が段差同士の間隔が広い構成を付与することにより、近用(もしくは遠用)に配分されていた回折パワーが弱くなり、今まで近方視側集光点(もしくは遠方視側集光点)に集光していた光の一部が遠方視側集光点と近方視側集光点との間の中間位置にも集光するようになる。そのため、患者は、中間位置も明瞭視できるようになる。すなわち、本発明者は、多焦点眼用レンズの技術分野において、ベースカーブ形状に対して付与される輪帯構造の段差同士の間隔が一定又は外側ほど狭くなるという本件特許出願時の当該分野の技術常識の殻を破り、外側の輪帯の方が段差同士の間隔が広い構成を想起し、これにより、遠方、中間、近方ともに明瞭視可能な被写界深度が深い多焦点眼用レンズを実現させた。なお、中間位置の集光点は、外側屈折面の曲率半径がベースカーブ形状の曲率半径に近付くほど、ベースカーブの焦点位置に近付く。また、段差同士の間隔が広がることに伴い、輪帯構造の段差総数が減少するため、フレアの発生も少なくなる。このように、本実施形態の多焦点眼用レンズ1によれば、瞳孔径が小さくなるような明るい場所でも明瞭な遠方視及び近方視が担保されるとともに、遠方と近方との中間位置の視界も良好で、かつフレアの発生に伴う結像性能の劣化も抑えられる。
【0031】
本実施形態の多焦点眼用レンズ1の構成は、次のように表現することもできる。具体的には、多焦点眼用レンズ1は、ベースカーブ形状に対して付加されたフレネルレンズ状の段差による機能を、光軸からの瞳高さh(単位:mm)における光路長付加量の形で表現した関数φ(h)に置き換え、二次、四次の光路差関数係数をそれぞれP2、P4と定義し、各段差でe線における屈折率を想定した際に1波長分の光路長差を与えるブレーズ化波長をλB(単位:μm)と定義し、フレネルレンズ状の輪帯の光軸上での位相を設定する定数項をP0(−0.5≦P0<0.5の範囲で任意の数をとる。)と定義し、ROUND(X、Y)を、Xを小数点第Y位で四捨五入した値を与える関数としたとき、
φ(h)=(P0+P2・h2+P4・h4−ROUND(P0+P2・h2+P4・h4、1))×λB
λB=|D×(n1−n0)|
を満たすとともに、
次の条件(2)
−0.40<P4/P2<−0.01・・・(2)
を満たすように構成されている。(P0+P2・h2+P4・h4−ROUND(P0+P2・h2+P4・h4、1))の値が0.5になる瞳高さhが輪帯の境界に当たる。多焦点眼用レンズ1は、ベースカーブ形状に対し、関数φ(h)の光路差を持つように勾配及び段差が付加されることにより、フレネルレンズ状の輪帯構造が形成されている。
【0032】
ここで、球面収差と同様の光学作用を規定する光路差関数係数P4が、回折パワーを規定する光路差関数係数P2の逆符号をとることは、外側の輪帯の方が段差同士の間隔が広い構成を有することを意味する。そのため、本例においても、患者は、中間位置も明瞭視できるようになる。また、段差同士の間隔が広がることに伴い、輪帯構造の段差総数が減少するため、フレアの発生も少なくなる。
【0033】
上記において、条件(2)の下限を下回ると、輪帯構造によって付与される度数変化(近用度数から中間度数を経て遠用度数に至るまでの変化)が急激であるため、結果的に中間位置に振り分けられる輪帯構造の径が小さくなる。そのため、中間位置の光量が大幅に不足し、十分な被写界深度が得られない。また、条件(2)の上限を上回ると、度数変化が緩やかになりすぎるため、結果的に輪帯構造全体の径が大きくなる。この場合、中間位置の光量が大幅に不足し、十分な被写界深度が得られない。特に、瞳孔径を大きく開けない高齢者にとっては、中間位置の光量がより一層不足する。条件(2)を満足する場合は、遠方、中間、近方ともに明瞭視でき、十分な被写界深度が得られる。
【0034】
なお、本例の多焦点眼用レンズ1においても、条件(1)を満たすと尚よい。
【0035】
また、本実施形態の多焦点眼用レンズ1の構成は、次のように表現することもできる。具体的には、多焦点眼用レンズ1は、輪帯構造の第一輪帯段差と第二輪帯段差との、光軸と直交する方向における配置間隔を(a2−a1)と定義し、最終段差と第一内側段差との、光軸と直交する方向における配置間隔を(alast−alast-1)と定義し、第一内側段差と第二内側段差との、光軸と直交する方向における配置間隔を(alast-1−alast-2)と定義した場合に、次の条件(3)及び(4)
0.25<(alast−alast-1)/(a2−a1)<2.00・・・(3)
1.00<(alast−alast-1)/(alast-1−alast-2)<3.00・・・(4)
を同時に満たすように構成されている。
【0036】
図3に、各配置間隔を説明するための図を示す。図3の縦軸は、ベースカーブに対して付加された輪帯構造(別の表現によれば、ベースカーブに対する形状偏差(形状誤差)であって、輪帯構造形成面からベースカーブ成分を差し引いて表現した断面構造)(単位:μm))を示し、横軸は、入射光束半径(単位:mm)を示す。図3に示されるように、配置間隔(a2−a1)を規定する第一輪帯段差、第二輪帯段差は、夫々、光軸に最も近い段差、第一輪帯段差の1つ外側の段差である。また、配置間隔(alast−alast-1)を規定する最終段差、第一内側段差は、夫々、輪帯構造の最も外側の段差、最終段差の1つ内側の段差である。また、配置間隔(alast-1−alast-2)を規定する第二内側段差は、第一内側段差の1つ内側の段差である。なお、図3に示されるように、最終段差とベースカーブ形状は、その接続点(図3中、輪帯終了位置hmax)において滑らかに接続されている。
【0037】
条件(3)の下限を下回ると、中心付近に対して周辺の度数変化が急激であるため、結果的に中間位置に振り分けられる輪帯構造の径が小さくなる。そのため中間位置の光量が大幅に不足し、十分な被写界深度を得られない。条件(3)の上限を上回ると、中心付近の度数が非常に強く、周辺の度数変化が緩やかになりすぎるため、結果的に輪帯構造全体の径が大きくなる。この場合、瞳孔が広がっても中間域に分配される光量が不足し、十分な被写界深度を得られない。また、高齢者のように瞳孔径の大きさがそれほど大きくならない場合には、さらに影響が大きい。条件(3)を満たす場合は、遠方、中間、近方ともの瞳孔径が変化した際にも明瞭視でき、十分な被写界深度が得られる。
【0038】
また、条件(4)の下限を下回ると、度数変化が急激であるため、結果的に累進効果を持つ輪帯構造の径が小さくなる。そのため、中間位置の光量が大幅に不足し、十分な被写界深度が得られない。また、条件(4)の上限を上回ると、度数変化が緩やかになりすぎるため、結果的に輪帯構造全体の径が大きくなる。この場合、中間位置の光量が大幅に不足し、十分な被写界深度が得られない。特に、瞳孔径を大きく開けない高齢者にとっては、中間位置の光量がより一層不足する。条件(4)を満足する場合は、遠方、中間、近方ともに明瞭視でき、十分な被写界深度が得られる。
【0039】
なお、本例の多焦点眼用レンズ1においても、条件(1)を満たすと尚よい。
【0040】
上記3例の多焦点眼用レンズ1は、ベースカーブ形状の曲率半径をRbase(単位:mm)と定義し、輪帯構造のうちの光軸を含む屈折面の曲率半径をR1(単位:mm)と定義したときに、次の条件(5)
|R1−Rbase|>|Ra−Rbase|・・・(5)
を満たす曲率半径Ra(単位:mm)を有する第一外側屈折面が光軸を含む屈折面の外側にあり、次の条件(6)
|Ra−Rbase|>|Rb−Rbase|・・・(6)
を満たす曲率半径Rb(単位:mm)を有する第二外側屈折面が第一外側屈折面の外側にある構成としてもよい。また、第二外側屈折面は、例えば、輪帯構造のうち最も外側の屈折面であり、第一外側屈折面は、第二外側屈折面の内側に隣接したものとしてもよい。
【0041】
上記3例の輪帯構造は何れも、鋸歯形状を有する所謂ブレーズ型回折構造の一種であるが、本実施形態の変形例では、ブレーズ型回折構造に代えて、周期構造型の輪帯構造を適用してもよい。具体的には、変形例の多焦点眼用レンズ1の周期構造は、ベースカーブ形状に対して付加された、同心円状の輪帯構造であり、周期が異なる複数の凹凸形状が多焦点眼用レンズ1の半径方向に繰り返し配置された構成となっている。変形例の多焦点眼用レンズ1は、周期構造の光軸方向の最小厚みと最大厚みとの差をDm(単位:μm)と定義した場合に、次の条件(7)
0.190<|Dm×(n1−n0)|<0.370・・・(7)
を満たすように構成されている。
【0042】
変形例の多焦点眼用レンズ1においても、遠方視及び近方視するため、1次回折次数を用いて近用と遠用の加入度数の差をつけるための加入度数を付加しつつ、1次回折光と0次回折光の回折効率をe線において一定範囲内にバランスさせるように設計する必要がある。しかし、条件(7)の下限を下回ると、0次回折光の回折効率が低くなりすぎる(例えば20%を切る)ため、光量不足により、遠方視(もしくは近方視)が難しくなる。条件(7)の上限を上回ると、1次回折光の回折効率が低くなりすぎる(例えば20%を切る)ため、光量不足により、近方視(もしくは遠方視)が難しくなる。条件(7)を満足する場合は、遠方、近方とも明瞭視することができる。
【0043】
変形例の多焦点眼用レンズ1は、更に、周期構造において隣り合う二つの周期のうち、光軸から遠い側の周期を外側周期と定義し、光軸に近い側の周期を内側周期と定義した場合に、外側周期が内側周期よりも幅広となる構造を少なくとも1つ有するように構成されている。
【0044】
このように、外側の周期(凹凸の形成間隔)の方が広い構成を付与することにより、近用に配分されていた回折パワーが弱くなり、今まで近方視側集光点に集光していた光の一部が遠方視側集光点と近方視側集光点との間の中間位置にも集光するようになる。そのため、患者は、中間位置も明瞭視できるようになる。また、周期が広がることに伴い、凹凸形状の総数が減少するため、フレアの発生も少なくなる。このように、変形例の多焦点眼用レンズ1によれば、瞳孔径が小さくなるような明るい場所でも明瞭な遠方視及び近方視が担保されるとともに、遠方と近方との中間位置の視界も良好で、かつフレアの発生に伴う結像性能の劣化も抑えられる。
【0045】
また、本実施形態の多焦点眼用レンズ1は、e線の光束を入射光束径2.0mm(例えば明るい場所に居る患者の瞳孔径に相当)で入射させた際に輪帯構造で回折効率が最大となる光の収束位置と、回折効率が2番目に高い光の収束位置(すなわち遠方視側集光位置と近方視側集光位置)から求められる加入度数の絶対値をL(単位:Dptr)と定義した場合に、次の条件(9)
1.0<L<5.0・・・(9)
を満たす構成としてもよい。
【0046】
条件(9)の下限を下回ると、十分な近用度数が得られないため、近方視することができない。また、条件(9)の上限を上回ると、近用度数が高すぎて、却って眼精疲労を引き起こす虞がある。
【0047】
また、本実施形態の多焦点眼用レンズ1は、輪帯構造の最も外側の最終輪帯とベースカーブ形状との接続位置の瞳高さ(輪帯構造の終了位置)をhmaxと定義した場合に、次の条件(10)
1.2<hmax<4.0・・・(10)
を満たす構成としてもよい。
【0048】
条件(10)の下限を下回ると、輪帯構造全体の径が小さすぎるため、結果的に度数変化が急激になる。そのため、近方及び中間位置の光量が大幅に不足し、十分な被写界深度が得られない。また、条件(10)の上限を上回ると、輪帯構造全体の径が大きすぎるため、度数変化が緩やかになりすぎる。この場合、中間位置の光量が大幅に不足し、十分な被写界深度が得られない。特に、瞳孔径を大きく開けない高齢者にとっては、中間位置の光量がより一層不足する。条件(10)を満足する場合は、遠方、中間、近方ともに明瞭視でき、十分な被写界深度が得られる。
【0049】
次に、これまで説明した多焦点眼用レンズ1の具体的数値実施例を9例説明する。本発明の実施例1〜7の多焦点眼用レンズ1は、ブレーズ型回折構造を有するタイプであり、本実施例8、9の多焦点眼用レンズ1は、周期構造型の輪帯構造を有するタイプである。
また、本実施例5、6の多焦点眼用レンズ1は、IOLであり、それ以外の実施例の多焦点眼用レンズ1は、コンタクトレンズである。本実施例1〜4、8、9の多焦点眼用レンズ1の概略的なレンズ断面図は、図1(a)を援用する。本実施例5、6の多焦点眼用レンズ1については図1(b)を援用する。本実施例7の多焦点眼用レンズ1については図15(a)を援用する。表1に、本実施例1〜9の具体的数値構成を示す。なお、表1中、「切替位置」は、近用度数から中間度数への変化が始まる瞳高さ(単位:mm)を示す。また、表1中、第一面ベースカーブ(単位:mm)は、物体側の面のベースカーブを示し、第二面ベースカーブ(単位:mm)は、像側の面のベースカーブを示す。中心厚(単位:mm)は、光軸上における多焦点眼用レンズ1の厚みを示す。
【0050】
本実施形態では、図1(a)と図1(b)、図15(a)と図15(b)は、夫々、条件(1)が同等となるように段差高さDを決定し形状を設計する場合、同等の技術的効果を有するコンタクトレンズとIOLの相互変換が可能である。すなわち、同等の技術的効果を有するコンタクトレンズとIOLを製造することができる。
【0051】
【表1】
【実施例1】
【0052】
図4(a)〜図4(d)は、本実施例1の多焦点眼用レンズ1の形状や光学性能を示す図である。図4(a)は、ベースカーブに対して付加された輪帯構造を示す図であり、輪帯構造形成面からベースカーブ成分を差し引いて表現した断面構造を示す。図4(a)中、縦軸は、ベースカーブに対する形状偏差(形状誤差、単位:μm)を示し、横軸は、入射光束半径(瞳高さ、単位:mm)を示す。図4(b)は、入射光束半径と度数との関係を示す図である。図4(b)中、縦軸は、度数(単位:Dptr)を示し、横軸は、入射光束半径(瞳高さ、単位:mm)を示す。図4(c)、図4(d)は、夫々、e線の光束を入射光束半径2.0mm、4.0mmで入射させた際の、スポット強度と度数(単位:Dptr)との関係を示す図である。図4(c)及び図4(d)に示す度数は、輪帯構造によって付与される度数であり、ベースカーブによって付与される度数を差し引いたものである。図4(c)及び図4(d)中、縦軸は、スポット強度を示し、横軸は、度数(単位:Dptr)を示す。本実施例1の多焦点眼用レンズ1は、図4(c)及び図4(d)に示されるように、遠用度数、近用度数が、夫々、0Dptr、2.5Dptrであり、加入度数Lが2.5Dptrである。
【実施例2】
【0053】
図5(a)〜図5(d)は、夫々、本実施例2の多焦点眼用レンズ1の形状や光学性能を示す図であり、図4(a)〜図4(d)と同様の図である。本実施例2の多焦点眼用レンズ1は、図5(c)及び図5(d)に示されるように、遠用度数、近用度数が、夫々、0.0Dptr、3.0Dptrであり、加入度数Lが3.0Dptrである。
【実施例3】
【0054】
図6(a)〜図6(d)は、夫々、本実施例3の多焦点眼用レンズ1の形状や光学性能を示す図であり、図4(a)〜図4(d)と同様の図である。本実施例3の多焦点眼用レンズ1は、図6(c)及び図6(d)に示されるように、近軸位置での遠用度数、近用度数が、夫々、0.0Dptr、4.0Dptrであるが、Φ2.0での加入度数Lが2.5Dptrである。
【実施例4】
【0055】
図7(a)〜図7(d)は、夫々、本実施例4の多焦点眼用レンズ1の形状や光学性能を示す図であり、図4(a)〜図4(d)と同様の図である。本実施例4の多焦点眼用レンズ1は、図7(c)及び図7(d)に示されるように、遠用度数、近用度数が、夫々、0.0Dptr、2.0Dptrであり、加入度数Lが2.0Dptrである。ベースカーブにより付与される度数が0.5Dptrのため、最終的な形状では、遠用度数、近用度数が、夫々、0.5Dptr、2.5Dptrである。
【実施例5】
【0056】
図8(a)〜図8(d)は、夫々、本実施例5の多焦点眼用レンズ1の形状や光学性能を示す図であり、図4(a)〜図4(d)と同様の図である。本実施例5の多焦点眼用レンズ1は、図8(c)及び図8(d)に示されるように、遠用度数、近用度数が、夫々、20.3Dptr、22.3Dptrであり、加入度数Lが2.0Dptrである。
【実施例6】
【0057】
図9(a)〜図9(d)は、夫々、本実施例6の多焦点眼用レンズ1の形状や光学性能を示す図であり、図4(a)〜図4(d)と同様の図である。本実施例6の多焦点眼用レンズ1は、図9(c)及び図9(d)に示されるように、遠用度数、近用度数が、夫々、20.3Dptr、23.8Dptrであり、加入度数Lが3.5Dptrである。
【実施例7】
【0058】
図10(a)〜図10(d)は、夫々、本実施例7の多焦点眼用レンズ1の形状や光学性能を示す図であり、図4(a)〜図4(d)と同様の図である。また、図10(e)は、本実施例7の多焦点眼用レンズ1における、入射光束半径と追加ベース度数との関係を示す図である。図10(e)中、縦軸は、追加ベース度数(単位:Dptr)を示し、横軸は、入射光束半径(瞳高さ、単位:mm)を示す。ここに示す追加ベース度数は、本実施例1〜6におけるベースカーブに対して付加される屈折力である。図10(e)に示されるように、本実施例7では、有効光束径全域に亘り、屈折力2.5Dptrが一様に付加されている。具体的には、本実施例7の多焦点眼用レンズ1は、本実施例1〜6の多焦点眼用レンズ1よりもベースカーブがきつい。本実施例7において、屈折力の高いベースカーブを適用すると、0次回折光が近方に、1次回折光が遠方に集光する。また、累進構造により遠方に集光している光が近方に変化するような累進構造になっていることにより、遠方から近方までの中間に対する回折光の利用効率が高くなる。本実施例7の多焦点眼用レンズ1は、図10(c)及び図10(d)に示されるように、遠用度数、近用度数が、夫々、0.0Dptr、2.5Dptrであり、加入度数Lが−2.5Dptrである。
【実施例8】
【0059】
図11(a)〜図11(e)は、本実施例8の多焦点眼用レンズ1の形状や光学性能を示す図である。図11(a)は、ベースカーブに対して付加された周期構造を示す図であり、周期構造形成面からベースカーブ成分を差し引いて表現した断面構造を示す。図11(a)中、縦軸は、ベースカーブに対する形状偏差(形状誤差、単位:μm)を示し、横軸は、入射光束半径(瞳高さ、単位:mm)を示す。図11(b)は、入射光束半径と度数との関係を示す図である。図11(b)中、縦軸は、度数(単位:Dptr)を示し、横軸は、入射光束半径(瞳高さ、単位:mm)を示す。また、図11(b)中、実線は、1次回折光の度数変化を示し、破線は、−1次回折光の度数変化を示す。また、0次光は、加入度数0.0Dptrで一定となっている。図11(c)、図11(d)は、夫々、図4(c)、図4(d)と同様の図である。図11(e)は、図10(e)と同様の図である。図11(e)に示されるように、本実施例8では、入射光束半径1.0mmまで屈折力1.5Dptrが一様に付加され、それ以降、付加される屈折力が減少し、入射光束半径2.5mmにて0Dptrとなる。本実施例8の多焦点眼用レンズ1は、図11(c)及び図11(d)に示されるように、遠用度数、中間度数、近用度数が、夫々、−0.95Dptr、0.0Dptr、0.95Dptrであり、加入度数Lが1.9Dptrである。ベースカーブにより付与される度数が図11(e)となるため、最終的な形状では遠用度数、中間度数、近用度数が、夫々、0.0Dptr、1.5Dptr、3.0Dptrである。
【実施例9】
【0060】
図12(a)〜図12(e)は、夫々、本実施例9の多焦点眼用レンズ1の形状や光学性能を示す図であり、図11(a)〜図11(e)と同様の図である。本実施例9の多焦点眼用レンズ1は、図12(c)及び図12(d)に示されるように、遠用度数、中間度数、近用度数が、夫々、−0.95Dptr、0.0Dptr、0.95Dptrであり、加入度数Lが1.9Dptrである。ベースカーブにより付与される度数が図12(e)となるため、最終的な形状では遠用度数、中間度数、近用度数が、夫々、0.0Dptr、1.5Dptr、3.0Dptrである。
【0061】
(比較例1及び2)
比較例1の多焦点眼用レンズは、ブレーズ型回折構造を有するタイプであり、本実施例1の多焦点眼用レンズ1と同じ加入度数2.5Dptrを持つ。また、比較例2の多焦点眼用レンズは、周期構造型回折構造を有するタイプである。表2に、比較例1及び2の具体的数値構成を示す。
【0062】
【表2】
【0063】
図13(a)〜図13(d)は、夫々、比較例1の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図であり、図4(a)〜図4(d)と同様の図である。比較例1の多焦点眼用レンズは、図13(c)及び図13(d)に示されるように、遠用度数、近用度数が、夫々、0Dptr、2.5Dptrであり、加入度数Lが2.5Dptrである。また、図14(a)〜図14(e)は、夫々、比較例2の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図であり、図11(a)〜図11(e)と同様の図である。比較例2の多焦点眼用レンズは、遠用度数、中間度数、近用度数が、夫々、−1.5Dptr、0.0Dptr、1.5Dptrであり、加入度数Lが3.0Dptrである。ベースカーブにより付与される度数が図14(e)となるため、最終的な形状では遠用度数、中間度数、近用度数が、夫々、0.0Dptr、1.5Dptr、3.0Dptrである。
【0064】
(比較検討)
比較例1の多焦点眼用レンズは、外側の輪帯の方が段差同士の間隔が狭くなるように設計されている。また、条件(2)〜(4)の何れも満たさない。そのため、図13(b)〜図13(d)に示されるように、近用度数と遠用度数の間への度数変化がない(すなわち中間度数がない)。また、外側の輪帯ほど段差同士の間隔が狭くなる構成のため、段差総数が必然的に増加する。このように、比較例1ではフレアの発生因子である段差数が多いため、フレアの発生に伴う結像性能の劣化が大きい。比較例2の多焦点眼用レンズも同様である。すなわち、比較例2の多焦点眼用レンズは、外側の周期(凹凸の形成間隔)の方が狭くなるように設計されている。そのため、図14(b)〜図14(d)に示されるように、近用度数と遠用度数の間への度数変化、すなわち中間度数がない。また、段差数が多いため、フレアの発生に伴う結像性能の劣化が大きい。
【0065】
これに対し、本実施例1〜7の多焦点眼用レンズ1は、外側の輪帯の方が段差同士の間隔が広い構成を有している。別の側面では、条件(2)〜(4)を満たしている。これにより、図4〜図10の各図の(b)〜(d)に示されるように、遠用度数と近用度数との間の中間度数、すなわち度数が変化する領域が存在するため、当該領域に入射した光が中間位置の解像に寄与する。従って、遠方、中間、近方ともに明瞭視でき、十分な被写界深度が得られる。また、段差同士の間隔を広げて段差総数を削減したことにより、段差構造に起因するフレアの発生が有効に抑えられており、結像性能の劣化が小さい。例えば、本実施例1の多焦点眼用レンズ1は、比較例1の多焦点眼用レンズと加入度数が同じであるにも拘わらず、段差総数が少ない(実施例1:9段、比較例1:14段)。また、入射光束半径1.5mm〜2.43mmの部分の光が加入度数の間の位置の解像に寄与するため、十分な被写界深度が達成される。また、本実施例8及び9の多焦点眼用レンズ1は、外側の周期の方が幅広である。そのため、比較例2と異なり、度数が変化する領域が存在することとなり、当該領域に入射した光が中間位置の解像に寄与する。従って、遠方、中間、近方ともに明瞭視でき、十分な被写界深度が得られる。
【0066】
以上が本発明の実施形態の説明である。本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 多焦点眼用レンズ
1x コンタクトレンズ
1y IOL
Rx1、Ry1 第一面
Rx2、Ry2 第二面
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼に処方する多焦点眼用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
白内障の治療を目的として、混濁した水晶体を摘出して眼内レンズ(Intraocular Lens, IOL)を挿入する手術が普及している。この種の手術において、水晶体の摘出によって失われる調整力を補う場合は、多焦点眼内レンズを挿入する。多焦点眼内レンズには、遠方度数又は近方度数をエリア毎に付与した屈折型や、遠方度数と近方度数に配分する回折構造型があり、集光点が光軸方向に複数(遠方視、近方視)に分割されている。すなわち、多焦点眼内レンズは、レンズ装用者が日常生活を眼鏡無しで送れるように、遠方視と近方視の何れの集光点においても視力が確保できるように設計されている。この種の多焦点眼内レンズの具体的構成例は、特許文献1や特許文献2に記載されている。
【0003】
特許文献1には、遠用・近用など、度数毎の専用ゾーンに分割された屈折型多焦点眼内レンズが記載されている。この種の屈折型多焦点眼内レンズは、多焦点の効果がレンズ装用者の瞳孔径に依存して大きく変わるという問題を抱えている。例えば、特許文献1に記載の屈折型多焦点眼内レンズの装用者が晴天時に屋外にいる場合を考える。この場合、レンズ装用者の瞳孔径が絞られることにより、眼内レンズに入射する光束径が遠用ゾーンに制限される。そのため、レンズ装用者は、実質的に遠方視しかできない。
【0004】
一方、回折構造型では、瞳孔径に依存する多焦点の効果の変化が抑えられる。特許文献2には、レンズの片面中央部にアポダイズ回折構造が形成された回折構造型多焦点眼内レンズが記載されている。特許文献2に記載の回折構造型多焦点眼内レンズでは、瞳孔径が小さく絞られた際に近方視することが難しいという状況が生じない。しかし、段差数が多いため、多くの不要光が発生し、視野の広範囲に広がるノイズ(フレア)となり、結像性能が劣化する。また、遠方と近方との中間位置に配分される光量が実質的に無いため、中間位置を明瞭視することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2935750号公報
【特許文献2】特許第3339689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、瞳孔径が小さくなるような明るい場所でも明瞭な遠方視及び近方視を担保するとともに、遠方と近方との中間位置の視野も良好で、かつフレアの発生に伴う結像性能の劣化を抑えるのに好適な多焦点眼用レンズを提供することである。なお、本発明は眼内レンズに限らず、コンタクトレンズ等の別の態様の眼用のレンズにも適用することができる。そのため、上記においては、多焦点「眼用」レンズと記している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決する本発明の一形態に係る多焦点眼用レンズは、少なくとも一面が同心円状の複数の屈折面に分割された輪帯構造を有し、互いに隣り合う屈折面の間に光軸に略水平な方向の段差が形成されている。輪帯構造は、ベースカーブ形状に対して付加されたものである。かかる多焦点眼用レンズは、段差の高さをD(単位:μm)と定義し、e線における多焦点眼用レンズの屈折率をn1と定義し、e線における水の屈折率をn0と定義した場合に、次の条件(1)
0.190<|D×(n1−n0)|<0.370・・・(1)
を満たすとともに、隣り合う二つの屈折面のうち、光軸から遠い側の屈折面を外側屈折面と定義し、光軸に近い側の屈折面を内側屈折面と定義した場合に、外側屈折面の曲率半径がベースカーブ形状に近付くように、内側屈折面の曲率半径とベースカーブ形状の曲率半径との間の値になっている構造を少なくとも1つ有することを特徴とする。
【0008】
また、上記の課題を解決する本発明の別の形態に係る多焦点眼用レンズは、少なくとも一面が同心円状の複数の屈折面に分割された輪帯構造を有し、互いに隣り合う屈折面の間に光軸に略水平な方向の段差が形成されている。輪帯構造は、ベースカーブ形状に対して付加されたものである。かかる多焦点眼用レンズは、段差の高さをD(単位:μm)と定義し、e線における多焦点眼用レンズの屈折率をn1と定義し、e線における水の屈折率をn0と定義するとともに、ベースカーブ形状に対して付加されたフレネルレンズ状の段差による機能を、光軸からの高さh(単位:mm)における光路長付加量の形で表現した関数φ(h)に置き換え、二次、四次の光路差関数係数をそれぞれP2、P4と定義し、段差でe線における屈折率を想定した際に1波長分の光路長差を与えるブレーズ化波長をλB(単位:μm)と定義し、輪帯の光軸上での位相を設定する定数項をP0(−0.5≦P0<0.5の範囲で任意の数をとる。)と定義し、ROUND(X、Y)を、Xを小数点第Y位で四捨五入した値を与える関数としたとき、
φ(h)=(P0+P2・h2+P4・h4−ROUND(P0+P2・h2+P4・h4、1))×λB
λB=|D×(n1−n0)|
を満たすとともに、
次の条件(2)
−0.40<P4/P2<−0.01・・・(2)
を満たすことを特徴とする。
【0009】
また、上記の課題を解決する本発明の別の形態に係る多焦点眼用レンズは、少なくとも一面が同心円状の複数の屈折面に分割された輪帯構造を有し、互いに隣り合う屈折面の間に光軸に略水平な方向の段差が形成されている。輪帯構造は、ベースカーブ形状に対して付加されたものである。かかる多焦点眼用レンズは、輪帯構造のうち、光軸に最も近い第一輪帯段差と、第一輪帯段差の1つ外側の第二輪帯段差との、光軸と直交する方向における配置間隔を(a2−a1)と定義し、輪帯構造の最も外側の最終段差と、最終段差の1つ内側の第一内側段差との、光軸と直交する方向における配置間隔を(alast−alast-1)と定義し、第一内側段差と、第一内側段差の1つ内側の第二内側段差との、光軸と直交する方向における配置間隔を(alast-1−alast-2)と定義した場合に、次の条件(3)及び(4)
0.25<(alast−alast-1)/(a2−a1)<2.00・・・(3)
1.00<(alast−alast-1)/(alast-1−alast-2)<3.00・・・(4)
を同時に満たすことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る多焦点眼用レンズにおいて、ベースカーブ形状の曲率半径をRbase(単位:mm)と定義し、輪帯構造のうちの光軸を含む屈折面の曲率半径をR1(単位:mm)と定義したときに、次の条件(5)
|R1−Rbase|>|Ra−Rbase|・・・(5)
を満たす曲率半径Ra(単位:mm)を有する第一外側屈折面が光軸を含む屈折面の外側にあり、次の条件(6)
|Ra−Rbase|>|Rb−Rbase|・・・(6)
を満たす曲率半径Rb(単位:mm)を有する第二外側屈折面が第一外側屈折面の外側にあってもよい。
【0011】
ここで、第二外側屈折面は、例えば輪帯構造のうち最も外側の屈折面であり、第一外側屈折面は、第二外側屈折面の内側に隣接したものである。
【0012】
上記の別の形態に係る多焦点眼用レンズにおいて、段差の高さをD(単位:μm)と定義し、e線における多焦点眼用レンズの屈折率をn1と定義し、e線における水の屈折率をn0と定義した場合に、次の条件(1)
0.190<|D×(n1−n0)|<0.370・・・(1)
が満たされてもよい。
【0013】
本発明に係る多焦点眼用レンズは、輪帯構造の最も外側の最終輪帯が、最終輪帯の外側に位置するベースカーブ形状に滑らかに接続された構成であってもよい。
【0014】
また、上記の課題を解決する本発明の別の形態に係る多焦点眼用レンズは、少なくとも一面に同心円状の周期構造が形成されたものである。周期構造は、ベースカーブ形状に対して付加された、周期が異なる複数の凹凸形状が多焦点眼用レンズの半径方向に繰り返し配置された輪帯構造である。かかる多焦点眼用レンズは、周期構造の光軸方向の最小厚みと最大厚みとの差をDm(単位:μm)と定義し、e線における多焦点眼用レンズの屈折率をn1と定義し、e線における水の屈折率をn0と定義した場合に、次の条件(7)
0.190<|Dm×(n1−n0)|<0.370・・・(7)
を満たすとともに、互いに隣り合う二つの周期のうち、光軸から遠い側の周期を外側周期と定義し、光軸に近い側の周期を内側周期と定義した場合に、外側周期が内側周期よりも幅広となる構造を少なくとも1つ有することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る多焦点眼用レンズは、例えば樹脂成形品である。この場合、多焦点眼用レンズの屈折率n1は、例えば次の条件(8)
1.38<n1<1.75・・・(8)
を満たす。
【0016】
本発明に係る多焦点眼用レンズは、e線の光束を入射光束径2.0mmで入射させた際に輪帯構造で回折効率が最大となる光の収束位置と、回折効率が2番目に高い光の収束位置から求められる加入度数の絶対値をL(単位:Dptr)と定義した場合に、次の条件(9)
1.0<L<5.0・・・(9)
を満たす構成としてもよい。
【0017】
本発明に係る多焦点眼用レンズは、輪帯構造の最も外側の最終輪帯とベースカーブ形状との接続位置の瞳高さ(輪帯構造の終了位置)をhmaxと定義した場合に、次の条件(10)
1.2<hmax<4.0・・・(10)
を満たす構成としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、瞳孔径が小さくなるような明るい場所でも明瞭な遠方視及び近方視を担保するとともに、遠方と近方との中間位置の視野も良好で、かつフレアの発生に伴う結像性能の劣化を抑えるのに好適な多焦点眼用レンズが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態の多焦点眼用レンズの側断面図である。
【図2】本発明の実施形態のコンタクトレンズの断面構造図である。
【図3】各輪帯の各配置間隔を説明するための図を示す。
【図4】本発明の実施例1の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図5】本発明の実施例2の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図6】本発明の実施例3の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図7】本発明の実施例4の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図8】本発明の実施例5の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図9】本発明の実施例6の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図10】本発明の実施例7の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図11】本発明の実施例8の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図12】本発明の実施例9の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図13】比較例1の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図14】比較例2の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図である。
【図15】本発明の実施形態の多焦点眼用レンズの側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る多焦点眼用レンズについて説明する。
【0021】
本発明は、コンタクトレンズにもIOLにも適用することができる。図1(a)、図15(a)は、本発明を適用して設計されたコンタクトレンズ1xの一実施形態を示す側断面図であり、図1(b)、図15(b)は、本発明を適用して設計されたIOL1yの一実施形態を示す側断面図である。本明細書中、コンタクトレンズ1x、IOL1yをはじめとする、本発明を適用して設計される多焦点眼用レンズを「多焦点眼用レンズ1」と総称する。多焦点眼用レンズ1は、例えば、屈折率n1が次の条件(8)を満たす材料によって成形された樹脂成形品である。
1.38<n1<1.75・・・(8)
多焦点眼用レンズ1で使用される材料には、例えばシリコーン、アクリル樹脂、Hydroxyethyl Methacrylate(HEMA)等が想定される。
【0022】
図1(a)及び図1(b)に示されるように、本実施形態の多焦点眼用レンズ1は、光軸を中心とした回転対称形状を有しており、同心円状の複数の屈折面に分割された輪帯構造が一面に形成されている。輪帯構造は、ベースカーブ形状に対して付加されたものであり、互いに隣り合う屈折面の間に、光軸に略水平な方向の段差が形成されている。但し、輪帯構造は、一面全体に形成されているわけではない。多焦点眼用レンズ1の周辺部は、輪帯構造でなくベースカーブ形状となっている。輪帯構造の最も外側の最終輪帯は、最終輪帯の外側に位置するベースカーブ形状に滑らかに接続されている。すなわち、最終輪帯の屈折面とベースカーブ形状(屈折面)とが段差無く連続的に接続されている。「段差無く連続的に接続」とは、最終輪帯の屈折面の接線と、ベースカーブ面の接線とがなす角度が鈍角である状態をいう。最終輪帯とベースカーブ形状との間の段差を削減することにより、段差構造に起因するフレアの発生が有効に抑えられる。なお、輪帯構造は、一面に限らず、各面に分担させるようにして設けてもよい。
【0023】
図1(a)に示されるように、コンタクトレンズ1xは、第一面Rx1、第二面Rx2を有している。コンタクトレンズ1xの装用時、第一面Rx1は物体側に位置し、第二面Rx2は像側に位置する。コンタクトレンズ1xにおいては、第二面Rx2側に輪帯構造が設けられている。また、図1(b)に示されるように、IOL1yは、第一面Ry1、第二面Ry2を有している。IOL1yの装用時、第一面Ry1は物体側に位置し、第二面Ry2は像側に位置する。IOL1yにおいては、第一面Ry1側に輪帯構造が設けられている。
【0024】
図2は、各種定義を説明するための図であり、コンタクトレンズ1xの断面構造図を示す。図2中、縦軸は、サグ量(単位:mm)を示し、横軸は、瞳高さh(単位:mm)を示す。また、図2中、実線は、実形状(第二面Rx2の形状)を示し、点線は、ベースカーブ形状を示す。また、実線の下側が涙液側であり、実線の上側がレンズ体側である。また、図2中、光軸に対する段差の位置(光軸との距離)を段差位置a(単位:mm)と定義し、段差の光軸方向の高さを段差高さD(単位:μm)と定義する。ここで、段差高さDは、レンズ体が肉厚になる方向に正の符号をとる。また、ベースカーブに対して図2中下側の形状偏差(形状誤差)に正の符号を付し、ベースカーブに対して図2中上側の形状偏差(形状誤差)に負の符号を付す。
【0025】
輪帯構造は、回折作用を付与する回折構造とも称される。輪帯構造は、例えば鋸歯形状を有するブレーズ型回折構造であり、次の光路差関数(h)で表現することができる。光路差関数(h)は、輪帯構造の回折レンズとしての機能を光軸からの高さh(単位:mm)における光路長付加量の形で表現した関数であり、輪帯構造における各段差の設置位置を規定する。光路差関数(h)は、二次、四次、六次、・・・の光路差関数係数をそれぞれP2、P4、P6、・・・と定義し、波長λの光の回折効率が最大となる回折次数をmと定義した場合に、次の式により表される。
光路差関数(h)=(P2h2+P4h4+P6h6+P8h8+P10h10+P12h12)mλ
【0026】
ここで、従来の多焦点眼用レンズは、入射光束を分割して遠方視側集光点と近方視側集光点にそれぞれ集光させる。しかし、これでは、患者が遠方視側集光点と近方視側集光点との間の中間位置を明瞭視できないという問題を存する。そこで、本実施形態の多焦点眼用レンズ1は、入射光束を分割し、遠方視側集光点、近方視側集光点に加えて、中間位置にも集光させることにより、被写界深度を深くして、中間位置も明瞭視できるように構成されている。
【0027】
具体的には、本実施形態の多焦点眼用レンズ1は、設計波長(e線(546nm))における多焦点眼用レンズ1の屈折率をn1と定義し、e線における水の屈折率をn0と定義した場合に、次の条件(1)
0.190<|D×(n1−n0)|<0.370・・・(1)
を満たすように構成されている。
【0028】
本実施形態の多焦点眼用レンズ1において、遠方視及び近方視するためには、1次回折次数を用いて近用と遠用の加入度数の差をつけるための加入度数を付加しつつ、1次回折光と0次回折光の回折効率をe線において一定範囲内にバランスさせるように設計する必要がある。しかし、条件(1)の下限を下回ると、0次回折光の回折効率が低くなりすぎる(例えば20%を切る)ため、光量不足により、遠方視(もしくは近方視)が難しくなる。条件(1)の上限を上回ると、1次回折光の回折効率が低くなりすぎる(例えば20%を切る)ため、光量不足により、近方視(もしくは遠方視)が難しくなる。条件(1)を満足する場合は、遠方、近方とも明瞭視することができる。
【0029】
本実施形態の多焦点眼用レンズ1は、更に、輪帯構造において隣り合う二つの屈折面のうち、光軸から遠い側の屈折面を外側屈折面と定義し、光軸に近い側の屈折面を内側屈折面と定義した場合に、外側屈折面の曲率半径がベースカーブ形状に近付くように、内側屈折面の曲率半径とベースカーブ形状の曲率半径との間の値になっている構造を少なくとも1つ有するように構成されている。
【0030】
このように、外側の輪帯の方が段差同士の間隔が広い構成を付与することにより、近用(もしくは遠用)に配分されていた回折パワーが弱くなり、今まで近方視側集光点(もしくは遠方視側集光点)に集光していた光の一部が遠方視側集光点と近方視側集光点との間の中間位置にも集光するようになる。そのため、患者は、中間位置も明瞭視できるようになる。すなわち、本発明者は、多焦点眼用レンズの技術分野において、ベースカーブ形状に対して付与される輪帯構造の段差同士の間隔が一定又は外側ほど狭くなるという本件特許出願時の当該分野の技術常識の殻を破り、外側の輪帯の方が段差同士の間隔が広い構成を想起し、これにより、遠方、中間、近方ともに明瞭視可能な被写界深度が深い多焦点眼用レンズを実現させた。なお、中間位置の集光点は、外側屈折面の曲率半径がベースカーブ形状の曲率半径に近付くほど、ベースカーブの焦点位置に近付く。また、段差同士の間隔が広がることに伴い、輪帯構造の段差総数が減少するため、フレアの発生も少なくなる。このように、本実施形態の多焦点眼用レンズ1によれば、瞳孔径が小さくなるような明るい場所でも明瞭な遠方視及び近方視が担保されるとともに、遠方と近方との中間位置の視界も良好で、かつフレアの発生に伴う結像性能の劣化も抑えられる。
【0031】
本実施形態の多焦点眼用レンズ1の構成は、次のように表現することもできる。具体的には、多焦点眼用レンズ1は、ベースカーブ形状に対して付加されたフレネルレンズ状の段差による機能を、光軸からの瞳高さh(単位:mm)における光路長付加量の形で表現した関数φ(h)に置き換え、二次、四次の光路差関数係数をそれぞれP2、P4と定義し、各段差でe線における屈折率を想定した際に1波長分の光路長差を与えるブレーズ化波長をλB(単位:μm)と定義し、フレネルレンズ状の輪帯の光軸上での位相を設定する定数項をP0(−0.5≦P0<0.5の範囲で任意の数をとる。)と定義し、ROUND(X、Y)を、Xを小数点第Y位で四捨五入した値を与える関数としたとき、
φ(h)=(P0+P2・h2+P4・h4−ROUND(P0+P2・h2+P4・h4、1))×λB
λB=|D×(n1−n0)|
を満たすとともに、
次の条件(2)
−0.40<P4/P2<−0.01・・・(2)
を満たすように構成されている。(P0+P2・h2+P4・h4−ROUND(P0+P2・h2+P4・h4、1))の値が0.5になる瞳高さhが輪帯の境界に当たる。多焦点眼用レンズ1は、ベースカーブ形状に対し、関数φ(h)の光路差を持つように勾配及び段差が付加されることにより、フレネルレンズ状の輪帯構造が形成されている。
【0032】
ここで、球面収差と同様の光学作用を規定する光路差関数係数P4が、回折パワーを規定する光路差関数係数P2の逆符号をとることは、外側の輪帯の方が段差同士の間隔が広い構成を有することを意味する。そのため、本例においても、患者は、中間位置も明瞭視できるようになる。また、段差同士の間隔が広がることに伴い、輪帯構造の段差総数が減少するため、フレアの発生も少なくなる。
【0033】
上記において、条件(2)の下限を下回ると、輪帯構造によって付与される度数変化(近用度数から中間度数を経て遠用度数に至るまでの変化)が急激であるため、結果的に中間位置に振り分けられる輪帯構造の径が小さくなる。そのため、中間位置の光量が大幅に不足し、十分な被写界深度が得られない。また、条件(2)の上限を上回ると、度数変化が緩やかになりすぎるため、結果的に輪帯構造全体の径が大きくなる。この場合、中間位置の光量が大幅に不足し、十分な被写界深度が得られない。特に、瞳孔径を大きく開けない高齢者にとっては、中間位置の光量がより一層不足する。条件(2)を満足する場合は、遠方、中間、近方ともに明瞭視でき、十分な被写界深度が得られる。
【0034】
なお、本例の多焦点眼用レンズ1においても、条件(1)を満たすと尚よい。
【0035】
また、本実施形態の多焦点眼用レンズ1の構成は、次のように表現することもできる。具体的には、多焦点眼用レンズ1は、輪帯構造の第一輪帯段差と第二輪帯段差との、光軸と直交する方向における配置間隔を(a2−a1)と定義し、最終段差と第一内側段差との、光軸と直交する方向における配置間隔を(alast−alast-1)と定義し、第一内側段差と第二内側段差との、光軸と直交する方向における配置間隔を(alast-1−alast-2)と定義した場合に、次の条件(3)及び(4)
0.25<(alast−alast-1)/(a2−a1)<2.00・・・(3)
1.00<(alast−alast-1)/(alast-1−alast-2)<3.00・・・(4)
を同時に満たすように構成されている。
【0036】
図3に、各配置間隔を説明するための図を示す。図3の縦軸は、ベースカーブに対して付加された輪帯構造(別の表現によれば、ベースカーブに対する形状偏差(形状誤差)であって、輪帯構造形成面からベースカーブ成分を差し引いて表現した断面構造)(単位:μm))を示し、横軸は、入射光束半径(単位:mm)を示す。図3に示されるように、配置間隔(a2−a1)を規定する第一輪帯段差、第二輪帯段差は、夫々、光軸に最も近い段差、第一輪帯段差の1つ外側の段差である。また、配置間隔(alast−alast-1)を規定する最終段差、第一内側段差は、夫々、輪帯構造の最も外側の段差、最終段差の1つ内側の段差である。また、配置間隔(alast-1−alast-2)を規定する第二内側段差は、第一内側段差の1つ内側の段差である。なお、図3に示されるように、最終段差とベースカーブ形状は、その接続点(図3中、輪帯終了位置hmax)において滑らかに接続されている。
【0037】
条件(3)の下限を下回ると、中心付近に対して周辺の度数変化が急激であるため、結果的に中間位置に振り分けられる輪帯構造の径が小さくなる。そのため中間位置の光量が大幅に不足し、十分な被写界深度を得られない。条件(3)の上限を上回ると、中心付近の度数が非常に強く、周辺の度数変化が緩やかになりすぎるため、結果的に輪帯構造全体の径が大きくなる。この場合、瞳孔が広がっても中間域に分配される光量が不足し、十分な被写界深度を得られない。また、高齢者のように瞳孔径の大きさがそれほど大きくならない場合には、さらに影響が大きい。条件(3)を満たす場合は、遠方、中間、近方ともの瞳孔径が変化した際にも明瞭視でき、十分な被写界深度が得られる。
【0038】
また、条件(4)の下限を下回ると、度数変化が急激であるため、結果的に累進効果を持つ輪帯構造の径が小さくなる。そのため、中間位置の光量が大幅に不足し、十分な被写界深度が得られない。また、条件(4)の上限を上回ると、度数変化が緩やかになりすぎるため、結果的に輪帯構造全体の径が大きくなる。この場合、中間位置の光量が大幅に不足し、十分な被写界深度が得られない。特に、瞳孔径を大きく開けない高齢者にとっては、中間位置の光量がより一層不足する。条件(4)を満足する場合は、遠方、中間、近方ともに明瞭視でき、十分な被写界深度が得られる。
【0039】
なお、本例の多焦点眼用レンズ1においても、条件(1)を満たすと尚よい。
【0040】
上記3例の多焦点眼用レンズ1は、ベースカーブ形状の曲率半径をRbase(単位:mm)と定義し、輪帯構造のうちの光軸を含む屈折面の曲率半径をR1(単位:mm)と定義したときに、次の条件(5)
|R1−Rbase|>|Ra−Rbase|・・・(5)
を満たす曲率半径Ra(単位:mm)を有する第一外側屈折面が光軸を含む屈折面の外側にあり、次の条件(6)
|Ra−Rbase|>|Rb−Rbase|・・・(6)
を満たす曲率半径Rb(単位:mm)を有する第二外側屈折面が第一外側屈折面の外側にある構成としてもよい。また、第二外側屈折面は、例えば、輪帯構造のうち最も外側の屈折面であり、第一外側屈折面は、第二外側屈折面の内側に隣接したものとしてもよい。
【0041】
上記3例の輪帯構造は何れも、鋸歯形状を有する所謂ブレーズ型回折構造の一種であるが、本実施形態の変形例では、ブレーズ型回折構造に代えて、周期構造型の輪帯構造を適用してもよい。具体的には、変形例の多焦点眼用レンズ1の周期構造は、ベースカーブ形状に対して付加された、同心円状の輪帯構造であり、周期が異なる複数の凹凸形状が多焦点眼用レンズ1の半径方向に繰り返し配置された構成となっている。変形例の多焦点眼用レンズ1は、周期構造の光軸方向の最小厚みと最大厚みとの差をDm(単位:μm)と定義した場合に、次の条件(7)
0.190<|Dm×(n1−n0)|<0.370・・・(7)
を満たすように構成されている。
【0042】
変形例の多焦点眼用レンズ1においても、遠方視及び近方視するため、1次回折次数を用いて近用と遠用の加入度数の差をつけるための加入度数を付加しつつ、1次回折光と0次回折光の回折効率をe線において一定範囲内にバランスさせるように設計する必要がある。しかし、条件(7)の下限を下回ると、0次回折光の回折効率が低くなりすぎる(例えば20%を切る)ため、光量不足により、遠方視(もしくは近方視)が難しくなる。条件(7)の上限を上回ると、1次回折光の回折効率が低くなりすぎる(例えば20%を切る)ため、光量不足により、近方視(もしくは遠方視)が難しくなる。条件(7)を満足する場合は、遠方、近方とも明瞭視することができる。
【0043】
変形例の多焦点眼用レンズ1は、更に、周期構造において隣り合う二つの周期のうち、光軸から遠い側の周期を外側周期と定義し、光軸に近い側の周期を内側周期と定義した場合に、外側周期が内側周期よりも幅広となる構造を少なくとも1つ有するように構成されている。
【0044】
このように、外側の周期(凹凸の形成間隔)の方が広い構成を付与することにより、近用に配分されていた回折パワーが弱くなり、今まで近方視側集光点に集光していた光の一部が遠方視側集光点と近方視側集光点との間の中間位置にも集光するようになる。そのため、患者は、中間位置も明瞭視できるようになる。また、周期が広がることに伴い、凹凸形状の総数が減少するため、フレアの発生も少なくなる。このように、変形例の多焦点眼用レンズ1によれば、瞳孔径が小さくなるような明るい場所でも明瞭な遠方視及び近方視が担保されるとともに、遠方と近方との中間位置の視界も良好で、かつフレアの発生に伴う結像性能の劣化も抑えられる。
【0045】
また、本実施形態の多焦点眼用レンズ1は、e線の光束を入射光束径2.0mm(例えば明るい場所に居る患者の瞳孔径に相当)で入射させた際に輪帯構造で回折効率が最大となる光の収束位置と、回折効率が2番目に高い光の収束位置(すなわち遠方視側集光位置と近方視側集光位置)から求められる加入度数の絶対値をL(単位:Dptr)と定義した場合に、次の条件(9)
1.0<L<5.0・・・(9)
を満たす構成としてもよい。
【0046】
条件(9)の下限を下回ると、十分な近用度数が得られないため、近方視することができない。また、条件(9)の上限を上回ると、近用度数が高すぎて、却って眼精疲労を引き起こす虞がある。
【0047】
また、本実施形態の多焦点眼用レンズ1は、輪帯構造の最も外側の最終輪帯とベースカーブ形状との接続位置の瞳高さ(輪帯構造の終了位置)をhmaxと定義した場合に、次の条件(10)
1.2<hmax<4.0・・・(10)
を満たす構成としてもよい。
【0048】
条件(10)の下限を下回ると、輪帯構造全体の径が小さすぎるため、結果的に度数変化が急激になる。そのため、近方及び中間位置の光量が大幅に不足し、十分な被写界深度が得られない。また、条件(10)の上限を上回ると、輪帯構造全体の径が大きすぎるため、度数変化が緩やかになりすぎる。この場合、中間位置の光量が大幅に不足し、十分な被写界深度が得られない。特に、瞳孔径を大きく開けない高齢者にとっては、中間位置の光量がより一層不足する。条件(10)を満足する場合は、遠方、中間、近方ともに明瞭視でき、十分な被写界深度が得られる。
【0049】
次に、これまで説明した多焦点眼用レンズ1の具体的数値実施例を9例説明する。本発明の実施例1〜7の多焦点眼用レンズ1は、ブレーズ型回折構造を有するタイプであり、本実施例8、9の多焦点眼用レンズ1は、周期構造型の輪帯構造を有するタイプである。
また、本実施例5、6の多焦点眼用レンズ1は、IOLであり、それ以外の実施例の多焦点眼用レンズ1は、コンタクトレンズである。本実施例1〜4、8、9の多焦点眼用レンズ1の概略的なレンズ断面図は、図1(a)を援用する。本実施例5、6の多焦点眼用レンズ1については図1(b)を援用する。本実施例7の多焦点眼用レンズ1については図15(a)を援用する。表1に、本実施例1〜9の具体的数値構成を示す。なお、表1中、「切替位置」は、近用度数から中間度数への変化が始まる瞳高さ(単位:mm)を示す。また、表1中、第一面ベースカーブ(単位:mm)は、物体側の面のベースカーブを示し、第二面ベースカーブ(単位:mm)は、像側の面のベースカーブを示す。中心厚(単位:mm)は、光軸上における多焦点眼用レンズ1の厚みを示す。
【0050】
本実施形態では、図1(a)と図1(b)、図15(a)と図15(b)は、夫々、条件(1)が同等となるように段差高さDを決定し形状を設計する場合、同等の技術的効果を有するコンタクトレンズとIOLの相互変換が可能である。すなわち、同等の技術的効果を有するコンタクトレンズとIOLを製造することができる。
【0051】
【表1】
【実施例1】
【0052】
図4(a)〜図4(d)は、本実施例1の多焦点眼用レンズ1の形状や光学性能を示す図である。図4(a)は、ベースカーブに対して付加された輪帯構造を示す図であり、輪帯構造形成面からベースカーブ成分を差し引いて表現した断面構造を示す。図4(a)中、縦軸は、ベースカーブに対する形状偏差(形状誤差、単位:μm)を示し、横軸は、入射光束半径(瞳高さ、単位:mm)を示す。図4(b)は、入射光束半径と度数との関係を示す図である。図4(b)中、縦軸は、度数(単位:Dptr)を示し、横軸は、入射光束半径(瞳高さ、単位:mm)を示す。図4(c)、図4(d)は、夫々、e線の光束を入射光束半径2.0mm、4.0mmで入射させた際の、スポット強度と度数(単位:Dptr)との関係を示す図である。図4(c)及び図4(d)に示す度数は、輪帯構造によって付与される度数であり、ベースカーブによって付与される度数を差し引いたものである。図4(c)及び図4(d)中、縦軸は、スポット強度を示し、横軸は、度数(単位:Dptr)を示す。本実施例1の多焦点眼用レンズ1は、図4(c)及び図4(d)に示されるように、遠用度数、近用度数が、夫々、0Dptr、2.5Dptrであり、加入度数Lが2.5Dptrである。
【実施例2】
【0053】
図5(a)〜図5(d)は、夫々、本実施例2の多焦点眼用レンズ1の形状や光学性能を示す図であり、図4(a)〜図4(d)と同様の図である。本実施例2の多焦点眼用レンズ1は、図5(c)及び図5(d)に示されるように、遠用度数、近用度数が、夫々、0.0Dptr、3.0Dptrであり、加入度数Lが3.0Dptrである。
【実施例3】
【0054】
図6(a)〜図6(d)は、夫々、本実施例3の多焦点眼用レンズ1の形状や光学性能を示す図であり、図4(a)〜図4(d)と同様の図である。本実施例3の多焦点眼用レンズ1は、図6(c)及び図6(d)に示されるように、近軸位置での遠用度数、近用度数が、夫々、0.0Dptr、4.0Dptrであるが、Φ2.0での加入度数Lが2.5Dptrである。
【実施例4】
【0055】
図7(a)〜図7(d)は、夫々、本実施例4の多焦点眼用レンズ1の形状や光学性能を示す図であり、図4(a)〜図4(d)と同様の図である。本実施例4の多焦点眼用レンズ1は、図7(c)及び図7(d)に示されるように、遠用度数、近用度数が、夫々、0.0Dptr、2.0Dptrであり、加入度数Lが2.0Dptrである。ベースカーブにより付与される度数が0.5Dptrのため、最終的な形状では、遠用度数、近用度数が、夫々、0.5Dptr、2.5Dptrである。
【実施例5】
【0056】
図8(a)〜図8(d)は、夫々、本実施例5の多焦点眼用レンズ1の形状や光学性能を示す図であり、図4(a)〜図4(d)と同様の図である。本実施例5の多焦点眼用レンズ1は、図8(c)及び図8(d)に示されるように、遠用度数、近用度数が、夫々、20.3Dptr、22.3Dptrであり、加入度数Lが2.0Dptrである。
【実施例6】
【0057】
図9(a)〜図9(d)は、夫々、本実施例6の多焦点眼用レンズ1の形状や光学性能を示す図であり、図4(a)〜図4(d)と同様の図である。本実施例6の多焦点眼用レンズ1は、図9(c)及び図9(d)に示されるように、遠用度数、近用度数が、夫々、20.3Dptr、23.8Dptrであり、加入度数Lが3.5Dptrである。
【実施例7】
【0058】
図10(a)〜図10(d)は、夫々、本実施例7の多焦点眼用レンズ1の形状や光学性能を示す図であり、図4(a)〜図4(d)と同様の図である。また、図10(e)は、本実施例7の多焦点眼用レンズ1における、入射光束半径と追加ベース度数との関係を示す図である。図10(e)中、縦軸は、追加ベース度数(単位:Dptr)を示し、横軸は、入射光束半径(瞳高さ、単位:mm)を示す。ここに示す追加ベース度数は、本実施例1〜6におけるベースカーブに対して付加される屈折力である。図10(e)に示されるように、本実施例7では、有効光束径全域に亘り、屈折力2.5Dptrが一様に付加されている。具体的には、本実施例7の多焦点眼用レンズ1は、本実施例1〜6の多焦点眼用レンズ1よりもベースカーブがきつい。本実施例7において、屈折力の高いベースカーブを適用すると、0次回折光が近方に、1次回折光が遠方に集光する。また、累進構造により遠方に集光している光が近方に変化するような累進構造になっていることにより、遠方から近方までの中間に対する回折光の利用効率が高くなる。本実施例7の多焦点眼用レンズ1は、図10(c)及び図10(d)に示されるように、遠用度数、近用度数が、夫々、0.0Dptr、2.5Dptrであり、加入度数Lが−2.5Dptrである。
【実施例8】
【0059】
図11(a)〜図11(e)は、本実施例8の多焦点眼用レンズ1の形状や光学性能を示す図である。図11(a)は、ベースカーブに対して付加された周期構造を示す図であり、周期構造形成面からベースカーブ成分を差し引いて表現した断面構造を示す。図11(a)中、縦軸は、ベースカーブに対する形状偏差(形状誤差、単位:μm)を示し、横軸は、入射光束半径(瞳高さ、単位:mm)を示す。図11(b)は、入射光束半径と度数との関係を示す図である。図11(b)中、縦軸は、度数(単位:Dptr)を示し、横軸は、入射光束半径(瞳高さ、単位:mm)を示す。また、図11(b)中、実線は、1次回折光の度数変化を示し、破線は、−1次回折光の度数変化を示す。また、0次光は、加入度数0.0Dptrで一定となっている。図11(c)、図11(d)は、夫々、図4(c)、図4(d)と同様の図である。図11(e)は、図10(e)と同様の図である。図11(e)に示されるように、本実施例8では、入射光束半径1.0mmまで屈折力1.5Dptrが一様に付加され、それ以降、付加される屈折力が減少し、入射光束半径2.5mmにて0Dptrとなる。本実施例8の多焦点眼用レンズ1は、図11(c)及び図11(d)に示されるように、遠用度数、中間度数、近用度数が、夫々、−0.95Dptr、0.0Dptr、0.95Dptrであり、加入度数Lが1.9Dptrである。ベースカーブにより付与される度数が図11(e)となるため、最終的な形状では遠用度数、中間度数、近用度数が、夫々、0.0Dptr、1.5Dptr、3.0Dptrである。
【実施例9】
【0060】
図12(a)〜図12(e)は、夫々、本実施例9の多焦点眼用レンズ1の形状や光学性能を示す図であり、図11(a)〜図11(e)と同様の図である。本実施例9の多焦点眼用レンズ1は、図12(c)及び図12(d)に示されるように、遠用度数、中間度数、近用度数が、夫々、−0.95Dptr、0.0Dptr、0.95Dptrであり、加入度数Lが1.9Dptrである。ベースカーブにより付与される度数が図12(e)となるため、最終的な形状では遠用度数、中間度数、近用度数が、夫々、0.0Dptr、1.5Dptr、3.0Dptrである。
【0061】
(比較例1及び2)
比較例1の多焦点眼用レンズは、ブレーズ型回折構造を有するタイプであり、本実施例1の多焦点眼用レンズ1と同じ加入度数2.5Dptrを持つ。また、比較例2の多焦点眼用レンズは、周期構造型回折構造を有するタイプである。表2に、比較例1及び2の具体的数値構成を示す。
【0062】
【表2】
【0063】
図13(a)〜図13(d)は、夫々、比較例1の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図であり、図4(a)〜図4(d)と同様の図である。比較例1の多焦点眼用レンズは、図13(c)及び図13(d)に示されるように、遠用度数、近用度数が、夫々、0Dptr、2.5Dptrであり、加入度数Lが2.5Dptrである。また、図14(a)〜図14(e)は、夫々、比較例2の多焦点眼用レンズの形状や光学性能を示す図であり、図11(a)〜図11(e)と同様の図である。比較例2の多焦点眼用レンズは、遠用度数、中間度数、近用度数が、夫々、−1.5Dptr、0.0Dptr、1.5Dptrであり、加入度数Lが3.0Dptrである。ベースカーブにより付与される度数が図14(e)となるため、最終的な形状では遠用度数、中間度数、近用度数が、夫々、0.0Dptr、1.5Dptr、3.0Dptrである。
【0064】
(比較検討)
比較例1の多焦点眼用レンズは、外側の輪帯の方が段差同士の間隔が狭くなるように設計されている。また、条件(2)〜(4)の何れも満たさない。そのため、図13(b)〜図13(d)に示されるように、近用度数と遠用度数の間への度数変化がない(すなわち中間度数がない)。また、外側の輪帯ほど段差同士の間隔が狭くなる構成のため、段差総数が必然的に増加する。このように、比較例1ではフレアの発生因子である段差数が多いため、フレアの発生に伴う結像性能の劣化が大きい。比較例2の多焦点眼用レンズも同様である。すなわち、比較例2の多焦点眼用レンズは、外側の周期(凹凸の形成間隔)の方が狭くなるように設計されている。そのため、図14(b)〜図14(d)に示されるように、近用度数と遠用度数の間への度数変化、すなわち中間度数がない。また、段差数が多いため、フレアの発生に伴う結像性能の劣化が大きい。
【0065】
これに対し、本実施例1〜7の多焦点眼用レンズ1は、外側の輪帯の方が段差同士の間隔が広い構成を有している。別の側面では、条件(2)〜(4)を満たしている。これにより、図4〜図10の各図の(b)〜(d)に示されるように、遠用度数と近用度数との間の中間度数、すなわち度数が変化する領域が存在するため、当該領域に入射した光が中間位置の解像に寄与する。従って、遠方、中間、近方ともに明瞭視でき、十分な被写界深度が得られる。また、段差同士の間隔を広げて段差総数を削減したことにより、段差構造に起因するフレアの発生が有効に抑えられており、結像性能の劣化が小さい。例えば、本実施例1の多焦点眼用レンズ1は、比較例1の多焦点眼用レンズと加入度数が同じであるにも拘わらず、段差総数が少ない(実施例1:9段、比較例1:14段)。また、入射光束半径1.5mm〜2.43mmの部分の光が加入度数の間の位置の解像に寄与するため、十分な被写界深度が達成される。また、本実施例8及び9の多焦点眼用レンズ1は、外側の周期の方が幅広である。そのため、比較例2と異なり、度数が変化する領域が存在することとなり、当該領域に入射した光が中間位置の解像に寄与する。従って、遠方、中間、近方ともに明瞭視でき、十分な被写界深度が得られる。
【0066】
以上が本発明の実施形態の説明である。本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 多焦点眼用レンズ
1x コンタクトレンズ
1y IOL
Rx1、Ry1 第一面
Rx2、Ry2 第二面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一面が同心円状の複数の屈折面に分割された輪帯構造を有し、互いに隣り合う該屈折面の間に光軸に略水平な方向の段差が形成された多焦点眼用レンズであって、
前記輪帯構造は、ベースカーブ形状に対して付加されたものであり、
前記段差の高さをD(単位:μm)と定義し、e線における前記多焦点眼用レンズの屈折率をn1と定義し、e線における水の屈折率をn0と定義した場合に、次の条件(1)
0.190<|D×(n1−n0)|<0.370・・・(1)
を満たすとともに、
前記隣り合う二つの屈折面のうち、前記光軸から遠い側の屈折面を外側屈折面と定義し、該光軸に近い側の屈折面を内側屈折面と定義した場合に、該外側屈折面の曲率半径が前記ベースカーブ形状に近付くように、該内側屈折面の曲率半径と該ベースカーブ形状の曲率半径との間の値になっている構造を少なくとも1つ有することを特徴とする、多焦点眼用レンズ。
【請求項2】
少なくとも一面が同心円状の複数の屈折面に分割された輪帯構造を有し、互いに隣り合う該屈折面の間に光軸に略水平な方向の段差が形成された多焦点眼用レンズであって、
前記輪帯構造は、ベースカーブ形状に対して付加されたものであり、
前記段差の高さをD(単位:μm)と定義し、e線における前記多焦点眼用レンズの屈折率をn1と定義し、e線における水の屈折率をn0と定義するとともに、
ベースカーブ形状に対して付加されたフレネルレンズ状の段差による機能を、光軸からの高さh(単位:mm)における光路長付加量の形で表現した関数φ(h)に置き換え、二次、四次の光路差関数係数をそれぞれP2、P4と定義し、該段差でe線における屈折率を想定した際に1波長分の光路長差を与えるブレーズ化波長をλB(単位:μm)と定義し、該輪帯の光軸上での位相を設定する定数項をP0(−0.5≦P0<0.5の範囲で任意の数をとる。)と定義し、
ROUND(X、Y)を、Xを小数点第Y位で四捨五入した値を与える関数としたとき、
φ(h)=(P0+P2・h2+P4・h4−ROUND(P0+P2・h2+P4・h4、1))×λB
λB=|D×(n1−n0)|
を満たすとともに、
次の条件(2)
−0.40<P4/P2<−0.01・・・(2)
を満たすことを特徴とする、多焦点眼用レンズ。
【請求項3】
少なくとも一面が同心円状の複数の屈折面に分割された輪帯構造を有し、互いに隣り合う該屈折面の間に光軸に略水平な方向の段差が形成された多焦点眼用レンズであって、
前記輪帯構造は、ベースカーブ形状に対して付与されたものであり、
前記輪帯構造のうち、光軸に最も近い第一輪帯段差と、該第一輪帯段差の1つ外側の第二輪帯段差との、該光軸と直交する方向における配置間隔を(a2−a1)と定義し、該輪帯構造の最も外側の最終段差と、該最終段差の1つ内側の第一内側段差との、該光軸と直交する方向における配置間隔を(alast−alast-1)と定義し、該第一内側段差と、該第一内側段差の1つ内側の第二内側段差との、該光軸と直交する方向における配置間隔を(alast-1−alast-2)と定義した場合に、次の条件(3)及び(4)
0.25<(alast−alast-1)/(a2−a1)<2.00・・・(3)
1.00<(alast−alast-1)/(alast-1−alast-2)<3.00・・・(4)
を同時に満たすことを特徴とする、多焦点眼用レンズ。
【請求項4】
前記ベースカーブ形状の曲率半径をRbase(単位:mm)と定義し、前記輪帯構造のうちの光軸を含む屈折面の曲率半径をR1(単位:mm)と定義したときに、次の条件(5)
|R1−Rbase|>|Ra−Rbase|・・・(5)
を満たす曲率半径Ra(単位:mm)を有する第一外側屈折面が前記光軸を含む屈折面の外側にあり、次の条件(6)
|Ra−Rbase|>|Rb−Rbase|・・・(6)
を満たす曲率半径Rb(単位:mm)を有する第二外側屈折面が前記第一外側屈折面の外側にあることを特徴とする、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の多焦点眼用レンズ。
【請求項5】
前記第二外側屈折面は、前記輪帯構造のうち最も外側の屈折面であり、前記第一外側屈折面は、該第二外側屈折面の内側に隣接していることを特徴とする、請求項4に記載の多焦点眼用レンズ。
【請求項6】
前記段差の高さをD(単位:μm)と定義し、e線における前記多焦点眼用レンズの屈折率をn1と定義し、e線における水の屈折率をn0と定義した場合に、次の条件(1)
0.190<|D×(n1−n0)|<0.370・・・(1)
を満たすことを特徴とする、請求項2又は請求項3を引用する請求項4又は請求項5に記載の多焦点眼用レンズ。
【請求項7】
前記輪帯構造の最も外側の最終輪帯は、該最終輪帯の外側に位置するベースカーブ形状に滑らかに接続されていることを特徴とする、請求項1から請求項6の何れか一項に記載の多焦点眼用レンズ。
【請求項8】
少なくとも一面に同心円状の周期構造が形成された多焦点眼用レンズであって、
前記周期構造は、ベースカーブ形状に対して付加された、周期が異なる複数の凹凸形状が前記多焦点眼用レンズの半径方向に繰り返し配置された輪帯構造であり、
前記周期構造の光軸方向の最小厚みと最大厚みとの差をDm(単位:μm)と定義し、e線における前記多焦点眼用レンズの屈折率をn1と定義し、e線における水の屈折率をn0と定義した場合に、次の条件(7)
0.190<|Dm×(n1−n0)|<0.370・・・(7)
を満たすとともに、
互いに隣り合う二つの周期のうち、前記光軸から遠い側の周期を外側周期と定義し、該光軸に近い側の周期を内側周期と定義した場合に、該外側周期が該内側周期よりも幅広となる構造を少なくとも1つ有することを特徴とする、多焦点眼用レンズ。
【請求項9】
屈折率n1の樹脂を成形した樹脂成形品であり、
前記屈折率n1は、次の条件(8)
1.38<n1<1.75・・・(8)
を満たすことを特徴とする、請求項1から請求項8の何れか一項に記載の多焦点眼用レンズ。
【請求項10】
e線の光束を入射光束径2.0mmで入射させた際に前記輪帯構造で回折効率が最大となる光の収束位置と、回折効率が2番目に高い光の収束位置から求められる加入度数の絶対値をL(単位:Dptr)と定義した場合に、次の条件(9)
1.0<L<5.0・・・(9)
を満たすことを特徴とする、請求項1から請求項9の何れか一項に記載の多焦点眼用レンズ。
【請求項11】
前記輪帯構造の最も外側の最終輪帯とベースカーブ形状との接続位置の瞳高さをhmaxと定義した場合に、次の条件(10)
1.2<hmax<4.0・・・(10)
を満たすことを特徴とする、請求項1から請求項10の何れか一項に記載の多焦点眼用レンズ。
【請求項1】
少なくとも一面が同心円状の複数の屈折面に分割された輪帯構造を有し、互いに隣り合う該屈折面の間に光軸に略水平な方向の段差が形成された多焦点眼用レンズであって、
前記輪帯構造は、ベースカーブ形状に対して付加されたものであり、
前記段差の高さをD(単位:μm)と定義し、e線における前記多焦点眼用レンズの屈折率をn1と定義し、e線における水の屈折率をn0と定義した場合に、次の条件(1)
0.190<|D×(n1−n0)|<0.370・・・(1)
を満たすとともに、
前記隣り合う二つの屈折面のうち、前記光軸から遠い側の屈折面を外側屈折面と定義し、該光軸に近い側の屈折面を内側屈折面と定義した場合に、該外側屈折面の曲率半径が前記ベースカーブ形状に近付くように、該内側屈折面の曲率半径と該ベースカーブ形状の曲率半径との間の値になっている構造を少なくとも1つ有することを特徴とする、多焦点眼用レンズ。
【請求項2】
少なくとも一面が同心円状の複数の屈折面に分割された輪帯構造を有し、互いに隣り合う該屈折面の間に光軸に略水平な方向の段差が形成された多焦点眼用レンズであって、
前記輪帯構造は、ベースカーブ形状に対して付加されたものであり、
前記段差の高さをD(単位:μm)と定義し、e線における前記多焦点眼用レンズの屈折率をn1と定義し、e線における水の屈折率をn0と定義するとともに、
ベースカーブ形状に対して付加されたフレネルレンズ状の段差による機能を、光軸からの高さh(単位:mm)における光路長付加量の形で表現した関数φ(h)に置き換え、二次、四次の光路差関数係数をそれぞれP2、P4と定義し、該段差でe線における屈折率を想定した際に1波長分の光路長差を与えるブレーズ化波長をλB(単位:μm)と定義し、該輪帯の光軸上での位相を設定する定数項をP0(−0.5≦P0<0.5の範囲で任意の数をとる。)と定義し、
ROUND(X、Y)を、Xを小数点第Y位で四捨五入した値を与える関数としたとき、
φ(h)=(P0+P2・h2+P4・h4−ROUND(P0+P2・h2+P4・h4、1))×λB
λB=|D×(n1−n0)|
を満たすとともに、
次の条件(2)
−0.40<P4/P2<−0.01・・・(2)
を満たすことを特徴とする、多焦点眼用レンズ。
【請求項3】
少なくとも一面が同心円状の複数の屈折面に分割された輪帯構造を有し、互いに隣り合う該屈折面の間に光軸に略水平な方向の段差が形成された多焦点眼用レンズであって、
前記輪帯構造は、ベースカーブ形状に対して付与されたものであり、
前記輪帯構造のうち、光軸に最も近い第一輪帯段差と、該第一輪帯段差の1つ外側の第二輪帯段差との、該光軸と直交する方向における配置間隔を(a2−a1)と定義し、該輪帯構造の最も外側の最終段差と、該最終段差の1つ内側の第一内側段差との、該光軸と直交する方向における配置間隔を(alast−alast-1)と定義し、該第一内側段差と、該第一内側段差の1つ内側の第二内側段差との、該光軸と直交する方向における配置間隔を(alast-1−alast-2)と定義した場合に、次の条件(3)及び(4)
0.25<(alast−alast-1)/(a2−a1)<2.00・・・(3)
1.00<(alast−alast-1)/(alast-1−alast-2)<3.00・・・(4)
を同時に満たすことを特徴とする、多焦点眼用レンズ。
【請求項4】
前記ベースカーブ形状の曲率半径をRbase(単位:mm)と定義し、前記輪帯構造のうちの光軸を含む屈折面の曲率半径をR1(単位:mm)と定義したときに、次の条件(5)
|R1−Rbase|>|Ra−Rbase|・・・(5)
を満たす曲率半径Ra(単位:mm)を有する第一外側屈折面が前記光軸を含む屈折面の外側にあり、次の条件(6)
|Ra−Rbase|>|Rb−Rbase|・・・(6)
を満たす曲率半径Rb(単位:mm)を有する第二外側屈折面が前記第一外側屈折面の外側にあることを特徴とする、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の多焦点眼用レンズ。
【請求項5】
前記第二外側屈折面は、前記輪帯構造のうち最も外側の屈折面であり、前記第一外側屈折面は、該第二外側屈折面の内側に隣接していることを特徴とする、請求項4に記載の多焦点眼用レンズ。
【請求項6】
前記段差の高さをD(単位:μm)と定義し、e線における前記多焦点眼用レンズの屈折率をn1と定義し、e線における水の屈折率をn0と定義した場合に、次の条件(1)
0.190<|D×(n1−n0)|<0.370・・・(1)
を満たすことを特徴とする、請求項2又は請求項3を引用する請求項4又は請求項5に記載の多焦点眼用レンズ。
【請求項7】
前記輪帯構造の最も外側の最終輪帯は、該最終輪帯の外側に位置するベースカーブ形状に滑らかに接続されていることを特徴とする、請求項1から請求項6の何れか一項に記載の多焦点眼用レンズ。
【請求項8】
少なくとも一面に同心円状の周期構造が形成された多焦点眼用レンズであって、
前記周期構造は、ベースカーブ形状に対して付加された、周期が異なる複数の凹凸形状が前記多焦点眼用レンズの半径方向に繰り返し配置された輪帯構造であり、
前記周期構造の光軸方向の最小厚みと最大厚みとの差をDm(単位:μm)と定義し、e線における前記多焦点眼用レンズの屈折率をn1と定義し、e線における水の屈折率をn0と定義した場合に、次の条件(7)
0.190<|Dm×(n1−n0)|<0.370・・・(7)
を満たすとともに、
互いに隣り合う二つの周期のうち、前記光軸から遠い側の周期を外側周期と定義し、該光軸に近い側の周期を内側周期と定義した場合に、該外側周期が該内側周期よりも幅広となる構造を少なくとも1つ有することを特徴とする、多焦点眼用レンズ。
【請求項9】
屈折率n1の樹脂を成形した樹脂成形品であり、
前記屈折率n1は、次の条件(8)
1.38<n1<1.75・・・(8)
を満たすことを特徴とする、請求項1から請求項8の何れか一項に記載の多焦点眼用レンズ。
【請求項10】
e線の光束を入射光束径2.0mmで入射させた際に前記輪帯構造で回折効率が最大となる光の収束位置と、回折効率が2番目に高い光の収束位置から求められる加入度数の絶対値をL(単位:Dptr)と定義した場合に、次の条件(9)
1.0<L<5.0・・・(9)
を満たすことを特徴とする、請求項1から請求項9の何れか一項に記載の多焦点眼用レンズ。
【請求項11】
前記輪帯構造の最も外側の最終輪帯とベースカーブ形状との接続位置の瞳高さをhmaxと定義した場合に、次の条件(10)
1.2<hmax<4.0・・・(10)
を満たすことを特徴とする、請求項1から請求項10の何れか一項に記載の多焦点眼用レンズ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−101323(P2013−101323A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−223454(P2012−223454)
【出願日】平成24年10月5日(2012.10.5)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年10月5日(2012.10.5)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】
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