説明

多焦点電子眼鏡

【課題】自動焦点切り換えの切り換えタイミングを使用者自身で調節できる多焦点電子眼鏡を提供する。
【解決手段】注視点距離を検出する注視点距離検出部(107)の出力と、焦点を切り換える基準となる切り換え閾値に基づき焦点切り換え信号(105a)を作成する自動焦点信号作成部(105)を備える。自動焦点信号作成部(105)の切り換え閾値を、レンズ焦点情報記憶部(104)から出力されるレンズ焦点情報(104a)と、入力部(112)から入力された使用者による焦点切り換え閾値更新の指示に基づいて、注視点距離検出部(107)によって検出された注視点距離を切り換え閾値として更新するよう切り換え閾値更新処理部(106)が自動焦点信号作成部(105)に指示するので、自動焦点切り換えの切り換えタイミングを使用者自身が更新できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変焦点レンズを備えた多焦点電子眼鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加齢等により眼の水晶体の調節能力が衰えると、遠くや近くのものに対して焦点が合いにくくなり、遠用と近用の両方の眼鏡が必要になる。そこで、眼鏡の掛け替えの煩わしさを防ぐために、焦点の異なる複数のレンズを組み合わせた多焦点眼鏡や、1枚のレンズ中に遠用から近用までの焦点が連続してある累進多焦点眼鏡がある。
【0003】
しかし、この種の眼鏡では焦点境界部での像の歪みや、視野が狭いという問題がある。
また、異なる焦点が一枚のレンズに分割して配置されるため、例えば、遠くを見る場合はレンズの上部を通し、近くを見る場合はレンズの下部を通して見なければならないため、使用者に不便を与える。
【0004】
電気的な制御により焦点を変えることのできる可変焦点レンズを用いて、必要に応じてレンズの焦点を制御する方法が知られている。この場合、可変焦点レンズの切り換え指示は、眼鏡フレームに切り換えスイッチ等を設けて使用者が手動で行う。
【0005】
このように手動で切り換える構成では、作業で両手が塞がっている場合は切り換えが行えず不便なので、特許文献1などには、距離センサを設けて使用者から注視点までの距離を測定し、注視点距離が遠い場合は「遠用」の焦点へ自動的に切り換え、近い場合は「近用」の焦点へ自動的に切り換える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−249902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来の構成では、注視点距離によってレンズの焦点を段階的に制御する場合、予め焦点を切り換える注視点距離が定義されており、使用者が焦点の切り換えタイミングを調整することができない。このため、作業内容や環境の変化等により、切り換えタイミングに違和感を覚える場合があるという課題を有している。
【0008】
本発明は、レンズ焦点の切り換えタイミングを、眼鏡店等の専門店に出向かなくても使用者自身が設定できる多焦点電子眼鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の多焦点電子眼鏡は、可変焦点レンズの焦点距離を、使用者の注視点距離に近づくように制御する多焦点電子眼鏡であって、使用者の注視点距離を検出する注視点距離検出部と、前記注視点距離と焦点を切り換える基準となる注視点距離である切り換え閾値に基づいて前記可変焦点レンズの焦点切り換え信号を作成する自動焦点信号作成部と、前記自動焦点信号作成部の出力した焦点切り換え信号に基づいて前記可変焦点レンズの焦点を変化させる焦点制御部と、前記焦点制御部が前記可変焦点レンズの焦点を変化させた情報をレンズ焦点情報として記憶するレンズ焦点情報記憶部と、使用者の操作によって切り換え閾値の更新の指示を行う切り換え閾値更新入力部と、前記切り換え閾値更新入力部からの使用者による入力操作を判別して前記切り換え閾値の更新を前記自動焦点信号作成部に指示する切り換え閾値更新部とを設けたことを特徴とする。
【0010】
具体的には、前記自動焦点信号作成部は、前記切り換え閾値が保存される切り換え閾値記憶部と、前記注視点距離検出部の出力の注視点距離と、前記切り換え閾値記憶部の切り換え閾値と、前記レンズ焦点情報記憶部が出力するレンズ焦点情報とから目標となる焦点を決定する焦点決定部とを備えている。前記切り換え閾値は、前記可変焦点レンズを遠距離用と中距離用のうちどちらの焦点距離に切り換えるかの基準となる“遠中切り換え閾値”と、前記可変焦点レンズを中距離用と近距離用のうちどちらの焦点距離に切り換えるかの基準となる“中近切り換え閾値”とからなる。前記注視点距離検出部は、眼球を撮影する撮像部と、前記撮像部の画像から注視点距離を算出する注視点距離算出部とからなる。
【発明の効果】
【0011】
この構成によれば、自動焦点切り換えの切り換え閾値を使用者の操作によって更新する切り換え閾値更新部を備え、個人差や眼鏡を使用するシーンの違いによって生じる切り換えタイミングの違和感を、使用者自身の操作で取り除くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態における多焦点電子眼鏡の電子回路の構成図
【図2】同実施の形態における可変焦点レンズの具体例の構成図
【図3】眼の輻輳角を説明する図
【図4】同実施の形態における自動焦点信号作成部とその周辺の構成図
【図5】同実施の形態における自動焦点信号作成部の処理の流れ図
【図6】同実施の形態における切り換え閾値更新部の処理の流れ図
【図7】同実施の形態における多焦点電子眼鏡の外観図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図7に基づいて説明する。
この多焦点電子眼鏡のフレーム70の左右のリム71,72には、図7に示すように左眼用可変焦点レンズ101,右眼用可変焦点レンズ102が取り付けられている。左リム71には左眼用撮像部108が取り付けられている。右リム72には右眼用撮像部109が取り付けられている。
【0014】
フレーム70の右テンプル73には、切り換え閾値更新入力部112の遠方制御選択用ボタン701と近方制御選択用ボタン702が設けられており、何れかのボタンを操作することにより選択入力を行う。
【0015】
フレーム70の内部には、左眼用撮像部108と右眼用撮像部109の検出に基づいて左眼用可変焦点レンズ101,右眼用可変焦点レンズ102の焦点距離を自動調節する電子回路などが収められている。
【0016】
図1はフレーム70に設けられた電子回路を示している。
左眼用可変焦点レンズ101と右眼用可変焦点レンズ102は、図2に示すように構成されている。つまり、二つの透明な板状対象物201,201の間に、空気の屈折率と異なる屈折率を有する透明な液体202が充填されている。板状対象物201,201の上下にアクチュエータ203,203が取り付けられている。
【0017】
焦点制御部103からアクチュエータ203,203に電圧を印加することにより板状対象物201,201が変形し、二つの板状対象物201,201を通過する光の屈折率が変化する。このレンズの構成は公知の技術で、例えば特開2000−249813号公報などに示されているので詳細な説明は省略する。
【0018】
焦点制御部103は、自動焦点信号作成部105で作成された焦点切り換え信号105aに基づいて、左眼用可変焦点レンズ101と右眼用可変焦点レンズ102の焦点を変化させる。さらに焦点制御部103は、制御した左眼用可変焦点レンズ101の焦点情報と、制御した右眼用可変焦点レンズ102の焦点情報とを、レンズ焦点情報記憶部104に記憶させる。
【0019】
レンズ焦点情報記憶部104に記憶された左眼用可変焦点レンズ101と右眼用可変焦点レンズ102の焦点情報であるレンズ焦点情報104aは、自動焦点信号作成部105と切り換え閾値更新部106に入力される。
【0020】
自動焦点信号作成部105は、レンズ焦点情報記憶部104に記憶されたレンズ焦点情報104aと、注視点距離検出部107からの入力とから焦点切り換え信号105aを作成する。
【0021】
注視点距離検出部107は、左眼用撮像部108によって使用者の左眼球を撮影し、右眼用撮像部109によって使用者の右眼球を撮影し、注視点距離算出部110で画像処理技術により瞳孔位置を検出し、それを基に注視点距離を算出する。
【0022】
注視点距離を算出する方法として、両眼の輻輳を検出して注視点距離を算出する方法を図3に示す。輻輳とは、単一像を得るための眼球の回転運動である。
遠くにある対象物を注視する場合の輻輳角301は図3(a)に示すように小さく、近くにある対象物を注視する場合の輻輳角302は図3(b)に示すように大きくなる。この輻輳角と瞳孔間距離303から注視点距離304が求まる。輻輳角と瞳孔間距離から注視点距離を算出する式は、例えば特開2000−249902号公報の図5に示されているので詳細な説明は省略する。
【0023】
自動焦点信号作成部105とその周辺の構成を図4に示す。
自動焦点信号作成部105は、切り換え閾値記憶部401と焦点決定部404とで構成されている。
【0024】
切り換え閾値記憶部401には、中近切り換え閾値402と遠中切り換え閾値403が設定されている。切り換え閾値とは、注視点距離がいくらのときにどの焦点で制御するかを決定するための設定値である。例えば、注視点距離が30cm未満の場合に「近用」とし、30cm以上50cm未満の場合に「中用」とし、50cm以上の場合に「遠用」とする場合、中近切り換え閾値402が30cm、遠中切り換え閾値403が50cmとなる。
【0025】
焦点決定部404では、注視点距離検出部107で検出された注視点距離と、中近切り換え閾値402と、遠中切り換え閾値403とを比較して、制御する焦点を決定し、レンズ焦点情報記憶部104に記憶されているレンズ焦点情報104aと同じでなければ焦点制御部103に焦点切り換え信号105aを通知する。
【0026】
自動焦点信号作成部105の処理の流れを図5に示す。
注視点距離検出部107から注視点距離情報が入力されたことをステップS501で検出すると、以下の焦点判断処理を行う。
【0027】
先ず、ステップS502では、注視点距離と中近切り換え閾値を比較して注視点距離が中近切り換え閾値より短いかをチェックする。ステップS502において注視点距離が中近切り換え閾値より短い場合にはステップS503を実行して焦点を「近用」に決定する。
【0028】
ステップS502において注視点距離が中近切り換え閾値より短くないと判定された場合には、ステップS504を実行する。
ステップS504では、注視点距離が遠中切り換え閾値より短いかをチェックする。
【0029】
ステップS504において注視点距離が遠中切り換え閾値より短い場合にはステップS505で焦点を「中用」に決定する。
ステップS504において注視点距離が遠中切り換え閾値より短くないと判定された場合には、ステップS506において焦点を「遠用」に決定する。
【0030】
ステップS503またはステップS505またはステップS506を実行すると、次いでステップS507を実行する。
ステップS507では、ステップS503,S505,S506の何れかで決定した焦点と、レンズ焦点情報記憶部104のレンズ焦点情報104aと比較する。ここで、両者が同じでなければステップS508で焦点制御部103に決定した焦点での切り換えを通知する。
【0031】
ステップS502〜ステップS508の判断処理ルーチンは、注視点距離検出部107からの入力がある度に実行される。
切り換え閾値更新部106の処理の流れを図6に示す。
【0032】
切り換え閾値更新部106では、切り換え閾値更新入力部112から使用者の操作入力が行われたことをステップS601で検出すると、以下の閾値更新処理を行う。
先ずステップS602では、レンズ焦点情報記憶部104に記憶されているレンズ焦点情報104aが遠用であるかチェックする。ステップS602においてレンズ焦点情報104aが遠用であると判定された場合には、ステップS603を実行する。
【0033】
ステップS603では、ステップS601で検出した操作入力が近方であるかチェックする。ステップS603において操作入力が近方であると判定された場合には、ステップS604を実行する。
【0034】
ステップS604では、遠中切り換え閾値403を注視点距離検出部107で検出された注視点距離に更新してステップS601に戻る。
ステップS603において操作入力が近方でないと判定された場合にはステップS601に戻る。
【0035】
ステップS602においてレンズ焦点情報104aが遠用でないと判定された場合には、ステップS605を実行する。
ステップS605では、レンズ焦点情報記憶部104に記憶されているレンズ焦点情報104aが中用であるかチェックする。ステップS605においてレンズ焦点情報104aが中用であると判定された場合には、ステップS606を実行する。
【0036】
ステップS606では、ステップS601で検出した操作入力が遠方であるかチェックする。ステップS606において操作入力が遠方であると判定された場合には、ステップS607を実行する。
【0037】
ステップS607では、遠中切り換え閾値403を注視点距離検出部107で検出された注視点距離に更新してステップS601に戻る。ステップS606において操作入力が遠方でないと判定された場合には、ステップS608を実行する。ステップS608では、中近切り換え閾値402を注視点距離検出部107で検出された注視点距離に更新してステップS601に戻る。
【0038】
ステップS605においてレンズ焦点情報記憶部104に記憶されているレンズ焦点情報104aが中用でないと判定された場合には、ステップS609を実行する。
ステップS609では、ステップS601で検出した操作入力が遠方であるかチェックする。ステップS609において操作入力が遠方であると判定された場合には、ステップS610を実行して中近切り換え閾値402を注視点距離検出部107で検出された注視点距離に更新してステップS601に戻る。ステップS609において操作入力が遠方でないと判定された場合には、ステップS601に戻る。
【0039】
以上のステップS602〜ステップS610の判断処理ルーチンを切り換え閾値更新入力部112からの入力がある度に行う。
このように、切り換え閾値更新入力部112からの使用者による入力操作を、切り換え閾値更新部106で判別して、ステップS604,ステップS607,ステップS608,ステップS610の何れかを実行して、自動焦点信号作成部105の切り換え閾値を、注視点距離検出部107が検出した注視点距離に更新することができる。よって、個人差や眼鏡を使用するシーンの違いによって生じる切り換えタイミングの違和感を取り除くことができる。
【0040】
また、使用者自身がいつでも調節できるため、眼鏡店等の専門店で煩わしい個別調節をしなくても快適な焦点切り換えを実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、自動的に焦点を切り換える機能を備えた各種の光学機器の高機能化に寄与する。
【符号の説明】
【0042】
70 フレーム
71 左リム
72 右リム
73 右テンプル
101 左眼用可変焦点レンズ
102 右眼用可変焦点レンズ
103 焦点制御部
104 レンズ焦点情報記憶部
104a レンズ焦点情報
105 自動焦点信号作成部
105a 焦点切り換え信号
106 切り換え閾値更新部
107 注視点距離検出部
108 左眼用撮像部
109 右眼用撮像部
110 注視点距離算出部
112 切り換え閾値更新入力部
701 遠方制御選択用ボタン
702 近方制御選択用ボタン
401 切り換え閾値記憶部
402 中近切り換え閾値
403 遠中切り換え閾値
404 焦点決定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変焦点レンズの焦点距離を、使用者の注視点距離に近づくように制御する多焦点電子眼鏡であって、
使用者の注視点距離を検出する注視点距離検出部と、
前記注視点距離と焦点を切り換える基準となる注視点距離である切り換え閾値に基づいて前記可変焦点レンズの焦点切り換え信号を作成する自動焦点信号作成部と、
前記自動焦点信号作成部の出力した焦点切り換え信号に基づいて前記可変焦点レンズの焦点を変化させる焦点制御部と、
前記焦点制御部が前記可変焦点レンズの焦点を変化させた情報をレンズ焦点情報として記憶するレンズ焦点情報記憶部と、
使用者の操作によって切り換え閾値の更新の指示を行う切り換え閾値更新入力部と、
前記切り換え閾値更新入力部からの使用者による入力操作を判別して前記切り換え閾値の更新を前記自動焦点信号作成部に指示する切り換え閾値更新部と
を設けた多焦点電子眼鏡。
【請求項2】
前記自動焦点信号作成部は、
前記切り換え閾値が保存される切り換え閾値記憶部と、
前記注視点距離検出部の出力の注視点距離と、
前記切り換え閾値記憶部の切り換え閾値と、
前記レンズ焦点情報記憶部が出力するレンズ焦点情報とから目標となる焦点を決定する焦点決定部と
を備えている
請求項1の多焦点電子眼鏡。
【請求項3】
前記切り換え閾値は、
前記可変焦点レンズを遠距離用と中距離用のうちどちらの焦点距離に切り換えるかの基準となる“遠中切り換え閾値”と、前記可変焦点レンズを中距離用と近距離用のうちどちらの焦点距離に切り換えるかの基準となる“中近切り換え閾値”とからなる
請求項1の多焦点電子眼鏡。
【請求項4】
前記注視点距離検出部は、
眼球を撮影する撮像部と、
前記撮像部の画像から注視点距離を算出する注視点距離算出部とからなる
請求項1の多焦点電子眼鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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