説明

多種類呼吸器ウイルス病原体に対する同時検出アッセイ

【課題】複数のウイルス、特に呼吸器感染症に関連する複数のウイルスを同時に検出可能な方法、そのためのプライマーセット、ならびにそのためのキットの提供。
【解決手段】従来のマルチプレックスPCRのプライマーを大幅に改善したことにより、特異性を改善し、プライマー同士の相互作用を軽減させることに成功した。また、マルチプレックスPCRに組み込むプライマーセットの組み合わせを工夫したことにより、複数のウイルスを高感度に同時に検出することを可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸器感染症に関連する複数のウイルスの同時検出を可能にするプライマーセット、該プライマーセットを含有する複数のウイルスの同時検出用キット、および該プライマーセットを用いた、呼吸器感染症に関連する複数のウイルスの同時検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
急性呼吸器感染症(ARI)は、世界的な小児の疾患および死因の主要原因である(非特許文献1〜3)。ウイルスは、幼児および低年齢小児の下気道感染において一般的にみられ、ウイルス性呼吸器病原体は、小児における大きな公衆衛生問題となっている(非特許文献4〜6)。多種多様なウイルス病原体が呼吸器感染症に関与しており、ウイルスの単離、検出のための利用可能な施設が限られているため、熱帯地域、特に発展途上国ではウイルス性呼吸器病原体の役割が、十分には研究されていない。
【0003】
呼吸器感染症の一般的治療法としては、人工呼吸管理および気管支拡張薬の投与などの対処療法ならびに抗ウイルス剤・抗生物質の投与が挙げられる。しかし、不適当な抗ウイルス剤・抗生物質の選択またはそれらの多用などにより、肺炎などに重症化する場合もある。かかる場合、確定診断を行い、適切な抗生物質、抗ウイルス剤を選択して患者に投与することが求められる。しかし、疾患の原因となるウイルス・バクテリアを同定するためには、患者から喀痰を採取し、そこからウイルスまたはバクテリアを培養し、染色しなければならず、確定診断まで一週間弱の時間がかかるのが現状である。
【0004】
かかる時間的問題を解決すべく、ポリメラーゼ連鎖反応法(以下、PCR法)によってウイルス等を迅速に検出する方法が提案されている。PCR法は定量的かつ迅速であるため、病原体が一種類であれば確定診断に好ましく用いることができる。しかし、呼吸器感染症の原因として知られるウイルスは、小児に限定した場合であっても、10種類以上が挙げられる。このような場合、ウイルスを一種類ずつ単離して、PCR法により確定診断を行っていたのでは、コストが掛かり、現実的ではない。多種類のウイルスを一度にPCR法によって検出する方法(マルチプレックスPCR法)も考案され、いくつかの疾病病原菌の検出に用いられており、そのためのキットも販売されている。ただし、該方法は、一種類のウイルス等を検出するために用いられていたプライマーセットをそのまま流用した場合、プライマー同士の干渉により、検出感度が低下することが懸念される。
【0005】
現時点では、呼吸器感染症の病原体ウイルス等を一度に検出するだけの特異性・定量性を備えたマルチプレックスPCR法は知られておらず、依然としてそのニーズが存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kusel, M. M., N. H. de Klerk, P. G. Holt, T. Kebadze, S. L. Johnston, and P. D. Sly. Pediatr Infect Dis J. 2006; 25:680-686.
【非特許文献2】Gasparini, R., P. Durando, F. Ansaldi, L. Sticchi, F. Banfi, D. Amicizia, D. Panatto, S. Esposito, N. Principi, G. Icardi, and P. Crovari. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2007; 26:619-628.
【非特許文献3】Regamey, N., L. Kaiser, H. L. Roiha, C. Deffernez, C. E. Kuehni, P. Latzin, C. Aebi, and U. Frey. Pediatr Infect Dis J. 2008; 27:100-105.
【非特許文献4】Broor, S., S. Parveen, P. Bharaj, V. S. Prasad, K. N. Srinivasulu, K. M. Sumanth, S. K. Kapoor, K. Fowler, and W. M. Sullender. PLoS ONE. 2007; 2:e491.
【非特許文献5】Lambert, S. B., K. M. Allen, R. C. Carter, and T. M. Nolan. Respir Res. 2008; 9:11.
【非特許文献6】Iwane, M. K., K. M. Edwards, P. G. Szilagyi, F. J. Walker, M. R. Griffin, G. A. Weinberg, C. Coulen, K. A. Poehling, L. P. Shone, S. Balter, C. B. Hall, D. D. Erdman, K. Wooten, and B. Schwartz. Pediatrics. 2004;113:1758-1764.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、多種類の呼吸器ウイルス病原体の同時検出可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、従来のマルチプレックスPCRのプライマーを大幅に改善したことにより、特異性を改善し、プライマー同士の相互作用を軽減させることに成功した。また、マルチプレックスPCRに組み込むプライマーセットの組み合わせを工夫したことにより、複数のウイルスを高感度に同時に検出することを可能にした。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、
[1]以下の(i)〜(vii)、(ix)および(xii)からなる群から少なくとも2つ選択されるプライマーセット:
(i)配列番号1に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号2又は配列番号3で示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセット;
(ii)配列番号4に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号5又は配列番号6に示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセット;
(iii)配列番号7又は配列番号9に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号8に示される塩基配列からなるプライマーとからなる構成されるプライマーセット;
(iv)配列番号10に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号11又は配列番号12に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(v)配列番号13又は配列番号15に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号14に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(vi)配列番号16に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号17又は配列番号18に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(vii)配列番号19に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号20又は配列番号21に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(ix)配列番号25に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号26又は配列番号27に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(xii)配列番号34に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号35又は配列番号36に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
[2]以下の(i)〜(vii)、(ix)および(xii)からなる群から少なくとも1つ選択され、かつ以下の(viii)、(x)、(xi)および(xiii)からなる群から少なくとも1つ選択されるプライマーセット:
(i)配列番号1に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号2又は配列番号3で示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセット;
(ii)配列番号4に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号5又は配列番号6に示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセット;
(iii)配列番号7又は配列番号9に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号8に示される塩基配列からなるプライマーとからなる構成されるプライマーセット;
(iv)配列番号10に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号11又は配列番号12に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(v)配列番号13又は配列番号15に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号14に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(vi)配列番号16に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号17又は配列番号18に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(vii)配列番号19に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号20又は配列番号21に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(viii)配列番号22に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号23又は配列番号24に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(ix)配列番号25に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号26又は配列番号27に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(x)配列番号28に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号29又は配列番号30に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(xi)配列番号31又は配列番号33に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号32に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(xii)配列番号34に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号35又は配列番号36に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;および
(xiii)配列番号37に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号38又は配列番号39に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
[3]以下の(i)〜(iv)からなる群から少なくとも2つ選択されるプライマーセット:
(i)配列番号1に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号2又は配列番号3で示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセット;
(ii)配列番号4に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号5又は配列番号6に示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセット;
(iii)配列番号7又は配列番号9に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号8に示される塩基配列からなるプライマーとからなる構成されるプライマーセット;および
(iv)配列番号10に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号11又は配列番号12に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット。
[4]以下の(v)〜(vii)からなる群から少なくとも2つ選択されるプライマーセット:
(v)配列番号13又は配列番号15に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号14に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(vi)配列番号16に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号17又は配列番号18に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;および
(vii)配列番号19に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号20又は配列番号21に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
[5]以下の(v)〜(vii)からなる群から少なくとも1つ選択され、かつ以下の(viii)のプライマーセットを含むプライマーセット:
(v)配列番号13又は配列番号15に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号14に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(vi)配列番号16に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号17又は配列番号18に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(vii)配列番号19に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号20又は配列番号21に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;および
(viii)配列番号22に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号23又は配列番号24に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
[6]以下の(ix)のプライマーセットを含み、かつ以下の(x)および(xi)からなる群から少なくとも1つ選択されるプライマーセット:
(ix)配列番号25に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号26又は配列番号27に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(x)配列番号28に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号29又は配列番号30に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;および
(xi)配列番号31又は配列番号33に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号32に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
[7]以下の(xii)および(xiii)からなるプライマーセット:
(xii)配列番号34に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号35又は配列番号36に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;および
(xiii)配列番号37に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号38又は配列番号39に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
[8]上記[1]〜[7]のいずれか1つに記載のプライマーセットを用いて、被験対象から採取した試料からウイルス遺伝子またはその転写産物を検出することを特徴とする、ウイルスの検出方法;
[9]ウイルスが、呼吸器感染症に関連するウイルスである、上記[8]記載の方法;
[10]上記[1]〜[7]のいずれか1つに記載のプライマーセットを含有する、ウイルス遺伝子又はその転写産物の検出用キット;
[11]ウイルスが、呼吸器感染症に関連するウイルスである、上記[10]記載のキット;
などを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプライマーセットを複数組み合わせて用いることにより、複数のウイルスを同時に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】グループ1のウイルスを同時検出対象とした、1回目マルチプレックスPCRの増幅産物を電気泳動した結果の写真像である。各レーン番号は下記の通り対応する。1:ヒトメタ肺炎ウイルス(371bp)が増幅された、2:呼吸器合胞体ウイルス(271bp)が増幅された、3:増幅なし、4:増幅なし、5:増幅なし、6:ヒトメタ肺炎ウイルス(371bp)および呼吸器合胞体ウイルス(271bp)が増幅された、7:A型インフルエンザウイルス(241bp)およびB型インフルエンザウイルス(352bp)が増幅された、8:増幅なし、M:サイズマーカー。
【図2】単一のウイルス核酸を鋳型とした1回目PCRの増幅産物を電気泳動した結果の写真像である。各レーン番号は下記の通り対応する。1:A型インフルエンザウイルス(241bp)、2:B型インフルエンザウイルス(352bp)、3:呼吸器合胞体ウイルス(271bp)、4:ヒトメタ肺炎ウイルス(371bp)、6:パラインフルエンザウイルス1型(300bp)、7:パラインフルエンザウイルス2型(386bp)、8:パラインフルエンザウイルス3型(230bp)、10:ライノウイルス(254bp)、12:アデノウイルス(193bp)、13:ボカウイルス(354bp)、M:サイズマーカー、5,9,11,14:ネガティブコントロール。
【図3】単一のウイルス核酸を鋳型としたhemi-nested PCRの増幅産物を電気泳動した結果の写真像である。各レーン番号は下記の通り対応する。1:A型インフルエンザウイルス(151bp)、2:B型インフルエンザウイルス(106bp)、3:呼吸器合胞体ウイルス(201bp)、4:ヒトメタ肺炎ウイルス(287bp)、6:パラインフルエンザウイルス1型(210bp)、7:パラインフルエンザウイルス2型(329bp)、8:パラインフルエンザウイルス3型(148bp)、10:ライノウイルス(175bp)、12:アデノウイルス(152bp)、13:ボカウイルス(303bp)、M:サイズマーカー、5,9,11,14:ネガティブコントロール。
【図4】ヒトメタ肺炎ウイルスおよび呼吸器合胞体ウイルスの核酸混合物を鋳型とした、1回目マルチプレックスPCRの増幅産物を電気泳動した結果の写真像である。各レーン番号は下記の通り対応する。1:ヒトメタ肺炎ウイルス:呼吸器合胞体ウイルス=100:1、2:ヒトメタ肺炎ウイルス:呼吸器合胞体ウイルス=100:10、3:ヒトメタ肺炎ウイルス:呼吸器合胞体ウイルス=100:100、4:ヒトメタ肺炎ウイルス:呼吸器合胞体ウイルス=10:100、5:ヒトメタ肺炎ウイルス:呼吸器合胞体ウイルス=1:100、M:サイズマーカー。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、多種類の呼吸器ウイルス病原体を同時に検出し得るプライマーセットを提供する。本発明においてプライマーセットとは、各呼吸器ウイルス病原体の遺伝子を増幅する為のPCRプライマーのセットである。遺伝子増幅の為にPCRは、通常1回行えばよいが、精度を上げる為にnested-PCRあるいはhemi-nested PCRを行ってもよい。各PCRの手法自体は公知であるので、プライマー以外の材料は容易に入手可能であり、種々の反応条件も適宜設定することができる。具体的には、該プライマーセットは、
(i)配列番号1に示される塩基配列からなるプライマー(以下、配列番号1のプライマーともいう)と、配列番号2又は配列番号3で示される塩基配列からなるプライマー(以下、それぞれ配列番号2のプライマー、配列番号3のプライマーともいう)とからなるプライマーセット;
(ii)配列番号4に示される塩基配列からなるプライマー(以下、配列番号4のプライマーともいう)と、配列番号5又は配列番号6に示される塩基配列からなるプライマー(以下、それぞれ配列番号5のプライマー、配列番号6のプライマーともいう)とからなるプライマーセット;
(iii)配列番号7又は配列番号9に示される塩基配列からなるプライマー(以下、それぞれ配列番号7のプライマー、配列番号9のプライマーともいう)と、配列番号8に示される塩基配列からなるプライマー(以下、配列番号8のプライマーともいう)とからなる構成されるプライマーセット;
(iv)配列番号10に示される塩基配列からなるプライマー(以下、配列番号10のプライマーともいう)と、配列番号11又は配列番号12に示される塩基配列からなるプライマー(以下、それぞれ配列番号11のプライマー、配列番号12のプライマーともいう)とから構成されるプライマーセット;
(v)配列番号13又は配列番号15に示される塩基配列からなるプライマー(以下、それぞれ配列番号13のプライマー、配列番号15のプライマーともいう)と、配列番号14に示される塩基配列からなるプライマー(以下、配列番号14のプライマーともいう)とから構成されるプライマーセット;
(vi)配列番号16に示される塩基配列からなるプライマー(以下、配列番号16のプライマーともいう)と、配列番号17又は配列番号18に示される塩基配列からなるプライマー(以下、それぞれ配列番号17のプライマー、配列番号18のプライマーともいう)とから構成されるプライマーセット;
(vii)配列番号19に示される塩基配列からなるプライマー(以下、配列番号19のプライマーともいう)と、配列番号20又は配列番号21に示される塩基配列からなるプライマー(以下、それぞれ配列番号20のプライマー、配列番号21のプライマーともいう)とから構成されるプライマーセット;
(viii)配列番号22に示される塩基配列からなるプライマー(以下、配列番号22のプライマーともいう)と、配列番号23又は配列番号24に示される塩基配列からなるプライマー(以下、それぞれ配列番号23のプライマー、配列番号24のプライマーともいう)とから構成されるプライマーセット;
(ix)配列番号25に示される塩基配列からなるプライマー(以下、配列番号25のプライマーともいう)と、配列番号26又は配列番号27に示される塩基配列からなるプライマー(以下、それぞれ配列番号26のプライマー、配列番号27のプライマーともいう)とから構成されるプライマーセット;
(x)配列番号28に示される塩基配列からなるプライマー(以下、配列番号28のプライマーともいう)と、配列番号29又は配列番号30に示される塩基配列からなるプライマー(以下、それぞれ配列番号29のプライマー、配列番号30のプライマーともいう)とから構成されるプライマーセット;
(xi)配列番号31または配列番号33に示される塩基配列からなるプライマー(以下、それぞれ配列番号31のプライマー、配列番号33のプライマーともいう)と、配列番号32に示される塩基配列からなるプライマー(以下、それぞれ配列番号32のプライマーともいう)とから構成されるプライマーセット;
(xii)配列番号34に示される塩基配列からなるプライマー(以下、配列番号34のプライマーともいう)と、配列番号35又は配列番号36に示される塩基配列からなるプライマー(以下、それぞれ配列番号35のプライマー、配列番号36のプライマーともいう)とから構成されるプライマーセット;
(xiii)配列番号37に示される塩基配列からなるプライマー(以下、配列番号37のプライマーともいう)と、配列番号38又は配列番号39に示される塩基配列からなるプライマー(以下、それぞれ配列番号38のプライマー、配列番号39のプライマーともいう)とから構成されるプライマーセットである。
【0012】
配列番号1、2に示される塩基配列はそれぞれ、A型インフルエンザウイルス(InFluA)ゲノム(GenBank Accession No.CY038672.1)の第6番目から第27番目の塩基配列、第226番目から第248番目の塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸であり、配列番号3に示される塩基配列はA型インフルエンザウイルス(InFluA)ゲノム(GenBank Accession No.CY038592.1)の第135番目から第158番目の塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸である。A型インフルエンザウイルスを検出する為には、後述する実施例の如くhemi-nested PCRを実施することができる。1st PCRを配列番号1のプライマー(センス)と配列番号2のプライマー(アンチセンス)で行い、2nd PCR(hemi-nested PCR)を配列番号1のプライマー(センス)と配列番号3のプライマー(アンチセンス)で行う。
【0013】
配列番号4、5および6に示される塩基配列はそれぞれ、B型インフルエンザウイルス(InFluB)ゲノム(GenBank Accession No.CY038344.1)の第15番目から第38番目の塩基配列、第346番目から第367番目の塩基配列に相補的な塩基配列および第97番目から第121番目の塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸である。B型インフルエンザウイルスを検出する為には、1st PCRを配列番号4のプライマー(センス)と配列番号5のプライマー(アンチセンス)で行い、2nd PCR(hemi-nested PCR)を配列番号4のプライマー(センス)と配列番号6のプライマー(アンチセンス)で行う。
【0014】
配列番号7、8および9に示される塩基配列はそれぞれ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)ゲノム(GenBank Accession No.DQ780565.1)の第451番目から第474番目の塩基配列、第701番目から第722番目の塩基配列に相補的な塩基配列および第513番目から第535番目の塩基配列からなる核酸である。RSウイルスを検出する為には、1st PCRを配列番号7のプライマー(センス)と配列番号8のプライマー(アンチセンス)で行い、2nd PCR(hemi-nested PCR)を配列番号9のプライマー(センス)と配列番号8のプライマー(アンチセンス)で行う。
【0015】
配列番号10、11および12に示される塩基配列はそれぞれ、ヒトメタ肺炎ウイルス(hMPV)ゲノム(GenBank Accession No.FJ168779.1)の第2442番目から第2464番目の塩基配列、第2790番目から第2813番目の塩基配列に相補的な塩基配列および第2705番目から第2729番目の塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸である。ヒトメタ肺炎ウイルスを検出する為には、1st PCRを配列番号10のプライマー(センス)と配列番号11のプライマー(アンチセンス)で行い、2nd PCR(hemi-nested PCR)を配列番号10のプライマー(センス)と配列番号12のプライマー(アンチセンス)で行う。
【0016】
配列番号13、14および15に示される塩基配列はそれぞれ、パラインフルエンザウイルス1型(PIV1)ゲノム(GenBank Accession No.U70936.1)の第523番目から第547番目の塩基配列、第799番目から第823番目の塩基配列に相補的な塩基配列および第613番目から第637番目の塩基配列からなる核酸である。パラインフルエンザウイルス1型を検出する為には、1st PCRを配列番号13のプライマー(センス)と配列番号14のプライマー(アンチセンス)で行い、2nd PCR(hemi-nested PCR)を配列番号15のプライマー(センス)と配列番号14のプライマー(アンチセンス)で行う。
【0017】
配列番号16、17および18に示される塩基配列はそれぞれ、パラインフルエンザウイルス2型(PIV2)ゲノム(GenBank Accession No.AB189953.1)の第949番目から第971番目の塩基配列、第1315番目から第1335番目の塩基配列に相補的な塩基配列および第1254番目から第1278番目の塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸である。パラインフルエンザウイルス2型を検出する為には、1st PCRを配列番号16のプライマー(センス)と配列番号17のプライマー(アンチセンス)で行い、2nd PCR(hemi-nested PCR)を配列番号16のプライマー(センス)と配列番号18のプライマー(アンチセンス)で行う。
【0018】
配列番号19、21に示される塩基配列はそれぞれ、パラインフルエンザウイルス3型(PIV3)ゲノム(GenBank Accession No.EU814623.1)の第342番目から第366番目の塩基配列、第469番目から第490番目の塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸であり、配列番号20に示される塩基配列はパラインフルエンザウイルス3型(PIV3)ゲノム(GenBank Accession No.Z26523.1)の第568番目から第590番目の塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸である。パラインフルエンザウイルス3型を検出する為には、1st PCRを配列番号19のプライマー(センス)と配列番号20のプライマー(アンチセンス)で行い、2nd PCR(hemi-nested PCR)を配列番号19のプライマー(センス)と配列番号21のプライマー(アンチセンス)で行う。
【0019】
配列番号22、23および24に示される塩基配列はそれぞれ、パラインフルエンザウイルス4型(PIV4)ゲノム(GenBank Accession No.M55976.1)の第23番目から第42番目の塩基配列、第445番目から第464番目の塩基配列に相補的な塩基配列および第394番目から第412番目の塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸である。パラインフルエンザウイルス4型を検出する為には、1st PCRを配列番号22のプライマー(センス)と配列番号23のプライマー(アンチセンス)で行い、2nd PCR(hemi-nested PCR)を配列番号22のプライマー(センス)と配列番号24のプライマー(アンチセンス)で行う。
【0020】
配列番号25に示される塩基配列はライノウイルスゲノム(GenBank Accession No.EU870480.1)の第247番目から第268番目の塩基配列からなる核酸であり、配列番号26に示される塩基配列はライノウイルスゲノム(GenBank Accession No.EU096061.1)の第452番目から第473番目の塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸であり、配列番号27に示される塩基配列はライノウイルスゲノム(GenBank Accession No.EU096083.1)の第384番目から第406番目の塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸である。ライノウイルスを検出する為には、1st PCRを配列番号25のプライマー(センス)と配列番号26のプライマー(アンチセンス)で行い、2nd PCR(hemi-nested PCR)を配列番号25のプライマー(センス)と配列番号27のプライマー(アンチセンス)で行う。
【0021】
配列番号28、29および30に示される塩基配列はそれぞれ、コロナウイルス229E(hCoV 229E)ゲノム(GenBank Accession No.J04419.1)の第726番目から第751番目の塩基配列、第1041番目から第1067番目の塩基配列に相補的な塩基配列および第975番目から第994番目の塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸である。コロナウイルス229Eを検出する為には、1st PCRを配列番号28のプライマー(センス)と配列番号29のプライマー(アンチセンス)で行い、2nd PCR(hemi-nested PCR)を配列番号28のプライマー(センス)と配列番号30のプライマー(アンチセンス)で行う。
【0022】
配列番号31、32および33に示される塩基配列はそれぞれ、コロナウイルスOC43(hCoV OC43)ゲノム(GenBank Accession No.AY461522.1)の第701番目から第727番目の塩基配列、第1039番目から第1059番目の塩基配列に相補的な塩基配列および第744番目から第769番目の塩基配列からなる核酸である。コロナウイルスOC43を検出する為には、1st PCRを配列番号31のプライマー(センス)と配列番号32のプライマー(アンチセンス)で行い、2nd PCR(hemi-nested PCR)を配列番号32のプライマー(アンチセンス)と配列番号33のプライマー(センス)で行う。
【0023】
配列番号34に示される塩基配列はアデノウイルスゲノム(GenBank Accession No.EU867492.1)の第1757番目から第1779番目の塩基配列からなる核酸であり、配列番号35および36に示される塩基配列はそれぞれ、アデノウイルスゲノム(GenBank Accession No.FJ167599.1)の第56番目から第77番目の塩基配列に相補的な塩基配列および第13番目から第36番目の塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸である。アデノウイルスを検出する為には、1st PCRを配列番号34のプライマー(センス)と配列番号35のプライマー(アンチセンス)で行い、2nd PCR(hemi-nested PCR)を配列番号34のプライマー(センス)と配列番号36のプライマー(アンチセンス)で行う。
【0024】
配列番号37、38および39に示される塩基配列はそれぞれ、ボカウイルスゲノム(GenBank Accession No.FJ1548924.1)の第1番目から第21番目の塩基配列、第334番目から第354番目の塩基配列に相補的な塩基配列および第281番目から第303番目の塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸である。ボカウイルスを検出する為には、1st PCRを配列番号37のプライマー(センス)と配列番号38のプライマー(アンチセンス)で行い、2nd PCR(hemi-nested PCR)を配列番号37のプライマー(センス)と配列番号39のプライマー(アンチセンス)で行う。
【0025】
本発明のプライマーセットを構成するプライマーとしては、前記の各配列番号に示される塩基配列からなる核酸以外にも、各配列番号で示される塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し同様にプライマーとしての機能を有するその変異体もまた含まれる。
【0026】
「各配列番号で示される塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し同様にプライマーとしての機能を有するその変異体」とは、上記した各配列番号で示される塩基配列にそれぞれ相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドである。例えば、「配列番号1で示される塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し同様にプライマーとしての機能を有するその変異体」とは、配列番号1で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと同様のプライマーとしての機能、すなわち配列番号2で示される塩基配列からなるプライマーと組み合わせることによってA型インフルエンザ遺伝子の特定の領域をPCR増幅させることのできる機能を有する。同様に「配列番号2で示される塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し同様にプライマーとしての機能を有するその変異体」とは、配列番号2で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドであって、配列番号2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと同様のプライマーとしての機能、すなわち配列番号1で示される塩基配列からなるプライマーと組み合わせることによってA型インフルエンザ遺伝子の特定の領域をPCR増幅させることのできる機能を有する。同様に「配列番号3で示される塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し同様にプライマーとしての機能を有するその変異体」とは、配列番号3で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドであって、配列番号3で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと同様のプライマーとしての機能、すなわち配列番号1で示される塩基配列からなるプライマーと組み合わせることによってA型インフルエンザ遺伝子の特定の領域をPCR増幅させることのできる機能を有する。
かかる変異体は、プライマーとしての機能が維持される範囲で、もととなるオリゴヌクレオチドから1個又は複数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入又は付加されている。
ハイブリダイゼーション時のストリンジェンシーは、温度、塩濃度、プライマーの鎖長、プライマーのヌクレオチド配列のGC含量及びハイブリダイゼーション緩衝液中のカオトロピック剤の濃度の関数であることが知られている。ストリンジェントな条件としては、例えば、Sambrook, J. et al. (1998) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd ed.), Cold Spring HarborLaboratory Press, New Yorkに記載された条件などを用いることができる。ストリンジェントな温度条件は、約30℃以上、より好ましくは約37℃以上、最も好ましくは約42℃以上である。その他の条件としては、ハイブリダイゼーション時間、洗浄剤(例えば、SDS)の濃度、及びキャリアDNAの存否等であり、これらの条件を組み合わせることによって、様々なストリンジェンシーを設定することができる。
【0027】
上記の13種のウイルスには、これまで多くのバリアントが報告されており、今後も新たな変異ウイルス株が続々と見出されるだろう。そのような変異ウイルス株であっても、ウイルスゲノム上の対応する塩基配列が本発明のプライマーセットの有する塩基配列と相補的である限り、後述する方法でウイルスの存否を検出することが可能である。
【0028】
本発明のプライマーセットは、上記(i)〜(vii)、(ix)および(xii)からなる群(それぞれA型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ヒトメタ肺炎ウイルス、パラインフルエンザウイルス1型、パラインフルエンザウイルス2型、パラインフルエンザウイルス3型、ライノウイルスおよびアデノウイルスを検出する為のプライマーセット)から少なくとも2つ選択されるプライマーセット(又は、上記(i)〜(vii)、(ix)および(xii)からなる群から少なくとも1つ選択され、かつ上記(viii)、(x)、(xi)および(xiii)からなる群(それぞれパラインフルエンザウイルス4型、コロナウイルス229E、コロナウイルスOC43およびボカウイルスを検出する為のプライマーセット)から少なくとも1つ選択されるプライマーセット)であるが、多種類のプライマー同士の相互作用を減じ、ウイルスの検出感度を向上させるため、特定のプライマーセットを組み合わせることが好ましい場合もある。そのような組み合わせとしては、上記(i)〜(ix)の各プライマーセット(即ち、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、およびヒトメタ肺炎ウイルスを検出する為のプライマーセットの組み合わせ)の少なくとも2つを含むもの(好ましくは少なくとも3つ、より好ましくは4つ全てを含むもの)、上記(v)〜(vii)の各プライマーセット(即ち、パラインフルエンザウイルス1型、パラインフルエンザウイルス2型、およびパラインフルエンザウイルス3型を検出する為のプライマーセットの組み合わせ)の少なくとも2つを含むもの(好ましくは3つ全てを含むもの)(または、上記(v)〜(vii)の各プライマーセットの少なくとも1つを含み、かつ上記(viii)のプライマーセット(即ち、パラインフルエンザウイルス4型を検出する為のプライマーセット)を含むもの)、上記(ix)のプライマーセット(即ち、ライノウイルスを検出する為のプライマーセット)(または、上記(ix)のプライマーセット、かつ上記(x)または(xi)のプライマーセット(コロナウイルス229EまたはコロナウイルスOC43を検出する為のプライマーセット)の少なくとも1つを含むもの)、または上記(xii)および(xiii)のプライマーセット(即ち、アデノウイルス、ボカウイルスを検出する為のプライマーセット)含むものである。
【0029】
本発明はまた、本発明のプライマーセットを用いて、被験対象から採取した試料からウイルス遺伝子またはその転写産物を検出することを特徴とする、ウイルスの検出方法を提供する。
【0030】
本発明の検出方法が適用できる対象は特に制限されないが、例えば、呼吸器感染症を発症するおそれがあるか、もしくは発症していることが疑われる哺乳動物、例えば、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ブタ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ等が挙げられる。好ましくはヒトである。
【0031】
本発明の検出方法に用いられる試料としては、被験対象である上記哺乳動物から採取されるものであって、検出対象であるウイルス遺伝子またはその産物(例、DNA、RNA、それらの分解産物など)を含有するものであれば特に制限されない。例えば、全血、血球成分、血漿、血清、リンパ液、脳脊髄液、精液、尿、汗、唾液、関節液等の体液もしくはそのフラクション、粘膜(例えば、鼻咽頭など)、生検により得られる細胞もしくは組織標本などが挙げられる。迅速且つ簡便に採取することができ、動物への侵襲が少ないなどの点から、鼻咽頭液が好ましいが、それらに限定されない。
【0032】
本発明の検出方法は、上記した哺乳動物から採取した試料における、ウイルス遺伝子またはその転写産物を検出することを特徴とする。本発明の検出方法で検出されるウイルスとしては、呼吸器感染症に関連するウイルスが挙げられる。そのようなウイルスとしては、例えば、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ヒトメタ肺炎ウイルス、パラインフルエンザウイルス1〜4型、ライノウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、ボカウイルス等が挙げられるが、それらの変異株も検出することができる。
【0033】
被験対象から採取した試料におけるウイルス遺伝子の検出は、該試料からDNA(例:ウイルスゲノムDNA)画分またはRNA(例:ウイルスゲノムRNA、mRNA)画分を調製し、該画分中に含まれるウイルス遺伝子またはその転写産物を検出することにより調べることができる。DNA画分の調製は、プロテイナーゼK/フェノール抽出法、フェノール/クロロホルム抽出法、アルカリ溶解法、ボイリング法など、RNA画分の調製は、グアニジン-CsCl超遠心法、AGPC法など公知の手法を用いて行うことができるが、市販のウイルスDNA/RNA抽出用キット(例:QIAamp Viral DNA Mini Kit, QIAamp Viral RNA Mini Kit; QIAGEN製等)を用いて、微量試料から迅速且つ簡便に高純度のDNAまたはRNAを調製することができる。DNAまたはRNA画分中のウイルス遺伝子またはその転写産物を検出する手段としては、例えば、ハイブリダイゼーション(サザンブロット、ノーザンブロット、ドットブロット、DNAチップ解析等)を用いる方法、あるいはPCR(RT-PCR、競合PCR、リアルタイムPCR、マルチプレックスPCR等)を用いる方法などが挙げられる。微量試料から迅速且つ簡便に定量性よくウイルス遺伝子またはその転写産物を検出できる点で競合PCRやリアルタイムPCRなどの定量的PCR法が、また、複数のマーカー遺伝子の発現変動を一括検出することができ、検出方法の選択によって定量性も向上させ得るなどの点でDNAチップ解析が好ましいが、迅速性・定量性・複数遺伝子を同時に検出可能であるという点で、マルチプレックスPCRが特に好ましい。
【0034】
ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。
【0035】
DNAチップ解析による場合、例えば、上記のようにして調製したRNA画分から、逆転写反応によりT7プロモーター等の適当なプロモーターを導入したcDNAを合成し、さらにRNAポリメラーゼを用いてcRNAを合成する(この時ビオチンなどで標識したモノヌクレオチドを基質として用いることにより、標識されたcRNAが得られる)。この標識cRNAを、プローブを固相化したチップと接触させてハイブリダイゼーション反応させ、固相上の各プローブに結合した標識量を測定することにより、ウイルス遺伝子を検出することができる。
【0036】
別の好ましい実施態様によれば、ウイルス遺伝子またはその転写産物を検出する方法として定量的PCR法が用いられる。定量的PCRとしては、例えば、競合PCRやリアルタイムPCRなどがある。本発明の検出方法においては、特に同時に多種類ウイルスを検出可能であることから、マルチプレックスPCRが好適に用いられる。
【0037】
マルチプレックスPCRとは、一または複数の標的核酸の複数の標的配列を一の反応容器内で同時に増幅する方法である。各標的配列を増幅し得るプライマーセットを一反応容器に入れて単一のPCR操作により、標的配列を増幅させる。通常、PCR反応は一の標的配列を増幅することを目的として一回のPCR操作につき、一種類プライマーセットを用いるが、マルチプレックスPCRでは複数の標的配列を増幅し得るプライマーセットを利用することにより、単一PCRに比べて標的DNAの増幅に要する時間、労働力及び試薬コストを大きく低減させることが可能となる。また、微量試料をも対象とすることができる。また、マルチプレックスPCRでは、2回以上のPCRを反復して行ってもよい。その際、2回目以降のPCRはnested PCRまたはhemi-nested PCRであることが好ましい。Nested PCRは、直前のPCRで用いたプライマーセットより内側に設計したプライマーセットを用いて、2段階のPCRを行う方法であり、目的とする領域からの直前のPCR産物を鋳型にして、直前に使用したプライマー位置より、5’および3’側ともに内側に新たにプライマーを設計して行う方法をnested PCR、5’または3’側のいずれかのみの内側に新たにプライマーを設計して行う方法をhemi-nested PCRという。PCRは、二つのプライマーセットの標的配列に対する特異性に基づいて特定の断片を増幅する手法であるが、プライマーの類似配列によってミススプライシングがときどき起こり、標的配列の増幅とともに非特異的な増幅が生じうる。この非特異的断片を含むPCR生成物を鋳型にしてnested PCRまたはhemi-nested PCRを行うことにより、非特異的な断片のなかにnested PCRプライマーに類似した配列が存在する確率が極めて低くなるため、特異的配列のみを増幅することができる。
【0038】
PCRにおいてプライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドのセットとしては、例えば、検出対象のウイルス遺伝子またはその転写産物を特異的に検出し得る核酸プライマーを挙げることができる。1つの好ましい態様においては、本発明の検出方法に用いられる核酸プライマーとしては、例えば、本発明の上記したプライマーセットが挙げられる。
【0039】
被験対象の呼吸器感染症の確定診断が必要な状況下においては、多くの場合、該対象は一般的な対症療法または抗ウイルス剤・抗生物質の投与履歴を有している。かかる場合、被験対象のウイルス等が検出に耐え得る程度に保存されていないために、ウイルス・バクテリアの培養・染色、一のウイルス等のみを増幅対象としたPCRでは、複数感染していた場合に、いずれのウイルス等が疾病の主要原因であるか判定が困難な場合がある。また、マルチプレックスPCRによって、複数の病原体を増幅対象として、同時に検出を試みた場合であっても、プライマーセット同士の相互作用、ウイルスゲノムの変異による特異性の欠如等の要因により、検出されない場合もある。そこで、上記の不都合が生じないようにプライマーセットを設計し、適当な組み合わせを採用することが要される。具体的には、本発明のマルチプレックスPCRに適用されるプライマーセットとしては、(i)〜(iv)のプライマーセット、(v)〜(viii)のプライマーセット、(ix)〜(xi)のプライマーセット、または(xii)および(xiii)のプライマーセットからなる組み合わせが好ましく用いられる。
【0040】
本発明はまた、上記本発明の検出方法において好ましく使用され得る、ウイルス遺伝子またはその転写産物の検出用キットを提供する。該キットは、
(i)配列番号1に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号2又は配列番号3で示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセット;
(ii)配列番号4に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号5又は配列番号6に示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセット;
(iii)配列番号7又は配列番号9に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号8に示される塩基配列からなるプライマーとからなる構成されるプライマーセット;
(iv)配列番号10に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号11又は配列番号12に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(v)配列番号13又は配列番号15に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号14に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(vi)配列番号16に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号17又は配列番号18に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(vii)配列番号19に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号20又は配列番号21に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(viii)配列番号22に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号23又は配列番号24に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(ix)配列番号25に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号26又は配列番号27に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(x)配列番号28に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号29又は配列番号30に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(xi)配列番号31に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号32又は配列番号33に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(xii)配列番号34に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号35又は配列番号36に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;および
(xiii)配列番号37に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号38又は配列番号39に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセットを含有する各試薬のうち、上記(i)〜(vii)、(ix)および(xii)からなる群(それぞれA型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ヒトメタ肺炎ウイルス、パラインフルエンザウイルス1型、パラインフルエンザウイルス2型、パラインフルエンザウイルス3型、ライノウイルスおよびアデノウイルスを検出する為のプライマーセットを含有する試薬)から少なくとも2つ選択されるプライマーセットを含有する試薬(又は、上記(i)〜(vii)、(ix)および(xii)からなる群から少なくとも1つ選択され、かつ上記(viii)、(x)、(xi)および(xiii)からなる群(それぞれパラインフルエンザウイルス4型、コロナウイルス229E、コロナウイルスOC43およびボカウイルスを検出する為のプライマーセットを含有する試薬)から少なくとも1つ選択されるプライマーセットを含有する試薬)を含有するものであるが、多種類のプライマーの非特異性を減じ、ウイルスの検出感度を向上させるため、特定のプライマーセットを含有する試薬を組み合わせることが好ましい場合もある。そのような組み合わせとしては、上記(i)〜(ix)の各プライマーセットを含有する試薬(即ち、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、およびヒトメタ肺炎ウイルスを検出する為のプライマーセットを含有する試薬の組み合わせ)の少なくとも2つを含むもの(好ましくは少なくとも3つ、より好ましくは4つ全てを含むもの)、上記(v)〜(vii)の各プライマーセットを含有する試薬(即ち、パラインフルエンザウイルス1型、パラインフルエンザウイルス2型、およびパラインフルエンザウイルス3型を検出する為のプライマーセットを含有する試薬の組み合わせ)の少なくとも2つを含むもの(好ましくは3つ全てを含むもの)(または、上記(v)〜(vii)の各プライマーセットを含有する試薬の少なくとも1つを含み、かつ上記(viii)のプライマーセットを含有する試薬(即ち、パラインフルエンザウイルス4型を検出する為のプライマーセットを含有する試薬)を含むもの)、上記(ix)のプライマーセットを含有する試薬(即ち、ライノウイルスを検出する為のプライマーセットを含有する試薬)(または、上記(ix)のプライマーセットを含有する試薬、かつ上記(x)または(xi)のプライマーセットを含有する試薬(即ち、コロナウイルス229EまたはコロナウイルスOC43を検出する為のプライマーセットを含有する試薬)の少なくとも1つを含むもの)、または上記(xii)および(xiii)のプライマーセットを含有する試薬(即ち、アデノウイルス、ボカウイルスを検出する為のプライマーセットを含有する試薬)含むものである。
【0041】
上記プライマーは、配列番号1〜39に示される各塩基配列情報に基づいて、該塩基配列を市販のDNA/RNA自動合成機等を用いて化学的に合成することによって得ることができる。
【0042】
本発明のキットによって検出されうるウイルスは、上記に記載した検出方法で検出されるウイルスと同様である。
【0043】
ウイルス遺伝子またはその転写産物を検出し得る核酸は、乾燥した状態もしくはアルコール沈澱の状態で、固体として提供することもできるし、水もしくは適当な緩衝液(例:TE緩衝液等)中に溶解した状態で提供することもできる。
【0044】
キットを構成する各試薬中に含有される核酸は、同一の方法(例:サザンブロット、ノーザンブロット、ドットブロット、DNAアレイ技術、定量RT-PCR、マルチプレックスPCR等)によりウイルス遺伝子またはその転写産物を検出し得るように構築されていることが特に好ましい。
本発明のキットの構成として、上記の試薬がそれぞれ別個に提供されるもの[例:核酸が標識プローブ(特にドットブロット解析の場合)やPCR(特にリアルタイム定量PCR)用プライマーとして機能する場合等]、異なるウイルス遺伝子またはその転写産物を検出し得る核酸が同一の試薬中に含有されて提供されるもの[例:核酸がPCR(特に、マルチプレックスPCR)や標識プローブ(特に、ノーザンブロット解析で転写産物のサイズにより各マーカー遺伝子を区別し得る場合)として機能する場合等]、あるいは、異なるウイルス遺伝子またはその転写産物を検出し得る核酸が、同一の固相の別個の領域にそれぞれ固定化されて提供されるもの[例:標識cRNA等とのハイブリダイゼーション用プローブとして機能する場合等]などが例示されるが、これらに限定されない。
【0045】
本発明のキットを構成する試薬は、ウイルス遺伝子またはその転写産物を検出し得る核酸に加えて、該遺伝子の発現を検出するための反応において必要な他の物質であって、共存状態で保存することにより反応に悪影響を及ぼさない物質をさらに含有することができる。あるいは、該試薬は、ウイルス遺伝子またはその転写産物を検出するための反応において必要な他の物質を含有する別個の試薬とともに提供されてもよい。例えば、ウイルス遺伝子またはその転写産物を検出するための反応がPCRの場合、当該他の物質としては、例えば、反応緩衝液、dNTPs、耐熱性DNAポリメラーゼ等が挙げられる。競合PCRやリアルタイムPCRを用いる場合は、competitor核酸や蛍光試薬(上記インターカレーターや蛍光プローブ等)などをさらに含むことができる。
【0046】
以下の実施例おいて、本発明を詳細に述べるが、本発明はそれらになんら限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
(1)試料調製
試料として鼻咽頭スワブ試料および咽頭スワブ試料を選択した。しかし、鼻咽頭洗浄試料、気管支肺胞洗浄試料、胸膜液試料および耳スワブ試料のような他の試料も用いることができる。さらに、脳脊髄液試料、血清または血漿試料並びに血液試料もまたウイルス血症が疑われる場合に用いることができる。
(a)鼻咽頭スワブ試料について
1.5mLチューブに滅菌済みの生理食塩水800μLを準備した。鼻咽頭後壁に達するまで鼻腔底に沿って、鼻腔内にスワブを挿入した。途中障害物に接触した場合は、もう一方の鼻腔に挿入した。スワブをゆっくりと回転させ、10秒間静置した後、スワブを取り出し、直ぐに800μLの滅菌済み生理食塩水入りのチューブ内にスワブを置いた。滅菌済みの鋏でスワブのシャフト部を切断し、チューブを密閉し、シャフト部をバイオハザードバッグに廃棄した。試料をラベルし、断熱包装に包んで冷凍パックで三時間以内に研究室に輸送した。
(b)咽頭スワブ試料について
1.5mLチューブに滅菌済みの生理食塩水800μLを準備した。舌の後部までデプレッサーを挿入し、舌を押さえて空間を確保した。被験対象に発声させ、舌を避けて中咽頭および扁桃腺の後部を拭った。スワブを取りだし、直ぐに800μLの滅菌済み生理食塩水入りのチューブ内にスワブを置いた。滅菌済みの鋏でスワブのシャフト部を切断し、チューブを密閉し、シャフト部をバイオハザードバッグに廃棄した。試料をラベルし、断熱包装に包んで冷凍パックで三時間以内に研究室に輸送した。
(c)研究室での試料調製
スワブ入りのチューブを10秒間ボルテックスした後、30秒間6000rpmでスピンダウンした。滅菌済み鉗子を用いて、スワブをチューブ壁に押し付けながら、試料を溶出させてスワブを除去した。ウイルス移行培地1mL入りのチューブに試料を125μL移した。キャップを密閉し、−80℃で試料を保存した。試料の一部はすぐにRNAまたはDNA抽出に用いることもできる。
(d)核酸抽出
ウイルス移行培地中の上記試料140μLから、QIA viral mini kit(QIAGEN Inc.)を用いて添付のガイドラインに従い、ウイルス核酸を抽出した。最終溶出工程は、溶出バッファー80μLで行った。
【0048】
(2)PCR解析方法
(a)1回目マルチプレックスPCR
上記で抽出されたウイルス核酸のうち、ウイルスRNAについては逆転写反応(以下、RT反応)および1回目のマルチプレックスPCRは、ウイルスRNAを鋳型として、QIA OneStep RT−PCR Kit(QIAGEN Inc.)を用いて行う。反応操作は、QIA OneStep RT−PCR Kitに添付のガイドラインに従う。また、ウイルスDNAについては、Gold Taq Flex DNA Polymerase(PROMEGA)を用いて、1回目のマルチプレックスPCRを行う。マルチプレックスPCRによる同時検出対象としたウイルスグループは、(グループ1)A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルスおよびヒトメタ肺炎ウイルス、(グループ2)パラインフルエンザウイルス1型、パラインフルエンザウイルス2型、パラインフルエンザウイルス3型およびパラインフルエンザウイルス4型、(グループ3)ライノウイルス、コロナウイルス229EおよびコロナウイルスOC43、(グループ4)アデノウイルスおよびボカウイルスの4グループである。各グループについての1回目のマルチプレックスPCRに用いたプライマー群を表1〜表4にそれぞれ示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
各グループの一回目マルチプレックスPCR(グループ1〜3についてはRT反応含む)について、反応液の組成を以下に示す。
【0054】
[グループ1]
RNaseフリー水 7μL
5×バッファー 5μL
5×Q−Solution 5μL
10mM dNTP 1μL
配列番号1のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号2のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号4のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号5のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号7のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号8のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号10のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号11のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
Enzyme Mix 1μL
鋳型RNA 5μL
全量 25μL
【0055】
[グループ2]
RNaseフリー水 7μL
5×バッファー 5μL
5×Q−Solution 5μL
10mM dNTP 1μL
配列番号13のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号14のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号16のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号17のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号19のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号20のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号22のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号23のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
Enzyme Mix 1μL
鋳型RNA 5μL
全量 25μL
【0056】
[グループ3]
RNaseフリー水 7.25μL
5×バッファー 5μL
5×Q−Solution 5μL
10mM dNTP 1μL
配列番号25のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号26のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号28のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号29のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号31のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号32のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
Enzyme Mix 1μL
鋳型RNA 5μL
全量 25μL
【0057】
[グループ4]
蒸留水 11.5μL
5×バッファー 5μL
25mM MgCl 2.5μL
10mM dNTP 0.5μL
配列番号34のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号35のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号37のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
配列番号38のプライマー(100pmol/μL) 0.125μL
Taq Polymerase 0.1μL
鋳型DNA 5μL
全量 25μL
【0058】
各グループのマルチプレックスPCRの反応温度、伸長時間、反応サイクル数等は以下の通りに設定する。また、反応にはABI9700サーマルサイクラーを用いる。
[グループ1]
50℃(30分)、95℃(15分)、[94℃(30秒)、57℃(30秒)、72℃(45秒)]×40サイクル、72℃(5分)、4℃
[グループ2]
50℃(30分)、95℃(15分)、[94℃(30秒)、55℃(30秒)、72℃(45秒)]×40サイクル、72℃(5分)、4℃
[グループ3]
50℃(30分)、95℃(15分)、[94℃(30秒)、55℃(30秒)、72℃(45秒)]×40サイクル、72℃(5分)、4℃
[グループ4]
94℃(5分)、[94℃(30秒)、55℃(30秒)、72℃(45秒)]×40サイクル、72℃(5分)、4℃
【0059】
上記の1回目マルチプレックスPCR産物の各グループ9μLと10×ローディングバッファー1μLの混合物を2%アガロースゲル上で電気泳動する。電気泳動条件は電圧100Vで35〜40分で行う。電気泳動後のアガロースゲルにUV(302nm)を照射し、増幅産物を可視化する。
【0060】
(b)2回目マルチプレックスPCR(hemi-nested PCR)
上記した1回目マルチプレックスPCRで増幅された核酸を鋳型として、Gold Taq Flex DNA Polymerase(PROMEGA)を用いて2回目マルチプレックスPCR(hemi-nested PCR)を行う。反応操作は、Gold Taq Flex DNA Polymeraseに添付のガイドラインに従う。hemi-nested PCRでは、1回目マルチプレックスPCRで検出対象としたウイルスグループを同時検出対象とする。各グループについてのhemi-nested PCRに用いたプライマー群を表1〜表4にそれぞれ示す。
【0061】
各グループのhemi-nested PCRについて、反応液の組成を以下に示す。
【0062】
[グループ1]
蒸留水 15.1μL
5×バッファー 5μL
25mM MgCl 2.5μL
10mM dNTP 0.5μL
配列番号1のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号3のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号4のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号6のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号8のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号9のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号10のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号12のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
Taq Polymerase 0.1μL
1回目マルチプレックスPCR増幅産物 1μL
全量 25μL
【0063】
[グループ2]
蒸留水 15.1μL
5×バッファー 5μL
25mM MgCl 2.5μL
10mM dNTP 0.5μL
配列番号14のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号15のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号16のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号18のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号19のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号21のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号22のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号24のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
Taq Polymerase 0.1μL
1回目マルチプレックスPCR増幅産物 1μL
全量 25μL
【0064】
[グループ3]
蒸留水 15.3μL
5×バッファー 5μL
25mM MgCl 2.5μL
10mM dNTP 0.5μL
配列番号25のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号27のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号28のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号30のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号32のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号33のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
Taq Polymerase 0.1μL
1回目マルチプレックスPCR増幅産物 1μL
全量 25μL
【0065】
[グループ4]
蒸留水 15.5μL
5×バッファー 5μL
25mM MgCl 2.5μL
10mM dNTP 0.5μL
配列番号34のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号36のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号37のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
配列番号39のプライマー(100pmol/μL) 0.1μL
Taq Polymerase 0.1μL
1回目マルチプレックスPCR増幅産物 1μL
全量 25μL
【0066】
各グループのhemi-nested PCRの反応温度、伸長時間、反応サイクル数等は以下の通りに設定する。また、反応にはABI9700サーマルサイクラーを用いる。
[グループ1]
94℃(5分)、[94℃(30秒)、57℃(30秒)、72℃(45秒)]×35サイクル、72℃(5分)、4℃
[グループ2]
94℃(5分)、[94℃(30秒)、55℃(30秒)、72℃(45秒)]×35サイクル、72℃(5分)、4℃
[グループ3]
94℃(5分)、[94℃(30秒)、55℃(30秒)、72℃(45秒)]×35サイクル、72℃(5分)、4℃
[グループ4]
94℃(5分)、[94℃(30秒)、55℃(30秒)、72℃(45秒)]×35サイクル、72℃(5分)、4℃
【0067】
上記のhemi-nested PCR産物の各グループ9μLと10×ローディングバッファー1μLの混合物を2%アガロースゲル上で電気泳動する。電気泳動条件は電圧100Vで35〜40分で行う。電気泳動後のアガロースゲルにUV(302nm)を照射し、増幅産物を可視化する。
【0068】
上記試料から調製したウイルス核酸を鋳型として、グループ1に属するウイルス群、即ちA型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルスおよびヒトメタ肺炎ウイルスの同時検出を目的とした、1回目マルチプレックスPCRを行った。各PCRの反応液組成、PCR反応温度、伸長時間、反応サイクル数などはグループ1に該当する上記の条件に従った。増幅産物の電気泳動結果を図1に示す。各レーンのうち、レーン1、2、6、7には増幅産物が確認でき、その断片サイズから、レーン1の試料に含まれたウイルスは、ヒトメタ肺炎ウイルス、レーン2の試料に含まれたウイルスは、呼吸器合胞体ウイルス、レーン6の試料に含まれたウイルスは、ヒトメタ肺炎ウイルスおよび呼吸器合胞体ウイルス、レーン7の試料に含まれたウイルスは、A型インフルエンザウイルスおよびB型インフルエンザウイルスであることが確認できた。また、それ以外のレーンには増幅産物が見当たらないことから、検出対象となったウイルスは含まれていないことが分かった。
【0069】
また、上記試料から調製した複数の標的遺伝子が混在したウイルス核酸ではなく、別途調製した単一のウイルス核酸(A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ヒトメタ肺炎ウイルス、パラインフルエンザウイルス1型、パラインフルエンザウイルス2型、パラインフルエンザウイルス3型、ライノウイルス、アデノウイルスおよびボカウイルス)をそれぞれ鋳型として、各ウイルスを対象としたプライマー(例えば、A型インフルエンザウイルスを対象とする場合、配列番号1に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号2又は配列番号3で示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセットのみ)を用いて、1回目PCRおよび2回目PCRを行った。増幅結果の電気泳動像を図2および図3に示す。各プライマーは増幅対象遺伝子を特異的に増幅できており、各標的遺伝子は増幅されるサイズが異なるため、増幅産物が混在しているマルチプレックスPCRであっても、電気泳動像からウイルスを同定することができることが分かった。
【0070】
また、本発明のマルチプレックスPCRの増幅感度についても検討を行った。ヒトメタ肺炎ウイルスおよび呼吸器合胞体ウイルスについて、鋳型核酸の混合比を変えて1回目PCRを行った。結果を図4に示す。レーン2およびレーン4は鋳型核酸としてのヒトメタ肺炎ウイルスおよび呼吸器合胞体ウイルスのモル比が100:10および10:100であるが、両ウイルスを検出することができた。従って、最も少ない鋳型核酸であっても、そのモル数が全体の10%までならば、検出可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、本発明のプライマーセットを複数組み合わせて用いることにより、迅速・簡便に複数のウイルスを同時に検出することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(i)〜(vii)、(ix)および(xii)からなる群から少なくとも2つ選択されるプライマーセット:
(i)配列番号1に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号2又は配列番号3で示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセット;
(ii)配列番号4に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号5又は配列番号6に示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセット;
(iii)配列番号7又は配列番号9に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号8に示される塩基配列からなるプライマーとからなる構成されるプライマーセット;
(iv)配列番号10に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号11又は配列番号12に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(v)配列番号13又は配列番号15に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号14に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(vi)配列番号16に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号17又は配列番号18に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(vii)配列番号19に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号20又は配列番号21に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(ix)配列番号25に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号26又は配列番号27に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(xii)配列番号34に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号35又は配列番号36に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット。
【請求項2】
以下の(i)〜(vii)、(ix)および(xii)からなる群から少なくとも1つ選択され、かつ以下の(viii)、(x)、(xi)および(xiii)からなる群から少なくとも1つ選択されるプライマーセット:
(i)配列番号1に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号2又は配列番号3で示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセット;
(ii)配列番号4に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号5又は配列番号6に示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセット;
(iii)配列番号7又は配列番号9に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号8に示される塩基配列からなるプライマーとからなる構成されるプライマーセット;
(iv)配列番号10に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号11又は配列番号12に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(v)配列番号13又は配列番号15に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号14に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(vi)配列番号16に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号17又は配列番号18に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(vii)配列番号19に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号20又は配列番号21に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(viii)配列番号22に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号23又は配列番号24に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(ix)配列番号25に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号26又は配列番号27に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(x)配列番号28に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号29又は配列番号30に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(xi)配列番号31又は配列番号33に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号32に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(xii)配列番号34に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号35又は配列番号36に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;および
(xiii)配列番号37に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号38又は配列番号39に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット。
【請求項3】
以下の(i)〜(iv)からなる群から少なくとも2つ選択されるプライマーセット:
(i)配列番号1に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号2又は配列番号3で示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセット;
(ii)配列番号4に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号5又は配列番号6に示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセット;
(iii)配列番号7又は配列番号9に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号8に示される塩基配列からなるプライマーとからなる構成されるプライマーセット;および
(iv)配列番号10に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号11又は配列番号12に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット。
【請求項4】
以下の(v)〜(vii)からなる群から少なくとも2つ選択されるプライマーセット:
(v)配列番号13又は配列番号15に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号14に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(vi)配列番号16に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号17又は配列番号18に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;および
(vii)配列番号19に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号20又は配列番号21に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット。
【請求項5】
以下の(v)〜(vii)からなる群から少なくとも1つ選択され、かつ以下の(viii)のプライマーセットを含むプライマーセット:
(v)配列番号13又は配列番号15に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号14に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(vi)配列番号16に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号17又は配列番号18に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(vii)配列番号19に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号20又は配列番号21に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;および
(viii)配列番号22に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号23又は配列番号24に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット。
【請求項6】
以下の(ix)のプライマーセットを含み、かつ以下の(x)および(xi)からなる群から少なくとも1つ選択されるプライマーセット:
(ix)配列番号25に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号26又は配列番号27に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;
(x)配列番号28に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号29又は配列番号30に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;および
(xi)配列番号31又は配列番号33に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号32に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット。
【請求項7】
以下の(xii)および(xiii)からなるプライマーセット:
(xii)配列番号34に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号35又は配列番号36に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット;および
(xiii)配列番号37に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号38又は配列番号39に示される塩基配列からなるプライマーとから構成されるプライマーセット。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のプライマーセットを用いて、被験対象から採取した試料からウイルス遺伝子またはその転写産物を検出することを特徴とする、ウイルスの検出方法。
【請求項9】
ウイルスが、呼吸器感染症に関連するウイルスである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のプライマーセットを含有する、ウイルス遺伝子又はその転写産物の検出用キット。
【請求項11】
ウイルスが、呼吸器感染症に関連するウイルスである、請求項10記載のキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−103861(P2011−103861A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265715(P2009−265715)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、科学技術試験研究事業「ベトナムにおける長崎大学感染症研究プロジェクト」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】