説明

多糖誘導体の製造方法

【課題】水溶媒への溶解性の高い多糖誘導体を得る。
【解決手段】縮合剤として下記一般式(1)で示される化合物を用いることにより、カルボキシル基を有する多糖とカルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物とを結合させて、多糖誘導体を製造する。


(式中、R3、R4およびR5はそれぞれ独立に、少なくとも四級窒素原子に結合する原子が炭素原子である有機基であり、そのうちの2あるいは3個が互いに結合して環構造を形成してもよい)で示される有機基であり、
1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数6〜8のアリール基を示し、Z-はカウンターアニオンを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖誘導体の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単糖類がポリグリコシル化した高分子化合物である多糖は、構成糖の違いにより様々な種類があり、異なる分子量や性状、生理機能を有しており、研究が盛んである。
高分子量の多糖として知られているヒアルロン酸においては、一般的に、ヒアルロン酸のカルボキシル基へ、カルボキシル基と結合しうる官能基を有する化合物を導入する反応を行った場合、生成するヒアルロン酸誘導体の親水性の低下を招き、結果として難溶性、さらには不溶性となる問題点があることが知られている。
従来、ヒアルロン酸のカルボキシル基と、カルボキシル基と結合しうる求核性の官能基を有する化合物とを化学的に結合する手段としては、含水溶媒中でヒアルロン酸のカルボキシル基とアミノ基を含む化合物のアミノ基とを水溶性カルボジイミド(WSC)を用いて反応させる方法(以下、WSC法とも言う。)が知られており(特許文献1、特許文献2)、当該方法で得られたヒアルロン酸誘導体は、上記問題を有していた。例えば、特許文献1には、特に、ヒアルロン酸の構成二糖単位あたりの導入する化合物の割合を0.05%以上とした場合には、単離された当該ヒアルロン酸誘導体は、液性が中性の水性溶媒に不溶である可能性が指摘されており、当該結合割合が5%以上である場合には、水性溶媒に不溶であると記載されている。
【0003】
このような問題に対し、特許文献1では、従来法である縮合剤としてWSCを用いたヒアルロン酸と化合物との縮合反応の後に反応溶液に塩基を添加する処理(アルカリ処理)を施した上で単離するヒアルロン酸誘導体の製造法を開示し、該ヒアルロン酸誘導体は、液性が中性の水性溶媒に溶解し、溶液とすることが出来ると報告している。また、特許文献2においても、得られたヒアルロン酸誘導体を液性中性の水溶液として利用する為の方法として、WSC法の後に、特許文献1に記載の方法を用いている。つまり、特許文献1及び2においては、WSC法による縮合反応工程とアルカリ処理工程からなる2段階の工程を経て、水性溶媒へ溶解可能なヒアルロン酸誘導体を得ている。
【0004】
特許文献2にも記載されているように、従来のWSCを用い製造したヒアルロン酸誘導体は、少なくとも製造工程中では、液性中性の水性溶媒への不溶化という現象として顕在化するような高次構造変化を起こしていると考えられるが、WSC法の後に特許文献1記載のアルカリ処理を用いることで、縮合反応において一度不溶化したヒアルロン酸誘導体は再び液性中性の水性溶媒に可溶となる。この可溶化は、縮合反応中に変化した高次構造を更に変化あるいは復元した結果と考えられる。
また、特許文献1における塩基処理(アルカリ処理)は、反応中に変化した高次構造を更に変化あるいは復元することで、一時失った水性溶媒への高い親和性を再度獲得する技術である。
【0005】
4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(以下、DMT-MMとも言う。)は、カルボキシル基と、カルボキシル基と結合しうる求核性の官能基とを縮合することを目的とする縮合剤として市販されており、低分子化合物同士によるアミド化合物の合成に主に用いられている。また、非特許文献1では、DMT-MMは、水性溶媒中において、溶媒中に添加されている化合物のカルボキシル基を活性化することにより、アミノ基とのアミド結合を高収率で形成すると報告しており、特許文献3ではカルボキシル基導入シクロデキストリン誘導体とキトサンにおいて、シクロデキストリン誘導体のカルボキシル基とキトサンのアミノ基とをDMT−MMを用い
てアミド結合させる誘導体製造法が開示されている。ただしこの製造法は不溶性誘導体を得ることを目的としたものである。DMT−MMを、高分子量の多糖(例えばヒアルロン酸など)のカルボキシル基と、カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物とを縮合させる反応に、水溶性誘導体を得る目的で用いた報告はなく、勿論、得られた誘導体を水溶液とした場合の性状、さらには高次構造の変化等に関する報告もない。
【特許文献1】特開2004−018750号公報
【特許文献2】国際公開第2005/085294号パンフレット
【特許文献3】特開2005−281372号公報
【非特許文献1】Tetrahedron 55(1999) 13159
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の様に、従来、多糖のカルボキシル基にカルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物を化学的に結合させた多糖誘導体は、水溶性の縮合剤(水溶性カルボジイミド)を用いる縮合反応により合成されていたが、得られた多糖誘導体は中性の水性溶媒へ均一に溶解せず、当該溶解性を改善する為には、当該縮合反応の後、反応溶液に塩基を添加する工程が必要であった。
そこで、手順や反応条件などがより簡便であり、得られた生成物が水性溶媒への高い溶解性を有し、有用性に優れた、カルボキシル基を有する多糖とカルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物との縮合生成物を得る方法が切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ヒアルロン酸などのカルボキシル基を有する多糖と、カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物とを反応させて得られた生成物である多糖誘導体の高次構造に変化が生じ、中性の水性溶媒へ溶解しないという問題を解決でき、且つ、効率的で簡便である製造方法について、鋭意検討を行った。その結果、従来用いられてきた縮合剤(WSC)の代わりに特定の縮合剤を用いて製造することにより、効率的且つ簡便に、水性溶媒への溶解性が改善された、有用な多糖誘導体が得られることを見出し、本発明に至った。
本発明は、以下の高分子量多糖誘導体の効率的で簡便な製造方法を提供する。
【0008】
(1)カルボキシル基を有する多糖と、カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物とを結合させることによる、当該多糖と当該有機化合物とが結合した多糖誘導体の製造方法において、縮合剤として下記一般式(1)で示される化合物を用いることを特徴とする、多糖誘導体の製造方法。
【化1】

(式中、R3、R4およびR5はそれぞれ独立に、少なくとも四級窒素原子に結合する原子が炭素原子である有機基であり、そのうちの2あるいは3個が互いに結合して環構造を形成してもよい)で示される有機基であり、
1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数6〜8のアリール基を示し、Z-はカウンターアニオンを示す。
(2)カルボキシル基を有する多糖が分子量1万以上のカルボキシル基を有する多糖であることを特徴とする(1)記載の多糖誘導体の製造方法。
(3)カルボキシル基を有する多糖がグリコサミノグリカンであることを特徴とする(1)または(2)記載の多糖誘導体の製造方法。
(4)カルボキシル基を有する多糖が、ヒアルロン酸であることを特徴とする(1)〜(3)の何れかの多糖誘導体の製造方法。
(5)ヒアルロン酸が、分子量10万以上のヒアルロン酸であることを特徴とする(4)の多糖誘導体の製造方法。
(6)カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物が、水酸基又はアミノ基を有する有機化合物であり、前記多糖と該有機化合物とをエステル結合またはアミド結合によって結合させる、(1)〜(5)の何れかの多糖誘導体の製造方法。
(7)カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物が、少なくとも1つのアミノ基を有する化合物であり、前記多糖と該有機化合物とをアミド結合により結合させる、(6)の多糖誘導体の製造方法。
(8)カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物が、少なくとも2つの官能基を有するスペーサー物質と、官能基を有する生理活性物質または薬剤とを共有結合させて得られる化合物であって、前記少なくとも2つの官能基が、カルボキシル基と結合しうる官能基と、前記生理活性物質または薬剤の官能基と共有結合しうる官能基であることを特徴とする、(1)〜(7)の何れかの多糖誘導体の製造方法。
(9)薬剤が、非ステロイド性抗炎症化合物または疾患修飾性抗リウマチ化合物である、(8)の多糖誘導体の製造方法。
(10)前記共有結合がエステル結合またはアミド結合である、(8)または(9)の多糖誘導体の製造方法。
(11)少なくとも2つの官能基を有するスペーサー物質が、アミノアルコール、アルキレンジアミンおよびアミノカルボン酸からなる群より選択される物質であることを特徴とする、(8)〜(10)の何れかの多糖誘導体の製造方法。
(12)前記一般式(1)において、
1とR2はメチル基、エチル基又はフェニル基であり、
+はN−メチルモルホリニウム基であり、
Z-はクロルアニオン、過塩素酸アニオン、または四弗化ホウ素アニオンであることを特徴とする(1)〜(11)の何れかの多糖誘導体の製造方法。
(13)下記一般式(1)で示される化合物が、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチル-モルホリニウムクロリドであることを特徴とする(1)〜(12)の何れかの多糖誘導体の製造方法。
(14)下記の工程を含む多糖誘導体の製造方法、
工程A:上記(1)〜(13)のいずれかに記載の製造方法により多糖誘導体を得る工程、及び
工程B:工程Aにて得られた多糖誘導体に塩基を作用させる工程。
(15)前記多糖誘導体を、室温下一昼夜、220rpmの振とう撹拌を行い、濃度1%(w/v)となるように水へ溶解させたときに、その水溶液は白濁せず澄明であり、固形物を認めないことを特徴とする、(1)〜(14)の何れかの多糖誘導体の製造方法。
(16)前記多糖誘導体の1%(w/v)水溶液を、孔径0.22μmの多孔質フィルターを通過させた時に通過前と比べて濃度が低下しないことを特徴とする(15)の多糖誘導体の製造方法。
(17)アミノアルコールと下記の一般式(3)で示される骨格を有する非ステロイド性抗炎症化合物とを、該アミノアルコールの水酸基と該非ステロイド性抗炎症化合物のカルボキシル基においてエステル結合させてなる化合物のアミノ基と、ヒアルロン酸のカルボキシル基とを結合させてヒアルロン酸誘導体を製造する方法において、縮合剤として前記一般式(1)で示される化合物を用いることを特徴とする、ヒアルロン酸誘導体の製造方法。
【化2】

6は低級アルキル基及び低級アルコキシル基から選択される置換基又は水素原子を示し、R7、R8及びR9はそれぞれ独立に、低級アルキル基、低級アルコキシル基及び水酸基からなる群から選択される置換基、ハロゲン原子又は水素原子を示し、Xは、それぞれ独立に、低級アルキル基、トリフルオロメチル基又はハロゲン原子を示し、少なくともXの一つはハロゲン原子である。
(18)前記一般式(1)で示される化合物が、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチル-モルホリニウムクロリドであることを特徴とする(17)のヒアルロン酸誘導体の製造方法。
(19)アミノアルコールが下記式で示されるアミノアルコールである(11)又は(17)の多糖誘導体の製造方法。
2N−(CH2)n−OH
式中、nは2〜12の整数を表す。

【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、ヒアルロン酸などのカルボキシル基を有する多糖の誘導体を効率的に且つ簡便に製造することができる為、当該多糖誘導体の工業規模での製造に有
用である。また、本発明の製造方法により、従来の製造方法で得られた多糖誘導体と比べ、非常に高い水性溶媒への溶解性を保有している多糖誘導体を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を発明の実施の形態により詳説する。
なお、本発明における水性溶媒は、特に明記しない限り、水、水を含む緩衝液、薬学的に許容される金属塩、pH調整剤等を含む水溶液、緩衝液等を意味し、注射用蒸留水、リン酸緩衝生理食塩水、生理食塩水が例示される。また、本発明において特にことわらない限り、多糖の分子量は重量平均分子量を意味する。
本発明は、多糖誘導体の新しい製造方法に関する。
本発明において原料として用いられる多糖は、カルボキシル基を有する多糖であり、好ましくは、分子量1万以上で、カルボキシル基を有する多糖である。これら多糖は、天然物である動物等から抽出、単離した多糖でも良く、また、遺伝子工学的手法によって改変された微生物に生産させたものや、化学的合成により入手したものでも構わない。また、市販のものを使用することもできる。グリコサミノグリカンは、カルボキシル基を有する構成糖を含む多糖として例示される。また、中性糖の重合体を化学的にカルボキシメチル化した誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース)が例示される。具体的には、カルボキシル基を有するグリコサミノグリカンとしては、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、N-アセチルヘパロサン等が例示される。
【0011】
なお、後述する本発明の製造方法による効果、つまり、得られた多糖誘導体が中性の水性溶媒への高い溶解性を有する効果は、特に高い分子量を有し、且つ、硫酸基のような当該多糖の水溶性を促進する置換基をあまり含まない多糖においてより顕著に享受できる。当該効果が顕著に現れる多糖としては、例えば、ヒアルロン酸が挙げられる。
ヒアルロン酸とは、D-グルクロン酸とN-アセチル-D-グルコサミンからなる構成二糖単位を有する重合体である。本発明明細書において、ヒアルロン酸は、上記構成二糖単位の繰り返し構造(ヒアルロン酸骨格)を有し、少なくとも1箇所以上の未修飾カルボキシル基を有するものであれば、ヒアルロン酸の誘導体であってもよい。このような、本発明の製造法において原料として使用しうるヒアルロン酸誘導体としては、ヒアルロン酸から誘導され、少なくとも1箇所以上の未修飾カルボキシル基を有するものであれば特に限定されないが、ヒアルロン酸のカルボキシル基の一部に他の低分子化合物(例えば、アルコール、薬剤、桂皮酸誘導体など)を導入したヒアルロン酸誘導体が挙げられる。
また、原料として使用しうるヒアルロン酸は、ヒアルロン酸やヒアルロン酸誘導体の薬理学的に許容されうる塩であってもよい。
例えば、当該薬理学的に許容されうる塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属イオンとの塩、マグネシウム塩、カルシウム塩のようなアルカリ土類金属イオンとの塩等が挙げられ、特に、アルカリ金属イオンとの塩が好ましく、中でもナトリウムイオンとの塩が特に好ましい。
原料として使用しうるヒアルロン酸の重量平均分子量は特に限定されないが、高分子多糖の特性を示す1万から1000万が例示される。なお、より好ましくは10万〜500万、最も好ましくは50万から300万が挙げられる。
【0012】
カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物としては、電子密度の小さい原子に電子を与えるか、又は、共有させてカルボキシル基と縮合反応を起こす化合物が挙げられる。当該官能基としては、例えば、水酸基、アミノ基が挙げられ、カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物としてより好ましくは、少なくとも1つのアミノ基を有する化合物が挙げられる。多糖と、カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物との結合は、エステル結合またはアミド結合が好ましく、含水溶媒中での反応において安定な生成物を高収率で得る観点から、アミド結合がより好ましい。
【0013】
当該カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物は、当該化合物がカルボキシル基と結合しうる官能基を有してさえいれば、得られる多糖誘導体の目的や用途を考慮し、適宜選択することが可能である。
カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物としては、直鎖アルキルアミンやアミノ酸、アミノアルコール等の低分子化合物、およびその誘導体が挙げられ、アミノアルコールの一例としては下記式で示される化合物が挙げられる。
2N−(CH2)n−OH
式中、nは2〜12の整数を表す。
【0014】
また、薬剤、生理活性物質等の化合物とカルボキシル基を有する多糖を縮合して多糖誘導体を製造する場合には、多糖誘導体の目的とする薬効、生理活性や用途に従い、カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物を選択することが可能であり、一例として、サイトカイン、ホルモン、成長因子、酵素等のような生理活性物質や以下に例示する様々な薬剤を挙げることが出来る。
【0015】
薬剤としては、例えば、その化学構造中にカルボキシル基、水酸基、アミノ基等の官能基を有している非ステロイド性抗炎症化合物(NSAID又はNSAIDs)や疾患修飾性抗リウマチ化合物(DMARD)が挙げられる。
NSAIDsは、一般的に、サリチル酸系NSAIDs、フェナム酸系NSAIDs、アリール酢酸系NSAIDs、プロピオン酸系NSAIDs、オキシカム系NSAIDs、及びこれら以外のNSAIDsとしてチアラミド、トルメチン、ジフルニサル、アセトアミノフェン、フロクタフェニン、チノリジン等があるが、一例としては、下記式(2)で示される骨格を有する化合物がより好ましく用いられる。
【化3】

【0016】
更には、下記式(3)で示される化合物が特に好ましく用いられる。
【化4】

ここで、R6は低級アルキル基、低級アルコキシル基、又は水素原子を示す。
7、R8及びR9はそれぞれ独立に、低級アルキル基、低級アルコキシル基、水酸基、
ハロゲン原子、又は水素原子を示す。
Xは、それぞれ独立に、低級アルキル基、トリフルオロメチル基、又はハロゲン原子を示し、少なくともXのどちらか一つはハロゲン原子である。
また、上記の低級アルキル基及び低級アルコキシル基は、分岐を有していても良い炭素数1〜12の低級アルキル基及び低級アルコキシル基が好ましく、分岐を有していても良い炭素数1〜6の低級アルキル基及び低級アルコキシル基が更に好ましい。
また、R6は、R6が結合しているベンゼン環においてカルボキシメチル基を1位、アミノ残基を2位とした場合に、5位の位置に結合しているのが好ましい。
上記式(3)で示される化合物としては、例えば、国際公開第99/11605号パンフレットに記載の化合物が挙げられ、同文献の記載内容は本明細書の記載の引用として取り込まれる。
【0017】
更には、下記式(4)で示される化合物が好ましく挙げられる。
【化5】

ここで、R10は低級アルキル基、低級アルコキシル基、又は水素原子を示し、分岐を有していても良い炭素数1〜12の低級アルキル基又は水素原子がより好ましく、中でも炭素数1〜4の低級アルキル基又は水素原子がより好ましい。
1、X2はそれぞれ独立に、低級アルキル基、トリフルオロメチル基、又はハロゲン原子を示し、少なくともどちらか一つはハロゲン原子である。X1、X2はハロゲン原子がより好ましく、中でもフッ素原子又は塩素原子から選択されるとより好ましい。
上記式(4)で示される化合物の典型的な例としては、R10が水素原子、X及びX2が塩素原子であるジクロフェナクが挙げられる。
【0018】
カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物は、もともとカルボキシル基と結合しうる官能基を有する生理活性物質や薬剤であってもよいが、多糖との縮合のためにそのような官能基を導入したものであっても良い。例えば、上記の生理活性物質又は薬剤と少なくとも2つの官能基を有するスペーサー物質とを共有結合させたり、桂皮酸や桂皮酸誘導体のような光反応性を有する化合物と少なくとも2つの官能基を有するスペーサー物質とを共有結合させることによって得ることも出来る。
ここで使用する少なくとも2つの官能基を有するスペーサー物質は、「カルボキシル基と結合しうる官能基であるアミノ基又は水酸基などの官能基」を少なくとも1つ有し、それ以外に更に、「生理活性物質や薬剤における官能基と結合しうる官能基」も有する物質であり、当該「生理活性物質や薬剤における官能基と結合しうる官能基」と「生理活性物質や薬剤の官能基」とで共有結合体を形成する。
例えば、少なくとも2つの官能基を有するスペーサー物質と、官能基を有する生理活性物質や薬剤との結合は、エステル結合やアミド結合が挙げられる。
このようにすれば、生理活性物質又は薬剤がカルボキシル基と結合しうる官能基を有していない場合であっても、生理活性物質や薬剤の官能基と、少なくとも2つの官能基を有するスペーサー物質の1つの官能基とを共有結合させることによって、カルボキシル基と結合しうる官能基を有する生理活性物質又は薬剤が得られる。
なお、上述のような少なくとも2つの官能基を有するスペーサー物質は、本発明製造方
法で得られる多糖誘導体の使用目的や用途に応じるためにも選択されうる。
【0019】
例えば、少なくとも2つの官能基を有するスペーサー物質を上記NSAIDsの有している官能基に合わせて選択し、上述のように共有結合体とすることも可能である。
少なくとも2つの官能基を有するスペーサー物質としては、カルボキシル基と結合しうる官能基とともに、例えば、水酸基を有しているNSAIDs又はDMARDと結合させる場合には、カルボキシル基を有するスペーサー物質を選択すればエステル結合により結合でき、カルボキシル基を有しているNSAIDs又はDMARDと結合させる場合には、水酸基を有するスペーサー物質を選択すればエステル結合により結合でき、アミノ基を有するスペーサー物質を選択すればアミド結合により結合できる。スペーサー物質と薬剤の結合様式については、本発明製造方法で得られる最終生成物の目的や用途に応じて選択できるが、例えば、当該共有結合体の生体内での分解のし易さを考慮する場合には、エステル結合が好ましく選択される。
例えば、上記NSAIDs又はDMARDを用いる場合、少なくとも2つの官能基を有するスペーサー物質としては、一般式:H2N−(CH2)n−OH(nは2〜18、好ましくは2〜12の整数)で示される前記と同様のアミノアルコール、アルキレンジアミン、アミノ酸が例示でき、より具体的には炭素数2〜18のジアミノアルカン、置換基を有していても良い炭素数2〜12のアミノアルキルアルコール、アミノ酸等が例示される。更に具体的には、グリシン、β-アラニン、γ-アミノ酪酸、置換基を有していても良い炭素数2〜5の直鎖あるいは分岐を有するアミノアルキルアルコールが例示される。
桂皮酸や桂皮酸誘導体のような光反応性を有する化合物を用いる場合にも、スペーサー物質として、上記のアミノアルコールを例示できる。
【0020】
本発明に用いられる縮合剤としては、下記一般式(1)で示される化合物を用いることが可能である。
【化6】

(式中、R3、R4およびR5はそれぞれ独立に、少なくとも四級窒素原子に結合する原子が炭素原子である有機基であり、そのうちの2あるいは3個が互いに結合して環構造を形成してもよい)で示される有機基であり、
1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数6〜8のアリール基を示し、Z-はカウンターアニオンを示す。
【0021】
なお、上記式(1)において、より好ましくは、
1とR2がメチル基、エチル基又はフェニル基であり、E+がN−メチルモルホリニウム基であり、Z-がクロルアニオン、過塩素酸アニオン、または四弗化ホウ素アニオンである。
【0022】
上記式(1)で示される化合物としては、例えば、国際公開第00/53544号パンフレットに記載の四級アンモニウム塩が挙げられ、同文献の記載内容は本明細書の記載の引用として取り込まれる。
中でも、上記式(1)において、R1、R2がメチル基、EがN−メチルモルホリニウム、Z-がクロルアニオンである、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチル-モルホリニウムクロリドが好ましく挙げられる。
なお、本発明製造方法においては、縮合剤は、必ずしも単離された物質の形状で縮合反応に用いられる必要は無く、縮合反応系内で上記構造で示される縮合剤を形成して縮合反応に供することも出来る。つまり、縮合反応系内で上記構造で示される縮合剤を形成するような物質(原料)を用いることも可能である。
【0023】
本発明製造方法における反応条件は、所望の多糖誘導体を得られる限りにおいて、当業者が適宜選択することが可能であるが、例えば、下記の条件が挙げられる。
縮合剤の量は、原料である多糖のカルボキシル基のモル数を1として、0.0005〜0.4、好ましくは0.001〜0.3、最も好ましくは0.003〜0.25倍量(当量)である。水和水等により縮合剤の純度が不明の場合は、例えば低分子カルボン酸と低分子アミンの縮合収率から、縮合活性の観点からの純度を算出し、単位重量当たりのモル数の算出に適用できる。
カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物の量は、用いる縮合剤の量以上であれば特に定めはない。アミド結合を形成する場合には、精製の観点から縮合剤のモル量と同一量であることが好ましい。
反応温度は、0℃から60℃、好ましくは4℃から50℃、更に好ましくは15℃から40℃である。
反応時間は、カルボキシル基と結合しうる官能基の反応性や反応温度等に依存するため、特に定めはないが、3時間から24時間が例示される。
反応溶液の溶媒は、水、水混和性の有機溶媒及びこれらの混合溶媒が挙げられる。水混和性の有機溶媒としては、人体への毒性や各種規制対応への観点等からエタノールが好ましい。但し、用いる溶媒やこれらの混合比等は、ヒアルロン酸などのカルボキシル基を有する多糖の溶解性や反応の効率、及び精製の効率などに従い適宜変更可能であり、有機溶媒を用いないことも可能である。
【0024】
なお、従来用いられていたWSC法は、反応溶液の有機溶媒成分として1,4−ジオキサンやテトラヒドロフランが用いられるのが一般的であり、本発明の製造方法によると、これらの有機溶媒を使用する必要が無いため、用いる溶媒の毒性の減弱化が可能である。
本発明の製造法において得られた多糖誘導体の精製方法としては、多糖類の精製に通常用いられる方法を用いることが可能であるが、好ましくはエタノール等を用いる有機溶媒沈殿法である。他にゲル濾過カラムクロマトグラフィーが挙げられる。
【0025】
本発明製造方法により得られた多糖誘導体は、中性の水性溶媒への高い溶解性を有している。
本発明の製造方法により得られるヒアルロン酸誘導体とWSC法により得られるヒアルロン酸誘導体とを比較すると、ヒアルロン酸のカルボキシル基に、カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物が縮合した誘導体と化学構造としては同じであるにも拘わらず、水への溶解性が異なっており、高次構造が明らかに異なることが示唆される。つまり、WSC法で製造されたヒアルロン酸誘導体のうち、蒸留水へ溶解せず、不溶物により懸濁した状態となるような導入率で化合物が導入された誘導体と同じ導入率の誘導体で
あっても、本発明の製造方法によるヒアルロン酸誘導体は、水性溶媒へ良く溶解し、固形物を認めず、澄明且つ粘ちょうな溶液となる。WSC法と本発明の製造方法とにおけるこの違いは、導入する化合物自体が有する疎水性の度合いも影響するが、化合物の導入率が5%〜20%のヒアルロン酸誘導体においては少なからず現れる。
【0026】
また、特開2004−18750号公報(特許文献1)には、WSC法によるヒアルロン酸誘導体の製造工程に塩基を用いた工程を追加する製造法が開示されており、得られるヒアルロン酸誘導体は水への高い分子分散特性を有していると記載されている。しかし、WSC法による縮合反応中や直後に、ヒアルロン酸誘導体は水への分子分散性の低下という物性から推測可能である高次構造の変化を経由している。塩基を用いる追加の工程によって、分子分散特性は回復するが、これは、ヒアルロン酸誘導体の高次構造が原料のヒアルロン酸が本来保有している高次構造に復元したことを必ずしも示していない。
一方、本発明によれば、原料のヒアルロン酸が本来有する高次構造を一時も損なうことなく、ヒアルロン酸誘導体を製造することが可能である。
特開2004−18750による方法では、ヒアルロン酸の高次構造を変化又は復元させることにより、一時的に喪失した水性溶媒への高い溶解性を再び獲得する為に、塩基を添加した処理工程を不可欠としている。塩基性条件下でのヒアルロン酸誘導体の変質を防ぐために、処理条件を注意深く選択する必要があり、無機弱塩基の適量の使用を好ましく例示している。本発明の製造方法では、上述の反応条件に従えば、特にヒアルロン酸誘導体の変質を考慮した処理条件を注意深く検討する必要は無い。
【0027】
本発明においては、得られる誘導体により高い水溶解性を持たせる為、本発明の製造方法により縮合反応を行った後、特開2004−18750に記載の方法に従って塩基を作用させる追加工程を行うことも可能である。塩基を作用させる方法としては、例えば、得られた多糖誘導体の溶液に、炭酸水素ナトリウム水溶液を添加することによって行うことができる。なお、炭酸水素ナトリウムの代わりに、特開2004−18750に記載された他の塩基を用いることも可能であり、例えば、炭酸ナトリウムのような反応液を弱アルカリ性とする無機塩基が挙げられる。
【0028】
本発明の製造方法によって得られるヒアルロン酸誘導体等の多糖誘導体は好ましくは下記のような特性を有している。
多糖誘導体の水への高い分子分散特性、すなわち高い溶解性の指標として、多孔質フィルターの通過性が挙げられる。具体的には、例えば得られたヒアルロン酸誘導体を用いて1.0%(w/v)の中性の水溶液を調製し、当該水溶液を多孔質フィルターを通過させる。通過前後におけるヒアルロン酸誘導体水溶液の濃度をはかり、濃度の低下が非常に少ない、あるいは無いことにより、高い水溶性の指標とする。本発明製造方法は、多糖誘導体による1.0%(w/v)水溶液を多孔質フィルター(孔径5μmや0.45μm)に通過させた前後で、フィルターに吸着除去されず濃度が変化しない多糖誘導体を製造可能である。また、後述の実施例に記載の通り、ヒアルロン酸誘導体において有機化合物の導入率が約14%以下の場合には、濾過滅菌法として知られている孔径0.22μmのフィルターによる濾過の際の当該フィルターの通過性も非常に高い。
なお、一般的に、溶質が十分に溶媒中に分散し溶解している溶液は、濃度が低下することなくフィルターを通過する。しかし、フィルター通過性については、多糖誘導体の分子分散特性や溶解性以外にも、影響する因子は様々考えられ、例えば、多糖に結合する有機化合物の疎水性が高い場合には、その疎水基部分とフィルター材質の非特異的な吸着により、導入率の増加に伴い通過性が低下する可能性がある。
【0029】
本発明製造方法によれば、製造工程中、高い水への親和性を維持した状態で、多糖誘導体を製造することが可能である。つまり、これは、例えば本発明製造方法によるヒアルロン酸誘導体が、ヒアルロン酸の高次構造や当該高次構造に起因する特性を保持しているヒ
アルロン酸誘導体であることを示しており、よって、本発明製造方法によれば、ヒアルロン酸等の多糖に本来備わる様々な特性を減じることなく、カルボキシル基に結合させる有機化合物による様々な特性を更に付加的に保持する誘導体が得られる。例えば、官能基を有する有機化合物として、生理活性物質や薬剤、又は、生理条件下で分解する結合形式を介して低級アルコールやアミノ酸等のスペーサー化合物と生理活性物質や薬剤とを結合した結合体を用いて多糖誘導体を合成すれば、多糖の特性を減じることなく、多糖の特性を維持した、優れたDDS(徐放性)薬剤としての利用が可能となる。
一例としては、関節症に伴う炎症や疼痛の改善に用いる多糖誘導体を製造する場合には、例えば、カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物として、抗炎症剤であるNSAIDsのカルボキシル基とスペーサー物質としてアミノエタノールやアミノプロパノールのようなアミノアルキルアルコールの水酸基とを用いてエステル結合により結合させた共有結合体を選択し、更に、多糖として、関節症処置剤として用いられているヒアルロン酸を選択し、アミノアルキルアルコールのアミノ基とヒアルロン酸のカルボキシル基とを本発明の製造方法にて結合させる。得られたヒアルロン酸誘導体は、溶解性が高い為、注入可能な薬剤への応用が容易であり、局所投与に有用な薬剤となりうる。また、当該薬剤は、生体内におけるエステル結合の分解により、NSAIDsの徐放性も有する。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を具体的に詳説する。しかしながら、これにより本発明の技術的範囲の限定を意図するものではない。
なお、以下の実施例において、ヒアルロン酸ナトリウムは全て生化学工業株式会社製のものを用い、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリウムクロリド(DMT-MM)は全て、和光純薬工業株式会社製(Lot.EWR0514)を用いた。また、アミノエタノール-ジクロフェナク塩酸塩は、国際公開第2005/066214号パンフレットの参考例5及び実施例38に従い製造し、アミノプロパノール-ケイ皮酸塩酸塩(桂皮酸3−アミノプロピルエステル塩酸塩)は、特許第3343181号公報の実施例1及びUSP6,025,444号公報のEXAMPLE1に従い製造した。
【0031】
<測定法> 導入率の測定方法
以下の実験において、特に測定方法を明記しない限りにおいて、導入率は分光光度計を用いて測定した。詳細には、試料溶液を、カルバゾール硫酸反応によりヒアルロン酸量を定量すると共に、別途、各導入化合物について分光光度計にて定量し、これら二つの定量値をもとに導入率を算出した。
なお、アミノエタノール-ジクロフェナク基については、試料を蒸留水に溶解し、分光光度計による280nm付近のジクロフェナク基に由来する吸光度からジクロフェナク基量を定量した。アミノプロパノール-ケイ皮酸基については、試料を0.1mol/L水酸化ナトリウムに溶解し、分光光度計による269nm付近のケイ皮酸基に由来する吸光度からケイ皮酸基量を定量した。

【0032】
<参考例1> アミノエタノール-ジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体の製造
重量平均分子量80万のヒアルロン酸ナトリウム200mgを水22.5mL/ジオキサン22.5mLに溶解させた後、1mol/LのN−ヒドロキシこはく酸イミド(HOSu)水溶液0.450mL、0.5mol/Lの水溶性カルボジイミド塩酸塩(WSCI・HCl)水溶液0.450mL、0.1mol/Lアミノエタノール-ジクロフェナク塩酸塩(水:ジオキサン=1:1)溶液2.25mLを順次加え、一昼夜攪拌した(なお、反応液を二等分に分画し、一方を参考例2にて用いた)。次いで、反応液に塩化ナトリウム0.5gを加えて溶解させた後、エタノール100mLを加え、沈殿を分取した。沈殿物を、85%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで順次洗浄し
、室温にて一晩減圧乾燥を行い、113.3mgの白色固体を得た。
【0033】
<参考例2> アミノエタノール-ジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体の製造
参考例1にて分画したもう一方の反応液に、5%炭酸水素ナトリウム水溶液1.5mLを加え、3.5時間攪拌した後、反応液に50%酢酸を添加して中和した。塩化ナトリウム0.5gを加えて溶解させ、次いで、エタノール100mLを添加し、沈殿を分取した。沈殿物を85%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで順次洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥した。111.5mgの白色固体を得た。導入率は20.6%であった。
【0034】
<参考例3> アミノエタノール-ジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体の製造
重量平均分子量80万のヒアルロン酸ナトリウム133mgを水15.7mLジオキサン15.7mLに溶解させた後、1mol/LのHOSu水溶液0.267mL、0.5mol/LのWSCI・HCl水溶液0.267mL、0.143mol/Lアミノエタノール-ジクロフェナク塩酸塩(水:ジオキサン=1:1)溶液0.933mLを順次加え、一昼夜攪拌した。次いで、反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液4mLを添加し、3時間攪拌した後、反応液に50%酢酸を添加して中和し、更に、塩化ナトリウム0.67gを加え攪拌した。エタノール133mLを加えて沈殿を析出させ、沈殿物を85%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで順次洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥し、124.0mgの白色固体を得た。導入率は14.3%であった。
【0035】
<参考例4> アミノエタノール-ジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体の製造
反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液を添加した後の攪拌時間を、1時間とした以外は、参考例3と同様の方法にて、124.0mgの白色固体を得た。
【0036】
<実施例1> アミノエタノール-ジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体の製造
重量平均分子量80万のヒアルロン酸ナトリウム100mgを水10mL/エタノール10mLの溶液に溶解させた後、0.0676mol/Lのアミノエタノール-ジクロフェナク塩酸塩(水:エタノール=1:1)溶液0.556mL、及び、16.8mg/mLのDMT-MM(水:エタノール=1:1)溶液0.800mLを順次加え、一昼夜攪拌した。反応液に塩化ナトリウム0.5gを加えて攪拌し、次いで、エタノール100mLを加えて沈殿させた。得られた沈殿物を、85%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで洗浄した後、室温にて一晩減圧乾燥し、87.6mgの白色固体を得た。導入率は13.8%であった。
【0037】
<実施例2> アミノエタノール-ジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体の製造
0.05mol/Lのアミノエタノール-ジクロフェナク塩酸塩(水:エタノール=1:1)溶液の0.800mL、22.4mg/mLのDMT-MM(水:エタノール=1:1)溶液の0.800mLを用いた以外は、実施例1と同様の方法にて、103.5mgの白色固体を得た。導入率は、19.7%であった。
【0038】
<実施例3> アミノエタノール-ジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体の製造
重量平均分子量80万のヒアルロン酸ナトリウム300mgを水30mL/エタノール30mLに溶解させた後、0.0805mol/Lアミノエタノール-ジクロフェナク塩酸塩(水:エタノール=1:1)溶液1.50mL、35.9mg/mLのDMT-MM(水:エタノール=1:1)溶液1.50mLを順次加え、一昼夜攪拌した。反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液4.5mLを加え、3.5時間攪拌した後、反応液に50%酢酸を添加して中和し、引き続き、エタノール300mLを加えて沈殿を析出させた。沈殿物を85%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで2回洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥し、294.8mgの白色固体を得た。導入率は18.7%であった。
【0039】
<実施例4> アミノプロパノール-ケイ皮酸導入ヒアルロン酸誘導体の製造
重量平均分子量80万のヒアルロン酸ナトリウム200mgを水20mL/エタノール20mLの溶液に溶解させた後、0.101mol/Lアミノプロパノール-ケイ皮酸塩酸塩(水:エタノール=1:1)溶液1.0mL、及び、45.0mg/mLのDMT-MM(水:エタノール=1:1)溶液1.0mLを順次加え、一昼夜攪拌した。反応液にエタノール200mLを加えて沈殿を析出させた。得られた沈殿物を85%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで洗浄した後、室温にて一晩減圧乾燥し、197.7mgの白色固体を得た。導入率は16.3%であった。
【0040】
<実施例5> アミノプロパノール-ケイ皮酸導入ヒアルロン酸誘導体の製造
重量平均分子量80万のヒアルロン酸ナトリウム100mgを水10mL/エタノール10mLの溶液に溶解させた後、0.132mol/Lアミノプロパノール-ケイ皮酸塩酸塩(水:エタノール=1:1)溶液0.286mL、及び、59.0mg/mLのDMT-MM(水:エタノール=1:1)溶液0.286mLを順次加え、一昼夜攪拌した。反応液に5%炭酸水素ナトリウム水溶液1.5mLを加え、2時間攪拌した後、反応液に50%酢酸を添加して中和し、引き続き、エタノール100mLを加えて沈殿を析出させた。得られた沈殿物を85%エタノールで2回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥し、90.4mgの白色固体を得た。導入率は12.3%であった。
【0041】
<実施例6> n-アミルアミン導入ヒアルロン酸誘導体の製造
重量平均分子量80万のヒアルロン酸ナトリウム400mgを水40mL/エタノール40mLに溶解させ、0.167mmol/gのn-アミルアミン(和光純薬工業株式会社製)塩酸塩の溶液(水:エタノール=1:1)1.8g、45.0mg/mLのDMT-MM(水:エタノール=1:1)溶液3.0mLを順次加え、一昼夜攪拌した。なお、反応液を二等分し、一方を実施例7に用いた。他方の反応液に、塩化ナトリウム1gを加えて溶解後、エタノール200mLを加えて沈殿を析出させた。沈殿物を85%エタノールで10回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで順次洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥し、188.7mgの白色固体を得た。
【0042】
<実施例7> n-アミルアミン導入ヒアルロン酸誘導体の製造
実施例6で二等分した反応液の一方に、5%炭酸水素ナトリウム水溶液3.0mLを加え、3時間攪拌し、次いで、反応液に50%酢酸を添加して中和後、塩化ナトリウム1gを加えて溶解した。エタノール200mLを加えて沈殿を析出させ、沈殿物を85%エタノールで10回、エタノールで2回、ジエチルエーテルで順次洗浄し、室温にて一晩減圧乾燥し、185.5mgの白色固体を得た。1H-NMR(D2O)により導入率を測定したところ、22%であった。
【0043】
<試験例1>
実施例2、実施例3で製造されたアミノエタノール-ジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体、実施例4、実施例5で製造されたアミノプロパノール-ケイ皮酸導入ヒアルロン酸誘導体、及び、実施例6、実施例7で製造されたn-アミルアミン導入ヒアルロン酸誘導体それぞれに、濃度1.0%となるように蒸留水を加え、密封した。次いで、室温下、220rpmの条件において、一昼夜、振とう攪拌を行った。同様に、参考例1及び参考例2で製造されたアミノエタノール-ジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体についても同様に行った。実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、実施例6、実施例7及び参考例2の各ヒアルロン酸誘導体は全て、蒸留水に均一に溶解し、澄明かつ粘ちょうな水溶液となった。一方、参考例1で製造されたアミノエタノールジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体は、蒸留水に溶解せず、白色の懸濁液となった。
【0044】
<試験例2>
実施例1、参考例3、4で製造されたアミノエタノール-ジクロフェナク導入ヒアルロン酸誘導体を、濃度1.0%(w/v)となるように蒸留水を加えて密封し、室温下、220r.p.m.の条件にて一昼夜、振とう攪拌を行った。これら水溶液(被検液)を、多孔質フィルター(孔径0.22μm、Millex-GV(Millipore社製))を装着したシリンジ(容量1mL、テルモ(株)製)の後部から充填し、室温下にて、ピストンを用いて押出し、フィルターを通過させた。
フィルター通過前の被検液と、0.5mL以上通過させた後のフィルター通過被検液について、ジクロフェナクの吸収に基づく280nm付近の吸光度(ピークトップ値)を測定した。フィルター通過率は、吸光度測定値から算出されたフィルター通過前後の溶液におけるジクロフェナク成分の濃度比で示した。
実施例1の製造物の水溶液、参考例3の製造物の水溶液のフィルター通過率はそれぞれ、95.3%、96.9%であり、両者ともほぼ完全にフィルターを通過した。一方、参考例4の製造物の水溶液のフィルター通過率は、11.0%であり、あまり通過しなかった。これは、参考例3と比較して、参考例4では5%炭酸水素ナトリウム水溶液を加えた後の攪拌処理時間が短いため、処理が不十分であったためと考えられる。
また、同様の手順にて、実施例5のアミノプロパノール-ケイ皮酸導入ヒアルロン酸誘導体についても行ったところ、フィルター通過率は、81.6%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する多糖と、カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物とを結合させることによる、当該多糖と当該有機化合物とが結合した多糖誘導体の製造方法において、縮合剤として下記一般式(1)で示される化合物を用いることを特徴とする、多糖誘導体の製造方法。
【化1】

(式中、R3、R4およびR5はそれぞれ独立に、少なくとも四級窒素原子に結合する原子が炭素原子である有機基であり、そのうちの2あるいは3個が互いに結合して環構造を形成してもよい)で示される有機基であり、
1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数6〜8のアリール基を示し、Z-はカウンターアニオンを示す。
【請求項2】
カルボキシル基を有する多糖が、分子量1万以上のカルボキシル基を有する多糖であることを特徴とする請求項1記載の多糖誘導体の製造方法。
【請求項3】
カルボキシル基を有する多糖が、グリコサミノグリカンであることを特徴とする請求項1または2記載の多糖誘導体の製造方法。
【請求項4】
カルボキシル基を有する多糖が、ヒアルロン酸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の多糖誘導体の製造方法。
【請求項5】
ヒアルロン酸が、分子量10万以上のヒアルロン酸であることを特徴とする請求項4記載の多糖誘導体の製造方法。
【請求項6】
カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物が、水酸基又はアミノ基を有する有機化合物であり、前記多糖と該有機化合物とをエステル結合またはアミド結合によって結合させる、請求項1〜5の何れか一項に記載の多糖誘導体の製造方法。
【請求項7】
カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物が、少なくとも1つのアミノ基を有する化合物であり、前記多糖と該有機化合物とをアミド結合により結合させる、請求項6記載の多糖誘導体の製造方法。
【請求項8】
カルボキシル基と結合しうる官能基を有する有機化合物が、少なくとも2つの官能基を有するスペーサー物質と、官能基を有する生理活性物質または薬剤とを共有結合させて得られる化合物であって、前記少なくとも2つの官能基が、カルボキシル基と結合しうる官能基と、前記生理活性物質または薬剤の官能基と共有結合しうる官能基であることを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載の多糖誘導体の製造方法。
【請求項9】
薬剤が、非ステロイド性抗炎症化合物または疾患修飾性抗リウマチ化合物である、請求項8記載の多糖誘導体の製造方法。
【請求項10】
前記共有結合がエステル結合またはアミド結合である、請求項8または9に記載の多糖誘導体の製造方法。
【請求項11】
少なくとも2つの官能基を有するスペーサー物質が、アミノアルコール、アルキレンジアミンおよびアミノカルボン酸からなる群より選択される物質であることを特徴とする、請求項8〜10の何れか一項に記載の多糖誘導体の製造方法。
【請求項12】
前記一般式(1)において、
1とR2はメチル基、エチル基又はフェニル基であり、
+はN−メチルモルホリニウム基であり、
Z-はクロルアニオン、過塩素酸アニオン、または四弗化ホウ素アニオンであることを特徴とする請求項1〜11の何れか一項に記載の多糖誘導体の製造方法。
【請求項13】
前記一般式(1)で示される化合物が、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチル-モルホリニウムクロリドであることを特徴とする請求項1〜12の何れか一項に記載の多糖誘導体の製造方法。
【請求項14】
下記の工程を含む多糖誘導体の製造方法、
工程A:請求項1〜13のいずれか一項に記載の製造方法により多糖誘導体を得る工程、及び
工程B:工程Aにて得られた多糖誘導体に塩基を作用させる工程。
【請求項15】
前記多糖誘導体を、室温下一昼夜、220rpmの振とう撹拌を行い、濃度1%(w/v)となるように水へ溶解させたときに、その水溶液は白濁せず澄明であり、固形物を認めないことを特徴とする、請求項1〜14の何れか一項に記載の多糖誘導体の製造方法。
【請求項16】
前記多糖誘導体の1%(w/v)水溶液を、孔径0.22μmの多孔質フィルターを通過させた時に通過前と比べて濃度が低下しないことを特徴とする請求項15に記載の多糖誘導体の製造方法。
【請求項17】
アミノアルコールと下記の一般式(3)で示される骨格を有する非ステロイド性抗炎症化合物とを、該アミノアルコールの水酸基と該非ステロイド性抗炎症化合物のカルボキシル基においてエステル結合させてなる化合物のアミノ基と、ヒアルロン酸のカルボキシル基とを結合させてヒアルロン酸誘導体を製造する方法において、縮合剤として前記一般式(1)で示される化合物を用いることを特徴とする、ヒアルロン酸誘導体の製造方法。
【化2】

6は低級アルキル基及び低級アルコキシル基から選択される置換基又は水素原子を示し、R7、R8及びR9はそれぞれ独立に、低級アルキル基、低級アルコキシル基及び水酸基からなる群から選択される置換基、ハロゲン原子又は水素原子を示し、Xは、それぞれ独立に、低級アルキル基、トリフルオロメチル基又はハロゲン原子を示し、少なくともXの一つはハロゲン原子である。
【請求項18】
前記一般式(1)で示される化合物が、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチル-モルホリニウムクロリドであることを特徴とする請求項17記載のヒアルロン酸誘導体の製造方法。
【請求項19】
アミノアルコールが下記式で示されるアミノアルコールである請求項11又は17に記載の多糖誘導体の製造方法。
2N−(CH2)n−OH
式中、nは2〜12の整数を表す。

【公開番号】特開2007−297542(P2007−297542A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127837(P2006−127837)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】