説明

多結晶コランダム繊維及びその製造方法

コランダムと周期表の第I主族又は第II主族の元素の酸化物から本質的になる多結晶コランダム繊維であって、該コランダム繊維の結晶子は、以下の粒度分布、0〜0.15μm(34%)、0.15〜0.29μm(55%)、及び0.29〜0.43μm(11%)を有する前記多結晶コランダムが特許請求される。これらコランダム繊維は、アルミニウムクロロハイドレートを、核と周期表の第I主族及び第II主族の元素の酸化物形成体と混合し、水溶性ポリマーを添加し、そこから繊維を紡糸し、その繊維を1100℃より高い温度でか焼して製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出発化合物としてアルミニウムクロロハイドレート(Aluminumchlorohydrat)を用いる、新規な多結晶コランダム繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック繊維は、長年にわたって製造されかつ様々な分野で採用されている。それらセラミック繊維は、高い化学的不変性、高い熱安定性、並びに注目に値する機械特性が特徴である。短繊維は、アスベストに代わるものとして、高温の絶縁材料において極めて価値あるものとなっているが、一方、入手できるフィラメント状繊維はニッチ商品であり、その高いコストのために限られた範囲における特定の用途でしか使用されていない。
【0003】
絶縁材料として、酸化アルミニウム、及び酸化アルミニウム/二酸化ケイ素(ムライト)をベースとするセラミック繊維は、炉の構造、航空宇宙産業、及び自動車産業での用途が見いだされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許公開第0318203号公報
【特許文献2】欧州特許公開第0206634号公報
【特許文献3】欧州特許第0294208号公報
【特許文献4】米国特許第3808015号公報
【0005】
これらの酸化アルミニウム繊維とムライト繊維の製造には、相当する金属酸化物の前駆体が出発材料として使われる。結晶相を安定化しかつ結晶成長を抑制するために、二酸化ケイ素を使用する場合が多々ある(特許文献1及び特許文献2)。繊維中の結晶構造と結晶成長に影響を与える他の添加物は、例えば、MgOと酸化鉄であり、それらは特許文献3に開示されている。
【0006】
酸化アルミニウム繊維とムライト繊維の製造のための前駆体としては、アルミニウムクロロハイドレート(特許文献1)もしくはギ酸アルミニウム−酢酸アルミニウムの混合塩(特許文献3)のようなアルミニウム塩類が使用されている。それに反して、特許文献4においては酸化アルミニウム粒子(13〜80%の割合)と、適したバインダー、例えばアルミニウムクロロハイドレート、との混合物から出発する。特許文献4に従い使用される酸化アルミニウム粒子は、99.5%が5μm未満、98%が3μm未満、かつ50%が0.2μmより大きいコランダム粒度分布のものでなければならない。
【0007】
ドープ(Massen)のレオロジーと可紡性の改善のために、水溶性ポリマー、例えばポリエチレンオキシドやポリビニルアルコールを添加する場合が多々ある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の対象は、コランダムと、周期表の第I主族又は第II主族の元素の酸化物から本質的になる多結晶コランダム繊維であり、ここで該コランダム繊維の結晶子は、以下の粒度分布、0〜0.15μm(34%)、0.15〜0.29μm(55%)、及び0.29〜0.43μm(11%)を有する。好ましくは、0〜0.06μm(34%)、0.06〜0.122μm(55%)、及び0.122〜0.3μm(11%)の粒度分布である。この粒度分布を有することにより、本発明によるコランダム繊維は、特許文献3に開示のコランダム繊維とは明らかに異なる。後者のコランダム繊維は、特許文献3に記載のデータによると全く別の粒度分布を有しかつはるかに大きい粒度を示す。
【0009】
本発明のコランダム繊維は、好ましくは第I主族又は第II主族の元素の酸化物を0.01重量%〜20重量%含む。そのような酸化物は特にCaOとMgOである。
【0010】
本発明の更に別の対象は、前述のコランダム繊維の製造方法である。この方法は、アルミニウムクロロハイドレートの水溶液を、周期表の第I主族又は第II主族の元素の酸化物形成体とα−酸化アルミニウムの形成を補助する結晶核と混合し、この混合物を水溶性ポリマーと混合し、繊維を紡糸し、そしてこれら繊維を1100℃より高い温度でか焼することから構成される。
【0011】
ここで使用するアルミニウムクロロハイドレートは、式Al(OH)Cl(式中、xは2.5〜5.5の数であり、yは3.5〜0.5の数であり、xとyの合計は常に6である。)で表される。好ましくは商業的に入手可能であるような50%濃度の水溶液から出発する。そのような溶液に、Alのα変態の形成を補助する結晶核を加える。特に、そのような核は、後続の熱処理の際のα変態の形成に要する温度を低下させる。核としては、好ましくは、極めて微細に分散した(feinstdisperse)コランダム、ダイアスポア、又はヘマタイトが挙げられる。特に好ましくは、平均粒度が0.1μm未満の極めて微細に分散したa−Al核が利用される。一般に、生じる酸化アルミニウムに基づいて0.1〜10重量%の核で十分である。
【0012】
この出発溶液は、周期表の第I主族又は第II主族の元素の酸化物MeOを生じさせるための酸化物形成体をさらに含む。このためには、特に塩化物、特にCa元素とMg元素の各塩化物が挙げられるが、それだけでなくその他の可溶性又は可分散性の塩、例えば酸化物、オキシ塩化物、炭酸塩もしくは硫酸塩も挙げられる。酸化物形成体の量は、完成した繊維が酸化物MeOを0.01〜20重量%含むように算定される。第I主族元素又は第II主族元素の酸化物は、酸化アルミニウムの他に分離相として存在することができるか、あるいは酸化アルミニウムと一緒に真の混合酸化物、例えばスピネル等を形成することができる。 “混合酸化物”という用語は、本発明の範囲内では両方のタイプを包含するものと解釈される。
【0013】
アルミニウムクロロハイドレートと、第I主族元素及び第II主族元素の酸化物形成体と、結晶核との水性混合物に対してさらに水溶性ポリマーが添加され、それにより、ドープの可紡性のためのレオロジーが調整される。ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン及びその他の水溶性有機ポリマーが挙げられ、この場合、ポリマー含有量は(混合物の酸化物含有量に基づいて)10〜40重量%の範囲内とすることができる。固形分を増加させるために、紡糸ドープから水を除去することもまた有利であり得る。これは、常圧もしくは真空下での加熱によって行うことができる。
【0014】
本発明の紡糸ドープはノズルからブローするか又は絞り出し、その時、生じた未か焼の繊維(Gruenfasern)は短繊維として集められる。本発明の紡糸ドープを用いて長繊維を製造することも可能であり、この場合、糸を取り出して糸巻きに巻きつける。そのように得られた未か焼の繊維は、後続のか焼工程で所望のコランダム繊維に変える。本発明の紡糸ドープから始めて、α−酸化アルミニウムの形成は1100℃より高い温度で行われる。このように得られた繊維は、少なくとも80%までの酸化アルミニウムと、少なくとも70%までのα−Al(コランダム)とからなる。コランダム結晶子の平均的な直径は300nm未満であり、全結晶子の平均的な直径は0.5μm未満である。結晶子の小ささとその均一な分布のために、本発明の繊維は可撓性を保持すると同時に、高い引張弾性率と非常に良好な機械強度を示す。
【0015】
本発明の長繊維は、特にセラミック繊維布地を製造するのに、及びセラミックマトリックス−及び金属マトリックス−複合材料を製造するための出発材料として適している。
【実施例】
【0016】
例1
アルミニウムクロロハイドレートの50%濃度水溶液に塩化マグネシウムを、か焼後の酸化アルミニウムと酸化マグネシウムの比率が99.5重量%:0.5重量%に達するまで混合した。さらに、その溶液に(酸化物含有量に基づいて)2%の結晶核を極めて微細なコランダムの懸濁液の形態で添加した。撹拌によって溶液を均質にした後、ポリビニルピロリドンの水溶液の添加を実施した。真空における水の蒸発による濃縮後、紡糸ドープを多孔ノズルに通して乾式紡糸法で紡糸した。得られた未か焼の繊維をゆっくりと1100℃まで加熱した。形成されたコランダム繊維は、10〜150nmの範囲(走査電子顕微鏡写真)のコランダム結晶子を示した。
【0017】
X線構造解析は、α−酸化アルミニウムが主として存在していることを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コランダムと、周期表の第I主族又は第II主族の元素の酸化物から本質的になる多結晶コランダム繊維であり、該コランダム繊維の結晶子が、以下の粒度分布、0〜0.15μm(34%)、0.15〜0.29μm(55%)、及び0.29〜0.43μm(11%)を有する、上記多結晶コランダム繊維。
【請求項2】
コランダム繊維の結晶子が、以下の粒度分布、0〜0.06μm(34%)、0.06〜0.122μm(55%)、及び0.122〜0.3μm(11%)を有する、請求項1に記載の多結晶コランダム繊維。
【請求項3】
前記コランダム繊維が、周期表の第I主族元素又は第II主族元素の酸化物を0.01〜20重量%含む、請求項1に記載の多結晶コランダム繊維。
【請求項4】
請求項1の多結晶コランダム繊維の製造方法であって、アルミニウムクロロハイドレートの水溶液を、結晶核と、周期表の第I主族及び第II主族の元素の酸化物形成体と混合し、水溶性ポリマーを添加し、そこから繊維を紡糸し、そしてその繊維を1100℃より高い温度でか焼する、上記方法。
【請求項5】
酸化物形成体として周期表の第I主族又は第II主族の元素の塩化物を添加する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
核として極めて微細に分散されたコランダム、ダイアスポア、又はヘマタイトを添加する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
完成したコランダム繊維に基づいて0.1〜10重量%の核を添加することを特徴とする、請求項3に記載の方法。

【公表番号】特表2010−505047(P2010−505047A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529560(P2009−529560)
【出願日】平成19年9月8日(2007.9.8)
【国際出願番号】PCT/EP2007/007845
【国際公開番号】WO2008/037340
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(398056207)クラリアント・ファイナンス・(ビーブイアイ)・リミテッド (182)
【Fターム(参考)】