説明

多結晶シリコンの製造方法および多結晶シリコンの製造システム

【課題】カーボンヒータ等の加熱源を用いることなくシリコン芯線を均一に加熱することにより、シリコン芯線への初期通電の電圧を低くすることを可能とする技術の提供。
【解決手段】シリコン芯線の初期加熱用排ガス導入ライン30が、各反応炉の排ガスラインと原料ガス供給ラインに接続されている。シリコン芯線の初期加熱用排ガス導入ライン30から、ガスノズル3を通して、反応中の他の反応炉からの排ガスの一部を炉内に供給し、シリコン芯線5に電流が効率的に流れる電気抵抗となるように、シリコン芯線5を300℃以上の温度に初期加熱する。続いて、金属電極2から、芯線ホルダ20を介してシリコン芯線5に電流を供給してシリコン芯線5を900℃〜1300℃に加熱する。そして、水素ガスとともにトリクロロシランガスを原料ガスとして低流量で供給し、多結晶シリコンの気相成長を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンの製造技術に関し、より詳細には、高純度多結晶シリコンを製造するための方法、装置、および反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶シリコンは、半導体デバイス製造用単結晶シリコン基板や太陽電池製造用シリコン基板の原料である。一般に、多結晶シリコンの製造は、クロロシランを含む原料ガスを加熱されたシリコン芯線に接触させて当該シリコン芯線の表面に多結晶シリコンを気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)させるシーメンス法により行われる。
【0003】
シーメンス法により多結晶シリコンを気相成長する場合、鉛直方向に2本、水平方向に1本のシリコン芯線を、反応炉内に鳥居型に組み立て、この鳥居型に組んだシリコン芯線の両端のそれぞれを、芯線ホルダを介してベースプレート上に設けた金属電極に固定する。そして、これらの金属電極から上記鳥居型シリコン芯線に通電することで加熱がなされる。なお、通常は、複数個の鳥居型シリコン芯線がベースプレート上に配置される。
【0004】
反応炉(反応器)内では、上述したベースプレートとドーム型の容器(ベルジャ)で形成される密閉空間が多結晶シリコンを気相成長させるための反応空間となる。金属電極は絶縁物を挟んでベースプレートを貫通し、配線を通して別の金属電極に接続されるか、反応炉外に配置された電源に接続される。反応空間内で多結晶シリコンを気相成長させる際に鳥居型シリコン芯線以外の部分にも多結晶シリコンが析出することを防止し、また装置材料の高温による損傷を防止するために、金属電極とベースプレートおよびベルジャは、水などの冷媒を用いて冷却される。芯線ホルダは、金属電極を介して冷却される。
【0005】
多結晶シリコンを析出させるための原料ガスとして、例えばトリクロロシランと水素の混合ガスを用いる場合、所望の直径の多結晶シリコンを鳥居型シリコン芯線上に析出させるためには、シリコン芯線の表面温度が900℃以上1300℃以下の範囲にある必要がある。従って、析出反応を開始するには、先ず、シリコン芯線の表面温度を900℃以上1300℃以下の範囲に初期加熱する必要があり、そのためには、通常、断面積当たり0.3A/mm〜4A/mmの電流をシリコン芯線に流す必要がある。
【0006】
ところで、シリコン芯線は多結晶又は単結晶のシリコンで作製されるが、高純度多結晶シリコン製造のために用いられるシリコン芯線は不純物濃度の低い高純度なものである必要があり、具体的には、比抵抗が500Ωcm程度以上の高抵抗のものであることが求められる。このような高抵抗のシリコン芯線の通電は、一般に常温では開始できないため、予めシリコン芯線を200〜400℃程度に初期加熱して比抵抗を下げて(導電性を高めて)から通電する必要がある。
【0007】
このような初期加熱のために、従来は、反応炉の中央または内周面に初期加熱用のカーボンヒータを設けておき、反応開始時には、先ずこのカーボンヒータを通電により発熱させ、その際に発生する輻射熱によってカーボンヒータ周辺に配置されているシリコン芯線を所望の温度にまで加熱するということが行われていた。そして、かかる加熱によりシリコン芯線の表面温度が200℃〜400℃に達すれば、長さ当たり5.4V/cm〜8.0V/cmの電圧をシリコン芯線に印加することにより、シリコン芯線の表面温度を900℃以上1300℃以下の範囲に加熱する通電の開始が可能となる。
【0008】
一旦シリコン芯線への通電が開始されれば、その後はカーボンヒータを用いた加熱を利用しなくとも、シリコン芯線自身の発熱により表面温度が維持されるため析出反応は持続的に進行する。そのため、上述のシリコン芯線への通電開始後は、カーボンヒータの電源はOFFされる。
【0009】
なお、このような析出反応開始時のシリコン芯線の初期加熱方法としては、カーボンヒータによる方法が一般的であるが、ヒータ用電源が必要であることやカーボンによる反応炉内の汚染の問題、更には、カーボンヒータは消耗品であるためにコストが高くなるといった欠点がある。このため、より高品質で低価格な多結晶シリコンを得る方法として、赤外線照射手段による方法などが開示されている(特許文献1:特開2001−278611号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−278611号公報
【特許文献2】特開2002−234720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
シーメンス法により多結晶シリコンの製造を行う場合、一般に、シリコン芯線を初期加熱してその表面温度を200〜400℃とした状態で通電を開始し、その後にクロロシランガスや水素ガスなどの原料ガスを供給して反応を開始する。この場合、シリコン芯線の電気抵抗をなるべく低くしておくことが好ましい。つまり、シリコン芯線の表面温度をなるべく高くしておくことが好ましい。
【0012】
これは、シリコン芯線表面温度が低い状態で通電を開始するためには高電圧の印加を必要とするからである。シリコン芯線に高電圧を印加すると、シリコン芯線とこれを固定するための芯線ホルダとの接触面で放電を引き起こす可能性を高めてしまう。そして、そのような放電が生じるとシリコン芯線への物理的ダメージや反応炉内の汚染を引き起こす結果となる。また、放電によりシリコン芯線が物理的ダメージを受けると、反応工程中において、シリコン芯線上に析出する多結晶シリコンの重量増大に伴って鳥居型に組んだシリコン芯線が傾き、多結晶シリコンの重量に耐え切れなくなって倒れるという事態も引き起こしてしまう。このような鳥居型シリコン芯線の倒れ対策が、特開2002−234720号公報(特許文献2)に開示されている。
【0013】
また、カーボンヒータで初期加熱を行う場合、反応器内に設置されたカーボンヒータからの輻射熱でシリコン芯線全体を均一に加熱することは構造的に難しい。特に、芯線ホルダは金属電極と繋がっており、しかも金属電極は冷却されているため、芯線ホルダとシリコン芯線の接触部近傍のシリコン芯線温度を上げることは極めて難しい。そのため、シリコン芯線の電気抵抗が充分に低下せず、シリコン芯線の長さ当たり5.4Vcm〜8.0V/cmという高い電圧の印加が求められるため、大容量の電源設備も必要となり付帯設備コストも上がるという問題もあった。
【0014】
さらに、カーボンヒータを反応器内に設置すると、当該ヒータからの汚染が発生する可能性が高くなったり、ヒータ設置に要する空間分だけ反応器が大きくなって装置コストが上がるという問題もある。
【0015】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、カーボンヒータ等の加熱源を用いることなくシリコン芯線を均一に加熱することにより、シリコン芯線の表面温度を十分に高めておき、シリコン芯線への初期通電の電圧を低くすることを可能とする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の課題を解決するために、本発明に係る多結晶シリコンの製造方法は、シーメンス法による多結晶シリコンの製造方法であって、複数の反応炉を用い、反応炉の析出反応開始に先立ち、既に析出反応状態にある他の反応炉から生じた排ガスの少なくとも一部を前記反応炉内に導入し、該反応炉内に設けられたシリコン芯線を前記排ガスの熱により初期加熱する工程を備えていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る多結晶シリコンの製造システムは、シーメンス法による多結晶シリコンの製造システムであって、複数の反応炉と、該複数の反応炉間に設けられた排ガスラインと、前記複数の反応炉のうちの何れかの反応炉の析出反応開始に先立ち、既に析出反応状態にある他の反応炉から生じた排ガスの少なくとも一部を前記析出反応開始前の反応炉内に導入する排ガス供給系を備え、前記析出反応開始前の反応炉内に設けられたシリコン芯線を前記排ガスの熱により初期加熱することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る多結晶シリコンの製造システムでは、前記複数の反応炉の少なくとも1つは、該反応炉内に設けられたシリコン芯線の加熱用ヒータを備えている態様としてもよい。
【0019】
また、本発明に係る多結晶シリコンの製造システムでは、プロセスガス加熱用のヒータと、該ヒータにより加熱された高温ガスを前記複数の反応炉に供給して該反応炉内に設けられたシリコン芯線を加熱する高温ガス供給系を備えている態様としてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、複数の反応炉間に設けられた排ガスラインにより、反応炉の析出反応開始に先立ち、既に析出反応状態にある他の反応炉から生じた排ガスの少なくとも一部を析出反応開始前の反応炉内に導入して当該排ガスの熱によりシリコン芯線を初期加熱することとしたので、多結晶シリコンの析出反応に必要となるシリコン芯線の初期加熱を安定して行うことが可能となる。
【0021】
また、本発明によれば、従来のものでは生じ得た加熱用カーボンヒータに起因する汚染も無く、システムとしても低コストなものとなり、しかも手間のかからない高純度多結晶シリコンの製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の多結晶シリコン製造のための反応炉の構成の一例を示す概略説明図である。
【図2】図1に示した構成の反応炉を複数台設置したシステムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。
【0024】
図1は、本発明の多結晶シリコン製造のための反応炉100の構成の一例を示す概略説明図である。反応炉100は、シーメンス法によりシリコン芯線5の表面に多結晶シリコン6を気相成長させる装置であり、ベースプレート1とベルジャ10により構成される。
【0025】
ベースプレート1には、シリコン芯線5に電流を供給する金属電極2と、窒素ガス、水素ガス、トリクロロシランガスなどのプロセスガスを供給するガスノズル3と、排気ガスを排出する排気口4が配置されている。
【0026】
金属電極2は、絶縁物7を挟んでベースプレート1を貫通し、不図示の配線を介して別の金属電極に接続されるか、反応炉100外に配置された不図示の電源に接続される。金属電極2とベースプレート1とベルジャ10は、水などの冷媒を用いて冷却される。
【0027】
多結晶シリコン6を気相成長する際、反応炉100内にシリコン芯線5を鉛直方向2本、水平方向1本の鳥居型に組み立て、該鳥居型のシリコン芯線5の両端を一対の芯線ホルダ20を介してベースプレート1上に配置した一対の金属電極2に固定する。
【0028】
芯線ホルダ20はカーボン製であり、円錐台状の第1端側には空洞21の開口部22が設けられており、第2端側が金属電極2に固定される。
【0029】
図2は、上述した構成の反応炉を複数台設置したシステムのブロック図である。ここでは、反応炉100を4台設置した例を示している。それぞれの反応炉100a〜dには、水素、及びトリクロロシランなどの原料ガスと反応炉内を置換するための窒素ガスのラインが接続されている。
【0030】
符号40で示したガスラインは、各反応炉へ原料ガスを供給するガスラインである。符号50で示した排ガス1は、多結晶シリコン製造装置から排出される水素ガス、クロロシランガス、塩化水素ガスを回収して再利用するための排ガスラインである。また、符号60で示した排ガス2は、回収乃至再使用できない置換用窒素ガスなどが排出されるラインであり、通常は水スクラバなどの大気汚染防止装置に接続される。図中に符号30で示したシリコン芯線の初期加熱用排ガス導入ラインは、各反応炉の排ガスラインと原料ガス供給ラインに接続されている。
【0031】
多結晶シリコン6を気相成長するには、まず反応炉100をベースプレート1上に密着載置し、ガスノズル3から窒素ガスを供給して反応炉100内の空気を窒素に置換する。反応炉10内の空気と窒素は、排気口4から排出される。反応炉100内を窒素雰囲気に置換終了後、窒素ガスに代えてガスノズル3から水素ガスを供給し、反応炉100内を水素雰囲気にする。
【0032】
次に、シリコン芯線の初期加熱用排ガス導入ライン30から、ガスノズル3を通して、反応中の他の反応炉からの排ガスの一部を炉内に供給し、シリコン芯線5に電流が効率的に流れる電気抵抗となるように、シリコン芯線5を300℃以上の温度に初期加熱する。続いて、金属電極2から、芯線ホルダ20を介してシリコン芯線5に電流を供給してシリコン芯線5を900℃〜1300℃に加熱する。そして、水素ガスとともにトリクロロシランガスを原料ガスとして低流量で供給し、多結晶シリコンの気相成長を開始する。
【0033】
なお、製造現場において設備停止後の装置の立上げ時のように、稼動中の反応炉がまったく無い場合もあり得る。このような場合には、シリコン芯線の初期加熱に利用可能な高温排ガスを他の反応炉から供給させることができないため、カーボンヒータなどによる初期加熱が必要になる。従って、ヒータを内蔵した構造の反応器を少なくとも1台設置しておくか、或いは、反応炉外にヒータを設けたシステムとしておくことが好ましい。
【実施例】
【0034】
[実施例]反応炉A中に高純度多結晶シリコンからなるシリコン芯線5をセットした。多結晶シリコン析出反応中の反応器Bの排ガスを初期加熱用排ガス導入ライン30を介して反応器Aに供給し、反応器Aのシリコン芯線5を370℃まで初期加熱した。その後、シリコン芯線5に、印加電圧1500Vで通電を開始した。シリコン芯線5上への多結晶シリコンの析出反応は、シリコン芯線5に990Vの電圧を印加して表面温度を1060℃とし、水素ガスとともにトリクロロシランを原料ガスとして供給して開始した。その後、多結晶シリコンの直径が120mmとなるまで析出反応を継続させた。このようにして得られた多結晶シリコンの電気比抵抗は2300Ωcmと高抵抗であり、品質上の問題はなかった。
【0035】
[比較例]反応炉中に高純度多結晶シリコンからなるシリコン芯線5をセットした。このシリコン芯線5を、反応炉内に設けたカーボンヒータ(120KW)を用いて初期加熱した。その後、シリコン芯線5に電圧を印加したが、1500Vの電圧を印加しても通電できず、3000Vの電圧印加で通電できた。しかし、通電までに約16秒の時間がかかり、3000Vという高い電圧の印加を繰り返したことで、芯線ホルダとシリコン芯線の接触面で放電が生じ、その結果、シリコン芯線5が倒れてしまった。
【0036】
このため、再度、シリコン芯線5をセットし直し、カーボンヒータ(120KW)での初期加熱後、最初から3000Vを印加することで通電した。析出反応は、990Vの電圧印加によりシリコン芯線5の表面温度を1060℃とし、水素ガスとともにトリクロロシランガスを原料ガスとして開始した。その後、多結晶シリコンの直径が120mmとなるまで析出反応を継続させた。このようにして得られた多結晶シリコンの電気比抵抗は2100Ωcmと高抵抗であり、品質上の問題はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上説明したように、本発明によれば、カーボンヒータ等の加熱源を用いることなくシリコン芯線を均一に加熱することにより、シリコン芯線の表面温度を十分に高めておき、シリコン芯線への初期通電の電圧を低くすることを可能とする技術が提供される。
【符号の説明】
【0038】
1 ベースプレート
2 金属電極
3 ガスノズル
4 排気口
5 シリコン芯線
6 多結晶シリコン
7 絶縁物
10 ベルジャ
20 芯線ホルダ
21 空洞
22 開口部
30 初期加熱用排ガス導入ライン
40 原料ガス供給ライン
50 排ガスライン1
60 排ガスライン2
100 反応炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーメンス法による多結晶シリコンの製造方法であって、
複数の反応炉を用い、反応炉の析出反応開始に先立ち、既に析出反応状態にある他の反応炉から生じた排ガスの少なくとも一部を前記反応炉内に導入し、該反応炉内に設けられたシリコン芯線を前記排ガスの熱により初期加熱する工程を備えていることを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。
【請求項2】
シーメンス法による多結晶シリコンの製造システムであって、
複数の反応炉と、
該複数の反応炉間に設けられた排ガスラインと、
前記複数の反応炉のうちの何れかの反応炉の析出反応開始に先立ち、既に析出反応状態にある他の反応炉から生じた排ガスの少なくとも一部を前記析出反応開始前の反応炉内に導入する排ガス供給系を備え、
前記析出反応開始前の反応炉内に設けられたシリコン芯線を前記排ガスの熱により初期加熱することを特徴とする多結晶シリコンの製造システム。
【請求項3】
前記複数の反応炉の少なくとも1つは、該反応炉内に設けられたシリコン芯線の加熱用ヒータを備えている、請求項2に記載の多結晶シリコンの製造システム。
【請求項4】
さらに、プロセスガス加熱用のヒータと、該ヒータにより加熱された高温ガスを前記複数の反応炉に供給して該反応炉内に設けられたシリコン芯線を加熱する高温ガス供給系を備えている、請求項2に記載の多結晶シリコンの製造システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−101983(P2012−101983A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253081(P2010−253081)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】