説明

多結晶シリコンの製造方法

【課題】金属シリコンの精製法に関し、特にニッケルを含む溶融シリコンを一方向凝固法により精製し、このニッケル濃度を指標にして6N以上の高純度の多結晶シリコンを製造する方法を提供する。
【解決手段】ニッケルを含む金属シリコンを溶融し、この溶融した金属シリコンを一方向凝固法により精製し、6N以上の純度の多結晶シリコンを製造する方法であり、シリコンブロックの凝固完了からの温度降下時間を制御すること、若しくは、シリコンブロック最表面直下に形成される不純物濃縮層の結晶組織を柱状結晶以外の等軸結晶組織及び/又は樹枝状結晶組織に作り込むことにより、ニッケルの熱拡散による汚染を低減し、太陽電池原料用の多結晶シリコンが効率良く精製するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属シリコンを精製して多結晶シリコンを製造する方法に関し、特にニッケルを含む金属シリコンを溶融し、得られた溶融シリコンを一方向凝固法により精製し、高純度の多結晶シリコンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、結晶型太陽電池は、変換効率が単結晶型で30%、多結晶型で20%と大きいため、化石燃料代替エネルギーとして注目されている。これらの結晶型太陽電池を製造する上で必要な半導体基板ウエハは単結晶シリコンインゴットや多結晶シリコンインゴットから製造され、また、これら単結晶シリコンインゴットや多結晶シリコンインゴットは多結晶シリコンから製造されるが、太陽電池に用いられる多結晶シリコンについては、含有する重金属等の不純物金属が少ないほど良いとされている。
【0003】
そこで、従来においても、原料となる金属シリコン中の重金属等の不純物金属を除去する方法として、この金属シリコンを坩堝内で一旦溶融し、得られた溶融シリコンを坩堝底部側から冷却し、上方へと一方向に凝固させることにより、不純物金属における固/液間の分配係数の差を利用して、当該不純物金属を液相へと排除しながら精製し、これによって不純物金属を可及的に除去した柱状結晶組織を作りこむ、一方向凝固法等が実施されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、液相の未凝固溶融シリコンの温度を1425℃以上に保持しながら一方向凝固を行うことが記載されている。また、特許文献2には、3N(99.9質量%)以上6N(99.9999質量%)以下の純度を有し、平均結晶粒径1mmの金属シリコンを得るために、微細シリカを内周層に含む容器の中で溶融粗金属シリコンを1mm/min以下の速度で一方向凝固させることが記載されている。更に、非特許文献1においても、金属シリコンの精製方法として一方向凝固法が有用であることが報告されている。
【0005】
ここで、不純物金属を含む金属シリコンを一方向凝固法により精製する場合において、一方向凝固により得られるシリコンブロック中の各不純物金属の濃度分布は、次式(1)に従うことが知られている。
C = k・C0(1−f)k-1 …(1)
C:凝固相中の不純物濃度
0:凝固前溶湯の不純物初期濃度
k:分配係数
f:凝固相の割合
【0006】
この式(1)において、分配係数kは、不純物金属(元素)の種類、溶融シリコンを鋳造する装置、及び鋳造条件により決定され、また、得られたシリコンブロック中の不純物元素の平均濃度については、式(1)から濃度分布がわかるので、シリコンブロックにおいて不純物が濃縮された部位(不純物濃縮層)をどれだけ除去するかを決定すれば、加重平均により算出することによって製造される多結晶シリコンの純度を求めることができる。
【0007】
しかしながら、上述した従来技術等では、一方向凝固法により金属シリコンを精製して多結晶シリコンを製造した際に、ニッケルのみ式(1)に従った濃度分布のシリコンブロックが得られず、原料の金属シリコン中における不純物ニッケルの量が多いと、結果として99.9999質量%(6N)以上の高純度多結晶シリコンを効率良く製造することが難しくなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5-147918号公報
【特許文献2】特開2008-81394号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】9th roceedings of the International Conference (1989) 462-465.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明者らは、この問題〔すなわち、一方向凝固法により精製したシリコンブロック中のニッケル濃度が式(1)に従った濃度分布を示さないこと〕の原因について、詳細に検討した。なお、以下の説明において、「凝固率」とは、溶融した金属シリコンを一方向凝固させた場合に、全ての溶融シリコンが凝固した際のシリコンブロックの凝固方向高さを100とし、そのどの高さまで凝固したかを示す値であり、凝固した高さの割合である。
【0011】
すなわち、先ず、原料として用いる金属シリコン中のニッケルの初期濃度を5質量ppm(以下、「ppmw」と表記する。)とし、また、一方向凝固法により精製して結晶組織を作り込む際の実行分配係数を7.4×10-4とした場合について、どのようなニッケル濃度の分布曲線が得られるか検証したところ、図1に示すような凝固率−ニッケル濃度の関係が得られた。この図1に示す凝固率−ニッケル濃度の分布曲線からすれば、凝固率が86%の位置におけるニッケル濃度が約0.03ppmwであり、加重平均からシリコンブロック全体のニッケル濃度が約0.01ppmwになるので、ニッケル初期濃度の約1/500のシリコンブロックが得られ、その結果、ニッケル初期濃度5ppmwの金属シリコンを原料とした場合であっても、歩留り86%(凝固率86%)の割合で6N以上の高純度の多結晶シリコンを製造することが可能であると予想できる。
【0012】
しかしながら、実際に得られた多結晶シリコンは、その高さ86%の位置におけるニッケル濃度が0.34ppmwであり、得られたシリコンブロックの結晶組織が柱状結晶組織であってもニッケル濃度が急激に増加し、精製効果が著しく損なわれていることが確認された。
【0013】
なお、上記の凝固率−ニッケル濃度の検証実験において、ニッケル初期濃度として5ppmwを想定したのは、原料として用いる金属シリコン中のニッケル濃度の最大値が概ね5ppmw程度と考えられるからであり、また、実行分配係数を実験的に求められた値の7.4×10-4とし、更に、得られたシリコンブロックについて、その凝固率86%の位置おけるニッケル濃度を検討したのは、原料の金属シリコンが高価でしかも相場が変動し易いので、可及的にその歩留りを高くすることが求められ、少なくとも凝固率86%の位置までは有効利用することが求められるからである。
【0014】
そこで、本発明者らは、次に、(1) ニッケルは、固体シリコン、特に1000℃を境界として1000℃以上の温度の固体シリコンに対する拡散係数が他元素と比較して大きいこと〔Landolt-Bornstein Zahlenwerte und Funktionen aus Naturwissenschaften und Technik, eds. O.Madelung, M.Schulz and H.Weiss (SpringerVerlag, Berlin, 1984) p.494参照〕、また、(2) 1000℃未満の温度においては、拡散係数が小さく、シリコンを長時間保持しても熱拡散によるニッケル汚染の程度が小さくなることが予想されること、更に、(3) シリコンの凝固点は1414℃であるから、一方向凝固法における最終的な不純物濃縮層の部位では不純物金属の濃縮により凝固点降下が起こり、生成したシリコンブロックの凝固完了時の表面温度は大凡1400℃になること、に着目し、シリコンブロック凝固完了後にシリコンブロックの温度を下げる際に、シリコンブロックの表面温度が1400℃から1000℃に到達するまでの時間を変化させ、シリコンブロック表面からのニッケル熱拡散の高温曝露時間依存性を調査する検証実験を行った。
【0015】
このニッケル熱拡散の検証実験の結果、図2に示す結果が得られた。この実験結果は、シリコンブロック凝固完了後にその表面温度が1400℃から1000℃に到達するまでの時間が長くなればなるほど凝固率86%でのニッケル濃度が高くなることを示しており、本発明者らは、上記の問題の原因、すなわち、一方向凝固法により精製したシリコンブロック中のニッケル濃度が式(1)に従った濃度分布を示さないことの原因が、シリコンブロック表面における凝固率100%近くの不純物濃縮層のニッケルが、シリコンブロック凝固完了後の1400℃から1000℃に冷却される過程で発生する熱拡散により、再びシリコンブロック中に拡散し、これによって不純物濃縮層の領域が拡張することに起因していることを突き止めた。
【0016】
また、本発明者らは、一方向凝固法における最表面直下の不純物濃縮層の結晶組織の形態を柱状結晶組織、等軸結晶組織、樹枝状結晶組織、及び等軸・樹枝状結晶組織に作り分け、凝固率86%の位置におけるニッケル濃度について調べた結果、図3及び後述の表1に示すように、不純物濃縮層直下の結晶組織の形態によって、熱拡散の程度が異なることを突き止めた。
【0017】
本発明は、これら本発明者らの実験から得られた知見に基づいてなされたものである。
従って、本発明は、金属シリコンの精製法に関し、特にニッケルを含む溶融シリコンを一方向凝固法により精製し、6N以上の高純度の多結晶シリコンを製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、以下の構成によって上記課題を解決するものであり、ニッケルを含む金属シリコンを溶融し、溶融した金属シリコンを一方向凝固法により精製し、6N以上の純度の多結晶シリコンを製造する方法を提供する。
【0019】
〔1〕 ニッケルを含む金属シリコンを溶融し、この溶融した金属シリコンを一方向凝固法により精製し、6N以上の純度の多結晶シリコンを製造する方法であって、前記一方向凝固法により得られたシリコンブロックの凝固率が100%に達してから400分以内に、シリコンブロック表面温度を1000℃以下に到達させることを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。
【0020】
〔2〕 金属シリコンが初期濃度C0のニッケルを含み、この金属シリコンのニッケル濃度を前記ニッケル初期濃度C0の1/500以下に低減することを特徴とする前記〔1〕記載の多結晶シリコンの製造方法。
【0021】
〔3〕 前記シリコンブロックは、その不純物濃縮層におけるシリコン結晶組織が柱状結晶組織以外の結晶組織である前記〔1〕記載の多結晶シリコンの製造方法。
【0022】
〔4〕 ニッケルを含む金属シリコンを溶融し、この溶融した金属シリコンを一方向凝固法により精製し、6N以上の純度の多結晶シリコンを製造する方法であって、前記一方向凝固法により得られたシリコンブロックの不純物濃縮層におけるシリコン結晶組織を柱状結晶組織以外の結晶組織に作り込むことを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。
【0023】
〔5〕 前記柱状結晶組織以外の結晶組織が樹枝状結晶組織及び等軸結晶組織のいずれか一方又は両方である前記〔3〕又は〔4〕に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、金属シリコンの一方向凝固法による精製おいて、凝固完了からの温度降下時間を制御すること、若しくは、シリコンブロック最表面直下の結晶組織を柱状結晶以外の等軸結晶組織及び/又は樹枝状結晶組織に作り込むことで、ニッケルの熱拡散による汚染を低減し、このニッケル濃度を指標にして6N以上の高純度多結晶シリコンを効率良く製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、ニッケル初期濃度5ppmwの場合におけるシリコンブロック中の理論精製曲線と実際に得られた製造サンプルのニッケル濃度とを示すグラフ図であり、○プロットが実際に得られたシリコンブロックの凝固率86%におけるニッケル濃度であって、◆プロットが初期濃度5ppmwの場合の理論精製曲線である。
【0026】
【図2】図2は、シリコンブロックの凝固率86%の位置におけるニッケル熱拡散の高温曝露時間依存性を示すグラフ図である。
【0027】
【図3】図3は、シリコンブロックの結晶組織を模式的に示す説明図(パターンの境界を凝固率98%の高さとする)であり、(a)は全て柱状結晶組織で凝固した場合を、(b)は凝固率98%以降を等軸結晶組織で凝固した場合を、(c)は凝固率98%以降を樹枝状結晶組織で凝固した場合を、(d)は凝固率98%以降を等軸・樹枝状結晶混在組織で凝固した場合をそれぞれ示す。
【0028】
【図4】図4は、本発明の多結晶シリコンの製造方法において用いられた抵抗加熱式シリコンブロック鋳造炉の主要部を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、ニッケルを含む金属シリコンを一方向凝固法により精製しニッケル濃度が低減した多結晶シリコンを製造する方法であり、上記の本発明者らの知見から、シリコンブロックの凝固率が100%に達してから400分以内に、好ましくは300分以内に、通常1400℃程度のシリコンブロックの表面温度を1000℃以下にまで到達させることに特徴を有する多結晶シリコンの製造方法である。
【0030】
シリコンブロック最表面まで凝固を終えた後に、高温で保持する時間が長いほど、一方向凝固法により精製して得られたシリコンブロックにおいて、最表面直下の不純物濃縮層に濃縮させたニッケルが熱拡散により再びインゴット中へ戻ってしまい、ニッケル汚染の原因となる。この1400℃程度のシリコンブロック表面温度を1000℃まで降下させるのに要する時間(以下、「温度降下時間」ということがある。)は、短いほどニッケル汚染の程度を低減できるが、あまりに急速に冷却し過ぎると得られた多結晶シリコンに割れが入り易くなることから、温度降下時間の下限は100分程度とするのがよい。
【0031】
この温度降下時間を400分以内にするために、本発明においてはシリコンブロック最表面及び最表面直下を冷却する必要がある。そして、この最表面を冷却する手段としては、シリコンブロックの凝固完了と同時に加熱ヒーターを切る方法等のようにして積極的に早い速度で降温させる方法、炉内に不活性ガスを流してシリコンブロック最表面を冷却する方法、また、シリコンブロックの底部側から水冷若しくはガス冷却されているプレートにより冷却する方法、更には凝固終了と同時に炉内に水冷若しくはガス冷却されているカーボンブロックを挿入する方法等、幾つかの方法が考えられ、これらは装置や設備等からくる制約条件に応じて適宜採用できるものであり、また、必要により幾つかの方法を組み合わせて採用することもできる。
【0032】
これは、上述した本発明者らの温度降下時間(シリコンブロック最表面温度が1400℃から1000℃まで到達に要した時間:分)とニッケル濃度(シリコンブロック凝固が86%の位置におけるニッケル濃度:ppmw)との関係を求めたニッケル熱拡散の高温曝露時間依存性を検証した実験に基づくものである。
【0033】
上記のニッケル熱拡散の検証実験において求められた結果は図2に示すとおりであり、この図2から、ニッケル初期濃度5ppmwの金属シリコンをその初期濃度の1/500のニッケル濃度に精製するには、86%の高さにおいてニッケル濃度の上限は0.15ppmw以下であることが求められる。また、図2から判るように、温度降下時間が400分を超えるとニッケル濃度は0.15ppmwを超えて高くなり、時間に比例してニッケル濃度も上昇することが判る。そこで、本発明においては、シリコンブロックの凝固率が100%に達してから400分以内に、シリコンブロック表面温度を1000℃以下に到達させることで、ニッケル熱拡散による汚染を防ぐものである。この温度降下時間が400分を超えると、凝固率86%の位置におけるニッケル濃度が0.15ppmwを超え、温度降下時間の長さに概ね比例して、ニッケル濃度も高くなるので、ニッケル初期濃度の1/500のニッケル濃度に精製することが困難となる。
【0034】
ここで、上記のニッケル熱拡散の検証実験においては、原料としてニッケル初期濃度5ppmwの金属シリコンを用いているが、これは、前述したように、原料として用いられる金属シリコンのニッケル初期濃度の上限が概ね5ppmwであるからであり、原料として5ppmwより低いニッケル初期濃度の金属シリコンを用いた場合には、凝固率86%でのニッケル濃度が当然に0.15ppmwより低下することが予測され、得られたシリコンブロックはその凝固率が86%より高い値まで利用しても6Nを達成できて有効利用が可能になり、歩留りがより向上する。原料として用いる金属シリコンにおけるニッケル初期濃度の下限は、特に限定されるものではないが、本発明の趣旨から0.1ppmw程度である。
【0035】
また、本発明は、ニッケルを含む金属シリコンを溶融し、この溶融した金属シリコンを一方向凝固法により精製し、6N以上の純度の多結晶シリコンを製造する方法であって、前記一方向凝固法により得られたシリコンブロックの不純物濃縮層におけるシリコン結晶組織を柱状結晶組織以外の結晶組織に作り込むことを特徴とする多結晶シリコンの製造方法である。この製造方法は、シリコンブロック最表面直下の不純物濃縮層における結晶組織の形態を制御し、結晶組織の粒界を経路として起きるシリコン中の不純物金属の熱拡散、特にニッケルの逆拡散によるニッケル汚染を可及的に防止するものである。
【0036】
柱状結晶組織は、結晶粒界が少なくて直線状であるために、ニッケルがシリコンブロック最表面から粒界を経路として、シリコンブロックの深くまで熱拡散し易い。しかし、等軸結晶組織や樹枝状結晶組織は、結晶粒界が多くて交差し、また、短いために、ニッケルは分散し、シリコンブロックの浅い部分にしか熱拡散せず、ブロックとしてのニッケル汚染は表面に止まり、軽度で済む。従って、シリコンブロック最表面直下の結晶組織を柱状結晶とせず、等軸結晶組織若しくは樹枝状結晶組織に作り込むことにより、ニッケルの熱拡散による汚染を防止することができる。
【0037】
これは、上述した本発明者らの実験、すなわち一方向凝固法における最表面直下の不純物濃縮層の結晶組織の形態を柱状結晶組織、等軸結晶組織、樹枝状結晶組織、及び等軸・樹枝状結晶組織に作り分け、凝固率86%の位置におけるニッケル濃度について調べるニッケル熱拡散のシリコン結晶組織依存性検証実験を行った結果に基づくものである。なお、凝固率については、シリコン融液中に石英製の棒を浸漬することにより測定した。
【0038】
このニッケル熱拡散のシリコン結晶組織依存性を検証する実験において、シリコンブロック最表面直下の結晶組織の作り分ける方法としては、例えば、ヒーターの降温速度を調節することにより凝固速度を大きくし、これによって組成的過冷却を生起させる方法があり、この際に、シリコン中の不純物金属濃度が100ppmw未満の場合には等軸結晶組織に、不純物金属が100ppmw以上500ppmw未満の場合には等軸結晶組織と樹枝状結晶組織の混在した結晶組織に、また、不純物金属が500ppmw以上の場合には樹枝状結晶組織に作り込むことができる。ここで、前記凝固速度としては0.5mm/min以上、好ましくは0.5mm/min以上1.5mm/min以下であるのがよい。また、他の方法としては、不活性ガスをシリコン融液表面に吹き付けること(100L/min程度)により強制的に冷却し、これによって上下方向の温度勾配を無くし、柱状結晶組織の成長を妨害する方法がある。この際に、シリコン中の不純物金属が100ppmw未満の場合には等軸結晶組織に、また、不純物金属が100ppmw以上の場合には樹枝状結晶組織に作り込むことができる。
【0039】
このニッケル熱拡散のシリコン結晶組織依存性を調べた検証実験の結果を表1に示す。
【表1】

【0040】
上記の表1に示す結果から明らかなように、シリコンブロックの結晶組織の範囲とニッケル汚染との関係について検討した結果、等軸結晶組織の範囲、樹枝状結晶組織の範囲、又は等軸結晶組織と樹枝状結晶組織とが混在する範囲が、シリコンブロックの全高に対して2%未満である場合にニッケルの熱拡散による汚染を受け易く、2%以上あれば、ニッケルの逆拡散をブロック表層で効果的に止めることができる。
【0041】
以上、説明したような理由により、本発明の製造方法によれば、凝固完了時の1400℃から1000℃までの温度降下時間を短縮することにより、若しくは、インゴットブロック最表面直下の結晶組織を柱状結晶とせず、等軸結晶組織若しくは樹枝状結晶組織に作り込むことにより、あるいは、これらの方法を併用することにより、初期濃度C0のニッケルを含む金属シリコンを原料とし、溶融した金属シリコンからの一方向凝固により精製し、ニッケル濃度が初期濃度C0の1/500以下まで効率良く低減することができ、これによって6N以上の高純度多結晶シリコンを効率良く、かつ、低コストで容易に製造することができる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の実施例及び比較例に基づいて、本発明の多結晶シリコンの製造方法を説明する。
ここで、以下の実施例及び比較例において、ニッケルを含む金属シリコンの一方向凝固法による精製は、図4に示すような内寸40cm×40cm×40cmの大きさの角型鋳型1を用い、この角型鋳型1を図示外の抵抗加熱式シリコンブロック鋳造炉内に設置し、大気圧下のAr雰囲気中で1500℃に保持し、この中に1500℃に保持された溶融シリコン100kgを注入し、一方向に凝固させることによって行った。この図4において、角型鋳型1の上方には抵抗加熱ヒーター2が、また、その底部外面には冷却部材3が、更に前記角型鋳型1及び抵抗加熱ヒーター2の外方には所定の間隔を置いて保温用の黒鉛製断熱材4が配設されており、角型鋳型1内の溶融シリコン5は、角型鋳型1内においてその底部側から矢印方向に上方に向けて一方向に凝固するようになっている。
【0043】
[実施例1]
実施例1においては、熱拡散の時間依存性を検討するため、凝固完了時のシリコンブロックの表面温度が1400℃から1000℃に到達するまでの温度降下時間を変化させて、シリコンブロック表面からのニッケルの熱拡散の程度を調査する実験を行った。
【0044】
時間を変化させる方法、すなわち鋳造炉内の冷却方法はArガスの流量を変化させることで、1400℃から1000℃に到達するまでの温度降下時間を調節した。原料には、ニッケル以外の不純物の影響を防止するために、半導体用バージンポリシリコンにニッケルを0.5g添加して、精製前のニッケルの初期濃度を5ppmwとした。
【0045】
結果は、縦軸を凝固率86%の位置におけるニッケル濃度(ppmw)とし、また、横軸を温度降下時間〔シリコンブロック凝固完了時の最表面温度(1400℃)を1000℃まで低下させるのに要した時間〕とした図2のグラフから明らかなように、温度降下時間が長いほど、ニッケルの熱拡散の程度が大きいことが判った。ここで、ニッケル初期濃度の1/500のニッケル濃度の多結晶シリコンに精製するためには、凝固率86%の位置においてニッケル濃度を0.15ppmw以下にすることが必要であり、また、そのためには前記温度降下時間を400分以内にすればよいことがわかった。この実施例1により得られた多結晶シリコンは、その結晶組織全体が図3(a)に示すような柱状結晶組織であり、また、その純度が6N以上で歩留りが94%であった。
【0046】
[実施例2]
半導体用バージンポリシリコンにニッケルを0.1g添加して、精製前のニッケルの初期濃度を1ppmwとした以外は、上記実施例1と同様に、一方向凝固法により精製し、多結晶シリコンの製造を行った。
この実施例2により得られた多結晶シリコンは、その結晶組織全体が図3(a)に示すような柱状結晶組織であり、また、その純度が6N以上で歩留りが94%であった。
【0047】
[実施例3]
実施例3においては、シリコンブロックの凝固率が98%の時点でヒーター電源を切り、更にArガスを1000L/分の速度で溶融シリコン表面に吹き付けることで、凝固率98〜100%の範囲を急速凝固させ、等軸結晶領域とした。
【0048】
生成したシリコンブロックの最表面まで凝固が完了したことを確認した後、ニッケルの熱拡散による汚染量を比較検討するため、また、実施例1と同じ条件とするために、一旦、前記鋳造炉内温度を凝固完了温度である1400℃まで上げ、その後1000℃まで900分かけて降温し、シリコンブロック表面からのニッケルの熱拡散の程度を調べた。ここで、原料には、ニッケル以外の不純物の影響を防止するために、上記実施例1と同様に、半導体用バージンポリシリコンにニッケルを0.5g添加して、精製前のニッケル初期濃度C0を5ppmwとした。
【0049】
図3(b)に最表面直下の不純物濃縮層における結晶組織が、また、表1には凝固率86%の位置におけるニッケル濃度(ppmw)がそれぞれ示されている。実施例1の図2のデーターによれば、1400℃から1000℃まで温度降下時間900分をかけて降温した場合、同じ凝固率86%におけるニッケル濃度が0.34ppmw程度であったのに対して、この実施例3の場合には0.04ppmwと顕著に低下しており、シリコンブロックの最表面直下の不純物濃縮層における結晶組織を等軸結晶領域とした効果が確認された。また、このことから、実施例3においては、86%の凝固率までは図1に示したニッケル初期濃度5ppmwの場合の精製シリコン中のニッケル濃度の理論曲線に相当するシリコンブロックが得られた。この実施例3により得られた多結晶シリコンは、その結晶組織の98〜100%の領域が不純物濃縮層であって図3(b)に示すような等軸結晶組織であり、また、その純度が6N以上で歩留りが90%であった。
【0050】
[比較例1]
比較例1においては、シリコンブロックの凝固率が99%の時点でヒーター電源を切ったこと以外は、上記実施例3の場合と同様にして多結晶シリコンの製造を行った。
【0051】
実施例1の図2のデーターによれば、1400℃から1000℃まで温度降下時間900分をかけて降温した場合、同じ凝固率86%におけるニッケル濃度が0.34ppmw程度であったのに対して、この比較例1の場合には0.20ppmwであり、目標のニッケル濃度0.15ppmw以下にまでは到達しなかった。この比較例1においては、得られたシリコンブロックのニッケル汚染は軽減しているものの、86%の凝固率におけるニッケル濃度は図1に示した精製シリコン中のニッケル濃度の理論曲線から外れており、得られた多結晶シリコンは、その結晶組織の99〜100%の領域が不純物濃縮層であって図3(b)に示すような等軸結晶組織であり、また、その純度が6N以上で歩留りが75%であった。
【0052】
[実施例4]
実施例4においては、シリコンブロックの凝固率が98%の時点でヒーター電源を切り、更にArガスを1000L/分で溶融シリコン表面に吹き付け、凝固率98〜100%の範囲を急速に凝固させて樹枝状結晶領域とし、また、鉄(Fe)を10g添加して、凝固率98%の位置における溶融シリコン中のFe濃度を4000ppmwにして、急冷却時に組成的過冷却が起こるようにし、これによって樹枝状結晶組織を作り易くしたこと以外は、上記実施例3と同様に、一方向凝固法により精製し、多結晶シリコンの製造を行った。
【0053】
この実施例4においては、凝固率86%の位置におけるニッケル濃度が0.06ppmwであって、得られた多結晶シリコンは、その結晶組織の98〜100%の領域が不純物濃縮層であって図3(c)に示すような樹枝状結晶組織であり、また、その純度が6N以上で歩留りが92%であった。
【0054】
[比較例2]
比較例2においては、シリコンブロックの凝固率が99%の時点でヒーター電源を切り、更にArガスを1000L/分で溶融シリコン表面に吹き付け、凝固率99〜100%の範囲を急速に凝固させて樹枝状結晶領域としたこと以外は、上記実施例4と同様に、一方向凝固法により精製し、多結晶シリコンの製造を行った。
【0055】
この比較例2においては、凝固率86%の位置におけるニッケル濃度が0.22ppmwであって、得られた多結晶シリコンは、その結晶組織の99〜100%の領域が不純物濃縮層であって図3(c)に示すような樹枝状結晶組織であり、また、その純度が6N以上で歩留りが75%であった。
【0056】
[実施例5]
この実施例5においては、シリコンブロックの凝固率が98%の時点でヒーター電源を切り、更にArガスを1000L/分で溶融シリコン表面に吹き付けることで、凝固率98〜100%の範囲を急速凝固させることで樹枝状結晶領域とし、また、鉄(Fe)を0.3g添加して、凝固率98%の位置における溶融シリコン中のFe濃度を約200ppmwとし、これによって急冷却時に組成的過冷却が起きるようにして等軸・樹枝状混在結晶組織を作り易くしたこと以外は、上記実施例3と同様に、一方向凝固法により精製し、多結晶シリコンの製造を行った。
【0057】
この実施例5においては、凝固率86%の位置におけるニッケル濃度が0.04ppmwであって、得られた多結晶シリコンは、その結晶組織の98〜100%の領域が不純物濃縮層であって図3(d)に示すような等軸・樹枝状混在結晶組織であり、また、その純度が6N以上で歩留りが93%であった。
【0058】
[比較例3]
この比較例3においては、シリコンブロックの凝固率が99%の時点でヒーター電源を切り、更にArガスを1000L/分で溶融シリコン表面に吹き付けることで、凝固率99〜100%の範囲を急速凝固させることで樹枝状結晶領域としまた、鉄(Fe)を0.3g添加して、凝固率98%の位置における溶融シリコン中のFe濃度を約200ppmwとし、これによって急冷却時に組成的過冷却が起きるようにして等軸・樹枝状混在結晶組織を作り易くしたこと以外は、上記実施例3と同様に、一方向凝固法により精製し、多結晶シリコンの製造を行った。
【0059】
この比較例3においては、凝固率86%の位置におけるニッケル濃度が0.21ppmwであって、得られた多結晶シリコンは、その結晶組織の99〜100%の領域が不純物濃縮層であって図3(d)に示すような等軸・樹枝状混在結晶組織であり、また、その純度が6N以上で歩留りが70%であった。
【符号の説明】
【0060】
1…角型鋳型、2…抵抗加熱ヒーター、3…水冷式冷却部材、4…黒鉛製断熱材、5…溶融シリコン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを含む金属シリコンを溶融し、この溶融した金属シリコンを一方向凝固法により精製し、6N以上の純度の多結晶シリコンを製造する方法であって、前記一方向凝固法により得られたシリコンブロックの凝固率が100%に達してから400分以内に、シリコンブロック表面温度を1000℃以下に到達させることを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。
【請求項2】
金属シリコンが初期濃度C0のニッケルを含み、この金属シリコンのニッケル濃度を前記ニッケル初期濃度C0の1/500以下に低減することを特徴とする請求項1記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項3】
前記シリコンブロックは、その不純物濃縮層におけるシリコン結晶組織が柱状結晶組織以外の結晶組織である請求項1記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項4】
ニッケルを含む金属シリコンを溶融し、この溶融した金属シリコンを一方向凝固法により精製し、6N以上の純度の多結晶シリコンを製造する方法であって、前記一方向凝固法により得られたシリコンブロックの不純物濃縮層におけるシリコン結晶組織を柱状結晶組織以外の結晶組織に作り込むことを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。
【請求項5】
前記柱状結晶組織以外の結晶組織が樹枝状結晶組織及び等軸結晶組織のいずれか一方又は両方である請求項3又は4に記載の多結晶シリコンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−219288(P2011−219288A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88057(P2010−88057)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【出願人】(510096049)NSソーラーマテリアル株式会社 (4)
【Fターム(参考)】