説明

多結晶シリコンの製造方法

【課題】短期間でインゴットの冷却を完了させることができ、切断中にクラックが発生することがない多結晶シリコンの製造方法を提供する。
【解決手段】無底ルツボ12内に形成されたシリコン融液21を降下させて凝固させることにより、無底ルツボ12から多結晶シリコンインゴット20を連続的に取り出す多結晶シリコンの製造方法において、保温ヒータ16を用いて1000℃以上の所定の保温温度に保温されている多結晶シリコンインゴット20を300℃以下の所定の開放温度まで降下させて冷却する際、少なくとも620℃までは傾きが漸増する第1の冷却パターンを用いて保温ヒータの温度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンの製造方法に関し、特に、電磁鋳造法によって鋳造される太陽電池用多結晶シリコンの冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池用多結晶シリコンの製造方法の一つとして電磁鋳造法が知られている。この方法は連続鋳造法とも呼ばれ、無底ルツボ内に投入されたシリコン原料を電磁誘導加熱によって溶融すると共に、溶融シリコンを無底ルツボの下方から引き出して冷却し、結晶を成長させることにより、一方向性凝固のシリコンインゴットを得るものである。
【0003】
電磁鋳造法による多結晶シリコンの製造では、シリコンの融点である約1420℃から一方向に冷却する際の温度管理が非常に重要である。特許文献1には、電磁鋳造法による多結晶シリコンの製造方法において、900〜500℃まで冷却されたところでインゴットのプラズマ電極をインゴットに接触させて冷却速度を制御する方法が記載されている。また、特許文献2には、一方向凝固法で育成した多結晶シリコンを1420℃から1200℃まで冷却する際に15〜25℃/cmで通過させる冷却方法が記載されている。
【0004】
また、電磁鋳造法では鋳造されたシリコンインゴットの保温や冷却も重要である。一方向凝固したシリコンインゴットが急冷された場合には、インゴット内部の温度勾配が大きくなりすぎて残留応力が多いインゴットとなり、冷却中にクラックが発生し、或いはインゴットの切断加工中にクラックが発生するという問題がある。そのため、鋳造されたシリコンインゴットは一定の温度(例えば1100℃)に保温され、インゴットの取り出し時には、保温温度を徐々に低くして熱応力の発生を防止しながら炉開放温度(例えば300℃)まで冷却することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−019593号公報
【特許文献2】特許第3005633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、クラックが発生しないように長時間かけて除冷した場合には、冷却時間が長くなりすぎて生産性が悪化するという問題がある。実際、約52時間かけてインゴットの冷却が行われていた。一方、インゴットの保温温度から炉開放温度まで直線的な冷却パターンで冷却を行う場合において、冷却時間短縮のために冷却時間を短くすると、急冷のためインゴット内部の温度勾配が大きくなりすぎて残留応力が多いインゴットとなり、インゴットの切断中にクラックが発生するという問題がある。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、短期間でインゴットの冷却を完了させることができ、切断加工中にクラックが発生することがない多結晶シリコンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願発明者らが鋭意研究を重ねた結果、クラックの発生原因となるインゴット内部の残留応力は、インゴットの鋳造及び冷却中に発生する熱応力に関係があり、インゴットの冷却工程中に高い熱応力を発生させた場合には、高い残留応力が残留することが分かった。そして、従来の直線的な冷却パターンでは、冷却開始時の降温が急激であるため、冷却初期に大きな熱応力が発生することが分かった。
【0009】
そして、低応力化のためには最初は小さな降温速度で冷却し始め、徐々に降温速度を大きくすればよく、特に、指数関数を用いて降温パターンを実現すればよいことを見出した。さらに、指数関数のみを用いた場合には冷却初期の降下温度が遅いことから、この場合には指数関数と一次関数を組み合わせた降温パターンを実現すればよいことを見出した。
【0010】
本発明はこのような技術的知見に基づくものであり、本発明による多結晶シリコンの製造方法は、無底ルツボ内に形成されたシリコン融液を降下させて凝固させることにより、前記無底ルツボから多結晶シリコンインゴットを連続的に取り出す方法であって、保温ヒータを用いて1000℃以上の所定の保温温度に保温されている前記多結晶シリコンインゴットを300℃以下の所定の開放温度まで降下させて冷却する際、少なくとも620℃までは降温速度が漸増する第1の冷却パターンを用いて前記保温ヒータの温度を制御することを特徴としている。
【0011】
本発明によれば、降温速度が漸増する指数関数の冷却パターンを用いて多結晶シリコンインゴットを冷却するので、短期間でインゴットの冷却を完了させることができ、切断中にクラックが発生することがない多結晶シリコンを製造することができる。
【0012】
本発明においては、前記多結晶シリコンインゴットを冷却する際、少なくとも620℃までは前記第1の冷却パターンと降温速度が一定である第2の冷却パターンとの合成からなる第3の冷却パターンを用いて前記保温ヒータの温度を制御することが好ましい。
【0013】
本発明によれば、指数関数の冷却パターンと一次関数の冷却パターンとを組み合わせているので、初期冷却段階、特に冷却開始から10時間までの期間において、大きな熱応力を発生させることなく冷却速度を高速化することができ、インゴットを効率よく冷却することができる。
【0014】
本発明においては、前記多結晶シリコンインゴットを冷却する際、冷却開始から所定の時刻までの初期冷却期間においては、降温速度が一定である第4の冷却パターンを用いて前記保温ヒータの温度を制御し、初期冷却期間の経過後においては、少なくとも620℃までは前記第3の冷却パターンを用いて前記保温ヒータの温度を制御することが好ましい。この場合において、前記初期冷却期間は、冷却開始から2.5時間までの期間であることが好ましい。
【0015】
本発明によれば、初期冷却期間では一次関数の冷却パターンを用い、初期冷却期間の経過後は指数関数と一次関数の合成パターンを用いるので、初期冷却段階において高速になりすぎた冷却速度を緩和することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、短期間でインゴットの冷却を完了させることができ、切断中にクラックが発生することがない多結晶シリコンの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の好ましい実施の形態による多結晶シリコン製造装置の構成を示す略側面断面図である。
【図2】無底ルツボの構成を示す略斜視図である。
【図3】シリコンインゴットの第1の冷却方法(実施例1)を示すグラフである。
【図4】シリコンインゴットの第2の冷却方法(実施例2)を示すグラフである。
【図5】シリコンインゴットの第3の冷却方法(実施例3)を示すグラフである。
【図6】シリコンインゴットの比較例による冷却方法を示すグラフである。
【図7】実施例1〜3及び比較例におけるMises相当応力の最大値の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の好ましい実施の形態による多結晶シリコン鋳造装置の構成を示す略側面断面図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態による多結晶シリコン鋳造装置10は、チャンバ11と、チャンバ11内の上部中央に設けられた無底ルツボ12と、無底ルツボ12内のシリコン原料を電磁誘導加熱するための誘導コイル13と、誘導コイル13と共に無底ルツボ12内のシリコン原料を加熱する補助ヒータ14と、無底ルツボ12から引き出されたシリコンインゴット20を支持する支持軸15と、無底ルツボ12内のシリコン融液21を冷却することによって得られるシリコンインゴット20を保温する保温ヒータ16とを備えている。
【0021】
チャンバ11の上部には不活性ガス導入口11aが設けられており、チャンバ11の下部には真空吸引口11cが設けられている。また、チャンバ11の上部には遮断手段によって仕切られた原料投入口11bが設けられており、底部にはインゴット引き出し口11dが設けられている。
【0022】
図2は、無底ルツボ12の構成を示す略断面図である。
【0023】
図2に示すように、無底ルツボ12は銅製の角筒体であり、部分的な縦方向のスリット12aによって周方向に分割されている。また無底ルツボ12は水冷式であり、内部を流通する冷却水によって強制冷却される。特に限定されるものではないが、無底ルツボ12の開口サイズは350×530mmとすることができる。
【0024】
チャンバ11内にはダクト18が設けられており、チャンバ11の外側に設けられた原料ホッパ(不図示)から原料投入口11cを経由して供給された粒状又は塊状のシリコン原料22は、このダクト18を介して無底ルツボ12内に投入される。
【0025】
誘導コイル13は、無底ルツボ12の周囲に配設されており、同軸ケーブルを介して電源に接続されている。また、誘導コイル13と共にシリコン原料を加熱溶融するために、無底ルツボ12の上方にはプラズマアークトーチによる補助ヒータ14が昇降可能に設けられており、降下時には無底ルツボ12内に装入されるようになっている。
【0026】
支持軸15はインゴット引き出し口11dを貫通して昇降可能に設けられている。支持軸15の先端部は無底ルツボ12の下端まで到達することができ、これにより無底ルツボ12に対する移動可能な底面を構成することができ、無底ルツボ12から下方に引き出されるシリコンインゴットを支持することができる。
【0027】
保温ヒータ16は例えば抵抗加熱ヒータであり、無底ルツボ12の下方に設けられており、無底ルツボ12から引き下げられるインゴットを加熱して例えば1100℃の一定温度で保温する。本実施形態による保温ヒータ16は、軸方向に所定の温度勾配を与えることなくインゴットを均一に加熱する。保温ヒータ16による保温効率を高めるため、保温ヒータ16の外周には断熱材17が設けられている。
【0028】
次に、多結晶シリコンの鋳造方法について説明する。
【0029】
電磁鋳造法による多結晶シリコンの製造では、まず真空吸引口11cからチャンバ11内を真空引きした後、不活性ガス導入口11aからチャンバ11内にアルゴン等の不活性ガスを導入し、チャンバ11内を不活性ガス雰囲気とする。次に、先端に初期シリコン原料が取り付けられた支持軸15を上昇させて、無底ルツボ12の下方から挿入し、無底ルツボ12の底部の開口を初期シリコン原料で閉塞する。
【0030】
次に、誘導コイル13により初期シリコン原料に電磁力を付与し、誘導コイル13と補助ヒータ14を用いて無底ルツボ12内の初期シリコン原料を溶融し、シリコン融液21を生成する。このとき、無底ルツボ12内のシリコン融液21は、無底ルツボ12の内面に対して非接触の状態に保持される。その後、支持軸15と共にシリコン融液21を徐々に降下させて凝固させる。これと同時に、シリコン融液21にシリコン原料22を追加投入し、その追加原料を誘導コイル13による電磁誘導加熱と補助ヒータ14によるプラズマ加熱との併用により溶解する。
【0031】
この操作を続けることにより、シリコンインゴット20は、誘導コイル13による電磁誘導加熱によって無底ルツボ12内で連続的に製造され、無底ルツボ12から連続的に引き出される。このシリコンインゴット20は保温ヒータ16による保温を受けつつチャンバ11の下方に引き出される。
【0032】
シリコンインゴット20は、所定の長さ(例えば7000mm)になるまで連続的に鋳造され、その間は保温ヒータ16からの加熱によって一定の温度(例えば1100℃)となるように保温されている。所定の長さに達したシリコンインゴット20をチャンバ11から取り出す場合には、シリコンインゴット20に過度な熱応力が与えられることがないよう、保温ヒータ16の温度を徐々に下げてシリコンインゴット20を徐々に冷却する必要がある。このとき、保温ヒータ16の温度を制御することにより、シリコンインゴット20に高い残留応力を与えることなく、短期間での冷却を完了させることができる。
【0033】
図3は、本発明の第1の実施例によるシリコンインゴットの冷却方法を示すグラフであり、横軸は冷却開始からの時刻、左側の縦軸は保温ヒータの温度、右側の縦軸は保温ヒータのパワーを示している。同図において、ラインA1は保温ヒータ16の目標温度(冷却パターン)、ラインA2は保温ヒータ16の実績温度、ラインA3は保温ヒータ16のパワーを示している。
【0034】
図3では、シリコンインゴットの温度ではなく、保温ヒータ16の温度が評価の対象となっているが、これはシリコンインゴットの温度が保温ヒータ16の温度とほぼ一致していることによるものである。多結晶シリコンの熱伝導率は熱伝導率162W・m?1・K?1と非常に高く、また図1に示すように、シリコンインゴットは保温ヒータ16に近接しており、保温ヒータ16からの輻射熱を直接受けているからである。保温ヒータ16の温度は熱電対等の温度センサを用いて測定することができ、保温ヒータ16のパワーは温度センサの出力結果に基づいてフィードバック制御される。インゴットと保温センサ16との温度差をなくすためには、保温ヒータ16とインゴットとの間に温度センサを設置することが好ましい。
【0035】
図3に示すように、シリコンインゴットは保温動作中の保温ヒータ16からの加熱によって約1100℃に保たれているが、冷却時には、少なくともシリコンインゴット(保温ヒータ16)が620℃となるまでの間は、降温速度が漸増する冷却パターン(第1の冷却パターン)に沿ってシリコンインゴットが冷却されるよう、保温ヒータ16の温度を制御する。そして、最終的にはシリコンインゴットの温度を300℃以下の炉開放温度まで降下させる。シリコンインゴットが第1の冷却パターンに沿って冷却されるためには、1100℃から620℃までは保温ヒータ16の降温速度を概ね一定とし、その後は保温ヒータ16のパワーをオフにすることが好ましい。降温速度が漸増する冷却パターンは、指数関数を用いてもよく、傾きが異なる複数の直線で近似したものであってもよい。
【0036】
また図3に示すように、保温ヒータ16の実績温度A2は、620℃に到達した時刻(冷却開始から約16時間)以降から緩やかに低下するようになり、目標温度A1から乖離するようになるが、これは保温ヒータ16の外側に設けた断熱材17の影響によるものである。つまり、保温ヒータ16の温度を測定する温度センサが断熱材17の影響を受けて高温を示すことによるものである。断熱材17は保温ヒータ16による保温効率を高めるために必要であるが、冷却時には急冷を妨げる要因となる。よって、保温ヒータ16による冷却制御は、低温域側の冷却を速めるというよりむしろ、高温域側の冷却を速める上で有効な方法である。逆に、低温域側では、保温ヒータ16に通電することなく、断熱材17のみを用いてシリコンインゴットを徐冷することができるので、消費電力を抑制することが可能となる。
【0037】
従来のように、シリコンインゴットを直線的な冷却パターンに沿って冷却した場合には、冷却初期に大きな熱応力が発生するので、インゴット内部に高い残留応力が残留する。しかし、最初は小さな降温パターンで冷却し始め、徐々に降温速度を大きくした場合には、比較的短時間で冷却を完了させることができ、また冷却初期に大きな熱応力が発生することがないので、インゴットの切断時にクラックが発生することを防止することができる。
【0038】
図4は、本発明の第2の実施例によるシリコンインゴットの冷却方法を示すグラフであり、横軸は冷却開始からの時刻、左側の縦軸は保温ヒータの温度、右側の縦軸は保温ヒータのパワーを示している。同図において、ラインA1は保温ヒータ16の目標温度(冷却パターン)、ラインA2は保温ヒータ16の実績温度、ラインA3は保温ヒータ16のパワーを示している。
【0039】
図4に示すように、この冷却方法では、降温速度が漸増する冷却パターン(第1の冷却パターン)と降温速度が一定である冷却パターン(第2の冷却パターン)との合成パターン(第3の冷却パターン)に沿ってシリコンインゴットが冷却されるよう、保温ヒータ16の温度を制御する。シリコンインゴットが第3の冷却パターンに沿って冷却されるためには、保温ヒータ16の降温速度を漸減させる必要がある。
【0040】
図3に示した第1の冷却パターンを用いた冷却方法では、冷却開始から10時間までの冷却初期において降温速度が少し遅いため、冷却をより短時間のうちに完了させる余地が残されている。第3の冷却パターンは第1の冷却パターンの改良であり、指数関数の冷却パターンと一次関数の冷却パターンとの組み合わせである。この第3の冷却パターンによれば、冷却開始から10時間までの初期冷却段階において効率よく冷却することができる。
【0041】
図5は、本発明の第3の実施例によるシリコンインゴットの冷却方法を示すグラフであり、横軸は冷却開始からの時刻、左側の縦軸は保温ヒータの温度、右側の縦軸は保温ヒータのパワーを示している。同図において、ラインA1は保温ヒータ16の目標温度(冷却パターン)、ラインA2は保温ヒータ16の実績温度、ラインA3は保温ヒータ16のパワーを示している。
【0042】
図5に示すように、この冷却方法では、冷却開始から例えば2.5時間までの初期冷却期間においては、降温速度が一定である冷却パターン(第4の冷却パターン)に沿ってシリコンインゴット(保温ヒータ16)が冷却されるよう、保温ヒータ16の温度を制御し、また初期冷却期間の経過後においては、降温速度が漸増する第1の冷却パターンと降温速度が一定である第2の冷却パターンとの合成パターンである第3の冷却パターンに沿ってシリコンインゴットが冷却されるよう、保温ヒータ16の温度を制御する。
【0043】
図4に示した第3の冷却パターンを用いた冷却方法では、指数関数の立ち上がりの部分が時間的に早く現れるため、冷却速度が速くなり、熱応力が大きくなりすぎる時間帯が発生する。しかし、第4の冷却パターンを用いれば、指数関数と一次関数とを組み合わせることによって初期冷却段階において高速になりすぎた冷却速度を、指数関数の項の位相を遅らせることにより改善することができる。
【0044】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0045】
例えば、上記実施形態においては、保温ヒータとして抵抗加熱ヒータを用いているが、保温ヒータの種類は特に限定されない。また、断熱材17を省略し、保温ヒータ16の熱のみでインゴットを保温してもかまわない。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
上述した多結晶シリコン鋳造装置10を用いて、通常の電磁鋳造法により多結晶シリコンインゴットを鋳造した。このとき、シリコンインゴットの冷却パターンとして以下に示す冷却パターンを用いた。すなわち、実施例1では、シリコンインゴットを1100℃から冷却する際に、
1100−exp(2.3/20×t+17.7)/exp(20)×889.1446−89.1446 ・・・(1)
で表される冷却パターンを採用した。tは冷却開始からの時刻である。
【0047】
その後、シリコンインゴットを所定の寸法のシリコンブロックとして切り出した後、シリコンブロックのクラックの有無を検査し、その不良率(クラックがあるブロック数/ブロック総数)を求めた。その結果、シリコンインゴットの不良率は3%であった。
【0048】
また、インゴット内部に発生する熱応力を以下の手順により算出した。まず、インゴットの保温温度である1100℃から冷却の最終温度である300℃までの冷却過程におけるインゴット内部の温度分布を伝熱解析し、ある一定の温度ステップ毎に算出した。次いで、得られた温度分布をもとに汎用応力解析ソフト「ABAQUS(商品名)」を用いて応力解析を行い、熱応力を算出した。さらに、熱応力をMises相当応力に変換し、冷却中の各時間ステップごとにMises相当応力の最大値をプロットした。
【0049】
Mises相当応力の最大値を取ったグラフを図7に示す。図7のグラフの横軸は冷却開始からの時刻、縦軸はMises相当応力の最大値を示している。なお、図7には、本実施例のみならず、後述する他の実施例や比較例の結果もプロットされている。
【0050】
図7から分かるように、実施例1において、熱応力解析によるMises相当応力の冷却途中におけるピーク値は6.56MPaであり、7MPa以下の小さな値となった。また、Mises相当応力のピーク値は、どの場合でもインゴットの長辺側の中央の表面に発生した。このように、実施例1では、指数関数の冷却パターンを用いることにより、Mises相当応力の最大値を冷却開始から23時間でゼロにすることができた。
【0051】
(実施例2)
実施例2は実施例1の改良である。図7から分かるように、実施例1では、Mises相当応力のピーク値が冷却開始から10時間以降に現れた。このことは、冷却開始から10時間までの初期段階において、冷却速度を高速化する余地があることを示している。
【0052】
実施例2では、初期冷却段階において冷却速度を高速化するために、指数関数の冷却パターンと一次関数の冷却パターンとを組み合わせた。すなわち、実施例2では、ヒータ温度を1100℃から冷却する際に、
1100−exp(2.3/20×t+17.7)/exp(20)×889.1446−89.1446−13.3t ・・・(2)
で表される冷却パターンを採用した。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0053】
その結果、シリコンインゴットの不良率は6%であった。また、図7に示すように、熱応力解析によるMises相当応力の冷却途中におけるピーク値は6.98MPaであった。
【0054】
(実施例3)
実施例3は実施例2の改良である。図7から分かるように、実施例2では、指数関数の冷却パターンと一次関数の冷却パターンとを組み合わせることにより、冷却開始から10時間までの初期冷却段階において効率よく冷却することが可能となった。しかし、指数関数の立ち上がりの部分が時間的に早く現れるため、冷却速度が速くなり、熱応力が大きくなりすぎる時間帯が発生することが分かった。
【0055】
実施例3は、実施例2において指数関数と一次関数とを組み合わせることによって初期冷却段階において高速になりすぎた冷却速度を、指数関数の項の位相を遅らせることにより改善したものである。すなわち、実施例3では、ヒータ温度を1100℃から冷却する際に、
0≦t<2.5のとき、
1100−13.3t
2.5≦tのとき、
1100−exp(2.3/20×(t−2.5)+17.7)/exp(20)×889.1446−89.1446−13.3t
で表される冷却パターンを採用した。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0056】
その結果、シリコンインゴットの不良率は2%であった。また、図7に示すように、熱応力解析によるMises相当応力の冷却途中におけるピーク値は6.51MPaであった。
【0057】
(比較例)
比較例では、図6に示すように、ヒータ温度を1100℃から冷却する際に、
1100-40t
で表される冷却パターンを採用した。その他の条件は実施例1と同様とした。
【0058】
その結果、得られたシリコンインゴットの不良率は65%であり、非常に高い不良率となった。また、図7に示すように、熱応力解析によるMises相当応力の冷却途中におけるピーク値は9.26MPaであった。
【符号の説明】
【0059】
10 多結晶シリコン鋳造装置
11 チャンバ
11a 不活性ガス導入口
11b 原料投入口
11c 真空吸引口
11d インゴット引き出し口
12 無底ルツボ
12a スリット
13 誘導コイル
14 補助ヒータ
15 支持軸
16 保温ヒータ
17 断熱材
18 ダクト
20 シリコンインゴット
21 シリコン融液
22 シリコン原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無底ルツボ内に形成されたシリコン融液を降下させて凝固させることにより、前記無底ルツボから多結晶シリコンインゴットを連続的に取り出す多結晶シリコンの製造方法であって、
保温ヒータを用いて1000℃以上の所定の保温温度に保温されている前記多結晶シリコンインゴットを300℃以下の所定の炉開放温度まで降下させて冷却する際、少なくとも620℃までは降温速度が漸増する第1の冷却パターンを用いて前記保温ヒータの温度を制御することを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。
【請求項2】
前記多結晶シリコンインゴットを冷却する際、少なくとも620℃までは前記第1の冷却パターンと降温速度が一定である第2の冷却パターンとの合成パターンからなる第3の冷却パターンを用いて前記保温ヒータの温度を制御することを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項3】
前記多結晶シリコンインゴットを冷却する際、冷却開始から所定の時刻までの初期冷却期間においては、降温速度が一定である第4の冷却パターンを用いて前記保温ヒータの温度を制御し、初期冷却期間の経過後においては、少なくとも620℃までは前記第3の冷却パターンを用いて前記保温ヒータの温度を制御することを特徴とする請求項2に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項4】
前記初期冷却期間は、冷却開始から2.5時間までの期間であることを特徴とする請求項3に記載の多結晶シリコンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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