説明

多結晶半導体太陽電池及びその製造方法

【課題】太陽光の吸収に必要な膜厚の数倍の少数キャリヤ拡散長を持つ薄膜太陽電池材料を得ること。
【解決手段】基板上に形成された非晶質半導体膜または微結晶含有半導体膜を0.1秒以下かつ0.00001秒以上の短時間高エネルギー・ビーム照射による瞬間熱処理により、結晶粒が稠密に詰まった多結晶半導体膜となし、かつその膜の欠陥を1気圧以上の高圧水蒸気中での熱処理により消去したものを、太陽光を吸収し電子とホールを発生させる活性領域に用いる。 瞬間熱処理により非晶質シリコン膜を結晶化させて多結晶薄膜を作製し、さらに高圧水蒸気処理による欠陥消去法を施すことにより、可視光領域の光吸収係数が従来の結晶シリコンよりも高く、さらに少数キャリヤ拡散長が10μmを超える高品質多結晶シリコン膜を作製し、太陽電池の発電層に利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
半導体太陽電池は、球形の半導体粒を用いる特殊な例を除くと、1)結晶半導体をインゴットから切り出して300μm以下の薄板にして作られるもの、2)溶融した半導体を鋳型に入れて固化させるキャスト法と呼ばれる方法で作られた多結晶半導体の塊を同様に切り出して300μm以下の薄板にして作られるもの、あるいは、3)溶融状態の半導体材料を薄板のままの形で引き上げたリボン結晶体を用いるもの、等のいわゆる「バルク型太陽電池」と、原料ガスを例えばプラズマ分解すること等で得られる堆積種を基板に堆積して薄膜を形成し、これを用いて太陽電池を作る「薄膜太陽電池」に大別できる。本発明は、この中の薄膜太陽電池に関するもので、従来の方法とは異なる処理、製造方法を発明したことにより、従来法による材料とは異なる性質を生み出し、それにより従来法では得られなかった高効率な薄膜太陽電池を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
バルク型太陽電池材料としては、その物性が広く研究され、デバイス製造工程に関する技術も確立しており、かつ屋外に置いても特性が安定していて、価格も相対的には安価であるという条件を満たすほとんど唯一の半導体であるシリコンがまず注目される。しかし、結晶シリコンは間接遷移型と呼ばれる光吸収が小さいタイプの半導体であるので、太陽光を十分に吸収させるために通常は厚さが100μm以上必要で、今後拡大する太陽電池生産を支えるためには多量の原材料が必要となる。
【0003】
バルク型太陽電池製作に用いられる高純度な結晶シリコンまたは多結晶シリコンは、 1) 水晶とコークスの粉末を溶融してシリコンを抽出する工程、 2) そのシリコンを純化精製する工程、 3) 純化精製されたシリコンから結晶シリコンウェーハまたはキャスト法を用いる場合には多結晶シリコンウェーハを製作する工程、の少なくとも3つの工程を経て作られている。水晶とコークスから最初に抽出される原料中のシリコン含有比は98%程度あり、このシリコン原料は、金属グレードシリコン(MG-Si=Metal Grade Silicon)と呼ばれている。正確な数値には不確実な点もあるが、2004年−2005年の世界のMG-Si生産量は概ね300万トン/年と言われている。このMG-Siの大部分は例えばシリコン・ゴムなどの工業原料となるが、その内の約1%、3万トン/年程度は純化精製されて電子デバイスに使用可能なレベル、すなわち電子グレードシリコン(EG-Si =Electronic Grade Silicon)となる。2004年―2005年の統計によれば、この内の約半分が集積回路等の電子製品用半導体として使われ、残りの半分が太陽電池用に使用されている。ところが、従来からのシリコン純化精製は、そのほとんどが電子製品用半導体の市場動向に合わせて行われてきたために、最近の急激な太陽電池用EG-Si供給の要請には追いつけなくなっている。勿論、MG-Siはまだ豊富にあり、MG-Si生産量を30年かけて50%程度増産することと併せて、その後のシリコン純化精製等の工程における生産量を現在の3万トン/年から150万トン/年 程度へと飛躍的に増大させれば、向こう30年で100倍を超える生産量の拡大が見込まれる太陽電池産業を支え続けられる。
【0004】
しかし、シリコン原材料である水晶やコークスの日本国内の埋蔵量は少なく、未来の重要なエネルギー源の一つである太陽電池の主原料を海外に依存せざるを得なくなる。このため、バルク型太陽電池に較べれば、遥かに原材料使用量が少なく、また、一般的には太陽電池製造工程も短い薄膜太陽電池への期待は今もなお高い。ところが、その薄膜太陽電池の材料として長く期待されていた非晶質シリコン(a-Si = Amorphous Silicon) は、太陽光照射下で特性が劣化すると言う決定的な問題を抱えている上、太陽光によってその内部で発生した電子とホールが電極まで拡散していくだけの十分な拡散長を持っていない。そのため、p型層とn型層の間にi型の層を入れ、p-n接合により発生する内部電界の領域が拡がるように工夫して、内部電界によるドリフト効果により電子とホールを収集するとの工夫がなされている。また、a-Si膜が光照射により劣化してしまうことの対策としては、a-Si膜の内部に50 nm程度の大きさの微小な結晶粒を含む微結晶シリコン(μc-Si =Micro Crystalline Silicon) をa-Si膜の代わりに用いようとの試みもなされている。このμc-Siはa-Siのような光劣化を示さないことが知られているからである。
【0005】
しかし、このμc-Siにしても問題は多い。もともとa-Siは結晶シリコンと異なり間接遷移型半導体ではないため、1μm以内の厚さで太陽光を吸収できるが、内部に結晶シリコン粒を含むμc-Siでは、光吸収にa-Siよりは厚みが必要となる。ところが、太陽光によって発生した電子とホールは結晶粒の中だけでなく、キャリヤ拡散長の短いa-Si領域も通過せねばならず、結局、このμc-Siを用いたことによる太陽電池の効率向上は多くは望めない。ただ、μc-Siは光学バンドギャップが結晶粒を含む分だけa-Siより狭くなるので、光学バンドギャップの異なる太陽電池を積層して効率向上を図る時には、その一つの層としては意味がない訳ではない。
【0006】
そこで、最近、a-Si膜をガラス基板上に堆積しておいて、それを熱処理により多結晶化し、それを用いて太陽電池を製作することも試みられている。オーストラリア国、サウスウェールズ大学のグループは、a-Si膜を500―600℃で数時間以上熱処理することで多結晶シリコンとし、それを用いて効率8%の太陽電池が出来ると報告している。例えば、M.A. Green他15名連著、「Crystalline silicon on glass (CSG) thin-film solar cell modules」、Solar Energy誌、77巻、(2004年発行)、pp.857-863. に太陽電池モジュールの効率が示されている。上述の熱処理時間等は、口頭発表で述べてはいるが論文中には記述がない。米国、再生エネルギー研究所 (National Renewable Energy Laboratories = NREL)、からの同様な報告、 Qi Wang他7名連著、「Polycrystalline Silicon Thin Films by Solid Phase Crystallization for Solar Cell Applications」、Technical Digest of 15th International Photovoltaic Science and Engineering Conference (PVSEC-15), Shanghai, China, (2005年10月発行)、pp.947-948. にその固相成長の条件等が記述されているが、ともかく、優れた多結晶シリコンをこの方法で形成するためには、500℃以上の長時間熱処理が必要である。
【特許文献1】US 5942050 Aug. 24, 1999 M. A. Green et al.
【非特許文献1】上記記載、A. Green et al., ”Crystalline silicon on glass (CSG) thin-film solar cell modules”、Solar Energy、vol.77、(2004)、pp.857-863.
【非特許文献2】上記記載、Qi Wang et al., ”Polycrystalline Silicon Thin Films by Solid Phase Crystallization for Solar Cell Applications”、Technical Digest of 15th International Photovoltaic Science and Engineering Conference (PVSEC-15), Shanghai, China, (Oct., 2005)、pp.947-948.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、バルク型太陽電池に較べ、薄膜太陽電池は原材料の使用量が少なく製造方法が単純なので、太陽電池生産量が世界規模で拡大する時には、原材料確保の容易さのために特に期待される太陽電池である。しかし、現実には、薄膜太陽電池のエネルギー変換効率は、バルク型のそれに較べて小さく、発電ワット当たりの太陽電池価格ではさほどその優位性が主張できておらず、実際、家庭の屋根に取り付ける太陽電池の大半はバルク型太陽電池である。この基本的問題の根源は、薄膜半導体太陽電池材料の特性が、結晶半導体等のバルク型材料に較べて劣っていることによる。例えば、シランガスをプラズマ分解して作られるa-Siを主成分とするアモルファス太陽電池は、その30年にわたる研究にもかかわらず、効率は単層では12%前後しか出せない。また、このa-Siにμc-Siを積層して作る薄膜太陽電池の効率も、研究室レベルで15%程度までしか出せていないのが現状である。これは、それら太陽電池用半導体材料中では、内部で発生する電子とホールを、取り出し電極部まで輸送する効率が低い、すなわち、少数キャリヤの拡散長が、太陽電池の構造から要求される値に較べて短いことが原因である。シリコン材料を例に取ると、もともと薄膜太陽電池は、バルク型太陽電池よりも薄くても太陽光を十分に吸収できるので、結晶シリコンのように1 mmの桁の少数キャリヤ拡散長は必要ないが、それでも、必要膜厚の数倍の拡散長があることが望ましい。結局、現状では、太陽光を吸収するのに必要な膜厚の数倍の少数キャリヤ拡散長を持つ薄膜太陽電池材料を得ること、その材料の安定な製造方法を確立すること、及びその太陽電池そのものを製造することが最大の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために、次のような手段を採用した。
第1の手段は、多結晶半導体太陽電池の製造方法であって、ガラス基板等熱伝導率が結晶性半導体より小さい値を持つ基板上またはその上に異種材料薄膜が堆積された基板上に形成された非晶質半導体膜または微結晶含有半導体膜に0.00001秒以上0.1秒以下の時間で高エネルギービームを照射する熱処理によって多結晶半導体膜とし、該多結晶半導体膜中の欠陥を1気圧以上の高圧水蒸気での熱処理及び又は水素中での熱処理により消去することにより、太陽光を吸収し電子と正孔を発生する活性領域を得ることを特徴とする方法により多結晶半導体太陽電池を製造することである。
【0009】
第2の手段は、前記非晶質半導体膜または前記微結晶含有半導体膜およびそれらから作られる多結晶半導体がシリコンを主成分とする半導体であることを特徴とする請求項1に記載の多結晶半導体太陽電池の製造方法により多結晶半導体太陽電池を製造することである。
【0010】
第3の手段は、前記高エネルギービームがフラッシュ・ランプ光であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法により多結晶半導体太陽電池を製造することである。
【0011】
第4の手段は、前記非晶質半導体膜または前記微結晶含有半導体膜上の、前記高エネルギービーム源からのビーム照射領域を画定し、該照射領域及び又は該高エネルギービーム源を高速で移動することで前記0.00001秒以上0.1秒以下の高エネルギービーム照射時間を調整することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の方法により多結晶半導体太陽電池を製造することである。
【0012】
第5の手段は、前記非晶質半導体膜または前記微結晶含有半導体膜が触媒化学気相堆積法により作られたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の方法により多結晶半導体太陽電池を製造することである。
【0013】
第6の手段は、前記非晶質半導体膜または前記微結晶含有半導体膜が半導体成分を含有する溶液を基板に塗布、凝縮することにより作られたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の方法により多結晶半導体太陽電池を製造することである。
【0014】
第7の手段は、多結晶半導体太陽電池であって、ガラス基板等熱伝導率が結晶性半導体より小さい値を持つ基板上またはその上に異種材料薄膜が堆積された基板上に形成された非晶質半導体膜または微結晶含有半導体膜に0.00001秒以上0.1秒以下の時間で高エネルギービームを照射する熱処理によって多結晶半導体膜とし、該多結晶半導体膜中の欠陥を1気圧以上の高圧水蒸気での熱処理及び又は水素中での熱処理により消去することにより、太陽光を吸収し電子と正孔を発生する活性領域を得ることを特徴とする方法により製造される多結晶半導体太陽電池である。
【0015】
第8の手段は、第7の手段に記載された非晶質半導体膜または微結晶含有半導体膜およびそれらから作られる多結晶半導体がシリコンを主成分とする半導体であることを特徴とする方法により製造される多結晶半導体太陽電池である。
【0016】
第9の手段は、前記、第7の手段に記載された高エネルギービームがフラッシュ・ランプ光であることを特徴とする第7の手段または第8の手段に記載の方法により製造される多結晶半導体太陽電池である。
【0017】
第10の手段は、第7の手段に記載された非晶質半導体膜または微結晶含有半導体上の、第7の手段に記載された高エネルギービーム源からのビーム照射領域を画定し、該照射領域及び又は該高エネルギービーム源を高速で移動することで前記0.00001秒以上0.1秒以下の高エネルギービーム照射時間を調整することを特徴とする第7の手段乃至第9の手段のいずれかに記載の方法により製造される多結晶半導体太陽電池である。
【0018】
第11の手段は、前記、第7の手段に記載された非晶質半導体膜または微結晶含有半導体膜が触媒化学気相堆積法により作られたものであることを特徴とする第7の手段乃至第10の手段のいずれかに記載の方法により製造される多結晶半導体太陽電池である。
【0019】
第12の手段は、前記、第7の手段に記載された非晶質半導体膜または微結晶含有半導体膜が半導体成分を含有する溶液を凝縮することにより作られたものであることを特徴とする第7の手段乃至第11の手段のいずれかに記載の方法により製造される多結晶半導体太陽電池である。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、安価な低融点ガラス基板上に、少数キャリヤ拡散長が10μm以上と長い良質な多結晶半導体が提供できる。また、本発明により、太陽光を吸収するために必要な厚みが数μm程度と薄い多結晶シリコン等の多結晶半導体膜が提供できる。すなわち、本発明により、太陽光の吸収に必要な厚みの数倍の少数キャリヤ拡散長を持つ多結晶半導体膜が提供できる。これらを用いることにより、薄膜多結晶半導体であるにも拘らず、キャスト法で作られた多結晶シリコンを用いた多結晶シリコン太陽電池の効率16%を超え、結晶シリコンを用いた太陽電池に比肩し得るエネルギー変換効率を有する太陽電池を製作できるとの効用が生まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の根幹をなすものは、先にa-Si等の非晶質半導体膜または微結晶含有半導体膜を堆積法または半導体材料を含有する溶液の塗布法により、安価なガラス等の基板上に形成しておき、それを0.1秒以下で0.00001秒以上の時間の瞬間的な熱処理により多結晶化して得られる多結晶半導体を、高圧水蒸気熱処理等の欠陥消去工程を経た後、太陽電池材料として用いる点にある。この様な瞬間熱処理は、半導体膜への瞬間的なエネルギー付与によってなされる。その代表的な例は、高エネルギーなフラッシュ・ランプによる熱処理であるが、高エネルギー粒子ビームも、同様に半導体膜を瞬間加熱する効果があるので使用できる。この限定された熱処理時間は、高エネルギー・ビーム自体が瞬間的に放出されても良いが、また連続的な高エネルギー・ビームを例えば照射領域を限定しておいて、その照射領域を高速で掃引するか、高エネルギー・ビームを掃引するか、あるいはその両方を掃引することでも作ることができる。
【0022】
本発明では、この熱処理時間を0.1秒より短く、0.00001秒より長いことを求めており、この瞬間熱処理時間の限定に大きな意味がある。(図1)は、熱伝導率の低いガラス基板上に半導体膜が形成されている場合を例にとり、その瞬間熱処理時間を限定することの意義を示すものである。まず、最近、多結晶シリコン薄膜トランジスタの製造法として用いられている方法、すなわち、ガラス基板上のa-Si膜をエキシマ・レーザー・アニ−ルにより多結晶シリコンとする方法では、照射時間がナノ秒の桁の光パルスによりa-Si膜を溶融固化して多結晶化する。このナノ秒の桁では、熱はa-Si膜内を十分に伝導する時間が取れず、結局、厚さ0.5μm以内、多くの場合厚さ0.1μm以内のa-Si膜しか多結晶化できない。薄膜トランジスタ用の多結晶シリコンとしてはこれで十分であるが、これでは、厚さが数μmの多結晶半導体太陽電池、とりわけ多結晶シリコン太陽電池の製作法としては使用できない。
【0023】
この熱処理時間がマイクロ秒の桁に延びると、a-Si膜内の奥の方まで熱が伝導して行く。正確には、まず表面側で高温化されたa-Si膜が固相成長により多結晶化するかあるいは溶融した状態になり、熱伝導率が極端に小さくなるので、熱が多結晶化あるいは溶融状態となった層に接するa-Si層に伝わり、その部分がさらに多結晶化するという現象が繰り返し起こって、多結晶層が徐々に深さ方向に進行する。当然、この多結晶層の進行する速度は多結晶シリコンあるいは溶融状態のシリコンの熱伝導率で決まるが、マイクロ秒の桁、すなわち0.00001秒以下では、多結晶シリコン太陽電池に必要な数μmの深さまでの多結晶化はできない。
【0024】
熱処理時間がさらに長くなって、ミリ秒の桁になると、熱は数μmの厚さのa-Si膜内を十分に加熱し、多結晶化することができる。ところが、ここで大切なことは、a-Si膜が多結晶化した層は熱伝導率が大きいので、熱はどんどん伝導して行くが、熱伝導率がそれに較べれば大幅に小さいガラス基板内では熱が伝導せず、結局、ガラス軟化点が500℃以下の安価なガラス基板が変形するような熱ダメージは受けなくなる。一方、通常Rapid Thermal Annealing (RTA)と呼ばれている1秒の桁の熱処理では、熱がガラス基板にまで伝導する十分な時間となり、安価な低融点ガラス基板は使用できなくなる。すなわち、瞬間熱処理の時間がミリ秒の桁、あるいは0.1秒以下であって0.00001秒以上であるとの本発明の主張は、安価な低融点ガラス基板上での太陽電池用多結晶シリコン等多結晶半導体の形成方法としては必須の条件であり、本発明の根幹を成す一つである。
【0025】
(図2)は、シリコン内での熱の拡散長(熱伝導距離)を、熱処理時間の関数として示したものである。熱の拡散長Lは、熱伝導率κ、固体の比熱c、固体の密度ρとして、D = κ/cρ で表せる熱の拡散定数Dに、熱処理時間τをかけ、その平方根 √Dτ の値として求まる。また、同図にはガラス基板内での同様な熱の拡散長も示している。例えば、高温での固相成長でa-Siが多結晶シリコンになる場合、あるいはもっと温度が高くなり1430℃(= 1700K) のシリコンの融点以上になって溶融した後に結晶化して多結晶シリコンとなる場合の両方を考えてみても、温度が500℃ (=773K) 以下となる領域は、ほぼこの熱拡散長(表面の最高温度の 1/自然対数値=0.6となるまでの距離)と同じになる。(図2)の作図に用いた多結晶シリコン、溶融シリコン、ガラス基板の熱伝導率等の物理量は、M. Smith 他5名連著、「Modeling of flash-lamp-induced crystallization of amorphous silicon thin films on glass」、Journal of Crystal Growth誌、285巻、(2005年発行)、pp.249-260. の論文中のTable 2 より引用している。
まず、熱処理時間が0.000001秒(=10-6 秒)と短くなると、(図2)の溶融シリコンまたは固相成長により多結晶化したシリコン内での熱拡散長は3、4μmとなって、加熱時間が膜内全てを多結晶化するぎりぎりの値となる。すなわち、太陽電池に必要な膜厚の多結晶シリコン膜を得るためには、少なくとも0.000001秒より長い時間の熱処理、すなわち0.00001秒以上の熱処理が必要である。
一方、ガラス基板内への熱伝導を考えてみる。(図2)より、熱処理時間が0.001秒では20μm程度、0.01秒で90μm程度、0.1秒で250μm程度のガラス基板内での拡散長であることが確認される。太陽電池用のガラスの厚さが1 mm以上であることが多いので、その一部、ぎりぎり250μm までは高温になり軟化しても、70%以上の厚みのガラスがその強度を維持すると考えられるので、瞬間熱処理時間の長さの上限は0.1 秒であることが知られる。すなわち、瞬間熱処理時間を0.00001秒以上、0.1秒以下にするとの本発明の規定は、ここで目的とする多結晶シリコン太陽電池、広く言えば、多結晶半導体太陽電池の構築には本質的であり、このような意義を認識して、瞬間熱処理時間を規定した発明は過去になされていない。
かつて、エキシマ・レーザー・アニ−ルに関して、熱処理時間を50ナノ秒以上と指定した発明も報告されている。発明者、猪野、浦園、発明の名称「半導体薄膜製造方法及びレーザ照射装置」(特願平11−12498.1999年1月20日出願、特開2000−216087)の特許がそれである。しかし、それは、ナノ秒の桁の熱処理時間をその桁で延ばすとの発想に基づくもので、逆に熱処理時間の上限が指定されていないことからもわかるように、本発明のように、太陽電池用多結晶半導体膜形成に必要な限定を行ったものではない。多結晶シリコン等の多結晶半導体膜を太陽電池に使用するための条件を限定し、そのことが必須の意義があることを見出し、主張しているのは本発明の特徴の一つである。
【0026】
本発明では、熱処理時間を限定しているため、その時間に高温に曝された領域で固相成長して多結晶化しようが、溶融し液相成長して多結晶化しようが、その結晶粒径は限定されたものとなる。(図3)は、1400℃におけるシリコンの固相成長速度から見積もった結晶粒径の熱処理時間依存性である。この図は、1400℃におけるシリコンの固相成長速度が一方向に対して2 cm/s であるとの、古川静二郎編著、「SOI構造形成技術」(産業図書社刊)、第5章、図5.8のデータに基づいて算出されている。結晶粒径が400 nmを一つのサイズとした場合、結晶核から両方向への成長を考えると0.00001秒以上の熱処理時間が必要となることが見出される。
結晶粒の最大サイズは、特に固相成長してa-Siが多結晶シリコンとなる場合には、a-Si膜の中に存在していた何らかの結晶核の存在密度にも依存する。これは、a-Si膜の形成法にもよるが、多くの場合、20 nmから200 nmピッチで存在している。すなわち、この結晶核の周りに結晶粒が形成されるとすると、結晶粒径は10 nmから200 nm程度となる。このサイズの結晶粒を成長させるためには、上述したが、(図3)が示すように0.000005秒以上の熱処理時間が必要であるが、本発明の条件、0.00001秒以上はその条件をも満たすものである。
【0027】
(図4)は、Cat-CVD法で作られたa-Siに20秒、1000℃のRTAを行って多結晶化した場合の多結晶膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示しているが、大きさ50 nm程度の微細な結晶粒から膜が成り立っていることが見られる。(図5)は、同様な多結晶シリコン膜のX線回折パターンを示すものである。結晶シリコンに起因する回折ピークが見られている。このピークの半値幅は結晶粒径に依存し、シェラーの公式を用いると結晶粒径を見積もることができる。こうして見積もった値も約50 nmで、電子顕微鏡から得られた値と一致する。この場合は、熱処理時間が十分に長いので、結晶核密度が低ければ幾らでも結晶粒は大きくなれたはずであるが、実際は、結晶核が上述のように20 nmから200 nmピッチ、恐らくこの場合は、50 nmピッチで存在しているため、その各結晶核から成長した結晶粒がぶつかり合ったところで結晶粒の成長は止まっているのである。
【0028】
ところで、多結晶半導体内の結晶粒径も太陽電池にとって重要な意味がある。例えば、結晶シリコンは、先述のように、間接遷移型の半導体であるため、太陽光を半導体の中に閉じ込める特別な光学的工夫がない限り、太陽光を全て吸収するためには、約100μm以上の厚みが必要である。これに裏面反射の効果等を入れて数10μm厚までにシリコン必要厚みを減少させようとの努力もなされている。多結晶シリコンでも、例えばキャスト法で作るように、溶融した後の固化時間を長く取って作られた多結晶は、結晶が成長するのに十分な時間があるため、結晶粒径は数μmを超えて大きくなる。上述の(図4)(図5)に示す例のように固相成長した場合と異なり、一度溶融して液相成長する場合は、初期のa-Si膜内での結晶核存在密度の大小は、一度溶融してしまうので結晶粒径を規定できず、どれだけの時間をかけて溶融状態から冷却固化されるのかで最終的な結晶粒径は決まる。このように、太陽光の波長より十分に大きな結晶粒径になると、個々の結晶シリコン粒が間接遷移型半導体である性質がそのままバルクの性質にも現れ、太陽電池として使う場合には、結晶シリコンと同じ程度の厚みが必要となる。
【0029】
ところが、同じ多結晶シリコンでも、結晶粒が太陽光の波長より短い400 nm以下になると、様相が異なってくる。個々の結晶粒は確かに間接遷移型半導体ではあるが、太陽光は多数の粒界で物理光学的な散乱を受け、何度も繰り返してその結晶粒を通過するので、実際の厚みよりも数倍は太陽光を吸収できるようになる。例えば、基板表面にピラミッド状の凹凸をつけ、基板に照射された光を散乱させて、結果的に光の閉じ込め量を増やすとの手法は、すでに全ての太陽電池において使われている公知の手法である。膜内部の微結晶粒構造もこれと同様な働きをし、その効用は上述のように太陽光の波長よりは短いサイズの結晶粒から膜が成り立っていると大きくなる。すなわち、厚みが数μmあれば、このような微結晶粒からなる多結晶シリコンでは太陽光を吸収できる。さらに、結晶粒径が10 nmの桁まで小さくなると、間接遷移型か直接遷移型かを決める結晶内の機構も異なりだし、それを決めるいわゆる運動量保存則(k-selection rule)も崩れてきて、この点からも光吸収は増大する。従来の多結晶シリコン太陽電池が、いかにして結晶粒を大きくして単結晶に近づけようかと努力していたこととは正反対の方向に太陽電池として望ましい条件があることを本発明は主張する。そして、そのような微結晶からなる多結晶半導体がある限定された時間の瞬間熱処理を手段として作られることも主張している。
【0030】
従来のバルク型多結晶シリコン太陽電池が、結晶粒を少しでも大きくしたいと考えた最大の理由は、先にも記した、その半導体内での電子やホールの拡散距離を延ばしたいからである。結晶粒径が大きくなれば、粒界での電子、ホールの再結合の量も減らせるから、この考え方を進めれば、限りなく単結晶シリコンに近づける努力こそ必要になる。ところが、本発明では、結晶粒が小さいことの光学的メリットに着目し、むしろ、多数の結晶粒界を如何にしてキャリヤ拡散の障害とならないものにするのかに注力する。その一つの方法として高圧水蒸気熱処理による欠陥消去を行うことを提案している。この高圧水蒸気熱処理自体は旧くから知られている技術である。例えば、K. Asada他5名連著、「Heat Treatment with High-Pressure H2O Vapor of Pulsed Laser Crystallized Silicon Films」、Japanese Journal of Applied Physics誌、39巻、(2000年発行)、pp.3883-3887. において、エキシマレーザーを照射して結晶化した多結晶シリコンの欠陥が、高圧力の水蒸気中での熱処理で消去できる結果が示されている。
【0031】
半導体、特にシリコン中の欠陥を水素ガスや水素原子により消去する工程は、すでに広く行なわれていて、キャスト法による多結晶シリコン太陽電池の製作工程でも欠陥消去の重要な方法とみなされている。しかし、例えば、水素原子により欠陥を消去しようとすると、水素原子は通常は1 Torr 以下の減圧下でないと生成と輸送が難しいので、減圧中での処理となる。一方、高圧水蒸気は試料表面に減圧下での水素原子処理に較べ約4桁も多い欠陥消去種が供給されている。勿論、欠陥消去種が固体内でどの程度溶け込むことができるか、すなわち限界固溶度がどのくらいかにもよるが、多結晶の粒界での固溶限界は高く、何よりも表面での欠陥消去種の密度が高いので、その欠陥消去種が深い領域にまで侵入して、厚い多結晶膜中の欠陥の消去を可能とする。(図6)は、電子スピン共鳴(ESR=Electron Spin Resonance)法で測定した多結晶シリコン欠陥密度の高圧水蒸気熱処理後の値を、その熱処理温度の関数として示したものである。多結晶シリコンの膜厚をパラメータとしている。処理時間は1時間、圧力はこの時は2気圧であった。1μm厚の膜も、熱処理温度を上昇させると欠陥密度が単調に減少している。一方、(図7)は、水素原子により同様に欠陥消去を行った時の、欠陥密度の熱処理温度依存性を示したものである。処理時間は同様に1時間、水素原子処理は0.8 Torrの減圧下で行われている。多結晶シリコンの膜厚はわずか0.3μmである。稠密に結晶粒が詰まっている個体の場合、高圧水蒸気熱処理の効果が水素原子処理よりも大きいことを示している。
【0032】
ところで、フラッシュ・ランプ光等の高エネルギー・ビームにa-Si等の非晶質半導体が曝されると、照射条件および基板構造によっては、その非晶質半導体が多結晶化する際にデンドライト結晶を形成することもある。この場合でも、この膜を用いて太陽電池を形成することができる。この多結晶膜を太陽電池材料として用いることも本発明が主張する一つの形態である。
【実施例1】
【0033】
本発明の実施の形態を以下の実施例により説明する。
Cat-CVD法でガラス基板上に300℃の基板温度で堆積された厚さ1.5μmのa-Si膜を、フラッシュ・ランプにより処理時間5 ms (ミリ秒)の瞬間熱処理を加えた場合の、膜のラマンスペクトルを(図8)に示す。520 cm-1 に鋭いシリコン結晶成分によるピークが見られる。非晶質成分が残っていると 480 cm-1にa-Siに起因するピークが見られるはずであるが、それは見られず、この膜が完全に多結晶化していることを示している。(図9)は、この膜の表面写真である。均一に多結晶化していることが示されている。
【0034】
(図10)は、X線回折法によるスペクトルにシェラーの公式を当てはめて求めたこの膜の結晶粒径を示すものである。結晶粒径はフラッシュ・ランプ処理の条件で若干異なるものの20 nmから60 nmと小さな値を示している。また、(図11)は、このフラッシュ・ランプ処理して作られた多結晶シリコンを特殊な薬品でエッチして結晶粒界を強調してから走査型電子顕微鏡で上面から観察した時の像である。(図10)の膜とは異なる条件でのフラッシュ・ランプ処理により作られた多結晶膜であるが、この場合は結晶粒径が150 nm程度に観察される。この両図において、若干数値に違いはあるが、Cat-CVD法により作られたa-Si膜をフラッシュ・ランプを用いた瞬間熱処理により多結晶シリコンとした膜は、太陽光中心波長より短い400 nm以下の微結晶粒から成り立っていることが示される。
【0035】
この膜を、30気圧、380℃の高圧水蒸気中に1時間放置して欠陥を消去する。
結晶粒径が通常の可視光の波長、すなわち太陽光主成分光の波長より十分に小さいので、前述のように、このような微結晶粒からなる固体中を光が進行する際には物理光学的散乱を受けて、等価的な光吸収係数が増大する。(図12)は、このフラッシュ・ランプ瞬間熱処理により得られた多結晶シリコン膜の光吸収係数を、結晶シリコンと従来からの水素化a-Si(a-Si:H)膜のそれと比較して示したものである。短波長側では結晶シリコンの約2倍、太陽光の主成分であるフォトンエネルギー1.3―1.5 eV程度の波長領域では、a-Si:H膜と較べても光吸収係数が大きめで、太陽光を吸収するのには数μm厚もあれば十分であることを示している。
【0036】
この多結晶シリコン膜中の少数キャリヤ寿命を、マイクロ波光電導率減衰法(μ-PCD= Micro-wave Photo Conductivity Decay法)で計測した結果を(図13)に示す。μ-PCD法は、ある波長のパルスレーザー光を照射した時に試料中に発生する過剰少数キャリヤの量が、マイクロ波の反射強度に比例することを利用して、反射マイクロ波強度の経時変化から少数キャリヤの寿命を知る方法である。この図では、波長770 nmのレーザー光で照射した場合の結果を示しているが、904 nmの光で照射しても結果を同じである。レーザー光照射で発生したキャリヤが、約8.6μs(マイクロ秒)を時定数とする減衰を示している。すなわち、少数キャリヤ寿命が8.6μs であることを示している。この図には、同時に、高圧水蒸気熱処理を行う前の測定結果も示しているが、高圧水蒸気熱処理を行なわないと、この方法で計測できるような光励起キャリヤは発生しておらず、高圧水蒸気熱処理の効果をも同時に示している。
【0037】
この膜のキャリヤ移動度をホール効果測定により求めたところ数10 cm2/Vsであったので、上記実験で求めた少数キャリヤ寿命を考えると、少数キャリヤ拡散長は20μmを超える。先述のように、この膜で太陽光を吸収するために必要な膜厚はせいぜい数μmであり、少数キャリヤ拡散長はその数倍もあることになる。この太陽光吸収に必要な試料厚みと少数キャリヤ拡散長の比は、結晶シリコンにおける比にも匹敵し、この膜が、従来知られているどの薄膜シリコン材料よりも、高効率太陽電池の材料として優れていることを表している。
【0038】
この実施例が示すように、本発明では、a-Si膜に0.1秒以下、0.00001秒以上の長さの瞬間熱処理を加えて多結晶シリコンに変え、さらにそれに高圧水蒸気熱処理を行って内部の欠陥を消去すると、少数キャリヤ拡散長が10μm以上の多結晶シリコン膜が、安価な低融点ガラス基板上に形成できるという効用が生まれることを主張している。また、このような方法で多結晶シリコン膜を形成すると、結晶粒径は太陽光の主波長より短い400 nm以下と小さく、太陽光を物理光学的散乱で内部に閉じ込めることができる効用も生じる。このことは、太陽光吸収に必要な膜厚の数倍もの少数キャリヤ拡散長がこの膜にはあることになり、高効率太陽電池を実現させられるとの、最終的な本発明の効用が導かれることを意味している。
【実施例2】
【0039】
本方法により太陽電池を形成した時の構造の一例を説明する。(図14)はソーダライム・ガラス等の熱伝導率の低い低融点ガラス基板(1401)上に、下地電極となる金属層(1402)、その上に導電性拡散抑止層(1403)を堆積させたもの全体を基板として、その上にCat-CVD法によりn型、i型、p型の非晶質シリコン(それぞれ1404,1405,1406)を順次重ねて堆積し、それ全体をフラッシュ・ランプ照射により多結晶シリコン(多結晶シリコンとなってからは1404、1405、1406 は、各々 1407,1408、1409 となる。)とした後、さらにその上に透明電極(1410)を堆積して作られる太陽電池の構造を模式的に表したものである。ここでは、簡単に、ガラス基板上に金属と導電性拡散抑止層を単純に積層した場合を示しているが、金属層と導電性拡散抑止層の間に屈折率調整および金属電極の反射率調整のための透明導電材料層を挿入することもできる。
【0040】
この場合、下地金属層によっては、その金属の影響で、非晶質半導体が多結晶半導体となる際に、
【0041】
にて述べたように、デンドライト結晶となる場合もある。下地金属の影響で多結晶化が推進される現象は、金属誘起結晶化(metal induced crystallization)として知られているものであるが、(図14)の構造の太陽電池では、この現象を利用した多結晶シリコンを用いることもできる。また、この現象をともなわず、絶縁体の上の非晶質シリコンを多結晶化させた際にも、デンドライト結晶を観察することがある。(図15)は、形成されたデンドライト多結晶シリコンを上面から観察した写真である。
【0042】
また、(図16)に示すように、ガラス基板(1601)の上に、透明電極(1602)、p型、i型、n型非晶質シリコン(各々順番に、1603、1604、1605)と順次堆積し、それにフラッシュ・ランプ光を照射して多結晶シリコンとし(それぞれp型多結晶シリコン1606、i型多結晶シリコン1607、n型多結晶シリコン1608となる。)、その上から、金属電極(1609)を形成して太陽電池を構成することもできる。この時、透明電極は、拡散の少ない酸化チタン等を主成分とするものを用いる場合が多いが、他のものでも拡散が少なく、かつフラッシュ・ランプ処理時に透明性が劣化しないものならば使用できる。
【0043】
(図17)は、ガラス基板(1701)上にガラス中の不純物拡散を抑える拡散抑止層としての窒化シリコン(Si3N4)膜(1702)を堆積し、その上に微量のボロンがドープされたi型に近いp型非晶質シリコン(1703)を堆積してからフラッシュ・ランプ処理により多結晶シリコン(1704)に変性させ、それから非晶質シリコンのp型領域(1705)とn型領域(1706)を空間的に分離しながら堆積して裏面電極とした構造の太陽電池の概念図を示している。このp型領域とn型領域は、少数キャリヤ拡散長より短い間隔で配置する必要があるが、この形成にはフォト・リソグラフィー法のみならず安価で大量生産に向いていて、かつ微細パターン形成の可能なイン・プリント法(スタンプ法)等を用いることもできる。
【0044】
上記の例では低融点ガラス基板を用いて太陽電池を構成しているが、すでに述べているように、基板は熱伝導率が結晶性半導体より小さい値を持つもの、またはその上に異種材料薄膜が堆積されたものであれば、本発明を実行することができるので、プラステック基板等の軽量な有機基板を用いることもできる。これは特に(図14)に示す太陽電池構造には有効であり、ガラスの使用量を減らすことで太陽電池を軽量かつ安価にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】ガラス基板上に形成された半導体膜の、瞬間熱処理時間による熱伝導の変化に関する模式図。
【図2】シリコン内での熱拡散長の、熱処理時間依存性。
【図3】1400℃におけるシリコンの固相成長速度から見積もった結晶粒径の熱処理時間依存性。
【図4】RTAにより結晶化した多結晶シリコン膜の断面走査型電子顕微鏡像。(a) 表面付近、(b) 基板付近。
【図5】RTAにより結晶化した多結晶シリコン膜のX線回折パターン。
【図6】多結晶シリコン膜のESR欠陥密度の高圧水蒸気熱処理温度依存性。
【図7】多結晶シリコン膜のESR欠陥密度の水素原子処理温度依存性。
【図8】処理時間5msで作製した多結晶薄膜のラマン散乱スペクトル。
【図9】処理時間5msで作製した多結晶薄膜の表面写真。
【図10】処理時間5 msで作製した多結晶薄膜の、X線回折パターンから求められる結晶粒径。
【図11】処理時間5msで作製した多結晶薄膜の表面走査型電子顕微鏡像。
【図12】フラッシュ・ランプ瞬間熱処理により得られた多結晶シリコン膜の光吸収係数。結晶シリコンおよび水素化a-Si膜の光吸収係数も比較のため載せてある。
【図13】フラッシュ・ランプ瞬間熱処理により得られた多結晶シリコン膜のμ-PCD測定結果。
【図14】下地金属層を利用した太陽電池構造の概念図。(a) フラッシュ・ランプ瞬間熱処理前。(b) フラッシュ・ランプ瞬間熱処理後。
【図15】デンドライト多結晶シリコンの表面写真。写真中の試料サイズは 20 mm×20 mm。
【図16】透明導電膜上p-i-n構造の結晶化による太陽電池構造の概念図。(a) フラッシュ・ランプ瞬間熱処理前。(b) フラッシュ・ランプ瞬間熱処理後。
【図17】裏面電極型太陽電池の概念図。
【符号の説明】
【0046】
101 結晶化に用いられる入射光
102 発熱領域
103 温度分布
104 多結晶シリコンまたは溶融状態のシリコン
105 非晶質シリコン
106 ガラス基板
201 溶融シリコンの熱拡散長
202 結晶シリコンの熱拡散長
203 石英の熱拡散長
204 ガラスおよび非晶質シリコンの熱拡散長
601 膜厚 1000 nmの多結晶シリコン膜の欠陥密度
602 膜厚 700 nmの多結晶シリコン膜の欠陥密度
603 膜厚 500 nmの多結晶シリコン膜の欠陥密度
604 膜厚 300 nmの多結晶シリコン膜の欠陥密度
1201 結晶シリコンの光吸収係数
1202 非晶質シリコンの光吸収係数
1203 フラッシュ・ランプ瞬間熱処理により得られた多結晶シリコン膜の光吸収係数
1301 高圧水蒸気処理前の反射マイクロ波強度
1302 高圧水蒸気処理後の反射マイクロ波強度
1401 ガラス基板
1402 金属薄膜
1403 導電性拡散抑止層
1404 n型非晶質シリコン
1405 i型非晶質シリコン
1406 p型非晶質シリコン
1407 n型多結晶シリコン
1408 i型多結晶シリコン
1409 n型多結晶シリコン
1410 透明導電膜
1601 ガラス基板
1602 透明導電膜
1603 p型非晶質シリコン
1604 i型非晶質シリコン
1605 n型非晶質シリコン
1606 p型多結晶シリコン
1607 i型多結晶シリコン
1608 n型多結晶シリコン
1609 金属電極
1701 ガラス基板
1702 窒化シリコン膜
1703 微量ドープp型非晶質シリコン
1704 微量ドープp型多結晶シリコン
1705 p型非晶質シリコン
1706 n型非晶質シリコン
1707 金属電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶半導体太陽電池の製造方法であって、ガラス基板等熱伝導率が結晶性半導体より小さい値を持つ基板上またはその上に異種材料薄膜が堆積された基板上に形成された非晶質半導体膜または微結晶含有半導体膜に0.00001秒以上0.1秒以下の時間で高エネルギービームを照射する熱処理によって多結晶半導体膜とし、該多結晶半導体膜中の欠陥を1気圧以上の高圧水蒸気での熱処理及び又は水素中での熱処理により消去することにより、太陽光を吸収し電子と正孔を発生する活性領域を得ることを特徴とする多結晶半導体太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記非晶質半導体膜または前記微結晶含有半導体膜およびそれらから作られる多結晶半導体がシリコンを主成分とする半導体であることを特徴とする請求項1に記載の多結晶半導体太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記高エネルギービームがフラッシュ・ランプ光であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多結晶半導体太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記非晶質半導体膜または前記微結晶含有半導体膜上の、前記高エネルギービーム源からのビーム照射領域を画定し、該照射領域及び又は該高エネルギービーム源を高速で移動することで前記0.00001秒以上0.1秒以下の高エネルギービーム照射時間を調整することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の多結晶半導体太陽電池の製造方法。
【請求項5】
前記非晶質半導体膜または前記微結晶含有半導体膜が触媒化学気相堆積法により作られたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の多結晶半導体太陽電池の製造方法。
【請求項6】
前記非晶質半導体膜または前記微結晶含有半導体膜が半導体成分を含有する溶液を基板に塗布、凝縮することにより作られたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の多結晶半導体太陽電池の製造方法。
【請求項7】
多結晶半導体太陽電池であって、ガラス基板等熱伝導率が結晶性半導体より小さい値を持つ基板上またはその上に異種材料薄膜が堆積された基板上に形成された非晶質半導体膜または微結晶含有半導体膜に0.00001秒以上0.1秒以下の時間で高エネルギービームを照射する熱処理によって多結晶半導体膜とし、該多結晶半導体膜中の欠陥を1気圧以上の高圧水蒸気での熱処理及び又は水素中での熱処理により消去することにより、太陽光を吸収し電子と正孔を発生する活性領域を得ることを特徴とする多結晶半導体太陽電池。
【請求項8】
前記、請求項7に記載された非晶質半導体膜または微結晶含有半導体膜およびそれらから作られる多結晶半導体がシリコンを主成分とする半導体であることを特徴とする請求項7に記載の多結晶半導体太陽電池。
【請求項9】
前記、請求項7に記載された高エネルギービームがフラッシュ・ランプ光であることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の多結晶半導体太陽電池。
【請求項10】
前記、請求項7に記載された非晶質半導体膜または微結晶含有半導体上の、前記、請求項7に記載された高エネルギービーム源からのビーム照射領域を画定し、該照射領域及び又は該高エネルギービーム源を高速で移動することで前記0.00001秒以上0.1秒以下の高エネルギービーム照射時間を調整することを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれかに記載の多結晶半導体太陽電池。
【請求項11】
前記、請求項7に記載された非晶質半導体膜または微結晶含有半導体膜が触媒化学気相堆積法により作られたものであることを特徴とする請求項7乃至請求項10のいずれかに記載の多結晶半導体太陽電池。
【請求項12】
前記、請求項7に記載された非晶質半導体膜または微結晶含有半導体膜が半導体成分を含有する溶液を基板に塗布、凝縮することにより作られたものであることを特徴とする請求項7乃至請求項11のいずれかに記載の多結晶半導体太陽電池。











【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−53407(P2008−53407A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227501(P2006−227501)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】