説明

多能性のヒト胚盤胞由来幹細胞株の樹立方法

【課題】多能性のヒト胚盤胞由来幹細胞株を樹立し、その細胞株を未分化の状態で分裂増殖させる新規な方法の提供。
【解決手段】ヒト胚盤胞由来幹細胞を不活性化支持細胞層上で培養、増殖させ、形成されたコロニーをより小さな集団又は個々の細胞へ分離することにより胚盤胞由来幹細胞体を創出し、続いて該細胞集団を非付着性のコンテナーに移した後、好適な培地中でプレーティングし、膵臓の内分泌前駆細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子を含む培地中で増殖させるステップを含む、インスリン産生分化幹細胞の調製物を生成する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性のヒト胚盤胞由来幹(BS)細胞株の樹立方法、その方法で得られた幹細胞、これらの細胞の分化細胞への分化、その分化細胞、そしてこれらの分化細胞の薬物の調製における使用に関するものである。未分化の多能性幹細胞は、多くの特異化した細胞型に分化させることが可能であり、これは、組織、例えば膵臓の変性、それによって生じる糖尿病の発病、あるいは中枢神経系の変性(アルツハイマー病、パーキンソン病等)または例えば脳卒中や身体外傷によって生じる中枢神経系の変性等を含む、多くの病態や病変を治療するための薬物を製造することに利用されることができる。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は、自己再生能とともに、特異化した細胞や分化細胞を生じさせるユニークな能力をもつ細胞型である。生体内のほとんどの細胞、例えば心臓の細胞や皮膚の細胞等は、それぞれ特定の機能を実施することに拘束されるが、幹細胞は特異化された細胞型へ発展するシグナルを受けない限り、拘束されない。幹細胞を特徴付けるものは、それらの特異化するようになる能力と相まったそれらの増殖能力である。ここ数年間、多くの研究者達は、損傷を受けたり病気の細胞や組織を置きかえるためにこの幹細胞を利用する手法を発見することに注力してきた。現在、研究のほとんどは、胚性幹細胞と体性幹細胞の2種類の幹細胞に注力される。胚性幹細胞は、着床前の受精卵細胞、すなわち胚盤胞由来であるが、体性幹細胞は、例えば骨髄、上皮組織、あるいは腸のような成人の生体中に存在している。多分化能試験の結果、胚性幹細胞又は胚盤胞由来幹細胞(以降胚盤胞由来幹細胞又はBS細胞と略)は、生殖細胞を含めた、生体内のあらゆる細胞を生じさせることが可能であるが、体性幹細胞は、より限定されたレパートリーの細胞型しか有しないことが明らかとなっている。
【0003】
1998年に研究者達はヒト受精卵細胞から初めてBS細胞を単離し、それを培養にて成長させることに成功したが、例えば米国特許第5,843,780号明細書及び米国特許第6,200,806号明細書に参照される。
【0004】
上記特許明細書にて使用された方法は、透明帯をそのままの状態で備えた胚盤胞を用いることに依存する。さらにこれらの特許で開示された方法は、マウスの胚性支持細胞上にプレーティングするために免疫手術によって単離された内部細胞塊の細胞を特に用いている。この方法にはいくつかの欠点があり、例えば時間がかかり、手技的にも難度が高く、そして結果として、幹細胞の収量も低い。総合的に考えると、これらの欠点はこの方法をコストのかかる方法としている。
【0005】
現在、hBS細胞を樹立し、またその性質を明らかにした報告はわずかに2報のみである。この報告例の少なさは、ヒト胚盤胞からこれらの幹細胞を樹立することに関係する予期し得ない問題を例証している。そして結果的に、利用可能なhBS細胞株はほとんど無い。本発明は、hBS細胞を調製するための方法を述べたものであり、そして個々のステップ単独ではhBS細胞を誘導するには不十分であるが、併用することでhBS細胞の誘導を成功させる最低限の要件を構成するステップの組合せを述べたものである。
【0006】
さらに本発明は、受精後の、そして無傷の胚盤胞からhBS幹細胞株を誘導することを可能にするものであり、そしてその胚盤胞を支持細胞上にプレーティングした後hBS細胞株を誘導することを可能にするものである。
【0007】
前述の方法において困難な点の一つは、支持細胞へ胚盤胞を効果的に付着させることである。それは最終的に得られる細胞の収量を結果的に低くする。本発明はこの問題点も解決している。
【0008】
おそらくもっとも広範なhBS細胞の潜在用途は、この細胞から、いわゆる細胞療法に用いられることが可能な細胞や組織を創出することである。多くの疾患や傷害は、細胞機能の崩壊又は体の組織の破壊によってもたらされる。今日では、ドナーより提供された臓器や組織が、病に侵され破壊されてしまった組織を置き換えるためにしばしば用いられる。しかし残念なことに、これらの方法による治療にあった病気で苦しんでいる人々の数は、移植可能な臓器の数をはるかに上回っている。hBS細胞の利用可能性、及び、例えばインスリンを産生するβ細胞や心筋細胞またはドーパミンを産生する神経細胞等の異なる細胞運命にこれらの細胞を導く有効な方法を開発する熱心な研究は、例えば糖尿病、心筋梗塞、パーキンソン病のような変性疾患に対する細胞に基づく治療における今後の用途の成長が期待できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、受精卵細胞より多能性のヒト胚盤胞由来幹細胞株を樹立し、その細胞株を未分化の状態で分裂増殖させる新規な方法を樹立した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
よって本発明は、多能性のヒト胚盤胞由来の幹細胞株を得る方法に関するものであり、そしてその方法は、
i) 任意に1又は2のグレードを有する受精卵を用い、任意にA又はBのグレードを有する胚盤胞を得、
ii) 胚盤胞を支持細胞と共培養することで、一つあるいはそれ以上の内部細胞塊細胞のコロニーを樹立し、
iii)内部細胞塊細胞を機械的解体により単離し、
iv) 内部細胞塊細胞を支持細胞と共培養して胚盤胞由来の幹細胞株を得、
v) 必要に応じて、胚盤胞由来幹細胞株を増殖させるステップより構成される。
【0011】
上記によると、本発明の一つの目的は、未分化のヒト胚盤胞由来幹細胞株を樹立する方法を提供することである。この方法の出発材料としては受精卵細胞が用いられる。受精卵細胞の品質は、得られる胚盤胞の品質のために重要である。
【0012】
本発明での培養方法において、胚盤胞の樹立とその評価は下記のように達成される。本方法でのステップi)における胚盤胞は、凍結又は新鮮な体外受精卵細胞から誘導することができる。以下に本発明における方法に用いるのに好適な卵細胞を選択する方法が記載されている。本発明者らは、卵細胞を適切に選択することが本方法での重要な成功の基準であることを見出した。したがって、もしグレード3の卵細胞しか用いることできない場合、(以下に示す)一般的要件を満たすhBS細胞株を得る確率は低くなる。
【0013】
提供された新鮮な受精卵細胞:0日目に卵母細胞をAsp−100(ビトロライフ)中に吸引し、培養1日目にIVF−50(ビトロライフ)中で受精を行う。受精卵細胞は、その形態および3日目の細胞分裂に基づき評価する。以下の尺度を受精卵細胞の評価に用いる:
グレード1の受精卵細胞:均等な割球で、細胞の破片がない
グレード2の受精卵細胞:<20%の破片
グレード3の受精卵細胞:>20%の破片
【0014】
3日目の判定の後に、グレード1およびグレード2の受精卵細胞は、移植されるか保存のために凍結されるかのいずれかである。グレード3の受精卵細胞はICM−2(ビトロライフ)に移される。受精卵細胞はさらに3−5日間培養される(すなわち受精後5−7日間)。胚盤胞は以下の尺度で評価する。
グレードAの胚盤胞:6日目に明瞭な内部細胞塊(ICM)で拡張している。
グレードBの胚盤胞:拡張していないがその他の点ではグレードAのように見える。
グレードCの胚盤胞:目立ったICMがない。
【0015】
提供された凍結受精卵細胞:(受精後)2日目に、受精卵細胞は第4卵割の状態でフリーズ−キット(ビトロライフ)を用いて凍結する。凍結受精卵細胞は液体窒素中で保存する。5年間の期限内に提供者よりインフォームド・コンセントを得る。受精卵はソー−キット(ビトロライフ)を用いて解凍し、そして上記手順が2日目から続く。
【0016】
上記のように、新鮮な受精卵細胞はグレード3の品質のもの由来、凍結受精卵はグレード1及び2の品質のもの由来である。本発明の方法によって得られた結果によると、胚盤胞に発展する新鮮な受精卵の比率は19%、一方、胚盤胞に発展する凍結受精卵の比率は50%である。これは胚盤胞を得るのに凍結受精卵がより適していることを意味しているが、おそらく受精卵細胞がより高い品質であることによるものである。新鮮な受精卵細胞由来の胚盤胞の11%が胚性幹細胞に発展し、一方凍結受精卵細胞由来の胚盤胞の15%が胚性幹細胞に発展した。すなわち、受精卵細胞を培養することで、新鮮受精卵細胞の2%が幹細胞株に誘導され、また凍結受精卵細胞の7%が幹細胞株に誘導された。
【0017】
凍結受精卵細胞を胚盤胞−ステージへの培養方法は、当分野にて既知の方法の後実施される。胚盤胞の調製方法は、例えばガードナー等,胚培養システム,In Trounson,A.O.,及びガードナー,D.K.(eds),体外受精ハンドブック,第二版CRC Press,Boca Raton,pp.205−264;ガードナー等,Ferti Steril,74,Suppl3,O−086;ガードナー等,Hum Reprod,13,3434,3440;ガードナー等,J Reprod Immunol,In press;及びホッパー等,Biol Reprod,62,Suppl1,249,に見出され得る。
【0018】
1又は2のグレードを有する受精卵細胞より任意に誘導された胚盤胞をステップi)において樹立した後に、A又はBのグレードを有する胚盤胞を支持細胞と共培養して、一つ又はそれ以上の内部細胞塊の細胞のコロニーを得る。支持細胞上にプレーティングした後に、その生育状態を観察し、コロニーが手技的に継代できるぐらいに十分な大きさになった後に(プレーティング後おおよそ1−2週間後)、細胞を他の細胞型から切り離し、新しい支持細胞の上にて成長させ増殖させる。内部細胞塊の細胞の単離は、機械的切除で行い、それにはガラスキャピラリーを切断用具として用いることができる。内部細胞塊の細胞の検出は、顕微鏡で可視的に容易に行うことができ、従って、栄養外胚葉を損傷させたり除去したりするために卵細胞への酵素及び/又は抗体処理を使用する必要は全くない。
【0019】
従って、本手順は免疫手術の必要性を軽減する。免疫手術を使用した場合と栄養外胚葉をそのまま残した本方法を使用した場合との成功の度合いを比較すると、より簡便で、より迅速で、そして免疫手術を行わないことで外傷を与えない手段である本法が免疫手術より効果的な方法であることは明らかである。この新規手順は、幹細胞株の調製を可能とし、そしてこれらの細胞株を商業的にも実用的な形に分化させることが可能となる。総数で122個の胚盤胞から、19個の細胞株が樹立された(15.5%)。42個の胚盤胞が免疫手術によって処理され、そのうち6個が細胞株として樹立された(14%)。80個の胚盤胞が本方法により処理され、13個の細胞株が樹立された(16%)。
【0020】
内部細胞塊を切開に続き、内部細胞塊の細胞は胚盤胞由来幹細胞(BS)株を得るために支持細胞上で共培養される。BS細胞株が得られると、細胞株は細胞数を増やすために任意に増殖される。従って、本発明は上記のような胚盤胞由来幹細胞を増殖させる方法に関するものである。ある態様において、本発明は胚盤胞由来幹細胞株の増殖が幹細胞株を4−5日ごとに継代することからなる方法に関するものである。もし幹細胞株を継代前に4−5日以上培養すると、細胞が好ましくない方向に分化してしまう可能性が高くなってしまう。
【0021】
細胞を継代する特別な手順は実施例5に記載されている。
【0022】
ヒトBS細胞株は自然孵化胚盤胞又は透明帯をそのまま残した状態で拡張した胚盤胞の何れかから単離してもよい。従って本発明は上記のようなステップi)の胚盤胞が自然に孵化した胚盤胞である方法に関するものである。孵化胚盤胞には栄養外胚葉がそのままの形で残っている。孵化胚盤胞又は透明帯を除去又は部分的に除去した胚盤胞を不活性化支持細胞上に蒔くことができる。
【0023】
胚盤胞の透明帯は、ステップii)の前に、例えば、一種又は数種の酸性剤、例えば具体的にはZD−10(登録商標)(ビトロライフ,イェーテボリ,スウェーデン)、一種又は数種の酵素、或いはそれら酵素の混合物、例えばプロナーゼで処理することで、少なくとも部分的に消化したり、化学的に剥離したりすることもできる。
【0024】
透明帯をそのままの状態で備えた胚盤胞を短時間プロナーゼ(シグマ)処理することによって、透明帯を除去することができる。プロナーゼと同様又は類似のプロテアーゼ活性様活性を有する他のプロテアーゼを用いることもできる。プロナーゼ処理に続き、胚盤胞は前記不活性化支持細胞上にプレーティングすることができる。
【0025】
本発明の実施の形態において、ステップii)及び/又はステップiv)は胚盤胞及び/又はもし関連するのなら内部細胞塊の細胞の支持細胞への付着能を改良する物質中にて実施され得る。
【0026】
この目的のために好ましい物質の一つがヒアルロン酸である。
【0027】
胚盤胞を支持細胞上にプレーティングするために好適な培地の一つはBS−培地であり、これにはヒアルロン酸が補足されることもでき、そしてそのことで、胚盤胞の支持細胞への接着が促進され、また内部細胞塊の細胞の増殖が促進される。ヒアルロナン(HA)は関節中の細胞外基質の重要なグリコサミノグリカン成分である。少なくとも2種類の細胞表面の受容体:CD44とHA−仲介運動性(RHAMM)の受容体との結合相互作用を介して、そして細胞外基質中のタンパクへその生物学的作用を発揮するようである。hBS細胞を樹立する上でのHAの有用性は、おそらく細胞膜中の界面活性剤のリン脂質極性頭部との相互作用を介して発揮され得、その結果界面活性剤層を安定化し、そしてそれから内部細胞塊又は胚盤胞の表面張力を低下させ、結果として支持細胞への付着の効率性を高める。別の方法において、HAは内部細胞塊又は胚盤胞上のその受容体及び/又は支持細胞に結合して、その生物学的作用を発現し、これは内部細胞塊の接着や成長に好ましく影響する。これによって、流体の表面張力を変化させ、或いは他のなんらかの方法で、胚盤胞と支持細胞との間の相互作用に影響を与え得る他の剤をヒアルロン酸のかわりに用いることもできる。
【0028】
本発明者らは、支持細胞の培養もhBS細胞株の樹立に重要であることを見出した。本発明のある実施の形態において、胚盤胞由来幹細胞株の増殖は支持細胞の最大継代3代目、例えば最大継代2代目からなる。
【0029】
本発明の方法において使用される好適な支持細胞は、胚由来支持細胞である。本発明よる方法において、ステップii)及びiv)にて採用される支持細胞は、同種のものでも異種のものでもよく、それらは例えばヒト、マウス、ラット、サル、ハムスター、カエル、ウサギ等の如何なる動物のような動物起源である。ヒト或いはマウスの種由来の支持細胞が好ましい。
【0030】
一般的な要件を満たすhBS細胞株を得るその他の重要な基準は、胚盤胞を培養する際の培養条件である。胚盤胞由来幹細胞株は、従って約60,000細胞/cm未満、例えば約55,000細胞/cm未満、又は約50,000細胞/cm未満の密度の支持細胞で肝細胞を培養することにより増殖され得る。特定の実施の形態において、胚盤胞由来幹細胞株の細胞密度は約45,000細胞/cmの密度の支持細胞で幹細胞を培養することからなる。マウスの支持細胞を用いた場合これらの値はこれらの場合に適用され、他の種類の支持細胞を用いた場合でも同様に好適な密度を設定することができることが意図される。本発明者の発見に基づき、当業者であれば、そのような好適な密度を見出すことができる。
【0031】
本発明による方法において、支持細胞の好ましくない成長を避けるために、支持細胞は有糸分裂的に不活性化され得る。
【0032】
本発明によって得られる胚盤胞由来幹細胞株は好適な期間自己複製能と多分化能を保持し、したがって好適な期間安定な状態にある。本内容にて用語“安定”とは有糸分裂的に不活性化した胚由来支持細胞上で成長させることで、未分化の状態で21ヶ月間以上その増殖能を示すことを意図する。
【0033】
本発明で得られる幹細胞株は、一般的要件を満たしている。つまり細胞株は、
i)有糸分裂的に不活性化された胚性支持細胞上で成長させると、未分化の状態で21ヶ月以上増殖能を示し、そして
ii)正常な正倍数性の染色体核型を示し、そして
iii)生体外及び生体内の両者においてあらゆる型の胚葉の派生物へ発展する潜在能力を維持し、そして
iv)以下の分子マーカ、OCT−4、アルカリフォスファターゼ、糖鎖抗原エピトープSSEA−3、SSEA−4、TRA1−60、TRA1−81、及びモノクローナル抗体GCTM−2によって認識されたケラチン硫酸/コンドロイチン硫酸細胞辺縁マトリックスプロテオグリカン(proteinglycan)のタンパクコアのうち少なくとも2つを発現し、そして
v)分子マーカSSEA−1又は他の分化マーカを示さず、そして
vi)その多分化能を保持し、免疫不全マウスに導入すると生体内にて奇形腫を形成し、そして
vii)分化することができる。
【0034】
本発明による未分化のhBS細胞は、下記の基準によって定義され;それらはヒトの着床前の受精卵細胞、つまり胚盤胞から単離され、有糸分裂的に不活性化した支持細胞上で成長させると未分化の状態で増殖する能力を示し;それらは正常な染色体の核型を示し;それらは未分化hBS細胞の典型的なマーカ、例えばOCT−4、アルカリフォスファターゼ、糖鎖抗原エピトープSSEA−3、SSEA−4、TRA1−60、TRA1−81そしてGCTM−2モノクローナル抗体によって認識されるケラチン硫酸/コンドロイチン硫酸の細胞辺縁マトリックスプロテオグリカンのタンパクコアを示し、そして糖鎖抗原エピトープSSEA−1又は他の分化マーカの発現を示さない。さらに生体外及び生体内(奇形腫)の多分化能試験において全ての胚葉の派生物への分化が実証される。
【0035】
上述によると、本発明は多能性ヒトBS細胞の実質的に純粋な調製物であり、i)有糸分裂能を不活性化した支持細胞上で成長させることで、未分化の状態で増殖能を21ヶ月以上示し;ii)
正常な正倍数性の染色体の核型を有し;iii)生体外及び生体内の両方において全ての種類の胚葉の派生物に発展する潜在能力を保持し;iv)以下の分子マーカ、OCT−4、アルカリフォスファターゼ、糖鎖抗原エピトープSSEA−3、SSEA−4、TRA1−60、TRA1−81及びGCTM−2モノクローナル抗体によって認識されるケラチン硫酸/コンドロイチン硫酸の細胞辺縁マトリックスプロテオグリカンのタンパクコアのうち少なくとも2種類を示し;v)SSEA−1分子マーカ又は他の分化マーカを示さず;vi)その多能性を保持し、免疫不全マウスに導入した際に生体内で奇形腫を形成し、そしてvii)分化することが可能である。
【0036】
細胞マーカを検出する手段は、ゲージ F.H.,サイエンス,287,1433−1438(2000)に見出される。これらの手段は、当業者には周知であり、例えばRT−PCR又は細胞マーカに対する抗体を用いる免疫学的手法などの方法が挙げられる。以下に細胞マーカの検出方法、ハイブリダイゼーションの方法、染色体分析、テロメラーゼ活性測定方法及び奇形腫の形成を述べる。これらの方法は本発明によって得られたhBS細胞が上記基準を満たすかどうかを調べるために用いることができる。
【0037】
免疫組織化学
培養により維持されているヒトBDP幹細胞は、その分化の状態を定期的にモニターする。未分化のBS細胞をモニターするのに用いる細胞表面マーカはSSEA−1、SSEA−3、SSEA−4、TRA−1−60、TRA−1−81である。ヒトBDP幹細胞は、4%PFA中に固定し、次いで0.5%のトリトンX−100を用いて透過処理を施す。10%のドライミルクでの洗浄及びブロッキングの後に、細胞を第一抗体と共にインキュベートする。その後更に洗浄した後に細胞を二次抗体と共にインキュベートし、核をDAPI染色で可視化させる。
【0038】
アルカリフォスファターゼ
アルカリフォスファターゼの活性は、市販のキット(シグマダイアグノスティクス)を用いその製品の指示に従って測定する。
【0039】
Oct−4 RT−PCR
転写因子であるOct−4のmRNAの発現量は、RT−PCR、遺伝子特異的プライマーのセット(5’−CGTGAAGCTGGAGAAGGAGAAGCTG,5’−CAAGGGCCGCAGCTTACACATGTTC)及びハウスキーピング遺伝子(5’−ACCACAGTCCATGCCATCAC,5’−TCCACCACCCTGTTGCTGTA)としてのGAPDHを用いて測定する。
【0040】
蛍光in situ ハイブリダイゼーション(FISH)
一回のFISHにおいて、一つ又はそれ以上の染色体を染色体特定プローブで選択する。この技法では、もし存在するのであれば、数的な遺伝的異常を検出することが可能である。この分析で、CTSは13番染色体、18番染色体、21番染色体と性染色体(XとY)のプローブを含む市販のキットを用いている(Vysis.Inc,Downers Grove,IL,USA)。各々の細胞株に対し、少なくとも200個の細胞核を分析する。細胞をカルノア固定液に再懸濁し、プラスに荷電したスライドグラス上に滴下する。LSI13/21プローブをLSIハイブリダイゼーション・バッファーと混合し、スライドグラスへ添加し、カバーグラスで覆う。プローブCEP X/Y/18をCEPハイブリダイゼーション・バッファーと混合し、同様の方法で別のスライドグラスに添加する。変性を70℃で5分行い、続いて37℃の湿潤容器中で14−20時間ハイブリダイズさせる。三段階の洗浄処置の後に、核をDAPI IIで染色し、スライドグラスを適切なフィルター及びソフトウェアを搭載した倒立顕微鏡にて解析する(サイトビジョン,アップライドイメージング)。
【0041】
染色体分析
染色体分析は、全ての染色体を直接観察することができ非常に有益であり、数や大きな構造上の異常を検出することができる。モザイクを検出するには、少なくとも30個の染色体分析が必要となる。しかしこの技法はとても時間がかかり、また技術的にも複雑である。そこで分析の条件を改善するために、コルセミド、コルヒチンの合成アナログ、及び細胞を分裂中期で止める微小管不安定化剤で分裂指数を上昇させることができるが、それでもまだ多くの供給が必要となる(1分析あたり6x10細胞)。細胞を0.1μg/mlのコルセミドで1−2時間インキュベートし、その後PBSで洗浄してトリプシン処理を行う。1500回転、10分の遠心分離で細胞を回収する。その細胞をエタノールと氷酢酸を用いて固定し、染色体を改変ライト染色を用いて可視化する。
【0042】
比較ゲノムハイブリダイゼーション
比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)は、染色体分析を補完するものである。CGHは染色体により高い解像度をもたらし、また手技としてもより簡便である。単離したDNAは、DNA、A4、テキサスレッド−dUTP/FITC 12−dUTPとDNAポリメラーゼIの混合物中にてニックトランスレーションする。アガロース電気泳動で得られたDNA断片のサイズ(600−2000bp)を調整する。試験及び対照のDNAを沈降させ、ホルムアミド、硫酸デキストランとSSCを含むハイブリダイゼーション混合物に再懸濁する。ハイブリダイゼーションは、分裂中期にて変性させたスライドグラス上で湿潤容器中にて、37℃、3日間行う。十分に洗浄した後に、アンチフェード(antifade)装着混合物(ベクタシールド、0.1μg/ml DAPI II)を一滴加え、スライドグラスをカバーグラスで封入する。続いて顕微鏡下で画像解析システムを用いてスライドグラスを評価する。
【0043】
テロメラーゼ活性
BS細胞の尺度として、高活性が定義されているので、BS細胞株のテロメラーゼ活性を測定する。テロメラーゼ活性は細胞がより分化した状態に達するにつれて、減弱していくことが知られている。よって活性を定量することは継代初期のものと対照サンプルに関係するに違いなく、分化を検出する道具として用いることができる。その方法、テロメラーゼPCR ELISAキット(ロシュ)は、内在的なテロメラーゼ活性、その産生物をポリメラーゼ・チェーン・リアクション(PCR)によって増幅すること、及びそれを酵素免疫吸着法(ELISA)にて検出することを利用する。分析は製品の指示に従って行う。この分析からの結果は典型的にはBS細胞について高いテロメラーゼ活性(>1)を示す。
【0044】
細胞株は多能性を保持しており、免疫不全マウスに投与すると生体内で奇形腫を発生する。さらに生体内でこれらの細胞はBS細胞由来細胞体を形成する。これらの両者のモデルにおいて、全ての胚葉に関する細胞の特徴が見出される。
【0045】
免疫不全マウスでの奇形腫の形成
ヒトBS細胞が多能性を保持しているかどうか分析する方法の一つが、腫瘍、奇形腫を得るために細胞を免疫不全マウスに異種移植する方法である。腫瘍内に見られる種々の組織は全て三胚葉に相当すべきである。例えば横紋筋、軟骨と骨(中胚葉)消化管(内胚葉)、及び神経ロゼット(外胚葉)のような異種移植された免疫不全マウス由来の腫瘍中の様々な組織を報告している。また腫瘍の大部分は無秩序な組織からなっている。
【0046】
B−及びT−リンパ球の欠如した血統である、重度複合免疫不全(SCID)マウスが奇形腫の形成の解析に用いられる。ヒトBS細胞を外科的に睾丸中又は腎臓皮膜下に移植する。睾丸又は腎臓には、BS細胞を10000−100000細胞の範囲で移植する。理想的には、一回で、各細胞株に対して5−6匹のマウスを用いる。予備実験の結果、メスのマウスのほうがオスのマウスと比べて手術処置後に安定であり、また腎臓への異種移植は睾丸での腫瘍発生と同定度に有効がある。従って、メスSCIDマウスの奇形腫モデルが好ましい。腫瘍は通常おおよそ1ヶ月後には触知できるようになる。マウスは1−4ヶ月後に屠殺し、腫瘍を摘出し、パラフィン−又は凍結−切片の何れかで固定する。腫瘍組織は次に免疫組織学的方法にて解析される。三胚葉全てに対する特異的なマーカを用いる。現段階で用いているマーカは:ヒト組織とマウス組織との間の識別のためのヒトE−カドヘリン、α−平滑筋アクチン(中胚葉)、α−フェトプロテイン(内胚葉)、そしてβ−III−チューブリン(外胚葉)である。加えて一般的な形態学のためにヘマトキリン−エオシン染色を施す。
【0047】
本発明の方法による方法によって得られるhBS細胞株は、分化細胞の調製に用いることができる。したがって、本発明はそのような分化細胞にも関わるものである。
【0048】
さらなる実施態様において、本発明によるhBS細胞株は、インスリン産生細胞に分化する能力を有する。それらは島状の構造を形成することが可能であり得、またインスリン産生β細胞の量が一般に25%以上、例えば35%以上、又は40%以上、又は45%以上、又は50%以上である。
【0049】
従ってある実施の形態において、インスリン産生細胞は総タンパク1mgあたり少なくとも約300ngのインスリン、例えば総タンパク1mgあたり少なくとも約380ngのインスリン、又は総タンパク1mgあたり少なくとも約450ngのインスリンを産生する。
【0050】
胚盤胞由来幹細胞はインスリン、Glut−2、Pdx−1、グルコキナーゼ、グルカゴン及びソマトスタチンの少なくとも一つを含む膵臓細胞型のマーカの発現示す分化細胞に分化する能力を有し得る。
【0051】
別の方法において、hBS細胞はインスリン産生細胞に分化する能力を有し、その組織によってニューロン−型細胞の外層により包囲されたβ細胞の内核からなる島状の構造として特徴付けられ、そのニューロン−型細胞が以下の神経細胞型のマーカ、ニューロン−特異的β−IIIチューブリン(TUJ1)、NeuN、DoubleCortin、チロシンヒドロキシラーゼ及びMap2のうち少なくとも一つの発現を示す。
【0052】
本発明の目的はまた、乏突起神経膠芽細胞(oligodendrocyte)に分化することができるBS幹細胞の実質的に純粋な調製物を提供すること、またこの方法によって調製された乏突起神経膠芽細胞の実質的に純粋な調製物も提供することである。乏突起神経膠芽細胞は例えばRIP、GalC又はO4のような細胞マーカの存在によって特徴づけることができる。
【0053】
分化細胞にすることができる胚盤胞由来幹細胞は、以下の神経細胞型のマーカ、ニューロン−特異的β−IIIチューブリン(TUJ1)、NeuN、DoubleCortin、チロシンヒドロキシラーゼ及びMap2のうち少なくとも一つの発現を示し得る。
【0054】
更なる態様において、本発明は組織破壊によって生じる病態や疾患の予防や治療に用いる薬物の製造のための、本発明の方法により得られる胚盤胞由来幹細胞から誘導された分化細胞の調製物の使用に関するものである。
【0055】
本発明の更なる目的は、“細胞起源(Cell Genesis)”によって治癒することができる疾患の治療及び/又は予防に用いる薬物を製造するための細胞を提供することである。“Cell Genesis”という用語は、例えば神経細胞、乏突起神経膠芽細胞、シュワン細胞、星状膠細胞、全ての血液細胞、軟骨細胞、心筋細胞、乏枝神経膠、星状膠及び/又は様々な種類の上皮、内皮、肝臓、腎臓、骨、結合組織、肺組織、外分泌腺及び内分泌腺組織細胞等の新しい細胞を創出するという意味である。
【0056】
ある実施の形態において、本発明は、例えばI型糖尿病を含む糖尿病のような膵臓における病態や疾病の予防や治療に用いる薬物の製造のために得られた胚盤胞由来幹細胞から誘導された分化細胞の調製物の使用に関する。
【0057】
得られた胚盤胞由来幹細胞株から誘導された分化細胞はまた、神経系における病態や疾病の予防又は治療のための薬物の製造のためにも用いることができる。そのような疾患は、多発性硬化症、脊髄損傷、脳障害、パーキンソン病、ハンチントン病、脳卒中、精神的外傷性脳障害、低酸素誘導性脳障害、虚血性脳障害、低血糖性脳障害、神経系の変性疾患、脳腫瘍、そして末梢神経傷害などが挙げられる。
【0058】
更なる実施に形態おいて、本発明は、本発明による方法を実施するためのキットに関する。このキットは少なくとも第一と第二の構成要素を別々の区分に分けたものからなる。この構成要素は胚盤胞の接着を改善させる試薬、消化試薬、BS細胞培地及び/又は支持細胞又はその混成物よりなる。
【0059】
さらにそのキットには、透明帯をそのままの状態で備えた胚盤胞、又は自然孵化胚盤胞を包含し得る。
【0060】
別の態様として、本発明はインスリン産生分化幹細胞の実質的に純粋な調製物を生成する方法に関し、
i) ヒト胚盤胞由来幹細胞を適切な培地中にてこれらを不活性化支持細胞層上で培養することにより増殖させ;
ii) ステップi)にて形成されたコロニーをより小さな集団又は個々の細胞へ分離することにより胚盤胞由来幹細胞体を創出し、続いて前記集団又は個々の細胞を非付着性のコンテナーに移し、好適な培地中にてインキュベートし;
iii) コンテナー中の胚盤胞由来幹細胞体を好適な培地中にてプレーティングし;
iv) ネスチン陽性の神経前駆体をITFSn培地中で選択し、
v) 膵臓の内分泌前駆細胞をB27培地補足剤と塩基性線維芽細胞増殖因子からなるN2−培地中で増殖させ、
vi) 培地を塩基性線維芽細胞増殖因子を含まないN2培地に交換するステップからなる。
【0061】
ガラスキャピラリーを切断用具として用いることにより手動的な切除が実施され得る。
【0062】
上述の方法にて採用されているヒトの胚盤胞由来幹細胞は、ここに述べられているように得られる典型的なものである。
【0063】
より具体的には、ステップi)で用いる培地がヒト胚盤胞由来幹細胞培地であり、ステップii)で用いられる培地が胚盤胞由来幹細胞体培地であり、そしてステップiii)で用いられる培地が胚盤胞由来幹細胞体培地である。
【0064】
ニコチンアミドはステップvi)の後に加えることもできる。
【0065】
本発明によるキットはまた、上記の方法に適用することもできる。この場合、キットは別々の区分にて以下の構成成分;マイトマイシンC、hBS培地、BS細胞体培地、ITSFn−培地、N2−培地、B27−培地補足剤、ニコチンアミド及びbFGFの少なくとも2つからなる。
【0066】
キットは更に本発明による方法によって得られる実質的に純粋なヒト胚盤胞由来幹細胞株を包含し得る。
【0067】
本発明は更に以下の図によって例証される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】ヒトBS細胞株167を樹立した胚盤胞(プロナーゼ処理前)。
【図2】ヒトBS細胞株167を樹立した胚盤胞(プロナーゼ処理後)。
【図3】胚性マウス線維芽細胞上にプレーティング2日後の胚盤胞167。
【図4】胚性マウス線維芽細胞上で培養した継代69代目のヒトBS細胞。
【図5】胚性マウス線維芽細胞上で培養した継代71代目のヒトBS細胞。
【図6】BS細胞中のアルカリフォスファターゼ(10倍)。
【図7】BS細胞中のアルカリフォスファターゼ(40倍)。
【図8】未分化ヒトBS細胞の分子マーカの発現。(A)Oct−4、インスリン、GLUT−2、グルカゴン及びPDX−1mRNAの存在のための、未分化(ud)及び分化(d)のヒトBS細胞から抽出された総RNAのRT−PCR分析。対照では逆転写のステップを省略している(−RT)。β−アクチンをハウスキーピング遺伝子として用いている。(B)は未分化のヒトBS細胞コロニーの免疫染色によるアルカリフォスファターゼの発現を示す。(C)未分化のヒトBS細胞コロニーの免疫染色によるSSEA−1の発現の解析。(D)未分化のBS細胞のSSEA−3(データ未提示)及びSSEA−4は免疫陽性であった。(E)TRA−1−60に関する免疫反応陽性のヒトBS細胞コロニー、及び(F)には、TRA−1−81に関するそれらの未分化状態を示す。倍率は40倍。
【図9】BS細胞の染色体分析
【図10】奇形腫分析:骨
【図11】奇形腫分析:軟骨
【図12】奇形腫分析:骨格筋
【図13】奇形腫分析:腎糸球体
【図14】奇形腫分析:神経上皮のロゼット
【図15】奇形腫分析:腺上皮
【図16】奇形腫分析:粘膜産生上皮
【図17】ヒトBS細胞は生体外で全ての胚葉の細胞型に分化する。各々の蛍光顕微鏡写真は、生体外で10日後の各胚葉に特異的なマーカで染色された免疫反応陽性の細胞を示したものである。(AとB)は神経細胞前駆体(A)のためのネスチン及び分裂後の神経細胞(B)のためのβ−IIIチューブリンを発現する神経外胚葉細胞の例を示している。一方(C)は、デスミン免疫反応陽性の中胚葉細胞の一例;また(D)はα-フェトプロテインを発現している細胞の一例である。
【図18】生体外で分化したヒトBS細胞のネスチンの免疫染色。
【図19】生体外で分化したヒトBS細胞のインスリンの免疫染色。
【図20】生体外で分化したヒトBS細胞のβ−IIIチューブリンの免疫染色。
【発明を実施するための形態】
【0069】
(定義および略語)
ここで用いられるように、用語“胚盤胞由来幹細胞”はBS細胞を意味し、ヒトの形態を“hBS細胞”と称する。
【0070】
ここで用いられるように、用語“胚盤胞由来幹細胞体”はBS細胞体を意味する。
【0071】
ここで用いられるように、用語“EF細胞”は胚性線維芽支持細胞を意味する。これらの細胞は、例えばマウス又はヒトのような如何なる哺乳類をもの由来とすることができる。
【0072】
本発明において用いられる好適な培地の一つを“BS細胞培地”あるいは“BS培地”と称しているが、それはKNOCKOUT(登録商標)ダルベッコ改質イーグル培地に20%のKNOCKOUT(登録商標)血清代替品、及び次の成分を各々最終濃度;50ユニット/mlのペニシリン、50μg/mlのストレプトマイシン、0.1mMの非必須アミノ酸類、2mMのL−グルタミン、100μMのβメルカプトエタノール、4ng/mlのヒトリコンビナントbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)を補足したものを包含し得る。
【0073】
本発明中のもう一つの好ましい培地は“BS細胞体培地”であるが、これはKNOCKOUT(登録商標)ダルベッコ改質イーグル培地に20%のKNOCKOUT(登録商標)血清代替品、及び次の成分を各々最終濃度:50ユニット/mlのペニシリン、50μg/mlのストレプトマイシン、0.1mMの非必須アミノ酸類、2mMのL−グルタミン、100μMのβ−メルカプトエタノール(Itskovitz−Eldor,J.et al,2000)で補足されたものを包含し得る。
【0074】
本内容において用語“安定”は、分裂抑制された胚性支持細胞上で成長させる時に、21ヶ月以上未分化の状態での増殖能力を意味すると意図される。
【0075】
本発明を以下の具体例を参照してここに記載する。実施例は実例としての目的のためにのみここに含まれるのであり、多少なりとも発明の範囲を限定するものではない。ここに述べた一般的な方法は当業者にとって周知のものであり、全ての試薬及び緩衝液は容易に入手することが可能であり、それらは市販であったり、又は当業者であれば既知のプロトコールに基づいて簡単に調製することができるものである。全てのインキュベーションは、37℃でCO雰囲気下で実施される。
【実施例】
【0076】
実施例1
自然孵化胚盤胞からの未分化幹細胞の実質的に純粋な調製物の樹立
ヒト胚盤胞は凍結又は新鮮なヒト体外受精胚由来であった。自然孵化胚盤胞をBS細胞培地(KNOCKOUTダルベッコ改質イーグル培地、20%のKNOCKOUT血清代替品、及び次の成分を最終濃度:50ユニット/mlのペニシリン、50μg/mlのストレプトマイシン、0.1mMの非必須アミノ酸類、2mMのL−グルタミン、100μMのβ−メルカプトエタノール、4ng/mlのヒトリコンビナントbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)で補足され、0.125mg/mlのヒアルロン酸を補足される)中の支持細胞(EF)の上に直接蒔いた。胚盤胞をEF細胞上にプレーティングした後に、成長を観察し、コロニーが手作業に十分な大きさである場合(プレーティング後おおよそ1−2週間経過)、内部細胞塊の細胞を他の細胞型から解離し、新たなEF細胞上での成長により増殖させた。
【0077】
実施例2
区分胚盤胞からの未分化幹細胞の実質的に純粋な調製物の樹立
透明帯をそのままの形で備えた胚盤胞の場合、rS2(ICM−2)培地(ビトロライフ,イェーテボリ,スウェーデン)中での短時間のプロナーゼ処理(10U/ml、シグマ)を、透明帯を消化するために使用し、その後、胚盤胞をヒアルロン酸(0.125mg/ml)の補足されたBS培地中で、EF細胞層上に直接蒔いた。
【0078】
実施例3
アルカリフォスファターゼの組織化学的染色
細胞をRT−PCRと、組織学的(アルカリフォスファターゼ)及び免疫細胞学的解析(下記参照)とのために収穫した。
【0079】
RNA分離とRT−PCR。総細胞性RNAを、Rneasyミニキット(Rneasy Mini Kit)(キアゲン)を用い、製品の推奨に従って調製した。cDNA合成はRT−PCR(ロシュ)用のAMV第一標準cDNA合成キットを用いて行い、PCRはプラチナTaq DNAポリメラーゼ(インビトロジェン)を用いて行った。アルカリフォスファターゼのための組織化学的染色は、市販のキット(シグマ)を用い、製品の推奨に従って行った。
【0080】
実施例4
hBS細胞株の調製とその培養
マウス胚性線維芽支持細胞を、EMFI−培地:DMEM(ダルベッコ改質イーグル培地)に10%のFCS(牛胎仔血清)、0.1μMのβ−メルカプトエタノール、50ユニット/mlのペニシリン、50μg/mlのストレプトマイシン及び2mMのL−グルタミン(ギブコBRL)を添加したもので組織培養ディッシュにて培養した。支持細胞をマイトマイシンC処理(10μg/ml、3時間)で有糸分裂能を不活性化した。ヒトBS細胞のコロニーを手動的に切除して不活性化したマウスの胚性線維芽支持細胞上にて増殖させた。
【0081】
ヒトBS細胞を組織培養ディッシュにて、有糸分裂能を不活性化したマウスの胚性線維芽支持細胞上でBS−細胞培地:KNOCKOUT(登録商標)ダルベッコ改質イーグル培地に20%のKNOCKOUT(登録商標)血清代替品、及び次の成分を各々最終濃度で;50ユニット/mlのペニシリン、50μg/mlのストレプトマイシン、0.1mMの非必須アミノ酸類、2mMのL−グルタミン、100μMのβ−メルカプトエタノール、4ng/mlのヒトリコンビナントbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)で補足されたもので培養した。継代7日後に、コロニーはBS細胞体を形成するのに十分な大きさであった。
【0082】
BS細胞コロニーは、ガラスキャピラリーで0.4×0.4mmの断片に切断し、それをBS細胞体培地:KNOCKOUT(登録商標)ダルベッコの改質イーグル培地に20%のKNOCKOUT(登録商標)血清代替品、及び次の成分を各々最終濃度で:50ユニット/mlのペニシリン、50μg/mlのストレプトマイシン、0.1mMの非必須アミノ酸類、2mMのL−グルタミン、100μMのβメルカプトエタノール(Itskovitz−Eldor,J.et al,2000)を補足したものを含む非付着性のバクテリア培養ディッシュにプレーティングした。嚢胞性BS細胞体を含むBS細胞体が、7−9日間で形成された。
【0083】
実施例5
hBS細胞の継代
継代の前に、ニコンエクリプス(Nikon Eclipse)TE2000−U倒立顕微鏡(10×対物レンズ)とDXM 1200デジタルカメラを用いてhBS細胞を写真撮影する。コロニーは、4−5日ごとに継代を行う。コロニーは継代するのに十分な大きさになった段階で断片化(0.1−0.3×0.1−0.3mm)する。最初、細胞継代され、それらは1−2週間成長されそしておおよそ四分割されることが可能である。
【0084】
立体顕微鏡で一つ一つのコロニーに焦点を合わせ、上記の寸法になるように格子状に切断する。内部の一様構造の部分だけを継代する。個々の四角いコロニーをナイフで切り出し、キャピラリーで吸引し、そして(最長4日の)新しい支持細胞上に置く。10−16個の四角いコロニーを新たなIVF−ディッシュ各々に均一にのせる。ディッシュを5−10分間静置することで細胞を新しい支持細胞に付着させることが可能であり、ディッシュを次にインキュベータの中に収納する。hBS培地は週に3回交換する。もしコロニーを継代した場合には、その週は培地交換を2回とする。通常、ハーフチェンジされ、すなわち培地の半分だけを吸引除去し、そして同量の、新鮮で、調節された培地に置き換える。もし必要であれば、培地の全量を交換することもできる。
【0085】
実施例6
hBS細胞のガラス化
細胞株から中から適切な未分化の形態のコロニーを継代のために切り取る。100−200mlの液体窒素を十分量のクライオチューブ(cryotube)中に滅菌濾過する。2種類の溶液AとBを準備し(A:1Mのトレハロース、100μlのエチレングリコール及び100μlのDMSOを含む800μlのCryoPBS、B:1Mのトレハロース、200μlのエチレングリコール及び200μlのDMSOを含む600μlのCryoPBS)、コロニーをA溶液中に1分間、B溶液中に25秒間静置する。密閉ストローを凍結したコロニーの保存に用いる。コロニーをストローに移した後に、それを直ちに滅菌濾過した窒素を含むクライオチューブの中に収納する。
【0086】
実施例7
胚性マウス支持(EMFi)細胞の播種
細胞はマイトマイシンCを含むEMFi培地で37℃、3時間インキュベーションして不活性化する。IVFディッシュをゼラチンでコートしておく。培地を吸引除去し、細胞をPBSで洗浄する。PBSをトリプシンに置き換え細胞を剥離する。インキュベーションの後、EMFi培地でトリプシン活性を停止させる。その後遠心分離で細胞を回収し、EMFi培地で1:5になるように希釈し、そして血球計算盤で細胞数を測定する。細胞を最終濃度170K細胞/mlとなるようにEMFi培地に希釈する。IVF−ディッシュ中のゼラチンを1mlの細胞浮遊液に置き換え、そしてインキュベータにて静置する。EMFi培地は細胞を播種した翌日に交換する。
【参考文献】
【0087】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリン産生分化幹細胞の実質的に純粋な調製物を生成する方法であって、
i) ヒト胚盤胞由来幹細胞を好適な培地中にて不活性化支持細胞層上でこれらを培養することにより増殖させ;
ii) ステップi)にて形成されたコロニーをより小さな集団又は個々の細胞へ分離することにより胚盤胞由来幹細胞体を創出し、続いて前記集団又は個々の細胞を非付着性のコンテナーに移し、好適な培地中にてインキュベートし;
iii) コンテナー中の胚盤胞由来幹細胞体を好適な培地中にてプレーティングし;
iv) ネスチン陽性の神経前駆体をITFSn培地中で選択し、
v) 膵臓の内分泌前駆細胞をB27培地補足剤と塩基性線維芽細胞増殖因子を含むN2−培地中で増殖させ、
vi) 培地を塩基性線維芽細胞増殖因子を含まないN2培地に交換するステップを含むインスリン産生分化幹細胞の実質的に純粋な調製物を生成する方法。
【請求項2】
前記ヒト胚盤胞由来幹細胞は、
i) 1又は2のグレードを有する受精卵を用い、A又はBのグレードを有する胚盤胞を得、
ii) 胚盤胞を支持細胞と共培養することで、一つあるいはそれ以上の内部細胞塊細胞のコロニーを樹立し、
iii) 内部細胞塊細胞を機械的解体により単離し、
iv) 内部細胞塊細胞を支持細胞と共培養して胚盤胞由来の幹細胞株を得、
v) 必要に応じて、胚盤胞由来幹細胞株を増殖させるステップを含む方法により得られる請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ヒト胚盤胞由来幹細胞は、
i) 1又は2のグレードを有する受精卵を用い、任意にA又はBのグレードを有する胚盤胞を得、
ii) 胚盤胞を支持細胞と共培養することで、一つあるいはそれ以上の内部細胞塊細胞のコロニーを樹立し、
iii) 内部細胞塊細胞を機械的解体により単離し、
iv) 内部細胞塊細胞を支持細胞と共培養して胚盤胞由来の幹細胞株を得、
v) 必要に応じて、胚盤胞由来幹細胞株を増殖させるステップを含む方法により得られる請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記ヒト胚盤胞由来幹細胞は、
i) 任意に1又は2のグレードを有する受精卵を用い、A又はBのグレードを有する胚盤胞を得、
ii) 胚盤胞を支持細胞と共培養することで、一つあるいはそれ以上の内部細胞塊細胞のコロニーを樹立し、
iii) 内部細胞塊細胞を機械的解体により単離し、
iv) 内部細胞塊細胞を支持細胞と共培養して胚盤胞由来の幹細胞株を得、
v) 必要に応じて、胚盤胞由来幹細胞株を増殖させるステップを含む方法により得られる請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記ヒト胚盤胞由来幹細胞は、
i) 任意に1又は2のグレードを有する受精卵を用い、任意にA又はBのグレードを有する胚盤胞を得、
ii) 胚盤胞を支持細胞と共培養することで、一つあるいはそれ以上の内部細胞塊細胞のコロニーを樹立し、
iii) 内部細胞塊細胞を機械的解体により単離し、
iv) 内部細胞塊細胞を支持細胞と共培養して胚盤胞由来の幹細胞株を得、
v) 1平方センチメートルあたり約60,000細胞未満、例えば1平方センチメートルあたり約55,000細胞未満、又は1平方センチメートルあたり約50,000細胞未満、例えば1平方センチメートルあたり約45,000細胞未満の密度の支持細胞で幹細胞を培養して胚盤胞由来幹細胞株を増殖させるステップを含む方法により得られる請求項1記載の方法。
【請求項6】
ステップi)において使用された培地がヒト胚盤胞由来幹細胞培地である請求項1−5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップii)において使用された培地が胚盤胞由来幹細胞体培地である請求項1−6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップiii)において使用された培地が胚盤胞由来幹細胞体培地である請求項1−7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップvi)以降にニコチンアミドを添加する請求項1−8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
インスリン、Glut−2、Pdx−1、グルコキナーゼ、グルカゴン及びソマトスタチンのうちの少なくとも一つを含む膵臓細胞型のマーカの発現を細胞が示す分化幹細胞の実質的に純粋な調製物。
【請求項11】
総タンパク1mgあたり少なくとも約320ngのインスリン、例えば総タンパク1mgあたり少なくとも約380ngのインスリン又は総タンパク1mgあたり少なくとも約420ngのインスリンを産生することが可能な請求項10に記載の調製物。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の調製物であって、その調製物においてインスリン産生細胞の比率が少なくとも25%、例えば少なくとも35%、又は少なくとも45%、又は少なくとも50%である請求項10又は11に記載の調製物。
【請求項13】
請求項10−12の何れか一項に記載の調製物であって、その組織によってニューロン−型細胞の外層により包囲されたβ細胞の内核を含む島状の構造として特徴付けられ、そのニューロン−型細胞が、ニューロン−特異的β−IIIチューブリン(TUJ1)、NeuN、DoubleCortin、チロシンヒドロキシラーゼ及びMap2を含む神経細胞型のマーカのうち少なくとも一つの発現を示す請求項10−12の何れか一項に記載の調製物。
【請求項14】
請求項1−9の何れか一項に記載の方法により得られる請求項10−13の何れか一項に記載の調製物。
【請求項15】
ニューロン−特異的β−IIIチューブリン(TUJ1)、NeuN、DoubleCortin、チロシンヒドロキシラーゼ及びMap2を含む神経細胞型のマーカのうち少なくとも一つの発現を示す分化幹細胞の本質的に純粋な調製物。
【請求項16】
請求項1−9の何れか一項に記載の方法によって得られる請求項15に記載の調製物。
【請求項17】
請求項1−9の何れか一項に記載の方法によって得られ得る細胞の本質的に純粋な調製物。
【請求項18】
膵臓の病態や疾患の予防や治療に用いる薬剤の製造のための請求項10−14の何れか一項に記載の調製物の使用。
【請求項19】
疾患が糖尿病である請求項18に記載の使用。
【請求項20】
疾患が1型糖尿病である請求項18又は19に記載の使用。
【請求項21】
神経系における病態や疾患の治療に用いる薬剤の製造のための請求項15又は16に記載の調製物の使用。
【請求項22】
疾患が多発性硬化症、脊髄損傷、脳障害、パーキンソン病、ハンチントン病、脳卒中、精神的外傷性脳障害、低酸素誘導性脳障害、虚血性脳障害、低血糖性脳障害、神経系の変性疾患、脳腫瘍及び末梢神経傷害から構成される群より選択される請求項21に記載の使用。
【請求項23】
個別の区画において以下の成分、マイトマイシンC、hBS細胞培地、BS細胞体培地、ITSFn−培地、N2−培地、B27−培地補足剤、ニコチンアミドそしてbFGFのうち少なくとも2つを含む請求項1−9の何れか一項に記載の方法を実施するためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−148294(P2009−148294A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52726(P2009−52726)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【分割の表示】特願2003−556512(P2003−556512)の分割
【原出願日】平成14年12月27日(2002.12.27)
【出願人】(503071598)セルアーティス アーベー (10)
【Fターム(参考)】