説明

多色成形品の製造方法および多色成形品

【課題】ドアトリム基材とオーナメント基材との境界に形成された溝部の破断を防ぐ。
【解決手段】本発明は、ドアトリム基材24と、このドアトリム基材24とは異種の材質あるいは同種の材質で色が異なるものからなるオーナメント基材28とを備え、ドアトリム基材24とオーナメント基材28との境界34に溝部22が形成された二色成形品11の製造方法であって、第1成形空間S1に樹脂を射出してドアトリム基材24を成形する第1成形工程と、第2成形空間S2に樹脂を射出してオーナメント基材28を成形する第2成形工程とを備え、第2成形空間S2は、第2中子56をドアトリム基材24の内部から型抜きすることで形成された型抜き孔66を含んで構成されており、この型抜き孔66は、境界34から第2中子56の型抜き方向に沿って奥方に向かうほど内径が大きくなるあり溝状とされているところに特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多色成形品の製造方法および多色成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、第1成形品と、この第1成形品とは異種の材質あるいは同種の材質で色が異なるものからなる第2成形品とを備えて構成された二色成形品として、例えば下記特許文献1に記載のものが知られている。このような二色成形品では、第1成形品と第2成形品との境界で樹脂同士が密着せず、十分な接合強度が得られないという問題がある。このため、特許文献1では、第1成形品に凹部を形成し、第2成形品に前記凹部に嵌合する凸部を形成し、凹部と凸部を凹凸嵌合させることによって境界の接触面積を増加させ、接合強度を高めることができるようになっている。同様に、下記特許文献2では、第1成形品と第2成形品との境界に段差を形成して境界の接触面積を稼ぐようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−193513号公報
【特許文献2】特開2007−130914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、二色成形品の種類によっては、第1成形品と第2成形品との境界に溝部を形成し、色が異なる境界部分をぼかして意匠を演出したり、この溝部に表皮の端部を押し込んだりするいわゆる木目込み溝とする場合がある。しかしながら、例えば二色成形品に曲げ応力が加わり、脆弱部である溝部に応力が集中した場合、第1成形品と第2成形品との接触面積を増加させたとしても、溝部の境界において第1成形品と第2成形品が分離するおそれがある。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、第1成形品と第2成形品との境界に形成された溝部の破断を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1成形品と、この第1成形品とは異種の材質あるいは同種の材質で色が異なるものからなる第2成形品とを備え、第1成形品と第2成形品との境界に溝部が形成された多色成形品の製造方法であって、溝部の内面を成形する成形面に第1中子を押し当てた状態とし、この第1中子の側面に第2中子を押し当てた状態とすることで、第1成形品を成形する第1成形空間を形成し、この第1成形空間に樹脂を射出して第1成形品を成形する第1成形工程と、第1中子と第2中子の双方を型抜きすることで第2成形空間を形成し、この第2成形空間に樹脂を射出して第2成形品を成形する第2成形工程とを備え、第2成形空間は、第2中子を第1成形品の内部から型抜きすることで形成された型抜き孔を含んで構成されており、この型抜き孔は、境界から第2中子の型抜き方向に沿って奥方に向かうほど内径が大きくなるあり溝状とされているところに特徴を有する。
【0007】
このようにすると、型抜き孔があり溝状とされているため、第2中子の型抜きがしやすくなる。さらに、第2成形品は、あり溝状をなす型抜き孔の内部に充填された部分を含んで構成されるため、この充填部分が外れる方向に孔径が小さくなっており、抜け止め効果を発揮することで第1成形品の内部から容易に外れることはなく、第1成形品と第2成形品の境界における接合強度を高めることができる。したがって、第1成形品と第2成形品との境界に形成された溝部の破断を防ぐことができる。
【0008】
本発明の実施の態様として、以下のようにしてもよい。
第1中子は、溝部の奥壁の外面を成形する一側成形面から第2成形空間に進入し、溝部の奥壁の内面を成形する他側成形面に押し当てられるようにしてもよい。
【0009】
このようにすると、第1中子を一側成形面から第2成形空間に進入させて他側成形面に押し当てることができる。また、溝部の内面を成形する成形型に対してその嵌合方向と直交する側方から第1中子を押し当てようとすると、成形型が側方に変形するおそれがあるものの、上記のようにすると、成形型に対してその突出方向と反対方向から第1中子を押し当てることができるため、成形型に対して第1中子を力強く押し当てることができる。
【0010】
また、本発明は、第1成形品と、この第1成形品とは異種の材質あるいは同種の材質で色が異なるものからなる第2成形品とを備え、第1成形品と第2成形品との境界に溝部が形成された多色成形品であって、第2成形品は、境界から第1成形品の内部に突出して形成された抜止部を含んで構成されており、第2成形品において抜止部と適合して嵌合する抜止凹部は、境界から奥方に向かうほど外径が大きくなるあり溝状とされている構成としたところに特徴を有する。
【0011】
このような構成によると、抜止凹部があり溝状とされているため、抜止部と抜止凹部を強固に結合することができ、第1成形品と第2成形品の境界における接合強度を高めることができる。したがって、第1成形品と第2成形品との境界に形成された溝部の破断を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第1成形品と第2成形品との境界に形成された溝部の破断を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態におけるドアトリムを示す斜視図
【図2】図1におけるA−A線断面図であって、溝部を拡大して示した断面図
【図3】溝部の内部構造を斜め方向から見た断面図
【図4】溝部を成形する金型の構造を示した断面図
【図5】図4の状態から第1中子と第2中子を前進させて第1成形空間を形成した状態を示す断面図
【図6】図5の状態から第1成形空間に樹脂を射出した状態を示す断面図
【図7】図6の状態から第1中子と第2中子を後退させて第2成形空間を形成した状態を示す断面図
【図8】図7の状態から第2成形空間に樹脂を射出した状態を示す断面図
【図9】図8の状態からドアトリムを脱型した状態を示す断面図
【図10】図2における基材の表面に表皮材を被せた状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施形態>
本発明の実施形態を図1ないし図9の図面を参照しながら説明する。本実施形態では、二色成形品として、車両ドアに取り付けられるドアトリム10を例示している。図1は、本実施形態のドアトリム10の斜視図である。図1に示すように、ドアトリム10は、合成樹脂等によって板状に形成されたドアトリム本体12、アームレスト20などを備えている。アームレスト20は、合成樹脂等によって形成され、ドアトリム本体12の車室内側に張り出す形で配されている。また、ドアトリム10は、オーナメント14、スピーカグリル16、ドアポケット18などを備えている。ドアトリム本体12とオーナメント14との境界には、溝部22が全周に亘って凹設されている。
【0015】
図9は、両基材24,28となる二色成形品11を示した断面図である。境界34は、溝部22の底面23における中央付近に配置されている。境界34におけるオーナメント基材28側の界面36には、同界面36からドアトリム基材24の内部に向けて抜止部38が突出して設けられている。一方、境界34におけるドアトリム基材24側の界面40には、抜止部38と適合して嵌合した抜止凹部42が凹設されている。この抜止凹部42は、ドアトリム基材24側の界面40から奥方(図示左方)に向かうに連れて内径が大きくなるあり溝状に形成されている。このため、抜止部38が抜止凹部42に接合した状態では、抜止部38が抜止凹部42から容易に外れることが規制されている。
【0016】
さらに、抜止部38と抜止凹部42による接合部は、図3に示すように、溝部22が形成されている周方向に沿って断続的に複数設けられている。したがって、ドアトリム基材24とオーナメント基材28は全周に亘って強固に固定され、ドアトリム基材24とオーナメント基材28との境界34における接合強度を高めることができる。これにより、ドアトリム10に曲げ応力が加わり、溝部22に応力が集中した場合であっても、境界34でドアトリム10が破損することを防ぐことができる。
【0017】
次に、ドアトリム基材24とオーナメント基材28を二色成形することにより溝部22を形成する成形型の構成およびその成形方法について図4ないし図9の図面を参照しながら説明する。溝部22を成形する成形型は、図4に示すように、上型50、この上型50の下方に対向して配置された下型52、この下型52の内部に組み込まれた第1中子54および第2中子56などを備えて構成されている。
【0018】
下型52は、下方に凹んだ凹部を有しており、この凹部を構成する下面52Aは、溝部22の奥壁22Aの外面を成形する面である。また、凹部を構成する側面52Bは、溝部22の側壁22Bの外面を成形する面である。一方、上型50は、下型52の凹部に進入する凸部を有しており、この凸部を構成する下面50Aは、溝部22の奥壁22Aの内面を成形する面である。また、凸部を構成する側面50Bは、溝部22の側壁22Bの内面を成形する面である。
【0019】
第1中子54は、下型52の下面52Aに形成された縦穴58の内部に収容されている。第1中子54は、第1油圧シリンダ62に連結されており、第1油圧シリンダ62によって上下方向に移動可能とされている。これにより、第1中子54は、縦穴58の内部に収容された後退位置と、この後退位置から上方に移動して上型50の下面50Aに押し当てられた前進位置との間を移動可能とされている。
【0020】
一方、第2中子56は、下型52の側面52Bに形成された横穴60の内部に収容されている。第2中子56は、第2油圧シリンダ64に連結されており、第2油圧シリンダ64によって左右方向に移動可能とされている。これにより、第2中子56は、横穴60の内部に収容された後退位置と、この後退位置から図示右方に移動して第1中子54の左側面54Aに押し当てられた前進位置との間を移動可能とされている。
【0021】
まず、ドアトリム基材24を成形するにあたっては、図5に示すように、第1中子54を後退位置から前進位置へ前進させて、第1中子54を上型50の下面50Aに押し当てた状態とし、引き続き、第2中子56を後退位置から前進位置へ前進させて、第2中子56を第1中子54に左側面54Aに押し当てた状態とする。これにより、第1中子54の左側には、第1成形空間S1が形成される。そして、第1成形空間S1内に連通して配置された第1ゲート(図示せず)から第1樹脂を射出することで、図6に示すように、第1成形空間S1内に第1樹脂を充填する。この第1樹脂が冷え固まると、ドアトリム基材24が形成される。
【0022】
次に、第2中子56を前進位置から後退位置へ後退させると、ドアトリム基材24の内部に、第2中子56の型抜き孔66が形成される。このとき、第2中子56は、先端に向かうほど先細りとなるテーパ形状とされているため、第2中子56をわずかに後退させるだけで、第2中子56とドアトリム基材24を非接触状態にすることができ、第2中子56の引き抜きを容易に行うことができるようになっている。
【0023】
第2中子56に続いて第1中子54を前進位置から後退位置へ後退させると、図7に示すように、ドアトリム基材24の右側に配置された空間68と、この空間68に連通した型抜き孔66とからなる第2成形空間S2が形成される。そして、第2成形空間S2内に連通して配置された第2ゲート(図示せず)から、第1樹脂とは異種の材質あるいは同種の材質で色が異なるものからなる第2樹脂を射出することで、図8に示すように、第2成形空間S2内に第2樹脂を充填する。この第2樹脂が冷え固まると、ドアトリム基材24およびオーナメント基材28が溝部22で二色成形された二色成形品11が得られる。なお、第2中子56の先端と横穴60の開口縁との間には、わずかに隙間が形成されているものの、この隙間に第2樹脂が進入しない程度に第2中子56の先端形状が設定されている。
【0024】
次に、上下両型50,52を上下方向に型開きし、図9に示すように、ドアトリム基材24とオーナメント基材28が溝部22において一体に成形された二色成形品11を脱型する。このようにして形成された二色成形品11は、界面36では強く接合していないものの、ドアトリム基材24の抜止凹部42にオーナメント基材28の抜止部38が適合して嵌合しているため、両基材24,28に曲げ応力が加わるなどして溝部22に応力が集中した場合であっても、境界34で両基材24,28が破断することはなく、溝部22で両基材24,28を強固に接合することができる。
【0025】
以上のように本実施形態では、ドアトリム基材24とオーナメント基材28の境界34に溝部22を形成しているものの、溝部22に抜止部38と抜止凹部42を形成し、これらを強固に接合させているから、溝部22において二色成形品11が破断することを回避できる。また、抜止凹部42をあり溝状に形成したから、型抜き孔66を先端に向かうほど先細りとなるテーパ形状にすることができ、第2中子56の型抜きを容易に行うことができる。
【0026】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態ではドアトリム本体12とオーナメント14の境界34に溝部22を形成しているものの、本発明によると、例えばドアトリム基材がメイン基材とアッパ基材からなる場合に、メイン基材とアッパ基材との境界に溝部を形成してもよい。
【0027】
(2)上記実施形態ではドアトリム基材24とオーナメント基材28を二色成形してなる二色成形品11としているものの、本発明によると、材質の異なる3種類以上の基材、あるいは同材質で色の異なる3種類以上の基材を多色成形してなる多色成形品としてもよい。
【0028】
(3)上記実施形態では第2中子56の型抜き孔66に抜止部38が形成されているものの、本発明によると、3種以上の多色成形品である場合に、第2中子56の型抜き孔66とは別の型抜き孔に抜止部を形成してもよい。
【0029】
(4)上記実施形態ではドアトリム基材24とオーナメント基材28の双方に表皮材26,30が貼着されているものの、本発明によると、いずれか一方の基材のみに表皮材を貼着してもよい。
【0030】
(5)上記実施形態ではドアトリム基材24およびオーナメント基材28が樹脂むき出しの成形品としているものの、本発明によると、図10に示すように両基材24,28の表面に両表皮材26,30を被せた構成としてもよい。具体的に説明すると、ドアトリム本体12は、ドアトリム基材24と、このドアトリム基材24の表面に貼着されたドアトリム表皮材26とを備えて構成されている。一方、オーナメント14は、オーナメント基材28と、このオーナメント基材28の表面に貼着されたオーナメント表皮材30とを備えて構成されている。両表皮材26,30の端部同士の重ね合わせ部は、縫い糸32により縫製して継ぎ合わされている。両表皮材26,30の重ね合わせ部(縫い代部)は、溝部22の内部に挿入され、ドアトリム基材24とオーナメント基材28に対して、例えばホットメルトテープ(不図示)を介して貼着されている。
【符号の説明】
【0031】
11…二色成形品
24…ドアトリム基材(第1成形品)
28…オーナメント基材(第2成形品)
34…境界
38…抜止部
42…抜止凹部
50A…上型の下面(他側成形面)
52A…下型の下面(一側成形面)
54…第1中子
54A…第1中子の左側面(側面)
56…第2中子
66…型抜き孔
S1…第1成形空間
S2…第2成形空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1成形品と、この第1成形品とは異種の材質あるいは同種の材質で色が異なるものからなる第2成形品とを備え、前記第1成形品と前記第2成形品との境界に溝部が形成された多色成形品の製造方法であって、
前記溝部の内面を成形する成形面に第1中子を押し当てた状態とし、この第1中子の側面に第2中子を押し当てた状態とすることで、前記第1成形品を成形する第1成形空間を形成し、この第1成形空間に樹脂を射出して前記第1成形品を成形する第1成形工程と、
前記第1中子と前記第2中子の双方を型抜きすることで第2成形空間を形成し、この第2成形空間に樹脂を射出して前記第2成形品を成形する第2成形工程とを備え、
前記第2成形空間は、前記第2中子を前記第1成形品の内部から型抜きすることで形成された型抜き孔を含んで構成されており、この型抜き孔は、前記境界から前記第2中子の型抜き方向に沿って奥方に向かうほど内径が大きくなるあり溝状とされていることを特徴とする多色成形品の製造方法。
【請求項2】
前記第1中子は、前記溝部の奥壁の外面を成形する一側成形面から前記第2成形空間に進入し、前記溝部の奥壁の内面を成形する他側成形面に押し当てられることを特徴とする請求項1に記載の多色成形品の製造方法。
【請求項3】
第1成形品と、
この第1成形品とは異種の材質あるいは同種の材質で色が異なるものからなる第2成形品とを備え、
前記第1成形品と前記第2成形品との境界に溝部が形成された多色成形品であって、
前記第2成形品は、前記境界から前記第1成形品の内部に突出して形成された抜止部を含んで構成されており、前記第2成形品において前記抜止部と適合して嵌合する抜止凹部は、前記境界から奥方に向かうほど外径が大きくなるあり溝状とされていることを特徴とする多色成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−56238(P2012−56238A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203130(P2010−203130)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】