説明

多連巻きコイル巻線方法及び装置

【課題】α巻コイルを多連に巻線すること、および軸回しコイルを多連に巻線する方法および装置を提供する。
【解決手段】α巻されたコイルの巻終わりリードとフライヤのノズル間の線材を引き出し、巻芯を回転させて引き出した線材を巻芯に巻き取るとともに、フライヤを巻芯の周囲に巻芯と同方向に倍速で回転させて巻線する。この動作を繰りかえして多連のα巻コイルを巻線することができる。また、フライヤの回転速度を巻芯の回転速度と同速度とすることにより、引き出された線材のみ巻芯に巻線され、多連の軸回しコイルを巻線することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルを多連に巻線するのに、簡素な構成や小型化をはかるとともに、仕様変更が容易な巻線ができるよう自動化をはかった巻線方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来は、例えばα巻(巻始め、及び巻終わりリードが共に外周になる。外々巻ともいう)の多連コイルを製造する場合は、1個のα巻コイルを製造し、これらのリード線を半田等で接続することにより多連コイルとしていた。(特許文献1、2参照)
【0003】
また、α巻きコイルではなく、通常の軸回し巻線方式によるコイルを連結する場合は、回転軸方向に巻芯(ボビン)を配列する必要があるが、コイルの姿勢を保持するために、中継板を介して、左右のスピンドル軸から巻芯を押圧した状態で、一方の巻芯に巻線したのち、中継板を線材が乗り越えて、軸方向に隣接する他方の巻芯に巻線するようにしていた。
【0004】
【特許文献1】特願平10−93539号公報
【特許文献2】特願2000−79805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、近年、α巻や、通常巻のコイルを多連に巻線することが要求されてきているが、α巻コイルを多連に連結して自動に巻くことは難しく、これを実現した巻線方法及び装置はない。また、通常巻コイルにおいてもフライヤ方式では多連巻きは実現されているが、軸回し方式では2連巻がせいぜいであり、それ以上の多連コイルを巻線しようとすると、巻芯をスピンドルが押さえきれず、巻線中に、巻芯が外れてしまうという問題があった。本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり
▲1▼α巻コイルを多連に連結して自動に巻線する巻線方法及び装置
▲2▼軸回し方式の通常巻コイルを多連に連結して自動に巻線する巻線方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
▲1▼α巻コイルを多連に連結して自動に巻線するために
▲1▼−1:巻芯の周囲を回転する線材供給部の先端から繰り出される線材をチャックして、回転軸に直交する方向に線材を移動させ線材を所定長さ引き出した後、巻芯を回転させて、引き出した線材を巻芯に巻き取るとともに、線材供給部を巻芯の回転方向と同方向に倍速で回転させることにより、線材供給部から繰り出される線材を巻芯に巻き付ける。この動作により、一つのα巻コイルが巻き線される。この後、連結コイルとするため、まず巻芯に巻かれたα巻コイルを巻芯から外す。そして、α巻コイルの巻終わりリードと線材供給部の間の線材をチャックして、回転軸に直交する方向に移動させて線材を所定長さ引き出す。そして、巻芯を回転し、引き出した線材を巻芯に巻き取るとともに、線材供給部を巻芯の回転方向に倍速で回転させて、線材供給部から繰り出される線材を巻芯に巻き付ける。この動作により二つ目のα巻コイルが一つ目のα巻コイルに連結して巻線される。この後、同様に、巻芯からα巻きコイルを外す。以下同様に同じ動作を繰り返すことにより、連結した多連のα巻コイルを巻線するものとした。なお、連結されたα巻コイル間の渡り線の長さは、線材供給部とα巻コイルの巻き終わりリード間の線材のチャック位置を変えることにより適宜調整できる。この場合は、回転するスピンドル軸は一つであり、巻き終えたα巻コイルを巻芯から取り外すとともに、チャックを持ち替えることにより多連に連結したα巻コイルを巻線できる。
【0007】
▲1▼−2:複数のスピンドル軸を平行に配列し、線材供給部から繰り出された線材の先端をチャックで保持し、チャックと線材供給部間の線材を保持し、スピンドル軸に直交する方向に保持した線材を移動させる。この動作により、所定長さの線材が、引き出される。この状態で、スピンドル軸を回転させることにより、引き出された線材がスピンドル軸先端の巻芯に巻線されるとともに、線材供給部をスピンドル軸の回転方向と同方向に倍速で回転させることにより、線材供給部から繰り出される線材を巻芯に巻き付ける。このとき、引き出された線材は、所定のテンションが付与されて、巻芯に巻き付けられていく。この動作により一つのα巻コイルが巻線される。次に、スピンドル軸を軸方向に直交する方向に移動させ、新たな巻芯を固定したスピンドル軸に線材供給部を対峙させる。ここで、ふたたび、すでに巻芯に巻かれたコイルと線材供給部間の線材を保持し、スピンドル軸に直交する方向に保持した線材を移動させる。この動作により、所定長さの線材が、引き出される。この状態で、スピンドル軸を回転させることにより、引き出された線材がスピンドル軸先端の巻芯に巻線されるとともに、線材供給部をスピンドル軸の回転方向と同方向に倍速で回転させることにより、線材供給部から繰り出される線材を巻芯に巻き付ける。この動作により二つ目のα巻コイルが一つ目のα巻コイルに連結して巻線される。ここで、再びスピンドル軸をスピンドル軸を軸方向に直交する方向に移動させ、新たな巻芯を固定したスピンドル軸に線材供給部を対峙させる。以下同様な動作を繰り返し、連結した多連のα巻コイルを巻線するものとした。この場合、保持部の両側から線材が引き出されるので、引き出し方向の高さを低くできるというメリットがある。
【0008】
▲2▼軸回し方式の通常巻コイルを多連に連結して自動に巻線するために
▲2▼−1:巻芯の回転軸と同期して回転する線材供給部材の先端から繰り出される線材をチャックして、回転軸に直交する方向にチャックを移動して線材を所定長さ引き出す。次に、回転軸と同期して線材供給部材を回転させ、回転軸の巻芯の周囲にチャックにより引き出された線材を巻芯に巻きつける。このとき線材には所定のテンションが付与されて、巻芯に向け移動していく。チャックが巻芯近傍にまで来たら、スピンドル軸の回転を止め、チャックを開放する。次に、巻芯から通常巻コイルを外す。そして、コイルのリードと、線材供給部の間をチャックにより保持し、再びチャックを回転軸に直交する方向に移動して線材を所定長さ引き出す。そして、回転軸と同期して線材供給部を回転させ、回転軸の巻芯の周囲にチャックにより引き出された線材を巻芯に巻きつける。以下同様に巻線を行い、軸回し方式の多連コイルを巻線するものとした。なお、この場合、1軸で多連コイルを巻線できるメリットがあり、巻き終えたコイルのリード部をチャックする位置により、コイル間の渡り線の長さを任意に調整できる。
【0009】
▲2▼−2:複数のスピンドル軸を平行に配列し、スピンドル軸と同期して回転する線材供給部から繰り出された線材の先端をチャックで保持し、チャックと線材供給部間の線材を保持し、スピンドル軸に直交する方向に保持した線材を移動させる。この動作により、所定長さの線材が、引き出される。この状態で、スピンドル軸と線材供給部を同期して回転させることにより、引き出された線材がスピンドル軸先端に固定された巻芯に巻線される。次に、スピンドル軸を軸方向に直交する方向に移動させ、新たな巻芯を固定したスピンドル軸に線材供給部を対峙させる。ここで、ふたたび、すでに巻芯に巻かれたコイルと線材供給部間の線材を保持し、スピンドル軸に直交する方向に保持した線材を移動させる。この動作により、所定長さの線材が、引き出される。この状態で、スピンドル軸と線材供給部を同期回転させることにより、引き出された線材がスピンドル軸先端に固定された巻芯に巻線される。このようにして、軸回し方式のコイルが連結して巻線される。以下同様にして、巻線することにより多連の軸回し方式のコイルが巻線されるものとした。この場合、保持部の両側から線材が引き出されるため、引き出し方向の高さを低くできるというメリットがある。
【発明の効果】
【0010】
連結されたα巻コイルおよび軸回しコイル間の渡り線の長さは、線材供給部とα巻コイル及び軸回しコイルの巻き終わりリード間の線材のチャック位置を変えることにより適宜調整できる。また、回転するスピンドル軸は一つであり、巻き終えたα巻コイルおよび軸回しコイルを巻芯から取り外すとともに、チャックを持ち替えることにより多連に連結したα巻コイルを巻線できる。
【0011】
α巻コイルおよび軸回しコイルの巻芯に巻かれる引き出し線は、線材の保持部の両側から線材が引き出されるので、引き出し方向の高さを低くできるというメリットがある。またスピンドル軸を多軸としたので、作業タクトを短縮できる。
【実施例】
【0012】
本発明の第1の実施例につき説明する。第1の実施例の装置の構成は以下の通り。
【0013】
図1に示すように、軸中心に回転するスピンドル軸1と、これを駆動するスピンドルモータ2と、スピンドル軸1の軸方向への移動機構3と、スピンドル移動モータ4と、スピンドル軸1先端に固定された巻芯5と、スピンドル軸1に対向しスピンドルの周囲を回転するフライヤ6と、フライヤを回転させるフライヤモータ20と、フライヤ6のスピンドル軸1方向への移動機構8と、フライヤ移動モータ9と、フライヤ6の先端に設けられた線材21を繰り出すノズル10と、ノズル10から繰り出される線材21の先端を保持するチャック12とこのチャック12をスピンドル軸1に直交する方向に移動可能とする線材チャック機構13と、前記の巻芯をスピンドル軸1内に収容する巻芯移動機構15とからなる。
【0014】
以上の構成のもと、α巻コイルの多連コイルの巻線方法につき説明する。
【0015】
まず、図3のAからGの工程図に示されるように、線材21を図示しない線材スプールから引き出し、図示しないテンション装置を経て、回転するフライヤ6の中空の回転軸から挿入し、フライヤ6先端のアーム7を経て、アーム7に固定された中空のノズル10に挿通される。
【0016】
ノズル10から繰り出された線材21は、スピンドル軸1に直交する上方向に移動するチャック12により保持されサーボモータ14によるチャック12の移動によりノズル10から所定長さ線材21が引き出される。なお、チャック12はガイドレール26上の移動台23及び中継板24を介してサーボモータ14のプーリー27に掛けまわされているベルト25に固定されており、ベルト25の移動に伴い移動するようになっている。
【0017】
一方フライヤ6もフライヤ移動機構8のフライヤ移動モータ9によって、巻芯5の巻胴部の中心部に移動し、フライヤ6のノズル10から繰り出された線材21が、巻芯5に1巻きされて線材21を巻芯5に固定する。
【0018】
この状態から、巻芯5は例えば時計方向に回転をするとともに、1回転ごとにスピンドル軸1が線径分移動して、多層に整列巻線される。これによりチャック12により引き出された線材21は、巻芯5に巻き取られるが、チャック12も巻芯5の回転に同期して、下方に移動し、巻線に必要な一定のテンションが付与されるように、サーボモータ14の下方向への移動を制御する。なお、この際、線材21の移動を正確にするために、スピンドル軸1と共に移動可能な線ガイド部材17を用いるとより精密に巻線ができる。線ガイド部材17は線材21を両側からピンで狭持するようになっており、線ガイド移動シリンダ18により、移動可能であり、チャック12が巻線されたコイルの近傍に移動する際に邪魔にならないように退避できるようになっている。
【0019】
同時に、フライヤ6は、巻芯5の周囲を巻芯5の回転方向と同方向に倍の速度で回転する。これにより、フライヤ6から繰り出される線材21も同時に巻芯5に巻線される。この際、フライヤ6も巻芯5の軸方向に移動して、多層に整列巻線される。この場合、巻芯5は、1回転ごとに、線径分軸方向に移動するので、フライヤ6は1回転ごとに2線径分移動することになる。これにより、巻き終わりの線材リードは、巻芯5の回転による巻線側もフライヤ6の回転による巻線側も最外周に位置することになる。巻線された多連コイルは図5のBに示すような形状となる。
【0020】
もちろん、巻芯5の回転による巻線21およびフライヤ6の回転による巻線をそれぞれ2列で多層に行うことも可能である。この場合は、巻芯5およびフライヤ6には回転軸方向への送りをかけず、静止位置で巻線を行う。この場合は、スピンドル軸1およびフライヤ6の軸方向への移動機構は不要である。このようにして巻線された多連コイルは図5のAに示すような形状となる。なお必要によりコイルの巻幅を規制するため、フライヤ6側にセンター押さえ板22を設けても良い。センター押さえ22はフライヤ6に対して回転自在になっている。
【0021】
このように、一つのα巻コイルが巻線されたら、巻芯5をスピンドル軸1内に後退させる。巻芯5は通常はスピンドル軸1内を貫通するシリンダにより突出する方向に押し出されているが、スピンドル軸1内に後退させる場合は、巻芯移動機構15の巻芯移動シリンダ16によりスピンドル軸1内に後退させる。この動作により、α巻コイルは巻芯5から外れる。
【0022】
次に、チャック12を開放して線材21を開放し、線材チャック機構13のチャック12を移動して、フライヤ6側の巻終わりリードの近傍でフライヤ6のノズル10から繰り出されている線材21をチャックする。なお、チャック位置の調整により、コイル間の渡り線の長さは調整可能である。
【0023】
そして、ふたたび、チャック12をチャック機構13のサーボモータ14により上方向に移動させて、線材21を所定長さノズル10から引き出す。この際すでに巻線されたα巻コイルは、チャック12とともに上方向に移動する。なお、チャック12の移動はサーボモータ14でなくても、エアーシリンダ等に置きかえることも可能である。
【0024】
そして、このような動作を必要回数繰り返すことにより、多連のα巻コイルを製作することができる。
【0025】
次に第2の実施例につき説明するが、装置の構成は第1の実施例と同様である。
第2の実施例は、多連の通常巻の軸回しコイルの巻線方法についてであるが、この場合、第1の実施例と異なるのは、フライヤ6が、巻芯5の回転方向と同方向に同一速度で回転する点のみが異なる。
【0026】
フライヤ6が、巻芯5の回転方向と同方向に同一速度で回転することにより、フライヤ6によっては、巻芯5に線材21は巻線されず、ちょうど、巻芯5の端部に線材21を固定して軸回しの巻線21を行うのと同様の作用を呈する。したがって、巻芯5には、ノズル10からチャック12により引き出された線材21が一定のテンションにより巻線されて行く。この場合も、コイルは、多列多層でも、1列多層のいずれも巻線が可能である。この場合のコイル形状は多層多列の場合は図5のDのような形状となり、1列多層の場合は図5のCのようになる。
【0027】
次に第3の実施例につき説明する。これは、第1、第2の実施例において連結されるコイルの形状が異なり、したがって巻芯5の形状や径が異なる場合を想定している。
例えば、一方のコイルが丸形であり、隣接して連結される他方のコイルが四角形のような場合である。
【0028】
この場合は、例えばスピンドル軸1を平行に2つ配列し、フライヤ6に対して横移動可能に構成する。この場合は、2列のスピンドルを横移動させる横移動モータ19が追加される。まず、上述の説明で行ったように、一方の丸形の巻芯5にα巻コイルあるいは通常巻の軸回しコイルを巻線する。そして、巻芯5に巻線したコイルを巻芯5から取り外し、スピンドル軸1を横移動させ、他方の四角形の巻芯5をフライヤ6に対峙させる。そして、コイルの巻終わりリードとフライヤ6のノズル10の間の線材21をチャック12で保持し、チャック移動機構13でチャック12を巻芯5の上方向に巻線されたコイルと共に移動させ、線材21を所定長さノズル10から引き出す。
【0029】
ここで、α巻コイルの場合は、フライヤ6を巻芯と同方向に2倍の速度で回転させ、通常巻の軸回しコイルの場合は、巻芯と同方向に同じ速度で回転させる。
このように巻線することで、2連の連結コイルが形成される。さらに、次に再び丸形のコイルを連結させたければ、巻線したコイルを巻芯5から取り外し、スピンドル軸1を横方向に移動させてもとに戻し、再び丸形の巻芯5とフライヤ6を対峙させる。
【0030】
そして、同様の動作を繰り返すことにより、3個のコイルが連結されて巻線される。
したがって、α巻コイルと通常巻の軸回しコイルを任意の配列で混在させて多連の連結コイルを形成することも可能である。
【0031】
次に第4の実施例について説明する。第4の実施例の巻線装置の構成は図2に示すように以下の通り。複数の軸中心に回転するスピンドル軸1を収容し、ガイドレール上をスピンドル軸と直交する方向にスピンドル横移動機構45とスピンドル横移動モータ46により移動可能なスピンドル台28と、前記のスピンドル軸1と接離可能に構成されるスピンドル駆動機構29において、出力軸30がスプライン加工され、スピンドル軸1内の収容部とスプライン結合し、スピンドル軸1と一体に回転するスピンドルモータ31と、スピンドルモータ移動シリンダ32と、スピンドル軸1に保持される巻芯5と、前記巻芯5に対峙し巻芯5の周囲を回転するフライヤ6と、フライヤ6をプーリーおよびベルトを介して回転させるフライヤ回転モータ20と、フライヤ6の先端に取り付けられ線材21を挿通するノズル10と、ノズル10から繰り出される線材21を保持するクランプ11と、クランプ11またはコイルの巻終わりリードとフライヤ6先端のノズル10間の線材21をフックして上方向に線材を引き出す線材引き出し機構34においては、フック部のプーリー35を保持する中継板36と中継板36に固定されるガイドレール37上を移動するガイド台38とガイド台38に固定される移動板39と移動板39を固定するベルト40と、ベルト40はフック移動モータ41の出力軸に固定されたプーリー42に掛けまわされており、フック部のプーリー35を前後に移動させるフック部移動機構43が設けられる。また必要に応じて、スピンドル軸1の軸方向へのスピンドル移動機構33と、フライヤ6の軸方向へのフライヤ移動機構44が設けられる。
【0032】
以上の構成のもと図4のAからFの工程図に示すように以下のように動作する。
まず、スピンドル台28の一端のスピンドル軸1をフライヤ6に対峙させる。フライヤ6先端のノズル10には、図示しない線材スプールから引き出された線材21が、図示しないテンション装置を経て、回転するフライヤ6の中空の回転軸から挿入され、フライヤ6先端のアーム7を経てアーム7に固定された中空のノズル10に挿通される。
【0033】
そして、ノズル10先端から繰り出された線材21は、スピンドル台28の側面に固定されたクランプ11に保持される。この状態から、クランプ11とノズル10間の線材21を線材引き出し機構34によりフックして、上方向に引き出す。線材引き出し機構34のフック部の構造は、例えば、前述の先端にプーリー35を設けた棒状の部材のようなものであってもよいし、フックピンのようなものであっても良い。
【0034】
所定長の線材21を引き出したら、フライヤ6が前進して、フライヤ6から繰り出される線材21を巻芯5の巻胴部の中央に位置させる。このとき、必要に応じて巻芯5の端部を押さえて巻幅の規制を行うセンター押さえ22を設けても良い。また、巻線に先立ち、フライヤ6を巻芯5の周囲に1回転させておき、線材21を固定し、引き続き行なわれる巻芯5の回転と、フライヤ6の回転による巻線を安定させるようにする。
【0035】
巻芯5の巻胴部の中央にフライヤ6を位置させたら、巻芯5を回転させるとともに、巻芯5の回転方向と同方向に巻芯5の回転の倍速で、フライヤ6を回転させる。こうすることにより、巻芯5には、巻芯5の回転により、線材引き出し機構34により引き出された線材21が、巻き取られて行くと共に、フライヤ6の回転により、巻芯5の周囲にフライヤ6から繰り出される線材21が巻き付けられて行く。前述のように、2列多層に巻線するのであれば、巻芯5およびフライヤ6ともに、同一位置で巻線を行えば良い。そうすることにより、巻芯5には、フライヤ6により、1列多層に巻上げられた線材21と巻芯5の回転により線材引き出し機構34により引き出された線材21が1列多層に巻き上げられていく。こうして、それぞれの巻き終わりのリード部はコイルの最外周に位置することになり、2列のα巻コイルが製造される。
【0036】
もちろん、それぞれを多列多層に巻線することも可能である。この場合は、スピンドル軸1が巻芯5の軸方向に移動してもスピンドル軸1の回転が伝達されるようにたとえば前述のようなスプライン軸を用いた構成とすれば良い。同様に、フライヤ6も前述のように巻芯5の軸方向に移動可能に構成すれば良い。この場合は、巻芯5の1回転につき、スピンドル軸1を軸方向に線径分移動させて整列巻し、所定の巻幅になったら、軸の移動方向を反転させ、多列多層に線材を巻き上げて行く。同様にフライヤ6側も、前述のごとくフライヤ6の1回転につきフライヤ6を線径の2倍軸方向に移動させる。所定の巻幅になったらフライヤ6の移動方向を反転し、多列多層に整列巻線を行う。このように巻線することにより、線材21の巻き終わりは互いに最外周になり、多列のα巻コイルが製造される。
【0037】
以上のように、1個のα巻コイルが巻線されたら、スピンドル台28を横移動させて、隣接する新たなスピンドル軸1の巻芯5をフライヤ6に対峙させる。そして、巻線されたα巻コイルの巻き終わりリードとフライヤ6のノズル10間の線材21を線材引き出し機構34により、所定長さ上方向に引き出す。そして、前述同様に、巻芯5を回転させると共に、フライヤ6を巻芯5と同方向に倍速で回転させて、新たなα巻コイルを製造する。
【0038】
このようにして、所定数のα巻コイルを連結して巻線する。なお、各α巻コイル間の渡り線の長さは、スピンドル軸1間の距離により規制されるが、多相のモータコイルとして使用する場合などは、所定長さあったほうが都合が良い場合もあり、その用途により、メリットが生じる。また、上述の実施例では、巻芯5の回転とフライヤ6の回転を同時に行ったが、それぞれの回転を、別々に行っても、本発明の目的は達せられる。
【0039】
つぎに、第5の実施例として、通常巻の軸回しコイルの多連コイルの巻線方法について説明する。この場合、装置の構成はα巻コイルの巻線の場合と同様である。
違いは、巻芯5の回転と同期して同速度でフライヤ6を同方向に回転させることである。こうする事により、フライヤ6から繰り出されている線材21は巻芯5の端部に固定されているのと同様の作用を呈する。したがって、巻芯5の周囲に、線材引き出し機構34から引き出された線材21を巻きつけることができ、軸回しコイルが巻線される。この場合も、スピンドル軸1を移動させなければ、1列の多層コイルとなり、スピンドル軸を軸方向に移動させれば、多列多層の軸回しコイルが巻線される。このようにして1つの軸回しコイルが製造される。
【0040】
つぎに、α巻コイルの場合と同様に、スピンドル台28を横移動させて、新たなスピンドル軸1の巻芯5をフライヤ6に対峙させる。そして、コイルの巻き終わりのリードとフライヤ6のノズル間の線材21を線材引き出し機構34により、所定長さ上方向に引き出す。そして、巻芯5の回転と同期して同速度でフライヤ6を同方向に回転させる。そして、巻芯5の周囲に、線材引き出し機構34から引き出された線材21を巻きつけることができ、2個目の連結された軸回しコイルが巻線される。以下同様に、所定数の軸回しコイルを巻線し、所定個数の軸回しコイルが連結して製造される。
【0041】
一連のスピンドル軸1による巻線装置に比べ、装置は大型化するが、巻芯5に巻き付ける引き出し線をフック部材としてのプーリー35の両側に引き出せるので、引き出し高さを押さえられるというメリットがあり、また作業タクトも動作が少ない分、短縮できるというメリットもある。またこの場合も巻線する多連コイル形状や異なる径のコイルを混在させる場合などは、スピンドル軸に固定する巻芯5の形状や径を適宜変えれば可能である。
【0042】
以上述べたように、いずれの実施例の場合も、従来実現できなかった、多連のα巻コイルや多連の軸回しコイルの巻線が簡単な構造の巻線機で実現でき、その作用効果には大きいものがある。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の多連α巻コイルおよび軸回しコイルは、例えば、電子機器用各種コイル、特にモータ用コイルに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態を示す多連コイル巻線装置の斜視図
【図2】他の実施の形態を示す多連コイル巻線装置の斜視図
【図3】多連α巻コイルおよび軸回しコイルを形成する工程を示す斜視図
【図4】多連α巻コイルおよび軸回しコイルを形成する他の工程を示す斜視図
【図5】本発明により形成される多連α巻コイルおよび軸回しコイルの斜視図
【符号の説明】
【0045】
1 スピンドル軸
2 スピンドルモータ
3 スピンドル軸方向移動機構
4 スピンドル移動モータ
5 巻芯
6 フライヤ
7 アーム
8 フライヤ移動機構
9 フライヤ移動モータ
10 ノズル
11 クランプ
12 チャック
13 チャック機構
14 サーボモータ
15 巻芯移動機構
16 巻芯移動シリンダ
17 線ガイド
18 線ガイド移動シリンダ
19 横移動モータ
20 フライヤモータ
21 線材
22 センター押さえ板
23 移動台
24 中継板
25 ベルト
26 ガイドレール
27 プーリー
28 スピンドル台
29 スピンドル駆動機構
30 出力軸
31 スピンドルモータ
32 スピンドルモータ移動シリンダ
33 スピンドル軸移動機構
34 線材引き出し機構
35 プーリー
36 中継板
37 ガイドレール
38 ガイド台
39 移動板
40 ベルト
41 フック移動モータ
42 プーリー
43 フック部移動機構
44 フライヤ移動機構
45 スピンドル軸横移動機構
46 スピンドル軸横移動モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸回しコイルの多連巻方法において、コイルを巻回する巻芯の回転に同期して回転する線材供給部から繰り出される線材を保持して所定長さ引き出す工程1と、巻芯と線材供給部を同期して回転させて前記繰り出された線材を巻芯に巻き付ける工程2と、巻線されたコイルを巻芯から外す工程3と、前記コイルの巻終わりリードと線材供給部間の線材を保持して所定長さ引き出す工程4と、巻芯と線供給部材を同期して回転させ前記引き出された線材を巻芯に巻き付ける工程5とからなり、以下前記工程3から工程5を繰り返して、所定数の軸回し方式のコイルを連結して巻線する軸回しコイルの多連巻方法。
【請求項2】
軸回しコイルの多連巻方法において、コイルを巻回する巻芯の回転に同期して回転する線材供給部から繰り出される線材を保持する工程1と、前記保持部と線材供給部間の線材を所定長さ引き出す工程2と、巻芯と線材供給部を同期して回転させて前記繰り出された線材を巻芯に巻き付けてコイルとする工程3と、新たにコイルを巻回する巻芯を線材供給部に向け移動させる工程4と、前記巻線されたコイルの巻終わりリードと線材供給部間の線材を所定長さ引き出す工程5と、巻芯と線供給部材を同期して回転させ前記引き出された線材を巻芯に巻き付ける工程6とからなり、以下前記工程4から工程6を繰り返して、所定数の軸回し方式のコイルを連結して巻線する軸回しコイルの多連巻方法。
【請求項3】
α巻コイルの多連巻方法において、コイルを巻回する巻芯の回転と同方向に巻芯の周囲を回転する線材供給部から繰り出される線材を保持して所定長さ引き出す工程1と、巻芯を回転させて前記引き出された線材を巻芯に巻き付ける工程2と、前記線材供給部を巻芯の回転より速い回転数で同方向に回転させて巻芯に線材を巻きつける工程3と、巻線されたコイルを巻芯から外す工程4と、前記コイルの巻終わりリードと線材供給部間の線材を保持して所定長さ引き出す工程5と、巻芯を回転させて前記引き出された線材を巻芯に巻き付ける工程6と、前記線材供給部を巻芯の回転より速い速度で同方向に回転させて巻芯に線材を巻きつける工程7とからなり、以下前記工程4から工程7を繰り返して、所定数のα巻コイルを連結して巻線するα巻コイルの多連巻方法。
【請求項4】
α巻コイルの多連巻方法において、コイルを巻回する巻芯の回転方向と同方向に巻芯の周囲を回転する線材供給部から繰り出される線材を保持する工程1と、前記保持部と線材供給部間の線材を所定長さ引き出す工程2と、巻芯を回転させて前記引き出された線材を巻芯に巻き付ける工程3と、前記線材供給部を巻芯の回転より速い回転数で同方向に回転させて巻芯に線材を巻きつける工程4と、新たにコイルを巻回する巻芯を線材供給部に向け移動させる工程5と、前記巻線されたコイルの巻終わりリードと線材供給部間の線材を所定長さ引き出す工程6と、巻芯を回転させて前記引き出された線材を巻芯に巻き付ける工程7と、前記線材供給部を巻芯の回転より速い速度で同方向に回転させて巻芯に線材を巻きつける工程8とからなり、以下前記工程5から工程8を繰り返して、所定数のα巻コイルを連結して巻線するα巻コイルの多連巻方法。
【請求項5】
コイルの多連巻線装置において、軸中心に回転するスピンドルと、スピンドルに保持される巻芯と、巻芯の周囲を回転する線材を繰り出す線材供給部と、線材を保持し前記スピンドルの軸にほぼ直交する方向に移動する線材保持手段と、巻芯に巻線されたコイルを巻芯から外すコイル取り外し手段とからなり、線材保持手段により線材供給部から繰り出される線材を保持して所定長さ引き出し、巻芯を回転させて前記引き出された線材を巻芯に巻き付けるとともに、前記線材供給部を巻芯の回転方向と同方向に同速度あるいはそれ以上の速度で回転させて、コイルを形成したのち、巻線されたコイルをコイル取り外し手段により巻芯から外し、前記コイルの巻終わりリードと線材供給部間の線材を線材保持手段により保持して所定長さ引き出し、巻芯を回転させて前記引き出された線材を巻芯に巻き付けるとともに、前記線材供給部を巻芯の回転方向と同方向に同速度あるいはそれ以上の速度で回転させて連結コイルを形成し、以下同様の動作を繰り返して、多連のコイルを形成するコイルの多連巻線装置。
【請求項6】
コイルの多連巻線装置において、軸中心に回転する複数の平行に配置されたスピンドルを収容するスピンドル機構と、前記スピンドル機構をスピンドル軸にほぼ直交する方向に移動させるスピンドル移動機構と、各スピンドルに保持される巻芯と、巻芯の周囲を回転する線材を繰り出す線材供給部と、線材供給部から繰り出される線材を保持する線材保持手段と、線材保持手段から繰り出される線材をスピンドルと直交する方向に引き出す線材引き出し手段とからなり、線材供給部から繰り出された線材を線材保持手段により保持し、線材引き出し手段により、線材保持部と線材供給部の間の線材を所定長さ引き出し、巻芯を回転させて前記引き出された線材を巻芯に巻き付けるとともに、前記線材供給部を巻芯の回転方向と同方向に同速度あるいはそれ以上の速度で回転させてコイルを形成したのち、スピンドル移動機構により新たなスピンドルを線材供給部に向け移動させ、巻線されたコイルの巻終わりリードと線材供給部の間の線材を、線材引き出し手段により所定長さ引き出し、巻芯を回転させて前記引き出された線材を巻芯に巻き付けるとともに、前記線材供給部を巻芯の回転方向と同方向に同速度あるいはそれ以上の速度で回転させて連結コイルを形成し、以下同様の動作を繰り返して、多連のコイルを形成するコイルの多連巻線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−135710(P2010−135710A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335953(P2008−335953)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000227537)日特エンジニアリング株式会社 (106)
【Fターム(参考)】