説明

多錘口金パック用溶融紡糸装置

【課題】円筒状の溶融紡糸用糸条冷却装置を用いた糸品質改善のために、口金パック構造を既存設備で適用している多錘口金パック体でも利用可能とした、冷却装置を提供する。
【解決手段】熱可塑性ポリマーからなるマルチフィラメント糸2を紡出する多錘の紡糸口金を1個の口金パックに装着した多錘口金パック10と、紡出された各マルチフィラメント糸の外周側から糸中心に向って冷却風を放射状に吹き付けて冷却する円筒状の冷却風吹出面7を有し、前記多錘口金パックの下端と糸条冷却装置の上端の間に気密に設けられ、かつ紡出された前記各マルチフィラメント糸を自然冷却する徐冷領域を形成すると共に、前記徐冷領域を個々独立に分離する徐冷整流筒4とを備え、上下方向に昇降自在の糸条冷却装置の上昇によって前記徐冷整流筒の下端と前記糸条冷却装置の上端を当設させシールする多錘口金パック用溶融紡糸装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル、ポリアミドなどからなる熱可塑性合成繊維を一つの口金パックから複数本のマルチフィラメント糸として多錘に溶融紡糸するために用いる多錘口金パック用の溶融紡糸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルやポリアミドなどの熱可塑性ポリマーを紡糸口金から糸条として紡出した後、紡出糸条を冷却することは熱可塑性合成繊維を生産するための一般的なプロセスである。
【0003】
この熱可塑性合成繊維の冷却プロセスは、高品質な糸を得る上で重要な役割を果たしており、特に衣料用長繊維の溶融紡糸プロセスは、紡糸後の糸強度や伸度、染織性に非常に大きな影響を与えることが従来から知られている。特に、近年において一つの紡糸口金から複数本の細い糸を紡出する技術が盛んに行われるようになり、またね単糸繊度が0.3デシテックス以下の繊維も生産されるようになってきている。
【0004】
このような一つの口金から複数本の細い糸を紡糸する溶融紡糸プロセスにおいては、紡出した細い糸を良好に冷却することが要求され、紡出糸条の冷却は、糸条の繊度斑を制御する上で非常に重要であり、均質な糸条を安定して生産するために必要な技術でもある。そこで、特許文献1(特開平7−97709号公報)などに提案されているように、紡出糸条の走行方向に対してほぼ直交するように冷却風を横方向の一方側から供給するための所謂「横吹式冷却装置」が提案されている。
【0005】
この従来技術では紡糸口金の下方に糸条冷却装置を配置し、糸条の走行方向に沿って一定長さの冷却風の吹出部を設け、均一な一定の風速を有する冷却風を横方向の一方側から紡出糸条に吹き付けて紡出糸条を冷却しようとするものである。なお、これらの従来技術は、走行糸条の周りに随伴する随伴気流の制御と、糸条冷却装置から供給された冷却風の乱れをなくして整流した冷却風を紡出糸条に吹きつける制御などを目的とするものである。
【0006】
しかしながら、これらの従来の横吹式冷却装置では、前述のような多錘化や小繊度化に伴って同時に紡出するマルチフィラメント糸条群の間に生じる錘間差や各単糸間に生じる繊度斑を低減することに限界が生じている。そこで、近年では、例えば、特許文献2(特開2004−300614号公報)や特許文献3(特開2003−253522号公報)に開示されているような糸条冷却装置を用いることが提案されている。
【0007】
この糸条冷却装置では、独立した円筒状の糸条冷却装置を各錘に設け、糸条冷却装置内に各錘糸条をそれぞれ導いて、円筒状に形成した冷却風の吹出面からその内部を通過する糸条に対して周囲から放射状に冷却風を吹きつける技術である。この従来技術によれば、冷却の対象となる糸条と冷却風の吹出面との間の距離を小さく保ちながら、かつ糸条を包み込むように至近距離から放射状に冷却風を供給することができる。
【0008】
しかもこの場合、冷却風の吹付速度は、従来の横吹式冷却装置よりも弱くしても十分に単糸群(フィラメント群)の間に容易に進入することができるので、冷却効率が高い上に、糸揺れの発生も抑制される。したがって、冷却斑の発生が抑制され、品質に優れたマルチフィラメント糸を製造することができるという利点がある。
【0009】
しかしながら、この方式の糸条冷却装置は、単錘毎にそれぞれ円筒状の冷却風吹出面を有する糸条冷却装置を用いなければならず、横吹式冷却装置のように、多錘の場合にも簡単に適用できるものではない。ただし、一本のマルチフィラメント糸を紡出するだけの紡糸口金を装着する一個錘用の口金パックであれば、前述のような円筒状の冷却風吹出面を有する糸条冷却装置であっても、各マルチフィラメント糸に対応する数だけ口金パックを設けて紡糸を行なえば良いため、設備コストはある程度かかるが、これへの対応はまだ柔軟に行なうことができる。
【0010】
また、一個錘のマルチフィラメント糸に対応した一個錘の口金パックであれば、この口金パックの下流側に設ける糸条冷却装置との間で冷却風が漏出しないようにする必要がある。なお、このようにすることで、煙突効果によって紡糸口金のポリマー吐出面まで冷却風が吹き上がらないように紡糸口金と糸条冷却装置との間のシール構造や冷却風吹上防止構造などの設備設計が容易にできるメリットもある。
【0011】
しかしながら、生産性の向上と設備コストの低減を目的として、今日では複数個の口金を一個の口金パックに装着して一個の口金パックから多錘のマルチフィラメント糸を同時に紡出することが一般に行われるようになってきている。そうすると、前述のような一本のマルチフィラメント糸だけを紡出する一錘の口金パックと異なって、円筒状の冷却風吹出面を有する糸条冷却装置を適用することが格段に難しくなる。
【0012】
すなわち、前述の糸条冷却装置を適用しようとすると、場合によっては口金パックの改造までも強いられることとなり、大幅な設備投資が必要となる。また、口金パック構造が変わることにより、生産現場での付帯設備の仕様変更、例えば口金パックの組立装置や分解装置、そして、これらに関連する治具、口金パックに装着するフィルター等の消耗部材も全て仕様変更を余儀なくされる。このため、口金パック本体の導入費用に加え、付帯設備関連の設備投資も必要となってくるという問題が生じ、これらのことが円筒状の糸条冷却装置の適用拡大を阻む大きな問題であった。
【0013】
【特許文献1】特開平7−97709号公報
【特許文献2】特開2004−300614号公報
【特許文献3】特開2003−253522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
円筒状の溶融紡糸用糸条冷却装置を用いた糸品質改善のために、既存紡糸機への糸条冷却装置を適用するにあたり、口金パック構造を既存設備で適用している多錘口金パック体でも利用可能とすることにより、大きな設備投資を伴うこと無く冷却装置のみの改造で糸品質の改善を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
ここに、前記課題を達成するための本発明として、「熱可塑性ポリマーからなる単繊維群からなるマルチフィラメント糸をそれぞれ紡出する多錘の紡糸口金を1個の口金パックに装着した多錘口金パックと、
前記各紡糸口金から紡出された各マルチフィラメント糸をその内部にそれぞれ導入し、該各マルチフィラメント糸の外周側から糸中心に向って冷却風を放射状に吹き付けて冷却する円筒状の冷却風吹出面を有し、かつ上下方向に昇降自在の糸条冷却装置と、
前記多錘口金パックの下端と糸条冷却装置の上端の間に多錘口金パックに装着する全錘の紡糸口金に対して気密に設けられ、かつ紡出された前記各マルチフィラメント糸を冷却風の吹付けによらずに自然冷却する徐冷領域を形成すると共に、前記徐冷領域を個々独立に分離する徐冷整流筒とを少なくとも備え、
糸条冷却装置の上昇によって前記徐冷整流筒の下端と前記糸条冷却装置の上端を当設させて前記序例領域を糸条が走行する下端開口を除いて気密にシールすることを特徴とした多錘口金パック用溶融紡糸装置」が提供される。
【発明の効果】
【0016】
このように一般的な単錘対応の口金パックと円筒状の冷却風吹出面を有する糸条冷却装置を用いた熱可塑性合成繊維の溶融紡糸装置では、溶融紡糸する糸条の銘柄が多様化すると、単錘口金パックとこれに一対一に対応する「円筒状の冷却風吹出面を有する糸条冷却装置を全て単錘対応設備としなければならず、錘数に比例して大幅な設備投資が必要であった。しかし、本発明においては、多錘口金パックを使用し、この多錘口金パックに対応した糸条冷却装置とを組合わせて使用でき、しかも、多錘口金パック直下に多錘と多銘柄かに容易かつ簡易に徐冷整流筒を設けることによって、各錘ごとの設備投資が必要ではなくなり、その結果として、大きな投資を必要とせず、しかも、得られる糸品質の改善と向上に寄与できるという大きな効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、ポリエステル、ポリアミドなどのポリマーからなる熱可塑性合成繊維を多錘のマルチフィラメント糸として紡出するための多錘口金パックに用いる溶融紡糸装置の実施形態例について図面を参照しながら説明する。
なお、図1は、本発明に係る溶融紡糸装置を適用する多錘口金パックを有する溶融紡糸装置の概略構成を例示した装置構成図であり、図2は多錘口金パックの概略構成図である。また、図3は単錘口金パックを有する溶融紡糸装置の概略構成を例示した装置構成図である。なお、これらの図1〜図3において用いた参照符号については、その機能が共通するものは同じ参照符号を付した。ただし、口金パックに関しては、多錘口金パックと単錘口金パックとを特に区別する目的で異なる参照符号を使用した。その際、紡糸口金の部分を除いて口金パックの内部構造の詳細は図示省略し、その断面は単純にハッチングを施した。
【0018】
ここで、本発明に係る多錘口金パック用の溶融紡糸装置についての理解を容易にするために、先ず1本のマルチフィラメント糸を1個の口金パックで溶融紡糸する図3の単錘口金パック用の溶融紡糸装置から説明する。
【0019】
前記図3(図1の場合も、図3とほぼ同じである)において、参照符号1は紡糸口金、参照符号2はマルチフィラメント糸、参照符号3は加熱手段、参照符号4はシールリング、参照符号5はシール材、参照符号6は糸条冷却装置、参照符号7は円筒状の冷却風吹出面、参照符号8はガイド式油剤付与装置、参照符号9はパックドーム、参照符号11は第1引取ローラ、参照符号12は第2引取ローラ、参照符号13は巻取機、そして,参照符号20は単錘口金パックをそれぞれ示す。
【0020】
以上のように構成される溶融紡糸装置において、紡糸口金1は図示したようにそれぞれパックドーム9内に装着される。そして、図示省略した連続計量供給装置(通常、ギアポンプが使用される)から前記パックドーム9に供給されたポリマーは、1個の紡糸口金1に対して1本のマルチフィラメント糸2が紡出される。このとき、図3の実施形態例では、4個の単錘口金パック20にそれぞれ装着された4個の紡糸口金1からそれぞれ1本づつのマルチフィラメント糸2が合計で4本紡出されている態様を示している。
【0021】
次に、このようにして紡出された4本のマルチフィラメント糸2は、糸条冷却装置6が備える円筒状の冷却風吹出面7の内部へそれぞれ導入される。そして、各冷却風吹出面7からその円筒中心に向って放射状に吹き出された冷却風が紡出時の開繊状態を維持したままのフィラメント群間へ進入することにより、各マルチフィラメント糸2は、ポリエステル繊維の場合であればガラス転移温度以下まで冷却される。
【0022】
このようにして冷却が完了すると、開繊状態のフィラメント群は例えばガイド式油剤付与装置8によって集束されて油剤が付与され、必要に応じてエアノズルなどからなる交絡付与装置(図示せず)によって単繊維群(マルチフィラメント)同士に交絡が施される。その後、第1引取ローラ11および第2引取ローラ12によって、所定の紡糸速度で引き取られ、最終的に4錘同時巻取が可能な巻取機13によって一度に4本のマルチフィラメント糸を4個の糸条パッケージとして巻き取る。
【0023】
このとき、図3に例示した単錘口金パック20であれば、パックドーム9は個々の単錘口金パック20にそれぞれ対して各錘毎に独立して個々に設けられている。なお、ここでこの単錘口金パック20を過熱する加熱手段3について簡単に補足しておくと、この加熱手段3は熱媒式加熱あるいは電気式加熱の何れの方式も好適に用いることができる。その際、この加熱手段3によって個々の単錘口金パック20をそれぞれ独立に加熱できるように制御することが好ましいく、このようにすることによって、個々の単錘口金パック20を錘間斑の発生もなく良好に加熱でき、加熱斑を解消できる。
【0024】
また、この加熱手段3は、図3に例示したように単錘口金パック20の周囲を取り囲むように設ければ、紡糸口金1の直下雰囲気を気密にシールするためのシールリング4に断熱材としての機能をも併せて持たせながら加熱手段3の下端に取付けることができる。なお、このシールリング4に対して糸条冷却装置6の上端に設けられたシール材5を押し当てることにより、紡出された糸条が走行しなければならない下端開口を除いて、糸条冷却装置6から吹き出された冷却風が煙突効果によって吹き上がるのを防止できるように後述する「徐冷領域」を気密にシールすることができる。
【0025】
しかも、図3に例示した単錘口金パック20を装着する溶融紡糸装置に対してこのようなシール構造を採用しても、各錘毎に単錘口金パック20の加熱、紡糸口金下シール、あるいは紡出された各錘糸条の冷却と言った基本機能に対して、各錘毎にその独立性を確保することができる。したがって、単錘口金パック20を用いた溶融紡糸装置に関しては、紡糸口金1の直下から糸条冷却装置の上部までの気密性を確保することについては、各錘毎にほぼ独立に対応できるので、設備コストがかかると言う点を除けばそれほど大きな問題はない。
【0026】
これに対して、図1に例示したように、パックドーム9に装着する多錘口金パック10として、口金パック本体の内部に複数個の紡糸口金1を内蔵(図1の例では4個の紡糸口金1を内蔵)したものを使用する。このような多錘口金パック10を使用する理由は、既に述べたが設備コストの合理化による製糸コストの低減であり、これを達成するために、多錘口金パック10の口金下の雰囲気制御を他錘と相互に干渉することなく実現することが要求される。
【0027】
本発明に係る糸条冷却装置6は、多錘口金パック10に適用されることを一大特徴とするものである。したがって、以下に多錘口金パック10について、図2を参照しながら説明する。
【0028】
また、図2は多錘口金パック10の実施形態を例示した図であって、図2(a)は模式平面図を示し、図2(b)は、図2(a)におけるX−X’矢視断面図である。なお、この図2に例示した多錘口金パック10は、それぞれ単一種のポリマーからなるフィラメント群で構成されるマルチフィラメント糸を多錘紡糸(図2の例は、図1及び図3に例示した“4錘”の場合と異なり、“6錘”の場合を例示しており、これによって、錘数を4錘よりも増やすことも可能であること示した)するために好適に使用することができる。
【0029】
図2において、参照符号10a〜10cは、上部パックボディ、中間部パックボディ、そして、下部パックボディをそれぞれ示す。なお、これらのパックボディ10a,10b及び10cは、図示省略したが、周知の紡糸口金パックと同様に、締結ボルト(図示せず)を中間部パックボディ10bに螺設されたねじ穴(図示せず)にそれぞれ螺合させることによって、上部パックボディ10aを中間部パックボディ10bに対して、そして、下部パックボディ10cを中間部パックボディ10bに対してそれぞれ互いに締め付けて組み上げる構造を有している。
【0030】
また、参照符号10d及び10eは、上部パックボディ10aへポリマーがそれぞれ導入される各導入流路、参照符号10f及び10gはポリマーをそれぞれ濾過する各濾過部、参照符号10h及び10iはポリマーの口金への各導入孔、そして、参照符号1は紡糸口金を示す。
【0031】
なお、濾過部10f及び10gは、その構造は図示省略したが、例えば、メタルサンドやガラスビーズなどで構成される上部濾過層を堆積させて形成したリム付フィルターをポリマー分配部材上に設けた周知の構造を有していることは言うまでもない。また、紡糸口金1に関しては、それぞれの紡糸口金1には多数のポリマー吐出孔群(紡糸孔群)が穿設されており、これによって、マルチフィラメント糸の紡出を可能としている。
【0032】
また、前記上部パックボディ10aに設けられた導入流路10d及び10eは、異種または同種のポリマーを溶融紡糸装置(スピンブロック)からそれぞれ受け入れ、受け入れたこれらポリマーをそれぞれ濾過部10f及び10gへ導く構造を採っている。なお、前記濾過部10f及び10gは、図示したように、上部パックボディ10aと中間部パックボディ10bの間にまたがって形成され、その役割は、ポリマー中に含まれる異物などをそれぞれ濾過することにある。
【0033】
ここで、前記多錘口金パック10は、パックドーム9に対して下側から挿入するタイプであっても、またパックドーム9の上側から挿入するタイプのいずれでも良く、多錘口金パック10の挿入方向は問わない。ただし、この多錘口金パック10の下面には、徐冷整流筒14を設けて、各錘の紡糸口金1の下方領域を隣接錘同士が互いに干渉し合わないように個別に仕切っている。
【0034】
このように徐冷整流筒14を設置することによって、紡糸口金1の直下から走行する紡出糸条2に随伴して生じる随伴気流などを整流している。しかも、この徐冷整流筒14は、1個の多錘口金パック10に対して取付けるものである。したがって、平滑に仕上げられた断熱材で形成された徐冷整流筒14の上面と、平滑に仕上げられた多錘口金パック10の下面とを密着させるだけで、紡出された糸条2が走行するために設けられた下端開口を除いて、徐冷領域の上端部を気密にシールすることができる。
【0035】
ここで、本発明において、「徐冷」について簡単に定義しておくと、「徐冷」とは、冷却風などを吹き付けることによって紡出糸条を強制的に冷却するのではなく、徐冷雰囲気中へ紡出された糸条をそのまま自然冷却することを意味する。このとき、徐冷領域はポリマーの溶融温度以下の温度に保温されていたり、あるいは室温よりも高温かつポリマー溶融温度よりも低温に加熱されていても良い。
【0036】
なお、「徐冷領域」は、後述する冷却風による強制冷却と共に、紡出された糸条の結晶化度や複屈折率などの内部構造を適正に制御する上からも重要である。したがって、その徐冷温度や徐冷距離を適正に設定する必要があることが分かっている。
【0037】
このような要求に合致するように、本発明においては、前述の徐冷整流筒14を用いることによって、紡糸銘柄の繊度や種類に応じて口金下の徐冷距離を適正な長さに変更することを容易にしている。すなわち、本発明の徐冷整流筒14では、マルチフィラメント糸2を構成する単繊維の繊度や数などが変更されても、これらの銘柄に対応させて徐冷整流筒14の高さを変更するだけで口金下距離が容易かつ簡易に変更可能である。
【0038】
このような利点を具現化するために、本発明に係る徐冷整流筒14では、多錘口金パック10に一体として取付ける構造としている。なお、徐冷整流筒14と糸条冷却装置6との間のシール方法に関しては、特に限定する必要はない。しかしながら、糸条冷却装置6の上端部と徐冷整流筒14の下端部との接触部において、例えば徐冷整流筒14の下端部又は糸条冷却装置6の上端部に鋭利な金属やセラミックスのような硬い材質を持ったエッジを形成すると共に、糸条冷却装置6の上端部又は徐冷整流筒14の下端部に前述のエッジ部より柔らかい材質(樹脂などを含浸した不織布や織布、プラスチック板、ゴム材など)をもったシール材5を対応させて形成することが好ましい。
【0039】
何故ならば、このようなシール方法を採用することにより、溶融紡糸装置の立上げ時や断糸の発生時などにおける溶融紡糸装置への再糸掛けに際して、作業の妨げとなる糸条冷却装置6を下げて、断糸処理を行なった後、糸条冷却装置6を上昇復帰させた時に、シールがきわめて容易に行なえるからである。したがって、本発明に係る糸条冷却装置6には、流体圧力を利用したアクチュエータなどを利用した周知の昇降手段(図示せず)を付設して、上下に昇降自在とすることが好ましい。
【0040】
つまり、通常の溶融紡糸を行なう位置へ糸条冷却装置6を上昇復帰させた時に、糸条冷却装置6の上端部又は徐冷整流筒14の下端部に設けたシール材5が前述の徐冷整流筒14の下端部又は糸条冷却装置6の上端部に形成されたエッジに自然と押し当てられるようにすることができる。このため、柔らかいシール材5にエッジを食い込ませることで口金下の雰囲気を気密に保つためのシールを極めて容易に行なえるのである。
【0041】
糸条冷却装置6による紡出糸条2の冷却においては、多錘口金パック10直下からその下方に向って形成される徐冷空間における雰囲気のシール性、すなわち、気密性を確保することが、冷却風吹出面7から吹き出された冷却風が徐冷領域まで吹き上がらないようにして糸品質確保及び運転管理を行う上で極めて重要である。したがって、この徐冷領域に対して如何にして充分な気密性を維持させるかが安定生産を実現するための鍵となるが、本発明においては、多錘口金パック10であるにもかかわらず、糸条冷却装置6とのシール性を確保しつつ徐冷整流筒14を導入することにより、これを具現化することができる。
【0042】
しかも、生産性に優れた多錘口金パック10を使用できることから、図3に例示した単錘口金パック20に適用する糸条冷却装置6と比較すると下記のようなメリットがある。
すなわち、単錘口金パック20では各錘ごとに錘数に応じた数だけパックドーム9に脱着し、また単錘口金パック20の個体差があり、更には取付け精度なども異なるので、単錘口金パック20の下面は、同一の水平面上に面一に並ぶことはない。したがって、単錘口金パック20では、どうしても徐冷領域の上端部と口金パックとの間の気密シールは各錘ごとに個別に対応する必要がある。これに伴って、徐冷領域の下端部と糸条冷却装置6の上端部との間の気密シールも各錘ごとの対応が必要となる。
【0043】
このような理由から、多銘柄対応の溶融紡糸装置とするためには、単錘口金パック20の場合、設備改造を各錘ごとに行なう必要があるので設備投資が各錘ごとに要求される。これに対して、多錘口金パック10では、このような各錘ごとの設備投資を必要とせず、1個の多錘口金パック10で同時に溶融紡糸できる錘数(例えば図1の例では4錘)を単位として対応することができる。
【0044】
しかも、単錘口金パック20では、多数の単錘口金パック20を管理するための付随的な設備投資も必要とされ、しかも、これらの設備投資は、単錘口金パック20では生産に必要な錘数分だけ必要である。ところが、多錘口金パック10では、これらの投資費用も大幅に削減することができる。
【0045】
さらに、単錘口金パック20の本体と部品、これを組み立てるための部品や分解をするための部品、さらにはフィルターやパッキンと言った消耗部材も相当数量必要となる。このことから、管理部品点数の増加と同時に付帯設備投資の増大を招いていたが、多錘口金パック10では、これらの費用も大幅に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る多錘口金パック用の溶融紡糸装置を例示した概略の装置構成図である。
【図2】多錘口金パックの一つの実施形態を例示した説明図である。
【図3】単錘口金パック用の溶融紡糸装置を例示した概略の装置構成図である。
【符号の説明】
【0047】
1:口金
2:糸条
3:口金パック加熱ヒータ
4:シールリング
5:シール材
6:糸条冷却装置
7:冷却風吹出面
8:油剤付与装置
9:パックドーム
10:多錘口金パック
11:第1引取ローラ
12:第2引取ローラ
13:巻取機
14:徐冷整流筒
20:単錘口金パック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリマーからなる単繊維群からなるマルチフィラメント糸をそれぞれ紡出する多錘の紡糸口金を1個の口金パックに装着した多錘口金パックと、
前記各紡糸口金から紡出された各マルチフィラメント糸をその内部にそれぞれ導入し、該各マルチフィラメント糸の外周側から糸中心に向って冷却風を放射状に吹き付けて冷却する円筒状の冷却風吹出面を有し、かつ上下方向に昇降自在の糸条冷却装置と、
前記多錘口金パックの下端と糸条冷却装置の上端の間に多錘口金パックに装着する全錘の紡糸口金に対して気密に設けられ、かつ紡出された前記各マルチフィラメント糸を冷却風の吹付けによらずに自然冷却する徐冷領域を形成すると共に、前記徐冷領域を個々独立に分離する徐冷整流筒とを少なくとも備え、
糸条冷却装置の上昇によって前記徐冷整流筒の下端と前記糸条冷却装置の上端を当設させて前記序例領域を糸条が走行する下端開口を除いて気密にシールすることを特徴とした多錘口金パック用溶融紡糸装置。
【請求項2】
前記徐冷整流筒が一体化されて1個の前記多錘口金パックに対して取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の多錘口金パック用溶融紡糸装置。
【請求項3】
前記糸条冷却装置の上端部又は前記徐冷整流筒14の下端部に設けられたたシール材と、前記シール材に対応して前記徐冷整流筒の下端部又は糸条冷却装置の上端部に形成されたエッジ部とを有し、前記シール材に前記エッジ部を押し当てて前記徐冷領域を気密にシールすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多錘口金パック用溶融紡糸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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